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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】圃場管理システム
(51)【国際特許分類】
   A01C 15/00 20060101AFI20230711BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20230711BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20230711BHJP
   A01G 27/00 20060101ALI20230711BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20230711BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20230711BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20230711BHJP
   B64D 1/16 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A01C15/00 Z
A01G7/00 603
A01G22/22 Z
A01G27/00 504Z
A01C15/00 J
A01C15/00 B
G06Q50/02
B64C27/08
B64C39/02
B64D1/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019205972
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021078359
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】515019537
【氏名又は名称】株式会社ナイルワークス
(74)【代理人】
【識別番号】100103872
【弁理士】
【氏名又は名称】粕川 敏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100139778
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149456
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 喜幹
(74)【代理人】
【識別番号】100194238
【弁理士】
【氏名又は名称】狩生 咲
(72)【発明者】
【氏名】黒川 圭一
(72)【発明者】
【氏名】和氣 千大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏記
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-144990(JP,A)
【文献】実開平04-124025(JP,U)
【文献】特開昭51-102970(JP,A)
【文献】特開2017-204178(JP,A)
【文献】特開2010-166871(JP,A)
【文献】特開2017-085902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 15/00-23/04
A01C 3/00- 3/08
A01G 2/00- 2/38
A01G 5/00- 7/06
A01G 9/28
A01G 17/00-17/02
A01G 17/18
A01G 20/00-22/67
A01G 24/00-24/60
A01G 25/16
B64D 1/16
B64C 39/02
B64C 27/04-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の状態を計測する圃場計測部と、
前記圃場の状態に基づいて、前記圃場への肥料散布の実施を決定する散布管理部と、
前記散布管理部の決定結果を前記圃場に前記肥料を散布する散布装置に送信する結果出力部と、
を備え、前記圃場は、地表に水が貯留される水田であり、前記圃場に貯留される水量の制御とは独立して前記肥料の散布を行う圃場管理システムであって、
前記散布管理部は、前記水田に水が張られている場合には前記圃場の状態として前記圃場の水深を参照し、前記水深が所定値以下の場合に肥料散布の実施を許可し、前記水深が所定値よりも大きい場合に肥料散布の実施を禁止し、
前記散布管理部は、前記水田に水が張られていない場合には、前記圃場の状態として前記圃場の土壌の水分含有量を参照し、前記水分含有量が所定値以上の場合に肥料散布の実施を許可し、前記圃場の水分含有量が所定値よりも小さい場合に肥料散布の実施を禁止する、
圃場管理システム。
【請求項2】
前記散布装置は、前記圃場の上空から前記肥料を散布するドローンである、
請求項1記載の圃場管理システム。
【請求項3】
前記圃場内の水量を調節する水量制御装置と通信可能に接続されていて、
前記散布管理部は、前記水量制御装置による前記圃場の水量制御が開始又は予定されていることに基づいて、前記散布装置による前記肥料散布の実施を決定する、
請求項1又は2記載の圃場管理システム。
【請求項4】
前記圃場計測部は、前記圃場の水深を取得する水深計測部を有し、
前記水深に基づいて、前記圃場に水が張られているか否かを判定する、請求項1乃至3のいずれかに記載の圃場管理システム。
【請求項5】
前記肥料を少なくとも1回散布した後の圃場において、前記水田に水が張られている場合に、前記水深に基づいて過去に散布した当該肥料を再度散布する追肥を行うことを決定する追肥管理部をさらに備え、
前記追肥管理部は、前記肥料散布時の前記水深が所定以上であるとき、又は前記肥料散布後の排水量が所定以上である場合に、前記散布装置による追肥の実施を決定する、
請求項1乃至4のいずれかに記載の圃場管理システム。
【請求項6】
前記追肥管理部は、当該肥料散布後の所定時点から前記肥料が前記土壌に浸透するまでの期間における排水量に基づいて追肥の要否を決定する、
請求項5記載の圃場管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、圃場管理システム、ドローン、散布装置、水管理システム、および圃場管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場に散布される肥料は、植物に取り込まれて生長が促進されるが、圃場の状態によって植物への吸収が効率よく行われない場合がある。そこで、圃場の状態に応じて肥料の散布可否を判断し、肥料を効率よく植物に吸収させることができる圃場管理システムが必要とされている。
【0003】
特許文献1には、作物の生育度を測定する生育度測定部を備えた農作業支援用の飛行体であって、圃場における作物の生育度マップを作成し、生育度マップに基づいて、生育度の低い領域ほど多量の肥料を散布する飛行体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、農作物が配置された栽培槽と溶液タンクとの間で、肥料が溶解する溶液を循環させ、農作物の根の成長に応じて水位を任意に調整する水耕栽培方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、植物の根部の長さに対応して水分及び栄養分を提供するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許公開公報 特開2019-121144
【文献】特許公開公報 特開2011-177130
【文献】実用新案登録第3192016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肥料を効率よく植物に吸収させることができる、圃場管理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一の観点に係る圃場管理システムは、圃場の状態を計測する圃場計測部と、前記圃場の状態に基づいて、前記圃場への肥料散布の実施を決定する散布管理部と、前記散布管理部の決定結果を表示部に表示、もしくは散布を制御する散布制御部に送信する結果出力部と、を備える。
【0009】
前記圃場の状態は、前記圃場の水深を含み、前記散布管理部は、前記水深が所定値以下の場合に肥料散布の実施を許可し、前記水深が所定値よりも大きい場合に肥料散布の実施を禁止するものとしてもよい。
【0010】
前記圃場の状態は、前記圃場の水分含有量を含み、前記散布管理部は、前記圃場の水分含有量が所定値以上の場合に肥料散布の実施を許可し、前記水深が所定値よりも大きい場合に肥料散布の実施を禁止するものとしてもよい。
【0011】
前記圃場計測部は、前記圃場の水深および前記肥料の散布後における前記圃場からの排水量の少なくともいずれかを計測し、前記圃場の水深および前記排水量の少なくともいずれかに基づいて、前記圃場に生育する植物における前記肥料の吸収量を推定する吸収量推定部と、前記吸収量に基づいて、前記肥料を再度散布する追肥を行うか否かを決定する、追肥管理部と、をさらに備えるものとしてもよい。
【0012】
前記追肥管理部は、前記吸収量に基づいて、前記追肥の量を決定するものとしてもよい。
【0013】
前記圃場は、地表に水が貯留される水田であるものとしてもよい。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の別の観点に係るドローンは、上述のいずれかに記載の結果出力部と通信可能に接続されているドローンであって、
前記肥料散布の実施の決定に基づいて、前記圃場に肥料を散布する散布制御部を備える。
【0015】
前記圃場の状態は、前記圃場の水深および土壌の水分含有量の少なくともいずれかを含むものとしてもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係る散布装置は、上述のいずれかに記載の結果出力部と通信可能に接続されている散布装置であって、前記肥料散布の実施の決定に基づいて、前記圃場に肥料を散布する散布制御部を備える。
【0017】
前記圃場の状態は、前記圃場の水深および土壌の水分含有量の少なくともいずれかを含むものとしてもよい。
【0018】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係る水管理システムは、少なくとも圃場に貯留される水の給排水に起因して変化する、圃場の状態を計測する圃場計測部と、前記圃場への肥料散布の実施を決定する散布管理部と、前記圃場の状態が所定条件を満たさないとき、前記圃場に貯留されている水の給排水を制御する水量制御装置と、を備える。
【0019】
前記圃場の状態は、前記圃場の水深および土壌の水分含有量の少なくともいずれかを含むものとしてもよい。
【0020】
前記肥料散布の実施の決定に基づいて、前記圃場に肥料を散布する散布制御部をさらに備え、前記水量制御装置は、前記散布制御部による肥料散布と同時又は前記肥料散布の後に、前記圃場に貯留される水の給排水の制御を開始するものとしてもよい。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係る圃場管理方法は、少なくとも圃場に貯留されている水の給排水に起因して変化する、圃場の状態を計測する圃場計測ステップと、前記圃場に肥料を散布する散布ステップと、前記圃場の状態に基づいて、前記圃場に貯留される水の給排水を制御する水量制御ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0022】
肥料を効率よく植物に吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本願発明に係るドローンの平面図である。
図2】上記ドローンの正面図である。
図3】上記ドローンの右側面図である。
図4】上記ドローンの背面図である。
図5】上記ドローンの斜視図である。
図6】上記ドローンが含まれる飛行制御システムの全体概念図である。
図7】上記ドローンが有する機能ブロック図である。
図8】圃場およびその周辺の構成、および本願発明に係る圃場管理システムが有するハードウェア構成を示す概念図である。
図9】本願発明に係る圃場管理システムが有するドローン、操作器および圃場管理装置の機能ブロック図である。
図10】上記圃場管理システムが、圃場の水深に応じて肥料の散布可否を決定する流れを示すフローチャートである。
図11】上記圃場管理システムが、圃場の土壌の水分含有量に応じて肥料の散布可否を決定する流れを示すフローチャートである。
図12】上記圃場管理システムが、圃場の状態に応じて追肥要否を決定する流れを示すフローチャートである。
図13】本願発明に係る水管理システムが、圃場の状態に応じて圃場の水深を管理する流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図を参照しながら、本願発明を実施するための形態について説明する。図はすべて例示である。以下の詳細な説明では、説明のために、開示された実施形態の完全な理解を促すために、ある特定の詳細について述べられている。しかしながら、実施形態は、これらの特定の詳細に限られない。また、図面を単純化するために、周知の構造および装置については概略的に示されている。
【0025】
まず、本発明にかかるドローンの構成について説明する。本願明細書において、ドローンとは、動力手段(電力、原動機等)、操縦方式(無線であるか有線であるか、および、自律飛行型であるか手動操縦型であるか等)を問わず、複数の回転翼を有する飛行体全般を指すこととする。
【0026】
図1乃至図5に示すように、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4b(ローターとも呼ばれる)は、ドローン100を飛行させるための手段であり、飛行の安定性、機体サイズ、および、電力消費量のバランスを考慮し、8機(2段構成の回転翼が4セット)備えられている。各回転翼101は、ドローン100の筐体110からのび出たアームにより筐体110の四方に配置されている。すなわち、進行方向左後方に回転翼101-1a、101-1b、左前方に回転翼101-2a、101-2b、右後方に回転翼101-3a、101-3b、右前方に回転翼101-4a、101-4bがそれぞれ配置されている。なお、ドローン100は図1における紙面下向きを進行方向とする。
【0027】
回転翼101の各セットの外周には、略円筒形を形成する格子状のプロペラガードが設けられ、回転翼101が異物と干渉しづらくなるようにしている。図2および図3に示されるように、プロペラガード115-1,115-2,115-3,115-4を支えるための放射状の部材は水平ではなくやぐら状の構造である。衝突時に当該部材が回転翼の外側に座屈することを促し、ローターと干渉することを防ぐためである。
【0028】
モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、102-4a、102-4bは、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4bを回転させる手段(典型的には電動機だが発動機等であってもよい)であり、一つの回転翼に対して1機設けられている。モーター102は、推進器の例である。1セット内の上下の回転翼(たとえば、101-1aと101-1b)、および、それらに対応するモーター(たとえば、102-1aと102-1b)は、ドローンの飛行の安定性等のために軸が同一直線上にあり、かつ、互いに反対方向に回転する。
【0029】
ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、被散布物を下方に向けて散布するための手段であり4機備えられている。なお、本願明細書において、被散布物とは、農薬、除草剤、液肥、殺虫剤、種、および、水などの圃場に散布される液体または粉体を一般的に指すこととする。また、被散布物は、例えば豆粒剤と呼ばれる、粒径5mm程度の豆粒型に加工された肥料である。豆粒型に加工された肥料として、豆つぶ(登録商標)が知られている。さらに、被散布物は、豆粒剤より粒径の小さい粒剤であってもよい。
【0030】
タンク104は被散布物を保管するためのタンクであり、重量バランスの観点からドローン100の重心に近い位置でかつ重心より低い位置に設けられている。ホース105-1、105-2、105-3、105-4は、タンク104と各ノズル103-1、103-2、103-3、103-4とを接続する手段であり、硬質の素材から成り、当該ノズルを支持する役割を兼ねていてもよい。ポンプ106は、被散布物をノズルから吐出するための手段である。
【0031】
図6に本願発明に係るドローン100の飛行制御システムの全体概念図を示す。本図は模式図であって、縮尺は正確ではない。同図において、ドローン100、操作器401、小型携帯端末401aが、それぞれ基地局404と接続されていて、操作器401のみが営農クラウド405と接続されているが、接続関係は例示であり、これに限られない。ドローン100、操作器401、小型携帯端末401a、基地局404は、営農クラウド405にそれぞれ接続されている。これらの接続は、Wi-Fiや移動通信システム等による無線通信を行ってもよいし、一部又は全部が有線接続されていてもよい。
【0032】
操作器401は、使用者402の操作によりドローン100に指令を送信し、また、ドローン100から受信した情報(たとえば、位置、被散布物の貯留量、電池残量、カメラ映像等)を表示するための手段であり、コンピューター・プログラムを稼働する一般的なタブレット端末等の携帯情報機器によって実現されてよい。操作器401は、ユーザインターフェース装置としての入力部4011および表示部4012を備える(図8参照)。本願発明に係るドローン100は自律飛行を行なうよう制御されるが、離陸や帰還などの基本操作時、および、緊急時にはマニュアル操作が行なえるようになっていてもよい。携帯情報機器に加えて、緊急停止専用の機能を有する非常用操作器(図示していない)を使用してもよい。非常用操作器は緊急時に迅速に対応が取れるよう大型の緊急停止ボタン等を備えた専用機器であってもよい。さらに、操作器401とは別に、操作器401に表示される情報の一部又は全部を表示可能な小型携帯端末401a、例えばスマートホンがシステムに含まれていてもよい。また、小型携帯端末401aから入力される情報に基づいて、ドローン100の動作が変更される機能を有していてもよい。小型携帯端末401aは、例えば基地局404と接続されていて、基地局404を介して営農クラウド405からの情報等を受信可能である。
【0033】
圃場403は、ドローン100による散布の対象となる田圃であり、地表に水が貯留されている水田である。実際には、圃場403の地形は複雑であり、事前に地形図が入手できない場合、あるいは、地形図と現場の状況が食い違っている場合がある。通常、圃場403は家屋、病院、学校、他の作物圃場、道路、鉄道等と隣接している。また、圃場403内に、建築物や電線等の侵入者が存在する場合もある。
【0034】
基地局404は、Wi-Fi通信の親機機能等を提供する装置であり、RTK-GPS基地局としても機能し、ドローン100の正確な位置を提供できるようになっていてもよい(Wi-Fi通信の親機機能とRTK-GPS基地局が独立した装置であってもよい)。また、基地局404は、3G、4G、およびLTE等の移動通信システムを用いて、営農クラウド405と互いに通信可能であってもよい。
【0035】
営農クラウド405は、典型的にはクラウドサービス上で運営されているコンピュータ群と関連ソフトウェアであり、操作器401と携帯電話回線等で無線接続されていてもよい。営農クラウド405は、ハードウェア装置により構成されていてもよい。営農クラウド405は、ドローン100が撮影した圃場403の画像を分析し、作物の生育状況を把握して、飛行ルートを決定するための処理を行ってよい。また、保存していた圃場403の地形情報等をドローン100に提供してよい。加えて、ドローン100の飛行および撮影映像の履歴を蓄積し、様々な分析処理を行ってもよい。
【0036】
小型携帯端末401aは例えばスマートホン等である。小型携帯端末401aの表示部には、ドローン100の運転に関し予測される動作の情報、より具体的にはドローン100が発着地点406に帰還する予定時刻や、帰還時に使用者402が行うべき作業の内容等の情報が適宜表示される。また、小型携帯端末401aからの入力に基づいて、ドローン100の動作を変更してもよい。
【0037】
通常、ドローン100は圃場403の外部にある発着地点406から離陸し、圃場403に被散布物を散布した後に、あるいは、被散布物の補充や充電等が必要になった時に発着地点406に帰還する。発着地点406から目的の圃場403に至るまでの飛行経路(侵入経路)は、営農クラウド405等で事前に保存されていてもよいし、使用者402が離陸開始前に入力してもよい。発着地点406は、ドローン100に記憶されている座標により規定される仮想の地点であってもよいし、物理的な発着台があってもよい。
【0038】
図7に本願発明に係る散布用ドローンの実施例の制御機能を表したブロック図を示す。フライトコントローラー501は、ドローン全体の制御を司る構成要素であり、具体的にはCPU、メモリー、関連ソフトウェア等を含む組み込み型コンピュータであってよい。フライトコントローラー501は、操作器401から受信した入力情報、および、後述の各種センサーから得た入力情報に基づき、ESC(Electronic Speed Control)等の制御手段を介して、モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの回転数を制御することで、ドローン100の飛行を制御する。モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの実際の回転数はフライトコントローラー501にフィードバックされ、正常な回転が行なわれているかを監視できる構成になっている。あるいは、回転翼101に光学センサー等を設けて回転翼101の回転がフライトコントローラー501にフィードバックされる構成でもよい。
【0039】
フライトコントローラー501が使用するソフトウェアは、機能拡張・変更、問題修正等のために記憶媒体等を通じて、または、Wi-Fi通信やUSB等の通信手段を通じて書き換え可能になっている。この場合において、不正なソフトウェアによる書き換えが行なわれないように、暗号化、チェックサム、電子署名、ウィルスチェックソフト等による保護が行われている。また、フライトコントローラー501が制御に使用する計算処理の一部が、操作器401上、または、営農クラウド405上や他の場所に存在する別のコンピュータによって実行されてもよい。フライトコントローラー501は重要性が高いため、その構成要素の一部または全部が二重化されていてもよい。
【0040】
フライトコントローラー501は、Wi-Fi子機機能503を介して、さらに、基地局404を介して操作器401とやり取りを行ない、必要な指令を操作器401から受信すると共に、必要な情報を操作器401に送信できる。この場合に、通信には暗号化を施し、傍受、成り済まし、機器の乗っ取り等の不正行為を防止できるようにしておいてもよい。基地局404は、Wi-Fiによる通信機能に加えて、RTK-GPS基地局の機能も備えている。RTK基地局の信号とGPS測位衛星からの信号を組み合わせることで、フライトコントローラー501により、ドローン100の絶対位置を数センチメートル程度の精度で測定可能となる。フライトコントローラー501は重要性が高いため、二重化・多重化されていてもよく、また、特定のGPS衛星の障害に対応するため、冗長化されたそれぞれのフライトコントローラー501は別の衛星を使用するよう制御されていてもよい。
【0041】
6軸ジャイロセンサー505はドローン機体の互いに直交する3方向の加速度を測定する手段であり、さらに、加速度の積分により速度を計算する手段である。6軸ジャイロセンサー505は、上述の3方向におけるドローン機体の姿勢角の変化、すなわち角速度を測定する手段である。地磁気センサー506は、地磁気の測定によりドローン機体の方向を測定する手段である。気圧センサー507は、気圧を測定する手段であり、間接的にドローンの高度も測定することもできる。レーザーセンサー508は、レーザー光の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段であり、IR(赤外線)レーザーであってもよい。ソナー509は、超音波等の音波の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段である。これらのセンサー類は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよい。また、機体の傾きを測定するためのジャイロセンサー(角速度センサー)、風力を測定するための風力センサーなどが追加されていてもよい。また、これらのセンサー類は、二重化または多重化されていてもよい。同一目的複数のセンサーが存在する場合には、フライトコントローラー501はそのうちの一つのみを使用し、それが障害を起こした際には、代替のセンサーに切り替えて使用するようにしてもよい。あるいは、複数のセンサーを同時に使用し、それぞれの測定結果が一致しない場合には障害が発生したと見なすようにしてもよい。
【0042】
流量センサー510は被散布物の流量を測定するための手段であり、タンク104からノズル103に至る経路の複数の場所に設けられている。液切れセンサー511は被散布物の量が所定の量以下になったことを検知するセンサーである。マルチスペクトルカメラ512は圃場403を撮影し、画像分析のためのデータを取得する手段である。侵入者検知カメラ513はドローン侵入者を検知するためのカメラであり、画像特性とレンズの向きがマルチスペクトルカメラ512とは異なるため、マルチスペクトルカメラ512とは別の機器である。スイッチ514はドローン100の使用者402が様々な設定を行なうための手段である。侵入者接触センサー515はドローン100、特に、そのローターやプロペラガード部分が電線、建築物、人体、立木、鳥、または、他のドローン等の侵入者に接触したことを検知するためのセンサーである。なお、侵入者接触センサー515は、6軸ジャイロセンサー505で代用してもよい。カバーセンサー516は、ドローン100の操作パネルや内部保守用のカバーが開放状態であることを検知するセンサーである。薬剤注入口センサー517は薬剤タンク104の注入口が開放状態であることを検知するセンサーである。
【0043】
これらのセンサー類はドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。また、ドローン100外部の基地局404、操作器401、または、その他の場所にセンサーを設けて、読み取った情報をドローンに送信してもよい。たとえば、基地局404に風力センサーを設け、風力・風向に関する情報をWi-Fi通信経由でドローン100に送信するようにしてもよい。
【0044】
フライトコントローラー501はポンプ106に対して制御信号を送信し、吐出量の調整や吐出の停止を行なう。ポンプ106の現時点の状況(たとえば、回転数等)は、フライトコントローラー501にフィードバックされる構成となっている。
【0045】
LED107は、ドローンの操作者に対して、ドローンの状態を知らせるための表示手段である。LEDに替えて、または、それに加えて液晶ディスプレイ等の表示手段を使用してもよい。ブザーは、音声信号によりドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるための出力手段である。Wi-Fi子機機能519は操作器401とは別に、たとえば、ソフトウェアの転送などのために外部のコンピューター等と通信するためのオプショナルな構成要素である。Wi-Fi子機機能に替えて、または、それに加えて、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、NFC等の他の無線通信手段、または、USB接続などの有線通信手段を使用してもよい。また、Wi-Fi子機機能に替えて、3G、4G、およびLTE等の移動通信システムにより相互に通信可能であってもよい。スピーカー520は、録音した人声や合成音声等により、ドローンの状態(特にエラー状態)を知らせる出力手段である。天候状態によっては飛行中のドローン100の視覚的表示が見にくいことがあるため、そのような場合には音声による状況伝達が有効である。警告灯521はドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるストロボライト等の表示手段である。これらの入出力手段は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。
【0046】
●圃場および周辺の構成
図8に示すように、圃場403には、水源900からの水が流入する給水路901と、圃場403に貯留されている水(以下、「貯留水」ともいう。)が水路910に流出する排水路911が連結されている。給水路901には、流入する水量、すなわち給水量を調節する水門902が配設されている。また、排水路911には、排水量を調節する水門912が配設されている。圃場403は給水路901から排水路911に向かって僅かに鉛直方向下向きに傾斜しており、水門902および水門912を開閉すると、傾斜に従って水が流入および流出する。水門902、912は、バルブであってもよい。
【0047】
圃場403には、後述する圃場管理装置600(図9参照)が備えるハードウェア構成の少なくとも一部が配置されている。圃場管理装置600は、ハードウェア構成として、土壌水分量センサ920、水深センサ921、流量センサ925、第2流量センサ926、水門板開閉装置931、および第2水門板開閉装置932を備える。
【0048】
土壌水分量センサ920は、圃場403における土壌の水分含有量を計測するセンサである。水深センサ921は、圃場403の水深を計測するセンサであり、フロート式、テープ式、超音波式等適宜の形式のセンサであってよい。流量センサ925は給水路901に配設され、圃場403に流入する水量を計測するセンサである。第2流量センサ926は、排水路911に配設され、圃場403から流出する水量を計測するセンサである。土壌水分量センサ920、水深センサ921、流量センサ925および第2流量センサ926は、いずれも外部機器と通信可能な通信処理部を有していて、圃場管理システム1000の各構成、例えば操作器401に計測結果を送信可能である。
【0049】
水門板開閉装置931および第2水門板開閉装置932は、水門902、912とそれぞれ接続されていて、電気的に水門902、912を開閉する装置である。水門板開閉装置931、932は、例えば水門902、912を構成する水門を上下させるアクチュエータで構成されていてもよいし、水門を回転させて水路を開放するモータにより構成されていてもよい。水門板開閉装置931,932は、外部機器と通信可能な通信処理部を有していて、水管理システム2000の各構成、例えば操作器401又は圃場管理装置600が有するソフトウェア構成からの指令に基づいて、水門902、912を開閉する。
【0050】
●制御システムの概要
図9に示すように、圃場管理システム1000は、例えばドローン100、操作器401および圃場管理装置600を含むシステムであり、圃場403の状態に応じてドローン100から散布する肥料を制御するシステムである。圃場管理システム1000に含まれる各構成は、ネットワークNWを通じて互いに通信可能に接続されている。圃場管理装置600が有する各ソフトウェア構成は、営農クラウド405上に構成されていてもよい。ドローン100、操作器401および圃場管理装置600は、無線で互いに接続されていてもよいし、一部又は全部が有線により接続されていてもよい。
【0051】
なお、図8に示した構成は例示であり、ある構成要素が別の構成要素を包含していてもよいし、各構成要素が有する機能部は、別の構成要素が有していてもよい。すなわち、圃場管理システム1000の各構成要素は、ドローン100の中に搭載されていてもよいし、ドローン100とは別のハードウェアに実装されていてもよい。
【0052】
また、圃場の水管理システム2000は、少なくとも圃場管理装置600および水量制御装置700を含むシステムであり、圃場403内の貯留水量を制御するシステムである。圃場管理装置600および水量制御装置700は互いに通信可能に接続されている。
【0053】
●ドローンの機能部
ドローン100は、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を備え、これによりソフトウェア資源として少なくとも、飛行制御部1001、散布制御部1002を有する。
【0054】
飛行制御部1001は、モーター102を稼働させ、ドローン100の飛行および離着陸を制御する機能部である。飛行制御部1001は、例えばフライトコントローラー501によって実現される。飛行制御部1001はドローン100を制御して、ドローン100を圃場の上空に飛行させる。
【0055】
散布制御部1002は、ポンプ106を稼働させ、ノズル103-1、103-2、103-3、103-4からの肥料散布を制御する機能部である。散布制御部1002は、例えばフライトコントローラー501によって実現される。
【0056】
なお、圃場への肥料散布は本実施形態においてはドローン100の散布制御部1002により行われるものとしたが、当該散布制御部は、ドローン100以外の、散布機能を有する散布装置が有していてもよい。散布装置は、例えばブームスプレイヤーのような陸上走行を行う農業用機械であってもよいし、据え置き型の散布装置であってもよい。散布装置は、後述する結果出力部640から送信される肥料散布の実施の決定に基づいて、肥料散布を行う。
【0057】
●圃場管理装置の機能部
図8に示すように、圃場管理装置600は、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を備え、これによりソフトウェア資源として少なくとも、圃場計測部610、吸収量推定部620、肥料管理部630および結果出力部640を備える。
【0058】
圃場計測部610は、圃場の状態を示す指標を計測する機能部である。圃場の状態を示す指標とは、少なくとも圃場403に貯留される水の給排水に起因して変化する指標であり、例えば、貯留水の水深、給排水の流量および土壌の水分含有量を含む。圃場計測部610は、水深計測部611、流水量計測部612および土壌水分量計測部613の各機能ブロックを備える。
【0059】
水深計測部611は、水深センサ921により圃場403の水深を取得する機能部である。流水量計測部612は、流量センサ925および第2流量センサ926により、給水路901から圃場403に流入する水量、および排水路911を介して圃場403から流出する水量を取得する機能部である。土壌水分量計測部613は、土壌水分量センサ920により、圃場403における土壌の水分含有量を取得する機能部である。
【0060】
吸収量推定部620は、圃場の状態に基づいて、圃場に生育する植物における肥料の吸収量を推定する機能部である。吸収量推定部620は、肥料散布前に、散布される肥料の吸収量を推定する。また、吸収量推定部620は、散布時および散布後の圃場の状態に基づいて、散布された肥料の吸収量を推定する。
【0061】
吸収量推定部620は、水深に基づいて、吸収量を推定する。吸収量推定部620は、肥料散布時の水深が浅い程、吸収量が大きいと推定する。単位面積当たりの散布量が同一である場合、水に溶解する肥料濃度は、水深が浅いほど高くなり、水深が深いほど低くなる。圃場に水が張られている場合、圃場に散布された肥料の有効成分は、水に溶け込んで土に吸収され、作物の根から作物内に取り込まれる。そのため、水に溶け込んだ肥料濃度を高く保ち、土に吸収される肥料の有効成分を増やすために肥料散布時の水深は所定値よりも小さいことが望ましい。すなわち、水深が浅いほど土壌に浸透する肥料成分が多くなり、植物への吸収量が大きいと推定できるためである。
【0062】
吸収量推定部620は、肥料散布後所定期間における圃場403の水深に基づいて、吸収量を推定してもよい。肥料は水に溶解すると、次第に土壌に浸透し、ひいては植物に取り込まれる。また、土壌に浸透するにつれ、水分中に含有される濃度は低下する。したがって、肥料が水に溶解している所定期間における水深に基づいて吸収量を推定することで、より正確に吸収量を推定できる。
【0063】
また、吸収量推定部620は、肥料散布後の所定時点から所定期間における水深に基づいて、吸収量を推定してもよい。肥料は、散布から一定期間、例えば数日間は水に溶解しない。そこで、吸収量推定部620は、肥料が溶解を開始する時点、又は肥料がある程度溶解した所定時点から土壌に浸透するまでの期間における水深に基づいて吸収量を推定することで、正確に吸収量を推定することができる。
【0064】
また、吸収量推定部620は、肥料散布後において、肥料散布後所定期間における圃場403からの排水量に基づいて、吸収量を推定する。肥料散布後の所定期間に圃場403の水が排水されると、肥料が溶解した水が流出するため、吸収量が低くなるためである。吸収量推定部620は、肥料散布後の所定時点から所定期間における排水量に基づいて、吸収量を推定してもよい。例えば、吸収量推定部620は、肥料が溶解を開始する時点、又は肥料がある程度溶解した所定時点から土壌に浸透するまでの期間における排水量に基づいて吸収量を推定してもよい。この構成によれば、正確に吸収量を推定することができる。
【0065】
さらに、吸収量推定部620は、圃場403の土壌に含まれる水分含有量に基づいて吸収量を推定してもよい。圃場に水が張られていない場合、圃場に散布された肥料の有効成分は、土壌に含まれる水分に溶け込み、作物の根から作物内に取り込まれる。ここで、土壌に含まれる水分が少なく、干上がっている状態だと、土壌表面に散布された肥料の有効成分が作物の根まで行き渡らず、作物内に吸収されないため、肥料散布時の土壌の水分含有量は所定値よりも大きいことが望ましい。
【0066】
なお、吸収量推定部620は、水深計測部611により取得した水深に基づいて、圃場403に水が張られているか否かを判定し、水が張られているときは水深に基づいて吸収量を推定し、水が張られていないときは土壌の水分含有量に基づいて吸収量を推定してもよい。また、水が張られているときは、水深および土壌の水分含有量を組み合わせて吸収量を推定してもよい。
【0067】
肥料管理部630は、圃場403に対する肥料散布を管理する機能部である。肥料管理部630は、散布管理部631および追肥管理部632を備える。
【0068】
散布管理部631は、圃場計測部610により計測される圃場403の状態に基づいて、所定条件を満たしたことを条件に肥料散布の実施を決定する機能部である。圃場に水が張られている場合には、圃場の貯留水の水深が所定値以下の時に肥料散布を許可し、水深が所定値よりも大きいときに肥料散布を禁止する。圃場に水が張られていない場合には、圃場の土壌の水分含有量が所定値以上のときに肥料散布を許可し、水分含有量が所定値よりも小さいときに、肥料散布を禁止する。この構成によれば、圃場403の状態が吸収に適しているときに肥料散布を行えるため、肥料を植物に確実に吸収させることができる。
【0069】
散布管理部631は、吸収量推定部620により推定される吸収量に基づいて肥料散布の実施を決定してもよい。また、散布管理部631は、吸収量推定部620により推定される吸収量に基づいて、散布量を決定してもよい。例えば、散布管理部631は、規定量を散布する場合に推定される吸収量が意図する吸収量より少ないとき、規定量より多い量を散布することを決定してもよい。この構成によれば、あらかじめ多くの肥料を散布しておくことで、植物への吸収量を担保することができる。また、追肥の頻度が軽減され、ドローン100の飛行回数を減らし、省力化できる。
【0070】
散布管理部631は、圃場403の状態が所定条件を満たしていない場合であっても、水量制御装置700による水量制御が開始又は予定されていることに基づいて、肥料散布の実施を決定してもよい。貯留水の給排水は、地面の傾斜角に応じて水源900からの水が流入し、排出されることにより行われる。また、土壌の水分含有量は、土壌に水分が浸透することで変化する。したがって、水量制御装置700による制御においては、圃場403の水深および土壌の水分含有量が所定の値に収束するまでに数日を要する。そこで、水量制御装置700により水深および土壌の水分含有量が変化している過渡応答期間であるか、変化する予定がある場合には、散布管理部631は、肥料散布の実施を決定する。なお、肥料の溶解は数日を要することから、肥料散布後数日中に給排水が行われても、吸収量に大きな影響がない。肥料の溶解に数日を要することを利用して、水量制御の完了前に肥料を散布する構成によれば、水量制御の完了後に肥料を散布する構成に比べて、より早い時期に肥料散布を行うことができ、農業の計画を遅れさせることがない。
【0071】
追肥管理部632は、少なくとも1回肥料を散布した後の圃場403において、圃場計測部610により計測される圃場403の状態に基づいて、追肥、すなわち過去に散布した当該肥料を再度散布することを決定する機能部である。追肥管理部632は、肥料散布時の水深および肥料散布後の排水量に基づいて、追肥の要否を決定する。すなわち、追肥管理部632は、水深が所定以上であるとき追肥の実施を決定する。また、追肥管理部632は、排水量が所定以上であるとき追肥の実施を決定する。上述したように、水深が大きいときおよび排水量が大きいときには、植物に吸収される肥料濃度が低いためである。
【0072】
また、追肥管理部632は、当該肥料散布後の所定時点から所定期間における排水量に基づいて、追肥の要否を決定してもよい。すなわち、追肥管理部632は、肥料が溶解を開始する時点、又は肥料がある程度溶解した所定時点から土壌に浸透するまでの期間における排水量に基づいて追肥の要否を決定してもよい。追肥管理部632は、吸収量推定部620により算出される肥料散布後の吸収量に基づいて、追肥の要否を決定してもよい。
【0073】
追肥管理部632は、水深および肥料散布後の排水量の少なくともいずれか、又は推定される肥料散布後の吸収量に基づいて、追肥する肥料の散布量を決定してもよい。追肥管理部632は、圃場403の水深が大きいほど多くの肥料を散布することを決定する。追肥管理部632は、排水量が大きいほど、多くの肥料を散布することを決定する。また、追肥管理部632は、推定される吸収量が小さいほど、多くの肥料を散布することを決定する。この構成によれば、必要な量の追肥を適切に行うことができる。
【0074】
結果出力部640は、散布管理部631の決定結果を表示部4012に表示、もしくは散布制御部1002に送信する機能部である。例えば、表示部4012には、肥料散布の実施可否が表示される。なお、表示部4012は、操作器401において想定されるタブレットの他、パーソナルコンピュータに備えられていてもよい。使用者は、当該表示を見て作業計画の修正要否を検討してもよいし、ドローン100による散布の準備を行ってもよい。また、使用者は、ドローン100以外の、散布機能を有する散布装置により、肥料散布を行ってもよい。
【0075】
なお、結果出力部640は、追肥管理部632の決定結果を表示部4012に表示、もしくは散布制御部1002に送信してもよい。
【0076】
散布制御部1002は、結果出力部640から受信した散布実施可否の情報に基づいて、圃場への散布を実施する。
【0077】
水量制御装置700は、貯留水の量を調節する装置である。水量制御装置700は、図8に示す水門板開閉装置931、および第2水門板開閉装置932により水門902、912をそれぞれ開閉させることで、圃場403内の水量を調節する。
【0078】
水量制御装置700は、圃場403内の水深が所定値を超えるとき、水門912を開いて排水する。水深は、圃場管理装置600が有する水深計測部611から、ネットワークNWを介して受信してもよい。肥料が散布されて貯留水に肥料が溶け込む際の水深を所定以下に保つことで、貯留水に含まれる肥料の濃度を所定値以上に維持することができるため、貯留水から土壌に染み込む肥料濃度を所定値以上に維持できる。
【0079】
また、水量制御装置700は、圃場403の面積が大きいほど、給水量を増加させる。
【0080】
水量制御装置700は、外気温、外気との熱伝達係数、および圃場403に照射される日射量に基づいて給水量を決定してもよい。上記パラメータは土壌温度の変化や圃場からの蒸発により排出される水分量に影響を与えるため、水量制御装置700が当該パラメータを考慮することにより、より精密な給水量の制御を行うことができる。更に、雨により圃場の水量が増加するため、水量制御装置700が雨量の情報を考慮して給水量を決定することも可能である。
【0081】
水量制御装置700は、水の給水又は排水を肥料散布後に実施してもよい。すなわち、水量制御装置700は、給水又は排水を肥料散布後に開始してもよいし、肥料散布前に開始し、肥料散布後まで継続してもよい。粒剤状の肥料は、散布から一定期間、例えば数日間は水に溶解しない溶解速度が遅いものもあるため、溶解速度が遅い粒剤を散布する場合には、粒剤状の肥料を散布して所定期間内に給水又は排水を実施しても、圃場の肥料濃度が薄くなったり、肥料が排出されたりすることがないためである。この構成によれば、水量制御の完了を待たずに肥料を散布できるため、農作業への遅れが生じず、利便性が高い。
【0082】
散布管理部631による肥料散布の決定、水量制御装置700による水量制御の開始と終了、およびドローン100による肥料散布の実行は、所定範囲の期間において順不同であり、同時に行われてもよい。この構成によれば、水量制御に要する時間に関わらず肥料散布を柔軟に計画できる。
【0083】
●初回散布の実施を決定するフローチャート
圃場403に水が張られている場合において、図10に示すように、まず、圃場計測部610により、圃場403の状態を計測する(S11)。次いで、肥料管理部630により、圃場403の水深が所定値以下であるか否か判定する(S12)。水深が所定値以下であるとき、肥料管理部630により、圃場403に肥料を散布することを決定する(S13)。圃場403の水深が所定値以下でないとき、肥料管理部630は、当該時点においては肥料散布しないことを決定する(S14)。このフローチャートのように、圃場の水深が所定値以下であるときに、肥料散布を行い、圃場の水深が所定値以下でないときに、肥料散布を行わないとする制御により、土壌に浸透する肥料濃度を所定値以上に維持することができるため、肥料の有効成分が植物に吸収される割合を向上させることができる。
【0084】
また、図11に示すように、圃場403の状態を計測し(S21)、圃場403の土壌の水分含有量が所定値以上であるか否か判定する(S22)。土壌の水分含有量が所定値以上であるとき、肥料管理部630により、圃場403に肥料を散布することを決定する(S23)。圃場403の土壌水分含有量が所定値以上でないとき、肥料管理部630は、当該時点においては肥料散布しないことを決定する(S24)。このフローチャートのように、土壌の水分含有量が所定値以上であるときに、肥料散布を行い、土壌の水分含有量が所定値以上でないときに、肥料散布を行わないとする制御により、土壌に浸透する肥料濃度を所定値以上に維持することができるため、肥料の有効成分が植物に吸収される割合を向上させることができる。
【0085】
ステップS13、S14、S23およびS24において、決定した内容を操作器401等のユーザインターフェース装置を介して使用者に通知してもよい。
【0086】
なお、ステップS22において、肥料管理部630は、水深および土壌の水分含有量の双方を判定し、水深が所定値以下、かつ土壌の水分含有量が所定値以上の場合に肥料散布を行うことを決定してもよい。肥料管理部630は、水深が所定値以下、又は土壌の水分含有量が所定値以上の場合に肥料散布を行うことを決定してもよい。
【0087】
この構成によれば、圃場403の状態が吸収に適しているときに肥料散布を行えるため、肥料を植物に確実に吸収させることができる。
【0088】
●圃場の状態に応じて追肥を決定するフローチャート
図12に示すように、まず、圃場計測部610により圃場403の状態を計測する(S31)。検討対象の肥料の前回散布時における水深が所定値を超えるとき(S32)、又は当該肥料の散布後における所定期間の排水量が所定値を超えるとき(S33)、追肥管理部632は、圃場403に肥料の追加散布(追肥)を行うことを決定する(S34)。水深および所定期間の排水量が所定値以下のとき、追肥管理部632は、追肥しないことを決定する(S35)。
【0089】
●圃場の水深を制御するフローチャート
図13に示すように、まず、圃場計測部610により、圃場403の状態を計測する(S41)。水深が所定値以下であるとき(S42)、肥料管理部630は、肥料散布の実施を決定する(S43)。次いで、ドローン100または他の散布装置が肥料散布を行う(S44)。
【0090】
ステップS42において水深が所定値以下でないとき、肥料管理部630は、肥料散布の実施を決定する(S45)。次いで、ドローン100又は散布装置が肥料散布を行う(S46)。次いで、水量制御装置700により、圃場403の排水が開始される(S47)。なお、ステップS46とステップS47は所定期間内において順不同であり、同時に行われてもよい。所定期間とは、肥料が散布されてから圃場403内の水に溶解するまでの期間であり、例えば圃場403内の水における肥料濃度が所定濃度に達するまでの期間である。
【0091】
このような構成によれば、水量制御が完了する前であっても肥料散布を実施できるため、水量制御に要する時間に関わらず肥料散布を柔軟に計画できる。
【0092】
なお、本説明においては、肥料散布を目的とする農業用ドローンを例に説明したが、本発明の技術的思想はこれに限られるものではなく、自律的に動作する機械を含むシステム全般に適用可能である。例えば、自律的に動作する、地面を自走する機械により肥料を散布するシステムにも適用可能である。
【0093】
(本願発明による技術的に顕著な効果)
本発明にかかる圃場管理システムにおいては、肥料を効率よく植物に吸収させることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13