(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】レーザ加工システム及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20230711BHJP
【FI】
B23K26/00 B
B23K26/00 N
(21)【出願番号】P 2019176344
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280562(JP,A)
【文献】特開2014-223660(JP,A)
【文献】特開平06-312284(JP,A)
【文献】特表2014-523813(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0162142(US,A1)
【文献】特開2011-116116(JP,A)
【文献】特開2013-129188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B41J 2/315 - 2/345、
2/42 - 2/425、
2/475 - 2/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザ光を照射し、前記被加工物の表面を酸化により着色することが可能なレーザ加工システムであって、
前記レーザ光を出射するレーザ光出射部と、
前記レーザ光を走査する走査部と、
前記レーザ光出射部及び前記走査部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記被加工物の前記表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、前記加工領域を設定する第1設定処理と、
前記加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定処理と、
前記レーザ光の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光の出力密度、又は前記加工領域の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定処理と、
前記走査部で前記レーザ光を前記走査線に従って走査しながら、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を前記基準密度から徐々に小さくするマーキング処理と、を実行
し、
前記走査線は、所定方向に対して平行であると共に、前記所定方向とは直交する側において所定間隔を置いて並び、前記レーザ光が前記所定方向の上流側から下流側へ向かうように走査される複数の走査線で構成され、
前記複数の走査線では、前記所定方向の上流側にある走査開始端から、前記所定方向の下流側にある走査終了端に向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に小さくなり、
前記複数の走査線のうち、互いに隣り合う一方の走査線と他方の走査線との間では、前記一方の走査線の前記走査終了端における前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度よりも、前記他方の走査線の前記走査開始端における前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が大きいことを特徴とするレーザ加工システム。
【請求項2】
被加工物にレーザ光を照射し、前記被加工物の表面を酸化により着色することが可能なレーザ加工システムであって、
前記レーザ光を出射するレーザ光出射部と、
前記レーザ光を走査する走査部と、
前記レーザ光出射部及び前記走査部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記被加工物の前記表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、前記加工領域を設定する第1設定処理と、
前記加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定処理と、
前記レーザ光の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光の出力密度、又は前記加工領域の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定処理と、
前記走査部で前記レーザ光を前記走査線に従って走査しながら、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を前記基準密度から徐々に小さくするマーキング処理と、を実行し、
前記走査線は、所定方向に対して平行であると共に、前記レーザ光が前記所定方向へ向かうように走査される複数の第1走査線で構成され、
前記所定方向に対して平行であると共に、前記所定方向とは直交する側において前記複数の第1走査線とは交互に所定間隔を置いて並び、前記レーザ光が前記所定方向とは反対の反対方向へ向かうように走査される複数の第2走査線が設定され、
前記複数の第1走査線では、前記所定方向へ向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に小さくなる一方、前記複数の第2走査線では、前記反対方向へ向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に大きくなることを特徴とするレーザ加工システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記マーキング処理において、前記レーザ光出射部から出射される前記レーザ光の出力を徐々に低下させることによって、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を徐々に小さくすることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記マーキング処理において、前記レーザ光出射部から出射される前記レーザ光の周波数を徐々に低下させることによって、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を徐々に小さくすることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記マーキング処理において、前記走査部による前記レーザ光の走査速度を徐々に増加させることによって、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を徐々に小さくすることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工システム。
【請求項6】
前記所定間隔は、複数の前記走査線のうち前記レーザ光が最初に走査される一の走査線から離れるに連れて大きく設定されることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工システム。
【請求項7】
前記被加工物の前記表面に着ける色に関する情報を色情報として受け付ける入力部と、
前記色と前記基準密度とが対応付けられたデータテーブルを記憶した記憶部と、を備え、
前記制御部は、前記第3設定処理において、前記色情報と前記データテーブルとに基づいて前記基準密度を設定することを特徴とする
請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載のレーザ加工システム。
【請求項8】
前記入力部では、前記被加工物の種類に関する情報を種類情報として受け付け、
前記データテーブルでは、前記種類が前記色及び前記基準密度に対応付けられ、
前記制御部は、前記第3設定処理において、前記種類情報と前記色情報と前記データテーブルとに基づいて前記基準密度を設定することを特徴とする
請求項7に記載のレーザ加工システム。
【請求項9】
被加工物にレーザ光を照射し、前記被加工物の表面を酸化により着色することが可能であり、前記レーザ光を出射するレーザ光出射部と、前記レーザ光を走査する走査部と、を備えたレーザ加工システムに、
前記被加工物の前記表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、前記加工領域を設定する第1設定ステップと、
前記加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定ステップと、
前記レーザ光の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光の出力密度、又は前記加工領域の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定ステップと、
前記走査部で前記レーザ光を前記走査線に従って走査しながら、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を前記基準密度から徐々に小さくするマーキングステップと、
を実行させるための加工データを作成し、
前記走査線は、所定方向に対して平行であると共に、前記所定方向とは直交する側において所定間隔を置いて並び、前記レーザ光が前記所定方向の上流側から下流側へ向かうように走査される複数の走査線で構成され、
前記複数の走査線では、前記所定方向の上流側にある走査開始端から、前記所定方向の下流側にある走査終了端に向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に小さくなり、
前記複数の走査線のうち、互いに隣り合う一方の走査線と他方の走査線との間では、前記一方の走査線の前記走査終了端における前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度よりも、前記他方の走査線の前記走査開始端における前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が大きいことを特徴とする制御プログラム。
【請求項10】
被加工物にレーザ光を照射し、前記被加工物の表面を酸化により着色することが可能であり、前記レーザ光を出射するレーザ光出射部と、前記レーザ光を走査する走査部と、を備えたレーザ加工システムに、
前記被加工物の前記表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、前記加工領域を設定する第1設定ステップと、
前記加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定ステップと、
前記レーザ光の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光の出力密度、又は前記加工領域の単位面積当たりの光強度である前記レーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定ステップと、
前記走査部で前記レーザ光を前記走査線に従って走査しながら、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度を前記基準密度から徐々に小さくするマーキングステップと、
を実行させるための加工データを作成し、
前記走査線は、所定方向に対して平行であると共に、前記レーザ光が前記所定方向へ向かうように走査される複数の第1走査線で構成され、
前記所定方向に対して平行であると共に、前記所定方向とは直交する側において前記複数の第1走査線とは交互に所定間隔を置いて並び、前記レーザ光が前記所定方向とは反対の反対方向へ向かうように走査される複数の第2走査線が設定され、
前記複数の第1走査線では、前記所定方向へ向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に小さくなる一方、前記複数の第2走査線では、前記反対方向へ向かうに連れて、前記レーザ光の前記出力密度又は前記パワー密度が徐々に大きくなることを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カラーマーキングを行うことが可能なレーザ加工システム、及び、その加工データを作成する制御プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、上記のレーザ加工システムに関し、種々の技術が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載の技術は、レーザ加工システムであって、発振器からのレーザ光を照射するレーザヘッドと、マーキング加工の対象であるワークに前記レーザヘッドからレーザ光を照射した際の前記ワークの色情報を取得する色取得部と、前記レーザ光の照射により前記ワークに付与されるエネルギーと、前記色情報との関係を示す関数を生成する関数生成部と、前記関数に基づいて、前記ワークにマーキング加工を行う際の加工条件を補正する条件補正部と、を備える。
【0003】
下記特許文献1の記載によれば、レーザ加工システムは、エネルギーと色情報との関係を示す関数を生成するので、ワークの色とエネルギーとを客観的に関連付けることができ、この関数に基づいて加工条件を補正することにより、ワークを所望の色に精度よく着色することが容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光が走査されることによって一定のエネルギーがワークに付与され続けると、ワークが加熱され、その熱の影響により、ワークの着色にムラが生じることがある。
【0006】
そこで、本開示は、上述した点を鑑みてなされたものであり、レーザ光の照射によって被加工物の表面に生じる色のムラを低減するレーザ加工システム及び制御プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、被加工物にレーザ光を照射し、被加工物の表面を酸化により着色することが可能なレーザ加工システムであって、レーザ光を出射するレーザ光出射部と、レーザ光を走査する走査部と、レーザ光出射部及び走査部を制御する制御部と、を備え、制御部は、被加工物の表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、加工領域を設定する第1設定処理と、加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定処理と、レーザ光の単位面積当たりの光強度であるレーザ光の出力密度、又は加工領域の単位面積当たりの光強度であるレーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定処理と、走査部でレーザ光を走査線に従って走査しながら、レーザ光の出力密度又はパワー密度を基準密度から徐々に小さくするマーキング処理と、を実行することを特徴とするレーザ加工システムを開示する。
【0008】
本明細書は、被加工物にレーザ光を照射し、被加工物の表面を酸化により着色することが可能であり、レーザ光を出射するレーザ光出射部と、レーザ光を走査する走査部と、を備えたレーザ加工システムに、被加工物の表面に対する加工領域に関する設定情報を取得して、加工領域を設定する第1設定ステップと、加工領域を塗り潰すための走査線を設定する第2設定ステップと、レーザ光の単位面積当たりの光強度であるレーザ光の出力密度、又は加工領域の単位面積当たりの光強度であるレーザ光のパワー密度に対する基準密度を設定する第3設定ステップと、走査部でレーザ光を走査線に従って走査しながら、レーザ光の出力密度又はパワー密度を基準密度から徐々に小さくするマーキングステップと、を実行させるための加工データを作成することを特徴とする制御プログラムを開示する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、レーザ加工システム及び制御プログラムは、レーザ光の照射によって被加工物の表面に生じる色のムラを低減する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るレーザ加工システムの概略構成である。
【
図2】同レーザ加工システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】同レーザ加工システムが実行する各処理のフローチャートである。
【
図6】加工領域内の各走査線の設定例を示す図である。
【
図7】加工領域内の各走査線の設定例を示す図である。
【
図8】加工領域内の各走査線の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(レーザ加工システムの概略構成)
本実施形態に係るレーザ加工システム1の概略構成について
図1を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工システム1は、PC(Personal Computer)7、レーザ加工部2、レーザコントローラ5等を備える。また、レーザ加工部2は、レーザヘッド部3および電源ユニット6等を有する。レーザ加工部2は、レーザコントローラ5から送信される情報に基づいて、被加工物Wの表面WAに対してレーザ光Lを2次元走査して照射し、文字、記号、図形等のオブジェクトをマーキングするレーザ加工を行う。
【0012】
PC7は、例えばノートPC等で実現され、LCD(Liquid Crystal Display)77、キーボード76、およびマウス78等を備え、ユーザからの加工命令を受け付け、加工データを作成し、レーザコントローラ5へ出力する。ここで、加工データとは、レーザ加工においてレーザ光Lにより描画される加工パターンの形状を示すXY座標データと、XY座標データにレーザ光Lの加工条件を示す加工条件データとが対応付けられたデータである。レーザコントローラ5はコンピュータ等で実現され、レーザ加工部2およびPC7と双方向通信可能に接続されている。レーザコントローラ5はPC7から出力された加工データに基づいてレーザ加工部2を制御する。以後の説明において、方向は
図1に示す方向を用いる。
【0013】
レーザヘッド部3は、本体ベース11、レーザ光Lを出射するレーザ光出射部12、光シャッター部13、光ダンパー(不図示)、ハーフミラー(不図示)、ガイド光部15、反射ミラー17、光センサ20、ガルバノスキャナ18、およびfθレンズ19等を有し、不図示の略直方体形状の筐体カバーで覆われている。
【0014】
レーザ光出射部12は、アイソレータ21、およびビームエキスパンダ22等を有する。レーザ光出射部12は本体ベース11に取り付けられており、ファイバレーザモジュール40から出射される、被加工物Wの表面WAに加工を行うためのパルス状のレーザ光Lが、光ファイバFを介して入射される。アイソレータ21は、レーザ光Lが光ファイバFに戻ることを阻止するものである。ビームエキスパンダ22は、アイソレータ21と同軸に設けられており、レーザ光Lのビーム径を調整する。これにより、本実施形態では、レーザ光出射部12は、アイソレータ21とビームエキスパンダ22等に加えて、光ファイバF、およびファイバレーザモジュール40によって構成される。尚、アイソレータ21がレーザ光Lを出射する方向が前方向であり、レーザヘッド部3の上下方向および前後方向に直交する方向が、レーザヘッド部3の左右方向である。
【0015】
光シャッター部13は、シャッターモータ26および平板状のシャッター27を有する。シャッター27は、シャッターモータ26のモータ軸に取り付けられて同軸に回転する。シャッター27は、ビームエキスパンダ22から出射されたレーザ光Lの光路を遮る位置に回転された際には、レーザ光Lを光ダンパーへ反射する。光ダンパーはシャッター27で反射されたレーザ光Lを吸収する。一方、シャッター27がビームエキスパンダ22から出射されたレーザ光Lの光路を遮らない位置に回転された際には、ビームエキスパンダ22から出射されたレーザ光Lは、光シャッター部13の前側に配置されたハーフミラーに入射する。ハーフミラーは、後側から入射されるレーザ光Lのほぼ全部を透過し、一部を反射ミラー17へ反射する。ハーフミラーを透過したレーザ光Lはガルバノスキャナ18に入射される。反射ミラー17は入射されたレーザ光Lを光センサ20へ反射する。光センサ20は、入射されたレーザ光Lの出力に応じた信号をレーザコントローラ5へ出力する。
【0016】
ガイド光部15は、ガイド光レーザ28(
図2)およびレンズ群(不図示)等を有する。ガイド光レーザ28は例えば赤色の、可視レーザ光を出射する半導体レーザである。レンズ群(不図示)は可視レーザ光を平行光に収束する。ガイド光部15はハーフミラーの右側に配置されている。ハーフミラーはガイド光部15から出射された可視レーザ光であるガイド光をガルバノスキャナ18へ向けて反射する。ここで、ハーフミラーにより反射されたガイド光の光路と、ハーフミラーを透過したレーザ光Lの光路とは一致する。尚、ガイド光は、レーザ加工の際に被加工物Wの位置合わせに用いられるものである。
【0017】
ガルバノスキャナ18は、本体ベース11の前側端部に形成された貫通孔(不図示)の上側に取り付けられている。ガルバノスキャナ18は、ガルバノX軸モータ31、ガルバノY軸モータ32、本体部33等を有する。ガルバノX軸モータ31およびガルバノY軸モータ32の各々は、モータ軸およびモータ軸の先端部に取り付けられた走査ミラーを有する。ガルバノX軸モータ31およびガルバノY軸モータ32は、各々のモータ軸が互いに直交し、各々の走査ミラーが互いに対向するように、本体部33に取り付けられている。各モータ31,32が回転することにより、各走査ミラーが回転する。これにより、レーザ光Lおよびガイド光が2次元走査される。ここで、走査方向は、レーザヘッド部3の方向において、前から後へ向かうX方向と、右から左へ向かうY方向である。
【0018】
fθレンズ19は、ガルバノスキャナ18によって2次元走査されたレーザ光Lとガイド光とを下方に配置された被加工物Wの表面WAに集光させる。
【0019】
電源ユニット6は、ファイバレーザモジュール40および電源部52等を有する。電源部52は不図示の電源コードを介して商用電源に接続される。電源部52は給電される交流電力を直流電力に変換し、レーザ加工部2の各部へ給電する。ファイバレーザモジュール40は光ファイバFを介してアイソレータ21と光学的に接続されている。ファイバレーザモジュール40は、レーザコントローラ5からの命令に応じて、被加工物Wの表面WAに加工を行うためのパルス状のレーザ光Lを生成し、光ファイバF内に出射する。尚、ファイバレーザモジュール40は、公知技術で構成されるため、その詳細な説明は省略する。
【0020】
(レーザ加工システムの電気的構成)
次に、レーザ加工システム1の電気的構成について、
図2を用いて説明する。PC7は、
図1で示した構成の他に、制御部70、制御回路74等を備える。制御部70は、CPU71、RAM72、ROM73、およびHDD(Hard Disk Drive)75等を有する。PC7にはレーザ加工のためのアプリケーションソフトウェアが予めインストールされている。ROM73にはファームウェア等が記憶されている。RAM72はCPU71が各種の処理を実行するための主記憶装置として用いられる。また、HDD75には加工処理のプログラムおよび文字パラメータ情報等が記憶されている。また、HDD75には、レーザ加工のためのアプリケーションソフトウェアと連携して使用される後述する第1データテーブル100(
図3)および第2データテーブル102(
図4)等が記憶されている。CPU71、RAM72、およびROM73は、不図示のバス線により相互に接続されている。また、CPU71とHDD75は、不図示の入出力インターフェースを介して接続されている。また、PC7は加工データをレーザコントローラ5へ送信する送信部(不図示)を有する。
【0021】
制御回路74は、LCD77、キーボード76、マウス78等と電気的に接続されており、キーボード76およびマウス78が受け付けた操作を信号に変換して、CPU71へ出力する。また、CPU71からの命令に応じた表示画面をLCD77に表示させる。
【0022】
レーザコントローラ5は、例えばコンピュータ等で実現され、CPU41、RAM42、ROM43等を有する。CPU41はROM43に記憶されている各種のプログラムを実行することによって、後述のガルバノコントローラ56、ガイド光レーザドライバ58、およびファイバレーザモジュール40等を制御する。RAM42はCPU41が各種の処理を実行するための主記憶装置として用いられる。尚、CPU41、RAM42、ROM43は、不図示のバス線により相互に接続されている。レーザコントローラ5は、PC7から出力される加工データに基づき、ガルバノスキャナ18の駆動角度および回転速度等を含む駆動情報およびファイバレーザモジュール40の駆動電流値等を含む駆動情報を作成し、レーザ加工部2を制御する、後述のマーキング処理を実行する。
【0023】
レーザヘッド部3は、
図1で示した構成の他に、ガルバノコントローラ56、ガルバノドライバ36、およびガイド光レーザドライバ58等を有する。ガルバノコントローラ56は、レーザコントローラ5から入力された駆動情報に基づいて、例えば駆動電流値、ON・OFF等の制御信号をガルバノドライバ36へ出力する。ガルバノドライバ36は、ガルバノコントローラ56から入力された制御信号に応じた駆動電流をガルバノX軸モータ31およびガルバノY軸モータ32へ供給する。
【0024】
(カラーマーキングの加工条件)
次に、レーザ加工システム1でカラーマーキングが行われる際の、レーザ光Lの加工条件について説明する。カラーマーキングとは、被加工物Wにレーザ光Lを照射することによって、被加工物Wの表面WAを酸化で着色することをいう。尚、レーザ加工システム1は、カラーマーキングだけでなく、レーザ光Lで被加工物Wの表面WAを掘り込むことによって行う、通常のマーキングも可能である。
【0025】
カラーマーキングにおけるレーザ光Lの加工条件は、例えば、
図3及び
図4に示すように、第1データテーブル100及び第2データテーブル102において、被加工物Wの種類に対して、色と、レーザ光Lの出力(%)、パルス幅(ns)、周波数(kHz)、及び走査速度(mm/s)とが対応付けられている。尚、レーザ光Lの出力(%)は、レーザ光出射部12の最大出力に対する百分率である。
【0026】
具体的に説明すると、第1データテーブル100では、日本産業規格SS400の一般構造用圧延鋼材(被加工物Wの種類)に対して、100%のレーザ光Lの出力と、4nsのレーザ光Lのパルス幅とが対応付けられている。更に、青色、水色、薄青色、浅緑色、橙色、山吹色、ベージュ色、及び紫色等の各色に対して、レーザ光Lの周波数(Hz)及びレーザ光Lの走査速度(mm/s)の組合せが対応付けられている。例えば、青色には、30kHzの周波数及び10mm/sの走査速度の組合せと、50kHzの周波数及び20mm/sの走査速度の組合せと、70kHzの周波数及び40mm/sの走査速度の組合せ等が対応付けられている。
【0027】
従って、日本産業規格SS400の一般構造用圧延鋼材である被加工物Wの表面WAに対して青色のカラーマーキングが行われる際の、レーザ光Lの加工条件は、例えば、100%の出力と、4nsのパルス幅と、更に、30kHzの周波数及び10mm/sの走査速度、50kHzの周波数及び20mm/sの走査速度、70kHzの周波数及び40mm/sの走査速度等の各組合せのうち、いずれか一つの組合せが設定される。
【0028】
同様にして、第2データテーブル102では、チタン(被加工物Wの種類)に対して、100%のレーザ光Lの出力と、4nsのレーザ光Lのパルス幅とが対応付けられている。更に、青色、水色、薄青色、浅緑色、橙色、山吹色、ベージュ色、及び紫色等の各色に対して、レーザ光Lの周波数(Hz)及びレーザ光Lの走査速度(mm/s)の組合せが対応付けられている。例えば、青色には、40kHzの周波数及び10mm/sの走査速度の組合せと、30kHzの周波数及び20mm/sの走査速度の組合せと、20kHzの周波数及び40mm/sの走査速度の組合せ等が対応付けられている。
【0029】
従って、チタンの被加工物Wの表面WAに対して青色のカラーマーキングが行われる際の、レーザ光Lの加工条件は、例えば、100%の出力と、4nsのパルス幅と、更に、40kHzの周波数及び10mm/sの走査速度、30kHzの周波数及び20mm/sの走査速度、20kHzの周波数及び40mm/sの走査速度等の各組合せのうち、いずれか一つの組合せが設定される。
【0030】
尚、第1データテーブル100及び第2データテーブル102は、上述したように、HDD75に記憶されているが、日本産業規格SS400の一般構造用圧延鋼材及びチタン以外の被加工物Wの種類(例えば、ステンレス鋼)に関するデータテーブルも、同様にして、HDD75に記憶されている。
【0031】
(カラーマーキングの制御フロー)
図5のフローチャートで表された制御プログラムは、制御部70のROM73に記憶されており、レーザ光Lによるカラーマーキングが行われる際に、制御部70のCPU71により実行される。従って、後述する処理において、制御対象がレーザ加工部2の構成要素である場合、レーザコントローラ5を介した制御が行われる。以下、
図5のフローチャートで表された制御プログラムを、
図6に示す具体例を参照しながら説明する。
【0032】
図5のフローチャートで表された制御プログラムでは、先ず、ステップ(以下、単に「S」と表記する。)10において、第1設定処理が行われる。この処理では、加工領域PAのXY座標データが設定される。加工領域PAのXY座標データは、被加工物Wの表面WAにおいてレーザ光Lによりカラーマーキングの色で塗り潰される形状を示す。尚、この設定は、ユーザがキーボード76又はマウス78を操作することによって入力された設定情報に基づいて行われる。
【0033】
第2設定処理(S12)では、加工領域PAをカラーマーキングの色で塗り潰すための各走査線M1,M2,M3,M4,…が設定される。本実施形態では、各走査線M1,M2,M3,M4,…は、所定方向D1に対して平行であると共に、所定方向D1とは直交する側において、一に定まった所定間隔tを置いて並ぶように設定される。また、各走査線M1,M2,M3,M4,…は、符号に付された数字の順番で、レーザ光Lが所定方向D1の上流側から下流側へ向かって走査されるように設定される。更に、各走査線M1,M2,M3,M4,…は、レーザ光Lが走査されるに連れて、後述するレーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度から徐々に小さくされるように設定される。
【0034】
尚、所定方向D1において、上流側とは紙面左側をいい、下流側とは紙面右側をいう。各走査線M1,M2,M3,M4,…を区別せずに総称して説明する場合には、走査線Mと表記する。これらの点は、以下の説明においても同様である。
【0035】
また、各走査線M1,M2,M3,M4,…の矢印は、レーザ光Lが走査される方向を示している。この点は、後述する
図7及び
図8においても、同様である。
【0036】
選択処理(S14)では、被加工物Wの表面WAに着ける色(つまり、カラーマーキングの色)に関する色情報と、被加工物Wの種類に関する種類情報とが設定される。色情報及び種類情報は、ユーザがキーボード76又はマウス78を操作することによって受け付けられる。尚、レーザ光Lの周波数と走査速度のうち、いずれか一方についても、ユーザがキーボード76又はマウス78を操作することによって設定される。
【0037】
第3設定処理(S16)では、レーザ光Lの単位面積当たりの光強度であるレーザ光Lの出力密度、又は加工領域PAの単位面積当たりの光強度であるレーザ光Lのパワー密度に対する基準密度が設定される。本実施形態では、100%のレーザ光Lの出力及び4nsのレーザ光Lのパルス幅の条件下で、各データテーブル100,102に基づいて、上記の選択処理(S14)で設定された色情報(カラーマーキングの色)及び種類情報(被加工物W)に対応付けられ、ユーザによって設定されていないレーザ光Lの周波数又は走査速度が選択される。
【0038】
例えば、色情報が「青」であり、種類情報が「チタン」であり、更に「10mm/s」のレーザ光Lの走査速度がユーザによって設定された場合には、第2データテーブル102に基づいて、「40kHz」のレーザ光Lの周波数が選択される。これに対して、色情報が「青」であり、種類情報が「チタン」であり、更に「30kHz」のレーザ光Lの周波数がユーザによって設定された場合には、第2データテーブル102に基づいて、「20mm/s」のレーザ光Lの走査速度が選択される。
【0039】
レーザ光Lの出力密度又はレーザ光Lのパワー密度は、このようにして設定・選択されたレーザ光Lの周波数及び走査速度と、レーザ光Lの出力及びパルス幅とによって算出され、その算出された密度が基準密度として設定される。
【0040】
マーキング処理(S18)では、ガルバノスキャナ18によって、レーザ光Lが走査線Mに従って走査される。その際、レーザ光Lが走査されるに連れて、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度から徐々に小さくされる。
【0041】
つまり、加工領域PA内の各走査線M1,M2,M3,M4,…では、レーザ光Lが、所定方向D1の上流側にある各走査開始端MS1,MS2,MS3,MS4,…から、所定方向D1の下流側にある各走査終了端ME1,ME2,ME3,ME4,…に向かうように走査されるに連れて、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度から徐々に小さくされる。
【0042】
そのために、レーザコントローラ5は、レーザ光出射部12から出射されるレーザ光Lについて、例えば、出力を徐々に低下させたり、周波数を徐々に低下させたり、走査速度を徐々に大きくする。尚、レーザ光Lの周波数が一定である条件下で、レーザ光Lのパルス幅を徐々に低下させることによって、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度から徐々に小さくされてもよい。
【0043】
更に、レーザコントローラ5は、互いに隣り合う走査線M1と走査線M2との間では、走査線M1の走査終了端ME1におけるレーザ光Lの出力密度又はパワー密度よりも、走査線M2の走査開始端MS2におけるレーザ光Lの出力密度又はパワー密度を、基準密度を超えない限度で大きくする。この点は、互いに隣り合う走査線M2と走査線M3との間、及び互いに隣り合う走査線M3と走査線M4との間等においても、同様である。
【0044】
尚、以下の説明において、各走査開始端MS1,MS2,MS3,MS4,…を区別せずに総称する場合には、走査開始端MSと表記する。また、各走査終了端ME1,ME2,ME3,ME4,…を区別せずに総称する場合には、走査終了端MEと表記する。
【0045】
(まとめ)
以上詳細に説明したように、本実施の形態のレーザ加工システム1及び制御プログラムでは、レーザ光Lによるカラーマーキングが行われる際、レーザ光Lが走査されるに連れて、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度から徐々に小さくされ、被加工物Wの温度上昇が抑えられるため、レーザ光Lの照射によって被加工物Wの表面WAに生じる色のムラが低減する。
【0046】
また、本実施の形態のレーザ加工システム1及び制御プログラムでは、レーザ光Lが所定方向D1の上流側から下流側へ向かって走査される各走査線Mのうち、互いに隣り合う一方の走査線Mと他方の走査線Mとの間において、一方の走査線Mの走査終了端MEにおけるレーザ光Lの出力密度又はパワー密度よりも、他方の走査線Mの走査開始端MSにおけるレーザ光の出力密度又はパワー密度を基準密度を超えない限度で大きくする。これにより、例えば、被加工物Wの比熱容量が比較的小さく、レーザ光Lの照射によって一旦上がった被加工物Wの温度の低下が比較的速いケースでも、加工領域PAを塗り潰すための各走査線Mでは、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が、基準密度以下の近傍で徐々に小さくされる。そのため、レーザ光Lの照射によって被加工物Wの表面WAに生じる色は、ユーザが設定した色に保たれる。
【0047】
また、本実施の形態のレーザ加工システム1及び制御プログラムでは、HDD75に記憶された各データテーブル100,102等で対応付けられた、被加工物Wの種類、ユーザが設定する色、レーザ光Lの出力(%)、パルス幅(ns)、周波数(kHz)、及び走査速度(mm/s)に基づき、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度に対する基準密度が設定される。そのため、レーザ光Lの照射によって被加工物Wの表面WAに生じる色は、精度よく、ユーザが設定する色になる。
【0048】
ちなみに、本実施形態において、ガルバノスキャナ18は、「走査部」の一例である。HDD75は、「記憶部」の一例である。キーボード76又はマウス78は、「入力部」の一例である。第1データテーブル100及び第2データテーブル102は、「データテーブル」の一例である。
【0049】
(その他)
尚、本開示は、本実施形態に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0050】
例えば、加工領域PA内の各走査線Mは、例えば、
図7に示すように設定されてもよい。このような場合、各走査線M1,M3,…は、所定方向D1に対して平行であって、レーザ光Lが所定方向D1へ向かうように走査されるものである。これに対して、各走査線M2,M4,…は、所定方向D1に対して平行であると共に、所定方向D1とは直交する側において各走査線M1,M3,…とは交互に所定間隔tを置いて並び、レーザ光Lが所定方向D1とは反対の反対方向D2へ向かうように走査されるものである。
【0051】
更に、各走査線M1,M3,…では、レーザ光Lが所定方向D1へ向かうように走査されるに連れて、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が徐々に小さくされる。これに対して、各走査線M2,M4,…では、レーザ光Lが反対方向D2へ向かうように走査されるに連れて、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が基準密度を超えない限度で大きくされる。
【0052】
このような場合には、例えば、被加工物Wの比熱容量が比較的小さく、レーザ光Lの照射によって一旦上がった被加工物Wの温度の低下が比較的速いケースでも、加工領域PAを塗り潰すための各走査線Mでは、レーザ光Lの出力密度又はパワー密度が、基準密度以下の近傍で徐々に小さく又は大きくされる。そのため、直前に走査された走査線Mを起因とする、被加工物Wの温度上昇の影響が抑えられるので、レーザ光Lの照射によって被加工物Wの表面WAに生じる色は、ユーザが設定した色に保たれる。
【0053】
ちなみに、各走査線M1,M3,…は、「複数の第1走査線」の一例である。各走査線M2,M4,…は、「複数の第2走査線」の一例である。
【0054】
また、加工領域PA内の各走査線Mに関し、各所定間隔tは、各走査線Mのうちレーザ光Lが最初に走査される一の走査線Mから離れるに連れて大きく設定されてもよい。具体的には、
図8に示すように、各所定間隔t1,t2,t3,…は、各走査線M1,M2,M3,M4,…のうち、レーザ光Lが最初に走査される走査線M1から離れるに連れて大きく設定される。
【0055】
このような場合、例えば、被加工物Wの比熱容量が比較的大きく、レーザ光Lの照射によって一旦上がった被加工物Wの温度の低下が比較的遅いケースでも、所定間隔t1,t2,t3,…(つまり、各走査線Mの間隔)が、レーザ光Lが最初に走査される走査線M1から離れるに連れて大きく、直前に走査された走査線Mを起因とする、被加工物Wの温度上昇の影響が抑えられるため、レーザ光Lの照射によって被加工物Wの表面WAに生じる色のムラが低減する。
【0056】
1:レーザ加工システム、12:レーザ光出射部、18:ガルバノスキャナ、70:制御部、75:HDD76:キーボード、77:マウス、100:第1データテーブル、102:第2データテーブル、D1:所定方向、D2:反対方向、L:レーザ光、M:走査線、MO:走査終了端、MS:走査開始端、PA:加工領域、S10:第1設定処理、S12:第2設定処理、S16:第3設定処理、S18:マーキング処理、t:所定間隔、W:被加工物、WA:被加工物の表面