(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】解析装置、解析方法および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/86 20060101AFI20230711BHJP
G01N 30/66 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/86 H
G01N30/66
(21)【出願番号】P 2021055020
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝尾 知希
(72)【発明者】
【氏名】市村 遼太
(72)【発明者】
【氏名】望月 秀行
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/203972(WO,A1)
【文献】特開2004-061199(JP,A)
【文献】特開平06-341994(JP,A)
【文献】特開2007-139623(JP,A)
【文献】特表平08-500898(JP,A)
【文献】特開2020-064058(JP,A)
【文献】特開2018-152000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00,30/86,
G01N 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転中の機器によって、多成分が混合された測定サンプルを単一成分ごとに分離して取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出する抽出部と、
前記抽出部によって抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記
運転中の機器の正常度を判定する判定部と、
を有することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記ベースライン部の特徴として、ベースライン部の傾きと、前記正常時のクロマトデータとに基づいて、前記
運転中の機器の正常度を判定することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記ベースライン部の特徴として、ベースライン部のノイズの大きさと、前記正常時のクロマトデータとに基づいて、前記
運転中の機器の正常度を判定することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記
運転中の機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、前記正常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習したモデルを用いて、前記
運転中の機器の正常度を判定することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記
運転中の機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、前記正常時のクロマトデータに加えて、または前記正常時のクロマトデータに変えて、異常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習した前記モデルを用いて、前記
運転中の機器の正常度を判定することを特徴とする請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記
運転中の機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、前記
運転中の機器の正常度を反映する評価値を出力する前記モデルを学習する学習部を、さらに有することを特徴とする請求項4に記載の解析装置。
【請求項7】
コンピュータが、
運転中の機器によって、多成分が混合された測定サンプルを単一成分ごとに分離して取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出し、
前記抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記
運転中の機器の正常度を判定する、
処理を実行することを特徴とする解析方法。
【請求項8】
コンピュータに、
運転中の機器によって、多成分が混合された測定サンプルを単一成分ごとに分離して取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出し、
前記抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記
運転中の機器の正常度を判定する、
処理を実行させることを特徴とする解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析装置、解析方法および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
TCD(Thermal Conductivity Detector、熱伝導度検出器)と呼ばれるガスクロマトグラフが知られている。ガスクロマトグラフとは、多成分の混合気体や揮発性の液体を単一成分ごとに分離して検出するガス分析計である。他の成分の干渉を受けずに多成分を同時測定することができる。一定温度に制御された恒温槽の中で、測定サンプルが一定量採取され、キャリアガスによりカラムに導入される。カラムの中で多成分の測定サンプルが単一成分ごとに分離され、カラムから順に溶出する。カラムから溶出した単一成分を検出器で電気信号に変換することで、クロマトグラムが得られる。得られたクロマトグラム(クロマトデータ)のそれぞれのピーク面積から、それぞれの成分の濃度が算出される。
【0003】
TCDは、測定成分の熱伝導度とキャリアガスの熱伝導度との差を利用して、ブリッジ回路に生じる不均衡電圧を濃度信号として取り出す検出器である。ガスクロマトグラフとして、測定成分やその濃度、測定条件によって、さまざまな検出器が用いられる。そのうち、TCDは安価に作れるうえに、原理上、キャリアガス以外のすべての成分を測定可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】“初心者のためのガスクロ講座 第4回 TCD検出器とは?”、[online]、2021年1月6日、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ、[2021年1月26日検索]、インターネット<URL:https://http://j-sl.com/feature/gas/study04>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、TCDは感度の維持が困難であった。例えば、TCDは、感度が比較的低いことから、低濃度の成分測定には不向きである。そのため、TCDそのものの劣化を検知して、成分測定の感度の低下を抑止することが必要である。
【0006】
本発明は、TCDの劣化を検知して、感度の低下を抑止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面にかかる解析装置は、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出する抽出部と、前記抽出部によって抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記機器の正常度を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
一側面にかかる解析方法は、コンピュータが、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出し、前記抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記機器の正常度を判定する、処理を実行することを特徴とする。
【0009】
一側面にかかる解析プログラムは、コンピュータに、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出し、前記抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、前記機器の正常度を判定する、処理を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
一実施形態によれば、TCDの劣化を検知して、感度の低下を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態にかかる解析装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】実施形態の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図6】実施形態の処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する解析方法、解析プログラムおよび情報処理装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略し、各実施形態は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0013】
[解析装置]
図1は、実施形態にかかる解析装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、解析装置10は、パソコンやワークステーション等の汎用コンピュータで実現され、入力部11、出力部12、通信制御部13、記憶部14、および制御部15を有する。なお、解析装置10が有する機能部は、図示したものに限らず、他の機能部を有してもよい。
【0014】
入力部11は、キーボードやマウス等の入力デバイスを用いて実現され、操作者による入力操作に対応して、制御部15に対して処理開始などの各種指示情報を入力する。出力部12は、液晶ディスプレイなどの表示装置、プリンター等の印刷装置等によって実現される。例えば、出力部12には、後述する解析処理の結果が表示される。
【0015】
通信制御部13は、NIC(Network Interface Card)等で実現され、LAN(Local Area Network)やインターネットなどの電気通信回線を介した外部の装置と制御部15との通信を制御する。例えば、通信制御部13は、解析処理の対象の機器が出力するクロマトデータを管理する管理装置等と、制御部15との通信を制御する。
【0016】
記憶部14は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、または、ハードディスク、光ディスク等の記憶装置によって実現される。記憶部14には、解析装置10を動作させる処理プログラムや、処理プログラムの実行中に使用されるデータなどが予め記憶され、あるいは処理の都度一時的に記憶される。また、記憶部14は、後述する解析処理に用いられるモデル14aや、解析処理の結果を記憶する。なお、記憶部14は、通信制御部13を介して制御部15と通信する構成でもよい。
【0017】
制御部15は、CPU(Central Processing Unit)等を用いて実現され、メモリに記憶された処理プログラムを実行する。これにより、制御部15は、
図1に例示するように、取得部15a、抽出部15b、前処理部15c、学習部15dおよび判定部15eとして機能する。なお、これらの機能部は、それぞれ、あるいは一部が異なるハードウェアに実装されてもよい。例えば、学習部15dは、判定部15eとは異なる学習装置に実装されてもよい。また、制御部15は、その他の機能部を有してもよい。
【0018】
取得部15aは、機器からクロマトデータを取得する。例えば、取得部15aは、入力部11を介して、あるいは、解析処理の対象の機器や、機器が出力したクロマトデータを管理する管理装置等から通信制御部13を介して、解析処理の対象の機器が出力したクロマトデータを取得する。
【0019】
具体的には、取得部15aは、解析処理の対象のTCDの正常時のクロマトデータを取得して、後述する抽出部15bおよび前処理部15cを介して、学習部15dの処理に供給する。例えば、取得部15aは、正常なTCDに交換した後の最初の100データ以上のクロマトデータを学習部15dに供給する。
【0020】
また、取得部15aは、解析対象のTCDの運転時のクロマトデータを取得して、後述する抽出部15bおよび前処理部15cを介して、判定部15eの処理に供給する。その際に、取得部15aは、学習部15dに供給したクロマトデータと同数のクロマトデータを取得して、判定部15eに供給する。
【0021】
なお、取得部15aは、取得したクロマトデータを記憶部14に格納してもよい。あるいは、取得部15aは、取得したクロマトデータを記憶部14に格納せずに、直ちに後段の抽出部15bに転送してもよい。
【0022】
抽出部15bは、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部(すなわち、当該クロマトデータのベースライン部)を抽出する。ここで、
図2、
図3Aおよび
図3Bは、解析装置の処理を説明する図である。
図2には、機器のクロマトデータが例示されている。機器のクロマトデータには、検出された成分に対応するピーク部以外に、
図2に破線で囲んで示すように、ピーク部に比べて変化がごく微小なベースライン部が含まれる。
【0023】
ベースライン部は、機器が正常な場合には、ノイズの変化は微小で目視では確認できず概ね直線である。一方、機器に何等かの異常が発生した場合には、
図3Aに示したように、ベースラインに傾きが生じたり、
図3Bに示したように、ノイズが大きくなったりする。そこで、本実施形態の解析装置は、後述する解析処理において、ベースライン部を観測して、機器の劣化等による異常を検知する。
【0024】
図1の説明に戻る。前処理部15cは、後述する解析処理の前処理として、ベースライン部の特徴を抽出する。例えば、前処理部15cは、ベースライン部の特徴として、ベースライン部の平均値、最大値、最小値、最大値と最小値との差、分散値等を算出する。
【0025】
学習部15dは、機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、機器の正常度を反映する評価値を出力するモデル14aを学習する。具体的には、学習部15dは、正常時のクロマトデータのベースライン部の特徴を教師データとして用いて、機器の正常度を反映する評価値を出力するモデル14aを学習により生成する。
【0026】
例えば、学習部15dは、正常時のクロマトデータから前処理部15cが抽出したベースライン部の特徴を教師データとして用いて、機器の評価値を出力するモデル14aを学習により生成する。学習部15dは、生成したモデル14aを記憶部14に格納する。
【0027】
なお、学習部15dは、正常時のクロマトデータに加えて、または正常時のクロマトデータに変えて、異常時のクロマトデータを教師データとして用いて、機器の正常度を反映する評価値を出力するモデル14aの学習を行ってもよい。これにより、機器の正常度を反映する評価値を精度高く出力するモデル14aが生成される。
【0028】
図1の説明に戻る。判定部15eは、抽出部15bによって抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。具体的には、判定部15eは、機器から取得されたクロマトデータ(すなわち、解析対象のTCDの運転時のクロマトデータ)を入力データとして、正常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習部15dが学習したモデル14aを用いて、機器の正常度を判定する。例えば、判定部15eは、モデル14aが出力する評価値が所定のしきい値の範囲である場合に、機器が正常と判定する。
【0029】
なお、判定部15eは、機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、正常時のクロマトデータに加えて、または正常時のクロマトデータに変えて、異常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習した14aモデルを用いて、機器の正常度を判定してもよい。つまり、判定部15eは、上記した学習部15dが、正常時のクロマトデータに加えて、または正常時のクロマトデータに変えて、異常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習したモデル14aを用いてもよい。これにより、より高精度に機器の正常度を判定することが可能となる。
【0030】
ここで、上記したように、機器に何等かの異常が発生した場合には、
図3Aに示したように、ベースラインに傾きが生じたり、
図3Bに示したように、ノイズが大きくなったりする。そこで、判定部eは、ベースライン部の特徴として、ベースライン部の傾きと、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。または、判定部15eは、ベースライン部の特徴として、ベースライン部のノイズの大きさと、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。
【0031】
図4は、解析装置の処理を説明する図である。
図4には、判定部15eが、ベースライン部の特徴として、平均値と、最大値と最小値との差とを用いて、すなわちベースライン部のノイズの大きさを用いて、正常度の評価値を出力するモデル14aを適用した場合が例示されている。ここで、
図4のグラフの横軸は時間、縦軸はAIにより解析された際の評価値(単位なし)である。
【0032】
この場合には、学習部15dが、機器の正常時のクロマトデータのベースライン部についての平均値と、最大値と最小値との差とを用いて、正常度の評価値を出力するモデル14aを学習により生成する。そして、判定部15eが、機器の動作時のクロマトデータのベースライン部のデータを学習済のモデル14aに入力することにより、機器の評価値を得る。
【0033】
図4に示す例では、時間の経過とともに、正常度を表す評価値が減少している。判定部15eは、出力された評価値が予め設定したしきい値の範囲を逸脱した場合に、機器が異常と判定する。このように、解析装置10は、例えば機器の経時劣化等による異常を検知することが可能となる。
【0034】
判定部15eは、機器が異常と判定した場合に、機器の管理者等に対してアラームを発信してもよい。例えば、判定部15eは、機器が異常と判定した回数や頻度が所定のしきい値を超えた場合等に、管理者が使用する管理装置にアラームやエラー表示を出力する。
【0035】
[解析方法]
図5および
図6は、実施形態の処理の流れ、すなわち解析方法の一例を説明するフローチャートである。本実施形態の解析処理(解析方法)は、学習処理と判定処理とを含む。まず、
図5に示す学習処理は、例えば、管理者やオペレータなどを含むユーザにより学習処理の開始が指示されたタイミングで開始される。なお、学習処理の開始は、ユーザによる指示に限定されず、例えば、プログラムにより自動的に開始されてもよい。
【0036】
まず、取得部15aが、解析処理の対象のTCDの正常時のクロマトデータを取得する(ステップS1)。また、抽出部15bが、取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出する(ステップS2)。また、前処理部15cが、ベースライン部の特徴を抽出する。
【0037】
そして、学習部15dが、正常時のクロマトデータから前処理部15cが抽出したベースライン部の特徴を教師データとして用いて、機器の評価値を出力するモデル14aを学習により生成する(ステップS3)。学習部15dは、生成したモデル14aを記憶部14に格納する。これにより、一連の学習処理が終了する。
【0038】
次に、
図6に示す判定処理は、例えば、管理者やオペレータなどを含むユーザにより判定処理の開始が指示されたタイミングで開始される。なお、判定処理の開始は、ユーザによる指示に限定されず、例えば、プログラムにより自動的に開始されてもよい。
【0039】
まず、取得部15aが、解析処理の対象のTCDの運転時のクロマトデータを取得する(ステップS11)。また、抽出部15bが、取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出する(ステップS12)。また、前処理部15cが、ベースライン部の特徴を抽出する。
【0040】
そして、判定部15eが、取得されたクロマトデータを前処理部15cが抽出したベースライン部の特徴を入力データとして、学習済のモデル14aを用いて、機器の正常度を判定する(ステップS13)。
【0041】
また、判定部15eは、判定の結果を出力部12に出力する(ステップS14)。例えば、判定部15eは、解析処理の対象の機器が異常と判定した場合には、機器の管理装置等にエラーメッセージやアラーム等を出力する。これにより、一連の判定処理が終了する。
【0042】
[効果]
上述したように、本実施形態に係る解析装置10は、抽出部15b、判定部15eを有する。抽出部15bは、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出する。判定部15eは、抽出部15bによって抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。これにより、解析装置10は、運転時の機器の劣化をリアルタイムに検知して、対処することが可能となる。したがって、TCDを、故障が発生する前に定期的に、必要以上に頻度高く交換したり、故障が発生してプラントの一部機能を停止する等の影響を及ぼして復旧させたりする事態を抑止できる。このように、本実施形態に係る解析装置10によれば、新たにセンサー等を追加することなく容易に、稼働中のTCDの感度の低下を抑止し、ひいては、当該感度を維持することが可能となる。
【0043】
また、判定部15eは、ベースライン部の特徴として、ベースライン部の傾きと、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。あるいは、判定部15eは、ベースライン部の特徴として、ベースライン部のノイズの大きさと、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する。これにより、解析装置10は、機器の正常度を精度高く判定することが可能となる。
【0044】
判定部15eは、機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、正常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習したモデル14aを用いて、機器の正常度を判定する。これにより、解析装置10は、機器の正常度を精度高く判定することが可能となる。
【0045】
判定部15eは、機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、正常時のクロマトデータに加えて、または正常時のクロマトデータに変えて、異常時のクロマトデータを教師データとして用いて学習したモデル14aを用いて、機器の正常度を判定する。これにより、解析装置10は、機器の正常度をさらに精度高く判定することが可能となる。
【0046】
学習部15dが、機器から取得されたクロマトデータを入力データとして、機器の正常度を反映する評価値を出力するモデル14aを学習する。これにより、解析装置10は、機器の正常度を反映する評価値を精度高く出力するモデル14aを生成し、機器の正常度を精度高く判定することが可能となる。
【0047】
[実施例]
図7A~
図7Cは、実施例を説明するための図である。本実施例では、TCD内に故意にゴミを混入させて、ベースライン部に異常を発生させた。具体的には、
図7Aに示す配管図の装置を用いて、Airをサンプリングさせることにより、Airに含まれる酸素によってTCDのフィラメントを酸化させて、ベースライン部に異常を発生させた。具体的には、300秒周期でAirをサンプリングしてピークを発生させ、24時間データを収集した。この場合に、
図3Aに示した異常状態のクロマトデータを得た。
【0048】
なお、
図7Aに示す例では、TCDの手前に取り付けられたカラムの中に詰め込まれた細かい粒子の充填剤が漏れ出すように、カラムを加工した。この場合に、
図3Bに示した異常状態のクロマトデータを得た。
【0049】
そして、正常状態のクロマトデータ、異常状態のクロマトデータのそれぞれに対し、前処理を行った。具体的には、300秒周期のクロマトデータを1データとして、24時間で288個のデータを取得した。そして、
図7Bに示すように、各データから1~10秒程度(本実施例では5秒)の所定の範囲のベースライン部を抽出し、分散値を算出した。なお、1~10秒程度としたのは、ベースライン部のノイズはごく微小であり、これより長期間のデータとすることによりノイズ以外の要素が含まれてしまうことを防止するためである。
【0050】
その結果、
図7Cに示すように、異常状態のクロマトデータの評価値が何度も正常状態から大きく外れていることがわかる。例えば、
図7Cの評価値が-0.5より低い点は、
図3Bに示した異常状態がプロットされたものであり、
図7Cの評価値が0付近の多数の点は、
図3Bに示した正常状態がプロットされたものである。このように、解析装置10により、ベースライン部のノイズが不安定になることにより、機器の異常を検知できることが確認された。
【0051】
[他の実施形態]
さて、これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0052】
例えば、上記実施形態で用いたベースライン部の特徴はあくまで一例であり、任意に変更することができる。また、学習部15dが生成するモデル14aには、ニューラルネットワーク、深層学習、サポートベクタマシン等、様々なアルゴリズムを採用することができる。
【0053】
[解析プログラム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0054】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0055】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。例えば、クラウド上で解析プログラムが実行されてもよい。この解析プログラムは、コンピュータに、機器から取得されたクロマトデータのうち、ベースライン部を抽出し、抽出されたクロマトデータのベースライン部の特徴と、正常時のクロマトデータとに基づいて、機器の正常度を判定する処理を実行させるものであってもよい。
【0056】
[ハードウェア]
次に、解析装置10のハードウェア構成例を説明する。
図8は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図8に示すように、解析装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図8に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0057】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図1に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0058】
プロセッサ10dは、
図1に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図1等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、解析装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、取得部15a、抽出部15b、前処理部15c、学習部15d、判定部15e等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、取得部15a、抽出部15b、前処理部15c、学習部15d、判定部15e等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0059】
このように、解析装置10は、解析プログラムを読み出して実行することで解析方法を実行する情報処理装置として動作する。つまり、解析装置10は、解析プログラムをインストールしたPC等の情報処理装置であってもよい。また、解析装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、解析装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0060】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0061】
10 解析装置
11 入力部
12 出力部
13 通信制御部
14 記憶部
14a モデル
15 制御部
15a 取得部
15b 抽出部
15c 前処理部
15d 学習部
15e 判定部