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  • 特許-エアコンの節電方法及び断熱塗料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】エアコンの節電方法及び断熱塗料
(51)【国際特許分類】
   F24F 1/56 20110101AFI20230711BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 5/33 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F24F1/56
C09K5/14 Z
C09D201/00
C09D5/33
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022121769
(22)【出願日】2022-07-29
【審査請求日】2022-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514007966
【氏名又は名称】合資会社GS工事
(74)【代理人】
【識別番号】100181940
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 禎浩
(72)【発明者】
【氏名】成田 明
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-262378(JP,A)
【文献】特開平11-090328(JP,A)
【文献】特開2016-148026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/56
C09K 5/14
C09D 1/00-10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアコン室外機の筐体の太陽光受光面を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、
前記断熱塗装によって、中空ビーズによる断熱層と、その上面に前記中空ビーズが破砕してできた微細粉からなる反射層とを塗膜形成する節電方法であり、
前記微細粉はセラミック素材であり、
前記塗膜形成後に前記塗膜の表層に前記反射層が自然形成されるよう前記塗膜形成前の塗料中に前記微細粉を含ませて塗装する節電方法。
【請求項2】
エアコン室外機の筐体の太陽光受光面を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、
前記断熱塗装によって、中空ビーズによる断熱層と、その上面に前記中空ビーズが破砕してできた微細粉からなる反射層とを塗膜形成し、
前記微細粉はセラミック素材であり、
前記反射層がJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率90%以下となるようにする節電方法であり、
前記塗膜形成後に前記塗膜の表層に前記反射層が自然形成されるよう前記塗膜形成前の塗料中に前記微細粉を含ませて塗装する節電方法。
【請求項3】
エアコン室外機の筐体の太陽光受光面を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、
前記断熱塗装によって、複数種の中空ビーズによる断熱層と、その上面に前記中空ビーズが破砕してできた微細粉からなる反射層とを塗膜形成し、
前記微細粉は前記複数種の中空ビーズの少なくとも1種のセラミック素材であり、
前記反射層がJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率90%以下となるようにする節電方法であり、
前記塗膜形成後に前記塗膜の表層に前記反射層が自然形成されるよう前記塗膜形成前の塗料中に前記微細粉を含ませて塗装する節電方法。
【請求項4】
中空ビーズと、前記中空ビーズが破砕してできた微細粉とを含む断熱塗料であり、
前記微細粉はセラミック素材であり、
塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、前記塗膜の表層が前記微細粉からなる反射層として自然形成されるよう前記微細粉を含むものである断熱塗料。
【請求項5】
中空ビーズと、前記中空ビーズが破砕してできた微細粉とを含む断熱塗料であり、
前記微細粉はセラミック素材であり、
塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、前記塗膜の表層が前記微細粉からなる反射層として自然形成され、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率が90%以下となるように前記微細粉を含むものである断熱塗料。
【請求項6】
複数種の中空ビーズと、前記中空ビーズが破砕してできた微細粉とを含む断熱塗料であり、
前記微細粉は前記複数種の中空ビーズの少なくとも1種のセラミック素材あり、
塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、前記塗膜の表層が前記微細粉からなる反射層として自然形成され、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率が90%以下となるように前記微細粉を含むものである断熱塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調(エアコン)室外機等の節電方法及び断熱塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エアコンの節電を目的として、様々な取組がなされている。エアコンの消費電力は、事業所、家庭のいずれにおいても一定の割合を占める。エアコン製造者の取組みとしては、圧縮機の性能向上、センサーやインバーター等による機器稼働の効率化等が挙げられる。
【0003】
一方、エアコン設置後における運用面の取組みは、製造における取組みに比べて進んでいないのが現状である。一部、エアコン室外機の筐体を断熱塗装することで、夏季の冷房負荷を下げる取組みが見られる程度である。
【0004】
また、エアコンの節電は、夏季の節電が注目されがちだが、冬季の節電の方が消費電力量削減に寄与する場合が多い。冬季は、室外機の筐体の凍結や積雪等により暖房負荷が大きくなる問題がある。夏季の節電は、太陽光が室外機に与える影響を少なくすることが課題となるが、冬季の節電は、上記の凍結等の暖房負荷を抑えるために、太陽光の熱的な利用が課題の一つとなる。
【0005】
このような中、先行技術に、所定の熱反射性を有する遮熱材料層を備えた表面材であって、上記遮熱材料層の表面には、周囲温度の低下に伴い透明度が小さくなるような特性を有するサーモクロミック材料層が積層されていることを特徴とする表面材(特許文献1)がある。
【0006】
特許文献1に記載のサーモクロミック材料は、特定の温度を境にその構造が転移し、色が透明から不透明に可逆的に変化する特性を有するものである。特許文献1に記載の技術は、このサーモクロミック材料を必要とし、その分、コストが高くなる点、また、所定温度で色変化を起こさせるように制御することが容易でない点等が問題として挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-262378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低コストかつ簡易であり、冬季においてより効果の高いエアコンの節電を実現する方法等を提供することである。
【0009】
第1の発明は、エアコン室外機の筐体を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、前記断熱塗装によって、中空ビーズによる断熱層と、その上面に反射材による低反射率の反射層とを塗膜形成する節電方法である。また、第2の発明は、エアコン室外機の筐体を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、前記断熱塗装によって、中空ビーズによる断熱層と、その上面に反射材による反射層とを塗膜形成し、前記反射層がJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率90%以下となるようにする節電方法である。また、第3の発明は、エアコン室外機の筐体を断熱塗装するエアコンの節電方法であり、前記断熱塗装によって、複数種の中空ビーズによる断熱層と、その上面に反射材による反射層とを塗膜形成し、前記反射材は前記複数種の中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材であり、前記反射層がJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率90%以下となるようにする節電方法である。また、第4の発明は、中空ビーズと、反射材とを含む断熱塗料であり、 塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、低反射率となるように反射材を含むものである断熱塗料である。また、第5の発明は、中空ビーズと、反射材とを含む断熱塗料であり、塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率が90%以下となるように反射材を含むものである断熱塗料である。また、第6の発明は、複数種の中空ビーズと、反射材とを含む断熱塗料であり、前記反射材は前記複数種の中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材であり、塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率が90%以下となるように反射材を含むものである断熱塗料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、エアコン室外機の筐体(筐体の太陽光受光面)に、中空ビーズによる断熱層と反射材による低反射率の反射層とを塗膜形成することで、塗膜上層が日射により蓄熱し、冬季において筐体の凍結を防止し、これにより暖房負荷を低減し、簡易に消費電力量を少なくする効果が期待できる。より具体的には、当該反射層がJISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率を90%以下で冬季の消費電力量を少なくする効果が期待できる。また、本発明は、断熱層を構成する複数種の中空ビーズの少なくとも1種と同じ素材が反射材として用いられるため、反射材を別途用意する必要がなくなり、低コストで反射層を形成できる効果が期待できる。また、本発明は、塗膜形成後(塗膜乾燥後)に、低反射率となるように反射材を含む塗料であるため、塗布後、冬季において太陽光によって塗膜上層が蓄熱することで暖房負荷を低減し、簡易に消費電力を少なくする効果が期待できる。より具体的には、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率が90%以下となるように反射材を含むことで、冬季において、簡易に消費電力を少なくする効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】エアコン室外機の筐体に形成された塗膜の内部構造の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
以下、本発明をその実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
<塗膜>
図1は、エアコン室外機の筐体に形成された塗膜の内部構造の概念図である。塗膜は、中空ビーズによる断熱層1と、その上に、反射材による反射層2を有する。図1は、塗膜中に中空ビーズの素材が複数あり、各素材の中空ビーズの粒径に幅があることを示すものである。また、図1には記載されていないが、塗膜形成には、エアコン室外機の筐体との付着性を強化するための下地調整剤や、塗膜表面の艶仕上げ剤、防汚等のコーティング剤等が使用されるものでもよい。
【0014】
<塗料>
塗膜形成のための塗料は、水性系・溶剤系のいずれの成分が用いられてもよい。例えば、アクリルエマルジョン樹脂が挙げられるが、ウレタン系、シリコン系、フッ素系成分やその他の成分を主成分とするものでもよい。
【0015】
<中空ビーズ>
本実施例に用いられた塗料は、断熱層1の形成のために、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズの2種類の中空ビーズを含んでいる。図は省略するが、塗膜形成後の塗膜内部の拡大図によると、塗膜内部の断熱層1たる部分は、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズとが隣接しており、軟質なアクリル中空ビーズには変形したものもあるが、割れることなく各中空ビーズの密な状態となっている。ただし、中空ビーズは、断熱層1の形成のためのものであり、必ずしも複数種用いられる必要はない。
【0016】
中空ビーズの素材は、限定されるものではないが、例えば、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート等のプラスチック、ゴム等のエラストラマが挙げられる。これらは、軟質な中空ビーズの例である。一方、硬質な中空ビーズの例としては、セラミック、ガラス等が挙げられる。
【0017】
本実施例における各素材の中空ビーズの粒径は、多くが数十μmのオーダーである。具体的には、各素材の中空ビーズともに、粒径約80μm、約60μm、約50μmのものが多く、重量比は約5対3対2である。また、一般的に、中空ビーズの中空部分の体積は、80%以上である。
【0018】
<反射材及び反射率>
反射材は、所定の反射率が実現できるものであればどのようなものでもよい。また、反射材によって形成された反射層2の反射率は、冬季において太陽光を一定程度透過させ、これにより塗膜表層部が蓄熱し、エアコン室外機の筐体の暖房負荷を低減できる程度のものである。より具体的には、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率である。このような反射率は、夏季において冷房負荷となるため、本来夏季に求められる反射率よりも低い反射率である。本発明は、このような反射率を低反射率とするものである。本実施例では、セラミック中空ビーズの製造過程で破砕してできた微細粉が反射材として用いられた。この反射材は、塗膜の乾燥過程で塗膜表面に浮上し、反射層2を形成する。
【0019】
<塗装>
塗装(塗布)は、エアコン室外機の筐体の汚れを高圧水洗で取り除く工程、ローラー刷毛で塗料を膜厚約400μm(乾燥時)とする工程からなる。本実施例では、1回の塗布により約200μmの塗膜が形成され、合計2回の塗布によって約400μmの膜厚が形成された。ただし、塗布方法は限定されるものではない。例えば、吹き付けによるものが挙げられる。
【0020】
<節電方法の効果確認試験>
本発明に係る節電方法の効果確認試験は、次の通りである。試験は、夏季には冷房、冬季には暖房が必須となる地域で実施された。
節電対象:関東の某事業施設(複数)のエアコン
塗装対象:上記施設の屋上に設置されたエアコン室外機の筐体(太陽光受光面)
試験期間:1年以上
効果確認方法:エアコンに係る消費電力量を確認
反射率:JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率に基づく
上記条件において、塗装前後でのエアコンの消費電力量、様々な反射率でのエアコンの消費電力量が確認された。
【0021】
<結果>
夏季、冬季、通年における消費電力量の削減効果(節電効果)は以下の通りである。節電効果の大小は、相対的なものである。
まず、夏季においては、反射層2の反射率が高くなるほど、節電効果が大きいことが確認された。具体的には、反射層2が、反射率90%を超えるレベルでは節電効果が大きいことが確認された。一方、反射層2が、反射率90%以下の場合、特に反射率が80%以下では、節電効果は小さいことが確認された。
【0022】
次に、冬季においては、反射層2の反射率が低くなるほど、節電効果が大きいことが確認された。具体的には、反射層2が、反射率90%以下の場合、反射率が低くなるほど、節電効果が大きいことが確認された。一方、反射層2が、反射率90%を超えるレベルでは、節電効果が小さいことが確認された。節電効果が大きい場合とそうでない場合の相違点としては、エアコン室外機の筐体の表面温度が挙げられる。すなわち、節電効果が大きい場合は、エアコン室外機の筐体が凍結せず、平均表面温度が相対的に大きいことが確認された。
【0023】
最後に、通年においては、反射層2が、反射率90%以下の場合に、節電効果が大きいことが確認された。通年における節電効果は、夏季の節電効果と冬季の節電効果の合算値である。特に、反射層2が、反射率80~90%の場合に節電効果が大きくなることが確認された。
【0024】
<考察>
夏季においては、反射層2の反射率が90%超の場合に節電効果が大きいことが確認された。この要因としては、反射率が高くなるほど、エアコン室外機の筐体内部に届く太陽熱が少なくなり、冷房負荷を小さくできることが挙げられる。
【0025】
冬季においては、反射層2の反射率が90%以下の場合に節電効果が大きいことが確認された。この要因としては、反射率が低くなるほど塗膜が太陽光を吸収し、エアコン室外機の筐体の凍結等を防ぎ、暖房負荷を小さくできることが挙げられる。ここで、反射率と節電効果の関係は、地域によって異なるものであるから、反射率90%超であっても年間の節電効果が大きくなる場合も想定される。すなわち、温暖な地域では、反射率90%超であっても、冬季の暖房負荷の低減に資する可能性がある。
【0026】
冬季のエアコンの節電において、太陽光の熱を利用することは、現実にはほとんど行われていない。これは、太陽光の熱利用が、冬季の暖房においては有用であっても、夏季の冷房においては逆効果になってしまうからである。エアコンの節電に関し、夏季の冷房時が重視される理由としては、熱中症の予防等、猛暑に対して冷房は必須と見做されている点、冬季は、ストーブ等、エアコン以外の暖房手段が他にも存在し、エアコン稼働の必要性が夏季に比べて相対的に低い点等が挙げられる。
【0027】
本実施例では、太陽光の熱の利用により、エアコン室外機の筐体の凍結等を防ぎ、冬季の暖房負荷を軽減することができた。具体的には、反射層2を通過した太陽光が、塗膜(主に反射層2と断熱層1の間の塗膜)に吸収され、蓄熱が表面の凍結防止や解氷に寄与した可能性がある。
【0028】
通年においては、反射層2の反射率が90%以下、本実施例の条件下では、反射率80~90%で節電効果が大きくなることが確認された。これは、夏季の節電効果と冬季の節電効果を比べた場合、夏季の節電効果の方がより大きいことが理由として挙げられる。詳細は省略するが、本実施例における一つのデータを例に挙げると、夏季の節電効果は5%~16%であったのに対し、冬季の節電効果は、14~25%であった(節電効果は、断熱塗料塗布前の消費電力量と断熱塗料塗布後の消費電力量から導かれる消費電力量の削減率である。)。
【0029】
このように、一定程度、反射層2の反射率を抑制しつつ、通年の節電効果を大きくできたことは、本発明が見出した効果の一つである。そして、そのためには、断熱層1の断熱が十分に機能していることが重要な要素となる。断熱層1の断熱が十分でないと、夏季には冷房負荷が大きくなり、冬季には暖房負荷が大きくなるからである。
【0030】
また、本実施例では、アクリル中空ビーズ(軟質な中空ビーズ)とセラミック中空ビーズ(硬質な中空ビーズ)の2種類の中空ビーズによって断熱層1が形成された。このように、軟質な中空ビーズと硬質な中空ビーズの併用効果として、主に、次の2点が挙げられる。
【0031】
1点目は、中空ビーズに割れのない密な中空構造が形成される点である。本実施例では、アクリル中空ビーズとセラミック中空ビーズが同程度の量用いられており、ほぼ均等に分散した状態になっている。また、セラミック中空ビーズに隣接するアクリル中空ビーズは、セラミック中空ビーズによって多少のひずみが生じることがあるが、一定程度弾性を有するため、割れることなく、隣接するビーズと密な状態が維持される。このようにして形成された密な中空構造は、断熱性を高める。
【0032】
2点目は、一般的な塗膜の膜厚よりも塗膜の厚みを大きくできる点である。密な中空ビーズの構造は、少なくとも数百μmレベルの膜厚形成が可能であり、塗膜形成から1年以上、変形等しないことが確認されている。例えば、アクリル中空ビーズのみで断熱層1が形成された場合、本実施例と同程度の品質で同程度の膜厚を実現することは困難である。セラミック中空ビーズのみで断熱層1が形成された場合は、中空ビーズが割れ、断熱効果は減少する。
【0033】
ただし、本発明において、中空ビーズが1種類であることは否定されるものではない。エアコンの設置地域等によって、必要とされる断熱性能は異なるためである。
【0034】
また、本実施例では、セラミック中空ビーズの製造過程で生じた微細粉によって反射層2が形成された。これにより、反射層2の形成のための反射材を特別に用意する必要がなくなるメリットがある。
【0035】
微細な反射材は、塗膜の乾燥過程で塗膜表面に浮き上がり、自然に反射層2を形成する。これも本発明が見出した効果の一つである。反射材が微細(例えば、粒径1μm以下)であるほど、塗膜の乾燥過程で塗膜の外へと移動する水分の影響を受けやすく、塗膜表面に押し出されやすい可能性がある。
【0036】
ただし、反射材の種類や粒径は限定されるものではない。本発明において重要なことは、反射層2の反射率が所定レベルにあることだからである。また、反射層2は、断熱層1が形成された後に別途、形成されるものでもよい(後述)。
【0037】
以上の結果及び考察から、本発明の節電方法に用いられる断熱塗料の例としては、断熱層1を形成するための所定量の中空ビーズと、反射材を形成するための所定量の反射材とを有するものが有用であることが示唆される。ただし、本発明の節電方法を実現するために、必ずしもこのような断熱塗料が用いられる必要はない(後述)。
【0038】
(実施例2)
本発明の有用な形態の検証について以下、説明する。
【0039】
本発明は、断熱塗装後に形成された反射層の反射率が所定レベルであることが求められる。実施例1では、反射層2の形成のための反射材が、あらかじめ塗料に含まれるものであった。すなわち、断熱層1と反射層2が同時に形成されるものであった。
【0040】
一方、断熱層1の形成後、その上面に別途、反射層2が形成されるものでもよい。例えば、まず、アクリル中空ビーズによる断熱層1がエアコン室外機の筐体に塗布、形成され、その後、その上面にセラミック粉を反射材とする反射層2が塗布、形成される場合が挙げられる。このように断熱層1の形成工程と反射層2の形成工程が分離されることで、反射層2の反射率に断熱素材の影響を考慮する必要がなくなり、より容易に所定の反射率が実現できることが示唆される。
【0041】
また、反射層2は、所定の反射率となるものであれば、どのような素材が用いられても良い。一般的に、塗膜表面には、防汚のためのコーティング剤が用いられることが多い。コーディング剤の例として、メタノール、水、光触媒(酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等)の混合物が挙げられるが、このコーティング剤によって形成されるコーティング層が反射層2となり、光触媒を反射材として所定の反射率とされたものでもよい。また、反射層は、1種類の反射材から形成される必要はなく、複数種類の反射材や複数層からなるものでもよい。
【0042】
本実施例では、断熱塗料のエアコン室外機の筐体への塗布により所定の塗膜が形成されているが、あらかじめ塗膜が形成され、事後的に利用されるものでもよい。例えば、シール状のシートの表面に断熱塗料が塗布され、所定の断熱層1と反射層2を備えた断熱シールとなり、当該断熱シールがエアコン室外機の筐体に貼り付けられるものでもよい。このように、あらかじめ塗膜形成されたものが利用される形態も本発明の断熱塗装による節電方法の範疇である。
【0043】
このように、所定の断熱層1と反射層2を備えた塗膜がシート状やその他の形態により、エアコン室外機の筐体に容易に着脱可能なものとして利用されることで、季節に応じた節電が可能になる。具体的には、夏季における節電には反射率90%を超える塗膜が、冬季における節電には反射率90%以下の本発明が想定する塗膜がそれぞれ用いられることで、より高い節電効果が期待できる。ただし、反射率90%はあくまで目安であり、高い節電効果を実現するために、地域等に応じた所定の反射率の反射層にされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、エアコンの冷房と暖房の消費電力量の削減に利用することができる。また、本発明は、断熱層と反射層を簡易に形成し得る安価な塗料の製造及び断熱施工に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 断熱層
2 反射層

【要約】
【課題】 冬季において、より効果のあるエアコンの節電方法及び断熱塗料を提供する。
【解決手段】 エアコン室外機の筐体を断熱塗装し、中空ビーズによる断熱層1と、その上面に反射材による低反射率の反射層2とを塗膜形成する。低反射率として、より具体的には、JISK5602:2008で規定される全波長域300~2500nmの日射反射率90%以下となるようにする。
【選択図】図1

図1