(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 7/14 20060101AFI20230711BHJP
B60L 7/18 20060101ALI20230711BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B60L7/14
B60L7/18
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2022540161
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2021026529
(87)【国際公開番号】W WO2022024770
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020129819
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 健
(72)【発明者】
【氏名】水井 俊文
【審査官】黒嶋 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-070406(JP,A)
【文献】特開平5-064304(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111083(WO,A1)
【文献】特開2017-028905(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/14
B60L 7/18
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中に、シフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減するようにモータの回生トルクが制御される第1回生制御モードから、ドライバ操作スイッチのON/OFFで、予め設定されたシフトポジションに固定されてアクセルペダルの踏み込み量に応じて回生ブレーキ力が増減するように前記モータの回生トルクが制御される第2回生制御モードに切り替え可能な車両の走行制御装置であって、
アクセル開度及び車速に基づいて前記モータに要求するトルクを前記第1回生制御モード及び前記第2回生制御モードについて演算するアクセル要求トルク演算部と、
前記アクセル要求トルク演算部において演算された前記モータに要求するトルクから前記第1回生制御モード又は前記第2回生制御モードに適合した前記モータに要求するトルクを選択するアクセル要求トルク選択部と、
前記アクセル要求トルク選択部から出力された前記モータに要求するトルクが前記第1回生制御モードから前記第2回生制御モードに切り替えることよって予め定めた変化率を超えて変化する場合に前記モータに要求するトルクの変化率を制限するモード切替時変化率制限部と、
を備える、車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記モータに要求するトルクを演算するドライバ要求トルク演算部を更に備え、
前記ドライバ要求トルク演算部は、前記第1回生制御モードにおいて、前記モード切替時変化率制限部で制限された前記モータに要求するトルクにシフトポジション及びアクセル開度に基づいて演算された前記モータに要求するトルクを加算して前記モータに要求するトルクとする、
請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記第2回生制御モードでは、前記アクセル開度が0となった場合に前記回生ブレーキ力によって前記車両が停車するまで漸次減速するように前記モータの回生トルクが制御される、
請求項1又は2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記モード切替時変化率制限部は、前記第1回生制御モードにおけるシフトポジションが前記第2回生制御モードにおける前記予め設定されたシフトポジションよりも前記モータに要求する回生トルクが大きい場合に、モード切り替え前の前記モータに要求するトルクに対する変化率を制限する、
請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記第1回生制御モードから前記第2回生制御モードに切り替える第2回生制御モードスイッチのオンを要件とするモード切替ON判定部を備える、
請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記モード切替時変化率制限部は、前記第2回生制御モードにおいて、前記アクセル要求トルク演算部で演算された前記モータに要求するトルクが目標トルクに到達した場合に変化率制限を解除する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の回生ブレーキ力を制御する回生ブレーキ制御装置が開示されている。かかる回生ブレーキ制御装置は、ステアリングに設けられたパドルスイッチによって設定されたシフトポジションに応じて車両の回生ブレーキ力が増減するようにモータの回生トルクを制御する。
【0003】
特許文献2には、アクセルペダルから送られる信号を基にモータの出力を制御する車両の走行制御装置が開示されている。かかる車両の走行制御装置は、車両の走行中においてアクセルペダルがオフされたときに回生ブレーキ力によって車両が停車するまで漸次減速するようにモータの回生トルクを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2017-205015号公報
【文献】日本国特開平06-70406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された制御(以下「第1回生制御」という)と特許文献2に開示された制御(以下「第2回生制御」という)とが可能であって、車両の走行中に第1回生制御を実行する第1回生制御モードから第2回生制御を実行する第2回生制御モードに切り替えることができる車両では、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替える際に第1回生制御モードが無効化される。
【0006】
しかしながら、第1回生制御では回生ブレーキ力を増減できるため、第1回生制御における回生ブレーキ力が第2回生制御における回生ブレーキ力よりも大きい場合がある。かかる場合に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えると、切り替え前よりも切り替え後の回生ブレーキ力が小さくなり、運転者の期待するブレーキ力が得られない虞がある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明は、車両の走行中に第1回生制御を実行する第1回生制御モードから第2回生制御を実行する第2回生制御モードに切り替えても運転者の期待する回生ブレーキ力を得ることができる走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、車両の走行中に、シフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減するようにモータの回生トルクが制御される第1回生制御モードからアクセルペダルの踏み込み量に応じて回生ブレーキ力が増減するように前記モータの回生トルクが制御される第2回生制御モードに切り替え可能な車両の走行制御装置であって、アクセル開度及び車速に基づいて前記モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)を前記第1回生制御モード及び前記第2回生制御モードについて演算するアクセル要求トルク演算部と、前記アクセル要求トルク演算部において演算された前記モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)から前記第1回生制御モード又は前記第2回生制御モードに適合した前記モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)を選択するアクセル要求トルク選択部と、前記アクセル要求トルク選択部から出力された前記モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)が前記第1回生制御モードから前記第2回生制御モードに切り替えることよって予め定めた変化率を超えて変化する場合に前記モータに要求するトルクの変化率を制限するモード切替時変化率制限部と、を備える。
【0009】
上記の構成によれば、モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)が第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わることによって予め定めた変化率を超えて変化する場合にモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)の変化率を制限するので、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り換える前にモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)と切り換えた後にモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)の変化が抑制される。これにより、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えても運転者の期待する回生ブレーキ力を得ることができる。
【0010】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、上記の構成において、前記モータに要求するトルク(ドライバ要求トルク)を演算するドライバ要求トルク演算部を更に備え、前記ドライバ要求トルク演算部は、前記第1回生制御モードにおいて、前記モード切替時変化率制限部で制限された前記モータに要求するトルクに(パドルスイッチによって設定された)シフトポジション及びアクセル開度に基づいて演算された前記モータに要求するトルク(パドル回生トルク)を加算して前記モータに要求するトルク(ドライバ要求トルク)とする。
【0011】
上記の構成によれば、ドライバ要求トルク演算部は、第1回生制御モードにおいて、モード切替時変化率制限部で制限されたモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)にシフトポジション及びアクセル開度に基づいて演算されたモータに要求されたトルク(パドル回生トルク)を加算してモータに要求するトルク(ドライバ要求トルク)とする。これにより、第1回生制御モードにおいて、ハンドルの近傍に設けられたパドルスイッチの操作によりモータに要求するトルク(ドライバ要求トルク)が変更されるので、運転者がパドルスイッチを操作することによって回生ブレーキ力を増減できる。
【0012】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、上記の構成において、前記第2回生制御モードでは、予め設定されたシフトポジションに固定され、前記アクセル開度が0となった場合に前記回生ブレーキ力によって前記車両が停車するまで漸次減速するように前記モータの回生トルクが制御される。
【0013】
上記の構成によれば、第2回生制御モードでは、予め設定されたシフトポジションに固定され、アクセル開度が0となった場合に回生ブレーキ力によって車両が停車するまで漸次減速する。これにより、アクセルペダルからブレーキペダルに踏み変えなくても車両が停車するまで減速が可能となる。
【0014】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、上記の構成において、前記モード切替時変化率制限部は、前記第1回生制御モードにおけるシフトポジションが前記第2回生制御モードにおける前記予め設定されたシフトポジションよりも前記モータに要求する回生トルクが大きい場合に、モード切り替え前の前記モータに要求するトルクに対する変化率を制限する。
【0015】
上記の構成によれば、モード切替時変化率制限部は、第1回生制御モードにおけるシフトポジションが第2回生制御モードにおける予め設定されたシフトポジションよりもモータに要求する回生トルクが大きい場合に、モード切り替え前のモータに要求するトルクに対する変化率を制限する。これにより、モード切り替え後にモータに要求する回生トルクがモード切り替え前にモータに要求する回生トルクよりも大きくなり、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えても運転者が期待するように回生ブレーキ力を大きくできる。
【0016】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、上記の構成において、前記第1回生制御モードから前記第2回生制御モードに切り替える第2回生制御モードスイッチのオンを要件とするモード切替ON判定部を備える。
【0017】
上記の構成によれば、モード切替ON判定部は、第2回生制御モードスイッチのオンを要件に第1回生制御モードから第2回生制御モードへの切り替えを判定できる。
【0018】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置は、上記の構成において、前記モード切替時変化率制限部は、前記第2回生制御モードにおいて、前記アクセル要求トルク演算部で演算された前記モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)が目標トルクに到達した場合に変化率制限を解除する。
【0019】
上記の構成によれば、モード切替時変化率制限部は、第2回生制御モードにおいて、アクセル要求トルク演算部で演算されたモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)が目標トルクに到達した場合に変化率制限を解除する。これにより、モータに要求するトルク(アクセル要求トルク)が目標トルクに達した後は目標トルク(回生ブレーキ力)で減速できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置によれば、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えても運転者の期待する回生ブレーキ力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1C】本発明の実施形態に係る走行制御装置が実現する第1回生制御を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る走行制御装置が実現する第1回生制御と第2回生制御におけるアクセル開度と加速度の関係を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置を概略的に示すブロック図である。
【
図4】
図3に示したモード切替時変換率制御部の詳細を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置の制御手順を概略的に示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置の制御タイミングを概略的に示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0023】
本発明の実施形態に係る走行制御装置1が搭載される車両は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle,PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等の電動車両であって、車両の減速エネルギーを電気エネルギーに回生する。
【0024】
本発明の実施形態に係る走行制御装置1は、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替え可能である。
【0025】
第1回生制御モードでは、アクセルペダルの踏み込み量によってモータ(図示せず)に要求するトルク(以下「アクセル要求トルク」という)が増大する一方、シフトレバー110又はパドルスイッチ120によって設定されたシフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減するようにモータの回生トルクが制御される。
図1A~
図1Cに示すように、シフトレバー110又はパドルスイッチ120によって設定可能なシフトポジションは、例えば、B0(回生力小)からB5(回生力大)の6つのポジションであり、アクセルペダル(図示せず)をオフにするとシフトポジションに応じて回生ブレーキが作用するようにモータの回生トルクが制御される。
【0026】
シフトレバー110は、ホームポジションからR(リバース)、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、B(回生ブレーキ)の各位置に操作可能であり、シフトレバー110をDに操作することで基本となるシフトポジション「D(B2)」が選択される。また、この状態でシフトレバー110をBに一回操作することで回生力が一段階大きいシフトポジション「B3」が選択され、シフトレバー110をもう一度Bに操作することで回生力が最大となるシフトポジション「B5」が選択される。パドルスイッチ120は、パドルプラススイッチ121とパドルマイナススイッチ122とにより構成される。パドルプラススイッチ121は、回生力が一段階小さいシフトポジションに変位させるためのものであり、パドルプラススイッチ121を操作するごとに回生力が一段階ずつ小さいシフトポジションに変位する。パドルマイナススイッチ122は、回生力が一段階大きいシフトポジションに変位させるためのものであり、パドルマイナススイッチ122を操作するごとに回生力が一段階ずつ大きいシフトポジションに変位する。
【0027】
第2回生制御モードでは、第1回生制御モードが無効化され、アクセルペダルの踏み込み量によってアクセル要求トルクが増大する一方、予め設定されたシフトポジションに固定され、回生ブレーキ力によって車両が停車するまで漸次減速するようにモータの回生トルクが制御される。予め設定されたシフトポジションは、例えば、基本となるシフトポジション「D(B2)」であり、アクセルペダルをオフにすると回生ブレーキ力によって車両が停車するまで漸次減速するようにモータの回生トルクが制御される。
【0028】
図2に示すように、例えば、第1回生制御モードではX(G)から-Y(G)のトルクをアクセルペダルによって要求するのに対して、第2回生制御モードではX(G)から-Z(G)のトルクをアクセルペダルによって要求する。尚、(G)は、重力加速度の単位であり、X,Y,Zは正の数である。また、Xは任意の数であり、Y<<Zである。これにより、第1回生制御モードよりも第2回生制御モードの方がモータに要求する回生トルクが広い範囲で制御可能であり、回生ブレーキ力が広い範囲で制御可能である(第1回生制御モードよりも第2回生制御モードの方が大きな回生ブレーキ力を得ることができる)。
【0029】
また、アクセルペダルの踏み込み可能な踏み込み量は変わらないので、アクセルペダルの踏み込み量が同じでも第2回生制御モードは第1回生制御モードよりも大きなトルクを要求することになる。よって、
図2に示すように、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り換えると(第2回生制御モードを選択すると)、アクセル操作(単位量)に対するトルク変化の幅が大きくなり、運転者の操作のしやすさが低下する(少しのアクセル操作によって大きく加減速してしまう)。このような状態において第1回生制御モードによる更なる回生トルクの増幅は許容できないので、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り換えた場合には第1回生制御モードが無効化される。
【0030】
図3に示すように、本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置1は、アクセル要求トルク演算部2、アクセル要求トルク選択部3及びモード切替時変化率制限部4を備える。
【0031】
アクセル要求トルク演算部2は、アクセル開度及び車速に基づいてモータに要求するトルク(アクセル要求トルク)を回生制御モードごとに演算する。例えば、アクセル要求トルク演算部2には、アクセル開度及び車速にアクセル要求トルクが関連付けられたデータテーブル(アクセルマップ)が回生制御モードごと設けられ、アクセル開度及び車速を特定することによりアクセル要求トルクが回生制御モードごとに求められる。回生制御モードは、コンソール(図示せず)に設けられた第2回生制御モードスイッチ(図示せず)により第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わる。
【0032】
アクセル要求トルク演算部2には、第1回生制御モード及び第2回生制御モードについてそれぞれのデータテーブル(アクセルマップ)が設けられ、アクセル開度及び車速に基づいて回生制御モードごとにアクセル要求トルクが求められる。そして、演算された回生制御モードごとのアクセル要求トルクがアクセル要求トルク選択部3に出力される。
【0033】
アクセル要求トルク選択部3は、アクセル要求トルク演算部2において演算された回生制御モードごとのアクセル要求トルクから各回生制御モードに適合したアクセル要求トルクを選択する。本発明の実施形態では、アクセル要求トルク選択部3には、アクセル要求トルク演算部2において演算された回生制御モードごとのアクセル要求トルクのほか、第2回生制御判定、シフトポジション、第2回生要求トルク及び第2回生要求トルク(シフトR)が入力され、回生制御モードに適合したアクセル要求トルクが選択される。
【0034】
第2回生制御判定は、第2回生制御が成立するか否かであり、第2回生制御判定が成立しない場合に「0」となり、第2回生制御判定が成立する場合に「1」となる。シフトポジションは、上述したように、シフトレバー110によって設定可能なシフトポジションであり、第1回生制御モードではシフトレバー110によってD(B2),B3又はB5のいずれか一つが選択され、第2回生制御モードではD(B2)に固定される。
【0035】
したがって、第1回生制御モードではアクセル要求トルク演算部2において演算された第1回生制御モードにおけるアクセル要求トルクがアクセル要求トルクとなり、第2回生制御モードではアクセル要求トルク演算部2において演算された第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルクがアクセル要求トルクとなる。
【0036】
モード切替時変化率制限部4は、アクセル要求トルク選択部3から出力されたアクセル要求トルクが第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えることによって予め定めた変化率を超えて変化する場合にアクセル要求トルクの変化率を制限する。これにより、モード切替時変化率制限部4は、第1回生制御モードから第2回生制御モードへの切替によって予め定めた変化率を超えた駆動力変動が起きるのを防止することができる。よって、第1回生制御モードにおける回生ブレーキ力が第2回生制御モードにおけるブレーキ力よりも大きい場合に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り換えても、切り換え前よりも切り替え後の回生ブレーキ力が大幅に小さくなることを防止し、運転者の期待する回生ブレーキ力を得ることができる。
【0037】
図4に示すように、モード切替時変化率制限部4は、モード切替ON判定部41、変化率制限部42、アクセル要求トルク制限部43、パドル回生トルク入力部44及びアクセル要求トルク出力部45を有する。
【0038】
モード切替ON判定部41は、第1回生制御モードから第2回生制御モードへの切り替えが成立したか否かを判定し、第1回生制御モードから第2回生制御モードへの切り替えが成立した場合にモード切替ON判定が「0」から「1」に切り替わる。モード切替ON判定部41には、例えば、第2回生制御判定及びアクセル要求トルクが入力され、第1回生制御モードから第2回生制御モードへの切り替えが成立したか否かを判定する。
【0039】
変化率制限部42は、変化率制限前のアクセル要求トルク(IN)と直前の変化率制限後のアクセル要求トルク(OLD_OUT)とを比較して、アクセル要求トルクの変化率を所定の範囲に制限する。変化率制限部42には、例えば、変化率上限(UPPER)と変化率下限(LOWER)とが設定され、変化率制限部42は、アクセル要求トルクの変化率を変化率上限と変化率下限との間に制限する。
【0040】
アクセル要求トルク制限部43は、アクセル要求トルクを変化率制限部42において制限された変化率に制限する。アクセル要求トルク制限部43には、変化率制限部42において制限された変化率(IN)のほか、アクセル要求トルクの最大値(UPPER)と最小値(LOWER)が入力され、変化率制限部42において制限された変化率のアクセル要求トルクが出力される。
【0041】
パドル回生トルク入力部44は、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わる時にモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を入力とする。本発明の実施形態では、第1回生制御モードにおけるシフトポジションが第2回生制御モードにおけるシフトポジションよりも回生力が大きな場合にモード切り替え前の回生トルクを入力とする。したがって、本発明の実施形態では、第1回生制御モードにおけるシフトポジションがD(B2)よりも回生力が大きなB3,B4,B5の場合に回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を入力とする。
【0042】
アクセル要求トルク出力部45では、モード切り替え後のアクセル要求トルク(第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルク)にモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を加算して出力する。本発明の実施形態では、モード切り替え時の変化率が制限されたモード切り替え後のアクセル要求トルク(補正値)にモード切り替え前の回生トルクを加算して出力する。
【0043】
本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置1は、
図3に示すように、ドライバ要求トルク演算部5を更に備える。
【0044】
ドライバ要求トルク演算部5は、モード切替時変化率制限部4において制限されたアクセル要求トルクに、パドルスイッチ120によって設定されたシフトポジション及びアクセル開度に基づいて演算されたパドル回生トルクを加算してドライバ要求トルクとする。本発明の実施形態では、ドライバ要求トルク演算部5には、モード切替時変化率制限部4において制限されたアクセル要求トルクにパドル回生トルクのほか、パドル力行トルク(無効化)、クリープトルク及び第2回生制御モードにおける回生トルク(無効化)を加算し、ドライバ要求トルクとする。
【0045】
また、本発明の実施形態では、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わる時にモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御制御モードにおける回生トルク)をモード切替時変化率制限部4の入力とし、モード切り替え後のアクセル要求トルク(第2回生制御生モードにおけるアクセル要求トルク)にモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を加算する。
【0046】
また、本発明の実施形態では、
図3に示すように、第2回生制御判定部6を備える。第2回生制御判定部6は、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替える第2回生制御回生モードスイッチのオンを要件とする。
【0047】
図5に示すように、本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置1では、まず、アクセル要求トルク演算部2においてアクセル開度及び車速に基づいてアクセル要求トルクを回生制御モードごとに演算する(ステップS1)。例えば、アクセル要求トルク演算部2には、アクセル開度及び車速にアクセル要求トルクが関連付けられたデータテーブル(アクセルマップ)が回生制御モードごとに設けられ、アクセル開度及び車速を特定することによりアクセル要求トルクが回生制御モードごとに求められる。
【0048】
つぎに、第2回生制御判定部6は、第2回生制御モードがONか否かを判断する(ステップS2)。第2回生制御モードがONか否かは、例えば、コンソール(不図示)に設けられた第2回生制御モードスイッチがONか否かで判断される。
【0049】
第2回生制御モードがON(ステップS2:Yes)の場合には、アクセル要求トルク選択部3において回生制御モードごとのアクセル要求トルクから第2回生制御モードのアクセル要求トルクを選択し、シフトポジションをD(B2)に固定する(ステップS3)。
【0050】
一方、第2回生制御モードがONでない場合、すなわち、第1回生制御モードの場合には(ステップS2:No)、アクセル要求トルク選択部3において回生制御モードごとのアクセル要求トルクから第1回生制御モードのアクセル要求トルクを選択する(ステップS4)。
【0051】
次に、第2回生制御判定部6は、第2回生制御モードがOFFからONに切り替わったか否か、すなわち、第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わったか否かを判断する(ステップS5)。第2回生制御モードがOFFからONに切り替わったと判断すると(ステップS5:Yes)、モード切り替え前の回生トルク(第1制御モードにおける回生トルク)をモード切替時変化率制限部4の入力とし、モード切り替え後のアクセル要求トルク(第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルク(回生トルク))にモード切り替え前の回生トルクを加算する(ステップS6)。
【0052】
一方、第2回生制御モードがOFFからONに切り替わっていない、すなわち、第1回生制御モードのままと判断すると(ステップS5:No)、モード切替時変化率制限部4のモード切替ON判定部41においてモード切り替えが成立したか否かを判定する(ステップS7)。このとき、ドライバモードの切り替えが成立したと判定した場合にモード切替ON判定が「0」から「1」に切り替わる(ステップS7:Yes)。そして、モード切替時変化率制限部4のモード切替ON判定部41においてモード切り替えが成立したと判定した場合(ステップS7:Yes)に、モード切替時変化率制限部4の変化率制限部42において変化率制限前のアクセル要求トルクと変化率制限後のアクセル要求トルクとを比較してアクセル要求トルクの変化率を制限する(ステップS8)。
【0053】
一方、モード切替時変化率制限部4のモード切替ON判定部41においてモード切り替えが成立していないと判定した場合にモード切り替え判定が「0」のままとなる(ステップS7:No)。そして、モード切替時変化率制限部4のモード切替ON判定部41においてモード切り替えが成立していないと判定した場合(ステップS7:No)に、モード切替時変化率制限部4の変化率制限部42においてアクセル要求トルクの変化率を制限しない(ステップS9)。
【0054】
ステップS6、S8、S9の何れかの処理に続いて、モード切替時変化率制限部4は、アクセル開度及びシフトポジションに基づいて回生トルクを演算する(ステップS10)。そして、ドライバ要求トルク演算部5は、最後にアクセル要求トルクに回生トルクを加算してドライバ要求トルクとする(ステップS11)。尚、第2回生制御モードの場合には、シフトポジションがDであり、回生トルクとして0をアクセル要求トルクに加算してドライバ要求トルクとする。
【0055】
図6に示すように、上述した本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置1では、第1回生制御モードの場合に、シフトポジションは「B0」から「B5」のいずれかであり、アクセル要求トルク演算部2においてアクセル開度及び車速に基づいてアクセル要求トルクが演算される。例えば、
図6に示す例では、シフトポジションが「B5」であり、アクセル開度が0%(アクセル全閉)の場合に、アクセル要求トルクが-A(Nm)、回生トルクが-C(Nm)となり、ドライバ要求トルクが-A-C(Nm)、前後Gが-Y(G)となる。
【0056】
そして、コンソール(図示せず)に設けられた第2回生制御モードスイッチ(図示せず)がオン操作され、第2回生制御判定が成立するとともに、モード切替ON判定が成立すると、第2回生制御判定が「0」から「1」になり、モード切替ON判定が「0」から「1」になる。これにより、アクセル要求トルクが第1回生制御モードにおけるアクセル要求トルクから第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルクに徐々に切り替わる。この結果、アクセル要求トルク、ドライバ要求トルク及び前後Gが漸減する。
【0057】
また、第2回生制御判定が成立し、第2回生制御判定が「0」から「1」になると、シフトポジションが「B0」から「B5」のいずれかから「D」に切り替わる。例えば、
図6に示す例では、シフトポジションが「B5」から「D」に切り替わる。これにより、回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)が0となるが、モード切り替え前の回生トルクをモード切替時変化率制限部4の入力とし、モード切り替え後のアクセル要求トルク(第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルク(アクセル要求回生トルク))にモード切り替え前の回生トルクを加算するので、アクセル要求トルクは減少(アクセル要求回生トルクは増大)し、ドライバ要求トルクは増大することなく漸減する(ドライバ要求回生トルクは漸増する)。
【0058】
そして、アクセル要求トルクが目標値(第2回生制御モードにおけるアクセル要求トルク)に到達すると、モード切替ON判定が不成立となり、モード切替ON判定が「1」から「0」となる。これにより、モード切替時変化率制限部4における変化率制限が解除される。
図6に示す例では、アクセル要求トルクが-B(Nm)となり、ドライバ要求トルクが-B(Nm)、前後Gが-Z(G)にとなった場合に変化率制限が解除される。
【0059】
上述した本発明の実施形態に係る車両の走行制御装置1によれば、第1回生制御モードでは、シフトレバー110又はパドルスイッチ120によって設定されたシフトポジションに応じて回生ブレーキ力が増減し、第2回生制御モードでは、回生ブレーキ力によって車両が停車するまで漸次減速する。これにより、運転者の好みに応じた減速が可能になる。
【0060】
また、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替わる時に回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)が0となるが、モード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)をモード切替時変化率制限部4の入力とし、モード切り替え後のアクセル要求トルクにモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を加算するので、モード切り替え前とモード切り替え後におけるドライバ要求トルクの変化(回生トルクの変化)が抑制される。これにより、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えても運転者の期待する回生ブレーキ力を得ることができる。
【0061】
また、第1回生制御モードにおけるシフトポジションが第2回生制御モードにおけるシフトポジションよりもモータの回生トルクが大きい場合に、モード切り替え後のアクセル要求トルクにモード切り替え前の回生トルク(第1回生制御モードにおける回生トルク)を加算するので、モード切り替え前よりもモード切り替え後のほうがドライバ要求トルクが小さくなる(回生トルクが大きくなる)。これにより、車両の走行中に第1回生制御モードから第2回生制御モードに切り替えても運転者が期待するように回生ブレーキ力を大きくできる。
【0062】
また、第1回生制御から第2回生制御に切り替える第2回生制御モードスイッチのONを要件とする第2回生制御判定部6を備えるので、第2回生制御生モードスイッチのONを要件として第2回生制御の成立を判定できる。
【0063】
第1回生制御モードにおける回生トルクは、アクセル開度が0であり、前記シフトポジションに基づいて演算されるので、第1回生制御モードにおける回生トルクは、シフトポジションに基づいて演算できる。
【0064】
第2回生制御モードにおいて、アクセル要求トルクが目標トルクに到達した場合に変化率制限を解除するので、以後は目標トルク(回生ブレーキ力)で減速できる。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0066】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0067】
なお、本出願は、2020年7月31日出願の日本特許出願(特願2020-129819)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0068】
1 走行制御装置
2 アクセル要求トルク演算部
3 アクセル要求トルク選択部
4 モード切替時変化率制限部
41 モード切替ON判定部
42 変化率制限部
43 アクセル要求トルク制限部
44 パドル回生トルク入力部
45 アクセル要求トルク出力部
5 ドライバ要求トルク演算部
6 第2回生制御判定部
110 シフトレバー
120 パドルスイッチ
121 パドルプラススイッチ
122 パドルマイナススイッチ