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特許7310610電池用接着剤組成物及びそれを用いた電池用接着性部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】電池用接着剤組成物及びそれを用いた電池用接着性部材
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20230711BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230711BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230711BHJP
   H01M 8/0284 20160101ALI20230711BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20230711BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J11/06
C09J11/08
H01M8/0284
H01M10/052
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019566439
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000451
(87)【国際公開番号】W WO2019142716
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018004648
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 友哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】今堀 誠
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213767(JP,A)
【文献】特開2016-035035(JP,A)
【文献】特開2008-282708(JP,A)
【文献】特開昭63-274055(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046564(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/104069(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
H01M8/02;8/0206:10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基及び/又は酸無水物基を有し、且つ、酸変性度が0.001~0.10mol%である酸変性ポリオレフィン(A)及びアルコキシシリル基含有化合物(B)を含み、前記酸変性ポリオレフィン(A)の含有量が組成物中70~98質量%であり、前記アルコキシシリル基含有化合物(B)の含有量が前記酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して2~35質量部である、電池用接着剤組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、アルコキシシリル基含有ポリオレフィン(b1)、アルコキシシリル基含有ビニル重合体(b2)、アルキルアルコキシシラン類、アミノアルコキシシラン類、エポキシアルコキシシラン類、ビニルアルコキシシラン類及びアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電池用接着剤組成物。
【請求項3】
温度230℃、荷重1.96MPaの条件で測定されたメルトフローレートが1.0~20.0g/10minである、請求項1又は請求項2に記載の電池用接着剤組成物。
【請求項4】
前記電池が燃料電池である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電池用接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電池用接着剤組成物が硬化してなる接着性樹脂層を備え、当該接着性樹脂層の100%モジュラスが10~20MPa、300%モジュラスが11~30MPa及び破断伸びが300~700%である、電池用接着性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用接着剤組成物及びそれを用いた電池用接着性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホットメルト型接着剤組成物は、フィルム状又はシート状に成形された接着性フィルム又はシート(以下、まとめて「接着性部材」という。)として、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット及び自動車等に組み込まれるリチウムイオン電池、並びに燃料電池等の化学電池、並びに、太陽電池及びキャパシタ(コンデンサ)等の物理電池に使用されるようになってきている。
これら電池の構成部材の基材に用いられる、鉄、アルミニウム、チタン及びその他金属等、並びにそれらの合金等の金属基材を接着するために、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂(以下、「酸変性ポリオレフィン」という)を主成分とするホットメルト型接着剤組成物を用いると、比較的良好な接着力が得られることが知られている。
特に、リチウムイオン電池においては、電解質として用いるヘキサフルオロリン酸リチウムが水分と反応してフッ酸が発生する場合があり、また、燃料電池においては、電池の構成部材である電解質膜からフッ酸等の酸が発生する場合があり、耐酸性が要求される。
更に、リチウムイオン電池においては、電解質の溶剤として用いるエチレンカーボネート又はジエチルカーボネート等に対する耐久性、また、燃料電池においては、発電により発熱した電池を冷却する目的で、電池内部にエチレングリコール又はプロピレングリコール等を含む冷却液を循環させるため、前記エチレングリコール等に対する耐久性(以下、これら耐久性をまとめて「耐溶剤性」という。)も要求されている。
【0003】
特許文献1には、特定の酸変性ポリオレフィン、酸により変性されていない熱可塑性エラストマー及びエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む接着剤組成物が開示されている。これは、シランカップリング剤と金属基材表面の水酸基との化学結合により接着力が得られ、耐水性に優れるものである。
【0004】
特許文献2には、特定性状を満たす低粘度プロピレン系ベースポリマー50~99質量%と、特定性状を満たす酸変性プロピレン系エラストマー 1~50質量%から構成される樹脂組成物、並びに当該樹脂組成物を含んでなるホットメルト接着剤が開示されている。これは、ポリオレフィン系基材への付着性に優れると同時に、金属基材との接着力にも優れるものである。
【0005】
特許文献3には、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びシラン変性ポリオレフィン系樹脂を、10:90~90:10の質量比で含有する接着性樹脂層と、水蒸気が透過することを防止又は抑制する水蒸気バリア性樹脂層とを備えた、電子デバイス用フィルム状封止材が開示されている。これは、短時間での熱圧着で被着体に対する接着性に優れ、かつ、湿熱条件下においたときにも接着力が低下し難く、耐湿熱性に優れ、さらには、高い水蒸気バリア性をも有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-213767号公報
【文献】特開2013-060521号公報
【文献】特開2014-149961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載の接着剤組成物を用いて、電池の構成部材の基材に用いられる金属基材を接着する場合、常温及び湿熱条件における接着力には優れるものの、高温における酸性水溶液浸漬後の接着力、及び高温における溶剤浸漬後の接着力(以下、まとめて「高温における耐酸性及び耐溶剤性」という。)が低いという問題があった。
本発明の一実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電池用途に用いられる金属基材の接着において、高温(95℃)における耐酸性及び耐溶剤性に優れる電池用接着剤組成物、並びに、それを用いた電池用接着性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、電池用途に用いられる金属基材の接着において、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる電池用接着剤組成物、並びに、それを用いた電池用接着性部材を見出した。
【0009】
本発明には以下の実施形態が含まれる。
〔1〕酸性基及び/又は酸無水物基を有し、且つ、酸変性度が0.001~0.10mol%である酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、アルコキシシリル基含有化合物(B)を2~35質量部含む、電池用接着剤組成物。
〔2〕前記(B)成分が、アルコキシシリル基含有ポリオレフィン(b1)、アルコキシシリル基含有ビニル重合体(b2)及びシランカップリング剤(b3)からなる群より選択される少なくとも1つを含む、〔1〕に記載の電池用接着剤組成物。
〔3〕温度230℃、荷重1.96MPaの条件で測定されたメルトフローレートが1.0~20.0g/10minである、〔1〕又は〔2〕に記載の電池用接着剤組成物。
〔4〕前記電池が燃料電池である、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の電池用接着剤組成物。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の電池用接着剤組成物が硬化してなる接着性樹脂層を備え、当該接着性樹脂層の100%モジュラスが10~20MPa、300%モジュラスが11~30MPa及び破断伸びが300~700%である、電池用接着性部材。
【発明の効果】
【0010】
本開示の電池用接着剤組成物及びそれを用いた電池用接着性部材によれば、電池用途に用いられる金属基材の接着において、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書に開示される技術の各種実施形態を詳しく説明する。尚、本明細書においては、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【0012】
本発明の第1の態様(本開示の電池用接着剤組成物)は、酸性基及び/又は酸無水物基を有し、且つ、酸変性度が0.001~0.10mol%である酸変性ポリオレフィン(A)、及びアルコキシシリル基含有化合物(B)を特定の割合で含む、電池用接着剤組成物に関する。
以下、(A)成分、(B)成分、その他成分、電池用接着剤組成物及びその製造方法、電池用接着性部材及びその製造方法、並びに、用途について説明する。
【0013】
1.(A)成分
(A)成分は、酸性基及び/又は酸無水物基を有し、且つ、酸変性度が0.001~0.10mol%である酸変性ポリオレフィンであって、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーで変性されたポリオレフィンのことをいう。
【0014】
酸性基の具体例としては、カルボン酸基、スルホン酸基及びリン酸基等が挙げられ、これらの中でも、変性が容易である点で、カルボン酸基が好ましい。
【0015】
酸無水物基の具体例としては、カルボン酸無水物基、スルホン酸無水物基及びリン酸無水物基等が挙げられ、これらの中でも、原料の入手が容易であり、変性が容易である点で、カルボン酸無水物基が好ましい。
【0016】
変性の方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物又は脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーをポリオレフィンと溶融混練してグラフト変性させる方法、並びに酸性基含有モノマー及び/又は酸無水物基含有モノマーとオレフィン類との共重合等が挙げられる。
【0017】
1-1.酸性基含有モノマー
(A)成分の原料となる酸性基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合及びカルボン酸基等とを、同一分子内に持つ化合物であり、各種の不飽和モノカルボン酸化合物及び不飽和ジカルボン酸化合物等が挙げられる。
【0018】
不飽和モノカルボン酸化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸化合物が挙げられる。
【0019】
不飽和ジカルボン酸化合物の具体例としては、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸及びエンディック酸等が挙げられる。
【0020】
酸性基含有モノマーとしては、変性が容易である点で、不飽和ジカルボン酸化合物が好ましく、マレイン酸が特に好ましい。
【0021】
これらの酸性基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0022】
変性に用いた酸性基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、減圧留去等の公知の方法により、未反応の酸性基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0023】
1-2.酸無水物基含有モノマー
(A)成分の原料となる酸無水物基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合及びカルボン酸無水物基等を、同一分子内に持つ化合物であり、前記不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物及び前記不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物等が挙げられる。
【0024】
不飽和モノカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、アクリル酸無水物、メタクリル酸無水物、クロトン酸無水物及びイソクロトン酸無水物等が挙げられる。
【0025】
不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物の具体例としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物、シトラコン酸無水物、ナジック酸無水物及びエンディック酸無水物等が挙げられる。
【0026】
酸無水物基含有モノマーとしては、変性が容易である点で、不飽和ジカルボン酸化合物の酸無水物が好ましく、マレイン酸無水物が特に好ましい。
【0027】
これらの酸無水物基含有モノマーは、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0028】
変性に用いた酸無水物基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、公知の方法により、未反応の酸無水物基含有モノマーを除去したものを、(A)成分として用いることが好ましい。
【0029】
1-3.ポリオレフィン
(A)成分の原料となるポリオレフィンは、酸性基及び酸無水物基を有しないポリオレフィン(以下、「(a1)成分」という)である。
【0030】
(a1)成分の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレンとエチレンのランダム共重合体、プロピレンとエチレンのブロック共重合体、エチレンとα-オレフィンのランダム共重合体、エチレンとα-オレフィンのブロック共重合体、プロピレンとα-オレフィンのランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンのブロック共重合体等が挙げられる。前記α-オレフィンとしては、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン及び1-オクテン等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、ポリプロピレン、プロピレン-エチレンのブロック共重合体、プロピレン-エチレンのランダム共重合体、プロピレンとα-オレフィンのランダム共重合体及びプロピレンとα-オレフィンのブロック共重合体等のポリプロピレン系重合体が好ましい。さらに、ポリオレフィンにおけるプロピレン単位が50質量%以上であることが特に好ましい。
【0032】
これらの(a1)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0033】
(A)成分の酸変性度としては、0.001mol%以上であれば、金属基材に対する接着力を向上でき、0.005mol%以上が好ましく、0.01mol%以上がより好ましい。また、0.10mol%以下であれば、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、0.07mol%以下が好ましく、0.05mol%以下がより好ましい。
【0034】
(A)成分の酸変性度は、ポリオレフィンを構成する繰返し単位のモル数に対する、ポリオレフィンにグラフト(又は共重合)した、酸性基及び/又は酸無水物基含有モノマーのモル数の割合を意味し、後記する測定により得られる酸価から次式で定義される。
酸変性度(mol%)=
酸価×(Mm+1.008)×100/(1000×56.1×V-酸価×Mp)
Mm=酸無水物基含有モノマーの分子量
Mp=ポリオレフィンの繰返し単位の分子量
V=酸無水物基含有モノマーを加水分解した時の酸性基の価数
◆酸価の測定方法
酸価は、試料1g中に含まれる酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数を示し、JIS K 0070:1992に準じて測定される。
具体的には、共栓付三角フラスコに測定する試料0.2gを精秤し、キシレン20mLを加え、加温しながら溶解させて試料溶液を得る。次いで、この試料溶液に、指示薬として1w/v%のフェノールフタレインエタノール溶液を数滴加え、滴定液として0.1mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液を用いて、10秒間持続する淡紅色を呈するまで滴定を行い、次式に従って酸価を算出する。
酸価(mgKOH/g)=(T×F×56.11×0.1)/W
ここで、上記計算式において、Tは滴定量(mL)、Fは滴定液のファクター、Wは試料採取量(g)をそれぞれ表す。
【0035】
(A)成分としては、未変性の(a1)成分を酸性基及び/又は酸無水物基含有モノマーで変性した結果得られる、酸性基及び/又は酸無水物基を有する酸変性ポリオレフィン、並びに未変性の(a1)成分を含むポリオレフィンの混合物であっても良い。また、酸性基及び/又は酸無水物基を有し、且つ、酸変性度が0.001~10.0mol%である酸変性ポリオレフィンと(a1)成分とを混合して、酸変性度を0.001~0.10mol%に調整したポリオレフィン混合物であっても良い。
【0036】
(A)成分のポリオレフィンにおけるプロピレン単位は、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0037】
(A)成分の融点としては、100~200℃が好ましく、より好ましくは120~180℃である。高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、100℃以上が好ましく、加工性を向上できる点で、200℃以下が好ましい。
【0038】
(A)成分のメルトフローレート(以下、「MFR」という)としては、当業者であれば、(a1)成分のMFR及び分子量等に基づき、適宜設定することができ、230℃、1.96MPaの測定条件において、0.1~30g/10minが好ましく、より好ましくは0.1~20g/10minである。加工性を向上できる点で、0.1g/10min以上が好ましく、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、30g/10min以下が好ましい。
【0039】
本開示の電池用接着剤組成物としては、(A)成分は、1種のみを使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0040】
(A)成分の含有量としては、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れるという点で、電池用接着剤組成物の100質量%に対して、70~98質量%であることが好ましく、より好ましくは80~98質量%である。
【0041】
2.(B)成分
(B)成分は、アルコキシシリル基含有化合物である。当該アルコキシシリル基が湿気硬化し、架橋することで、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れるものとなる。
【0042】
(B)成分としては、アルコキシシリル基含有ポリオレフィン(以下、(b1)成分という。)、アルコキシシリル基含有ビニル重合体(以下、(b2)成分という。)及びシランカップリング剤(以下、(b3)成分という。)からなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
(B)成分の含有割合は、(A)成分100質量部に対して2~35質量部であれば、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れ、5~35質量部が好ましく、10~35質量部がさらに好ましく、20~35質量部が特に好ましい。
以下、(b1)成分、(b2)成分及び(b3)成分について、説明する。
【0043】
2-1.(b1)成分
(b1)成分は、アルコキシシリル基含有ポリオレフィンである。
(b1)成分としては、アルコキシシリル基含有ポリエチレン、アルコキシシリル基含有ポリプロピレン及びアルコキシシリル基含有ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる点で、アルコキシシリル基含有ポリエチレン及びアルコキシシリル基含有ポリプロピレンが好ましい。アルコキシシリル基含有ポリエチレンとしては、アルコキシシリル基含有低密度ポリエチレンがより好ましい。
【0044】
(b1)成分の製造方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物又は脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で不飽和シラン化合物を上記(a1)成分にグラフト変性させる方法等が挙げられる。
【0045】
前記不飽和シラン化合物としては、ビニルシラン化合物が好ましい。ビニルシラン化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン及びビニルトリカルボキシシラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
上記(a1)成分にグラフト変性させる不飽和シラン化合物の量としては、(a1)成分100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、特に0.3~7質量部であることが好ましく、さらには0.5~5質量部であることが好ましい。グラフト変性させる不飽和シラン化合物の量が上記の範囲にあることで、得られるアルコキシシリル基含有ポリオレフィンは、高温における耐酸性及び耐溶剤性が高いものとなる。
【0047】
(b1)成分のMFRとしては、230℃、1.96MPaの測定条件において、0.1~2,000g/10minが好ましく、より好ましくは0.1~1,000g/10minである。加工性を向上できる点で、0.1g/10min以上が好ましく、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、2,000g/10min以下が好ましい。
【0048】
アルコキシシリル基含有ポリオレフィンの市販品としては、三菱ケミカル(株)製のリンクロンPK500N、リンクロンHF800N、リンクロンSL800N及びリンクロンXVF600N等が挙げられる。
【0049】
2-2.(b2)成分
(b2)成分は、アルコキシシリル基含有ビニル重合体である。
(b2)成分としては、ビニルアルコキシシラン及びアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレート等のアルコキシシリル基含有ビニル単量体を重合して得られ、アルコキシシリル基含有ビニル単量体以外のビニル単量体と共重合したものが好ましい。
【0050】
ビニルアルコキシシラン類の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
アルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0051】
(b2)成分の製造方法としては、ビニル重合体の製造が容易、かつ余計な不純物を含まない点で特に制限は無く、前記アルコキシシリル基含有ビニル単量体を使用して、溶液重合、高温連続重合等により製造されたものを用いることが好ましい。
【0052】
溶液重合を適用する場合には、通常、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の有機過酸化物;過酢酸、過コハク酸;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物等の重合開始剤が好ましく用いられる。この重合開始剤の含有量は、ビニル単量体全量を100質量部とした場合、好ましくは0.01~10質量部である。
【0053】
重合溶媒は、生成する共重合体を溶解可能なものであれば、特に限定されず、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、メチルプロピレングリコールアセテート、カルビトールアセテート、メチルプロピレングリコールアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の酢酸エステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。重合溶媒の含有量は、得られる共重合体の固形分が10~90質量%となる量であることが好ましい。
【0054】
溶液重合により(b2)成分を製造する場合、ビニル単量体の使用方法は、特に限定されないが、好ましくは、予め、一部のビニル単量体を反応系に収容して重合を開始し、重合反応の進行とともに残りのビニル単量体を連続添加又は分割添加しながらさらに重合を行う方法である。この方法によると、多分散度の小さな(b2)成分を製造することができる。尚、重合温度は、ビニル単量体の種類、重合開始剤の種類及びその分解温度又は半減期、重合溶媒の沸点等により選択されるが、50℃~120℃が好ましい。
【0055】
また、高温連続重合により(b2)成分を製造する場合、特開昭57-502171号公報、特開昭59-6207号公報、特開昭60-215007号公報等に開示された方法を適用することができる。この方法の一例としては、加圧可能な反応器を溶媒で満たし、加圧下で所定温度に設定した後、ビニル単量体のみ、又は、ビニル単量体及び重合溶媒の混合物からなる原料成分を一定の供給速度で反応器へ供給し、該原料成分の供給量に見合う量の反応液を抜き出す方法が挙げられる。
【0056】
前記原料成分が、ビニル単量体及び重合溶媒の混合物である場合、反応開始時に、予め、反応器に収容された溶媒と、前記重合溶媒は同一であっても、異なっていても良い。これら溶媒及び重合溶媒は、前記溶液重合において用いられる有機溶媒として例示した化合物であって良いし、そのほか、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のアルコールを使用又は併用することができる。尚、前記原料成分における重合溶媒の含有割合は、ビニル単量体全量100質量部に対して、好ましくは200質量部以下である。
【0057】
尚、前記原料成分は、重合開始剤を含有して良いし、含有されなくても良い。前記原料成分に、重合開始剤を含有させる場合、その含有量は、ビニル単量体全量100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部である。
【0058】
前記高温連続重合における重合温度は、好ましくは150℃~350℃である。この重合温度が150℃未満であると、得られる共重合体の分子量が大きくなりすぎる場合、反応速度が遅くなってしまう場合等がある。一方、350℃を超えると、生成した重合体の分解反応が発生して重合溶液が着色することがある。
反応系の圧力は、重合温度と、使用するビニル単量体及び重合溶媒の各沸点に依存するものであり、重合反応に影響を及ぼさないが、前記重合温度を維持できる圧力であれば良い。反応系におけるビニル単量体の滞留時間は、好ましくは2~60分である。この滞留時間が短すぎると、未反応のビニル単量体が残留する場合がある。一方、長すぎると、生産性が低下することがある。
【0059】
前記高温連続重合によれば、重量平均分子量が1,000~30,000の範囲にあり、比較的低粘度の共重合体を得ることができる。また、溶液重合に比べて、多分散度の低い共重合体を得ることができる。さらに、この重合方法は、熱重合開始剤を用いる必要がないか、又は、熱重合開始剤を用いる場合でも少量の使用で目的の分子量の共重合体が得られるため、熱又は光によりラジカル種を発生するような不純物をほとんど含有しない純度の高い共重合体を得ることができる。
【0060】
アルコキシシリル基含有ビニル重合体の市販品としては、東亞合成(株)製のアルフオン(登録商標)US-6100及びアルフオン(登録商標)US-6170等が挙げられる。
【0061】
2-3.(b3)成分
(b3)成分は、1分子中に1個以上のアルコキシシリル基を有する化合物である。
(b3)成分としては、アルキルアルコキシシラン類、アミノアルコキシシラン類、エポキシアルコキシシラン類、ビニルアルコキシシラン類及びアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
アルキルアルコキシシラン類の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン及びn-プロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
アミノアルコキシシラン類の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン及びN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
エポキシアルコキシシラン類の具体例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
ビニルアルコキシシラン類の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
アルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。好ましい。
【0063】
(b1)~(b3)成分の中でも、(A)成分との相溶性が高い点で、(b1)成分が好ましい。また、比較的少ない添加量で高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる点で、(b2)成分及び(b3)成分が好ましく、好ましい(b3)成分の例としては、アミノアルコキシシラン類及びエポキシアルコキシシラン類が挙げられる。
【0064】
3.その他成分
本開示の電池用接着剤組成物は、(A)成分及び(B)成分を含有するものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。
【0065】
その他成分としては、具体的には、硬化触媒、スチレン系熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、分散剤、密着性付与剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、滑剤及び充填剤等が挙げられる。
【0066】
以下、これらの成分について説明する。
尚、後記するその他成分は、例示した化合物の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0067】
3-1.硬化触媒
硬化触媒は、電池用接着剤組成物の湿気硬化性を向上する目的で配合することができる。
硬化触媒としては、スズ化合物類、チタン酸エステル類、有機アルミニウム化合物類、キレート化合物類及びアミン系化合物等が挙げられる。
【0068】
スズ化合物類の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセトアセトナート、ジブチル錫ジエチルヘキサノレート、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジメチルマレート、ジブチル錫ジエチルマレート、ジブチル錫ジブチルマレート、ジブチル錫ジイソオクチルマレート、ジブチル錫ジトリデシルマレート、ジブチル錫ジベンジルマレート、ジブチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジエチルマレート、ジオクチル錫ジイソオクチルマレート等が挙げられる。
チタン酸エステル類の具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等が挙げられる。
有機アルミニウム化合物類の具体例としては、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等が挙げられる。
キレート化合物類の具体例としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等が挙げられる。
アミン系化合物の具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
これらの中でも、触媒効果が高い点で、有機スズ化合物、及びDBU等の強塩基性アミ
ン系化合物が好ましい。
【0069】
硬化触媒の含有割合は、(A)成分及び(B)成分を含む全固形分100質量部に対して0.01~20質量部が好ましい。硬化触媒の割合を0.01質量部以上にすることで触媒効果が充分に得られ易く、硬化触媒の割合を20質量部以下とすることで電池用接着剤組成物の貯蔵安定性を確保できる。
【0070】
3-2.スチレン系熱可塑性エラストマー
スチレン系熱可塑性エラストマーは、接着力を向上する目的で配合することができる。
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン共重合体、エポキシ変性スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEPS」という)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SEBS」という)、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系樹脂等が挙げられ、酸性基及び酸無水物基を有しないものであっても良いし、アミノ基を有するものであっても良い。
【0071】
酸性基及び/又は酸無水物基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、有機過酸化物又は脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、前記酸性基及び/又は酸無水物基含有モノマーを前記スチレン系樹脂と溶融混練してグラフト変性させる方法等が挙げられる。
【0072】
アミノ基を導入するための変性方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、リビングアニオン重合により得た前記スチレン系樹脂のリビング末端にアミノ基含有化合物を付加させる等の末端変性や、並びに有機過酸化物又は脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、2-(1-シクロヘキセニル)エチルアミン等の不飽和結合を持つアミン化合物を前記スチレン系樹脂と溶融混練してグラフト変性させる方法等が挙げられる。
【0073】
これらの中でも、高温における耐酸性及び耐溶剤性と加工性を両立できる点で、SEPS及びSEBSが好ましい。
【0074】
スチレン系熱可塑性エラストマーの酸価としては、安定した品質を保つことができる点で、80mgKOH/g以下が好ましい。さらに、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、50mgKOH/g以下がより好ましく、20mgKOH/g以下が特に好ましく、0.0mgKOH/gであっても良い。
【0075】
スチレン系熱可塑性エラストマーのMFRとしては、230℃、1.96MPaの測定条件において、1~100g/10minが好ましく、より好ましくは1~90g/10minである。加工性を向上できる点で、1g/10min以上が好ましく、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、100g/10min以下が好ましい。
【0076】
スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量としては、(A)成分及びスチレン系熱可塑性エラストマーの合計量を基準として、(A)成分:80~99質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー:1~20質量%を含むことが好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量としては、加工性に優れる点で、1質量%以上であることが好ましく、高温における耐酸性及び耐溶剤性を向上できる点で、20質量%以下であることが好ましい。
【0077】
3-3.粘着付与剤
粘着付与剤は、接着力を向上する目的で配合することができる。
【0078】
粘着付与剤としては、公知のものを使用することができ、ポリテルペン系樹脂、ロジン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、共重合系石油樹脂及び水添石油樹脂等が挙げられる。
【0079】
ポリテルペン系樹脂の具体例としては、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、及びこれらとフェノール又はビスフェノールA等との共重合体等が挙げられる。
【0080】
ロジン系樹脂の具体例としては、天然ロジン、重合ロジン及びこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0081】
脂肪族系石油樹脂の具体例としては、C5系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC5留分より合成される樹脂である。脂環族系石油樹脂は、C9系樹脂ともいわれ、一般に、石油のC9留分より合成される樹脂である。
【0082】
共重合石油樹脂の具体例としては、C5/C9共重合樹脂等である。
【0083】
水添石油樹脂は、一般に、上記の各種石油樹脂の水素添加により製造されたものである。
【0084】
粘着付与剤の含有量としては、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れるという点で、電池用接着剤組成物の100質量%に、1~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1~10質量%である。
【0085】
4.電池用接着剤組成物
本開示の電池用接着剤組成物は、前記した通り、(A)成分100質量部に対して、(B)成分を2~35質量部を含むものである。
本開示の電池用接着剤組成物のMFRとしては、当業者であれば、(A)成分のMFR及び分子量等、並びに(B)成分の分子量及び極性等に基づき、適宜設定することができ、230℃、1.96MPaの測定条件において、1.0~20g/10minが好ましく、より好ましくは5~20g/10minである。加工性を向上できる点で、1g/10min以上が好ましく、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる点で、20g/10min以下が好ましい。
【0086】
5.電池用接着剤組成物の製造方法
本発明の第2の態様(本開示の電池用接着剤組成物の製造方法)は、電池用接着剤組成物の製造方法である。本開示の電池用接着剤組成物の製造方法には、公知の方法を適用できる。
具体的には、本開示の電池用接着剤組成物は、(A)成分、(B)成分、並びに必要に応じてその他の成分をヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー又はリボンブレンダー等を用いて混合することによって混合物を得る工程(混合工程)、並びに、該混合物を短軸押出機、多軸押出機、ロール又はニーダー等を用いて180~300℃、好ましくは190~260℃で溶融混練する工程(溶融混練工程)を経ることによって、ペレット状の形態として得ることができる。
【0087】
6.電池用接着性部材
本発明の第3の態様(本開示の電池用接着性部材)である電池用接着性部材は、上記電池用接着剤組成物が硬化してなる接着性樹脂層を備え、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる点で、当該接着性樹脂層の100%モジュラスが10~20MPa、300%モジュラスが11~30MPa及び破断伸びが300~700%であることが好ましい。
電池用接着性部材の形状としては、用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、フィルム状、シート状、板状、アングル状、棒状等が挙げられる。
【0088】
7.電池用接着性部材の製造方法
本発明の第4の態様(本開示の電池用接着性部材の製造方法)は、電池用接着性部材の製造方法である。本開示の電池用接着性部材は、フィルム成形機を用いて、上記電池用接着剤組成物を、平板状に成形した後、又は平板状に成形しながら、硬化させることにより、上記電池用接着剤組成物が硬化してなる接着性樹脂層を備えた、電池用接着性部材として製造することができる。
また、T-ダイ方式、インフレ方式、カレンダー方式又はスクリュー式押出し機を用いて、50℃~200℃の温度で溶融混練し、押出成形により、基材である金属基材、ガラス基材又は熱可塑性樹脂基材の片面又は両面に電池用接着剤組成物からなる接着性樹脂層が積層された電池用接着性部材(以下、「金属基材を有する電池用接着性部材」、「ガラス基材を有する電池用接着性部材」又は「熱可塑性樹脂基材を有する電池用接着性部材」という。)として製造することもできる。
上記電池用接着性部材の製造に際し、生産性の点から、上記電池用接着剤組成物をペレット状としたものを使用することが好ましい。
【0089】
上記金属基材としては、鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム及びその他金属等、並びにそれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、耐酸性に優れる点で、チタン又はチタン合金が好ましい。
金属基材の厚さとしては、その材質又は用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0090】
上記ガラス基材としては、アルカリガラス、無アルカリガラス及び石英ガラス等が挙げられる。
ガラス基材の厚さとしては、その材質又は用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0091】
上記熱可塑性樹脂基材としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びポリ塩化ビニル系樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂基材の厚さとしては、その材質又は用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0092】
前記金属基材を有する電池用接着性部材を用いて、当該金属基材、ガラス基材又は熱可塑性樹脂基材と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、接着することが可能である。
【0093】
また、前記熱可塑性樹脂基材を有する電池用接着性部材を用いて、金属基材と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、接着することが可能である。
【0094】
前記接着性樹脂層の厚さは、金属基材の材質又は用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、10~200μmが好ましく、20~200μmがより好ましい。
【0095】
8.用途
本開示の電池用接着剤組成物及びそれを用いた電池用接着性部材は、電気分野、自動車分野、産業分野及びその他分野の様々な工業用製品分野における電池用として使用することができる。
【0096】
前記電池としては、化学電池及び物理電池が挙げられる。化学電池としては、リチウムイオン電池及び燃料電池等が挙げられ、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット及び自動車等に適用され得る。物理電池としては、太陽電池及びキャパシタ(コンデンサ)等が挙げられる。
これらの中でも、本発明が奏する効果が大きい点で、リチウムイオン電池及び燃料電池への適用が好ましく、燃料電池への適用が特に好ましい。
【実施例
【0097】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0098】
1.実施例1~10、比較例1~5
1)電池用接着剤組成物の調製
下記表1に示す化合物を表1に示す質量部で事前に混合した後、L/D=42、φ=58mmの二軸押出機のホッパーから投入して組成物を溶融混合した。この時のバレル温度は170℃として、脱気を行い、ストランド状に吐出した。吐出した樹脂を水槽に通して冷却し、ペレタイザーによりペレット状に加工して、40℃恒温槽内で乾燥して、ペレット状の電池用接着剤組成物を調製した。
得られた電池用接着剤組成物を使用し、後記する方法に従い、MFRを測定した。それらの結果を表1に示す。
【0099】
◆MFRの測定方法
JIS K7210(1999)に準拠して、以下の条件で測定した。それらの結果を
表1に示す。
・装置:フローテスター CFT-500((株)島津製作所製)
・ダイス:Φ1mm×10mm
・荷重:1.96MPa
・シリンダー面積:1cm
・シリンダー温度:230℃
【0100】
尚、表1における数字は質量部を意味する。
又、表1における略号は下記を意味する。
【0101】
◆ポリオレフィン
・P553A:酸変性ポリプロピレン(酸変性度:0.015mol%、MFR:1.9g/10min、融点:148℃)、三菱ケミカル(株)製モディックP553A
・QF551:酸変性ポリプロピレン(酸変性度:0.15mol%、MFR:5.7g/10min、融点:135℃)、三井化学(株)製アドマーQF551
・S400:ポリプロピレン(酸変性度:0mol%、MFR:2,000g/10min、融点:80℃)、出光興産(株)製エルモーデュS400
【0102】
◆アルコキシシリル基含有ポリオレフィン
・PK500N:アルコキシシリル基含有ポリプロピレン(MFR:11g/10min)、三菱ケミカル(株)製リンクロンPK500N
・HF800N:アルコキシシリル基含有ポリエチレン(MFR:1g/10min)、三菱ケミカル(株)製リンクロンHF800N
・SL800N:アルコキシシリル基含有低密度ポリエチレン(MFR:4g/10min)、三菱ケミカル(株)製リンクロンSL800N
【0103】
◆アルコキシシリル基含有ビニル重合体
・US6100:アルコキシシリル基含有ビニル重合体(重量平均分子量2,500)、東亞合成(株)製アルフオン(登録商標)US-6100
・US6170:アルコキシシリル基含有ビニル重合体(重量平均分子量3,000)、東亞合成(株)製アルフオン(登録商標)US-6170
【0104】
◆シランカップリング剤
・A1100:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製SILQUEST A-1100 SILANE
・Z6043:2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング(株)製DOW KORNING Z6043 SILANE
【0105】
◆硬化触媒
・DBTDL:ジブチルスズジラウレート、(株)ADEKA製、アデカスタブBT-11
・DBU:ジアザビシクロウンデセン
【0106】
2)電池用接着性部材の製造
フィルム成形機を用いて、前記1.1)で得られたペレット状の組成物を、厚さ50μmの平板状に成形した後、80℃、90%RH環境下で24時間静置し、その後25℃、50%RH環境下で24時間静置することにより架橋して、電池用接着性部材を製造した。
【0107】
3)電池用接着性部材の物性測定
◆引張特性の測定方法
1.2)で得られた電池用接着性部材について、ダンベル状3号形を用いて試験片を作製し、JIS K6251(2010)に準拠して、100%、300%モジュラス及び破断伸びを引張速度100mm/minで測定した。それらの結果を表1に示す。
【0108】
4)電池用接着性部材の評価
1.2)で得られた電池用接着性部材をチタン箔(幅10mm、長さ50mm、厚さ100μm)2枚で挟み、熱プレス機を用いて、チタン箔の両側から加圧して圧着させた。
このときの接着条件は、温度160℃、圧力1MPa、圧着時間10秒とした。その後、この一体化物を25℃、3日間養生することより、試験片を作製した。
【0109】
◆高温における耐酸性
硫酸水溶液(pH2、フッ化ナトリウム100ppm添加)に、前記試験片を95℃、200時間浸漬浸漬した後、剥離強度(測定温度25℃)をT剥離試験(引張速度100mm/min)で測定した。それらの結果を表1に示す。なお、2N/mm以上が実用レベルである。
【0110】
◆高温における耐溶剤性
エチレングリコール/水(50/50質量%)からなる溶液に、前記試験片を95℃、200時間浸漬浸漬した後、剥離強度(測定温度25℃)をT剥離試験(引張速度100mm/min)で測定した。それらの結果を表1に示す。なお、2N/mm以上が実用レベルである。
【0111】
【表1】
【0112】
5)評価結果
実施例1~10の結果から明らかなように、本開示の電池用接着剤組成物は、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れるものであった。
これに対して、比較例1~5の電池用接着剤組成物は、高温における耐酸性及び耐溶剤性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、電池用途に用いられる金属基材の接着において、高温における耐酸性及び耐溶剤性に優れる電池用接着剤組成物に関し、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット及び自動車等に組み込まれるリチウムイオン電池、並びに燃料電池等の化学電池、並びに、太陽電池及びキャパシタ(コンデンサ)等の物理電池に適用できる。これらの中でも、リチウムイオン電池及び燃料電池への適用が好ましく、燃料電池への適用が特に好ましい。