(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】電子写真感光体、画像形成装置、及び電子写真感光体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 5/06 20060101AFI20230711BHJP
G03G 5/04 20060101ALI20230711BHJP
G03G 5/02 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G03G5/06 312
G03G5/04
G03G5/06 314A
G03G5/06 319
G03G5/02 101
(21)【出願番号】P 2019106994
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山本 駿世
(72)【発明者】
【氏名】清水 智文
(72)【発明者】
【氏名】江連 和昭
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020675(JP,A)
【文献】特開2019-020674(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017336(WO,A1)
【文献】特開2018-189941(JP,A)
【文献】特開2000-226354(JP,A)
【文献】特開2003-089681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/04-5/147
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、感光層とを備え、
前記感光層は、単層であり、
前記感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを含有し、
前記正孔輸送剤は、第1正孔輸送剤と第2正孔輸送剤とを含み、
前記第1正孔輸送剤は、化学式(HTM-1)で表される化合物であり、且つ前記第2正孔輸送剤は、化学式(HTM-A)で表される化合物であるか、
前記第1正孔輸送剤は、化学式(HTM-2)で表される化合物であり、且つ前記第2正孔輸送剤は、化学式(HTM-B)で表される化合物であるか、或いは、
前記第1正孔輸送剤は、化学式(HTM-3)で表される化合物であり、且つ前記第2正孔輸送剤は、化学式(HTM-C)で表される化合物であり、
前記電子輸送剤は、
化学式(E-1)で表される化合物を含み、
前記バインダー樹脂は、化学式(10-2)、(11-X1)、及び(11-X3)で表される繰り返し単位を含むポリアリレート樹脂を含む、電子写真感光体。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記感光層は、最表面層として備えられる、
請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
像担持体と、
前記像担持体の表面を正極性に帯電する帯電装置と、
帯電された前記像担持体の前記表面を露光して、前記像担持体の前記表面に静電潜像を形成する露光装置と、
前記静電潜像をトナー像として現像する現像装置と、
前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する転写装置と
を備え、
前記像担持体が、
請求項1又は2に記載の電子写真感光体である、画像形成装置。
【請求項4】
前記被転写体は、記録媒体であり、
前記像担持体の前記表面に前記記録媒体が接触しながら、前記転写装置が前記トナー像を前記像担持体から前記記録媒体へ転写する、
請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記像担持体の前記表面は、前記現像装置と接触している、
請求項3又は4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記帯電装置は、帯電ローラーである、
請求項3~5の何れか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
導電性基体と、感光層とを備え、
前記感光層は、単層であり、
前記感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを含有し、
前記正孔輸送剤は、第1正孔輸送剤と第2正孔輸送剤とを含み、前記第1正孔輸送剤は一般式(1)で表される化合物であり、前記第2正孔輸送剤は一般式(2)で表される化合物であり、
前記電子輸送剤は、一般式(10)、(11)、又は(12)で表される化合物を含む電子写真感光体の製造方法であって、
前記正孔輸送剤を製造する正孔輸送剤製造工程と、
前記電荷発生剤と前記正孔輸送剤と前記電子輸送剤と前記バインダー樹脂と溶剤とを含有する塗布液を前記導電性基体上に塗布し、前記塗布液に含有される前記溶剤の少なくとも一部を除去して前記感光層を形成する感光層形成工程と
を含み、
前記正孔輸送剤製造工程は、第1攪拌工程と、第2攪拌工程とを含み、
前記第1攪拌工程において、一般式(A)で表される化合物と一般式(B)で表される化合物とを含有する混合液を第1攪拌し、
前記第2攪拌工程において、前記混合液に一般式(C)で表される化合物を更に加えて、前記混合液を第2攪拌し、
前記第1攪拌工程の後に前記混合液を精製することなく、前記第2攪拌工程が実施され、
前記第1攪拌工程及び前記第2攪拌工程を経て、前記第1正孔輸送剤と前記第2正孔輸送剤とを含む前記正孔輸送剤が得られる
、電子写真感光体の製造方法。
【化4】
(前記一般式(1)中、R
1A
、R
2A
、R
3A
、R
4A
、R
5A
、R
6A
、R
7A
、R
8A
、R
9A
、及びR
10A
は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を表し、
前記一般式(1)中のR
1B
、及び前記一般式(2)中のR
1C
は、前記一般式(1)中のR
1A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
2B
、及び前記一般式(2)中のR
2C
は、前記一般式(1)中のR
2A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
3B
、及び前記一般式(2)中のR
3C
は、前記一般式(1)中のR
3A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
4B
、及び前記一般式(2)中のR
4C
は、前記一般式(1)中のR
4A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
5B
、及び前記一般式(2)中のR
5C
は、前記一般式(1)中のR
5A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
6B
、並びに前記一般式(2)中のR
6C
及びR
6D
は、前記一般式(1)中のR
6A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
7B
、並びに前記一般式(2)中のR
7C
及びR
7D
は、前記一般式(1)中のR
7A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
8B
、並びに前記一般式(2)中のR
8C
及びR
8D
は、前記一般式(1)中のR
8A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
9B
、並びに前記一般式(2)中のR
9C
及びR
9D
は、前記一般式(1)中のR
9A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のR
10B
、並びに前記一般式(2)中のR
10C
及びR
10D
は、前記一般式(1)中のR
10A
と同一の基を表し、
前記一般式(1)中のYは、化学式(Y2)で表される2価の基を表す。)
【化5】
【化6】
(前記一般式(10)中、Q
5A
及びQ
5B
は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、Q
6A
及びQ
6B
は、各々独立に、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、m
1
及びm
2
は、各々独立に、0以上4以下の整数を表し、
前記一般式(11)中、Q
7
及びQ
8
は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、Q
9
は、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、m
3
は、0以上4以下の整数を表し、
前記一般式(12)中、Q
10
及びQ
11
は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は水素原子を表し、Q
12
は、ハロゲン原子又は水素原子を表す。)
【化7】
(前記一般式(A)中のR
1、R
2、R
3、R
4、及びR
5は、各々、前記一般式(1)中のR
1A、R
2A、R
3A、R
4A、及びR
5Aと同一の基を表し、
前記一般式(B)中のR
6、R
7、R
8、R
9、及びR
10は、各々、前記一般式(1)中のR
6A、R
7A、R
8A、R
9A、及びR
10Aと同一の基を表し、前記一般式(B)中のZ
1は、ハロゲン原子を表し、
前記一般式(C)中のYは、前記一般式(1)中のYと同一の基を表し、前記一般式(C)中のZ
2及びZ
3は、ハロゲン原子を表す。)
【請求項8】
前記一般式(1)で表される化合物は、化学式(HTM-1)で表される化合物であり、且つ前記一般式(2)で表される化合物は、化学式(HTM-A)で表される化合物であるか、
前記一般式(1)で表される化合物は、化学式(HTM-2)で表される化合物であり、且つ前記一般式(2)で表される化合物は、化学式(HTM-B)で表される化合物であるか、
前記一般式(1)で表される化合物は、化学式(HTM-3)で表される化合物であり、且つ前記一般式(2)で表される化合物は、化学式(HTM-C)で表される化合物であるか、或いは、
前記一般式(1)で表される化合物は、化学式(HTM-4)で表される化合物であり、且つ前記一般式(2)で表される化合物は、化学式(HTM-D)で表される化合物である、請求項7に記載の電子写真感光体の製造方法。
【化8】
【請求項9】
前記一般式(10)で表される化合物は、化学式(E-1)で表される化合物であり、
前記一般式(11)で表される化合物は、化学式(E-2)で表される化合物であり、
前記一般式(12)で表される化合物は、化学式(E-3)で表される化合物である、請求項7又は8に記載の電子写真感光体の製造方法。
【化9】
【請求項10】
前記バインダー樹脂は、ポリアリレート樹脂を含み、
前記ポリアリレート樹脂は、少なくとも1種の一般式(10)で表される繰り返し単位と、少なくとも1種の一般式(11)で表される繰り返し単位とを含む、請求項7~9の何れか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【化10】
(前記一般式(10)中、R
11
及びR
12
は、各々独立に、水素原子又はメチル基を表し、Wは、一般式(W1)、一般式(W2)、又は化学式(W3)で表される二価の基を表し、
前記一般式(11)中、Xは、化学式(X1)、化学式(X2)、又は化学式(X3)で表される二価の基を表す。)
【化11】
(前記一般式(W1)中、R
13
は、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、R
14
は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、
前記一般式(W2)中、tは、1以上3以下の整数を表す。)
【化12】
【請求項11】
前記ポリアリレート樹脂は、化学式(10-2)、(11-X1)、及び(11-X3)で表される繰り返し単位を含むポリアリレート樹脂である、請求項10に記載の電子写真感光体の製造方法。
【化13】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、画像形成装置、及び電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、像担持体として電子写真方式の画像形成装置(例えば、プリンター又は複合機)において用いられる。電子写真感光体は、感光層を備える。電子写真感光体としては、例えば、単層型電子写真感光体及び積層型電子写真感光体が用いられる。単層型電子写真感光体は、電荷発生の機能と、電荷輸送の機能とを有する単層の感光層を備える。積層型電子写真感光体は、電荷発生の機能を有する電荷発生層と、電荷輸送の機能を有する電荷輸送層とを含む感光層を備える。
【0003】
特許文献1には、特定構造のジアミン化合物を含有する電荷移動層を備える像形成要素が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討により、特許文献1に記載の像形成要素は、耐クラック性及び結晶化抑制の点で不十分であることが判明した。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐クラック性に優れ、結晶化を抑制できる電子写真感光体を提供することである。また、本発明の別の目的は、このような電子写真感光体を備えることで、耐久性に優れ良好な画像を形成できる画像形成装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、正孔輸送剤の製造工程の簡素化を図りつつ、耐クラック性に優れ結晶化を抑制できる電子写真感光体を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子写真感光体は、導電性基体と、感光層とを備える。前記感光層は、単層である。前記感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを含有する。前記正孔輸送剤は、第1正孔輸送剤と第2正孔輸送剤とを含む。前記第1正孔輸送剤は一般式(1)で表される化合物である。前記第2正孔輸送剤は一般式(2)で表される化合物である。前記電子輸送剤は、一般式(10)、(11)、又は(12)で表される化合物を含む。
【0008】
【0009】
前記一般式(1)中、R1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aは、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。前記一般式(1)中のR1B、及び前記一般式(2)中のR1Cは、前記一般式(1)中のR1Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR2B、及び前記一般式(2)中のR2Cは、前記一般式(1)中のR2Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR3B、及び前記一般式(2)中のR3Cは、前記一般式(1)中のR3Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR4B、及び前記一般式(2)中のR4Cは、前記一般式(1)中のR4Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR5B、及び前記一般式(2)中のR5Cは、前記一般式(1)中のR5Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR6B、並びに前記一般式(2)中のR6C及びR6Dは、前記一般式(1)中のR6Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR7B、並びに前記一般式(2)中のR7C及びR7Dは、前記一般式(1)中のR7Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR8B、並びに前記一般式(2)中のR8C及びR8Dは、前記一般式(1)中のR8Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR9B、並びに前記一般式(2)中のR9C及びR9Dは、前記一般式(1)中のR9Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のR10B、並びに前記一般式(2)中のR10C及びR10Dは、前記一般式(1)中のR10Aと同一の基を表す。前記一般式(1)中のYは、化学式(Y2)で表される2価の基を表す。
【0010】
【0011】
【0012】
前記一般式(10)中、Q5A及びQ5Bは、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。Q6A及びQ6Bは、各々独立に、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。m1及びm2は、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。前記一般式(11)中、Q7及びQ8は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。Q9は、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、m3は、0以上4以下の整数を表す。前記一般式(12)中、Q10及びQ11は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は水素原子を表す。Q12は、ハロゲン原子又は水素原子を表す。
【0013】
本発明の画像形成装置は、像担持体と、帯電装置と、露光装置と、現像装置と、転写装置とを備える。前記帯電装置は、前記像担持体の表面を正極性に帯電する。前記露光装置は、帯電された前記像担持体の前記表面を露光して、前記像担持体の前記表面に静電潜像を形成する。前記現像装置は、前記静電潜像をトナー像として現像する。前記転写装置は、前記トナー像を前記像担持体から被転写体へ転写する。前記像担持体が、上記電子写真感光体である。
【0014】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、正孔輸送剤製造工程と、感光層形成工程とを含む。前記正孔輸送剤製造工程において、前記正孔輸送剤を製造する。前記感光層形成工程において、前記電荷発生剤と前記正孔輸送剤と前記電子輸送剤と前記バインダー樹脂と溶剤とを含有する塗布液を前記導電性基体上に塗布し、前記塗布液に含有される前記溶剤の少なくとも一部を除去して前記感光層を形成する。前記正孔輸送剤製造工程は、第1攪拌工程と、第2攪拌工程とを含む。前記第1攪拌工程において、一般式(A)で表される化合物と一般式(B)で表される化合物とを含有する混合液を第1攪拌する。前記第2攪拌工程において、前記混合液に一般式(C)で表される化合物を更に加えて、前記混合液を第2攪拌する。前記第1攪拌工程の後に前記混合液を精製することなく、前記第2攪拌工程が実施される。前記第1攪拌工程及び前記第2攪拌工程を経て、前記第1正孔輸送剤と前記第2正孔輸送剤とを含む前記正孔輸送剤が得られる。
【0015】
【0016】
前記一般式(A)中のR1、R2、R3、R4、及びR5は、各々、前記一般式(1)中のR1A、R2A、R3A、R4A、及びR5Aと同一の基を表す。前記一般式(B)中のR6、R7、R8、R9、及びR10は、各々、前記一般式(1)中のR6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aと同一の基を表す。前記一般式(B)中のZ1は、ハロゲン原子を表す。前記一般式(C)中のYは、前記一般式(1)中のYと同一の基を表す。前記一般式(C)中のZ2及びZ3は、ハロゲン原子を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電子写真感光体は、耐クラック性に優れ、結晶化を抑制できる。また、本発明の画像形成装置は、耐クラック性に優れ結晶化を抑制できる電子写真感光体を備えるため、耐久性に優れ良好な画像を形成できる。また、本発明に係る感光体の製造方法によれば、正孔輸送剤の製造工程の簡素化を図りつつ、耐クラック性に優れ結晶化を抑制できる感光体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る電子写真感光体の部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電子写真感光体の部分断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電子写真感光体の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0020】
まず、本明細書で用いられる置換基について説明する。ハロゲン原子(ハロゲン基)としては、例えば、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)、及びヨウ素原子(ヨード基)が挙げられる。
【0021】
炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数2以上4以下のアルキル基は、各々、特記なき限り、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上8以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基及び3-エチルブチル基、直鎖状及び分枝鎖状のヘプチル基、並びに直鎖状及び分枝鎖状のオクチル基が挙げられる。炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数2以上4以下のアルキル基の例は、各々、炭素原子数1以上8以下のアルキル基の例として述べた基のうち、該当する炭素原子数を有する基である。
【0022】
炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基は、各々、特記なき限り、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペントキシ基、1-メチルブトキシ基、2-メチルブトキシ基、3-メチルブトキシ基、1-エチルプロポキシ基、2-エチルプロポキシ基、1,1-ジメチルプロポキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、1,2-ジメチルプロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、1,1,2-トリメチルプロポキシ基、1,2,2-トリメチルプロポキシ基、1-エチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、3-エチルブトキシ基、直鎖状及び分枝鎖状のヘプチルオキシ基、並びに直鎖状及び分枝鎖状のオクチルオキシ基が挙げられる。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、及び炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基の例は、各々、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基の例として述べた基のうち、該当する炭素原子数を有する基である。
【0023】
炭素原子数6以上14以下のアリール基、及び炭素原子数6以上10以下のアリール基は、各々、特記なき限り、非置換である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インダセニル基、ビフェニレニル基、アセナフチレニル基、アントリル基、及びフェナントリル基が挙げられる。炭素原子数6以上10以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。以上、本明細書で用いられる置換基について説明した。
【0024】
<電子写真感光体>
本実施形態は、電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)に関する。以下、
図1~
図3を参照して、本実施形態の感光体1について説明する。
図1~
図3は、各々、感光体1の部分断面図を示す。
【0025】
図1に示すように、感光体1は、例えば、導電性基体2と、感光層3とを備える。感光層3は、単層である。感光体1は、単層の感光層3を備える単層型電子写真感光体である。
【0026】
図2に示すように、感光体1は、導電性基体2と、感光層3と、中間層4(下引き層)とを備えてもよい。中間層4は、導電性基体2と感光層3との間に設けられる。
図1に示すように、感光層3は導電性基体2上に直接備えられてもよい。或いは、
図2に示すように、感光層3は導電性基体2上に中間層4を介して備えられてもよい。
【0027】
図3に示すように、感光体1は、導電性基体2と、感光層3と、保護層5とを備えてもよい。保護層5は、感光層3上に設けられる。
図1及び
図2に示すように、感光層3が、感光体1の最表面層として備えられることが好ましい。後述する所定の正孔輸送剤と所定の電子輸送剤とを含有する感光層3が最表面層として備えられることで、メンテナンス時に感光体1の表面に洗浄剤が残留した場合であっても、感光層3にクラックが発生し難い。なお、
図3に示すように、保護層5が、感光体1の最表面層として備えられてもよい。
【0028】
感光層3は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを少なくとも含有する。感光層3は、必要に応じて、添加剤を更に含有してもよい。
【0029】
感光層3の厚さは、特に限定されないが、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。以上、
図1~
図3を参照して、感光体1について説明した。
【0030】
(電荷発生剤)
電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン-テルル、セレン-ヒ素、硫化カドミウム、及びアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、及びキナクリドン系顔料が挙げられる。感光層は、電荷発生剤の1種のみを含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0031】
フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン構造を有する顔料である。フタロシアニン系顔料としては、例えば、無金属フタロシアニン、及び金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、及びクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。無金属フタロシアニンは、化学式(CGM-1)で表される。チタニルフタロシアニンは、化学式(CGM-2)で表される。
【0032】
【0033】
フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型、及びY型結晶(以下、それぞれをα型、β型、及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。
【0034】
例えば、デジタル光学式の画像形成装置(例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。700nm以上の波長領域で高い量子収率を有することから、電荷発生剤としては、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましく、チタニルフタロシアニンが更に好ましく、Y型チタニルフタロシアニンが特に好ましい。
【0035】
Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、26.2℃にピークを有していない。
【0036】
CuKα特性X線回折スペクトルは、例えば、次の方法によって測定できる。まず、試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。得られたX線回折スペクトルから主ピークを決定し、主ピークのブラッグ角を読み取る。
【0037】
電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0038】
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤は、第1正孔輸送剤と、第2正孔輸送剤とを含む。第1正孔輸送剤は、一般式(1)で表される化合物である。第2正孔輸送剤は、一般式(2)で表される化合物である。以下、一般式(1)及び(2)で表される化合物を、各々、正孔輸送剤(1)及び(2)と記載することがある。
【0039】
【0040】
一般式(1)中、R1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aは、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基を表す。一般式(1)中のR1B、及び一般式(2)中のR1Cは、一般式(1)中のR1Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR2B、及び一般式(2)中のR2Cは、一般式(1)中のR2Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR3B、及び一般式(2)中のR3Cは、一般式(1)中のR3Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR4B、及び一般式(2)中のR4Cは、一般式(1)中のR4Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR5B、及び一般式(2)中のR5Cは、一般式(1)中のR5Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR6B、並びに一般式(2)中のR6C及びR6Dは、一般式(1)中のR6Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR7B、並びに一般式(2)中のR7C及びR7Dは、一般式(1)中のR7Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR8B、並びに一般式(2)中のR8C及びR8Dは、一般式(1)中のR8Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR9B、並びに一般式(2)中のR9C及びR9Dは、一般式(1)中のR9Aと同一の基を表す。一般式(1)中のR10B、並びに一般式(2)中のR10C及びR10Dは、一般式(1)中のR10Aと同一の基を表す。一般式(1)中のYは、化学式(Y2)で表される2価の基を表す。
【0041】
【0042】
感光層が正孔輸送剤(1)及び(2)の両方を含有することにより、感光体の耐クラック性を向上でき、感光体の結晶化を抑制できる。感光体の耐クラック性は、メンテナンス時に感光体1の表面に洗浄剤が残留した場合であっても、感光層にクラックが発生することを抑制できる特性である。ここで、正孔輸送剤(2)は、最終生成物である正孔輸送剤(1)を合成する際に生じる副生成物である。通常、精製により副生成物を除去することで、最終生成物が得られる。しかし、本発明者らは、精製により副生成物である正孔輸送剤(2)を完全に除去することなく、正孔輸送剤(2)を敢えて正孔輸送剤(1)と混合したままとすることにより、感光体の耐クラック性が向上することを見出した。また、本発明者らは、正孔輸送剤(2)が正孔輸送剤(1)の凝集を抑制して、感光体の結晶化が抑制されることも見出した。更に、本実施形態の感光体は、感度特性に優れる正孔輸送剤(1)を含有する感光層を備える。このため、感光体の感度特性を損なうことなく、感光体の耐クラック性を向上でき、感光体の結晶化を抑制できる。
【0043】
一般式(1)中のR1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aが表わす炭素原子数1以上8以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。
【0044】
一般式(1)中のR1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aが表わす炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基としては、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基が更に好ましい。
【0045】
一般式(1)中のR1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aが表わす炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、炭素原子数6以上10以下のアリール基が好ましい。
【0046】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、一般式(1)中、R1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aのうちの少なくとも2つは、水素原子以外の基を表し、R1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aのうちの残りは、水素原子を表すことが好ましい。また、この水素原子以外の基の炭素原子数の合計は、3以上であることが好ましい。なお、一般式(1)中、R1A、R2A、R3A、R4A、R5A、R6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aが表わす水素原子以外の基は、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基である。
【0047】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、一般式(1)中、R3Aは、炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表すことが好ましい。
【0048】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、一般式(1)中、R1A、R3A、及びR5Aのうちの1つ又は2つは、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表し、R1A、R3A、及びR5Aのうちの残りは、水素原子を表し、R2A、及びR4Aは、各々、水素原子を表すことが好ましい。
【0049】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、一般式(1)中、R8Aは、水素原子、又は炭素原子数1以上8以下のアルキル基を表し、R6A、R7A、R9A、及びR10Aは、水素原子を表すことが好ましい。
【0050】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、正孔輸送剤(1)は、化学式(HTM-1)で表される化合物であり、且つ正孔輸送剤(2)は、化学式(HTM-A)で表される化合物であることが好ましい。同じ理由から、正孔輸送剤(1)は、化学式(HTM-2)で表される化合物であり、且つ正孔輸送剤(2)は、化学式(HTM-B)で表される化合物であることが好ましい。同じ理由から、正孔輸送剤(1)は、化学式(HTM-3)で表される化合物であり、且つ正孔輸送剤(2)は、化学式(HTM-C)で表される化合物であることが好ましい。同じ理由から、正孔輸送剤(1)は、化学式(HTM-4)で表される化合物であり、且つ正孔輸送剤(2)は、化学式(HTM-D)で表される化合物であることが好ましい。以下、化学式(HTM-1)~(HTM-4)で表される化合物を、各々、正孔輸送剤(HTM-1)~(HTM-4)と記載することがある。また、化学式(HTM-A)~(HTM-D)で表される化合物を、各々、正孔輸送剤(HTM-A)~(HTM-D)と記載することがある。
【0051】
【0052】
正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する、正孔輸送剤(2)の含有率は、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下であることが更に好ましい。正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率が1.0質量%以上であると、感光体の耐クラック性を更に向上でき、感光体の結晶化を更に抑制できる。正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率が、30.0質量%以下であると、感光体の感度特性を向上できる。正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する、正孔輸送剤(2)の含有率の調整方法については、後述する<感光体の製造方法>で説明する。
【0053】
正孔輸送剤(1)及び(2)の合計含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、50質量部以上90質量部以下であることがより好ましく、60質量部以上80質量部以下であることが更に好ましい。
【0054】
感光層は、正孔輸送剤として、正孔輸送剤(1)及び(2)のみを含有してもよい。或いは、感光層は、正孔輸送剤として、正孔輸送剤(1)及び(2)に加えて、これら以外の正孔輸送剤(以下、その他の正孔輸送剤と記載することがある)を更に含有してもよい。その他の正孔輸送剤としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体、ジアミン誘導体(例えば、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’-テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’-テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’-テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体、及びジ(アミノフェニルエテニル)ベンゼン誘導体)、オキサジアゾール系化合物(例えば、2,5-ジ(4-メチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール)、スチリル系化合物(例えば、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセン)、カルバゾール系化合物(例えば、ポリビニルカルバゾール)、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物(例えば、1-フェニル-3-(p-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン)、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、及びトリアゾール系化合物が挙げられる。
【0055】
(電子輸送剤)
電子輸送剤は、一般式(10)、(11)、又は(12)で表される化合物(以下、それぞれを電子輸送剤(10)、(11)、及び(12)と記載することがある)を含む。感光層が、正孔輸送剤(1)及び(2)の両方とともに、電子輸送剤(10)、(11)、又は(12)を含有することで、感光体の耐クラック性を向上させつつ、感光体の結晶化を特に抑制できる。
【0056】
【0057】
一般式(10)中、Q5A及びQ5Bは、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。Q6A及びQ6Bは、各々独立に、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。m1及びm2は、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。
【0058】
m1が2以上4以下の整数を表すとき、複数のQ6Aは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。m2が2以上4以下の整数を表すとき、複数のQ6Bは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0059】
一般式(10)中、Q5A及びQ5Bは、各々独立に、炭素原子数1以上8以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことがより好ましく、1,1-ジメチルプロピル基を表すことが更に好ましい。m1及びm2は、0を表すことが好ましい。
【0060】
一般式(11)中、Q7及びQ8は、各々独立に、水素原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。Q9は、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、フェニル基、又は炭素原子数1以上8以下のアルコキシ基を表す。m3は、0以上4以下の整数を表す。
【0061】
m3が2以上4以下の整数を表すとき、複数のQ9は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
一般式(11)中、Q7及びQ8は、各々独立に、炭素原子数1以上8以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことがより好ましく、tert-ブチル基を表すことが更に好ましい。m3は、0を表すことが好ましい。
【0063】
一般式(12)中、Q10及びQ11は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基又は水素原子を表す。Q12は、ハロゲン原子又は水素原子を表す。
【0064】
一般式(12)中、Q10及びQ11は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、tert-ブチル基を表すことがより好ましい。Q12は、ハロゲン原子を表すことが好ましく、塩素原子を表すことがより好ましい。
【0065】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するために、電子輸送剤(10)としては、化学式(E-1)で表される化合物が好ましい。同じ理由から、電子輸送剤(11)としては、化学式(E-2)で表される化合物が好ましい。同じ理由から、電子輸送剤(12)としては、化学式(E-3)で表される化合物が好ましい。以下、化学式(E-1)、(E-2)、及び(E-3)で表される化合物を、各々、電子輸送剤(E-1)、(E-2)、及び(E-3)と記載することがある。
【0066】
【0067】
電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上150質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上40質量部以下であることが更に好ましい。
【0068】
感光層は、1種の電子輸送剤のみを含有してもよく、2種以上の電子輸送剤を含有してもよい。感光層は、電子輸送剤(10)、(11)、及び(12)以外の電子輸送剤(以下、その他の電子輸送剤と記載することがある)を更に含有してもよい。その他の電子輸送剤としては、例えば、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7-テトラニトロ-9-フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8-トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、及びジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。
【0069】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、及びメラミン樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ化合物のアクリル酸付加物、及びウレタン化合物のアクリル酸付加物が挙げられる。感光層は、1種のバインダー樹脂のみを含有してもよく、2種以上のバインダー樹脂を含有してもよい。
【0070】
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、20,000以上であることがより好ましく、30,000以上であることが更に好ましく、40,000以上であることが特に好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が10,000以上であると、感光体の耐摩耗性を向上できる。一方、バインダー樹脂の粘度平均分子量は、80,000以下であることが好ましく、70,000以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が80,000以下であると、バインダー樹脂が感光層形成用の溶剤に溶解し易い。
【0071】
バインダー樹脂としては、ポリアリレート樹脂又はポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリアリレート樹脂がより好ましい。以下、ポリアリレート樹脂及びポリカーボネート樹脂について、順に説明する。
【0072】
まず、ポリアリレート樹脂について説明する。感光体の耐クラック性を特に向上させ、結晶化を抑制するために、ポリアリレート樹脂の好適な例としては、少なくとも1種の一般式(10)で表される繰り返し単位と、少なくとも1種の一般式(11)で表される繰り返し単位とを含むポリアリレート樹脂が挙げられる。以下、少なくとも1種の一般式(10)で表される繰り返し単位と、少なくとも1種の一般式(11)で表される繰り返し単位とを含むポリアリレート樹脂を、ポリアリレート樹脂(PA)と記載することがある。また、一般式(10)及び(11)で表される繰り返し単位を、各々、繰り返し単位(10)及び(11)と記載することがある。
【0073】
【0074】
一般式(10)中、R11及びR12は、各々独立に、水素原子又はメチル基を表す。一般式(10)中、Wは、一般式(W1)、一般式(W2)、又は化学式(W3)で表される二価の基を表す。
【0075】
【0076】
一般式(W1)中、R13は、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表し、R14は、炭素原子数1以上4以下のアルキル基を表す。一般式(W2)中、tは、1以上3以下の整数を表す。
【0077】
一般式(11)中、Xは、化学式(X1)、化学式(X2)、又は化学式(X3)で表される二価の基を表す。
【0078】
【0079】
一般式(W1)中のR13が表わす炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、メチル基が好ましい。一般式(W1)中のR14が表わす炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、炭素原子数2以上4以下のアルキル基が好ましく、エチル基がより好ましい。一般式(W2)中のtは、2を表すことが好ましい。
【0080】
一般式(10)中、R11及びR12は、メチル基を表すことが好ましい。一般式(10)中、Wは、一般式(W2)で表される二価の基を表すことが好ましい。一般式(11)中、Xは、化学式(X1)及び(X3)で表される二価の基を表すことが好ましい。
【0081】
繰り返し単位(10)の好適な例としては、化学式(10-1)、(10-2)、及び(10-3)で表される繰り返し単位が挙げられる。以下、化学式(10-1)、(10-2)、及び(10-3)で表される繰り返し単位を、各々、繰り返し単位(10-1)、(10-2)、及び(10-3)と記載することがある。
【0082】
【0083】
繰り返し単位(11)の好適な例としては、化学式(11-X1)、(11-X2)、及び(11-X3)で表される繰り返し単位が挙げられる。以下、化学式(11-X1)、(11-X2)、及び(11-X3)で表される繰り返し単位を、各々、繰り返し単位(11-X1)、(11-X2)、及び(11-X3)と記載することがある。
【0084】
【0085】
ポリアリレート樹脂(PA)は、1種の繰り返し単位(10)のみを含んでいてもよく、2種以上の繰り返し単位(10)を含んでいてもよい。ポリアリレート樹脂(PA)は、1種の繰り返し単位(11)のみを含んでいてもよく、2種以上の繰り返し単位(11)を含んでいてもよい。ポリアリレート樹脂(PA)は、少なくとも1種の繰り返し単位(10)と少なくとも2種の繰り返し単位(11)とを含むことが好ましく、1種の繰り返し単位(10)と2種の繰り返し単位(11)とを含むことがより好ましい。
【0086】
ポリアリレート樹脂(PA)の好適的な例としては、繰り返し単位(10-2)、(11-X1)、及び(11-X3)を含むポリアリレート樹脂(以下、ポリアリレート樹脂(I)と記載することがある)が挙げられる。
【0087】
ポリアリレート樹脂(PA)のより好適な例としては、化学式(R-1)で表されるポリアリレート樹脂(以下、ポリアリレート樹脂(R-1)と記載することがある)が挙げられる。なお、化学式(R-1)中、各繰り返し単位の右下に付された数字は、ポリアリレート樹脂に含まれる繰り返し単位の総数に対する、各繰り返し単位の数の百分率(%)を示す。繰り返し単位の総数は、ビスフェノール由来繰り返し単位の数と、ジカルボン酸由来繰り返し単位の数との合計である。
【0088】
【0089】
ポリアリレート樹脂(PA)は、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体であってもよい。ポリアリレート樹脂(PA)において、繰り返し単位の配列は、ビスフェノール由来繰り返し単位とジカルボン酸由来繰り返し単位とが隣接して互いに結合している限り、特に限定されない。ビスフェノール由来繰り返し単位は、例えば、繰り返し単位(10)である。ジカルボン酸由来繰り返し単位は、例えば、繰り返し単位(11)である。
【0090】
ポリアリレート樹脂(PA)は、繰り返し単位として、繰り返し単位(10)及び(11)のみを含んでいてもよい。或いは、ポリアリレート樹脂(PA)は、繰り返し単位として、繰り返し単位(10)及び(11)に加えて、これら以外の繰り返し単位を更に含んでいてもよい。
【0091】
ポリアリレート樹脂(PA)の製造方法は、特に限定されない。ポリアリレート樹脂(PA)の製造方法として、例えば、ビスフェノール由来繰り返し単位を構成するためのビスフェノールと、ジカルボン酸由来繰り返し単位を構成するためのジカルボン酸とを縮重合させる方法が挙げられる。縮重合させるためには、公知の合成方法(例えば、溶液重合、溶融重合又は界面重合)を採用することができる。
【0092】
ビスフェノール由来繰り返し単位を構成するためのビスフェノールは、例えば、一般式(BP-10)で表される化合物である。ジカルボン酸由来繰り返し単位を構成するためのジカルボン酸は、例えば、化学式(DC-11)で表される化合物である。一般式(BP-10)及び(DC-11)中のR11、R12、W、及びXは、各々、一般式(10)及び(11)中のR11、R12、W、及びXと同義である。
【0093】
【0094】
ビスフェノール由来繰り返し単位を構成するためのビスフェノールは、芳香族ジアセテートに誘導体化して使用してもよい。ジカルボン酸由来繰り返し単位を構成するためのジカルボン酸は、誘導体化して使用してもよい。ジカルボン酸の誘導体の例としては、ジカルボン酸ジクロライド、ジカルボン酸ジメチルエステル、ジカルボン酸ジエチルエステル、及びジカルボン酸無水物が挙げられる。ジカルボン酸ジクロライドは、ジカルボン酸が有する2個の「-C(=O)-OH」基が各々「-C(=O)-Cl」基で置換された化合物である。
【0095】
ビスフェノールとジカルボン酸との縮重合において、塩基及び触媒の一方又は両方を添加してもよい。塩基の例としては、水酸化ナトリウムが挙げられる。触媒の例としては、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、アンモニウムクロライド、アンモニウムブロマイド、4級アンモニウム塩、トリエチルアミン、及びトリメチルアミンが挙げられる。以上、ポリアリレート樹脂について説明した。
【0096】
次に、ポリカーボネート樹脂について説明する。ポリカーボネート樹脂の例としては、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、及びビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂は、化学式(R-2)で表される繰り返し単位を有する。以下、化学式(R-2)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂を、ポリカーボネート樹脂(R-2)と記載することがある。以上、ポリカーボネート樹脂について説明した。
【0097】
【0098】
(添加剤)
添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、電子アクセプター化合物、及びレベリング剤が挙げられる。
【0099】
(材料の組み合わせ)
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するためには、正孔輸送剤(1)及び(2)、並びに電子輸送剤の組み合わせが、表1に示す組み合わせNo.F-1~F-8の各々であることが好ましい。同じ理由から、正孔輸送剤(1)及び(2)、並びに電子輸送剤の組み合わせが、表1に示す組み合わせNo.F-1~F-8の各々であり、電荷発生剤がY型チタニルフタロシアニンであることがより好ましい。
【0100】
【0101】
感光体の耐クラック性を向上させ結晶化を抑制するためには、正孔輸送剤(1)及び(2)、電子輸送剤、並びにバインダー樹脂の組み合わせが、表2に示す組み合わせNo.G-1~G-17の各々であることが好ましい。同じ理由から、正孔輸送剤(1)及び(2)、電子輸送剤、並びにバインダー樹脂の組み合わせが、表2に示す組み合わせNo.G-1~G-17の各々であり、電荷発生剤がY型チタニルフタロシアニンであることがより好ましい。
【0102】
【0103】
上記表1及び表2中、「No.」は組み合わせNo.を示し、「HTM(1)」は正孔輸送剤(1)を示し、「HTM(2)」は正孔輸送剤(2)を示し、「ETM」は電子輸送剤を示し、「樹脂」はバインダー樹脂を示す。「樹脂」欄の「I」は、ポリアリレート樹脂(I)を示す。「樹脂」欄の「R-1」は、ポリアリレート樹脂(R-1)を示す。「樹脂」欄の「R-2」は、ポリカーボネート樹脂(R-2)を示す。
【0104】
(導電性基体)
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で構成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で構成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、及び真鍮が挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて(例えば、合金として)用いてもよい。これらの導電性を有する材料のなかでも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。
【0105】
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状及びドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
【0106】
(中間層)
中間層(下引き層)は、例えば、無機粒子及び中間層に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇を抑制できる。
【0107】
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄、及び銅)の粒子、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、及び酸化亜鉛)の粒子、及び非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0108】
中間層用樹脂の例は、既に述べたバインダー樹脂の例と同じである。中間層及び感光層を良好に形成するためには、中間層用樹脂は、感光層に含有されるバインダー樹脂と異なることが好ましい。中間層は、添加剤を含有してもよい。中間層に含有される添加剤の例は、感光層に含有される添加剤の例と同じである。
【0109】
<感光体の製造方法>
感光体の製造方法は、正孔輸送剤製造工程と、感光層形成工程とを含む。
【0110】
(正孔輸送剤製造工程)
正孔輸送剤製造工程において、正孔輸送剤が製造される。正孔輸送剤製造工程は、第1攪拌工程と、第2攪拌工程とを含む。第1攪拌工程において、混合液(以下、単に「液」と記載することがある)を第1攪拌する。液は、一般式(A)で表される化合物と、一般式(B)で表される化合物とを含有する。第2攪拌工程において、第1攪拌工程で得られた液に一般式(C)で表される化合物を更に加えて、液を第2攪拌する。第1攪拌工程の後に液を精製することなく、第2攪拌工程が実施される。第1攪拌工程及び第2攪拌工程を経て、第1正孔輸送剤及び第2正孔輸送剤の両方を含む正孔輸送剤(即ち、正孔輸送剤(1)及び(2)の混合物)が得られる。得られた正孔輸送剤(1)及び(2)の混合物が、感光層形成工程において正孔輸送剤として使用される。以下、一般式(A)、(B)、及び(C)で表される化合物を、各々、化合物(A)、(B)、及び(C)と記載することがある。
【0111】
【0112】
一般式(A)中のR1、R2、R3、R4、及びR5は、各々、一般式(1)中のR1A、R2A、R3A、R4A、及びR5Aと同一の基を表す。一般式(B)中のR6、R7、R8、R9、及びR10は、各々、一般式(1)中のR6A、R7A、R8A、R9A、及びR10Aと同一の基を表す。一般式(B)中のZ1は、ハロゲン原子を表す。一般式(C)中のYは、一般式(1)中のYと同一の基を表す。一般式(C)中のZ2及びZ3は、ハロゲン原子を表す。
【0113】
下記反応式(r-1)で表されるように、1モル当量の化合物(A)と、2モル当量の化合物(B)とが反応することにより、1モル当量の正孔輸送剤(2)が得られる。第1攪拌工程において、反応式(r-1)で表される反応が進行する。なお、第1攪拌工程だけでなく、第2攪拌工程においても、反応式(r-1)で表される反応が進行することもある。
【0114】
【0115】
また、下記反応式(r-2)及び(r-3)で表されるように、2モル当量の化合物(A)と、2モル当量の化合物(B)と、1モル当量の化合物(C)とが反応することにより、1モル当量の正孔輸送剤(1)が得られる。詳しくは、反応式(r-2)で表されるように、2モル当量の化合物(A)と、2モル当量の化合物(B)とが反応することにより、2モル当量の化学式(D)で表される化合物(以下、化合物(D)と記載することがある)が得られる。化合物(D)は、中間生成物である。次いで、反応式(r-3)で表されるように、2モル当量の化合物(D)と、1モル当量の化合物(C)とが反応することにより、1モル当量の正孔輸送剤(1)が得られる。第1攪拌工程において、反応式(r-2)で表される反応が進行し、第2攪拌工程において、反応式(r-3)で表される反応が進行する。なお、第1攪拌工程だけでなく、第2攪拌工程において、反応式(r-2)で表される反応が進行することもある。
【0116】
【0117】
正孔輸送剤(1)及び(2)の原料が、化合物(A)のように共通することから、一般式(A)中のR1は、一般式(1)中のR1A、及びR1B、並びに一般式(2)中のR1Cと同一の基となる。R1と同じように、一般式(A)中のR2~R5も、一般式(1)及び(2)中の対応する置換基と同一の基となる。正孔輸送剤(1)及び(2)の原料が、化合物(B)のように共通することから、一般式(B)中のR6は、一般式(1)中のR6A及びR6B、並びに一般式(2)中のR6C及びR6Dと同一の基を表す。R6と同じように、一般式(B)中のR7~R10も、一般式(1)及び(2)中の対応する置換基と同一の基となる。
【0118】
第1攪拌工程で第1攪拌する液、及び第2攪拌工程で第2攪拌する液には、パラジウム触媒を添加してもよい。パラジウム触媒としては、例えば、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、及びトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)が挙げられる。
【0119】
第1攪拌工程で第1攪拌する液、及び第2攪拌工程で第2攪拌する液には、配位子を添加してもよい。配位子としては、例えば、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル、(4-ジメチルアミノフェニル)ジ-tertブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、及びメチルジフェニルホスフィンが挙げられる。
【0120】
第1攪拌工程で第1攪拌する液、及び第2攪拌工程で第2攪拌する液には、塩基を添加してもよい。塩基としては、例えば、ナトリウムtert-ブトキシド、リン酸三カリウム、及びフッ化セシウムが挙げられる。
【0121】
第1攪拌工程で第1攪拌する液、及び第2攪拌工程で第2攪拌する液には、溶媒を添加してもよい。溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0122】
第1攪拌工程で第1攪拌する液、及び第2攪拌工程で第2攪拌する液の温度は、80℃以上140℃以下であることが好ましい。第1攪拌する時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましく、5時間以上10時間以下であることがより好ましい。第2攪拌する時間は、1時間以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上4時間以下であることがより好ましい。第1攪拌、及び第2攪拌は、不活性ガス(例えば、窒素ガス、又はアルゴンガス)の雰囲気下で行われてもよい。
【0123】
正孔輸送剤製造工程では、第1攪拌工程の後に液の精製が実施されない。このため、正孔輸送剤の製造工程の簡素化を図ることができる。また、第1攪拌工程及び第2攪拌工程を経て、正孔輸送剤(1)及び(2)が、混合物の状態で同時に得られる。混合物の状態で得られるため、感光層形成工程の塗布液調製時に正孔輸送剤(1)及び(2)を各々計量して混合する作業を省略できる。
【0124】
正孔輸送剤製造工程では、第2攪拌工程で得られる正孔輸送剤には、正孔輸送剤(2)が残存している。副生成物である正孔輸送剤(2)を完全に除去することなく、正孔輸送剤(2)を敢えて残存させることにより、正孔輸送剤(1)及び(2)の両方を感光層に含有させることができる。このため、感光体の耐クラック性を向上でき、感光体の結晶化を抑制できる。なお、正孔輸送剤(2)が完全に除去されないように、第2攪拌工程の後に精製を行ってもよい。また、正孔輸送剤(1)が完全に除去されないように、第2攪拌工程の後に精製を行ってもよい。第2攪拌工程の後の精製方法としては、例えば、活性白土処理、及び再結晶、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0125】
正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率は、例えば、化合物(A)の添加物質量に対する、化合物(B)の添加物質量の比率(B/A)を変更することにより、調整できる。比率(B/A)は、モル比換算値である。比率(B/A)が高くなるほど、正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率が高くなる。比率(B/A)は、1.05以上1.45以下であることが好ましく、1.05以上1.25以下であることがより好ましい。
【0126】
また、正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率は、例えば、例えば、化合物(C)の添加物質量に対する、化合物(A)の添加物質量の比率(A/C)を変更することにより、調整できる。比率(A/C)は、モル比換算値である。比率(A/C)が高くなるほど、正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率が高くなる。比率(A/C)は、2.30以上3.30以下であることが好ましく、2.30以上2.60以下であることがより好ましい。
【0127】
また、正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率は、例えば、正孔輸送剤(2)を完全に除去することなく第2攪拌工程の後に精製を実施すること、及びその精製条件を変更することにより、調整できる。なお、正孔輸送剤(1)及び(2)の総質量に対する正孔輸送剤(2)の含有率を調整するために、第1攪拌工程及び第2攪拌工程を経て得られた正孔輸送剤に、正孔輸送剤(1)及び(2)の一方又は両方を更に添加してもよい。
【0128】
(感光層形成工程)
感光層形成工程において、塗布液(詳しくは、感光層形成用塗布液)を導電性基体上に塗布し、塗布液に含有される溶剤の少なくとも一部を除去して感光層を形成する。塗布液は、電荷発生剤と正孔輸送剤と電子輸送剤とバインダー樹脂と溶剤とを含有する。
【0129】
塗布液に含有される溶剤は、塗布液に含有される各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n-ヘキサン、オクタン、及びシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン、及びキシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、及びクロロベンゼン等)、エーテル(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテル等)、ケトン(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等)、エステル(より具体的には、酢酸エチル、及び酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0130】
塗布液は、電荷発生剤と正孔輸送剤と電子輸送剤とバインダー樹脂とを、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。溶解又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器を用いることができる。
【0131】
塗布液を塗布する方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、及びバーコート法が挙げられる。
【0132】
塗布液に含有される溶剤の少なくとも一部を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、及び加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理の温度は、例えば、40℃以上150℃以下である。熱処理の時間は、例えば、3分以上120分以下である。
【0133】
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて中間層及び保護層を形成する工程を更に含んでいてもよい。中間層及び保護層を形成する工程は、公知の方法を適宜選択することができる。
【0134】
<画像形成装置>
次に、本実施形態の感光体1を備える、画像形成装置について説明する。以下、
図4を参照しながら、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて説明する。
図4は、画像形成装置の一例を示す断面図である。
【0135】
図4に示す画像形成装置100は、画像形成ユニット40a、40b、40c、及び40dと、転写ベルト50と、定着装置54とを備える。以下、区別する必要がない場合には、画像形成ユニット40a、40b、40c、及び40dの各々を、画像形成ユニット40と記載する。
【0136】
画像形成ユニット40は、像担持体30と、帯電装置42と、露光装置44と、現像装置46と、転写装置48と、クリーニング部材52とを備える。像担持体30は、本実施形態の感光体1である。
【0137】
既に述べたように、本実施形態の感光体1は耐クラック性に優れることから、このような感光体1を像担持体30として備えることで、画像形成装置100の耐久性を向上できる。また、既に述べたように、本実施形態の感光体1は結晶化を抑制できることから、感光体1を像担持体30として備えることで、画像形成装置100は良好な画像を形成できる。
【0138】
画像形成ユニット40の中央位置に、像担持体30が設けられる。像担持体30は、矢符方向(反時計回り)に回転可能に設けられる。像担持体30の周囲には、像担持体30の回転方向の上流側から記載された順に、帯電装置42と、露光装置44と、現像装置46と、転写装置48と、クリーニング部材52とが設けられる。
【0139】
画像形成ユニット40a~40dの各々によって、転写ベルト50上の記録媒体Pに、複数色(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローの4色)のトナー像が順に重ねられる。
【0140】
帯電装置42は、像担持体30の表面(例えば、周面)を、例えば正極性に、帯電させる。帯電装置42は、例えば、帯電ローラーである。
【0141】
露光装置44は、帯電された像担持体30の表面を露光する。これにより、像担持体30の表面に静電潜像が形成される。静電潜像は、画像形成装置100に入力された画像データに基づいて形成される。
【0142】
現像装置46は、像担持体30の表面にトナーを供給し、静電潜像をトナー像として現像する。現像装置46が静電潜像をトナー像として現像するときに、像担持体30の表面は、現像装置46の表面(例えば、周面)と接触している。即ち、画像形成装置100は、接触現像方式を採用している。現像装置46は、例えば、現像ローラーである。現像剤が一成分現像剤である場合、現像装置46は、像担持体30に形成された静電潜像に一成分現像剤であるトナーを供給する。現像剤が二成分現像剤である場合、現像装置46は、像担持体30に形成された静電潜像に、二成分現像剤に含有されるトナーとキャリアとのうち、トナーを供給する。このようにして、像担持体30は、トナー像を担持する。
【0143】
転写ベルト50は、像担持体30と転写装置48との間に記録媒体Pを搬送する。転写ベルト50は、無端状のベルトである。転写ベルト50は、矢符方向(時計回り)に回転可能に設けられる。
【0144】
転写装置48は、現像装置46によって現像されたトナー像を、像担持体30の表面から、被転写体へ転写する。被転写体は、記録媒体Pである。詳しくは、像担持体30の表面に記録媒体Pが接触しながら、転写装置48は、トナー像を像担持体30の表面から記録媒体Pへ転写する。即ち、画像形成装置100は、直接転写方式を採用している。転写装置48は、例えば、転写ローラーである。
【0145】
像担持体30の表面にクリーニング部材52を圧接させて、クリーニング部材52は、像担持体30の周面に付着したトナーを回収する。クリーニング部材52は、例えば、クリーニングブレードである。
【0146】
転写装置48によってトナー像が転写された記録媒体Pは、転写ベルト50によって、定着装置54へ搬送される。定着装置54は、例えば、加熱ローラー及び/又は加圧ローラーである。転写装置48によって転写された未定着のトナー像が、定着装置54によって、加熱及び/又は加圧される。トナー像が加熱及び/又は加圧されることにより、記録媒体Pにトナー像が定着する。その結果、記録媒体Pに画像が形成される。
【0147】
以上、画像形成装置の一例について説明したが、画像形成装置は、上記画像形成装置100に限定されない。上記画像形成装置100はカラー画像形成装置であったが、画像形成装置はモノクロ画像形成装置であってもよい。この場合、画像形成装置は、例えば画像形成ユニットを1つだけ備えていればよい。また、上記画像形成装置100はタンデム方式を採用していたが、画像形成装置は例えばロータリー方式を採用してもよい。帯電装置42として帯電ローラーを例に挙げて説明したが、帯電装置は帯電ローラー以外の帯電装置(例えば、スコロトロン帯電器、帯電ブラシ、又はコロトロン帯電器)であってもよい。上記画像形成装置100は接触現像方式を採用していたが、画像形成装置は非接触現像方式を採用してもよい。上記画像形成装置100は直接転写方式を採用していたが、画像形成装置は中間転写方式を採用してもよい。画像形成装置が中間転写方式を採用する場合、被転写体は中間転写ベルトに相当する。クリーニング部材52としてクリーニングブレードを例に挙げて説明したが、クリーニング部材はクリーニングローラーであってもよい。なお、上記画像形成ユニット40は除電装置を備えていなかったが、画像形成ユニットは除電装置を更に備えていてもよい。
【実施例】
【0148】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0149】
まず、感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、電子輸送剤、正孔輸送剤、及びバインダー樹脂を準備した。
【0150】
(電荷発生剤)
電荷発生剤として、実施形態で述べたY型チタニルフタロシアニンを準備した。
【0151】
(電子輸送剤)
電子輸送剤として、実施形態で述べた電子輸送剤(E-1)、(E-2)、及び(E-3)の各々を準備した。また、比較例で使用する電子輸送剤として、化学式(E-4)で表される化合物(以下、電子輸送剤(E-4)と記載する)を準備した。
【0152】
【0153】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂として、実施形態で述べたポリアリレート樹脂(R-1)及びポリカーボネート樹脂(R-2)の各々を、準備した。ポリアリレート樹脂(R-1)の粘度平均分子量は、47,500であった。ポリカーボネート樹脂(R-2)の粘度平均分子量は、50,000であった。
【0154】
(正孔輸送剤)
正孔輸送剤(1)及び(2)の混合物である試料(M-A1)~(M-A4)を、以下に示す方法で合成した。また、比較例で使用する試料(M-B1)~(M-B5)を、以下に示す方法で合成した。試料(M-A1)~(M-A4)及び(M-B1)~(M-B5)の組成を、表3に示す。表3中の用語は、次の通りである。「種類」欄の「HTM(1)」及び「HTM(2)」は、各々、正孔輸送剤(1)の種類及び正孔輸送剤(2)の種類を示す。「含有率」欄の「HTM(1)」は、正孔輸送剤(1)と正孔輸送剤(2)の総質量に対する、正孔輸送剤(1)の含有率(単位:質量%)を示す。「含有率」欄の「HTM(2)」は、正孔輸送剤(1)と正孔輸送剤(2)の総質量に対する、正孔輸送剤(2)の含有率(単位:質量%)を示す。「-」は、試料に該当する正孔輸送剤が含有されていないことを示す。
【0155】
【0156】
以下に示す各試料の合成方法の説明において、下記化学式(A-1)~(A-4)、(B-1)~(B-2)、及び(C-1)で表される化合物を、各々、化合物(A-1)~(A-4)、(B-1)~(B-2)、及び(C-1)と記載することがある。
【0157】
【0158】
(試料(M-A1)の調製)
下記反応式(r-a)に従って、試料(M-A1)を調製した。
【0159】
【0160】
詳しくは、分溜管を備える500mLの三口フラスコに、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0.0366g、0.040mmol)と、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(0.0763g、0.016mmol)と、ナトリウムtert-ブトキシド(9.669g、100.7mmol)とを入れた。フラスコ内の脱気及び窒素ガス置換を2回繰り返すことにより、フラスコ内の空気を窒素ガスに置換した。
【0161】
次いで、2-エチルアニリン(化合物(A-1)、8.45g、69.8mmol)と、4-クロロトルエン(化合物(B-1)、10.13g、80.0mmol)と、キシレン(45g)とを、フラスコ内に更に加えた。フラスコ内の液が還流するように、液を130℃まで昇温させた。なお、昇温の過程で発生したtert-ブタノールを留去しながら、液を昇温させた。液を還流させながら、液を130℃で2時間、攪拌(第1攪拌に相当)した。次いで、フラスコ内の液を、50℃まで冷却した。
【0162】
次いで、ナトリウムtert-ブトキシド(7.680g、80.0mmol)と、4,4’’-ジブロ-p-ターフェニル(化合物(C-1)、11.60g、30.0mmol)と、酢酸パラジウム(II)(0.0168g、0.075mmol)と、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(0.1425g、0.299mmol)と、キシレン(32g)とを、フラスコ内の液に更に加えた。フラスコ内の液が還流するように、液を130℃まで昇温させた。なお、昇温の過程で発生したtert-ブタノールを留去しながら、液を昇温させた。液を還流させながら、液を130℃で3時間、攪拌(第2攪拌に相当)した。
【0163】
次いで、フラスコ内の液を、90℃まで冷却した。フラスコ内の90℃の液を濾過して液中の不溶分を除去し、濾液を得た。濾液に、活性白土処理を2回行った。活性白土処理は、濾液に活性白土(日本活性白土株式会社製「SA-1」、8g)を入れて110℃で15分間攪拌し、再度濾過して、濾液を回収する処理であった。2回の活性白土処理を行った濾液を減圧濃縮して、濃縮液を得た。濃縮液に、濃縮液がわずかに白濁する程度の量(約50g)のイソヘキサンを加え、次いでメタノール(50g)を加えた。濃縮液を5℃まで冷却し、析出した結晶を濾過により取り出した。この結晶にキシレン(100g)を加えて110℃に加熱し、キシレンに結晶を溶解させて、溶液を得た。溶液に、上記活性白土処理を5回行った。5回の活性白土処理を行った濾液を減圧濃縮して、濃縮液を得た。濃縮液に、濃縮液がわずかに白濁する程度の量(約50g)のイソヘキサンを加え、次いでメタノール(50g)を加えた。濃縮液を5℃まで冷却し、析出した結晶を濾過により取り出した。得られた結晶を真空下70℃で24時間乾燥し、試料(M-A1)を得た。試料(M-A1)は、正孔輸送剤(HTM-1)と正孔輸送剤(HTM-A)とを含有する混合物であった。試料(M-A1)の収量は、16.3gであった。化合物(C-1)に対する、試料(M-A1)に含有される正孔輸送剤(HTM-1)の収率は、84%であった。
【0164】
(試料(M-A2)の調製)
化合物(A-1)69.8mmolを、化合物(A-2)69.8mmolに変更したこと以外は、試料(M-A1)の調製と同じ方法で、試料(M-A2)を得た。試料(M-A2)は、正孔輸送剤(HTM-2)と正孔輸送剤(HTM-B)とを含有する混合物であった。
【0165】
(試料(M-A3)の調製)
化合物(A-1)69.8mmolを、化合物(A-3)69.8mmolに変更したこと以外は、試料(M-A1)の調製と同じ方法で、試料(M-A3)を得た。試料(M-A3)は、正孔輸送剤(HTM-3)と正孔輸送剤(HTM-C)とを含有する混合物であった。
【0166】
(試料(M-A4)の調製)
化合物(A-1)69.8mmolを化合物(A-4)69.8mmolに変更したこと、及び化合物(B-1)80.0mmolを化合物(B-2)80.0mmolに変更したこと以外は、試料(M-A1)の調製と同じ方法で、試料(M-A4)を得た。試料(M-A4)は、正孔輸送剤(HTM-4)と正孔輸送剤(HTM-D)とを含有する混合物であった。
【0167】
(試料(M-B1)の調製)
試料(M-A1)を、展開溶媒としてトルエンとイソヘキサンとの混合溶媒(体積比率50/50)を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、精製した。このようにして、正孔輸送剤(HTM-1)を含有する画分を分取した。分取した液(画分)がわずかに白濁するまで、減圧濃縮し、濃縮液を得た。濃縮液に、イソヘキサンとメタノールとを加えた。濃縮液を5℃まで冷却し、析出した結晶を濾過により取り出し、試料(M-B1)を得た。試料(M-B1)は、正孔輸送剤(HTM-1)のみを含有し、正孔輸送剤(HTM-A)を含有していなかった。
【0168】
(試料(M-B2)の調製)
試料(M-A1)を試料(M-A2)に変更したこと以外は、試料(M-B1)の調製と同じ方法で、試料(M-B2)を得た。試料(M-B2)は、正孔輸送剤(HTM-2)のみを含有し、正孔輸送剤(HTM-B)を含有していなかった。
【0169】
(試料(M-B3)の調製)
試料(M-A1)を試料(M-A3)に変更したこと以外は、試料(M-B1)の調製と同じ方法で、試料(M-B3)を得た。試料(M-B3)は、正孔輸送剤(HTM-3)のみを含有し、正孔輸送剤(HTM-C)を含有していなかった。
【0170】
(試料(M-B4)の調製)
試料(M-A1)を試料(M-A4)に変更したこと以外は、試料(M-B1)の調製と同じ方法で、試料(M-B4)を得た。試料(M-B4)は、正孔輸送剤(HTM-4)のみを含有し、正孔輸送剤(HTM-D)を含有していなかった。
【0171】
(試料(M-B5)の調製)
試料(M-A1)を、展開溶媒としてトルエンとイソヘキサンとの混合溶媒(体積比率50/50)を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、精製した。このようにして、正孔輸送剤(HTM-A)を含有する画分を分取した。分取した液(画分)がわずかに白濁するまで、減圧濃縮し、濃縮液を得た。濃縮液に、イソヘキサンとメタノールとを加えた。濃縮液を5℃まで冷却し、析出した結晶を濾過により取り出し、試料(M-B5)を得た。試料(M-B5)は、正孔輸送剤(HTM-A)のみを含有し、正孔輸送剤(HTM-1)を含有していなかった。
【0172】
(正孔輸送剤(1)及び正孔輸送剤(2)の含有率の測定)
調製した各試料について、正孔輸送剤(1)と正孔輸送剤(2)との総質量に対する、正孔輸送剤(1)の含有率を測定した。正孔輸送剤(1)の含有率として、一般式(1)に包含される正孔輸送剤(HTM-1)~(HTM-4)の含有率を測定した。また、調製した各試料について、正孔輸送剤(1)と正孔輸送剤(2)との総質量に対する、正孔輸送剤(2)の含有率を測定した。正孔輸送剤(2)の含有率として、一般式(2)に包含される正孔輸送剤(HTM-A)~(HTM-D)の含有率を測定した。測定方法は、次の通りであった。
【0173】
試料(より具体的には、試料(M-A1)~(M-A4)及び(M-B1)~(M-B5)の各々)2.0mgを、テトラヒドロフラン670mgに溶解し、テトラヒドロフラン溶液を得た。なお、安定剤を含有していないテトラヒドロフランを使用した。得られたテトラヒドロフラン溶液を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。詳しくは、下記に示す分析装置及び分析条件で、試料のテトラヒドロフラン溶液を分析し、HPLCチャートを得た。HPLCチャートにおける正孔輸送剤(1)のピーク面積から試料中の正孔輸送剤(1)の含有量を求めた。HPLCチャートにおける正孔輸送剤(2)のピーク面積から試料中の正孔輸送剤(2)の含有量を求めた。求めた正孔輸送剤(1)の含有量と正孔輸送剤(2)の含有量とから、正孔輸送剤(1)の含有率、及び正孔輸送剤(2)の含有率を算出した。算出結果を、表3の「含有率」欄に示す。
【0174】
(分析装置及び分析条件)
・分析装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製「LaChrom ELITE」
・検出波長:254nm
・カラム:ジーエルサイエンス株式会社製「Inertsil(登録商標)ODS-3」(内径:4.6mm、長さ:250mm)
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:アセトニトリル
・流量:1mL/分
・試料注入量:1μL
【0175】
<感光体の製造>
上記の通り準備した電荷発生剤、電子輸送剤、正孔輸送剤、及びバインダー樹脂を用いて、感光体(PA-1)~(PA-9)及び(PB-1)~(PB-10)を製造した。
【0176】
(感光体(PA-1)の製造)
電荷発生剤であるY型チタニルフタロシアニン3質量部、試料(M-A1)70質量部(詳しくは、正孔輸送剤(HTM-1)67質量部及び正孔輸送剤(HTM-A)3質量部の混合物)、バインダー樹脂であるポリアリレート樹脂(R-1)100質量部、電子輸送剤(E-1)30質量部、及び溶剤であるテトラヒドロフラン800質量部を、ボールミルを用いて50時間混合し、塗布液を得た。ディップコート法により、導電性基体(アルミニウム製のドラム状支持体)上に、塗布液を塗布した。塗布した塗布液を、120℃で60分間熱風乾燥させた。このようにして、導電性基体上に感光層(膜厚28μm)を形成し、感光体(PA-1)を得た。感光体(PA-1)において、導電性基体上に単層の感光層が直接備えられていた。
【0177】
(感光体(PA-2)~(PA-9)及び(PB-1)~(PB-10)の製造)
表4に示す種類の試料、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を使用したこと以外は、感光体(PA-1)の製造と同じ方法で、感光体(PA-2)~(PA-9)及び(PB-1)~(PB-10)の各々を製造した。
【0178】
<評価>
評価対象である感光体(PA-1)~(PA-9)及び(PB-1)~(PB-10)の各々に対して、以下に示す方法で、感度特性、耐クラック性、及び結晶化が抑制されているか否かについて評価した。
【0179】
<感度特性の評価>
感光体の感度特性の評価環境は、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境であった。ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、感光体の表面を+750Vに帯電させた。次いで、単色光(波長:780nm、露光量:0.7μJ/cm2)をハロゲンランプの光からバンドパスフィルターを用いて取り出し、感光体の表面に照射した。単色光の照射終了から40ミリ秒が経過した時点の感光体の表面電位を測定した。測定した表面電位を、感光体の露光後電位VL(単位:+V)とした。感光体の露光後電位VLを、表4に示す。感光体の露光後電位VLが+150V以下である感光体を、感度特性が良好であると評価した。
【0180】
<耐クラック性の評価>
感光体の耐クラック性の評価環境は、温度23℃及び相対湿度50%RHの環境であった。イソパラフィン系炭化水素溶剤(エクソンモービル社製「アイソパーL」)に、感光体の下端から40mmまでの領域を24時間浸漬させた。24時間浸漬後、感光体の表面に発生したクラックの数を確認した。クラックの数から、以下の基準に従って、耐クラック性を評価した。評価結果を、表4に示す。
評価A(特に良好):クラックの数が20個以下である。
評価B(良好) :クラックの数が21個以上100個以下である。
評価C(不良) :クラックの数が101個以上である。
【0181】
<結晶化抑制の評価>
感光体の感光層全域を肉眼で観察し、感光層における結晶化した部分の有無を確認した。確認結果から、以下の基準に従って、感光体の結晶化が抑制されているか否かを評価した。評価結果を、表4に示す。
評価A(良好):結晶化した部分が確認されなかった。
評価B(不良):結晶化した部分が確認された。
【0182】
表4中の各用語は、次のとおりである。「HTM」は、正孔輸送剤を示す。「HTM(1)」は、正孔輸送剤(1)を示す。「HTM(2)」は、正孔輸送剤(2)を示す。「ETM」は、電子輸送剤を示す。「樹脂」は、バインダー樹脂を示す。「VL」は、露光後電位を示す。「クラック」は、感光体の耐クラック性の評価結果を示す。「結晶化」は、感光体の結晶化が抑制されているか否かの評価結果を示す。「-」は、該当する成分が含有されていないことを示す。
【0183】
【0184】
表4に示すように、感光体(PA-1)~(PA-9)の感光層は、単層であり、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂とを含有していた。感光層は、正孔輸送剤として、正孔輸送剤(1)及び(2)の2種(より具体的には、正孔輸送剤(HTM-1)及び(HTM-A)、正孔輸送剤(HTM-2)及び(HTM-B)、正孔輸送剤(HTM-3)及び(HTM-C)、又は正孔輸送剤(HTM-4)及び(HTM-D))を含有していた。感光層は、電子輸送剤として、電子輸送剤(10)、(11)、又は(12)(より具体的には、電子輸送剤(E-1)、(E-2)、又は(E-3))を含有していた。感光体(PA-1)~(PA-9)の耐クラック性の評価はA又はBであり、これらの感光体は耐クラック性に優れていた。感光体(PA-1)~(PA-9)の結晶化抑制の評価はAであり、これらの感光体の結晶化は抑制されていた。また、感光体(PA-1)~(PA-9)の露光後電位VLは+150V以下であり、これらの感光体は、感度特性を損なうことなく、耐クラック性の向上と結晶化の抑制とを達成できていた。
【0185】
以上のことから、本発明に係る感光体は、耐クラック性に優れ、結晶化を抑制できることが示された。また、本発明に係る感光体は耐クラック性に優れ結晶化を抑制できるため、このような感光体を備える画像形成装置は、耐久性に優れ良好な画像を形成できると判断される。また、本発明に係る感光体の製造方法によれば、正孔輸送剤の製造工程の簡素化を図りつつ、耐クラック性に優れ結晶化を抑制できる感光体を製造できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明に係る感光体は、画像形成装置に利用できる。本発明に係る画像形成装置は、記録媒体に画像を形成するために利用できる。本発明に係る製造方法により製造された感光体は、画像形成装置に利用できる。
【符号の説明】
【0187】
1 :感光体(電子写真感光体)
2 :導電性基体
3 :感光層
30 :像担持体
42 :帯電装置
44 :露光装置
46 :現像装置
48 :転写装置
100 :画像形成装置
P :記録媒体