(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】インペラおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/28 20060101AFI20230711BHJP
F04D 29/22 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F04D29/28 R
F04D29/28 C
F04D29/22 H
F04D29/22 A
(21)【出願番号】P 2020120665
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋本 健太
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109400(JP,A)
【文献】特開2014-141909(JP,A)
【文献】特開2005-163640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/28
F04D 29/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸周りに形成されたハブ面と、
前記回転軸の回転方向に互いに間隔をあけて前記ハブ面から突出するように設けられた複数のブレードとを備え、
前記複数のブレードの各々は、前記回転方向の前方側に位置するプレッシャ面、および、前記回転方向の後方側に位置するサクション面を有し、
前記複数のブレードの各々において、前記プレッシャ面と前記ハブ面との境界には、凹条の切削痕である複数の第1凹面部が形成されており、
前記複数のブレードの各々において、前記サクション面と前記ハブ面との境界には、凹条の切削痕である1つの第2凹面部が形成されており、
前記複数の第1凹面部には、横断面における凹面半径が互いに異なる2つ以上の第1凹面部が含まれており、
前記複数の第1凹面部の各々の凹面半径において最も大きい第1凹面半径は、前記第2凹面部の横断面における第2凹面半径と同一である、インペラ。
【請求項2】
前記第1凹面部と前記第2凹面部とが、前記複数のブレードの各々の前記回転軸の軸方向における先端部にて連続している、請求項1に記載のインペラ。
【請求項3】
回転軸の軸周りに形成されたハブ面と、
前記回転軸の回転方向に互いに間隔をあけて前記ハブ面から突出するように設けられた複数のブレードとを備えるインペラの製造方法であって、
前記複数のブレードの各々において、前記回転方向の前方側に位置するプレッシャ面、および、前記回転方向の後方側に位置するサクション面の各々を、第1刃先半径を有する第1エンドミルを用いて形成する第1切削工程と、
前記第1切削工程の後、前記プレッシャ面と前記ハブ面との境界を、前記第1刃先半径より小さい第2刃先半径を有する第2エンドミルを用いて加工する第2切削工程とを備える、インペラの製造方法。
【請求項4】
前記第2切削工程において、前記第2刃先半径が互いに異なる2つ以上の前記第2エンドミルの各々を用いて前記プレッシャ面と前記ハブ面との境界を切削加工する、請求項3に記載のインペラの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インペラの製造方法を開示した先行文献として、特開2019-116870号公報(特許文献1)がある。特許文献1に記載されたインペラの製造方法においては、第2ブレードは、ポールテーパエンドミルによってポイントミーリングされる位置が第2ブレードの先端部から基端部に向かって徐々に移動していくことにより加工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレードの基端部の隅の横断面形状は、刃具先端の形状に依存する。ブレードの基端部の隅の横断面形状において、インペラの回転方向の前方側に位置するプレッシャ面側の半径を、インペラの回転方向の後方側に位置するサクション面側の半径より小さくすることにより、インペラの性能を向上することができる。この場合、ブレードの基端部のプレッシャ面側の隅の横断面形状に対応する刃具が用いられるため、ブレードのサクション面に形成される切削痕の数が多くなり、ブレードのサクション面の加工時間が長くなる。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、加工時間が短く、性能が向上した、インペラおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づくインペラは、ハブ面と、複数のブレードとを備える。ハブ面は、回転軸の軸周りに形成されている。複数のブレードは、上記回転軸の回転方向に互いに間隔をあけてハブ面から突出するように設けられている。複数のブレードの各々は、上記回転方向の前方側に位置するプレッシャ面、および、上記回転方向の後方側に位置するサクション面を有する。複数のブレードの各々において、プレッシャ面とハブ面との境界には、凹条の切削痕である複数の第1凹面部が形成されている。複数のブレードの各々において、サクション面とハブ面との境界には、凹条の切削痕である1つの第2凹面部が形成されている。複数の第1凹面部には、横断面における凹面半径が互いに異なる2つ以上の第1凹面部が含まれている。複数の第1凹面部の各々の凹面半径において最も大きい第1凹面半径は、第2凹面部の横断面における第2凹面半径と同一である。
【0007】
本発明の一形態においては、第1凹面部と第2凹面部とが、複数のブレードの各々の上記回転軸の軸方向における先端部にて連続している。
【0008】
本発明に基づくインペラの製造方法は、回転軸の軸周りに形成されたハブ面と、上記回転軸の回転方向に互いに間隔をあけてハブ面から突出するように設けられた複数のブレードとを備えるインペラの製造方法である。インペラの製造方法は、第1切削工程と、第2切削工程とを備える。第1切削工程においては、複数のブレードの各々において、上記回転方向の前方側に位置するプレッシャ面、および、上記回転方向の後方側に位置するサクション面の各々を、第1刃先半径を有する第1エンドミルを用いて形成する。第1切削工程の後、第2切削工程においては、プレッシャ面とハブ面との境界を、第1刃先半径より小さい第2刃先半径を有する第2エンドミルを用いて加工する。
【0009】
本発明の一形態においては、第2切削工程において、第2刃先半径が互いに異なる2つ以上の第2エンドミルの各々を用いてプレッシャ面とハブ面との境界を切削加工する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工時間を短くしつつ、インペラの性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインペラの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1のインペラの第1ブレードをII-II線矢印方向から見た横断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法において、第1切削工程後のインペラの構成を示す斜視図である。
【
図4】
図3のインペラの第1ブレードをIV-IV線矢印方向から見た横断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法における第2切削工程において、プレッシャ面とハブ面との境界に1つの第1凹面部がさらに形成されたインペラの第1ブレードの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るインペラおよびその製造方法について図を参照して説明する。以下の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るインペラの構成を示す斜視図である。
図2は、
図1のインペラの第1ブレードをII-II線矢印方向から見た横断面図である。
【0014】
図1および
図2に示すように、本発明の一実施形態に係るインペラ100は、ハブ面Hと、複数のブレードとを備える。ハブ面Hは、回転軸Cの軸周りに形成されている。ハブ面Hは、略円錐面状に延在している。
【0015】
インペラ100は、複数の第1ブレード110および複数の第2ブレード120を備えている。第1ブレード110および第2ブレード120の各々は、回転軸Cの回転方向Dに互いに間隔をあけてハブ面Hから突出するように設けられている。第1ブレード110と第2ブレード120とは、回転軸Cの回転方向Dに交互に設けられている。
【0016】
第1ブレード110および第2ブレード120は、互いに異なる形状を有している。第1ブレード110は、回転軸Cの軸方向において、ハブ面Hの全体から突出している。第2ブレード120は、回転軸Cの軸方向において、ハブ面Hの下側部分から突出している。
【0017】
複数の第1ブレード110の各々は、回転方向Dの前方側に位置するプレッシャ面P、および、回転方向Dの後方側に位置するサクション面Sを有する。複数の第2ブレード120の各々は、回転方向Dの前方側に位置するプレッシャ面P、および、回転方向Dの後方側に位置するサクション面Sを有する。
【0018】
プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界には、凹条の切削痕である複数の第1凹面部が形成されている。複数の第1凹面部の各々は、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界に沿って延在している。
【0019】
複数の第1凹面部には、横断面における凹面半径が互いに異なる2つ以上の第1凹面部が含まれている。なお、凹面半径とは、第1ブレード110の横断面における円弧形状の凹面部の半径である。
【0020】
本実施形態においては、凹面半径がR1である第1凹面部131と、凹面半径がR2である第1凹面部132と、凹面半径がR3である第1凹面部133と、凹面半径がR4である第1凹面部134とが形成されている。ただし、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界に設けられる第1凹面部の数は、4つに限られず、2つ以上であればよい。なお、加工時間の観点から、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界に設けられる第1凹面部の数は、8つ以下が好ましい。
【0021】
複数の第1凹面部の各々の凹面半径において最も大きい第1凹面半径は、第1凹面部131の凹面半径のR1である。複数の第1凹面部の各々の凹面半径において最も小さい凹面半径は、第1凹面部132の凹面半径のR2である。R3およびR4の各々は、R1より小さく、かつ、R2より大きい。
【0022】
第1凹面部131の内側の中央に、第1凹面部132が形成されている。第1凹面部131の内側において、第1凹面部132のハブ面H側に、第1凹面部133が形成されている。第1凹面部131の内側において、第1凹面部132のプレッシャ面P側に、第1凹面部134が形成されている。
【0023】
第1ブレード110の横断面においては、ハブ面Hからプレッシャ面Pに向かって順に、第1凹面部131、第1凹面部133、第1凹面部132、第1凹面部134および第1凹面部131が連続している。
【0024】
サクション面Sとハブ面Hとの境界には、凹条の切削痕である1つの第2凹面部141が形成されている。第2凹面部141は、サクション面Sとハブ面Hとの境界に沿って延在している。第2凹面部141の凹面半径は、R1である。すなわち、第2凹面部141と第1凹面部131とは、凹面半径が同一である。このように、複数の第1凹面部の各々の凹面半径において最も大きい第1凹面半径は、第2凹面部141の横断面における第2凹面半径と、R1で同一である。
【0025】
図1に示すように、複数の第1ブレード110の各々において、第1凹面部131と第2凹面部141とが、複数の第1ブレード110の各々の回転軸Cの軸方向における先端部Tにて連続している。複数の第2ブレード120の各々において、第1凹面部131と第2凹面部141とが、複数の第2ブレード120の各々の回転軸Cの軸方向における先端部Tにて連続している。
【0026】
ここで、本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法について説明する。
図3は、本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法において、第1切削工程後のインペラの構成を示す斜視図である。
図4は、
図3のインペラの第1ブレードをIV-IV線矢印方向から見た横断面図である。
【0027】
本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法における第1切削工程においては、第1ブレード110および第2ブレード120の各々において、回転方向Dの前方側に位置するプレッシャ面P、および、回転方向Dの後方側に位置するサクション面Sの各々を、第1刃先半径を有する第1エンドミルを用いて形成する。第1エンドミルの第1刃先半径は、R1である。
【0028】
その結果、
図3および
図4に示すように、第2凹面部141と第1凹面部131とは、凹面半径がR1で同一である。なお、第1凹面部131と第2凹面部141とは、連続して形成されるため、
図3に示すように、第1凹面部131と第2凹面部141とが、第1ブレード110および第2ブレード120の各々の回転軸Cの軸方向における先端部Tにて連続している。
【0029】
図5は、本発明の一実施形態に係るインペラの製造方法における第2切削工程において、プレッシャ面とハブ面との境界に1つの第1凹面部がさらに形成されたインペラの第1ブレードの横断面図である。
図5においては、
図4と同一の断面視にて図示している。
【0030】
第1切削工程の後、第2切削工程においては、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界を、第1刃先半径より小さい第2刃先半径を有する第2エンドミルを用いて加工する。この第2エンドミルの第2刃先半径は、R2である。その結果、
図5に示すように、第1凹面部131の内側の中央に、凹面半径がR2である第1凹面部132が形成される。
【0031】
さらに、第2切削工程において、第2刃先半径がR3である第2エンドミル、および、第2刃先半径がR4である第2エンドミルの各々を用いて、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界を切削加工する。その結果、
図1に示すように、第1凹面部131の内側において、第1凹面部132のハブ面H側に第1凹面部133が形成され、第1凹面部132のプレッシャ面P側に第1凹面部134が形成される。
【0032】
本発明の一実施形態に係るインペラおよびその製造方法においては、第1刃先半径がR1である第1エンドミルを用いてプレッシャ面Pおよびサクション面Sの各々を加工した後、プレッシャ面Pとハブ面Hとの境界を、第1刃先半径より小さい第2刃先半径を有する第2エンドミルを用いて加工することにより、加工時間を短くすることができるとともに、第1ブレード110および第2ブレード120の各々の基端部の隅の横断面形状において、インペラ100の回転方向Dの前方側に位置するプレッシャ面P側の半径R2を、インペラ100の回転方向Dの後方側に位置するサクション面S側の半径R1より小さくして、インペラ100の性能を向上することができる。
【0033】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
100 インペラ、110 第1ブレード、120 第2ブレード、131,132,133,134 第1凹面部、141 第2凹面部、C 回転軸、D 回転方向、H ハブ面、P プレッシャ面、R1,R2 半径、S サクション面、T 先端部。