(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】接合構造及び液相拡散接合方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20230711BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20230711BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
H01L21/52 B
B23K35/26 310A
C22C13/00
B23K35/26 310B
(21)【出願番号】P 2019170666
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019047481
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】前野 一弘
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027593(WO,A1)
【文献】特開2014-209608(JP,A)
【文献】特開2015-230900(JP,A)
【文献】特開2018-098265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B23K 35/26
C22C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、
前記接合層は、前記Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、前記半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすことを特徴とする接合構造。
【請求項2】
Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、
前記接合層は、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層からなる1層構造であることを特徴とする接合構造。
【請求項3】
Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、
前記接合層は、(Cu,Ni)6Sn5とCu6Sn5とが混在した金属間化合物層からなる1層構造であることを特徴とする接合構造。
【請求項4】
Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、
前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Ni薄膜、
厚さ0.5μm~1.0μmのCu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項5】
Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、
前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、
厚さ0.5μm~1.0μmのCu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項6】
Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、
前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Ni薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項7】
Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、
前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項8】
請求項7に記載の液相拡散接合方法において、
前記Cu配線上にSn薄膜が成膜されるとともに、前記半導体チップ上に順にNi薄膜、Cu薄膜が成膜されており、前記Sn薄膜の上に前記Cu薄膜が配置されることにより前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態にすることを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項9】
Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、
前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを特徴とする液相拡散接合方法。
【請求項10】
請求項9に記載の液相拡散接合方法において、
前記Cu配線上に順にNi薄膜、Sn薄膜が成膜されるとともに、前記半導体チップ上に順にNi薄膜、Cu薄膜が成膜されており、前記Sn薄膜の上に前記Cu薄膜が配置されることにより前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態にすることを特徴とする液相拡散接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造及び液相拡散接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板のCu配線と電子部品との間にSn層を配置して液相拡散接合によりCuSnによる接合層で基板と電子部品とを接合する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、
図19に示すように、Cu配線100と半導体チップ101との間に接合層102が形成された接合構造として、接合層102は、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層103と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層104との2層構造をなすようにすることが考えられる。そのために、
図20に示すように、Cu配線100と半導体チップ101とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線100と半導体チップ101との間にSn薄膜105を挟んだ状態において、例えば350℃程度の温度雰囲気下でCu配線100と半導体チップ101とを接合する。つまり、液相拡散接合は、Cuは融点が1080℃程度と高く、Snは230℃程度と低く、CuとSnが接する状態から温度を上昇させた時に融点の低いSnが溶けて液相になることによりCuが拡散して接合される。この接合の際に金属間化合物であるCu6Sn5が形成され、Cu配線側のCu6Sn5に対しCuが更に拡散すると、金属間化合物であるCn3Snに置き換わる。その結果、Cu配線側にCu3Snの金属間化合物層103が形成されるとともに半導体チップ側にCu6Sn5の金属間化合物層104が形成される。
【0005】
ここで、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層103と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層104のうち、Cu6Sn5の金属間化合物層104にのみ、一定温度を境に相変態が生じる。即ち、Cu6Sn5は186℃以上の高温域では六方晶に、186℃未満では単斜晶に結晶構造が変態する性質がある。接合時には186℃以上に加熱されるため、その時点で六方晶となる。その後、冷却されるが、接合炉での冷却速度は速いため、上記の相変態を生じるために必要な時間を満たすことができずに、低温時安定相である単斜晶には変態せずに六方晶のまま存在する。しかし、六方晶は低温時には安定した結晶構造ではないため、不安定な状態であり、徐々に少しずつ単斜晶に相変態を生じる。また、温度上昇によりその相変態の進行は速まることになる。この相変態の際、Cu6Sn5の金属間化合物層104はその体積が2%程度増加する。これにより、歪が生じてクラック発生の一因となり、信頼性が低下する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、接合層においてクラックの発生を抑制することができる接合構造及び液相拡散接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決する接合構造は、Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、前記接合層は、前記Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、前記半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすことを要旨とする。
【0008】
これによれば、接合層は、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0009】
上記問題を解決する接合構造は、Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、前記接合層は、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層からなる1層構造であることを要旨とする。
【0010】
これによれば、接合層は、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層からなる1層構造であるので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
上記問題を解決する接合構造は、Cu配線と半導体チップとの間に接合層が形成された接合構造であって、前記接合層は、(Cu,Ni)6Sn5とCu6Sn5とが混在した金属間化合物層からなる1層構造であることを要旨とする。
【0012】
これによれば、接合層は、(Cu,Ni)6Sn5とCu6Sn5とが混在した金属間化合物層からなる1層構造であるので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0013】
上記問題を解決する液相拡散接合方法は、Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Ni薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを要旨とする。
【0014】
これによれば、Cu配線と半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Ni薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線と半導体チップとが接合されることにより、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0015】
上記問題を解決する液相拡散接合方法は、Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを要旨とする。
【0016】
これによれば、Cu配線と半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線と半導体チップとが接合されることにより、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0017】
上記問題を解決する液相拡散接合方法は、Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Ni薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを要旨とする。
【0018】
これによれば、Cu配線と半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Ni薄膜、Cu薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線と半導体チップとが接合されることにより、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0019】
上記問題を解決する液相拡散接合方法は、Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを要旨とする。
【0020】
これによれば、Cu配線と半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線と前記半導体チップとが接合されることにより、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0021】
ここで、前記Cu配線上にSn薄膜が成膜されるとともに、前記半導体チップ上に順にNi薄膜、Cu薄膜が成膜されており、前記Sn薄膜の上に前記Cu薄膜が配置されることにより前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にSn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態にするとよい。
【0022】
上記問題を解決する液相拡散接合方法は、Cu配線と半導体チップとを接合するための液相拡散接合方法であって、前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、前記Cu配線と前記半導体チップとを接合することを要旨とする。
【0023】
これによれば、Cu配線と半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線と半導体チップとが接合されることにより、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0024】
ここで、前記Cu配線上に順にNi薄膜、Sn薄膜が成膜されるとともに、前記半導体チップ上に順にNi薄膜、Cu薄膜が成膜されており、前記Sn薄膜の上に前記Cu薄膜が配置されることにより前記Cu配線と前記半導体チップとの間に、Cu配線側から半導体チップ側に向かって順にNi薄膜、Sn薄膜、Cu薄膜、Ni薄膜を挟んだ状態にするとよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、接合層においてクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【
図3】接合部の断面でのFE-EPMAによるCuの元素マッピング像を示す図。
【
図4】接合部の断面でのFE-EPMAによるSnの元素マッピング像を示す図。
【
図5】接合部の断面でのFE-EPMAによるNiの元素マッピング像を示す図。
【
図8】従来構造における接合部の断面でのFE-EPMAによるCuの元素マッピング像を示す図。
【
図9】従来構造における接合部の断面でのFE-EPMAによるSnの元素マッピング像を示す図。
【
図10】従来構造における接合部の断面でのSEM像を示す図。
【
図11】従来構造における接合部の断面での反射電子像を示す図。
【
図12】別例の接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【
図13】別例の接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【
図14】別例の接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【
図15】別例の接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【
図19】課題を説明するための接合構造を示す模式図。
【
図20】課題を説明するための接合前の半導体チップと配線基板との関係を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、接合構造10は、Cu配線22と半導体チップ30との間に接合層40が形成されている。接合層40は、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなしている。つまり、2層構造をなす金属間化合物(IMC)層のうちのCu配線22側の層41はCuリッチな金属間化合物層であり、半導体チップ30側の層42はSnリッチな金属間化合物層である。
【0028】
配線基板20は、絶縁基板21の上面にCu配線22がパターニングされており、絶縁基板21上にCu配線22が延びている。半導体チップ30はシリコン(Si)よりなり、縦型のパワートランジスタ等が作り込まれている。そして、縦型のパワートランジスタの裏面電極が配線基板20のCu配線22と電気的に接続される。
【0029】
次に、接合方法について説明する。
図2に示すように、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合(TLP)方法である。
【0030】
半導体チップ30の裏面には裏面電極31が形成され、裏面電極31は、Ti層、Ni層、Ag層を順に積層して構成されている。つまり、半導体チップ30の裏面電極31は、Ti/Ni/Ag構造を有する。裏面電極31の厚さは0.6μm程度ある。
【0031】
Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜50、Sn薄膜51、Ni薄膜53、Cu薄膜52を挟む。詳しくは、Cu配線22上にはNi薄膜50を介してSn薄膜51が形成されている。また、半導体チップ30の裏面電極31には、Cu薄膜52を介してNi薄膜53が形成されるとともにNi薄膜53の表面には、濡れ性を確保するためのAu薄膜54が形成されている。
【0032】
Ni薄膜50の厚さt1は、0.5~1.5μm、Sn薄膜51の厚さt2は、5μm、Cu薄膜52の厚さt3は、0.5~1.0μm、Ni薄膜53の厚さt4は、0.5~1.0μm、Au薄膜54の厚さt5は、0.1μmである。
【0033】
具体的には、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=0.5μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=0.5μm、Ni薄膜53の厚さt4=1.0μmである。他にも、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=1.0μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=0.5μm、Ni薄膜53の厚さt4=1.0μmである。他にも、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=1.5μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=0.5μm、Ni薄膜53の厚さt4=1.0μmである。他にも、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=0.5μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=1.0μm、Ni薄膜53の厚さt4=0.5μmである。他にも、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=1.0μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=1.0μm、Ni薄膜53の厚さt4=0.5μmである。他にも、例えば、Ni薄膜50の厚さt1=1.5μm、Sn薄膜51の厚さt2=5μm、Cu薄膜52の厚さt3=1.0μm、Ni薄膜53の厚さt4=0.5μmである。
【0034】
なお、Cu薄膜52はスパッタリングにより形成しており、あまり厚く形成することはできない。
このように、Cu配線22と半導体チップ30との間にCu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜50、Sn薄膜51、Ni薄膜53、Cu薄膜52を挟んだ状態において、接合炉に入れる。そして、H2還元雰囲気で、300℃以上、例えば350℃の温度雰囲気下で、例えば5分間、Cu配線22と半導体チップ30とを接合する。
【0035】
液相拡散接合は、融点の高いCuと融点の低いSnがNi薄膜50を介して接する状態から接合炉において温度が上昇してSnが溶けて液相になりCuが拡散することによりCu6Sn5が形成され、その後にCu配線側のCu6Sn5に対しCu配線22のCuが拡散してCn3Snに置き換わってCu配線側にCu3Snの金属間化合物層が形成されるとともに半導体チップ側にCu6Sn5の金属間化合物層が形成される。
【0036】
さらに、Ni薄膜50及びNi薄膜53から接合層にNiが拡散してCu6Sn5が(Cu,Ni)6Sn5に変化する。また、Cu薄膜52から接合層にCuが拡散してCu6Sn5をCu3Snに変化させる。
【0037】
このようにして、
図1に示すようなCu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなす接合層40が得られる。即ち、接合層としてCu3Snの金属間化合物層とCu6Sn5の金属間化合物層による積層構造に対し、Cu6Sn5にNiを拡散させて(Cu,Ni)6Sn5にする。また、接合層へのCuの拡散量を増加させてCu6Sn5の割合をできるだけ減らしてやる。
【0038】
次に、作用について説明する。
接合層にNiを拡散させ、クラックの発生原因と推定される温度変化時に相変態を生じるCu6Sn5を、相変態が生じずに安定した(Cu,Ni)6Sn5に変化させる。
【0039】
また、接合層へのCu拡散量を増加させ、接合層に生じる2つのIMC(金属間化合物)のうち、クラックが発生する一方のIMCであるCu6Sn5を、クラックの発生し難い他方のIMCであるCu3Snに変化させる。
【0040】
図8は、
図19に示した従来構造での接合部の断面でのFE-EPMAによるCuの元素マッピング像である。一方、本実施形態では、
図3に示すように、接合部の断面でのFE-EPMAによるCuの元素マッピング像において、2層構造をなす金属間化合物(IMC)層のうちのCu配線22側の層41はCuリッチな金属間化合物層であり、Cu3Snになる。半導体チップ30側の層42はSnリッチな金属間化合物層であり、(Cu,Ni)6Sn5になっていることが分かる。特に、
図2のごとく上にCu薄膜52があるので、Cuの量が多くなっている。即ち、上のCu薄膜52により(Cu,Ni)6Sn5になりつつCu3Snの割合が多くなっている。
【0041】
図4に示すように、接合部の断面でのFE-EPMAによるSnの元素マッピング像において、分析箇所での接合層全体厚に占めるCu3Snの層厚の割合、即ち、接合層全体に対する比率は、平均約23%程度である。
【0042】
図9は、
図19に示した従来構造での接合部の断面でのFE-EPMAによるSnの元素マッピング像である。
図9に示すように、分析箇所での接合層全体厚に占めるCu3Snの層厚の割合、即ち、接合層全体に対する比率は、平均約11%程度である。
【0043】
図4、
図9から、本実施形態では、Cu3Snの層厚の割合が従来構造に対して、約2倍増加していることが分かる。
図5に示すように、接合部の断面でのFE-EPMAによるNiの元素マッピング像において、2層構造をなす金属間化合物(IMC)層のうちの半導体チップ30側の層42である(Cu,Ni)6Sn5の所にはNiが取り込められているので、層42はNiリッチな金属間化合物層であることが分かる。
【0044】
図4に示すように、接合部の断面でのFE-EPMAによるSnの元素マッピング像において、
図9の従来構造との対比において、
図9の従来構造ではクラックが発生したが
図4の本実施形態においてはクラックは発生していないことが分かる。
【0045】
図19に示した従来構造では、
図10及び
図11に示すように、接合部の断面でのSEM像及び反射電子像において、接合層にクラックが発生していることが分かる。これに対し本実施形態では、
図6及び
図7に示すように、接合部の断面でのSEM像及び反射電子像において、2層構造をなす金属間化合物(IMC)層のうちの半導体チップ30側の層42にはクラックが発生していないことが分かる。よって、Niの供給によるクラック抑制効果が生じていることが分かる。
【0046】
このようにして、Sn薄膜51を用いてSnを層状配置してCu/Sn液相拡散接合を行うことにより、鉛フリーで低コストに高温接合を得ることができる。
特に、接合層40に、Cu3Snの金属間化合物層41と(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42が生成され、Cu3Snと(Cu,Ni)6Sn5の融点は各々、676℃、415℃と高融点であり、高温接合を可能にする。また、通常のはんだの場合には接合時に溶融しなければならず融点以上に昇温する必要があるが、液相拡散接合(TLP)の場合には接合時に融点以上の高温に昇温する必要は無く、Snの融点232~400℃程度の低温で液相拡散が生じ接合が可能となる。
【0047】
詳しくは、基板20側において、基板20のCu配線22表面には、Ni薄膜50を下層として設け、その上層にSn薄膜51を設ける。また、半導体チップ30側にもNi薄膜53を設ける。これにより、Ni拡散によってクラックの発生した
図19、
図20及び
図8、
図9、
図10、
図11でのIMCであるCu6Sn5を(Cu,Ni)6Sn5へ変化させて相変態を防止し、体積変化によるクラックの抑制が図られる。
【0048】
つまり、
図19、
図20、
図8、
図9、
図10、
図11において、接合層102を構成するCu3Snの金属間化合物層103とCu6Sn5の金属間化合物層104のうちのCu6Sn5の金属間化合物層104にのみ一定温度を境に相変態が生じる。Cu6Sn5は186℃以上の高温域では六方晶に、186℃未満では単斜晶に結晶構造が変態する性質があり、接合時には186℃以上に加熱されるため、その時点で六方晶となり、その後、冷却されるが、自然冷却でなく接合炉でコントロールされながら強制冷却され、その時に接合炉での冷却速度は速いため、相変態を生じるために必要な時間を満たすことができない。そのため、186℃未満であっても低温時安定相である単斜晶には変態せずに、六方晶のままで存在する。その結果、六方晶は低温時には安定した結晶構造ではないため、不安定な状態であり、常温で放置しておいても徐々に少しずつ単斜晶に相変態を生じる。また、温度上昇によりその相変態の進行は速まることになる。この相変態の際、Cu6Sn5の金属間化合物層104はその体積が2%程度増加し、歪が生じてクラック発生の一因となる。
【0049】
本実施形態においては、Cu配線22の表面にNi薄膜50を介してSn薄膜51を設けるとともに半導体チップ30側にNi薄膜53を設けることによりNi拡散によってCu6Sn5を(Cu,Ni)6Sn5へ変化させて相変態を防止する。その結果、体積変化による接合層40でのクラックの発生を抑制することができる。
【0050】
また、半導体チップ30側にはCu薄膜52を成膜する。これにより、Cu拡散を促進させてCu6Sn5をCu3Snに変化させることでCu6Sn5の割合を低減して相変態を防止し、体積変化によるクラックの抑制が図られる。
【0051】
このように、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を大幅に抑制し、信頼性が高く、低コストで、作業性が高く、高放熱性の鉛フリー高温接合材を提供することができる。
【0052】
また、Cu6Sn5をCu3Snに変化させるため、Pbフリー低温はんだであるSAC305(Sn3Ag0.5Cuはんだ)は融点が217~228℃であり、高温PbはんだであるPb5Snは融点が303(305)℃であるのに対し、Cu3Snは融点が676℃であり、Cu6Sn5は融点が415℃であり、より高融点の接続構造を得ることができる。
【0053】
また、Pbフリー低温はんだであるSAC305(Sn3Ag0.5Cuはんだ)は熱伝導率が22~55W/mk、層厚が50~150μm程度であり、高温PbはんだであるPb5Snは熱伝導率が35.2W/mk、層厚が50~150μm程度であるのに対し、Cu3Snは熱伝導率が70W/mkであり、Cu6Sn5は熱伝導率が34W/mkであり、層厚が5~20μm程度であることから、より高放熱の接続構造を得ることができる。
【0054】
また、Pbフリー低温はんだであるSAC305(Sn3Ag0.5Cuはんだ)は電気抵抗率が11~15μΩcm、層厚が50~150μm程度であり、高温PbはんだであるPb5Snは電気抵抗率が20.5μΩcm、層厚が50~150μm程度であるのに対し、Cu3Snは電気抵抗率が8.9μΩcmであり、Cu6Sn5は電気抵抗率が17.5μΩcmであり、層厚が5~20μm程度であることから、低抵抗の接続構造を得ることができる。
【0055】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)Cu配線22と半導体チップ30との間に接合層40が形成された接合構造10として、接合層40は、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなす。よって、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0056】
(2)Cu配線22と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜50、Sn薄膜51、Ni薄膜53、Cu薄膜52を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とを接合する。よって、接合層40が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0057】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○
図12に示すように、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜60、Sn薄膜61、Cu薄膜62を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するようにしてもよい。
【0058】
詳しくは、Cu配線22上にはNi薄膜60を介してSn薄膜61が形成されている。また、半導体チップ30の裏面電極31にはCu薄膜62が形成されるとともにCu薄膜62の表面にはAu薄膜63が形成されている。
【0059】
Ni薄膜60の厚さt10は、0.5~1.5μm、Sn薄膜51の厚さt11は、5μm、Cu薄膜62の厚さt12は、0.5~1.0μm、Au薄膜63の厚さt13は、0.1μmである。
【0060】
具体的には、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=0.5μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=0.5μmである。他にも、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=1.0μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=0.5μmである。他にも、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=1.5μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=0.5μmである。他にも、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=0.5μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=1.0μmである。他にも、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=1.0μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=1.0μmである。他にも、例えば、Ni薄膜60の厚さt10=1.5μm、Sn薄膜61の厚さt11=5μm、Cu薄膜62の厚さt12=1.0μmである。
【0061】
これによれば、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜60、Sn薄膜61、Cu薄膜62を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とが接合されることにより、接合層が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0062】
図12において半導体チップ30側にCu薄膜62を設けた場合にCu薄膜62を厚く形成することが困難であるためCu配線22のCuに比べてSn内に拡散供給できる量が少ない。そのため、Cu6Sn5の全てをCu3Snに置き換えるのが困難でどうしてもCu6Sn5が残存しやすいので、
図12のように、残存したCu6Sn5にNi薄膜60のNiを取り込ませることで、(Cu,Ni)6Sn5とし、クラックの要因となる相変態を抑制することができる。
【0063】
換言すると、NiのSn内への拡散はCuの場合ほどに容易ではなく、その拡散量は限定されるので、Cu6Sn5へのNiの取り込みは十分ではなく、全てのCu6Sn5を(Cu,Ni)6Sn5に置き換えにくい。Ni薄膜60の厚さを大きくしてNi供給量を増やすことで改善を図ることも考えられるが、その場合でも完全にCu6Sn5を無くすのは困難である上、Ni薄膜60の厚さを大きくするとバリヤ層となり下層のCu配線22からのCu拡散を阻害してしまいかねない。
図2と
図12の対比において、
図2では、Niの供給をCu配線22側と半導体チップ30側の上下両方から行うことができる。即ち、上述のようにNiのSnへの拡散はCuに比べて少なく、拡散できたNiもSn薄膜内全体に満遍なく広がることが困難である。よって、
図12のCu配線22側のNi薄膜60のみでは、Sn内に拡散する範囲はCu配線22側に偏りがちで半導体チップ30側の拡散量は少なく成らざるを得ない。一方、Niを取り込ませたいCu6Sn5は半導体チップ30側に存在する。よって、
図12のCu配線22側のNi薄膜60のみでは、半導体チップ30側に存在するCu6Sn5を十分に(Cu,Ni)6Sn5に置き換えにくい。
図2においては、半導体チップ30側のNi供給量が増えるため、半導体チップ30側に生じるIMCであるCu6Sn5の(Cu,Ni)6Sn5への置き換わりが増え、大部分(若しくは全て)が(Cu,Ni)6Sn5となり、僅かにCu6Sn5が点在するような層とすることができる。また、
図2ではNiの拡散量を増やすのに加え、Cu配線22側のみのNi供給の場合の半導体チップ30側界面に存在するCu6Sn5に届きやすくすべく、半導体チップ30側から直近でより効果的にNiを拡散供給することができる。
【0064】
なお、Cu6Sn5を全て(Cu,Ni)6Sn5に完全に置き換わっているわけではなく、一部Cu6Sn5が残存している。ただし、完全にCu6Sn5を排除できなくても、クラック抑制効果は十分得られる。即ち、Cu6Sn5の塊が小さくなれば、相変態によって生ずる体積変化に伴う応力も小さくなり、クラックの発生を抑えられる。また、例えクラックが発生したとしても、僅かな微細領域に留まり、信頼性上問題ないレベルに抑えられる。
【0065】
○
図13に示すように、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にSn薄膜70、Ni薄膜72、Cu薄膜71を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するようにしてもよい。
【0066】
詳しくは、Cu配線22上にはSn薄膜70が形成されている。また、半導体チップ30の裏面電極31には、Cu薄膜71を介してNi薄膜72が形成されるとともにNi薄膜72の表面にはAu薄膜73が形成されている。
【0067】
Sn薄膜70の厚さt20は、5μm、Cu薄膜71の厚さt21は、0.5~1.0μm、Ni薄膜72の厚さt22は、0.5~1.0μm、Au薄膜73の厚さt23は、0.1μmである。
【0068】
具体的には、例えば、Sn薄膜70の厚さt20=5μm、Cu薄膜71の厚さt21=0.5μm、Ni薄膜72の厚さt22=1.0μmである。他にも、例えば、Sn薄膜70の厚さt20=5μm、Cu薄膜71の厚さt21=1.0μm、Ni薄膜72の厚さt22=0.5μmである。
【0069】
これによれば、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にSn薄膜70、Ni薄膜72、Cu薄膜71を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とが接合されることにより、接合層が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0070】
○
図13に代わり
図14に示すようにしてもよい。
図14において、Cu配線22と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にSn薄膜70、Cu薄膜82、Ni薄膜81を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とを接合する。これによれば、接合層が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ30側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0071】
ここで、Cu配線22上にSn薄膜70が成膜されるとともに、半導体チップ30上に順にNi薄膜81、Cu薄膜82が成膜されており、Sn薄膜70の上にCu薄膜82が配置されることによりCu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にSn薄膜70、Cu薄膜82、Ni薄膜81を挟んだ状態にする。
【0072】
薄膜の厚さについて、例えば、
図14におけるNi薄膜81の厚さt31は、0.5μm、Cu薄膜82の厚さt32は、0.5μm、Au薄膜73の厚さt33は、0.1μm、Sn薄膜70の厚さt34は、5μmである。
【0073】
以下、
図13と
図14とを対比しつつ
図14の場合について詳しく説明する。
図13において、半導体チップ30の裏面電極31の表面にCu薄膜71が形成されるとともにCu薄膜71の表面にNi薄膜72が形成されており、上層のNi薄膜72は拡散がしにくく薄膜状態で残存し易い。その結果、下層のCu薄膜71は残存した上層のNi薄膜72がバリア層となり、Cu薄膜71からのCuの拡散が抑制されてしまう可能性がある。この場合には、Sn薄膜70内のCuが不足し、IMCであるCu6Sn5のCu3Snへの変換が十分に進まず、多く残存してしまい、また、残ったCu6Sn5についてNiの拡散によって(Cu,Ni)6Sn5への変換がしきれずにクラック発生の原因となってしまう可能性がある。
【0074】
図14においては、半導体チップ30の裏面電極31の表面にNi薄膜81を形成するとともにNi薄膜81の表面にCu薄膜82を形成している。この構造によれば、基板側のCu配線22上のSn薄膜70上にダイボンドする時において、半導体チップ30側のCu薄膜82及びNi薄膜81が基板側のSn薄膜70内に拡散する際に、Cu拡散が基板側のCu配線22に加え、半導体チップ30側のCu薄膜82からも生じ、Sn薄膜70内へのCuの絶対拡散量が増加する。
【0075】
よって、従来構造で生じた2種のIMC(金属間化合物)であるCu3Sn及びCu6Sn5において、Cu6Sn5にCuが拡散することでCu3Snに変化し、Cu6Sn5の存在比を大幅に減らすことができる。更に、半導体チップ30側のNi薄膜81からNiがSn薄膜70内に拡散することで、僅かに残ったCu6Sn5内にNiが取り込まれ、(Cu,Ni)6Sn5に変化することでクラックの発生を抑制することができる。また、上層側のCu薄膜82はSn薄膜70に拡散して消えてしまい、下層側のNi薄膜81が拡散しづらいということもなくなる。つまり、Cu薄膜82は拡散容易であるため、接合と同時に拡散消失し、下層のNi薄膜81からのNi拡散を妨げることを回避できる。
【0076】
クラックの発生は、上述したように主にCu6Sn5から発生し、Cu3Snには発生しにくい。更に、Cu6Sn5のクラックの発生は相変態に伴う体積変化に起因するが、(Cu,Ni)6Sn5では相変態が生じないため、クラックは発生しない。
【0077】
よって、基板側のSn薄膜70内へのCu拡散の増量、及びNi拡散させることにより、クラックの発生し易いCu6Sn5を減らし、クラックの発生し難いCu3Sn、及び残ってしまったCu6Sn5に対しては(Cu,Ni)6Sn5へ変化させることで、効果的にクラックの発生を抑制することができる。
【0078】
このように、半導体チップ30側に設けたNi薄膜はCu薄膜より拡散し難いため、
図13のようにCu薄膜71より上層にNi薄膜72を配置した場合には、Ni薄膜72がバリア層として作用し、下層のCu薄膜71からのCuの拡散を損なう可能性があるが、
図14では、上層側にCu薄膜82を配置し下層側にNi薄膜81を配置することで、Cu薄膜82からのCuの拡散をNi薄膜81が妨げることがなく、効率よくSn薄膜70内へ拡散供給することができる。
【0079】
以上のごとく、Ni拡散とCu拡散を両立し、互いに拡散を損なうことなく両者を効率よくSn薄膜70内へ拡散させることができる。その結果、Cu拡散によるCu6Sn5の低減と、残ったCu6Sn5にNiを取り込ませることにより相変態を起こしにくい(Cu,Ni)6Sn5に変化させることにより、各々単独では得られない効果を相乗して得ることができる。
【0080】
なお、
図14において、成膜はスパッタ成膜、蒸着成膜、めっき成膜等、限定されない。スパッタ成膜では成膜厚の精度が高いが、1μm以上の厚さの成膜は困難である。一方、めっきでは膜厚の精度はスパッタよりも劣るが厚さを厚くすることができる。よって、これらの各成膜方法を適宜選択し、成膜厚を設定可能である。また、厚さも、Cu薄膜82のCuは拡散容易であるので、Cu薄膜82の厚さt32は例えば2μm程度の厚さにしても、下層のNi薄膜81の拡散を妨げることがない。下層のNi薄膜81の厚さt31も、成膜方法で可能な範囲で厚くすることが可能である。
【0081】
○
図14の変形例として
図15に示すようにしてもよい。
図15において、Cu配線と半導体チップ30とを接合するための液相拡散接合方法として、Cu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜91、Sn薄膜51、Cu薄膜82、Ni薄膜81を挟んだ状態において、Snの融点以上の温度雰囲気下で、Cu配線22と半導体チップ30とを接合する。これによれば、接合層が、Cu配線22側のCu3Snの金属間化合物層41と、半導体チップ30側の(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42との2層構造をなすので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0082】
ここで、Cu配線22上に順にNi薄膜91、Sn薄膜51が成膜されるとともに、半導体チップ30上に順にNi薄膜81、Cu薄膜82が成膜されており、Sn薄膜51の上にCu薄膜82が配置されることによりCu配線22と半導体チップ30との間に、Cu配線22側から半導体チップ30側に向かって順にNi薄膜91、Sn薄膜51、Cu薄膜82、Ni薄膜81を挟んだ状態にする。
【0083】
このように、基板側においてNi薄膜91をCu配線22とSn薄膜51との間に配置する。Ni薄膜91の厚さt41は厚すぎるとバリア層となり、Cu配線22の拡散を妨げるので、0.1~0.5μm程度の厚さにするのが望ましい。好ましくは、Ni薄膜91の厚さt41は0.1~0.3μmとするとよく、この場合、下のCu配線22の拡散を妨げることなく、Ni薄膜91を配置することができる。
【0084】
また、半導体チップ30側のNi薄膜81のSn薄膜51内への拡散はCuほど容易ではない。そのため、Ni薄膜81からSn薄膜51へNiを拡散する場合、
図15のようにNi薄膜91からNiの拡散を伴う場合がより効果的である。
【0085】
詳しく説明すると、Ni薄膜81及びNi薄膜91の両方を有する場合には、Sn薄膜51内への拡散が比較的容易に行われる。つまり、Ni薄膜91が無くNi薄膜81のみ配置した場合に比べ、Ni薄膜91を配置することにより、拡散が相対的に容易な基板側のNi薄膜91からSn薄膜51内へのNiの拡散が先に行われ、それに誘導されて、拡散が相対的にし難い半導体チップ30側のNi薄膜81からの拡散を誘引する結果としてSn薄膜51内への拡散が容易に行われるものと推定される。また、基板側のNi薄膜91からSn薄膜51内への拡散はNi薄膜81からSn薄膜51内への拡散より相対的に容易となるのは、Ni薄膜91とSn薄膜51とは例えばめっきで積層され密着しているのに対し、半導体チップ30側は、別体の半導体チップ30がSn薄膜51上にダイマウントにて載置されるのみであり、載置面が密着することはなく、微細な隙間で隔たれていることが要因と思われる。更に、基板側のNi薄膜91はCu配線22の全面に広範囲で成膜されているので、半導体チップ30が載置される領域外の周囲からもNiが拡散供給され易いのに対し、半導体チップ30側のNi薄膜81は半導体チップ30の載置領域のみにしか配置されていない。よって、半導体チップ30の配置領域外にはNi薄膜81は存在しないので(Niが半導体チップ配置領域外から拡散供給されることがないので)、NiがSn薄膜51に拡散されるには絶対量が少なく、これが、Ni薄膜91からSn薄膜51内への拡散はNi薄膜81からSn薄膜51内への拡散より相対的に容易となる要因と思われる。
【0086】
○
図1に代わり
図16に示す構成としてもよい。
図16において、Cu3Snの金属間化合物層41及び(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、それぞれ、隙間にSn単独相を伴う金属間化合物のネットワーク構造を有する。
【0087】
Cu3Snの金属間化合物層41は、Sn単独相41b中に金属間化合物(IMC)41aが分散しており、三次元的な網目状をなす金属間化合物41aを有する。つまり、隙間にSn単独相41bを伴う金属間化合物41aのネットワーク構造を有する。詳しくは、Cu3Snの金属間化合物層41は、三次元的な網目状をなす金属間化合物41aと網目の隙間のSn単独相41bとが入り組んでいる。
【0088】
また、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、Sn単独相42b中に金属間化合物(IMC)42aが分散しており、三次元的な網目状をなす金属間化合物42aを有する。つまり、隙間にSn単独相42bを伴う金属間化合物42aのネットワーク構造を有する。詳しくは、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、三次元的な網目状をなす金属間化合物42aと網目の隙間のSn単独相42bとが入り組んでいる。
【0089】
このように、Cu3Snの金属間化合物層41及び(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、それぞれ、三次元的な網目状をなす金属間化合物41a,42aを有し、ネットワーク構造の接合層となっている。詳しくは、Cu3Snの金属間化合物層41及び(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、それぞれ、三次元的な網目状をなし相互に繋がった金属間化合物41a,42aと網目の隙間のSn単独相41b,42bとが入り組んでいる。より詳しくは、Cu3Snの金属間化合物層41及び(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、それぞれ、金属間化合物41a,42aの網目の隙間にSn単独相41b,42bが存在し、かつ、金属間化合物41a,42aとSn単独相41b,42bとの境界の少なくとも一部が非直線状をなし、入り組んだ構造を有する。
【0090】
なお、
図16中の金属間化合物41a,42aは、塊が互いに離間しているかのように示されているが、当該図は一断面をわかり易く模式化したものであり、実際には三次元的に互いに接続したネットワーク状態となっている。
【0091】
このようにして、Cu3Snの金属間化合物層41及び(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層42は、ミクロ的には単一層ではなく、各IMCとSnとが相互に入り組んだ構造を成し、IMC同士がネットワーク状に繋がることで高温接合が得られる。この構造では、IMCのネットワークの隙間にSnが入り込んで存在し、又、IMCもネットワーク状態で繋がっていることで、一定の応力緩和効果が得られ、信頼性を確保することができる。
【0092】
○
図2、
図12、
図13でのCuの膜厚(t3,t12,t21)、Niの膜厚(t1,t4,t10,t22)を例示したが、これに限定されない。
○ Snの膜厚を5μmと例示したが、これに限定されない。例えば、3μm、4μm、或いは6μmであってもよい。
【0093】
○ 接合層内にCu3Snの金属間化合物層が必ず存在する必要はない。即ち、Cu拡散状態にばらつきがあり、Cu拡散量が少ない場合がある。その上、Cu配線の上層にNi層を積層した場合、さらにCu拡散量が減少することになる。その結果、Cu3Sn層が生じない場合がある。しかし、その場合であっても、Niを拡散させることにより、Cu6Sn5を十分に(Cu,Ni)6Sn5に置き換え、クラックを抑制することができる。
【0094】
つまり、
図1に代わり
図17に示すように、Cu配線22と半導体チップ30との間に接合層45が形成された接合構造であって、接合層45は、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層からなる1層構造であってもよい。これによれば、接合層45は、(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層からなる1層構造であるので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0095】
○ Cu6Sn5層の全てを(Cu,Ni)6Sn5に置き換える構成に限定されない。即ち、Niの拡散状態にばらつきがあり、部分的には、Cu6Sn5が残存する可能性もある。この場合でも従来構造に比べてクラックの発生が低減され、クラック抑制効果を得ることができる。
【0096】
つまり、
図1に代わり
図18に示すように、Cu配線22と半導体チップ30との間に接合層46が形成された接合構造であって、接合層46は、(Cu,Ni)6Sn5とCu6Sn5とが混在した金属間化合物層からなる1層構造であってもよい。これによれば、接合層46は、(Cu,Ni)6Sn5とCu6Sn5とが混在した金属間化合物層からなる1層構造であるので、接合層が、Cu配線側のCu3Snの金属間化合物層と、半導体チップ側のCu6Sn5の金属間化合物層との2層構造をなす場合に比べて、Cu6Sn5の相変態に伴う体積変化に起因したクラックの発生を抑制することができる。
【0097】
○ 接合温度は、300℃に限定されない。少なくともSnの融点232℃以上であればよい。
○ 裏面電極(Ti/Ni/Ag)31は、少なくともTi層を含むものとすることが望ましい。
【符号の説明】
【0098】
10…接合構造、22…Cu配線、30…半導体チップ、40…接合層、41…Cu3Snの金属間化合物層、42…(Cu,Ni)6Sn5の金属間化合物層、45…接合層、46…接合層、50…Ni薄膜、51…Sn薄膜、52…Cu薄膜、53…Ni薄膜、60…Ni薄膜、61…Sn薄膜、62…Cu薄膜、70…Sn薄膜、71…Cu薄膜、72…Ni薄膜、81…Ni薄膜、82…Cu薄膜、91…Ni薄膜。