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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】貴金属回収剤、及び貴金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20230711BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022019660
(22)【出願日】2022-02-10
【審査請求日】2022-08-22
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515356410
【氏名又は名称】株式会社ガルデリア
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100215957
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 明照
(72)【発明者】
【氏名】アダムス 英里
(72)【発明者】
【氏名】前田 和輝
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0200501(US,A1)
【文献】特開平10-008155(JP,A)
【文献】特開平11-012663(JP,A)
【文献】特開平06-340932(JP,A)
【文献】特表2013-524024(JP,A)
【文献】特開2019-131415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0047165(US,A1)
【文献】特開2000-126504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0070629(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/277351(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114286829(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金が溶解した金属溶液から金回収剤により金を回収する工程を備え、
前記金回収剤が、コーヒー果実を有効成分として含有する、金の回収方法。
【請求項2】
前記有効成分が、コーヒー豆又は銀皮である、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記コーヒー豆が、粉砕銀皮、焙煎コーヒー豆、焙煎粉砕コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆残渣からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記金属溶液が、金、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解している溶液である、請求項1~3のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記ヨウ素の塩が、ヨウ素とアルカリ金属との塩、及びヨウ素とアルカリ土類金属との塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の回収方法。
【請求項6】
前記還元剤が、アスコルビン酸を含む、請求項4又は5に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属回収剤、及び貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金やパラジウム等の貴金属は、各種の電子製品、自動車触媒等の製造に欠かせないものとなっている。電子製品、自動車触媒等の製造量が増加を続ける一方で、これらの貴金属は、その産出量が限られている。今後も安定した電子製品、自動車触媒等の製造を続けるためには、廃棄された製品から得られる金属廃液等から貴金属を回収し、貴金属をリサイクルしていくことが重要である。
【0003】
貴金属の回収方法としては、例えば、溶媒抽出法やイオン交換法などを用いた化学的な回収方法が知られている。しかし、これらの方法では、金属廃液中に低濃度(例えば、10ppm以下)で含まれる貴金属を経済的に成り立つ方法で回収することは難しかった。そこで、近年では、低濃度の貴金属でも回収可能な方法の開発が進められている。例えば、特許文献1には、シアニディウム目の紅藻の細胞の乾燥物、シアニディウム目の紅藻の細胞由来物の乾燥物、又は前記細胞の乾燥物もしくは前記細胞由来物の乾燥物を模した人工物を含む、金属回収剤又は金属化合物回収剤が開示されている。
【0004】
また、発展途上国の貧困層が個人やグループで金を採掘すること(スモールスケールマイニング)が行われている。金のスモールスケールマイニングでは、例えば、金鉱石の粉砕物に水銀を加えて金アマルガムを得た後、金アマルガムを加熱して水銀を気化させて、残った粗金を得る手法がとられている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/155687号
【非特許文献】
【0006】
【文献】UNEP,2013,Global Mercury Assessment 2013:Sources,Emissions,Releases and Environmental Transport.,UNEP Chemicals Branch,Geneva,Switzerland
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、低濃度の貴金属でも回収可能な方法、及び当該方法に使用する貴金属回収剤はいくつか知られている。一方、貴金属回収剤及び貴金属回収方法そのものの選択肢が増えることによって、貴金属の回収効率のみならず、例えば、原料調達、貴金属回収剤の製造、貴金属回収方法の実施等に要するコスト・容易さを勘案した選択が可能となる。
【0008】
また、水銀を使用した金のスモールスケールマイニングには、従事者の健康への悪影響、環境中に放出される水銀による環境汚染等の問題がある。水銀を使用した金のスモールスケールマイニングを代替できる、安価で安全に実施できる方法が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、新規な貴金属回収剤、及び貴金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、コーヒー豆及び銀皮(焙煎して粉砕したコーヒー豆、当該コーヒー豆からエキスを抽出した後の残渣等)が選択的に貴金属を吸着することを見出した。本発明は、この新規な知見に基づくものである。
【0011】
本発明は、コーヒー果実を有効成分として含有する、貴金属回収剤に関する。
【0012】
上記貴金属回収剤は、有効成分がコーヒー豆又は銀皮であってよい。
【0013】
有効成分であるコーヒー豆は、粉砕銀皮、焙煎コーヒー豆、焙煎粉砕コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆残渣からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0014】
上述した貴金属回収剤に係る発明は、コーヒー果実の貴金属回収のための使用(応用)と捉えることもできる。
【0015】
本発明はまた、貴金属が溶解した金属溶液から本発明に係る貴金属回収剤により貴金属を回収する工程を備える、貴金属の回収方法にも関する。本発明に係る貴金属の回収方法は、上述した本発明に係る貴金属回収剤を使用していることにより、選択的にかつ高効率で貴金属を回収することができる。
【0016】
上述した回収方法は、上記貴金属が金又はパラジウムを含むものであってよい。
【0017】
上述した回収方法はまた、上記金属溶液が、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解している溶液であってもよい。当該回収方法では、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解した金属溶液からコーヒー果実を有効成分とする貴金属回収剤により貴金属を回収することができるため、従事者及び環境に悪影響を与える材料を使用する必要がなく、安全に貴金属の回収が可能である。さらに、必須とする材料を安価に調達することができ、また貴金属の回収率が高くコストを低減することができるため、安価に貴金属を回収することができる。したがって、上記構成を備える回収方法は、貴金属(例えば、金)のスモールスケールマイニングに好適に使用できる。
【0018】
上記ヨウ素の塩は、ヨウ素とアルカリ金属との塩、及びヨウ素とアルカリ土類金属との塩から選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0019】
上記還元剤は、アスコルビン酸を含むものであってよい。
【0020】
本発明は更に、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解した金属溶液から貴金属を回収するためのキットであって、少なくとも貴金属回収剤を含み、当該貴金属回収剤が、本発明に係る貴金属回収剤である、キットにも関する。
【0021】
上記キットは、上記貴金属回収剤に加えて、還元剤を更に含むものであってよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コーヒー果実を有効成分として含有する新規な貴金属回収剤を提供することができる。本発明によればまた、当該貴金属回収剤を使用した新規な貴金属の回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
〔貴金属回収剤〕
本実施形態に係る貴金属回収剤は、コーヒー果実を有効成分とする。
【0025】
コーヒー果実(コーヒーチェリー)は、アカネ科コーヒーノキ属(Rubiaceae Coffea)に属する植物の果実である。コーヒー果実は、外皮、果肉、内果皮(パーチメント)、銀皮(シルバースキン)及びコーヒー豆を含む。本実施形態に係る貴金属回収剤は、有効成分として、コーヒー果実の全部又は一部を含むものであってよい。コーヒー果実の一部は、上述した外皮、果肉、内果皮、銀皮及びコーヒー豆からなる群より選択される少なくとも1種であってよい。
【0026】
本実施形態に係る貴金属回収剤は、選択的かつ高効率で貴金属を回収できるという効果がより顕著に奏されることから、有効成分として、銀皮又はコーヒー豆を含むことが好ましく、コーヒー豆を含むことがより好ましい。
【0027】
コーヒー豆は、例えば、コーヒー果実から、外皮、果肉、内果皮、銀皮を除去して得ることができる。
【0028】
銀皮は、例えば、コーヒー果実から、外皮、果肉、内果皮を除去した後、更に銀皮とコーヒー豆を分離して得ることができる。
【0029】
有効成分として使用するコーヒー果実の種類は特に制限されないが、入手容易性の観点から、コーヒー豆が飲用に供されている植物種のコーヒー果実を好適に使用することができる。具体的には、例えば、アラビカ種(Coffea arabica L)、ロブスタ種(Coffea robusta Linden)、リベリカ種(Coffea liberica)等のコーヒー果実を挙げることができる。
【0030】
有効成分として使用するコーヒー果実は、生コーヒー果実であってもよく、加工を施したコーヒー果実であってもよい。生コーヒー果実は、コーヒー果実そのもの又はその一部(例えば、コーヒー果実から得た種子そのもの、銀皮そのもの)を意味する。加工を施したコーヒー果実は、コーヒー果実そのもの又はその一部に加工を施したものを意味する。加工としては、例えば、加熱加工、粉砕加工、エキス除去加工、及びこれらの1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0031】
加熱加工は、生コーヒー果実(例えば、生コーヒー豆、生銀皮)、又は加工を施したコーヒー果実(例えば、加工を施したコーヒー豆、加工を施した銀皮)を加熱することで実施することができる。加熱の方法は特に制限されず、例えば、焙煎等の乾式加熱、熱媒体(例えば、水、油)を使用した湿式加熱、誘電加熱等を適用することができる。加熱加工の際の温度は、例えば、80~200℃程度であってよい。加熱加工を施す時間は、例えば、5分間~3時間程度であってよい。加熱加工は、生コーヒー豆の加熱加工に汎用されている焙煎加工が好ましい。本明細書において、加熱加工が施されたコーヒー豆を「加熱コーヒー豆」と呼び、焙煎加工が施されたコーヒー豆を特に「焙煎コーヒー豆」と呼ぶことがある。焙煎コーヒー豆は、焙煎の程度に応じて、浅煎り、中煎り、深煎りに分類されることがあるが、本発明に係る貴金属回収剤は、焙煎の程度に関わらず貴金属を回収することができる。
【0032】
粉砕加工は、生コーヒー果実(例えば、生コーヒー豆、生銀皮)、又は加工を施したコーヒー果実(例えば、加工を施したコーヒー豆、加工を施した銀皮)を粉砕することにより実施することができる。粉砕は、例えば、コーヒーミル、グラインダー等、焙煎コーヒー豆の粉砕に常用されている装置を使用して実施することができる。粉砕の程度(粉砕後のコーヒー果実の粒径)に特に制限はないが、粉砕加工が施されたコーヒー果実の粒径(長径)は、通常1mm以下である。有効成分がコーヒー豆である場合、コーヒー豆の粉砕の程度は、例えば、極細挽き、細挽き、中細挽き、中挽き、粗挽きであってよい。本明細書において、粉砕加工が施された銀皮を「粉砕銀皮」と呼び、粉砕加工が施されたコーヒー豆を「粉砕コーヒー豆」と呼び、焙煎加工及び粉砕加工がこの順で施されたコーヒー豆を特に「焙煎粉砕コーヒー豆」と呼ぶことがある。
【0033】
エキス除去加工は、生コーヒー果実(例えば、生コーヒー豆)、又は加工を施したコーヒー果実(例えば、加工を施したコーヒー豆)を溶媒又は蒸気に接触させた後、溶媒又は蒸気、及び溶媒又は蒸気抽出物(エキス)を除去して残渣を得ることにより実施することができる。溶媒としては、例えば、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。蒸気としては、例えば、これら溶媒の蒸気が挙げられる。溶媒又は蒸気の温度は、エキス抽出効率が良いことから高い方が好ましく、例えば、60~100℃であってよい。本明細書において、エキス除去加工が施されたコーヒー豆を「コーヒー豆残渣」と呼び、焙煎粉砕コーヒー豆にエキス除去加工が施されたものを特に「焙煎粉砕コーヒー豆残渣」と呼ぶことがある。
【0034】
本実施形態に係る貴金属回収剤は、貴金属の回収効率がより高くなることから、有効成分として、粉砕銀皮、焙煎コーヒー豆、焙煎粉砕コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆残渣からなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る貴金属回収剤は、有効成分として、コーヒー果実を1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ここでいう組み合わせは、複数の植物種のコーヒー果実を組み合わせること、及びコーヒー果実の一部同士を組み合わせること(例えば、コーヒー豆と銀皮を組み合わせること)を含む。
【0036】
本実施形態に係る貴金属回収剤は、有効成分であるコーヒー果実そのものからなるものであってもよく、有効成分以外の成分を含むものであってもよい。有効成分以外の成分としては、例えば、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール)等の担体、防腐剤、防かび剤等が挙げられる。
【0037】
なお、貴金属回収剤に係る発明は、コーヒー果実の貴金属回収のための使用(応用)に係る発明と捉えることもできる。
【0038】
〔貴金属の回収方法〕
本発明に係る貴金属の回収方法は、本発明に係る貴金属回収剤を使用して貴金属を回収することを特徴とする。
【0039】
一実施形態に係る貴金属の回収方法は、貴金属が溶解した金属溶液から貴金属回収剤により貴金属を回収する工程(回収工程)を備える。回収工程は、例えば、貴金属を含む金属溶液に貴金属回収剤を添加する工程と、当該貴金属回収剤に貴金属を吸着させる工程と、貴金属が吸着した貴金属回収剤を金属溶液から分離する工程と、分離した貴金属回収剤から貴金属を回収する工程とを有するものであってもよい。
【0040】
貴金属が溶解した金属溶液は、貴金属を含むものであればよい。金属溶液中の貴金属の形態は特に制限されず、例えば、イオンの形態、錯体の形態であってよい。貴金属としては、例えば、金、パラジウム、銀、白金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、レニウムが挙げられる。
【0041】
貴金属が溶解した金属溶液は、貴金属以外の金属を含んでいてもよい。貴金属以外の金属としては、例えば、銅、鉄、亜鉛、ニッケル、スズ等の卑金属が挙げられる。
【0042】
貴金属を溶解させる溶液は、貴金属が溶解する限りにおいて特に制限はなく、例えば、塩酸溶液、硝酸溶液、硫酸溶液及び王水等の酸溶液、シアン化錯体を含む溶液、並びに後述するヨウ素、及びヨウ素の塩を含む溶液(ヨウ素溶液)を挙げることができる。
【0043】
酸溶液の酸濃度としては特に制限されず、酸溶液の種類、回収対象である貴金属の種類及び濃度等に応じて適宜調整することができるが、例えば、0.5M(mol/L)以上であってよく、1M以上であってよく、2M以上であってよい。また、酸濃度としては、例えば、13M以下であってよく、6M以下であってよい。
【0044】
貴金属を含む金属溶液に貴金属回収剤を添加する際の貴金属回収剤の添加量としては、特に制限されず、金属溶液の種類及び量、並びに回収対象である貴金属の種類及び濃度等に応じて、適宜調整することができる。貴金属回収剤の添加量の具体例としては、例えば、回収対象である貴金属の濃度10μg/mLの溶液1mLに対して、有効成分の乾燥重量換算で、1mg以上であってよく、5mg以上であってよく、10mg以上であってよく、15mg以上であってよく、また例えば、100mg以下であってよく、75mg以下であってよく、50mg以下であってよい。
【0045】
貴金属回収剤を添加した金属溶液を、所定の時間撹拌すること等により、貴金属回収剤に貴金属を吸着させることができる。吸着を行う時間としては、金属溶液の種類及び量、並びに回収対象である貴金属の種類及び濃度に応じて適宜調整することができるが、例えば、貴金属回収剤を添加した金属溶液が均一になるまで撹拌することで、貴金属を貴金属回収剤に充分に吸着させることができることから、例えば、1秒以上であってよく、1分以上であってよく、2分以上であってよく、3分以上であってよく、また時間の上限は特にないが、例えば、24時間以下であってよい。吸着を行う際の温度としては、金属溶液の種類及び量、並びに回収対象である貴金属の種類及び濃度に応じて適宜調整することができるが、例えば、0℃以上であってよく、4℃以上であってよく、15℃以上であってよく、また例えば、100℃以下であってよく、80℃以下であってよく、60℃以下であってよく、40℃以下であってよい。
【0046】
貴金属が吸着した貴金属回収剤は、例えば、沈降、濾過等の手段により、金属溶液から分離することができる。
【0047】
本実施形態に係る回収方法は、回収工程の後に、貴金属回収剤に吸着した貴金属を精製する精製工程を更に含んでいてもよい。貴金属回収剤に吸着した貴金属を精製する方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、回収した貴金属回収剤を燃焼させて残渣として貴金属を得る方法、酸性のチオウレア溶液、アンモニア及びアンモニウム塩を含む混合溶液、酸溶液(例えば、塩酸溶液、王水)、アルカリ溶液(例えば、KOH溶液)、又は金属キレート溶液(例えば、EDTA溶液)等の所定の金属溶出用溶液を用いて貴金属等を溶出させる方法等を挙げることができる。
【0048】
(ヨウ素溶液を使用した貴金属の回収方法)
上述した貴金属の回収方法において、貴金属を溶解させる溶液としてヨウ素溶液(ヨウ素、及びヨウ素の塩を含む溶液)を使用する実施形態について、更に説明する。本実施形態に係る回収方法は、従事者及び環境に悪影響を与える材料を使用する必要がなく、安全に貴金属の回収が可能である。さらに、必須とする材料を安価に調達することができ、また貴金属の回収率が高く採掘に係るコストを低減することができるため、安価に貴金属を回収することができる。本実施形態に係る回収方法において回収対象となる貴金属は、特に制限されないが、金又はパラジウムが好ましく、金がより好ましい。金を回収対象とする本実施形態に係る回収方法は、水銀を使用した金のスモールスケールマイニングを代替できる、安価で安全に実施できる方法になり得る。
【0049】
本実施形態に係る貴金属の回収方法は、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解した金属溶液から本発明に係る貴金属回収剤により貴金属を回収する工程(回収工程)を備える。
【0050】
回収工程は、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解した金属溶液と、貴金属回収剤とが接触することが重要である。貴金属、ヨウ素及びヨウ素の塩が溶解した溶液に還元剤を更に溶解させることで、貴金属回収剤に吸着し易い形態で貴金属が溶解している金属溶液になると考えられる。このため、貴金属、ヨウ素、及びヨウ素の塩が溶解した溶液に対する、還元剤及び貴金属回収剤の添加順序は任意である。したがって、例えば、貴金属回収剤は、貴金属、ヨウ素、及びヨウ素の塩が溶解した溶液に対して更に還元剤を溶解させた金属溶液に添加してもよいし、貴金属、ヨウ素、及びヨウ素の塩が溶解した金属溶液に還元剤と共に添加してもよい。
【0051】
金属溶液の溶媒は、例えば、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)、アセトニトリル等の有機溶媒、並びにこれらの2種又は3種以上を混合した混合溶媒を使用することができる。取り扱い性に優れることから、溶媒としては、水と低級アルコールの混合溶媒であることが好ましく、水とエタノールの混合溶媒(エタノール水溶液)であることがより好ましい。エタノール水溶液を使用する場合、エタノール水溶液中のエタノール濃度は、例えば、50~90vol%であってよく、60~80vol%であることが好ましい。
【0052】
ヨウ素の塩としては、溶媒中でヨウ化物イオンを放出する化合物であればよく、例えば、ヨウ素とアルカリ金属との塩、ヨウ素とアルカリ土類金属との塩が挙げられる。ヨウ素の塩の具体例としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウムが挙げられる。ヨウ素の塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
還元剤としては、有機還元剤であってもよく、無機還元剤であってもよい。
【0054】
有機還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸(イソアスコルビン酸)、エリソルビン酸ナトリウム、ギ酸、シュウ酸、シュウ酸カルシウム、シュウ酸ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。有機還元剤に光学異性体が存在する場合、いずれの光学異性体を使用してもよい。無機還元剤としては、例えば、チオシアン化物、チオ硫酸塩、硫化ナトリウム、亜硫酸、亜硫酸塩、鉄粉等が挙げられる。
【0055】
還元剤としては、有機還元剤が好ましく、アスコルビン酸(L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸及びこれらの混合物)、アスコルビン酸ナトリウム(L-アスコルビン酸ナトリウム、D-アスコルビン酸ナトリウム及びこれらの混合物)がより好ましい。還元剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
ヨウ素の含有量は、金属溶液全量を基準として、例えば、0.01wt%以上12wt%以下であってよい。貴金属の回収率をより高める観点からは、ヨウ素の含有量は、金属溶液全量を基準として、0.1wt%以上10wt%以下であるのが好ましく、0.2wt%以上8wt%以下であるのがより好ましく、0.3wt%以上6wt%以下であるのが更に好ましい。
【0057】
ヨウ素の塩の含有量は、金属溶液全量を基準として、例えば、0.005wt%以上8wt%以下であってよい。貴金属の回収率をより高める観点からは、ヨウ素の塩の含有量は、金属溶液全量を基準として、0.05wt%以上6wt%以下であるのが好ましく、0.1wt%以上5wt%以下であるのがより好ましく、0.2wt%以上4wt%以下であるのが更に好ましい。
【0058】
還元剤の含有量は、金属溶液全量を基準として、例えば、0.01w/v%以上8w/v%以下であってよい。貴金属の回収率をより高める観点からは、還元剤の含有量は、金属溶液全量を基準として、0.05w/v%以上6w/v%以下であるのが好ましく、0.1w/v%以上5w/v%以下であるのがより好ましく、0.2w/v%以上4w/v%以下であるのが更に好ましい。
【0059】
金属溶液中の貴金属の濃度は、貴金属が溶解する限りにおいて特に制限はないが、通常、金属溶液全量を基準として、0.00002w/v%以上0.2w/v%以下である。貴金属の回収率をより高める観点からは、金属溶液中の貴金属の濃度は、金属溶液全量を基準として、0.0002w/v%以上0.1w/v%以下であるのが好ましく、0.001w/v%以上0.05w/v%以下であるのがより好ましい。
【0060】
貴金属回収剤の添加量は、例えば、貴金属濃度10μg/mLの溶液1mLに対して、有効成分の乾燥重量換算で、1mg以上であってよく、5mg以上であってよく、10mg以上であってよく、15mg以上であってよく、また例えば、100mg以下であってよく、75mg以下であってよく、50mg以下であってよい。
【0061】
本実施形態に係る貴金属の回収方法は、回収工程の後に、貴金属回収剤に吸着した貴金属を精製する工程(精製工程)を更に備えていてもよい。
【0062】
精製工程は、例えば、貴金属が吸着した貴金属回収剤を燃焼させて、貴金属回収剤を焼失させることで貴金属を精製する方法を適用して実施することができる。また、例えば、貴金属が吸着した貴金属回収剤を金属溶出用溶液に浸漬して、貴金属を溶出することにより貴金属を精製する方法を適用して実施することもできる。金属溶出用溶液としては、例えば、酸性のチオウレア溶液、アンモニア及びアンモニウム塩を含む混合溶液、酸溶液(例えば、塩酸溶液、王水)、アルカリ溶液(例えば、KOH溶液)、又は金属キレート溶液(例えば、EDTA溶液)を挙げることができる。
【0063】
〔キット〕
本発明はまた、貴金属を回収するためのキットにも関する。本実施形態に係るキットは、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解した金属溶液から貴金属を回収するためのキットであって、少なくとも貴金属回収剤を含む。当該キットは、貴金属回収剤に加えて更に還元剤を含むものであってよい。本実施形態に係るキットは、ヨウ素及びヨウ素の塩を含む溶液に純度の低い貴金属(例えば、金鉱石等の固体金)を溶解させ、より純度の高い貴金属を回収するために使用することができる。本実施形態に係るキットは、上述したヨウ素溶液を使用した貴金属の回収方法を実施するために使用することができる。本実施形態に係るキットが対象とする貴金属は、特に制限されないが、金又はパラジウムが好ましく、金がより好ましい。
【0064】
本実施形態に係るキットにおいて、還元剤及び/又は貴金属回収剤の具体的態様は、上述した貴金属の回収方法、及びヨウ素溶液を使用した貴金属の回収方法における還元剤及び/又は貴金属回収剤の具体的態様を適用することができる。また、本実施形態に係るキットが還元剤及び貴金属回収剤を含む場合、還元剤及び貴金属回収剤は、別々にキットに含まれていてもよく、混合されて(例えば、還元剤と貴金属回収剤の混合粉末として)キットに含まれていてもよい。
【0065】
本実施形態に係るキットは、還元剤及び金回収剤に加えて、ヨウ素及びヨウ素の塩を上述した溶媒に溶解させた溶液(ヨウ素溶液)を更に含むものであってよい。ヨウ素溶液としては、例えば、市販されているヨードチンキ、希ヨードチンキ等を使用してもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
〔実施例1:貴金属回収剤の調製〕
市販されているコーヒー豆5種(市販品1~市販品5)を用意した。市販品1~市販品5を使用して、貴金属回収剤10種を以下に示すようにして調製した。
【表1】
【0068】
対照として、貴金属を選択的に回収できることが知られているガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)の乾燥粉末を調製した(特許文献1参照)。具体的には、定常期まで増殖させたG.sulphurariaの細胞を、遠心分離により回収した。回収した細胞を80℃で12時間乾燥させた後、乳鉢と乳棒を用いて粉末化し、G.sulphurariaの乾燥粉末を得た(貴金属回収剤D)。
【0069】
〔実施例2:貴金属回収剤を使用した貴金属の回収試験(1)〕
王水に溶解させた金及びパラジウムの回収試験を実施した。
【0070】
(貴金属回収剤)
実施例1で調製した貴金属回収剤1-1、貴金属回収剤2-1~貴金属回収剤5-2及び貴金属回収剤Dを使用した。
【0071】
(金属溶液の調製)
4M王水にHAuCl(金の終濃度:100ppm)、及びPd(NO(パラジウムの終濃度:100ppm)を溶解させ、金属溶液とした。4M王水は、36%(w/v)塩酸及び61%(w/v)硝酸を3:1のモル比で混合し、蒸留水で3倍希釈して調製した。
【0072】
(回収試験)
1mLの金属溶液に対して、20mg(乾燥重量)の貴金属回収剤を添加し、ボルテックスで攪拌した。次いで、遠心分離により貴金属回収剤を沈殿させ、上清を回収した。
【0073】
金属溶液及び各上清の金及びパラジウム濃度を測定し、下記式に従って回収率(%)を算出した。金属溶液及び各上清中の金及びパラジウム濃度は、ICP-OESで測定した。なお、ppmは、mg/Lと同義である。
回収率=[{(金属溶液中の初期濃度)-(上清中の濃度)}/(金属溶液中の初期濃度)]×100(%)
【0074】
結果を表2に示す。
【表2】
【0075】
表2に示すとおり、本発明に係る貴金属回収剤は、金及びパラジウムを高い効率で回収できる。また、焙煎粉砕コーヒー豆残渣を有効成分とする貴金属回収剤(貴金属回収剤2-2、貴金属回収剤3-2、貴金属回収剤4-2及び貴金属回収剤5-2)は、特に高い効率で金及びパラジウムを回収できる。焙煎粉砕コーヒー豆残渣は、コーヒーエキスを抽出した後の残渣であり、通常廃棄されているものである。本発明によれば、焙煎粉砕コーヒー豆残渣(廃棄物)の有効利用にもつながり、環境負荷の低減も図ることができる。
【0076】
〔実施例3:貴金属回収剤を使用した貴金属の回収試験(2)〕
複数の金属イオンが存在する金属溶液(模擬金属廃液)における貴金属の回収試験を実施した。
【0077】
(貴金属回収剤)
実施例1で調製した貴金属回収剤1-1、貴金属回収剤1-2及び貴金属回収剤Dを使用した。
【0078】
(金属溶液の調製)
4M王水に金、銅、パラジウム、亜鉛、鉄、ニッケル及びスズが溶解した模擬廃液を使用した。4M王水は、36%(w/v)塩酸及び61%(w/v)硝酸を3:1のモル比で混合し、蒸留水で3倍希釈して調製した。
【0079】
(回収試験)
1mLの金属溶液に対して、20mg(乾燥重量)の貴金属回収剤を添加し、ボルテックスで攪拌した。次いで、遠心分離により貴金属回収剤を沈殿させ、上清を回収した。
【0080】
(結果)
実施例2と同様の手順で金属溶液及び各上清の金属濃度を測定し、回収率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【表3】
【0081】
表3に示すとおり、本発明に係る貴金属回収剤(貴金属回収剤1-1及び貴金属回収剤1-2)は、複数の金属イオンが存在する金属溶液(模擬金属廃液)から、貴金属(金及びパラジウム)を選択的に回収できる。
【0082】
〔実施例4:貴金属回収剤を使用した貴金属の回収試験(3)〕
ヨードチンキに金を溶解させた金溶液における金の回収試験を実施した。
【0083】
(貴金属回収剤)
実施例1で調製した貴金属回収剤1-2、及び貴金属回収剤D、並びにG.sulphurariaの生細胞からなる貴金属回収剤Lを使用した。
【0084】
(金溶液の調製)
金鉱石1g(金1.8~3.1μgを含む。)に対して、市販されているヨードチンキ(6wt%ヨウ素、4wt%ヨウ化カリウム、60~80vol%エタノール水溶液)を70~80vol%エタノール水溶液で2倍希釈したもの(希ヨードチンキ)1mLを滴下し、30分間攪拌して金を溶解させた。この溶液に市販されているビタミンCサプリメント(食品添加物グレード,100%ビタミンC(L-アスコルビン酸))40mgと水4mLを添加して還元させ、金溶液を得た。
【0085】
(回収試験)
1mLの金溶液に対して、20mg(乾燥重量)の貴金属回収剤を添加し、ボルテックスで攪拌しながら、室温で5分間インキュベートした。次いで、遠心分離により貴金属回収剤を沈殿させ、上清を回収した。
【0086】
(結果)
実施例2と同様の手順で金溶液及び各上清の金濃度を測定し、回収率(%)を算出した。結果を表4に示す。
【表4】
【0087】
表4中、溶解率(%)は、使用した金のうち希ヨードチンキに溶解した割合を示す。表4に示すとおり、本発明に係る貴金属回収剤(貴金属回収剤1-2)は、極めて高い回収率(100%)で金を回収することができる。実施例4で使用した金溶液は、金、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解したものであり、金回収の従事者及び環境に悪影響を与える材料は使用されていないため、安全に金の回収が可能である。また、コーヒー豆残渣等を貴金属回収剤として使用可能であるため、安価かつ環境負荷の低減も可能である。したがって、本発明に係る貴金属回収剤は、スモールスケールマイニングの代替法としても有用である。
【0088】
〔実施例5:貴金属回収剤を使用した貴金属の回収試験(4)〕
(貴金属回収剤)
コーヒー豆製造業者から入手した銀皮を乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉末化し、これを貴金属回収剤(粉砕銀皮)とした。
【0089】
(金溶液の調製)
金粉2mgに対して、市販されているヨードチンキ(6wt%ヨウ素、4wt%ヨウ化カリウム、60~80vol%エタノール水溶液)を70~80vol%エタノール水溶液で2倍希釈したもの(希ヨードチンキ)10mLを滴下し、30分間攪拌して金を溶解させた。この溶液1mLに市販されているビタミンCサプリメント(食品添加物グレード,100%ビタミンC(L-アスコルビン酸))40mgと水4mLを添加して還元させ、金溶液を得た。
【0090】
(回収試験)
1mLの金溶液に対して、20mgの貴金属回収剤(粉砕銀皮)を添加し、ボルテックスで攪拌しながら、室温で5分間インキュベートした。次いで、遠心分離により貴金属回収剤を沈殿させ、上清を回収した。
【0091】
(結果)
実施例2と同様の手順で金溶液及び各上清の金濃度を測定し、回収率(%)を算出した。その結果、回収率は90.3%であった。本発明に係る貴金属回収剤(粉砕銀皮)は、高い回収率で金を回収することができる。実施例5で使用した金溶液は、実施例4と同様、金、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解したものであり、金回収の従事者及び環境に悪影響を与える材料は使用されていないため、安全に金の回収が可能である。また、銀皮は、コーヒー豆の製造の際に大量に得られるものであり、かつ現状利用方法がなく廃棄されているものである。本発明によれば、この銀皮を貴金属回収剤として使用可能であるため、安価かつ環境負荷の低減も可能である。したがって、本発明に係る貴金属回収剤は、スモールスケールマイニングの代替法としても有用である。
【要約】      (修正有)
【課題】新規な貴金属回収剤および回収方法を提供すること。
【解決手段】コーヒー果実を有効成分として含有する、貴金属回収剤を用い、貴金属が溶解した金属溶液から貴金属回収剤により貴金属を回収する。更に、コーヒー豆が、粉砕銀皮、焙煎コーヒー豆、焙煎粉砕コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆残渣からなる群より選択される。更に、金属溶液が、貴金属、ヨウ素、ヨウ素の塩、及び還元剤が溶解している溶液である。
【選択図】なし