(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】表示制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 35/00 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B60K35/00 A
(21)【出願番号】P 2019124211
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】久野 芳朗
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-64317(JP,A)
【文献】特開2011-201352(JP,A)
【文献】特開2017-39440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0243824(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0134285(US,A1)
【文献】国際公開第2017/068692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00-37/06
B60Q 1/00-1/56
G01C 21/00-21/36
23/00-25/00
G02B 27/00-30/60
G08G 1/00-99/00
G09F 9/00
G09G 3/00-3/08
3/12
3/16
3/19-3/26
3/30
3/34
3/38-5/36
5/377-5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方を撮像する撮像手段と、
前記車両の運転者の視点を検出する検出手段と、
前記車両のフロントガラスに映像光を投射して虚像を表示するヘッドアップディスプレイと、
前記検出手段で検出された前記視点の動き及び前記撮像手段により得られた前方情報を用いて前記ヘッドアップディスプレイを制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記車両の方向指示器による進路変更情報を取得する取得部と、
前記車両の前方に移動物体が存在すること、及び、前記視点が所定時間以上動かないことを含む表示条件の成否を判定する判定部と、
前記表示条件が成立しているときに、前記進路変更情報及び前記視点の方向に基づいた前記虚像を選択し、当該虚像を前記ヘッドアップディスプレイに表示させる制御部と、を有する
ことを特徴とする、表示制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両が対向車線を横断する方向に曲がる場合に、前記視点が前記対向車線側を向いていれば歩行者への注意を促す前記虚像を選択するとともに、前記視点が前記対向車線を向いていなければ対向車への注意を促す前記虚像を選択する
ことを特徴とする、請求項1記載の表示制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両が対向車線を横断しない方向に曲がる場合に、前記視点が前記車両の後方に位置する物体を巻き込む方向を向いていれば前方及び歩行者の少なくとも一方への注意を促す前記虚像を選択するとともに、前記視点が前方を向いていれば前記巻き込む方向及び歩行者の少なくとも一方への注意を促す前記虚像を選択する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の表示制御装置。
【請求項4】
地図データを内蔵し、前記地図データ上における前記車両の現在位置を把握するナビゲーション装置を備え、
前記制御部は、歩行者への注意を促す前記虚像を選択したときに前記地図データを参照し、前記車両の現在位置が歩行者の存在しない道路であれば、当該虚像を前記ヘッドアップディスプレイに表示させない
ことを特徴とする、請求項2又は請求項2を引用する請求項3に記載の表示制御装置。
【請求項5】
前記フロントガラスは、少なくとも車幅方向において複数の表示領域に仮想的に区画され、
各々の前記表示領域には、表示されうる前記虚像が設定されるとともに当該虚像の種類に応じてその表示位置が予め設定され、
前記制御部は、選択した前記虚像を前記表示位置に表示したとすると前記虚像と前記移動物体とが重なる場合には前記表示位置を補正する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の表示制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントガラスに虚像を表示するヘッドアップディスプレイを備えた表示制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者の生態情報や運転状況を監視し、運転者の注意力が低下したときに音声やブザー音にて報知したり、空調装置を利用して運転者を覚醒させたりする技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、車両のフロントガラスに文字やアイコン等の虚像を表示させるヘッドアップディスプレイを用いて、運転者に運転に関する情報(例えば、車速や進路など)を知らせる技術も実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、音声やブザー音により運転者に報知する方法では、運転者以外の乗員(例えば後部座席に着座している乗員)にも聞こえるため、乗員に煩わしさを与えるおそれがある。一方、ヘッドアップディスプレイを用いた報知の場合には、運転者以外の乗員に対しては煩わしさを与えにくい。しかし、ヘッドアップディスプレイを用いる場合には、フロントガラスに直接的に文字等を映し出すため、運転の妨げにならないよう、適切なタイミングで表示することが望まれる。
【0005】
本件の表示制御装置は、このような課題に鑑み案出されたもので、運転者に対して適切なタイミングで報知を行うことで安全性を高めることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する表示制御装置は、車両の前方を撮像する撮像手段と、前記車両の運転者の視点を検出する検出手段と、前記車両のフロントガラスに映像光を投射して虚像を表示するヘッドアップディスプレイと、前記検出手段で検出された前記視点の動き及び前記撮像手段により得られた前方情報を用いて前記ヘッドアップディスプレイを制御する制御手段と、を備える。前記制御手段は、前記車両の方向指示器による進路変更情報を取得する取得部と、前記車両の前方に移動物体が存在すること、及び、前記視点が所定時間以上動かないことを含む表示条件の成否を判定する判定部と、前記表示条件が成立しているときに、前記進路変更情報及び前記視点の方向に基づいた前記虚像を選択し、当該虚像を前記ヘッドアップディスプレイに表示させる制御部と、を有する。
【0007】
(2)前記制御部は、前記車両が対向車線を横断する方向に曲がる場合に、前記視点が前記対向車線側を向いていれば歩行者への注意を促す前記虚像を選択するとともに、前記視点が前記対向車線を向いていなければ対向車への注意を促す前記虚像を選択することが好ましい。
【0008】
(3)前記制御部は、前記車両が対向車線を横断しない方向に曲がる場合に、前記視点が前記車両の後方に位置する物体を巻き込む方向を向いていれば前方及び歩行者の少なくとも一方への注意を促す前記虚像を選択するとともに、前記視点が前方を向いていれば前記巻き込む方向及び歩行者の少なくとも一方への注意を促す前記虚像を選択することが好ましい。
【0009】
(4)前記表示制御装置は、地図データを内蔵し、前記地図データ上における前記車両の現在位置を把握するナビゲーション装置を備えることが好ましい。この場合、前記制御部は、歩行者への注意を促す前記虚像を選択したときに前記地図データを参照し、前記車両の現在位置が歩行者の存在しない道路であれば、当該虚像を前記ヘッドアップディスプレイに表示させないことが好ましい。
【0010】
(5)前記フロントガラスは、少なくとも車幅方向において複数の表示領域に仮想的に区画されており、各々の前記表示領域には、表示されうる前記虚像が設定されるとともに当該虚像の種類に応じてその表示位置が予め設定されていることが好ましい。この場合、前記制御部は、選択した前記虚像を前記表示位置に表示したとすると前記虚像と前記移動物体とが重なる場合には前記表示位置を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
開示した表示制御装置によれば、運転者の視点が所定時間以上動かないときに、進路変更情報及び視点の方向に応じた虚像をフロントガラスに表示することから、運転者に対して適切なタイミングで報知を行うことができる。したがって、運転者の注意(視線)を誘導でき、安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る表示制御装置が適用された車両のフロントガラス周辺を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る表示制御装置のブロック図である。
【
図3】
図2の表示制御装置により表示される注意表示(虚像)を説明するための模式図である。
【
図4】
図2の表示制御装置により実施される表示位置の補正内容について説明するための模式図である。
【
図5】
図2の表示制御装置により実施される制御内容を例示するフローチャートである。
【
図6】
図5のフローチャートのサブフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての表示制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
以下の説明では、車両の前進方向を車両前方(単に「前方」という)とし、後進方向を車両後方(単に「後方」という)とし、前方を基準に左右を定める。また、車両前後方向を単に「前後方向」という。また、重力の方向を下方、その逆を上方として上下方向を定める。
【0015】
[1.装置構成]
本実施形態の表示制御装置は、
図1に示す車両1に適用される。車両1は、フロントガラス2に映像光を投射して虚像20を表示するヘッドアップディスプレイ3(HUD)を備えている。なお、本実施形態では、右ハンドル車両1を例示するとともに、左側通行である国(例えば日本)を例示する。
【0016】
ヘッドアップディスプレイ3は、例えばダッシュボード9に内蔵されており、フロントガラス2の略全範囲にわたり表示が可能となっている。なお、ヘッドアップディスプレイ3には周知の構成を採用可能であるため、詳細な構成の説明は省略する。本実施形態の表示制御装置は、運転者の視点の動きを感知して、運転者に注意喚起した方がよい場面でヘッドアップディスプレイ3により虚像20をフロントガラス2に表示させる。以下、虚像20を注意表示20とも呼ぶ。
【0017】
図2に示すように、車両1には、車両1の前方を撮像する前方カメラ4(撮像手段)と、車両1の運転者の視点を検出する視点感知カメラ5(検出手段)と、ヘッドアップディスプレイ3を制御する制御装置10(制御手段)とが設けられる。さらに本実施形態の車両1は、ウィンカー6(方向指示器)とナビゲーション装置8とを備える。前方カメラ4,視点感知カメラ5,ウィンカー6,ナビゲーション装置8は、制御装置10の入力側に接続され、ヘッドアップディスプレイ3は制御装置10の出力側に接続される。
【0018】
前方カメラ4は、車両1の前方に関する情報を画像として取得する撮像装置(ビデオカメラ)である。本実施形態の表示制御装置において、前方カメラ4の撮影画像は、車両1の前方に存在する移動物体(他車両,歩行者,二輪車等)を把握するために用いられる。視点感知カメラ5は、運転者の顔を略正面から撮像することで目(瞳孔)の位置を感知し、運転者の視点の動きや視線の方向を検出する。ウィンカー6は、運転者によるウィンカーレバー(図示略)の操作に基づき、運転者が車両1の進路を変更したい方向を検知する。
【0019】
ナビゲーション装置8は、地図データを記憶(内蔵)しており、その地図データ上における車両1の現在位置を把握する。本実施形態のナビゲーション装置8は、内蔵する地図データ上における車両1の現在位置を画面8a(
図1参照)に表示し、目的地までの走行経路を案内する機能を持つ。ナビゲーション装置8内には、GPS(Global Positioning System)装置,地図データ記憶装置,TVチューナ装置,音響装置,光学ディスク再生装置などが内蔵される。
【0020】
制御装置10は、車両1に搭載される電子制御装置〔ECU(Electronic Control Unit)〕の一つであり、プロセッサとメモリとを搭載した電子デバイスである。プロセッサとは、例えばCPU(Central Processing Unit),MPU(Micro Processing Unit)などのマイクロプロセッサであり、メモリとは、例えばROM(Read Only Memory),RAM(Random Access Memory),不揮発メモリなどである。制御装置10で実施される制御の内容は、ファームウェアやアプリケーションプログラムとしてメモリに記録,保存されており、プログラムの実行時にはプログラムの内容がメモリ空間内に展開されて、プロセッサによって実行される。
【0021】
表示制御装置は、少なくとも、上述したヘッドアップディスプレイ3,前方カメラ4,視点感知カメラ5,ウィンカー6,制御装置10を備える。本実施形態では、これらに加え、上述したナビゲーション装置8を備えた表示制御装置を説明する。前方カメラ4,視点感知カメラ5,ウィンカー6,ナビゲーション装置8の各情報は制御装置10に入力され、制御装置10の指令(信号)はヘッドアップディスプレイ3に出力される。
【0022】
[2.制御構成]
制御装置10は、視点感知カメラ5で検出された視点の動きと、前方カメラ4により得られた前方情報(撮影画像)とを用いて、ヘッドアップディスプレイ3を制御する。具体的には、車両1の走行中、車両前方に移動物体が存在するにもかかわらず、運転者の視点が所定時間以上変化しないときには、運転者の注意(視線)を誘導する注意表示20をフロントガラス2に表示する。なお、ここでいう移動物体とは「動いている物体」であり、少なくとも歩行者,二輪車,他車両(先行車,対向車)を含む。
【0023】
本実施形態では、注意表示20として、歩行者への注意を促す虚像21(以下「歩行者注意表示21」ともいう)と、対向車への注意を促す虚像22(以下「対向車注意表示22」ともいう)と、車両1の前方への注意を促す虚像23(以下「前方注意表示23」ともいう)と、車両1の後方に位置する物体(例えば二輪車)を巻き込む方向への注意を促す虚像24(以下「巻き込み注意表示24」ともいう)とを例示する。これらの虚像21~24の一例を
図3に示す。なお、左折時の巻き込みについては、より注意を払う必要があることから、巻き込み注意表示24は他の虚像21~23よりも強調されている。
【0024】
図3に示すように、本実施形態のフロントガラス2は、少なくとも車幅方向において複数の表示領域に仮想的に区画される。ここでは、車幅方向において三つに区画されるとともに、上下方向にも二つに区画され、合計六つの表示領域2A~2Fが設けられたフロントガラス2を例示する。各表示領域2A~2Fには、表示されうる虚像21~24が設定されている。さらに、各表示領域2A~2Fには、表示されうる虚像21~24の種類に応じて、その表示位置が予め設定されている。
【0025】
歩行者注意表示21は、歩行者に注意を向ける必要がある場合に表示される虚像であることから、中央の表示領域2B,2Eを除いた車幅方向側部の表示領域2A,2C,2D,2Fに表示されうる。歩行者注意表示21の表示位置2g(
図4参照)は、例えば、各表示領域2A,2C,2D,2F内の車幅方向外寄りに設定される。これにより、運転者の視線を、歩道や路肩等を歩く歩行者に向けやすくなる。
【0026】
対向車注意表示22は、車両1が対向車線を横断する方向に曲がる場合(すなわち右折時)に表示されうる虚像であることから、右側の表示領域2C,2Fに表示されうる。対向車注意表示22の表示位置は、例えば、右側の表示領域2C,2F内の車幅方向略中央に設定される。これにより、運転者の視線を、対向車線を走行する他車両に向けやすくなる。
【0027】
前方注意表示23は、車両1が対向車線を横断しない方向に曲がる場合(すなわち左折時)及び直進時に表示されうる虚像であることから、車幅方向左側及び中央の表示領域2A,2B,2D,2Eに表示されうる。前方注意表示23の表示位置は、例えば、各表示領域2A,2B,2D,2E内の車幅方向略中央に設定される。これにより、運転者の視線を車両前方に向けやすくなる。
【0028】
巻き込み注意表示24は、車両1の左折時に表示されうる虚像であることから、車幅方向左側の表示領域2A,2Dに表示されうる。巻き込み注意表示24の表示位置は、例えば、左側の表示領域2A,2D内の車幅方向左寄りに設定される。これにより、運転者の視線を、車両1の左後方から進入してくる可能性がある二輪車に向けやすくなる。
【0029】
なお、これらの虚像21~24は同じタイミングで表示されてもよい。例えば、運転者の視線を、車両1の前方と歩行者との双方に向ける必要性がある場合には、歩行者注意表示21及び前方注意表示23がともに映し出されてよい。なお、複数の虚像が同一の表示領域2A~2Fに表示されることもある。そのため、複数の虚像が同一の表示領域2A~2Fに表示されたとしても、虚像同士が重ならないように各表示位置が設定されていることが好ましい。
【0030】
制御装置10には、上述したヘッドアップディスプレイ3を制御するための機能要素として、
図2に示すように、取得部11,判定部12,制御部13が設けられる。これらの要素11~13は、制御装置10で実行されるプログラムの一部の機能を示すものであり、ソフトウェアで実現してもよいし、ハードウェア(電子回路)で実現してもよい。あるいは、これらの要素をソフトウェアとハードウェアとを併用して実現してもよい。
【0031】
取得部11は、車両1のウィンカー6からの進路変更情報を取得するものである。進路変更情報には、少なくとも右折及び左折が含まれ、好ましくは、隣接車線への移動(車線変更)が含まれる。進路変更情報は、虚像21~24の選択の際に利用される。なお、進路変更情報に、進路を変更しないこと(すなわち直進)が含まれていてもよい。
【0032】
判定部12は、以下の表示条件の成否を判定するものである。本実施形態の表示条件は、以下の条件1及び条件2がともに成立することである。なお、以下の条件3が表示条件に含まれていてもよい。
条件1:車両1の前方に移動物体が存在すること
条件2:運転者の視点が所定時間以上動かないこと
条件3:車両1の車速が0でないこと
【0033】
判定部12は、前方カメラ4で取得された前方情報に基づき条件1を判定し、視点感知カメラ5で検出された視点の動きに基づき条件2を判定する。条件2の所定時間は予め設定された固定値(例えば数秒)である。なお、判定部12は、条件3を判定する場合には、図示しない車速センサを用いればよい。判定部12において表示条件が成立したと判定された場合には、制御部13による制御が実施される。また、判定部12は、制御部13による制御の実施中も表示条件の成否を判定する。表示条件が不成立になった場合(すなわち、条件1及び条件2の少なくとも一方が不成立になった場合)には、制御部13による制御が終了する。
【0034】
制御部13は、表示条件が成立しているときに、進路変更情報と運転者の視点の方向とに基づいた注意表示20を選択し、選択した注意表示20をヘッドアップディスプレイ3に表示させるものである。つまり、制御部13は、運転者の注意(視線)を誘導するための注意表示20を表示するよう、ヘッドアップディスプレイ3に指令(信号)を出力する。本実施形態では、注意表示20として、上記の虚像21~24がヘッドアップディスプレイ3に表示される。
【0035】
本実施形態の制御部13は、車両1の右折時に、運転者の視点が対向車線側を向いていれば歩行者注意表示21を選択し、運転者の視点が対向車線を向いていなければ対向車注意表示22を選択する。本実施形態では、運転者の視線が対向車線のみに集中している場合に、歩行者注意表示21を選択する。また、運転者の視線が対向車線を向いておらず歩行者のみに集中している場合に、対向車注意表示22を選択し、運転者の視点が対向車線にも歩行者にも向いていない場合(よそ見をしている場合)に、両方の虚像21,22を選択する。これにより、右折時における安全性が高められる。
【0036】
本実施形態の制御部13は、車両1の左折時に、運転者の視点が左側の巻き込む方向を向いていれば、歩行者注意表示21及び前方注意表示23の少なくとも一方を選択する。さらに制御部13は、車両1の左折時に、運転者の視点が前方を向いていれば、歩行者注意表示21及び巻き込み注意表示24の少なくとも一方を選択する。
【0037】
本実施形態では、左折時に運転者の視線が巻き込む方向のみに集中している場合に、歩行者注意表示21及び前方注意表示23の両方を選択する。また、左折時に運転者の視線が前方のみに集中している場合に、歩行者注意表示21及び巻き込み注意表示24の両方を選択し、運転者の視点が巻き込み方向にも前方にも向いていない場合(よそ見をしている場合)に、三つの虚像21,23,24を全て選択する。これにより、左折時における安全性が高められる。
【0038】
本実施形態の制御部13は、車両1の直進時にも、運転者の視点に基づいて歩行者注意表示21及び前方注意表示23の少なくとも一方を選択する。例えば、直進時に、運転者の視線が前方のみに集中している場合には歩行者注意表示21を選択し、運転者の視線が歩行者のみに集中している場合には前方注意表示23を選択する。また、運転者の視点が前方にも歩行者にも向いていない場合(よそ見をしている場合)に、両方の虚像21,23を選択する。これにより、直進時における安全性が高められる。
【0039】
本実施形態の制御部13は、歩行者注意表示21を選択したときにナビゲーション装置8の地図データを参照し、車両1の現在位置が歩行者の存在しない道路(例えば、自動車専用道路や高速自動車国道)であれば、歩行者注意表示21をヘッドアップディスプレイ3に表示させない。すなわちこの場合、制御部13はヘッドアップディスプレイ3に指令(信号)を出力しない。これにより、歩行者が存在し得ない場所では歩行者注意表示21が表示されないため、運転者に煩わしさを与えることがない。
【0040】
また、本実施形態の制御部13は、運転者の視点の高さ位置に基づいて運転者の体格が大柄であるか否かを判断する。制御部13は、運転者の視線の高さ位置が所定位置よりも高い(大柄である)と判断した場合には、フロントガラス2の上側の表示領域2A~2Cに注意表示20を表示させる。なお、所定位置は、例えばフロントガラス2を上下方向に区画するときの仮想的な境界線の高さ位置付近とされる。これにより、運転者の目線の高さに虚像21~24が表示されることから、運転者の注意を引きやすくなる。
【0041】
さらに、本実施形態の制御部13は、選択した虚像21~24を、予め設定された表示位置に表示したとすると、その虚像と車両前方に存在する移動物体とが重なる場合には、表示位置を補正する。ここでいう「重なる」とは、運転者の視線上に移動物体及び虚像がともに位置することを意味する。制御部13は、「重なる」と判断したときには、虚像の表示位置を移動物体と重ならないように、上下方向及び左右方向の少なくとも一方に補正する。
【0042】
例えば、
図4に示すように、右折のタイミングで、車両前方に歩行者30が存在し(条件1)、運転者の視点が所定時間以上動かなければ(条件2)、表示条件が成立するため、制御部13は、表示領域2Fに表示される歩行者注意表示21を選択する。ここで、制御部13は、歩行者注意表示21に対して予め設定された(紐付けされた)表示位置2gに虚像21を映し出した場合に、運転者の視線上に歩行者30と虚像21とが重なるか否かを判断する。そして、重なると判断した場合には、予め設定された表示位置2gを、歩行者30と重ならない位置に補正して、補正した表示位置2g′に虚像21を表示する。これにより、運転者にとって前方の移動物体が見えにくくなることがなく、安全性を高められる。
【0043】
[3.フローチャート]
図5は、上述した制御装置10で実施される制御の手順を説明するためのフローチャートであり、
図6は
図5のサブフローチャートである。これらのフローチャートは、車両1の主電源(パワースイッチ)がオンであるときに所定の演算周期で実施される。フローチャート中のフラグFは、注意表示20をフロントガラス2に表示しているときに1に設定され、注意表示20が表示されていないときに0に設定される。
【0044】
ステップS1では、前方カメラ4や視点感知カメラ5等からの各種情報が取得される。ステップS2では、車両前方に移動物体が存在するか否かが判定され、移動物体が存在しなければ、ステップS19に進む。移動物体が存在するときはステップS3に進み、運転者の視点の位置が前回の演算周期において視点感知カメラ5で検出された位置と同一であるか否かが判定される。
【0045】
視点の位置が前回から変化がなければステップS4に進み、タイマーがカウント中であるか否かが判定される。このタイマーは、視点の動きが止まっている時間を計測するものである。タイマーのカウント中でなければステップS5に進み、タイマーのカウントが開始され、このフローチャートをリターンする。次の演算周期においても、前方に移動物体が存在し、視点の位置が同じであれば、既にタイマーのカウントが開始されているため、ステップS2~S4の判定で全てYesとなり、ステップS6に進み、フラグFが0であるか否かが判定される。
【0046】
注意表示20が表示されていなければ、フラグFが0であるため、ステップS7に進み、タイマーのカウント値(タイマー値)が所定時間以上であるか否かが判定される。タイマー値が所定時間未満であれば、このフローチャートをリターンする。次の演算周期において、ステップS2~S4で全てYesと判定されてステップS7に進んだ場合は、タイマー値に演算周期分の時間が加算されていく。なお、タイマーカウント中に、前方から移動物体がいなくなった場合、又は、視点の位置が動いた場合には、ステップS2又はS3からステップS19に進み、タイマーがカウント中であればそのカウントが停止されるとともに、タイマー値が0にリセットされる。
【0047】
ステップS7において、タイマー値が所定時間以上であると判定されると、続くステップS8では注意表示20を選択するためのサブフローチャート(
図6)が実施される。
図6に示すように、このサブフローチャートでは、まずステップS1で取得された情報に基づき、ウィンカー6により進路変更が検知されているか否かが判定される(ステップT1)。
【0048】
進路変更が検知されているときは、ステップT2において右折であるか否かが判定され、右折であればステップT3に進み、右折でなければ(すなわち左折であれば)、ステップT8に進む。また、ステップT1において進路変更が検知されていなければ、直進と判断されてステップT13に進む。ステップT3~T7は右折時に実施される処理であり、ステップT8~T12は左折時に実施される処理であり、ステップT13~17は直進時に実施される処理である。
【0049】
ステップT3では、運転者の視線が対向車線のみに集中しているか否かが判定され、これを満たすときは歩行者注意表示21が選択される(ステップT4)。ステップT3の条件を満たさないときは、ステップT5において、運転者の視線が歩行者のみに集中しているか否かが判定される。この条件を満たすときは、対向車注意表示22が選択され(ステップT6)、この条件を満たさないときは、歩行者注意表示21及び対向車注意表示22がともに選択される(ステップT7)。ステップT4,T6,T7において注意表示20が選択されたら、このフローチャートをリターンし、
図5のステップS9に進む。
【0050】
ステップT8では、運転者の視線が巻き込み方向のみに集中しているか否かが判定され、これを満たすときは歩行者注意表示21及び前方注意表示23が選択される(ステップT9)。ステップT8の条件を満たさないときは、ステップT10において、運転者の視線が前方のみに集中しているか否かが判定される。この条件を満たすときは、歩行者注意表示21及び巻き込み注意表示24が選択され(ステップT11)、この条件を満たさないときは、歩行者注意表示21,前方注意表示23及び巻き込み注意表示24が選択される(ステップT12)。ステップT9,T11,T12において注意表示20が選択されたら、このフローチャートをリターンし、
図5のステップS9に進む。
【0051】
ステップT13では、運転者の視線が前方のみに集中しているか否かが判定され、これを満たすときは歩行者注意表示21が選択される(ステップT14)。ステップT13の条件を満たさないときは、ステップT15において、運転者の視線が歩行者のみに集中しているか否かが判定される。この条件を満たすときは、前方注意表示23が選択され(ステップT16)、この条件を満たさないときは、歩行者注意表示21及び前方注意表示23がともに選択される(ステップT17)。ステップT14,T16,T17において注意表示20が選択されたら、このフローチャートをリターンし、
図5のステップS9に進む。
【0052】
図5に示すように、ステップS9では、車両1の現在位置が歩行者の存在しない道路であるか否かが判定される。この条件を満たすときは、ステップS8で歩行者注意表示21が選択された場合に、その歩行者注意表示21を表示しないことが決められる(ステップS10)。なお、車両1が歩行者の存在しうる道路にいる場合には、ステップS9からステップS10をスキップし、ステップS11に進む。
【0053】
ステップS11では、運転者の視線の高さ位置に基づき、運転者が大柄であるか否かが判定され、大柄であればステップS12に進み、大柄でなければステップS15に進む。なお、ステップS12~S14の処理及びステップS15~S17の処理は、注意表示20が表示される表示領域2A~2Fが、フロントガラス2の上側か下側かが異なるのみである。
【0054】
ステップS12及びステップS15ではそれぞれ、ステップS8で選択された注意表示20(虚像21~24)を、予め設定されている表示位置に表示したとすると、注意表示20と前方の移動物体とが重なるか否かが判定される。この条件を満たすときは、ステップS13又はステップS16に進み、注意表示20と前方の移動物体とが重ならないように表示位置が補正される。そして、補正後の表示位置に注意表示20が表示されるように、ヘッドアップディスプレイ3に指令が出力される(ステップS14,S17)。
【0055】
また、注意表示20と移動物体とが重ならないときは、ステップS13,S16をスキップして、予め設定された表示位置に注意表示20が表示されるよう、ヘッドアップディスプレイ3に指令が出力される(ステップS14,S17)。なお、ステップS10で、歩行者注意表示21を表示しないと決定されたときは、ステップS14,S17での出力指令から歩行者注意表示21が除外される。フロントガラス2に注意表示20が表示されると、ステップS18においてフラグFが1に設定され、このフローチャートをリターンする。
【0056】
次の演算周期においてステップS6に進んだ場合は、フラグFが1に設定されているため、ステップS7~S18をスキップし、このフローチャートをリターンする。つまり、ステップS2又はS3の判定でNoルートに進まない限り、フロントガラス2には注意表示20が表示され続ける。
【0057】
注意表示20の表示中に、前方から移動物体がいなくなった場合、又は、視点の位置が動いた場合には、ステップS2又はS3からステップS19に進み、タイマーカウントが停止されるとともにタイマー値が0にリセットされる。そして、注意表示20が消され(ステップS20)、フラグFが0にリセットされて(ステップS21)、このフローチャートをリターンする。
【0058】
[4.効果]
(1)上述した表示制御装置では、運転者の視点が所定時間以上動かないときに、進路変更情報及び視点の方向に応じた注意表示20をフロントガラス2に表示する。すなわち、運転者に対して適切なタイミングで報知を行い、運転者の注意(視線)を誘導できるため、安全性を高めることができる。
【0059】
(2)例えば、車両1の右折時では、対向車にも歩行者にも注意を払う必要があるが、視点が所定時間以上動かない場合には一方にだけ注意が向いている可能性がある。このような場合に、上述した表示制御装置は、注意が向いていない他方に視線を向けるような注意表示20(虚像21,22)をフロントガラス2に表示するため、運転者の注意(視線)を誘導でき、安全性を高めることができる。また、対向車にも歩行者にも注意を向けていない場合(よそ見運転時)には、両者に注意を向けるような注意表示20(虚像21,22)をフロントガラス2に表示するため、運転者の注意(視線)を誘導でき、安全性を高めることができる。
【0060】
(3)また、車両1の左折時では、後方から来る自転車や二輪車等の巻き込みと歩行者とに注意を払う必要があるが、視点が所定時間以上動かない場合には一方にだけ注意が向いている可能性がある。このような場合に、上述した表示制御装置は、注意が向いていない他方に視線を向けるような注意表示20(虚像21,23,24)をフロントガラスに表示することで、運転者の注意(視線)を誘導でき、安全性を高めることができる。また、巻き込み方向にも歩行者にも注意を向けていない場合(よそ見運転時)には、両者に注意を向けるような注意表示20(虚像21,23,24)をフロントガラス2に表示するため、運転者の注意(視線)を誘導でき、安全性を高めることができる。
【0061】
(4)上述した表示制御装置によれば、車両1が歩行者の存在しない道路にいる場合には歩行者注意表示21が表示されないため、運転者に煩わしさを与えることがない。
(5)また、上述した表示制御装置によれば、前方の移動物体と注意表示20とが重ならないように、注意表示20の表示位置が補正されるため、安全性をより高めることができる。
【0062】
[5.その他]
上述した表示制御装置は一例であって、上述したものに限られない。例えば、制御部13は、車両1の左折時に、視点が巻き込み方向を向いていれば歩行者注意表示21及び前方注意表示23の一方のみを選択してもよい。同様に、車両1の左折時に、視点が前方を向いていれば歩行者注意表示21及び巻き込み注意表示24の一方のみを選択してもよい。また、直進時には、注意表示20を選択しない(表示させない)構成としてもよい。
【0063】
注意表示20の種類は上記の四つ(虚像21~24)に限られず、いずれかの虚像を省略してもよいし、これら以外の虚像が含まれていてもよい。また、各虚像の表示領域や表示位置は一例であって、上述した構成に限られない。さらに、各虚像を表示し続けるときに、その表示時間が長くなるに連れて虚像を大きくしたり色を変えたりして強調表示してもよい。なお、上述した実施形態では、フロントガラス2が六つの表示領域2A~2Fに区画されているが、上下に分かれていなくてもよいし、車幅方向が二つ又は四つ以上に区画されていてもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、右ハンドル車両1を例示したが、表示制御装置は左ハンドル車両にも適用可能である。また、上述した実施形態では、車両1が左側通行である国(例えば日本)を走行する場合を説明したが、右側通行である国を走行する車両に表示制御装置を適用してもよい。右側通行である国では、左折すると「対向車線を横断する方向に曲がる」ことになり、右折すると「対向車線を横断しない方向に曲がる」ことになるため、上述した実施形態での注意表示20(例えば巻き込み表示24)を表示する位置を、左右逆転させればよい。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 フロントガラス
2A,2B,2C,2D,2E,2F 表示領域
2g 表示位置
2g′ 補正後の表示位置
3 ヘッドアップディスプレイ
4 前方カメラ(撮像手段)
5 視点感知カメラ(検出手段)
6 ウィンカー(方向指示器)
8 ナビゲーション装置
8a 画面
9 ダッシュボード
10 制御装置(制御手段)
11 取得部
12 判定部
13 制御部
20 注意表示(虚像)
21 歩行者注意表示(歩行者への注意を促す虚像)
22 対向車注意表示(対向車への注意を促す虚像)
23 前方注意表示(前方への注意を促す虚像)
24 巻き込み注意表示(巻き込む方向への注意を促す虚像)
30 歩行者(移動物体の一例)