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特許7311129連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/50 20060101AFI20230711BHJP
   C08L 5/12 20060101ALI20230711BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20230711BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08G77/50
C08L5/12
C08L83/05
C08L83/07
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019070572
(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公開番号】P2020169252
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本分析化学会 関東支部若手の会、東北支部若手の会発行の要旨集、平成30年7月6日 日本分析化学会 関東支部若手の会、東北支部若手の会開催の平成30年度東日本分析化学若手交流会、平成30年7月6日~7日開催 公益社団法人日本薬学会発行の日本薬学会 第139年会(千葉) 発表要旨、http://nenkai.pharm.or.jp/139/pc/ipdfview.asp?i=2111、平成31年2月1日 公益社団法人日本薬学会開催の日本薬学会 第139年会(千葉)、平成31年3月20日~23日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】東海林 敦
(72)【発明者】
【氏名】柳田 顕郎
(72)【発明者】
【氏名】森岡 和大
(72)【発明者】
【氏名】谷村 亮
(72)【発明者】
【氏名】石原 里紗
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183747(JP,A)
【文献】特開2004-143332(JP,A)
【文献】特開2013-189496(JP,A)
【文献】特開2008-214625(JP,A)
【文献】特開平04-122434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08G77/00- 77/62
C08J 9/00- 9/42
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、触媒と、アガロースとを含むエマルションを加熱硬化させて、シリコーンの硬化物を得る工程を有する、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記エマルションにおいて、前記1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン中のアルケニル基に対する前記1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子のモル比が0.5~50モルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記エマルションにおいて、前記1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと前記1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノポリシロキサンとの合計100質量部に対して、前記アガロースの含有量が3~15質量部である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エマルションにおいて、前記1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと前記1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するオルガノポリシロキサンと前記アガロースとの合計濃度が25~55w/v%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記加熱硬化する前に、前記エマルション中のアガロースをゲル化させる工程をさらに有する、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、連続気孔と連続気孔を形成するシリコーン骨格とを有する。連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、様々な分野で使用されており、例えば化学、薬品、食品、環境保全などの分野において、試料からの物質の分離、精製、濃縮などに使用されている。
【0003】
特許文献1には、分子鎖両末端がアルケニル基で封鎖され、分子鎖側鎖にアルケニル基を有さない、ポリジオルガノシロキサン、分子鎖側鎖にアルケニル基を2個以上有するポリジオルガノシロキサン、水と無機系増粘剤とからなる混合物、界面活性剤、白金系触媒および硬化遅延剤からなる組成物を硬化させて製造された、連続気孔を有するシリコーンゴムスポンジ(シリコーン多孔質体)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-214625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示するシリコーン多孔質体は、微細で均一な連続気孔を有している。しかし、連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、その使用用途により、必要とされるシリコーン骨格の形状や連続気孔の細孔径および比表面積を適宜制御する必要がある。そのため、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造において、シリコーン骨格の形状や連続気孔の細孔径および比表面積を容易に制御できる方法が求められている。
【0006】
そこで本発明は、シリコーン骨格の形状や連続気孔の細孔径および比表面積を容易に制御できる、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンと、触媒と、水溶性ポリマーとを含むエマルションを加熱硬化させて、シリコーンの硬化物を得る工程を有する、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法によって上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリコーン骨格の形状や連続気孔の細孔径および比表面積を容易に制御できる、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の外観を示す写真である。
図2図2は、実施例1で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の走査型電子顕微鏡写真である(A:倍率20倍、B:倍率350倍)。
図3図3Aは、実施例2で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の外観を示す写真である。図3Bは、実施例2で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の柔軟性を示す写真である。
図4図4は、実施例2で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の走査型電子顕微鏡写真である(A:倍率21倍、B:倍率350倍)。
図5図5Aは、実施例2で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の色素吸着試験の結果を示す写真である。図5Bは、色素吸着試験後の実施例2で作製した連続気孔を持つシリコーン多孔質体の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0011】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0012】
<連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法>
本発明の一形態は、1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンと、触媒と、水溶性ポリマーとを含むエマルションを加熱硬化させて、シリコーンの硬化物を得る工程を有する、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造方法を提供する。本発明に係る製造方法では、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の製造において、シリコーン骨格の形状や連続気孔の細孔径および比表面積を容易に制御することができる。
【0013】
本明細書において、「連続気孔」とは、シリコーン多孔質体において、各々の気孔が通じあっている構造を意味する。シリコーン多孔質体が連続気孔を持つことは、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いてシリコーン多孔質体の断面を観察すること、通液試験を行うことなどにより確認することができる。
【0014】
本明細書において、1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンを単に「第1のオルガノポリシロキサン」とも称する。また、アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンを単に「第2のオルガノポリシロキサン」とも称する。
【0015】
(シリコーンの硬化物を得る工程)
シリコーンの硬化物を得る工程では、1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサンと、アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンと、触媒と、水溶性ポリマーとを含むエマルションを加熱硬化させる。これにより、シリコーンの硬化物が得られる。
【0016】
本発明に係るエマルションは、油中水滴(W/O)型エマルションでもよく、水中油滴(O/W)型エマルションでもよい。
【0017】
・1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン
本発明に係るエマルションに含まれる1分子中にアルケニル基を2個以上有するオルガノポリシロキサン(第1のオルガノポリシロキサン)は、架橋反応により硬化させるために、1分子中にアルケニル基を2個以上有する。アルケニル基は、第1のオルガノポリシロキサン中でケイ素原子に結合している。アルケニル基としては、特に限定されないが、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基などが挙げられる。アルケニル基は、入手が容易であるため、ビニル基であることが好ましい。アルケニル基は、分子鎖の末端に導入されていても、分子鎖の側鎖に導入されていてもよい。
【0018】
第1のオルガノポリシロキサンは、アルケニル基以外のケイ素原子に結合している置換基を有することができる。アルケニル基以外のケイ素原子に結合している置換基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3-シアノプロピル基、3-クロロプロピル基などの置換アルキル基などが挙げられる。
【0019】
第1のオルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状、分枝を含む直鎖状のいずれでもよい。
【0020】
第1のオルガノポリシロキサンの例としては、分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン、メチルアルキルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー、メチルフェニルポリシロキサン、メチル(3,3,3-トリフロロプロピル)ポリシロキサン;分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたメチルビニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルビニルポリシロキサンコポリマー;分子鎖両末端がジメチルヒドロキシシロキシ基で封鎖されたメチルビニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサンコポリマー;分子鎖両末端がメチルジビニルシロキシ基またはトリビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサンなどが挙げられる。
【0021】
第1のオルガノポリシロキサンの粘度は、シリコーン多孔質体の製造容易性の観点から、500~50,000mPa・s(25℃)であることが好ましい。
【0022】
第1のオルガノポリシロキサンの分子量は、上記粘度の範囲を満たすものであれば、特に限定されない。
【0023】
第1のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
・アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン
本発明に係るエマルションに含まれるアルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサン(第2のオルガノポリシロキサン)は、触媒の存在下、第1のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基に付加反応して、架橋および硬化させるために、1分子中にアルケニル基と反応が可能な官能基を2個以上有する。第2のオルガノポリシロキサンは、好ましくは1分子中にアルケニル基と反応が可能な官能基を3個以上有する。
【0025】
アルケニル基と反応が可能な官能基は、例えば炭素数2~20のアルケニル基、ケイ素原子に結合した水素原子などであり、好ましくはケイ素原子に結合した水素原子である。
【0026】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、アルケニル基と反応が可能な官能基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、より好ましくは1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有する。
【0027】
第2のオルガノポリシロキサンは、アルケニル基と反応が可能な官能基以外のケイ素原子に結合している置換基を有することができる。当該置換基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基などのアリール基;3-シアノプロピル基、3-クロロプロピル基などの置換アルキル基などが挙げられる。
【0028】
第2のオルガノポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、直鎖状、分枝状、環状、網目状のいずれでもよい。
【0029】
第2のオルガノポリシロキサンの例としては、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン/メチルハイドロジェンシロキサン共重合体が代表的なものであり、メチル基の一部が他のアルキル基やアリール基に置換されたハイドロジェンシロキサン共重合体も利用可能である。
【0030】
第2のオルガノポリシロキサンの粘度は、シリコーン多孔質体の製造容易性の観点から、3~10,000mPa・s(25℃)であることが好ましい。
【0031】
第2のオルガノポリシロキサンの分子量は、上記粘度の範囲を満たすものであれば、特に限定されない。
【0032】
第2のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明に係るエマルションにおいて、第1のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基に対する第2のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基と反応が可能な官能基のモル比(第2のオルガノポリシロキサン中の官能基/第1のオルガノポリシロキサン中のアルケニル基)は、好ましくは0.5~50であり、より好ましくは0.5~10である。当該モル比が0.5以上であると、十分な硬度を有する連続気孔を持つシリコーン多孔質体を得ることができる。当該モル比が50以下であると、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の硬度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0034】
・触媒
本発明に係るエマルションに含まれる触媒は、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンとの架橋反応を促進するために用いられる。触媒は、架橋反応を促進可能なものであれば特に限定されないが、白金系触媒を用いることが好ましい。
【0035】
白金系触媒は、付加反応により硬化させるための触媒である。白金系触媒は、例えば、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸のアルケニルシロキサンとの錯化合物、ロジウム化合物、パラジウム化合物などから適宜選択して用いることができる。
【0036】
本発明に係るエマルションにおいて、触媒の含有量は、架橋反応を促進可能な量であれば、特に限定されない。例えば、白金系触媒を用いる場合、白金系触媒の含有量は、第1のオルガノポリシロキサンの総量に対して、1~200質量ppmである。
【0037】
・水溶性ポリマー
本発明に係るエマルションに含まれる水溶性ポリマーは、シリコーン多孔質体における連続気孔を形成するために用いられる。また、水溶性ポリマーは、分散、乳化にも寄与することができるため、エマルションの安定化剤として機能することができる。
【0038】
水溶性ポリマーとしては、例えば多糖類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸またはポリメタクリル酸のナトリウム塩、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。水溶性ポリマーは、本発明の効果をより発揮するとの観点から、多糖類であることが好ましい。
【0039】
多糖類の例としては、アガロース、カルボキシアルキルセルロース、メチルセルロース、セルロースエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、変性デンプン、デキストラン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。多糖類は、より好ましくはアガロース、カルボキシアルキルセルロース、メチルセルロース、セルロースエーテル、ヒドロキシエチルセルロース、変性デンプンおよびデキストランから選択される。多糖類は、油層と水層とを明確に分離できるとの観点から、アガロースであることがさらに好ましい。
【0040】
水溶性ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明に係るエマルションにおいて、水溶性ポリマーの含有量は、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンとの合計100質量部に対して、好ましくは3~15質量部であり、より好ましくは3~12質量部である。前記水溶性ポリマーの含有量が3質量部以上であると、連続気孔を持つシリコーン多孔質体が十分な通液性を得ることができる。前記水溶性ポリマーの含有量が15質量部以下であると、連続気孔を持つシリコーン多孔質体が十分な機械強度を得ることができる。
【0042】
本発明に係るエマルションにおいて、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンと水溶性ポリマーとの合計濃度は、好ましくは25~55w/v%である。当該合計濃度が25w/v%以上であると、十分な強度を有するシリコーンの硬化物を得ることができる。また、当該合計濃度が55w/v%以下であると、製造された連続気孔を持つシリコーン多孔質体中の気孔径および気孔容積が小さくなりすぎることを抑制できる。
【0043】
・その他の成分
本発明に係るエマルションは、必要に応じて溶媒、界面活性剤、充填剤などの他の成分を含むことができる。
【0044】
溶媒としては、特に制限されず、例えば水を用いることができる。
【0045】
本発明に係るエマルションにおいて、溶媒の含有量は、上述の第1のオルガノポリシロキサン、第2のオルガノポリシロキサン、触媒および水溶性ポリマーが所望の濃度となるように、適宜調整することができる。
【0046】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤を用いることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、エチレングリコールモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ脂肪酸エステル、ソルビタントリ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール類などが挙げられる。乳化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明に係るエマルションにおいて、界面活性剤の含有量は、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンとの合計100質量部に対して、好ましくは0.01~1.0質量部である。
【0048】
なお、好ましい実施形態では、本発明に係るエマルションは、水溶性ポリマーが乳化作用を有する場合、界面活性剤を使わない方がよい。
【0049】
充填剤は、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の機械的強度を向上させるために用いることができる。充填剤としては、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、カーボンブラック、焼成シリカ、コロイド状炭酸カルシウム、ヒユームド二酸化チタンなどの補強性充填剤;石英粉末、珪素土、アルミノケイ酸、酸化マグネシウム、沈降法炭酸カルシウムなどの非補強性充填剤;ジメチルジクロロシラン、へキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの有機ケイ素化合物で疎水化処理した前記補強性充填剤および前記非補強性充填剤などが挙げられる。
【0050】
本発明に係るエマルションにおいて、充填剤の含有量は、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の用途に応じて、適宜調整することができる。
【0051】
・エマルションの調製方法
本発明に係るエマルションの調製方法は、特に制限されず、例えば第1のオルガノポリシロキサン、第2のオルガノポリシロキサン、触媒および水溶性ポリマー、ならびに必要に応じて他の成分を、ミキサーなどで撹拌混合することによりエマルションを調製することができる。
【0052】
撹拌混合に使用するミキサーは、安定なエマルションが得られるものであれば、特に限定されず、例えばホモミキサー、パドルミキサー、ヘンシェルミキサー、ホモディスパー、コロイドミキサー、真空混合撹拌ミキサーなどが挙げられる。
【0053】
撹拌混合する際の温度は、特に制限されない。また、撹拌方法および撹拌時間は、エマルションを形成できれば、特に制限されない。
【0054】
・シリコーンの硬化物を得る工程の実施形態
以下、シリコーンの硬化物を得る工程の実施形態を説明する。本工程は、以下の実施形態に限定されない。
【0055】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、
第1のオルガノポリシロキサン、第2のオルガノポリシロキサンおよび触媒を混合して、液状シリコーン組成物を準備する工程と、
前記液状シリコーン組成物と水溶性ポリマーとを混合して、エマルションを調製する工程と、
前記エマルションを加熱硬化させて、シリコーンの硬化物を得る工程とを有する。
【0056】
本実施形態で調製したエマルションは、通常、水中油滴(O/W)型エマルションである。
【0057】
本実施形態で調製したエマルションを使用することで、球状物が連続的に連なった構造の骨格と連続気孔とを有するシリコーン多孔質体を得ることができる(図2B参照)。
【0058】
本実施形態で調製したエマルションにおいて、水溶性ポリマーの含有量は、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンとの合計100質量部に対して、好ましくは3~8質量部であり、より好ましくは3~5質量部である。
【0059】
本発明に係る製造方法の一実施形態では、シリコーンの硬化物を得る工程は、エマルション中の水溶性ポリマーをゲル化させる工程をさらに有することができる。よって、本実施形態では、ゲル化能を有する水溶性ポリマーを使用する。
【0060】
より詳細には、本実施形態では、
第1のオルガノポリシロキサンおよび水溶性ポリマーを含む水溶液を混合して、混合液を作製する工程と、
前記混合液中の水溶性ポリマーをゲル化させる工程と、
前記ゲル化した水溶性ポリマーを含む混合液を撹拌しながら、第2のオルガノポリシロキサンおよび触媒を添加して、エマルションを調製する工程と、
前記エマルションを加熱硬化させて、シリコーンの硬化物を得る工程とを有する。
【0061】
本実施形態で調製されたエマルションにおいて、水溶性ポリマーの含有量は、第1のオルガノポリシロキサンと第2のオルガノポリシロキサンとの合計100質量部に対して、好ましくは6~10質量部である。
【0062】
本実施形態で調製されたエマルションは、通常、油中水滴(W/O)型エマルションである。
【0063】
本実施形態で調製されたエマルションを使用することで、網目状の骨格と連続気孔とを有し、優れた柔軟性を有するシリコーン多孔質体を得ることができる(図4B参照)。
【0064】
本実施形態において、ゲル化させる際の温度は、使用する水溶性ポリマーがゲル化する温度であれば特に制限されないが、例えば10~120℃であり、好ましくは100℃以下である。
【0065】
・加熱硬化
本発明に係る製造方法では、上記で調製したエマルションを加熱硬化させることで、シリコーンの硬化物を得ることができる。
【0066】
加熱硬化温度は、使用する第1のオルガノポリシロキサンおよび第2のオルガノポリシロキサンの性質に依存するが、通常100~250℃であり、好ましくは100~140℃である。本発明に係るエマルションは、140℃以下の低い温度であっても、十分に加熱硬化させることができるため、軟化温度が低い金型を使用することができる。
【0067】
加熱硬化時間は、使用する第1のオルガノポリシロキサンおよび第2のオルガノポリシロキサンの性質に依存するが、通常1~20時間である。
【0068】
エマルションの加熱硬化では、エマルションを予備硬化させた後、上記加熱硬化を行うことができる。
【0069】
予備硬化温度は、例えば10~100℃である。予備硬化時間は、例えば30分~3日である。
【0070】
エマルションを加熱硬化または予備硬化させる前に、必要に応じて脱気を行ってもよい。
【0071】
上記加熱硬化または予備硬化を行うことにより、溶媒を除去することができる。
【0072】
シリコーンの硬化物の形状は、特に制限されず、シート状、ディスク状、円柱状、円筒状、紐状などの形状をとることができる。シリコーンの硬化物の形状は、連続気孔を持つシリコーン多孔質体の使用用途に応じて、適宜選択することができる。
【0073】
例えば、シリコーンの硬化物をシート状、ディスク状、円柱状、円筒状などの形状とする場合、エマルションを成形用の金型に入れて、上記加熱硬化を行うことで、所望の形状のシリコーンの硬化物を得ることができる。
【0074】
例えば、シリコーンの硬化物をシート状、紐状などの形状とする場合、50~100℃の熱水中にノズルから押し出した後、熱風乾燥機などを用いて、上記加熱硬化を行うことで、所望の形状のシリコーンの硬化物を得ることができる。
【0075】
(その他の工程)
上記で得られたシリコーンの硬化物から水溶性ポリマーを除去することで、連続気孔を持つシリコーン多孔質体を得ることができる。
【0076】
したがって、本発明に係る製造方法は、シリコーンの硬化物から水溶性ポリマーを除去する工程をさらに含むことができる。
【0077】
水溶性ポリマーを除去する方法としては、特に限定されず、例えばシリコーンの硬化物を水に浸漬させることにより行うことができる。水の温度は、使用する水溶性ポリマーに応じて、適宜調整することができる。
【0078】
上記で得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、必要に応じて、脱水処理、乾燥処理を行ってもよい。
【0079】
上記で得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体の表面には、未反応の反応性官能基、加水分解により生成したシラノール基が存在する。これらは目的に応じて、シランカップリング剤を反応させて、シリコーン多孔質体の表面処理を行うことができる。
【0080】
(連続気孔を持つシリコーン多孔質体の用途)
本発明に係る製造方法で製造された連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、様々な用途で使用することができる。
【0081】
本発明に係る製造方法で製造された連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、吸着機能を有するため、吸着分離剤として使用することができる。例えば、本発明に係る連続気孔を持つシリコーン多孔質体を、適当な形状および容量を有する固相抽出用リザーバーまたはホルダに装着して、固相抽出カートリッジとして用いることができる。また、汚染水の一次処理として、有機溶剤や有害物質の吸着分離剤として用いることができる。
【0082】
本発明に係る製造方法で製造された連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、球状物が連続的に連なった構造の骨格を有することができる。そのため、連続気孔の比表面積を大きくすることができる。よって、吸着剤や固定化酵素媒体として用いることができる。
【実施例
【0083】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0084】
[実施例1]
(連続気孔を持つシリコーン多孔質体の作製)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(分子量:約50000、ビニル基含有量:約0.12%、粘度:4900mPa・s)3.6gと両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン/メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素含有量:約1%、粘度:24~34mPa・s)0.4gとを混合し、さらにジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のキシレン溶液(白金錯体濃度:10%、白金濃度:2%)10μLを混合して、液状シリコーン組成物を調製した。
【0085】
4w/v%アガロース水溶液3.6mLを液状シリコーン組成物に混合した後、回転数1000rpmで10分間撹拌して、エマルションを調製した。
【0086】
調製したエマルションを50℃まで昇温し、片側にシリコーンゴム栓を挿入したPTFE製チューブ(内径4.0mm、長さ30mm)に、エマルションの充填高さが25mmになるように充填し、もう片側にシリコーンゴム栓を挿入した。次いで、10℃の温度条件下で遠心分離機(回転数:13200rpm)に10分間かけて、エマルションをPTFE製チューブ内に密に充填すると共に、エマルション内の空気を除去した。その後、80℃で1時間加熱した後、さらに120℃で2時間加熱して、エマルションを硬化させた。
【0087】
得られた硬化物をPTFE製チューブから押し出し、100mLの純水中に投入した。純水を沸騰させて、硬化物中に残存するアガロースを除去して、連続気孔を持つシリコーン多孔質体を得た(直径2.8mm、長さ28mm)。
【0088】
得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体の外観写真を図1、走査型電子顕微鏡写真を図2に示す(図2A:倍率20倍、図2B:倍率350倍)。図2Bに示すように、円柱状の連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、球状物が連続的に連なった構造を有することが観察された。
【0089】
(通液試験)
上記で得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体を、PTFE製熱収縮チューブ(内径4.5mm、長さ20mm)内に挿入した。その後、120℃で30分処理して、連続気孔を持つシリコーン多孔質体と熱収縮チューブとを密着させた。熱収縮チューブを、シリコーンチューブ(内径3mm、長さ15mm)を介して、ディスポーザブルシリンジと結合させた。ディスポーザブルシリンジを用いてエタノールを通液したところ、抵抗なく通液することができ、シリコーン多孔質体が連続孔を有することを確認した。
【0090】
(色素吸着試験)
クマシーブリリアントブルーG250をエタノール/水=1/5(体積比)で溶解して、40mg/LのクマシーブリリアントブルーG250溶液を調製した。
【0091】
上記通液試験を行った後、調製したクマシーブリリアントブルーG250溶液をディスポーザブルシリンジを用いて通液した。連続気孔を持つシリコーン多孔質体を通過した溶液は透明であり(図示せず)、連続気孔を持つシリコーン多孔質体が色素を吸着する能力を有していることが分かる。
【0092】
[実施例2]
(連続気孔を持つシリコーン多孔質体の作製)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(分子量:約50000、ビニル基含有量:約0.12%、粘度:4900mPa・s)3.6gと4w/v%アガロース水溶液8.1mLとを混合して80℃に昇温した後、回転数1000rpmで30分間撹拌して、エマルションを調製した.
調製したエマルションを、室温で30分間攪拌しながら、エマルション水相中のアガロ-スをゲル化させた。その後、ゲル化させたアガロースを粉砕するために、ゲル化したアガロースを含むエマルションを手動で撹拌した。この際、撹拌しながら両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン/メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素含有量:約1%、粘度:24~34mPa・s)0.4gとジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体のキシレン溶液(白金錯体濃度:10%、白金濃度:2%)10μLとを加えて、ゲル化したアガロースの粉砕物を含むエマルションを調製した。
【0093】
調製したエマルションを減圧脱気した後、片側にシリコーンゴム栓を挿入したPTFE製チューブ(内径4.0mm、長さ30mm)に、エマルションの充填高さが25mmになるように充填し、もう片側にシリコーンゴム栓を挿入した。次いで,10℃の温度条件下で遠心分離機(回転数:13200rpm)に10分間かけて、エマルションをPTFE製チューブ内に密に充填すると共に、エマルション内の空気を除去した。その後、室温で2日間静置してエマルションを部分硬化させた。2日経過後、120℃で2時間加熱して、エマルションを完全硬化させた。
【0094】
得られた硬化物をPTFE製チューブから押し出し、100mLの純水中に投入した。純水を沸騰させて、硬化物中に残存するアガロースを除去して、連続気孔を持つシリコーン多孔質体を得た(直径2.8mm、長さ28mm)。
【0095】
得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体の外観写真を図3、走査型電子顕微鏡写真を図4に示す(図4A:倍率21倍、図4B:倍率350倍)。図3Bに示すように、連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、柔軟性に優れていることが分かる。図4Bに示すように、連続気孔を持つシリコーン多孔質体は、網目状の構造を有することが観察された。
【0096】
(通液試験)
上記で得られた連続気孔を持つシリコーン多孔質体を、120℃で15分間乾燥させた後、PTFE製熱収縮チューブ(内径4.5mm、長さ20mm)内に挿入した。その後、120℃で30分処理して、連続気孔を持つシリコーン多孔質体と熱収縮チューブとを密着させた。熱収縮チューブを、シリコーンチューブ(内径3mm、長さ15mm)を介して、ディスポーザブルシリンジと結合させた。ディスポーザブルシリンジを用いてエタノールを通液したところ、抵抗なく通液することができ、シリコーン多孔質体が連続孔を有することを確認した。
【0097】
(色素吸着試験)
クマシーブリリアントブルーG250をエタノール/水=1/5(体積比)で溶解して、40mg/LのクマシーブリリアントブルーG250溶液を調製した。
【0098】
上記通液試験を行った後、調製したクマシーブリリアントブルーG250溶液をディスポーザブルシリンジを用いて通液した。連続気孔を持つシリコーン多孔質体を通過した溶液は透明であり、連続気孔を持つシリコーン多孔質体が色素を吸着する能力を有していることが分かる(図5参照)。
図1
図2
図3
図4
図5