(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】強化繊維束基材およびその製造方法、ならびにそれを用いた繊維強化熱可塑性樹脂材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/59 20060101AFI20230711BHJP
B29B 15/12 20060101ALI20230711BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20230711BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20230711BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
D06M15/59
B29B15/12
D06M15/55
D06M15/564
B29K105:10
(21)【出願番号】P 2019512691
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2019001220
(87)【国際公開番号】W WO2019146485
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018011438
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018011439
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018011450
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】布施 充貴
(72)【発明者】
【氏名】舘山 勝
(72)【発明者】
【氏名】平野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清家 聡
(72)【発明者】
【氏名】松井 明彦
(72)【発明者】
【氏名】浦 和麻
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-138370(JP,A)
【文献】国際公開第2014/081002(WO,A1)
【文献】特開2003-105676(JP,A)
【文献】特開平01-292038(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081407(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143371(WO,A1)
【文献】特表2017-531743(JP,A)
【文献】特開2013-104156(JP,A)
【文献】特表2015-507650(JP,A)
【文献】特開2016-194175(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00-23/18
B29B 15/12
B29K105/08
B29K105/10
C08J 5/06
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基、ウレタン基、アミノ基
またはカルボキシル基
を有する化合物のいずれか、あるいは、それらを混合したものを含む第1のサイジング剤と水溶性ポリアミドを含む第2のサイジング剤とがこの順で強化繊維束表面に付着されて、前記水溶性ポリアミドが前記強化繊維束表面の最表層に存在しており、強化繊維束に含まれる単位幅当りの繊維本数が600本/mm以上1,600本/mm未満であり、所定の数式(束内繊維本数/単位幅あたりの単糸数/厚み)で定義される扁平率が340以上、1400以下であり、前記強化繊維束の平均幅をW1とした際に幅精度がW1-1mmより大きく、W1+1mm未満であり、強化繊維束のドレープ値が120mm以上240mm以下であることを特徴とする強化繊維束基材。
【請求項2】
硬度が39g以上200g以下であることを特徴とする請求項1に記載の強化繊維束基材。
【請求項3】
前記水溶性ポリアミドの付着量が0.1wt%以上5wt%以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の強化繊維束基材。
【請求項4】
前記強化繊維束基材の浸漬前における幅をW1、25℃、5分間水に浸漬した後における幅をW2とした場合の幅変化率W2/W1が0.5以上1.1以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の強化繊維束基材。
【請求項5】
前記強化繊維束基材を25℃、5分間水に浸漬し、絶乾した後の空気中でのドレープ値D2が、110mm以上240mm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の強化繊維束基材。
【請求項6】
強化繊維束群からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、請求項1~5のいずれかに記載の強化繊維束基材の不織物からなることを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項7】
強化繊維束群からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、請求項1~5のいずれかに記載の強化繊維束基材の織物からなることを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項8】
マトリックス樹脂を含むことを特徴とする請求項6または7に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項9】
前記マトリックス樹脂がポリアミドであることを特徴とする請求項8に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項10】
下記工程(1)および(2)を含むことを特徴とする強化繊維束基材の製造方法。
工程(1) エポキシ基、ウレタン基、アミノ基
またはカルボキシル基
を有する化合物のいずれか、あるいは、それらを混合したものを含む第1のサイジング剤が付着した複数の単糸からなる強化繊維束を拡幅する拡幅工程
工程(2) 水溶性ポリアミドを含む第2のサイジング剤を拡幅した強化繊維束に付与した後に加熱処理を施すことにより、所定の数式(束内繊維本数/単位幅あたりの単糸数/厚み)で定義される強化繊維束の扁平率を340以上、1400以下とするサイジング剤付与工程
【請求項11】
前記工程(2)において、溶媒に溶解させて濃度0.1wt%~20wt%の高分子溶液とした前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布することを特徴とする請求項10に記載の強化繊維束基材の製造方法。
【請求項12】
前記水溶性ポリアミドが、主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとジカルボン酸とを重合して得られたものからなることを特徴とする請求項10または11に記載の強化繊維束基材の製造方法。
【請求項13】
下記工程(1)~(4)を含むことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
工程(1) エポキシ基、ウレタン基、アミノ基
またはカルボキシル基
を有する化合物のいずれか、あるいは、それらを混合したものを含む第1のサイジング剤が付着した複数の単糸からなる強化繊維束を拡幅する拡幅工程
工程(2) 水溶性ポリアミドを含む第2のサイジング剤を拡幅した強化繊維束に付与した後に加熱処理を施すことにより、所定の数式(束内繊維本数/単位幅あたりの単糸数/厚み)で定義される強化繊維束の扁平率を340以上、1400以下とするサイジング剤付与工程
工程(3) 溶融した熱可塑性樹脂を前記サイジング剤を付与した強化繊維束に含浸させる工程
工程(4) 熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束を切断して、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得る工程
【請求項14】
前記水溶性ポリアミドを含む第2のサイジング剤を前記強化繊維束に塗布した後に温度130~350℃の加熱処理を施すことを特徴とする請求項13に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項15】
前記水溶性ポリアミドを含む第2のサイジング剤を前記強化繊維束に塗布した後に0.33~15分間の加熱処理を施すことを特徴とする請求項13または14に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項16】
前記工程(2)において、溶媒に溶解させて濃度0.1wt%~20wt%の高分子溶液とした前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布することを特徴とする請求項13~15のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項17】
前記水溶性ポリアミドが、主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとジカルボン酸とを重合して得られたものからなることを特徴とする請求項13~16のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取扱い性に優れ、毛羽が少なく、形態安定性、さらに含浸性に優れた強化繊維束基材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂(FRP)は、優れた力学特性、軽量化等の要求特性を満たすことから主に航空、宇宙、スポーツ用途に用いられてきた。これらの代表的な製造方法として、オートクレーブ成形法が知られている。かかる成形法では、強化繊維束群にマトリックス樹脂を予め含浸させたプリプレグを、成形型に積層してオートクレーブにて加熱・加圧し、FRPを成形する。プリプレグを用いると極めて信頼性の高いFRPが得られる利点があるが、製造に高いコストがかかる問題があった。
【0003】
一方、FRPの生産性に優れる成形法としては、例えば、マトリックス樹脂を予備含浸していないドライな強化繊維束群で構成される強化繊維基材を、成形型に積層して、液状で低粘度のマトリックス樹脂を注入することにより、後からマトリックス樹脂を含浸・固化させてFRPを成形するレジン・トランスファー・モールディング成形法(RTM)等の注入成形、また、あらかじめ強化繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を予熱、加圧冷却するスタンピング成形などが挙げられる。
【0004】
RTM成形法では成形型内に配置される基材積層体は、生成される成形品の形に合わせた3次元形状を有するように、あらかじめ形成されている。一般には、まず、基材積層体を平板状に形成し、その後、基材積層体を所定の3次元形状に賦形して、いわゆるプリフォームを作製し、成形型内に配置される。この基材積層体を作製する工程において、最初から製品形状に合わせた所望の形状となるように、必要な箇所のみに強化繊維束を順次配置していく、ファイバープレイスメント法が注目されている。ファイバープレイスメント法によれば、廃棄される端材の量を大幅に低減させることができる。
【0005】
ファイバープレイスメント法を使用して強化繊維束を順次配置していく場合、強化繊維束に求められる条件として、ファイバープレイスメント装置の糸道の幅に適合した幅の強化繊維束を用いる必要がある。強化繊維束の幅がファイバープレイスメント装置の糸道の幅に適合していない場合、強化繊維束の配置時に生じる軸ずれによって配置精度が低下する、あるいは糸道での糸折れにより品質が低下する原因となる。そのため、強化繊維束のかわりに複数の強化繊維束を一体化したテープを使用して、ファイバープレイスメントにより順次配置していく方法が知られている。例えば、複数の炭素繊維束が間隔を有して平行に配置され、熱可塑性不織布と接着により結合一体化したテープの技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
強化繊維織物を使用した成形品の力学特性を高める技術としては、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面接着性を高めた繊維強化熱可塑性樹脂組成物(特許文献2)や、水溶性熱可塑性樹脂と両性界面活性剤を含有したサイジング剤を付与することで加工性を高めた編織物(特許文献3)がある。このように力学特性の向上や加工性の改善が進められているが、より力学特性や加工性に優れる強化繊維織物が要求されている。
【0007】
また、スタンピング成形用基材としては繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(FRTP)が用いられる。FRTPには強化繊維束にあらかじめ熱可塑性樹脂を含浸させた一方向繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、チョップド繊維に樹脂を含浸させた不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形材料がある。FRTPは熱硬化樹脂を含浸させたプリプレグと比較して、靭性が高く、基材の保存管理が容易であり、硬化反応が不要なので射出成形・スタンピング成形など成形サイクルの高速化が可能である。更に、FRTPはリサイクル性に優れ、溶接、補修等のリペア性も優れている等、利点も多く幅広い分野で実用化されている。
【0008】
また、原材料に係わる開発例として、流動性に優れ、耐熱老化性に優れる成形品を得ることのできる長繊維強化ポリアミド樹脂ペレット(特許文献4)が挙げられる。このように力学特性の向上や機能の追加・改善が進められているが、さらなる力学特性の向上および力学特性のバラツキ低減が要求されている。
【0009】
しかし、熱可塑性樹脂は一般的に熱硬化性樹脂に比べて高分子量で溶融粘度が高く、強化繊維への溶融含浸と低ボイド率化が困難になる。このため、高分子量・高粘度の熱可塑性樹脂を強化繊維中に含浸した低ボイド率FRTPは生産性が低く製造コストが高い。一方、含浸容易な低分子量・低粘度の熱可塑性樹脂を使用したFRTPは力学的特性が大幅に低く使用用途が限られる。そこで、高分子量・高粘度の熱可塑樹脂を使用した低ボイド率FRTPを含浸性よく効率的に生産する様々な方法が提案されている(特許文献5参照)。
【0010】
また、自動車用途に展開可能なCFRP技術に関する開発例として、優れた力学特性、導電性、電磁波遮蔽性を兼ね備えた炭素繊維強化成形品の製造方法(特許文献6)や力学特性、電気絶縁性、電磁波遮蔽性に優れた炭素繊維強化成形品やその製造方法(特許文献7)が挙げられる。
【0011】
これらのように、成形方法によりその成形に用いる材料(基材)に求められる要求が異なり、幅精度に特化した強化繊維、または含浸性に優れた強化繊維など、それぞれの成形に合わせた繊維を準備する必要があり、一種の強化繊維で形態安定性および含浸性を両立し、複数の成形方法に適応することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表2013-532739号公報
【文献】国際公開第2007/037260号
【文献】国際公開第2003/012188号
【文献】特開2016-190923号公報
【文献】特開2005-239843号公報
【文献】特開2013-177560号公報
【文献】特開2013-117014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するものであり、具体的には、ファイバープレイスメントおよび強化繊維織物など繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の複数の成形手法に適応でき得る、形態安定性、および含浸性に優れた強化繊維束基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1]サイジング剤が強化繊維束表面に付着されており、強化繊維束に含まれる単位幅当りの繊維本数が600本/mm以上1,600本/mm未満であり、強化繊維束のドレープ値が120mm以上240mm以下であることを特徴とする強化繊維束基材。
[2]前記サイジング剤が、少なくともポリアミド系樹脂を含むことを特徴とする、[1]に記載の強化繊維束基材。
[3]前記サイジング剤が、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物のいずれか、あるいは、それらを混合したものを含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載の強化繊維束基材。
[4]前記強化繊維束表面の前記ポリアミド系樹脂が最表層に存在することを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[5]硬度が39g以上200g以下であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[6]ポリアミド系樹脂の付着量が0.1wt%以上5wt%以下であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[7]前記強化繊維束基材の浸漬前における幅をW1、25℃、5分間水に浸漬した後における幅をW2とした場合の幅変化率W2/W1が0.5以上1.1以下であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[8]前記強化繊維束基材を25℃、5分間水に浸漬し、絶乾した後の空気中でのドレープ値D2が、110mm以上240mm以下であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[9]前記強化繊維束の平均幅をW1とした際に幅精度がW1-1mm以上、W1+1mm以下であることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の強化繊維束基材。
[10]強化繊維束群からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、[1]~[9]のいずれかに記載の強化繊維束基材の不織物からなることを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
[11]強化繊維束群からなる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、[1]~[9]のいずれかに記載の強化繊維束基材の織物からなることを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
[12]マトリックス樹脂を含むことを特徴とする[10]または[11]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
[13]前記マトリックス樹脂がポリアミドであることを特徴とする[12]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
[14]下記工程(1)および(2)を含むことを特徴とする強化繊維束基材の製造方法。
工程(1) 複数の単糸からなる強化繊維束を拡幅する拡幅工程
工程(2) 水溶性ポリアミドを拡幅した強化繊維束に付与した後に加熱処理を施すサイジング剤付与工程
[15]前記工程(2)において、溶媒に溶解させて濃度0.1wt%~20wt%の高分子溶液とした前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布することを特徴とする[14]に記載の強化繊維束基材の製造方法。
[16]前記水溶性ポリアミドが、主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとジカルボン酸とを重合して得られたものからなることを特徴とする[14]または[15]に記載の強化繊維束基材の製造方法。
[17]下記工程(1)~(4)を含むことを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
工程(1) 複数の単糸からなる強化繊維束を拡幅する拡幅工程
工程(2) 水溶性ポリアミドを拡幅した強化繊維束に付与した後に加熱処理を施すサイジング剤付与工程
工程(3) 溶融した熱可塑性樹脂を前記サイジング剤を付与した強化繊維束に含浸させる工程
工程(4) 熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束を切断して、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得る工程
[18]前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布した後に温度130~350℃の加熱処理を施すことを特徴とする[17]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
[19]前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布した後に0.33~15分間の加熱処理を施すことを特徴とする[17]または[18]に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
[20]前記工程(2)において、溶媒に溶解させて濃度0.1wt%~20wt%の高分子溶液とした前記水溶性ポリアミドを前記強化繊維束に塗布することを特徴とする[17]~[19]のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
[21]前記水溶性ポリアミドが、主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとジカルボン酸とを重合して得られたものからなることを特徴とする[17]~[20]のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る強化繊維束基材によればポリアミド系樹脂が強化繊維表面に塗布されているようにしたため、拡幅処理等により幅広化した強化繊維束の再凝集が起こらないようにすることができ、優れた解舒性、形態安定性、高幅精度を有し、オートメーテッドファイバープレイスメント(AFP)装置での自動積層プロセスに好適に用いられる。さらに高い含浸性を有するため、熱硬化だけでなく熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂成形材料にも適応でき得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の強化繊維束基材の製造装置の一態様を示す概略側面図である。
【
図2】本発明に用いる強化繊維基材の一態様を示す概略斜視図である
【
図3】本発明に係る強化繊維束基材の製造方法におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図4】本発明に係る強化繊維束基材の製造方法における乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図5】本発明に係る強化繊維束基材の製造方法における熱処理工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図6】本発明に係る強化繊維束基材の製造方法における乾燥工程、熱処理工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示す工程図である。
【
図7】強化繊維束へのサイジング剤付与のタイミング例を示す工程図である。
【
図8】強化繊維束へのサイジング剤付与のタイミング例を示す工程図である。
【
図9】強化繊維束へのサイジング剤付与のタイミング例を示す工程図である。
【
図10】強化繊維束へのサイジング剤付与のタイミング例を示す工程図である。
【
図11】強化繊維束へのサイジング剤付与のタイミング例を示す工程図である。
【
図12】ドレープ値の測定方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は当該図面の態様に何ら限定されるものではない。
【0018】
まず、本発明における強化繊維束基材100について説明する。強化繊維束基材100とは複数の単糸からなる強化繊維束(繊維束と呼ぶこともある)に塗布樹脂(P)が塗布されているものである。
【0019】
強化繊維表面に塗布樹脂(P)が付着していることにより、強化繊維束基材100の幅や繊維配向などの形態安定性を向上させることができたり、強化繊維束基材100の群からなるシート状の強化繊維積層基材の搬送時などの取扱性を向上させたりすることができる。
【0020】
また、プリフォームを得る際の強化繊維積層基材同士の接着性を付与させることができたり、プリフォームに適度な剛性を付与させることができたり、プリフォームの中の強化繊維の目ズレを防止する等の形態安定効果を付与させることができる等、プリフォームの取扱性の向上ができる。
【0021】
本発明の強化繊維束基材100によると、製織することで形態安定性、取り扱い性に優れた強化繊維織物を得ることができる。
【0022】
さらに、強化繊維表面にあらかじめ塗布樹脂(P)が塗布されていることにより、樹脂注入成形に供した際にマトリックス樹脂の含浸が容易になるだけでなく、その含浸速度も速くなり、FRPの生産性により優れる、といった効果をも発現する。
【0023】
本発明の強化繊維束基材100によると、熱硬化樹脂に比べて、強化繊維への溶融含浸と低ボイド率化が困難である、高分子量・高粘度の熱可塑性樹脂においても、マトリックス樹脂の含浸が容易になり、低ボイド率の一方向繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得ることができる。これにより、成形後のFRP成形品においても、欠陥の少ない、高品位の成形品を得ることが可能である。さらに繊維束への含浸速度も速くなり、一方向繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の生産性を向上することができ、製造コストを抑えることができる。
【0024】
さらに、一方向繊維強化熱可塑性樹脂成形材料だけでなく、前記、強化繊維束基材100を切断することで、不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形材料用のチョップド繊維束を得ることができる。本発明の強化繊維束基材100によると繊維を切断する際に、チョップド繊維束が割れたり単糸分散したりすることを抑制でき、所定の束形態への保持性が向上する。すなわち、均一かつ最適な形態のチョップド繊維束が得ることが可能である。これにより、繊維束が面配向するため、力学特性の向上をはかることができる。さらにチョップド繊維の樹脂含浸性が優れるため、低ボイド率の不連続繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得ることができる。
【0025】
本発明における強化繊維束の製造方法について説明する。
強化繊維からなる強化繊維束基材100は、例えば
図1に例示する装置を使用して作成される。詳しくは、図中の繊維束走行方向a(矢印)が強化繊維束の長手方向であり、ボビン101から引き出された強化繊維束102は、連続的に開繊
・拡幅ユニット103により開繊、拡幅
され、幅規制ローラー104にて所望の幅に調整した後、あらかじめ濃度調整された塗布樹脂水溶液105に浸漬され、しごきローラー106にて付着量調整をされた後、ヒーターロール107により加熱、熱処理が施され、巻き取られることにより作成される。
【0026】
本発明における強化繊維束基材100は、オートメーテッドファイバープレイスメント(AFP)やオートメーテッドテープレイアップ(ATL)装置に好適に用いられる。かかる装置は強化繊維基材201の廃棄率削減や積層工程自動化を目的として使用されるが、配置後の幅や繊維配向などが厳しく求められるため、強化繊維基材201の形態安定性が重要になる。ここで本発明に用いる強化繊維束基材100は繊維表面にポリアミド系樹脂が塗布された形態をしているため、幅安定性や形態安定性に優れ、AFPやATLに好適に用いることができる。
【0027】
繊維束走行方向aの上流側に配置した、巻き出し装置などから強化繊維束102を巻き出す。強化繊維束102の巻き出し方向は、ボビンの回転軸と垂直に交わる方向に引き出す横出し方式や、ボビン(紙管)の回転軸と同一方向に引き出す縦出し方式が考えられるが、解除撚りが少ないことを勘案すると横出し方式が好ましい。
【0028】
また、巻き出し時のボビン101の設置姿勢については、任意の方向に設置することができる。中でも、クリールにボビン101を突き刺した状態において、クリール回転軸固定面でない側のボビン101の端面が水平方向以外の方向を向いた状態で設置する場合は、強化繊維束102に一定の張力がかかった状態で保持されることが好ましい。強化繊維束102に一定の張力が無い場合は、強化繊維束102がパッケージ(ボビン101に強化繊維束102が巻き取られた巻取体)からズレ落ちパッケージから離れる、もしくは、パッケージから離れた強化繊維束102がクリール回転軸に巻きつくことで、巻き出しが困難になることが考えられる。
【0029】
また、巻き出しパッケージの回転軸固定方法としては、クリールを使う方法の他に、平行に並べた2本のローラーの上に、ローラーと平行にパッケージを載せ、並べたローラーの上でパッケージを転がすようにして、強化繊維束102を巻き出す、サーフェス巻き出し方式も適用可能である。
【0030】
また、クリールを使った巻き出しの場合、クリールにベルトをかけ、その一方を固定し、もう一方に錘を吊るす、バネで引っ張るなどして、クリールにブレーキをかけることで、巻き出し強化繊維束102に張力を付与する方法が考えられる。この場合、巻き径に応じて、ブレーキ力を可変することが、張力を安定させる手段として有効である。
【0031】
また、繊維束幅および繊維束幅方向における単位幅当りの繊維単糸本数は、強化繊維束102を開繊・拡幅する方法により調整が可能である。ここで開繊・拡幅とは、強化繊維束102の幅を拡げる処理を意味する。
【0032】
開繊・拡幅処理方法としては特に制限がなく、振動ローラーを通過させる振動拡幅法、圧縮した空気を吹き付けるエア拡幅法などが好ましい。
【0033】
開繊・拡幅ユニット103は振動ローラーなどにより構成され、強化繊維束102の進行方向に対して直行する鉛直方向や水平方向に振動を加える機構を備える。また開繊・拡幅ユニット103は、強化繊維束表面に付着したサイジング剤を軟化させるためのヒーター(図示せず)を備えていても良い。このとき、ボビン101から引き出された強化繊維束102の糸幅をw0とすると、開繊・拡幅後の強化繊維束102の幅はw1(w0<w1)に拡幅され、その後幅規制ローラー104によって幅w2(w1>w2)に調整される。w2は強化繊維基材201に求められる目付に応じて調整することが好ましい。また強化繊維束基材100の幅精度を向上させるため、ヒーターロール107は溝付き構造としてもよい。
【0034】
本発明では開繊・拡幅処理をする際、強化繊維束102の単位幅当りの繊維本数は、600本/mm以上がよく、700本/mm以上が好ましく、800本/mm以上がより好ましい。また、単位幅当りの繊維本数は、1,600本/mm未満がよく、1,400本/mm未満が好ましく、1,250本/mm未満がより好ましい。単位幅当りの繊維本数が600本/mm未満になると、強化繊維束基材100の割れが発生し、目的の幅の強化繊維束基材100ができなかったり、毛羽が多く発生し、工程通過性が悪くなったりする。1,600本/mm以上になると、束厚みが厚くなり、ボビンの巻き取り性が低下したり、樹脂含浸時の含浸性が悪くなり生産性が悪くなったりする可能性がある。
【0035】
本発明の強化繊維束基材100の平均束幅W1は1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、3mm以上がさらに好ましい。1mm未満の場合、製織した際に強化繊維織物の製織効率性が低下する懸念がある。強化繊維束基材100の平均束幅W1は100mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。100mmを超える場合、製織した際の強化繊維織物への樹脂含浸性が低下し、所望の力学特性が得られない懸念がある。
【0036】
また本発明では強化繊維束基材100の平均繊維束基材幅をW1とすると強化繊維束基材100幅精度の下限はW1-1mm以上が好ましく、W1-0.7mm以上がより好ましく、W1-0.5mm以上がさらに好ましい。強化繊維束基材100幅の幅精度の上限はW1+1mm以下が好ましく、W1+0.7mm以下がより好ましく、W1+0.5mm以下がさらに好ましい。強化繊維束基材100幅がW1-1mm未満、W1+1mmより大きくなると、強化繊維束基材100の幅精度が悪く、AFP法等により積層された強化繊維基材においてストランド間に目隙が発生し、繊維強化樹脂成形品とした際に、物性が低下する可能性がある。
【0037】
また、強化繊維束基材製造時において強化繊維束102の張力が変化することがあるため、強化繊維束102の張力を検知する張力検知手段を少なくとも1つ備えてもよく、複数備えて張力差を演算してもよい。これら張力、張力差の検知手段は、個別に備えることもでき、いずれかを組み合わせて設けることもできる。ここで、張力を検知する張力検知手段は、強化繊維束102の長手方向に沿って前後の少なくとも一方10~1,000mm離れた範囲に配置することが好ましい。
【0038】
これら張力、張力差は、検出した値に応じて拡幅手段を制御することが好ましい。上限値は、張力の場合は0.01~5N/mmの範囲、張力差は0.01~0.8N/mmの範囲で上限値を設定することが好ましい。なお、上限値は、強化繊維束102の状態に応じて、±10%の幅で変動させてもよい。ここで、張力、張力差の単位(N/mm)は、強化繊維束102の単位幅あたりに作用する力を示す。
【0039】
強化繊維束102の走行速度は変動の少ない安定した速度が好ましく、一定の速度がより好ましい。
【0040】
本発明に用いる強化維束102は、複数の単糸からなる強化繊維束102であれば繊維種類は特に限定されるものではない。このうち、中でも、炭素繊維、アラミド繊維およびガラス繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらは単独で使用してもよく2種類以上を併用することもできる。中でも炭素繊維は、軽量でかつ強度に優れた複合材料を提供することが可能となるのでため、特に好適である。炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系のいずれでもよく、その平均繊維径は3~12μmが好ましく、6~9μmがより好ましい。
【0041】
炭素繊維の場合は、通常、連続繊維からなる単糸が3,000~60,000本程度集束した繊維束を、ボビンに巻き取った巻糸体(パッケージ)として供給される。繊維束は無撚りが好ましいものの、撚りが入っていても使用可能であり、搬送中に撚りが入っても、本発明には適用可能である。単糸数にも制約はなく、単糸数が多い、いわゆるラージトウを用いる場合は、繊維束の単位重量あたりの価格は安価であるため、単糸数が多いほど、最終製品のコストを減らすことができて好ましい。また、ラージトウとして、繊維束同士を1つの束にまとめて巻き取った、いわゆる合糸した形態を使用してもよい。
【0042】
炭素繊維数のより好ましい範囲は10,000本~60,000本である。炭素繊維の単繊維数が3,000本未満である場合、強化繊維束基材100の炭素繊維目付けが低くなり、ファイバープレイスメント法を用いて製品形状に合わせた所望の形状となるように強化繊維束基材100を順次配置していく際に、より多くの本数の強化繊維束基材100を配置することとなり、配置に時間を要し、生産性を低下させてしまう。炭素繊維の単繊維数が60,000本より多い場合、強化繊維束基材100の炭素繊維目付けが高くなり、ファイバープレイスメント法を用いて製品形状に合わせた所望の形状となるように強化繊維束基材100を順次配置していく際に、1層あたりの炭素繊維目付けが高すぎることで、配向設計の範囲を狭めてしまう。
【0043】
強化繊維を用いる際は、繊維強化複合材料とする際のマトリックス樹脂との接着性を向上する等の目的で表面処理されていることが好ましい。表面処理の方法としては、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等がある。また、強化繊維の毛羽立ちを防止したり、強化繊維ストランドの集束性を向上させたり、マトリックス樹脂との接着性を向上する等の目的でサイジング剤が付与されていても構わない。ただし、このサイジング剤の付与は、後述する、本発明における強化繊維束基材100の製造工程中におけるいずれかのタイミングで行われる水溶性ポリアミド(塗布樹脂(P))の付与とは異なる工程で行われるものである。サイジング剤としては、特に限定されないが、エポキシ基、ウレタン基、アミノ基、カルボキシル基等の官能基を有する化合物が使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、本発明において、サイジング剤の固形分付着量の下限は、0.01wt%以上が好ましく、0.1wt%以上がより好ましく、0.15wt%以上がさらに好ましい。またサイジング剤の固形分付着量の上限は、4wt%未満であることが好ましく、3wt%未満がより好ましく、2wt%未満がさらに好ましい。サイジング剤の付着量が0.01wt%未満の場合、複合材料を作製する際、マトリックス樹脂と強化繊維との表面接着性が低下する傾向にあり、複合材料の力学特性が低くなりやすい。一方、サイジング剤の付着量が4wt%を超えると、逆にマトリックス樹脂と強化繊維との接着性に悪影響を及ぼす傾向にある。
【0045】
強化繊維束102の表面にサイジング剤を付着させる際の、サイジング用の高分子溶液の濃度下限としては、0.01wt%以上が好ましく、0.05wt%以上がより好ましく、0.1wt%以上がさらに好ましい。またサイジング用の高分子溶液の濃度上限としては、10wt%未満が好ましく、5wt%未満がより好ましく、1wt%未満がさらに好ましい。高分子溶液に占める高分子の含有量が低すぎると、強化繊維束102を構成する各モノフィラメントに付着するサイジング剤の量が少ないために、強化繊維束102の集束性が低下してしまうだけでなく、強化繊維とマトリックス樹脂との接着性、親和性を高めることが出来ず、機械強度の良好な複合材料を得ることが困難となる傾向にある。一方、高分子の含有量が高すぎると、高分子溶液の粘度が高くなり、強化繊維束102を構成する各モノフィラメントにまで高分子溶液を均等に拡散させることが難しくなる傾向にある。
【0046】
本発明において、サイジング剤の付与手段としては、特に限定されるものではなく、公知の手段を用いることができる。例えばスプレー法、ローラー浸漬法、ローラー転写法などが挙げられる。これら方法を単独もしくは組み合わせて使用しても良い。これら付与手段の中でも、生産性、均一性に優れる方法として、ローラー浸漬法が好ましい。高分子溶液に強化繊維束を浸漬する際には、高分子溶液浴中に設けられた浸漬ローラーを介して、開繊と絞りを繰り返した場合、特に強化繊維束の中にまで高分子溶液を含浸させることができる。本発明における強化繊維束に対するサイジング剤の付着量は、高分子溶液の濃度や、絞りローラーの調整などによって調整を行うことが可能となる。
【0047】
次に強化繊維束に付着させる塗布樹脂(P)について説明する。
本発明に係る本発明の塗布樹脂(P)とは水溶性ポリアミドを主成分として含有している強化繊維束の水溶性集束剤であり、その水溶性ポリアミドは主鎖中に三級アミノ基および/またはオキシエチレン基を有するジアミンとカルボン酸より重縮合して得られるポリアミド樹脂であり、前記ジアミンとして、ピペラジン環を有するN、N′-ビス(γ―アミノプロピル)ピペラジン、N-(β―アミノエチル)ピペラジン等主鎖中に三級アミノ基を含むモノマ、オキシエチレンアルキルアミン等の主鎖中にオキシエチレン基を含むアルキルジアミンが有用である。又、ジカルボン酸としてはアジピン酸、セバシン酸等がある。
【0048】
本発明の水溶性のポリアミドは共重合体であってもよい。共重合成分としては、例えばα-ピロリドン、α-ピペリドン、ε-カプロラクタム、α-メチル-ε-カプロラクタム、ε-メチル-ε-カプロラクタム、ε-ラウロラクタムなどのラクタムをあげることができ、二元共重合もしくは多元共重合も可能であるが、共重合比率は水溶性という物性を妨げない範囲において決定される。好ましくはラクタム環を持つ共重合成分比率を30wt%以内にしないとポリマーが水に完溶しなくなる。
【0049】
しかしながら、前記範囲外の共重合成分比率に難水溶性のポリマーであっても、有機及び無機酸を用いて溶液を酸性にした場合溶解性が増大し、水可溶性になり使用が可能になる。有機酸としては、酢酸、クロル酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、しゅう酸、フルオロ酢酸等があり、無機酸としては、一般的な鉱酸類である塩酸、硫酸、リン酸等を挙げることができる。
【0050】
この水溶性ポリアミドは前記サイジング剤が付与されていない強化繊維に1次サイジング剤として用いても良いし、前記サイジング剤が前もって付与されている強化繊維に2次サイジング剤として用いてもよい。
【0051】
水溶性ポリアミドの固形分付着量の下限としては0.1wt%以上が好ましく、0.3wt%以上がより好ましく、0.5wt%以上がさらに好ましい。また水溶性ポリアミドの固形分付着量の上限としては5wt%以下が好ましく、4wt%以下がより好ましく、3wt%以下がさらに好ましい。水溶性ポリアミドの付着量が0.1wt%未満の場合、複合材料を作製しようとすると、マトリックス樹脂と強化繊維との表面接着性が低下する傾向に有り、複合材料の力学特性の発現率が低くなる可能性がある。また、フィラメントがバラけて、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。また樹脂を含浸する際に、拡幅された繊維束が表面張力等により集束することにより、ストランド間に目隙が発生し、繊維強化樹脂成形品とした際に、物性が低下する可能性がある。一方、水溶性ポリアミドの付着量が5wt%を超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想の繊維形態が得られない可能性が生じる。なお、強化繊維束に前記サイジング剤が前もって付与されていない場合、前記水溶性ポリアミドの好ましい付着量の範囲で付与するのがよい。
【0052】
水溶性ポリアミドの固形分付着量を0.1wt%以上5wt%以下とすることで、強化繊維束を例えばAFP法による自動積層プロセスにおいて前記強化繊維束基材100を並行に並べて配置した際に、ボビンからの巻き出し性の向上、ニップローラー、カッター刃への巻きつき低減といった効果が得られ、生産性の向上をはかることができる。さらに、カットされた強化繊維束の割れを抑制でき、所定の繊維束形態への保持性、形態安定性が向上する。すなわち、AFP等による自動積層プロセスにおいて、強化繊維束をカットした繊維束端部において、繊維割れが発生せず、最適な形態の強化繊維束を配置することができる。これにより、強化繊維のアライメントが適切に保たれ、力学特性の向上をはかることができる。また、強化繊維束基材100の形態安定性が向上するため、幅精度が良好であり、強化繊維束基材100を積層した強化繊維基材201の目付バラつきを低減化することができ、成形品時の力学特性のバラつきを低減化することが可能である。
【0053】
また、本発明における強化繊維束基材100によれば、繊維方向に強化繊維束を連続して安定的にスリット可能で、最適な形態、繊維幅の強化繊維束を容易に効率よく製造することができる。特に、撚りが含まれる繊維束や、ラージトウの単糸数の多い繊維束であっても、連続したスリット処理を可能とする強化繊維束基材100を提供することができる。さらに、安価なラージトウの連続スリット処理が可能となり、成形品の材料コスト、製造コストの低減をはかることも可能になる。
【0054】
強化繊維束に前記サイジング剤が前もって付与されている場合、前記サイジング剤の好ましい付着量の範囲に追加し、前記水溶性ポリアミドの好ましい付着量の範囲で付与することが好ましく、1次サイジング剤と2次サイジング剤の合計付着量としては、0.11wt%以上、好ましくは0.2wt%以上、特に好ましくは0.5wt%以上、9wt%以下、好ましくは6wt%以下、特に好ましくは3wt%以下である。
【0055】
これらの水溶性ポリアミドは、強化繊維表面に均質に付着したものであることが好ましい。そのように均質に付着させる方法としては特に限定されるものではないが、例えば、これら水溶性ポリアミドを水またはアルコール、酸性水溶液に0.1wt%以上、好ましくは1wt%以上、20wt%以下、好ましくは10wt%以下の濃度に溶解して、その高分子溶液にローラーを介して繊維束をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに繊維束を接する方法、サイジング処理液を霧状にして繊維束に吹き付ける方法などがある。この際、環境の観点から水が好ましい。繊維束に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に繊維束を超音波で加振させることはより好ましい。前記サイジング剤付着方法で付与してもよい。
【0056】
なお、強化繊維束に付着した水溶性ポリアミド中の水やアルコールなどの溶剤を除去するには、熱処理や風乾、遠心分離などのいずれの方法を用いても良いが、中でもコストの観点から熱処理が好ましい。熱処理の加熱手段としては、例えば、熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーターなどを使用することができる。この加熱処理条件も重要であり、取り扱い性、マトリックス材との接着性の良否に関わってくる。すなわち、本発明の水溶性ポリアミドは繊維束に付与した後、熱処理する。熱処理、温度の下限は130℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。熱処理温度の上限は350℃以下が好ましく、280℃がより好ましい。この範囲の熱処理温度は、水溶性のポリアミドが水可溶の物性を失う温度である。この処理により、水溶性ポリマーが不溶になり吸湿性も低下するため、フィラメントを集束したストランドのべたつきがなくなり、後加工の作業性が向上するだけでなく、マトリックス材への密着性がよくなり取り扱いやすい繊維束を提供できる。また、溶剤に架橋促進剤を添加し、熱処理温度を低くする、もしくは時間を短縮することも可能である。なお、サイジング剤の熱劣化を防止する観点から、室温~180℃下で乾燥し、水分を除去した後、熱処理を行っても良い。
【0057】
水溶性ポリアミドが付与された前記繊維束の熱処理時間としては0.33分以上、より好ましくは0.4分以上、さらに好ましくは0.5分以上、15分未満、より好ましくは10分未満、特に好ましくは5分未満が好ましい。熱処理温度にもよるが、0.33分より短くなると水溶性ポリアミドの水可溶の物性が残っていることにより、拡幅処理をした後、拡幅された繊維束が再凝集することがあり、再凝集すると、最適な繊維束幅に調整された繊維束の形態を保持することが困難になる可能性がある。また、15分より長く熱処理を施すと、水溶性ポリアミドが劣化する可能性があり、水溶性ポリアミドが劣化すると、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性が低下する可能性がある。
【0058】
この水溶性ポリアミド樹脂を用いたサイジング剤は各種マトリックス材との親和性に優れておりコンポジット物性を著しく向上せしめるが、特にポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルアミドイミド系樹脂及びエポキシ系樹脂において優れた密着性の改善効果がある。
【0059】
前記水溶性ポリアミドを2次サイジング剤として用いる場合は、1次サイジング剤が付与された強化繊維に前記方法と同様のつけ方でもよいし、強化繊維束基材100の製造工程において付与してもよい。特定の強化繊維束基材100の製造において、該強化繊維束基材100の製造工程中のいずれかのタイミングで行われるサイジング剤の付与について例示すると、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解(分散も含む)したサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を強化繊維束に塗布した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去することにより、サイジング剤を繊維束に付与することが一般的に行われる。ここで、後に詳しく述べる通り、この塗布工程と乾燥工程の間に繊維束の拡幅処理を行っても良い。
【0060】
次に本発明におけるサイジング剤付与のタイミングについて説明する。
図3は、本発明に係る強化繊維束基材100の製造方法において、強化繊維束基材100の製造工程中におけるサイジング剤付与工程のタイミング例を示している。
図3には、強化繊維束102が開繊・拡幅工程300を経て強化繊維束基材100に形成される工程中において、サイジング剤塗布工程401が、開繊・拡幅工程300よりも前に行われるパターンAと、開繊・拡幅工程300よりも後に行われるパターンBとが示されている。パターンA、パターンBのいずれのタイミングも可能である。
【0061】
図4は、本発明に係る強化繊維束基材100の製造方法において、強化繊維束基材100の製造工程中における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程のタイミング例を示している。サイジング剤付与工程400は、サイジング剤塗布工程401と乾燥工程402を含むが、
図4には、これらサイジング剤塗布工程401と乾燥工程402を含むサイジング剤付与工程400が、
強化繊維束
102が開繊・拡幅工程300を経て強化繊維束基材100に形成される工程中において、開繊・拡幅工程300よりも前に行われるパターンCと、開繊・拡幅工程300よりも後に行われるパターンDとが示されている。パターンC、パターンDのいずれのタイミングも可能である。パターンDは、
図3におけるパターンBと実質的に同一である。
【0062】
図5は、本発明に係る熱処理工程を含む強化繊維束基材100の製造方法における、サイジング剤塗布工程と乾燥工程を含むサイジング剤付与工程の別のタイミング例を示しており、強化繊維束102が開繊・拡幅工程300と熱処理工程500とをこの順に経て強化繊維束基材100に形成される工程中において、サイジング剤付与工程400が、開繊・拡幅工程300の前に行われるパターンEと、サイジング剤付与工程400が、開繊・拡幅工程300と熱処理工程500との間で行われるパターンFが示されている。
【0063】
図6は、本発明に係る乾燥工程、熱処理工程を含む強化繊維束基材100の製造方法における、サイジング剤付与工程の別のタイミング例を示しており、強化繊維束102が開繊・拡幅工程300と乾燥工程401と熱処理工程500とをこの順に経て強化繊維束基材100に形成される工程中において、サイジング剤付与工程400が、開繊・拡幅工程300の前に行われるパターンGと、サイジング剤付与工程400が、開繊・拡幅工程300と乾燥工程401との間で行われるパターンHが示されている。パターンHは、
図5におけるパターンFと実質的に同一である。
【0064】
このように、本発明に係る強化繊維束基材100の製造方法においては、各種のタイミングでサイジング剤を付与することが可能である。
【0065】
このようにして得られた、本発明の強化繊維束基材100は、そのドレープ値D1(束硬さ)の下限は120mm以上がよく、145mm以上が好ましく、170mm以上がより好ましい。またドレープ値D1(束硬さ)の上限は240mm以下がよく、230mm以下が好ましく、220mm以下がより好ましい。ドレープ値D1が120mmより小さくなるとフィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。一方、ドレープ値D1が240mmを超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想の繊維束形態が得られない可能性が生じる。ここで、ドレープ値とは束硬さのことであり、23±5℃の雰囲気下、直方体の台の端に、30cmに切断した強化繊維束を固定し、この時、強化繊維束は台の端から25cm突き出るように固定、すなわち、強化繊維束の端から5cmの部分が、台の端に来るようにし、この状態で5分間静置した後、台に固定していない方の強化繊維束の先端と、台の側面との最短距離を測定した値をドレープ値D1とする。
【0066】
次にドレープ値D1を測定した強化繊維束基材100を25℃の水に、5分間浸漬処理後、取り出し、絶乾した後、前記方法と同様の方法で測定したドレープ値をドレープ値D2とする。ドレープ値D2(束硬さ)の下限は110mm以上が好ましく、145mm以上がより好ましく、170mm以上がさらに好ましい。またドレープ値D1(束硬さ)の上限は240mm以下が好ましく、230mm以下がより好ましく、220mm以下がさらに好ましい。ドレープ値D2が110mmより小さくなるとフィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。一方、ドレープ値D2が240mmを超えると、繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、カット時に単糸割れを引き起こし、理想の繊維形態が得られない可能性が生じる。
【0067】
本発明の強化繊維束基材100は、その硬度の下限は39g以上が好ましく、70g以上がより好ましく、120g以上がさらに好ましい。強化繊維束基材100の硬度の上限は200g以下が好ましく、190g以下であることがより好ましい。強化繊維束基材100の硬度とは、一般にハンドルオメータ法と呼ばれる測定法で得られる硬度であり、スリット溝が設けられた試験台に炭素繊維束をのせ、ブレードにて溝(20mm)の一定深さ(8mm)まで試験片を押し込むときに発生する抵抗力(g)を硬度とする。
【0068】
強化繊維束基材100の硬度が39g未満の場合、フィラメントがばらけ、毛羽が発生することにより、ボビンからの巻き出し性の低下、ニップローラー、カッター刃への巻きつきが発生しうる。また形態保持性が低く、樹脂含浸時に強化繊維束が再集束するまたは、強化繊維束基材100の幅精度が低いことにより、ストランド間に目隙が発生し、繊維強化樹脂成形品とした際に、物性が低下する可能性がある。一方、200gを超えると、強化繊維束基材100のワインダーでの巻き取り性が低下し、本発明の効果を発揮しない。
【0069】
本発明の前記強化繊維束基材100において、強化繊維束基材100の水への浸漬前における平均幅をW1、前記強化繊維束基材100を25℃の水に、5分間浸漬した後、取り出し、1分間水を切った後における幅をW2とすると、強化繊維束基材100の幅変化率W2/W1は0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましい。また幅変化率W2/W1は1.1以下であることが好ましい。前記強化繊維束基材100の幅変化率W2/W1が0.5より小さいと強化繊維束に付着されている水溶性ポリアミドの水可溶の物性が残っていることにより、拡幅された繊維束が再凝集することがある。再凝集すると、最適な幅、単糸数に調整された繊維束の形態を保持することが困難になる可能性がある。最適な幅、単糸数に調整された繊維束の形態に保持できないと、繊維強化樹脂成形品とする際に、最適な形態の繊維束厚み、繊維配向とすることが困難となり、成形の際の成形性と成形品の力学特性をバランスよく発現させることが困難となる。また、前記強化繊維束基材100の幅変化率W2/W1が1.1を超えると繊維束の柔軟性が欠けてきて硬くなりすぎ、ボビンの巻き取り、巻き出しがスムーズにいかなくなる可能性がある。また、賦形時に繊維束が硬すぎるため成形性が低下する可能性が生じる。
【0070】
また、本発明の強化繊維束基材100は水溶性ポリアミドが強化繊維表面に塗布されているようにしたため、最適な拡幅処理が施された強化繊維束基材100に再凝集が起こらないようにすることができ、最適な繊維束幅、厚みを保持することが可能になる。その結果、例えば強化繊維束基材100に分繊処理、スリット処理をした際にも最適な、繊維幅、厚みとすることができる。さらに、強化繊維束基材100、分繊処理等を施した強化繊維束基材100を切断し、チョップド繊維束とした際に、チョップド繊維束が割れたり単糸分散したりすることを抑制でき、所定の束形態への保持性が向上する。
【0071】
次に強化繊維
束群202からなる強化繊維基材201は、例えば
図2に例示する装置に強化繊維束基材100からなるボビンを掛け、複数の強化繊維束基材100を並行に引き揃えながら引き出すことにより作成される。ここで、並行に引き揃えるとは、隣接する強化繊維束基材100同士が、実質的に交差または交錯しない様に引き揃えることをいい、好ましくは、隣接する2本の強化繊維糸条を100mmの長さの範囲で直線に近似したとき、近似した直線が形成する角度が5°以下、さらに好ましくは2°以下となるよう引き揃えることである。ここで、強化繊維束基材100を直線に近似するとは、100mmの起点と終点とを結んで直線を形成することをいう。また隣接する強化繊維束基材100同士は、求められる強化繊維基材201の目付に応じて一定の間隔を隔てていてもよく、重なり合っていても良い。一定の間隔を隔てる場合、間隔は強化繊維束基材100幅の200%以下であることが好ましく、重なり合っている場合は強化繊維束基材100幅の100%重なっていても良い。このように並行に引き揃えながら引き出された強化繊維
束群202、すなわち強化繊維基材201は、幅方向の目付を均一に分布させることが好ましい。また、かかる強化繊維
束群202から作られた強化繊維基材201は、必要であればスリットを行い、任意の幅に制御することも可能である。
【0072】
かかる装置により作製された強化繊維基材201は、幅や目付の安定性が良く、また繊維配向にも優れるため、FRPの力学特性(特に圧縮強度)向上に寄与することができる。
【0073】
本発明における強化繊維束基材100においては強化繊維表面に塗布樹脂を塗布しているため、強化繊維同士が拘束されており、自動積層プロセス時等の擦過による単糸の発生を大幅に削減することができる。
【0074】
ファイバープレイスメント法を用いて前記強化繊維束基材100を並行に並べて配置して層を形成し、複数の層を織り交じることなく重ね合わせて、層間を接着することにより、強化繊維積層基材を作成することができる。
【0075】
また、以上のような強化繊維束基材を用いて製織することで織物を得ることができるが、かかる強化繊維束基材は、織物のたて糸やよこ糸、さらには両方に用いることができる。織物において、たて糸同士の隙間は0.1~0.8mmが好ましく、より好ましくは0.15~0.6mm、さらに好ましくは0.2~0.5mmの範囲である。織物においてたて糸同士の隙間が小さすぎると、強化繊維糸条の擦過による毛羽が多くなり、強化繊維織物の品位を損なう場合があるだけでなく、強化繊維織物にマトリックス樹脂を含浸させて繊維強化プラスチックを成形する場合に、マトリックス樹脂の含浸性を阻害する場合がある。
【0076】
次に本発明に係る強化繊維織物を構成する強化繊維束のスリット、分繊処理方法について説明する。
【0077】
図7は、本発明に係る強化繊維織物を構成する強化繊維束の製造方法におけるサイジング剤付与工程400のタイミング例を示しており、かかるサイジング剤付与工程400は、サイジング剤塗布工程401と、乾燥工程402と、熱処理工程500とを含んでいる。なお、サイジング剤付与工程において乾燥工程と熱処理工程は必ずしも含む必要はないが、
図7には、これらサイジング剤塗布工程401、乾燥工程402、熱処理工程500を含むサイジング剤付与工程400が、強化繊維束102が分繊処理工程301を経て分繊繊維束180に形成される工程中において、分繊処理工程301よりも前に行われるパターンIと、分繊処理工程301よりも後に行われるパターンJとが示されている。パターンI、パターンJのいずれのタイミングも可能である。
【0078】
図8は、開繊・拡幅工程300を含む強化繊維束の製造方法におけるサイジング剤付与工程400のタイミング例を示している。
図8には、強化繊維束102が開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301とをこの順を経て分繊繊維束180に形成される工程中において、
図7と同様のサイジング剤付与工程400が、開繊・拡幅工程300よりも前に行われるパターンKと、開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301との間で行われるパターンLと、分繊処理工程301よりも後に行われるパターンMとが示されている。パターンK、パターンL、パターンMのいずれのタイミングも可能であるが、最適な分繊処理を達成できる観点から、パターンLのタイミングが最も好ましい。なお、この図に示すパターンにおいても、乾燥工程と熱処理工程は必ずしも含む必要はない。
【0079】
図9も、本発明に係る強化繊維織物を構成する強化繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程の別のタイミング例を示している。
図9に示すタイミング例では、
図7のサイジング剤付与工程400におけるサイジング剤塗布工程401と乾燥工程402、熱処理工程500とが分離されてそれぞれ別のタイミングで行われる。サイジング剤塗布工程401は、分繊処理工程301よりも前に行われ、乾燥工程402と熱処理工程500は、分繊処理工程301よりも後に行われる。
【0080】
図10は、開繊・拡幅工程を含む強化繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程の、
図8とは別のタイミング例を示している。強化繊維束102が
開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301とをこの順を経て分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、
開繊・拡幅工程300よりも前に行われ、乾燥工程402と熱処理工程500については、
開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301との間で行われるパターンNと、分繊処理工程301よりも後に行われるパターンOが示されている。
【0081】
図11は、
開繊・拡幅工程を含む強化繊維束の製造方法における、サイジング剤塗布工程、乾燥工程、熱処理工程の、さらに別のタイミング例を示している。繊維束102が
開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301とをこの順を経て分繊繊維束180に形成される工程中において、サイジング剤付与工程のサイジング剤塗布工程401が、
開繊・拡幅工程300と分繊処理工程301との間で行われ、乾燥工程402と熱処理工程500が、分繊処理工程301よりも後に行われる例が示されている。
【0082】
本発明において、強化繊維積層基材に含浸するマトリックス樹脂〔M〕としては特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、シリコーンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。特に、上記熱可塑性樹脂としてポリアミド系樹脂を使用することが好ましく、さらにポリアミドに無機系の酸化防止剤を配合させることが好ましい。本発明に用いる熱可塑性ポリアミド樹脂としては、例えば、環状ラクタムの開環重合またはω-アミノカルボン酸の重縮合で得られるナイロン6、ナイロン11、ナイロン12やジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られるナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロンMFD6、2種以上のジアミンとジカルボン酸の重縮合で得られるナイロン66・6・I、ナイロン66・6・12などの共重合ナイロンなどが好適に使用することができる。特にナイロン6、66、610は機械的特性とコストの観点から好ましい。
【0083】
また、本発明に用いるハロゲン化銅あるいはその誘導体としては、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅、メルカプトベンズイミダゾールとヨウ化銅との錯塩などが挙げられる。なかでもヨウ化銅、メルカプトベンズイミダゾールとヨウ化銅との錯塩を好適に使用できる。ハロゲン化銅あるいはその誘導体の添加量としては、熱可塑性ポリアミド樹脂100重量部に対し0.001~5重量部の範囲にあることが好ましい。添加量が0.001重量部未満では予熱時の樹脂分解や発煙、臭気を抑えることができず、5重量部以上では改善効果の向上が見られなくなる。更に0.002~1重量部が熱安定化効果とコストのバランスから好ましい。
【0084】
また、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、連続した強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させることにより得ることができる(第一の態様)。または強化繊維束基材を切断し、不連続繊維のチョップド繊維束とし、チョップド繊維束が分散したチョップド繊維束基材にポリアミド樹脂を含浸させることにより得ることができる(第二の態様)。さらに、連続した強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させたものを切断することで、ペレット状の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得ることができる(第三の態様)。
【0085】
第一の態様における、連続した強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる方法としては、例えば、フィルム状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させるフィルム法、繊維状の熱可塑性樹脂と強化繊維束基材とを混紡した後、繊維状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させるコミングル法、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維束基材における繊維の隙間に分散させた後、粉末状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる粉末法、溶融した熱可塑性樹脂中に強化繊維束基材を浸し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる引き抜き法が挙げられる。様々な厚み、繊維体積含有率など多品種の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製できることから、引き抜き法が好ましい。
【0086】
本発明の第一の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。0.2mm以上がより好ましい。一方、厚さが1.5mm以下であれば、強化繊維束基材に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。1mm以下がより好ましく、0.7mm以下がさらに好ましく、0.6mm以下がさらに好ましい。
【0087】
また、本発明の第一の態様における、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の繊維体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料全体(100体積%)に対して、強化繊維を20~70体積%(20体積%以上70体積%以下)の割合で含有することが好ましい。強化繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましく、40体積%以上がさらに好ましい。一方、強化繊維を70体積%以下含有することにより、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、55体積%以下がさらに好ましい。繊維体積含有率は強化繊維と熱可塑性樹脂の投入量を調整することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0088】
繊維強化熱可塑性樹脂成形材料における強化繊維の体積含有率(Vf)は、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の質量M0を測定したのち、該繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を空気中500℃で30分間加熱して熱可塑性樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量M1を測定し、次式により算出することができる。
Vf(体積%)=(M1/ρf)/{M1/ρf+(M0-M1)/ρ1}×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:ポリアミド樹脂の密度(g/cm3)
【0089】
また、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。例えば、より含浸性を高めたプリプレグや、半含浸のセミプレグ、含浸性の低いファブリックなどが挙げられる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0090】
第二の態様における、不連続繊維が分散したチョップド繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出機により供給してチョップド繊維束基材に含浸させる方法、粉末の熱可塑性樹脂をチョップド繊維束基材の繊維層に分散し溶融させる方法、熱可塑性樹脂をフィルム化してチョップド繊維束基材とラミネートする方法、熱可塑性樹脂を溶剤に溶かし溶液の状態でチョップド繊維束基材に含浸させた後に溶剤を揮発させる方法、熱可塑性樹脂を繊維化して不連続繊維との混合糸にする方法、熱可塑性樹脂の前駆体をチョップド繊維束基材に含浸させた後に重合させて熱可塑性樹脂にする方法、メルトブロー不織布を用いてラミネートする方法などが挙げられる。いずれの方法を用いてもよいが、熱可塑性樹脂を押出機により供給して強化繊維基材に含浸させる方法は、熱可塑性樹脂を加工する必要がないという利点があり、粉末の熱可塑性樹脂をチョップド繊維束基材の繊維層に分散し溶融させる方法は、含浸がしやすいという利点があり、熱可塑性樹脂をフィルム化してチョップド繊維束基材とラミネートする方法は、比較的品質の良いものが得られるという利点がある。
【0091】
本発明の第二の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚さは、0.1~10mmが好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて得られる成形品の強度を向上させることができる。0.5mm以上がより好ましい。一方、厚さが10mm以下であれば、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。7mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましい。
【0092】
また、本発明の第二の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の繊維体積含有率は20~70体積%が好ましい。言い換えると、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料全体(100体積%)中、不連続繊維を20体積%以上70体積%以下含有することが好ましい。不連続繊維を20体積%以上含有することにより、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。30体積%以上がより好ましい。一方、不連続繊維を70体積%以下含有することにより、不連続繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。60体積%以下がより好ましく、50体積%以下がさらに好ましい。前記繊維体積含有率は、前記した式(Vf)により算出することができる。
【0093】
また、本発明の第二の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0094】
本発明の第二の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を製造するに際し、前記基材を所望の厚みや繊維体積含有率に調整する方法としてはプレス機を用いて加熱加圧する方法が挙げられる。プレス機としては、熱可塑性樹脂の含浸に必要な温度、圧力を実現できるものであれば特に制限はなく、上下する平面状のプラテンを有する通常のプレス機や、1対のエンドレススチールベルトが走行する機構を有するいわゆるダブルベルトプレス機を用いることができる。
【0095】
第三の態様における、連続した強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる方法(工程(3))としては、例えば、フィルム状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材にポリアミド熱可塑性樹脂を含浸させるフィルム法、繊維状のポリアミド熱可塑性樹脂と強化繊維束基材とを混紡した後、繊維状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させるコミングル法、粉末状の熱可塑性樹脂を強化繊維束基材における繊維の隙間に分散させた後、粉末状の熱可塑性樹脂を溶融し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる粉末法、溶融した熱可塑性樹脂中に強化繊維束基材を浸し、加圧することで強化繊維束基材に熱可塑性樹脂を含浸させる引き抜き法が挙げられる。様々な厚み、繊維体積含有率など多品種の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を作製できることから、粉末状、引き抜き法が好ましい。
【0096】
本発明の第三の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に含まれる強化繊維の量としては、該成形材料に含まれる熱可塑性樹脂100重量部に対し、5~50重量部であることが好ましい。言い換えると、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料全体(100重量%)に対して、強化繊維を5~50重量%(5重量%以上50重量%以下)含有することが好ましい。強化繊維を5重量%以上含有することにより、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて得られる成形品の強度をより向上させることができる。10重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましい。一方、強化繊維を50重量%以下含有することにより、強化繊維に熱可塑性樹脂をより含浸させやすい。45重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましい。繊維重量含有率は強化繊維と熱可塑性樹脂の投入量を調整することにより、所望の範囲に調整することが可能である。
【0097】
また、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、その用法や目的に応じて、所望の含浸性を選択することができる。一般的に、含浸性の高い成形材料ほど、短時間の成形で力学特性に優れる成形品が得られるため好ましい。
【0098】
また、熱可塑性樹脂の付与の前のサイジング剤が付与された強化繊維束基材、または熱可塑性樹脂が付与された強化繊維束に対して、断面形状を整える工程をさらに行うことは含まれる繊維の数や大きさや形状にバラツキの少ない繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が得られるので好ましい態様である。例えば、ロールやガイドなどを用いて幅方向に付勢し、強化繊維束の断面において縁部を丸く整形することができる。
【0099】
切断工程(工程(4))においては熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束を切断する。切断の方法には特に制限は無く、公知の方法が採用できる。例えば、単数または複数の円盤状の刃に押し当てて切断する方法や2つの刃を用いての剪断力で切断する方法が挙げられる。
【0100】
本発明の第三の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の形態としては、ペレット形状とすることが好ましい。最も望ましい形態は、射出成形に用いられるサイズとされたペレットである。ペレットの形状をした本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は繊維がペレットの長手方向に、ほぼ平行に配列し、ペレット中の繊維長さが、ペレット長さと同一またはそれ以上であるので、これを用いて成形品としたときの強化繊維による機械特性の向上の程度は大きく、成形品として有利である。
【0101】
ペレット形状とした本発明の製造方法で得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いて、射出成形法により成形品を得る方法としては、例えば、金型の温度が前記熱可塑性樹脂の熱変形温度より5~50℃高い条件で成形することが好ましい。より好ましくは、金型の温度範囲が熱変形温度より10℃~30℃高い条件である。なお、熱変形温度とは、熱可塑性樹脂のみで構成される成形品を、ISO 75に準拠し、フラットワイズにて、試験荷重0.45MPaの試験条件にて測定される熱可塑性樹脂の荷重たわみ温度をいう。
【0102】
また、本発明の製造方法により得られる繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、これを用いて最終的な成形品とする前の中間基材である、スタンパブルシート、プリプレグに加工することができ、また、SMC(sheet molding compound)やBMC(bulk molding compound)用の材料に加工することができる。
【実施例】
【0103】
次に、本発明の実施例、比較例について説明する。なお、本発明は本実施例や比較例によって何ら制限されるものではない。
【0104】
(1)使用原料
・強化繊維束[A-1]:
繊維径7.2μm、単糸数50,000本の連続した炭素繊維束(ZOLTEK社製、“PX(登録商標)35”)を用いた。
・強化繊維束[A-2]:炭素繊維束(ZOLTEK社製“PX35”、単糸数50,000本、“13”サイジング剤)を用いた。
・強化繊維束[A-3]:ガラス繊維束(日東紡績製240TEX、単糸数1,600本)を用いた。
・サイジング剤[S-1]:
反応性ウレタン樹脂エマルジョン(第一工業製薬(株)製、“スーパーフレックス(登録商標)R5000”)を用いた。
・塗布樹脂[P-1]:
水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“T-70”)を用いた。
・塗布樹脂[P-2]:
水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“A-90”)を用いた。
・塗布樹脂[P-3]:
水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“P-70”)を用いた。
・塗布樹脂[P-4]:
水溶性ポリアミド(東レ(株)社製、“P-95”)を用いた。
・マトリックス樹脂[M-1]:
ポリアミド樹脂(東レ(株)製、“アミラン(登録商標)CM1001”)を用いた。
・マトリックス樹脂[M-2]: 未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)社製、“プライムポリプロ”(登録商標)J106MG)90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE800)10質量%とからなるポリプロピレンマスターバッチを作製した。
【0105】
(2)サイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法
サイジング剤または水溶性ポリアミドが付着している炭素繊維束を5gほど採取し、耐熱製の容器に投入した。次にこの容器を80℃、真空条件下で24時間乾燥し、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した炭素繊維の重量をm1(g)とし、続いて容器ごと、窒素雰囲気中、450℃で灰化処理を行った。吸湿しないように注意しながら室温まで冷却し、秤量した炭素繊維の重量をm2(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量を次式により求めた。測定は10本の繊維束について行い、その平均値を算出した。
付着量(wt%)=100×(m1-m2)/m1
【0106】
(3)ドレープ値の測定
30cmに切断した強化繊維束をまっすぐ伸ばして平らな台に載せ、湾曲したり撚れたりしないことを確認する。湾曲あるいは撚れが発生した場合、100℃以下の加熱、あるいは、0.1MPa以下の加圧によって除くことが好ましい。
図7に示すように、23±5℃の雰囲気下、直方体の台の端に、30cmに切断した強化繊維束基材を固定し、この時、強化繊維束基材は台の端から25cm突き出るように固定した。すなわち、強化繊維束基材の端から5cmの部分が、台の端に来るようにした。この状態で5分間静置した後、台に固定していない方の強化繊維束基材の先端と、台の側面との最短距離を測定し、ドレープ値D1とした。測定した前記強化繊維束基材を25℃の水に、5分間浸漬した後、取り出し、水を切った。次に強化繊維束基材を80℃、真空条件下で24時間乾燥し、絶乾した後、前記方法と同様の方法で浸漬処理後ドレープ値D2とした。測定本数はn=5とし、平均値を採用した。
【0107】
(4)硬度の測定
強化繊維束基材の硬度は、JIS L-1096 E法(ハンドルオメータ法)に準じ、HANDLE-O-Meter(大栄科学精機製作所製「CAN-1MCB」)を用いて測定した。硬度測定に用いる試験片の長さは10cm、幅はフィラメント数1700本~550本で1mmとなるように強化繊維束基材を拡幅調整した。また、スリット幅は20mmに設定した。このスリット溝が設けられた試験台に試験片となる強化繊維束基材を1本乗せ、ブレードにて溝の一定深さ(8mm)まで試験片を押し込むときに発生する抵抗力(g)を測定した。強化繊維束基材の硬度は3回の測定の算術平均値から得た。
【0108】
(5)平均繊維数の測定
1mあたりの強化繊維束の重量と強化繊維束を構成するフィラメント数からフィラメント1mあたりの重量a(mg/m)を導出する。次に、10mm程度の長さにカットした強化繊維束の繊維長さc(mm)と重量b(mg)を測定し、下記式により束を構成する繊維数を導出する。平均繊維数は計20個のカットした強化繊維束の繊維数の算術平均値とする。
平均繊維数=(b×1000/(a×c))
【0109】
(6)平均繊維束幅の測定
束幅を強化繊維束長手方向に30cm間隔以上の間隔を空けて20点測定し、その算術平均値を平均繊維束幅とした。
【0110】
(7)単位幅あたりの繊維数
平均繊維数を平均繊維束幅で割ることで単位幅あたりの繊維数とした。
【0111】
(8)平均束厚みの測定法
束厚みを繊維束長手方向(繊維方向)に30cm間隔で20点ほど測定し、その平均値を平均繊維束厚みとした。
【0112】
(9)強化繊維束基材の幅変化率測定
30mmから85mmに拡幅された強化繊維束基材を長さ230mmにカットし、その一端の端から30mmの位置をクリップで挟み、逆端から100mmの間で幅を5点測定し、その平均値を浸漬前におけるW1とした。その後、25℃の水に、5分間浸漬した後、取り出し、クリップで挟んだ側が上に来るように吊るした状態で1分間水を切った後、クリップで挟んだ逆端から100mmの間における幅を5点測定し、その平均値を浸漬後におけるW2とした。以上の処理を経て、強化繊維束基材の幅変化率を次式により求めた。
幅変化率=W2/W1
【0113】
<工程安定性>
強化繊維束基材を作製する工程において、加熱ローラーなどのローラーへの巻きつき性や、毛羽の発生量、ボビンへの巻き取り性を評価した(良:実用上問題が無いレベル。可:好ましくないが、実用上問題ないレベル、不良:実用上問題あり、使用できないレベル)。
【0114】
<強化繊維基材の作製(AFP工程安定性)>
ファイバープレイスメントヘッドを用いて、架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製した。作製する際の、ボビンからの解舒性や毛羽の発生量、ローラーなどへの巻きつき等を評価し、実用上に問題が無いか評価した(良:実用上問題が無いレベル、可:好ましくないが、実用上問題ないレベル、不良:実用上問題あり、使用できないレベル)。
【0115】
[含浸性評価]
各実施例および比較例により得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚み方向断面を以下のように観察した。繊維強化熱可塑性樹脂成形材料をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。研磨したサンプルを、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VHX-950F(コントローラー部)/VH-Z100R(測定部)((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率400倍で撮影した。撮影範囲は、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚み×幅500μmの範囲とした。撮影画像において、樹脂が占める部位の面積および空隙(ボイド)となっている部位の面積を求め、次式により含浸率を算出した。
含浸率(%)=100×(樹脂が占める部位の総面積)/{(樹脂が占める部位の総面積)+(空隙となっている部位の総面積)}
【0116】
含浸性が高い場合はボイドが低減され、含浸性が低い場合はボイドが増加することから、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の含浸性は、この含浸率を評価基準とし、以下の2段階で評価し、良を合格とした。
(良:含浸率が98%以上である。不良:含浸率が98%未満である。)
【0117】
[繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法]
第一の態様における繊維強化熱可塑性樹脂成形材料は、強化繊維束基材が巻かれたボビンを4本準備し、それぞれボビンから連続的に糸道ガイドを通じて強化繊維束基材を送り出した。連続的に送り出された強化繊維束基材に、含浸ダイ内において、充填したフィーダーから定量供給された、ポリアミド樹脂を含浸させた。含浸ダイ内でポリアミド樹脂を含浸した炭素繊維を、引取ロールを用いて含浸ダイのノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜いた。炭素繊維を引き抜く際の温度は融点+60℃の加工温度にて製造した。引き抜かれた炭素繊維束は、冷却ロールを通過してポリアミド樹脂が冷却固化され、連続した繊維強化熱可塑性樹脂成形材料として巻取機に巻き取られた。得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の厚さは0.3mm、幅は50mmであり、強化繊維方向は一方向に配列し、繊維体積含有率Vfが55%の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の前記含浸性評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0118】
(10)製織性の評価
少なくとも300mの連続運転が可能か否かで評価した。
A:300m以上の連続運転が可能であった。
C:300m以上の連続運転が不可能であった。
【0119】
(11)織物における樹脂含浸性の判定
2枚重ねた一方向性織物の上面に、織物と同じ重量のポリアミド6樹脂(東レ(株)社製、“アミラン”(登録商標)CM1001)を積層して、プレス機で1MPa、5分加圧した後の織物内部への樹脂含浸性を断面研磨により判定した。
A:強化繊維束内に樹脂が90%以上含浸した。
B:強化繊維束内に樹脂が50%以上90%未満含浸した。
C:強化繊維束内に樹脂が50未満含浸した。
(12)力学特性(曲げ特性)の評価
JIS K7074(1988年)に準拠して作製された試験片各水準10サンプルで曲げ試験を実施し、曲げ強度、曲げ強度のCV値(%)を求めた(CV:変動係数)。曲げ強度が150MPa未満をC、150MPa以上200MPa未満をB、200MPa以上をAと判定した。曲げ強度のCV値(%)15%を超える場合をC、10%以上15%以下をB、10%未満をAと判定した。CV値が小さいほど、力学特性のばらつきが小さく良好である。
【0120】
(実施例1)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、50mm幅の幅規制ロールを通すことで50mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0121】
得られた拡幅繊維束を一定速度5m/minで巻き出し、サイジング剤[S-1]を精製水で希釈したサイジング処理液に連続的に浸漬させて、拡幅繊維束に1次サイジング剤を塗布し、次いで150℃のホットローラと200℃の乾燥炉(大気雰囲気下)に1次サイジング剤を塗布した前記拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去した。得られた1次サイジング剤付与済み拡幅繊維束を前述のサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法に基づき算出したところ、1.5wt%であった。また、サイジング処理液に浸漬した際に、拡幅繊維束の繊維束幅が表面張力によって縮まらないように、繊維束にかかる張力を調整しながら実施した。次に得られたサイジング剤付与済み拡幅繊維束を、塗布樹脂[P-1]を精製水で希釈した含油樹脂処理液に連続的に浸漬させて、サイジング剤付与済み拡幅繊維束に塗布樹脂を塗布し、次いで250℃のホットローラと250℃の乾燥炉(大気雰囲気下)に2次サイジング剤(塗布樹脂[P-1])を塗布したサイジング剤付与済み拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去し、1.5分熱処理を施し強化繊維束基材を得た。得られた強化繊維束基材を前述のサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法に基づき算出したところ、塗布樹脂付着量は0.1wt%であった。なお、これは元のサイジング剤付与済み拡幅繊維束に付与されていたサイジング剤を含まない総付着量である。
【0122】
強化繊維束基材を1,500m作成作製したところ、一度も糸切れを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得られたが、わずかに巻きつきが発生し、プロセス通過性を可とした。得られた強化繊維束基材の幅変化率=W2/W1の結果及び、ドレープ試験、硬度測定結果を表1に示す。
【0123】
結果、単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が130mmの強化繊維束基材を得られた。
【0124】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、ファイバープレイスメントヘッド部にわずかに毛羽が堆積していたため、AFP工程安定性を可とした。
【0125】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0126】
(実施例2)
塗布樹脂[P-1]付着量を0.5wt%とした以外は実施例1と同様にして製造、評価を行った。強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を作製することができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は、単位幅当りの繊維本数1,111本/mm、ドレープ値D1が153mmであった。
【0127】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0128】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0129】
(実施例3)
塗布樹脂[P-1]付着量を1wt%とした以外は実施例1と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得られ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,020本/mm、ドレープ値D1が171mmであった。
【0130】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0131】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0132】
(実施例4)
塗布樹脂[P-1]付着量を2wt%とした以外は実施例1と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得られ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は、単位幅当りの繊維本数1,087本/mm、ドレープ値D1が210mmであった。
【0133】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0134】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0135】
(実施例5)
塗布樹脂[P-1]付着量を3wt%とした以外は実施例1と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は、単位幅当りの繊維本数1,111本/mm、ドレープ値D1が215mmであった。
【0136】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0137】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0138】
(実施例6)
塗布樹脂[P-1]付着量を5wt%とした以外は実施例1と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は、単位幅当りの繊維本数1,020本/mm、ドレープ値D1が235mmであった。
【0139】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0140】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0141】
(比較例1)
塗布樹脂[P-1]付着量を7wt%とした以外は実施例1と同様にして評価を行った。強化繊維束基材を1,500m作成したところ、繊維束が硬く、ボビンへの巻取り性が不良であり、安定して強化繊維束基材を得ることができず、これよりプロセス通過性を不良とした。得られた強化繊維束基材は、単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が242mmであった。
【0142】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、うまく強化繊維束を引きそろえることができず、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できなかったことから、AFP工程安定性を不良とした。
【0143】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0144】
(比較例2)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、50mm幅の幅規制ロールを通すことで50mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0145】
得られた拡幅繊維束を、サイジング剤[S-1]を精製水で希釈したサイジング処理液に連続的に浸漬させて、拡幅繊維束に1次サイジング剤を塗布し、次いで150℃のホットローラと200℃の乾燥炉に1次サイジング剤を塗布した前記拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去した。得られた1次サイジング剤付与済み拡幅繊維束を前述のサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法に基づき算出したところ、1.5%wt%であった。また、サイジング処理液に浸漬した際に、拡幅繊維束の繊維束幅が表面張力によって縮まらないように、繊維束にかかる張力を調整しながら実施した。
【0146】
1次サイジング剤付与済み拡幅繊維束を1,500m作成したところ、拡幅処理を行うことはできたが、単糸毛羽によるローラー等への巻きつきが発生し、安定して拡幅処理を行うことはできず、プロセス通過性を不良~可とした。
【0147】
2次サイジング剤塗布処理を施さない以外は実施例1と同様にして評価を行った。その結果、単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が39mmの強化繊維束基材が得られた。
【0148】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、絡まり、毛羽が発生し、また、うまく強化繊維束を引きそろえることができず、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できなかったことから、AFP工程安定性を不良とした。
【0149】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行ったところ、繊維束内にボイドが見られ、含浸性評価結果は不良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0150】
(比較例3)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、30mm幅の幅規制ロールを通すことで30mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0151】
拡幅幅を30mmとする以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、拡幅処理を行うことはできたが、繊維束が硬く、安定して巻き取ることができず、プロセス通過性を可とした。得られた強化繊維束は単位幅当りの繊維本数1,667本/mm、ドレープ値D1が242mmであった。
【0152】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、うまく強化繊維束を引きそろえることができず、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できなかったことから、AFP工程安定性を可とした。
【0153】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行ったところ、わずかにボイドが見られ、含浸性評価結果は不良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0154】
(実施例7)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、35mm幅の幅規制ロールを通すことで36mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0155】
拡幅幅を36mmとする以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,389本/mm、ドレープ値D1が225mmであった。
【0156】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0157】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0158】
(実施例8)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、70mm幅の幅規制ロールを通すことで69mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0159】
拡幅幅を69mmとする以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束機材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数725本/mm、ドレープ値D1が164mmであった。
【0160】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0161】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0162】
(比較例4)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、90mm幅の幅規制ロールを通すことで85mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0163】
拡幅幅を85mmとする以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、繊維束が薄く、繊維束の割れが発生し、安定して拡幅処理を行うことはできず、プロセス通過性を不良とした。
【0164】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、一度も糸切れ、巻きつきを起こすことは無かったが、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維束基材を引きそろえることはできず、AFP工程安定性を可とした。
【0165】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0166】
(実施例9)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、35mm幅の幅規制ロールを通すことで35mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0167】
拡幅幅を35mmとする以外は実施例5と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,429本/mm、ドレープ値D1が229mmであった。
【0168】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0169】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0170】
(比較例5)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、50mm幅の幅規制ロールを通すことで50mmへ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0171】
得られた拡幅繊維束を一定速度5m/minで巻き出し、サイジング剤[S-1]を精製水で希釈したサイジング処理液に連続的に浸漬させて、拡幅繊維束に1次サイジング剤を塗布し、次いで150℃のホットローラと200℃の乾燥炉(大気雰囲気下)に1次サイジング剤を塗布した前記拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去した。得られた1次サイジング剤付与済み拡幅繊維束を前述のサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法に基づき算出したところ、1.5wt%であった。また、サイジング処理液に浸漬した際に、拡幅繊維束の繊維束幅が表面張力によって縮まらないように、繊維束にかかる張力を調整しながら実施した。次に得られたサイジング剤付与済み拡幅繊維束を、塗布樹脂[P-1]を精製水で希釈した含油樹脂処理液に連続的に浸漬させて、サイジング剤付与済み拡幅繊維束に塗布樹脂を塗布し、次いで130℃のホットローラと130℃の乾燥炉(大気雰囲気下)に2次サイジング剤(塗布樹脂[P-1])を塗布したサイジング剤付与済み拡幅繊維束を供し、乾燥して水分を除去し、0.3分熱処理を施した。得られた強化繊維束基材を前述のサイジング剤または水溶性ポリアミドの付着量の測定方法に基づき算出したところ、塗布樹脂付着量は2wt%であった。なお、これは元のサイジング剤付与済み拡幅繊維束に付与されていたサイジング剤を含まない総付着量である。
【0172】
熱処理温度、時間を130℃、0.3分とすること以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、ローラーへの巻きつきが発生し、安定して強化繊維束基材を得ることはできず、プロセス通過性を不良とした。得られた強化繊維束基材の単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が108mmの強化繊維束基材が得られた。
【0173】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したが、絡まり、毛羽が発生し、また、うまく強化繊維束を引きそろえることができず、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できなかったことから、AFP工程安定性を不良とした。
【0174】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行ったところ、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0175】
(実施例10)
2次サイジング剤の熱処理温度、時間を130℃、15分とすること以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,042本/mm、ドレープ値D1が214mmであった。
【0176】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0177】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0178】
(実施例11)
2次サイジング剤の熱処理温度、時間を350℃、0.4分とすること以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,064本/mm、ドレープ値D1が200mmであった。
【0179】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0180】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0181】
(比較例6)
2次サイジング剤の熱処理温度、時間を350℃、16分とすること以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一部繊維割れが起こるものの、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を可とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,111本/mm、ドレープ値D1が96mmであった。
【0182】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製したところ、一度も糸切れは無かったが、一部巻きつきを起こし、また、毛羽が発生していたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0183】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行ったところ、ボイドが見られ、含浸性評価結果は不良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を不良とした。
【0184】
(実施例12)
繊維束[A-1]を、ワインダーを用いて一定速度10m/minで巻き出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、50mm幅の幅規制ロールを通すことで50mmへ拡幅した拡幅繊維束を得て、得られた拡幅繊維束の1次サイジング剤にサイジング剤[S-1]の代わりに塗布樹脂[P-1]を用いた以外は実施例2と同様にして評価を行った。なお、1次サイジング剤(塗布樹脂[P-1])付着量は0.5wt%、2次サイジング剤(塗布樹脂[P-1])付着量は1.5wt%とした。なお、2次サイジング剤(塗布樹脂[P-1])付着量は元の1次サイジング剤付与済み拡幅繊維束に付与されていた1次サイジング剤を含まない付着量である。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が198mmであった。
【0185】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0186】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0187】
(実施例13)
塗布樹脂[P-1]を塗布樹脂[P-2]とした以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,042本/mm、ドレープ値D1が224mmであった。
【0188】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0189】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0190】
(実施例14)
塗布樹脂[P-1]を塗布樹脂[P-3]とした以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束機材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,111本/mm、ドレープ値D1が211mmであった。
【0191】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0192】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0193】
(実施例15)
塗布樹脂[P-1]を塗布樹脂[P-4]とした以外は実施例4と同様にして評価を行った。その結果、強化繊維束基材を1,500m作成したところ、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅で強化繊維束基材を得ることができ、プロセス通過性を良とした。得られた強化繊維束基材は単位幅当りの繊維本数1,000本/mm、ドレープ値D1が214mmであった。
【0194】
続いて、得られた強化繊維束基材を、ファイバープレイスメントヘッドへ連続的に挿入して架台上に前記強化繊維束を一方向に引き揃え、250mm×250mmの正方形形状となるように強化繊維基材を作製し、解舒性も問題なく、一度も糸切れ、巻きつきを起こすこと無く、安定した幅、ストランド間隔で強化繊維基材を作製できたことから、AFP工程安定性を良とした。
【0195】
次に、前記繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法に従い、強化繊維束基材にマトリックス樹脂[M-1]を含浸させて繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を得た。得られた繊維強化樹脂成形材料の含浸性の評価を行い、含浸性評価結果は良であった。これより、総合評価(良:実使用上問題ないレベル、不良:実使用上問題があるレベル)を良とした。
【0196】
次に製織性の評価を行った。
【0197】
(参考例1)
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0198】
塗布樹脂[P-1]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、3.2質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数1540本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値138mm、束硬度81gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が6.5mmの強化繊維束(a)を得た。
【0199】
(参考例2)
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0200】
塗布樹脂[P-1]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、6.1質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数1430本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値231mm、束硬度210gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が7.0mmの強化繊維束(b)を得た。
【0201】
(参考例3)
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0202】
塗布樹脂[P-2]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、3.3質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数550本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値127mm、束硬度76gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が9.1mmの強化繊維束(c)を得た。
【0203】
(参考例4)
強化繊維束[A-3]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通すことで任意の幅へ拡幅した拡幅繊維束を得た。
【0204】
塗布樹脂[P-2]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、3.8質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-3]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-3]の単位幅あたりの繊維数2200本/mm、束厚み0.23mm、ドレープ値220mm、束硬度191gであった。拡幅された強化繊維束[A-3]を分繊し、平均束幅が0.7mmの強化繊維束(d)を得た。
【0205】
(参考例5)
塗布樹脂[P-3]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、3.3質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数4420本/mm、束厚み0.36mm、ドレープ値243mm、束硬度230gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が5.7mmの強化繊維束(e)を得た。
【0206】
(参考例6)
塗布樹脂[P-3]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、4.7質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数5110本/mm、束厚み0.38mm、ドレープ値246mm、束硬度254gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が4.9mmの強化繊維束(f)を得た。
【0207】
(参考例7)
塗布樹脂[P-4]を水に溶解、または分散させた母液を調整し、3.1質量%の付着量になるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表に示す通り、強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数4880本/mm、束厚み0.4mm、ドレープ値245mm、束硬度243gであった。拡幅された強化繊維束[A-2]を分繊し、平均束幅が5.1mmの強化繊維束(g)を得た。
【0208】
(実施例16)
参考例1で得られた強化繊維束(a)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維束(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0209】
(実施例17)
参考例2で得られた強化繊維束(b)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維束(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0210】
(実施例18)
参考例3で得られた強化繊維束(c)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維糸条(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0211】
(比較例7)
参考例4で得られた強化繊維束(d)を用いて、一方向性織物(平織組織、ガラス繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。ガラス繊維糸条(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0212】
(比較例8)
参考例5で得られた強化繊維束(e)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維糸条(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0213】
(比較例9)
参考例6で得られた強化繊維束(f)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維糸条(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0214】
(比較例10)
参考例7で得られた強化繊維束(g)を用いて、一方向性織物(平織組織、炭素繊維目付200g/m2)を、エアジェット織機(津田駒工業(株)製ZA100)にて1.1m/分の速度で製織した。炭素繊維糸条(たて糸)は、各ボビンから解舒して引き揃えて、整経せずに直接筬入幅127cmにて織機に導いた。よこ糸には22.5texのグラスファイバー(ユニチカ製)を用いた。たて糸が開口をはじめる箇所からヘルドまでのたて糸長は、ヘルド開口量の12倍とした。よこ糸挿入は、メインノズル1個(0.25MPa)、サブノズル16個(0.4MPa)により、打込回数が340回/分となるように行った。ここで、サブノズルの配置間隔は、よこ糸挿入側から順に70mm間隔で2つ、55mm間隔で6つ、50mm間隔で4つ、45mm間隔で4つ、となるようにして、よこ糸挿入側における最端部のサブノズルと隣り合うサブノズルとの間の距離よりも、反よこ糸挿入側における距離を短くした。樹脂含浸性および製織性の結果を表3に示す。
【0215】
次に繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(第三の態様)における評価を実施した。
【0216】
(実施例19)
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通し、拡幅幅を調整した。
【0217】
塗布樹脂[P-1]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が3.2重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数1540本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値138mm、束硬度81gであった。
【0218】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-1]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0219】
該ペレット中に含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-1]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0220】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0221】
(実施例20)
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通し、拡幅幅を調整した。
【0222】
塗布樹脂[P-2]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が6.1重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示す通り、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数1430本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値231mm、束硬度210gであった。
【0223】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-1]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0224】
該ペレット中に含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-1]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0225】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0226】
(実施例21[参考実施例])
強化繊維束[A-3]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通し、拡幅幅を調整した。
【0227】
塗布樹脂[P-2]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が3.3重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-3]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-3]の単位幅あたりの繊維数550本/mm、束厚み0.07mm、ドレープ値127mm、束硬度76gであった。
【0228】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-1]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0229】
該ペレットに含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-1]100重量部に対する強化繊維束[A-3]の含有量は30重量部であった。
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0230】
(実施例22[参考実施例])
強化繊維束[A-2]を、ワインダーを用いて一定速度10m/分で巻出し、10Hzで軸方向へ振動する振動拡幅ロールに通し、拡幅処理を施した後に、幅規制ロールを通し、拡幅幅を調整した。
【0231】
塗布樹脂[P-3]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が3.8重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数2200本/mm、束厚み0.23mm、ドレープ値220mm、束硬度191gであった。
【0232】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-2]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0233】
該ペレットに含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-2]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0234】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0235】
(比較例11)
拡幅処理は行わず、塗布樹脂[P-3]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が3.3重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数4420本/mm、束厚み0.36mm、ドレープ値243mm、束硬度230gであった。
【0236】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-1]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0237】
該ペレットに含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-1]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0238】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0239】
(比較例12)
拡幅処理は行わず、塗布樹脂[P-4]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が4.7重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数5110本/mm、束厚み0.38mm、ドレープ値246mm、束硬度254gであった。
【0240】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-1]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0241】
該ペレットに含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-1]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0242】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0243】
(比較例13)
拡幅処理は行わず、塗布樹脂[P-4]の水溶液を用い、サイジング剤の付着量が3.1重量%となるよう、浸漬法により強化繊維束[A-2]に付与し、250℃、2分間、乾燥を行った。表4に示すとおり、サイジング剤の付与された強化繊維束[A-2]の単位幅あたりの繊維数4880本/mm、束厚み0.4mm、ドレープ値245mm、束硬度243gであった。
【0244】
単軸押出機の吐出先端部に溶融樹脂の被覆ダイス口を設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、マトリックス樹脂[M-2]をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融させ、サイジング剤が付与された上記強化繊維束を、溶融樹脂を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、樹脂を含浸し、得られたストランドを冷却後、ペレタイザーでペレット長10mm長さに切断して長繊維ペレットを得た。
【0245】
該ペレットに含まれる強化繊維の繊維長は、ペレット長と実質的に同じであった。また、マトリックス樹脂[M-2]100重量部に対する強化繊維束[A-2]の含有量は30重量部であった。
【0246】
この長繊維ペレットを用いて、住友重機械工業社製SE75DUZ-C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、保圧力:成形下限圧+10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:110℃の条件で特性評価用試験片(成形品)を成形した。得られた試験片は、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間放置後に曲げ特性評価を行った。得られた結果を表4に示す。
【0247】
【0248】
【0249】
【0250】
【産業上の利用可能性】
【0251】
本発明は、複数の単糸からなる繊維束に適用でき、塗布樹脂を適切なタイミングで付与することにより、適切な形態に保つことができる。特に強化繊維を用いる際は、得られた繊維強化樹脂材料はマトリックス樹脂を含浸し、あらゆる繊維強化複合材料に用いることができる。
【符号の説明】
【0252】
100:強化繊維束基材
101:ボビン(強化繊維)
102:強化繊維束
103:開繊・拡幅ユニット
104:幅規制ローラー
105:塗布樹脂水溶液
106:しごきローラー
107:ヒーターロール
180:分繊繊維束
201:強化繊維基材
202:強化繊維束群
300:開繊・拡幅工程
301:分繊処理工程
400:サイジング剤付与工程
401:サイジング剤塗布工程
402:乾燥工程
500:熱処理工程
A~O パターン
a 繊維束走行方向