(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】缶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20230711BHJP
B21D 51/26 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B21D51/26 A
(21)【出願番号】P 2019139032
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018214537
(32)【優先日】2018-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305060154
【氏名又は名称】アルテミラ製缶株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】武井 政幸
(72)【発明者】
【氏名】南馬 孝之
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140826(JP,A)
【文献】特開昭59-062431(JP,A)
【文献】特開2018-087031(JP,A)
【文献】特開平09-285832(JP,A)
【文献】特表2014-511292(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0182094(EP,A2)
【文献】特開2005-022671(JP,A)
【文献】特開平06-039906(JP,A)
【文献】特開2000-238116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/16
B21D 51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状胴部の一端部に設けられた缶底部の中央に位置する円形状の中央部に接続され、缶軸方向下側に向かうに従って缶軸から離れる方向に傾斜する内側傾斜部と、前記円筒状胴部の下端に接続され、前記缶軸方向下側に向かうに従って前記缶軸に近づく方向に傾斜して延びる外側傾斜部と、前記内側傾斜部の下端と前記外側傾斜部の下端とを接続し、前記缶軸方向下側に向けて突出する環状の接地部と、を備え、
前記円筒状胴部の外径が65.0mm以上67.5mm以下であり、かつ、高さ寸法が180mm以上であり、
前記接地部における最も前記缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径が54mm以上57mm以下であ
り、
前記缶底部の前記中央部の板厚が0.44mm以上0.55mm以下であることを特徴とする缶。
【請求項2】
前記内側傾斜部の外面の傾斜角度は、缶軸方向に対して1°以上30°以下であることを特徴とする請求項
1に記載の缶。
【請求項3】
前記傾斜角度は10°以上30°以下であることを特徴とする請求項
2に記載の缶。
【請求項4】
円筒状胴部の一端部に設けられた缶底部の中央に位置する円形状の中央部に接続され、缶軸方向下側に向かうに従って缶軸から離れる方向に傾斜する内側傾斜部と、前記円筒状胴部の下端に接続され、前記缶軸方向下側に向かうに従って前記缶軸に近づく方向に傾斜して延びる外側傾斜部と、前記内側傾斜部の下端と前記外側傾斜部の下端とを接続し、前記缶軸方向下側に向けて突出する環状の接地部と、を備え、
前記円筒状胴部の外径が65.0mm以上67.5mm以下であり、かつ、高さ寸法が180mm以上であり、
前記接地部における最も前記缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径が54mm以上57mm以下であり、
前記内側傾斜部の外面の傾斜角度は、缶軸方向に対して10°以上30°以下であることを特徴とする缶。
【請求項5】
缶軸を含む縦断面において、前記缶軸に直交する線に対する前記外側傾斜部の角度が55°以上65°以下であることを特徴とする請求項1
から4のいずれか一項に記載の缶。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の缶を製造する方法であって、AB耐力が195N/mm
2以上255N/mm
2以下のH16,H19,H26のいずれかの調質とされたアルミニウム合金板を成形して缶を製造することを特徴とする缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料等の内容物が充填される缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料等の内容物が充填される缶として、ストレート缶や、ボトル形状の缶(ボトル缶)が知られている。このような缶として、例えば、特許文献1に記載のアルミニウム缶や、特許文献2に記載のDI缶体の他、特許文献3及び4に記載の缶が知られている。これら特許文献1~4に記載の缶のそれぞれは、以下に説明する各種構成により缶底の強度を高めている。
この特許文献1に記載のアルミニウム缶は、缶底の接地部と缶本体の缶胴との交差部に形成される絞り部が、当該缶底の缶本体の軸線を含む断面視において、缶胴に接する凸円弧を描く凸円弧部と、接地部に接する凹円弧を描く凹円弧部と、これら凸円弧部及び凹円弧部の共通接線に沿って互いに離間する共通接線と凸円弧部および凹円弧部との接点を結ぶ直線部とから構成されてなり、接地径(接地部における最も缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径)が49mmに設定されている。また、缶底の缶本体の軸線を含む断面視において、直線部が缶本体の軸線と直交する平面に対してなす角は、30°に設定されている。
【0003】
また、特許文献2に記載のDI缶体は、缶外径が65mm以上、円筒状胴部に接続され、缶底部を構成する外側傾斜部の高さが10~13mm、缶底部の中央に位置するドーム部(中央部)の径が46~48mmに設定されている。
さらに、特許文献3に記載の缶は、接地部の半径が21.5~25mmとされており、特許文献4に記載の缶は、接地径が40~45mm、缶底板厚が0.23~0.29mmとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2712775号
【文献】特開平8-48330号公報
【文献】特開2005-214343号公報
【文献】特開2001-139012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、飲料等の内容物を多く充填できる大容量(例えば、400ml以上)の缶が望まれている。この要望に対応するため、缶の外径を拡大して対応することも考えられるが、缶の外径を拡大すると、缶の製造工程におけるDI工程において用いる金型の大部分を新たに製造する必要もあることから、製造コストの面から缶の外径を拡大することは難しい。一方、缶の製造工程におけるカッププレス時において、ブランク径を拡大することも考えられるが、この場合も製造コストの上昇を避けられない。このため、現状では、缶の高さ寸法を従来よりも大きくすることにより、充填量の拡大に対応している。
【0006】
しかしながら、缶の高さ寸法を従来よりも大きくすると、内容物が充填された缶の搬送時における安定性が低下し、缶が倒れるおそれがある。また、従来よりも多くの内容物を充填するため、このような大容量の缶が落下すると、落下衝撃も大きくなり、缶のボトムが反転する可能性がある。このため、落下強度を高める必要がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、缶高さが高くても缶の搬送時における安定性を向上でき、ボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる缶及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の缶は、円筒状胴部の一端部に設けられた缶底部の中央に位置する円形状の中央部に接続され、缶軸方向下側に向かうに従って缶軸から離れる方向に傾斜する内側傾斜部と、前記円筒状胴部の下端に接続され、前記缶軸方向下側に向かうに従って前記缶軸に近づく方向に傾斜して延びる外側傾斜部と、前記内側傾斜部の下端と前記外側傾斜部の下端とを接続し、前記缶軸方向下側に向けて突出する環状の接地部と、を備え、前記円筒状胴部の外径が65.0mm以上67.5mm以下であり、かつ、高さ寸法が180mm以上205mm以下であり、前記接地部における最も前記缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径が54mm以上57mm以下である。
【0009】
本発明では、外径が65.0mm以上67.5mm以下の円筒状胴部を有する缶の接地部における最も缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径(以下、接地径という)を54mm以上57mm以下と大きくしたので、接地部により缶を安定して支持できる。このため、缶の搬送時における安定性を向上できる。また、接地部の接地径を上記範囲としたので、接地部と円筒状胴部とを接続する外側傾斜部の缶軸に直交する線に対する角度が大きくなることから、外側傾斜部(缶底)のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる。したがって、大容量の缶であっても、搬送時における安定性を向上できるとともに、ボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めて缶の破損を抑制できる。
【0010】
本発明の缶の好ましい態様としては、缶軸を含む縦断面において、前記缶軸に直交する線に対する前記外側傾斜部の角度が55°以上65°以下であるとよい。
【0011】
缶軸に直交する線に対する外側傾斜部の角度が55°未満であると、缶のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度が低下する。このため、缶がボトル缶である場合、円筒状胴部の上側を縮径して縮径部等を成形する際の製造工程において、縮径部を成形する金型がボトル缶を押圧すると、外側傾斜部が変形するおそれがあるため、外側傾斜部の全面を面で支持するサポートリングにより該外側傾斜部を支持する必要がある。一方、外側傾斜部の上記角度が65°を超えると外側傾斜部の高さが大きくなり、円筒状胴部が短くなるため、印刷範囲が縮小される他、缶に充填される内容物の容量が少なくなる。
これに対し、上記態様では、缶軸に直交する線に対する外側傾斜部の角度が上記範囲内であるので、外側傾斜部の高さが大きくなりすぎることを抑制しつつ、缶のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる。また、製造工程においては、サポートリングにより外側傾斜部を支持する必要がないため、製造工程を簡略化できる。
【0012】
この缶の好ましい一つの態様として、前記缶底部の前記中央部の板厚が0.44mm以上0.55mmであるとよい。
【0013】
この缶の好ましい一つの態様として、前記内側傾斜部の外面の傾斜角度は、缶軸方向に対して1°以上30°以下であるとよい。さらに好ましくは、その傾斜角度は10°以上30°以下であるとよい。
【0014】
この缶を製造する方法は、引張強度が195N/mm2以上255N/mm2以下のH16,H19,H26のいずれかの調質とされたアルミニウム合金板を成形して缶を製造する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、缶高さが高いにもかかわらず缶の搬送時における安定性を向上でき、ボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボトル缶の半分を断面にした正面図である。
【
図3】ボトル缶の製造時の形状の変遷を(a)から(d)の順に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、缶の一例としてボトル缶を示している。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係るボトル缶の正面図である。このボトル缶1は、開口端部1aにキャップ(図示省略)が装着されることにより、飲料等を収容する容器として用いられる。
ボトル缶1は、アルミニウム又はアルミニウム合金の薄板金属からなり、
図1に示すように、缶底部11を有する円筒状胴部12に、円筒状胴部12の上端から缶軸方向上側に向かうに従って縮径する縮径部13と、縮径部13の上端に形成された口径38mmの口部14とを備えている。縮径部13は、円筒状胴部12の上端から凸状外面となる凸湾曲部131と、凸湾曲部131の上端から口部14の下端にかけて凹状外面となる凹湾曲部132とを有している。
図1に示すように、円筒状胴部12及び縮径部13、口部14は互いに同軸に配置されており、本実施形態において、これらの共通軸を缶軸Sと称して説明を行う。
【0019】
円筒状胴部12は、外径D1が65.0mm以上67.5mm以下に形成される。円筒状胴部12の下端には、缶底部11が形成されており、缶底部11は、缶軸S上に位置するとともに、該缶底部11の中央に位置し、円筒状胴部12に向けて凹むドーム状(円形状)の中央部114と、該中央部114に接続され、缶軸S方向下側に向かうに従って缶軸Sから離れる方向に傾斜する内側傾斜部113と、円筒状胴部12の下端に接続され、缶軸方向下側に向かうに従って缶軸Sに近づく方向に傾斜して延びる外側傾斜部112と、内側傾斜部113の下端と外側傾斜部112の下端とを接続し、缶軸方向下側に向けて突出する環状の接地部111と、を備えている。
【0020】
これらのうち、接地部111は、ボトル缶1が正立姿勢(
図1に示される、口部14が上方を向く姿勢)となるように載置面上に載置されたときに、載置面に接地する接地点P1を有する部位である。この接地部111は、缶底部11において最も下方に向けて突出しているとともに、周方向に沿って延びる環状をなしている。この接地部111における最も缶軸方向下側に向けて突出している部位の直径、すなわち接地点P1の直径(以下、接地径D2という)は、54mm以上57mm以下に形成される。
【0021】
外側傾斜部112は、
図2に示すように、缶軸Sを含む縦断面において缶軸方向下側に向かうに従って缶軸Sに近づく方向に傾斜して延びる形状とされている。また、外側傾斜部112と円筒状胴部12との接続部位は湾曲しており、その外面の曲率半径R7は2.8mm以上4.0mm以下に設けられている。また、接地部111の接地点P1より外側外面の曲率半径R6は、1.6mm以上2.0mm以下、接地部111の接地点P1より内側外面の曲率半径R5は、1.0mm以上1.4mm以下とする曲線形状に設けられている。また、接地部111は、缶軸Sを中心として環状に形成され、接地部111の最も缶軸S方向外方に突出した接地点P1から缶軸Sまでの径方向距離D3は、27.0mm以上28.5mm以下に設けられている。
【0022】
また、内側傾斜部113は、缶軸Sを含む縦断面において、内側傾斜部113の外面と
鉛直線(缶軸Sと平行な直線)とのなす角度θ1を1°以上30°以下として缶軸S方向に対して僅かに傾斜して設けられている。このため、中央部114に作用する圧力を円滑に接地部111に伝えられるようになっている。内面塗装を容易にするために、この角度θ1は好ましくは10°以上30°以下である。
【0023】
また、缶軸Sを含む断面において、缶軸Sに直交する線に対する外側傾斜部112の角度θ2は、55°以上65°以下に設定されている。缶軸Sに直交する線に対する外側傾斜部112の角度が55°未満であると、ボトル缶1のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度が低下する。このため、円筒状胴部12の上側を縮径して縮径部等を成形する際の製造工程において、縮径部13を成形する金型がボトル缶1を押圧すると、外側傾斜部112が変形するおそれがあるため、外側傾斜部112の全面を面で支持するサポートリングにより該外側傾斜部112を支持する必要がある。一方、外側傾斜部112の角度が65°を超えると外側傾斜部112の高さが大きくなり、円筒状胴部12が短くなるため、印刷範囲が縮小される他、ボトル缶1に充填される内容物の容量が少なくなる。
このため、本実施形態では、缶軸Sに直交する線に対する外側傾斜部112の角度θ2を55°以上65°以下に設定することにより、外側傾斜部112の高さが大きくなりすぎることを抑制しつつ、ボトル缶1のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めている。
【0024】
また、ドーム状の中央部114の高さは、缶軸Sに沿う位置が最も大きく、その高さ寸法H3は10mm以上11mm以下に設定されている。また、外側傾斜部112の高さ寸法H4は、中央部114の高さ寸法H3よりも小さく設定され、7mm以上10mm以下に設定されている。さらに、内側傾斜部113の高さ寸法H5は、3mm以上4mm以下に設定されている。
【0025】
また、中央部114は、
図2に示すように、1つの曲線部C1により構成され、缶軸Sを含む断面において、その外面の曲率半径R3が60mmとされている。また、中央部114と内側傾斜部113との接続部分を構成する曲線部C3の外面の曲率半径R4は、2.0mm以上2.5mm以下に設定されている。
【0026】
なお、本実施形態では、中央部114は、1つの曲線部C1により構成されることとしたが、これに限らない。例えば、中央部114は、曲率半径の異なる2つの曲線部により構成してもよい。この場合、これら各曲線は、これらの接続位置において互いの接線を共通にした状態に設けられている。
【0027】
なお、中央部114が2つの曲線部から構成されている場合には、缶軸方向内側に位置する曲線の曲率半径は55mm以上62mm以下に設定され、この曲線に連接する曲線の曲率半径は33mm以上37mm以下に設定されるとよい。
この場合、中央部114を形成する2つの曲線の曲率半径を上記範囲にすることにより、中央部114において曲率の急変点をなくすことができ、中央部114に生じる局部的な応力集中を回避することが可能となる。
【0028】
縮径部13は、缶軸方向の下側に凸湾曲部131、上側に凹湾曲部132が形成され、これらが滑らかに接続されている。この場合、下側の凸湾曲部131の曲率半径R1より、上側の凹湾曲部132の曲率半径R2が大きく設定されている。具体的には、凸湾曲部131は、その外面の曲率半径R1が45mm以上75mm以下に形成され、凹湾曲部132は、その外面の曲率半径R2が85mm以上115mm以下に形成される。
【0029】
また、縮径部13と口部14との間には、口部14より小径の首部15が形成されている。この首部15の缶軸S方向上側に位置する口部14は、首部15の上に周方向に膨出部141が形成され、膨出部141の上に雄ねじ部142が形成され、雄ねじ部142の上方の開口端部1aにカール部143が形成されている。そして、キャップ(図示略)が雄ねじ部142に螺合し、キャップの裾部が膨出部141に巻き込まれた状態で、キャップ内面のライナがカール部143に圧接して、内部を密封する。
【0030】
このボトル缶1を製造するには、
図3に示すように、まず、アルミニウム合金の板材を打ち抜いて絞り加工することにより、
図3(a)に示す比較的大径で浅いカップ21を成形した後、このカップ21に再度の絞り加工及びしごき加工(DI加工)を加えて、
図3(b)に示すように所定高さの有底円筒状の筒体22を成形し、その上端をトリミングにより切り揃える。このDI加工により、筒体22の底部は最終のボトル缶1としての缶底部11の形状に成形される。なお、カップ21を形成する際のブランク径は、φ160mmに設定されている。
【0031】
次いで、筒体22の開口端部側を縮径加工(ネックイン加工)することにより、
図3(c)に示すように円筒状胴部12に連続する縮径部13を形成するとともに、縮径部13の上方で缶軸S方向に延びる小径の円筒部231を有する中間成形体23を形成する。
この縮径加工(ネックイン加工)は、円筒状のネックイン金型を筒体22の開口端側から缶軸方向に押し込んで、ネックイン金型の内周成形部によって筒体22を縮径して、縮径部13を形成する加工であるが、本実施形態のボトル缶1においては、缶底部11の外側傾斜部112の缶軸Sに直交する線に対する角度が55°以上65°以下と大きく設定されていることから、缶軸方向に対するコラム強度が高く、外側傾斜部112の全面を支持するサポートリングを用いる必要がない。
【0032】
次いで、この円筒部231を再度拡径及び縮径することにより、
図3(d)に示すようにねじ加工する前の筒状部241を有する中間成形体24を形成する。このとき、首部15が形成される。そして、この筒状部241を加工して、膨出部141、雄ねじ部142、カール部143を形成することにより、
図1に示すボトル缶1が形成される。
【0033】
なお、上述した縮径部以外の部分も含めて諸寸法について説明しておくと、ボトル缶1の接地部111の底面からカール部143の上面までの高さ(ボトル缶1の高さ)H0は180mm以上205mm以下、缶底部11を含む円筒状胴部12の高さH1は100mm以上150mm以下である。内容量としては、400ml以上600ml以下の飲料缶として利用することができる。また、板材はアルミニウム合金からなり、ベーキング後の耐力(AB耐力 0.2%耐力)が195N/mm
2以上255N/mm
2以下のものが用いられる。AB耐力は、アルミニウム合金板を210℃×10分の条件で塗装焼付け相当の熱処理を行った後に測定される0.2%耐力である。JIS規格の3004、3104のアルミニウム合金板で、H16,H19又はH26の調質材が好ましい。板厚は、プレス成形前の元板厚が0.44mm以上0.55mm以下であり、
図3(b)に示すDI缶において、筒体22の缶底部11側の板厚(ウォール厚)t1が0.110mm以上0.150mm以下に形成され、開口端部側の板厚(フランジ厚)t2が0.200mm以上0.240mm以下に形成される。
【0034】
この場合、ウォール厚t1の部分221は、円筒状胴部12の缶底部11よりも若干缶軸方向上方位置から、後の工程で縮径部13の凸湾曲部131となる部分よりも若干缶軸方向下方位置までであり、フランジ厚t2の部分222は、後の工程で縮径部13の凸湾曲部131となる部分よりも缶軸方向上方部分である。なお、缶底部11の中央部114の板厚がほぼ元板厚、あるいは元板厚より若干薄くなる。
【0035】
例えば、本実施形態の缶としては、缶高さH0が203mm、元板厚が0.500mm、フランジ厚t2が0.220mm、ウォール厚t1が0.135mm、内容量が500mlのボトル缶、缶高さH0が194.5mm、元板厚が0.480mm、フランジ厚t2が0.220mm、ウォール厚t1が0.135mm、内容量が510mlのボトル缶の他、缶高さH0が203mm、元板厚が0.505mm、フランジ厚t2が0.225mm、ウォール厚t1が0.135mm、内容量が530mlのボトル缶を例示できる。
なお、上記各缶のブランク径はいずれもφ160mmであり、缶底部11の各種構成も上述した実施形態と同様である。
【0036】
本実施形態では、外径が65mm以上67.5mm以下の円筒状胴部12を有するボトル缶1の接地部111の接地径D2を54mm以上57mm以下と大きくしたので、接地部111によりボトル缶1を安定して支持できる。このため、ボトル缶1の搬送時における安定性を向上できる。また、接地部111の接地径D2を上記範囲としたので、接地部111と円筒状胴部12とを連結する外側傾斜部112の缶軸Sに直交する線に対する角度が大きくなることから、缶底部11のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる。したがって、大容量の缶であっても、搬送時における安定性を向上できるとともに、ボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めてボトル缶1の破損を抑制できる。
また、外側傾斜部112の載置面に対する角度が55°以上65°以下であるので、外側傾斜部112の範囲を適切にし、かつ、ボトル缶1のボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度を高めることができる。また、製造工程においては、サポートリングにより外側傾斜部112の全面を支持する必要がないため、製造工程を簡略化できる。
【0037】
なお、本発明は上記各実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、ボトル缶を例として示したが、本発明はボトル缶に限らず、ストレート状の缶等にも適用でできる。
【0038】
上記実施形態では、中央部114は、円筒状胴部12に向けて凹むドーム状であることとしたが、これに限らない。例えば、中央部114は、平面状であってもよい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。なお、以下の実施例及び比較例では、上記実施形態にて示した元板厚、缶高さH0、接地部の径(接地径)、中央部の曲率半径R3及び高さH3、内側傾斜部の高さH5及び角度θ1、接地部の内側の外面の曲率半径R5及び接地部の外側の外面の曲率半径R6、外側傾斜部の高さH4、円筒状胴部12との接合部の外面の曲率半径R7及び缶軸に直交する線に対する外側傾斜部の角度θ2を表1に示す構成とした。実施例1~5及び比較例1の板材はA3104のアルミニウム合金板、H19の調質材で、AB耐力(0.2%耐力)はすべて255N/mm2とした。AB耐力については、アルミニウム合金板を210℃×10分の条件で塗装焼付け相当の熱処理を行った後に0.2%耐力を測定した。
なお、これら実施例1~5及び比較例1の試料は、上記実施形態に示した方法で製造した。
そして、実施例1~5及び比較例1の試料のそれぞれの耐圧強度及び落下強度を測定した。
【0040】
耐圧強度及び準落下強度は、いずれも各試料の缶を水圧式バックリングテスター(エーステック株式会社製)に接地部から95mmの位置で固定し、水圧により昇圧スピード33kPa/sで缶内圧を上昇させ、ドーム状の中央部が反転する(バックリングする)までの最高到達圧を評価した。なお、準落下強度とは、上記測定方法でボトム底部を拘束し、バックリングした時の最大圧力である。
【0041】
【0042】
【0043】
表1及び表2の結果から明らかなように、実施例1~5の試料は、接地部の接地径が55mm以上57mm以下であり、かつ、缶軸に直交する線に対する外側傾斜部の角度θ2が55°以上65°以下であったため、耐圧強度及び準落下強度が高かった。
【0044】
また、缶高さが大きくなることから、搬送性、成形性等についても評価した。以下の実施例及び比較例では、材料としてアルミニウム合金板を用い、そのAB耐力、元板厚、缶高さH0、接地部の径(接地径)、中央部の曲率半径R3及び高さH3、内側傾斜部の高さH5及び角度θ1、接地部の内側の外面の曲率半径R5及び接地部の外側の外面の曲率半径R6、外側傾斜部の高さH4、円筒状胴部12との接合部の外面の曲率半径R7及び缶軸に直交する線に対する外側傾斜部の角度θ2を表3に示す構成とした。AB耐力は、アルミニウム合金板を210℃×10分の条件で塗装焼き付け相当の熱処理を行い、ベーキング後の耐力(AB耐力、0.2%耐力)を測定した。また、フランジ厚は、0.220mm、ウォール厚は0.135mm、とした。実施例17の中央部R3は、中央部が曲率半径の異なる2つの曲線部により構成された例である。
【0045】
そして、これら実施例11~20及び比較例11,12の試料のそれぞれについて、耐圧強度、準落下強度、搬送性、ネジコラム強度、DI胴切れ性、カール割れについて評価した。
耐圧強度及び準落下強度は前述の通りである。
【0046】
搬送性は、傾斜角度を変更可能なテーブルの上に試料を設置し、テーブルの傾斜角度を大きくしていく過程で試料が転倒したときのテーブルの傾斜角度を測定した。その傾斜角度が17°以上の場合を◎、17°未満15°以上を〇、15°未満を×とした。15°以上であれば、通常の搬送時に支障は生じないと考えられる。
【0047】
コラム強度は、試料に開口部から垂直荷重を作用させ、1400N未満で、ネジ部がつぶれたか、外側傾斜部に沈み込みが生じたかのいずれかが発生した頻度を測定した。1缶でも発生した場合は×、発生しなかった場合は〇とした。
【0048】
DI胴切れ性は、DI加工時に胴部に破断が生じた頻度を測定した。5ppm以下で◎、5ppmを超え10ppm以下で〇、10ppmを超えていたら△とした。10ppmまでは実用的と考えられる。
カール割れは、口部の開口端にカーリング加工を施す際に割れが生じた頻度を測定した。5ppm以下で◎、5ppmを超え10ppm以下で〇、10ppmを超えていたら△とした。10ppmまでは実用的と考えられる。
これらの結果を表4に示す。
【0049】
【0050】
【0051】
この表4に示されるように、実施例のボトル缶は、高さが大きいにもかかわらず接地径が大きいために、搬送性がよく、また、成形性にも支障がなく、ボトム耐圧強度、落下強度、コラム強度に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 ボトル缶
11 缶底部
111 接地部
112 外側傾斜部
113 内側傾斜部
114 中央部
12 円筒状胴部
13 縮径部
131 凸湾曲部
132 凹湾曲部
14 口部
141 膨出部
142 雄ねじ部
143 カール部
15 首部