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  • 特許-ウエアラブル音響装置 図1
  • 特許-ウエアラブル音響装置 図2
  • 特許-ウエアラブル音響装置 図3
  • 特許-ウエアラブル音響装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ウエアラブル音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/00 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
H04R1/00 318Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019078193
(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2020178196
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】718005009
【氏名又は名称】横田 哲平
(72)【発明者】
【氏名】横田 哲平
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-201088(JP,A)
【文献】特開2008-066962(JP,A)
【文献】特表平08-511151(JP,A)
【文献】実開昭56-96749(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肩と首に接触するU字型のベース部(1)と、
左右の耳の近傍に配置された一対のスピーカ部(2)と、
前記スピーカ部(2)を前記ベース部(1)に固定するための支柱(3)から
構成されると共に前記スピーカ部(2)を後面解放としたウェアラブル音響装
置において、
前記スピーカ部(2)の各々の中心と耳介までの距離(4)が前記スピーカ
(2)の口径以内の長さとなるように前記スピーカ部(2)を配置するように
したことを特徴とするウェアラブル音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は頭部と耳介でスピーカを支持し耳と接触する既存のヘッドホンではなく、スピーカを肩で支持し耳介には接触しないウェアラブル音響装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンは頭部と耳介でスピーカを支持し低音の音圧を減衰しないよう耳介にスピーカを介して圧力をかけて隙間が出来ないようにしている。その圧迫感は多くのユーザには不快である。耳介を圧迫しないインナータイプがあるが外耳道も耳と考えれば、やはり異物が耳に接触しているので長時間の使用は快適ではない。また密着するので左右の音が完全に分離するためいわゆる部屋で聴くステレオの音(左右の音が混ざり合う音)とは異なった音に違和感をもつユーザもいる。一方最近はネック(バンド)スピーカと言われる全く別のタイプも登場している。両肩に上向きになったスピーカを配置するもので耳介までの距離が10cm程度離れているため従来のへッドホンの様な密閉感がないクリアな音質が好評であるが、代わりに周囲へ音漏れがあるため主に家庭内での用途として使われている。本発明はこのネック(バンド)タイプの弱点である低音感が不足するという問題点を大幅に改善するモノである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-201088
【文献】特開2008-263374
【文献】特開2018-148584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1-2に記載のウェアラブルスピーカにおいては低音の再生に関する機構が備えられていない。特許文献3に関しは低音を改善するためバスレフダクトを適切に設計しているため文献1-2よりは低音が改善されたとある。しかし基本的にウェアラブルのためスピーカの口径が小さいので中高音に比べ低音の音圧は大幅に低下するのが一般的である。中高音と同じ音圧を低音で出すにはスピーカの振動板の可動範囲を大幅に拡大せねばならず特にウエアラブルに使われる2~3cmの小型薄型スピーカの奥行きでは、低音増強に必要な振幅が十分にはとれず大きな効果は期待できない。
【0005】
具体的に言えば文献3を実施することで50Hzの周波数で100dB程度の音圧が耳元で再生できるかと言うと特定周波数のみをスピーカ以外のパーツで共振させるなどの音響的には不自然な方法を除き、困難と思われる。本発明は過去に出願されているウェアラブル音響装置の低音増強の方法では全く音圧が足らないことを説明し、具体的に充分な低音を再生させる方法を示すものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は図1に示すU字あるいはコの字型の肩に載せるベース部(1)と肩より上部の耳の近傍に位置する左右のスピーカ部(2)を固定するための支柱(3)さらにベース部(1)が肩からの脱落を防止するためのストラップ(9)の4つのパーツで構成される。
【0007】
図2は本発明の使用状態を示すものである。肩と首周りにベース部(1)が陣取り、支柱(3)が耳の近くのスピーカ(2)を耳介に向いて固定させる。支柱(3)は可動性があり使用中に頭部がスピーカ(2)を押した場合に撓る構造を持たせることも可能である。また使用後に収納する時はスピーカ(2)ないし支柱(3)込みでベース部(1)から離脱する構造を持たせてもよい。さらに携帯電話の落下防止と同様、ベース部が(1)が肩から脱落するのを防ぐ目的でストラップ(9)や同じ機能の構造を持つことも可能である。
【0008】
図3で示される距離(4)とはスピーカ(2)と耳介の隔たりの長さである。口径(5)はスピーカの振動板の大きさである。本発明は肩に載ったスピーカ(2)の口径(5)と耳介までの距離(4)の特定の条件を満たすことにより低音の音圧を大幅に改善するものであり、その仕組みを以下で説明する。
【0009】
図4の周波数特性(以下F特と記述する)は口径10cmの一般的なスピーカの特性である。図4の中の系列2(7)が標準箱に収めて距離1mで出力1Wの時のF特である。図4の中の系列1(6)は同スピーカを箱には入れず0.1mの距離で出力1Wの時のF特である。本来なら系列3(8)のような特性であれば理想的であるが箱がない状態では無理な願望である。0.1mと言う距離はウェアラブルとして肩に載ったスピーカから耳介までの距離にほぼ近い長さである。ウェアラブルではなく一般的な聴き方であれば1mの距離でよい。
【0010】
図4の中の系列1(6)の見方は音圧の絶対値は気にせず相対的なF特だけを見る。すると中高域の音圧は高く低域が低いので一般的には低音が不足している感じの音質となる。スピーカは大きな箱に収めないと2KHz以下の帯域では音圧が急激に減衰するためである。但し0.2m0.3m0.4mと距離(4)を大きくして測定してみると低音域の減衰はさらに急激に大きくなる。口径(5)10cmのスピーカでは0.1mの距離(4)以上で使用すると低音の減衰量が大きすぎて回路では補正しきれないレベルになる。
【0011】
この傾向は口径(5)を変えて測定してみても同じであり口径(5)Ncmのスピーカで耳介から離せる距離(4)はNcmであるという仮説を作った。具体的には図4の系列1(6)のF特の場合は400Hzを基準に低域側では50Hzで最低15dB増幅し高域側では各凸凹に合わせ各周波数で最大20dB減衰させる様な補正を行えば平坦な特性を得られるのである。
【0012】
実際に聴く音圧は図4の系列1(6)より20dB程度下がった75dB近辺である。20dB下がると言うことはパワーで言うと1/100、つまり
僅か10mWなのである。つまり低域で15dBほど増幅するF特の補正をかけてもDレンジの点でも問題はない。逆に高域側では20dBも減衰させるのでSNの改善に貢献する。
【0013】
既存のウェアラブル音響装置は多くが口径(5)2cm程度のスピーカを使用しているのにもかかわらず耳介までの距離(4)が0.1mと本発明の仮説から大きく外れる物理的な構成を取るので低域の音圧が不足するのは当然であり、バスレフダクト等の工夫では不足分の音圧は到底補えない。
【0014】
周波数とスピーカの口径(5)が決まれば使用時の音圧を得るのに必要な振動板の振幅の理論値は計算ができる。例として従来のウェアラブル音響装置で良く用いられている口径(5)2cmのスピーカで50Hzの100dBの音圧を耳介から0.1mの距離(4)で得るにはスピーカの振動板は約150mmも動く必要がある。口径(5)2cmのスピーカでは15cmの振幅をさせるのは構造的に困難である。仮に口径(5)10cmのスピーカであれば振幅は6mmで実現可能な値になる。
【0015】
結局ウェアラブル音響装置ではスピーカ(5)の口径と耳介までの距離(4)の関係を熟慮しないで低音域の音圧の確保は出来ないと結論される
【発明の効果】
【0016】
スピーカから耳までの距離(4)をスピーカの口径(5)により適正に設定することによりシンプルな構成でも省電力で低音域まで充分な音圧で再生できる。かつその迫力ある低音でもスピーカ(2)から口径(5)の長さ以上離れると急速に減衰し周りには迷惑にならない理想的なパーソナル、ウェアラブル音響装置が実現出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の全体の構成を示す斜視図
図2】本発明のウェアラブル音響装置の使用状態を示す斜視図
図3】本発明の耳介とスピーカの関係を示す図
図4】一般的スピーカの周波数特性(X軸=周波数(Hz)Y軸=音圧(dB))の図
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は1人だけ(パーソナル)は大音量の迫力で映画や音楽を楽しめるのに周りの人達には音で迷惑をかけないことが特徴なので家庭におけるニーズはもちろんのこと、インターネットカフェ、漫画喫茶、一人カラオケ、コンサートホールのVIP席、電子楽器教室、賃貸ワンルームマンションなど迫力ある音を楽しませたい一方で防音工事にはコストにかけたくない業務用の業界の悩みも解決できる発明なのである。
【0019】
設備費のセーブだけでなく電力の大幅削減も可能なので社会的な環境にも貢献できる。例えば感度85dBのスピーカで110dBの音圧を0.1mの距離に届けるには約3Wの電力が必要だが、32m先のコンサート会場のお客様に同じ110dBの大音量を届けるには316KWの電力が必要となる。仮に会場には1000人が居るとすると1人当たり316Wの電力が必要であるが本発明のウェアラブル音響装置で音を提供すれば1人当たり3Wと約1/100の省エネが実現出来る。
【0020】
また音質も耳まで僅か0.1mと近くから発生する音と32mを先から送られてくる音では質に大きな差が生じる。1つは時間差で約0.1秒も遅れて到達する。また会場の天井や壁などの反射が大きく音質を損なう要因となる。また316KWもの音量は地域の関係ない所にまで騒音として迷惑をかけることにもなる。各人がウェアラブル音響装置を装着すれば音質的にも最高の状態で聴く事が出来る。営業上のリスクとしても会場におけるPA設備が1つ故障すれば1000人が同時に影響を受けるのであるが個別であれば僅か1人と無視できるほどの小さなリスクに変えることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 ベース部
2 スピーカ
3 支柱
4 距離
5 口径
6 系列1
7 系列2
8 系列3
9 ストラップ
図1
図2
図3
図4