(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
H04L 12/28 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
H04L12/28 200Z
H04L12/28 100A
(21)【出願番号】P 2019137336
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 浩
【審査官】宮島 郁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-219626(JP,A)
【文献】特開2014-028547(JP,A)
【文献】特開2006-229887(JP,A)
【文献】特開2018-172032(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154828(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0052677(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108605004(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L12/00-13/18,41/00-49/9057,61/00-65/80,69/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置に対応した複数の機能ECUと、
複数の前記機能ECUと通信する統合ECUと、
を備え、
前記統合ECUは、
前記車両に対する制御要求信号を受信する受信部と、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を短くする短縮処理を実行する短縮設定部と、
前記短縮処理の対象の選択に連動して前記短縮処理の対象でない前記機能ECUのうち少なくとも1つの前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を長くする延長処理を実行する延長設定部と、
を備え
、
前記延長設定部は、前記短縮処理の実行の有無にかかわらず、前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUに対して前記延長処理を実行可能に構成されている車両用制御装置。
【請求項2】
前記受信部は、前記制御要求信号を所定間隔で受信するように構成され、
前記短縮設定部及び前記延長設定部は、前記受信部が前記制御要求信号を受信するごとに通信周期を設定する請求項
1に記載の車両用制御装置。
【請求項3】
前記制御要求信号は、制御量の情報を含み、
前記短縮設定部は、前記制御量の大きさに応じて前記短縮処理での短縮量を設定し、
前記延長設定部は、前記制御量の大きさに応じて前記延長処理での延長量を設定する請求項1
又は2に記載の車両用制御装置。
【請求項4】
前記制御要求信号は、さらに制御の種類を示す情報を含み、
前記短縮設定部は、前記制御量の大きさと前記制御の種類に応じて前記短縮処理での短縮量を設定し、
前記延長設定部は、前記制御量の大きさと前記制御の種類に応じて前記延長処理での延長量を設定する請求項
3に記載の車両用制御装置。
【請求項5】
前記機能ECUは、自身の機能を発揮するための機能プロセッサを備え、
前記統合ECUは、各前記機能ECUの前記機能プロセッサと同じロジックで演算処理を実行する統合プロセッサを備え、
前記機能ECUは、前記機能プロセッサでの演算結果と前記統合ECUから受信した制御指示信号とを比較して、前記制御指示信号の真偽を判断し、
前記統合ECUは、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、制御対象の前記機能ECUに対して、少なくとも制御量を示す制御指示データと、車両状態を示す状態データとを含む前記制御指示信号を送信する送信部と、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUへの前記制御指示信号について、前記状態データの少なくとも一部を前記制御指示データに変更する信号変更処理を実行する信号変更部と、
を備える請求項1~
4の何れか一項に記載の車両用制御装置。
【請求項6】
それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置に対応した複数の機能ECUと、
複数の前記機能ECUと通信する統合ECUと、
を備え、
前記統合ECUは、
前記車両に対する制御要求信号を受信する受信部と、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を短くする短縮処理を実行する短縮設定部と、
前記短縮処理の対象の選択に連動して前記短縮処理の対象でない前記機能ECUのうち少なくとも1つの前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を長くする延長処理を実行する延長設定部と、
を備え、
前記機能ECUは、自身の機能を発揮するための機能プロセッサを備え、
前記統合ECUは、各前記機能ECUの前記機能プロセッサと同じロジックで演算処理を実行する統合プロセッサを備え、
前記機能ECUは、前記機能プロセッサでの演算結果と前記統合ECUから受信した制御指示信号とを比較して、前記制御指示信号の真偽を判断し、
前記統合ECUは、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、制御対象の前記機能ECUに対して、少なくとも制御量を示す制御指示データと、車両状態を示す状態データとを含む前記制御指示信号を送信する送信部と、
前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUへの前記制御指示信号について、前記状態データの少なくとも一部を前記制御指示データに変更する信号変更処理を実行する信号変更部と、
を備える車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載ネットワークは、通信リソースが限られている。したがって、車両用制御装置は、ECU間の通信量を制御する必要がある。ここで、例えば特開2015-219626号公報には、周期的な通信を、警告機能制御系通信を含む複数の通信種別に分類し、当該通信種別ごとに、危険度に基づき通信周期を制御する通信制御装置が開示されている。この装置では、危険度が高い場合、警告機能制御系通信の通信周期を短くし、且つそれ以外の通信周期を長くする。これにより、通信リソースを確保しつつ警告機能制御系通信の通信周期を短くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置は、通信種別ごとに通信周期を制御するように構成されている。この構成によれば、例えばブレーキ、ステアリング、及びエンジン等である車両の挙動に関わる装置を含む通信種別に対して、通信周期を短くすると、同種別内のすべての挙動関連装置に対して一斉に通信周期が短くなる。これにより、通信ネットワークが混み合い、応答性の良い制御が実行されない可能性がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、通信負荷の上昇を抑制しつつ、車両の挙動に関わる装置に対して状況に適した制御が可能となる車両用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係る車両用制御装置は、それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置に対応した複数の機能ECUと、複数の前記機能ECUと通信する統合ECUと、を備え、前記統合ECUは、前記車両に対する制御要求信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を短くする短縮処理を実行する短縮設定部と、前記短縮処理の対象の選択に連動して前記短縮処理の対象でない前記機能ECUのうち少なくとも1つの前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間の通信周期を長くする延長処理を実行する延長設定部と、を備える。
【0007】
本発明の第2態様に係る車両用制御装置は、それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置に対応した複数の機能ECUと、複数の前記機能ECUと通信する統合ECUと、を備え、前記機能ECUは、自身の機能を発揮するための機能プロセッサを備え、前記統合ECUは、各前記機能ECUの前記機能プロセッサと同じロジックで演算処理を実行する統合プロセッサを備え、前記機能ECUは、前記機能プロセッサでの演算結果と前記統合ECUから受信した制御指示信号とを比較して、前記制御指示信号の真偽を判断し、前記統合ECUは、さらに、前記車両に対する制御要求信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、制御対象の前記機能ECUに対して、制御の種類と制御量を示す制御指示データと車両状態を示す状態データとを含む前記制御指示信号を送信する送信部と、前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUへの前記制御指示信号について、前記状態データの少なくとも一部を前記制御指示データに変更する信号変更処理を実行する信号変更部と、を備える。
【0008】
本発明の第3態様に係る車両用制御装置は、それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置に対応した複数の機能ECUと、複数の前記機能ECUと通信する統合ECUと、を備え、前記統合ECUは、前記車両に対する制御要求信号を受信する受信部と、前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、複数の前記機能ECUのうちから1つ以上の前記機能ECUを選択し、選択された前記機能ECUと前記統合ECUとの間で設定された通信周期を長くする延長処理を実行する延長設定部と、前記延長処理が実行された状態で前記受信部が受信した前記制御要求信号に応じて、前記選択ECUの少なくとも1つと前記統合ECUとの間の通信周期を短くすべきか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて、前記延長処理された前記機能ECUの少なくとも1つと前記統合ECUとの間で設定された通信周期を短くする短縮処理を実行する短縮設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
第1態様によれば、車両の挙動に関わる複数の装置について、1つ以上の装置に対して短縮処理が実行される場合に、他の装置のうち1つ以上の装置に対して延長処理が実行される。これにより、車両の挙動に関わる装置の通信について、統合ECUと複数の機能ECUとの通信が混み合うことが抑制され、通信負荷の上昇が抑制される。さらに、高い応答性が要求される制御に対して、通信周期が短くなることで応答性を高めることができる。つまり、通信負荷の上昇を抑えつつ、車両の挙動に関わる装置に対して状況に適した制御が可能となる。
【0010】
第2態様によれば、車両の挙動に関わる複数の装置のうち選択された装置に対して、信号変更処理が実行される。これにより、制御指示信号を構成するデータのうち、制御指示データの割合が大きくなり、1回の信号で送信できる制御指示量が大きくなる。つまり、通信周期を変えることなく応答性を向上させることができる。第2態様によれば、通信負荷を上げることなく、車両の挙動に関わる装置に対して状況に適した制御が可能となる。また、機能ECUが制御指示信号の真偽を判断するため、状態データを制御指示データに置き換えても、安全に制御を実行することができる。
【0011】
第3態様によれば、車両の挙動に関わる複数の装置のうち選択された装置に対して、信延長処理が実行される。延長処理のみが実行されることで、通信負荷が低減される。また、延長処理が実行された装置に対して、高い応答性が求められる制御が要求された場合、短縮処理が実行され、必要な応答性が発揮される。つまり、挙動関連装置9に対して状況に適した制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態の車両用制御装置の構成図である。
【
図2】第1実施形態の周期設定制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】第1実施形態の冗長構成を説明するための説明図である。
【
図4】第2実施形態の車両用制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。また、説明に用いる各図は概念図である。また、本明細書において、ECUは、電子制御ユニットであって、少なくとも1つのプロセッサを備えている。
【0014】
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制御装置1は、
図1に示すように、複数の機能ECU2と、統合ECU3と、を備えている。複数の機能ECU2は、それぞれが車両の挙動に関わる別々の装置9に対応している。各機能ECU2は、対応する装置9を制御する制御装置であって、装置9の一部を構成する。車両の挙動は、主に、走る、止まる、及び曲がるである。
【0015】
具体的に、車両の挙動に関わる装置(以下「挙動関連装置」という)9は、例えば、ブレーキ装置、ステアリング装置、エンジン装置、自動変速機、又はサスペンション装置等である。したがって、複数の機能ECUは、例えば、ブレーキECU(Brk ECU)、ステアリングECU(STR ECU)、エンジンECU(ENG ECU)、自動変速ECU(AT ECU)、及びサスペンションECU(SUS ECU)等を含んでいる。複数の機能ECUは、上記で列挙したECUの2つ以上を含んで構成される。
【0016】
統合ECU3は、複数の機能ECU2と通信するECUである。通信ネットワークは、CAN4により構成されている。統合ECU3は、CAN4を介して複数の機能ECU2を管理し、制御要求信号に応じて機能ECU2に対して制御指示信号を送信する。具体的に、統合ECU3は、制御量算出部30と、受信部31と、短縮設定部32と、延長設定部33と、送信部34と、を備えている。
【0017】
制御量算出部30は、車両の状態情報に基づいて、車両の挙動について要求される制御の制御量を算出する。車両の状態情報は、例えば、車両の挙動に関するセンサ(例えばペダルストロークセンサ、圧力センサ、加速度センサ、車輪速度センサ、ステアリングセンサ、又はGPS等)の検出値である。
【0018】
制御量算出部30は、例えばドライバがブレーキペダルを操作した場合、そのストロークに応じて要求制動力(要求減速度)を算出する。また、制御量算出部30は、例えば、各車輪に設けられた車輪速度センサの検出結果に基づいて、アンチスキッド制御(ABS制御とも呼ばれる)の実行の可否を判定し、実行する場合は制御量(例えば減圧量)を算出する。
【0019】
また、制御量算出部30は、例えば、ドライバのステアリング操作(自動運転車両の場合は不要)、現在地情報(GPS情報)、及びナビゲーション情報に基づいて、今後の目標走行軌跡に沿ったステアリングの制御量を算出する。制御量算出部30は、算出結果から制御要求信号を生成し、受信部31に送信する。
【0020】
受信部31は、車両に対する制御要求信号を受信する。制御要求信号は、例えば、要求制動力、アンチスキッド制御の要求制御量、ステアリング制御の要求制御量、要求駆動力、変速要求、又はサスペンション制御の要求制御量等を示す信号である。つまり、制御要求信号は、制御量の情報を含む。なお制御要求信号は、制御量の情報に加え、制御の種類を示す情報も含んでもよい。本実施例では、制御要求信号が制御の種類を示す情報も含む例を用いて制御を説明する。
【0021】
短縮設定部32は、受信部31が受信した制御要求信号に応じて、複数の機能ECU2のうちから1つ以上の機能ECU2を選択し、選択された機能ECU2と統合ECU3との間の通信周期を短くする短縮処理を実行する。統合ECU3と機能ECU2との間の通信周期は、機能ECU2ごとに設定されており、統合ECU3に記憶されている。各機能ECU2の初期設定(デフォルト設定)の通信周期は、すべて同一に設定されてもよく、個々に又はグループごとに別々の値に設定されてもよい。
【0022】
短縮設定部32は、受信部31が(例えば所定期間内に)複数の制御要求信号を受信した場合、複数の制御要求信号の中で優先度を決定し、優先度の高い制御要求信号に対応する機能ECU2を短縮対象として選択する。例えば、受信部31が制御量の大きい要求制動力と制御量の小さいサスペンション制御の要求制御量を受信している場合、短縮設定部32は、要求制動力の優先度を相対的に高く設定する。そして、短縮設定部32は、要求制動力に対応する機能ECU2であるブレーキECUを通信周期の短縮対象に選択する。短縮設定部32は、短縮処理において、短縮対象の機能ECU2の通信周期を、初期設定の通信周期よりも短くする。
【0023】
延長設定部33は、短縮処理の対象の選択に連動して短縮処理の対象でない機能ECU2のうち少なくとも1つの機能ECU2を選択し、選択された機能ECU2と統合ECU3との間の通信周期を長くする延長処理を実行する。延長設定部33は、延長対象の機能ECU2の通信周期を、初期設定の通信周期よりも長くする。第1実施形態の延長設定部33は、短縮処理の対象でない機能ECU2すべてを延長処理の対象として選択する。なお、延長設定部33は、短縮処理の対象でない機能ECU2のうち1つ以上の機能ECU2を延長処理の対象として選択すればよい。
【0024】
用語の定義として、「短縮処理」は、対象の機能ECU2と統合ECU3との間の通信周期を短くする処理である。また、「延長処理」は、対象の機能ECU2と統合ECU3との間の通信周期を長くする処理である。これらの処理は、例えば、ある制御を実行する際に、初期設定の通信周期に対して、新たに通信周期を設定する処理といえる。
【0025】
送信部34は、受信部31が受信した制御要求信号に応じて、制御対象の機能ECU2に対して制御量を示す制御指示データを含む制御指示信号を送信する。制御指示データは、少なくとも制御量を示しており、制御の種類を示すデータを含んでもよい。また制御指示信号は、制御量を示す制御指示データに加えて、車両状態を示す状態データを含んでもよい。本実施例では、制御指示信号が制御指示データと状態データとを含む例を用いて制御を説明する。機能ECU2は、主に制御指示データに基づいて制御を実行する。状態データには、例えば各種センサの検出値等(状態情報)が含まれている。送信部34は、設定された通信周期に基づいて、対象の機能ECU2に制御指示信号を送信する。統合ECU3は、指示した制御が完了すると、通信周期を初期設定の値に戻す。
【0026】
(通信周期制御の一例)
ここで、統合ECU3による通信周期制御の流れの一例を、
図2を参照して説明する。受信部31が制御要求信号を受信した場合(S101:Yes)、短縮設定部32は、各機能ECU2における車両に発生させる力の大きさに基づいて、各機能ECU2に優先度を設定する(S102)。車両に発生させる力は、例えば駆動力、制動力、又はステアリング作動力等である。なお、制御要求信号を受信していない場合(S101:No)、通信周期の設定が行われず現状の設定が維持される。
【0027】
また、短縮設定部32は、各機能ECU2における車両に発生させる力の微分値(加速度)の大きさに基づいて、各機能ECU2で行う制御種類について優先度を設定する(S103)。
【0028】
ここで、モータを有するブレーキアクチュエータが車両に設けられている例を用いて上記制御(S102、S103)を説明する。例えば、受信した制御要求信号が相対的に大きいアンチスキッド制御の要求制御量を示すものと相対的に小さいその他の要求制御量を示すものであった場合、短縮設定部32は、ブレーキ装置にかかる機能ECU2の優先度を最高値に設定し(S102)、さらにブレーキアクチュエータのモータ制御の優先度を最高値に設定する(S103)。
【0029】
また、第1液圧発生ユニットと第2液圧発生ユニットとを備えるブレーキ装置が、互いに制御内容が異なる第1液圧制御と第2液圧制御とを実行可能に構成されている例を用いて上記制御(S102、S103)を説明する。第1液圧発生ユニットは、アキュムレータと電磁弁とを備える。第2液圧発生ユニットは、モータ及びポンプ等を備える。第1液圧制御は、第1液圧発生ユニットを用いて実行される制御である。第2液圧制御は、例えば第2液圧発生ユニットを用いて実行される制御である。第1液圧制御は、第2液圧制御よりも大きな制動力を発生可能な制御である。第2液圧制御は、第1液圧制御よりも調圧精度に優れた制御である。この場合、減圧及び加圧の精度に関しては第2液圧制御が相対的に優れている。したがって、精度が求められる制御においては、第2液圧制御すなわちモータ制御が優先される。一方、例えば全ホイールシリンダに対して大きな加圧量が必要な場合、第1液圧制御が優先される。このように、ブレーキ装置における制御種類と制御量との組み合わせとしては、例えば、第1液圧制御(例えば通常の制動制御)と目標液圧、第2液圧制御(例えばアンチスキッド制御)と目標モータトルク、及びスリップ率制御と目標スリップ率等が挙げられる。なお、第1液圧発生ユニットはアキュムレータと電磁弁を備えなくてもよい。第2液圧発生ユニットはモータとポンプとを備えなくてもよい。第1液圧発生ユニットと第2液圧発生ユニットは、互いに異なる制御を実行可能に構成されていればよい。また、ブレーキ装置がPID制御を実行している場合には、制御の種類を示す情報に基づき、P制御、I制御、及びD制御のいずれの制御を優先するかが決定されてもよい。
【0030】
そして、短縮設定部32が短縮処理を実行し、延長設定部33が延長処理を実行することで、通信周期が変更される(S104)。上述のように、短縮設定部32は、設定した優先度に基づいて、短縮処理対象の機能ECU2と、短縮処理対象の機能ECU2で優先する制御種類とを決定する。短縮処理での短縮量は、機能ECU2ごとに異なっていてもよい。また、延長設定部33は、短縮処理対象の機能ECU2以外の機能ECU2すべてを、延長処理対象の機能ECU2に設定する。延長処理での延長量は、機能ECU2ごとに異なっていてもよい。
【0031】
受信部31は、制御要求信号を所定間隔(所定周期)で受信するように構成されている。そして、短縮設定部32及び延長設定部33は、受信部31が制御要求信号を受信するごとに通信周期を設定する。短縮設定部32及び延長設定部33は、1つの周期設定部ともいえる。短縮設定部32は、制御量の大きさに応じて短縮処理での短縮量を設定する。延長設定部33は、制御量の大きさに応じて延長処理での延長量を設定する。第1実施形態において、短縮設定部32は、制御量の大きさと制御の種類に応じて短縮処理での短縮量を設定する。延長設定部33は、制御量の大きさと制御の種類に応じて延長処理での延長量を設定する。短縮設定部32は、例えば要求された制御量が大きいほど短縮処理での短縮量を大きくしてもよい。また、延長設定部33は、例えば要求された制御量が小さいほど延長処理での延長量を大きくしてもよい。なお、通信周期は、制御要求信号の受信前後で状況が変わらなければ、あるいは変更の必要がないと判定されれば、現在の値と同じ値に設定される。
【0032】
そして、統合ECU3は、S102における力の絶対値が力閾値を超えているか否かの判定と、S103における力の微分値が微分値閾値を超えているか否かの判定を実行する(S105)。力の絶対値が力閾値を超えている場合又は力の微分値が微分値閾値を超えている場合(S105:Yes)、送信部34は、設定した通信周期にかかわらず、即時に当該力に関する制御指示信号を対象の機能ECU2に送信する(S107)。
【0033】
また、力の絶対値が力閾値以下であり且つ力の微分値が微分値閾値以下である場合(S105:No)、統合ECU3は、即時開始条件が成立するか否かを判定する(S106)。即時開始条件が成立した場合(S106:Yes)、即時に対象の機能ECU2に制御要求信号が送信される(S107)。即時開始条件は、例えば、現状が制御開始時及び特殊路面(例えば悪路、低μ路面、又はμジャンプ路面)走行時の少なくとも一方を満たすことで成立する。μは路面の摩擦係数である。
【0034】
したがって、例えば、統合ECU3が通常の制動制御からアンチスキッド制御又は横滑り防止制御に制御を切り替える際すなわち新たな制御の開始時には、即時開始条件が成立し、即時に制御指示信号が送信される。統合ECU3は、制御指示信号の即時送信の可否について判定する判定部を備えているといえる。また、S105における要求値が閾値より大きいことも、即時開始条件といえる。
【0035】
短縮処理対象の機能ECU2に対して即時に制御指示信号が送信された後は、当該機能ECU2に対して設定された通信周期すなわち短縮された通信周期に従って制御指示信号が送信される。なお、即時開始条件が成立していない場合(S106:No)、設定した通信周期に応じて、制御指示信号が送信される。
【0036】
(効果)
短縮設定部32及び延長設定部33を備える構成によれば、車両の挙動に関わる複数の装置について、1つ以上の装置に対して短縮処理が実行される場合に、他の装置のうち1つ以上の装置に対して延長処理が実行される。これにより、挙動関連装置9の通信について、統合ECU3と複数の機能ECU2との通信が混み合うことが抑制され、通信負荷の上昇も抑制される。さらに、高い応答性が要求される制御に対して、通信周期が短くなることで応答性を高めることができる。つまり、通信負荷の上昇を抑えつつ、挙動関連装置9に対して状況に適した制御が可能となる。
【0037】
また、第1実施形態では、受信部31は制御要求信号を所定間隔で受信し、且つ、短縮設定部32及び延長設定部33は、受信部31が制御要求信号を受信するごとに通信周期を設定する。この構成により、統合ECU3は、常時、制御要求信号を監視し、通信周期を設定することができる。この構成によれば、イベント発生に備えて又はイベント発生に対応して通信周期を設定する構成とは異なり、常時、制御要求信号に適した通信周期の設定が為される。
【0038】
また、第1実施形態では、短縮設定部32は制御量が大きいほど短縮処理での短縮量を大きくし、延長設定部33は制御量が小さいほど延長処理での延長量を大きくする。この構成によれば、より要求に応じた制御が可能となる。例えば、車両を旋回させる場合、ブレーキ装置及びステアリング装置に対して大きな制御量が要求される。この場合、ブレーキ装置及びステアリング装置の機能ECU2に対して短縮量が大きい短縮処理が実行され、エンジン装置等の機能ECU2に対して延長量が大きい延長処理が実行される。これにより、通信リソースを確保しつつ、効率的に必要な応答性を上げることができる。
【0039】
また、第1実施形態の延長設定部33は、短縮処理の対象でない機能ECU2すべてを延長処理の対象に設定する。この構成により、通信リソースをより効率的に短縮処理に注力させることができる。この構成によれば、通信周期の短縮量の確保と、通信周期の延長量の分散とを効率よく実現することができる。
【0040】
(冗長構成)
本実施形態において、
図3に示すように、機能ECU2は、自身の機能を発揮するための機能プロセッサ2aを備えている。例えばブレーキ装置の機能ECU2に含まれる機能プロセッサ2aは、ブレーキ装置に係る演算処理を実行し、各種制動制御を実行する。
【0041】
統合ECU3は、各機能ECU2の機能プロセッサ2aと同じロジックで演算処理を実行する統合プロセッサ3aを備えている。統合プロセッサ3aは、すべての機能ECU2の機能プロセッサ2aと同様の演算処理を実行可能であり、制御要求信号に応じた演算処理を実行する。
【0042】
ここで、機能ECU2は、機能プロセッサ2aでの演算結果と統合ECU3から受信した制御指示信号とを比較して、制御指示信号の真偽を判断する。機能ECU2と統合ECU3において、互いに同じセンサの検出値から同じロジックで次の制御内容が演算されるため、機能ECU2が正常に信号を受信した場合、機能ECU2の演算結果と受信した制御指示信号(制御指示データ)とは同期した内容となる。この原理から、機能ECU2は、受信した制御指示信号が不正であるか否かを判定することができる。また、機能ECU2及び統合ECU3の一方が故障した場合でも、他方のECUにて制御が可能である。このように、本実施形態では、制御について、セキュリティチェック機能を持った冗長構成が採用されている。
【0043】
(周期設定制御の別例)
延長設定部33は、短縮処理の実行の有無にかかわらず、受信部31が受信した制御要求信号に応じて1つ以上の機能ECU2を選択し、選択された機能ECU2に対して延長処理を実行可能に構成されている。換言すると、延長設定部33は、短縮処理が実行されていない状態で延長処理を実行可能に構成されている。
【0044】
周期設定制御の別例として、統合ECU3は、短縮処理をすることなく延長処理だけを実行することも可能である。より具体的に、延長設定部33は、受信部31が受信した制御要求信号に応じて、複数の機能ECU2のうちから1つ以上の機能ECU2を選択し、選択された機能ECU2と統合ECU3との間で設定された通信周期を長くする延長処理を実行する。
【0045】
そして、統合ECU3は、延長処理が実行された状態で受信部31が受信した制御要求信号に応じて、前記延長処理が為された前記機能ECUの少なくとも1つと前記統合ECUとの間の通信周期を短くすべきか否かを判定する。短縮設定部32は、統合ECU3(判定部)の判定結果に基づいて、延長処理された機能ECU2の少なくとも1つと統合ECU3との間で設定された通信周期を短くする短縮処理を実行する。短縮処理の実行にあたっては、通信リソースを確保するために、他の機能ECU2に対して延長処理が実行されてもよい。
【0046】
上記のように延長処理のみを単独で実行可能な構成によれば、延長処理のみが為されることで、通信負荷が低減される。また、延長処理が実行された装置に対して、高い応答性が求められる制御が要求された場合、短縮処理が実行され、必要な応答性が発揮される。つまり、挙動関連装置9に対して状況に適した制御が可能となる。
【0047】
また、統合ECU3が、乗員の乗り心地の観点から、通信周期が長いほうが好ましい状況を検出し、当該状況において延長処理のみを実行することができる。これによれば、状況に応じて、乗り心地の向上と通信負荷の低減が可能となる。また、延長処理が実行されている状態でも、統合ECU3が短縮処理をすべきか否かを判定しているため、応答性の確保の面でも問題はない。
【0048】
例えば、車両が任意のカーブを走行する際、カーブの入口から出口までの間に、初期設定の通信周期では5回の制御指示信号が対象の機能ECU2に送信される。ここで、統合ECU3は、旋回に必要な力の絶対値と微分値と積分値とを演算し、それら3つの値を用いて、乗り心地と安全性の観点から最適な制御(例えばカーブの最適な目標走行軌跡)を選択することができる。統合ECU3は、例えば、旋回に必要な力の積分値に基づく制御が最適と判定すると、対象の機能ECU2に対して延長処理を実行する。これにより、カーブの入口から出口までの間に、3回の制御指示信号が対象の機能ECU2に送信され、滑らかにカーブを走行することが可能となる。この延長処理が実行された状態で、例えば路面の摩擦係数が大きく変化した等の特殊事象が検出された場合、対象の機能ECU2に対して短縮処理が実行される。この短縮処理は、単独で実行されても、あるいは別の機能ECU2に対する延長処理とセットで実行されてもよい。短縮処理と合わせて延長処理を実行することで、より大きな短縮量を確保できる。
【0049】
また、延長処理のみを実行可能な構成において、統合ECU3は、延長処理を実行したことを把握している。このことから、統合ECU3は、通信周期の延長に合わせて、フィルタ処理の周期(フィルタリング周期)も変更することができる。これにより、無駄なフィルタ処理が省かれ、全体の通信負荷がさらに低減される。このように、データの更新タイミングに合わせてフィルタ処理をかけること、すなわちサンプルにあったフィルタリングが為されることで、通信負荷はより低減される。
【0050】
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制御装置は、第1実施形態とは異なり、
図4に示すように、統合ECU3が、短縮設定部32及び延長設定部33に代えて信号変更部35を備えている。以下、異なる点についてのみ説明する。
【0051】
信号変更部35は、受信部31が受信した制御要求信号に応じて、複数の機能ECU2のうちから1つ以上の機能ECU2を選択し、選択された機能ECU2への制御指示信号について、状態データの少なくとも一部を制御指示データに変更する信号変更処理を実行する。統合ECU3は、制御の指示内容を、予め決められたデータ量の制御指示信号により、対象の機能ECU2に伝達する。送信部34は、制御のデータ量に応じて、制御の指示内容を複数の制御指示信号に分け、通信周期ごとに制御指示信号を送信する。この制御指示信号は、通常、第1実施形態同様、制御指示データと状態データとを含んでいる。
【0052】
第2実施形態では、信号変更処理により、制御指示信号に含まれる状態データの少なくとも一部(本例では状態データのすべて)が制御指示データに置き換わる。
図3の冗長構成では、機能ECU2が状態データを受信しなくても、統合ECU3と同じロジックでの演算処理により自身が次にする制御を把握しているため、制御指示データの受信により信号の真偽が判断できる。
【0053】
(効果)
第2実施形態によれば、車両の挙動に関わる複数の装置のうち選択された装置に対して、信号変更処理が実行される。これにより、制御指示信号を構成するデータのうち、制御指示データの割合が大きくなり、1回の信号で送信できる制御指示量が大きくなる。つまり、通信周期を変えることなく応答性を向上させることができる。つまり、第2実施形態によれば、通信負荷を上げることなく、挙動関連装置9に対して状況に適した制御が可能となる。また、機能ECU2が制御指示信号の真偽を判断するため、状態データを制御指示データに置き換えても、安全に制御を実行することができる。
【0054】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、第1実施形態では冗長構成を採用しなくてもよい。つまり、第1実施形態では、制御について、統合ECU3と機能ECU2とが同じロジックで演算処理を実行していなくてもよい。この場合、例えば、統合ECU3は、冗長性を確保するために複数のプロセッサを備えてもよい。このように、
図3のような冗長構成でない場合でも、第1実施形態同様、適切に通信周期を設定することができる。
【0055】
また、統合ECU3は、複数のECUで構成されてもよい。例えば統合ECU3は、受信部31として機能するECUを備えても良い。また、制御要求信号は、制御量算出部30ではなく、別のECU等で生成された信号であってもよい。また、車内の通信ネットワークは、上記実施形態では有線で構築されているが、少なくとも一部が無線で構築されていてもよい。また、挙動関連装置9としては、少なくともブレーキ装置と、エンジン装置と、ステアリング装置とが含まれることが好ましい。また、本発明は、自動運転車両でも有効に機能する。
【0056】
また、第2実施形態の統合ECU3は、
図4の点線を構成に含むように、さらに第1実施形態の短縮設定部32及び延長設定部33を備えても良い。これにより、統合ECU3は、状況に応じて、短縮処理及び延長処理とともに又はこれらの処理に代えて、信号変更処理を実行することができる。例えば短縮処理且つ信号変更処理が為されることで、応答性はさらに向上する。これにより、通信負荷の上昇を抑制しつつ、さらに制御要求に適した制御を実行することができる。
【0057】
上記実施形態では、制御要求信号が制御の種類を含んでいた。しかし制御要求信号は制御種類を含まなくてもよい。この場合、例えば
図2で示される通信周期制御において、ステップS103は実行されずに、ステップS102の後にステップS104に移行することができる。またこの場合、送信部34が送信する制御指示信号に含まれる制御指示データは、制御の種類を示すデータを含まない。制御指示信号を受信した機能ECU2が、制御指示データに含まれる制御量を示すデータに基づき、制御の種類を決定してもよい。
【0058】
上記実施形態では、車両に発生させる力の微分値に基づいて、機能ECU2が実行する制御の種類の優先度が設定された(S103)。しかし、力の微分値以外に基づいて、制御の種類の優先度が設定されてもよい。例えば、要求信号に含まれる制御の種類が、力の微分値は小さいものの短期間で頻繁に実行される必要がある制御の場合、この制御の優先度が高く設定されてもよい。また、制御要求信号に含まれる制御の種類に対応する制御を実行する機能ECU2の優先度が高く設定されてもよい。この場合、ステップS102で設定された優先度がステップS103で更新される。なお、制御要求信号が制御の種類を含む場合、ステップS102で制御の種類に対応する制御を実行する機能ECU2の優先度が高くなるよう設定されてもよい。この場合、制御量と制御の種類とに応じて、機能ECU2の優先度が設定される(S102)。
【0059】
上記実施形態では、通信ネットワークはCAN4により構成されていた。しかし通信ネットワークはCAN4以外で構成されてもよい。例えば、イーサ等、バス通信可能なネットワークであればよい。
【0060】
本発明は、機能ECU2と挙動関連装置9との間の通信に適用されてもよい。具体的には、
図2が示す通信周期制御を機能ECU2が実行してもよい。この場合、機能ECU2が制御指示信号を挙動関連装置9に送信する。なお、1つの機能ECU2が複数の挙動関連装置9と通信可能に構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…車両用制御装置、2…機能ECU、2a…機能プロセッサ、3…統合ECU、3a…統合プロセッサ、31…受信部、32…短縮設定部、33…延長設定部、34…送信部、35…信号変更部、9…挙動関連装置。