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特許7310815α-メトキシイソ酪酸エステル化合物を含有する香料組成物及び香料としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】α-メトキシイソ酪酸エステル化合物を含有する香料組成物及び香料としての使用
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20230711BHJP
   C07C 69/708 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C11B9/00 S
C07C69/708 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020527582
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2019025397
(87)【国際公開番号】W WO2020004469
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018121114
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018222721
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】横堀 海
(72)【発明者】
【氏名】▲櫛▼田 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】竹本 眞規
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第2525249(US,A)
【文献】特開平8-67884(JP,A)
【文献】特開昭54-92635(JP,A)
【文献】米国特許第3368943(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/00
C07C 69/708
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物を有効成分として含有する香料組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。)
【請求項2】
式(1)中、Rがノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、請求項1に記載の香料組成物。
【請求項3】
式(1)で表される化合物の香料としての使用。
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。)
【請求項4】
式(1)中、Rがノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
式(1)で表される化合物が、ミント様の香りを付与する、請求項3又は4に記載の使用。
【請求項6】
式(1)中、Rがイソプロピル基である化合物が、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香りを付与する、請求項3又は4に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-メトキシイソ酪酸エステル化合物を含有する香料組成物及び香料としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イソ酪酸エステルには香料として有用な化合物があることが知られている。例えば、非特許文献1には各種のイソ酪酸エステルが主としてフレーバーとして用いられており、具体的にはイソ酪酸メチルが甘いアプリコット様、イソ酪酸プロピルが重いパイナップル様、イソ酪酸ブチルが新鮮なリンゴ及びバナナ様、イソ酪酸イソアミルが甘いアプリコット及びパイナップル様といった、いずれもフルーツ香のフレーバー素材であることの記載がある。
また、特許文献1にはα-アルコキシイソ酪酸の炭素数4~12の直鎖又は分岐した飽和アルキルエステルが香料として有用であることが開示されており、α-エトキシイソ酪酸ノルマルヘキシルがラベンダー様の香気を持つこと、α-メトキシイソ酪酸のイソブチル、ノルマルペンチル、ノルマルヘキシルの各エステルが香料特性を持ち、塩素系漂白剤を含む洗剤への使用に適していることの記載がある。
【0003】
一方、α-メトキシイソ酪酸エチルは公知な物質であり、例えば特許文献2~3などにおいて低毒性で安全性の高い溶媒としてワックス洗浄剤、フラックス洗浄剤、レジスト剥離剤等に有用であることが開示されており、その匂いについても”不快臭がない”と開示されているが、その香気特性や、これを含む香料組成物、更に香料として使用する方法についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第3,368,943号明細書
【文献】特開平8-231990号公報
【文献】特開平7-228895号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「合成香料 化学と商品知識 増補新版」、化学工業日報社、2016年、580~582ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、香料及び調合香料素材として有用なα-メトキシイソ酪酸エステル化合物を有効成分として含有する香料組成物、及び該化合物の香料としての使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の化合物を合成し、その香気について鋭意検討したところ、α-メトキシイソ酪酸の特定のエステル化合物が香料及び調合香料素材として有用であることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0008】
<1> 式(1)で表される化合物を有効成分として含有する香料組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。)
【0009】
<2> 式(1)中、Rがノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、<1>に記載の香料組成物。
<3> 式(1)で表される化合物の香料としての使用。
【化2】

(式(1)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。)
【0010】
<4> 式(1)中、Rがノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される、<3>に記載の使用。
<5> 式(1)で表される化合物が、ミント様の香りを付与する、<3>又は<4>に記載の使用。
<6> 式(1)中、Rがイソプロピル基である化合物が、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香りを付与する、<3>又は<4>に記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、香料及び調合香料素材として有用なα-メトキシイソ酪酸エステル化合物を有効成分として含有する香料組成物、及び該化合物の香料としての使用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[香料組成物及び使用]
本発明の香料組成物は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含む。また、本発明の使用は、下記式(1)で表される化合物の香料としての使用である。
以下、本発明について、詳細に説明する。
<式(1)で表される化合物>
本発明の香料組成物及び本発明の使用に用いられる化合物は、下記式(1)で表される。(以下、「本発明のイソ酪酸エステル」ともいう。)
【化3】

(式(1)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。)
【0013】
式(1)中、Rとしては、具体的にはエチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0014】
上記式(1)で表される化合物は、香料及び調合香料素材として有用であり、ミント様の香気を持ち、それに加えてシトラス調、フローラル調、スパイシー調などの香気も同時に示す。
好ましくは、Rがノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択される化合物である。
特に好ましくは、Rがノルマルプロピル基である。
特に好ましくは、Rがイソプロピル基である。
特に好ましくは、Rがシクロペンチル基である。
本発明において、式(1)で表される化合物として、以下の式(1-1)~(1-7)のいずれかで表される化合物が例示され、特に好ましい化合物は、以下の式(1-1)~(1-3)のいずれかで表される化合物である。
【0015】
【化4】
【0016】
近年、化学物質の毒性や環境への影響が極めて重視される傾向にあり、それは香料や香料組成物についても例外ではない。人体への感作性や環境への蓄積性などを理由に従来用いられてきた香料の使用条件が厳しく制限されたり、使用禁止になるケースが増える傾向にある。そのために環境負荷の少ない香料及び香料組成物が今まで以上に強く求められる状況にある。従って、調合香料素材としても、生分解性に優れ、生物蓄積性が小さいことが好ましい。
式(1)で表される化合物は、生分解性に優れ、かつ、生物蓄積性が小さい化合物を含み、この観点からは、Rは、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、及びシクロペンチル基よりなる群から選択された基であることが好ましい。
【0017】
式(1)で表される化合物は、それ自体が後述するように優れた香気を有することから、香料として有用である。また、香料は、一般に単品で使用されることは少なく、複数の香料を目的に合わせて配合した調合香料(香料組成物)として使用することが多い。式(1)で表される化合物は、調合香料(香料組成物)に配合される香料(「調合香料素材」ともいう。)として有用であり、本発明の香料組成物は、式(1)で表される化合物を有効成分として含有するものである。香料として、上記式(1)で表される化合物を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、式(1)で表される化合物が、本発明の効果を損なわない範囲で、少量の不純物、副生成物、夾雑物などを含むことを排除するものではない。
【0018】
式(1)で表される化合物は、ミント様の香気を持つと共にシトラス調、フローラル調、スパイシー調などの香気を有し、かつ拡散性にも優れる。また、式(1-2)で表される化合物は、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香気を有し、かつ拡散性にも優れる。
式(1)で表される化合物を単独で香料として各種香粧品類、保健衛生材料をはじめとして医薬品、日用雑貨品、食品などに添加使用することにより香気を付与してもよく、また、式(1)で表される化合物を他の調合香料素材等と混合して、後述する香料組成物(調合香料)を調製し、これを各種の製品に配合して香気を付与してもよい。これらの中でも、目的とする香気を得る観点から、式(1)で表される化合物を調合香料素材として香料組成物に配合して、式(1)で表される化合物を有効成分として含有する香料組成物を調製し、該香料組成物を製品に配合することで賦香することが好ましい。
また、式(1)で表される化合物は、香料として使用することが好ましく、ミント様の香りを付与するために使用されることがより好ましい。更に、式(1-2)で表される化合物は、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香りを付与するために使用されることがより好ましい。
【0019】
<香料組成物>
本発明の香料組成物(調合香料)は、式(1)で表される化合物を有効成分として含有する。なお、式(1)で表される化合物を少なくとも1種以上含有すれば特に限定されず、2種以上の式(1)で表される化合物を含有してもよい。
本発明の香料組成物は、式(1)で表される化合物を有効成分として含有していればよく、その他の成分については特に限定されないが、他の調合香料素材(以下、「従来香料」ともいう。)を更に含有することが好ましい。
なお、「香料組成物(調合香料)」とは、該香料組成物を各種香粧品類、医薬品、食品、飲料等に添加することで、香気を付与する組成物、又はそれ自体として香水等に使用される組成物であり、従来香料に加え、必要に応じて、溶媒等の添加剤を含有してもよい。
式(1)で表される化合物の配合量は、化合物の種類、目的とする香気の種類及び香気の強さ等により異なるが、式(1)で表される化合物の量として香料組成物中に、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0020】
従来香料は、従来公知な香料成分であれば特に制限はなく、広い範囲の香料が使用でき、例えば下記のようなものから単独で又は2種以上を任意の混合比率で選択し、使用することができる。
例えば、リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等の炭化水素類;リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-t-ブチルシクロヘキサノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等のアルコール類;オイゲノール、チモール、バニリン等のフェノール類;リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等のエステル類;n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4-ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等のケトン類;アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール類のアセタール類及びケタール類;アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキシド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等のエーテル類;シトロネリルニトリル等のニトリル類;γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等のラクトン類;オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、サンダルウッド、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等の天然精油や天然抽出物;合成香料等の他の香料物質等である。
【0021】
また、香料組成物は、調合香料素材以外の構成成分として、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテル等の界面活性剤;ジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルミリステート、トリエチルシトレート等の溶媒;酸化防止剤;着色剤等も含んでいてもよい。
【0022】
式(1)で表される化合物は、ミント様の香気を有すると共に、シトラス調、フローラル調、スパイシー調などの香気を有することから、従来香料と組み合わせることによりミント調と共に自然なシトラス調、フローラル調、スパイシー調を付与できるため、各種香粧品類、保健衛生材料をはじめとして医薬品、日用雑貨品、食品などへの添加し、香気を付与するのに有用である。また、式(1-2)で表される本発明のイソ酪酸エステルは、ダマスコン様のフルーティ調、フローラル調、又はウッディ調の香気を有することから、従来香料と組み合わせるなどして、香気を付与するのに有用である。
【0023】
式(1)で表される化合物を含有する香料組成物を、香気付与のため、及び配合対象物の香気の改良を行うために添加できるものとしては香粧品類、健康衛生材料、雑貨、飲料、食品、医薬部外品、医薬品等の各種製品を挙げることができ、例えば、香水、コロン類等のフレグランス製品;シャンプー、リンス類、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ムース、ジェル、ポマード、スプレーその他毛髪用化粧料;化粧水、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、各種メークアップ類等の肌用化粧料;皿洗い洗剤、洗濯用洗剤、ソフトナー類、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、室内芳香剤、ファニチャーケア、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、殺菌剤、忌避剤、その他の各種健康衛生用洗剤類;歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、パーマ液等の医薬部外品;トイレットペーパー、ティッシュペーパー等の雑貨;医薬品等;食品等の香気成分として使用することができる。
【0024】
上記製品中の香料組成物の配合量は特に限定されず、賦香すべき製品の種類、性質及び官能的効果などに応じて、香料組成物の配合量は広い範囲に渡って選択することができる。例えば、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、更に好ましくは0.001質量%以上であり、例えば香水等のフレグランスの場合には100質量%であってもよく、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、より更に好ましくは40質量%以下である。
【0025】
[式(1)で表される化合物の製造方法]
式(1)で表される化合物の製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法から適宜選択して用いればよい。
例えば、α-メトキシイソ酪酸とアルコールを触媒の存在下にエステル化反応させることによって、α-メトキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(2)に示した。
【0026】
【化5】

式(2)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。
【0027】
また、別種のα-メトキシイソ酪酸エステルとアルコールを触媒の存在下にエステル交換反応させることによって、目的のα-メトキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(3)に示した。
【0028】
【化6】

式(3)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。R’はRと異なるアルキル基であれば特に制限はない。
【0029】
また、α-ハロゲノイソ酪酸エステルとアルカリ金属メトキシドを反応させることによって目的のα-メトキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(4)に示した。
【0030】
【化7】

式(4)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基、又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。Mはナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属元素を示し、Xは塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素を表す。
【0031】
また、α-ヒドロキシイソ酪酸エステル又はα-ヒドロキシイソ酪酸エステルのアルカリ金属アルコキシドとハロゲン化メチルを反応させることによって目的のα-メトキシイソ酪酸エステルを製造することができる。この反応の反応式を下記式(5)に示した。α-ヒドロキシイソ酪酸エステルのアルカリ金属アルコラートは別途合成したものでも、反応系中でα-ヒドロキシイソ酪酸エステルと水素化アルカリ金属などとの反応によって生成したものでもよい。
【0032】
【化8】

式(5)中、Rは炭素数2~3の直鎖状、分岐状のアルキル基、又は炭素数3~6の環状のアルキル基を示す。Mは水素、又はナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属元素を示し、Xは塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素を表す。
【0033】
これらの反応に用いられる触媒や反応方式、反応条件、及び反応装置などについても、従来公知な触媒、反応方法、反応条件、及び反応装置を用いることができ、特に制限はない。また、得られた式(1)の化合物を精製する方法についても、従来公知な精製方法を採用することができ、何ら制限はない。
【実施例
【0034】
以下に、実施例を以って本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
<ガスクロマトグラフィー分析(GC分析)>
装置:GC-2010((株)島津製作所製、製品名)
検出器:FID
カラム:DB-1(J&W製キャピラリーカラム、製品名)(0.25mmφ×60m×0.25μm)
【0036】
<参考例1:α-メトキシイソ酪酸の合成>
撹拌装置、還流冷却器を備えた2000mL丸底フラスコにアセトン(和光純薬工業(株)製)697.3g、クロロホルム(和光純薬工業(株)製)476.8gを仕込み、-7℃まで冷却した。水酸化カリウム(和光純薬工業(株)製)20.2gを投入し、2時間撹拌しながら反応させた後、ゆっくり20℃まで昇温し、更に30分撹拌して反応を終了した。得られた反応生成物を濾過、濃縮した後に、イオン交換水を加えて白色沈殿を得た。白色沈殿を濾過、洗浄し、減圧乾燥(60℃、30hPa.12時間)することにより1,1,1-トリクロロ-ターシャリーブタノール(クロレトン)238.9g(GC分析による純度(以下、GC純度ともいう。):95%)を得た。
次に、撹拌装置、還流冷却器、滴下漏斗を備えた2000mL四つ口丸底フラスコにイオン交換水95.0g、メタノール(和光純薬工業(株)製)330.1gを入れ、氷冷しながら水酸化カリウム(和光純薬工業(株)製)164.6gを溶解させた。フラスコを昇温して16℃となった時に、上記の方法で製造した1,1,1-トリクロロ-ターシャリーブタノール130.6gをメタノール(和光純薬工業(株)製)327.2gに溶解させた溶液を滴下漏斗から滴下して加えた。滴下速度及び冷却浴を制御して液温が30℃以上を越えないように保ちながら、全ての原料溶液を約30分かけて滴下した。滴下終了後、フラスコを油浴により加熱して2時間、加熱還流させて反応を行った。反応終了後、室温まで冷却して10%硫酸水溶液を500mL加えて撹拌した。生成した白色沈殿を濾過して分離した後に、濾液をジエチルエーテルで4回抽出し、飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、硫酸ナトリウム無水物で乾燥させた後に、濃縮して油状の粗生成物42.3gを得た。これを減圧蒸留して46hPa、115℃の留分としてα-メトキシイソ酪酸24.8g(GC純度:99.8%)を得た。
【0037】
<実施例1:α-メトキシイソ酪酸ノルマルプロピルの合成>
冷却管、ディーンスターク装置を備えた200mLガラス製フラスコに、参考例1で得たα-メトキシイソ酪酸20.0g、ノルマルプロパノール(和光純薬工業(株)製)30.0g、p-トルエンスルホン酸(和光純薬工業(株)製)0.96g、トルエン(和光純薬工業(株)製)10.0gを充填した。常圧下で加熱還流しながらエステル化反応を行い、生成する水をディーンスターク装置で抜き出しながら5時間反応を行った。水酸化ナトリウム水溶液、次いで飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後に減圧蒸留を行い、81hPa、94℃の留分としてα-メトキシイソ酪酸ノルマルプロピル15.9g(GC純度:99.9%)を得た。この反応の反応式を下記式(6)に示した。
【0038】
【化9】
【0039】
<実施例2~3:各種α-メトキシイソ酪酸エステルの合成>
実施例1と同様の反応装置を用い、適量のα-メトキシイソ酪酸と各種アルコール(イソプロパノール、シクロペンタノール)をp-トルエンスルホン酸のような適当な触媒の存在下、場合によってはヘキサン、トルエンのような溶媒共存下で、加熱しながら適当な反応条件下でエステル化反応させた。反応によって生成する水をディーンスターク装置で抜き出しながらエステル化反応を完結し、実施例1と同様の分離操作を行い、以下のα-メトキシイソ酪酸エステルをそれぞれ得た。得られたα-メトキシイソ酪酸エステルのGC純度を併記した。
α-メトキシイソ酪酸イソプロピル (GC純度:99.9%)
α-メトキシイソ酪酸シクロペンチル (GC純度:98.2%)
【0040】
上記の方法によって得た各種α-メトキシイソ酪酸エステルにつき、調香師により香気評価を行った結果を表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
<香料材料の生分解性及び生物濃縮性の評価>
化合物の生分解性の評価方法の一つにOECDテストガイドライン301Cがあり、化合物と好気性微生物の共存する水溶液中における生化学的酸素要求量と実際の酸素消費速度から化合物の生分解性の良否を判断することができる。
この試験方法に準じた化合物の生分解する確率を、被験物質の化学構造から容易、かつ、精度よく推算する方法として「Biowin5」、「Biowin6」という計算ソフトウェアが知られている。
【0043】
また、化合物の生物濃縮性の評価方法の一つにOECDテストガイドライン305があり、魚へ暴露した場合に、化合物が魚体に取り込まれる量によって濃縮度を判断することができる。この試験方法に準じた化合物の生物濃縮度を、被験物質の化学構造から容易、かつ、精度よく推算する方法として「BCFWIN」という計算ソフトウェアが知られている。
該ソフトウェアはアメリカ合衆国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency, EPA)が化学物質の環境への影響を評価する目的で作成した「The Estimations Programs Interface for Windows version 4.1」という計算ソフトウェアのモジュールの1つとして公共に配布されており、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals(GHS)の化合物分類やアメリカ合衆国環境保護庁の新規化学物質審査において利用されている。このソフトウェアを用いて、既存の香料材料と本発明の化合物の生分解性及び生物濃縮性の違いを評価した。
【0044】
本発明の化合物に類似する既存の香料材料の代表例としてミント様の香調を持つメントール、メントン、カルボン、及びフルーティの香調を持つ(E)-α-ダマスコン、(E)-β-ダマセノンを選択し、本発明の化合物と共に評価を行った。ソフトウェアへの入力に用いたSMILES式と「Biowin5(線形予測モデル)」、「Biowin6(非線形予測モデル)」による良分解性の確率の出力結果を表2に示した。結果の数字は大きい程、良分解性を示し、0.5以上で良分解性(表中、記号“A”)、0.5未満で難分解性(表中、記号“B”)と判定される。
【0045】
また、「BCFWIN version3.01」による生体濃縮性の評価として「regression-based method」及び「Arnot-Gobas method」両方法による出力結果を表2に示した。両方法のどちらも数字が大きい程、環境から魚体へ濃縮することを意味し、食物連鎖によって環境へ悪影響を及ぼす指標となる。
表2から類似する既存の香料材料であるメントール、メントン、カルボン、(E)-α-ダマスコン、(E)-β-ダマセノンに対して、本発明の化合物は良好な生分解性及び低い生物濃縮性が期待できる結果が得られた。本発明の化合物は香料として環境に放出された後に容易に生分解し、かつ、生体濃縮し難いことにより、より環境への負荷が少ない傾向を示した。
【0046】
【表2】
【0047】
<実施例4:フローラルタイプの香料組成物>
表3に示す組成を持つ香料組成物80.5質量部に、実施例2で得られたα-メトキシイソ酪酸イソプロピル19.5質量部を加えた香料組成物を調合した。
調香師による香気評価により、表3に記載した組成を持つ香料組成物に実施例2のα-メトキシイソ酪酸イソプロピルを添加することにより、グリーンなニュアンスが柔らかくなり、まとまりが良くなり、香りの強さとボリュームもアップした。その結果、ライム様のシトラスさ、フローラルさ、スパイシーさ、ウッディさ、及び、ミント様の清涼感が付与された、清潔感のある落ち着いたフローラルな香気が付与されたフローラルタイプの香料組成物が得られた。この香料組成物の香気は男性用ヘアームース、男性用洗顔フォーム、男性用スキンクリームなどへの賦香に適すると思われる。
【0048】
【表3】

*表中に括弧の記載がある配合成分は、ジプロピレングリコールで希釈した溶液として用いた。数字は、その溶液に含まれる香料の質量%を表す。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のα-メトキシイソ酪酸エステル化合物は、優れた香気を有し、それ自体を香料として使用することが期待されると共に、該化合物を調合香料素材として使用することにより、香気性に優れた香料組成物が得られ、各種製品に配合することにより、所望の賦香性を発揮するものである。
更に、実施例で得られた化合物は、いずれも優れた生分解性及び低い生物濃縮性を有し、環境への負荷が低いものであり、使用に適するものであることが示された。