(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】表面分析装置
(51)【国際特許分類】
G01Q 10/02 20100101AFI20230711BHJP
【FI】
G01Q10/02
(21)【出願番号】P 2020092131
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平出 雅人
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特許第6631674(JP,B1)
【文献】特開平11-006837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00 - 90/00
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面を分析する表面分析装置であって、
測定部と、
試料を載置する試料台と、
前記測定部と前記試料台とを相対的に変位させる移動機構とを備え、
前記移動機構は、
第1ブロック、前記試料台を保持する第2ブロック、ならびに前記第1ブロックおよび前記第2ブロックに軸支されるリンク部材を含むリンク機構と、
前記第1ブロックを第1方向に往復移動させるスライド機構と、
前記第2ブロックまたは前記リンク部材に当接して前記第2ブロックの第2方向の昇降移動をガイドする当接部材とを含み、
前記リンク部材は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向の回動軸まわりに回動可能となるように前記第1ブロックおよび前記第2ブロックに軸支され、
前記第1ブロックが前記当接部材側に移動するときに、前記第2ブロックまたは前記リンク部材が前記当接部材に最初に当接する第1の接触点において、前記当接部材の表面は、前記第1方向に対して0度より大きく90度より小さい角度で交差する斜め上方向の法線ベクトルを有する、表面分析装置。
【請求項2】
前記法線ベクトルは、前記第1方向に対して45度以上90度より小さい角度で交差する、請求項1に記載の表面分析装置。
【請求項3】
試料表面を分析する表面分析装置であって、
測定部と、
試料を載置する試料台と、
前記測定部と前記試料台とを相対的に変位させる移動機構とを備え、
前記移動機構は、
第1ブロック、前記試料台を保持する第2ブロック、ならびに前記第1ブロックおよび前記第2ブロックに軸支されるリンク部材を含むリンク機構と、
前記第1ブロックを第1方向に往復移動させるスライド機構と、
前記第2ブロックまたは前記リンク部材に当接して前記第2ブロックの第2方向の昇降移動をガイドする当接部材とを含み、
前記リンク部材は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向の回動軸まわりに回動可能となるように前記第1ブロックおよび前記第2ブロックに軸支され、
前記当接部材は、前記第3方向から見て円形の断面を有し、
前記第1ブロックが前記当接部材側に移動するときに、前記円形の断面の中心軸に対して斜め上方に位置する第1の接触点において、前記第2ブロックまたは前記リンク部材が前記当接部材に最初に当接する、表面分析装置。
【請求項4】
前記第1の接触点は、前記第1方向に対して前記円形の断面の周方向に45度以上90度より小さい角度だけ離れた位置にある、請求項3に記載の表面分析装置。
【請求項5】
前記第2ブロックは、前記当接部材側に位置する端部を有し、
前記端部の一部に前記当接部材側に突出する突出部が設けられ、
前記第1ブロックが前記当接部材側に移動するときに、前記第2ブロックにおける前記突出部が前記当接部材に最初に当接する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の表面分析装置。
【請求項6】
前記第2ブロックの前記当接部材側の端面は、前記突出部の下方に連なる曲面を含み、
前記曲面は、該曲面に当接する前記当接部材の曲率半径よりも大きな曲率半径を有する円弧面を含む、請求項5に記載の表面分析装置。
【請求項7】
前記第2ブロックの前記当接部材側の端面は、前記突出部よりも下方に位置し、前記第2方向に延在する平面を含み、
前記試料台が前記測定部に対向する位置にあるとき、前記当接部材は前記平面に当接する、請求項5または請求項6に記載の表面分析装置。
【請求項8】
前記当接部材は、前記リンク部材の前記第3方向の前記回動軸と平行な回転軸まわりに回転可能なローラを含む、請求項1から請求項7のいずれかに記載の表面分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リンク機構を用いた移動方向の変換機構を含む装置の一例としての表面分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特許第6631674号公報)には、試料表面を分析する表面分析装置が開示されている。特許文献1には、測定位置と該測定位置よりも下方に位置する退避位置との間で試料台が昇降するように試料台保持部を昇降させ、退避位置と試料取出位置との間で試料台が移動するように試料台保持部を前後方向に往復移動させる移動機構が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の移動機構は、2つのブロック(下方に設けられた支持体および上方に設けられた試料台保持部)と当該2つのブロックを連結するリンク部材とを含むリンク機構を含み、試料台保持部の後面がローラに当接することで試料台保持部の後方への移動が規制され、その状態で、支持体を前後に移動させることで、リンク部材の傾斜角度が変動し、試料台保持部の昇降が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の移動機構において、試料台保持部がローラに当接したときのリンク部材(リンク機構)の水平方向に対する傾斜角度が小さい(たとえば45度よりも小さい)と、リンク部材に作用する回転方向の力の成分が相対的に小さくなり、前後方向(水平方向)の駆動力を上下方向に必ずしも効率よく変換できず、リンク機構が円滑に稼働しない場合が生じ得る。
【0006】
本開示の目的は、リンク機構を用いた移動方向の変換を円滑に行なうことが可能な変換機構であって、表面分析装置等に適用できるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る表面分析装置は、試料表面を分析する表面分析装置である。表面分析装置は、測定部と、試料を載置する試料台と、上記測定部と上記試料台とを相対的に変位させる移動機構とを備える。
【0008】
上記移動機構は、第1ブロック、上記試料台を保持する第2ブロック、ならびに上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支されるリンク部材を含むリンク機構と、上記第1ブロックを第1方向に往復移動させるスライド機構と、上記第2ブロックまたは上記リンク部材に当接して上記第2ブロックの第2方向の昇降移動をガイドする当接部材とを含む。上記リンク部材は、上記第1方向および上記第2方向に直交する第3方向の回動軸まわりに回動可能となるように上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支される。
【0009】
1つの態様では、上記表面分析装置において、上記第1ブロックが上記当接部材側に移動するときに、上記第2ブロックまたは上記リンク部材が上記当接部材に最初に当接する第1の接触点において、上記当接部材の表面は、上記第1方向に対して0度より大きく90度より小さい角度で交差する斜め上方向の法線ベクトルを有する。
【0010】
他の態様では、上記表面分析装置において、上記当接部材は、上記第3方向から見て円形の断面を有する。上記第1ブロックが上記当接部材側に移動するときに、上記円形の断面の中心軸に対して斜め上方に位置する第1の接触点において、上記第2ブロックまたは上記リンク部材が上記当接部材に最初に当接する。
【0011】
上記表面分析装置にあっては、第2ブロックまたはリンク部材が当接部材に最初に当接したとき、第1の接触点において、第2ブロックまたはリンク部材は、当接部材から斜め上方向の反力を受ける。この反力は第2ブロックまたはリンク部材を持ち上げないし回動させる力となる。したがって、スライド機構の負荷を過度に大きくすることなく、リンク機構による移動方向の変換を円滑に行なうことができる。別の観点では、リンク部材の傾斜が比較的小さい状態から第2ブロックの上昇ないしリンク部材の回動を開始させることができるので、リンク機構による第2方向の移動のストロークを大きくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、スライド機構の負荷を過度に大きくすることなく、リンク機構を用いた移動方向の変換を円滑に行なうことができる。別の観点では、リンク機構による第2方向の移動のストロークを大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】走査型プローブ顕微鏡における測定部と試料台の測定時の位置関係を示す模式図である。
【
図2】走査型プローブ顕微鏡における測定部と試料台の試料取出時の位置関係を示す模式図である。
【
図3】試料取出位置と測定位置との間で試料台を移動させる移動機構の概念図(その1)である。
【
図4】試料取出位置と測定位置との間で試料台を移動させる移動機構の概念図(その2)である。
【
図5】リンク機構の垂直方向の移動量、回転半径、および回転角の関係を模式的に示す図である。
【
図6】リンク機構に作用する力の分力を模式的に示す図(その1)である。
【
図7】リンク機構に作用する力の分力を模式的に示す図(その2)である。
【
図8】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の第1の状態を示す図である。
【
図9】
図8に示す移動機構の第2の状態を示す図である。
【
図10】
図8に示す移動機構の第3の状態を示す図である。
【
図11】
図8~
図10に示す移動機構においてリンク機構が当接部材から受ける力の方向を示す図(その1)である。
【
図12】
図8~
図10に示す移動機構においてリンク機構が当接部材から受ける力の方向を示す図(その2)である。
【
図13】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その1)を示す図である。
【
図14】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その2)を示す図である。
【
図15】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その3)を示す図である。
【
図16】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その4)を示す図である。
【
図17】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その5)を示す図である。
【
図18】本開示の1つの実施の形態に係る移動機構の変形例(その6)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0015】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示にとって必ずしも必須のものではない。
【0016】
図1は、実施の形態に係る「表面分析装置」としての走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)における測定部と試料台の測定時の位置関係を示す模式図である。
図2は、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡における測定部と試料台の試料取出時の位置関係を示す模式図である。
図1および
図2を参照して、走査型プローブ顕微鏡10について説明する。
【0017】
図1に示すように、走査型プローブ顕微鏡10は、測定部20と、試料台30とを備える。走査型プローブ顕微鏡10は、水平面上に載置して使用される。走査型プローブ顕微鏡10は、試料表面を微小なプローブ(探針)で走査し、試料の三次元形状や局所的物性を高倍率で観察し、分析するための顕微鏡である。
【0018】
測定部20は、測定位置にある試料台30に載置された試料の上方側から試料を測定する。測定部20は、図示しないカンチレバーを有する。試料の表面を走査するカンチレバーの反りや振動を検出することで、試料の形状や表面物性を観察することができる。
【0019】
測定部20は、変位検出系を有する。変位検出系は、レーザー光を出力するレーザーダイオードや、レーザー光を試料に導くレンズやミラー等の光学系、ビームスプリッターや、カンチレバーの反射光を受光するフォトディテクター等を含む。
【0020】
試料台30は、試料を載置するための部位である。試料台30は、試料取出位置(第1の位置)と測定位置(第2の位置)との間で移動可能に構成されている。この結果、測定部20と試料台30とは相対的に変位する。
【0021】
測定時においては、
図1に示すように、試料台30は測定位置に位置する。このとき、試料台30は、測定部20に対向する。試料取出時においては、
図2に示すように、試料台30は試料取出位置に位置する。試料取出位置は、測定位置よりも下方側かつ(走査型プローブ顕微鏡10の)前方側に位置する。測定位置から試料取出位置に移動するとき、試料台30は、最初に下方に移動してから前方に移動する。このため、試料台30が前方に移動するときには、試料台30は測定部20から下方に十分離れている。よって、安全に試料を前方に引き出すことができる。また、液中観察においてシャーレを用いた場合でも、試料交換を支障なく行なうことができる。さらに、試料取出位置が測定位置よりも前方側に位置するため、試料交換時に試料の上方にカンチレバーが位置しない。これにより、試料交換の作業性が向上する。
【0022】
試料取出位置と測定位置との間で試料台30を移動させるためには、試料台30を走査型プローブ顕微鏡10の前後方向(矢印DR1方向)に移動させるとともに、試料台30を上下方向(矢印DR2方向)に移動させる移動機構が必要である。
図3,
図4は、試料取出位置(第1の位置)と測定位置(第2の位置)との間で試料台を移動させる移動機構の概念図である。
【0023】
図3,
図4に示すように、移動機構は、第1ブロック100と、第2ブロック200と、リンク部材300と、当接部材400と、スライド機構500とを含む。
【0024】
第1ブロック100は下方に設けられ、第2ブロック200は上方に設けられる。第2ブロック200は、試料台30を保持する。第1ブロック100と、第2ブロック200は、複数のリンク部材310,320により連結されている。複数のリンク部材300(310,320)の一端は、各々、第1ブロック100に回動可能に軸支されている。複数のリンク部材300(310,320)の他端は、各々、第2ブロック200に回動可能に軸支されている。第1ブロック100、第2ブロック200、およびリンク部材300によりリンク機構が構成される。
【0025】
スライド機構500により、第1ブロック100、第2ブロック200、およびリンク部材300は矢印DR1方向(第1方向)に往復移動する。
図3に示す状態から、リンク機構が図中左側(走査型プローブ顕微鏡10の後方側)に移動すると、
図4に示すように、第2ブロック200の後方端部が当接部材400に当接する。当接部材400に当接した第2ブロック200の矢印DR1方向の移動は規制される。
【0026】
第2ブロック200が当接部材400に当接した状態で、第1ブロック100を図中左側にさらに移動させると、第2ブロック200は当接部材400にガイドされながら、矢印DR2方向(第2方向)に沿って上昇する。すなわち、当接部材400は、第2ブロック200に当接して、第2ブロック200の上下方向(矢印DR2方向)の昇降移動をガイドする。このとき、リンク部材300は、紙面に垂直な方向(第3方向)の回動軸まわりに回動する。
【0027】
第2ブロック200は、試料台30が試料取出位置(第1の位置)にある状態から、走査型プローブ顕微鏡10の後方側に移動し、その後、当接部材400にガイドされて上方に移動する。この結果、第2ブロック200に保持された試料台30は、測定部20に対向する測定位置(第2の位置)に達する。試料台30を測定位置(第2の位置)から試料取出位置(第1の位置)に移動させるときは、上記とは逆向きにリンク機構を動作させる。
【0028】
本実施の形態の例では、当接部材400は、リンク部材300の回動軸と平行な回転軸まわりに回転可能な円形のローラにより構成されるが、当接部材400の形状は円形に限定されない。また、当接部材400は回転可能なローラに限定されるものではなく、第2ブロック200の矢印DR2方向の移動をガイドできるものであればよい。
【0029】
スライド機構500は、モータを含み、このモータの駆動力により、矢印DR1方向(走査型プローブ顕微鏡10の前後方向)に沿って第1ブロック100(支持体)を往復移動させる。
【0030】
図5は、リンク機構の垂直方向の移動量、回転半径、および回転角の関係を模式的に示す図である。
【0031】
図5に示すように、リンク部材310の長さを「r」、リンク部材310と上下方向(矢印DR2方向)とのなす角度を「θ」とした場合、リンク機構による上下方向の最大ストローク「x」は、
x=r-y=r-r・cosθ=r・(1-cosθ)
の式により求められる。
【0032】
したがって、リンク機構による上下方向の移動量(すなわち、第2ブロック200に保持される試料台30の上下方向の移動ストローク)を大きくしたい場合、
図5中の「r」または「θ」を大きくする必要がある。
図5中の「r」を大きくした場合、リンク機構が大型化することになる。
【0033】
図6,
図7は、リンク機構に作用する力の分力を模式的に示す図である。
図7は、
図6よりもリンク部材310と上下方向(矢印DR2方向)とのなす角度「θ」が大きい状態を示す。
【0034】
第2ブロック200が当接部材400に当接すると、第2ブロック200は当接部材400から反力を受ける。当接部材400からの反力の水平方向成分は、
図6,
図7に示すように、リンク部材310に外力Fとして伝達される。リンク部材310に伝達された外力Fは、リンク部材310の軸方向成分F1と、リンク部材310の回転方向成分F2とに分解される。回転方向成分F2は、リンク部材310を回動させて第2ブロック200を持ち上げる力となる。
【0035】
図7の例では、
図6の例と比較して、リンク部材310と上下方向とのなす角度が大きい。このため、
図7の例では、相対的に大きなリンク機構の上下方向ストロークを得ることができる。他方、
図7の例では、
図6の例と比較して、リンク部材310に作用する外力Fの回転方向成分F2が相対的に小さい。
図7に示す状態でリンク機構が移動して第2ブロック200が当接部材400に当接すると、第2ブロック200を持ち上げる力が十分でなく、リンク機構による移動方向の変換が円滑に行なわれない場合が生じ得る。
【0036】
第2ブロック200を持ち上げる力を大きくするために、外力Fを大きくすることが考えられる。外力Fを大きくすると、スライド機構500のモータの負荷が大きくなる。
【0037】
本実施の形態に係る移動機構は、これらの問題を解消し得る。この移動機構について、より詳細に説明する。
図8は、第2ブロック200が当接部材400に当接する前の状態(第1の状態)を示し、
図9は、第2ブロック200が当接部材400に当接した後、斜め上方に持ち上げられた状態(第2状態)を示し、
図10は、第2ブロック200が
図9の状態から垂直に持ち上げられた状態(第3状態)を示す。
【0038】
図8~
図10に示すように、第2ブロック200の当接部材400側の端部の上側部分に、当接部材400側に突出する突出部210が設けられている。
【0039】
図8に示す状態から、第1ブロック100が当接部材400側(図中左側)に移動するとき、第2ブロック200における突出部210が当接部材400に最初に当接する。より具体的には、突出部210の下側の角部に位置する当接点211が、当接部材400接触点A(第1の接触点)と最初に当接する。当接部材400の接触点Aは、当接部材400の円形断面の中心軸Oよりも斜め上方に位置する。なお、突出部210の下側の角部に面取りまたはR加工が施され、その面取り部またはR加工部上に当接点211が位置してもよい。
【0040】
第2ブロック200の当接点211が当接部材400の接触点Aと当接した後、第1ブロック100は、図中左側に向かってさらに駆動される。これにより、第2ブロック200は当接部材400にガイドされながら上昇し、
図9に示すように、当接点211に加えて、突出部210の下方に位置する垂直面220が当接部材400と当接する。垂直面220は、当接部材400の円形断面の中心軸Oを含む水平面上に位置する接触点B(第2の接触点)と当接する。
【0041】
図9に示す状態から、第1ブロック100は、図中左側に向かってさらに駆動される。これにより、第2ブロック200は、垂直面220が接触点Bと当接した状態で、当接部材400にガイドされながらさらに上昇する。
図10に示す状態まで第2ブロック200が上昇したとき、試料台30は測定部20に対向する測定位置に達する。
【0042】
図11,
図12は、
図8~
図10に示す移動機構においてリンク機構が当接部材から受ける力の方向を示す図である。
図11は、第2ブロック200の当接点211が最初に当接部材400に当接したときの状態を示し、
図12は、第2ブロック200が上昇して、垂直面220が当接部材400に当接したときの状態を示す。
【0043】
図11,
図12に示すように、第2ブロック200は、接触点(
図11中の「A」、
図12中の「B」)における当接部材400の表面の法線ベクトルの方向に反力Pを受けることになる。
【0044】
図11に示すように、第2ブロック200が当接部材400に最初に当接したとき、接触点Aにおいて当接部材400の表面は斜め上方向の法線ベクトルを有するため、第2ブロック200は、斜め上方向の反力Pを受ける。この反力Pは、水平方向成分P1と垂直方向成分P2とに分解される。垂直方向成分P2は第2ブロック200を上方向に持ち上げる力となり、第2ブロック200は、リンク部材300に加えて、当接部材400からも上方向の力を受けて上昇を始めることができる。したがって、スライド機構500のモータの負荷を過度に大きくすることなく、リンク機構による移動方向の変換を円滑に行なうことができる。別の観点では、リンク部材300の傾斜が比較的水平に近い状態(
図5中のθが比較的大きい状態)から第2ブロック200の上昇を開始させることができるので、リンク機構による上下移動のストロークを大きくすることができる。
【0045】
図12に示すように、第2ブロック200の垂直面220が当接部材400に当接しているとき、接触点Bにおいて当接部材400の表面は水平方向の法線ベクトルを有するため、第2ブロック200は、水平方向の反力Pを受ける。このとき、第2ブロック200は当接部材400から上方向の力を受けないが、既にリンク部材300の傾斜が比較的大きく(
図5中のθが比較的小さく)なっているため、リンク部材300からの力のみで第2ブロック200を円滑に上昇させることが可能である。
【0046】
第2ブロック200が当接部材400に最初に当接したときの上向きの力を大きくする観点からは、接触点Aにおける法線ベクトルは、水平方向に対して45度以上斜め上方向に傾斜していることが望ましいが、法線ベクトルの傾斜角度はこれに限定されず、0度より大きく90度より小さい角度であれば適宜変更可能である。
【0047】
図8~
図12の例では、突出部210の下方に垂直面220が設けられ、試料台30が測定部20に対向する測定位置に達するときには当接部材400が垂直面220に当接するように構成したため、試料台30が測定部20に近づいたときに、試料台30を斜め方向ではなく上下方向(水平面に直交する垂直方向)に沿って昇降させることができる。これにより、走査型プローブ顕微鏡10の筐体の内部空間における各部品の配置(特に、測定部20近くの配置)の自由度が向上する。
【0048】
次に、
図13~
図18を用いて、本実施の形態に係る移動機構の変形例について説明する。
【0049】
図13の例では、突出部210の当接点211と垂直面220との間に円弧面230(曲面)が設けられている。円弧面230は、突出部210の下方に連なるように形成され、円形の当接部材400の半径よりも大きな曲率半径を有する。
【0050】
当接部材400よりも曲率半径の大きい円弧面230を突出部210と垂直面220との間に設けることにより、当接点211が接触点Aに最初に当接した後、第2ブロック200が当接部材400から離間することなく上昇し続けることができるので、より円滑に第2ブロック200を上昇させることが可能である。
【0051】
図14の例では、円弧面230に代えて傾斜面240(平面)が設けられている。
図14の例においても、
図13の例と同様、第2ブロック200が当接部材400から離間することなく上昇し続けることができる。
【0052】
図15,
図16の例では、突出部210の下方に垂直面220が設けられず、円弧面230(
図15)、傾斜面240(
図16)のみが設けられている。
【0053】
図17の例では、第2ブロック200が第1部材200Aと第2部材200Bとから構成され、第2部材200Bによって突出部210が形成される。
【0054】
以上においては、第2ブロック200が最初に当接部材400に当接する例について説明したが、
図18に示すように、第2ブロック200に代えて、リンク部材310の当接点311が当接部材400に当接するようにしてもよい。また、リンク部材の側面に加工を施して、所望の形状の当接面を形成してもよい。
【0055】
また、本実施の形態においては、上述のリンク機構を含む移動機構を適用する装置の例として、走査型プローブ顕微鏡10(表面分析装置)について説明したが、本開示に係る移動機構は、表面分析装置に適用されるものに限定されない。本開示の範囲は、たとえば、真空装置などにおいて使用されるゲートバルブなどに含まれる上記と同様の構成を有する移動機構にも及ぶ。
【0056】
[付記]
以上のように、本実施形態は以下のような開示を含む。
【0057】
[構成1]
試料表面を分析する表面分析装置であって、測定部と、試料を載置する試料台と、上記測定部と上記試料台とを相対的に変位させる移動機構とを備え、上記移動機構は、第1ブロック、上記試料台を保持する第2ブロック、ならびに上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支されるリンク部材を含むリンク機構と、上記第1ブロックを第1方向に往復移動させるスライド機構と、上記第2ブロックまたは上記リンク部材に当接して上記第2ブロックの第2方向の昇降移動をガイドする当接部材とを含み、上記リンク部材は、上記第1方向および上記第2方向に直交する第3方向の回動軸まわりに回動可能となるように上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支され、上記第1ブロックが上記当接部材側に移動するときに、上記第2ブロックまたは上記リンク部材が上記当接部材に最初に当接する第1の接触点において、上記当接部材の表面は、上記第1方向に対して0度より大きく90度より小さい角度で交差する斜め上方向の法線ベクトルを有する、表面分析装置。
【0058】
上記表面分析装置にあっては、第2ブロックまたはリンク部材が当接部材に最初に当接したとき、第1の接触点において、第2ブロックまたはリンク部材は、当接部材から斜め上方向の反力を受ける。この反力は第2ブロックまたはリンク部材を持ち上げないし回動させる力となる。したがって、スライド機構の負荷を過度に大きくすることなく、リンク機構による移動方向の変換を円滑に行なうことができる。別の観点では、リンク部材の傾斜が比較的小さい状態から第2ブロックの上昇ないしリンク部材の回動を開始させることができるので、リンク機構による第2方向の移動のストロークを大きくすることができる。
【0059】
[構成2]
上記法線ベクトルは、上記第1方向に対して45度以上90度より小さい角度で交差する、構成1に記載の表面分析装置。
【0060】
上記構成2によれば、構成1に対して、さらに円滑にリンク機構による移動方向の変換を行なうことができる。
【0061】
[構成3]
試料表面を分析する表面分析装置であって、測定部と、試料を載置する試料台と、上記測定部と上記試料台とを相対的に変位させる移動機構とを備え、上記移動機構は、第1ブロック、上記試料台を保持する第2ブロック、ならびに上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支されるリンク部材を含むリンク機構と、上記第1ブロックを第1方向に往復移動させるスライド機構と、上記第2ブロックまたは上記リンク部材に当接して上記第2ブロックの第2方向の昇降移動をガイドする当接部材とを含み、上記リンク部材は、上記第1方向および上記第2方向に直交する第3方向の回動軸まわりに回動可能となるように上記第1ブロックおよび上記第2ブロックに軸支され、上記当接部材は、上記第3方向から見て円形の断面を有し、上記第1ブロックが上記当接部材側に移動するときに、上記円形の断面の中心軸に対して斜め上方に位置する第1の接触点において、上記第2ブロックまたは上記リンク部材が上記当接部材に最初に当接する、表面分析装置。
【0062】
上記構成3によっても、構成1と同様に、スライド機構の負荷を過度に大きくすることなく、リンク機構による移動方向の変換を円滑に行なうことができる。別の観点では、リンク部材の傾斜が比較的小さい状態から第2ブロックの上昇ないしリンク部材の回動を開始させることができるので、リンク機構による第2方向の移動のストロークを大きくすることができる。
【0063】
[構成4]
上記第1の接触点は、上記第1方向に対して上記円形の断面の周方向に45度以上90度より小さい角度だけ離れた位置にある、構成3に記載の表面分析装置。
【0064】
上記構成4によれば、構成3に対して、さらに円滑にリンク機構による移動方向の変換を行なうことができる。
【0065】
[構成5]
上記第2ブロックは、上記当接部材側に位置する端部を有し、上記端部の一部に上記当接部材側に突出する突出部が設けられ、上記第1ブロックが上記当接部材側に移動するときに、上記第2ブロックにおける上記突出部が上記当接部材に最初に当接する、構成1から構成4のいずれかに記載の表面分析装置。
【0066】
上記構成5によれば、第2ブロックの突出部を当接部材に最初に当接させることで、第2ブロックが当接部材から斜め上方向の反力を受けるので、リンク機構による移動方向の変換を円滑に行なうことができる。
【0067】
[構成6]
上記第2ブロックの上記当接部材側の端面は、上記突出部の下方に連なる曲面を含み、上記曲面は、該曲面に当接する上記当接部材の曲率半径よりも大きな曲率半径を有する円弧面を含む、構成5に記載の表面分析装置。
【0068】
上記構成6によれば、第2ブロックが第1の接触点に最初に当接した後、第2ブロックが当接部材から離間することなく上昇し続けることができるので、より円滑に第2ブロックを上昇させることが可能である。
【0069】
[構成7]
上記第2ブロックの上記当接部材側の端面は、上記突出部よりも下方に位置し、上記第2方向に延在する平面を含み、上記試料台が上記測定部に対向する位置にあるとき、上記当接部材は上記平面に当接する、構成5または構成6に記載の表面分析装置。
【0070】
上記構成7によれば、試料台が測定部に近づいたときに、試料台を斜め方向ではなく上下方向に沿って昇降させることができる。これにより、表面分析装置の筐体の内部空間における各部品の配置(特に、測定部近くの配置)の自由度が向上する。
【0071】
[構成8]
上記当接部材は、上記リンク部材の上記第3方向の上記回動軸と平行な回転軸まわりに回転可能なローラを含む、構成1から構成7のいずれかに記載の表面分析装置。
【0072】
上記構成8によれば、ローラを回転させ、ローラ表面と第2ブロックまたはリンク部材の表面との間の摩擦力を利用して第2ブロックの昇降移動をガイドすることができる。
【0073】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
10 走査型プローブ顕微鏡、20 測定部、30 試料台、100 第1ブロック、200 第2ブロック、200A 第1部材、200B 第2部材、210 突出部、211,311 当接点、220 垂直面、230 円弧面、240 傾斜面、300,310,320 リンク部材、400 当接部材、500 スライド機構。