(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】塗膜及びその製造方法、並びに、粉体塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05B 5/025 20060101AFI20230711BHJP
B05B 7/14 20060101ALI20230711BHJP
B05D 1/04 20060101ALI20230711BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230711BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230711BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230711BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230711BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230711BHJP
【FI】
B05B5/025 B
B05B7/14
B05D1/04 H
B05D3/00 B
B05D7/24 301A
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020186188
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-027512(JP,A)
【文献】特開2017-131880(JP,A)
【文献】特開2020-122196(JP,A)
【文献】特開平08-057365(JP,A)
【文献】特表2000-517243(JP,A)
【文献】特開2008-190014(JP,A)
【文献】特開2011-029013(JP,A)
【文献】特開2007-149503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-17/08
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
H01M 4/86-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体を解砕及び/又は粉砕し、前記粉体を含むエアロゾルを発生させ、前記エアロゾルを基材の塗工面に向かって吐出するためのエアロゾル発生装置と、
前記エアロゾルに含まれる前記粉体を誘導帯電させ、誘導帯電させた前記粉体を静電場により前記塗工面に塗着させ、塗膜を得るための静電場印加装置と
を備えた粉体塗工装置。
【請求項2】
前記エアロゾル発生装置は、
前記粉体を解砕及び/又は粉砕するための分散装置と、
前記分散装置内に搬送ガスを吹き込むことにより、前記分散装置内において、前記粉体と前記搬送ガスからなる前記エアロゾルを発生させるための搬送ガス供給装置と、
前記分散装置内で発生させた前記エアロゾルを前記塗工面に向けて吐出するためのノズルと
を備えている請求項1に記載の粉体塗工装置。
【請求項3】
前記静電場印加装置は、
前記ノズルと前記塗工面との間に設置されたメッシュと、
前記ノズルと前記塗工面をアースするための接地装置と、
前記メッシュに電圧を印加することによって、前記ノズルと前記メッシュとの間、及び、前記メッシュと前記塗工面との間に電界を発生させるための高圧電源と
を備えている請求項1又は2に記載の粉体塗工装置。
【請求項4】
前記静電場印加装置は、
前記塗工面をアースするための接地装置と、
前記塗工面に近接して配置された前記ノズルに電圧を印加することによって、前記ノズルと前記塗工面との間に電界を発生させるための高圧電源と
を備えている請求項1又は2に記載の粉体塗工装置。
【請求項5】
前記粉体は、電極触媒及び/又はアイオノマを含む請求項1から4までのいずれか1項に記載の粉体塗工装置。
【請求項6】
前記粉体は、電極触媒の表面がアイオノマでコートされた複合体からなる請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉体塗工装置。
【請求項7】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の粉体塗工装置を用いて、前記基材の塗工面に前記粉体を塗工し、前記塗工面に塗膜を形成する塗膜の製造方法。
【請求項8】
前記粉体は、電極触媒及び/又はアイオノマを含む請求項7に記載の塗膜の製造方法。
【請求項9】
前記粉体は、電極触媒の表面がアイオノマでコートされた複合体からなる請求項7又は8に記載の塗膜の製造方法。
【請求項10】
電極触
媒の表面がアイオノマでコートされた複合体からなる粉体を含み、
前記粉体の平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
算術平均表面粗さRaが1μm以上10μm以下である塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜及びその製造方法、並びに、粉体塗工装置に関し、さらに詳しくは、主として、電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体を含む塗膜をドライプロセスにより製造するための粉体塗工装置、並びに、このような粉体塗工装置を用いて製造される塗膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。通常、触媒層の外側には、さらにガス拡散層が配置される。触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。また、拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池に用いられる触媒層は、一般に、
(a)電極触媒及びアイオノマを含み、固形分濃度が約10%の触媒インクを作製し、
(b)種々の方法を用いて、触媒インクを基材の表面に塗布し、塗膜中の溶媒を揮発させることにより基材表面に触媒層を形成し、
(c)基材表面の触媒層を電解質膜に転写する
ことにより製造されている。
また、基材の代わりに固体高分子電解質膜に触媒インクを直接塗布する方法もある。
【0004】
しかしながら、触媒インクを用いて触媒層を形成する方法は、
(a)溶媒を除去するための乾燥工程が必要であり、製造コストが高くなる、
(b)溶媒として有機溶媒を用いた時には、安全性の問題が生ずる場合がある、
(c)溶媒、及び、カーボンを分散させるために触媒インクに添加された界面活性剤が触媒層中に残存し、燃料電池の性能を低下させる場合がある、
などの問題がある。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に、静電的に帯電させた電極触媒粉末を付着させる燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
【0006】
同文献には、
(A)このような方法は、完全なドライプロセスであるため、有機溶媒等による危険性が少ない点、
(B)形成した電極中の溶媒を乾燥させる乾燥工程が不要になる点、及び、
(C)印刷法に比べ電極塗膜の平滑性、緻密性は劣るが、逆に電極のガス拡散がより良くなる点
が記載されている。
【0007】
特許文献2には、燃料電池用触媒層の製造装置ではないが、
上面に微粒子を載置可能な第1電極と、
第1電極と空間を介して設けられ、開口が形成された面状の第2電極と、
第1電極と第2電極の間に直流電圧又はオフセットされた交流電圧を印加する電源と
を備えた微粒子分散供給装置が開示されている。
【0008】
同文献には、
(A)第1電極の表面に微粒子が供給され、微粒子と第1電極とが接触すると、微粒子が第2電極と逆符号に帯電し、第2電極に引き寄せられる点、
(B)第2電極に引き寄せられた微粒子が第2電極と接触すると、微粒子が第2電極と同符号に帯電して第2電極と反発し、第2電極の開口部から系外に飛散する点、及び、
(C)このような装置により、微粒子を高度に分散した状態で供給できる点
が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、
(a)触媒粒子と電解質とを含む分散液をスプレードライすることにより、メジアン径が4~15μmである混合粒子を作製し、
(b)静電スクリーン印刷法を用いて、帯電した混合粒子を電解質膜の表面に塗布することにより電極層を形成し、
(c)形成した電極層を加熱及び加圧し、電解質膜上に定着させる
固体高分子形燃料電池用電極の製造方法が開示されている。
【0010】
同文献には、
(A)このような方法により、ガス拡散性に優れた電極が得られる点、
(B)混合粒子が適度に電解質膜に食い込むため、電極と電解質膜との間のイオン伝導性が向上する点、及び
(C)加熱及び加圧を行うことにより、電極層を形成する混合粒子間、及び、電極層と電解質膜との間の接続がより強固になる点
が記載されている。
【0011】
粉体を帯電させ、静電力で目標物に塗着させる方法は、粉体塗装技術として一般に普及している。この粉体塗装技術を触媒層の製造に応用した場合、溶媒の乾燥工程が不要となるため、ウェットプロセスを用いた製造方法に比べて、製造エネルギー及び製造コストを低減することができる。また、これによってCO2排出量の低減も期待できる。
しかしながら、燃料電池用の粉体は、粉体塗装に一般的に用いられている粉体に比べて非常に細かい。一般に、粉体の粒子径が10μm以下になると、凝集力が大きくなり、単一粒子として存在しにくくなる。そのため、粉体塗装技術を固体高分子形燃料電池の電極製造方法として応用するためには、粉体の凝集を抑制するのが望ましい。
【0012】
この点に関し、特許文献1では、単に粉体をキャリアガス(N2)で搬送し、静電力で塗着しているだけであり、初期の粉体の分散が不十分である。そのため、特許文献1に記載の方法では、凝集体のない均一な塗面の形成は難しいと考えられる。
特許文献2に記載の方法も同様であり、第1電極-第2電極間の電界強度に応じて第2電極を通過する粉体の大きさをある程度制御することはできるが、凝集した粉体を解砕する作用は弱い。
【0013】
さらに、特許文献3に記載されているように、静電スクリーン印刷法を用いると、スクリーン上に供給された粉体をスキージ(特許文献3では、フィードローラ)で擦りつけることで、凝集した粉体をある程度解砕することができる。しかし、細かい粒子を塗工するためには、スクリーンの目を細かくする必要がある。その結果、粉体の塗工スピードが遅くなる。また、スクリーンの目詰まりや裏面への付着が生じやすくなる。一方、これを回避するためにスクリーンの目を粗くすると、未解砕の凝集した粉体まで塗工されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平11-288728号公報
【文献】特開2017-039087号公報
【文献】特開2007-323824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、凝集体の少ない均一な塗面が得られる粉体塗工装置を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、粉体の塗着効率が高く、製造エネルギーや製造コストを削減することが可能であり、これによってCO2排出量を低減することが可能な粉体塗工装置を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような粉体塗工装置を用いて製造される塗膜及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、燃料電池の触媒層として好適な塗膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る粉体塗工装置は、
粉体を解砕及び/又は粉砕し、前記粉体を含むエアロゾルを発生させ、前記エアロゾルを基材の塗工面に向かって吐出するためのエアロゾル発生装置と、
前記エアロゾルに含まれる前記粉体を誘導帯電させ、誘導帯電させた前記粉体を静電場により前記塗工面に塗着させ、塗膜を得るための静電場印加装置と
を備えている。
【0017】
本発明に係る塗膜の製造方法は、本発明に係る粉体塗工装置を用いて、前記基材の塗工面に前記粉体を塗工し、前記塗工面に塗膜を形成することを要旨とする。
【0018】
さらに、本発明に係る塗膜は、
電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体を含み、
前記粉体の平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
算術平均表面粗さRaが1μm以上10μm以下である
ことを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
エアロゾル発生装置を用いて粉体(例えば、電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体)を解砕及び/又は粉砕すると同時に、エアロゾル発生装置に搬送ガスを供給すると、粉体と搬送ガスからなるエアロゾルが発生する。次いで、得られたエアロゾルを塗工面に向かって吐出し、静電場印加装置を用いてエアロゾルに含まれる粉体を誘導帯電させると、静電場により粉体が塗工面に向かって飛翔する。その結果、粉体が塗工面に塗着し、塗膜が得られる。
【0020】
このような方法を用いると、凝集体のない均一な塗面を備えた塗膜が得られる。得られた塗膜は、ウエットプロセスで得られた塗膜に比べて表面粗さは大きいが、従来のドライプロセスで得られた塗膜に比べて表面粗さが格段に小さい。また、塗工面にエアロゾルを吐出する方法は、静電粉体塗装法に比べて塗着効率が高い。さらに、溶媒の乾燥工程が不要であるので、ウェットプロセスに比べて製造エネルギーや製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る粉体塗工装置の模式図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態に係る粉体塗工装置の模式図である。
【
図3】アイオノマ/カーボン複合体のSEM像である。
【
図4】比較例1で用いた粉体塗工装置の模式図である。
【
図5】実施例1で得られた塗膜の表面のSEM像である。
【
図6】実施例2で得られた塗膜の表面のSEM像である。
【
図7】比較例1で得られた塗膜の表面のSEM像である。
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 粉体塗工装置(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る粉体塗工装置の模式図を示す。
図1において、粉体塗工装置10aは、エアロゾル発生装置20と、静電場印加装置30aとを備えている。
【0023】
[1.1. エアロゾル発生装置]
エアロゾル発生装置20は、粉体12aを解砕及び/又は粉砕し、粉体12aを含むエアロゾル14を発生させ、エアロゾル14を基材16の塗工面16aに向かって吐出するための装置である。エアロゾル発生装置20の構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
図1において、エアロゾル発生装置20は、分散装置22と、搬送ガス供給装置24と、ノズル26とを備えている。
【0024】
[1.1.1. 分散装置]
分散装置22は、粉体12aを解砕及び/又は粉砕するための装置である。一般に、粉体12aの粒径が10μm以下である場合、粉体12aは凝集して二次粒子を形成しやすくなる。分散装置22は、凝集した粉体12aをほぐすことが可能なもの、及び/又は、粉体12aそのものをさらに細かく砕くことが可能なものであれば良い。
分散装置22の構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。分散装置22としては、例えば、ミキサー、ミル、フードプロセッサなどがある。
図1において、分散装置22は、粉体12aを収容するための容器22a内に、粉体12aを解砕及び/又は粉砕するための攪拌羽22bが設けられたミキサーからなる。
【0025】
なお、分散装置22は、
(a)予め所定量の粉体12aを容器22a内に収容しておき、粉体12aが枯渇するまでエアロゾルを発生させる方式(バッチ式)、あるいは、
(b)粉体供給装置(図示せず)を用いて、容器22a内に逐次、粉体12aを補給しながら、連続的にエアロゾルを発生させる方式(連続式)
のいずれであっても良い。
連続式の分散装置22において、粉体供給装置の設置位置は特に限定されない。例えば、粉体供給装置は、分散装置22本体に設置されていても良く、あるいは、搬送ガス供給装置24のガス排出口と分散装置22のガス供給口の間に設置されていても良い。
【0026】
[1.1.2. 搬送ガス供給装置]
搬送ガス供給装置24は、分散装置22内に搬送ガス12bを吹き込むための装置である。粉体12aの解砕処理及び/又は粉砕処理が行われている分散装置22内に搬送ガス12bを供給すると、分散装置22内において、粉体12aと搬送ガス12bからなるエアロゾル14が発生する。
【0027】
搬送ガス12bの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なガスを選択することができる。搬送ガス12bとしては、例えば、N
2ガス、Arガス、CO
2ガス、空気などがある。
また、搬送ガス供給装置24の構造は、上述した機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。搬送ガス供給装置24としては、例えば、N
2ガスボンベ、コンプレッサーなどがある。搬送ガス供給装置24は、マスフローコントローラー、ニードルバルブなどで流量を制御できるものがより好ましい。
図1において、搬送ガス供給装置24は、N
2ガスボンベ(図示せず)と、ニードルバルブ(図示せず)からなる。
【0028】
[1.1.3. ノズル]
ノズル26は、分散装置22内で発生させたエアロゾル14を塗工面16aに向けて吐出するためのものである。ノズル26から吐出されたエアロゾル14は、静電場印加装置30aにより加速され、塗工面16aに向かって飛翔する。ノズル26の構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0029】
[1.2. 静電場印加装置]
静電場印加装置30aは、エアロゾル14に含まれる粉体12aを誘導帯電させ、誘導帯電させた粉体12aを静電場により塗工面16aに塗着させ、塗膜18を得るための装置である。静電場印加装置30aの構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
図1において、静電場印加装置30aは、メッシュ32と、接地装置34と、高圧電源36とを備えている。
【0030】
[1.2.1. メッシュ]
メッシュ32は、ノズル26-メッシュ32間、及び、メッシュ32-塗工面16a間に電界を発生させ、粉体12aをノズル26からメッシュ32を通って塗工面16aに向かって飛翔させるためのものである。そのため、メッシュ32の目開きは、少なくとも粉体12aを通過させることが可能な大きさを有している必要がある。メッシュ32の構造に関するその他の点は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0031】
メッシュ32は、ノズル26の先端と塗工面16aとの間に配置される。ノズル26の先端とメッシュ32との間の間隔、及び、メッシュ32と塗工面16aとの間の間隔は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な間隔を選択することができる。一般に、ノズル26の先端とメッシュ32との間隔が小さくなるほど、これらの間に発生する電界は大きくなる。この点は、メッシュ32と塗工面16aとの間の間隔も同様である。
【0032】
[1.2.2. 接地装置]
接地装置34は、ノズル26と塗工面16aをアースするためのものである。ノズル26と塗工面16aとの間にメッシュ32を配置し、ノズル26と塗工面16aとをアースした状態でメッシュ32に電圧を印加すると、ノズル26-メッシュ32間、及び、メッシュ32-塗工面16a間に電界を発生させることができる。接地装置34の構造は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0033】
[1.2.3. 高圧電源]
高圧電源36は、メッシュ32に電圧を印加することによって、ノズル26とメッシュと32の間、及び、メッシュ32と塗工面16aとの間に電界を発生させるためのものである。高圧電源36により印加される電圧の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な電圧を選択することができる。また、高圧電源36は、メッシュ32に正電圧を印加するものでも良く、あるいは、負電圧を印加するものでも良い。
【0034】
[1.3. 適用対象]
[1.3.1. 粉体]
本発明が適用される粉体12aの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。粉体12aとしては、例えば、
(a)触媒粒子、又は、表面に触媒粒子が担持された担体(以下、これらを総称して単に「電極触媒」ともいう)からなる粉体、
(b)アイオノマからなる粉末、
(c)電極触媒とアイオノマの混合物からなる粉体、
(d)電極触媒の表面がアイオノマでコートされた複合体からなる粉体、
(e)カーボンブラック、カーボンシート、カーボンファイバー等の電子伝導性の粉体、
などがある。
【0035】
粉体12aが電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体である場合、ドライプロセスを用いて燃料電池用の触媒層を形成することができる。
粉体12aは、特に、電極触媒の表面がアイオノマでコートされた複合体が好ましい。これは、予めアイオノマーでコートすることで、触媒にプロトンが供給されやすくなるため、及び、アイオノマコート触媒同士が繋がることで、触媒層全体にプロトンが供給されやすくなるためである。
【0036】
[1.3.2. 基材]
本発明が適用される基材16の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。基材16としては、例えば、
(a)固体高分子電解質からなる電解質膜、
(b)塗膜18を他の材料に転写するために、一時的に塗膜18を載置するための樹脂シート(例えば、ポリテトラフルオロエチレンシート)、
(c)ガス拡散層(例えば、撥水層を備えたカーボンペーパー)、
(d)金属板、
などがある。
【0037】
[2. 塗膜の製造方法(1)]
本発明の第1の実施の形態に係る塗膜の製造方法は、
図1に示す粉体塗工装置10aを用いて、基材16の塗工面16aに粉体12aを塗工し、塗工面16aに塗膜18を形成することを特徴とする。塗膜18の形成は、具体的には、以下のようにして行う。
【0038】
すなわち、メッシュ32の一方の面にノズル26の先端を近接して配置し、メッシュ32の他方の面に基材16を近接して配置する。また、接地装置34を用いて基材16の塗工面16aとノズル26とをアースする。さらに、高圧電源36を用いてメッシュ32に電圧を印加する。
【0039】
この状態において、分散装置22内に粉体12aを投入し、分散装置22内において粉体12aを解砕及び/又は粉砕する。これと同時に、搬送ガス供給装置24を用いて、分散装置22内に搬送ガス12bを供給する。これにより、分散装置22内において、粉体12aと搬送ガス12bからなるエアロゾル14が発生する。
【0040】
アースされたノズル26からエアロゾル14が吐出されると、粉体12aはメッシュ32とは反対の電荷に帯電し、メッシュ32に向かって飛翔する。また、メッシュ32に到達した粉体12aはメッシュ32と同一の電荷に帯電した後、さらに、反対の電荷を持つ塗工面16aに向かって飛翔する。その結果、粉体12aが塗工面16aに塗着し、塗工面16a上に塗膜18が形成される。
【0041】
[3.粉体塗工装置(2)]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る粉体塗工装置の模式図を示す。
図2において、粉体塗工装置10bは、エアロゾル発生装置20と、静電場印加装置30bとを備えている。
【0042】
[3.1. エアロゾル発生装置]
エアロゾル発生装置20は、粉体12aを解砕及び/又は粉砕し、粉体12aを含むエアロゾル14を発生させ、エアロゾル14を基材16の塗工面16aに向かって吐出するための装置である。
図2において、エアロゾル発生装置20は、分散装置22と、搬送ガス供給装置24と、ノズル26とを備えている。エアロゾル発生装置20に関するその他の点については第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
[3.2. 静電場印加装置]
静電場印加装置30bは、エアロゾル14に含まれる粉体12aを誘導帯電させ、誘導帯電させた粉体12aを静電場により塗工面16aに塗着させ、塗膜18を得るための装置である。
図2において、静電場印加装置30bは、接地装置34と、高圧電源36とを備えている。すなわち、静電場印加装置30bは、メッシュを備えていない。この点が第1の実施の形態とは異なる。
【0044】
[3.2.1. 接地装置]
接地装置34は、塗工面16aをアースするためのものである。接地装置34に関するその他の点については第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0045】
[3.2.2. 高圧電源]
高圧電源34は、塗工面16aに近接して配置されたノズル26に電圧を印加することによって、ノズル26と塗工面16aとの間に電界を発生させるためのものである。高圧電源34に関するその他の点については第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
[3.3. 適用対象]
本実施の形態において、粉体12a及び基材16の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。粉体12a及び基材16の種類に関するその他の点については第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0047】
[2. 塗膜の製造方法(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る塗膜の製造方法は、
図2に示す粉体塗工装置10bを用いて、基材16の塗工面16aに粉体12aを塗工し、塗工面16aに塗膜18を形成することを特徴とする。塗膜18の形成は、具体的には、以下のようにして行う。
【0048】
すなわち、基材16の塗工面16aにノズル26の先端を近接して配置する。また、接地装置34を用いて基材16の塗工面16aをアースする。さらに、高圧電源36を用いてノズル26に電圧を印加する。
【0049】
この状態において、分散装置22内に粉体12aを投入し、分散装置22内において粉体12aを解砕及び/又は粉砕する。これと同時に、搬送ガス供給装置24を用いて、分散装置22内に搬送ガス12bを供給する。これにより、分散装置22内において、粉体12aと搬送ガス12bからなるエアロゾル14が発生する。
高電圧が印加されたノズル26からエアロゾル14が吐出されると、粉体12aは塗工面16aとは反対の電荷に帯電し、塗工面16aに向かって飛翔する。その結果、粉体12aが塗工面16aに塗着し、塗工面16aに塗膜18が形成される。
【0050】
[4. 塗膜]
本発明に係る塗膜は、
電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体を含み、
前記粉体の平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
算術平均表面粗さRaが1μm以上10μm以下である。
【0051】
[4.1. 粉体の種類]
本発明に係る塗膜において、粉体は、電極触媒及び/又はアイオノマを含む。粉体は、特に、極触媒の表面がアイオノマでコートされた複合体が好ましい。粉体に関するその他の点については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0052】
[4.2. 平均粒径]
粉体の平均粒径が小さくなりすぎると、粉体の凝集力が高くなる。その結果、分散装置で処理した場合であっても、凝集を完全にほぐすことができず、塗膜が不均一となる場合がある。従って、粉体の平均粒径は、1μm以上である必要がある。
【0053】
一方、粉体の平均粒径が大きくなりすぎると、塗膜の表面粗さが粗くなる。表面粗さの粗い塗膜を例えば燃料電池用の触媒層として用いた場合、粉体が電解質膜を突き破り、水素極と空気極が短絡する場合がある。従って、粉体の平均粒径は、10μm以下である必要がある。平均粒径は、好ましくは、8μm以下、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0054】
[3.3. 算術平均表面粗さRa]
燃料電池用の触媒層をウェットプロセスを用いて製造する場合、触媒インクには、通常、電極触媒の分散性を高めるための界面活性剤が添加される。このような触媒インクを基材表面に塗布し、乾燥させると、算術平均表面粗さRaは、通常、1μm未満となる。一方、燃料電池用の触媒層を従来のドライプロセスを用いて製造すると、算術平均表面粗さRaは、通常、10μmを超える。
【0055】
これに対し、平均粒径が1μm以上10μm以下である粉体を用いて、本発明に係る方法により塗膜を形成すると、塗工時における粉体の凝集が抑制される。その結果、従来のウェットプロセスに比べてRaが大きいが、従来のドライプロセスに比べてRaが小さい塗膜が得られる。
具体的には、算術平均粗さRaが1μm以上10μm以下である塗膜、すなわち、粉体の平均粒径にほぼ対応する算術平均表面粗さRaを有する塗膜が得られる。
【0056】
[4. 作用]
エアロゾル発生装置を用いて粉体(例えば、電極触媒及び/又はアイオノマを含む粉体)を解砕及び/又は粉砕すると同時に、エアロゾル発生装置に搬送ガスを供給すると、粉体と搬送ガスからなるエアロゾルが発生する。次いで、得られたエアロゾルを塗工面に向かって吐出し、静電場印加装置を用いて、エアロゾルに含まれる粉体を誘導帯電させると、静電場により粉体が塗工面に向かって飛翔する。その結果、粉体が塗工面に塗着し、塗膜が得られる。
【0057】
このような方法を用いると、凝集体のない均一な塗面を備えた塗膜が得られる。得られた塗膜は、ウエットプロセスで得られた塗膜に比べて表面粗さは大きいが、従来のドライプロセスで得られた塗膜に比べて表面粗さが格段に小さい。また、塗工面にエアロゾルを吐出する方法は、静電粉体塗装法に比べて塗着効率が高い。さらに、溶媒の乾燥工程が不要であるので、ウェットプロセスに比べて製造エネルギーや製造コストを削減することができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1~2、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 塗工材料の調製]
アイオノマ(Solvay社製、Aquivion(登録商標))溶液(D79)とカーボンブラック(Vulcan(登録商標))とを水に加え、高圧ホモジナイザー((株)スギノマシン製、スターバーストミニ、ノズル径:100μm、150MPa、2pass)を用いて分散処理し、スラリーを得た。アイオノマ/カーボン(質量比)は0.5とし、固形分濃度は5mass%とした。得られたスラリーをスプレードライヤーで処理し、複合体を得た。
図3に、得られたアイオノマ/カーボン複合体のSEM像を示す。
図3より、一次粒径1~5μmの粉体が得られていること、及び、粉体の一部が凝集していることが分かる。
【0059】
[1.2. 塗膜の作製]
[1.2.1. 実施例1]
図1に示す粉体塗工装置10aを用いて、塗膜18を作製した。分散装置(ミキサー)22で分散させた煙状の粉体(エアロゾル)を窒素ガス(200mL/min)で搬送し、設置装置34に接続された金属製のノズル26からエアロゾル14を吐出させた。基材16をアースした状態で、電圧(-2kV)をかけたメッシュ32に向けてエアロゾル14を吐出させると、帯電した粉体12aがメッシュ32を通過し、基材16に向かって飛翔した。その結果、塗工面16aに塗膜18が形成された。
【0060】
[1.2.2. 実施例2]
図2に示す粉体塗工装置10bを用いて、塗膜18を作製した。ノズル26と基材16との距離を3mmに設定し、金属製のノズル26に電圧(-5kV)をかけた。分散装置(ミキサー)22で分散させた煙状の粉体(エアロゾル)を窒素ガス(200mL/min)で搬送し、高圧電源36に接続された金属製のノズル26からエアロゾル14を吐出させた。電圧(-5kV)をかけたノズル26からアースされた塗工面16aに向けてエアロゾル14を吐出させると、帯電した粉体12aがアースされた基材16に向かって飛翔した。その結果、塗工面16aに塗膜18が形成された。
【0061】
[1.2.3. 比較例1]
図4に、比較例1で用いた粉体塗工装置の模式図を示す。
図4において、粉体塗工装置10cは、特許文献2を参考にして作製したものであり、圧電素子42aを用いて振動板42bを振動させる振動フィーダー42と、振動板42bに粉体12aを供給するためのホッパー44と、振動板42bの上方に所定の間隔を隔てて配置された金属メッシュ46とを備えている。
【0062】
粉体塗工装置10cによる塗膜18の作製は、以下のようにして行った。すなわち、金属メッシュ46の上方に、基材16を配置した。ホッパー44から振動板42b上に粉体12aを供給し、振動フィーダ42を用いて、粉体12aを金属メッシュ46の下まで搬送した。基材16及び振動板42bをアースした状態で、電源(図示せず)を用いて金属メッシュ46に電圧(-2kV)を印加すると、粉体12aが金属メッシュ46に向かって飛翔し、さらに、金属メッシュ46を通過して基材16に向かって飛翔した。その結果、塗工面16aに塗膜18が形成された。
【0063】
[1.2.4. 比較例2(インク工法)]
30mass%白金担持Vulcan(登録商標)(田中貴金属工業(株)製、TEC10V30E):0.8g、水:3.8g、アイオノマ溶液(Chemours社製、D2020):1.86g、エタノール:1.4gを混合した溶液を、超音波ホモジナイザーで分散処理した。得られた溶液を脱泡・攪拌することで、触媒インクを調製した。これをベーカー式アプリケータでポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に塗工し、触媒層シートを得た。
【0064】
[2. 試験方法]
[2.1. SEM観察]
得られた塗膜18の表面のSEM観察を行った。
[2.2. 算術平均表面粗さ]
塗膜18の表面を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、表面の凹凸を測定した。得られた凹凸の値から、算術平均表面粗さRaを算出した。
【0065】
[3. 結果]
[3.1. SEM観察]
図5に、実施例1で得られた塗膜の表面のSEM像を示す。
図6に、実施例2で得られた塗膜の表面のSEM像を示す。
図5及び
図6より、本発明に係る粉体塗工装置を用いると、凝集体のない均一な塗膜18が得られることが分かる。
図7に、比較例1で得られた塗膜の表面のSEM像を示す。比較例1で得られた塗膜18は、塗面にムラがあり、所々に凝集体が観察された。
図7より、金属メッシュ46への静電飛翔だけでは、粉体が十分に分散しないことが分かる。
【0066】
[3.2. 算術平均表面粗さRa]
比較例1で得られた塗膜18の算術平均表面粗さRaは、31.8μmであった。比較例2で得られた触媒層のRaは、0.3μmであった。これに対し、実施例1及び実施例2で得られた塗膜18のRaは、それぞれ、4.2μm、及び、3.4μmであった。
以上の結果から、本発明に係る粉体塗工装置を用いると、従来のドライ工法、あるいは、インク工法では作製できない特徴を持つ塗膜18が得られることが分かった。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る粉体塗工装置は、固体高分子形燃料電池の触媒層の製造、撥水層の製造、金属セパレータの表面コートなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10a、10b 粉体塗工装置
20 エアロゾル発生装置
22 分散装置
24 搬送ガス供給装置
26 ノズル
30a、30b 静電場印加装置
32 メッシュ
34 接地装置
36 高圧電源