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特許7311141防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20230711BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230711BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230711BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D175/06
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/63
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019128813
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021014494
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000227342
【氏名又は名称】日東化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】三富 大輔
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514412(JP,A)
【文献】特表2004-529208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端シラン変性樹脂(A1)と、防汚薬剤(B)を含有する防汚塗料組成物であって、
前記末端シラン変性樹脂(A1)は、ポリオール(A)中の水酸基の一部又は全部がアルコキシシラン変性されて構成されており、
前記ポリオール(A)は、ポリウレタンポリオール(a2)を含み
前記ポリウレタンポリオール(a2)は、ポリエステルポリオール(a1)と、ポリイソシアネート化合物(b)の重付加によって構成されており、
前記ポリウレタンポリオール(a2)は、前記ポリエステルポリオール(a1)と、前記ポリイソシアネート化合物(b)とをイソシアネートインデックス(NCO/OH)が0.1~0.99の仕込み比率でウレタン化反応させて得られる、防汚塗料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の防汚塗料組成物であって、
前記ポリエステルポリオール(a1)は、下記式(1)で表される、防汚塗料組成物。
【化1】
(式中、nは、1~100の整数であり、Rは、互いに同一又は異なって、アルキレン基、又はフェニレン基であり、Rは、互いに同一又は異なって、アルキレン基、又は、繰り返し単位が2~8のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールからなる基である。)
【請求項3】
請求項1に記載の防汚塗料組成物であって、
前記ポリエステルポリオール(a1)は、下記式(2)で表される、防汚塗料組成物。
【化2】
(式中、r及びsは、それぞれ、0~100の整数である。但し、r+s≧1である。(r+s)個のRは、互いに同一又は異なる。Rは、アルキレン基であり、Rは、炭素数2~5のアルキレン基である。)
【請求項4】
請求項1~請求項の何れか1つに記載の防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
そのような問題の解決法の一つとして、シリコーンゴムとシリコーンオイルとの混合物の塗膜を形成するシリコーンゴム系防汚塗料が提案されている(特許文献1~4)。その形成塗膜は、低表面自由エネルギー、低弾性率などの特性により、フジツボなどの生物付着を防止する。さらに、銅ピリチオンなどの防汚薬剤を配合する手法も検討されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭51-96830号公報
【文献】特公昭56-26272号公報
【文献】特開昭63-43973号公報
【文献】特開平3-255169号公報
【文献】特表2013-515122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーンゴム系防汚塗料をスプレー塗装する際に、ダスト付着を防止するため、塗装箇所周囲を広範囲に養生する必要があり、施工性が非常に悪いという問題があった。さらに、接着性が悪いため、下地塗料との界面で容易に剥離するという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スプレー塗装の際の施工性や被着体との接着性を改善し、かつ、水中において優れた防汚性能を発揮する防汚塗料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、末端シラン変性樹脂(A1)と、防汚薬剤(B)を含有する防汚塗料組成物であって、前記末端シラン変性樹脂(A1)は、ポリオール(A)中の水酸基の一部又は全部がアルコキシシラン変性されて構成されており、前記ポリオール(A)は、ポリエステルポリオール(a1)とポリウレタンポリオール(a2)の1種以上であり、前記ポリウレタンポリオール(a2)は、ポリエステルポリオール(a1)及び/又はポリエーテルポリオール(c)と、ポリイソシアネート化合物(b)の重付加によって構成されている、防汚塗料組成物が提供される。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、上記組成の防汚塗料組成物によれば、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0010】
1.防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、末端シラン変性樹脂(A1)と、防汚薬剤(B)を含有する。
【0011】
1-1.末端シラン変性樹脂(A1)
末端シラン変性樹脂(A1)は、ポリオール(A)中の水酸基の一部又は全部がアルコキシシラン変性されて構成されている。末端シラン変性樹脂(A1)は、例えば、ポリオール(A)中の水酸基の一部又は全部をシランカップリング剤(sc)により変性することによって得られる。
【0012】
末端シラン変性樹脂(A1)の末端のシラン変性率としては、0.1~1.0であり、好ましくは0.3~0.95である。シラン変性率は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、1.0であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。シラン変性率は、(アルコキシシラン変性された水酸基のモル数)/(変性された水酸基と変性されていない水酸基の合計モル数)によって算出される。シラン変性率は、ポリオール(A)中の水酸基に対するシランカップリング剤(sc)のモル比に基づいて算出してもよい。
【0013】
末端シラン変性樹脂(A1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,000~100,000であり、更に好ましくは10,000~60,000である。Mwの測定方法としては、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が挙げられる。
【0014】
末端シラン変性樹脂(A1)の製造方法としては、例えば、ポリオール(A)とシランカップリング剤(sc)を混合し必要に応じて加熱することでポリオール(A)の水酸基とシランカップリング剤(sc)の有機官能基を反応させて製造することができる。この反応は公知の硬化触媒存在下で行ってもよい。イソシアネート基を有するシランカップリング剤を使用する場合の触媒としては、例えば、スタナスオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、オクタン酸鉛、ナフテン酸鉛、オクタン酸ニッケル、オクタン酸コバルト、オクタン酸鉄等の有機金属触媒、第3級アミン化合物、第4級アンモニウム塩化合物などが挙げられる。
【0015】
末端シラン変性樹脂(A1)の製造時のシランカップリング剤(sc)の仕込み量としては、例えば、イソシアネート基含有シランカップリング剤の場合、以下の計算式から算出することができる。
【0016】
シランカップリング剤(sc)の仕込み量(g)=PEOHV×(1-ID)×PEg×SCM×SCR/56110
【0017】
PEOHV:ポリエステルポリオール(a1)及びポリエーテルポリオール(c)の水酸基価(mg・KOH/g)
ID:任意のイソシアネートインデックス([NCO]/[OH] モル比)
PEg:ポリエステルポリオール(a1)及びポリエーテルポリオール(c)の仕込み量(g)
SCM:シランカップリング剤(sc)の分子量(イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル(以下、ICPTESと略称)=247.37、イソシアン酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(以下、ICPTMSと略称)=205.29)
SCR:任意のシラン変性率([シランカップリング剤(sc)]/[ポリオール(A)の水酸基] モル比)
【0018】
例えば、水酸基価が56.0のポリエステルポリオール(a1)100gとポリイソシアネート化合物(b)をイソシアネートインデックスが0.8となるように反応させた後、残存水酸基の50%をシランカップリング剤ICPTESで反応させたい場合、シラン変性率SCRは0.5となり、以下の通りシランカップリング剤ICPTESの仕込み量が2.5gと算出できる。
【0019】
シランカップリング剤ICPTESの仕込み量(g)=56.0×(1-0.8)×100×247.37×0.5/56110=2.5
【0020】
本発明の組成物中における末端シラン変性樹脂(A1)の含有量は、特に制限されないが、本発明の防汚塗料組成物の固形分中、通常5~70質量%、好ましくは10~50質量%である。末端シラン変性樹脂(A1)の含有量が10質量%~50質量%の場合、防汚効果を有効に発揮することができる。また、塗膜の優れたリコート性能を発揮することができる。
【0021】
<シランカップリング剤(sc)>
シランカップリング剤(sc)は、水酸基と反応可能な有機官能基とアルコキシシラン基を分子内に持つ化合物である。
【0022】
有機官能基としては、水酸基との間に化学結合を形成可能なものが挙げられる。化学結合としては、ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合等が挙げられる。アルコキシシラン基は、Si原子にアルコキシ基が結合して構成されており、Si原子に結合しているアルコキシ基の数は、1、2、又は3である。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトシキ基等が挙げられる。有機官能基は、直接又は他の原子を介して、Si原子に結合されている。有機官能基とSi原子の間に介在される介在原子の数は、例えば1~12であり、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。介在原子としては、炭素原子、窒素原子、酸素原子等が挙げられる。
【0023】
シランカップリング剤(sc)は、例えば以下の一般式で表される。
【0024】
X-(CH-Si-R (OR3-a
【0025】
Xは、水酸基と反応可能な有機官能基であり、イソシアネート基が好ましい。nは、1~12であり、1~6が好ましい。
【0026】
としては、炭素数1~12アルキル基、フェニル基などが挙げられる。このアルキル基の炭素数は、1~6が好ましく、1~4がさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0027】
としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシアルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、2-メトキシエチル基等が挙げられる。
【0028】
aは、0、1、又は2であり、0又は1であることが好ましい。
【0029】
本発明のシランカップリング剤(sc)の具体例としては、イソシアン酸3-(ジエトキシメチルシリル)プロピル、ICPTES、イソシアン酸3-(ジメトキシメチルシリル)プロピル、ICPTMS、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物などが挙げられる。
【0030】
<ポリオール(A)>
ポリオール(A)は、ポリエステルポリオール(a1)とポリウレタンポリオール(a2)の1種以上である。
【0031】
ポリオール(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,000~100,000であり、更に好ましくは10,000~60,000である。Mwの測定方法としては、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が挙げられる。
【0032】
<<ポリエステルポリオール(a1)>>
前記ポリエステルポリオール(a1)は下記式(1)又は式(2)で表される。
【化1】
式中、nは、1~100の整数であり、好ましくは、3~50であり、さらに好ましくは、5~30である。nは、具体的には例えば、1、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0033】
n個のRは特に限定されず、互いに同一又は異なり、n個のRがアルキレン基、又はフェニレン基であり、直鎖又は分岐されている。Rの炭素数は、例えば1~20であり、2~12が好ましい。この炭素数は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0034】
アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デキレンなどが挙げられ、直鎖又は分岐したものである。
フェニレン基としては、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基が挙げられる。
【0035】
(n+1)個のRは、互いに同一又は異なり、アルキレン基、又は、繰り返し単位が2~8のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールからなる基である。Rのアルキレン基の炭素数は、例えば1~20であり、2~12が好ましい。この炭素数は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0036】
【化2】
【0037】
式(2)中のr及びsは、それぞれ、0~100の整数であり、r+s≧1である。r及びsは、それぞれ、好ましくは、1~100であり、さらに好ましくは、3~50であり、さらに好ましくは、5~30である。r及びsは、それぞれ、具体的には例えば、0、1、3、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0038】
は、アルキレン基であり、直鎖アルキレン基であっても、分岐アルキレン基であってもよい。Rの炭素数は、例えば1~20であり、2~12が好ましい。この炭素数は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0039】
(r+s)個のRは、互いに同一又は異なる。Rは、直鎖アルキレン基であるか、分岐アルキレン基である。Rの炭素数は、例えば1~20であり、2~12が好ましい。この炭素数は、具体的には例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0040】
前記式(1)のポリエステルポリオール(a1)は下記式(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体を含む酸成分と、下記式(4)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させて得られる生成物である。
HOOC-R-COOH (3)
HO-R-OH (4)
【0041】
前記式(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体を含む酸成分は、具体的には、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、フマル酸、シトラコン酸等のジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸あるいはこれらの低級アルキルエステル(例えば炭素数1~4のアルキルエステル)またはこれらの酸無水物、ハロゲン化アシルなどの誘導体が挙げられる。
【0042】
前記式(4)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールは、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1、3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAおよび水添ビスフェノールA、各種ジオールのエチレンオキサイド付加物またはプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
これらのアルコールは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用される。
【0043】
前記式(2)のポリエステルポリオール(a1)は、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、α-アセトラクトンから選ばれるラクトン化合物を50~100質量%と、その他の重合可能なDL-ラクチド、L-ラクチド、グリコリド、1,4-ジオキサン-2-オンからなる環状エステルを50質量%未満と、前記式(4)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールを開始剤とし、開環重合させて得られる生成物である。
【0044】
ポリエステルポリオール(a1)の水酸基価は、公益社団法人日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(以下、「分析試験法」) 2.3.6.2-1996に準拠して測定され、5~300mg・KOH/gであり、更に好ましくは10~150mgKOH/gである。水酸基価は、具体的には例えば、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300mgKOH/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0045】
ポリエステルポリオール(a1)の酸価は、分析試験法 2.3.1-2013に準拠し測定され、好ましくは2mgKOH/g以下であり、更に好ましくは0.5mgKOH/g以下である。酸価は、例えば0.01~2mgKOH/gであり、具体的には例えば、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2KOH/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0046】
ポリエステルポリオール(a1)は、市販品を用いてもよく、例えば、テスラック2450、2455、2459、2460、2461、2462、2464、2469、2471、2477、2490、TA22-325B等のテスラックシリーズ(日立化成(株)製、商品名); ニッポラン163、1004などのニッポランシリーズ(東ソー(株)製、商品名); HS2N-221A、HS2N-226P、HS2P-103S、HS2H-179A(豊国製油(株)製、商品名); クラレポリオールP-1012、P-1020、P-2010、P-2011、P-2030、P-2050、P-6010((株)クラレ製、商品名); サンエスターNo.22、24620等のサンエスターシリーズ(三洋化成工業(株))等が挙げられる。
【0047】
式(1)で示されるポリエステルポリオール(a1)は、例えば、前記酸成分と前記多価アルコールのエステル化反応またはエステル交換反応によって製造可能である。具体的には、酸成分と多価アルコールを配合し、公知の製造方法、例えば溶融法、トルエン、キシレン等の溶剤法(還流法)等により有機チタン系化合物や有機錫化合物等の触媒の存在下で180~250℃にてエステル化反応またはエステル交換反応を行い製造することができる。
【0048】
式(2)で示されるポリエステルポリオール(a1)は、例えば、ラクトン化合物の開環重合反応によって製造可能である。具体的には、ラクトン化合物と、多価アルコールを開始剤として配合し、有機チタン系化合物や有機錫化合物等の触媒の存在下で130~220℃にて公知の製造方法により開環重合を行い製造することができる。
【0049】
<<ポリウレタンポリホール(a2)>>
ポリウレタンポリオール(a2)は、ポリエステルポリオール(a1)及び/又はポリエーテルポリオール(c)と、ポリイソシアネート化合物(b)の重付加によって構成されている。ポリウレタンポリオール(a2)の両末端は、好ましくは、水酸基である。
【0050】
ポリウレタンポリオール(a2)のうち、ポリエステルポリオール(a1)と、ポリイソシアネート化合物(b)とをイソシアネートインデックス(NCO/OH)が0.1~0.99の仕込み比率でウレタン化反応させて得られるものは、長期防汚性の観点から特に好ましい。
【0051】
イソシアネートインデックス(NCO/OH)としては、0.1~0.99であれば良く、0.2~0.95がさらに好ましい。この値は、具体的には例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.95、0.99であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0052】
ポリウレタンポリオール(a2)の水酸基価は、5~100mg・KOH/gであり、更に好ましくは10~50mgKOH/gである。水酸基価は、具体的には例えば、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100mgKOH/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
ポリウレタンポリオール(a2)の水酸基価は、分析試験法 2.3.6.2-1996に準拠して測定した値か、若しくは、ポリエステルポリオール(a1)及び/又はポリエーテルポリオール(c)と、ポリイソシアネート化合物(b)の仕込み比率からイソシアネート基がポリエステルポリオール(a1)及び/又はポリエーテルポリオール(c)の水酸基と完全に反応したと仮定した際の計算値でも良い。
【0053】
ポリウレタンポリオール(a2)の製造方法としては、例えば、ポリエステルポリオール(a1)及び/又はポリエーテルポリオール(c)と、ポリイソシアネート化合物(b)とを、イソシアネートインデックス(NCO/OH)が0.1~0.99の仕込み比率で、20~140℃で混合することでウレタン化反応させて製造することができる。
前記反応は公知の硬化触媒存在下で行ってもよい。公知の硬化触媒としては、末端シラン変性樹脂(A1)の製造方法の説明で列挙したものが利用可能である。
【0054】
(ポリイソシアネート化合物(b))
ポリイソシアネート化合物(b)は、分子内にイソシアネート基を2つ以上有する化合物である。分子内のイソシアネート基の数は、例えば、2~6であり、2~3が好ましく、2がさらに好ましい。ポリイソシアネート化合物(b)としては、トリメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のアルキレンジイソシアネート;ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロペンタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のシクロアルキレン系ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、ジイソシアネートジエチルベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリイソシアネートベンゼン、トリイソシアネートトルエン等のトリイソシアネート、ジフェニルジメチルメタンテトライソシアネート等のテトライソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートのウレトジオン、アロファネート、トリメチロールプロパンアダクト体、イソシアヌレート体、ビウレット体などの二量体および三量体等のポリイソシアネートなどが挙げられ、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用される。
【0055】
(ポリエーテルポリオール(c))
前記ポリエーテルポリオール(c)は、ジオール化合物を含む多価アルコールを開始剤としてプロピレンオキサイドやエチレンオキサイドのいずれか、若しくは両方を付加重合させ得られる生成物である。
開始剤であるジオール化合物を含む多価アルコールは特に限定されないが、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-1、3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAおよび水添ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらのアルコールは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて使用される。
【0056】
ポリエーテルポリオール(c)の水酸基価は、分析試験法 2.3.6.2-1996に準拠して測定され、5~300mg・KOH/gであり、更に好ましくは10~150mgKOH/gである。水酸基価は、具体的には例えば、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300mgKOH/gであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0057】
ポリエーテルポリオール(c)は、市販品を用いてもよく、例えば、ユニオールDシリーズ(日油(株)製、商品名)やサンニックスPPシリーズやサンニックスGPシリーズ(三洋化成工業(株)製、商品名)などが挙げられる。
【0058】
1-2.防汚薬剤(B)
防汚薬剤(B)としては、海棲汚損生物に対して殺傷又は忌避作用を有する物質であればよく、特に限定されない。例えば無機薬剤及び有機薬剤が挙げられる。
【0059】
無機薬剤としては、例えば、亜酸化銅、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、キュプロニッケル、銅粉等が挙げられる。この中でも特に、亜酸化銅とロダン銅が好ましい。
【0060】
有機薬剤としては、例えば、2-メルカプトピリジン-N-オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)等の有機銅化合物、2-メルカプトピリジン-N-オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、ビス(ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛(一般名:ジラム)、ビス(ジメチルジチオカルバメート)エチレンビス(ジチオカーバメート)二亜鉛(一般名:ポリカーバメート)等の有機亜鉛化合物;ピリジン・トリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジル-ジフェニルメチルボラン、4-フェニルピリジル-ジフェニルボラン、トリフェニルボロン-n-オクタデシルアミン、トリフェニル[3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン等の有機ボロン化合物;2,4,6-トリクロロマレイミド、N-(2,6ジエチルフェニル)2,3-ジクロロマレイミド等のマレイミド系化合物;その他、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4-ジクロロフェニル-N-N-ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-s-トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル(一般名:クロロタロニル)、Nージクロロフルオロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N―p-トリルスルファミド(一般名:トリフルアニド)、Nージクロロメチルチオ-N',N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド(一般名:ジクロフルアニド)、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾ-ル(一般名:チアベンダゾール)、3-(ベンゾ〔b〕チエン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-1,4,2-オキサチアジン-4-オキシド(一般名:ベトキサジン)、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノー4-ブロモー5-トリフルオロメチル ピロール(一般名:ECONEA 028)、(±)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(一般名:メデトミジン)等が挙げられる。この中でも特に、ジンクピリチオン、カッパーピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジル-ジフェニルメチルボラン、ベトキサジン、ジネブ、シーナイン211及びイルガロール1051が好ましく、カッパーピリチオン、ジンクピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン及びベトキサジンがより好ましい。
【0061】
防汚薬剤(B)としては、亜酸化銅、ロダン銅、ジンクピリチオン、カッパーピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジル-ジフェニルメチルボラン、ベトキサジン、ジネブ、シーナイン211及びイルガロール1051、トリフルアニド、ジクロフルアニドが好ましく、亜酸化銅、カッパーピリチオン、ジンクピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン及びベトキサジンがより好ましい。
これらの防汚薬剤は1種又は2種以上併用して使用できる。
【0062】
本発明の組成物中における防汚薬剤(B)の含有量は、特に制限されないが、本発明の組成物の固形分中、通常0.1~75質量%、好ましくは1~60質量%である。防汚薬剤(B)の含有量が0.1質量%未満の場合、十分な防汚効果が得られないおそれがある。防汚薬剤(B)の含有量が75質量%を超える場合、形成される塗膜が脆弱であり、さらに、被塗膜形成物に対する接着性も弱く、防汚塗膜としての機能を十分に果たせない。
【0063】
本発明における防汚塗料組成物には、末端シラン変性樹脂(A1)及び防汚薬剤(B)のほかに、必要に応じて、溶出促進剤(C)、可塑剤(D)、他の樹脂(E)等を配合することができる。
【0064】
1-3.溶出促進剤(C)
溶出促進剤(C)としては、ポリジメチルシロキサンからなるストレートシリコーンオイルおよびそれらの有機変性物である有機変性シリコーンオイルが挙げられ、塗料配合によっては防汚薬剤の海水への溶出を促進し防汚性を高める効果がある。
有機変性としては、例えば、ポリジメチルシロキサンの側鎖、若しくは末端にアルキル、フェニル、アラルキル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が導入されたものである。
溶出促進剤(C)の含有量は、末端シラン変性樹脂(A1)100質量部に対して通常1~50質量部、好ましくは5~30質量部である。
【0065】
1-4.可塑剤(D)
本発明の防汚塗料組成物に可塑剤(D)を含有させることにより、前記組成物の可塑性を向上させることができ、その結果、強靱な塗膜を好適に形成できる。
前記可塑剤(D)としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等の燐酸エステテル類、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸エステル類、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート等のセバシン酸エステル類、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化油脂類、メチルビニルエーテル重合体、エチルビニルエーテル重合体等のアルキルビニルエーテル重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、t-ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
本発明の組成物中における可塑剤(D)の含有量は、末端シラン変性樹脂(A1)100質量部に対して通常0.1~20質量部、好ましくは0.5~10質量部である。
【0066】
1-5.他の樹脂(E)
本発明の防汚塗料組成物に他の樹脂(E)を含有させることにより、本発明の効果を損なうことなく、コストダウンが可能であり、また、樹脂(E)の持つ物性との相乗効果を得ることができる。
他の樹脂(E)としては、例えば(メタ)アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ゴム樹脂、ビニル樹脂、両末端シラノール変性シリコーン樹脂、両末端アルコキシシラン変性されたポリプロピレングリコール、前記のポリオール(A)等が挙げられる。
本発明の組成物中における他の樹脂(E)は、防汚効果が損なわれない範囲で含有することができ、その含有量は、末端シラン変性樹脂(A1)100質量部に対して1~200質量部が好ましく、5~50質量部が更に好ましい。
【0067】
1-6.その他の添加剤
さらに、本発明の防汚塗料組成物には、必要に応じて、顔料、染料、消泡剤、タレ止め剤、分散剤、沈降防止剤、脱水剤、有機溶媒等を、海水中での適度な塗膜溶解速度と塗膜物性が損なわれない範囲で添加することができる。
【0068】
2.防汚塗料組成物の製造方法
本発明の防汚塗料組成物は、例えば、前記末端シラン変性樹脂(A1)、防汚薬剤(B)及び他の添加剤等を含有する混合液を、分散機を用いて混合分散することにより製造できる。
【0069】
末端シラン変性樹脂(A1)は、末端シラン変性樹脂(A1)以外の防汚薬剤(B)及び他の添加剤等を含有する混合液を分散機で分散した顔料ペーストを作製しておき、塗装直前に末端シラン変性樹脂(A1)と混合し、次いでアミン系触媒や金属触媒を添加してもよい。
【0070】
前記混合液中における前記樹脂及び防汚薬剤等の含有量は、それぞれ防汚塗料組成物中の樹脂及び防汚薬剤等の含有量となるように適宜調整すればよい。
前記混合液としては、樹脂及び防汚薬剤等の各種材料を溶媒に溶解または分散させたものであることが好ましい。
【0071】
前記溶媒としては、末端シラン変性樹脂(A1)のシラン基と反応性が無く、末端シラン変性樹脂(A1)やその他の樹脂成分が溶解化能であれば特に限定されないが、キシレン、トルエン、ミネラルスピリット、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、メルエチルケトン等の1種以上が好ましい。
【0072】
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、市販のホモミキサー、サンドミル、ビーズミル等を使用することができる。また、撹拌機を備えた容器に混合分散用のガラスビーズ等を加えたものを用い、前記混合液を混合分散してもよい。
【0073】
3.防汚処理方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の防汚処理方法は、前記防汚塗料組成物にアミン系触媒や金属触媒を添加し、速やかに被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成させることで、通常、空気中の水分で徐々に末端シラン変性樹脂(A1)のシラン基の加水分解、縮合が起こりシロキサン結合が形成され、架橋塗膜、若しくは分子量が増大した塗膜が得られる。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に防汚薬剤が溶出することにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0074】
アミン系触媒としては、例えば、1-アミノ-2-エチルヘキサン、3-(トリメトキシシリル)プロピルアミン、N-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N, N, N', N'-テトラメチル-N''-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。
【0075】
金属触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズビス(アセチルアセトネート)、ジブチルビス(2,4-ペンタンジオナト)スズ(IV)等の有機スズ化合物;テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等の有機チタン酸エステル;ジイソプロポキシキシビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等の有機チタンキレート化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等の有機アルミニウム化合物;ジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラブチレート等の有機ジルコニウム化合物が挙げられる。
【0076】
アミン系触媒や金属触媒は、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用することができ、添加量としては末端シラン変性樹脂(A1)100質量部に対して通常0.05~10質量部、好ましくは0.5~5質量部である。
【0077】
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0078】
防汚塗膜は、前記防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。塗布後、乾燥させるとともに水分でシラン基の加水分解、縮合により起こさせる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0079】
該防汚塗料組成物の塗装は、それ自体既知の手段により、1回の塗布により又は複数回塗り重ねて行うことができる。
【0080】
防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。通常1回の塗装当たり30~400μm、好ましくは30~200μmを複数回塗装した後、最終的に膜厚が100~1000μmとなるのが適当である。
【0081】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【0082】
前記防汚塗料組成物を用いて形成される本発明の防汚塗膜は、海水中で塗膜物性を維持し、長期間の安定した防汚薬剤の溶出により、所望の防汚効果を有効に発揮することができる。
【実施例
【0083】
以下に実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
GPCにより求めた重量平均分子量(Mw)の値は、ポリスチレン換算値であり、測定条件は下記の通りである。
装置・・・ 東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム・・・ TSKgel SuperHZM-M(東ソー株式会社製)2本
流量・・・ 0.35 mL/min
検出器・・・ RI
カラム恒温槽温度・・・ 40℃
溶離液・・・ THF
【0085】
また、以下の製造例中の各略号はそれぞれ次の化合物を表す。
【0086】
AA :アジピン酸
SA :セバシン酸
PA :オルトフタル酸
IPA :イソフタル酸
CL :ε-カプロラクトン
VL :δ-バレロラクトン
LL :L-ラクチド
DLL :DL-ラクチド
GL :グリコリド
1,4BD :1,4-ブタンジオール
1,3PD :1.3-プロパンジオール
HD :1,6-ヘキサンジオール
NPG :ネオペンチルグリコール
MPD :3-メチル-1,5-ペンタンジオール
PD9 :2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール
EG :エチレングリコール
IPDI :イソホロンジイソシアネート
TDI :トリレンジイソシアネート
MDI :4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート
ICPTES :イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル
ICPTMS :イソシアン酸3-(トリメトキシシリル)プロピル
サンニックスPP-2000 :三洋化成工業(株)製 ポリプロピレングリコール 水酸基価56.0mg・KOH/g
サンニックスPP-4000 :三洋化成工業(株)製 ポリプロピレングリコール 水酸基価27.4mg・KOH/g
【0087】
1.製造例
<製造例1(ポリエステルポリオールa1-1の製造)>
AA146gと1,4BD131gを、反応器に仕込み、常圧下、200℃で攪拌し生成する水を留去し、エステル化反応を行った。水の生成が少なくなった時点でテトライソプロピルチタネート0.02g(70ppm)を加え、200~100mmHgに減圧しながら反応を続けた。酸価が1.0mg・KOH/gになった時点で真空ポンプにより徐々に真空度を上げて反応を完結させた。得られたポリエステルポリオールの水酸基価は113.7mgKOH/g、酸価は0.2mgKOH/g、Mw(GPC測定)は3000であった。以下、ポリエステルポリオールa1-1と略称する。なお、酸価は分析試験法 2.3.1-2013に、水酸基価は分析試験法 2.3.6.2-1996に準拠して測定した値である。
【0088】
<製造例2~5、7、8、13~17(ポリエステルポリオールa1-2~a1-5、a1-7、a1-8、a1-13~a1-17の製造)>
表1に示す酸成分と多価アルコールを用い、適宜、仕込み量を調節したこと以外は製造例1と同様にしてエステル化反応を行って、各々、対応するポリエステルポリオールを得た。以下、製造例2~5、7、8、13~17で得られたポリエステルポリオールをそれぞれポリエステルポリオールa1-2~a1-5、a1-7、a1-8、a1-13~a1-17と略称する。得られたポリエステルポリオールの物性の分析値を表1に併せて示す。
【0089】
<製造例6(ポリエステルポリオールa1-6の製造)>
CL159.6g、VL60g、NPG26g、テトラブチルチタネート0.01gを、反応器に仕込み、170℃で4時間反応させた。得られたポリエステルポリオールの水酸基価は110.2mg・KOH/g、酸価は0.05mg・KOH/g、Mw(GPC測定)は3000であった。以下、ポリエステルポリオールa1-6と略称する。
【0090】
<製造例9~12(ポリエステルポリオールa1-9~a1-12の製造)
表1に示すラクトン化合物や環状エステルと多価アルコールを用い、仕込み量を調節したこと以外は製造例6と同様にしてエステル化反応を行って、各々、対応するポリエステルポリオールを得た。以下、製造例9~12で得られたポリエステルポリオールをそれぞれポリステルポリオールa1-9~a1-12と略称する。得られたポリエステルポリオールの物性の分析値を表1に併せて示す。
【0091】
【表1】
【0092】
<製造例A1-1(末端シラン変性樹脂溶液A1-1の製造)>
ポリエステルポリオールa1-1を82.5gとIPDI14.9g(イソシアネートインデックス:0.8)を、反応器に仕込み、窒素雰囲気下、80~90℃で1時間攪拌した後、ジブチル錫ジラウレート0.02gを加え、徐々に100~105℃まで温度を上げ、途中、極度な粘度上昇を緩和するためトルエンを5g追加し合計4時間反応を続けウレタン化反応を行った。FT-IRによるイソシアネート基2270cm-1の吸収が消失していることを確認した。ポリエステルポリオール(a1)とIPDIの重付加によって分子量が増大してポリウレタンポリオール(a2)となり、ポリウレタンポリオール(a2)を含むポリオール(A)が得られた。
【0093】
その後、80℃まで冷却しトルエン20gとICPTES2.5g(シラン変性率:0.3)を追加し80~90℃で1時間撹拌した。FT-IRによるイソシアネート基2270cm-1の吸収が消失していることを確認した。これによって、ポリオール(A)中の水酸基の一部がシランカップリング剤(sc)により変性された末端シラン変性樹脂(A1)の溶液が得られた。
【0094】
上記工程で得られた溶液を加熱残分が60%になるようにトルエンで希釈、溶解させた。得られた末端シラン変性樹脂溶液の加熱残分は60.1%、Mw(GPC測定)は20000であった。得られた末端シラン変性樹脂溶液は、以下、末端シラン変性樹脂溶液A1-1と略称する。
【0095】
<製造例A1-2~A1-21、A1-23~A1-30(末端シラン変性樹脂溶液A1-2~A1-21、A1-23~A1-30の製造)>
表2に示すポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオールと、ポリイソシアネート化合物を用い、所定のイソシアネートインデックスに基づき仕込み量を調節し、かつ反応途中に追加するトルエン量を5~20gの範囲で調節し、表2に示す通り、所定のシラン変性率に基づきシランカップリング剤と仕込み量を変えたこと以外は、製造例A1-1と同様にして末端シラン変性樹脂溶液を得た。以下、製造例A1-2~A1-21、A1-23~A1-30で得られた末端シラン変性樹脂溶液をそれぞれ末端シラン変性樹脂溶液A1-2~A1-21、A1-23~A1-30と略称する。得られた末端シラン変性樹脂溶液の分析値を表2に併せて示す。
【0096】
<製造例A1-22、A1-31、A1-32(末端シラン変性樹脂溶液A1-22、A1-31、A1-32の製造)>
表2に示す通り、ポリエステルポリオール又はポリエーテルポリオールとトルエン20gとICPTESを反応器に仕込み、窒素雰囲気下、80~90℃で攪拌し、30分後にジブチル錫ジラウレート0.02gを加えさらに30分撹拌を続けウレタン化反応を行った。FT-IRによるイソシアネート基2270cm-1の吸収が消失していることを確認した。これによって、ポリオール(A)中の水酸基の一部がシランカップリング剤(sc)により変性された末端シラン変性樹脂(A1)の溶液が得られた。
【0097】
加熱残分が60%になるようにトルエンで希釈、溶解させた。以下、製造例A1-22、A1-31、A1-32で得られた末端シラン変性樹脂溶液をそれぞれ末端シラン変性樹脂溶液A1-22、A1-31、A1-32と略称する。得られた末端シラン変性樹脂溶液の分析値を表2に併せて示す。
【0098】
【表2】
【0099】
2.実施例及び比較例
<実施例1~30及び比較例1~5(塗料組成物の製造)>
表3に示す塗料配合1~5に従い、樹脂溶液のみを表4の通り変えた防汚塗料組成物の各原料を配合し直径1.5~2.5mmのガラスビーズと混合分散することにより防汚塗料組成物を製造し表4、5に示す通り、実施例1~30と比較例1~4とした。
なお、表5に示す比較例5については、樹脂溶液を表5に示す通り使用し、表3に示す塗料配合2′及び3′に従い、同様の操作にて防汚塗料組成物を製造した。
【0100】
表4、5には試験結果も併せて示した。
【0101】
【表3】
【0102】
表3中の成分の詳細は、以下の通りである。
無水石膏:D-1N(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)
疎水性ヒュームドシリカ:AEROSIL R974(エボニックインダストリーズAG製)
亜酸化銅:NC-301(日進ケムコ株式会社製)
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(正同化学工業株式会社製)
赤色酸化鉄:弁柄 錦玉A印(森下弁柄工業株式会社製)
タルク:クラウンタルク3S(松村産業株式会社製)
酸化チタン:FR-41(古河機械金属株式会社製)
銅ピリチオン:(ロンザ社製)
亜鉛ピリチオン:(ロンザ社製)
トラロピリル:ECONEA(JANSSEN PMP社製)
DCOIT(30%溶液):SEA-NINE 211N (ダウ・ケミカル社製)
メデトミジン:selektope(I-tech社製)
側鎖メチルフェニル変性ポリシロキサン:KF-50-100cs(信越化学工業株式会社製)
側鎖ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン変性ポリシロキサン:KF-6020(信越化学工業株式会社製)
ポリアマイドワックス:ディスパロンA603-20X(楠本化成株式会社製)
酸化ポリエチレン:ディスパロン4200-20(楠本化成株式会社製)
キシレン/酢酸ブチル=3/1の混合溶剤
ジブチルビス(2,4-ペンタンジオナト)スズ(IV):ネオスタンU-220H(日東化成株式会社製)
テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物:TES40 WN(ワッカー・ケミー社製)
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
表5中の樹脂溶液であるa1-13soln、GENIOSILsoln、及びDMS-S35solnの詳細は以下の通りである。
a1-13soln :ポリエステルポリオールa1-13をトルエンで希釈し固形分60%とした溶液
GENIOSILsoln: 両末端トリメトキシシリル変性ポリプロピレングリコール 商品名:GENIOSIL STD-15(Wacker社製)をキシレンで希釈し固形分60%とした溶液
DMS-S35soln: 両末端シラノール基を有するポリオルガノシロキサン Mw=49000 商品名:DMS-S35(Gelest社製)をキシレンで希釈し固形分60%とした溶液
【0106】
3.試験例
実施例・比較例の防汚塗料組成物について、以下に示す手順によって接着性試験及び防汚試験を行った。その結果を表4~表5に示す。
【0107】
表4~表5から、本発明の塗料組成物(実施例1~30)を用いて形成された塗膜は、接着性も優れ、比較例1~4の塗料組成物を用いて形成された塗膜より、各種塗料配合の防汚試験において、総合的に貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、若しくは部分的に付着する程度に留まった。
一方、比較例1~4の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、汚損生物の付着を防止することができなかった。
防汚薬剤を含有したシリコーンゴム系の防汚塗料である比較例5は、防汚性は優れていたものの、接着性に難があり、別途、シリコーンゴム専用のプライマーが必要となるため作業性に劣るものであった。
【0108】
<接着性試験>
エポキシ系プライマーHEMPADUR QUATTRO XO 17870(HEMPEL社製)を乾燥膜厚約100μm塗布した硬質塩ビ板(110×60×2mm)に、実施例1~30及び比較例1~2、4、5で得られた防汚塗料組成物に表3に示した配合通り触媒、架橋剤を添加しステンレス製スパチュラで約30秒手撹拌した後、速やかに、乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布し室温(25℃)で48時間乾燥させて試験板を作製した。
なお、比較例3で得られた防汚塗料組成物は、シラン基を持たない樹脂溶液を使用しているため、触媒は添加せずに防汚塗料組成物のみを同様の操作で塗布した。
カッターを用いて防食塗料まで達する切り込みをX状に入れた後、切り込みに垂直方向に指で強く擦り、以下の基準で塗膜の接着性を評価した。
【0109】
3:塗膜が剥がれない
2:切り込み周辺が一部剥がれた
1:簡単に塗膜が剥がれた
【0110】
<防汚試験>
実施例1~30及び比較例1~2、4で得られた防汚塗料組成物に表3に示した配合通り触媒を添加しステンレス製スパチュラで約30秒手撹拌した後、速やかにエポキシ系プライマーHEMPADUR QUATTRO XO 17870(HEMPEL社製)を乾燥膜厚約100μm塗布した硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布した。
比較例3で得られた防汚塗料組成物は、シラン基を持たない樹脂溶液を使用しているため、触媒は添加せずに防汚塗料組成物のみを同様の操作で塗布した。
比較例5で得られた防汚塗料組成物は、エポキシ系プライマーHEMPADUR QUATTRO XO 17870(HEMPEL社製)を乾燥膜厚約100μm塗布した硬質塩ビ板(100×200×2mm)にシリコーン系タイコートHEMPASIL NEXUS X-TEND 27500(HEMPEL社製)を乾燥膜厚で約100μmを重ねて塗布した塗板の両面に、乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう表3に示した配合通り触媒、架橋剤を添加し同様の操作で塗布した。
得られた塗布物を室温(25℃)で48時間乾燥させて試験板を作製した。この試験板を三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を6ヵ月後、12ヶ月後、24ヶ月後に観察した。
【0111】
評価は、塗膜表面の状態を目視観察することにより行い、以下の基準で判断した。
5:貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、かつ、スライムも殆どないレベル。
4:貝類や藻類などの汚損生物の付着がなく、かつ、スライムが薄く(塗膜面が見える程度)付着しているものの刷毛で軽く拭いて取れるレベル。
3:貝類や藻類などの汚損生物の付着はないが、塗膜面が見えない程スライムが厚く付着しており、刷毛で強く拭いても取れないレベル。
2:貝類や藻類などの汚損生物が部分的に付着しているレベル。
1:貝類や藻類などの汚損生物が全面的に付着しているレベル。