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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】遠隔操作飛行装置、および遠隔操作操縦装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/00 20060101AFI20230711BHJP
   B64C 13/20 20060101ALI20230711BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20230711BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20230711BHJP
   G05D 1/10 20060101ALI20230711BHJP
   H04Q 9/00 20060101ALI20230711BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G05D1/00 B
B64C13/20 Z
B64C27/08
B64C39/02
G05D1/10
H04Q9/00 301B
H01Q21/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019160209
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021039531
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000232254
【氏名又は名称】日本電気通信システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】森田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】山下 昇
(72)【発明者】
【氏名】不藤 基樹
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-56656(JP,A)
【文献】特開2019-68285(JP,A)
【文献】特開2018-112871(JP,A)
【文献】特開2018-110352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00- 1/12
B64C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操作操縦装置から公衆電波網を経由して接続される遠隔操作飛行装置であって、
前記遠隔操作操縦装置からの移動制御命令を受信する移動制御命令受信部と、
前記移動制御命令を修正して実行する移動実行制御部と、
修正された前記移動制御命令に応じて前記遠隔操作飛行装置を移動させるための複数のプロペラ装置と、
前記公衆電波網からの電波を方向別の品質を特定しつつ受信するアンテナ装置と、
前記アンテナ装置からの信号からの各電波の電波受信品質を特定する電波受信状況特定部と、
を備え、
前記移動実行制御部は、前記電波受信状況特定部が特定した移動方向における電波受信品質に応じ、前記移動制御命令を修正することを特徴とする、遠隔操作飛行装置。
【請求項2】
前記アンテナ装置は、水平面に沿った2式の異なる方向に向いた指向性アンテナと、立面に沿った1式の指向性アンテナであり、
前記電波受信状況特定部は、前記遠隔操作飛行装置の2つの水平方向、1つの垂直方向の電波受信品質を特定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項3】
前記電波受信状況特定部が特定する電波受信品質の特定値として、電波強度、及び/または信号対雑音比、及び/またはこれらの組み合わせとすることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項4】
前記移動実行制御部は、特定の方向における電波受信品質のレベルが第一の閾値を下回るレベルであれば、電波受信品質の悪い方向に向けた移動を抑止するように前記移動制御命令を修正することを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項5】
前記移動実行制御部は、特定の方向における電波受信品質のレベルが第二の閾値を下回るレベルであれば、電波受信品質の悪い方向に向けた移動速度を制限するように前記移動制御命令を修正することを特徴とする、
請求項4に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項6】
前記移動実行制御部は、前記移動制御命令を修正する各方向に対する修正内容を、直近の過去一時点の修正内容と現時点の電波受信状況とから、決定することを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項7】
前記移動実行制御部は、前記移動制御命令を修正する各方向に対する修正内容を、複数の過去時点の電波受信品質とその時点の修正内容の組み合わせと、現時点の電波受信品質とから、決定することを特徴とする、
請求項1乃至5に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項8】
前記遠隔操作飛行装置は、GPSセンサと高度センサとを備え、これらのセンサ値を時系列データとして記録する位置・高度記録部を備え、
前記移動実行制御部は、任意の方向における電波受信品質のレベルが第三の閾値を下回るレベルであれば、過去時点において電波品質が良好であった位置及び/または高度に移動させるように前記移動制御命令を修正することを特徴とする、
請求項7に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項9】
前記移動実行制御部は、ユーザ指定の目的位置と高度が設定されている場合、過去時点において電波受信品質が第四の閾値以下であった位置および高度を避けて移動させるよう前記移動制御命令を修正することを特徴とする、
請求項8に記載の遠隔操作飛行装置。
【請求項10】
公衆電波網を経由して接続する遠隔操作飛行装置を制御する遠隔操作操縦装置であって、
前記遠隔操作飛行装置における各方向における電波受信品質を受信する電波受信状況受信部と、
ユーザの操縦意図を伝達する移動制御指示器と、
移動制御命令を前記遠隔操作飛行装置に送信する移動制御指示部と、を有し、
前記移動制御指示部は、前記遠隔操作飛行装置の各移動方向における電波受信品質に応じ、前記移動制御命令を修正することを特徴とする、遠隔操作操縦装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作飛行装置、および遠隔操作操縦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローンと呼ばれる無人飛行装置(遠隔操作飛行装置)を用いられることが多くなってきている。ドローンはLTEなどの公衆無線電波に接続し、操縦者(ユーザ)が地上においてドローンを制御するためのドローン操縦器(遠隔操作操縦装置)を用いて、飛行経路、速度などを制御することができる。
【0003】
ドローンの飛行制御は、複数のプロペラ装置を制御することによって行われる。それぞれのプロペラの回転数・射出角度を制御することで、飛行方向や速度を変えることができる。飛行方向には水平方向、垂直方向が含まれる。またドローンにGPSセンサや高度センサを備えることで、ドローンの現在位置(緯度・経度)や高度を把握できることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-112871号公報
【文献】特開2018-093403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
なお、上記先行技術文献の開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。以下の分析は、本発明の観点からなされたものである。
【0006】
ドローンとドローン操縦器は公衆電波網を使っているため、特にドローンが公衆電波を受信できない場合に、制御不能になるという問題がある。
【0007】
特許文献1の方式によれば、あらかじめ公衆電波サービスの状況を調査した上での、各飛行地点における通信品質情報を用いて、移動方向を制御する方式が示されている。例えば電波品質を表す数値が閾値以上である向きを各位置で判断し、制御情報に用いている。ただし、公衆電波の状況は日々変化するものであることや、高さに対しての品質情報がほとんど提供されていないことから、正確性に問題がある。
【0008】
特許文献2の方式によれば、各飛行地点における通信品質情報を用いずに、通信状況に応じ、通信状況が悪いときには通信を受け付ける状況になるまで、位置を変更せずホバリングする方式などが示されている。しかし、通信状況がよくなることは期待できず、そのまま制御不能に陥る可能性があるという問題がある。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、遠隔操作される飛行装置が制御不能になることを効果的に防止することに貢献することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の視点によれば、遠隔操作飛行装置(ドローン)が提供される。遠隔操作操縦器から公衆電波網を経由して接続される遠隔操作飛行装置であって、前記遠隔操作操縦装置からの移動制御命令を受信する移動制御命令受信部と、前記移動制御命令を修正して実行する移動実行制御部と、修正された前記移動制御命令に応じて前記遠隔操作飛行装置を移動させるための複数のプロペラ装置と、前記公衆電波網からの電波を方向別の品質を特定しつつ受信するアンテナ装置と、前記アンテナ装置からの信号からの各電波の電波受信レベルを特定する電波受信状況特定部と、を備え、前記移動実行制御部は、前記電波受信状況特定部が特定した移動方向における電波受信強度に応じ、前記移動制御命令を修正することを特徴とする、遠隔操作飛行装置、が提供される。
【0011】
第2の視点によれば、遠隔操作操縦装置(ドローン操縦器)が提供される。遠隔操作操縦装置から公衆電波網を経由して接続される遠隔操作飛行装置であって、前記遠隔操作飛行装置における各方向における電波受信品質を受信する電波受信状況受信部と、ユーザの操縦意図を伝達する移動制御指示部と、移動制御命令を前記遠隔操作飛行装置に送信する移動制御指示部と、を有し、前記移動制御指示部は、前記遠隔操作飛行装置の各移動方向における電波受信品質に応じ、前記移動制御命令を修正することを特徴とする、遠隔操作操縦装置、が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の各視点によれば、ドローンが受信する電波状況に応じて移動制御することが可能となる。これにより、遠隔操作飛行装置が制御不能になることを効果的に防止することに貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る、全体構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、ドローン100に設置されるアンテナ110とGPSセンサ111、高度センサ112の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、ドローン操縦器300に表示される電波モニタ画面表示の一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る、ドローン100およびドローン操縦器300の各例を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る、移動時の制御事例を説明する図である。
図6】第1の実施形態例における電波受信状況特定部130と移動実行制御部150の操作の流れの一例のフローチャートを示す図である。
図7】第1の実施形態例における詳細な制御方式の一例の、フローチャートと使用されるデータを示す図である。
図8】第2の実施形態例における電波受信状況特定部130と移動制御指示部360の処理の流れの一例のフローチャートを示す図である。
図9】第3の実施形態例における詳細な制御方式の一例の、フローチャートと使用されるデータを示す図である。
図10】第3の実施形態例におけるアラートモード決定表500の一例を示す図である。
図11】第4の実施形態例におけるアラートモード決定表500の一例を示す図である。
図12】第4の実施形態例における位置・高度履歴600の一例を示す図である。
図13】第4の実施形態例における詳細な制御方式の一例の、フローチャートと使用されるデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、一実施形態の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、この概要の記載はなんらの限定を意図するものではない。また、各ブロック図のブロック間の接続線は、双方向及び単方向の双方を含む。一方向矢印については、主たる信号(データ)の流れを模式的に示すものであり、双方向性を排除するものではない。
【0015】
上述の通り、ドローンなどの遠隔操作飛行装置において、公衆電波網をとらえ続けることにより、制御不能に陥ることを効果的に防止することに貢献すること望まれる。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る、全体構成を示す図である。ここに示すとおり、ドローン100は公衆電波網200に接続して、制御を受けている。ユーザはドローン操縦器300を公衆電波網200に接続して、ドローン100に対する移動制御命令を送出して制御する。移動制御命令は、ユーザが移動制御指示器340を操作し、ドローン操縦器300内で情報処理された上、操縦電波送受信部330を通して公衆電波網200に送信される。移動制御命令は公衆電波網200から、ドローン100に伝送されるものである。
【0017】
図2に、ドローン100に設置されるアンテナ等の一例の構成を示す。ここでアンテナは指向性を有するアンテナであり、指向性アンテナとは特定方向に向いた電波の送受信品質(図中は電波強度)を把握できるものである。図2に示す例では、水平方向に2つの指向性アンテナ110a、110bを設置し、垂直方向に1つの指向性アンテナ110cを設置している。これにより、ドローン水平面を観点とした前、後、右、左の4方向と、ドローン立面を観点とした上、下の2方向の電波品質を把握することができる。また、ドローン100には通常設置されている、GPSセンサ111と高度センサ112も設置されているものとする。
【0018】
電波品質としては、アンテナの受信強度の他に、信号対雑音比も考慮すべきである。この場合には電波強度に信号対雑音比を掛け合わせた値、あるいは電波強度から雑音を引き算した値を電波品質値とすることもできる。ただし、以下の説明においては、これらの値を代表して、電波強度を用いるものとする。
【0019】
図3に、ドローン操縦器300に表示される電波モニタ画面310の一例を示す。ここでは、モニタ切替スイッチ320を操作することで、平面電波状況を表示する電波モニタ画面310aと、垂直電波状況を表示する電波モニタ画面310bを切り替えることができるものとする。図左にそれぞれのモニタを拡大して表示している。平面電波モニタ画面310aにおいては、ドローン100から見た、前後左右の4方向についての電波強度が5段階で表示されている。同様に、垂直電波モニタ画面310bにおいては上下2方向の電波強度が5段階で表示されている。電波強度はレベル0からレベル4までのものであり、レベル4が最良電波強度、レベル0が電波受信ゼロのものである。また、後述する制御方式によってアラートモードが決定されるが、それぞれの方向に対応したアラートモードがアラート表示部311a、311b、311c、311d、311e、311fに表示される。この表示例においては、水平方向においてアラートモードは制限なし(通常)であり、上方向311eには「速度規制中」、下方向311fには「移動規制中」と表示されている。
【0020】
図4に、ドローン100と、ドローン操縦器300とを組み合わせたブロック図の一例を示す。ドローン100には、本体制御機能として3つの指向性アンテナの電波受信部120a、120b、120c、電波受信状況特定部130、移動制御受信部140、移動実行制御部150を有する。ドローン100には、実際の推力を与えるためのプロペラ装置160が複数個(本図では4つ)設置されている。本一実施形態では多くのドローン100と同様に、プロペラ装置(1)160a、プロペラ装置(2)160b、プロペラ装置(3)160c、プロペラ装置(4)160dが、ドローン100に推力を与える。プロペラ装置の数は本発明には関係せず、3つであっても、5,6個であっても同様に設定することができる。ドローン100には、GPSセンサ111と高度センサ112が備えられており、それぞれからの位置および高度情報は位置・高度記録部170として時間毎に記録される。本一実施形態の特徴的な要素は、方向別制御状況テーブル400aと、アラートモード決定表500である。これらのテーブルデータと、電波受信状況特定部130、移動実行制御部150の機能を組み合わせて、電波受信強度を落とさないよう、ドローン100の移動制御を行う。これらの具体的処理内容についてはそれぞれの実施形態例において説明する。続いて、ドローン操縦器300について説明する。ユーザによる操縦指示入力としては、移動制御指示器340が備えられており、ここでドローン100の移動方向(水平、垂直方向)や速度(推力強度)を指示することができる。移動制御命令は、移動制御指示部360を通して操縦電波送受信部330から公衆電波網200を経由してドローン100に送信され、ドローン100の移動制御受信部140で受信される。受信した制御命令は、移動実行制御部150に送られ、プロペラ装置160の推力を制御する。他にユーザは、モニタ切替スイッチ320を用いて、電波モニタ画面310(水平方向として310a、垂直方向として310b)の表示を切り替える。ドローン操縦器300の電波受信状況受信部350は、ドローン100からの電波受信状況特定部130から、操縦電波送受信部330を経由して各方向の電波強度と、アラートモードを受信する。また、位置・高度受信部370はドローン100の位置・高度記録部170からの情報を受信し、電波モニタ画面310に表示する。
【0021】
ここで、電波受信状況特定部130は、各方向について、アラートモード決定表500と一時点前(以下、T-1と示す)のアラートモード、および現時点(以下、Tと示す)の電波強度に基づいて、現時点(T)におけるアラートモードを決定する。T-1時点からT時点までの時間間隔は、具体的には3秒であったり、5、10秒であったりしてもよい。移動実行制御部150は各方向のアラートモードに基づき、移動制御命令を修正する。例えば、アラートモードが「上方向への速度規制中」であれば、移動制御命令が上方向への速度増加を指示するものだとしても、これを修正して移動速度を変更しないようにする。また、例えばアラートモードが「下方向への移動規制中」であれば、移動制御命令が下方向への移動であったとしても、これを実行しないように修正する。このようにして、各方向の電波受信強度に応じた速度・移動制御を実現するものである。
【0022】
図5は、本発明の一施形態に係る、制御事例の典型例を説明する図である(図中では地点位置を丸番号で記載しているが、本文では(番号)で記載する)。ドローン100は、はじめ公衆電波網A(200a)において接続されている。ドローン操縦器300は公衆電波網C(200c)において接続されているが、公衆電波網の特性により、両者は正しく通信可能となっている。飛行を開始し、地点(1)から(2)に移動する際に、ドローン100は実際には公衆電波網B(200b)にカバーエリアが変更され接続されたものとする。このとき、本発明においては、ドローン100に設置された指向性アンテナ110により、AまたはBのどちらの公衆電波網に接続されたかは関知しない。ドローン100から接続可能な電波状況だけを制御情報に使用している。
【0023】
ドローン100が地点(2)から地点(3)を経由して、地点(4)に向かおうとするものとする。位置制御命令は地点(3)において、地点(4)に移動させようとするものとする。ただし、このとき地点(3)において、(4)の方向への電波強度が小さいものとする。このとき、(4)方向への「移動抑制」アラートモードが設定される。具体的には、ドローン100の移動実行制御部150は、指定された方向への移動に制限を行う(この方向へ向かうプロペラ装置160の角度、推力を制限する)。このため、ドローン100は公衆電波網B(200b)の圏内から離れないように動作する。このとき、(4)とは別方向であって、公衆電波網B(200b)において電波強度が高い方向への移動は可能となっている。これはいわゆる「FOOL PROOF」(人間が誤った行為をしようとしても、できないようにする工夫)制御を実現するものであり、ここにおいては電波状況の悪い方向への移動をユーザが指示したとしても、これをできなくするものである。
【0024】
ドローン100が(4)で「移動抑制」を受けた場合にも、目的地に到達できなくなるわけではない。ここで目的地が(5)であるとする。このとき、(4)はユーザにとって(5)に達するまでの経路であって、(4)で制限を受けたとしても、別ルートを用いて(5)に到達するルートがある。図5においては、(4)から(5)に至る曲線(ルート)を通る事例を示している。このルートにおいては公衆電波網B(200b)と、公衆電波網(200c)にカバーされている範囲を経由している。(4)に向けた方向を一旦抑止し、公衆電波網C(200c)にもカバーされた範囲での別ルートを通ることで、電波強度の高い制御条件の中、目的地(5)に達することを可能としている。
【0025】
[第1の実施形態例]
次に本発明の第1の実施形態例を詳しく説明する。
【0026】
図6は、電波強度状況に応じたドローン飛行の方向制御を行うための、電波受信状況特定部130と、移動実行制御部150のフローチャートを示すものである。二つの実行制御部は、方向別制御状況テーブル400aを共有している。
【0027】
電波受信状況特定部130は、飛行中常時実行されている。ステップS130-1において、指向性アンテナ110a~110cからの電波を受信し、電波受信部120a~120cを経由して、各方向の電波強度を受信する(現時点:T時点の電波強度)。ここで、水平4方向、垂直2方向の電波強度がレベル0からレベル4までの値として定量化される。
【0028】
ステップS130-2において、T時点の電波強度と、T-1時点の(直前の単位時間間隔における)アラートモードを基準として、T時点の方向別制御状況テーブル400aを決定し更新する。ここで、決定基準としてアラートモード決定表500を参照する。更新する方向別制御状況テーブル400aには、T時点の電波強度とアラートモードを書き込む。ステップS130-3において、T時点における方向別電波強度とアラートモードをドローン操縦器300に送信する。電波受信状況特定部130は、ステップS130-1からS130-3までのステップを繰り返し実行する。
【0029】
移動実行制御部150は、飛行中常時実行されている。ステップS150-1において、ドローン操縦器300からの移動制御命令を受信する。移動制御命令は、ユーザ意図により水平方向、垂直方向への移動方向、推力増減を伝えるものである。
【0030】
ステップS150-2において、電波受信状況特定部130から共有された方向別制御状況テーブル400aを参照して、S150-1で受信した移動制御命令を、このテーブルの記録数値に応じた移動制御命令に修正する。
【0031】
ステップS150-3において、修正された移動制御命令を実行する。この結果、プロペラ装置160a~160dの方向、推力が制御され、ドローン100の移動制御が行われることになる。例えば、アラートモードが「上方向への速度抑制」であれば、実行すべき移動制御命令が「上方向への速度増加」であっても、この実行は抑制される。この実行制御命令はプロペラ装置160には伝達されないため、この場合「上方向への速度増加」は実現できないものとなる。移動実行制御部150は、ステップS150-1からS150-3までのステップを繰り返し実行する。
【0032】
第1の実施形態例では、ドローン操縦器300からの移動制御命令を各方向における電波状況に応じて修正している。実際には、ステップS130-2の方向別制御状況テーブル400aの更新処理によって実現している。図7を用いて、この処理の詳細を説明する。
【0033】
図7のステップS001において、T時点の方向毎の電波強度を取得する。ここで、T時点における電波レベルとして、例えば「左:3」「右:3」「前:1」「後:1」「上:2」「下:3」などといった定量数値を得たものとする。
【0034】
S002において、アラートモード決定表500と前回決定時点(T-1時点)の方向別制御状況テーブル400aの方向別アラートレベルに基づき、方向別アラートを決定する。ここで、T-1時点の方向別制御状況テーブル400aの数値例を図7右上に示す。アラートモード決定表500の数値例は、図7右中に示される決定基準表とする。
【0035】
T-1時点の方向別制御状況テーブル400aを参照すると、アラートモードは「左:通常」「右:通常」「前:通常」「後:通常」「上:速度抑制」「下:移動抑制」となっている。このモードと、ステップS001で得た電波強度数値を参照し、アラートモード決定表500を基準として、T時点でのアラートモードを決定する。例えば、左方向のT-1時点アラートモードは「通常」であり、取得した電波強度は3(3以上)であるので、T時点のアラートモードは「通常」と決定される。上方向のT-1時点アラートモードは「速度抑制」であり、取得した電波強度は2であるので、T時点のアラートモードは「速度抑制」と決定される。下方向のT-1時点アラートモードは「移動抑制」であり、取得した電波強度は2であるので、T時点のアラートモードは「速度抑制」となる。
【0036】
ステップS003で、取得・決定されたT時点における方向別制御状況テーブル400aを更新する。この事例では、図7右下に示した数値例となる。ここで、T時点の電波強度と、決定されたアラートモードが記録されている。
【0037】
図6において、移動実行制御部150のステップS150-2において、方向別制御状況命令に応じて、移動制御命令を修正することを述べた。図7右下の数値事例によれば、移動制御命令は次のように修正される。すなわち、左、右方向の移動制御命令に修正は加えられない。前、後方向には移動抑制修正が行われる。すなわち、前、後に向かう移動を伴うプロペラ装置160への実行制御は抑止される。上、下方向へは速度抑制の修正が加えられる。すなわち、上、下方向への速度を向上させる実行制御は抑止される。このようにして、方向別の電波状況に応じた実行制御を行っている。
【0038】
[第2の実施形態例]
次に本発明の第2の実施形態例を、図8を用いて説明する。
【0039】
第2の実施形態例では、第1の実施形態例とは異なり、ドローン操縦器300内での制御を行うものである。すなわち、第1の実施形態例ではドローン100内で自律制御していたものを、操縦者の手元装置で制御するものである。図8に、ドローン操縦器300内の電波受信状況受信部350と、移動制御指示部360を組み合わせたフローチャートを示す。ここで、第1の実施形態例で用いた方向別制御状況テーブル400bとアラートモード決定表500はドローン操縦器300内のデータとして管理することとなる。それぞれの数値内容の意味は第1の実施形態例と同様である。
【0040】
電波受信状況受信部350の作用について説明する。ステップS350-1において、ドローン100からT時点でのアンテナ受信強度をドローン100から受信し、T-1時点アラートモードと、アラートモード決定表500を基準として、T時点の方向別制御状況テーブル400b(ドローン操縦器内のデータ)を更新する。処理の詳細は、第1の実施形態例における、制御方式と同じであり、図7を用いて説明した方式と同様である。
【0041】
ステップS350-2において、モニタ切替スイッチ320の状態(水平方向または垂直方向)により、電波モニタ画面を切り替える。ステップ350-3において、電波モニタ画面310を表示する。このとき、表示する電波強度とアラートモードは、T時点の方向別制御状況テーブル400bの内容を参照するものとする。これにより、ユーザは、方向別のアラートモードをドローン操縦器300内の電波モニタ画面310a、310bで把握することができる。ただし、これは第1の実施形態例においては、電波モニタ画面を表示する際の情報源としてドローン100内のT時点における方向別制御状況テーブル400aとすることで、同様の表示を得ることができるものである。
【0042】
移動制御指示部360の作用について、図8の右部において説明する。ステップS360-1において、移動制御指示器340の操作に応じた移動制御命令を作成する。ステップ360-2において、T時点の方向別制御状況テーブル400bを参照して、移動制御命令を修正する。修正する方式は第1の実施形態例と同様である。ステップS360-3において、修正された移動制御命令を、ドローン100に向かって発信する。ここで、ドローン100内の移動実行制御部150は、必ずしも移動制御命令の修正を行う必要はない。
【0043】
このように、第2の実施形態例においては、移動制御命令はドローン操縦器300内での制御となっている。本実施形態例の利点は、ドローン操縦器300内での処理を前もって行うことで、リアルタイム性が高く、好ましい移動制御命令を発信できる点にある。自律制御を用いる第1の実施形態例とは補完的な関係とも考えられる。つまり、第1の実施形態例の制御に加え、第2の実施形態例の制御を行うことで、好ましい制御を二重で実施することも可能となる。
【0044】
[第3の実施形態例]
第3の実施形態例として、制御ロジックの改良について述べる。ここでの実施形態例として、制御ロジックを方向別の電波状況の履歴参照をT-1以前からも含めて行うよう、制御ロジックを実現する。
【0045】
図9に、方向別制御状況テーブル400の更新処理(S130-2、S350-1)の改良版を示す。第1、第2の実施形態例においては、T-1時点の方向別制御状況テーブル400を読み込み、アラートモード決定表500を用いてT時点の方向別制御状況テーブル400を更新していた。ここでは、T-1時点に加え、T-2以前時点、任意のNに対してT-N時点も参照するよう改良している。
【0046】
図10に、一例として、履歴2世代を参照する方式として、T-1時点に加え、T-2時点のアラートモードを参照する、アラートモード決定表500cを示す。決定表は2次元から、3次元に次元増加している。それぞれ、T-1時点とT-2時点の状態を読み出して、アラートモードを決定している。同様に、T-N時点まで参照する方式を実現するには、アラートモード決定表500の次元を拡大し、ステップS002のロジックを修正することで可能となる。
【0047】
第3の実施形態例で示すような、参照する過去時点を増やすことは制御の安定性のために有益である。定期的な電波モニタでは、誤差や環境変化(風速、湿度)、他公衆網利用者の影響を受けることがある。過去N時点とすることで、これらの影響を考慮した制御を行うことが可能となる。これにより、飛行開始時からの電波状況を考慮して、アラート発生制御、また移動・速度制御を行うことができるようになる。
【0048】
[第4の実施形態例]
第4の実施形態例として、さらに制御ロジックの改良について述べる。ただし、ここでは位置・高度履歴600を参照して、以前の位置と高度に戻ることを実現する。これまでの第1から第3までの実施形態例で述べた制御方式によって方向制御できたとしても、電波状況は時間に対し流動的である。同じ位置、高さであったとしても電波強度が変化する可能性がある。これに対し、電波強度が一定以上良好であった位置、高度に戻ること(以下「帰還」と呼ぶ)で、再度制御可能となる可能性が高まることに貢献する。
【0049】
第4の実施形態で実現する制御方式は、アラートモード決定表500の設定内容を変更することなどで実現することができる。図11にアラートモード決定表500の修正例を示す。図11の数値例においては、電波強度0の場合の決定基準を設けている。このときのアラートモードを「帰還」としている。これは先に述べたとおり、電波強度が得られる場所に戻ることを意図したものである。ここでの実施形態例としては、「帰還」の場合は、方向別に決まるものではなく、どこかの電波強度が0となったとき、方向によらず、電波強度が良好であった時点(以下T(OK)と示す)の位置・高度に戻るものとする。図12に位置・高度履歴600の一例を示す。このときの実際の制御においては、位置・高度履歴600を参照し、電波強度が良好であったT時点(OK)の位置に戻るべく、移動制御命令を実行させることである。T(OK)の決定は、方向別制御状況テーブル400aを参照して、例えば、すべての方向の電波強度が3以上であること、アラートモードがすべて「通常」であること、などの条件で求めることができる。GPSセンサ111は公衆電波網200に比較して電波が安定しているとされている。公衆電波強度が安定していた位置・高度に戻るための移動制御命令はT時点の位置、高度から指定された時点の位置、高度に戻るためのものを組み立てて、プロペラ装置160に適切な実行をさせることで実現できる。図12の事例ではT(OK)はT-3であることを示しており、このときの(緯度、経度、高度)を(35.591080度、35.591080度、29.08m)に戻るように制御するものである。現在の位置、高度からの変化差分をとり、逆方向への移動制御命令を組み立てることによって実現可能である。
【0050】
第4の実施形態例を実現するための、電波受信状況特定部130と移動実行制御部150のフローチャートの一例を図13に示す。ここでは第1の実施形態例に、「帰還」を実現するためのロジックを組み込んだものである。第1の実施形態例と説明が重複する部分は説明を省略する。変更された点について述べる。電波受信状況特定部130のステップS130-2において、ここでは、アラートモード決定表500d(図11参照)を基準としている。ここで、「帰還」を含んで方向別制御状況テーブル400aを更新する。また、移動実行制御部150のステップS150-2においては、更新された方向別制御状況テーブル400aに加えて、位置・高度履歴600を参照して、移動制御命令を修正している。「帰還」の場合には、移動修正命令の修正にとどまらず、指定時点における位置と高度に戻るべく、移動実行命令を組みなおす。ステップ150-3において、実際にプロペラ装置160の出力制御を行う。
【0051】
第4の実施形態例において、ドローン100は電波状況の良い位置、高度に戻ることができる。ここで、改めて所定の目的位置・高度まで移動するために別のルートを使うことが可能となる。電波強度の弱い場所についての情報は、位置・高度履歴600と方向別制御状況テーブル400aに記録されている。改めて目的位置・高度に移動するためには、記録された位置を避けることで、電波状況の良い中における制御可能な状態で、目的とする飛行を実施することが可能となる。具体的には、T-3時点の位置において、電波が弱かったルートはT-2、T-1、T時点の方向別制御状況テーブル400aを参照すれば判明する。この時点の位置を避けて、別の方向からのルートを用いて目的地に向かう移動制御命令に修正することで、実現することができる。移動方向・制御の再設定は前に電波の弱い場所・高度を避けるだけでなく、帰還位置・高度からルート探索(各種のルート探索アルゴリズムが存在する)を選択することで、実現することもできる。
【0052】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(部分的削除を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。さらに、上記引用した文献の各開示事項は、必要に応じ、本発明の趣旨に則り、本発明の開示の一部として、その一部又は全部を、本書の記載事項と組み合わせて用いることも、本願の開示事項に含まれるものと、みなされる。
【符号の説明】
【0053】
100: ドローン
110、110a~110c: 指向性アンテナ
111: GPSセンサ
112: 高度センサ
120、120a~120c: 電波受信部
130: 電波受信状況特定部
140: 移動制御受信部
150: 移動実行制御部
160、160a~160d: プロペラ装置
170: 位置・高度記録部
200、200a、200b、200c: 公衆電波網
300: ドローン操縦器
310、310a、310b: 電波モニタ画面
311a、311b、311c、311d、311e、311f: アラート表示部
320: モニタ切替スイッチ
330: 操縦電波送受信部
340: 移動制御指示器
350: 電波受信状況受信部
360: 移動制御指示部
370: 位置・高度受信部
400、400a、400b: 方向別制御状況テーブル
500、500c、500d: アラートモード決定表
600、600a: 位置・高度履歴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13