(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】苗移植機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
A01C11/02 341
(21)【出願番号】P 2021021780
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 和彦
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-078632(JP,U)
【文献】特開平08-308334(JP,A)
【文献】特開2014-138566(JP,A)
【文献】実開昭58-107718(JP,U)
【文献】実開昭60-133722(JP,U)
【文献】特開平02-171110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有し、圃場内を走行可能な走行車体と、
前記走行車体の後方に配置され、圃場に苗を植え付ける苗植付部と、
前記苗植付部の下方に配置され、前記圃場の土壌面上を滑走することで該土壌面を均す整地部と、
前記整地部に含まれ、前記車輪の後方に配置されるレーキと
を備え、
前記レーキは、支持部材と、前記支持部材によって後方から支持され、前記支持部材を前方から覆うカバー部分を有する板状のレーキ部材とを有
し、
前記カバー部分は、中央板と、前記中央板の左右の側縁部から所定の傾斜角度でそれぞれ前方へと折曲した左右一対の側板とを有すること
を特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記レーキは、前記苗植付部を支持する左右方向に延びたメインフレームに固定され、前記支持部材が前方に取り付けられる固定部材を有すること
を特徴とする請求項1に記載の苗移植機。
【請求項3】
前記レーキは、付勢部材をさらに備え、
前記固定部材は、前記メインフレームに固定される固定部と、前記固定部から前方へと延伸し、前記支持部材が取り付けられる延伸部とを有し、
前記支持部材は、前記延伸部に対して回動支点を中心に前後方向に沿って回動可能に取り付けられ、
前記付勢部材は、前記固定部と前記レーキ部材との間に配置され、前記支持部材が前方へと回動する場合に前記レーキ部材を後方へと付勢すること
を特徴とする請求項2に記載の苗移植機。
【請求項4】
前記レーキ部材は、前記カバー部分に形成された上下方向に長い長孔を有し、前記長孔を介して前記支持部材に高さ調節可能に支持されること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の苗移植機。
【請求項5】
前記レーキ部材は、前記カバー部分に形成された水抜き孔を有すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の苗移植機。
【請求項6】
前記レーキ部材は、前記カバー部分の下方に前記土壌面を均す凹凸形状のレーキ部分を有し、
前記カバー部分は、前記レーキ部分よりも左右方向において幅広に形成されること
を特徴とする請求項1~
5のいずれか一つに記載の苗移植機。
【請求項7】
前記カバー部分は、中央板と、前記中央板の左右の側縁部から所定の傾斜角度でそれぞれ前方へと折曲した左右一対の側板とを有し、
前記レーキ部材は、前記カバー部分の前記レーキ部分との境目付近に設けられた補強部材を有すること
を特徴とする請求項
6に記載の苗移植機。
【請求項8】
前記レーキ部分は、側面視において、前記カバー部分に対して後方へと傾斜していること
を特徴とする請求項
6または
7に記載の苗移植機。
【請求項9】
前記レーキ部分は、正面視において、左右方向に連続する凸部および凹部を有し、前記凸部の左右方向の内側の側辺が外側へと傾斜していること
を特徴とする請求項
8に記載の苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場(水田)の土壌面に苗を植え付ける苗移植機において、苗の植え付けを行いながら、後輪の後方に配置されたレーキによって後輪(および前輪)の跡を除去することが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、苗移植機には、土壌面を均す整地装置として、土壌面上を滑走するフロートと、フロートで均す直前の土塊を砕土する整地ロータとを有するものがあるが、たとえば、土壌面が硬い場合など、整地ロータに代えて、レーキを整地に用いるものがある。
【0005】
しかしながら、レーキを整地に用いる場合、レーキを支持する支持部材などに圃場の泥や水が付着または堆積することがあり、支持部材などの部品の腐食や破損が生じて耐久性が低下することがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、レーキ部材を直接支持する支持部材に圃場の泥や水が付着または堆積するのを抑えることができ、支持部材などの部品の腐食や破損が抑制されて耐久性を向上させることができる苗移植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態に係る苗移植機は、車輪を有し、圃場内を走行可能な走行車体と、前記走行車体の後方に配置され、圃場に苗を植え付ける苗植付部と、前記苗植付部の下方に配置され、前記圃場の土壌面上を滑走することで該土壌面を均す整地部と、前記整地部に含まれ、前記車輪の後方に配置されるレーキとを備え、前記レーキは、支持部材と、前記支持部材によって後方から支持され、前記支持部材を前方から覆うカバー部分を有する板状のレーキ部材とを有することを特徴とする。
【0008】
また、上記した苗移植機において、前記レーキは、前記苗植付部を支持する左右方向に延びたメインフレームに固定され、前記支持部材が前方に取り付けられる固定部材を有することを特徴とする。
【0009】
また、上記した苗移植機において、前記レーキは、付勢部材をさらに備え、前記固定部材は、前記メインフレームに固定される固定部と、前記固定部から前方へと延伸し、前記支持部材が取り付けられる延伸部とを有し、前記支持部材は、前記延伸部に対して回動支点を中心に前後方向に沿って回動可能に取り付けられ、前記付勢部材は、前記固定部と前記レーキ部材との間に配置され、前記支持部材が前方へと回動する場合に前記レーキ部材を後方へと付勢することを特徴とする。
【0010】
また、上記した苗移植機において、前記レーキ部材は、前記カバー部分に形成された上下方向に長い長孔を有し、前記長孔を介して前記支持部材に高さ調節可能に支持されることを特徴とする。
【0011】
また、上記した苗移植機において、前記レーキ部材は、前記カバー部分に形成された水抜き孔を有することを特徴とする。
【0012】
また、上記した苗移植機において、前記カバー部分は、中央板と、前記中央板の左右の側縁部から所定の傾斜角度でそれぞれ前方へと折曲した左右一対の側板とを有することを特徴とする。
【0013】
また、上記した苗移植機において、前記レーキ部材は、前記カバー部分の下方に前記土壌面を均す凹凸形状のレーキ部分を有し、前記カバー部分は、前記レーキ部分よりも左右方向において幅広に形成されることを特徴とする。
【0014】
また、上記した苗移植機において、前記カバー部分は、中央板と、前記中央板の左右の側縁部から所定の傾斜角度でそれぞれ前方へと折曲した左右一対の側板とを有し、前記レーキ部材は、前記カバー部分の前記レーキ部分との境目付近に設けられた補強部材を有することを特徴とする。
【0015】
また、上記した苗移植機において、前記レーキ部分は、側面視において、前記カバー部分に対して後方へと傾斜していることを特徴とする。
【0016】
また、上記した苗移植機において、前記レーキ部分は、正面視において、左右方向に連続する凸部および凹部を有し、前記凸部の左右方向の内側の側辺が外側へと傾斜していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
実施形態に係る苗移植機によれば、レーキ部材が支持部材を前方から覆うことで、レーキ部材を直接支持する支持部材に圃場の泥や水が付着または堆積するのを抑えることができる。これにより、支持部材などの部品の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0018】
また、レーキ部材がメインフレームの一部および固定部材を前方から覆うようになり、レーキ部材を間接的に支持するメインフレームの一部(固定部材が固定される部分)および固定部材に圃場の泥や水が付着または堆積するのを抑えることができる。これにより、メインフレームの一部および固定部材などの部品の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0019】
また、レーキ部材が付勢部材によって後方へと付勢されることで、整地時において、レーキが負荷を受けてもこの負荷を逃がすことができる。これにより、レーキの破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。また、レーキ部材が付勢部材によって後方へと付勢されることで、整地時において、レーキを土壌面に追従させることができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0020】
また、レーキ部材が高さ調節可能に支持されることで、土壌面の形状(凹凸の程度)、硬度および水深などに応じて、レーキ部材の高さを変更することができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0021】
また、レーキ部材が水抜き孔を有することで、整地時において、前方からの水が水抜き孔から後方へと抜けるため、レーキ部材が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキ部材や支持部材などの部品の破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0022】
また、整地時において、前方の泥が左右の側板によって中央に集められ、集められた泥によって車輪の跡を除去することができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0023】
また、カバー部分がレーキ部分よりも左右方向に幅広に形成されることで、整地時において、カバー部分が左右方向の広い範囲で後方の部材(部品)をカバーすることができ、また、レーキ部分の左右の側方から泥や水が抜けやすく、レーキ部材が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキの腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0024】
また、レーキ部材に補強部材が設けられることで、前方からの泥や水を受ける形状に開いた左右の側板が変形するのを抑制することができる。これにより、レーキ部材の剛性を向上させることができる。
【0025】
また、レーキ部分が後方へと傾斜していることで、整地時において、レーキ部材が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキの破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0026】
また、レーキ部分の凸部の内側の側辺が外側へと傾斜していることで、整地時において、凹部から外側に向けて泥や水が抜けやすく、レーキ部材が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキの破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、実施形態に係る苗移植機の一例を示す概略側面図である。
【
図6】
図6は、レーキによる整地動作の説明図である。
【
図7】
図7は、レーキにおける各部の左右幅の大小関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して本願の開示する苗移植機の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0029】
<苗移植機1の全体構成>
まず、
図1を参照して実施形態に係る苗移植機1の全体構成について説明する。
図1は、実施形態に係る苗移植機1の一例を示す概略側面図である。
【0030】
なお、以下の説明において、前後方向とは、苗移植機1の直進時における進行方向であり、進行方向の前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。苗移植機1の進行方向とは、直進時において、操縦席28からハンドル32へ向かう方向である(
図1参照)。
【0031】
また、左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向であり、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、操縦者(作業者ともいう)が操縦席28に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。また、上下方向とは、鉛直方向である。前後方向、左右方向および上下方向は互いに直交する。なお、各方向は説明の便宜上定義したものであり、これらの方向によって本発明が限定されるものではない。
【0032】
また、以下の説明では、苗移植機1(または、後述する走行車体2)を指して「機体」という場合がある。
【0033】
図1に示すように、苗移植機1は、圃場内を走行可能な走行車体2を備える。走行車体2は、車輪である、左右一対の前輪3と、左右一対の後輪4とを備える。なお、左側の前輪3および左側の後輪4は、前後方向において略同一線上に配置される。また、右側の前輪3および右側の後輪4は、前後方向において略同一線上に配置される。
【0034】
また、走行車体2は、車体フレーム7と、車体フレーム7上に搭載されたエンジン10と、エンジン10の駆動力を、前輪3および後輪4や、圃場の土壌面に苗を植え付ける後述する苗植付部40へと伝達する動力伝達機構15とを備える。すなわち、苗移植機1では、エンジン10の動力によって走行車体2を前後進させるとともに苗植付部40を駆動させる。
【0035】
エンジン10は、機体の左右方向における略中央に配置される。エンジン10は、エンジンカバー11に覆われ、操縦者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方へ突出させた状態で車体フレーム7上に搭載される。
【0036】
フロアステップ26は、走行車体2の前部とエンジン10の後部との間にわたって設けられ、車体フレーム7上に取り付けられる。フロアステップ26の一部は、格子状であり、操縦者の靴に付着した泥などを圃場に落とすことができる。
【0037】
フロアステップ26の後方には、後輪4のフェンダを兼ねるリアステップ27が設けられる。リアステップ27は、後方に向かうにつれて上方へと傾斜した傾斜面を有する。リアステップ27は、エンジン10の左右それぞれの側方に配置される。
【0038】
また、苗移植機1は、操縦席28と、操縦部30とを備える。操縦席28は、エンジンカバー11の上方に配置される。操縦部30は、操縦席28の前方であり機体の左右方向における略中央に配置される。操縦部30は、フロアステップ26から上方へと突出した状態で配置され、フロアステップ26の前部を左右に分けている。
【0039】
なお、操縦部30には、各種操作装置や燃料タンクなどが設けられ、操縦部30の前部には、開閉可能なフロントカバー31が設けられる。また、操縦部30の上部パネル33には、操作装置を作動させる操作レバーや各種計器類、操舵用のハンドル32、報知装置などが設けられる。
【0040】
また、操作レバーとしては、たとえば、機体の前進および走行速度を操作する走行操作部材である変速レバー35、苗植付部40の動作を少なくとも苗植付部昇降機構50による上昇状態を含んで切り替える植付操作部材である植付昇降レバー36がある。植付昇降レバー36は、苗植付部40の作動状態を切り替えることができ、たとえば、「上昇」、「下降」、「植付」などの各モードを設定することができる。
【0041】
フロアステップ26における操縦部30の左右の側方のうち、いずれか一方(たとえば、右側方)には、補給用の苗(予備苗)、すなわち、補給用の苗箱や苗(マット苗)を後方の苗植付部40へ送るための予備苗載せ部が設けられてもよい。なお、予備苗載せ部は、右側方および左側方の両方に設けられてもよい。また、操縦部30の左右の側方のうちのいずれか他方には、予備苗を載せるだけの載置台が設けられてもよい。
【0042】
また、機体の左右それぞれの側方には、次の植付条の目安になる線を土壌面に形成する線引きマーカ(図示せず)が設けられる。線引きマーカは、機体が旋回するごとに、左右の線引きマーカが交互に作動する。
【0043】
動力伝達機構15は、主変速機としての油圧式無段変速機16と、エンジン10からの動力を油圧式無段変速機16へ伝達するベルト式動力伝達機構17とを備える。油圧式無段変速機16は、HST(Hydro Static Transmission)と呼ばれる静油圧式の無段変速機である。油圧式無段変速機16は、たとえば、エンジン10の前方、フロアステップ26の下方に配置される。
【0044】
ベルト式動力伝達機構17は、エンジン10の出力軸に取り付けられたプーリと、油圧式無段変速機16の入力軸に取り付けられたプーリと、これらのプーリに巻き付けられたベルトと、ベルトの張力を調整するテンションプーリとを備え、エンジン10で発生した動力を、ベルトを介して油圧式無段変速機16へ伝達する。
【0045】
また、動力伝達機構15は、エンジン10からの動力が、ベルト式動力伝達機構17および油圧式無段変速機16を介して伝達されるトランスミッションを収容するミッションケース18を備える。ミッションケース18内のトランスミッションは、ベルト式動力伝達機構17および油圧式無段変速機16を介して伝達された動力を、副変速機で変速して、走行用動力および苗植付部40の駆動用動力に分配する。
【0046】
また、操縦席28の後方には、施肥装置が設けられてもよい。施肥装置は、肥料を貯留する肥料ホッパ内の肥料を一定量ずつ繰り出し、繰り出された肥料を、たとえば、ブロアの送風によって後方へ移送し、たとえば、苗植付部40の苗や土壌面に散布する。
【0047】
また、苗移植機1は、苗植付部40と、苗植付部昇降機構50とを備える。苗植付部40は、走行車体2の後方に配置され、苗載置台41と、苗植付装置42とを備える。苗載置台41は、苗載せ面(図示せず)を備える。苗載せ面は、左右方向において植付条数分仕切られている。複数の苗載せ面にはそれぞれ土付きのマット状の苗(マット苗)が積載される。
【0048】
苗植付装置42は、2つ1組で設けられる。苗植付装置42は、植込杆43と、ロータリーケース44と、植付伝動ケース45とを備える。植込杆43は、苗載置台41に積載された苗を土壌面に植え付ける。ロータリーケース44は、苗植付装置42に動力を伝達する植付伝動ケース45に対して回転可能に取り付けられる。植付伝動ケース45は、エンジン10から苗植付部40に伝達された動力を苗植付装置42へと伝達する。
【0049】
また、苗植付部40は、主に、走行車体2の後方において左右方向に延びているメインフレーム46によって下方から支持される。
【0050】
苗植付部昇降機構50は、苗植付部40を昇降させる。苗植付部昇降機構50は、昇降リンク装置51と、昇降シリンダ55とを備える。昇降リンク装置51は、平行リンクを構成する、上リンク52と、下リンク53とを備え、上リンク52および下リンク53がリンクベースフレーム54にそれぞれ回動自在に連結されることで、走行車体2に対して苗植付部40を昇降可能に連結する。
【0051】
昇降シリンダ55は、油圧による伸縮が可能である。苗植付部昇降機構50は、昇降シリンダ55の伸縮による苗植付部40の昇降動作によって、苗植付部40を非作業位置まで上昇させる。また、苗植付部昇降機構50は、昇降シリンダ55による苗植付部40の昇降動作によって、苗植付部40を対地作業位置(苗の植付位置)まで下降させる。
【0052】
また、苗移植機1は、整地部60を備える。整地部60は、苗植付部40の下方に配置される。整地部60は、土壌面上を滑走することで、土壌面を均す(整地する)ことができる。具体的には、整地部60は、走行車体2の前進に伴い土壌面上を滑走するフロートである、センターフロート61と、サイドフロート62とを備える。センターフロート61は、左右方向における中央部に配置され、サイドフロート62は、左右方向における左右両側部に配置される。
【0053】
また、整地部60は、レーキ70(
図2および
図3など参照)を備える。レーキ70は、走行車体2の車輪である後輪4の後方に設けられ、後輪4の跡を除去するとともに、後輪4の前方において後輪4と略一直線状に配置されている前輪3の跡を除去する。レーキ70は、たとえば、圃場が硬い場合や土壌面の凹凸の程度が激しい場合などのような整地ロータによる整地が困難な場合に、整地ロータに代えて用いることができる。
【0054】
<レーキ70の構成>
次に、
図2~
図7を参照してレーキ70の構成について説明する。
図2は、左側レーキ70(70L)を示す正面図である。
図3は、右側レーキ70(70R)を示す正面図である。
図4は、レーキ70を示す側面図である。
図5は、レーキ部材73を示す斜視図である。
図6は、レーキ70による整地動作の説明図である。
図7は、レーキ70における各部の左右幅L1~L5の大小関係の説明図である。
【0055】
図2に示すように、苗植付部40(
図1参照)を支持するメインフレーム46の左端部には、左側レーキ70Lが設けられる。また、
図3に示すように、メインフレーム46の右端部には、右側レーキ70Rが設けられる。なお、左側レーキ70Lと右側レーキ70Rとは、略同等の形状であり、共通の部材を左右のそれぞれに用いることができる。なお、以下では、左右をとくに区別する必要がない場合には「レーキ70」と表記する。
【0056】
図2、
図3および
図4に示すように、レーキ70は、固定部材71と、支持部材72と、レーキ部材73と、付勢部材74と、補強部材75とを備える。
【0057】
固定部材71は、レーキ70をメインフレーム46に固定する部材である。固定部材71は、固定部711と、延伸部712とを備える。
【0058】
固定部711は、メインフレーム46に固定される。固定部711は、コ字状の部材と、板状の部材とを有し、これらを組み合わせることで矩形筒状となる。固定部711は、矩形の外形を有するメインフレーム46に嵌め込まれることで、メインフレーム46に取り付けられる。
【0059】
延伸部712は、固定部711から前方側の斜め下方へと延伸している。延伸部712は、その前端部に後述する支持部材72が取り付けられる。なお、延伸部712が前方に下り傾斜していることで、延伸部712に泥などが堆積するのを抑えることができる。
【0060】
支持部材72は、固定部材71の延伸部712の前端部に、前後方向に沿って回動可能に取り付けられ、延伸部712に対して回動支点を中心に回動可能に構成される。支持部材72は、回動支点としての回動軸721と、取付部722とを備える。
【0061】
回動軸721は、左右方向に沿った軸であり、支持部材72の後部に設けられる。また、回動軸721は、支持部材72の下部に配置される。これにより、支持部材72と共に回動する後述するレーキ部材73の回動角度を、より大きな回動角度とすることができる。なお、延伸部712における支点部のカラー部が突出しているため、レーキ部材73の回動接触面をカラー先端とすることで、塗装のはがれを抑えることができる。
【0062】
取付部722は、支持部材72の前端面に設けられる。取付部722は、たとえば、ボルト部722aと、ナット部722bとを有し、ボルト部722aを、後述するレーキ部材73の長孔734に挿通して、ナット部722bに取り付けることで、支持部材72の前端面にレーキ部材73を固定することができる。
【0063】
また、取付部722の側面には、左右の外側へと突出しているストッパピン723が設けられる。ストッパピン723は、支持部材72が前方へと回動した場合に延伸部712の前端面に当接することで、支持部材72の回動を、所定角度までとなるように規制する。これにより、支持部材72の過度の回動による後述する付勢部材74の伸長を抑えることができ、付勢部材74の耐久性が高まる。
【0064】
図2、
図3、
図4および
図5に示すように、レーキ部材73は、全体として板状の部材であり、支持部材72によって後方から支持される。レーキ部材73は、カバー部分731と、レーキ部分736とを有する。カバー部分731は、レーキ部材73が支持部材72に取り付けられた状態で、支持部材72の直前に配置されることで、支持部材72を前方から覆う。すなわち、カバー部分731は、支持部材72をカバーする。
【0065】
カバー部分731は、中央板732と、左右一対の側板733とを有する。中央板732は、矩形状(長方形状)に形成される。中央板732の上部は、メインフレーム46の上面よりも高い位置に配置される。これにより、前方からの泥や水が飛散して後方のメインフレーム46に付着するのを抑えることができる。
【0066】
中央板732は、その面に形成された上下方向に長い長孔734を有する。長孔734は、左右方向に並んで複数(2つ)形成されている。長孔734には、支持部材72の取付部722のボルト部722aが挿通される。
【0067】
レーキ部材73は、長孔734を介して、支持部材72に高さ調節可能に支持される。この場合、ボルト部722aのナット部722bに対する締結を緩めてレーキ部材73を上下方向にスライドさせることで、ボルト部722aを取り外すことなく、レーキ部材73の高さを調節することができる。
【0068】
また、長孔734の一部が取付部722よりも、たとえば、上方に突出していることで、すなわち、長孔734の一部が取付部722からはみ出ていることで、はみ出た部分が水抜き孔として機能する。
【0069】
また、中央板732の左右方向に並んだ2箇所でボルト部722aによって固定されることで、レーキ部材73の前方からの泥や水から受ける負荷に対する剛性が高まる。また、中央板732の裏面(後面)の取付プレートの外径よりもボルト部722aの座金の外径を大きくすることによっても、レーキ部材73の前方からの泥や水から受ける負荷に対する剛性が高まる。
【0070】
左右一対の側板733は、それぞれ同等の多角形状(五角形状)に形成される。左右の側板733は、中央板732の左右の側方に左右対称となって配置される。具体的には、
図5に示すように、左右の側板733は、外側に向けて下り傾斜している第1の辺733aと、略垂直な第2の辺733bと、内側に向けて下り傾斜している(外側に向けて上り傾斜している)第3の辺733cと、略水平な第4の辺733dと、中央板732の左右の側縁部に接続される略垂直な第5の辺733eとを有する。
【0071】
また、
図5に示すように、左右の側板733は、中央板732の左右の側縁部から所定の傾斜角度でそれぞれ前方へと折曲している。なお、中央板732と左右の側板733とは、一枚板状である。
【0072】
また、左右の側板733は、それぞれの面に形成された水抜き孔735を有する。水抜き孔735は、たとえば、上下方向に長い長孔であり、左右方向に並んで、左右の側板733にそれぞれ複数(2つ)形成されている。
【0073】
レーキ部分736は、土壌面に形成された後輪4および前輪3(
図1参照)の跡を除去するものであるとともに、土壌面を均すものであり、カバー部分731の下縁部から下方へと突出している。なお、レーキ部分736とカバー部分731とは、一枚板状に形成されている。
【0074】
図4および
図5に示すように、レーキ部分736は、側面視において、カバー部分731に対して、カバー部分731との境目付近となる基端部から後方へと傾斜している。
【0075】
また、
図2および
図3に示すように、レーキ部分736は、凹凸形状に形成されており、正面視において左右方向に連続する凸部737と凹部738とを有する。このうち、凸部737は、カバー部分731の中央板732の下縁部と、左右の側板733の下縁部(第4の辺733d)とにおいて、それぞれ複数(2つ)設けられている。
【0076】
また、左右の側板733の凸部737は、正面視において左右方向の内側の側辺737aが外側へと傾斜している。このため、凸部737と凸部737との間にある凹部738は、外側がより広く開放されている。
【0077】
また、レーキ部材73は、負荷を受けていない基本姿勢において前方へと傾斜していることで、走行車体2(
図1参照)の前進に伴い前方へとスムーズに回動するようになる。
【0078】
付勢部材74は、固定部材71の固定部711とレーキ部材73の中央板732との間に配置される。具体的には、付勢部材74は、たとえば、引っ張りコイルばねであり、固定部材71の延伸部712の上方において延伸部712に対して略平行に設けられ、かつ、固定部711と中央板732とを連結するように設けられる。付勢部材74は、
図4中の矢線aで示すように、レーキ部材73および支持部材72が前方へと回動(傾倒)する場合に、
図4中の矢線bで示すように、レーキ部材73および支持部材72を後方へと付勢する。
【0079】
なお、付勢部材74は、引っ張りコイルばねの場合は、前方へと回動するレーキ部材73(および支持部材72)を後方へと付勢するために回動軸721の上方に配置されるが、たとえば、圧縮コイルばねを用いる場合は、レーキ部材73(および支持部材72)を後方へと付勢するために、回動軸721の下方に配置される。
【0080】
補強部材75は、左右方向に延びている棒状の部材であり、カバー部分731のレーキ部分736との境目付近に設けられる。補強部材75は、レーキ部材73の左右方向の剛性を高めるための部材である。補強部材75が設けられることで、走行車体2(
図1参照)が前進する場合には泥や水の抵抗を受ける左右の側板733が後方に曲がるなどの変形するのを抑えることができる。
【0081】
なお、このような補強部材75に代えて、たとえば、カバー部分731のレーキ部分736との境目付近を厚く形成して剛性を高めることも可能である。また、補強部材75によって、レーキ部分736の後方への屈曲部(基端部)の剛性も高まる。
【0082】
図6に示すように、レーキ70は、走行車体2(
図1参照)の前進に伴い、前方へと移動する。これにより、レーキ部材73によって土壌面が整地されるとともに、左右の側板733によって泥が中央板732に集められる。このように、左右の側板733によって泥が中央板732に集められることで後輪4の跡4aが埋まり、土壌面において後輪4の跡4aが除去される。
【0083】
なお、カバー部分731は、レーキ部分736よりも左右方向において幅広に形成されるため、左右の側板733の左右の側方にくびれ部分が形成される(
図2および
図3参照)。このため、レーキ部分736の左右の側方のくびれ部分から余計な泥や水を後方へと逃がすことができ、レーキ部材73が受ける負荷が低減される。
【0084】
図7に示すように、レーキ部材73は、正面視において、全体の左右幅L2が後輪4の左右幅L1よりも大きい。また、中央板732の左右幅L3が後輪4の左右幅L1よりも小さい。
【0085】
また、正面視において、後輪の左右幅L1よりもレーキ部分736の左右幅L4の方が大きく、レーキ部分736の左右幅L4よりもサイドフロート62の左右幅L5の方が大きい。後輪4、レーキ部材73およびサイドフロート62は、前方から、後輪4、レーキ部材73、サイドフロート62の順番で略一直線状に並んでいる。このため、レーキ部材73によって後輪4の跡を除去し、サイドフロート62によってレーキ部分736の跡も除去するように整地され、整地性が高まる。
【0086】
また、正面視において、レーキ部材73全体の左右幅L2がサイドフロート62の左右幅L5よりも大きいため、サイドフロート62の前方の泥の堆積を抑えることができる。また、延伸部712の左右幅L6が、支持部材72におけるレーキ部材73の取付面(前端面)の左右幅L7よりも大きいため、延伸部712の剛性が高まる。
【0087】
以上説明したように、上記した実施形態に係る苗移植機1によれば、レーキ部材73が支持部材72を前方から覆うことで、レーキ部材73を直接支持する支持部材72に圃場の泥や水が付着または堆積するのを抑えることができる。これにより、支持部材72などの部品の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。なお、レーキ70を整地に用いる場合には本来のレーキとして機能させる場合と比べて泥や水の負荷が余計にかかるが、このように、支持部材72などの部品の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0088】
また、レーキ部材73がメインフレーム46の一部および固定部材71を前方から覆うようになり、レーキ部材73を間接的に支持するメインフレーム46の一部(固定部材71が固定される部分)および固定部材71に圃場の泥や水が付着または堆積するのを抑えることができる。これにより、メインフレーム46の一部および固定部材71などの部品の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0089】
また、レーキ部材73が付勢部材74によって後方へと付勢されることで、整地時において、レーキ70が負荷を受けてもこの負荷を逃がすことができる。これにより、レーキ70の破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。また、レーキ部材73が付勢部材74によって後方へと付勢されることで、整地時において、レーキ70を土壌面に追従させることができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0090】
また、レーキ部材73が高さ調節可能に支持されることで、土壌面の形状(凹凸の程度)、硬度および水深などに応じて、レーキ部材73の高さを変更することができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0091】
また、レーキ部材73が水抜き孔735を有することで、整地時において、前方からの水が水抜き孔735から後方へと抜けるため、レーキ部材73が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキ部材73や支持部材72などの部品の破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0092】
また、整地時において、前方の泥が左右の側板733によって中央に集められ、集められた泥によって後輪4の跡4aを除去することができる。これにより、整地性を向上させることができる。
【0093】
また、カバー部分731がレーキ部分736よりも左右方向に幅広に形成されることで、整地時において、カバー部分731が左右方向の広い範囲で後方の部材(部品)をカバーすることができ、また、レーキ部分736の左右の側方から泥や水が抜けやすく、レーキ部材73が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキ70の腐食や破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0094】
また、レーキ部材73に補強部材75が設けられることで、前方からの泥や水を受ける形状に開いた左右の側板733が変形するのを抑制することができる。これにより、レーキ部材73の剛性を向上させることができる。
【0095】
また、レーキ部分736が後方へと傾斜していることで、整地時において、レーキ部材73が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキ70の破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0096】
また、レーキ部分736の凸部737の内側の側辺737aが外側へと傾斜していることで、整地時において、凹部738から外側に向けて泥や水が抜けやすく、レーキ部材73が受ける負荷を低減することができる。これにより、レーキ70の破損が抑制されるため、耐久性を向上させることができる。
【0097】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 苗移植機
2 走行車体
4 車輪(後輪)
40 苗植付部
46 メインフレーム
60 整地部
70 レーキ
71 固定部材
711 固定部
712 延伸部
72 支持部材
721 回動支点(回動軸)
73 レーキ部材
731 カバー部分
732 中央板
733 側板
734 長孔
735 水抜き孔
736 レーキ部分
737 凸部
737a 側辺
738 凹部
74 付勢部材
75 補強部材