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特許7310683産業車両および産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】産業車両および産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/10 20060101AFI20230711BHJP
   F16D 51/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F16D65/10
F16D51/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020061865
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162046
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝政
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-519744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0289824(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0027429(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0092560(US,A1)
【文献】特開2000-337411(JP,A)
【文献】実開昭63-040638(JP,U)
【文献】米国特許第05957249(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 51/18
F16D 65/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の前部に設けられるフロントアクスルと、
前記フロントアクスルに備えられるドラムブレーキ装置と、を備える産業車両において、
前記車体は、
リーマボルトを挿入するリーマボルト通孔を有し、
前記フロントアクスルは、前記リーマボルトを挿通するボルト通孔を有し、
前記ドラムブレーキ装置は、
前記車体の車輪の回転に伴って回転可能なブレーキドラムと、
前記ブレーキドラムの内周面に対向するブレーキシューと、
前記ブレーキシューを前記ブレーキドラムに押圧するシリンダ機構と、を備え
前記ブレーキドラムは、
円環状のドラムプレート部と、
前記ドラムプレート部の外縁に接続されるドラム円筒部と、
前記ドラム円筒部の周方向にわたって設けられ、前記ブレーキドラムの径方向の外側へ向けて延在するフランジ部と、
前記フランジ部に設けられ、前記径方向の中心側へ向けて切り欠かれた切り欠きと、を備え、
前記フランジ部は、前記切り欠きを形成する円弧面を有し、
複数の前記切り欠きが前記周方向において等間隔となるように配置され、
前記切り欠きの前記径方向の深さは、前記切り欠きが前記リーマボルト通孔の位置に合うとき、前記円弧面が前記リーマボルト通孔に挿通される前記リーマボルトと離間するように、前記フランジ部の前記径方向の長さよりも小さいことを特徴とする産業車両。
【請求項2】
前記切り欠きの前記径方向の深さは、前記フランジ部の前記径方向の長さの半分よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の産業車両。
【請求項3】
産業車両の車体の前部に設けられるフロントアクスルと、
前記フロントアクスルに備えられるドラムブレーキ装置と、を備え、
前記フロントアクスルを複数のボルトの締結により前記車体へ取り付ける産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法において、
前記ドラムブレーキ装置は、
前記車体の車輪の回転に伴って回転可能なブレーキドラムと、
前記ブレーキドラムの内周面に対向するブレーキシューと、
前記ブレーキシューを前記ブレーキドラムに押圧するシリンダ機構と、を備え、
前記ブレーキドラムは、
円環状のドラムプレート部と、
前記ドラムプレート部の外縁に接続されるドラム円筒部と、
前記ドラム円筒部の周方向にわたって設けられ、前記ブレーキドラムの径方向の外側へ向けて延在するフランジ部と、
前記フランジ部に設けられ、前記径方向の中心側へ向けて切り欠かれた切り欠きと、を備え、
前記切り欠きの前記径方向の深さは、前記フランジ部の前記径方向の長さよりも小さく、
前記車体は、
リーマボルトを挿入するリーマボルト通孔を有し、
前記フロントアクスルは、前記リーマボルトを挿通するボルト通孔を有し、
前記リーマボルト通孔と前記フロントアクスルが有する前記ボルト通孔との位置を合わせ、
前記切り欠きを前記リーマボルト通孔の位置に合うように前記ブレーキドラムを回転させて位置を調整し、
工具を用いた前記リーマボルトの打ち込みにより、前記リーマボルトを前記リーマボルト通孔と前記フロントアクスルが有する前記ボルト通孔とに挿入し、
前記リーマボルトの打ち込み時に前記工具が前記切り欠きに挿入されることを特徴とする産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両および産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のドラムブレーキ装置は、通常、車軸と一体となって回転する円筒状のブレーキドラムと、このブレーキドラムの内周面に配置された一対のブレーキシューを備えている。この種のドラムブレーキ装置では、一対のブレーキシューを円筒状のドラムの内周面に押し付けることで制動力が発生する。
【0003】
従来のドラムブレーキ装置として、ブレーキの鳴き対策を講じたものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。このドラムブレーキ装置では、ブレーキドラムのドラム取付部とドラム外筒部のうち、ドラム外筒部の剛性を変更することにより、半径方向振動周波数固有値と摺動方向振動周波数固有値との離間周波数を大きく設定している。具体的には、ブレーキドラムのドラム外筒部のシューセンター部肉厚を全周にわたって増し、ドラム外筒部の剛性を変更するものである。これにより、ドラムとシューとの摩擦係数によって連成することを原因とするブレーキ鳴きが有効に抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-337411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、フォークリフトといった産業車両ではドラムブレーキはフロントアクスルに備えられる場合がある。このフロントアクスルは車体に取り付けられるが、フロントアクスルを車体に取り付けるとき、作業者はフロントアクスルと車体にリーマボルトを打ち込み、車体に対するフロントアクスルの位置決めし、その後にボルト締結により、フロントアクスルが固定される。リーマボルトはブレーキドラムの半径方向の外側に位置する。このため、特許文献1のようにブレーキドラムの外周部の肉厚が厚いと、リーマボルトの打ち込みに用いる打ち込み工具がブレーキドラムと干渉し、フロントアクスルの車体への取付作業を妨げるおそれがある。
【0006】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、制動時におけるブレーキの鳴きを抑制するとともにアクスルの車体への取付作業を円滑に行うことが可能な産業車両および産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、車体と、前記車体の前部に設けられるフロントアクスルと、前記フロントアクスルに備えられるドラムブレーキ装置と、を備える産業車両において、前記車体は、リーマボルトを挿入するリーマボルト通孔を有し、前記フロントアクスルは、前記リーマボルトを挿通するボルト通孔を有し、前記ドラムブレーキ装置は、前記車体の車輪の回転に伴って回転可能なブレーキドラムと、前記ブレーキドラムの内周面に対向するブレーキシューと、前記ブレーキシューを前記ブレーキドラムに押圧するシリンダ機構と、を備え前記ブレーキドラムは、円環状のドラムプレート部と、前記ドラムプレート部の外縁に接続されるドラム円筒部と、前記ドラム円筒部の周方向にわたって設けられ、前記ブレーキドラムの径方向の外側へ向けて延在するフランジ部と、前記フランジ部に設けられ、前記径方向の中心側へ向けて切り欠かれた切り欠きと、を備え、前記フランジ部は、前記切り欠きを形成する円弧面を有し、複数の前記切り欠きが前記周方向において等間隔となるように配置され、前記切り欠きの前記径方向の深さは、前記切り欠きが前記リーマボルト通孔の位置に合うとき、前記円弧面が前記リーマボルト通孔に挿通される前記リーマボルトと離間するように、前記フランジ部の前記径方向の長さよりも小さいことを特徴とする。
【0008】
本発明では、フランジ部がドラム円筒部の周方向にわたって設けられているので、ブレーキドラムのドラム円筒部の剛性を高め、制動時におけるブレーキの鳴きを抑制することができる。また、フランジ部に切り欠きが設けられているが、切り欠きの径方向の深さは、フランジ部の径方向の長さより小さいため、制動時におけるドラム円筒部の変形は抑制される。ドラムブレーキ装置はアクスルに備えられるが、アクスルの車体に対する位置決め部材や位置決め部材のための工具を用いるとき、フランジ部に切り欠きが設けられることにより車体に対するアクスルの位置決めをし易くすることができる。
【0009】
また、フランジ部の円弧面によって切り欠きを形成するので、制動時においてフランジ部が変形し難く、フランジ部に切り欠きが設けられてもドラム円筒部の剛性は低下し難い。
また、複数の切り欠きがドラム円筒部の周方向において等間隔となるように配置されているので、ドラム円筒部の剛性のバランスを保ち易くなり、制動時においてドラム円筒部の偏った変形を抑制することができる。また、複数の切り欠きがドラム円筒部に設けられているので、例えば、アクスルの車体に対する位置決め部材や位置決め部材のための工具の位置と切り欠きとの位置合わせのとき、ブレーキドラムの回転量を抑制でき、作業者の負担を軽減できる。
【0010】
また、上記の産業車両において、切り欠きの前記径方向の深さは、前記フランジ部の前記径方向の長さの半分よりも小さい構成としてもよい。
この場合、切り欠きがフランジ部に設けられても、フランジ部はドラム円筒部の周方向にわたって径方向の長さの半分以上が形成されている。その結果、フランジ部に切り欠きが設けられてもドラム円筒部はより変形し難い。
【0011】
また、本発明は、産業車両の車体の前部に設けられるフロントアクスルと、前記フロントアクスルに備えられるドラムブレーキ装置と、を備え、前記フロントアクスルを複数のボルトの締結により前記車体へ取り付ける産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法において、前記ドラムブレーキ装置は、前記車体の車輪の回転に伴って回転可能なブレーキドラムと、前記ブレーキドラムの内周面に対向するブレーキシューと、前記ブレーキシューを前記ブレーキドラムに押圧するシリンダ機構と、を備え、前記ブレーキドラムは、円環状のドラムプレート部と、前記ドラムプレート部の外縁に接続されるドラム円筒部と、前記ドラム円筒部の周方向にわたって設けられ、前記ブレーキドラムの径方向の外側へ向けて延在するフランジ部と、前記フランジ部に設けられ、前記径方向の中心側へ向けて切り欠かれた切り欠きと、を備え、前記切り欠きの前記径方向の深さは、前記フランジ部の前記径方向の長さよりも小さく、前記車体は、リーマボルトを挿入するリーマボルト通孔を有し、前記フロントアクスルは、前記リーマボルトを挿通するボルト通孔を有し、前記リーマボルト通孔と前記フロントアクスルが有する前記ボルト通孔との位置を合わせ、前記切り欠きを前記リーマボルト通孔の位置に合うように前記ブレーキドラムを回転させて位置を調整し、工具を用いた前記リーマボルトの打ち込みにより、前記リーマボルトを前記リーマボルト通孔と前記フロントアクスルが有する前記ボルト通孔とに挿入し、前記リーマボルトの打ち込み時に前記工具が前記切り欠きに挿入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、制動時におけるブレーキの鳴きを抑制するとともにアクスルの車体への取付作業を円滑に行うことが可能な産業車両および産業車両のドラムブレーキ装置の取付方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るフォークリフトの側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るフォークリフトのドラムブレーキ装置の正面図である。
図3】(a)はドラムブレーキ装置のブレーキドラムの正面図であり、(b)は(a)のA-A線矢視図であり、(c)は(b)のB-B線矢視図である。
図4】(a)は別例1に係るブレーキドラムの正面図であり、(b)は(a)のC-C線矢視図である。
図5】別例2に係るブレーキドラムの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る産業車両のドラムブレーキ装置について図面を参照して説明する。本実施形態では、産業車両としてのフォークリフトのドラムブレーキ装置を例示して説明する。なお、方向を特定する「前後」、「左右」および「上下」については、フォークリフトのオペレータが運転席の運転シートに着座して、フォークリフトの前進側を向いた状態を基準として示す。
【0017】
図1に示すように、フォークリフト10は、車体11の前部に荷役装置12を備えている。車体11の中央付近には運転席13が設けられている。車体11の前部には前輪としての駆動輪14が設けられ、車体11の後部には後輪としての操舵輪15が設けられている。車体11の後部にはカウンタウエイト16が備えられており、カウンタウエイト16は車両重量の調整と車体11における重量バランスを図るためのものである。本実施形態のフォークリフト10はエンジンフォークリフトである。車体11には、運転席13の上部を覆うヘッドガード17が設けられている。
【0018】
荷役装置12は左右一対のアウタマスト18および左右一対のインナマスト(図示せず)を有するマスト19を備えている。左右一対のアウタマスト18には、アウタマスト18の内側にてスライド可能なインナマストがそれぞれ備えられている。マスト19の下端は、車体11の前部に設けられたフロントアクスル20に回動可能に支持されている。フロントアクスル20には左右一対の駆動輪14が支持されている。
【0019】
フロントアクスル20は、複数のボルト21の締結により車体11に取り付けられている。フロントアクスル20の車体11に対する位置決めは、2本のリーマボルト22により行われる。車体11は、ボルト21を挿通する複数のボルト通孔23と、リーマボルト22を挿通する2個のリーマボルト通孔24を有している(図3(a)を参照)。フロントアクスル20はボルト21およびリーマボルト22を挿通する複数のボルト通孔(図示せず)を有している。
【0020】
フロントアクスル20には左右一対の駆動輪14の制動を行うフォークリフト10のドラムブレーキ装置(以下、単に「ドラムブレーキ装置」と表記する)30がそれぞれ備えられている。図1では左の駆動輪14の制動を行うドラムブレーキ装置30が図示され、右の駆動輪14の制動を行うドラムブレーキ装置30は図示されない。本実施形態のドラムブレーキ装置30は、デュオ・サーボ型ドラムブレーキである。
【0021】
図2に示すドラムブレーキ装置30は、略円筒形のブレーキドラム31と、有孔円板状のバックプレート32と、を有している。ブレーキドラム31は、駆動輪14が備えるタイヤ(図示せず)の回転に伴って回転するように車軸(図示せず)に取り付けられている。ブレーキドラム31は回転中心Pを中心として回転する。ブレーキドラム31の詳細については後述する。一方、バックプレート32は車体11に固定されている。ブレーキドラム31はバックプレート32に対して相対的に回転可能である。
【0022】
図2に示すように、バックプレート32は車軸を挿通するプレート通孔37を有している。バックプレート32には、一対の略三日月形状のブレーキシュー33が設けられている。一対のブレーキシュー33は一対のシューホールドスプリング34によってバックプレート32に支持されている。ブレーキシュー33の外側表面には摩擦部材35が貼り付けられている。なお、ブレーキシュー33はバックプレート32に取り付けられたが、バックプレート32以外の回転しない固定側の部材に接合されてもよい。
【0023】
一対のブレーキシュー33の間にはシリンダ機構としてのホイールシリンダ36が設けられる。ホイールシリンダ36はドラムブレーキ装置30に対して、1つ設けられた構成である。バックプレート32には、ホイールシリンダ36の取付位置に対応する箇所にシリンダ取付孔(図示せず)が形成される。ホイールシリンダ36は、シリンダ取付孔を介してバックプレート32に取り付けられる。ホイールシリンダ36内の内部には、油圧によって変位するピストン(図示せず)が内蔵されている。なお、ホイールシリンダ36はバックプレート32に取り付けられたが、バックプレート32以外の回転しない固定側の部材に接合されてもよく、また、ホイールシリンダがバックプレートと一体形成されている場合には、バックプレートが固定側の部材に接合されてもよい。
【0024】
また、一対のブレーキシュー33の間に設けられるホイールシリンダ36の径方向内側に隣接して、帯形状のアンカー38がバックプレート32に一体的に形成されている。アンカー38と一対のブレーキシュー33との間には一対のリターンスプリング39が架け渡されている。リターンスプリング39は、ブレーキシュー33に対して、ブレーキドラム31から離れる方向に力を加えている。
【0025】
一対のブレーキシュー33において、ホイールシリンダ36が接続されている側とは反対側の端部には、オートアジャスタ40が接続されている。オートアジャスタ40は、ブレーキシュー33の外周面とブレーキドラム31の内周面との隙間を調整する。
【0026】
次に、ブレーキドラム31の詳細について説明する。ブレーキドラム31は、鋳鉄により形成されており、円環状のドラムプレート部41と、ドラムプレート部41の外縁に接続される円筒形のドラム円筒部42と、を有している。ドラムプレート部41の中央には通孔43が形成されている。通孔43には車軸に取り付けられるハブ(図示せず)が挿通される。図3(a)、図3(b)に示すように、ドラムプレート部41には、ハブボルト(図示せず)を挿通するハブボルト通孔44が備えられている。ドラムプレート部41は駆動輪14のホイール(図示せず)とともにハブに固定される。
【0027】
ドラム円筒部42の内側には、ブレーキシュー33、ホイールシリンダ36が収容される。ドラム円筒部42の内周面45は、ブレーキシュー33の摩擦部材35と対向しており、制動時に摩擦部材35が摺接される部位である。図3(a)に示すように、ドラム円筒部42の外周面46には、フランジ部47がドラム円筒部42の周方向にわたって設けられている。フランジ部47は、ドラム円筒部42の外周面46からブレーキドラム31の径方向の外側へ向けて延在する部位であり、ドラム円筒部42の変形を抑制する。
【0028】
本実施形態では、図3(c)に示すように、ドラム円筒部42の径方向の厚さをT(mm)とし、フランジ部47の径方向の長さ(高さ)をH(mm)とし、フランジ部47の軸心方向の長さL(mm)とし、H/T>1.2としているほか、L/T>0.5としている。これは、ドラム円筒部42の制動時の変形を十分に抑制するための条件である。フランジ部47の径方向の長さ(高さ)Hおよび軸心方向の長さLの上限は、駆動輪14の配置による物理的なスペースの制約を受けて決定される。なお、フランジ部47の軸方向における位置も駆動輪14の配置による物理的なスペースの制約を受けて決定される。
【0029】
図3(a)に示すように、フランジ部47の外周縁48には複数(4つ)の切り欠き49が備えられている。切り欠き49は、ブレーキドラム31の径方向の回転中心P側へ向けて切り欠かれることにより形成されている。フランジ部47は切り欠き49を形成する円弧面50を有している。切り欠き49がフランジ部47の円弧面50によって形成されるので、フランジ部47に切り欠き49が設けられてもドラム円筒部42の剛性は低下し難い。
【0030】
切り欠き49は、フロントアクスル20の車体11への取付作業においてリーマボルト22をリーマボルト通孔24へ挿入するときに用いる工具(図示せず)とフランジ部47との干渉を回避するために形成されている。工具は、例えば、ハンマーである。フロントアクスル20の車体11への取付作業では、円弧面50における円弧の中心と、リーマボルト通孔24の中心Qとを一致させるようにブレーキドラム31の回転方向の位置を調整すれば、リーマボルト22の挿入時に工具が切り欠き49に挿入され、工具はフランジ部47と干渉しない。工具がハンマーである場合、ハンマーの打面の半径がリーマボルト通孔24の中心Qから円弧面50までの距離よりも小さければよい。
【0031】
本実施形態では、図3(a)に示すように、切り欠き49の最大深さをD(mm)とし、D/H<0.5としている。つまり、切り欠き49の径方向の最大深さDは、フランジ部47の径方向の長さHより小さい。これ(D/H<0.5)は、切り欠き49をフランジ部47に形成しても、フランジ部47がドラム円筒部42の制動時の変形を十分に抑制する機能を果たすための条件である。円弧面50における円弧の中心と、リーマボルト通孔24の中心Qとを一致させた状態、すなわち、切り欠き49をリーマボルト通孔24の位置に合わせた状態では、リーマボルト22と円弧面50との間は離間する。
【0032】
フランジ部47が備える複数の切り欠き49は、ドラム円筒部42の周方向において等間隔となるように配置されている。フロントアクスル20の車体11への取付作業では、円弧面50における円弧の中心と、リーマボルト通孔24の中心Qとを一致させるようにブレーキドラム31の回転方向の位置を調整するが、位置を調整するためのブレーキドラム31の回転量は抑制される。また、複数の切り欠き49をドラム円筒部42の周方向において等間隔となるように配置することにより、制動時におけるドラム円筒部42の偏った変形が防止される。本実施形態では、4個の切り欠き49は互いに90°の角度となるように配置される。
【0033】
次に、本実施形態に係るドラムブレーキ装置30のフロントアクスル20を車体11に取り付けについて説明する。作業者は、車体11のリーマボルト通孔24と、リーマボルト通孔24に対応するフロントアクスル20のボルト通孔との位置を合わせてリーマボルト22を挿入する。
【0034】
作業者は、リーマボルト22を車体11のリーマボルト通孔24およびフロントアクスル20のボルト通孔に挿入するとき、ハンマーといったリーマボルト22を打ち込むための工具を用いる。作業者は、リーマボルト22を打ち込む前に、切り欠き49をリーマボルト通孔24の位置に合うようにブレーキドラム31を回転させて位置を調整する。リーマボルト通孔24に最も近い切り欠き49をリーマボルト通孔24に合わせると、位置の調整のためのブレーキドラム31の回転量は最小となる。
【0035】
図1図3(a)に示すように、作業者は、切り欠き49が上側のリーマボルト通孔24の位置に合えば、工具を用いてリーマボルト22の打ち込みを開始する。工具を用いてリーマボルト22を打ち込んでも工具は切り欠き49に挿入され、工具はブレーキドラム31と干渉しない。上側のリーマボルト通孔24へのリーマボルト22の打ち込みが終了すれば、作業者は、下側のリーマボルト通孔24に対するリーマボルト22の打ち込みを行う。このときも、リーマボルト通孔24に最も近い切り欠き49を下側のリーマボルト通孔24に合わせ、切り欠き49に工具の挿入が可能な状態として、工具を用いてリーマボルト22を打ち込みする。リーマボルト22の打ち込みにより車体11に対してフロントアクスル20が位置決めされる。
【0036】
リーマボルト22の打ち込みが終了すると、複数のボルト21を車体11における対応するボルト通孔23に挿通し、ボルト21およびナット(図示せず)によってフロントアクスル20を車体11に固定する。なお、リーマボルト22もボルト21と同様にナット(図示せず)によって締結される。
【0037】
次に、本実施形態に係るドラムブレーキ装置30に作用について説明する。図2に示すように、ブレーキドラム31が矢印Yの方向に回転する状態で制動力を場合、ドラムブレーキ装置30を作動させる時は、ホイールシリンダ36の内部に作動油が導入される。ホイールシリンダ36内の油圧の上昇によってピストンは、リターンスプリング39の弾性力に抗して、一対のブレーキシュー33を外側に回動させるように一対のブレーキシュー33を押圧する。
【0038】
ホイールシリンダ36の作動により、ブレーキシュー33の摩擦部材35がドラム円筒部42の内周面45に押し付けられる。この時、ブレーキシュー33はブレーキドラム31の回転とともに矢印Yの方向に動こうとするが、図2において左側に配置されたブレーキシュー33のホイールシリンダ36側の端部がアンカー38に突き当たる。その結果、ブレーキシュー33の矢印Yの方向へ動きは規制される。これにより、ブレーキシュー33の摩擦部材35とドラム円筒部42の内周面45との間には大きな摩擦力が働き、ブレーキドラム31の回転は停止する。
【0039】
ところで、制動時にはブレーキシュー33の摩擦部材35とドラム円筒部42の内周面45との間に大きな摩擦力が働くことから、ドラム円筒部42には周方向に波打つような変形を発生させようとする荷重が作用する。ドラム円筒部42はフランジ部47を有するので、周方向に波打つような変形を発生させようとする荷重に対抗できる剛性を有しており、変形は抑制される。その結果、制動時におけるブレーキの鳴きが抑制される。
【0040】
本実施形態に係るドラムブレーキ装置30は以下の作用効果を奏する。
(1)フランジ部47がドラム円筒部42の周方向にわたって設けられているので、ブレーキドラム31のドラム円筒部42の剛性を高め、制動時におけるブレーキの鳴きを抑制することができる。また、フランジ部47に切り欠き49が設けられているが、切り欠き49の径方向の最大深さDは、フランジ部47の径方向の長さHより小さいため、制動時におけるドラム円筒部42の変形は抑制できる。ドラムブレーキ装置30はフロントアクスル20に備えられるが、フロントアクスル20の車体11に対する位置決め部材としてのリーマボルト22やリーマボルト22挿入のための工具を用いるとき、フランジ部47に切り欠き49が設けられることにより車体11に対するフロントアクスル20の位置決めをし易くすることができる。
【0041】
(2)フランジ部47は、切り欠き49を形成する円弧面50を有する。このため、切り欠き49はフランジ部47の円弧面50によって形成されるので、制動時において円弧面50に過度な応力集中は発生し難く、制動時においてフランジ部47が変形し難い。したがって、フランジ部47に切り欠き49が設けられてもドラム円筒部42の剛性は低下し難い。
【0042】
(3)切り欠き49の径方向の最大深さDは、フランジ部47の径方向の長さHの半分よりも小さい(D/H<0.5)。このため、切り欠き49がフランジ部47に設けられても、フランジ部47はドラム円筒部42の周方向にわたって径方向の長さHの半分以上が形成されている。その結果、ドラム円筒部42はより変形し難くなる。
【0043】
(4)複数の切り欠き49がドラム円筒部42の周方向において等間隔となるように配置されている。このため、ドラム円筒部42の剛性のバランスを保ち易くなり、制動時においてドラム円筒部42の偏った変形を抑制することができる。また、複数の切り欠き49がドラム円筒部42に設けられている。このため、例えば、フロントアクスル20の車体11に対するリーマボルト22やリーマボルト22挿入のための工具の位置と切り欠き49との位置合わせのとき、ブレーキドラム31の回転量を抑制できる。ブレーキドラム31を回転させる作業は大きな力が必要であるが、回転量の抑制により作業者の負荷を軽減できる。
【0044】
(5)切り欠き49は、車体11に設けたリーマボルト通孔24にリーマボルト22を挿入するときに用いられる工具を挿入可能とする大きさである。このため、作業者は、フロントアクスル20の車体11に対する位置決め部材としてリーマボルト22を用い、リーマボルト22を車体11に設けたリーマボルト通孔24に挿入する。このとき、リーマボルト22の挿入のために用いる工具が切り欠き49に挿入されるので工具がブレーキドラム31に干渉しない。このためリーマボルト22の挿入作業を円滑に行うことができる。
【0045】
(6)切り欠き49とリーマボルト通孔24との位置を合わせたとき、切り欠き49への工具が挿入可能である。このため、切り欠き49とリーマボルト通孔24との位置が合ったときは、切り欠き49への工具の挿入が可能となる。したがって、リーマボルト22を挿入するとき、工具はブレーキドラム31に干渉せず、リーマボルト22の挿入作業を円滑に行うことができる。
【0046】
次に、別例1に係るブレーキドラム51について説明する。図4(a)、図4(b)に示すブレーキドラム51は、ドラムプレート部52およびドラム円筒部53は一体形成されているが、フランジ部54はドラム円筒部53と別体である。フランジ部54はドラム円筒部53に対して圧入によって固定される。フランジ部54は切り欠き55を有している。ドラムプレート部52はドラムプレート部41と同じ構成であり、ドラム円筒部53は、ドラム円筒部42と同一であり、切り欠き55は切り欠き49と同じ構成である。
【0047】
別例1では、フランジ部54はドラム円筒部53と別体であるため、例えば、フランジ部を備えない既存のブレーキドラムにフランジ部54を備えることができる。その結果、既存のブレーキドラムの剛性を高め、制動時におけるブレーキの鳴きを抑制することができる。
【0048】
次に、別例2に係るブレーキドラム61について説明する。図5に示すブレーキドラム61は、ドラムプレート部62およびドラム円筒部63は一体形成されているが、フランジ部64はドラム円筒部63と別体である。フランジ部64は、一対の円弧状部材65に2分割可能であり、ボルト66およびナット67により互いに連結可能である。フランジ部64は、ドラム円筒部63に対して円弧状部材65の連結による挟持によって固定される。円弧状部材65は切り欠き68を有している。ドラムプレート部62はドラムプレート部41と同じ構成であり、ドラム円筒部63は、ドラム円筒部42と同一であり、切り欠き68は切り欠き49と同じ構成である。
【0049】
別例2では、フランジ部64はドラム円筒部63と別体であるため、別例1と同様に、フランジ部を備えない既存のブレーキドラムにフランジ部64を備えることができる。また、ドラム円筒部63に対して円弧状部材65の連結による挟持によって固定されるので、フランジ部64の着脱が容易であり、例えば、フランジ部64の交換が可能となる。
【0050】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0051】
○ 上記の実施形態(別例を含む)では、ブレーキドラムのフランジ部は4つの切り欠きを有したが、切り欠きの数は4つに限定されない。複数の切り欠きを有する場合には、フランジ部の周方向において等間隔を保つように形成することが好ましい。
上記の実施形態(別例を含む)では、切り欠きの径方向の深さは、フランジ部の径方向の長さの半分よりも小さいとしたがこの限りではない。切り欠きの径方向の深さは、フランジ部の径方向の長さの半分よりも大きくてもよく、少なくとも、フランジ部の径方向の長さよりも小さければよい。
○ 上記の実施形態では、ドラムブレーキ装置としてデュオ・サーボ型ドラムブレーキを例示して説明したが、これに限定されない。ドラムブレーキ装置は、デュオ・サーボ型ドラムブレーキ以外のドラムブレーキであってもよく、例えば、リーディング・トレーリング型ドラムブレーキやツー・リーディング型ドラムブレーキであってもよい。
○ 上記の実施形態(別例を含む)では、産業車両としてフォークリフトを例示し、フォークリフトのドラムブレーキ装置について説明したが、産業車両はフォークリフトに限定されない。産業車両としては、例えば、トーイングトラクターでもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 フォークリフト
11 車体
14 駆動輪
20 フロントアクスル
22 リーマボルト
23 ボルト通孔
24 リーマボルト通孔
30 ドラムブレーキ装置
31、51、61 ブレーキドラム
32 バックプレート
33 ブレーキシュー
36 ホイールシリンダ
41、52、62 ドラムプレート部
42、53、63 ドラム円筒部
47、54、64 フランジ部
49、55、68 切り欠き
50 円弧面
65 円弧状部材
D 切り欠きの最大深さ
H フランジ部の径方向の長さ(高さ)
L フランジ部の軸心方向の長さ
P 回転中心
図1
図2
図3
図4
図5