(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】予測装置、予測プログラム、生成装置及び生成プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 3/32 20060101AFI20230711BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20230711BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01N3/32 A
G01N17/00
H05K3/00 V
(21)【出願番号】P 2019204724
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪谷 宜彦
(72)【発明者】
【氏名】添田 武志
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-084248(JP,A)
【文献】特開2016-080677(JP,A)
【文献】特開2008-241432(JP,A)
【文献】特開2015-232578(JP,A)
【文献】特開2019-121326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/32
G01N 17/00
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を変形させる試験における前記基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、前記試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、前記基板の特徴量として抽出する抽出部と、
前記特徴量と、前記基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する生成部と、
前記生成部によって生成されたモデルを用いて、基板の設計値から特徴量の予測値を算出する算出部と、
を有することを特徴とする予測装置。
【請求項2】
前記抽出部は、温度を所定の範囲で繰り返し増減させることで基板を変形させる試験における、温度変化に対する前記基板の変形量の変化を、周波数に対する振幅に変換したデータから、前記試験の複数の繰り返し回数のそれぞれに対応する周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、前記基板の特徴量として抽出することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記基板の設計値と前記基板が故障に至るまでの前記試験の繰り返し回数との関係を表すモデルを基に、前記設計値の中から、前記基板が故障に至るまでの前記試験の繰り返し回数に対する寄与率が高い順に所定の数の設計値を選択する選択部をさらに有し、
前記生成部は、前記特徴量と、前記選択部によって選択された設計値との関係を表すモデルを生成することを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記複数の繰り返し回数ごとに、前記設計値を入力とし、前記特徴量を応答とする応答曲面を表すモデルを生成することを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記基板の設計値、及び前記基板に対して所定の回数だけ試験を行って得られた前記特徴量を基に、前記モデルを用いて前記所定の回数より大きい回数における特徴量を算出することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項6】
基板を変形させる試験における前記基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、前記試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、前記基板の特徴量として抽出し、
前記特徴量と、前記基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成し、
前記生成する処理によって生成されたモデルを用いて、基板の設計値から特徴量の予測値を算出する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする予測プログラム。
【請求項7】
基板を変形させる試験における前記基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、前記試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、前記基板の特徴量として抽出する抽出部と、
前記特徴量と、前記基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する生成部と、
を有することを特徴とする生成装置。
【請求項8】
基板を変形させる試験における前記基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、前記試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、前記基板の特徴量として抽出し、
前記特徴量と、前記基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測装置、予測プログラム、生成装置及び生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高度化に伴い、機器内に搭載される半導体に対しても高い品質が求められている。近年、多品種少量生産によって様々な種類の半導体が作られている中で、品質を保証する信頼性試験はますます重要となっている。一方で、半導体の集積化が進展すると、信頼性試験の工数も増加する。
【0003】
従来、半導体の信頼性試験を効率化するための方法として、試験の実績データから半導体の基板の品質を予測する方法が提案されている。例えば、従来の方法では、はんだ接合部の寿命サイクル数等の品質に関わる情報と、接合部断面の硬さとの関係式を実績データから求めることで、基板の品質の予測が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-32931号公報
【文献】特開2002-310888号公報
【文献】特開平3-128431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法では、基板の品質の予測精度が低下する場合があるという問題がある。例えば、従来の方法では、サイズや材料等の設計値の変更で基板の特性が大きく変化するような場合に、変更後の品質の予測精度が低下してしまう恐れがある。
【0006】
1つの側面では、基板の品質の予測精度の低下を抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様において、予測装置は、抽出部、生成部及び算出部を有する。抽出部は、基板を変形させる試験における基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、基板の特徴量として抽出する。生成部は、特徴量と、基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する。算出部は、生成部によって生成されたモデルを用いて、基板の設計値から特徴量の予測値を算出する。
【発明の効果】
【0008】
1つの側面では、基板の品質の予測精度の低下を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1に係る予測装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、ヒステリシス曲線を説明するための図である。
【
図5】
図5は、変形量の傾きを説明するための図である。
【
図6】
図6は、特徴量の抽出方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、モデルの生成方法を説明するための図である。
【
図8】
図8は、予測値の算出方法を説明するための図である。
【
図10】
図10は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、特徴量を抽出する処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る予測装置、予測プログラム、生成装置及び生成プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、各実施例は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【実施例1】
【0011】
[機能構成]
図1を用いて、実施例に係る予測装置の構成を説明する。
図1は、実施例1に係る予測装置の構成例を示す図である。
図1に示すように、予測装置10は、インタフェース部11、記憶部12及び制御部13を有する。
【0012】
インタフェース部11は、データの入出力、及び他の装置との間でのデータの通信を行うためのインタフェースである。また、例えば、インタフェース部11は、NIC(Network Interface Card)であり、インターネットを介してデータの通信を行ってもよい。
【0013】
記憶部12は、データや制御部13が実行するプログラム等を記憶する記憶装置の一例であり、例えばハードディスクやメモリ等である。記憶部12は、実績情報121、設計情報122及びモデル情報123を記憶する。
【0014】
実績情報121は、半導体の基板の温度サイクル試験(T/C試験)の結果である。T/C試験は、試験対象の基板の温度を繰り返し変化させる試験である。実績情報121には、後述するヒステリシス曲線を作成するために必要な情報が含まれる。例えば、実績情報121には、試験の繰り返し回数及び温度ごとの変形量等が含まれる。また、
図2に示すように、各温度における変形量は、基板の所定の位置と基準となる位置との距離で表される。
図2は、変形量を説明するための図である。
【0015】
設計情報122は、基板ごとの1つ以上の設計値及び品質である。
図3は、設計情報の一例を示す図である。
図3に示すように、設計情報122には、基板の設計値として、厚さ、層数、線膨張係数及びヤング率が含まれる。また、設計情報122には、基板の品質として、故障するまでのT/C試験の繰り返し回数が含まれる。以降、故障するまでのT/C試験の繰り返し回数を故障T/C回数と呼ぶ場合がある。
【0016】
また、品質は、故障T/C回数のような連続値で表されてもよいし、「High」、「Medium」、「Low」のような離散値のラベルで表されてもよい。なお、ラベルは、故障T/C回数に応じて決定されてもよい。例えば、ラベルは、0<故障T/C回数<400である場合は「Low」、400≦故障T/C回数<600である場合は「Medium」、600≦故障T/C回数である場合は「High」のように決定されてもよい。
【0017】
図3の例では、基板αの設計値(i)(厚さ)は1mmであり、設計値(ii)(層数)は5層であり、設計値(iii)(線膨張係数)は20ppm/℃であり、設計値(iv)(ヤング率)は20GPaであり、故障T/C回数は300回である。また、基板αの品質は、ラベル「Low」で表されてもよい。
【0018】
モデル情報123は、生成されたモデルのパラメータ等である。例えば、モデル情報123は、後に説明する応答曲面を作成するためのモデル式等である。
【0019】
制御部13は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって、内部の記憶装置に記憶されているプログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御部13は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されるようにしてもよい。制御部13は、抽出部131、選択部132、生成部133及び算出部134を有する。
【0020】
抽出部131は、基板を変形させる試験における基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、基板の特徴量として抽出する。
【0021】
本実施例では、まず、抽出部131は、T/C試験における温度変化に対する基板の変形量の変化を計算する。なお、T/C試験は、温度を所定の範囲で繰り返し増減させることで基板を変形させる試験ということができる。
【0022】
具体的には、抽出部131は、基板の温度を40℃から140℃の間で繰り返し変化させたときの変形量を表すヒステリシス曲線を各店で微分することで、変形量の変化を得る。なお、抽出部131は、実績情報121からヒステリシス曲線を取得する。
【0023】
図4は、ヒステリシス曲線を説明するための図である。ヒステリシス曲線は、T/C回数ごとの、昇温時の変形量を表す曲線と降温時の変形量を表す曲線とを組み合わせた曲線である。例えば、基板の温度は、昇温時には温度40℃から140℃に推移し、降温時には140℃から40℃に推移する。
【0024】
図4の曲線201cは、T/C回数が1回の場合の昇温時の基板の変形量を表している。また、曲線202cは、T/C回数が1回の場合の降温時の基板の変形量を表している。また、曲線231cは、T/C回数が600回の場合の昇温時の基板の変形量を表している。また、曲線232cは、T/C回数が600回の場合の降温時の基板の変形量を表している。
【0025】
本実施例では、基板の塑性変形に対応する部分の変形量を基に特徴量を抽出する。ここで、弾性変形及び塑性変形について説明する。弾性変形は、荷重により変形した物体が、荷重を取り去ると元の形に戻る変形である。一方、塑性変形は、荷重により変形した物体が、荷重を取り去っても元の形に戻らない変形である。なお、T/C試験における温度変化は荷重の一例である。
【0026】
ここで、基板は高温状態で成形される。また、基板の故障に繋がる亀裂や破断は、降温時の塑性変形の際に生じる。これは、ストレスフリーである高温状態を起点として、降温時に熱応力が生じ始めるためである。
【0027】
弾性変形は温度変化に対して線形であるが、塑性変形では温度変化に対して変形量が低下する。このことを利用して、
図5に示すように、抽出部131は、降温時のヒステリシス曲線の微分値、すなわち傾きが閾値以下である範囲の変形量を基に特徴量を抽出する。
図5は、変形量の傾きを説明するための図である。
【0028】
次に、抽出部131は、塑性変形の範囲の変形量のデータを、FFT(Fast Fourier Transform)等の変換手法により、周波数に対する振幅に変換する。言い換えると、抽出部131は、温度領域で表現されていたデータを周波数領域のスペクトルに変換する。
【0029】
T/C試験を繰り返すと、熱応力で基板内に表れる不良箇所の規模が変化することにより、塑性変形モードが変化する。不良個所の規模は、
図6に示すような規模感によって表現される。
図6は、特徴量の抽出方法を説明するための図である。
【0030】
図6に示すように、ここでは、T/C回数が200回の場合、基板の四隅の辺の1/100以下程度の範囲である点を目安とする規模感の不良が生じるものとする。また、T/C回数が400回の場合、基板の面の1/100以下程度の範囲である辺を目安とする規模感の不良が生じるものとする。また、T/C回数が600回の場合、基板面積の1/100以上の範囲を目安とする規模感の不良が生じるものとする。
【0031】
このように、T/C試験を繰り返すことで、離散的に発生する点状の小規模な亀裂が増加して線状に連続的につながり、さらに面状に規模が拡がっていく。このとき、塑性変形の変形量のデータには、点状の不良に応じて高周波数の変動が加わり、辺状の不良に応じて中間周波数の変動が加わり、面状の不良に応じて低周波数の変動が加わる。
【0032】
図6に示すように、加わる変動の周波数に対応して、塑性変形モードが、高周波数、中間周波数、低周波数と変化する。さらに、変形量のデータを周波数領域で表した場合、変動として加わった周波数に相当する領域に振幅のピークが現れる。
【0033】
なお、基板に現れる不良の規模感は、設計の違いや個体差によって異なることが考えられる。そのため、
図6を用いて説明した規模感は目安に過ぎず、高、中間、低周波のそれぞれに対するT/C回数は、規模感に関係なくあらゆる基板について固定的に決められたものであってもよい。
【0034】
抽出部131は、試験の複数の繰り返し回数のそれぞれに対応する周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、基板の特徴量として抽出する。本実施例では、抽出部131は、T/C回数200回に対応する1~3[10-2Hz]の周波数の範囲の振幅の第1の積算値を計算する。また、抽出部131は、T/C回数400回に対応する4~8[10-3Hz]の周波数の範囲の振幅の第2の積算値を計算する。また、抽出部131は、T/C回数600回に対応する4~8[10-4Hz]の周波数の範囲の振幅の第3の積算値を計算する。そして、抽出部131は、第1の積算値と第2の積算値と第3の積算値の合計値を計算し、計算した合計値を特徴量として抽出する。
【0035】
抽出部131は、周波数の振幅を周波数で積分した値を積算値として得ることができる。
図6に示すように、不良個所の規模感の変化に応じて、周波数領域に新たな振幅のピークが表れ、振幅の積分値も増加する。このため、抽出部131は、振幅の積分値を基に、基板の熱疲労の蓄積を表す特徴量を計算することができる。
【0036】
なお、T/C試験は、基板を変形させる試験、及び温度を所定の範囲で繰り返し増減させることで基板を変形させる試験の一例である。ここでの試験は、T/C試験に限定されず、例えば、圧力及び電圧等を加えて物体を変形させる試験であってもよい。
【0037】
選択部132は、基板の設計値と基板が故障に至るまでの試験の繰り返し回数との関係を表すモデルを基に、設計値の中から、基板が故障に至るまでの試験の繰り返し回数に対する寄与率が高い順に所定の数の設計値を選択する。
【0038】
本実施例では、選択部132は、
図3に示す各設計値を説明変数とし、品質を目的変数とする教師ありの学習モデルにおいて、寄与率が大きい高い順に2つの設計値を選択する。また、学習モデルは、モデルベース特徴量選択手法であるランダムフォレストであってもよい。例えば、選択部132は、品質の予測に用いる設計値を入れ替えながら予測精度を評価し、予測精度が大きく変わった場合は入れ替えた設計値の寄与率を上げて、そうでない場合は寄与率を下げることで、各設計値の寄与率を計算する。
【0039】
生成部133は、特徴量と基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する。具体的には、生成部133は、抽出部131によって抽出された特徴量と、選択部132によって選択された設計値との関係を表すモデルを生成する。本実施例では、生成部133は、複数の繰り返し回数ごとに、設計値を入力とし、特徴量を応答とする応答曲面を表すモデルを生成する。
【0040】
図7を用いて、生成部133によるモデルの生成方法を説明する。
図7は、モデルの生成方法を説明するための図である。ここで、選択部132は、設計値(i)及び設計値(iii)を選択したものとする。まず、生成部133は、各基板の設計値に対するT/C回数ごとの特徴量を、モデルの空間にプロットする。ここでは、モデルの空間は3次元であり、x軸が設計値(i)、y軸が設計値(iii)、z軸が特徴量に対応しているものとする。
【0041】
図7の例では、x
α1は、基板αの設計値に対する、T/C回数が200回の場合の特徴量である。また、x
α2は、基板αの設計値に対する、T/C回数が400回の場合の特徴量である。また、x
α3は、基板αの設計値に対する、T/C回数が600回の場合の特徴量である。また、x
β1は、基板βの設計値に対する、T/C回数が200回の場合の特徴量である。また、x
β2は、基板βの設計値に対する、T/C回数が400回の場合の特徴量である。また、x
β3は、基板βの設計値に対する、T/C回数が600回の場合の特徴量である。
【0042】
さらに、生成部133は、各基板のT/C回数が故障T/C回数である場合の特徴量をプロットする。なお、故障T/C回数は、基板が完全に破損したときのT/C回数に限られず、半導体への使用に耐えられない程度に電気的な特性が失われた時点のT/C回数等であってもよい。また、基板が完全に破損した場合、有効な特徴量を得ることが困難になるため、破損する直前のT/C試験で得られた特徴量が、故障T/C回数における特徴量であってもよい。
【0043】
そして、生成部133は、プロットの結果から応答曲面210S、220S、230S及び290Sを生成する。生成部133は、プロットしたデータに対してガウス分布を重ね合わせて曲面を作成するガウシアンプロセスにより応答曲面を生成することができる。以降、これらの応答曲面を疲労蓄積モデルと呼ぶ場合がある。
【0044】
応答曲面210Sは、T/C回数が200回の場合の特徴量に対応している。また、応答曲面220Sは、T/C回数が400回の場合の特徴量に対応している。また、応答曲面230Sは、T/C回数が600回の場合の特徴量に対応している。また、応答曲面290Sは、T/C回数が故障T/C回数の場合の特徴量に対応している。
【0045】
算出部134は、生成部133によって生成された疲労蓄積モデルを用いて、基板の設計値から特徴量の予測値を算出する。算出部134は、応答曲線モデルを基に、設計値が既知であり、特徴量が未知である対象基板の、T/C回数と特徴量の関係を表す回帰式を求め、当該回帰式を使って予測値を算出する。
【0046】
図8を用いて、予測値の算出方法を説明する。
図8は、予測値の算出方法を説明するための図である。算出部134は、まず、対象基板の設計値を疲労蓄積モデルに入力し、疲労蓄積式を得る。ここで、疲労蓄積式は、T/C回数に対する特徴量を表す式である。
【0047】
疲労蓄積式からは200回、400回等の特定のT/C回数についての特徴量しか得られない。そのため、算出部134は、疲労蓄積式に基づき、最小二乗法を用いた回帰分析により回帰式を求める。回帰式は、例えばy=ax
2+bx+c(ただし、yは特徴量、xはT/C回数、a、b、cは係数)のような二次式であってもよい。そして、算出部134は、回帰式から任意のT/C回数における特徴量及び故障T/C回数の予測値を得ることができる。なお、
図8のx
1はT/C回数が200回の場合の特徴量である。また、x
2はT/C回数が400回の場合の特徴量である。また、x
3はT/C回数が600回の場合の特徴量である。また、x
9はT/C回数が故障T/C回数の場合の特徴量である。
【0048】
さらに、算出部134は、基板の設計値、及び基板に対して所定の回数だけ試験を行って得られた特徴量を基に、モデルを用いて所定の回数より大きい回数における特徴量を算出することができる。例えば、算出部134は、対象基板について、予測される故障T/C回数の1/10の回数だけ試験を行って得られた特徴量を用いてもよい。
【0049】
図8の例では、予測されるT/C故障回数は750回なので、算出部134は、75回のT/C試験で得られた特徴量を実測値として回帰式と同じ平面上にプロットする。これにより、算出部134は、回帰性の妥当性を確認することや、回帰式の微調整を行うことができる。例えば、算出部134は、プロットした特徴量と対応する回帰式の値との誤差が閾値以下であれば、当該回帰式を採用し、故障T/C回数やT/C試験を終了する回数を求めるようにしてもよい。また、算出部134は、最小二乗法等を用いて、プロットした特徴量に対してさらに回帰式を最適化するようにしてもよい。
【0050】
また、特徴量はT/C回数に対して急激に増加する場合がある。このため、
図9に示すように、回帰式は対数等の所定のスケールで表されてもよい。その場合も同様に、算出部134は、特定の特徴量に対するT/C回数の予測値を算出することができる。
【0051】
[処理の流れ]
図10を用いて、予測装置10による予測処理の流れを説明する。
図10は、予測処理の流れを示すフローチャートである。
図10に示すように、まず、予測装置10は、T/C試験の実績情報121から、疲労を表す特徴量を抽出する(ステップS11)。
【0052】
次に、予測装置10は、基板の設計値のうち、品質に寄与率の高い設計値を選択する(ステップS12)。そして、予測装置10は、選択した設計値に対する特徴量の応答曲面を生成する(ステップS13)。ステップS11からS13までの処理は、学習工程の処理である。学習工程の完了後には、運用工程の処理が行われる。
【0053】
運用工程において、まず予測装置10は、予測対象基板の設計値を基に、応答曲面から予測対象基板の疲労蓄積式を抽出する(ステップS21)。そして、予測装置10は、疲労蓄積式を用いて、故障T/C回数の予測値を算出する(ステップS22)。また、予測装置10は、特定の特徴量に至るT/C回数の予測値を算出してもよい。
【0054】
図11を用いて、疲労を表す特徴量を抽出する処理(
図10のステップS11)の詳細を説明する。
図11は、特徴量を抽出する処理の流れを示すフローチャートである。
図11に示すように、まず、予測装置10は、実績情報121に基づくヒステリシス曲線を各点で微分して傾きを算出する(ステップS111)。次に、予測装置10は、ヒステリシス曲線の傾きが閾値以下の範囲を塑性変形データとして抽出する(ステップS112)。
【0055】
ここで、予測装置10は、塑性変形データをFFTにより周波数領域のデータに変換する(ステップS113)。そして、予測装置10は、周波数領域のデータから、高、中間、低周波数領域の振幅の積算値を算出する(ステップS114)。さらに、予測装置10は、高、中間、低周波数領域の振幅の積算値の合計値を特徴量として算出する(ステップS115)。
【0056】
[効果]
上述したように、抽出部131は、基板を変形させる試験における基板の変形量の変化を、周波数領域で表現したときの、試験の複数の進行度合いのそれぞれに対応する所定の周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、基板の特徴量として抽出する。また、生成部133は、特徴量と、基板の所定の設計値との関係を表すモデルを生成する。また、算出部134は、生成部133によって生成されたモデルを用いて、基板の設計値から特徴量の予測値を算出する。
【0057】
このように、予測装置10は、基板の設計値だけでなく、疲労を表す特徴量を使って故障に至るまでの試験の回数等を予測することができる。このため、本実施例によれば、設計値が変更された場合であっても、基板の品質の予測精度の低下を抑止することができる。
【0058】
さらに、本実施例によれば、精度良く品質を予測することができるようになるため、品質試験にようする工数を短縮することができる。また、T/C試験の実績情報を蓄積していくことで応答曲面の精度が向上し、その結果、品質の予測精度が向上する。
【0059】
また、抽出部131は、温度を所定の範囲で繰り返し増減させることで基板を変形させる試験における、温度変化に対する基板の変形量の変化を、周波数に対する振幅に変換する。さらに、抽出部131は、変換したデータから、試験の複数の繰り返し回数のそれぞれに対応する周波数の範囲における振幅の積算値の合計値を、基板の特徴量として抽出する。
【0060】
このように、本実施例はT/C試験に適用することができる。また、本実施例では、各周波数の範囲における振幅の蓄積値を合計した1次元の特徴量が得られるため、モデル生成のための十分な情報を確保しつつ、計算量を抑えることが可能になる。
【0061】
また、選択部132は、基板の設計値と基板が故障に至るまでの試験の繰り返し回数との関係を表すモデルを基に、設計値の中から、基板が故障に至るまでの試験の繰り返し回数に対する寄与率が高い順に所定の数の設計値を選択する。また、生成部133は、特徴量と、選択部132によって選択された設計値との関係を表すモデルを生成する。このように、寄与率の高い設計値を選択することで、モデルの精度を向上させつつ、計算量を抑えることが可能になる。
【0062】
また、生成部133は、複数の繰り返し回数ごとに、設計値を入力とし、特徴量を応答とする応答曲面を表すモデルを生成する。これにより、設計値が判明していれば、予測値を算出するための計算式を容易に得ることが可能になる。
【0063】
また、算出部134は、基板の設計値、及び基板に対して所定の回数だけ試験を行って得られた特徴量を基に、モデルを用いて所定の回数より大きい回数における特徴量を算出する。これにより、少ない試験回数で予測値の算出精度をさらに向上させることが可能になる。
【0064】
なお、本実施例では、予測装置10が学習工程及び運用工程の両方の処理を行うものとして説明した。一方で、学習工程と運用工程は異なる装置によって行われてもよい。その場合、例えば、生成装置が学習工程の処理を実行し、予測装置が運用工程の処理を実行する。
【0065】
また、予測装置10によって生成されるモデルは応答曲面に限られない。例えば、予測装置10は、1つ以上の設計値及びT/C回数を説明変数とし、特徴量又は故障T/C回数を目的変数とする多変数の回帰モデルを生成してもよい。
【0066】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。また、実施例で説明した具体例、分布、数値等は、あくまで一例であり、任意に変更することができる。
【0067】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0068】
[ハードウェア]
図12は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図12に示すように、予測装置10は、通信インタフェース10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図12に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0069】
通信インタフェース10aは、ネットワークインタフェースカード等であり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図1に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0070】
プロセッサ10dは、
図1に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図1等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させるハードウェア回路である。すなわち、このプロセスは、予測装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、抽出部131、選択部132、生成部133及び算出部134と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、抽出部131、選択部132、生成部133及び算出部134等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0071】
このように予測装置10は、プログラムを読み出して実行することで学習類方法を実行する情報処理装置として動作する。また、予測装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、予測装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータ又はサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0072】
このプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0073】
10 予測装置
11 インタフェース部
12 記憶部
13 制御部
121 実績情報
122 設計情報
123 モデル情報
131 抽出部
132 選択部
133 生成部
134 算出部
201c、202c、231c、232c 曲線
210S、220S、230S、290S 応答曲面