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特許7310774天井搬送車及び天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】天井搬送車及び天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 43/00 20060101AFI20230711BHJP
   B65G 1/04 20060101ALI20230711BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B65G43/00 K
B65G1/04 551D
H01L21/68 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020169670
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061622
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】摺木 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】青本 和也
【審査官】田口 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292644(JP,A)
【文献】特開2009-066610(JP,A)
【文献】特開2019-043720(JP,A)
【文献】特開昭54-071062(JP,A)
【文献】特開平08-321540(JP,A)
【文献】特開平09-168128(JP,A)
【文献】特開2016-047747(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0176294(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 43/00
B65G 1/04
B65H 25/20
H01L 21/677-68
H04N 5/66
B21D 24/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を移載する昇降台と、前記昇降台に取り付けられた吊持材を重ね巻きする巻取ドラムと、前記巻取ドラムの回転量を制御することにより前記昇降台の昇降量を制御するコントローラと、を備えた天井搬送車であって、
前記コントローラは、
前記天井搬送車の個体値として、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出する第1処理と、
前記第1処理で算出した前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値に基づいて、前記昇降台の昇降量に対する前記巻取ドラムの回転量を算出する第2処理と、を実行し、
前記第1処理では、前記昇降台の昇降量が、前記吊持材の全長の個体値と前記巻取ドラムの直径の個体値と前記吊持材の厚みの個体値とを係数として含む、前記巻取ドラムの回転量の二乗関数で近似されることを利用して、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出し、
前記吊持材の全長は、前記巻取ドラムから前記吊持材の全てが引き出された状態から前記昇降台が原点位置に位置するまで前記吊持材が巻き取られた場合における、前記巻取ドラムに巻き取られた前記吊持材の長さに相当する、天井搬送車。
【請求項2】
前記第1処理では、前記昇降台の昇降量及び当該昇降量のときの前記巻取ドラムの回転量からなるサンプルデータを2以上含むデータ群に基づいて、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出する、請求項に記載の天井搬送車。
【請求項3】
前記第1処理では、下式(1)~(6)に基づいて、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出する、請求項に記載の天井搬送車。
【数1】

但し、
L:前記昇降台の昇降量、n:前記巻取ドラムの回転量、t:前記吊持材の厚みの個体値、D:前記巻取ドラムの直径の個体値、L:前記吊持材の全長の個体値、n:原点位置に前記昇降台が位置するときの前記巻取ドラムの回転量、N:サンプル数(2以上の整数)、n:第iサンプルにおける前記巻取ドラムの回転量、L:第iサンプルにおける前記昇降台の昇降量。
【請求項4】
前記コントローラは、
原点位置に前記昇降台を位置させた状態において、前記昇降台に保持された第1計測用部材と前記第1計測用部材の直下に配置された第2計測用部材との間の距離を検出するセンサにより検出した距離を、第1距離として取得する第1データ取得用処理と、
前記昇降台を設定昇降量だけ昇降させた状態において、前記センサにより検出した距離を第2距離として取得すると共に、前記第2距離から前記第1距離を減算した値、及び、当該設定昇降量のときの前記巻取ドラムの回転量を、前記サンプルデータにおける前記昇降台の昇降量及び前記巻取ドラムの回転量として取得する第2データ取得用処理と、
前記第2データ取得用処理を前記設定昇降量を変更して繰り返し実行する第3データ取得用処理と、を実行する、請求項又はに記載の天井搬送車。
【請求項5】
複数回の前記第2データ取得用処理それぞれにおける前記設定昇降量を入力可能な入力部を備える、請求項に記載の天井搬送車。
【請求項6】
前記第2処理では、下式(7)に基づいて、前記昇降台の昇降量に対する前記巻取ドラムの回転量を算出する、請求項1~の何れか一項に記載の天井搬送車。
【数2】

但し、
L:前記昇降台の昇降量、n:前記巻取ドラムの回転量、t:前記吊持材の厚みの個体値、D:前記巻取ドラムの直径の個体値、L:前記吊持材の全長の個体値、n:原点位置に前記昇降台が位置するときの前記巻取ドラムの回転量。
【請求項7】
物品を移載する昇降台と、前記昇降台に取り付けられた吊持材を重ね巻きする巻取ドラムと、前記巻取ドラムの回転量を制御することにより前記昇降台の昇降量を制御するコントローラと、を備えた天井搬送車における、前記巻取ドラムの回転量を算出する方法であって、
前記天井搬送車の個体値として、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出する第1ステップと、
前記第1ステップで算出した前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値に基づいて、前記昇降台の昇降量に対する前記巻取ドラムの回転量を算出する第2ステップと、を含み、
前記第1ステップでは、前記昇降台の昇降量が、前記吊持材の全長の個体値と前記巻取ドラムの直径の個体値と前記吊持材の厚みの個体値とを係数として含む、前記巻取ドラムの回転量の二乗関数で近似されることを利用して、前記吊持材の全長の個体値、前記巻取ドラムの直径の個体値、及び、前記吊持材の厚みの個体値を算出し、
前記吊持材の全長は、前記巻取ドラムから前記吊持材の全てが引き出された状態から前記昇降台が原点位置に位置するまで前記吊持材が巻き取られた場合における、前記巻取ドラムに巻き取られた前記吊持材の長さに相当する、天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井搬送車及び天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物品を移載する昇降台と、昇降台に取り付けられた吊持材を重ね巻きする巻取ドラムと、巻取ドラムの回転量を制御することにより昇降台の昇降量を制御するコントローラと、を備えた天井搬送車が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-43720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような技術では、天井搬送車個有の吊持材の厚みを求め、求めた吊持材の厚みを用いて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を定めている。これにより、所望の高さ位置(移載高さ)に昇降台を昇降させる場合において、吊持材の厚みの個体差による影響を抑制することが図られている。しかしこの場合でも、天井搬送車の個体差を十分に考慮しているとは言えず、昇降させた昇降台が実際には所望の高さ位置からズレてしまう可能性があり、未だ改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、天井搬送車に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台を確実に昇降させることが可能な天井搬送車及び天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る天井搬送車は、物品を移載する昇降台と、昇降台に取り付けられた吊持材を重ね巻きする巻取ドラムと、巻取ドラムの回転量を制御することにより昇降台の昇降量を制御するコントローラと、を備えた天井搬送車であって、コントローラは、天井搬送車の個体値として、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を算出する第1処理と、第1処理で算出した吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値に基づいて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を算出する第2処理と、を実行する。
【0007】
この天井搬送車では、吊持材の全長の個体値と巻取ドラムの直径の個体値と吊持材の厚みの個体値とを算出し、これらの個体値に基づいて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を算出する。これにより、天井搬送車の個体差を十分に考慮して、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を定めることができる。したがって、天井搬送車に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台を確実に昇降させることが可能となる。
【0008】
本発明に係る天井搬送車において、第1処理では、昇降台の昇降量が、吊持材の全長の個体値と巻取ドラムの直径の個体値と吊持材の厚みの個体値とを係数として含む、巻取ドラムの回転量の二乗関数で近似されることを利用して、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を算出してもよい。本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、昇降台の昇降量が、吊持材の全長の個体値と巻取ドラムの直径の個体値と吊持材の厚みの個体値とを係数として含む、巻取ドラムの回転量の二乗関数で近似されることを見出した。そこで、当該近似を利用することで、これらの個体値を簡易且つ正確に求めることが可能となる。
【0009】
本発明に係る天井搬送車において、第1処理では、昇降台の昇降量及び当該昇降量のときの巻取ドラムの回転量からなるサンプルデータを2以上含むデータ群に基づいて、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を算出してもよい。この場合、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を、データ群を用いて簡易且つ正確に求めることができる。
【0010】
本発明に係る天井搬送車において、第1処理では、下式(1)~(6)に基づいて、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を算出してもよい。これにより、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を、より簡易且つ正確に求めることができる。
【数1】

但し、
L:昇降台の昇降量、n:巻取ドラムの回転量、t:吊持材の厚みの個体値、D:巻取ドラムの直径の個体値、L:吊持材の全長の個体値、n:原点位置に昇降台が位置するときの巻取ドラムの回転量、N:サンプル数(2以上の整数)、n:第iサンプルにおける巻取ドラムの回転量、L:第iサンプルにおける昇降台の昇降量。
【0011】
本発明に係る天井搬送車では、コントローラは、原点位置に昇降台を位置させた状態において、昇降台に保持された第1計測用部材と第1計測用部材の直下に配置された第2計測用部材との間の距離を検出するセンサにより検出した距離を、第1距離として取得する第1データ取得用処理と、昇降台を設定昇降量だけ昇降させた状態において、センサにより検出した距離を第2距離として取得すると共に、第2距離から第1距離を減算した値、及び、当該設定昇降量のときの巻取ドラムの回転量を、サンプルデータにおける昇降台の昇降量及び巻取ドラムの回転量として取得する第2データ取得用処理と、第2データ取得用処理を設定昇降量を変更して繰り返し実行する第3データ取得用処理と、を実行してもよい。これにより、少なくとも2つのサンプルデータを自動取得することができる。
【0012】
本発明に係る天井搬送車は、複数回の第2データ取得用処理それぞれにおける設定昇降量を入力可能な入力部を備えていてもよい。この場合、入力部を介して各設定昇降量を適宜に入力することができる。
【0013】
本発明に係る天井搬送車において、第2処理では、下式(7)に基づいて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を算出してもよい。これにより、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を簡易且つ正確に求めることができる。
【数2】

但し、
L:昇降台の昇降量、n:巻取ドラムの回転量、t:吊持材の厚みの個体値、D:巻取ドラムの直径の個体値、L:吊持材の全長の個体値、n:原点位置に昇降台が位置するときの巻取ドラムの回転量。
【0014】
本発明に係る天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法は、物品を移載する昇降台と、昇降台に取り付けられた吊持材を重ね巻きする巻取ドラムと、巻取ドラムの回転量を制御することにより昇降台の昇降量を制御するコントローラと、を備えた天井搬送車における、巻取ドラムの回転量を算出する方法であって、天井搬送車の個体値として、吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値を算出する第1ステップと、第1ステップで算出した吊持材の全長の個体値、巻取ドラムの直径の個体値、及び、吊持材の厚みの個体値に基づいて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を算出する第2ステップと、を含む。
【0015】
この天井搬送車における巻取ドラムの回転量算出方法では、吊持材の全長の個体値と巻取ドラムの直径の個体値と吊持材の厚みの個体値とを算出し、これらの個体値に基づいて、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を算出する。これにより、天井搬送車の個体差を十分に考慮して、昇降台の昇降量に対する巻取ドラムの回転量を定めることができる。したがって、天井搬送車に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台を確実に昇降させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、天井搬送車に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台を確実に昇降させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、一実施形態に係る天井搬送車示す側面図である。
図2図2は、図1の昇降駆動ユニットの概略構成を示す図である。
図3図3(a)は、図1の天井搬送車において原点位置に昇降台が位置するときの巻取ドラムの回転量を取得する場合を説明する側面図である。図3(b)は、図3(a)の続きを示す側面図である。
図4図4(a)は、図1の天井搬送車において第1~3データ取得用処理を説明するための側面図である。図4(b)は、図4(a)の続きを示す側面図である。
図5図5は、巻取ドラムの回転量に対する昇降台の昇降量の誤差を示すグラフである。
図6図6(a)は、図1の天井搬送車において第1~3データ取得用処理を説明するための他の側面図である。図6(b)は、図6(a)の続きを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して一実施形態について説明する。図面の説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の対象と必ずしも一致していない。
【0019】
図1に示されるように、一実施形態の天井搬送車1は、半導体デバイスが製造されるクリーンルームの天井付近に敷設された軌道100に沿って走行する。一実施形態の天井搬送車1は、複数の半導体ウェハが収容されたFOUP(Front Opening Unified Pod)(物品)200の搬送、及び、半導体ウェハに各種処理を施す処理装置に設けられたロードポート(移載部)300等に対するFOUP200の移載を行う。
【0020】
天井搬送車1は、フレームユニット2と、走行ユニット3と、ラテラルユニット4と、シータユニット5と、昇降駆動ユニット6と、昇降台7と、コントローラ8と、を備える。フレームユニット2は、センターフレーム21と、フロントフレーム22と、リアフレーム23と、を有する。フロントフレーム22は、センターフレーム21における前側の端部から下側に延在している。リアフレーム23は、センターフレーム21における後側の端部から下側に延在している。なお、前側及び後側は、天井搬送車1の走行方向における前側及び後側をそれぞれ意味する。
【0021】
走行ユニット3は、センターフレーム21の上側に配置されている。走行ユニット3は、例えば、軌道100に沿って敷設された高周波電流線から非接触で電力の供給を受けることで、軌道100に沿って走行する。ラテラルユニット4は、センターフレーム21の下側に配置されている。ラテラルユニット4は、シータユニット5、昇降駆動ユニット6及び昇降台7を横方向(天井搬送車1の走行方向における側方)に移動させる。シータユニット5は、ラテラルユニット4の下側に配置されている。シータユニット5は、昇降駆動ユニット6及び昇降台7を水平面内において回動させる。
【0022】
昇降駆動ユニット6は、シータユニット5の下側に配置されている。昇降駆動ユニット6は、昇降台7を昇降させる。昇降台7は、昇降駆動ユニット6の下側に配置されている。昇降台7は、FOUP200を移載する。昇降台7は、FOUP200のフランジ部201を保持する一対のグリッパ(把持部)72を有する。一対のグリッパ72は、水平方向に沿って開閉可能となるように支持されている。一対のグリッパ72は、駆動モータ(図示省略)及びリンク機構(図示省略)によって開閉させられる。コントローラ8は、センターフレーム21に配置されている。コントローラ8は、CPU、ROM及びRAM等によって構成された電子制御ユニットである。コントローラ8は、天井搬送車1の各部を制御する。
【0023】
以上のように構成された天井搬送車1は、一例として、次のように動作する。ロードポート300から天井搬送車1にFOUP200を移載する場合には、FOUP200を保持していない天井搬送車1がロードポート300の上方に停止する。昇降台7の水平位置がロードポート300の真上の位置からずれている場合には、ラテラルユニット4及びシータユニット5を駆動することにより、昇降駆動ユニット6ごと昇降台7の水平位置及び角度を微調整する。続いて、昇降駆動ユニット6が昇降台7を下降させ、昇降台7が、ロードポート300に載置されているFOUP200のフランジ部201を保持する。続いて、昇降駆動ユニット6が昇降台7を原点位置(上昇端)まで上昇させて、フロントフレーム22とリアフレーム23との間にFOUP200を配置する。続いて、FOUP200を保持した天井搬送車1が走行を開始する。
【0024】
一方、天井搬送車1からロードポート300にFOUP200を移載する場合には、FOUP200を保持した天井搬送車1がロードポート300の上方に停止する。昇降台7(FOUP200)の水平位置がロードポート300の真上の位置からずれている場合には、ラテラルユニット4及びシータユニット5を駆動することにより、昇降駆動ユニット6ごと昇降台7の水平位置及び角度を微調整する。続いて、昇降駆動ユニット6が昇降台7を下降させて、ロードポート300にFOUP200を載置し、昇降台7がFOUP200のフランジ部201の保持を解放する。続いて、昇降駆動ユニット6が昇降台7を上昇端まで上昇させる。続いて、FOUP200を保持していない天井搬送車1が走行を開始する。
【0025】
次に、昇降駆動ユニット6の構成について説明する。図1及び図2に示されるように、昇降駆動ユニット6は、巻取ドラム61と、モータ62と、エンコーダ63と、ベルトBと、アイドラローラ65A,65Bと、を有する。
【0026】
巻取ドラム61は、モータ62による駆動によってベルトBのそれぞれを巻き取る又は繰り出しする巻取駆動部である。ここでの巻取ドラム61は、4つ設けられている。モータ62は、各巻取ドラム61を回転させるための駆動源である。モータ62は、例えば共通の回動軸(図示しない)を介して、四つの巻取ドラム61を駆動する。
【0027】
エンコーダ63は、モータ62の回転量(駆動量)を検出する。エンコーダ63は、モータ62の回転量に関するカウント値をコントローラ8へ出力する。ベルトBは、昇降台7を吊り下げて保持する吊持材である。ベルトBは、4つ設けられている。各ベルトBの一端は、昇降台7に接続されている。各ベルトBの他端は、4つの巻取ドラム61のそれぞれに接続されている。アイドラローラ65A,65Bは、ベルトBの移動を案内する。
【0028】
本実施形態において、コントローラ8は、巻取ドラム61の回転量を制御することにより昇降台7の昇降量を制御する。コントローラ8は、天井搬送車1の個体値として、ベルトBの全長の個体値、巻取ドラム61の直径の個体値、及び、ベルトの厚みの個体値を算出する第1処理を実行する。巻取ドラム61の回転量は、エンコーダ63のカウント値に基づき取得することができる。
【0029】
第1処理では、昇降台7の昇降量が、ベルトBの全長の個体値と巻取ドラム61の直径の個体値とベルトBの厚みの個体値とを係数として含む、巻取ドラム61の回転量の二乗関数(最小二乗法による誤差補正関数)で近似されることを利用して、ベルトBの全長の個体値、巻取ドラム61の直径の個体値、及び、ベルトBの厚みの個体値を算出する。第1処理では、昇降台7の昇降量及び当該昇降量のときの巻取ドラム61の回転量からなるサンプルデータを2以上含むデータ群に基づいて、ベルトBの全長の個体値、巻取ドラム61の直径の個体値、及び、ベルトBの厚みの個体値を算出する。
【0030】
まず、第1処理の原理を説明する。昇降台7の昇降量の基礎計算式は下式(8)であり、それを整理して下式(9)で表現できる。
【数3】

但し、
L:昇降台7の昇降量、n:巻取ドラム61の回転量、t:ベルトBの厚みの個体値、D:巻取ドラム61の直径の個体値、L:ベルトBの全長の個体値、n:原点位置に昇降台7が位置するときの巻取ドラム61の回転量。
【0031】
上式(8)より、パラメータA,B,Cを下式(10)~(12)とすると、昇降台7の昇降量Lは下式(13)と表現することができる。また、巻取ドラム61の回転量n=0のとき、昇降台7の昇降量L=0であるため、パラメータC=0が成立する。
【数4】
【0032】
近似関数のデータ群と二乗誤差の和Sとは、取得したサンプル数をN(2以上の整数)とすると、下式(14)で表現することができる。このとき、誤差が最小となるパラメータA,Bを求めるため、下式(15)に示されるように、δS/δA=0及びδS/δB=0となる。
【数5】
【0033】
下式(16),(17)の連立方程式から、下式(18)~(23)に示されるようにパラメータA,Bを求められる。したがって、パラメータA,Bの結果から、ベルトBの厚みの個体値tと巻取ドラム61の直径の個体値Dとを算出できることがわかる。そして、パラメータC(上式(12)参照)において、ベルトBの厚みの個体値tと巻取ドラム61の直径の個体値Dを代入することで、ベルトBの全長の個体値Lを算出できることがわかる。
【数6】

但し、
t:ベルトBの厚みの個体値、D:巻取ドラム61の直径の個体値、L:ベルトBの全長の個体値、n:原点位置に昇降台7が位置するときの巻取ドラム61の回転量、N:サンプル数(2以上の整数)、n:第iサンプルにおける巻取ドラム61の回転量、L:第iサンプルにおける昇降台7の昇降量。
【0034】
そこで、本実施形態では、第1処理において、上式(10)~(13),(22),(23)に基づいて、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出する。
【0035】
コントローラ8は、昇降台7の昇降量Lが入力された場合、第1処理で算出したベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D及びベルトBの厚みの個体値tに基づいて、当該昇降量Lに対する巻取ドラム61の回転量を算出する第2処理を実行する。第2処理では、上式(8)に基づいて、昇降台7の昇降量Lに対する巻取ドラム61の回転量を算出する。そして、コントローラ8は、第2処理で算出した巻取ドラム61の回転量に基づいてモータ62の駆動を制御し、所望の高さ位置(例えば、昇降台7がロードポート300のFOUP200を保持する高さ位置、及び、昇降台7がロードポート300にFOUP200を載置する高さ位置)に昇降台7を昇降させる。
【0036】
コントローラ8は、原点位置に昇降台7が位置するときの巻取ドラム61の回転量nを取得する次の処理を実行する。すなわち、コントローラ8は、まず、図3(a)に示されるように、巻取ドラム61からベルトBの全てが引き出されるようにモータ62を駆動させ、このときの巻取ドラム61の回転量(エンコーダ63のカウント値)を第1回転量として取得する。続いて、コントローラ8は、図3(b)に示されるように、昇降台7が原点位置に位置するまでベルトBが巻取ドラム61に巻き取られるようにモータ62を駆動させ、このときの巻取ドラム61の回転量(エンコーダ63のカウント値)を第2回転量として取得する。そして、コントローラ8は、第1回転量から第2回転量を減算した値を、原点位置に昇降台7が位置するときの巻取ドラム61の回転量nとして取得する。
【0037】
コントローラ8は、第1~3データ取得用処理を実行することで、第1~第Nサンプルデータを含むデータ群を取得する。第iサンプルデータ(iは1~Nまでの整数)は、第iサンプルにおける巻取ドラム61の回転量nと第iサンプルにおける昇降台7の昇降量Lとからなるデータである。以下、第1~3データ取得用処理に関して、具体的に説明する。
【0038】
図4(a)に示されるように、まず、昇降台7に第1計測用部材11を保持させると共に、フロア31上の第1計測用部材11の直下に第2計測用部材12を配置する。第1計測用部材11は、一対のグリッパ72で保持されるフランジ部を有する。第1計測用部材11の下面は、平面を有する。第2計測用部材12は、フロア31上に載置される台座を構成する。第2計測用部材12の上面は、平面を有する。第2計測用部材12上には、センサ81が設けられている。センサ81は、第1計測用部材11と第2計測用部材12との間の距離を検出するセンサである。センサ81としては、例えばレーザ光L1を出射するレーザ距離計が用いられている。センサ81は、検出した距離に関するデータをコントローラ8に送信する。
【0039】
コントローラ8により第1データ取得用処理を実行する。第1データ用取得処理では、巻取ドラム61が回転量nとなるようにモータ62を制御して原点位置に昇降台7を位置させ、この状態において、センサ81により検出した第1計測用部材11と第2計測用部材12との間の距離を第1距離として取得する。
【0040】
続いて、コントローラ8により第2データ取得用処理を実行する。第2データ取得用処理では、図4(b)に示されるように、昇降台7を設定昇降量だけ昇降させた状態において、センサ81により検出した距離を第2距離として取得すると共に、当該第2距離から第1距離を減算した値、及び、当該設定昇降量のときの巻取ドラム61の回転量を、第1サンプルデータにおける昇降台7の昇降量及び巻取ドラム61の回転量として取得する。そして、コントローラにより第3データ取得用処理を実行する。第3データ取得用処理では、第2データ取得用処理を設定昇降量を変更して繰り返し(N-1回)実行する。これにより、第1~第Nサンプルデータを取得する。ここでは、Nは4である。
【0041】
図2に示されるように、天井搬送車1は、複数回の第2データ取得用処理それぞれにおける設定昇降量を入力可能な入力部9を備える。入力部9としては特に限定されず、例えば外部から通信で各設定昇降量を入力させる通信機器であってもよいし、タッチ操作により各設定昇降量を入力させるタッチパネルであってもよい。
【0042】
以上、天井搬送車1では、ベルトBの全長の個体値Lと巻取ドラム61の直径の個体値DとベルトBの厚みの個体値tとを算出し、これらの個体値に基づいて、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を算出する。これにより、天井搬送車1の個体差を十分に考慮して、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を定めることができる。したがって、天井搬送車1に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台7を確実に昇降させることが可能となる。
【0043】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、昇降台7の昇降量が、ベルトBの全長の個体値Lと巻取ドラム61の直径の個体値DとベルトBの厚みの個体値tとを係数として含む、巻取ドラム61の回転量の二乗関数で近似されることを見出した。そこで、天井搬送車1において、第1処理では、当該近似を利用して、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出する。これにより、これらの個体値を簡易且つ正確に求めることが可能となる。
【0044】
天井搬送車1において、第1処理では、昇降台7の昇降量及び当該昇降量のときの巻取ドラム61の回転量からなるサンプルデータを2以上含むデータ群に基づいて、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出する。これにより、これらの個体値をデータ群を用いて簡易且つ正確に求めることができる。
【0045】
天井搬送車1において、第1処理では、上式(10)~(13),(22),(23)に基づいて、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出する。これにより、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを、より簡易且つ正確に求めることができる。
【0046】
天井搬送車1では、コントローラ8は、原点位置に昇降台7を位置させた状態においてセンサ81により検出した距離を第1距離として取得する第1データ取得用処理と、昇降台7を設定昇降量だけ昇降させた状態においてセンサ81により検出した距離を第2距離として取得すると共に、第2距離から第1距離を減算した値、及び、当該設定昇降量のときの巻取ドラム61の回転量をサンプルデータとして取得する第2データ取得用処理と、第2データ取得用処理を設定昇降量を変更して繰り返し実行する第3データ取得用処理と、を実行する。これにより、少なくとも2つのサンプルデータを自動取得することができる。
【0047】
天井搬送車1は、複数回の第2データ取得用処理それぞれにおける設定昇降量を入力可能な入力部9を備えている。この場合、入力部9を介して各設定昇降量を適宜に入力することができる。
【0048】
天井搬送車1において、第2処理では、上式(8)に基づいて、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を算出する。これにより、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を簡易且つ正確に求めることができる。
【0049】
以上のように構成された天井搬送車1では、次の巻取ドラム61の回転量算出方法を実施する。すなわち、天井搬送車1の個体値として、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出する(第1ステップ)。続いて、算出したベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tに基づいて、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を算出する(第2ステップ)。
【0050】
天井搬送車1における巻取ドラム61の回転量算出方法においても、ベルトBの全長の個体値Lと巻取ドラム61の直径の個体値DとベルトBの厚みの個体値tとを算出し、これらの個体値に基づいて、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を算出する。これにより、天井搬送車1の個体差を十分に考慮して、昇降台7の昇降量に対する巻取ドラム61の回転量を定めることができる。したがって、天井搬送車1に個体差がある場合においても、所望の高さ位置に昇降台7を確実に昇降させることが可能となる。
【0051】
図5は、巻取ドラム61の回転量に対する昇降台7の昇降量の誤差を示すグラフである。横軸は、巻取ドラム61の回転量(エンコーダ63のカウント値)を示す。縦軸は、昇降台7の昇降量についての実測値と計算値との誤差(mm)を示す。図中において、Q1が実施例に係る評価結果であり、Q2が比較例に係る評価結果である。実施例は、本実施形態の天井搬送車1に対応する。比較例は、一般的な巻取ドラム61の回転量算出方法(ベルトBの全長、巻取ドラム61の直径及びベルトBの厚みを固定値とした回転量算出方法)を用いた従来の天井搬送車に対応する。
【0052】
図5に示されるように、実施例では、昇降台7の昇降量の誤差を抑制できることがわかる。これにより、実施例では、所望の高さ位置に昇降台7を確実に昇降できることがわかる。また、比較例では、昇降台7の昇降量の誤差が大きく、特に、巻取ドラム61の回転量の増加とともに当該誤差が二乗関数的に大きくなる関係にあることがわかる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。上記実施形態では、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
図6に示されるように、第1~3データ取得用処理では、昇降台7に第1計測用部材91を保持させると共に、フロア31上の第1計測用部材91の直下に第2計測用部材92を配置してもよい。この場合、第1計測用部材91と第2計測用部材92との間の距離を検出するセンサ82を、第1計測用部材91の下部に設けてもよい。センサ82としては、例えばレーザ光L2を出射するレーザ距離計を用いてもよい。
【0055】
上記実施形態では、第1~第3データ取得用処理によりサンプルデータを自動取得させたが、これに限定されず、ユーザの入力によりサンプルデータを取得してもよいし、外部からの通信によりサンプルデータを取得してもよい。また、原点位置に昇降台7が位置するときの巻取ドラム61の回転量nについても同様に、ユーザの入力により取得してもよいし、外部からの通信により取得してもよい。上記実施形態では、三本又は五本以上のベルトBによって昇降台7を吊り下げてもよい。
【0056】
上記実施形態では、上式(10)~(13),(22),(23)に基づいて、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出したが、これに限定されない。上式(10)~(13),(22),(23)とは別の近似関数を用いて、ベルトBの全長の個体値L、巻取ドラム61の直径の個体値D、及び、ベルトBの厚みの個体値tを算出してもよい。
【0057】
上記実施形態及び変形例における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。上記実施形態又は変形例における各構成の一部は、本発明の一態様の要旨を逸脱しない範囲で適宜に省略可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…天井搬送車、61…巻取ドラム、7…昇降台、8…コントローラ、9…入力部、11,91…第1計測用部材、12,92…第2計測用部材、81,82…センサ、200…FOUP(物品)、B…ベルト(吊持材)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6