(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】化学研磨液及びそれを用いた表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 3/03 20060101AFI20230711BHJP
C23F 1/20 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C23F3/03
C23F1/20
(21)【出願番号】P 2020541202
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034388
(87)【国際公開番号】W WO2020050204
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018164437
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【氏名又は名称】石原 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 伸也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智子
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕嗣
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-004132(JP,A)
【文献】特開2004-298938(JP,A)
【文献】特開2012-143798(JP,A)
【文献】特開昭50-003925(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106757039(CN,A)
【文献】安 清一ほか,アルミニウムの化学研磨と電解研磨に関する今昔情報,近畿アルミニウム表面処理研究会会誌,2010年,No.264,Page.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 3/03
C23F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金に用いられる化学研磨液であって、
過酸化水素(A)、フッ素化合物(B)、前記フッ素化合物(B)には該当しない無機酸(C)、及び水酸基含有炭化水素化合物(D)を含有し、
前記過酸化水素(A)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、2~20質量%、
前記フッ素化合物(B)のフッ素原子換算での含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、3~17質量%、
前記無機酸(C)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、20~55質量%、
前記水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、2~15質量%である、
化学研磨液。
【請求項2】
前記化学研磨液のpHが、4以下である、請求項1に記載の化学研磨液。
【請求項3】
前記フッ素化合物(B)が、酸性フッ化アンモニウム、酸性フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、及びフッ化水素からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の化学研磨液。
【請求項4】
前記無機酸(C)が、リン酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の化学研磨液。
【請求項5】
前記水酸基含有炭化水素化合物(D)が、炭素数2以上の一価アルコール、多価アルコール、及びグリコールエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化学研磨液。
【請求項6】
前記無機酸(C)と前記水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量比[(C)/(D)]が、質量比で、2~25である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化学研磨液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
【請求項8】
アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う際の前記化学研磨液の温度が、40~80℃である、請求項7に記載の表面処理方法。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う時間が、1秒以上10分以下である、請求項7又は8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う工程を有する、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学研磨液、及び当該化学研磨液を用いたアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムやその合金の表面を平滑化すると共に光沢を付与するための化学研磨液としては、一般的にはリン酸と硝酸とが配合されたものが用いられてきた。しかし、このような硝酸を含む化学研磨液を用いる場合には、化学研磨の過程において硝酸が分解して有毒な窒素酸化物が発生してしまうことがあり、また、硝酸の分解時の発熱により、化学研磨液の温度が90~100℃程度の高温となる。
このため、例えば、ポリエステル素材の布に固定されたアルミニウム製のファスナーの金具に対して、硝酸を含む化学研磨液を用いた場合、上記の発熱によってポリエステル素材が変質し、布が変色してしまう場合がある。
このような問題の改善を目的として、例えば、特許文献1には、所定量のタングステン化合物を配合した化学研磨液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の化学研磨液は、タングステン化合物を含むため、コストが高く、経済的な側面での改善の余地がある。また、アルミニウム又はアルミニウムの合金の表面処理により適した化学研磨液が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、過酸化水素、フッ素化合物、フッ素化合物には該当しない無機酸、及び水酸基含有炭化水素化合物を含む化学研磨液が、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち本発明は、下記[1]~[12]を提供する。
[1]アルミニウム又はアルミニウム合金に用いられる化学研磨液であって、
過酸化水素(A)、フッ素化合物(B)、前記フッ素化合物(B)には該当しない無機酸(C)、及び水酸基含有炭化水素化合物(D)を含有し、
前記過酸化水素(A)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、2~20質量%、
前記フッ素化合物(B)のフッ素原子換算での含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、3~17質量%、
前記無機酸(C)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、20~55質量%、
前記水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量が、前記化学研磨液の全量基準で、2~15質量%である、
化学研磨液。
[2]前記化学研磨液のpHが、4以下である、上記[1]に記載の化学研磨液。
[3]前記フッ素化合物(B)が、酸性フッ化アンモニウム、酸性フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、及びフッ化水素からなる群より選ばれる1種以上である、上記[1]又は[2]に記載の化学研磨液。
[4]前記無機酸(C)が、リン酸を含む、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の化学研磨液。
[5]前記水酸基含有炭化水素化合物(D)が、炭素数2以上の一価アルコール、多価アルコール、及びグリコールエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の化学研磨液。
[6]前記無機酸(C)と前記水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量比[(C)/(D)]が、質量比で、2~25である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の化学研磨液。
[7]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
[8]アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う際の前記化学研磨液の温度が、40~80℃である、上記[7]に記載の表面処理方法。
[9]アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う時間が、1秒以上10分以下である、上記[7]又は[8]に記載の表面処理方法。
[10]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う工程を有する、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の製造方法。
[11]表面処理前のISO 25178に準拠して測定される算術平均高さ(Sa)が150~250nmである、アルミニウム又はJIS H4140に記載のアルミニウム合金について、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて表面処理した後の前記アルミニウム又はアルミニウム合金の算術平均高さ(Sa)が、200nm以下(ただし、表面処理前の算術平均高さ(Sa)以下)である、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金。
[12]表面処理前のISO 2813に準拠して測定される光沢度が200~350である、アルミニウム又はJIS H4140に記載のアルミニウム合金について、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の化学研磨液を用いて表面処理した後の前記アルミニウム又はアルミニウム合金の光沢度が、150以上(ただし、表面処理前の光沢度以上)である、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行った場合、アルミニウム等の表面を研磨して平滑化させつつ、優れた光沢を付与することができる。また、本発明の好適な一態様の化学研磨液は、作業安全性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔化学研磨液〕
本発明の化学研磨液は、アルミニウム又はアルミニウム合金(本明細書において、まとめて「アルミニウム等」ともいう)に用いられる化学研磨液であって、過酸化水素(A)、フッ素化合物(B)、フッ素化合物(B)には該当しない無機酸(C)、及び水酸基含有炭化水素化合物(D)を含有する(以下、本明細書では、過酸化水素(A)、フッ素化合物(B)、フッ素化合物(B)には該当しない無機酸(C)、水酸基含有炭化水素化合物(D)を、各々、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)ともいう)。
本発明の化学研磨液は、アルミニウム等の表面が過酸化水素(A)によって酸化され、フッ素化合物(B)が酸化された表面に作用することにより当該表面が平滑化される際に、無機酸(C)及び水酸基含有炭化水素化合物(D)が、アルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢の付与に寄与すると共に、表面処理の際の急激な反応の進行を抑制し、作業安全性も向上させると考えられる。なお、本発明における作用機序は、上記に限定されるものではない。
【0008】
本発明の一態様の化学研磨液のpHは、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3以下、特に好ましくは2.5以下であり、また、下限値としては適宜設定されるが、好ましくは1.1以上である。pHが4以下の化学研磨液とすることにより、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理(以下、本明細書では、「研磨」ともいう)を行う際、アルミニウムがアルミニウムイオンとして溶解して、これらの表面に対する表面処理が促進され、研磨後の表面の平滑性をより向上させることができる。
なお、本明細書において、化学研磨液のpHは、JIS Z8802に準拠して25℃で測定した値を意味する。
【0009】
本発明の一態様の化学研磨液は、さらに水や有機溶剤(成分(D)に該当するものを除く)等の希釈溶剤を含有してもよい。
また、本発明の一態様の化学研磨液は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)~(D)以外の有効成分を含有してもよい。なお、本明細書において、「有効成分」とは、化学研磨液中の水等の希釈溶剤を除いた成分を意味する。
【0010】
本発明の一態様の化学研磨液において、有効成分の含有量(有効成分濃度)としては、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは20~95質量%、より好ましくは35~85質量%、更に好ましくは45~80質量%、より更に好ましくは47~77質量%、特に好ましくは50~75質量%である。
【0011】
本発明の一態様の化学研磨液において、成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計含有量は、当該化学研磨液中の有効成分の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0012】
以下、各成分について説明する。
<過酸化水素(A):成分(A)>
本発明の化学研磨液は、過酸化水素(A)を、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、2~20質量%含有する。
過酸化水素(A)の含有量が2質量%未満であると、表面処理対象物であるアルミニウム等の表面の酸化が不十分となり易く、平滑な表面を形成し難くなる。一方、過酸化水素(A)の含有量が20質量%超であると、アルミニウム等の表面が過度に酸化し、平滑な表面の形成が難しくなる。
【0013】
上記観点から、本発明の一態様の化学研磨液において、過酸化水素(A)の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは3~18質量%、より好ましくは4~16質量%、更に好ましくは4~15質量%、特に好ましくは5~15質量%であり、5~12質量%であってもよい。
【0014】
なお、本発明の一態様において、過酸化水素(A)は、水溶液の形態である過酸化水素水として、他の成分と配合して、化学研磨液を調製してもよい。この際、化学研磨液における過酸化水素水の配合量は、過酸化水素(A)の含有量が上記範囲となるように、過酸化水素水の濃度を考慮して調整される。
【0015】
<フッ素化合物(B):成分(B)>
本発明の化学研磨液は、フッ素化合物(B)を、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、フッ素原子換算で、3~17質量%含有する。
フッ素化合物(B)のフッ素原子換算での含有量が3質量%未満であると、過酸化水素(A)によって酸化されたアルミニウム等の表面の平滑化が不十分となり易い。また、アルミニウム等の表面への光沢の付与が不十分ともなり易い。一方、フッ素化合物(B)のフッ素原子換算での含有量が17質量%超であると、得られる化学研磨液の排水処理に対する負荷が大きくなる傾向にある。
【0016】
上記観点から、本発明の一態様の化学研磨液において、フッ素化合物(B)のフッ素原子換算での含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは5~15質量%、より好ましくは7~13質量%、更に好ましくは8~12質量%、より更に好ましくは8~11質量%、特に好ましくは8~10質量%である。
なお、成分(B)のフッ素原子換算での含有量は、成分(B)の実際の配合量に、成分(B)中のフッ素原子の含有分率を乗じて算出できる。
【0017】
本発明の一態様の化学研磨液において、フッ素化合物(B)の含有量は、フッ素原子換算での含有量が上記範囲に属するように適宜設定されればよく、例えば、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは5~25質量%、より好ましくは8~22質量%、更に好ましくは10~20質量%、より更に好ましくは12~18質量%、特に好ましくは12~15質量%である。
【0018】
フッ素化合物(B)としては、フッ素原子を含有する化合物であればよく、例えば、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化セリウム、四フッ化ケイ素、フッ化ケイ素酸(ヘキサフルオロケイ酸等)、フッ化窒素(三フッ化窒素等)、フッ化リン(三フッ化リン、五フッ化リン等)、フッ化ビニリデン、三フッ化ホウ素、ホウフッ化水素酸(テトラフルオロホウ酸等)、フッ化ホウ素酸アンモニウム、モノエタノールアミンフッ化水素塩、メチルアミンフッ化水素塩、エチルアミンフッ化水素塩、プロピルアミンフッ化水素塩、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化トリエチルメチルアンモニウム、フッ化トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、フッ化テトラエトキシアンモニウム、フッ化メチルトリエトキシアンモニウム、フッ化水素等の非金属フッ素化合物;フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、酸性フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム、フッ化ケイ素酸カリウム、六フッ化リン酸カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化亜鉛、フッ化アルミニウム、フッ化第一錫、フッ化鉛、三フッ化アンチモン等の金属フッ素化合物;等が挙げられる。
これらのフッ素化合物(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、フッ化水素等のフッ素含有無機酸は、成分(B)に分類されるものとする。
【0019】
これらの中でも、本発明の一態様で用いるフッ素化合物(B)は、フッ化物であることが好ましい。なお、本明細書において、「フッ化物」とは、フッ素原子が陰イオン(F-)の状態となり得る化合物を意味し、より具体的には、配合して化学研磨液とした際に、溶解して、化学研磨液中でフッ素イオン(F-)を生じさせ得る化合物を意味する。
このようなフッ化物としては、例えば、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化セリウム、フッ化ケイ素酸(ヘキサフルオロケイ酸)、フッ化リン(三フッ化リン、五フッ化リン)、ホウフッ化水素酸(テトラフルオロホウ酸)、フッ化ホウ素酸アンモニウム、モノエタノールアミンフッ化水素塩、メチルアミンフッ化水素塩、エチルアミンフッ化水素塩、プロピルアミンフッ化水素塩、フッ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、フッ化トリエチルメチルアンモニウム、フッ化トリメチルヒドロキシエチルアンモニウム、フッ化テトラエトキシアンモニウム、フッ化メチルトリエトキシアンモニウム、フッ化水素、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、酸性フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、酸性フッ化カリウム、フッ化ケイ素酸カリウム、六フッ化リン酸カリウム等が挙げられる。
【0020】
本発明の一態様で用いるフッ素化合物(B)としては、フッ化物が好ましいが、フッ化物の中でも、酸性フッ化アンモニウム、酸性フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、及びフッ化水素からなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、酸性フッ化アンモニウムが特に好ましい。
【0021】
<無機酸(C):成分(C)>
本発明の化学研磨液は、フッ素化合物(B)には該当しない無機酸(C)を、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、20~55質量%含有する。
無機酸(C)の含有量が20質量%未満、もしくは55質量%超である化学研磨液は、アルミニウム等の表面の平滑性が低下する場合や、所望の光沢を付与することが困難となるといった弊害が生じ易い。また、そのような化学研磨液は、アルミニウム等の反応が急激に進行し易いため、作業安全性が劣る点や、研磨後の表面が粗くなり易いという弊害もある。
【0022】
上記観点から、本発明の一態様の化学研磨液において、無機酸(C)の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは20~50質量%、より好ましくは22~45質量%、更に好ましくは25~45質量%、特に好ましくは30~45質量%であり、35~40質量%であってもよい。
【0023】
本発明の一態様で用いる無機酸(C)としては、例えば、リン酸、硫酸、塩酸、及び硝酸から選ばれる1種以上が挙げられるが、アルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢を付与し得る化学研磨液とする観点から、リン酸を含有することが好ましい。
本発明の一態様で用いる無機酸(C)中のリン酸の含有割合としては、無機酸(C)の全量(100質量%)基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%、特に好ましくは100質量%である。
【0024】
なお、硝酸を含む化学研磨液は、アルミニウム等の表面処理の過程において硝酸が分解して、有毒な窒素酸化物が発生するという環境面での問題がある。また、硝酸の分解時には発熱するため、例えば、ポリエステル素材の布に固定されたアルミニウム製のファスナーの金具に対して、硝酸を含む化学研磨液を用いた場合、発熱によってポリエステル素材が変質し、布が変色してしまう場合がある。
このような弊害を抑制する観点から、本発明の一態様の化学研磨液において、硝酸の含有量は少ないほど好ましい。
本発明の一態様で用いる無機酸(C)中の硝酸の含有割合としては、無機酸(C)の全量(100質量%)基準で、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、更に好ましくは0~1質量%、特に好ましくは0質量%である。
【0025】
<水酸基含有炭化水素化合物(D):成分(D)>
本発明の化学研磨液は、水酸基含有炭化水素化合物(D)を、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、2~15質量%含有する。
水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量が2質量%未満、もしくは15質量%超である化学研磨液は、研磨後のアルミニウム等の表面の平滑性が低下する場合や、所望の光沢を付与することが困難となるといった弊害が生じ易い。また、そのような化学研磨液は、アルミニウム等の反応が急激に進行し易いため、作業安全性が劣る点や、研磨後の表面が粗くなり易いという弊害もある。
【0026】
上記観点から、本発明の一態様の化学研磨液において、水酸基含有炭化水素化合物(D)の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは3~12質量%、より好ましくは4~10質量%、特に好ましくは5~8質量%である。
【0027】
本発明の一態様の化学研磨液において、成分(C)と成分(D)の含有量比[(C)/(D)]は、質量比で、好ましくは2~25、より好ましくは2.5~20、更に好ましくは3~20、より更に好ましくは3~16、特に好ましくは3.5~12であり、4~12であってもよく、5~12であってもよい。
当該含有量比が2以上であれば、研磨後のアルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢を付与し得る化学研磨液となり得る。一方、当該含有量比が25以下であれば、これらの良好な特性を保持しつつ、作業安定性に優れた化学研磨液となり得る。
【0028】
本発明の一態様で用いる水酸基含有炭化水素化合物(D)は、炭素原子と酸素原子から構成される炭化水素の主鎖及び/又は側鎖に、少なくとも1つの水酸基を含有する化合物であればよいが、研磨後のアルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢を付与し得る化学研磨液とする観点、及び作業安全性に優れた化学研磨液とする観点から、炭素数2以上の一価アルコール、多価アルコール、及びグリコールエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0029】
また、上記と同様の観点から、水酸基含有炭化水素化合物(D)は、アルコール性水酸基を有する化合物であることが好ましい。
なお、本明細書において、「アルコール性水酸基」とは、鎖式炭化水素構造もしくは脂環式炭化水素構造を構成する炭素原子と直接結合した水酸基であって、芳香環の炭素原子と直接結合した水酸基である「フェノール性水酸基」以外の水酸基を意味する。
そのため、水酸基含有炭化水素化合物(D)は、フェノール性水酸基を有さないことが好ましい。
【0030】
炭素数2以上の一価アルコールとしては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
なお、一価アルコールの炭素数としては、好ましくは2~20、より好ましくは2~16である。
【0031】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、フェニルグリコール等の二価アルコール;グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール等の三価アルコール;ソルビトール等の四価以上のアルコールが挙げられる。
【0032】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテル(エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等)、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル(トリエチレングリコールモノブチルエーテル等)、テトラエチレングリコールモノアルキルエーテル(テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等)、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等)、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、研磨後のアルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢を付与し得る化学研磨液とする観点、及び作業安全性に優れた化学研磨液とする観点から、水酸基含有炭化水素化合物(D)は、水酸基含有脂肪族炭化水素化合物及び水酸基含有脂環式炭化水素化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0034】
本発明の一態様の化学研磨液において、研磨後のアルミニウム等の表面の平滑性を向上させ、優れた光沢を付与し得る化学研磨液とする観点、及び作業安全性に優れた化学研磨液とする観点から、水酸基含有炭化水素化合物(D)が、二価アルコール及びグリコールエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、二価アルコール及びグリコールエーテル化合物からなる群より選ばれる1種以上の脂肪族炭化水素化合物又は脂環式炭化水素化合物であることがより好ましく、(ポリ)アルキレングリコール及びエチレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上であることが更に好ましく、(ポリ)アルキレングリコールであることがより更に好ましく、ポリエチレングリコールであることが特に好ましい。
なお、本明細書において、「(ポリ)アルキレングリコール」との標記は、「アルキレングリコール」と「ポリアルキレングリコール」の双方を示す語として用いている。
【0035】
ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールの数平均分子量(Mn)としては、好ましくは100~8,000、より好ましくは200~5,000、更に好ましくは300~3,000、特に好ましくは400~1,500である。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0036】
<希釈溶剤>
本発明の一態様の化学研磨液は、さらに水や有機溶剤(成分(D)に該当するものを除く)等の希釈溶剤を含有してもよい。
希釈溶剤としては、成分(A)~(D)の溶解性の観点から、水が好ましい。
水としては、特に制限されないが、蒸留、イオン交換処理、フイルター処理、各種吸着処理等の処理によって、金属イオン、有機不純物、パーティクル等が除去された水が好ましく、純水がより好ましく、超純水が特に好ましい。
本発明の一態様の化学研磨液において、水の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは5~80質量%、より好ましくは15~65質量%、更に好ましくは20~55質量%、より更に好ましくは23~53質量%、特に好ましくは25~50質量%である。
【0037】
<成分(A)~(D)以外の他の有効成分>
本発明の一態様の化学研磨液は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに成分(A)~(D)以外の他の有効成分を含有してもよい。
他の有効成分としては、例えば、界面活性剤、過酸化水素安定剤等が挙げられる。
【0038】
ただし、本発明の一態様の化学研磨液において、アルミニウム等の表面に優れた光沢を付与し、平滑な表面を形成し得る化学研磨液とする観点から、アミノフェノール類及びベンズアミド類から選ばれるアミン化合物の含有量は少ないほど好ましい。
本明細書において、アミノフェノール類とは、アミノフェノール骨格を有する化合物を意味し、例えば、アミノフェノールの少なくとも1つの水素が、任意の置換基により置換された化合物等も含まれる。また、ベンズアミド類も同様に、ベンズアミド骨格を有する化合物を意味し、例えば、ベンズアミドの少なくとも1つの水素が、任意の置換基により置換された化合物等も含まれる。
上記観点から、前記アミン化合物の含有量としては、当該化学研磨液中の成分(A)~(D)の全量100質量部基準で、好ましくは0.15質量部未満、より好ましくは0.10質量部未満、更に好ましくは0.05質量部未満、より更に好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0.001質量部未満である。
また、前記アミン化合物の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.005質量部未満、より更に好ましくは0.001質量%未満、特に好ましくは0.0001質量%未満である。
【0039】
また、本発明の一態様の化学研磨液において、アルミニウム等の表面を平滑にし得る化学研磨液とする観点から、アゾール類の含有量についても少ないほど好ましい。
本明細書において、アゾール類とは、窒素原子を少なくとも1つ含む複素5員環を有する化合物であって、例えば、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、チアゾール等が挙げられる。
上記観点から、前記アゾール類の含有量としては、当該化学研磨液中の成分(A)~(D)の全量100質量部基準で、好ましくは1質量部未満、より好ましくは0.1質量部未満、更に好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0.001質量部未満である。
また、前記アゾール類の含有量は、当該化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、特に好ましくは0.0001質量%未満である。
【0040】
本発明の一態様の化学研磨液は、溶解液であることが好ましく、つまり、研磨粒子等の固形粒子を実質的に含有しないことが好ましい。
本明細書において、「固形粒子」とは、化学研磨液中においても溶解せずに存在する、粒径が0.01μm以上の粒子を意味する。
そして、「固形粒子を実質的に含有しない」とは、化学研磨液中に所定の目的をもって固形粒子を配合した場合の態様を除外することを意味し、化学研磨液中に不可避的に固形粒子が含まれる態様までを除外する規定ではない。ただし、不可避的に固形粒子が含まれる態様においても、固形粒子の含有量は極力少ない程好ましい。
具体的な固形粒子の含有量としては、前記化学研磨液の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0.001質量%未満、特に好ましくは0.0001質量%未満である。
【0041】
なお、本発明の一態様の化学研磨液は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理に一度用いた後も、繰り返し表面処理に使用することができる。
そのため、本発明の一態様の化学研磨液には、表面処理対象物であるアルミニウム等から溶出した、アルミニウムや、アルミニウム合金に含まれるアルミニウム以外の金属原子が含まれていてもよい。
【0042】
その一方で、本発明の一態様の化学研磨液において、金属含有化合物の含有量は、少ないほど好ましい。ここで、金属含有化合物とは、所定の目的をもって配合される金属を含有する添加物(例えば、タングステン化合物)であって、表面処理対象物であるアルミニウム等から溶出した金属成分とは区別されるものである。
具体的な金属含有化合物の含有量としては、当該化学研磨液中の成分(A)~(D)の全量100質量部基準で、好ましくは10質量部未満、より好ましくは5質量部未満、更に好ましくは1質量部未満、特に好ましくは0.1質量部未満である。
【0043】
<アルミニウム、アルミニウム合金>
本発明の化学研磨液は、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理に好適に使用し得る。
表面処理対象物であるアルミニウム合金としては、例えば、アルミニウムの含有量が99質量%以上である純アルミニウム系のアルミニウム合金、アルミニウム以外に主に銅を含むアルミニウム-銅系のアルミニウム合金、アルミニウム以外に主にマンガンを含むアルミニウム-マンガン系のアルミニウム合金、及びアルミニウム以外に主にマグネシウムを含むアルミニウム-マグネシウム合金が挙げられる。
【0044】
より具体的なアルミニウム合金としては、JIS H4140で定められている展伸用アルミニウム合金である純アルミニウム系のA1100合金、A1085合金、A1050合金;アルミニウム-銅系のA2024合金;アルミニウム-マンガン系のA3003合金;アルミニウム-マグネシウム系のA5052合金;等のA1000番台~7000番台(耐食アルミニウム合金、高力アルミニウム合金、耐熱アルミニウム合金等)の全ての合金、及びADC1~12種(ダイカスト用アルミニウム合金)等の鋳造用アルミニウム合金が挙げられる。
【0045】
アルミニウム合金の組成としては、例えば、アルミニウム合金の全質量(100質量%)に対して、それぞれの金属原子の含有量が以下の範囲で調製されたものが挙げられる。
・ケイ素(Si):1.5質量%以下
・鉄(Fe):1.0質量%以下
・銅(Cu):8.0質量%以下
・マンガン(Mn):2.0質量%以下
・マグネシウム(Mg):6.0質量%以下
・クロム(Cr):0.50質量%以下
・亜鉛(Zn):8.0質量%以下
・チタン(Ti):0.30質量%以下
・バナジウム(V):0.25質量%以下
・ビスマス(Bi):1.0質量%以下
・鉛(Pb):1.0質量%以下
・残部がアルミニウム(Al)及び不可避的不純物である。
また、表1にアルミニウム合金の組成を例示するが、組成はこれらに限定されない。
【0046】
【0047】
また、アルミニウム合金は、鋳造用アルミニウム合金や展伸用アルミニウム合金であってもよく、ダイキャスト法により所定の形状に成形された部品、機械加工して所定の形状に成形された部品であってもよく、さらに積層アルミニウム合金であってもよい。
展伸用アルミニウム合金は、中間材である板材等であってもよく、それらを熱プレス加工等の機械加工により所定の形状に成形した部品であってもよい。
積層アルミニウム合金の形状も特に限定されず、例えば、板状及び柱状、並びにその用途に適した任意の形状であってもよい。
さらに、表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金は、例えば、ポリエステル素材の布に固定されたアルミニウム製のファスナーの金具のように、アルミニウム又はアルミニウム合金と非金属材とを備える物品の形態で存在していてもよい。
【0048】
〔アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法及び製造方法〕
本発明は、下記[1]のアルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法(以下、単に「表面処理方法」ともいう)及び下記[2]の表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう)も提供する。
[1]上述の本発明の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理方法。
[2]上述の本発明の化学研磨液を用いて、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う工程を有する、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の製造方法。
本発明の表面処理方法及び製造方法で用いる、化学研磨液、及び、表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金の詳細は、上述のとおりである。
なお、本発明の一態様の表面処理方法及び製造方法において、表面処理対象物であるアルミニウム等は、例えば、ポリエステル素材の布に固定されたアルミニウム製のファスナーの金具のように、アルミニウム又はアルミニウム合金と非金属材とを備える物品の形態で存在していてもよい。
【0049】
本発明の一態様の表面処理方法及び製造方法の上記工程では、上述した、化学研磨液と表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金とを接触させることで、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行うことが好ましい。化学研磨液とアルミニウム又はアルミニウム合金とを接触させる方法としては、化学研磨液に、表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬して行うことが好ましいが、他の方法としては、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に、化学研磨液を塗布又は散布(例えば、噴霧)する方法が挙げられる。
この際、アルミニウム又はアルミニウム合金は、予め機械研磨を施してもよく、また、必要に応じて加熱した後に、化学研磨液と接触(好ましくは、化学研磨液に浸漬)させてもよい。
【0050】
アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理を行う際の前記化学研磨液の温度としては、好ましくは40~80℃、より好ましくは45~75℃、更に好ましくは50~70℃である。
化学研磨液の温度が40℃以上であれば、表面処理を促進させ、生産性をより向上させることができる。一方、化学研磨液の温度が80℃以下であれば、例えば、ポリエステル素材の布に固定されたアルミニウム製のファスナーの金具に対して表面処理を行った場合でも、ポリエステル素材の変質を抑制することができる。
【0051】
また、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面処理時間としては、表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金の組成や大きさ、予熱の有無、及び化学研磨液の温度によって適宜設定されるが、好ましくは1秒以上10分以下、より好ましくは30秒以上7分以下、更に好ましくは60秒以上5分以下である。
【0052】
なお、本発明の一態様の表面処理方法及び製造方法では、表面処理対象物であるアルミニウム又はアルミニウム合金の化学研磨液との接触(好ましくは化学研磨液への浸漬)は、1回のみであってもよく、複数回おこなってもよい。
【0053】
本発明の一態様の表面処理方法及び製造方法により得られた、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金は、その表面は平滑化されており、且つ、優れた光沢を有する。
表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の算術平均高さ(Sa)は、処理前のアルミニウム又はアルミニウム合金の算術平均高さ(Sa)やアルミニウム合金の種類の影響を受けるので特に限定されるものではない。
ただし、例えば、表面処理前の算術平均高さ(Sa)が150~250nmである、アルミニウム又はJIS H4140に記載のアルミニウム合金における表面処理後の算術平均高さ(Sa)としては、好ましくは表面処理前の算術平均高さ(Sa)以下であり、より好ましくは200nm以下(ただし、表面処理前の算術平均高さ(Sa)以下である)、更に好ましくは140nm以下、より更に好ましくは110nm以下、こと更に好ましくは90nm以下、特に好ましくは70nm以下である。また、この場合における表面処理後の算術平均高さ(Sa)は、下限値の制限は特に無いが、通常1nm以上であり、好ましくは5nm以上である。
なお、本明細書において、算術平均高さ(Sa)は、ISO 25178に準拠して測定された値であって、具体的には、実施例に記載の方法に基づいて測定された値を意味する。
【0054】
また、表面処理されたアルミニウム又はアルミニウム合金の光沢度は、処理前のアルミニウム又はアルミニウム合金の光沢度の影響を受けるので特に限定されるものではない。
ただし、例えば、表面処理前の光沢度が200~350である、アルミニウム又はJIS H4140に記載のアルミニウム合金における表面処理後の光沢度としては、好ましくは表面処理前の光沢度以上であり、より好ましくは200以上(ただし、表面処理前の光沢度以上である)、更に好ましくは300以上、より更に好ましくは360以上、こと更に好ましくは400以上、特に好ましくは500以上であり、また、通常1000以下である。
なお、本明細書において、光沢度は、ISO 2813に準拠して測定された値であって、具体的には、実施例に記載の方法に基づいて測定された値を意味する。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
実施例及び比較例における化学研磨液の物性、アルミニウム合金の物性は、以下のようにして決定した。
(1)化学研磨液のpH
pHメータ(株式会社堀場製作所、製品名「D-53」)を用いて、JIS Z8802に準じて、25℃における化学研磨液のpHを測定した。
(2)アルミニウム合金片の算術平均高さ(Sa)
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス、製品名「VK-X250」)を用いて、ISO 25178に準じて、アルミニウム合金片の算術平均高さ(Sa)を測定した。
(3)アルミニウム合金片の光沢度
光沢度計(株式会社村上色彩技術研究所、製品名「TrueGloss GM-26 PRO/Touch」)を用いて、ISO 2813に準じて、アルミニウム合金片の光沢度を測定した。
【0057】
実施例1
(1)化学研磨液の調製
過酸化水素(三菱ガス化学株式会社製、60質量%水溶液)5質量部(過酸化水素としての有効成分比)、酸性フッ化アンモニウム(大和化成株式会社製)15質量部(フッ素原子換算で10質量部)、リン酸(ラサ工業株式会社製、85質量%水溶液)40質量部(H3PO4としての有効成分比)、及びポリエチレングリコール(第一工業製薬株式会社製、製品名「PEG600」)7質量部を混合し、さらに水を加えて希釈して、有効成分濃度67質量%の化学研磨液(1)を調製した。
調製した化学研磨液(1)のpHは2.0であった。
【0058】
(2)アルミニウム合金片の表面処理
厚さ1.5mm、縦20×横50mmのアルミニウム合金片(I)(JIS A5052P-H34、算術平均高さ(Sa)=150nm、光沢度=304、組成は表1の合金番号A5052に相当)を表面処理の対象として使用した。
上記アルミニウム合金片(I)を、上述のとおり調製した化学研磨液(1)に、液温60℃で2分間浸漬した。次いで、浸漬後のアルミニウム合金片(I)を化学研磨液(1)から取り出し、イオン交換水で十分に水洗した後、十分に乾燥させて、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=65nmであり、光沢度=390であった。
【0059】
比較例1
リン酸を添加せずに、さらにリン酸の有効成分比の配合量である40質量部を水に置き換えた以外は、実施例1と同様にして、化学研磨液(2)を調製した。調製した化学研磨液(2)のpHは2.0であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(2)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=224nmであり、光沢度=40であった。
【0060】
実施例2
厚さ0.4mm、縦30×横50mmのアルミニウム合金片(II)(JIS A1100P-H14、算術平均高さ(Sa)=94nm、光沢度=463、組成は表1の合金番号A1100に相当)を表面処理の対象として使用した以外は、実施例1で調製したものと同じ化学研磨液(1)を用いて表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=20nmであり、光沢度=745であった。
【0061】
比較例2
上述の実施例2と同じアルミニウム合金片(II)に対して、比較例1で調製したものと同じ化学研磨液(2)を用いて、実施例2と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=233nmであり、光沢度=120であった。
【0062】
比較例3
ポリエチレングリコールを添加せずに、さらにポリエチレングリコールの有効成分比の配合量である7質量部を水に置き換えた以外は、実施例1と同様にして、化学研磨液(3)を調製した。
調製した化学研磨液のpHは4.5であった。
そして、上述の実施例2と同じアルミニウム合金片(II)に対して、上記の化学研磨液(3)を用いて、液温60℃にて、実施例2と同様の時間をかけて表面処理を行おうとしたが、反応が急激に進行し、化学研磨液(3)が容器から溢れ出てしまったため、1分間の処理時間にて終了し、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=42nmであり、光沢度=607であった。
【0063】
以上の実施例1~2及び比較例1~3の結果をまとめて表2に示す。
【表2】
【0064】
表2より、実施例1及び2において、調製した化学研磨液(1)を用いて、アルミニウム合金の表面処理を行った場合に、アルミニウム合金の表面を研磨して平滑化させつつ、光沢度が高い表面となることが確認された。
一方、比較例1及び2において、調製した化学研磨液(2)を用いて、アルミニウム合金の表面処理を行った場合には、反応が急激に進行するため、表面処理前に比べて、アルミニウム合金の表面の算術平均高さ(Sa)は大きくなってしまうと共に、表面の光沢度も低下する結果となった。
また、比較例3で調製した化学研磨液(3)を用いてアルミニウム合金の表面処理を行った場合、反応がかなり急激に進行するため、1分間の処理時間で終了せざるを得ず、作業安全性に問題がある結果となった。
【0065】
実施例3
過酸化水素の配合量を「15質量部(過酸化水素としての有効成分比)」とし、水の配合量を「23質量部」とした以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度77質量%の化学研磨液(4)を調製した。調製した化学研磨液(4)のpHは1.60であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(4)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=61nmであり、光沢度=520であった。
【0066】
実施例4
リン酸の配合量を「25質量部」とし、水の配合量を「48質量部」とした以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度52質量%の化学研磨液(5)を調製した。調製した化学研磨液(5)のpHは2.90であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(5)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=51nmであり、光沢度=520であった。
【0067】
実施例5
ポリエチレングリコールの配合量を「2質量部」とし、水の配合量を「38質量部」とした以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度62質量%の化学研磨液(6)を調製した。調製した化学研磨液(6)のpHは2.20であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(6)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=104nmであり、光沢度=350であった。
【0068】
実施例6
「ポリエチレングリコール」に代えて「エチレングリコールモノブチルエーテル」を7質量部配合した以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度67質量%の化学研磨液(7)を調製した。調製した化学研磨液(7)のpHは2.20であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(7)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=130nmであり、光沢度=300であった。
【0069】
実施例7
「ポリエチレングリコール」に代えて「プロピレングリコール」を7質量部配合した以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度67質量%の化学研磨液(8)を調製した。調製した化学研磨液(8)のpHは2.20であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(8)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=105nmであり、光沢度=300であった。
【0070】
実施例8
酸化フッ化アンモニウムの配合量を「5質量部(フッ素原子換算で3質量部)」とし、水の配合量を「43質量部」とした以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度57質量%の化学研磨液(9)を調製した。調製した化学研磨液(9)のpHは1.90であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(9)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=100nmであり、光沢度=240であった。
【0071】
実施例9
ポリエチレングリコールの配合量を「15質量部」とし、水の配合量を「25質量部」とした以外は、実施例1と同様にし、有効成分濃度75質量%の化学研磨液(10)を調製した。調製した化学研磨液(10)のpHは2.10であった。
そして、実施例1と同じアルミニウム合金片(I)に対して、上記の化学研磨液(10)を用いて、実施例1と同様に表面処理を行い、表面処理合金を得た。
得られた表面処理合金の算術平均高さ(Sa)=109nmであり、光沢度=280であった。
【0072】
以上の実施例3~9の結果をまとめて表3に示す。
【表3】
【0073】
表3より、実施例3~9で調製した化学研磨液(4)~(10)を用いて、アルミニウム合金の表面処理を行った場合に、アルミニウム合金の表面を研磨して平滑化させつつ、光沢度が高い表面となることが確認された。