(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】工作機械システムの振動解析装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20230711BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230711BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20230711BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
G01H17/00 Z
G05B19/18 W
B23Q17/00 A
(21)【出願番号】P 2019123046
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 優大
(72)【発明者】
【氏名】橋本 高明
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-196909(JP,A)
【文献】特開2003-108206(JP,A)
【文献】特開平09-091044(JP,A)
【文献】特開2015-188994(JP,A)
【文献】特開2005-250985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00 - 17/24
G01H 17/00
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体により構成される工作機械本体と、前記工作機械本体に保持される工具とを備えた工作機械システムの振動解析装置であって、
前記工具を用いて工作物を加工するときの前記工作機械本体の振動を検出する振動検出装置と、
状態変化前の前記工作機械本体に対応した
状態変化前の振動解析モデルを記憶する解析モデル記憶部と、
前記工作機械本体の状態変化後において前記振動検出装置による検出結果から得られる前記工作機械本体の振動特性の実測値
に基づいて、当該実測値に対応する振動特性を有する状態変化後の前記振動解析モデル
を取得し、状態変化前後の前記振動解析モデルに基づいて、
前記工作機械本体における状態変化の発生箇所を特定する本体状態解析部と、
を備える、工作機械システムの振動解析装置。
【請求項2】
前記振動解析モデルは、調整可能な要素を有しており、
前記本体状態解析部は、前記振動解析モデルの調整可能な要素を調整することにより、状態変化後の前記振動解析モデルを取得する、請求項1に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項3】
前記本体状態解析部は、前記工作機械本体における状態変化の発生箇所
及び発生要因を特定する、請求項1
又は2に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項4】
前記振動解析モデルは、前記複数の構造体
をバネ要素及びダンパ要素で互いに連結することにより形成され
る、請求項1
-3の何れか1項に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項5】
前記本体状態解析部は、
前記バネ要素のバネ定数及び前記ダンパ要素の減衰係数
の少なくとも一方を調整し、前記振動解析モデルを前記工作機械本体の状態に近似させることにより、
状態変化後の前記振動解析モデルを取得し、
調整された前記バネ要素及び前記ダンパ要素の少なくとも一方の箇所を、前記工作機械本体における状態変化の発生箇所
として特定する、請求項
4に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項6】
前記工作機械本体の状態変化は、前記工作機械本体における突発的な異常の発生に起因する状態変化を含む、請求項1-
5の何れか1項に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項7】
前記工作機械本体の状態変化は、前記工作機械本体の使用に伴う経年変化に起因する状態変化を含む、請求項1-
5の何れか1項に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項8】
前記工作機械システムの振動解析装置は、さらに、
前記振動検出装置による検出結果に基づき、
状態変化が前記工作機械本体
と前記工具
の何れにあったかを判定する状態変化判定部を備え
、
前記本体状態解析部は、前記状態変化判定部により前記工作機械本体に状態変化があったと判定された場合に、前記工作機械本体における状態変化の発生箇所を特定する、請求項1-
7の何れか1項に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項9】
前記状態変化判定部は、前記振動検出装置による検出結果を周波数解析して得られた波形データに基づき、
状態変化が前記工作機械本体
と前記工具
の何れにあったかを判定する、請求項
8に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項10】
前記工作機械システムの振動解析装置は、さらに、
前記振動検出装置による検出結果と、前記工作機械本体
の状態変化の有無及び前記工具における状態変化の有無との関係を表す振動に関する学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部を備え、
前記状態変化判定部は、前記振動検出装置による検出結果と前記学習済みモデルとに基づいて
状態変化が前記工作機械本体
と前記工具
の何れにあったかを判定する、請求項
8に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【請求項11】
前記工作機械システムの振動解析装置は、さらに、
前記工作機械本体又は前記工具に状態変化があったと判定された場合に、当該状態変化の発生箇所が前記工具であるか否かを判定する工具状態判定部を備え、
前記本体状態解析部は
、状態変化の発生箇所が前記工具ではないと判定された場合に、
前記工作機械本体における状態変化の発生箇所を特定する、請求項
8-
10の何れか1項に記載の工作機械システムの振動解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械システムの振動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械を構成する各構造体のうち、振動源になると考えられる構造体の固有振動数を記憶し、加工中にびびり振動が検出された場合に、加工中に検出された振動加速度と、記憶された構造体の固有振動数とに基づき、びびり振動の発生要因である振動源を推定する振動源推定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、固有振動数が記憶されていない構造体が振動源である場合に、振動源を特定できず、びびり振動を解消するための適切な対策を講じることが難しくなる。
【0005】
本発明は、工作機械本体に状態変化があった場合に、状態変化の発生箇所を的確に推定できる工作機械システムの振動解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、複数の構造体により構成される工作機械本体と、前記工作機械本体に保持される工具とを備えた工作機械システムの振動解析装置であって、
前記工具を用いて工作物を加工するときの前記工作機械本体の振動を検出する振動検出装置と、
状態変化前の前記工作機械本体に対応した状態変化前の振動解析モデルを記憶する解析モデル記憶部と、
前記工作機械本体の状態変化後において前記振動検出装置による検出結果から得られる前記工作機械本体の振動特性の実測値に基づいて、当該実測値に対応する振動特性を有する状態変化後の前記振動解析モデルを取得し、状態変化前後の前記振動解析モデルに基づいて、前記工作機械本体における状態変化の発生箇所を特定する本体状態解析部と、
を備える、工作機械システムの振動解析装置にある。
【0007】
本発明の工作機械システムの振動解析装置によれば、本体状態解析部は、工作機械本体の状態変化後において振動検出装置による検出結果から得られる工作機械本体の振動特性の実測値に基づいて、当該実測値に対応する振動特性を有する状態変化後の振動解析モデルを取得し、状態変化前後の振動解析モデルに基づいて、工作機械本体における状態変化の発生箇所を特定する。よって、当該振動解析装置は、工作機械本体における状態変化の発生箇所を的確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態における工作機械システムを構成する工作機械本体の平面図である。
【
図5C】周波数と基準化スペクトルとの関係を示す波形データの一例である。
【
図6A】状態変化のない良好な工作機械本体を用いて加工したときの基準化波形データを示す図である。
【
図6B】第一の状態変化が発生した工作機械本体を用いた加工したときの基準化波形データを示す図である。
【
図6C】第二の状態変化が発生した工作機械本体を用いた加工したときの基準化波形データを示す図である。
【
図6D】第三の状態変化が発生した工作機械本体を用いた加工したときの基準化波形データを示す図である。
【
図7】状態変化のない良好な工作機械本体を用いて加工したときの動特性を示すグラフと、状態変化が発生した工作機械本体を用いた加工したときの動特性を示すグラフとを重ね合わせた図である。
【
図8】振動解析装置により実行される状態変化判定処理を示すフローチャートである。
【
図9】状態変化判定処理の中で実行される状態変化解析処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1.工作機械システム1の概略構成)
工作機械システム1の概略構成について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、工作機械システム1は、工具3と工作物Wとを相対的に移動させるための複数の構造体により構成される工作機械本体2と、工作機械本体2に保持される工具3とを備える。工作機械本体2は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、フライス盤等の切削加工を行う工作機械である。
【0010】
工作機械本体2は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸、Y軸及びZ軸)を駆動軸として有するマシニングセンタである。
図1においては、工作機械本体2は、さらに、工具3と工作物Wとの相対姿勢を変更するための2つの回転軸(B軸及びC軸)を駆動軸として有する。本例では、工作機械本体2は、B軸(基準状態においてY軸周りの回転軸)及びC軸(基準状態においてZ軸周りの回転軸)を有する構成を例にあげたが、A軸(基準状態においてX軸周りの回転軸)及びB軸を有する構成としてもよいし、A軸及びC軸を有する構成としてもよい。つまり、工作機械本体2は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(CT軸)を考慮すると6軸加工機となる)を適用可能である。また、工作機械本体2は、スカイビング加工を可能な専用加工機として、軸数を5軸加工機とは異なる構成を有する加工機を適用することもできる。
【0011】
工具3は、工作物Wの加工に用いる回転工具である。例えば、工具3は、エンドミル、スカイビングカッタ等である。本例において、工具3は、スカイビング加工により工作物Wに歯車を創成する際に用いるスカイビングカッタを例に挙げて説明する。
【0012】
工作機械本体2は、横形マシニングセンタを例に挙げて説明するが、立形マシニングセンタを適用することもできる。また、工作機械本体2は、工具3と工作物Wとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械本体2は、工具3をY軸及びZ軸に移動可能とし、工作物WをX軸、B軸及びC軸に移動可能とする。
【0013】
工作機械本体2は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30と、制御装置40とを備える。ベッド10は、略矩形状に形成される。工作物保持装置20は、移動テーブル21と、旋回テーブル22と、工作物主軸台23とを主に備える。移動テーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に相対移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(
図1上下方向)へ延びる一対のX軸ガイドレール11が設けられ、移動テーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレール11に案内されながらX軸方向へ往復移動する。
【0014】
旋回テーブル22は、移動テーブル21の上面に設置され、移動テーブル21と一体的にX軸方向へ往復移動する。また、旋回テーブル22は、移動テーブル21に対し、Y軸方向に平行なB軸周りに旋回可能に設けられる。旋回テーブル22には、図示しない旋回モータが収納され、旋回テーブル22は、旋回モータに駆動されることでB軸周りに旋回する。
【0015】
工作物主軸台23は、旋回テーブル22に設置され、旋回テーブル22と一体的にB軸周りに旋回する。工作物主軸台23には、B軸に直交するC軸周りに回転可能に保持された工作物主軸24が設けられる。そして、工作物主軸24には、工作物Wが着脱可能に装着される。工作物主軸台23の内部には、工作物主軸24を回転させる工作物回転モータ(図示せず)と、工作物主軸24の回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)が設けられる。このように、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、B軸及びC軸の回転可能に保持する。
【0016】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸台33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(
図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレール12が設けられ、コラム31は、図示しないリニアモータに駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレール12に案内されながらZ軸方向へ往復移動する。
【0017】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面であって、Z軸方向に直交する平面に平行な一側面に配置される。このコラム31の側面には、Y軸方向(
図1紙面垂直方向)へ延びる一対のY軸ガイドレール34が設けられ、サドル32は、図示しないリニアモータに駆動されることで、Y軸方向へ往復移動する。
【0018】
工具主軸台33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸台33には、Z軸に平行な軸線周りに回転可能に設けられた工具主軸35が設けられる。工具主軸35には、工具3が着脱可能に装着される。工具主軸台33の内部には、工具主軸35を回転させる工具回転モータ(図示せず)と、工具主軸35の回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)とが設けられる。このように、工具保持装置30は、工具3を、工作物保持装置20に対して、Y軸方向及びZ軸方向に相対移動可能とし、且つ、回転可能に保持する。
【0019】
制御装置40は、工作機械本体2に関する全般的な制御を行う。例えば、制御装置40は、工作機械本体2に設けられた各種モータの駆動制御を通して、移動テーブル21、コラム31及びサドル32の位置制御や旋回テーブル22の旋回制御、工作物主軸24及び工具主軸35の回転制御等を行う。
【0020】
(2.振動検出装置50及び振動解析装置100の概要)
図2に示すように、工作機械システム1は、さらに、複数の振動検出装置50と、振動解析装置100とを備える。振動検出装置50は、工作機械本体2を構成する構造体の振動を検出可能な3軸の加速度センサである。振動検出装置50は、検出したい振動によっては、1軸や2軸等の加速度センサとしてもよい。振動検出装置50が装着される構造体としては、移動テーブル21や工作物主軸台23、コラム31、工具主軸35等が例示される。なお、振動検出装置50は、工作機械本体2に1つだけ設けることも可能である。
【0021】
振動解析装置100は、振動検出装置50による検出結果に基づき、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したか否かを判定すると共に、当該状態変化の発生箇所や発生要因等の特定するための解析を行う。状態変化には、工具3又は工作機械本体2を構成する部品において突発的に発生する異常による変化に加え、使用に伴う工作機械本体2の経年変化が含まれる。例えば、状態変化には、軸受や摺動部分などの構成部品の摩耗、工具3の摩耗、工具3の折損等が含まれる。また、経年変化には、異常と認められる程度の変化のみならず、異常に至る前の変化を含む。
【0022】
つまり、振動解析装置100は、工作機械本体2を構成する部品の一部に摩耗等(即ち、状態変化)が発生していることを、工作機械本体2に発生する振動の変化を解析することにより把握する。この場合、工作機械システム1は、工作機械本体2における部品の摩耗等を把握することができるので、加工した工作物Wが不良品となることを未然に防止できたり、工作機械本体2の重大な異常に至ることを防止できたりする。
【0023】
(3.振動解析装置100の構成)
振動解析装置100の構成について、
図2を参照して説明する。振動解析装置100は、検出結果取得部110と、状態変化判定部120と、判定用データ記憶部130と、工具状態判定部140と、本体状態解析部150と、状態変化データベース160と、解析モデル記憶部170と、解析結果提示部180とを主に備える。
【0024】
検出結果取得部110は、振動検出装置50による検出結果を取得する。状態変化判定部120は、検出結果取得部110が取得した検出結果を用いて所定の解析処理を行い、当該解析処理の結果に基づき、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したか否かを判定する。判定用データ記憶部130は、状態変化判定部120が工作機械システム1に状態変化が発生したか否かを判定する際に用いるデータ等を記憶する。なお、判定用データ記憶部130に記憶されるデータ等、及び、当該データ等を用いた状態変化判定部120の判定手順については、例を挙げながら後述する。
【0025】
工具状態判定部140は、状態変化判定部120によって工作機械システム1に状態変化が発生したと判定されたときに、当該状態変化が工具3に発生したか否かを判定する。本体状態解析部150は、状態変化判定部120によって工作機械システム1に状態変化が発生したと判定されたときに、工作機械本体2における状態変化の発生箇所や発生要因を特定するための解析処理を行う。
【0026】
状態変化データベース160には、例えば、状態変化が発生したと判定されたときの振動検出装置50の検出結果と、状態変化の発生箇所や発生要因等とを紐づけた状態変化データが蓄積される。状態変化データベース160に蓄積された状態変化データは、工具状態判定部140による判定や本体状態解析部150による解析を行う際に参照される。また、状態変化データベース160に蓄積された状態変化データは、新たな工作機械システム1の開発や設計等を行う際の参考資料として用いることもできる。
【0027】
解析モデル記憶部170は、本体状態解析部150による解析処理において用いる振動解析モデルMを記憶する。振動解析モデルMについては後述する。解析結果提示部180は、工作機械システム1に設けられた表示装置等(図示せず)に対し、工具状態判定部140による判定結果、又は、本体状態解析部150による解析処理結果を提示する。
【0028】
(4.振動解析モデルMの一例)
解析モデル記憶部170に記憶される振動解析モデルMの一例について、
図3を参照して説明する。振動解析モデルMは、工作機械本体2を構成する複数の構造体を表す剛体どうしをバネ要素S及びダンパ要素Dで互いに連結することにより形成される。
図3に示された各剛体には、
図1に示された工作機械本体2の各構造体に対応し、各々の剛体には、対応する各構造体の符号が付されている。なお、
図3に示す剛体の形状は、一例であり、必ずしも対応する各構造体の形状に合わせた形状でなくてもよい。
【0029】
振動解析モデルMは、状態が良好である工作機械本体2の各構造体に対してハンマリング試験を行うことで得られた振動特性データに基づいて作成されたモデルである。即ち、振動解析モデルMは、良好な状態の工作機械本体2に対応する。振動解析モデルMにおいて、各々の剛体は、対応する構造体の質量及び重心位置に関する情報を含む。振動解析モデルMにおいて、バネ要素S及びダンパ要素Dは、例えば、工作機械本体2に設けられたリニアガイドや軸受等と対応する位置に配置される。また、バネ要素Sのバネ定数及びダンパ要素Dの減衰係数は、ハンマリング試験で得られたデータに基づいて設定される。
【0030】
(5.本体状態解析部150の構成)
次に、振動解析装置100を構成する本体状態解析部150の構成について、
図4を参照して説明する。
図4に示すように、本体状態解析部150は、状態変化候補抽出部151と、モデル調整部152と、動特性解析部153と、解析結果判定部154とを備える。
【0031】
状態変化候補抽出部151は、状態変化判定部120において行われた解析処理の結果に基づき、推定される状態変化の発生箇所や発生要因等の候補(以下「状態変化候補」と称す)を抽出する。例えば、状態変化候補抽出部151は、状態変化データベース160に記憶された状態変化データの中から、振動検出装置50の検出結果に近似する状態変化データを抽出する。モデル調整部152は、工作機械本体2に対応する振動解析モデルMを調整する。本体状態解析部150は、振動解析モデルMを用いて、工作機械本体2の状態変化の発生箇所を特定する。
【0032】
モデル調整部152は、状態変化が発生した工作機械本体2に振動解析モデルMが近似するように、振動解析モデルMのバネ定数及び減衰係数を調整する。ここで、状態変化データベース160には、状態変化候補抽出部151で抽出される状態変化候補に紐づけられた振動解析モデルMのバネ定数及び減衰係数に関する調整値が状態変化データとして記憶される。そして、モデル調整部152は、当該状態変化データに基づき、振動解析モデルMのバネ定数及び減衰係数を調整する。
【0033】
動特性解析部153は、モデル調整部152による調整後の振動解析モデルMを対象とする動特性を解析する。解析結果判定部154は、振動検出装置50による検出結果に基づく動特性の解析結果と動特性解析部153による解析結果とに基づき、調整後の振動解析モデルMの動特性が工作機械本体2の動特性に近似するか否かの判定を行う。
【0034】
(6.状態変化の判定方法)
次に、状態変化判定部120による状態変化の判定方法について、例を挙げながら説明する。以下に、判定方法の第一例と第二例を説明する。
【0035】
(6-1.状態変化の判定方法の第一例)
状態変化の判定方法の第一例について説明する。第一例において、状態変化判定部120は、振動検出装置50から取得した検出結果の周波数解析を行い、その解析結果に基づいて状態変化があったか否かを判定する。
【0036】
具体的に、振動検出装置50は、まず、工作物Wの加工を行わずに工作物W及び工具3を回転させている状態(空転状態)で工作機械本体2の各構造体の振動を検出する。そして、検出結果取得部110は、振動検出装置50による検出結果を取得し、状態変化判定部120は、当該検出結果の周波数解析を行う。なお、
図5Aには、空転状態での各構造体の振動検出結果を周波数解析した空転時解析データD1の一例が図示されている。
【0037】
また、振動検出装置50は、工作物Wの加工時に工作機械本体2の各構造体に発生する振動を検出する。そして、検出結果取得部110は、振動検出装置50による検出結果を取得し、状態変化判定部120は、当該検出結果の周波数解析を行う。なお、
図5Bには、状態が良好である工作機械本体2及び工具3を用いた加工時における各構造体の振動検出結果を周波数解析した加工時解析データD2の一例が図示されている。
【0038】
続いて、状態変化判定部120は、空転時解析データD1と加工時解析データD2との差分を取ることにより、工作物Wの加工に伴って発生する振動の周波数を抽出する。具体的に、状態変化判定部120は、以下の式(1)を用いて周波数ごとのパワースペクトルを基準化(標準化)した基準化スペクトルを算出する。つまり、基準化スペクトルとは、加工を行っているときのパワースペクトルの値から加工を行っていない時のパワースペクトルの値を引き、さらにパワースペクトルの標準偏差で割る基準化演算である。
【0039】
[数1]
Di=(Xi-ai)/σi・・・(1)
【0040】
式(1)において、Diは、周波数iにおける基準化スペクトルである。Xiは、周波数iにおける加工時のパワースペクトルであり、aiは、周波数iにおける空転時のパワースペクトルの平均値であり、σiは、周波数iにおける空転時のパワースペクトルの標準偏差である。なお、
図5Cには、状態が良好である工作機械本体2及び工具3を用いた加工を行った場合において、周波数と基準化スペクトルとの関係を示した基準化波形データD3の一例が図示されている。
【0041】
また、判定用データ記憶部130には、状態が良好である工作機械本体2及び工具3を用いて工作物Wを加工したときの基準化スペクトルが記憶されている。そして、状態変化判定部120は、振動検出装置50による検出結果から得られる基準化スペクトルと、判定用データ記憶部130に記憶された基準化スペクトルとを比較する。
【0042】
続いて、
図6A-
図6Dを参照して、工作機械本体2に状態変化が発生した場合に導出される基準化スペクトルを示す基準化波形データについて、例を挙げながら説明する。なお、
図6Aには、良好な状態である工作機械システム1を用いて工作物Wを加工したときに得られる良好時基準化波形データZのみが示されている。
【0043】
図6Bには、良好ではない状態における基準化波形データZ1が示されている。基準化波形データZ1は、良好時基準化波形データZと比べて、周波数f1におけるピーク値が大きくなっている。このように、状態変化判定部120は、振動検出装置50による検出結果から得られる基準化スペクトルにおいて特定の周波数でのピーク値が所定の閾値を超える場合(閾値の上限を上回る場合、或いは、下限を下回る場合)に、工作機械本体2又は工具3に何らかの状態変化が発生したと判断する。なおこの場合、工作機械本体2の一部分において減衰力が低下していることが推測される。
【0044】
図6Cには、良好ではない状態における他の基準化波形データZ2が示されている。基準化波形データZ2は、良好時基準化波形データZと比べて、ピーク値を取る周波数にズレが生じている。例えば、
図6Aに示すように、良好時基準化波形データZでは、周波数f1においてピーク値をとるのに対し、
図6Cに示すように、基準化波形データZ2では、周波数f1よりも低い周波数f4でピーク値をとる。このように、状態変化判定部120は、基準化波形データにおいてピーク値を取る周波数と良好時基準化波形データZにおいてピーク値を取る周波数とのズレが、予め設定した閾値を超える場合(閾値の上限を上回る場合、或いは、下限を下回る場合)に、工作機械本体2又は工具3に何らかの状態変化が発生したと判断する。なおこの場合、工作機械本体2の一部分において剛性が低下していることが推測される。
【0045】
図6Dには、良好ではない状態における他の基準化波形データZ3が示されている。基準化波形データZ3は、良好時基準化波形データZが有する全ての周波数帯f1,f2,f3においてピーク値をとる。しかし、基準化波形データZ3は、良好時基準化波形データZではピーク値をとらない新たな周波数帯に含まれる周波数f5においてピーク値をとる。つまり、状態変化判定部120は、工作機械本体2及び工具3の状態が良好であれば発生しない周波数成分の振動が発生した場合に、工作機械本体2又は工具3に何らかの状態変化が発生したと判断する。
【0046】
(6-2.状態変化の判定方法の第二例)
状態変化の判定方法の第二例について説明する。第二例において、状態変化判定部120は、予め生成された振動に関する学習済みモデルを用いて、工作機械本体2又は工具3に状態変化があったか否かの判定を行う。
【0047】
振動に関する学習済みモデルは、例えば、複数の振動検出装置50から得られた検出結果を示す波形データと、工作機械本体2又は工具3における状態変化の有無を示す状態変化結果データ(教師データ)とを訓練データセットとする機械学習を行うことにより生成されたモデルである。ここでの機械学習は、教師あり学習である。
【0048】
このようにして生成された学習済みモデルは、学習済みモデル記憶部としての判定用データ記憶部130に記憶される。そして、状態変化判定部120は、複数の振動検出装置50から得られた検出結果と振動に関する学習済みモデルとに基づいて、工作機械本体2又は工具3に状態変化があったか否かの判定を行う。即ち、振動に関する学習済みモデルは、複数の振動検出装置50から得られた検出結果を振動に関する学習済みモデルに入力すると、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生しているか否かの判定結果を出力する。
【0049】
なお、振動に関する学習済みモデルは、状態変化のない良好な工作機械本体2及び工具3を用いて工作物Wを加工したときに複数の振動検出装置50から得られた検出結果である複数の波形データ(良好時波形データ)を教師データとする機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルであってもよい。この場合、状態変化判定部120は、複数の振動検出装置50から得られた検出結果である実波形データと良好時波形データとの差分が一定の範囲を超える場合に、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したと判定する。
【0050】
また、振動に関する学習済みモデルは、工作物Wを加工せずに工作物W及び工具3を回転(空転)させた状態で振動検出装置50による検出を行った際に得られた波形データ(空転時波形データ)を訓練データセットに含めてもよい。この場合、振動に関する学習済みモデルは、空転時における工作機械本体2の各構造体の振動と、加工時における工作機械本体2の各構造体の振動との差を訓練データセットとすることができる。その結果、状態変化判定部120は、工作機械本体2又は工具3に状態変化があったか否かの判定に関して、その判定精度を向上させることができる。
【0051】
(7.動特性解析部153による解析)
次に、動特性解析部153が行う動特性解析について、
図7を参照して説明する。
図7には、周波数とコンプライアンスとの関係を示す2つのグラフが示されている。2つのグラフのうち、実線で示すグラフXは、解析モデル記憶部170に記憶された振動解析モデルMを対象として行った動特性の解析結果を示すグラフである。換言すれば、実線で示すグラフXは、状態変化のない良好な工作機械本体2から得られる動特性を示す。これに対し、破線で示すグラフYは、状態変化が発生した工作機械本体2を対象として行った動特性の解析結果の一例を示したグラフである。
【0052】
解析結果判定部154は、モデル調整部152によりバネ定数や減衰係数を調整した後の振動解析モデルMの動特性が、状態変化の発生した工作機械本体2の動特性に近似するか否かの判定を行う。例えば、解析結果判定部154は、調整後の振動解析モデルMの動特性においてコンプライアンスが大きくなるときの周波数(即ち、共振周波数)が、工作機械本体2の動特性を示すグラフYにおいてコンプライアンスが大きくなるときの周波数に近似するかを判定する。
【0053】
このように、本体状態解析部150は、状態変化候補抽出部151による抽出された状態変化候補に基づいて調整した振動解析モデルMの動特性(予測値)を解析し、状態変化候補の中で最も工作機械本体2の動特性(実測値)に近似する状態変化候補を特定する。振動検出装置50による検出結果から得られる工作機械本体2の動特性が、振動特性の実測値である。振動解析モデルMの動特性が、工作機械本体2の振動特性の予測値である。そして、解析結果提示部180によって、例えば、工作機械本体2の動特性に近似すると判定された調整後の振動解析モデルMに関して、良好な状態の振動解析モデルMからバネ定数や減衰係数を変更した箇所が提示される。
【0054】
提示された判定結果を確認した作業者は、振動解析モデルMにおいてバネ定数や減衰係数が変更された箇所と対応する位置に配置される部品(例えば、軸受等)に何らかの状態変化(突発的な異常の発生、使用に伴う劣化)が発生した可能性が高いと判断できる。そして、作業者は、状態変化が発生した疑いのある部品まわりを中心に点検等を行うことにより、状態変化への対応を効率的かつ的確に行うことができる。
【0055】
なお、本体状態解析部150は、工作機械システム1に設けられた複数の振動検出装置50から得られた検出結果の各々を用いて解析を行う。また、本実施形態において、振動検出装置50は、3軸の加速度センサであり、本体状態解析部150は、各々の振動検出装置50から得られる各方向への振動について解析を行う。これにより、本体状態解析部は、工作機械システム1を用いてスカイビング加工のような複雑な加工を行う場合であっても、状態変化の発生箇所を的確に特定することができる。
【0056】
また、状態変化データベース160には、振動検出装置50による検出結果と、状態変化の発生要因とを紐づけて記憶することが可能である。そして、解析結果提示部180は、状態変化の発生箇所に加え、状態変化の発生要因を併せて表示することも可能である。この場合、工作機械システム1は、工作機械本体2の点検等に関する経験が少ない作業者が点検等を行う場合であっても、状態変化の発生要因を効率的に特定することができる。
【0057】
(8.状態変化判定処理)
次に、
図8に示すフローチャートを参照しながら、振動解析装置100により実行される状態変化判定処理について説明する。状態変化判定処理は、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したか否かの判定を行う。振動解析装置100は、1つの工作物Wに対する加工が終了する毎に状態変化判定処理を行ってもよく、加工した工作物Wの数が一定数に到達する毎に状態変化判定処理を行ってもよい。
【0058】
図8に示すように、検出結果取得部110は、状態変化判定処理として実行する最初の処理として、工作機械本体2に設けられた全ての振動検出装置50から検出結果を取得する(S1)。次に、状態変化判定部120は、当該検出結果に基づき、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したか否かを判定する(S2)。例えば、状態変化判定部120は、上記した第一例又は第二例の状態変化判定を行うことにより、状態変化が発生したか否かの判定を行う。
【0059】
その結果、状態変化が発生したと判定された場合(S2:Yes)、振動解析装置100は、状態変化解析処理(S3)を実行する。これに対し、振動解析装置100は、状態変化が発生していないと判定された場合(S2:No)、工作機械本体2及び工具3の状態が良好であると判断できるので、そのまま本処理を終了する。
【0060】
このように、振動解析装置100は、状態変化判定処理において、工作機械本体2及び工具3に状態変化があったか否かを判定し、状態変化があった場合に、状態変化の発生箇所等を特定するための解析を行う。よって、工作機械システム1は、工作機械本体2及び工具3の状態が良好である場合に、振動解析装置100による解析に要する時間を短縮することができる。
【0061】
(9.状態変化解析処理)
次に、
図9に示すフローチャートを参照しながら、状態変化判定処理の中で実行される状態変化解析処理(S3)について説明する。状態変化解析処理(S3)は、主として、状態変化の発生箇所を特定するための解析を行う。
【0062】
図9に示すように、工具状態判定部140は、状態変化解析処理(S3)として実行する最初の処理として、振動検出装置50の検出結果に振動変化があったか否かの判定を行う(S11)。振動変化がある場合とは、例えば、加工周期で振動レベルが増加する場合や、工具刃が1枚欠けたときに、その刃が加工する周期で振動レベルが変化した場合等である。つまり、当該振動変化は、工具3に何らかの状態変化があった場合に生じる。
【0063】
当該振動変化があると判定された場合(S11:Yes)、本体状態解析部150は、後述するS16の処理へ移行する。一方、当該振動変化がないと判定された場合に(S11:No)、振動解析装置100は、工作機械本体2に状態変化が発生したと判断し、本体状態解析部150による解析処理として、以下に示すS12-S15の処理を行う。
【0064】
このように、振動解析装置100は、工作機械本体2又は工具3に状態変化が発生したと判定された場合に、まずは、工具3に状態変化が発生したか否かの判定を行う。この点に関し、工具3は、工作機械本体2と比べて状態変化の発生頻度が高い。よって、振動解析装置100は、工具3に状態変化が発生したか否かの判定を先に行うことにより、振動解析装置100による解析に要する時間を短縮できる。
【0065】
工作機械本体2に状態変化が発生したと判断されると(S11:No)、状態変化候補抽出部151は、工作機械本体2における状態変化候補を抽出する(S12)。S12の処理において、状態変化候補抽出部151は、状態変化判定部120が行う解析処理の結果と状態変化データベース160に記憶された状態変化データとに基づき、工作機械本体2に発生した状態変化として予想される複数の状態変化候補を抽出する。
【0066】
S12の処理後、モデル調整部152は、抽出された複数の状態変化候補の中から1つを選択し、振動解析モデルMのバネ定数及び減衰係数を調整する(S13)。具体的に、モデル調整部152は、状態変化候補に紐づけられた振動解析モデルMの調整データに倣い、解析モデル記憶部170に記憶された振動解析モデルMのバネ定数及び減衰係数を調整する。
【0067】
S13の処理後、動特性解析部153は、振動検出装置50による検出結果から得られる工作機械本体2の動特性、及び、S13の処理において調整された振動解析モデルMの動特性の解析を行う(S14)。続いて、解析結果判定部154は、動特性解析部153による解析結果に基づき、調整された振動解析モデルMの動特性が、状態変化が発生した工作機械本体2の動特性に近似するか否かを判定する(S15)。
【0068】
その結果、振動解析モデルMの動特性(予測値)が工作機械本体2の動特性(実測値)と近似していなければ(S15:No)、直前に実行したS13の処理で選択した状態変化候補とは異なる状態変化が工作機械本体2に発生していると判断できる。よってこの場合、本体状態解析部150は、S13の処理に戻り、S13-S15の処理をまだ実行していない他の状態変化候補についての動特性解析を行う。これに対し、振動解析モデルMの動特性(予測値)が工作機械本体2の動特性(実測値)に近似していれば(S15:Yes)、振動解析装置100は、今回解析を行った状態変化候補が、工作機械本体2に発生した状態変化であると特定する。よってこの場合、振動解析装置100は、S16の処理へ移行する。
【0069】
そして、S16の処理において、解析結果提示部180は、S12の処理又はS15の処理で特定された状態変化の発生箇所を表示装置等に提示する。またこのとき、解析結果提示部180は、状態変化データベース160において、今回特定された状態変化に紐づけられた振動発生要因を併せて提示する。
【0070】
以上説明したように、本体状態解析部150は、振動検出装置50による検出結果から得られる工作機械本体2の振動特性の実測値と、振動解析モデルMから得られる振動特性の予測値とに基づき、工作機械本体2の状態を解析し、状態変化の発生箇所を特定する。よって、振動解析装置100は、工作機械本体2における状態変化の発生箇所を的確に推定できる。
【0071】
さらに、本体状態解析部150は、状態変化データベース160に記憶された内容に基づいて工作機械本体2における状態変化の発生要因を特定し、解析結果提示部180に提示する。これにより、作業者は、状態変化の発生箇所を容易に特定することができる。
【0072】
なお、解析モデル記憶部170に記憶する振動解析モデルMは、対応する工作機械本体2の使用状態に応じて適宜更新することが望ましい。即ち、工作機械本体2の各構成の振動特性は、使用に伴う経年変化により変化する場合がある。これに対し、振動解析装置100は、解析モデル記憶部170に記憶する振動解析モデルM、即ち、状態が良好である工作機械本体2に対応する振動解析モデルMを更新することにより、工作機械システム1による工作物Wの加工を最適な条件で行うことができる。
【0073】
例えば、振動解析装置100は、工作機械システム1による工作物Wの加工数が一定数に到達する毎に、振動解析モデルMを更新してもよい。また、振動解析装置100は、工作機械本体2から得られる基準化スペクトルと判定用データ記憶部130に記憶された基準化スペクトルとの差分の出方に一定の傾向が継続して現れたときに、振動解析モデルMを更新してもよい。例えば、所定の範囲(例えば、片側又は両側の閾値等により設定された範囲)内で一定の傾向の変化が生じている場合が該当する。なお、当該場合とは、例えば、直近の複数回の加工において、ピーク値をとる周波数のズレ方や、特定の周波数におけるピーク値の差に同じ傾向が継続して現れる場合等が例示される。また、振動解析装置100は、工作機械本体2を構成する部品の一部を交換する毎に、振動解析モデルMを更新してもよい。
【0074】
ここで、本実施形態では、振動解析モデルMが、複数の構造体を表す剛体どうしをバネ要素S及びダンパ要素Dで互いに連結することにより形成された、いわゆるリジッドボディモデルである場合を例に挙げて説明したが、有限要素法モデル(いわゆるFEMモデル)であってもよい。なお、振動解析モデルMがリジッドボディモデルである場合には、FEMであると比べて、振動解析モデルMを簡素化できるので、本体状態解析部150による解析に要する時間を短縮できる。一方、振動解析モデルMがFEMである場合には、リジッドボディモデルである場合と比べて、解析の精度を高めることができる。
【0075】
また、状態変化判定部120は、工作機械本体2又は工具3に突発的な異常の発生に起因する状態変化があった場合に、工作機械本体2又は工具3に状態変化があったと判定する。よって、作業者は、工作機械システム1における異常の発生箇所を容易に特定できる。これに加え、状態変化判定部120は、工作機械本体2の使用に伴う経年変化に起因する状態変化があった場合に、工作機械本体2又は工具3に状態変化があったと判定する。つまり、振動解析装置100は、工作機械本体2の経年変化によって加工後の工作物Wに不良が発生する前に工作機械本体2の状態変化を見つけることにより、不良品となる工作物Wの発生を未然に防止できる。
【0076】
なお、本実施形態では、工具3がスカイビングカッタである場合を例に挙げて説明したが、工具3は、スカイビングカッタ以外の工具(例えば、エンドミル等)である場合においても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1:工作機械システム、 2:工作機械本体、 3:工具、 50:振動検出装置、 100:振動解析装置、 110:検出結果取得部、 120:状態変化判定部、 130:判定用データ記憶部、 140:工具状態判定部、 150:本体状態解析部、 160:状態変化データベース(学習済みモデル記憶部)、 170:解析モデル記憶部、 D:ダンパ要素、 S:バネ要素、 W:工作物