(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】車両の尿素水タンク
(51)【国際特許分類】
B60K 13/04 20060101AFI20230711BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B60K13/04 Z
F01N3/08 B
(21)【出願番号】P 2019099234
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 広記
(72)【発明者】
【氏名】山見 卓也
(72)【発明者】
【氏名】及川 聡
(72)【発明者】
【氏名】中島 克哉
(72)【発明者】
【氏名】菅井 美保
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505387(JP,A)
【文献】特開2019-074074(JP,A)
【文献】特開平06-144030(JP,A)
【文献】実開昭63-129625(JP,U)
【文献】独国特許出願公開第102018213722(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 13/04
F01N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される尿素水タンクであって、
前記尿素水タンクの底壁に設置され、尿素水が流入する流入口と該流入口から吸込んだ尿素水を前記尿素水タンクの下方に排出する流出口とを有する尿素水ポンプと、
前記尿素水ポンプを囲うように湾曲して周方向に設けられ前記底壁から立設される液溜壁と、
を備え、
前記液溜壁の前記底壁からの高さが、周方向において変化することを特徴とする車両の尿素水タンク。
【請求項2】
前記液溜壁は、周方向
において360度より小さい範囲で前記尿素水ポンプを囲うことを特徴とする請求項1に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項3】
前記尿素水ポンプは、前記尿素水タンクの一方の側壁側に偏位して配置され、前記液溜壁の開放は、前記一方の側壁側に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項4】
前記液溜壁は、一端部は前記尿素水タンクの側壁との間に空間を存して設けられ、他端部は前記側壁と接続して設けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項5】
前記液溜壁は、前記一端部が最も低く形成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項6】
前記尿素水ポンプの周囲の尿素水を加熱する尿素水加熱手段が設けられ、前記尿素水ポンプが前記尿素水タンクの内部平面視において、前記尿素水加熱手段と前記液溜壁との間に位置していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項7】
前記尿素水タンクの内部平面視において、前記尿素水加熱手段は前記尿素水タンクの側壁と前記尿素水ポンプとの間に位置していることを特徴とする請求項6に記載の車両の尿素水タンク。
【請求項8】
前記尿素水加熱手段は、前記尿素水ポンプに隣接して設置される尿素水ヒータによって構成され、前記尿素水ポンプが設置される底壁は、周囲よりも窪んだ凹部底壁であることを特徴とする請求項6または7に記載の車両の尿素水タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される尿素水タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関であるディーゼルエンジンから排出されるリーン排気中の窒素酸化物(NOx)を浄化するものとして、尿素水(尿素水溶液)を触媒上で加水分解させてアンモニア(NH3)を生成させ、そのアンモニア(NH3)によりNOxを選択還元・浄化する選択還元触媒を排気通路に設けた排気浄化装置を搭載した車両が知られている。例えば、特許文献1には、尿素水を貯留するための尿素水タンクが搭載される車両について示されている。
【0003】
一方、特許文献2には、液体燃料を貯蔵する車両の燃料タンクにおいて、ポンプを有する燃料配管の吸込口は燃料タンクの底部に開口していて、燃料が残り少なくなっても吸込みができるように、燃料タンクに差込まれた燃料配管を囲んで仕切壁が設けられ、該仕切壁の下端は燃料タンクの底壁に液密に固定され、また仕切壁の底部には流入口が設けられている構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-94885号公報
【文献】実開昭62-148770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、尿素水タンクが搭載される車両について示されているが、尿素水タンクの内部構造については示されていない。また、特許文献2には、燃料タンクの内部構造について示され、燃料配管を囲んで設けられた仕切壁の内側に燃料を溜めて仕切壁の内側から燃料が流出しにくくすることが示されているが、燃料タンクであり、貯蔵液体は軽油やガソリンのような燃料であるため凍結しにくい。そのため、特許文献2の開示構造を尿素水のような凍結しやすい液体を貯蔵する尿素水タンクへそのまま適用することは困難である。
【0006】
尿素水タンクに供給される尿素水は、気温がマイナスに(-11℃以下に)下がる時期には、凍結する可能性がある。特許文献2の構造では、仕切壁の内側に燃料を溜めて仕切壁の内側から燃料が流出しにくくすることは示されているが、仕切壁の底部に開けられた流入口が凍結して閉塞されやすい問題を有し、また、仕切壁の内側に溜まる燃料の流動性を高めて凍結し難くすることや、解凍しやすることについては示されていない。
【0007】
そこで、上記課題に鑑み、本発明の少なくとも一つの実施形態は、尿素水が凍結する恐れがある寒冷地であっても、尿素水を安定的に排出可能な車両の尿素水タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前述した目的を達成するために発明されたものであり、本発明の少なくとも一つの実施形態は、車両に搭載される尿素水タンクであって、前記尿素水タンクの底壁に設置され、尿素水が流入する流入口と該流入口から吸込んだ尿素水を前記尿素水タンクの下方に排出する流出口とを有する尿素水ポンプと、前記尿素水ポンプを囲うように湾曲して周方向に設けられ前記底壁から立設される液溜壁と、を備え、前記液溜壁の前記底壁からの高さが、周方向において変化することを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、尿素水ポンプを囲うように湾曲して周方向に設けられる液溜壁の高さが、周方向において変化するので、尿素水が尿素水ポンプによって尿素水タンクの下方に吸引されて尿素水面が低下するに伴って、液溜壁の上端面が水面又は貯留水内部を横切るため水面又は貯留水内部の静止状態が乱される。さらに液溜壁が湾曲されているため、液溜壁の内側に液溜壁の湾曲に沿う流動が生じやすく、尿素水が凍結する恐れがある寒冷地(尿素水が凍結するおそれがある-11℃以下になるような環境)であっても水面又は貯留水内部の流動によって凍結しにくくできる。
【0010】
(2)いくつかの実施形態では、前記液溜壁は、周方向において360度より小さい範囲で前記尿素水ポンプを囲うことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、液溜壁は、周方向において一部が途切れて開放されているので、車両の動きに伴って種々の方向に尿素水タンクが傾斜したときに、開放領域から液溜壁の内側に尿素水が導かれて、尿素水が液溜壁の内側に流れ込みやすく、また液溜壁は湾曲しているので内側に保持されやすい。従って、流動性による凍結防止とともに尿素水ポンプを介しての尿素水の排出が安定的に行われる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、前記尿素水ポンプは、前記尿素水タンクの一方の側壁側に偏位して配置され、前記液溜壁の開放は、前記一方の側壁側に形成されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、尿素水ポンプは、尿素水タンクの一方の側壁側に偏位して配置され、液溜壁の開放は、一方の側壁側に形成されているので、尿素水ポンプの側壁側が低くなるように傾斜した際には、側壁によって尿素水が保持され、側壁と反対側に傾斜した際には液溜壁によって尿素水が保持される。よって、尿素水ポンプ付近に尿素水が保持されやすく、尿素水ポンプを介しての尿素水の排出が安定的に行われる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、前記液溜壁は、一端部は前記尿素水タンクの側壁との間に空間を存して設けられ、他端部は前記側壁と接続して設けられることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、一端部は尿素水タンクの側壁との間に空間を存して設けられ、他端部は尿素水タンクの側壁と接続して設けられるので、液溜壁の内側に導かれる尿素水は一端部の側から液溜壁の内側に導かれるため、液溜壁の内側面に沿って旋回流が形成されやすい。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、前記液溜壁は、前記一端部が最も低く形成されていることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、液溜壁の高さが、一端部が最も低く形成されているので、一端部側から液溜壁の内側に尿素水を導きやすくなり、液溜壁の内側面に沿って旋回流が形成されやすい。
【0018】
(6)幾つかの構成によれば、前記尿素水ポンプの周囲の尿素水を加熱する尿素水加熱手段が設けられ、前記尿素水タンクの内部平面視において、前記尿素水ポンプは前記尿素水加熱手段と前記液溜壁との間に位置することを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、尿素水ポンプの吸引によって生じる尿素水の流れによって、尿素水加熱手段付近を通過して加熱された尿素水を、液溜壁によって受け止めることができるので、加熱された尿素水を効率よく液溜壁の内側に保持できる。
【0020】
(7)幾つかの実施形態では、前記尿素水タンクの内部平面視において、前記尿素水加熱手段は前記尿素水タンクの側壁と前記尿素水ポンプとの間に設置されることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、尿素水ポンプの吸引による尿素水の流れを、液溜壁が立設されない領域と尿素水タンクの側壁とによって、尿素水加熱手段付近へ効率よく導ける。これによって尿素水の加熱を効率よく行える。
【0022】
(8)幾つかの実施形態では、前記尿素水加熱手段は、前記凹部底壁に前記尿素水ポンプに隣接して設置される尿素水ヒータによって構成され、前記尿素水ポンプが設置される底壁は、周囲よりも窪んだ凹部底壁であることを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、尿素水ポンプが周囲よりも窪んだ凹部底壁に設置されているので、尿素水タンク内に貯留される尿素水が少なくなっても尿素水を尿素水ポンプへ確実に供給できる。また、尿素水ポンプに隣接して設置された尿素水ヒータの空焚きが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る尿素水タンクが搭載される車両の後部の概略構成を示し、車両下方からの下平面視の概略図である。
【
図3】
図1の尿素水タンク内の尿素水ポンプの周囲を示し、尿素水タンクの内部の上平面視図である。
【
図4】
図1の尿素水タンク内の尿素水ポンプの周囲を示し、尿素水タンクをタンク長手方向に沿って一部破断したときの斜視図である。
【
図5】
図1の尿素水タンク内の尿素水ポンプの周囲を示し、尿素水タンクをタンク短手方向に沿って一部破断したときの斜視図である。
【
図6】
図1の尿素水タンク内の尿素水ポンプの周囲を示し、尿素水タンクをタンク短手方向に沿って一部破断したときの側面視図である。
【
図7】尿素水ポンプと尿素水ヒータとが一体化された尿素水ポンプユニットの概略構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、実施形態として記載されている、または図面に示されている構成部品の相対的配置等は、本発明の範囲をこれらに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0026】
図1に本発明の一実施形態を示す。車両1は、尿素SCRシステムを搭載した、例えばピックアップトラック型のSUV(Sport Utility Vehicle)車両である。車両1の車体構造は、フレーム3とボディとを分離させたセパレートフレーム構造が採用されている。フレーム3上における車両1の前方側には、乗員が搭乗する箱状のキャブ(車室)が配置され、その後方側には荷台が載置される。
【0027】
なお、車両1は、ピックアップトラック型のSUVに限るものではなく、フレーム上における車両1の後方側においても、前方側と同様に乗員が搭乗する車室であってもよく、その場合には、車両後方側は荷台ではなく車室フロアが搭載される。
【0028】
車両1には、
図1に示すように、尿素SCRシステムを構成する尿素水タンク5が搭載されている。この尿素SCRシステムとは、エンジンの排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化するための排ガス浄化システムであり、排気通路上に介装されたNOx選択還元触媒の上流側に尿素水が噴射され、尿素水の加水分解によって生成されるアンモニアを還元剤として、NOxが触媒上で窒素に還元されて排出されるシステムである。NOx排出量が問題になるディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンへ適応されており、本実施形態の車両1は、ディーゼルエンジンが搭載される。
【0029】
図1は車両下方からの下平面視の概略図である。車両1の後向側における車体構造であり、前方側については省略している。車両1には、車体のフレーム3を形成する一対のサイドメンバ7、8が、車幅方向に間隔を空けて車両前後方向に延在して設けられる。また、車体のフレーム3を形成する複数のクロスメンバ(前方クロスメンバ9、スペアタイヤクロスメンバ11)が、左右の一対のサイドメンバ7、8に両端が固定されて車幅方向に延在して設けられる。
【0030】
サイドメンバ7、8、前方クロスメンバ9、及びスペアタイヤクロスメンバ11の配設方向はほぼ水平な方向とされる。また、車両1のキャブや荷台は、これらフレーム3の上に制振マウント部材を介して搭載される。
【0031】
図1に示すように、車両1の荷台の下面側には、主に、尿素水タンク5、スペアタイヤ13、ガードバー15が設けられる。
【0032】
スペアタイヤ13は、後輪17の車軸19よりも後方に配置されたスペアタイヤクロスメンバ11に設けられた不図示のスペアタイヤキャリアによって着脱可能にスペアタイヤクロスメンバ11の下面に固定される。スペアタイヤキャリアは、チェーンの巻き上げ、巻き下しによりスペアタイヤ13を昇降させるようになっている。
【0033】
また、
図1のようにスペアタイヤ13は、後輪17の車軸19及び差動装置(ディファレンシャル装置)23の後方で、尿素水タンク5の前方に位置する。また、後輪17の車軸19の前方には前方クロスメンバ9が配置され、その前方クロスメンバ9の前方には、差動装置23に接続されるプロペラシャフト25が配置され、プロペラシャフト25の右側には、排気管27に設けられるマフラー29が配置される。さらに、プロペラシャフト25の左側には、車両1の駆動源のディーゼルエンジンへの燃料を貯蔵する燃料タンク31が配置される。
【0034】
ガードバー15は、スペアタイヤ13の後方において左右方向に向かってほぼ水平に延在する部材である。
図1のように下平面視において左右のサイドメンバ7、8の後端より後方に位置されて、さらに尿素水タンク5の後端部分に位置されて、左右のサイドメンバ7、8のそれぞれに対して、左右のブラケット10、12を介して堅固に固定される。また、ガードバー15は、上下方向において尿素水タンク5の下方に設置されタンクプロテクタ14の下端位置より下方に位置される。
【0035】
ガードバー15の主な役割は、車両1が水平路から急坂路の出入りで、尿素水タンク5のタンクプロテクタ14が路面と干渉して損傷することを防ぐことである。すなわち、タンクプロテクタ14が路面に接触する前にガードバー15が路面に接触することで運転者にタンクプロテクタ14及び尿素水タンク5と路面との接触の危険を知らせるとともに、路面との接触からタンクプロテクタ14及び尿素水タンク5を保護する。
【0036】
また、後突時の車両1後方からの衝撃力を吸収して、サイドメンバ7、8に衝撃力が直接入力されるのを防ぐことである。すなわち、後突時の車両1後方からの衝撃力をまずガードバー15によって受けて、その後にブラケット10、12を介してサイドメンバ7、8に伝達する。
【0037】
また、ガードバー15が上下方向においてタンクプロテクタ14の下端位置より下方に位置され、さらに尿素水タンク5の後端部分に位置されるので、尿素水タンク5に対するメンテナンス作業がガードバー15によって邪魔にされずに尿素水タンク5の下方からできるようになる。
【0038】
尿素水タンク5は、尿素水溶液が貯留される中空容器である。
図1に示すように、尿素水タンク5は、下平面視の形状でスペアタイヤ13の後方に車幅方向に延在して設けられ、スペアタイヤ13の形状に沿って湾曲した形状の前面5aと、前面5aの湾曲形状に沿って後方に突出した後面5bとを有している。
【0039】
また、
図1、2に示すように、尿素水タンク5の下部の全周面及び底面は、尿素水タンク5とほぼ同一の下平面視の形状のプロテクタ底壁14aを有し、上方が開口する凹状の容器形状のタンクプロテクタ14の内部に収納される。尿素水タンク5は、タンクプロテクタ14のプロテクタ底壁14aから立設されたスタッドボルト16によってタンクプロテクタ14の内部に固定される。
【0040】
なお、プロテクタ底壁14aには、後述する尿素水ポンプユニット37が貫通できるプロテクタ貫通孔14bが形成されているので、タンクプロテクタ14を取り外すことなく尿素水ポンプ35や尿素水ヒータ61の故障時の対応やメンテナンスが容易にできるようになっている。
【0041】
タンクプロテクタ14の左右両側の端部は、それぞれサイドメンバ7、8に不図示のブラケットを介して固定される。従って、これら不図示のブラケット及びタンクプロテクタ14を介して尿素水タンク5は、サイドメンバ7、8の間に車幅方向に延在して固定される。
【0042】
また、尿素水タンク5の上面の車幅方向のほぼ中央部は、車両前後方向に沿って凹部33が形成されて、スペアタイヤクロスメンバ11に設けられた不図示のスペアタイヤキャリアを操作するための棒状の操作工具を車両後部から差し込めるようになっている。
【0043】
次に、
図2~7を参照して、尿素水タンク5内の尿素水ポンプ35及びその周りの構造について説明する。
図2は、
図1のA-A視方向の概略断面図であり、
図3は、尿素水ポンプ35の周囲を尿素水タンク5の内部の上方から見た上平面視図である。また、
図4は、尿素水タンク5内の尿素水ポンプ35の周囲を、尿素水タンク5をタンク長手方向に沿って一部破断したときの斜視図であり、
図5は、尿素水タンク5をタンク短手方向に沿って一部破断したときの斜視図であり、
図6は、尿素水タンク5をタンク短手方向に沿って一部破断したときの側面視図である。また、
図7は、尿素水ポンプユニット37の概略斜視図である。
【0044】
本発明の一実施形態に係る尿素水タンク5は、
図2~4に示すように、尿素水タンク5の最も低い位置の第一底壁(底壁)39に該第一底壁39を貫通して設置され、また、尿素水タンク5の底部に設けられる流入口41と該流入口41から吸込んだ尿素水を尿素水タンク5の下方に排出する流出口43とを有する尿素水ポンプ35と、尿素水ポンプ35を囲うように湾曲して周方向に一部分の範囲だけに設けられ第一底壁39から立設される液溜壁45と、を備え、液溜壁45の高さが、周方向の一端部47から他端部49に向かって変化するように形成される。
【0045】
すなわち、
図2に示すように、尿素水タンク5の最も低い位置の第一底壁39には貫通孔40が形成され、尿素水ポンプ35は、第一底壁39を下方から上方に向かって貫通孔40を貫通して設置される。また、尿素水ポンプ35は、尿素水タンク5の第一底壁39の近くに設けられて尿素水が流入される流入口41と、該流入口41から吸込んだ尿素水を尿素水タンク5の下部から排出する流出口43とを有している。
【0046】
図2~4に示すように、液溜壁45は、尿素水ポンプ35を囲うように湾曲形状を有しており、周方向に一部の範囲だけに設けられて、第一底壁39から立設されている。さらに、その液溜壁45の第一底壁39からの高さは、一端部47から他端部49に向かって連続的に変化して、液溜壁45の上端面45aは側面視において傾斜している。なお、液溜壁45の形状はこれに限らず、尿素水ポンプ35を囲うように、周方向全周に設けてもよい。
【0047】
以上の一実施形態によれば、尿素水ポンプ35を囲うように湾曲して周方向に設けられ第一底壁39から立設される液溜壁45の高さが、周方向において連続的に変化するので、尿素水が尿素水ポンプ35によって尿素水タンク5の下方に吸引されて尿素水面が低下するに伴って、液溜壁45の上端面45aが水面又は貯留水内部を横切るため水面又は貯留水内部の静止状態が乱される。さらに、液溜壁が湾曲されているため、液溜壁45の内側に液溜壁45の湾曲に沿う流動が生じやすく、尿素水が凍結する恐れがある寒冷地(尿素水が約-11℃以下になるような環境)であっても水面又は貯留水内部の流動によって凍結しにくくできる。
【0048】
また、液溜壁45の高さが、周方向の一端部47から他端部49に向かって連続的に変化し、さらに液溜壁45が周方向に一部だけ囲うように立設されるので、車両の動きに伴って種々の方向に尿素水タンク5が傾斜したときに、液溜壁45を越えてまたは液溜壁45が設置されていない開放領域から液溜壁45の内側に尿素水が導かれて、尿素水が液溜壁45の内側に流れ込みやすく、また液溜壁45は湾曲しているので内側に保持されやすい。従って、流動性による凍結防止とともに尿素水ポンプ35を介しての尿素水の排出が安定的に行われる。
【0049】
幾つかの実施形態では、
図2、5、6に示すように、尿素水ポンプ35が設置される尿素水タンク5の最も低い位置の第一底壁39は、第一底壁39より高い周囲の第二底壁51よりも窪んだ円形状の凹部底壁53によって形成される。また、液溜壁45は、凹部底壁53を形成する凹部の周縁に沿って立設される。すなわち、凹部を形成する側壁面53aを連続して立ち上げるように液溜壁45が形成される。
【0050】
このような構成によれば、凹部底壁53は、第二底壁51より一段低くなっているため、尿素水タンク5内に貯留される尿素水が少なくなっても尿素水を凹部底壁53の部分に確保できるので、尿素水ポンプ35へ確実に供給できる。
【0051】
また、液溜壁45が、凹部底壁53を形成する凹部の周縁に沿って立設されるので、液溜壁45の内側に尿素水が確実に保持され、それによって、尿素水タンク5内に貯留される尿素水が少なくなっても尿素水を尿素水ポンプ35へ確実に供給できる。
【0052】
幾つかの実施形態では、
図3~6に示すように、液溜壁45は、尿素水ポンプ35を囲って円弧形状に半周部分に設置される。例えば、この円弧形状は、尿素水ポンプ35と尿素水ヒータ61とを設置する円形の基盤63(後述)の中心に対して180±30゜の範囲に渡って設置される(
図3)。
【0053】
このような構成によれば、液溜壁45が円弧形状に形成されるので、液溜壁45は尿素水を内側に保持するのに適している。また、尿素水ポンプ35の吸引力に伴い円弧形状に沿う流動を生じさせやすい。
【0054】
また、液溜壁45の高さは、周方向の一端部47が最も低く形成されており、他端部49に向かって、一度増加した後減少するように連続的に変化し、一端部47では尿素水タンク5の側壁55との間に空間Sを存して設けられ、他端部49は尿素水タンク5の側壁55と接続して設けられる。液溜壁45の高さは、例えば一端部47と他端部49との中間部59における高さが最も高く形成されるようにしてもよい。
【0055】
このような構成によれば、液溜壁の高さが一端部最も低く形成されているので、一端部側から液溜壁の内側に尿素水を導きやすくなり、液溜壁の内側面に沿って旋回流が形成されやすい。また、液溜壁の高さが一端部47から他端部に向かって増加した後、減少するように形成すれば、両側の一端部47と他端部49の側から液溜壁45の内側に尿素水を導きやすく、内側に尿素水を溜めることができる。さらに、一端部47は尿素水タンク5の側壁55との間に空間Sを存して設けられ、他端部49は尿素水タンク5の側壁55と接続して設けられるので、液溜壁45の内側に導かれる尿素水は一端部47の側から多く流れ込むため、液溜壁45の外側面に沿って流れて一端部47と側壁55との間の空間Sから液溜壁45の内側に流れ込み、尿素水に旋回流が形成されやすい(
図3の矢印F1)。
【0056】
幾つかの実施形態では、
図2、3に示すように、尿素水タンクの低壁39(53)に、尿素水ポンプ35に隣接して尿素水を加熱する尿素水ヒータ(尿素水加熱手段)61が設置される。尿素水ヒータ61は通電されることで発熱して尿素水を加熱する。
【0057】
このような構成によれば、尿素水ポンプ35の周囲の尿素水を加熱する尿素水ヒータ61が設けられるので、尿素水が凍結する恐れがある寒冷地であっても尿素水ポンプ35に吸引される尿素水の凍結を防止して尿素水ポンプ35への尿素水の供給を確保できる。
【0058】
なお、
図2に示すように、尿素水ポンプ35は、後述する尿素水ポンプユニット37に設けられ、尿素水タンク5の車幅方向の右側壁に近接して設けられている。このような配置によれば、尿素水ポンプ35の前方には、排気管27の排出口24が配置されることで、排気熱によって尿素水タンク5が温められ、尿素水ポンプ35の周囲の尿素水が加熱されるので、排気熱と尿素水ヒータ(尿素水加熱手段)61とによって、尿素水ポンプ35の周囲の尿素水の加熱が効果的に行われる。
【0059】
従って、車両1が、尿素水が凍結するような寒冷地での使用でない場合には、尿素水加熱手段61としての役割を果たす排気管27の排出口24からの排気熱によって尿素水ポンプ35の周囲の尿素水が加熱されるので、尿素水ヒータ(尿素水加熱手段)61を敢えて設置しなくてもよい場合がある。
【0060】
尿素水ヒータ61が尿素水タンク5の第一底壁39(53)に尿素水ポンプ35に隣接して設置されるので、尿素水ヒータ61は貯留される尿素水の量が少なくなっても、尿素水に浸されるため凍結を防止するとともに、尿素水ヒータ61の空焚きも防止される。
【0061】
また、尿素水ポンプ35に吸引される直前の尿素水を加熱できるので、尿素水が凍結して供給困難になることを防止できる。また、凍結後の解凍に際しても、尿素水ヒータ61が尿素水ポンプ35に隣接して設置されるので、尿素水タンク5の全体が解凍する前に、早期に尿素水を確保して尿素水ポンプ35に供給できる。また、尿素水タンク5の下部から解凍することで凍結している尿素水が順次尿素水ヒータ61方向へと移動し解凍されるため全体の解凍を早期に行える。
【0062】
また、
図2に示すように、尿素水ポンプ35と尿素水ヒータ61とは、円形の基盤63上に隣接して設置されて、一体として交換可能な構成要素としての尿素水ポンプユニット37を形成している。
【0063】
従って、尿素水ポンプユニット37の基盤63には、尿素水を尿素水タンク5から下方に排出する流出口43が形成され、尿素水が流通する配管(例えば、排気通路上に設けられ尿素水インジェクタへ尿素水を供給する配管)が流出口43に接続される。また、尿素水ポンプユニット37の基盤63には、尿素水ヒータ61を駆動するための電気配線が接続される電気コネクタ65が設けられ、また、尿素水タンク5に設置され各種センサの検出信号を尿素水タンク5の外部の制御装置に伝達する信号線等が接続される信号コネクタ67が設けられる。
【0064】
尿素水ポンプ35や尿素水ヒータ61が、尿素水ポンプユニット37として尿素水タンク5の第一底壁39(53)の貫通孔40を下方から貫通して取り付け、取り外し可能であるので、尿素水ポンプ35や尿素水ヒータ61の故障時の対応やメンテナンスが容易である。
【0065】
なお、タンクプロテクタ14のプロテクタ底壁14aには、尿素水ポンプユニット37を貫通できるプロテクタ貫通孔14bが形成されているので、タンクプロテクタ14を取り外すことなく尿素水ポンプ35や尿素水ヒータ61の故障時の対応やメンテナンスが容易に行える。
【0066】
さらに、
図1に示すように、尿素水ポンプユニット37の下方には、車体後部に取り付けられるガードバー15が位置されないので、尿素水ポンプユニット37の取り付け、取り外し作業がガードバー15によって妨げられることがなく容易に行える。
【0067】
幾つかの実施形態では、
図3に示すように、尿素水タンク5の内部の上平面視において、尿素水ポンプ35は尿素水ヒータ61と液溜壁45との間に設置される。
【0068】
このような構成によれば、尿素水ヒータ61によって加熱されて尿素水ポンプ35によって吸引される尿素水の流れを、液溜壁45によって受け止めることができるので、加熱された尿素水を効率よく液溜壁45の内側に保持できる。
【0069】
また、尿素水ポンプは側壁55側に偏位して配置されており、液溜壁45が立設されない尿素水ポンプの周囲の領域に対向して尿素水タンク5の側壁55が設けられ、尿素水タンク5の内部の上平面視において、尿素水ヒータ61は側壁55と尿素水ポンプ35との間に設置される。
【0070】
このような構成によれば、尿素水ポンプ35の吸引によって、液溜壁45の一端部47と側壁55との間の空間Sから液溜壁45の内側に流れ込んだ尿素水は、液溜壁45が立設されない領域と側壁55とによって、尿素水ヒータ61の方へ導かれる。
図3の矢印F2方向の流れが生じることによって尿素水は尿素水ヒータ61に効率よく導かれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、尿素水が凍結する恐れがある寒冷地であっても、尿素水を凍結し難くし液溜壁の内側に尿素水を保持して、尿素水を安定的に排出できるので、車両の尿素水タンクへの利用に適する。
【符号の説明】
【0072】
1 車両
5 尿素水タンク
7、8 サイドメンバ
9 前方クロスメンバ
10、12 ブラケット
11 スペアタイヤクロスメンバ
13 スペアタイヤ
14 タンクプロテクタ
14a プロテクタ底面
14b プロテクタ貫通孔
15 ガードバー
17 後輪
19 車軸
23 差動装置
24 排出口
27 排気管
29 マフラー
35 尿素水ポンプ
37 尿素水ポンプユニット
39 第一底壁(底壁)
40 貫通孔
41 流入口
43 流出口
45 液溜壁
47 液溜壁の一端部(一端部)
49 液溜壁の他端部(他端部)
51 第二底壁
53 凹部底壁
55 尿素水タンクの側壁(側壁)
59 液溜壁の中間部
61 尿素水ヒータ(尿素水加熱手段)
F1、F2 尿素水の流れ方向
S 空間