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特許7311104アルキルエーテル置換シクロトリシロキサン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】アルキルエーテル置換シクロトリシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/21 20060101AFI20230711BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20230711BHJP
   C08G 77/50 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C07F7/21 CSP
C08G65/336
C08G77/50
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020542740
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 US2019025753
(87)【国際公開番号】W WO2019204041
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】62/658,681
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508129090
【氏名又は名称】ジェレスト, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ゴフ, ジョナサン ディー.
(72)【発明者】
【氏名】アークルズ, バリー シー.
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-509911(JP,A)
【文献】特開2003-252995(JP,A)
【文献】特開2006-237562(JP,A)
【文献】特開昭59-070694(JP,A)
【文献】特開昭61-256347(JP,A)
【文献】米国特許第02547944(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F、C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環ケイ素原子の1個、2個、又は3個が、少なくとも2つのエチレンオキシド基を含むポリ(エチレンオキシド)置換基を有するシクロトリシロキサンであって、
ポリ(エチレンオキシド)置換基がシリルアルキル結合又はシロキサニルエチル結合によって環ケイ素に結合しており、当該シリルアルキル結合におけるアルキル基は2~8個の炭素原子を有し、且つ
ポリ(エチレンオキシド)置換基がアルコキシ(アルキレンオキシ)プロピルであり、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、又はブトキシであり、アルキレンオキシ基がエチレンオキシであり、mが2~10であるシクロトリシロキサン。
【請求項2】
式(1):
【化1】
で表される、請求項1に記載のシクロトリシロキサン。
【請求項3】
式(2):
【化2】
で表される、請求項1に記載のシクロトリシロキサン。
【請求項4】
式(3):
【化3】
[式中、mは1~10の整数である。]
で表される、請求項1に記載のシクロトリシロキサン。
【請求項5】
式(4):
【化4】
[式中、mは2~10の整数であり、nは少なくとも0の整数であり、Rはメチル、エチル、又はブチルであり、R’はHである]
で表される、請求項1に記載のシクロトリシロキサン。
【請求項6】
式(I):
【化5】
[式中、R、R、及びRはメチル及びジメチルシリルエチルから選択される基から独立的に選択され、R、R、及びRのうちの少なくとも1個はジメチルシリルエチルである]
で表されるヒドリドシリルエチルシクロトリシロキサン。
【請求項7】
式(5):
【化6】
で表される、請求項6に記載のヒドリドシリルエチルシクロトリシロキサン。
【請求項8】
式(6):
【化7】
で表される、請求項6に記載のヒドリドシリルエチルシクロトリシロキサン。
【請求項9】
環ケイ素原子の1個、2個、又は3個が、少なくとも2つのエチレンオキシド基を含むポリ(エチレンオキシド)置換基を有するシクロトリシロキサンであって、ポリ(エチレンオキシド)置換基がシリルアルキル結合によって環ケイ素に結合しており、当該シリルアルキル結合におけるアルキル基は2~8個の炭素原子を有するシクロトリシロキサンを製造する方法であって、
式(I)で表されるヒドリド官能性シクロトリシロキサンをオリゴ-又はポリ-アルキレンオキシドのアリルエーテルでヒドロシリル化するステップを含み、且つ
ポリ(エチレンオキシド)置換基がアルコキシ(アルキレンオキシ)プロピルであり、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、又はブトキシであり、アルキレンオキシ基がエチレンオキシであり、mが2~10である、方法。
【化8】
[式中、R、R、及びRはメチル及びジメチルシリルエチルから選択される基から独立的に選択され、R、R、及びRのうちの少なくとも1個はジメチルシリルエチルである]
【請求項10】
前記ヒドリド官能性シクロトリシロキサンが式(5):
【化9】
で表されるヒドリド官能性シクロトリシロキサンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒドリド官能性シクロトリシロキサンが式(6):
【化10】
で表されるヒドリド官能性シクロトリシロキサンである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
環ケイ素原子の1個、2個、又は3個が、少なくとも2つのエチレンオキシド基を含むポリ(エチレンオキシド)置換基を有するシクロトリシロキサンであって、ポリ(エチレンオキシド)置換基がシロキサニルエチル結合によって環ケイ素に結合しているシクロトリシロキサンを製造する方法であって、
式(7)で表されるヒドリド官能性シクロトリシロキサンをオリゴ-又はポリ-アルキレンオキシドのアリルエーテルでヒドロシリル化するステップを含み、且つ
ポリ(エチレンオキシド)置換基がアルコキシ(アルキレンオキシ) プロピルであり、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、又はブトキシであり、アルキレンオキシ基がエチレンオキシであり、mが2~10である、方法。
【化11】
【請求項13】
環ケイ素原子の1個、2個、又は3個が、少なくとも2つのエチレンオキシド基を含むポリ(エチレンオキシド)置換基を有するシクロトリシロキサンであって、ポリ(エチレンオキシド)置換基がシロキサニルエチル結合によって環ケイ素に結合しているシクロトリシロキサンを製造する方法であって、
式(8)で表されるヒドリド官能性シクロトリシロキサンをオリゴ-又はポリ-アルキレンオキシドのアリルエーテルでヒドロシリル化するステップを含み、且つ
ポリ(エチレンオキシド)置換基がアルコキシ(アルキレンオキシ) プロピルであり、アルコキシ基がメトキシ、エトキシ、又はブトキシであり、アルキレンオキシ基がエチレンオキシであり、mが2~10である、方法。
【化12】
【請求項14】
請求項1に記載のシクロトリシロキサンのリビングアニオン開環重合によって形成されるポリマー。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0002]本出願は、2018年4月17日に出願された米国仮特許出願第62/658,681号の優先権を主張し、その開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
[発明の背景]
[0003]環式トリシロキサン又はシクロトリシロキサンは3個のケイ素原子が3個の酸素原子と交互に現れる6個の原子を含有する環構造体と一般的に記載することができる。これらの化合物はかなりの環歪みを保有するという事実によって、より高級の環状シロキサンと容易に区別される。特に、ヘキサメチルシクロトリシロキサンの名目上の環歪みは、オクタメチルシクロテトラシロキサンの~0.24kcal/モルと比較して~2.5kcal/モルと計算されている。この差のため、多くの開環反応が容易になる。特に重要なのは、シクロトリシロキサンがリビングAROP(アニオン開環重合)を受ける能力である。C. Frye, J. Org. Chem., 35, 1308; (1970); J. Goff et al., “Living Polymerization Routes to Siloxane Macromers and Higher Order Silicone Structures,” Progress in Silicones and Silicone-Modified Materials, S. Clarson, Ed., Chapter 5, 59-78 (2013)参照。
【0003】
[0004]正確な機能性を、特に高分子量で、制御する能力はリビングアニオン重合の基本的な利益である。動力学的に駆動されるAROPは平衡重合より良好な構造制御を提供し、平衡に影響を及ぼす置換基効果(ケイ素原子上の置換)を受ける傾向がより低いことが広く認める。シリコーンポリマー化学において、ポリマー骨格のケイ素原子上にアルキルエーテル、特にポリ(エチレンオキシド)又はPEGといわれる構造を導入することは非常に重要である。エーテル構造はシリコーンポリマーに親水性を導入する部位として機能することができる。リビングアニオン重合の分野において、アルキルエーテルを制御された方法で導入する実際の能力は、(メトキシエトキシエトキシプロピル)トリメチルシクロトリシロキサンのようなシクロトリシロキサンが利用できないことによって限定されている。この種類の化合物のメンバーの実用的な合成は報告されていない。したがって、アルキルエーテル、特にアルキルポリエーテルを含有する歪みをもつ環状シロキサン系に対するニーズがある。
【0004】
[発明の概要]
[0005]本発明は、環ケイ素原子の1個、2個、又は3個がアルキルエーテル置換基を有するシクロトリシロキサンに関する。
【0005】
[0006]本発明はまた、式(I):
【0006】
【化1】

[式中、R、R、及びRはメチル及びジメチルシリルエチルから選択される基から独立的に選択され、R、R、及びRのうちの少なくとも1個はジメチルシリルエチルである]
を有するヒドリドシリルエチルシクロトリシロキサンにも関する。
【0007】
[0007]最後に、本発明は、環ケイ素原子の1個、2個、又は3個がアルキルエーテル置換基を有するシクロトリシロキサンを製造する方法であって、ヒドリド官能性シクロトリシロキサンをオリゴ-又はポリ-アルキレンオキシドのアリルエーテルでヒドロシリル化するステップを含む、方法に関する。
【0008】
[発明の詳細な説明]
[0008]本発明は、環ケイ素原子上に1個、2個、又は3個のアルキルエーテル置換を有する環歪みをもつシクロトリシロキサンである新しい種類の化学物質に関する。残りの環ケイ素原子はアルキル又はアリール置換基、好ましくはメチル、エチル、及びフェニル置換基の組合せを有する。最も好ましくは、環ケイ素原子上の非-アルキルエーテル置換基の全てがメチル基である。
【0009】
[0009]3個のアルキルエーテル置換を有するこの種類の代表的な化合物は1,3,5-[トリス(メトキシエトキシプロピルテトラメチルジシロキサニル)エチル]-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサンである。同様に3個のアルキルエーテル置換を有する別の代表的な化合物、1,3,5-[トリス(メトキシエトキシエトキシプロピルテトラメチルジシロキサニル)エチル]-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサンは下記式(1)を有する。
【化2】
【0010】
[0010]1個のアルキルエーテル置換を有する代表的なシクロトリシロキサン、(メトキシエトキシエトキシプロピルテトラメチルジシリルエチル)ペンタメチルシクロトリシロキサンは下記式(2)を有する。
【化3】
【0011】
[0011]PEG単位ともいわれるアルキルエーテル(エチレンオキシド)基の数は離散している必要はなく、式(3)に示されているようにm単位の平均数を有するポリマー性であることができる。実際的観点からいうと、mは1~約10、より好ましくは1~約4の整数であることができるが、理論的には約50もの数であり得る。
【化4】
【0012】
[0012]アルキルエーテル置換は式(2)及び(3)に示されているようにシリルエチル結合を介した環ケイ素に対するものであり得る。また、アルキル基がエチル以外、例えば3~約8個又は更に多くの炭素原子を有するアルキル基であるより一般的なシリルアルキル結合を利用することも本発明の範囲内である。しかしながら、シリルエチルが最も好ましいシリルアルキル結合である。
【0013】
[0013]或いは、アルキルエーテル置換は、式(1)及び(4)に示されているように環ケイ素上のシロキサニルエチル結合を介し得る。式(4)において、nが0であるとき、置換基はシリルエチル置換を有し、nが1以上であるとき、置換基はシロキサニルエチル結合を有する。好ましくは、nは0又は1であるが、0以上の任意の整数であり得る。式(4)において、mは1~約10、より好ましくは1~約4であり、RはH又はアルキル若しくはアリール基、好ましくはHであり、Rはメチル、エチル、又はブチル、好ましくはメチルである。複数の(OCHCHR’)基があるとき、R’は同じでも異なってもよい。
【化5】
【0014】
[0014]代表的なアルキルエーテル置換基が式(1)~(3)に示されているが、アルキルエーテル置換基はより一般的には式(4)に描かれている。かかる置換基は一般的にアルコキシ(アルキレンオキシ)プロピルということができ、ここでmは1~約10、より好ましくは1~約4であり、各末端アルコキシ基はメトキシ、エトキシ、又はブトキシであり、アルキレンオキシ基は好ましくはエチレンオキシ又はプロピレンオキシである。
【0015】
[0015]シクロトリシロキサンが2個又は3個のアルキルエーテル置換基を含有するとき、それらが同一でも異なっても本発明の範囲内である。
【0016】
[0016]本発明のアルキルエーテル置換シクロトリシロキサンは、対応するヒドリド官能性シクロトリシロキサンの、オリゴ-又はポリ-アルキレンオキシドのアリルエーテルによるヒドロシリル化により製造できる。シリルエチル置換を有する化合物に対して、好ましい中間体化合物は式(5)を有する(ジメチルシリル)エチルペンタメチルシクロトリシロキサン、及び式(6)を有するトリス[(ジメチルシリル)エチル]トリメチルシクロトリシロキサンである。
【化6】
【0017】
[0018]より一般的には式(I)を有するこれらの中間体である分離可能なヒドリドシリルエチルシクロトリシロキサンも本発明の範囲内である。
【化7】

式(I)中、R、R、及びRはメチル、エチル、フェニル、及びジメチルシリルエチル、より好ましくはメチル及びジメチルシリルエチルから選択される基から独立的に選択され、R、R、及びRのうちの少なくとも1個はジメチルシリルエチルである。
【0018】
[0019]式(7)及び(8)に示されているもののようなクロロ-又はビニル置換(ジメチルシリル)エチルシクロトリシロキサンは、過剰のテトラメチルジシロキサンと反応させて、式(9)及び(10)を有するもののようなヒドリドシロキサニルエチルシロキサンを形成することができる。かかる化合物は、参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる本発明者の同時係属中の出願に記載されており、下記スキームI及びIIに示されているように本発明の化合物を形成する中間体として使用できる。
【化8】

【化9】

【化10】
【0019】
[0019]本発明のシクロトリシロキサンはリビングアニオン開環重合を受けて、独特のポリマー構造を生成する。
【0020】
[0020]ここで以下の非限定実施例に関連して本発明を記載する。
【0021】
実施例:1,3,5-[トリス(メトキシエトキシエトキシプロピルテトラメチルジシロキサニル)エチル]-1,3,5-トリメチルシクロトリシロキサン(1)の合成
[0021]オーバーヘッドスターラー、ポット温度計、還流冷却器、水浴、及び滴下漏斗を備えた5-Lの4つ首フラスコを窒素でガスシールし、271.3g(1.7モル)のアリルオキシ(ジエチレンオキシド)メチルエーテルを装入した。フラスコを55℃に加熱し、0.3g(10ppmPt)のKarstedt触媒を加えた。次いで280g(0.4モル)のトリス(テトラメチルジシロキサニルエチル)トリメチルシクロトリシロキサン(式(10))を適当な速度で滴下して加えて反応温度を~95℃に維持した。混合物を2時間撹拌した後、H-NMRでヒドリド基は観察されなかった。次いでポットを135℃/2.5mmHgでストリップした。得られた油(461g)は41.7cPsの粘度を有していた。
【化11】
【0022】
[0022]当業者には分かるように、上記実施形態には、その広い発明概念から逸脱することなく変更をなすことができる。また、この開示に基づいて、当業者には更に認識されるように、上に例示した成分の相対割合は本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく変更することができる。したがって、本発明が開示された特定の実施形態に限定されることはなく、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の趣旨及び範囲内の修正を包含することが意図されていると理解される。