(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】溶接品質判定支援システム
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20230711BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20230711BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230711BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K9/095 510A
B23K9/095 515A
B23K26/00 Q
B23K26/21 A
B23K31/00 K
(21)【出願番号】P 2020086944
(22)【出願日】2020-05-18
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】布川 敬志
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-044546(JP,A)
【文献】特開平06-034564(JP,A)
【文献】特開2018-001184(JP,A)
【文献】特開2019-093429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 9/095
B23K 26/21
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接機の溶接品質の判定を支援する溶接品質判定支援システムであって、
前記溶接機による溶接が行われている状況が撮影された溶接映像データとPLCによる前記溶接機の制御に用いられた溶接機PLC制御データとを収集するデータ収集部と、
前記溶接映像データを複数のパラメータについて数値化処理し、溶接映像数値データとして出力する映像数値化処理部と、
前記溶接映像数値データ及び前記溶接機PLC制御データを溶接品質判定結果と関連付けて蓄積するデータ蓄積部と、
前記溶接品質判定結果に基づいて前記データ蓄積部に蓄積された過去データから正常時データを取得する正常時データ取得部と、
前記溶接品質判定結果に基づいて前記データ蓄積部に蓄積された過去データから異常時データを取得する異常時データ取得部と、
前記複数のパラメータのそれぞれについて前記正常時データから正常時パターンを生成する正常時パターン生成部と、
前記複数のパラメータのそれぞれについて前記異常時データと前記正常時パターンとを比較する比較部と、
前記比較部による比較結果に基づいて溶接異常に関わるパラメータを抽出する異常パラメータ抽出部と、
前記異常パラメータ抽出部で抽出されたパラメータについて前記異常時データから異常時パターンを生成し、溶接異常判定パターンとして設定する溶接異常判定パターン設定部と、
前記溶接映像数値データ及び前記溶接機PLC制御データを前記溶接異常判定パターンと比較することによって溶接品質を判定するとともに、前記溶接品質判定結果を前記データ蓄積部に出力する溶接品質判定部と、
を備えることを特徴とする溶接機の溶接品質判定支援システム。
【請求項2】
前記データ収集部で収集された前記溶接映像データ及び前記溶接機PLC制御データを、前記溶接品質判定部による前記溶接品質判定結果ととともに出力するデータ出力部
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の溶接品質判定支援システム。
【請求項3】
前記データ蓄積部は、前記溶接品質判定部で前記溶接品質判定結果が新たに得られるたびに、前記溶接映像数値データ及び前記溶接機PLC制御データに新たに得られた前記溶接品質判定結果を関連付けて前記過去データを更新する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接品質判定支援システム。
【請求項4】
前記溶接品質判定結果を前記PLCによる前記溶接機の制御にフィードバックするフィードバック部
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の溶接品質判定支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄プラントにおける冷間圧延設備及びプロセスライン向け溶接機に用いて好適な溶接品質判定支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プラントにおける冷間圧延設備及びプロセスラインでは、工場全体の生産能力を上げるために連続運転が行われている。先行材と後行材とを繋いで連続運転を可能にするため、ラインの入側セクションには溶接機が設置されている。溶接機の溶接時間及び溶接品質は、工場全体の生産能力に大きく関与する。
【0003】
溶接機の運転方法としては、操業者による操作入力によりプログラマブルロジックコントローラ(以下、PLC)を介して各アクチュエーターを作動させることが一般的である。近年では、溶接機の運転シーケンスは自動化されている。ただし、溶接品質の判定については、溶接された結果のデータを操業者が目視で確認し溶接状態の良し悪しを判断することが行われていた。操業者が問題ないと判断すれば、溶接が完了したとして次設備に材が送り出されていく。
【0004】
溶接機による溶接品質が悪い場合、次設備以降において溶接部破断が起こる可能性がある。溶接部破断が起きた場合、工場生産のロスは非常に大きくなる。しかし、操業者が目視で確認して溶接状態の良し悪しを判断する従来の方法では、操業者ごとの判断のばらつきが溶接部破断を起こす可能性を大きく引き上げる要因となっている。なお、本発明の属する技術分野における出願当時の技術水準を表す先行技術文献としては、以下の特許文献1を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、操業者ごとの溶接品質判定のばらつきを低減し、溶接品質を向上させることができる溶接品質判定支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶接品質判定支援システムは、データ収集部、映像数値化処理部、データ蓄積部、正常時データ取得部、異常時データ取得部、正常時パターン生成部、データ比較部、異常パラメータ抽出部、溶接異常判定パターン設定部、及び溶接品質判定部を備える。これらは、溶接品質判定支援システムの物理的構成であるコンピュータにおいて、メモリに記憶された1又は複数のプログラムがプロセッサで実行された場合に、コンピュータの機能として実現される。データ収集部は、溶接機による溶接が行われている状況が撮影された溶接映像データと、PLCによる溶接機の制御に用いられた溶接機PLC制御データとを収集する。映像数値化処理部は、溶接映像データを複数のパラメータについて数値化処理し、溶接映像数値データとして出力する。データ蓄積部は、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データを溶接品質判定結果と関連付けて蓄積する。正常時データ取得部は、溶接品質判定結果に基づいてデータ蓄積部に蓄積された過去データから正常時データを取得する。異常時データ取得部は、溶接品質判定結果に基づいてデータ蓄積部に蓄積された過去データから異常時データを取得する。正常時パターン生成部は、複数のパラメータのそれぞれについて正常時データから正常時パターンを生成する。データ比較部は、複数のパラメータのそれぞれについて異常時データと正常時パターンとを比較する。異常パラメータ抽出部は、データ比較部による比較結果に基づいて溶接異常に関わるパラメータを抽出する。溶接異常判定パターン設定部は、異常パラメータ抽出部で抽出されたパラメータについて異常時データから異常時パターンを生成し、溶接異常判定パターンとして設定する。溶接品質判定部は、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データを溶接異常判定パターンと比較することによって溶接品質を判定し、溶接品質判定結果をデータ蓄積部に出力する。
【0008】
本発明に係る溶接品質判定支援システムによれば、溶接品質判定結果が反映された過去データに基づいて溶接異常判定パターンが設定され、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データと溶接異常判定パターンとが比較される。このような客観的な比較の結果として溶接品質が行われることで、操業者ごとの溶接品質判定のばらつきを低減し、溶接品質を向上させることが可能となる。なお、データ蓄積部は、溶接品質判定部で溶接品質判定結果が新たに得られるたびに、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データに新たに得られた溶接品質判定結果を関連付けて過去データを更新することが好ましい。
【0009】
本発明に係る溶接品質判定支援システムは、データ出力部をさらに備えてもよい。他の部と同様に、データ出力部もまた、プログラムがプロセッサで実行された場合に、コンピュータの1つの機能として実現される。データ出力部は、データ収集部で収集された溶接映像データ及び溶接機PLC制御データを、溶接品質判定部による溶接品質判定結果ととともに出力する。これによれば、操業者は映像と数値データとを離れた場所から確認し判断することが可能となるので、操業者に従来かかっていた負担を低減させることができる。
【0010】
本発明に係る溶接品質判定支援システムは、フィードバック部をさらに備えてもよい。他の部と同様に、データ出力部もまた、プログラムがプロセッサで実行された場合に、コンピュータの1つの機能として実現される。フィードバック部は、溶接品質判定結果をPLCによる溶接機の制御にフィードバックする。これによれば、溶接品質判定結果をPLCにフィードバックする作業までシステムによって行われるので、操業者に従来かかっていた負担をさらに低減させることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したとおり、本発明に係る溶接品質判定支援システムによれば、溶接品質判定結果が反映された過去データに基づいて溶接異常判定パターンが設定され、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データと溶接異常判定パターンとの比較によって機械的に溶接品質の判定が行われるので、操業者ごとの溶接品質判定のばらつきを低減し、溶接品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る溶接品質判定支援システムの全体構成を表した図である。
【
図2】レーザー溶接の代表的な構成を示した図である。
【
図3】溶接機の入側における材のループ生成の一例と、その様子を撮影するカメラの配置を示した図である。
【
図4】溶接点を側部から見た場合の、先行材と後行材とに対する、材を固定するクランプと、溶接中の溶接部を撮影する溶接部表面監視用カメラ及び溶接部裏面監視用カメラの配置を示した図である。
【
図5】溶接点を上部から見た場合の、先行材と後行材、及び側面から溶接部を撮影する溶接部側面監視用カメラの配置を示した図である。
【
図6】溶接後の材の打ち抜き部とその様子を撮影する打ち抜き部監視用カメラの配置を示した図である。
【
図7】
図1に示す溶接品質判定支援システムのデータ収集及び溶接品質判定装置が備える機能をブロック図にて示した図である。
【
図8】溶接映像データのパラメータについて説明する図である。
【
図9】
図1に示す溶接品質判定支援システムの変形例の全体構成を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る溶接品質判定支援システムの全体構成を表した図である。本実施形態に係る溶接品質判定支援システムは、溶接機を制御するPLC1とネットワークで接続されるコンピュータ3を備える。PLC1からコンピュータ3には、制御データが入力される。また、コンピュータ3には、ネットワーク経由で或いはアナログ通信でカメラ2からの溶接映像データが入力される。コンピュータ3は、メモリに記憶された1又は複数のプログラムがプロセッサで実行されることで、データ収集及び溶接品質判定装置として機能し、収集データ及び溶接品質判定結果データを出力する。以下、コンピュータ3をデータ収集及び溶接品質判定装置3と称する。データ収集及び溶接品質判定装置3が備える機能の詳細については後述する。
【0015】
収集データ及び溶接品質判定結果データは、データ収集及び溶接品質判定装置3に付属の画面上で確認することができる。さらに、本実施形態に係る溶接品質判定支援システムは、データ収集及び溶接品質判定装置3からネットワークに出力される収集データ及び溶接品質判定結果データを、無線アクセスポイント4経由でモバイル端末5から常に確認することを可能としている。また、ゲートウェイモデム6経由でクラウドに収集データ及び溶接品質判定結果データを送信し、地理的に大きく離れた場所に設置されたクライアントPC7又はモバイル端末8から、収集データ及び溶接品質判定結果データを常に確認することを可能としている。
【0016】
ここで、本実施形態に係る溶接品質判定支援システムが適用される溶接機について説明する。本実施形態に係る溶接品質判定支援システムが適用される溶接機はレーザー溶接機である。
図2は、レーザー溶接の代表的な構成を示した図である。レーザー溶接とは、レーザー光を熱源として金属に集光した状態で照射し、金属を局所的に溶融・凝固させることにとって接合する方法のことである。レーザー溶接機は、レーザー発振器51、光路52、集光装置53、集光装置駆動系54、及びアシストガス送り装置55で構成されている。一般的なレーザー溶接では、発振器においてガス(例えばCO
2)と固体(例えばYAG)が用いられることが多い。レーザー発振器51で発振されたレーザー光は光路52を通じて集光装置53へ導かれる。そして、集光装置53で適切なサイズに集光された状態で、先行材62及び後行材61の突合せ部に照射される。このとき、溶接部の酸化を防ぐために、アシストガス送り装置55から不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、窒素等)を溶接部に吹き付ける場合がある。そして、集光装置53が集光装置駆動系54によって移動することにより、先行材62及び後行材61の突合せ部に沿って溶接が進行する。溶接が完了するとレーザーの照射は停止する。このように、一連の流れでレーザー溶接は行われるが、本実施形態では各部の詳細な構造等については指定されない。
【0017】
次に、本実施形態に係る溶接品質判定支援システムにおいて溶接映像の撮影に用いられるカメラ(
図1に示すカメラ2)について
図3~
図6を用いて説明する。ただし、本実施形態においてはカメラの詳細仕様については指定されない。
【0018】
図3は、レーザー溶接機の入側における材のループ73の生成の一例と、その様子を撮影するループ生成監視用カメラ200の配置を示した図である。溶接機入側テーブル72を通って溶接機本体71に送られてくる後行材には、後述するクランプによって突合せ調整を行う必要から、図に示すようなループ73が持たされる。ループ生成監視用カメラ200は、このループ73の状況を撮影するカメラである。
【0019】
図4は、溶接点を側部から見た場合の、先行材61と後行材62とに対する、材を固定するクランプ80,81と、溶接中の溶接部を撮影する溶接部表面監視用カメラ201及び溶接部裏面監視用カメラ202の配置を示した図である。レーザー溶接機内では、先行材62と後行材61とが各々クランプ80,81で挟み込まれ、その状態で端部が切断されて突合せ面を平滑にされる。先行材62と後行材61の平滑にされた突合せ面が突き合わせられた後、溶接部表面監視用カメラ201及び溶接部裏面監視用カメラ202によって、レーザーが材61,62へ照射される状況が撮影される。
【0020】
図5は、溶接点を上部から見た場合の、先行材61と後行材62、及び側面から溶接部を撮影する溶接部側面監視用カメラ203の配置を示した図である。溶接部側面監視用カメラ203は、先行材62と後行材61の突合せ状態及び溶接中のアクチュエーターの動作状態を溶接側面から撮影するために設置される。先行材62と後行材61としては、同一又は運用上決められた範囲内の差がある幅の材が用いられる。
【0021】
図6は、溶接後の材の打ち抜き部とその様子を撮影する打ち抜き部監視用カメラ204の配置を示した図である。溶接の完了後、先行材62及び後行材61の溶接部の幅方向の端部は、円柱型シャー91で打ち抜かれる。この材の打ち抜きによって、以降の設備での通板性が向上する。打ち抜き部監視用カメラ204は、溶接部の幅方向端部が円柱型シャー91で打ち抜かれる様子を撮影する。
【0022】
次に、データ収集及び溶接品質判定装置3について
図7を用いて説明する。
図7は、データ収集及び溶接品質判定装置3が備える機能をブロック図にて示した図である。データ収集及び溶接品質判定装置3は、データ収集部31、映像数値化処理部32、データ蓄積部33、正常時データ取得部34、異常時データ取得部35、正常時パターン生成部36、データ比較部37、異常パラメータ抽出部38、溶接異常判定パターン設定部39、溶接品質判定部40、及びデータ出力部41を備える。ただし、データ収集及び溶接品質判定装置3を構成する各機能については、1つのハードウェア内で完結させることに限る必要は無く、各機能を複数のハードウェア上に実装させてもよい。
【0023】
データ収集部31は、溶接機による溶接が行われている状況が撮影された溶接映像データをカメラ2(
図1参照)から収集し、且つ、溶接機の制御に用いられた溶接機PLC制御データをPLC1(
図1参照)から収集する。データ収集部31で収集された各溶接映像データ及び溶接機PLC制御データは、データをそのまま出力する為にデータ出力部41に送られる。また、溶接映像データは映像数値化処理部32を経由して数値化された後、溶接映像数値データとしてデータ蓄積部33に送られる。
【0024】
映像数値化処理部32は、溶接映像データを複数のパラメータについて数値化処理する。ここで、溶接映像データのパラメータについて
図8を用いて説明する。
図8には、溶接部の裏面から撮影した溶接光の画像が示されている。この溶接光の画像には、外周長、ギャップ、重心位置、面積、スパーク粗さ、真円度等のパラメータが含まれている。映像数値化処理部32は、これらのパラメータの生値及び統計値を溶接映像数値データとして出力する。
【0025】
データ蓄積部33には、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データが入力されるとともに、後述する溶接品質判定部40から1つ前の溶接品質判定結果が送信される。データ蓄積部33は、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データに、対応する溶接品質判定結果を関連付ける。具体的には、溶接ごとのデータ群に対して、溶接異常または正常といったタグを付加する。データ蓄積部33には、溶接品質判定結果を関連付けられた溶接ごとのデータ群が蓄積し続けられる。
【0026】
正常時データ取得部34は、データ蓄積部33に蓄積されている過去データから全ての正常時データを取り出す。或いは、最新の所定個数の正常時データを取り出すのでもよい。正常時データかどうかは、データに関連付けられた溶接品質判定結果から判断することができる。正常時データ取得部34は、取り出した正常時データを正常時パターン生成部36へ出力する。正常時データ取得部34から正常時パターン生成部36への正常時データの出力は、1日ごと或いは1週間ごとのように定期的に行うのでのよいし、正常時データがデータ蓄積部33に一定個数蓄積されるたびのようにイベントごとに行うのでもよい。
【0027】
異常時データ取得部35は、データ蓄積部に蓄積されている過去データから、異常時データを取り出す。異常時データかどうかは、データに関連付けられた溶接品質判定結果から判断することができる。異常時データ取得部35は、データ蓄積部33に新たに異常時データが蓄積されるたびにその異常時データを取り出してもよいし、データ蓄積部33に所定個数の異常時データが蓄積されるたびにその所定個数の異常時データをまとめて取り出してもよい。異常時データ取得部35は、取り出した異常時データをデータ比較部37へ出力する。
【0028】
正常時パターン生成部36は、溶接映像データのパラメータのそれぞれについて、正常時データ取得部34から入力された全ての正常時データを用いて正常時パターン(正常時データのパターン)を生成する。正常パターンの生成方法は、一般的に用いられるデータ分析方法を使用することができる。例えば、材の特性や板厚等の属性別に集計し相関関係を分析するクロス集計を用いてもよい。事象の発生確率を予測するロジスティック回帰分析を用いてもよい。一見関連性が無さそうでも共起性のある項目を大規模データで関連性を分析するアソーシエーション分析を用いてもよい。仮設を繰り返して枝分かれしたモデル図を生成する決定木分析を用いてもよい。様々な性質のデータが存在している中で、対象データを類似性によりグループに分類しその属性を分析するクラスター分析を用いてもよい。データ分析の前段階にデータを分析しやすいようにデータを整え、似た要因を主成分に集約させる主成分分析を用いてもよい。さらに、これらのデータ分析手法を任意に組み合わせることにより、正常時パターンを生成してもよい。正常時パターン生成部36は、生成した正常時パターンをデータ比較部37へ出力する。
【0029】
データ比較部37は、溶接映像データのパラメータのそれぞれについて、異常時データ取得部35から入力された個々の異常時データと正常時パターン生成部36から入力された正常時パターンとを比較する。詳しくは、データ比較部37は、同じパラメータについて異常時データと正常時パターンを比較し、全てのパラメータについて異常時データと正常時パターンの差分を生成する。
【0030】
異常パラメータ抽出部38は、データ比較部37で生成された差分に基づいてパラメータごとに溶接異常に関わるパラメータを抽出する。具体的には、差分と任意に設定される閾値とをパラメータごとに比較する。そして、差分が閾値を超えるパラメータを溶接異常に関わるパラメータとして抽出する。異常パラメータ抽出部38は、抽出した異常パラメータを溶接異常判定パターン設定部39へ出力する。
【0031】
溶接異常判定パターン設定部39は、異常パラメータ抽出部38で抽出されたパラメータについて異常時データから異常時パターンを生成し、溶接異常判定パターンとして設定する。異常時データから異常時パターンを生成する方法は、正常時パターン生成部36による正常時パターンの生成方法と同様である。設定された溶接異常判定パターンは、溶接異常に関わるパラメータごとに溶接品質判定部40に保存される。
【0032】
溶接品質判定部40には、溶接映像数値データと溶接機PLC制御データとが入力される。溶接品質判定部40は、溶接異常に関わるパラメータに関して、入力された溶接映像数値データと溶接機PLC制御データを溶接異常判定パターンと比較する。具体的には、溶接異常に関わるパラメータに関して、溶接映像数値データ及び溶接機PLC制御データと溶接異常判定パターンとの差分を公知のパターン認識技術を用いて計算し、その差分が任意の閾値よりも大きいかどうかを判定することによって、溶接品質を判定する。
【0033】
溶接品質判定部40で得られた溶接品質判定結果は、データ蓄積部33に送られるとともにデータ出力部41にも送られる。データ出力部41には、溶接品質判定結果とともに、データ収集部31で収集された溶接映像データ及び溶接機PLC制御データと、映像数値化処理部32で得られた溶接映像数値データが入力される。データ出力部41は、これらのデータを付属の画面に表示したり、ネットワークを経由して外部に送信したりする。操業者は、データ出力部41から出力される溶接品質判定結果のデータに基づき、次の設備に材を送るか、溶接をやり直すか決定する。
【0034】
なお、収集データ及び溶接品質判定結果データを確認する方法としては、文字、映像、画像、ポップアップ、音声等、操業者及びデータ確認者にとって、各々が最適と思われる方法で確認されるものとしてよい。また、収集データ及び溶接品質判定結果データを確認するためのアプリケーションとしては、例えばプラットフォーム上で直接動作するネイティブアプリや、ブラウザ内で動作するウェブアプリケーション等、操業者及びデータ確認者の各々が最適と思われるアプリケーションが用いられてよい。
【0035】
以上説明したとおり、本実施形態に係る溶接品質判定支援システムは、これまで人間系の経験で判定されてきた溶接品質に対して、溶接品質判定結果を関連付けた過去データの蓄積と、蓄積され続ける過去データを用いた溶接異常判定パターンの生成と、溶接異常判定パターンと溶接データとの比較による溶接品質の自動判定という機能を提供するものである。これにより、人間系による溶接品質判定で問題があった判定基準のばらつきは抑制される。また、操業者は収集データ及び溶接品質判定結果データを離れた場所から確認し判断することが可能となるので、操業者に従来かかっていた負担は低減される。
【0036】
図9は、
図1に示す溶接品質判定支援システムの変形例の全体構成を表した図である。この変形例では、データ収集及び溶接品質判定装置3が出力した溶接品質判定結果がPLC1による溶接機の制御にフィードバックされる。つまり、システムとして、溶接品質判定結果をPLC1による溶接機の制御にフィードバックするフィードバック部を備える。PLC1は、受け取った溶接品質判定結果に応じて溶接シーケンスを作動させる。このように溶接品質判定結果がPLC1に自動でフィードバックされる場合には、操業者に従来かかっていた負担をさらに低減させることができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、この発明の用途としてレーザービーム溶接機の場合を例に説明したが、その他の溶接機、例えばシーム溶接機にも同様に適用でき、同様な効果を得ることができる。シーム溶接機は、先行材と後行材を重ね合わせて円盤電極を回転させながら通電し、電気抵抗による加熱により連続的に溶接する溶接機である。
【符号の説明】
【0038】
1 溶接機PLC、2 溶接映像撮影カメラ、3 データ収集及び溶接品質判定装置、4 無線アクセスポイント、5 無線経由モバイル端末、6 ゲートウェイモデム、7 クライアントPC、8 クラウド経由モバイル端末、31 データ収集部、32 映像数値化処理部、33 データ蓄積部、34 正常時データ取得部、35 異常時データ取得部、36 正常時パターン生成部、37 データ比較部、38 異常パラメータ抽出部、39 溶接異常判定パターン設定部、40 溶接品質判定部、41 データ出力部、51 レーザー発振器、52 光路、53 集光装置、54 集光装置駆動系、55 アシストガス送り装置、61 後行材、62 先行材、71 溶接機本体、72 溶接機入側テーブル、73 溶接用ループ、80 後行材用クランプ、81 先行材用クランプ、91 円柱型シャー、200 ループ生成監視用カメラ、201 溶接部表面監視用カメラ、
202 溶接部裏面監視用カメラ、203 溶接部側面監視用カメラ、204 打ち抜き部監視用カメラ