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特許7310697被検物質の分析キット、及び被検物質の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】被検物質の分析キット、及び被検物質の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230711BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230711BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20230711BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01N33/543 525U
G01N33/543 521
G01N33/483 F
G01N33/543 541Z
G01N27/327 357
G01N27/416 336G
G01N27/416 336B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020080558
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2020190550
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019092864
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 比呂子
(72)【発明者】
【氏名】島村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】豊田 孝
(72)【発明者】
【氏名】崔 京九
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-268186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0231285(US,A1)
【文献】特表2005-521032(JP,A)
【文献】特表2011-504593(JP,A)
【文献】特開2019-012056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に一次抗体が固定されているセンサ、及び、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子を含むことを特徴とする被検物質の分析キット。
【請求項2】
前記作用電極の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている、請求項1に記載の分析キット。
【請求項3】
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の作用電極の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサ、及び、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されている金属ナノ粒子を含むことを特徴とする被検物質の分析キット。
【請求項4】
前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物が、有機イオウ化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析キット。
【請求項5】
前記三重結合をもつ有機化合物が、アセチレン系有機化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の分析キット。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子が、金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の分析キット。
【請求項7】
被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、
前記作用電極と、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、
前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下でイオン化させ、前記金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、
前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする被検物質の分析方法。
【請求項8】
被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、
前記作用電極と、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、
前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、全量の前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させ、イオン化した前記金属ナノ粒子を更に還元させたときの電流量を計測する電流量計測工程と、
前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする被検物質の分析方法。
【請求項9】
前記作用電極の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている、請求項7又は8に記載の分析方法。
【請求項10】
被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の表面が不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、
前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、
前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下でイオン化させ、前記金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、
前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする被検物質の分析方法。
【請求項11】
被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、
作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の表面が不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、
前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、
前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、全量の前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させ、イオン化した前記金属ナノ粒子を更に還元させたときの電流量を計測する電流量計測工程と、
前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、
を含むことを特徴とする被検物質の分析方法。
【請求項12】
前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物が、有機イオウ化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物である、請求項7~11のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項13】
前記三重結合をもつ有機化合物が、アセチレン系有機化合物である、請求項7~11のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項14】
前記金属ナノ粒子が、金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含むことを特徴とする請求項7~13のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項15】
前記分析方法が、イムノクロマトグラフィー法である、請求項7~14のいずれか一項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原抗体反応を利用して被検物質を分析するための分析キット、及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質の検出は、医療、ヘルスケア、環境などの分野において行われている。そして、複数の生体物質から測定対象の生体物質を、選択的に高感度かつ簡便な操作性で定量することができる分析方法の開発が望まれている。
【0003】
液体中の微量な生体物質を選択的に高感度で測定することができる方法の1つとして、免疫測定法が知られている。免疫測定法とは、測定対象の生体物質(抗原、ハプテン等)と、その抗原と結合する物質(抗体)との反応(抗原抗体反応)を利用して、抗原を定量する方法である。
【0004】
抗原を定量する方法としては、サンドイッチ法が知られている。サンドイッチ法とは、一次抗体が固定された固体と、二次抗体が固定された標識とで、抗原を挟む(サンドイッチする)方法である。すなわち、サンドイッチ法は、抗原を一次抗体で補足し、その補足した抗原と二次抗体とを結合させ、その抗原と結合した二次抗体に固定されている標識を定量する方法である。
また、抗原を定量する方法としては、競合法も知られている。競合法とは、分析対象となる溶液中に含まれる被験物質である抗原と、標識が固定された抗体とを抗原抗体反応させ、次いでこのとき発生した未反応の標識が固定された抗体を定量する方法である。
【0005】
標識を定量する方法として、ELISA法の他、標識として金属粒子を用い、その金属粒子の量を、電気化学的手法を用いて定量する方法が知られている。
特許文献1には、コロイド金属粒子で標識した少なくとも1つの試薬と、少なくとも1つの電極、及び、前記コロイド金属粒子を化学的に溶解するための試薬を含むイムノアッセイ法が開示されている。この特許文献1に開示されているイムノアッセイ法では、標識であるコロイド金属粒子を化学的に溶解し、次いでその金属の溶液を電極に移して還元して、還元した金属を電極に堆積させた後、その電極の表面に堆積した金属を電気的に再溶解させ、その再溶解後に現れるボルタンメトリーピークを解析することによって、その金属の量を測定する。なお、コロイド金属粒子は、溶媒に分散させた金属ナノ粒子である。
【0006】
一方、ELISA等の抗原抗体反応を用いる免疫測定方法では、二次抗体の固相への非特異的な吸着や、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのを防止するため、ウシ血清アルブミン(BSA)やカゼインなどのタンパク質、ゼラチンやスキムミルク等の生体関連物質でタンパク質を含む物質をブロッキング剤として用いている(例えば、特許文献2等)。
しかし、これらのタンパク質やタンパク質を含む物質は、バクテリア等により変質しやすいため、これらの物質をブロッキング剤として用いる分析キットは、長期保存することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2004-512496号公報
【文献】特許第6367783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一次抗体が固定されている作用電極や、二次抗体が固定されている金属ナノ粒子を用い、抗原抗体反応を電気化学的酸化還元電流により検出する被検物質(抗原)の分析チップにおいて、ブロッキング剤として、BSA、スキムミルク、ゼラチンなどのタンパク質やタンパク質を含む物質を用いた場合、タンパク質はバクテリア等による変質のため、分析キットの保存期間が短いという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができ、且つ、保存期間が長い分析キット、前記分析キットを用いる被検物質の分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されている金属ナノ粒子の表面又は、一次抗体が固定されている作用電極の表面を、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングすることにより、二次抗体の作用電極への非特異的な吸着や、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのを防止し、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができ、且つ、分析キットの長期保存が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかる分析キットは、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に一次抗体が固定されているセンサ、及び、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0012】
(2)上記態様にかかる分析キットにおいて、前記作用電極の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていてもよい。
【0013】
(3)第2の態様に係る分析キットは、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の作用電極の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサ、及び、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されている金属ナノ粒子を含むことを特徴とする。
【0014】
(4)上記の第1の態様及び第2の態様にかかる分析キットにおいて、前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物が、有機イオウ化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物であってもよい。
【0015】
(5)上記の第1の態様及び第2の態様にかかる分析キットにおいて、前記三重結合をもつ有機化合物が、アセチレン系有機化合物であってもよい。
【0016】
(6)上記の第1の態様及び第2の態様にかかる分析キットにおいて、前記金属ナノ粒子が、金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含んでいてもよい。
【0017】
(7)第3の態様にかかる被検物質の分析方法は、被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極と、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下でイオン化させ、前記金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
(8)第4の態様にかかる分析方法は、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極と、表面に被検物質に特異的に結合する二次抗体が固定されており、前記二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、全量の前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させ、イオン化した前記金属ナノ粒子を更に還元させたときの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0019】
(9)上記第3の態様及び第4の態様にかかる分析方法は、前記作用電極の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていてもよい。
【0020】
(10)第5の態様にかかる分析方法は、被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の表面が不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下でイオン化させ、前記金属ナノ粒子の全量がイオン化するまでの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
(11)第6の態様にかかる分析方法は、被検物質溶液に含まれる被検物質の分析方法であって、作用電極と、参照電極と、対極と、を有し、前記作用電極の表面に被検物質に特異的に結合する一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の表面が不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているセンサの前記作用電極と、前記被検物質溶液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体と前記被検物質溶液の被検物質とを結合させる第1結合工程と、前記作用電極と、表面に前記被検物質と結合する二次抗体が固定された金属ナノ粒子が分散されている金属ナノ粒子の分散液とを接触させて、前記作用電極の前記一次抗体に結合した前記被検物質と前記二次抗体とを結合させることによって、前記被検物質と前記金属ナノ粒子とを結合させる第2結合工程と、前記作用電極と前記対極との間に電圧を印加して、全量の前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させ、イオン化した前記金属ナノ粒子を更に還元させたときの電流量を計測する電流量計測工程と、前記電流量から金属ナノ粒子量を求め、前記金属ナノ粒子量から被検物質量を算出する算出工程と、を含むことを特徴とする。
【0022】
(12)上記第3~第6の態様にかかる分析方法において、前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物が、有機イオウ化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物であってもよい。
【0023】
(13)上記第3~第6の態様にかかる分析方法において、前記三重結合をもつ有機化合物が、アセチレン系有機化合物であってもよい。
【0024】
(14)上記第3~第6の態様にかかる分析方法において、前記金属ナノ粒子が、金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含んでいてもよい。
【0025】
(15)上記第3~第6の態様にかかる分析方法において、前記分析方法が、イムノクロマトグラフィー法であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができ、且つ、長期保存が可能な分析キット、及び前記分析キットを用いる被検物質の分析方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態にかかる分析キットで用いるセンサの平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明の第3~第6実施形態にかかる分析方法を説明するフロー図である。
図4】本発明の第3~第6実施形態にかかる分析方法を説明する概念図である。
図5】実施例1で使用した各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識である金ナノ粒子をイオン化させた後、イオン化した金ナノ粒子を還元させるために要した電流量とをプロットしたグラフである。菱形のプロットが安定性試験前、三角のプロットが安定性試験後の結果をそれぞれ示す。
図6】実施例2で使用した各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識である金ナノ粒子をイオン化させた後、イオン化した金ナノ粒子を還元させるために要した電流量とをプロットしたグラフである。菱形のプロットが安定性試験前、三角のプロットが安定性試験後の結果をそれぞれ示す。
図7】実施例3で使用した各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識である金ナノ粒子をイオン化させた後、イオン化した金ナノ粒子を還元させるために要した電流量とをプロットしたグラフである。菱形のプロットが安定性試験前、三角のプロットが安定性試験後の結果をそれぞれ示す。
図8】比較例1で使用した各抗原分析用試料の抗原濃度と、抗原の標識である金ナノ粒子をイオン化させた後、イオン化した金ナノ粒子を還元させるために要した電流量とをプロットしたグラフである。菱形のプロットが安定性試験前、三角のプロットが安定性試験後の結果をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本実施形態について、図面を用いてその構成を説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0029】
「第1実施形態」
[分析キット]
本実施形態の分析キットは、被検物質溶液に含まれる被検物質を、抗原抗体反応を利用して分析するための分析キットである。被検物質は、例えば、生体材料であり、特にタンパク質やメタボロームである。
本実施形態の分析キットは、センサと金属ナノ粒子の分散液を備える。センサは、被検物質溶液に含まれる被検物質を補足する機能を有し、金属ナノ粒子は、補足した被検物質を定量するための標識として機能する。
【0030】
(センサ)
本発明の第1実施形態にかかる分析キットで用いるセンサを図1図2を参照して説明する。図1は、センサの一実施形態を示す平面図である。図2は、図1のII-II線断面図である。
図1に示すセンサ10は、第1基板11と、第1基板11の表面(図2において上面)において一方の端部近傍に設けられた作用電極12、対極13及び参照電極14と、作用電極12、対極13及び参照電極14にそれぞれ接続されるとともに第1基板11の他方の端部まで延在するように第1基板11上に形成されたリード線12a、13a及び14aと、第1基板11に接着された、作用電極12、対極13及び参照電極14が露出するような窓15が形成されている第2基板16とから構成される。第2基板16は、リード線12a、13a及び14aのうち第1基板11の他方の端部近傍以外の部分を覆っている。
【0031】
作用電極12は、金属電極、カーボン電極、導電性ダイヤモンド電極または導電性ダイヤモンド様炭素電極(DLC電極)であることが好ましい。金属電極としては銅電極、金電極、白金電極、パラジウム電極等を用いることができる。金属電極は、耐食性の観点から貴金属電極が好ましい。カーボン電極は、グラファイト等の導電性をもつ炭素の電極であり、例えば黒鉛を主体としたペーストで印刷したカーボン印刷電極を用いることができる。導電性ダイヤモンド電極としては、ホウ素をドープしたホウ素ドープダイヤモンド電極を用いることができる。導電性ダイヤモンド電極は、sp結合を有するダイヤモンド構造を有する結晶質炭素電極である。導電性DLC電極は、主として炭素及び水素から構成され、sp結合およびsp結合が混在する非晶質炭素電極である。導電性DLC電極としては、窒素、リン、ヒ素、アンチモン及びビスマスからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素をドープしたn型半導体のDLC電極と、ホウ素、ガリウム及びインジウムからなる群から選ばれる元素をドープしたp型半導体のDLC電極のいずれも用いることができる。
【0032】
sp結合の炭素を主体とする導電性ダイヤモンド電極およびDLC電極は、電気化学反応によって酸化または還元される化学物質が吸着する過程が極めて少ない。このため、例えば水に起因する水素や水酸化物やそれらのイオンによる電極への吸着を経る内圏酸化還元反応が極めて起こりにくい。その結果、残余電流と言われるノイズ電流が極端に小さくなるので、検出対象である被検物質の電気化学的反応を高SN比で検出することが可能である。
【0033】
作用電極12は、表面(図2において上側の面)に、一次抗体が固定されている。一次抗体は、測定対象の被検物質(抗原)に合せて適宜、選択して使用する。一次抗体としては、測定対象の被検物質に対して高い親和性を有し、被検物質(抗原)と結合するものであれば特に制限なく使用することができる。
【0034】
作用電極12は、一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていることが好ましい。前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物(ブロッキング剤)は、単独でも複数を組み合わせて使用してもよい。作用電極12は、一次抗体が固定されている部分以外の表面が、前記ブロッキング剤によってブロッキングされていることにより、二次抗体の作用電極への非特異的な吸着を防止し、被検物質をより高い選択性と高感度で分析することができる。また、前記ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いることにより、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することなく、分析キットの長期保存が可能になる。
【0035】
前記不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物としては、有機イオウ化合物、有機窒素化合物、有機酸素化合物等が挙げられる。
【0036】
前記有機イオウ化合物としては、チオ尿素およびその誘導体、チアゾールおよびその誘導体、ジスルフィド、カルバミン酸およびその誘導体ならびにそれらの塩等が挙げられる。
【0037】
前記チオ尿素およびその誘導体としては、例えば、チオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、ジラウリルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、N,N’-ジフェニルチオ尿素2-メルカプトイミダゾリン等が挙げられる。
【0038】
前記チアゾールおよびその誘導体としては、例えば、チアゾール、ベンソチアゾール、2-(N,N’-ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等が挙げられる。
【0039】
前記ジスルフィドとしては、シスチン、ジベンゾチアジルジウルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド等が挙げられる。
【0040】
前記カルバミン酸およびその誘導体ならびにそれらの塩としては、ジメチルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、N-メチルーN-フェニルジチオカルバミン酸、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸、およびそれらのナトリウム塩や亜鉛塩等が挙げられる。
【0041】
その他の有機イオウ化合物としては、ブチルキサントゲン酸、イソブチルキサントゲン酸、およびそれらの塩、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-S-トリアジン、トリメルカプト-S-トリアジン等が挙げられる。
【0042】
前記有機窒素化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、アゾ化合物、イミダゾールおよびその誘導体、トリアゾールおよびその誘導体、イミン類、アミド類、アミノ酸等が挙げられる。
【0043】
前記脂肪族アミンとしては、n-ブチルアミン、n-ヘキシアミン、n-オクチルアミン、n-ドデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-シクロヘキシルアミン、n-オクタデシルプロピレンジアミン、n-ドデシルプロピレンジアミン、カプロイック酸アミン、N,N’-ジブチルアミン、N,N’-ジヘキシアミン、N,N’-ジオクチルアミン、N,N’-ジドデシルアミン、N,N’-ジヘキサデシルアミン、N,N’-ジシクロヘキシルアミン、N,N’-ジオクタデシルプロピレンジアミン、N,N’-ジドデシルプロピレンジアミン、N,N’-カプロイック酸ジメチルアミン、N,N’-ジメチルN’-メチルオクタデシルプロピレンジアミン、N,N’-ジメチルN’-メチルドデシルプロピレンジアミン、N-シクロヘキシルジメチルアミン、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエチルヒドロキシアミン、ポリビニルアミン、ホスホン酸アミンなどが挙げられる。
【0044】
前記芳香族アミンとしては、アニリン、トルイジン、トリメチルアニリン、アニシジン、ピロール、ピリジン、キノリン、ローダミン、サッカリン、サフラニン等が挙げられる。
【0045】
前記アゾ化合物としては、フェニルアゾフェノール、ヒドロキシアゾベンゼン、ジメチルアミノアゾベンゼンスルホン酸、ジメチルアミノアゾベンゼンカルボン酸等が挙げられる。
【0046】
前記イミダゾールおよびその誘導体としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1,1’-チオカルボニルジイミダゾール、シメチジン、エメダスチンジフマル酸塩、イミダゾールジペプチド等が挙げられる。
【0047】
前記トリアゾールおよびその誘導体としては、ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等が挙げられる。
【0048】
前記イミン類としては、アルジミン、ケチミン、ヒドロキシイミン、エチレンイミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
【0049】
前記アミド類としては、ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミリド、アクリルアミド、ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0050】
前記アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
【0051】
前記有機酸素化合物としては、ラウリル硫酸ナトリウム、Tween20、マリアリム、ナフトール、エチレングリコール、ポリビニルピロリドン、アルキロールアミド、ハロ酢酸、ポリカルボン酸、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、糖類であるエリトロース、トレオース、エリトルロース 、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アピオース、リブロース、キシルロース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、セドヘプツロース、コリオース、トレハロース、イソトレハロース、コージビオース、ソホロース、ニゲロース 、ラミナリビオース、マルトース、セロビオース、イソマルトース、ゲンチオビオース、ラクトース、スクロース、ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース、ゲンチアノース、スタキオース、シクロデキストリン、デオキシリボース、フコース、ラムノース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、フルクトオリゴ糖、パラチノース、グルコサミン、ガラクトサミン、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、アスコルビン酸、グルクロノラクトン、グルコノラクトン、アミロース、デンプン、デキストリン、アミロペクチン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、グルコマンナン、キサンタガム、プルラン、ヒアルロン酸等が挙げられる。
【0052】
前記三重結合をもつ有機化合物としては、プロパギルアルコール、アリルアルコール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)ブチン等のアセチレン系有機化合物等が挙げられる。
【0053】
対極13は、電気化学計測用のセンサにおいて通常用いられる電極用の導電性材料から構成される。対極13としては、例えば、カーボン電極、白金電極及び金電極などの貴金属電極、導電性ダイヤモンド電極、導電性DLC電極を用いることができる。
【0054】
参照電極14としては、例えば、銀-塩化銀電極または水銀-塩化水銀電極を用いることができる。参照電極14は、好ましくは銀-塩化銀電極である。
【0055】
第2基板16は、第1基板11と同様の基板が用いられる。第1基板11と第2基板16は接着剤17によって接着されている。
第2基板16は、第1基板11との間に、流路を形成する。第2基板16は、流路となる溝が掘られているか、第1基板と第2基板の間に流路を形成するための第3基板を挟んだ平滑なものでもよい。
【0056】
第1基板11、第2基板16および第3基板は、分析チップとしての使用に耐え得る物理的強度を有し、被検物質を含む液体により物理的・化学的損傷を受けなければよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、ポリエチレンオキシド、テフロン(登録商標)などの一般的な高分子が好ましい。環境調和の面からは、ポポリ乳酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリヒドロキシアルカノエート樹脂、ポリグリコール酸樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂などの生分解プラスチックでも、上記条件を備えれば用いることができる。
【0057】
(金属ナノ粒子)
金属ナノ粒子は、平均粒子径が1nm以上100nm以下の範囲にあることが好ましく、10nm以上50nm以下の範囲にあることがより好ましい。金属ナノ粒子は、溶媒に分散させることが好ましい。溶媒としては、水系溶媒、有機系溶媒およびこれらの混合液を用いることができる。水系溶媒の例としては、水、緩衝液を挙げることができる。緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。有機系溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの1価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトンを挙げることができる。
【0058】
金属ナノ粒子は、金、白金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、鉄、コバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属を含むことが好ましい。金属は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せた合金として使用してもよい。金属ナノ粒子は、金ナノ粒子、銀ナノ粒子であることが好ましい。これらの金属ナノ粒子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0059】
金属ナノ粒子は、表面に二次抗体が固定されている。二次抗体は、測定対象の被検物質(抗原)に合せて適宜、選択して使用する。二次抗体としては、測定対象の被検物質に対して高い親和性を有し、被検物質(抗原)と結合するものであれば特に制限なく使用することができる。
【0060】
金属ナノ粒子は、二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている。不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物(ブロッキング剤)としては、前記したものが挙げられる。前記ブロッキング剤は、単独でも複数を組み合わせて使用してもよい。金属ナノ粒子の二次抗体が固定されている部分以外の表面が、前記ブロッキング剤によってブロッキングされていることにより、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのを防止し、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。また、前記ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いることにより、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することなく、分析キットの長期保存が可能になる。
【0061】
金属ナノ粒子は、更に、硫黄を含有していてもよい。硫黄は金属粒子ナノ粒子の表面に付着してもよいし、金属原子間に挿入されていてもよい。硫黄は、金属ナノ粒子の酸化を抑制する効果がある。金属ナノ粒子の硫黄の含有量は、0.001質量%以上0.5質量%以下の範囲にあることが好ましい。
【0062】
金属ナノ粒子が分散されている分散液は、さらに、増粘剤、界面活性剤、分散剤、酸化防止剤などを含有していてもよい。
【0063】
「第2実施形態」
[分析キット]
本発明の第2実施形態の分析キットは、作用電極が、表面に一次抗体が固定されており、前記一次抗体が固定されている部分以外の作用電極の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている点と、金属ナノ粒子の二次抗体が固定化されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていなくてもよい点を除いて、第1の実施形態の分析キットと同様に構成されている。
【0064】
本実施形態の分析キットにおいて、作用電極12は、一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている。不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物(ブロッキング剤)としては、前記したものが挙げられる。作用電極12は、一次抗体が固定されている部分以外の表面が、前記ブロッキング剤によってブロッキングされていることにより、二次抗体の作用電極への非特異的な吸着を防止し、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。また、前記ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いることにより、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することなく、分析キットの長期保存が可能になる。
【0065】
本実施形態の分析キットにおいて、金属ナノ粒子は、二次抗体が固定化されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていることが好ましい。不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物(ブロッキング剤)としては、前記したものが挙げられる。金属ナノ粒子の二次抗体が固定化されている部分以外の表面が、前記ブロッキング剤によってブロッキングされていることにより、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのを防止し、簡便な操作で、被検物質をより高い選択性と高感度で分析することができる。また、前記ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いることにより、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することなく、分析キットの長期保存が可能になる。
【0066】
「第3実施形態」
[分析方法]
次に、本発明の第3実施形態の分析方法を、図3図4とを参照して説明する。
図3は、本発明の第3実施形態にかかる分析方法を説明するフロー図である。
本実施形態の分析方法は、図3に示すように、第1結合工程S01、第2結合工程S02、電圧印加工程S03、電流量計測工程S04、算出工程S05を含む。
【0067】
(第1結合工程S01)
第1結合工程S01では、上述のセンサ10の作用電極12と、被検物質溶液とを接触させる。図4(a)に示すように、作用電極12の表面には、測定対象物である被検物質と選択的に結合可能な一次抗体31が固定されている。このため、第1結合工程S01では、図4(b)に示すように、測定対象となる被検物質32のみが一次抗体31に補足される。
また、作用電極12の一次抗体31が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている場合は、二次抗体の作用電極12への非特異的な吸着が防止される。そのため、被検物質をより高い選択性と高感度で分析することができる。
【0068】
第1結合工程S01の後、作用電極12を洗浄して作用電極12に付着している被検物質溶液を除去してもよい。洗浄液としては、水系溶媒、有機系溶媒を用いることができる。
【0069】
(第2結合工程S02)
第2結合工程S02では、作用電極12と、前述の金属ナノ粒子の分散液とを接触させる。図4(c)に示すように、金属ナノ粒子33の表面には、測定対象物である被検物質32と選択的に結合可能な二次抗体34が固定されている。このため、第2結合工程S02により、図4(c)に示すように、被検物質32と二次抗体34が結合し、被検物質32に金属ナノ粒子33が結合される。金属ナノ粒子33の二次抗体34が固定されている部分以外の表面は、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているため、二次抗体34が一次抗体31に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのが防止される。そのため、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。
【0070】
第2結合工程の後、作用電極12を洗浄して被検物質32に結合していない金属ナノ粒子33を除去してもよい。洗浄液としては、水系溶媒、有機系溶媒を用いることができる。
【0071】
(電圧印加工程S03)
電圧印加工程S03では、電解質溶液に作用電極12、対極13及び参照電極14を浸漬し、作用電極12の電位を被検物質32と結合した金属ナノ粒子33を酸化してイオン化させる電位とするため、作用電極12と対極13との間に電圧を印可する。
【0072】
電解質溶液の電解質としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウムなどの塩化物を用いることができる。塩化物は、金属ナノ粒子33をイオン化させる際に、金属ナノ粒子33の表面に形成されている酸化物被膜(不働態被膜)を破壊し、金属を溶液に露呈させ、イオン化を進行し易くする効果がある。電解質溶液の溶媒としては、水の他、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒を用いることができる。電解質溶液の塩化物イオン濃度は、0.05モル/L以上1.0モル/L以下の範囲にあることが好ましい。
【0073】
作用電極12の電位を金属ナノ粒子33が酸化してイオン化する電位とするため、作用電極12と対極13との間に印加する電圧としては、作用電極12の電位が金属ナノ粒子33をイオン化できる電位になれば、特に制限はないが、参照電極14が銀-塩化銀電極である場合は、参照電極14に対して0~1.0Vが好ましく、0.2~0.8Vがより好ましい。この電圧印加工程S03により、被検物質32と結合した金属ナノ粒子33は電気化学的に酸化されてイオン化する。
【0074】
(電流量計測工程S04)
電流量計測工程S06では、作用電極12と対極13との間に電圧を印加して、電解質溶液の存在下でイオン化(酸化)した金属ナノ粒子33の全量がイオン化するまでの電流量を計測する。例えば、金属ナノ粒子33が金ナノ粒子である場合、作用電極12と対極13との間に電圧を印加することによって、金ナノ粒子が塩化金の錯イオンとして溶解するときの電流量を計測する。具体的には、センサ10のリード線12a、13a、14aをポテンシオスタットに接続し、ボルタンメトリー法を用いて、作用電極12と対極13との間に電圧を印加しながら、作用電極12と対極13との間に流れる電流量を測定する。
【0075】
(算出工程S05)
算出工程S05では、電流量から金属ナノ粒子33の量を求め、金属ナノ粒子33の量から被検物質量を算出する。電流量計測工程S04で得られる電流量は、金属ナノ粒子33の量(すなわち、被検物質量)と相関する。従って、既知量の被検物質を含む試料を用いて検量線を作成することによって、被検物質溶液に含まれる被検物質を正確に定量することが可能となる。
【0076】
「第4実施形態」
本発明の第4実施形態の分析方法は、図3に示す第3実施形態と同じように、第1結合工程S01、第2結合工程S02、電圧印加工程S03、電流量計測工程S04、算出工程S05を含む。第4実施形態の分析方法は、電圧印加工程03において、第3実施形態の、全量の金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させる代わりに、全量の金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させ、イオン化した金属ナノ粒子を更に還元させる点、及び電流量計測工程S04において、第3実施形態の、作用電極12と対極13との間に電圧を印加して、電解質溶液の存在下でイオン化(酸化)した金属ナノ粒子33の全量がイオン化するまでの電流量を計測する代わりに、作用電極12と対極13との間に電圧を印加して、電解質溶液の存在下で全量の金属ナノ粒子33をイオン化(酸化)した後、更に、作用電極12と対極13との間に逆の電圧を印加して電解質溶液の存在下でイオン化(酸化)した前記金属ナノ粒子33が更に還元するまでの電流量を計測する点を除いて、第3実施形態の分析方法と同様に構成されている。
【0077】
本実施形態の電圧印加工程S03では、まず、全量の前記金属ナノ粒子を電解質溶液の存在下で酸化によってイオン化させる作用電極12の電位とするため、作用電極12と対極13との間に電圧を印加する。その後、イオン化した金属ナノ粒子を電気化学的に還元させる作用電極12の電位とするため、作用電極12と対極13との間に逆の電圧を印加する。還元する際の、作用電極12に印加する電位は、0.0~1.0Vが好ましく、0.1~0.8Vがより好ましい。
【0078】
本実施形態の電流量計測工程S04では、作用電極12と対極13との間に電圧を印加して、電解質溶液の存在下で金属ナノ粒子33の全量がイオン化した後、作用電極12と対極13の間に逆の電圧を印加することにより、イオン化した金属ナノ粒子が還元するまでの電流量を計測する。例えば、金属ナノ粒子33が金ナノ粒子である場合、作用電極12と対極13との間に逆の電圧を印加するために、作用電極12に電位を印加することによって、塩化金錯イオンが、還元されて金として電析するときの電流量を計測する。具体的には、センサ10のリード線12a、13a、14aをポテンシオスタットに接続し、ボルタンメトリー法を用いて、作用電極12に電位を印加しながら、作用電極12と対極13との間に流れる電流量を測定する。
【0079】
「第5実施形態」
本発明の第5実施形態の分析方法は、第3実施形態の第1結合工程S01において、作用電極12の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている点を除いて、第3実施形態の分析方法と同様に構成されている。
【0080】
本実施形態においては、作用電極12の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている。そのため、二次抗体の作用電極12への非特異的な吸着が防止される。そのため、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物は前記と同様のものが例示される。
【0081】
なお、本実施形態においては、第2結合工程S02において、金属ナノ粒子33の二次抗体が固定されている部分以外の表面は、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていてもよい。この場合は、二次抗体34が一次抗体31に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのが防止される。そのため、被検物質をより高い選択性と高感度で分析することができる。
【0082】
「第6実施形態」
本発明の第6実施形態の分析方法は、第4実施形態の第1結合工程S01において、作用電極12の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている点を除いて、第4実施形態の分析方法と同様に構成されている。
【0083】
本実施形態においては、作用電極12の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている。そのため、二次抗体の作用電極12への非特異的な吸着が防止され、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物は前記と同様のものが例示される。
【0084】
なお、本実施形態においては、第2結合工程S02において、金属ナノ粒子33の二次抗体が固定されている部分以外の表面は、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされていてもよい。この場合は、二次抗体34が一次抗体31に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのが防止される。そのため、被検物質をより高い選択性と高感度で分析することができる。
【0085】
以上説明したように、第1実施形態の分析キットによれば、金属ナノ粒子の二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているので、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのが防止され、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。
【0086】
また、第1実施形態の分析キットは、ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いるので、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することないため、長期保存が可能になる。
【0087】
また、第2実施形態の分析キットによれば、作用電極12の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている。そのため、二次抗体の作用電極への非特異的な吸着が防止され、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。
【0088】
また、第2実施形態の分析キットは、ブロッキング剤として、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物を用いるので、前記ブロッキング剤が、バクテリア等により変質することないため、長期保存が可能になる。
【0089】
また、第3実施形態及び第5実施形態の分析方法によれば、金属ナノ粒子の二次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているので、二次抗体が一次抗体に抗原を介さずに直接非特異的に結合するのが防止され、簡便な操作で、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。
【0090】
また、第3実施形態及び第5実施形態の分析方法によれば、作用電極と対極の間に電圧を印加して、被検物質と結合した金属ナノ粒子をイオン化させるので、従来行われていた金属を化学的に溶解させる工程を実施せずに、電気化学的手法を用いて、被検物質を定量することができる。
【0091】
また、第4実施形態及び第6実施形態の分析方法によれば、作用電極の一次抗体が固定されている部分以外の表面が、不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされているので、二次抗体の作用電極への非特異的な吸着が防止され、被検物質を高い選択性と高感度で分析することができる。
【0092】
また、第4実施形態及び第6実施形態の分析方法によれば、作用電極と対極の間に電圧を印加して、被検物質と結合した金属ナノ粒子の全量をイオン化させ、更に、イオン化した前記金属ナノ粒子を還元しているので、従来行われていた金属を化学的に溶解させる工程を実施せずに、電気化学的手法を用いて、被検物質を定量することができる。また、金属ナノ粒子を酸化するときに同時に酸化される物質が存在する場合、イオン化された前記金属ナノ粒子を還元する電流を測定する方が、金属ナノ粒子と同時に酸化される物質の酸化電流を測定するよりも、より正確に被検物質を分析することができる。
従って、本発明の分析キットおよび分析方法によれば、簡便な操作で、被検物質を高い選択性で、かつ高感度で分析することが可能となるともに、分析キットの長期保存が可能となる。また、本発明の分析方法は、イムノクロマトグラフィー法にも適用することも可能である。
【0093】
また、本発明の不対電子対または孤立電子対をもつヘテロ有機化合物又は三重結合をもつ有機化合物によってブロッキングされている金属ナノ粒子は、競合法による実施形態でも適用可能である。競合法は、抗原が低分子化合物であるハプテン(低分子抗原)の場合に好ましく用いられる。例えば、測定対象の抗原がハプテンの場合、ハプテン-タンパク質の結合体を作用極に固定する。ここに測定対象の低分子抗原と限られた量の金ナノ粒子標識抗体とを添加すると、固定化抗原と、遊離する測定対象の低分子抗原とが競合的に金ナノ粒子標識抗体に反応する。遊離する測定対象の低分子抗原が多いほど固定化抗原と反応する金ナノ粒子標識抗体量は少ない。逆に遊離する測定対象の低分子抗原が少ないほど固定化抗原と反応する金ナノ粒子標識抗体量は多い。抗原抗体反応後に、洗浄により未反応の遊離する測定対象の低分子抗原と金ナノ粒子標識抗体とを除去するB/F分離(Bound/Free)を行う。電極上の金ナノ粒子標識の電気化学的酸化と還元とにより、電流値を測定する。予め既知量の測定対象の低分子抗原を用いて検量線を作成しておけば、未知量の測定対象の低分子抗原を測定可能である。
【実施例
【0094】
以下、具体的実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0095】
[実施例1]
(1)一次抗体付センサの作製
ポリエチレンテレフタレート基板に対極とリード線をマスクでパターニングした金蒸着膜、作用電極にSiウエハに成膜した導電性DLC膜、参照電極にペースト化したAg/AgClのスクリーン印刷により作成したAg/AgCl膜を用いたセンサチップを用意した。このセンサチップの作用電極(電極面積S=0.0962cm)に、一次抗体として未標識の抗ヤギIgGを固定して、さらにベンゾイミダゾールにて一次抗体が固定されている部分以外の作用電極の表面をブロッキングすることで、作用電極の表面に一次抗体が固定されている一次抗体付き分析チップを作製した。
【0096】
(2)二次抗体付き金ナノ粒子分散液
田中貴金属社製の平均粒子径18nmの金ナノ粒子分散液を用いた。
【0097】
上記の金ナノ粒子と、ベンゾイミダゾールと、抗ヤギIgGと、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)と、ポリエチレングリコールソルビタンモノラウラート(Tween20、非イオン系界面活性剤)を混合し、金ナノ粒子の表面に、抗ヤギIgG(二次抗体)を固定した二次抗体付き金ナノ粒子分散液を作製した。二次抗体付き金ナノ粒子分散液の金ナノ粒子の濃度は0.007質量%とした。抗ヤギIgGとしては、Jackson Immunoresearch Laboratories社から市販されているポリクローナル抗体を使用した。
【0098】
(3)抗原分析用試料
抗原分析用試料として、下記に示すように抗原濃度がそれぞれ異なるNo.1~No.6を用意した。下記のNo.1~No.6は、0.1%のTween20を含むPBS緩衝液と、ヤギIgG(抗原)とを抗原濃度が下記の濃度となるように混合することによって調製した。
No.1:抗原濃度=0.01ng/mL
No.2:抗原濃度=0.1ng/mL
No.3:抗原濃度=1.0ng/mL
No.4:抗原濃度=10ng/mL
No.5:抗原濃度=100ng/mL
No.6:抗原濃度=1000ng/mL
【0099】
(4)抗原の分析
(3)で用意したNo.1~No.6の各抗原分析用試料について、35μLを正確に量り取り、これを上記(1)で作製した一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、40分間インキュベートした(第1結合工程)。
【0100】
次に、一次抗体付きセンサの作用電極を、洗浄液を用いて洗浄して、抗原分析用試料を洗い流した。洗浄液には、PBSを用いた。
【0101】
次に、上記(2)で調製した二次抗体付き金ナノ粒子分散液を1μL正確に量り取り、これを、一次抗体付きセンサの作用電極の上に滴下した後、3時間インキュベートした(第2結合工程)。
【0102】
次に、一次抗体付きセンサの作用電極を、洗浄液を用いて洗浄して、二次抗体付き金ナノ粒子分散液を洗い流した。洗浄液には、PBSを用いた。
【0103】
次に、一次抗体付きセンサのリード線をポテンシオスタットに接続し、PBSに0.1モル/L塩化カリウムを溶解させた電解質溶液を注入し、一次抗体付きセンサを電解質溶液に浸漬させた。
【0104】
次に、ポテンシオスタットを用いて、作用電極と対極との間に電圧を印加して、一旦金ナノ粒子を電気化学的に酸化してイオン化した。その後、作用電極と対極との間に逆の電圧を印加して、イオン化した金ナノ粒子を電気化学的に還元し、その間に作用電極と対極との間に流れる電流量を計測した(電流量計測工程)。
【0105】
図5に、No.1~No.6の各抗原分析用試料の抗原濃度と、作用電極と対極との間に流れた電流量(すなわちイオン化した金ナノ粒子を電気化学的に還元させるために要した電流量)とをプロットしたグラフを示す(図5の安定性試験前のプロット)。図5のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、既知量の抗原(被検物質)を含む試料を用いて検量線(電流値-抗原濃度曲線)を作成することによって、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0106】
また、上記一次抗体付きセンサを真空滅菌し、アルミパウチ包装した後、25℃、75%RH、3カ月の安定性試験を行った。3カ月経過後、包装を開封して抗原濃度を測定した。その結果を図5に示す(図5の安定性試験後のプロット)。図5に示したように、安定性試験前と安定性試験後で、検量線には大きな変化はなく、長期に保存しても被検物質を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0107】
[実施例2]
ベンゾトリアゾールをシスチンに変更する以外は、実施例1と同様の方法で一次抗体付センサ、二次抗体付き金ナノ粒子分散液、抗原分析用試料を作成し、抗原の分析を行った。
図6に、No.1~No.6の各抗原分析用試料の抗原濃度と、作用電極と対極との間に流れた電流量(すなわちイオン化した金ナノ粒子を電気化学的に還元させるために要した電流量)とをプロットしたグラフを示す(図6の安定性試験前のプロット)。図6のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、既知量の抗原(被検物質)を含む試料を用いて検量線(電流値-抗原濃度曲線)を作成することによって、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0108】
また、上記一次抗体付きセンサを真空滅菌し、アルミパウチ包装した後、25℃、75%RH、3カ月の安定性試験を行った。3カ月経過後、包装を開封して抗原濃度を測定した。その結果を図6に示す(図6の安定性試験後のプロット)。図6に示したように、安定性試験前と安定性試験後で、検量線には大きな変化はなく、長期に保存しても被検物質を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0109】
[実施例3]
ベンゾトリアゾールをスクロースに変更する以外は、実施例1と同様の方法で一次抗体付センサ、二次抗体付き金ナノ粒子分散液、抗原分析用試料を作成し、抗原の分析を行った。
図7に、No.1~No.6の各抗原分析用試料の抗原濃度と、作用電極と対極との間に流れた電流量(すなわちイオン化した金ナノ粒子を電気化学的に還元させるために要した電流量)とをプロットしたグラフを示す(図7の安定性試験前のプロット)。図7のグラフから電流値と、抗原分析用試料の抗原濃度との間には相関関係があることが確認された。従って、既知量の抗原(被検物質)を含む試料を用いて検量線(電流値-抗原濃度曲線)を作成することによって、被検物質溶液に含まれる抗原(被検物質)を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0110】
また、上記一次抗体付きセンサを真空滅菌し、アルミパウチ包装した後、25℃、75%RH、3カ月の安定性試験を行った。3カ月経過後、包装を開封して抗原濃度を測定した。その結果を図7に示す(図7の安定性試験後のプロット)。図7に示したように、安定性試験前と安定性試験後で、検量線には大きな変化はなく、長期に保存しても被検物質を正確に定量することが可能となることが確認された。
【0111】
[比較例1]
ベンゾイミダゾールの代わりに、スキムミルクを用いる以外は、実施例1と同様にして、センサを作成し、抗原濃度を測定した。その結果を図8に示す(図8の安定性試験前のプロット)。
【0112】
上記一次抗体付きセンサを真空滅菌し、アルミパウチ包装した後、25℃、75%RH、3カ月の安定性試験を行った。3カ月経過後、包装を開封して抗原濃度を測定した。その結果を図8に示す(図8の安定性試験後のプロット)。図8に示したように、安定性試験後で、検出電流に低下がみられ、長期に保存すると被検物質の定量性が低下することが確認された。
【符号の説明】
【0113】
10…センサ、11…第1基板、12…作用電極、13…対極、14…参照電極、12a、13a、14a…リード線、15…窓、16…第2基板、17…接着剤、31…一次抗体、32…被検物質、33…金属ナノ粒子、34…二次抗体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8