(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】人工肺装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20230711BHJP
A61M 1/16 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/16 120
(21)【出願番号】P 2019091559
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊本 俊介
(72)【発明者】
【氏名】安村 直朗
(72)【発明者】
【氏名】簑原 瑠威
【審査官】中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144857(JP,A)
【文献】特開2010-200884(JP,A)
【文献】特開2013-192711(JP,A)
【文献】特開2011-161147(JP,A)
【文献】特表2018-518236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が塞がれた筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に設けられ、血液に対して熱交換を行う熱交換器と、
前記ハウジング内で前記熱交換器の軸線方向周りに配置され、前記熱交換器と流体連通して血液に対してガス交換を行うガス交換器と
、
前記ハウジングの一端側に設けられ、前記熱交換器と流体連通する血液流入ポートと、
前記ハウジングに設けられ、前記ガス交換器と流体連通する血液流出ポートと、
前記ハウジングの他端側に設けられ、前記熱媒体分室と流体連通する媒体流入ポートおよび媒体流出ポートと、
前記熱交換器から前記熱媒体分室の他端側を経て前記ガス交換器へ径方向に血液を流す血液流路、および、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートと前記熱媒体分室との間で前記軸線方向に熱媒体を流す媒体流路、を形成するブリッジ構造体と、を備
えた
、
前記熱交換器は、前記血液流入ポートおよび前記血液流出ポートと流体連通する血液室と、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートと流体連通して熱媒体が流れる熱交換部と有し、かつ、前記熱交換部は、前記血液室と前記ガス交換器との間にて前記血液室の軸線方向周りに配置されて前記血液室に出入りする熱媒体が通流する熱媒体分室を有し、
前記熱媒体分室は、前記血液室の軸線方向周りに設けられて前記媒体流入ポートと連通する第1熱媒体分室と、前記血液室の軸線方向周りに設けられて前記媒体流出ポートと連通し前記第1熱媒体分室とは別の第2熱媒体分室とを含み、
前記媒体流路は、前記媒体流入ポートと前記第1熱媒体分室とを流体連通する第1媒体流路と、前記第2熱媒体分室と前記媒体流出ポートとを流体連通する第2媒体流路とを含む、
人工肺装置。
【請求項2】
前記第1媒体流路の流路断面積は前記媒体流入ポートの流路断面積よりも小さく、前記第2媒体流路の流路断面積は前記媒体流出ポートの流路断面積よりも小さい、請求項1に記載の人工肺装置。
【請求項3】
前記熱交換部は、前記第1熱媒体分室および前記第2熱媒体分室と、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートとの間に設けられた延在部を含む、請求項2に記載の人工肺装置。
【請求項4】
前記延在部は、前記熱媒体を前記媒体流入ポートから流入させて前記第1熱媒体分室へと流出させる第1室を含み、
前記第1室は、前記媒体流入ポートの流路断面積よりも大きな流路断面積を有する、請求項3に記載の人工肺装置。
【請求項5】
前記第1室は前記第1熱媒体分室と流体連通する第1室出口を有し、
前記第1室出口の流路断面積は前記媒体流入ポートの流路断面積よりも小さい、請求項4に記載の人工肺装置。
【請求項6】
前記延在部は、前記熱媒体を前記第2熱媒体分室から流入させて前記媒体流出ポートへと流出させる第2室を含み、
前記第2室は、前記媒体流出ポートの流路断面積よりも大きな流路断面積を有する、請求項3~5の何れか1項に記載の人工肺装置。
【請求項7】
前記第2室は前記第2熱媒体分室と流体連通する第2室入口を有し、
前記第2室入口の流路断面積は前記媒体流出ポートの流路断面積よりも小さい、請求項
6に記載の人工肺装置。
【請求項8】
前記ガス交換器は、血液との間でガス交換が行われるガス交換室を有し、
前記ハウジングの内周面と共に前記ガス交換室を形成しつつ前記ハウジング内に配置される中筒を備える、請求項1~7の何れか1項に記載の人工肺装置。
【請求項9】
前記熱交換部の一部を形成しつつ内部に前記血液室が設けられた内筒を備える、請求項
1~8の何れか1項に記載の人工肺装置。
【請求項10】
前記中筒は、中筒本体部と、前記中筒本体部の前記媒体流入ポートの側の端部と離間して配置された隔壁部と、前記隔壁部と前記中筒本体部の前記端部とに架橋されて内部に前記熱媒体が流れる中空状の複数の筒状支持部と、を有し、
前記血液流路は、前記中筒本体部の端部と前記隔壁部との間に形成され、
前記複数の筒状支持部は、前記血液流路と交差するように配置されていると共に前記第1媒体流路を構成する1又は複数の第1支持部と、前記血液流路と交差するように配置されていると共に前記第2媒体流路を構成する1又は複数の第2支持部とを含む、請求項
8に記載の人工肺装置。
【請求項11】
前記第1支持部の総流路断面積は前記媒体流入ポートの流路断面積以上であり、前記第2支持部の総流路断面積は前記媒体流出ポートの流路断面積以上である、請求項10に記載の人工肺装置。
【請求項12】
前記熱交換部は、前記第1熱媒体分室および前記第2熱媒体分室と、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートとの間に設けられた延在部を含み、
前記延在部は、前記熱媒体を前記媒体流入ポートから流入させて前記第1熱媒体分室へと流出させる第1室と、前記熱媒体を前記第2熱媒体分室から流入させて前記媒体流出ポートへと流出させる第2室と、を含み、
前記隔壁部は前記延在部の一部を構成し、前記第1室および前記第2室は前記隔壁部に設けられている、請求項10又は11に記載の人工肺装置。
【請求項13】
前記隔壁部は、前記熱交換部の方に窪んだすり鉢状に形成されている、請求項10~12の何れか1項に記載の人工肺装置。
【請求項14】
前記内筒は、前記内筒の軸線方向に並んで設けられ、前記血液室および前記第1熱媒体分室と流体連通する複数の第1熱媒体孔部と、前記血液室および前記第2熱媒体分室と流体連通する複数の第2熱媒体孔部とを有している、請求項
9に記載の人工肺装置。
【請求項15】
前記第1熱媒体孔部は、前記第2熱媒体孔部と同じ大きさを有し、前記血液室を挟んで前記第2熱媒体孔部に対して対称的に配置されている、請求項14に記載の人工肺装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液に含まれる二酸化炭素を除去して当該血液に酸素を付加する人工肺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術のように患者の心臓の動きを止めてから行われる手術では、止められた心臓および肺の機能を代替させるべく人工心肺回路が用いられている。この人工心肺回路において、肺の役割を果たしているのが人工肺装置であり、人工肺装置としては例えば特許文献1のようなものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示されている人工肺装置においては、血液入口が筒状のデバイス筐体内で当該デバイス筐体の軸方向に延びるように設けられている。また、加熱流体入口を有してデバイス筐体の軸方向一方側に加熱流体を流す加熱流体流入管と、加熱流体出口を有してデバイス筐体の軸方向他方側に加熱流体を流す加熱流体流出管とが上記デバイス筐体内で延びるように設けられている。また、デバイス筐体の、血液入口側の端部には血液出口が設けられている。さらに、デバイス筐体内には中空糸を含むガス交換器が設けられている。このような構成において、血液は血液入口からデバイス筐体内に入った後、上記の加熱流体流入管および加熱流体流出管の周りを流れることで熱交換されて加熱される。そして、加熱された血液は、ガス交換器の中空糸の周りを流れることで酸素を得ると共に二酸化炭素を中空糸中に排出することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の人工肺装置では、デバイス筐体の、血液入口側の端部に血液出口が設けられている構成となっている。そのため、血液入口からデバイス筐体内に入った血液のうち十分に熱交換されることなく血液出口から出てしまう血液がある。このため、血液が全体として十分に加熱又は冷却されない恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は、血液を十分に加熱することが可能な人工肺装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の人工肺装置は、両端が塞がれた筒状のハウジングと、前記ハウジング内に設けられ、血液に対して熱交換を行う熱交換器と、前記ハウジング内で前記熱交換器の軸線方向周りに配置され、前記熱交換器と流体連通して血液に対してガス交換を行うガス交換器と、前記熱交換器と前記ガス交換器との間にて前記熱交換器の軸線方向回りに配置され、前記熱交換器に出入りする熱媒体が通流する熱媒体分室と、前記ハウジングの一端側に設けられ、前記熱交換器と流体連通する血液流入ポートと、前記ハウジングに設けられ、前記ガス交換器と流体連通する血液流出ポートと、前記ハウジングの他端側に設けられ、前記熱媒体分室と流体連通する媒体流入ポートおよび媒体流出ポートと、前記熱交換器から前記熱媒体分室の他端側を経て前記ガス交換器へ径方向に血液を流す血液流路、および、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートと前記熱媒体分室との間で前記軸線方向に熱媒体を流す媒体流路、を形成するブリッジ構造体と、を備えたものである。
【0008】
本発明に従えば、血液はハウジングの一端側に設けられた血液流入ポートから流入し、熱交換器から熱媒体分室の他端側を経た後、血液流路を介してガス交換器に流れるようになっている。これにより、血液に対する熱交換が十分に行われる。また、血液流入ポートがハウジングの一端側に設けられ、媒体流出ポートがハウジングの他端側に設けられているので、衛生面が向上された構成となっている。
【0009】
また、本発明の人工肺装置は、血液流入ポート、血液流出ポート、媒体流入ポートおよび媒体流出ポートを有する両端が塞がれた筒状のハウジングと、前記血液流入ポートと流体連通する熱交換器と、前記熱交換器の周りに配置され、前記熱交換器と流体連通するガス交換器とを有する人工肺装置であって、前記熱交換器は、前記血液流入ポートおよび前記血液流出ポートと流体連通し端部を有する血液室と、前記媒体流入ポートおよび前記媒体流出ポートと流体連通し熱媒体が流れる熱交換部とを含み、前記熱交換部は、前記血液室の前記端部を前記ハウジングの軸方向に超えて延在して配置された延在部を有するものである。
【0010】
本発明に従えば、ハウジングを径方向に大きくせずに済む。これにより、プライミングボリュームの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血液を十分に加熱することが可能な人工肺装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る人工肺装置の外観を示す正面図である。
【
図3】
図1の人工肺装置の一部を斜視的に示す断面図である。
【
図5】(a)は
図4の中筒の正面図であり、(b)は(a)の中筒の一方側の側面図であり、(c)は(a)の中筒の他方側の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る人工肺装置について図面を参照して説明する。以下に説明する人工肺装置は、本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。また、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。
【0014】
心臓外科手術のように患者の心臓の動きを止めてから行われる手術では、患者の肺の機能を代替させるべく、
図1に示すような人工肺装置1が用いられる。人工肺装置1は、患者の血液に含まれる二酸化炭素を除去して酸素を付加する、すなわちガス交換器能を有している。また、人工肺装置1はガス交換と共に血液の温度を調整するべく熱交換機能も有している。このような機能を有する人工肺装置1は、ハウジング2と、内筒3(
図2参照)と、中筒4(
図2参照)とを備えている。ハウジング2と中筒4と後述の中空糸体43とを含む構成要素がガス交換器60である。
【0015】
<ハウジングおよび外装部材>
図1に示すように、ハウジング2は、両端部が塞がれた大略円筒状に形成されており、その中に内筒3および中筒4を収容すべく内部空間2a(
図2参照)を有している。詳細には、ハウジング2は、ハウジング本体11と、吊下げ部13と、2つのキャップ部14,15とを有している。
【0016】
ハウジング本体11は大略円筒状に形成されており、その上部外周面に吊下げ部13が設けられている。吊下げ部13は、ハウジング本体11の軸線11a方向の中央部分に配置されており、ハウジング本体11の上部外周面から径方向の外側に延在している。吊下げ部13は、例えば大略柱状に形成されており、その先端側部分が外部の図略の吊下げ装置に取り付けて吊下げられるようになっている。従って、ハウジング本体11は吊下げ部13を介して吊下げることができ、吊下げられたハウジング本体11はその軸線11aが水平方向に延在するように構成されている。
【0017】
ハウジング本体11は、軸線11a方向の両側に開口端部を有する。このうち、一方側(
図2では左側)の開口端部はキャップ部14により塞がれ、他方側(
図2では右側)の開口端部はキャップ部15によって塞がれている。これらのキャップ部14,15は、大略円板状に形成されている。なお、以下では説明の便宜上、ハウジング本体11の軸線11a方向においてキャップ部14が位置する側を左側とし、キャップ部15が位置する側を右側とする。
【0018】
図1に示すように、キャップ部14にはガス供給ポート18が形成されている。ガス供給ポート18は大略円筒状に形成されており、キャップ部14の外周縁付近から軸線11a方向の左側へ突出している。ガス供給ポート18は、外部のガス供給装置(不図示)との間でガス供給チューブを介して接続されており、ガス供給装置から供給される酸素を含むガスがガス供給ポート18からハウジング2内に導かれる。
【0019】
一方、キャップ部15にはガス排出ポート19が形成されている。ガス排出ポート19は大略円筒状に形成されており、キャップ部15の外周縁付近から軸線11a方向の右側へ突出している。このガス排出ポート19は、外部のガス供給装置との間でガス排出チューブを介して接続されている。ガス排出ポート19には軸線11a方向に伸びるスリットが設けられており、ガス排出チューブがキンク等で詰まった場合にもガスが流れ出るように構成されている。なお、ガスが排出できれば、上記スリットに限らず、円形又は多角形状の穴が空いているようなものでもよい。
【0020】
また、キャップ部15の下部にはガス排出孔(図示せず)が設けられており、ガス供給ポートを通じて供給されたガスがガス排出孔を介して排出されるように構成されている。
【0021】
キャップ部14の中心軸(ハウジング本体11の軸線11aとほぼ一致する軸)付近には、血液流入ポート16が形成されている。血液流入ポート16は、大略円筒状に形成されており、キャップ部14の中心軸の下側から左斜め下方に突出している。血液流入ポート16には、不図示の静脈血チューブが接続され、静脈血が静脈血チューブおよび血液流入ポート16を介してハウジング本体11内に導かれる。
【0022】
一方、ハウジング本体11の外周面の下部(吊下げ部13の反対側部分)であって、且つ、人工肺装置1の軸線11a方向の中心よりも左側の位置には、血液流出ポート17が形成されている。より詳細には、血液流出ポート17は、ポート取付部17aとポート本体部17b(
図2)とを備えている。このうちポート取付部17aは大略円筒状に形成され、ハウジング本体11の外周面の下部に設けられ、下方に突出している。ポート本体部17bはポート取付部17aに下方から挿入されている。ポート本体部17bは大略円筒状に形成されており、ポート取付部17aの下端から下方に突出し、その先で斜め下方に屈曲している。血液流出ポート17(ポート本体部17b)には不図示の動脈血チューブが接続され、人工肺装置1にて生成される動脈血は動脈血チューブを介して外部へ送り出される。
【0023】
キャップ部15には、媒体流入ポート20および媒体流出ポート21が設けられている。媒体流入ポート20および媒体流出ポート21は、キャップ部15の中心軸を挟んで上下に離間させて配置されている。2つのポート20,21は、必ずしも上下に離す必要はなく、左右に離して配置してもよい。2つのポート20,21は、大略円筒状に形成されており、キャップ部15から軸線11a方向の右側に突出している。媒体流入ポート20は、不図示の媒体供給チューブに接続され、媒体供給チューブからの温水又は冷水等の熱媒体をハウジング2内に導く。媒体流出ポート21は、不図示の媒体排出チューブに接続され、ハウジング2内の熱媒体を媒体排出チューブを介してハウジング2外に排出する。
【0024】
上述したハウジング2の内部空間2aには、内筒3と中筒4とが同軸心状に収容されている。これらハウジング2、中筒4および内筒3によって、血液室3c、熱媒体分室35(33,34)、およびガス交換室45が形成されている。
【0025】
中筒4は、その外径がハウジング本体11の内径よりも小さく、互いの軸心が一致するようにハウジング本体11に対して配置されている。これにより、中筒4の外周面とハウジング本体11の内周面との間に環状空間が形成され、この環状空間がガス交換室45を成している。ガス交換室45には中空糸体43が設けられている。ガス交換室45では血液との間でガス交換が行われる。
【0026】
中空糸体43は大略円筒状(あるいは、内部空間を有する柱状)に形成されており、複数の中空糸によって構成されている。詳細には、中空糸体43は、複数の中空糸を互いに交差させて積層して構成されるマット状の中空糸膜を、中筒4の外周面に巻き付けることによって構成されている。中空糸膜は、中空糸体43の厚みが中筒4とハウジング本体11との間の間隔と略一致するまで巻き付けられている。すなわち、中空糸体43は、その外周面がハウジング本体11の内周面のほぼ全周に対して当接するようにハウジング本体11の内周面に沿って形成されている。また、中空糸体43の厚みは中筒4とハウジング本体11との間の間隔と略同一又は中筒4とハウジング本体11との間の間隔よりも大きく形成されていてもよい。中空糸体43は弾性を有するため、中空糸体43が中筒4とハウジング本体11との間に装着された際、中筒4とハウジング本体11の内周面に嵌合される部分(中空糸体43の他方向部分)は、中空糸体43の厚みが中筒4とハウジング本体11との間の間隔と略一致するようにされている。
【0027】
また、中空糸体43は弾性を有するため、中筒4とハウジング本体11の内周面との間で嵌合されない部分(中空糸体43の一方向部分)は、中筒4とハウジング本体11の内周面に嵌合される部分(中空糸体43の他方向部分)よりも大径となっている。
【0028】
ガス交換室45の左側の領域には円環状のシール部材50が設けられている。シール部材50は、キャップ部14の内周面と共にガス流入空間52を形成し、このガス流入空間52にはガス供給ポート18が連通している。また、ガス交換室45の右側の領域には円環状のシール部材51が設けられている。シール部材51は、キャップ部15の内周面と共にガス流出空間53を形成し、このガス流出空間53にはガス排出ポート19が連通している。
【0029】
中空糸体43は、上記のシール部材50とシール部材51とに左右から挟持された状態で設けられている。シール部材50は、ウレタン樹脂等の公知の材質で構成されている。シール部材50は、ガス交換室45の左側において、中筒4とハウジング2との間を全周方向に亘りシールしている。また、シール部材51は、ガス交換室45の右側において、中筒4とハウジング2との間を全周方向に亘りシールしている。このような構成により、ガス供給ポート18に連通するガス流入空間52と、ガス排出ポート19に連通するガス流出空間53とは、互いに中空糸体43を構成する複数の中空糸の内孔を介して連通している。
【0030】
中空糸体43において、これを構成する複数の中空糸の各々の間には隙間が設けられており、ガス交換室45では、この隙間を血液が流れるようになっている。詳細には、ガス交換室45に導かれた血液は、中空糸体43内の隙間を通り、中空糸に触れながら軸線11a方向の右側から左側へ向かって流れていく。中空糸の内孔には、ガス供給ポート18およびガス流入空間52を介し、外部のガス供給装置から酸素リッチなガスが通される。従って、二酸化炭素濃度の高い血液が中空糸に触れると、血液と中空糸内のガスとの間でガス交換が行われる。これにより、血液から二酸化炭素が除去されると共に血液に酸素が付加される。このように、血液はガス交換が行われながら、ガス交換室45内を軸線11a方向の左側に流れていく。一方、中空糸の内孔を通るガスは、ガス交換が行われながら右側へ流れ、ガス流出空間53およびガス排出ポート19を経て外部のガス供給装置へ戻っていく。
【0031】
ガス交換室45の下流側(左側)部分は、残余の部分に比べて半径方向外側に拡径している。詳細には、
図2に示すように、ハウジング本体11の左側部分の内周面には、半径方向外側に凹む環状の凹部54が形成されている。凹部54のうち左側部分はほぼ一定の径寸法である一方、右側部分は右側へ向かうにつれて先細りになっており、テーパ状に形成されている。シール部材50は凹部54の中央部分に配置されており、凹部54においてシール部材50より右側の部分は上記の通りテーパ状となっている。凹部54と中空糸体43との間に形成された外周空間55は、中空糸体43を周回して形成されており、下部にて血液流出ポート17に連通している。このような構成により、ガス交換室45でガス交換された血液は、外周空間55に導かれた後、血液流出ポート17に流れ込む。
【0032】
上記の外周空間55には、当該外周空間55に沿って円環状を成す整流フレーム56が設けられている。整流フレーム56は、ガス交換しながらガス交換室45を流れる血液と共に運ばれてくる気泡を、再び中空糸体43に向かうよう誘導して中空糸内に取り込ませるものである。
【0033】
ハウジング本体11の上部には、外周空間55と外部とを連通するエア抜きポート57が設けられている。このエア抜きポート57は、外周空間55の上部(気泡トラップ部)に溜まる気泡を外方に排出する。なお、エア抜きポート57の外側の開口端には、基本的には不図示のキャップ部材が被せられており、気泡の排出時を除いて、エア抜きポート57から気泡および血液が排出されないようにしている。
【0034】
<中筒>
中筒4は、ハウジング2の内周面と共にガス交換室45を形成しつつハウジング2内に配置されている。中筒4は、ハウジング2の内部空間2aの所定位置に配置される。中筒4の外径は、ハウジング2の内径よりも小さくなっている。本実施形態において、中筒4と内筒3と内筒3内に配置された後述の管群32とを含む構成要素が熱交換器61であり、中筒4と管群32との間の領域が熱交換部61aである。
【0035】
中筒4は、
図4および
図5(a)に示すように、円筒状に形成された中筒本体部40と、この中筒本体部40の端部(媒体流出ポート21側の端部)と離間して配置された平面視で円形状の隔壁部41と、隔壁部41と中筒本体部40の上記端部とに架橋されて設けられた中空状の複数の筒状支持部42とを有している。筒状支持部42は、中筒本体部40の軸線方向に沿って当該中筒本体部40に立設するように設けられ、隔壁部41を支持するものである。
【0036】
図3に示すように、キャップ部15の内面には、ハウジング2の軸線方向に突出すると共にキャップ部15の径方向に延在する係合部15aが設けられている。これに対して、
図4および
図5(c)に示すように、中筒4の隔壁部41の外面には一対の壁部41aが形成されている。この一対の壁部41aは隔壁部41の径方向に延在している。一方の壁部41aと他方の壁部41aとによって、隔壁部41の径方向に延在する溝部41bが形成されている。
【0037】
このような構成において、中筒4をハウジング2内に挿入して、隔壁部41の溝部41bにキャップ部15の係合部15aを係合させると、キャップ部15に対する中筒4の位置を所定位置に位置決めすることができ、これによりハウジング2に対する中筒4の位置を所定位置に位置決めすることができる。この場合、中筒4は、当該中筒4の軸線とハウジング2の軸線とが一致するようにハウジング2に対して位置決めされる。また、隔壁部41の溝部41bとキャップ部15の係合部15aとの係合により、第1室41dおよび第2室41eは液密状態で隔てられる。本実施形態では、中筒4とキャップ部15は別体成形であるが、一体的に形成されてもよい。
【0038】
また、
図5(b)に示すように、中筒4の中筒本体部40の内周面には、当該中筒4の軸線方向に延在して互い間隔を空けて配置され且つ径方向に突出した一対の壁部40bと、この一対の壁部40bと同形状であって、当該一対の壁部40bに対して径方向の逆側に位置する一対の壁部40cとが設けられている。一対の壁部40bの間に溝状の第1被係合部40dが形成され、一対の壁部40cの間に溝状の第2被係合部40eが形成されている。なお、第1被係合部40dおよび第2被係合部40eについては後述する。
【0039】
中筒4の中筒本体部40は、その両端部が開口されて形成されているが、その隔壁部41側の端部には、当該中筒本体部40の径方向の内側に延在する環状の縁部40aが形成されている。なお、筒状支持部42の、隔壁部41側の開口部の面積は、反対側の開口面積よりも小さくなっている。
【0040】
図4に示すように、隔壁部41は、キャップ部15が設けられた方向とは逆方向に窪んだすり鉢状に形成され、キャップ部15の内面と共に、熱媒体の圧力調整空間である延在部41cの一部を形成している。熱交換部61aはこのような延在部41cを有している。すなわち、延在部41cは、血液室3cの端部(
図2では右端)をハウジング2の軸方向の外側に超えて延在して配置されている。つまり、延在部41cは、熱媒体分室35と媒体流入ポート20(媒体流出ポート21)との間に設けられている。
【0041】
各筒状支持部42は、中筒本体部40の縁部40aにおいて円周方向に等間隔に配置されている。本実施形態では、筒状支持部42は例えば4つ設けられる。各筒状支持部42の中筒本体部40側の端部は中筒本体部40の内部に連通している。また、各筒状支持部42の隔壁部41側の端部は、上述の延在部41cに連通している。これにより、延在部41cは、筒状支持部42を介して中筒本体部40内に連通している。
【0042】
中筒4をハウジング2にアセンブリすると、つまり、隔壁部41の溝部41bにキャップ部15の係合部15aを係合させると、一対の壁部41aと係合部15aとによって、延在部41cが2つの空間に分室されるようになっている。これにより、延在部41cは、相互に連通せずに独立した媒体流入室である第1室41dおよび媒体流出室である第2室41eに分かれる。これらの第1室41dおよび第2室41eは隔壁部41に設けられている。
【0043】
第1室41dは、熱媒体を媒体流入ポート20から流入させて後述の第1熱媒体分室33へと流出させるバッファとしての機能を有する。第1室41dは第1熱媒体分室33と流体連通する第1室出口41d1を有している。第1室41dは、媒体流入ポート20の流路断面積よりも大きな流路断面積を有する。また、第1室出口41d1の流路断面積は媒体流入ポート20の流路断面積よりも小さい。
【0044】
第2室41eは、熱媒体を後述の第2熱媒体分室から流入させて媒体流出ポート21へと流出させるバッファとしての機能を有する。第2室41eは第2熱媒体分室34と流体連通する第2室入口41e1を有している。第2室41eは、媒体流出ポート21の流路断面積よりも大きな流路断面積を有する。また、第2室入口41e1の流路断面積は媒体流出ポート21の流路断面積よりも小さい。
【0045】
このような構成において、
図5(c)に示すように、4つの筒状支持部42のうち隣り合う2つの筒状支持部である第1支持部42aには、媒体流入ポート20からの熱媒体が第1室41dを介して流れ込む。第1支持部42aに流れ込んだ熱媒体は、中筒4内の第1熱媒体分室33に流入する。このように、第1支持部42aは媒体流入ポート20と第1熱媒体分室33とを流体連通する第1媒体流路71を構成している。この第1媒体流路71の流路断面積は媒体流入ポート20の流路断面積よりも小さくなっている。また、2つの第1支持部42aの総流路断面積と媒体流入ポート20の流路断面積とは等しい。
【0046】
また、4つの筒状支持部42のうち残りの隣り合う2つの筒状支持部である第2支持部42bには、詳細は後述するが、中筒4内の第2熱媒体分室34からの熱媒体が流入し、当該熱媒体は、その後第2室41eを介して媒体流出ポート21へと導かれる。このように、第2支持部42bは第2熱媒体分室34と媒体流出ポート21とを流体連通する第2媒体流路72を構成している。この第2媒体流路72の流路断面積は媒体流出ポート21の流路断面積よりも小さくなっている。また、2つの第2支持部42bの総流路断面積と媒体流出ポート21の流路断面積とは等しい。
【0047】
以上の構成によって、熱媒体は、人工肺装置1の右側から流入したあと左側に向けて流れ、血液に対して熱交換を行った後、人工肺装置1の左側から右側に向けて流出するようになっている(熱媒体流れの構成)。この熱媒体流れは一例であり、前述した態様に限定されたものではない。
【0048】
一方、内筒3と中筒4との間、すなわち中筒本体部40の端部と隔壁部41との間、詳しくは、中筒本体部40の右端部と隔壁部41との間の領域であって4つの筒状支持部42を除く領域には血液流路44が形成されている。この血液流路44は、後述の管群32の下流端(
図2では右端)と、中筒本体部40における隔壁部41側の開口部と、ハウジング2の軸線方向に延在するガス交換室45の一方側(
図2では右側)に配された入口とに連通している。つまり、血液は、血液流入ポート16を介して人工肺装置1の左側から流入したあと右側に向けて流れ、血液流路44を介して折り返して、人工肺装置1の左側に配置された血液流出ポート17から流出するようになっている(血液流れの構成)。
【0049】
このような構成によって、人工肺装置1では、血液を人工肺装置1の左側から右側に流してその流路長を確保することで十分な熱交換を実現しつつ、血液流入ポート16と媒体流出ポート21とを互いに人工肺装置1の逆側に配置することで衛生上のリスクを低減している。
【0050】
上記の2つの効果を奏し得る構成が、上述の熱媒体流れの構成および血液流れの構成である。これらの構成を実現するには、
図2および
図3に示すように、血液流路44を筒状支持部42と交差するように形成する必要がある。このため、上述の第1媒体流路71および第2媒体流路72を構成する筒状支持部42は、血液流路44を跨ぐように、つまり血液流路44と交差するように配置されている。このように、人工肺装置1は、血液流路44と、血液流路44と交差するように配置された第1媒体流路71および第2媒体流路72とを形成するブリッジ構造体70を備えている。
【0051】
<内筒>
図6に示すように、内筒3は、ハウジング2内に導かれる静脈血の温度を調整するためのものであって、ハウジング2および中筒4の軸線方向と同じ方向に延在するように形成されている。本実施形態では、内筒3の長さ(軸線方向の長さ)は、中筒4の長さ(軸線方向の長さ)よりも長くなっている。
【0052】
熱交換部61aの一部を形成する内筒3の内部には、
図2に示すように、一端および他端を有する血液室3cが設けられており、その血液室3cに、血液が内部を流れる管群32がその軸線方向と内筒3の軸線方向とが一致するように挿入されて配置されている。管群32は複数の熱交換パイプの集合体である。各熱交換パイプは、例えばステンレス鋼等の熱伝導率が高い材料により構成される長尺状且つ小径な管であり、血液流入ポート16からの血液が流れ込むようになっている。内筒3の他端は、中筒本体部40の、隔壁部41側(
図2では右側)の開口部と連通している。
【0053】
内筒3の外径は中筒4の内径よりも小さくなっている。また、内筒3は、当該内筒3の軸線と中筒4の軸線とが一致するように中筒4に対して位置決めされている。このような構成により、内筒3の外周面と中筒4の内周面との間には、熱媒体が流れる円環状の熱媒体分室35が形成されている。なお、熱媒体分室35は熱交換部61aに含まれる。
【0054】
図2に示すように、内筒3内には、円板状の一対の管支持体32a,32aが設けられている。管支持体32aの外径は内筒3の内径と略一致している。一方の管支持体32aは内筒3の一方端に挿通され、他方の管支持体32aは内筒3の他方端に挿通されている。そして、管群32を構成している各熱交換パイプは、その一方端が一方の管支持体32aに放射状に設けられた孔部(図略)に挿通され、その他方端が他方の管支持体32aに放射状に設けられた孔部(図略)に挿通された状態で、内筒3内に配置されている。これにより、内筒3の両側の開口端部が一対の管支持体32aによりシールされた状態となっている。なお、管支持体32aにはウレタン樹脂等の公知の材料が用いられる。
【0055】
図6に示すように、内筒3においてキャップ部15側の端部3aとは逆側の端部には、内筒3の残余部分よりも大径な環状係合部3bが設けられている。内筒3がその軸線と中筒4の軸線とが一致するように中筒4に位置決めされた状態で、上記の環状係合部3bおよび内筒3の当該環状係合部3b側の端部が中筒4から突出するようになっている。そして、中筒4がハウジング2内に配置された状態で、上記の環状係合部3bがキャップ部14の内面に係合するようになっている。これにより、内筒3がハウジング2のキャップ部14に固定される。
【0056】
また、同図に示すように、内筒3の外周面には、当該内筒3の軸線方向に延在して内筒3の外周面から径方向の外側に突出する第1係合部38と、当該第1係合部38と同様に当該内筒3の軸線方向に延在して内筒3の外周面から径方向の外側に突出し第1係合部38の径方向の逆側に位置する第2係合部36とが設けられている。
【0057】
このような構成において、内筒3を中筒4内に位置決めする際には、内筒3の第1係合部38が中筒4の第1被係合部40dに係合し且つ内筒3の第2係合部36が中筒4の第2被係合部40eに係合した状態で、内筒3をスライドさせて中筒4内に挿入する。このようにして、中筒4内に内筒3がアセンブリされた状態で、内筒3の端部3aは中筒本体部40の縁部40aの内面に当接する。これにより、血液室3cと熱媒体分室35とは液密状態で隔てられる。また、内筒3の環状係合部3bは中筒本体部40から外方に突出してキャップ部14の内面に係合するようになっている。
【0058】
以上のようにして、内筒3が中筒4内に位置決めされると、円環状の熱媒体分室35は、第1係合部38と第1被係合部40dとの係合および第2係合部36と第2被係合部40eとの係合によって出来た2つの壁によって、
図2に示すように第1熱媒体分室33と第2熱媒体分室34とに分けられる。第1係合部38と第1被係合部40d、第2係合部36と第2被係合部40eにより、第1熱媒体分室33と第2熱媒体分室34とは液密状態で隔てられる。この第1熱媒体分室33は媒体流入ポート20に連通し、第2熱媒体分室34は媒体流出ポート21に連通している。
【0059】
図6に示すように、内筒3は、当該内筒3の軸方向に並んで設けられ、血液室3cおよび第1熱媒体分室33と流体連通する複数の第1熱媒体孔部37aと、血液室3cおよび第2熱媒体分室34と流体連通する複数の第2熱媒体孔部37bとを有している。これらの第1および第2熱媒体孔部37a,37bは、内筒3の肉厚を貫通して形成されている。第1熱媒体孔部37aは、血液室3c(
図2参照)を挟んで第2熱媒体孔部37bに対して対称的に配置されている。第1および第2熱媒体孔部37a,37bは、同じ大きさの径を有し、例えば直径3mmの孔である。第1熱媒体孔部37aおよび第2熱媒体孔部37bの数は、それぞれ、例えば合計18個とすることができ、内筒3の軸方向に並ぶように例えば6列配置されると共に各列には上記軸方向と直交する方向に沿って3つずつ設けられる。内筒3の外表面には、内筒3が中筒4内に位置決めされ第1熱媒体分室33と第2熱媒体分室34とに分けられた際、第1熱媒体分室33および第2熱媒体分室34の体積が大きくなるように、一対の凹みが内筒3の軸方向に延在して設けられていてもよい。この場合、一方の凹みに第1熱媒体孔部37aが配置され、他方の凹みに第2熱媒体孔部37bが配置されてもよい。
【0060】
以上のような構成の人工肺装置1において、静脈から取り出される静脈血が血液流入ポート16介してハウジング2内に流入した後、管群32の熱交換パイプ内へと流れ込み、当該熱交換パイプを通った後、血液流路44を介してガス交換室45に流入する。つまり、血液室3cの出口から流れ出た血液は、ハウジング2の軸交差方向に流れる。より詳細には、血液室3cの出口から流れ出た血液は、血液流路44によって延在部41cを横切るように流れる。このように、血液が血液流路44によってハウジング2の径方向に拡散するように流れるので、血液滞留が起き難くなる。
【0061】
一方、媒体流入ポート20からハウジング2内に流入した熱媒体は、延在部41c(第1室41d)を介して圧力損失の増大が抑制された状態で、当該第1室41dに連通する2つの第1支持部42a内に流れ込む。その後、熱媒体は、第1熱媒体分室33を介して第1熱媒体孔部37aから血液室3cに流入する。これにより、熱媒体は、血液室3cに設けられている管群32の熱交換パイプの表面上を流れる。
【0062】
そして、血液が管群32の熱交換パイプ内を通る際には、当該血液と血液室3c内の熱媒体との間で熱交換が行われ、血液の温度が調整される。温度が調整された血液は、上述の通り、血液流路44を介してガス交換室45に流入する。そして、血液は、ガス交換室45に設けられた中空糸体43内の隙間を通り、当該中空糸体43の中空糸に触れることで二酸化炭素が除去され且つ酸素が付加される。これにより、血液は、その酸素濃度が増加されつつ血液流出ポート17から動脈血として排出される。
【0063】
一方、熱交換後の熱媒体は、血液室3c内から第2熱媒体孔部37bを介して第2熱媒体分室34に流れ込む。その後、熱媒体は、第2室41eに連通する2つの第2支持部42b内を通過した後、第2室41e(延在部41c)を介して媒体流出ポート21から排出される。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の人工肺装置1によれば、血液はハウジング2の一端側に設けられた血液流入ポート16から流入し、熱交換器61から熱媒体分室35の他端側を経た後、血液流路44を介してガス交換室45に流れるようになっている。これにより、血液に対する熱交換が十分に行われる。また、血液流入ポート16がハウジング2の一端側に設けられ、媒体流出ポート21がハウジング2の他端側に設けられているので、衛生面が向上された構成となっている。
【0065】
詳細には、血液流路44が4つの筒状支持部42と交差するように形成される。すなわち、熱媒体の流路である4つの筒状支持部42は、血液流路44を跨ぐブリッジ流路のごとく構成されている。このような構成によって、血液を人工肺装置1の左側から右側に流すことで血液の流路長を確保することができ、それ故十分な熱交換を実現することが可能となり、また血液流入ポート16と媒体流出ポート21とを互いに人工肺装置1の逆側に配置することができ、それにより衛生上のリスクを回避することが可能となる。
【0066】
また、本実施形態では、第1媒体流路71の流路断面積が媒体流入ポート20の流路断面積よりも小さく、第2媒体流路72の流路断面積が媒体流出ポート21の流路断面積よりも小さい。このように構成することで、人工肺装置1が径方向に大きくなることを抑制することができる。これにより、プライミングボリュームが低減する。その結果、患者への負担が少ない。
【0067】
また、上記のようにプライミングボリュームの低減のために第1媒体流路71および第2媒体流路72の各流路断面積を小さくすると、流路狭窄が起こり熱媒体の圧力損失が増大するが、本実施形態では、第1熱媒体分室33および第2熱媒体分室34と、媒体流入ポート20および媒体流出ポート21との間に、熱交換機能を有する延在部41cが設けられている。この延在部41cの存在によって、熱媒体の圧力損失の増大を抑制することができる。また、延在部41cの存在によって、ハウジング2を径方向に大きくする必要がなくなるため、プライミングボリュームの低減を図ることができる。
【0068】
また、本実施形態では、第1室41dは媒体流入ポート20の流路断面積よりも大きな流路断面積を有し、第2室41eは媒体流出ポート21の流路断面積よりも大きな流路断面積を有している。これにより、圧力損失の増大をより抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態では、第1室出口41d1の流路断面積は媒体流入ポート20の流路断面積よりも小さく、第2室入口41e1の流路断面積は媒体流出ポート21の流路断面積よりも小さく構成されている。これにより、ハウジング2の大径化を抑制することができると共に、プライミングボリュームの低減をより図ることができる。
【0070】
また、本実施形態では、内筒3の外周面と中筒4との内周面との間に、血液室3cに連通する熱媒体分室35(第1熱媒体分室33および第2熱媒体分室34)が形成されている。すなわち、熱媒体分室35は、内筒3内に形成され血液が管群32を介して流れる血液室3cの軸線方向に沿って延在するように形成されている。これにより、血液の流れ方向に対して熱媒体を均等に送り込むことができる。これによって、血液との熱交換を均等かつ十分に行うことができる。
【0071】
また、本実施形態では、内筒3を中筒4内に位置決めする際には、内筒3の第1係合部38が中筒4の第1被係合部40dに係合し且つ内筒3の第2係合部36が中筒4の第2被係合部40eに係合した状態で、内筒3をスライドさせて中筒4内に挿入する。このような構成により、内筒3を中筒4に対して位置決めし易い。また、内筒3が中筒4内に位置決めされて配置されると、熱媒体分室35が第1熱媒体分室33と第2熱媒体分室34とに分室される。そのため、熱媒体分室35を、熱交換前の熱媒体が流れる室と熱交換後の熱媒体が流れる室とに分けるための隔壁を別途設ける必要がない。
【0072】
また、本実施形態では、血液室3cの出口から流れ出る血液をハウジング2の軸交差方向に流す血液流路44が設けられている。血液室3cの出口から出る血液をハウジング2の軸線11aの方向に向けて流すと、血液流れがハウジング2の軸線11aの方向に延びるためハウジング2が更に軸線11aの方向に大きくなる。そのため、プライミングボリュームが増加してしまう。これに対して、血液を軸交差方向に流す血液流路44を採用すれば、ハウジング2を軸線11aの方向に大きくせずに済む。これにより、プライミングボリュームの低減をより図ることができる。
【0073】
また、本実施形態では、ハウジング2の内周面と共にガス交換室45を形成しつつ当該ハウジング2内に配置される中筒4が設けられていることで、ガス交換室45をハウジング2内側に配置することができる。そのため、ハウジング外側にガス交換室を設ける場合に比して、人工肺装置1の大径化を防ぐことができる。その結果、プライミングボリュームの低減を図ることができる。
【0074】
また、本実施形態では、第1支持部42aの総流路断面積と媒体流入ポート20の流路断面積とが等しく、第2支持部42bの総流路断面積と媒体流出ポート21の流路断面積とが等しい。これにより、熱媒体の圧力損失の増大を抑制することができる。
【0075】
また、本実施形態では、隔壁部41がキャップ部15の方向と逆方向に窪んだすり鉢状に形成されていることで、第1室41dおよび第2室41eの体積を確保しやすくなる。その結果、媒体流入ポート20からの熱媒体の圧力損失が増大し難くなっている。
【0076】
また、本実施形態では、内筒3が当該内筒3の軸方向に並んで設けられた複数の第1および第2熱媒体孔部37a,37bを有している。第1および第2熱媒体孔部37a,37bは、例えば直径3mmの孔部であって、内筒3の軸方向に並ぶように例えば6列配置されると共に各列には上記軸方向と直交する方向に沿って3つずつ設けられている。これにより、血液と熱媒体との熱交換効率を向上できると共に熱媒体流路に起因した熱媒体の圧力損失の増大を抑制することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、第1熱媒体孔部37aは、血液室3cを挟んで第2熱媒体孔部37bに対して対称的に配置されている。これにより、血液室3c内の血液の流れ方向に対して熱媒体の流れを直交させることができるため、熱媒体の血液に対する攪拌効率が向上する。これによって、熱交換効率が向上する。
【0078】
<他の実施形態>
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0079】
上記実施形態では、血液流出ポート17をハウジング2の外周面に設けるように構成したが、これに限定されるものではなく、血液流入ポート16と同じようにキャップ部14に設けてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、管群32の熱交換パイプ内に血液を流し、当該管群32の熱交換パイプの周りに熱媒体を流し込むように構成したが、これに限定されるものではなく、管群32の熱交換パイプ内に熱媒体を流し、当該熱交換パイプの周りに血液を流すように構成してもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、中筒4をハウジング2内に挿入して配置するように構成したが、これに限定されるものではなく、中筒4とハウジング2とを一体的に形成してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、内筒3を中筒4内に挿入して配置するように構成したが、これに限定されるものではなく、内筒3と中筒4とを一体的に形成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、筒状支持部42を4本設けたが、筒状支持部42の数を例えば2本としてもよいし、8本としてもよい。すなわち、熱媒体が中筒4内に流入するための流路と中筒4内から熱媒体を流出させるための流路とを筒状支持部42で構成するものであればよい。
【0084】
また、中筒4の外周面には、軸方向に延び、中筒4の中央部付近まで延びる凸部が形成されていてもよい。これにより中空糸膜と中筒4の間に血液が流れる空間を生み出し、熱交換をより効率的に行うことができる。
【0085】
また、延在部41cはキャップ部15を含んで構成されていてもよい。
【0086】
さらに、血液室3cの出口は中筒4の表面に設けられた1つ又は複数の孔で設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 人工肺装置
2 ハウジング
3 内筒
3c 血液室
4 中筒
14,15 キャップ部
16 血液流入ポート
17 血液流出ポート
20 媒体流入ポート
21 媒体流出ポート
32 管群
33 第1熱媒体分室
34 第2熱媒体分室
35 熱媒体分室
37a 第1熱媒体孔部
37b 第2熱媒体孔部
40 中筒本体部
41 隔壁部
41c 延在部
41d 第1室
41d1 第1室出口
41e 第2室
41e1 第2室入口
42 筒状支持部
42a 第1支持部
42b 第2支持部
44 血液流路
45 ガス交換室
60 ガス交換器
61 熱交換器
61a 熱交換部
70 ブリッジ構造体
71 第1媒体流路(媒体流路)
72 第2媒体流路(媒体流路)