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特許7311084免疫調節物質を用いたコロナウイルス感染の予防又は処置のための方法、及び免疫調節物質を含むワクチン組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】免疫調節物質を用いたコロナウイルス感染の予防又は処置のための方法、及び免疫調節物質を含むワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 39/108 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K39/108
A61P11/00
A61P31/14
A61P37/04
A61P43/00 117
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021079169
(22)【出願日】2021-05-07
(65)【公開番号】P2021176844
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】63/022,017
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521196604
【氏名又は名称】アドバジーン バイオファーマ カンパニー, リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Advagene Biopharma Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】スー, ユ‐シェン
(72)【発明者】
【氏名】カン, ス‐ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ミン‐イ
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-533489(JP,A)
【文献】特表2013-525474(JP,A)
【文献】国際公開第2020/187255(WO,A1)
【文献】Emerging Microbes & Infections, 2018, Vol.7, No. 60, pp1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 39/108
A61P 11/00
A61P 31/14
A61P 37/04
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LTh(αK)を単独の有効成分として含む、コロナウイルス感染を処置又は予防するための医薬組成物。
【請求項2】
前記コロナウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、又はSARS-CoV-2である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
LTh(αK)を複数回投与するためのものである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
LTh(αK)の投与が上皮細胞におけるIFNαの生成を誘導する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記上皮細胞が気道粘膜上皮細胞である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬として有効な量のLTh(αK)を単独の有効成分として含む組成物を含む、コロナウイルス感染を処置又は予防するためのワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0002]本発明は、コロナウイルス感染の処置又は予防に関し、詳細には、免疫調節物質を投与することによるコロナウイルス感染の処置又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
[0003]SARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2は、特定の集団において大量死を引き起こしている致死コロナウイルス病原体である。2019年の末に、SARS-CoV-2が、中華人民共和国、湖北省、武漢(Wuhan,Hubei province,People’s Republic of China)において、ヒト宿主への襲撃を開始した。感染は静かに広がり、80%もの感染者が、重大な病徴を示さなかった。しかしながら、高齢者、及び基礎疾患、例えば、糖尿病、高血圧、免疫抑制その他のある人々は、特に感受性であり、死亡率は15%を超える。中国単独で、SARS-CoV-2は80,000人超に感染し、3カ月以内で3,200人超の命が奪われた。
【0003】
[0004]SARS-CoV-2に対する現在の治療オプションは、多様且つ実験的であり、抗ウイルス薬、例えば、レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、リトナビル/ロピナビル、及びインターフェロンベータを併用するリトナビル/ロピナビルが挙げられる。レムデシビルは、エボラ感染症用の抗感染薬物である。動物研究(SARSモデル)、及びSARS-CoV-2を患っている限られた数のヒト対象において、レムデシビルは、コロナウイルスを阻害して、発熱を引き下げる有望な有効性を示した。ヒドロキシクロロキンは、かなりの患者数への感染を軽減すると信じられている。それでもやはり、その実際の用途は、その正確な機構についての知識の欠如、及び高い投薬量に由来する有害事象に起因して、議論中である。ヒドロキシクロロキン及びアジスロマイシンの組合せが、その高い有効性について、SARS-CoV-2治療へのゲームチェンジャーであることが報告されたが、研究では証明されていない。リトナビル/ロピナビル、及びインターフェロンベータ治療を併用するリトナビル/ロピナビルは、SARS-CoV-2処置に不十分である。
【0004】
[0005]カルメット-ゲラン菌(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)は、その免疫調節特性について、SARS-CoV-2の治療オプションとして提唱されている。BCGは、SARS-CoV-2の免疫療法剤以外では、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の予防ワクチンである。BCGは、樹状細胞(DC)上で、先天性パターン認識受容体、例えば、Toll様受容体(TLR)及びC-型レクチン受容体(CLR)を介して、先天性且つ適応性の免疫応答を非特異的に増大させて、非特異的な/広いスペクトルのCD4 T細胞活性化をもたらすと提唱されている。この免疫学的重要性は、癌免疫治療における独自の役割をBCGに与えてきた(Nishida Sら、「Immune adjuvant therapy using Bacillus Calmette-Guerin cell wall skeleton(BCG-CWS)in advanced malignancies:A phase 1 study of safety and immunogenicity assessments」Medicine(Baltimore)2019年、98巻(33号):e16771頁)。
【0005】
[0006]SARS-CoV-2用の他の治療薬物及び予防的処置が、現在、多くの学術学会又は製薬会社によって開発中である。ワクチンは、抗SARS-CoV-2免疫を増大させるための、抗原、組換え微生物、又はウイルスタンパク質をコードする核酸の使用を包含する典型的な予防的アプローチである。現在、SARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)が、最も頻繁に試験されている抗原性標的である。ウイルス抗原性エピトープは、所望の量的且つ質的免疫応答を常に促進するわけではない。ワクチンの有効性を最適化するために、アジュバントを組み込むことができる。アジュバントは多くの場合、ワクチンと同時投与されて、先天性免疫活性化を介した抗原特異的免疫応答を質的に、又は量的にブースト(boost)する。
【0006】
[0007]ワクチンは、SARS-CoV-2感染の蔓延を止めるキーである。SARS-CoV-2は、コウモリ及びセンザンコウから進化してから、知られていない中間宿主を経て、ヒトに感染した。現在、有望な処置又はワクチンは、SARS-CoV-2感染に利用可能でない。多くのワクチン戦略が、SARS CoV-2について提唱されており、組換えウイルスタンパク質、サブユニットワクチン、DNA又はmRNAワクチンが挙げられる。開発中のほとんどのSARS-CoV-2ワクチンは、主要な抗原としてウイルススパイクタンパク質(Sタンパク質)、及び投与経路として筋肉内(IM)注射を使用する。Sタンパク質は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を有する宿主細胞へのSARS-CoV-2の融合を媒介しており、Sタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)が同定された。ヒト研究及び動物研究の双方により、Sタンパク質に対するIgG力価が、抗体依存性感染増強(ADE)に正に相関することが明らかとなったが、これは、Sタンパク質に対する免疫応答及び非RBD阻害IgGの生成の後の病原性の結果である。新しい流行期又はパンデミックにおいて、既存の非RBD阻害IgGが、広まっているSARS-CoV-2の様々な株のSタンパク質に結合して、感染を増強させるおそれがある。ADEを解決する解決策は、免疫化経路を変更して、粘膜sIgAを誘導することを含むが、これは、ADE負荷なしに中和能力を向上させている。
【0007】
[0008]粘膜は、体内導管、例えば、腸、呼吸器管、及び尿生殖路の表面を覆う。粘膜は、管腔側にてsIgA及び抗菌性分子で覆われた、粘膜を感染から守るための上皮の層である。sIgAは、高分子免疫グロブリンであり、粘膜の適応免疫にとって主要な防御分子である。IgAの多量体構造は、遺伝的に浮動したウイルス株に対してIgGよりも広い特異性をもたらし、中和能力を向上させる。また、IgAは、他のIgアイソタイプよりも、宿主又は微生物由来のプロテアーゼに対して耐性がある。
【0008】
[0009]大腸菌(Escherichia coli)易熱性毒素(LT)は、同時投与されたワクチンに対する免疫粘膜応答を増強する能力に起因して、鼻腔内(IN)ワクチン接種用のアジュバント又は免疫調節物質として有用である。Tamura Sら、「Intranasal Inactivated Influenza Vaccines:a Reasonable Approach to Improve the Efficacy of Influenza Vaccine?」Jpn J Infect Dis 2016年、69巻(3号):165~179頁は、鼻腔内経路による、アジュバントを組み合わせた不活化インフルエンザワクチンが、血清血球凝集阻害(HI)抗体及び分泌性IgA(sIgA)抗体の双方の増強を誘導することを報告した。発熱、倦怠感、及び頭痛;並びに局所的反応、例えば、鼻炎、鼻閉、及び鼻漏が挙げられるいくつかの有害事象が報告されたが、概して軽度である。下痢及び局所的炎症は、上皮細胞からの水及び電解質の流出に至るAサブユニットのADPリボシル化酵素に起因する。ゆえに、ADPリボシル化酵素活性が引き下げられた、又は完全に不在の、遺伝的に無毒化されたLTが、粘膜アジュバントについて満たされていない医療需要をより適切に支援するために構築された。
【0009】
[0010]ニューロン表現型SK-N-SHの細胞においてIL-6等の炎症誘発性サイトカインの分泌を誘導する野生型LT、及びChironによって開発されたLTK63とは異なり、LTh(αK)(LTS61Kとしても知られている(米国特許出願第13/097,218号))は、IL-6分泌を促進することができない。350人超の対象を動員した臨床治験では、20~75歳の健康な対象及びアレルギー性鼻炎の対象の双方が、経鼻経路を介して、LTh(αK)の複数回用量を受けて、誰も顔面神経麻痺の徴候を報告しなかった。
【0010】
[0011]研究は、LTB(LTのサブユニット)の鼻腔内投与が、自己免疫によって誘導される炎症を緩和することを支持した。制御性T細胞及びIL-10は双方とも、抗炎症応答のホールマークである。LTBによる処置は、TrkA又はインテグリンに関与するGM1受容体複合体を架橋することによって、制御性T細胞活性化及びIL-10分泌をもたらすシグナル伝達カスケードをトリガすることを包含し得る。
【0011】
[0012]I型IFNファミリーは、IFNα、IFNβ、及びいくつかの十分に定義されていない単一の遺伝子産物を含む多重遺伝子サイトカインファミリーである。IFNα及びIFNβは、最も定義されており、且つ最も広く発現されるI型IFNである。I型IFNは、多様な機構によってウイルス複製に干渉する宿主の遺伝子転写産物を誘導することによって、ウイルス感染細胞、及び非感染バイスタンダー細胞の双方に抗ウイルス活性を誘導することについて、最も周知である。I型IFNは、ウイルス病原体だけでなく細菌病原体に対しても先天性免疫応答及び適応免疫応答を調節する種々の機能を有する。感染中のIFNα/β応答の結果は、状況に高度に依存する。感染中の異なる組織特異的条件が、IFNα/βシグナルが、いつ、どこで送達されるか、及びI型IFN受容体(IFNAR)の下流でトリガされるシグナル伝達経路に影響を与える。この結果は、IFN刺激遺伝子(ISG)の活性化又は抑制を決定する。全体として、I型IFNは、免疫応答の開始を促進する。
【0012】
[0013]コロナウイルス、とりわけSARS-CoV、MERS-CoV、及びSARS-CoV-2の継続中のパンデミック、及び高い変異率を鑑みて、コロナウイルス感染の処置及び/又は予防のための効果的な治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
[0014]本発明において、驚くべきことに、免疫調節物質、例えばLTh(αK)を、単独で、又はアジュバントとして、抗コロナウイルス抗原と組み合わせて用いて、コロナウイルス感染を処置又は予防することができることが見出された。したがって、本発明は、免疫調節物質/アジュバント、例えばLTh(αK)の、治療剤としての使用に関する。
【0014】
[0015]本開示は、LTh(αK)等の免疫調節物質を、対象におけるコロナウイルス感染の処置又は予防のための治療剤又は予防剤として用いることができるという発見に関する。したがって、本開示は、必要としているか、又はコロナウイルス感染のリスクがある対象において、コロナウイルス感染を処置又は予防するための方法であって、対象に、治療に有効な量の免疫調節物質を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
[0016]一実施形態において、免疫調節物質は、粘膜上皮を介してシグナルを発することができる。好ましくは、免疫調節物質は、毒素又は類毒素であり、より好ましくは、免疫調節物質は、細菌起源の毒素又は類毒素である。好ましい実施形態において、免疫調節物質は、無毒化されたLT、LTh(αK)、Toll様受容体(TLR)アゴニスト若しくはアンタゴニスト、バクスフェクチン(Vaxfectin)、又はパターン認識受容体(PRR)アゴニスト若しくはアンタゴニストである。さらに好ましい実施形態において、免疫調節物質は、上皮細胞、ランゲルハンス細胞、内在する単核細胞、及びニューロン細胞が挙げられる細胞からのサイトカインIL6産生を、接触して誘導しない。別のさらに好ましい実施形態において、免疫調節物質は、LTh(αK)である。LTh(αK)は、米国特許出願公開第2008/102078号に開示されるLTS61Kに相当し、LTS61Kは、米国特許出願公開第2008/102078号に開示される配列番号5の位置61に相当する位置でのリシン置換により無毒化された大腸菌LTホロトキシンである。
【0016】
[0017]一実施形態において、コロナウイルスは、オルトコロナウイルス亜科(Orthocoronavirinae)のウイルスである。好ましい実施形態において、コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoV、又はSARS-CoV-2である。より好ましい実施形態において、コロナウイルスはSARS-CoV-2である。
【0017】
[0018]一実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受けた後に投与される。別の実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受ける前に投与される。別の実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受ける前に、且つ受けた後に投与される。別の実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受ける前に、又は後に、又は前後に、1回又は複数回投与される。好ましい実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受ける前に3回投与される。別の好ましい実施形態において、免疫調節物質は、対象に、対象がコロナウイルスの攻撃を受けた後に1回投与される。
【0018】
[0019]一実施形態において、免疫調節物質は、対象に、抗コロナウイルス抗原と組み合わせて投与される。
【0019】
[0020]一実施形態において、粘膜部位は、解剖学上のあらゆる粘膜であり得る。好ましい実施形態において、粘膜部位は、舌下粘膜、鼻腔内粘膜、気道粘膜、口腔粘膜、膣粘膜、直腸粘膜、又は他の解剖学上の粘膜である。さらに好ましい実施形態において、抗原は、舌下粘膜に投与される。別のさらに好ましい実施形態において、免疫調節物質は、鼻腔内粘膜に投与されて、咽頭まで達し得る。
【0020】
[0021]一実施形態において、免疫応答は、抗原特異的IgG及びそのサブクラス、抗原特異的IgA及びそのサブクラス、抗原特異的IgM及びそのサブクラスの産生、並びに/又は細胞媒介性免疫を包含する。別の実施形態において、免疫応答は、免疫成分の上方制御を包含する。別の実施形態において、免疫応答は、免疫成分の下方制御を包含する。別の実施形態において、免疫応答は、抗原に対する免疫グロブリンの産生を包含する。より好ましくは、免疫応答は、治療的利益を提供する。
【0021】
[0022]本開示は、本明細書中に記載される免疫調節物質の薬学的に許容できる量を含む、コロナウイルス感染の処置又は予防のためのワクチン組成物をさらに提供する。
【0022】
[0023]一実施形態において、ワクチン組成物は、抗コロナウイルス抗原をさらに含む。一実施形態において、抗コロナウイルス抗原は、弱毒ウイルス、不活化完全ウイルス、分割コロナウイルス、組換えコロナウイルス、コロナウイルスのサブユニット、コロナウイルス由来のペプチド若しくはタンパク質、又は生物学的実体である。一実施形態において、抗コロナウイルス抗原は、オルトコロナウイルス亜科のウイルスに起源する抗原である。好ましい実施形態において、抗コロナウイルス抗原は、SARS-CoV、MERS-CoV、又はSARS-CoV-2に起源する抗原である。より好ましい実施形態において、抗コロナウイルス抗原は、SARS-CoV-2に起源する抗原である。より好ましい実施形態において、抗コロナウイルス抗原は、SARS CoV-2スパイクタンパク質(Sタンパク質)、SARS-CoV-2スパイク組換え体(rA1)、又はSARS-CoV-2の受容体結合ドメイン(RBD)に起源する抗原である。
【0023】
[0024]本開示は、必要としているか、又はコロナウイルス感染のリスクがある対象において、コロナウイルス感染を処置又は予防するための方法であって、対象に、治療に有効な量の、本明細書中に記載される免疫調節物質又はワクチン組成物を投与することを含む方法をさらに提供する。
【0024】
[0025]コロナウイルス感染の処置又は予防においてLTh(αK)が有効性を達成する機構は、経鼻腔へのLTh(αK)の投与の後に、LTh(αK)が上皮細胞と直接接触して、上皮細胞の表面上のGM1に結合することであり得る。GM1はその後、1型インターフェロン(IFNα)の分泌のシグナルを発する。IFNαは、DC(pDC及びmDC)を活性化して、更なるサイトカイン活性化を誘導する。また、LTh(αK)は、経鼻腔内に曝されたDCの樹状突起に直接接触して、又は上皮を介してAB5のトランスサイトーシスを利用して、DC活性化を誘導することができる。経鼻関連リンパ組織(NALT)内のpDCは、IFNαの主要な源であり、免疫応答を調節するためのIFNαの別の波を提供する。LTh(αK)によって活性化されたDCは、炎症誘発性サイトカイン、例えばIL6及びIL5を下方制御する。粘膜によって生成されるIFNαは、IgAのクラススイッチを駆動して、SARS-CoV-2を中和する。IgAのクラススイッチは、TGFβ依存的である。TGFβ及びIL10は、炎症を減弱するようにTreg活性を上方制御する。
【0025】
[0026]LTh(αK)は、抗原特異的IgAの分泌を促進する。抗原特異的IgAは、上皮での感染前に、感染性因子、例えばSARS-CoV-2を阻止又は中和し、且つウイルス排出の潜在性を消失させない潜在性を有する。さらに、循環系中のIgGと比較して、粘膜表面は、Fc受容体発現細胞への接触がかなり少ない。このことは、ウイルス標的化IgAによるADEのリスクの引下げを示唆している。したがって、LTh(αK)(単独での、又は候補ワクチンと同時投与されるアジュバントとしての)は、ADE発現のリスクを引き下げることができ、コロナウイルス感染の予防又は処置に有用となり得る。
【0026】
[0027]本発明は、以下のセクションにおいて詳細に説明されている。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、本発明の詳細な説明及び特許請求の範囲において、容易に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A図1Aは、IM経路を介したLTh(αK)-アジュバント化S1によるSARS CoV-2ワクチン接種後の血清抗RBD IgG力価を示す。左側のバーは、表1における群1に相当し、右側のバーは群2に相当する。
図1B図1Bは、IN経路を介したLTh(αK)-アジュバント化S1によるSARS CoV-2ワクチン接種後の血清抗RBD IgG力価を示す。左側のバーは、表1における群3に相当し、右側のバーは群4に相当する。
図1C図1Cは、IM経路を介したLTh(αK)-アジュバント化S1によるSARS CoV-2ワクチン接種後の血清抗RBD IgA力価を示す。左側のバーは、表1における群1に相当し、右側のバーは群2に相当する。
図1D図1Dは、IN経路を介したLTh(αK)-アジュバント化S1によるSARS CoV-2ワクチン接種後の血清抗RBD IgA力価を示す。左側のバーは、表1における群3に相当し、右側のバーは群4に相当する。
図2図2は、LTh(αK)-アジュバント化組換えRBDワクチンによる鼻腔内ワクチン接種後のSARS-CoV-2中和IgG抗体価を示す。
図3図3は、LTh(αK)-アジュバント化組換えRBDワクチンによる鼻腔内ワクチン接種後のSARS-CoV-2スパイク組換え(rA1)-特異的IgA力価を示す。
図4図4は、LTh(αK)による処置が有った、又は無かった、SARS-CoV-2感染したシリアゴールデンハムスターの肺の組織病理学的スコアを示す。
図5A図5Aは、IFNα産生に及ぼすLTh(αK)処置の効果を示す。図5Bは、上皮細胞へのLTh(αK)による処置によって誘導されたp65のリン酸化を示す。図5Cは、NF-κB(ピロリジンジチオカルバマート、PDTC)に対するインヒビターによるp65リン酸化の阻害を示す。図5Dは、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す。これは、LTh(αK)媒介上皮活性化におけるIFNαプロモーターへのp-p65の動員を実証した。図5Eは、PDTCの処置が、上皮細胞によるIFNαの産生を阻止したことを示す。
図5B図5Aは、IFNα産生に及ぼすLTh(αK)処置の効果を示す。図5Bは、上皮細胞へのLTh(αK)による処置によって誘導されたp65のリン酸化を示す。図5Cは、NF-κB(ピロリジンジチオカルバマート、PDTC)に対するインヒビターによるp65リン酸化の阻害を示す。図5Dは、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す。これは、LTh(αK)媒介上皮活性化におけるIFNαプロモーターへのp-p65の動員を実証した。図5Eは、PDTCの処置が、上皮細胞によるIFNαの産生を阻止したことを示す。
図5C図5Aは、IFNα産生に及ぼすLTh(αK)処置の効果を示す。図5Bは、上皮細胞へのLTh(αK)による処置によって誘導されたp65のリン酸化を示す。図5Cは、NF-κB(ピロリジンジチオカルバマート、PDTC)に対するインヒビターによるp65リン酸化の阻害を示す。図5Dは、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す。これは、LTh(αK)媒介上皮活性化におけるIFNαプロモーターへのp-p65の動員を実証した。図5Eは、PDTCの処置が、上皮細胞によるIFNαの産生を阻止したことを示す。
図5D図5Aは、IFNα産生に及ぼすLTh(αK)処置の効果を示す。図5Bは、上皮細胞へのLTh(αK)による処置によって誘導されたp65のリン酸化を示す。図5Cは、NF-κB(ピロリジンジチオカルバマート、PDTC)に対するインヒビターによるp65リン酸化の阻害を示す。図5Dは、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す。これは、LTh(αK)媒介上皮活性化におけるIFNαプロモーターへのp-p65の動員を実証した。図5Eは、PDTCの処置が、上皮細胞によるIFNαの産生を阻止したことを示す。
図5E図5Aは、IFNα産生に及ぼすLTh(αK)処置の効果を示す。図5Bは、上皮細胞へのLTh(αK)による処置によって誘導されたp65のリン酸化を示す。図5Cは、NF-κB(ピロリジンジチオカルバマート、PDTC)に対するインヒビターによるp65リン酸化の阻害を示す。図5Dは、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果を示す。これは、LTh(αK)媒介上皮活性化におけるIFNαプロモーターへのp-p65の動員を実証した。図5Eは、PDTCの処置が、上皮細胞によるIFNαの産生を阻止したことを示す。
図6図6は、コロナウイルス感染の処置又は予防における、LTh(αK)の提唱される機構を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[0037]本明細書中で定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。用語の意味及び範囲は、明らかであるべきである;しかしながら、潜在的な何らかの多義性があった場合には、本明細書中に記載される定義が、辞書又は外部のあらゆる定義に対して優先される。
【0029】
[0038]本開示に従って利用される以下の用語は、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0030】
[0039]本明細書を通して、文言「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含んでいる」等の変形は、明示される整数(又は構成要素)又は整数(又は構成要素)の群の包含を意味するが、他のあらゆる整数(又は構成要素)又は整数(又は構成要素)の群の排除を意味しないことが理解されるであろう。
【0031】
[0040]単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでないと明らかに述べていない限り、複数を含む。また、文脈によって必須であるとされない限り、複数の用語は、単数を含むものとする。
【0032】
[0041]「処置」及び「処置すること」等は、臨床結果が挙げられる、有益な、又は所望の結果を得るためのアプローチに言及する。本開示の目的上、有益な、又は所望の結果として、以下に限定されないが、症状の発症及び/若しくは進行を阻害すること及び/若しくは抑制すること、又はそのような症状の重症度を引き下げること、例えば、症状に関連した病徴の数及び/又は重症度を引き下げること、症状を患っている人々のクオリティオブライフを高めること、症状を処置するのに必要とされる他の薬物の用量を減らすこと、患者が症状について摂っている別の薬物の作用を増強すること、並びに/或いは症状がある患者の生存期間を長引かせることが挙げられる。
【0033】
[0042]「予防(prophylaxis)」、「予防的な」、「予防する」、「予防すること」、及び「予防(prevention)」等は、症状はないが症状を進行させるリスクがある患者において症状を進行させる可能性を引き下げることを指す。「リスクがある」患者は、検出可能な症状があってもなくてもよく、本明細書中で開示される処置方法の前に、検出可能な症状を示していても示していなくてもよい。
【0034】
[0043]対象に物質、化合物、若しくは剤を「投与すること」、又は対象への物質、化合物、若しくは剤の「投与」は、当業者に知られている種々の方法のうちの1つを用いて実行することができる。例えば、化合物又は剤は、舌下的に、若しくは鼻腔内に、肺中への吸入によって、又は経直腸的に、投与することができる。また、投与することは、例えば、1回、複数回、及び/又は長い1期間若しくは複数期間にわたって、実行することができる。一部の態様において、投与として、直接的な投与(自己投与を含む)、及び間接的な投与(薬物を処方する行為を含む)の双方が挙げられる。例えば、本明細書中で用いられる、患者を、薬物を自己投与するように、若しくは薬物が別の人によって投与されるように指図する医師、及び/又は患者に薬物の処方箋をわたす医師は、薬物を患者に投与することになる。
【0035】
[0044]本明細書中で用いられる用語「調節すること」及び「調節」は、条件、レベル、又は量の調節を指す。調節は、上方制御であっても下方制御であってもよい。
【0036】
[0045]本明細書中で用いられる用語「粘膜免疫応答」は、粘膜にて誘導される免疫応答を指す。例えば、粘膜免疫応答として、以下に限定されないが、抗原特異的免疫グロブリンG及びそのサブクラス、免疫グロブリンA及びそのサブクラス、免疫グロブリンM及びそのサブクラス、並びに免疫化される抗原(immunized antigen)に対する細胞媒介性免疫が挙げられる。
【0037】
[0046]本明細書中で用いられる用語「粘膜部位」は、粘膜上皮で覆われた解剖学上のあらゆる粘膜を指す。例えば、粘膜部位は、舌下粘膜、鼻腔内粘膜、気道粘膜、口腔粘膜、膣粘膜、直腸粘膜、又は他の解剖学上の粘膜であり得る。
【0038】
[0047]本明細書中で用いられる用語「免疫調節物質」は、免疫を改変して、免疫原性の結果を特異的抗原/アレルゲンに最終的に変える薬剤又は免疫剤を指す。例えば、免疫調節物質は、無毒化されたLT又はToll様受容体(TLR)アゴニストであり得る。
【0039】
[0048]用語「患者」、「対象」、又は「個体」は、互換的に用いられ、ヒト又はヒト以外の動物のいずれかを指す。当該用語は、哺乳動物、例えば、ヒト、霊長類、家畜動物(ウシ、ブタが挙げられる)、ペット(例えば、イヌ、ネコ)、及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)を含む。
【0040】
[0049]「有効な量」は、有効性及び毒性の潜在力のパラメータを組み合わせ、並びに実務専門医の知識に基づいて、所定の治療形態で有効であるはずである、治療剤又はその薬学的に許容できる塩の量を指す。当該技術において理解されるように、有効な量は、1回又は複数回の用量で投与することができる。
【0041】
[0050]本発明は、驚くべきことに、免疫調節物質、例えばLTh(αK)が、コロナウイルス感染に対する保護免疫応答を実現することができることを見出した。免疫調節物質は、コロナウイルスの攻撃の前に、若しくは後に、又は前後の双方の期間に投与されてもよい。また、免疫調節物質は、アジュバントとして抗コロナウイルス抗原と組み合わせて用いられる場合、SARS CoV-2中和IgG及びIgAの産生を誘発することができることが見出された。さらに、免疫調節物質の先の作用は、NF-κBのp65サブユニットの活性化、及びIFNαの産生の増強を伴うことが見出された。本発明は、従来の手段を越えるコロナウイルス感染のための新規の治療ワクチンの開発を促進するための、コロナウイルス感染の処置又は予防における免疫調節物質の新規の使用を提供する。
【0042】
[0051]本発明をこれまでに全般的に説明してきたので、本発明は、以下の例を参照することにより、より容易に理解し得るが,その以下の例は、本発明の方法を、コロナウイルス感染の処置又は予防において実行するための例示的なプロトコルを提供する。例は、説明のためだけに記載されており、いかなる形であれ本発明の範囲を限定することは意図されない。用いられる数(例えば、量、温度)に関する精度を確実にする努力がなされたが、勿論、幾分の実験誤差及び逸脱は認められるべきである。
【実施例
【0043】
[0052]実施例1-筋肉内(IM)経路又は鼻腔内(IN)経路を通しての血清抗RBD IgG及びIgAに対するLTh(αK)の有効性の評価
S1は、SARS CoV-2のスパイク由来の組換えタンパク質である。研究に用いた動物は、8週齢の雌Balb/cマウスであった。投与、及び血清収集のタイミングは、以下の表1に示す動物研究プロトコルに従って行った。血清サンプルを、図1A図1Dに示すようにそれぞれ希釈した。
【0044】
【表1】
【0045】
[0053]実施例2-LTh(αK)-アジュバント化組換えRBDワクチンによる鼻腔内ワクチン接種後のSARS-CoV-2中和IgG抗体価の評価
Balb/cマウスは、10μg LTh(αK)によってアジュバント化したFc-コンジュゲートSARS-CoV-2スパイク組換え体(rA1)の、3回の、2週離しての20μg用量を、鼻腔内経路を介して受けた。血清検体を、研究の終わり(10週目)に収集して、野生型SARS-CoV-2に対する血清中和力価を、Manenti Aら、J Med Virol 2020年、92巻(10号):2096~2104頁に記載されるように、少し改変して分析した。図2に示す結果は、鼻腔内ワクチンが、320、640、1280、及び2560倍の希釈にてそれぞれ100%、94%、87%、及び65%のウイルス中和を誘導したことを示している。
【0046】
[0054]実施例3-LTh(αK)-アジュバント化組換えRBDワクチンによる鼻腔内ワクチン接種が後に続くSARS-CoV-2 rA1特異的IgA力価の評価
経鼻洗浄液又は気管支肺胞洗浄液(BALF)からのrA1特異的IgA力価を、ELISAによって分析した。図3に示した結果は、rA1鼻腔内ワクチン接種が、経鼻洗浄液及びBALFから、rA1-、スパイク-1(S1)-、及びRBD-特異的IgA抗体を誘導したことを示す。経鼻洗浄液標本及びBALF標本を収集して、Lin IPら、PLoS One 2014年、9巻(3号):e90293頁に記載されるように、ELISAによって測定した。
【0047】
[0055]実施例4-SARS-CoV-2によって誘導された肺炎の処置及び予防におけるLTh(αK)の効果の評価
以下の表2は、シリアゴールデンハムスターにおいて、SARS-CoV-2によって誘導された肺炎の処置及び予防におけるLTh(αK)の効果を判定するためのスキームを示す。群1及び群2のハムスターを、特定病原体除去(SPF)環境内に収容し、20日目に、バイオセーフティレベル3(P3)施設に移した。群3のハムスターを、SPF環境内に維持して、0日目、7日目及び14日目に、LTh(αK)(10μg/動物)によって予防的に鼻腔内に処置してから、20日目に、群1及び群2のハムスターと共にP3施設に移した。21日目に、全てのハムスターが、経鼻経路を介してSARS-CoV-2ウイルス(10TCID50)を受けた。22日目に、群1のハムスターは、鼻腔内経路を介して、製剤バッファ処置を受けた一方、群2及び群3のハムスターは、鼻腔内経路を介して、LTh(αK)処置(10μg/動物)を受けた。24日目に、全てのハムスターを犠牲にして、組織病理学的分析用に組織を収集した。
【0048】
【表2】
【0049】
[0056]LTh(αK)による処置は、シリアゴールデンハムスターの肺の、SARS-CoV-2によって誘導される組織病理学的スコアを引き下げた(図4)。プラセボを受けた群1のハムスターは、最も重篤な組織病理学的スコア(2.33)を示した。SARS-CoV-2による攻撃後にLTh(αK)の単回用量(LTh(αK)単回用量)を受けた群2のハムスターは、組織病理学的スコアの向上(1.83)を示した。LTh(αK)による3回の予防的処置及び1回の治療的処置の組合せ(LTh(αK)-3+1)を受けた群3のハムスターは、SARS-CoV-2によって誘導された肺炎に対して有意な向上(1.42)を示した(p≦0.05)。
【0050】
[0057]実施例5-IFNα産生及び関連するシグナル伝達経路に及ぼすLTh(αK)処置の効果の評価
IFNαは、呼吸器感染中の炎症応答及び抗炎症応答における決定的プレイヤーである。LTh(αK)による上皮細胞(BEAS-2B)の処理中に、IFNαタンパク質の上昇が、培地において検出された(図5A)。また、上皮細胞に対するLTh(αK)の処理は、p65のリン酸化を誘導した(図5B)。このリン酸化は、ピロリジンジチオカルバマート(PDTC)(NF-κBに対するインヒビター)によって阻害された(図5C)。このことは、ERKではなくNF-κB経路が関与することを示唆している。クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイ(図5D)において、IFNαプロモーターへのp-p65の動員により、LTh(αK)におけるNF-κBの重要な役割は、上皮活性化を媒介することであることが明らかとなった。さらに、PDTCの処置は、上皮細胞によって、培地におけるIFNαの産生を阻止した(図5E)。
【0051】
[0058]実施例6-提唱される作用モード
先に記載した例から、コロナウイルス感染の処置又は予防におけるLTh(αK)の機構を、図6に示すように提唱する。LTh(αK)は、経鼻腔に投与されると、上皮細胞に直接接触する。上皮細胞の表面上のGM1は、LTh(αK)に結合して、1型インターフェロン(IFNα)の分泌のシグナルを発する。IFNαは、炎症経路を調節することができることが知られている。最近の刊行物によれば、炎症性のマクロファージと、SARS-CoV-2感染した肺の肺胞内のCD8細胞とのクロストークが、炎症応答を持続させることが明らかとなっている。また、IFNαは、CD8に応答して、クロストークを中断することができるIL10分泌を誘導することが知られている。IFNαは、Ly6Clo表現型の単球を活性化して、抗炎症的結果(anti-inflammatory outcome)を促進する。その後、IFNαは、DC(pDC及びmDC)を活性化して、更なる活性及びサイトカイン活性化を誘導する。LTh(αK)は、経鼻腔に曝されたDCの樹状突起に直接接触し得る。また、上皮を介したAB5のトランスサイトーシスも報告されている。トランスサイトーシスは、LTh(αK)によって誘導されるDC活性化のための経路をさらに提供する。経鼻関連リンパ組織(NALT)内のpDCは、IFNαの主要な源であり、免疫応答を調節するためのIFNαの別の波を提供する。炎症環境下のIFNαは、先に述べたように、抗炎症応答を促進する。LTh(αK)によって活性化されたDCは、炎症誘発性サイトカイン、例えばIL6及びIL5を下方制御する。粘膜によって産生されるIFNαは、IgAのクラススイッチを駆動して、SARS-CoV-2を中和する。IgAのクラススイッチは、TGFβ依存的である。TGFβ及びIL10は、炎症を減弱するようにTreg活性を上方制御する。
【0052】
[0059]インターフェロンアルファ(IFNα)は、SARS-CoV-2が挙げられる感染に対する先天性免疫において、必須の役割を果たす。IFNαは、1型インターフェロンファミリーに属しており、多くの細胞型によって、感染後にレベルが増強されて分泌される。LTh(αK)による経鼻上皮細胞への処置は、IFNαのレベルの上昇を誘導した。このことは、処置後の先天性防御カスケードの活性化を示唆している。IFNαは、ウイルス根絶に加えて、抗炎症応答において重大な役割を果たす。例において試験した、SARS-CoV-2によって攻撃したハムスターが、この仮説をさらに証明した。結論として、発明者らは、LTh(αK)が、COVID-19患者の処置について強力な免疫調節物質及び先天性免疫エンハンサーであると提唱する。
【0053】
〔相互参照〕
[0001]本出願は、2020年5月8日出願の米国特許仮出願第63/022,017号の利益を主張する。この出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6