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特許7311227低下した反応源性を有するLPSを含むボルデテラワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】低下した反応源性を有するLPSを含むボルデテラワクチン
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20230711BHJP
   A61K 39/10 20060101ALN20230711BHJP
   A61K 39/116 20060101ALN20230711BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20230711BHJP
   A61P 37/04 20060101ALN20230711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20230711BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C08B37/00 P
A61K35/74 A
A61K39/10
A61K39/116
A61P31/04
A61P37/04
A61P43/00 121
C12N1/21 ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019547272
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2018056241
(87)【国際公開番号】W WO2018167061
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】17160604.9
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521367341
【氏名又は名称】イントラヴァック ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100217157
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 梨沙
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ダー レイ, ピーター アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】アリーナス ブストー, ジーザス アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】プーポ エスカローナ, エルダー
(72)【発明者】
【氏名】トマッセン, ヨハネス ペトリュス マリア
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108395458(CN,A)
【文献】Carbohydrate Research,2013年,378,56-62
【文献】Scientific Reports ,2016年,6,25905 (1-17)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/00
C07H
A61K 39/
A61P
A61K 35/
C12N 1/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、遺伝子改変されていないボルデテラ属細菌のLPSのリピドA部分と比較して、改変されたリピドA部分を有する改変ボルデテラLPSであって、
前記改変されたリピドA部分が、一般式(I)
【化1】

[式中、
’、X 及びX は、-OHであり、
’は、-O-(C=O)-Yであり、
’、R ’、R 及びR は、-Yであり、
Yは、一般式-(CH -Hのアルキル部分であり、
2’ 中のY中のnは、1~13から選ばれる整数であり、
3’ 中のY中のnは、1~11から選ばれる整数であり、
2’ 中のY中のnは、1~11から選ばれる整数であり、
中のY中のnは、1~7から選ばれる整数であり、
中のY中のnは、1~11から選ばれる整数であり、
ただし、
2’ 中のY中のnは、1~12から選ばれる整数である;
3’ 中のY中のnは、1~10から選ばれる整数である;
2’ 中のY中のnは、1~10から選ばれる整数である;
中のY中のnは、1~6から選ばれる整数である;及び/又は
中のY中のnは、1~10から選ばれる整数である]
で表される、改変ボルデテラLPS
【請求項2】
前記改変ボルデテラLPSは、前記改変されたリピドA部分を除いて、前記遺伝子改変されていないボルデテラ属細菌のLPSと同じ構造を有する、請求項1に記載の改変ボルデテラLPS。
【請求項3】
前記改変されたリピドA部分の3位におけるアシル鎖の長さが、C 10である、請求項1又は2に記載の改変ボルデテラLPS。
【請求項4】
前記改変されたリピドA部分の3位におけるアシル鎖の長さが、3’位におけるアシル鎖の長さと同じである、請求項1~3のいずれか一項に記載の改変ボルデテラLPS。
【請求項5】
より短いアシル鎖が、
i)前記改変されたリピドA部分の3’位におけるアシル鎖;
ii)前記改変されたリピドA部分の2’位における第1のアシル鎖;
iii)前記改変されたリピドA部分の2’位における第2のアシル鎖;及び
iv)前記改変されたリピドA部分の2位におけるアシル鎖からなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の改変ボルデテラLPS。
【請求項6】
前記遺伝子改変されていないボルデテラ属細菌が、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌である、請求項1~5のいずれか一項に記載の改変ボルデテラLPS。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン学の分野にあり、特に、ボルデテラ感染症の予防又は処置の分野にある。
【0002】
本発明は、内毒素性(endotoxicity)が低いボルデテラLPS及びかかる改変されたLPSを含むボルデテラ属の遺伝子改変細菌に関する。本発明は、さらに、前記改変細菌から取得可能な外膜小胞(OMV:outer membrane vesicle)に関する。本発明はまた、前記LPS、遺伝子改変細菌及び/又はOMVを含む組成物並びに医薬品としての前記組成物の使用に関する。本発明は、さらに、対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置における使用のための前記組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
百日咳菌(Bordetella pertussis)は、グラム陰性菌及び百日ぜき(whooping cough)としても知られる急性気道疾患である百日咳(pertussis)を引き起こす偏性のヒト病原体である。いくつかのワクチン配合物は、百日咳に対して開発されている。前世紀の50年代に導入された全細胞百日咳ワクチンは、有効であったが、許容できない副作用が生じた。したがって、このワクチンは、先進工業国において、現在は、市場には入れない。サブユニット-ベースのワクチンは、安全であり、疾患に対して相対的な保護(被覆度55~95%)を与えることが示されたため、全細胞ワクチンと置き換えられた。しかしながら、その中でもとりわけ、病原体の高速の適応及び免疫の急速な漸減は、これらの配合物の効果を低下させている。こうしたことから、この数十年間に、特に、先進工業国において懸念が抱かれるようになり、これは、ワクチンの間に含まれる症例の数のかなり増加によって証明されている[1]。したがって、新たな、安全及び有効なワクチン処方についての強い医学的必要性がある。この目標を達成する戦略は、低下した毒性を有する新たな全細胞ワクチンの導入であり得る。毒性が、リポ多糖類(LPS)の脂質A部分によって、主に決定されるため[2]、この手法は、脂質Aエンジニアリングを要する。
【0004】
LPSは、グラム陰性菌の外膜の主な構成成分である。LPSは、脂質A部分、コアオリゴ糖及びO-抗原として公知の長い多糖類からなるが、百日咳菌を含めた、いくつかの種において欠如している[3~5]。脂質A部分は、哺乳動物LPS受容体、TLR4/MD-2複合体によって認識され、炎症誘発性サイトカイン及びケモカインの産生に終わるシグナル伝達カスケードの活性化をもたらす[6]。これらのメディエーターは、免疫防御を活性化するが[7;8]、過剰刺激によって、様々な障害を引き起こし、しばしば致命的な結果になる[9]。したがって、LPSは、アジュバントとして作用し得るが、強力な内毒素としても作用し得る。大腸菌(Escherichia coli)の脂質Aは、1位及び4’位でリン酸化されるグルコサミン二糖類からなり、アミド結合を介して2及び2’位に連結され、エステル結合を介して3及び3’位に連結される、4本のヒドロキシル化された脂肪アシル鎖を含有する。2本の第2のアシル鎖は、2’及び3’位で脂肪酸のヒドロキシル基にエステル化される[4]。脂質Aの生合成経路は、9種のよく保存された酵素を要する[4]。第1のステップにおいて、3-ヒドロキシルアシル鎖は、アシルキャリアータンパク質から、LpxAによる活性された糖UDP-GlcNAcにおいて、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の3位に転移される[10;11]。次いで、得られた生成物は、LpxCにより脱アセチル化され、続いて、LpxDにより2位で3-ヒドロキシルアシル鎖によりアシル化される。次いで、LpxHは、得られた分子の割合からUMP分子を除去し、1個の改変された分子は、LpxBにより改変されていない分子と連結される。得られた生成物は、LpxKにより4’位でリン酸化されて、テトラ-アシル化及びビス-リン酸化脂質IVAを創出する。次いで、2つの3-デオキシ-D-マンノ-オクタ-2-ウロソン酸(KDO)残基は、WaaAにより6’位に加えられ、その後、第2のアシル鎖は、LpxL及びLpxMアシルトランスフェラーゼにより加えられる。
【0005】
脂質A構造における差異は、異なる細菌種において見出されている。これらの差異は、LPS受容体の活性化に影響を与える。特に、アシル鎖の数及び長さ並びにリン酸基の数は、活性化の強度をすべて決定し得る[4;12;13]。
【0006】
アシル鎖の長さにおける差異は、アシルトランスフェラーゼLpxA、LpxD、LpxL及びLpxMにおいて分子定規により決定され、これらは、異なる細菌種のこれらの酵素間で変わる[14]。さらに、保存された生合成経路の後、改変は、内膜又は外膜に位置している酵素により、外膜へのその輸送中又は輸送後に、脂質A中に導入することができる。これらの改変には、アシル化、脱アシル化及び脱リン酸化が含まれ、これらの酵素の存在は、細菌種間で異なる[15]。
【0007】
百日咳菌の脂質A(図1A)は、ペンタ-アシル化であるという点で大腸菌の脂質Aと異なる。すなわち、これは、3’位で第1のアシル鎖に連結された第2のアシル鎖が欠落している。さらに、残りの第2のアシル鎖は、大腸菌において見出されるC12の代わりにC14であり、奇妙なことに、3及び3’位における第1のヒドロキシル化アシル鎖は、同じLpxA酵素によって加えられるにもかかわらず、長さが異なる(図1A)。
【0008】
ボルデテラ3-O-脱アシル化LPSが、LPS毒性を減少させることが前もって報告された(例えば、国際公開第2006/065139号を参照のこと)。それにもかかわらず、3位における第1のアシル鎖を損失した百日咳菌LPSの毒性の低下は、これらの膜からのその放出の増加により全-細胞の調製において無効になった[2]。
【0009】
したがって、内毒素性の低下したボルデテラLPSについて当技術分野では、依然として強く必要とされている。特に、内毒素性の低下したかかるLPSを有するボルデテラ種についての必要性がある。LPSの内毒素性が、ボルデテラ感染症の予防又は処置における使用に適当であるほど十分低いことが好ましい。さらに正確には、内毒素性が低いLPSを含む全細胞ボルデテラワクチンについて当技術分野で、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。
【0011】
改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖よりも長さが大きくないことが好ましく、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、C10よりも大きくないことが好ましい。改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖と同じ長さであることが好ましく、3位におけるアシル鎖の長さが、C10であることが好ましい。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、3’位におけるアシル鎖の長さと同じである。
【0013】
より短いアシル鎖は、i)脂質A部分の3’位におけるアシル鎖;ii)脂質A部分の2’位における第1のアシル鎖;iii)脂質A部分の2’位における第2のアシル鎖;及びiv)脂質A部分の2位におけるアシル鎖からなる群から選択されることが好ましい。アシル鎖が、C原子が少なくとも2、4又は6個短いことが好ましい。さらに好ましい実施形態では、本発明は、改変された脂質A部分を除き、百日咳菌、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)又は気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)の構造を有する、本明細書で定義されるボルデテラLPSに関する。LPSは、改変された脂質A部分を除き、百日咳菌の構造を有することが好ましい。
さらに好ましい実施形態では、本発明は、改変された脂質A部分が、式(I):
【0014】
【化1】

[式中、X、X、X’、X’、R、R、R’、及びR’は、それぞれ独立に、-H、-OH、-Y、-O-(C=O)-CH(OH)-Y、及び-O-(C=O)-Yからなる群から選択され、Yは、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から独立に選ばれる整数である]の構造を有する、本明細書で定義されるボルデテラLPSに関する。
【0015】
第2の態様では、本発明は、細菌は、本明細書で定義されるLPSを含む、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌に関する。異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、細菌は、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変されることが好ましい。異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変は、異種LpxA、LpxL及びLpxDアシルトランスフェラーゼ活性のうちの少なくとも1つを細胞に与えることが好ましい。遺伝子改変は、異種lpxA、lpxL、及びlpxD遺伝子のうちの少なくとも1つの発現を導入することが好ましく、i)lpxA遺伝子は、配列番号1と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し;ii)lpxL遺伝子は、配列番号2と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し;及び/又はiii)lpxD遺伝子は、配列番号4と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有する。
【0016】
改変された細菌は、内因性lpxA遺伝子及び/又は内因性lpxD遺伝子によってコードされたLpxA及び/又はLpxDアシルトランスフェラーゼの活性を減少させる又は除去する遺伝子突然変異をさらに含むことが好ましい。
【0017】
さらに好ましい実施形態では、本明細書で定義される細菌は、異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、異種(heterelogous)lpxH遺伝子の発現を導入することが好ましく、lpxH遺伝子は、配列番号5と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxHをコードするヌクレオチド配列を有することが好ましい。
【0018】
本明細書で定義される細菌は、遺伝子改変百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌であることが好ましく、遺伝子改変細菌は、遺伝子改変百日咳菌であることが好ましく、百日咳菌B213株であることが最も好ましい。本明細書で定義される遺伝子改変細菌は、さらに、脂質A3-O-デアシラーゼ活性を増加させる遺伝子改変を有することが好ましい。
【0019】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、本明細書で定義される遺伝子改変細菌から取得可能である、本明細書で定義されるボルデテラLPSに関する。
【0020】
第3の態様では、本発明は、本明細書で定義されるボルデテラLPSを含むOMVに関する。OMVは、本明細書で定義される遺伝子改変細菌から取得可能であることが好ましい。
【0021】
第4の態様では、本発明は、本明細書で定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1つを含む組成物に関する。
【0022】
第5の態様では、本発明は、医薬品としての使用のための本明細書で定義される組成物に関する。
【0023】
第6の態様では、本発明は、対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置における使用のための本明細書で定義される組成物に関する。免疫応答は、ボルデテラ感染症、好ましくは、百日咳菌感染症に対して誘導される又は刺激されることが好ましい。好ましい実施形態において、処置は、百日ぜき(whooping cough)の予防又は処置である。本明細書において指定される使用のための組成物は、薬学的に許容される添加剤をさらに含む医薬組成物であることが好ましい。
【0024】
本明細書において指定される使用のための組成物は、本明細書で定義される細菌を含む全細胞ワクチンであることが好ましく、細菌は、不活性化されることが好ましい。
【0025】
好ましい実施形態において、本明細書で定義される使用のための組成物は、本明細書において指定されるボルデテラLPS又は本明細書で定義されるOMVを含む無細胞ワクチンである。
【0026】
好ましい実施形態において、本明細書で定義される使用のための組成物は、少なくとも1種の非ボルデテラ抗原をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】野生型及び遺伝子改変百日咳菌の脂質A構造を示す図である。(A)野生型百日咳菌の脂質A構造。B)LpxA(Nm)ΔlpxAを発現する百日咳菌の脂質A構造の予測。C)LpxA(Pa)ΔlpxAを発現する百日咳菌の脂質A構造。D)LpxL(Nm)ΔlpxLを発現する百日咳菌の脂質A構造及びE)LpxL(Pg)ΔlpxLを発現する百日咳菌の脂質A構造及びF)LpxD(Pa)ΔlpxD及びΔlpxAを発現する百日咳菌の脂質A構造、ΔlpxL及びΔlpxDは、それぞれ、染色体lpxA、lpxL及びΔlpxD遺伝子の不活性化を示す。
図2】増殖における異種酵素の発現の影響を示すグラフである。A)1mM IPTGの存在下でのVerweij培地中で18h増殖した後、pMMB67EHプラスミドから得られた、B213及びLpxL(Nm)、LpxA(Pa)、又はLpxL(Pg)を発現する誘導体の培養のOD590を示す。出発OD590は、0.05であった。データは、2回行われた代表的な1つの実験から得られ、その中で、平均及び標準偏差が得られる。LpxL(Nm)を発現する株の増殖異常は、2つの追加の実験において再現された。B)LpxD(Pa)。IPTG1mMの存在下でのVerweij液体培地中での増殖の12及び24h後、B213及びB213-pLpxDPaクローン4(cl4)及びクローン5(cl5)の培養の590nm(OD590)におけるODを示す。出発OD590は、0.05であった。
図3】脂質AのESI-MSによる構造分析を示す図である。負イオン脂質A質量スペクトルを、B213、LpxA(Pa)を発現するB213(B213-pLpxA(Pa))、LpxA(Pa)バックグラウンドを発現するB213(B213ΔlpxA-pLpxA(Pa))のΔlpxA突然変異、LpxL(Nm)を発現するB213(B213-pLpxL(Nm))、LpxL(Pg)を発現するB213(B213-pLpxL(Pg))及びLpxD(Pa)を発現するB213(B213-pLpxD(Pa))(クローン4及び5)の細胞から単離された未変化LPSのインソースの衝突によって誘導された解離ナノESI-FT-MSによって得られた。細菌を、IPTG1mMの存在下でのVerweij液体培地中で12h増殖させた。m/z1557.97における主な単独で-脱プロトン化されたイオンは、典型的な百日咳菌脂質A構造と解釈された。すなわち、図1中で例示される2つのリン酸残基(2P)によるジグルコサミン(2個のGlcN)ペンタ-アシル化(3つの3OH-C14、1つの3OH-C10及び1つのC14)である。追加の単独で-脱プロトン化された脂質Aイオンは、異なる誘導体において検出され、これらの解釈はまた、示される。脂質Aイオンを包含するm/z範囲のみ示す。
図4】精製されたLPS(A、B)又はB213及びLPS突然変異誘導体(C、D)の全-細胞調製による、hTLR4(A、C)又はmTLR4(B、D)を発現するHEK293細胞の刺激を示すグラフである。OD590を0.1に調整した、LPS調製及び細菌性懸濁液を、連続的に希釈した。mTLR4を発現するHEK293細胞で2hインキュベートした後又はhTLR4を発現するHEK293細胞で4hインキュベートした後、アルカリホスファターゼ活性を、基質を加え、630nmにおけるODを測定することにより決定した。代表的な1つの実験を示す。
図5】B213、B213ΔlpxA-pLpxA(Pa)、並びにB213-pLpxD(Pa)cl4及びcl5から精製されたLPSによる、hTLR4を発現するHEK293細胞の刺激を示すグラフである。2μg/mlの濃度における精製されたLPSを、連続的に希釈し、培養細胞に加え、4hインキュベートした。SEAP活性を得られる630nmにおけるODを提供する。
図6】In vivoにおける発熱性を示すグラフである。すべて百日咳菌野生型LPS及びOMVと比較した、lpxA(Pa)突然変異及びlpxD(Pa)突然変異から精製された、突然変異百日咳菌LPSにより、並びにlpxD(Pa)突然変異から抽出されたOMVにより誘導されたウサギにおける発熱性。発熱性は、0~48h及び0~8h間隔で曲線下面積として表される。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
用語「相同性」、「配列同一性」等は、本明細書において同義的に用いられる。配列同一性は、これらの配列を比較することにより決定される通り、2種以上のアミノ酸(ポリペプチド又はタンパク質)配列又は2種以上の核酸(ポリヌクレオチド)配列の間の関係として本明細書において定義される。当技術分野で、「同一性」はまた、かかる配列の弦線間の一致により決定される通り、場合に応じて、アミノ酸又は核酸配列の間の配列の因果関係の程度を意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、アミノ酸配列及び第2のポリペプチドの配列への1つのポリペプチドのその保存されたアミノ酸置換を比較することにより決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法により容易に算出することができる。
【0029】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、グローバル又はローカルアラインメントアルゴリズムを用いた、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列のアラインメントにより決定することができる。類似の長さの配列は、全長にわたってこれらの配列を最適に整列させるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman Wunsch法)を用いて整列させることが好ましく、実質的に異なる長さの配列は、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えば、Smith Waterman法)を用いて整列させることが好ましい。次いで、(例えば、デフォルトパラメーターを用いたGAP又はBESTFITプログラムにより最適に整列させる場合)これらは、(下記に定義される通り)配列同一性の少なくともある最小の百分率を共有する場合、配列は、「ほぼ同一の」又は「本質的に類似の」と称され得る。GAPは、Needleman and Wunschグローバルアラインメントアルゴリズムを用いて、これらの全長(完全長)にわたって2つの配列を整列させ、一致の数を最大限にし、ギャップの数を最小限にする。グローバルアラインメントは、2つの配列が類似の長さを有する場合、配列同一性を決定するために、好適に用いられる。一般的には、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ挿入時のペナルティ(gap creation penalty)=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ継続時のペナルティ(gap extension penalty)=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)と共に用いられる。ヌクレオチドの場合、用いられるデフォルトスコアリングマトリックス(default scoring matrix)は、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合、デフォルトスコアリングマトリックスは、Blosum62である(Henikoff & Henikoff、1992年、PNAS 89巻、915~919)。百分率配列同一性についての配列アラインメント及びスコアは、コンピュータプログラム、例えば、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、Version 10.3を用いて、又はオープンソースソフトウェア、例えば、EmbossWIN version 2.10.0における(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを用いた)「needle」又は(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを用いた)「water」というプログラムを用いて、上記GAPに関して同じパラメーターを用いて、又はデフォルト設定(「needle」の場合と「water」の場合の両方並びにタンパク質の場合とDNAアラインメントの場合の両方、デフォルトギャップ開始時のペナルティ(Gap opening penalty)は、10.0であり、デフォルトギャップ継続時のペナルティは、0.5であり;デフォルトスコアリングマトリックスは、タンパク質の場合Blosum62であり、DNAの場合DNAFullである)を用いて決定してもよい。配列が、実質的に異なる全体の長さを有する場合、ローカルアラインメント、例えば、Smith Watermanアルゴリズムを用いたもの等が好ましい。
【0030】
或いは、百分率類似性又は同一性は、アルゴリズム、例えば、FASTA、BLAST等を用いて、公開データベースに対して検索することにより決定することができる。したがって、本発明の核酸及びタンパク質配列は、「問い合わせ配列」としてさらに用いて、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列を同定するために、公開データベースに対して調査を行うことができる。かかる検索は、Altschulら(1990年)J.Mol.Biol.215:403-10のBLASTn及びBLASTxプログラム(version 2.0)を用いて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で行って、本発明のアシルトランスフェラーゼ核酸分子と相同のヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、BLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で行って、本発明のタンパク質分子と相同のアミノ酸配列を得ることができる。比較のために、ギャップを作った(gapped)アラインメントを得るために、Gapped BLASTは、Altschulら、(1997年)Nucleic Acids Res.25巻(17号):3389~3402頁に記載されている通り、利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラム(例えば、BLASTx及びBLASTn)のデフォルトパラメーターを用いることができる。National Center for Biotechnology Informationのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照のこと。
【0031】
任意選択で、アミノ酸類似性の程度を決定するときに、当業者はまた、当業者に明らかなように、いわゆる「保存的」アミノ酸置換を考慮に入れることもできる。保存的アミノ酸置換は、類似の側鎖を有する残基の互換性を意味する。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の基は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンであり;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の基は、セリン及びトレオニンであり;アミド含有側鎖を有するアミノ酸の基は、アスパラギン及びグルタミンであり;芳香族側鎖を有するアミノ酸の基は、フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファンであり;塩基性側鎖を有するアミノ酸の基は、リジン、アルギニン、及びヒスチジンであり;硫黄-含有側鎖を有するアミノ酸の基は、システイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、アスパラギン酸-グルタミン酸及びアスパラギン-グルタミンである。本明細書に開示されるアミノ酸配列の置換変異体は、開示された配列中の少なくとも1つの残基が、除去され、異なる残基が、その場所に挿入されるものである。アミノ酸の変化は、保存的であることが好ましい。天然に存在するアミノ酸のそれぞれの場合の好ましい保存的置換は、次の通りである。すなわち、Alaからser;argからlys;asnからgln又はhis;aspからglu;cysからser又はala;glnからasn;gluからasp;glyからpro;hisからasn又はgln;ileからleu又はval;leuからileまたval;lysからarg;gln又はglu;metからleu又はile;pheからmet、leu又はtyr;serからthr;thrからser;trpからtyr;tyrからtrp又はphe;及びvalからile又はleuである。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「選択的にハイブリダイズしている」、「選択的にハイブリダイズする」及び類似の用語は、ハイブリダイゼーション及び洗浄の場合の条件を記載することを目的としており、その条件下で、互いに少なくとも66%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%又はより好ましくは少なくとも99%相同のヌクレオチド配列は、通常、互いにハイブリダイズしたままである。すなわち、かかるハイブリダイズしている配列は、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、さらにより好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、より好ましくは、少なくとも98%又はより好ましくは、少なくとも99%配列同一性を共有し得る。
【0033】
かかるハイブリダイゼーション条件の好ましい限定しない例では、約45℃で6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でハイブリダイズし、その後、約50℃、好ましくは約55℃、好ましくは約60℃、さらにより好ましくは約65℃で、1×SSC、0.1%SDSで1回又は複数回洗浄する。
【0034】
非常に厳密な条件には、例えば、5×SSC/5×デンハート液/1.0%SDS中の約68℃でのハイブリダイゼーション及び室温での0.2×SSC/0.1%SDS中の洗浄が含まれる。或いは、洗浄は、42℃で行ってもよい。
【0035】
当業者は、厳密な及び非常に厳密なハイブリダイゼーション条件に適用するべきかを知っている。かかる条件に関する追加の指針は、例えば、Sambrookら、1989年、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、N.Y.;及びAusubelら(編)、Sambrook and Russell(2001年)「Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York 1995年、Current Protocols in Molecular Biology、(John Wiley & Sons、N.Y.)において、当技術分野で容易に利用可能である。
【0036】
もちろん、ポリA配列(例えば、mRNAsの3’末端ポリ(A)トラクト等)にのみ、又はT(若しくはU)残基の相補的な伸展にのみハイブリダイズするポリヌクレオチドは、このようなポリヌクレオチドが、ポリ(A)伸展又はその補体(例えば、実際には、任意の二重鎖cDNAクローン)を含有する任意の核酸分子にハイブリダイズするはずであるため、本発明の核酸の部分に特異的にハイブリダイズするために用いられる本発明のポリヌクレオチドに含まれないはずである。
【0037】
「核酸コンストラクト」又は「核酸ベクター」は、本明細書において、組換え型DNA技術の使用から生じる人工の核酸分子を意味するものと理解される。したがって、核酸コンストラクトが、天然に存在する核酸分子(の部分)を含むことができるが、用語「核酸コンストラクト」は、天然に存在する核酸分子を含まない。用語「発現ベクター」又は「発現コンストラクト」とは、かかる配列に適合する宿主細胞又は宿主生物において遺伝子の発現を行うことが可能であるヌクレオチド配列を意味する。これらの発現ベクターには、通常、少なくとも適当な転写制御配列、任意選択で、3’転写終結シグナルが含まれる。発現を行う上で必要な又は有益な追加の因子はまた、例えば、発現エンハンサー要素等が存在し得る。発現ベクターは、適当な宿主細胞に導入され、宿主細胞のin vitro細胞培養中で、コード配列の発現を行うことが可能である。発現ベクターは、本発明の宿主細胞又は生物における複製に適している。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」又は「転写制御配列」とは、1つ又は複数のコード配列の転写を制御するために機能し、コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置し、DNA-依存RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位及び、それだけには限らないが、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位を含めた任意の他のDNA配列、並びにプロモーターからの転写の量を調節するために、直接又は間接的に作用することが当業者に公知のヌクレオチドの任意の他の配列の存在によって構造的に同定される、核酸断片を意味する。「構成的な」プロモーターは、ほとんどの生理的及び発生的条件下で、ほとんどの細胞、好ましくは、細菌の細胞中で活性があるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、例えば、化学誘導物質の適用により、生理学的に又は発生学的に調節されるプロモーターである。
【0039】
用語「選択可能なマーカー」は、当業者によく知られている用語であり、本明細書において、任意の遺伝子実体を記載するために用いられ、これは、表す場合、選択可能なマーカーを含有する1つ又は複数の細胞について選択するために用いることができる。用語「レポーター」は、可視のマーカー、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)等を意味するために主に用いられるが、マーカーと同義的に用いることができる。選択可能なマーカーは、優性でも劣性でも双方向性でもよい。
【0040】
本明細書で使用される場合、用語「動作可能に連結される」とは、機能的関連性におけるポリヌクレオチド要素の連結を意味する。別の核酸配列と機能的関連性に配置される場合、核酸は、「動作可能に連結される」。例えば、転写制御配列は、コード配列の転写に影響を与える場合、コード配列に動作可能に連結される。動作可能に連結されるとは、連結されているDNA配列が、通常、連続し、2つのタンパク質コード化領域と一緒になる必要がある場合、連続し、読み枠内であることを意味する。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」は、通常、定義された配列を有する、アミノ酸残基の鎖として定義される。本明細書で使用される場合、用語ペプチドは、用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」と置換え可能である。本発明に関連して、用語「ペプチド」は、改変された又は改変されていないペプチド結合によって連結される少なくとも2つのアミノ酸を含む任意のペプチド又はタンパク質であると定義される。用語「ペプチド」とは、短鎖分子、例えば、オリゴペプチド若しくはオリゴマー等を意味し、又は長鎖分子、例えば、タンパク質等を意味する。タンパク質/ペプチドは、直鎖、分枝又は環式となり得る。ペプチドは、Dアミノ酸、Lアミノ酸、又はその組合せを含むことができる。本発明によるペプチドは、修飾アミノ酸を含むことができる。したがって、本発明のペプチドはまた、自然過程、例えば、転写後の修飾等により又は化学過程により修飾することもできる。これらの修飾のいくつかの例は、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンとの共有結合、ヘムとの共有結合、ヌクレオチド又はヌクレオチド誘導体との共有結合、改変された又は改変されていない炭水化物部分への共有結合、脂質又は脂質誘導体との結合、ホスファチジルイノシトール(phosphotidylinositol)との共有結合、架橋結合、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、システイン分子形成、ピログルタミン酸形成、ホルミル化、γ-カルボキシル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、酸化、リン酸化、ラセミ化等である。したがって、ペプチドの免疫原性を除去する効果を有さないペプチドの任意の修飾は、本発明の範囲内で包含される。
【0042】
用語「遺伝子」とは、適当な制御領域(例えば、プロモーター)に動作可能に連結される、細胞中でRNA分子(例えば、mRNA)に転写される領域(転写領域)を含む、DNA断片を意味する。遺伝子は、通常、いくつかの動作可能に連結される断片、例えば、プロモーター、5’リーダー配列、コード領域及びポリアデニル化部位を含む3’-非翻訳配列(3’-末端)を含む。「遺伝子の発現」とは、適切な制御領域、特に、プロモーターに動作可能に連結されるDNA領域が、RNAに転写され、生物学的活性がある、すなわち、生物学的活性があるタンパク質又はペプチドに翻訳されることが可能である過程を意味する。用語「相同の」とは、所与の(組換え型)核酸又はポリペプチド分子と所与の宿主生物又は宿主細胞との間の関連を示すために用いる場合、性質上、核酸又はポリペプチド分子が、同種、好ましくは、同じ変種又は株の宿主細胞又は生物によって産生されることを意味するものと理解される。宿主細胞と相同である場合、ポリペプチドをコードする核酸配列は、通常、別の(異種)プロモーター配列に動作可能に連結される(が、必ずしも動作可能に連結されるわけではなく)、適用可能な場合、その自然環境中よりも別の(異種)分泌型シグナル配列及び/又は転写終結配列に動作可能に連結される。制御配列、シグナル配列、転写終結配列等は、宿主細胞と相同となり得ることが理解される。
【0043】
核酸(DNA若しくはRNA)又はタンパク質に関して用いられる場合、用語「異種」及び「外因性の」とは、それが存在している生物、細胞、ゲノム又はDNA若しくはRNA配列の部分として自然に生じない、又は自然に見出されるものと異なるゲノム又はDNA又はRNA配列の、細胞又は1カ所若しくは複数カ所の位置において判明している核酸又はタンパク質を意味する。異種及び外因性の核酸又はタンパク質は、細胞に内因性でなく、そこに導入されるが、別の細胞から得られている又は合成によって若しくは組換えによって産生されている。一般には、必ずしもそうでないが、かかる核酸は、タンパク質、すなわち、DNAが、転写される又は発現される細胞によって通常産生されない外因性のタンパク質をコードする。同様に、外因性のRNAは、外因性のRNAが存在する細胞中で通常発現しないタンパク質をコードする。異種/外因性の核酸及びタンパク質はまた、外来の核酸又はタンパク質とも称され得る。当業者が、それが発現される細胞に対して外来と認識しているはずである任意の核酸又はタンパク質は、本明細書では、用語異種若しくは外因性の核酸又はタンパク質によって包含される。用語異種及び外因性はまた、核酸又はアミノ酸配列の非天然の組合せ、すなわち、合わせた配列のうちの少なくとも2つが、互いに対して外来である組合せに適用する。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「免疫応答」とは、その表面で抗原及び/又は抗原エピトープを運搬する及び/又は抗原及び/又は抗原エピトープを発現する又は抗原及び/又は抗原エピトープを提示する、ある特定の抗原実体の分解及び/又は阻害に対して方向づける及び/又はある特定の抗原実体の分解及び/又は阻害において支援する抗体及び/又は細胞(例えば、Tリンパ球)の産生を意味する。本発明の目的の場合、語句「有効な免疫防御応答」、「免疫保護」及び同様の用語とは、ワクチン接種した対象において、病原体による感染に対して又はがんに対して保護するために、病原体、病原体に感染した細胞又はがん細胞の1種又は複数の抗原エピトープに対して方向づけられる免疫応答を意味する。本発明の目的の場合、病原体による感染に対する保護又はがんに対する保護には、感染症又はがんの絶対的な予防だけでなく、病原体による感染症又はがんの程度若しくは速度の任意の検出可能な減少、又は例えば、ワクチン未接種の感染した対象と比較して、ワクチン接種した対象において、病原体又はがんにより感染症を生じる疾患又は任意の症状若しくは状態の重症度の任意の検出可能な減少も含まれる。がんの場合における有効な免疫防御応答には、がん細胞を一掃し、それによって、がんのサイズを縮小し、さらに、がんを消滅させることも含まれる。これを達成するためのワクチン接種は、治療的ワクチン接種とも呼ばれる。或いは、有効な免疫防御応答は、病原体に前もって感染していない対象及び/又は病原体に感染してない対象又はワクチン接種時にがんにいまだ罹ってない対象において誘導することができ、かかるワクチン接種は、予防ワクチン接種と称することができる。
【0045】
本発明によれば、用語「抗原」の本明細書における一般的な使用は、ある抗体に特異的に結合する任意の分子を意味する。用語はまた、MHC分子によって結合し、T-細胞受容体に提示することができる任意の分子又は分子の断片を意味する。抗原は、例えば、タンパク質性分子となり得る、すなわち、任意選択で、非-タンパク質基、例えば、炭水化物部分及び/又は脂質部分又は抗原を含む、ポリアミノ酸配列は、例えば、タンパク質性でない分子、例えば、炭水化物等となり得る。抗原は、例えば、タンパク質(ペプチド、部分タンパク質、全長タンパク質)の任意の部分となり得、タンパク質は、ある特定の対象において抗原-特異的免疫応答(体液性及び/又は細胞性免疫応答)を誘発することが可能であり、免疫応答が、好ましくは、アッセイ又は方法によって測定可能である、天然に存在する又は合成に由来する、細胞の構成(全細胞、細胞ライセート又は破壊された細胞)、生物(全生物、ライセート若しくは破壊された細胞)又は炭水化物又は他の分子、又はその部分である。
【0046】
用語「抗原」は、本明細書において、適応免疫応答の受容体についての標的として働く構造物質として理解される。したがって、抗原は、TCR(T-細胞受容体)又はBCR(B-細胞受容体)又はBCRの分泌形態、すなわち、抗体についての標的として働く。したがって、抗原は、タンパク質、ペプチド、炭水化物又は通常、より大型の構造の部分、例えば、細胞又はビリオン等である、他のハプテンとなり得る。抗原は、体内(「自己」)から又は外部環境(「非自己」)から生じ得る。免疫系は、胸腺においてT細胞の負の選択により、正常な条件下で「自己」抗原に対して、通常、非反応性であり、外の世界からの「非自己」の侵入者又は例えば、疾患状態下で、体内に存在する改変された/有害な物質のみを同定し攻撃すると想像される。細胞性免疫応答の標的である抗原の構造は、処理された抗原ペプチドの形態の抗原提示細胞(APC)により、組織適合性分子を介して、適応免疫系のT細胞に提示される。提示される抗原及び組織適合性分子のタイプに応じて、T細胞のいくつかのタイプは、活性化することができる。T-細胞受容体(TCR)認識の場合、抗原は、細胞の内側で小型のペプチド断片に加工され、主要組織適合複合体(MHC)によりT-細胞受容体に提示される。
【0047】
用語「免疫原」は、好ましくは、適切なアジュバントと一緒に対象に投与される場合、エピトープ及びエピトープを含む抗原に対して対象において特異的な体液性及び/又は細胞性免疫応答を誘発するように、抗原の少なくとも1種のエピトープを含む又はコードする実体を記載するために本明細書において用いられる。免疫原は、抗原と同一となり得、又は抗原の一部、例えば、抗原のエピトープを含む一部分を少なくとも含む。したがって、ある特定の抗原に対して対象にワクチン接種することは、一実施形態では、抗原の少なくとも1種のエピトープを含む免疫原の投与の結果として、免疫応答が、抗原又はその免疫原性部分に対して誘発されることを意味する。ワクチン接種は、保護又は治療効果をもたらすことが好ましく、抗原(又は抗原の発生源)へのその後の曝露によって、対象において疾患又は状態を軽減する又は予防する抗原(又は発生源)に対する免疫応答が誘発される。ワクチン接種の概念は、当技術分野で周知である。本発明の予防用又は治療用組成物の投与によって誘発される免疫応答は、ワクチンの投与がない場合と比較して、免疫状態(例えば、細胞応答、体液性応答、サイトカイン産生)の任意の面において、任意の検出可能な変化となり得る。
【0048】
「エピトープ」は、対象において免疫応答を誘発するのに十分である所与の抗原内で、単一の免疫原性部位と、本明細書において定義される。当業者は、T細胞エピトープが、サイズ及び組成物がB細胞エピトープと異なり、クラスI MHC経路を通して提示されるT細胞エピトープが、クラスII MHC経路を通して提示されるエピトープと異なることを認識している。エピトープは、免疫応答のタイプに応じて、直線的な配列又は立体構造エピトープ(保存される結合領域)となり得る。抗原は、単一のエピトープくらい小型でもより大型でもよく、複数のエピトープを含むこともできる。したがって、抗原のサイズは、約5~12個のアミノ酸(例えば、ペプチド)くらい小型となり得、多量体タンパク質、タンパク質複合体、ビリオン、粒子、細胞全体、微生物全体、又はそれらの部分(例えば、細胞全体のライセート又は微生物の抽出物)を含めて、全長タンパク質くらい大型となり得る。
【0049】
アジュバントは、本明細書において、対象において抗原に対して免疫応答を高めるために、ヒト又は動物対象に抗原と組み合わせて投与される場合、免疫系を刺激し、それによって、好ましくは、必ずしも、アジュバント自体に、ある特定の免疫応答を引き起こさせずに、抗原に対して免疫応答を誘発する、増強する又は促進する実体であることが理解される。好ましいアジュバントは、同じ条件下であるが、アジュバントの非存在下で、抗原に対して引き起こされた免疫応答と比較して、1.5、2、2.5、5、10又は20個のうちの少なくとも1つの因子により、所与の抗原に対して免疫応答を増強する。対応する対照群に対する動物又はヒト対象の群におけるアジュバントにより産生された所与の抗原に対する免疫応答の統計的平均の増強を決定するための試験は、当技術分野で利用可能である。アジュバントは、好ましくは、少なくとも2つの異なる抗原に対して免疫応答を増強することが可能である。
【0050】
OMV(「blebs」とも称される)は、グラム陰性菌の外膜からつまみ取られる、二分子膜構造、通常、球状であり、直径が、20~250nm(時には10~500nm)の範囲である。OMV膜は、内側にリン脂質(PL)を含有し、外側にリポ多糖類(LPS)及びPLを含有し、様々な位置で膜タンパク質と混合され、細菌の外膜の構造を大いに反映し、そこから、これらをつまみ取る。OMVの管腔は、周辺質又は細胞質からの様々な化合物、例えば、タンパク質、RNA/DNA、及びペプチドグリカン(PG)を含有することができるが、細菌の細胞と異なり、OMVは、自己複製する能力が欠如している。本発明に関連して、OMVの3つのタイプは、これらの産生の方法に応じて、区別することができる。sOMVは、未変化の細胞を、既に形成されたOMVから分離することにより、培養上清から精製され濃縮された、自然発生の又は天然のOMVである。界面活性剤OMV、dOMVは、界面活性剤、例えば、デオキシコラート(deoxycholate)によって細胞から抽出され、これはまた、反応源性LPSの含有量を減少させる。界面活性剤を抽出した後、dOMVは、細胞及び細胞残渣から分離され、さらに精製され、濃縮される。最後に、用語未変性nOMVは、本明細書において、非界面活性剤細胞破壊技法により、濃縮された死細胞から生成される、又は他の(非破壊的)界面活性剤無しで行う方法によって(例えば、キレート化剤、例えば、EDTA等を用いて)、細胞から抽出されるOMVについて用いて、野生型の自然発生のOMV及び界面活性剤によって抽出されたdOMVと明らかに区別することが可能である。
【0051】
本明細書における公開配列データベースでアクセス可能なヌクレオチド又はアミノ酸配列に関する任意の参照は、この文献の提出日において利用可能な配列のエントリーのバージョンを意味する。
【0052】
ボルデテラLPSの改変された脂質A部分のアシル鎖の長さ
本発明は、ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖の長さを縮小することにより、LPS内毒素性を低下させるという驚くべき発見に関する。本発明は、脂質A部分の3位でアシル鎖の長さを増加させることによって、ボルデテラ種の致死性をもたらすという予期しない知見をさらに開示している。したがって、本発明は、アシルトランスフェラーゼのある特定のサブセットが、ボルデテラ種において用いて、アシル鎖の長さを縮小し、したがって、ボルデテラLPSの内毒素性を低下させることができるということを開示している。
【0053】
したがって、第1の態様では、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。いかなる理論によっても縛られることを望まないが、アシル鎖の長さのかかる改変は、アクセサリー分子、例えば、CD14の結合に影響を与え得る。アクセサリー分子は、異なる細菌のLPSへの有意に異なる結合親和性を有し[23]、これは、アシル鎖の長さによって潜在的に影響を与えられ得る。
【0054】
野生型ボルデテラリポ多糖類(LPS)は、ペンタ-アシル化される脂質A部分を含有する。野生型百日咳菌LPSの脂質A部分は、図1に示される。図1中に示されるように、百日咳菌の脂質A部分は、4本の第1のアシル鎖及び1本の第2のアシル鎖を含有する。第2のアシル鎖は、2’(2プライム)位で第1のアシル鎖に連結され、第2のアシル鎖の野生型の長さは、C14である。さらに第2のアシル鎖に対して、第1のアシル鎖は、常に、これらの3’-末端(3-OH)でヒドロキシル化される。
【0055】
第1のアシル鎖は、それぞれ、脂質A部分の2及び3位並びに2’(2プライム)及び3’(3プライム)位となる。第1のアシル鎖のアシル鎖の野生型の長さは、2、2’及び3’位でC14であり、3位における野生型アシル鎖の長さは、C10である。
【0056】
さらに、用語「2、3、2’又は3’位におけるアシル鎖」及び「2、3、2’又は3’位における第1のアシル鎖」は、本明細書において置換え可能で用いることができるということが理解される。
【0057】
さらに、脂質A部分中の「プライム」位におけるアシル鎖を参照する場合、非還元末端におけるグルコサミンの位置が意図されることが、本明細書において理解される。例えば、3’位におけるアシル鎖は、非還元末端においてグルコサミンの3位に結合されるアシル鎖である。
【0058】
また、脂質A部分中のある特定の(すなわち、プライムでない)位置におけるアシル鎖を参照する場合、還元末端におけるグルコサミンの位置が意図されることが本明細書において理解される。例えば、3位におけるアシル鎖は、還元末端においてグルコサミンの3位に結合されるアシル鎖である。同様に、語句「~より大きいアシル鎖」及び「~より長いアシル鎖」は、本明細書において置換え可能で用いることができる。
【0059】
語句「~より短いアシル鎖」及び「~より小さいアシル鎖」は、本明細書において置換え可能で用いることができる。
【0060】
より短いアシル鎖が、アシル鎖の完全な非存在を含まないことが、本明細書において理解される。したがって、より短いアシル鎖は、野生型脂質A部分の同じ位置におけるアシル鎖の長さよりも短いにもかかわらず、アシル鎖の存在を意味する。アシル鎖は、3-ヒドロキシプロピオン酸より短くない、又はプロピオン酸(C)より短くないことが好ましい。
【0061】
本文中の野生型脂質A部分(又は修飾されていない脂質A部分)について言及される場合、別段の指示がない限り、図1において例示される野生型百日咳菌LPSの脂質A部分が最小限で意図される。同様に、他のボルデテラ種の野生型脂質A部分は、開示された発明の一部である。ボルデテラ脂質A部分は、例えば、Caroffら(Microbes and Infection 4(2002年):915~926頁、参照により本明細書に組み込まれる)の図2に開示される。野生型脂質A部分は、ペンタ-又はヘキサ-アシル化され得る。野生型LPSの脂質A部分が、ヘキサ-アシル化される場合には、2本の第2のアシル鎖がある(一方が2’位で、もう一方が3’位である)。脂質A部分のボルデテラ野生型アシル鎖が、ヘキサ-アシル化される場合には、第2のアシル鎖が、2’位における及び/又は3’位における第2のアシル鎖として解釈されるべきであることについて、本文中の任意の参照がなされた。
【0062】
好ましい実施形態において、1本のみのアシル鎖の長さは、同じ位置で、野生型脂質A部分のアシル鎖より短い。1本の第1のアシル鎖の長さは、より短いことが好ましい。2、3、2’又は3’位における第1のアシル鎖の長さのみが、それぞれ2、3、2’又は3’位で、野生型ボルデテラアシル鎖の長さよりも短いことがより好ましい。或いは、第2のアシル鎖の長さのみが、野生型ボルデテラ第2のアシル鎖の長さよりも短い。
【0063】
代替の実施形態では、少なくとも1本のアシル鎖の長さは、より短い。特に、少なくとも2位におけるアシル鎖の長さは、2位における野生型の長さよりも短い、したがって、C14よりも短い。或いは、少なくとも3位における又は2’位におけるアシル鎖は、それぞれ3又は2’位で野生型の長さよりも短い、したがって、それぞれC10又はC14より短い。他の実施形態では、少なくとも3’位におけるアシル鎖の長さは、3’位におけるアシル鎖の野生型の長さよりも短い、したがって、C14よりも短い。或いは、第2のアシル鎖における少なくともアシル鎖の長さは、野生型第2のアシル鎖の長さよりも短い、したがって、C14よりも短い。
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、より短いアシル鎖が、
i)脂質A部分の3’位におけるアシル鎖;
ii)脂質A部分の2’位における第1のアシル鎖;
iii)脂質A部分の2’位における第2のアシル鎖;及び
iv)脂質A部分の2位におけるアシル鎖からなる群から選択されるという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。
【0064】
さらに好ましい実施形態では、脂質A部分中の少なくとも2、3、4又は5本(すべて)のアシル鎖の長さは、同じ位置で野生型の長さよりも短い。2及び2’位における(少なくとも)アシル鎖の長さが、それぞれ2及び2’位における野生型アシル鎖のアシル鎖の長さよりも短いことが好ましい。
【0065】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、アシル鎖が、C原子が少なくとも2、4又は6個短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。少なくとも1本のより短いアシル鎖は、上記で指定したアシル鎖のうちのいずれかとなり得る。少なくとも1本のより短いアシル鎖は、野生型ボルデテラの脂質A部分の同じ位置におけるアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも12、10、8、6、4又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10又は12個短い。より好ましくは、アシル鎖は、C原子が少なくとも8、6、4又は2個短く、より好ましくは、C原子が少なくとも4又は2個短く、さらにより好ましくは、C原子が少なくとも2個短い。最も好ましい実施形態では、改変されたアシル鎖は、野生型ボルデテラの脂質A部分の同じ位置におけるアシル鎖の長さと比較して、C原子が2個短い。
【0066】
好ましい実施形態において、2位におけるアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラの脂質A部分の2位におけるアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも12、10、8、6、4、又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10又は12個短い。したがって、改変された脂質A部分の2位におけるアシル鎖の長さは、好ましくは、C、C、C、C、C10又はC12である。
【0067】
或いは又はさらに、3位におけるアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラの脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも14、12、10、8、6、4、又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10、12又は14個短い。したがって、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、好ましくは、C、C、C、C、C10、C12又はC14であり、より好ましくはC、C、C又はCである。
【0068】
或いは又はさらに、2’位におけるアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラの脂質A部分の2’位におけるアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも12、10、8、6、4、又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10又は12個短い。したがって、改変された脂質A部分の2’位におけるアシル鎖の長さは、好ましくは、C、C、C、C、C10又はC12である。
【0069】
或いは又はさらに、3’位におけるアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラの脂質A部分の3’位におけるアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも12、10、8、6、4、又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10又は12個短い。したがって、改変された脂質A部分の3’位におけるアシル鎖の長さは、好ましくは、C、C、C、C、C10又はC12である。
【0070】
最後に、或いは又はさらに、第2のアシル鎖のアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラの脂質A部分の第2のアシル鎖の長さと比較して、好ましくは、C原子が少なくとも12、10、8、6、4、又は2個短い。或いは、より短いアシル鎖は、好ましくは、C原子が最大でも2、4、6、8、10又は12個短い。したがって、改変された脂質A部分の第2のアシル鎖の長さは、好ましくは、C、C、C、C、C10又はC12である。
【0071】
さらに、野生型アシル鎖の長さよりも短くない、改変された脂質A部分の1,2、3又は4本のアシル鎖の長さは、野生型脂質A部分の同じ位置におけるアシル鎖よりも大きい長さを有し得る。したがって、さらなる実施形態では、改変された脂質A部分の少なくとも1本のアシル鎖の長さは、好ましくは、上記で指定した長さにおいてより短い、同じ改変された脂質A部分中の別のアシル鎖に加えて、脂質A部分中の同じ位置における野生型アシル鎖の長さよりも大きい。少なくとも2、3、2’及び/又は3’位における、より好ましくは、2、2’及び/又は3’位における第1のアシル鎖の長さは、脂質A部分中の同じ位置における野生型アシル鎖の長さよりも大きいことが好ましい。或いは、又はさらに、第2のアシル鎖の長さは、野生型ボルデテラ脂質A部分の第2のアシル鎖の長さよりも大きい。
【0072】
しかしながら、好ましい実施形態において、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖よりも長さが大きくないという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。
【0073】
したがって、3位におけるアシル鎖は、上記で指定した通り、(野生型ボルデテラの脂質A部分が、例えば、パラ百日咳菌(B.parapertussis)である場合では)好ましくは、C16若しくはそれ以下、(野生型ボルデテラの脂質A部分が、例えば、気管支敗血症菌(B.bronchiseptica)又はボルデテラ・ヒンジイ(B.hinzii)の場合では)C12若しくはそれ以下(野生型ボルデテラの脂質A部分が、例えば、百日咳菌である場合では)又はC10若しくはそれ以下である。特に、下記に例示される本発明は、3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型アシル鎖の長さを超えて増加することによって、ボルデテラ種の致死性をもたらし得るということを教示している。したがって、最も好ましい実施形態では、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、C10を超えない。
【0074】
同様に、好ましい実施形態において、改変された脂質A部分の2、2’又は3’位における第1のアシル鎖の長さは、C14を超えない及び/又は第2のアシル鎖の長さは、C14を超えない。
【0075】
或いは又はさらに、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、3’位におけるアシル鎖の長さと同じである。したがって、3位におけるアシル鎖並びに3’位におけるアシル鎖は両方とも、C、C、C、C10、C12、C14又はC16である。両方のアシル鎖は、C10又はC12であることが好ましく、両方のアシル鎖は、C10であることが最も好ましい。
【0076】
上記で概略した通り、改変された脂質A部分中の1本又は複数本のアシル鎖の長さは、脂質A部分中の同じ位置における野生型アシル鎖の長さよりも短い。野生型の長さと比較して短くないアシル鎖は、野生型アシル鎖の長さと同じ長さでもよく、より長くてもよい。野生型の長さと比較して短くないアシル鎖は、野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖と同じ長さのままであることが好ましく、例えば、不変のままである。
【0077】
特に好ましい実施形態では、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖と同じ長さであるという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。したがって、改変されたボルデテラ脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さは、C10であることが好ましい。さらに又は或いは、改変された脂質A部分中の2、2’及び3’位のうちの少なくとも1本のアシル鎖は、野生型ボルデテラ脂質A部分のそれぞれ2、2’又は3’位においてアシル鎖と同じ長さを有し得る。したがって、好ましい実施形態において、改変された脂質A部分の2、2’又は3’位のうちの少なくとも1本のアシル鎖の長さは、C14である。同様に、2’位における第2のアシル鎖の長さは、野生型第2のアシル鎖と同じ長さである、すなわち、C14である。
【0078】
したがって、本発明の改変されたボルデテラ脂質A部分は、野生型ボルデテラ脂質A部分において同じ位置(複数可)でアシル鎖(複数可)より短い1本又は複数本のアシル鎖及び/又は野生型ボルデテラ脂質A部分において同じ位置(複数可)でアシル鎖(複数可)よりも長い1本又は複数本のアシル鎖及び/又は野生型ボルデテラ脂質A部分において同じ位置(複数可)でアシル鎖(複数可)と同じ長さを有する1本又は複数本のアシル鎖を有し得る。改変された脂質A部分は、野生型ボルデテラ脂質A部分の同じ位置でアシル鎖の長さよりも短い少なくとも1本のアシル鎖を有することが最も好ましい。
【0079】
他の実施形態では、改変された脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数は、前述した野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数と同じである。野生型ボルデテラの脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数は、C14(2位)+C10(3位)+C14(2’位)+C14(第2のアシル鎖)+C14(3’位)であり、合計で66個のC原子である。したがって、好ましい実施形態において、改変された脂質A部分中のアシル鎖中のC原子の総数は、66個のC原子である。
【0080】
或いは、改変された脂質A部分中のアシル鎖中のC原子の総数は、野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数よりも高く、したがって、66個のC原子よりも高く、好ましくは、68、70、72又は74個のC原子よりも高い。
【0081】
しかしながら、改変された脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数は、野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖中のC原子の総数よりも低く、したがって、66個のC原子よりも低く、好ましくは、合計で、64、62、60、58、56、54、52、50、48、46、44、42又は40個のC原子であることが好ましい。
【0082】
特に、下記に例示される本発明では、毒性に対する効果は、より短いアシル鎖の位置と無関係に得られることが示される。したがって、脂質A分子の疎水性部分の総体積は、hTLR4複合体への適正な結合及びhTLR4複合体の活性化のために明らかに重要である。おそらく、より短いアシル鎖は、LPSのその受容体との相互作用に影響を与える。この膜において、TLR4は、MD-2との複合体を形成する[21]。MD-2は、LPSを結合させ、疎水性ポケットにおけるヘキサ-アシル化脂質Aの6本のアシル鎖のうち5本を収容し、1本の鎖は、外側に存在し、第2のTLR4-MD-2複合体のその結合によってTLR4二量体化を刺激する。また、脂質Aのリン酸基は、第2のTLR4分子において正の電荷をもつ残基と相互作用することにより、受容体二量体化に寄与する。テトラ-アシル化脂質A種において、アシル鎖は、MD-2リガンド-結合ポケットに埋没され、受容体二量体化を刺激することができず、アシル鎖のエクスポジション(exposition)は、ペンタ-アシル化LPSにおいて可変である[22]。したがって、数によって決定される、リガンドのアシル鎖の総体積、アシル鎖の長さ及び位置は、TLR4二量体化を誘発するアシル鎖のエクスポジションを決定することができる。いかなる理論によっても縛られることを望まないが、ボルデテラ脂質Aのアシル鎖の長さを縮小すると、アシル鎖の体積が減少し、これは、MD-2結合ポケット内のこれらの総収容を可能にすることができ、それによって、受容体二量体化のために要するアシル鎖の曝露を防止する。
【0083】
さらに好ましい実施形態では、本発明のボルデテラLPSは、上記で定義した改変された脂質A部分を有する。改変された脂質A部分を除いて、本発明のボルデテラLPSは、他の点で、ボルデテラ属の細菌から得られる又は取得可能であるリポ多糖類の構造を有する。ボルデテラ属は、9種のグラム陰性菌を含む。これらのうち大規模に研究されているのは、呼吸器病原菌の百日咳菌、パラ百日咳菌、及び気管支敗血症菌である。百日咳菌は、ヒトのみ感染し、乳児における百日ぜき(whooping cough)の病原因子及び成人における持続性呼吸器感染症の病原因子である。パラ百日咳菌は、2種の別々の系統として存在する。1種は、ヒト宿主に適合され、百日ぜき(whooping cough)を引き起こし;もう1種は、ヒツジの宿主に適合され、慢性肺炎を引き起こすおそれがある。それに対して、気管支敗血症菌は、多数の動物の気道にコロニー形成し、これが、一部の家畜、伴侶動物、及び野生動物において、呼吸器感染症を引き起こすが、ほとんどの気管支敗血症菌感染症は、無症候性及び慢性である。気管支敗血症菌は、ヒトの気道から時折単離され、感染した動物との接触を通して獲得される可能性がある(Prestonら、J.of Biol.Chem、2006年、281巻(26号):18135~18144)。
【0084】
例えば、百日咳菌、パラ百日咳菌、ボルデテラ・ヒンジイ及び気管支敗血症菌の脂質A部分は、Caroffら(参照により本明細書に組み込まれる、Microbes and Infection 4巻(2002年):915~926)の図2に開示されている。気管支敗血症菌及びパラ百日咳菌のLPSと対照的に、百日咳菌のLPSは、O-抗原ドメインをまったく含有しない(Peppler、1984年;Di Fabioら、1992年)。したがって、百日咳菌LPSはしばしば、リポオリゴ糖(LOS)と称される。本発明に関連して、用語「LOS」及び「LPS」は、本明細書において置換え可能で用いられる。コンシステンシーの理由で、本発明者らは、LPSをさらに参照するものとする。百日咳菌は、2つの優性LPS形態、バンドA及びバンドB LPSを産生する(Peppler、1984年)。バンドB LPSは、脂質A及び9種の炭水化物からなるコアオリゴ糖から構成される(Caroffら、2000年)。N-アセチルグルコサミン、2,3-ジアセトアミド-2,3-ジデオキシ-マンヌロン酸、及び2-アセトアミド-4-N-メチル-2,4-ジデオキシ-フコースからなる末端三糖を、バンドB LPSに加えると、バンドAと称されるLPSを形成する。
【0085】
したがって、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、本明細書で定義される、改変された脂質A部分を除き、LPSが、百日咳菌、パラ百日咳菌若しくは気管支敗血症菌の構造、又は例えば、下記に本明細書に記載した通り、遺伝子改変を有するこれらの種の株を有するという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関することが好ましい。ボルデテラLPSは、改変された脂質A部分を除き、百日咳菌又はパラ百日咳菌の構造を有することが好ましく、そのうち百日咳菌が、最も好ましい。
さらに好ましい実施形態では、本発明は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短く、改変された脂質A部分が、式(I):
【0086】
【化2】

[式中、X、X、X’、X’、R、R、R’、及びR’は、それぞれ独立に、-H、-OH、-Y、-O-(C=O)-CH(OH)-Y、及び-O-(C=O)-Yからなる群から選択され、
Yは、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から独立に選ばれる整数である]の構造を有するという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPSに関する。
【0087】
、X、X’、X’、R、R、R’、及びR’は、それぞれ独立に、-H、-OH、-Y、及び-O-(C=O)-Yからなる群から選択され、Yは、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から独立に選ばれる整数であることが好ましい。
【0088】
一般式(I)の好ましい化合物では、X、X、X’、及びX’は、それぞれ独立に、-H、-OH、-O-(C=O)-CH(OH)-Y、及び-O-(C=O)-Yからなる群から選択され、Yは、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15から独立に選ばれる整数であり、より好ましくは、1、3、5、7、9、11、13又は15から独立に選ばれる整数である。
【0089】
一般式(I)の好ましい化合物では、R、R、R’、及びR’は、それぞれ-Yであり、Yは、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から独立に選ばれる整数であり、より好ましくは、1、3、5、7、9、11、13又は15から独立に選ばれる整数である。
熟練した読者には明らかな通り、Yは、X、X、X’、X’、R、R、R’、及びR’のそれぞれの場合に異なり得、したがって、Yの複数の異なる場合は、一般式(I)の単一の化合物内で生じ得る。したがって、一般式(I)の好ましい化合物では、
は、-H、-OH、-YX2、-O-YX2、-O-(C=O)-CH(OH)-YX2、及び-O-(C=O)-YX2からなる群から選択され、YX2は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;Xは、-OH又は-O-(C=O)-YX2であることが好ましく、Xは、-OHであることが最も好ましく;
は、-H、-OH、-YX3、-O-YX3、-O-(C=O)-CH(OH)-YX3、及び-O-(C=O)-YX3からなる群から選択され、YX3は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;Xは、-OH又は-Hであることが好ましく、Xは、-OHであることが最も好ましく;
’は、-H、-OH、-YX2’、-O-YX2’、-O-(C=O)-CH(OH)-YX2’、及び-O-(C=O)-YX2’からなる群から選択され、YX2’は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;X’は、-OH、-O-(C=O)-CH(OH)-YX2’、又は-O-(C=O)-YX2’であることが好ましく、X2’が、-O-(C=O)-YX2’である場合、nは、1、3、5、7、9、11、又は13から選ばれる整数であることが好ましく、nは、11又は13であることがより好ましく、nは、13であることが最も好ましく、X2’が、-O-(C=O)-CH(OH)-YX2’である場合、nは、2、4、6、8、10、又は12から選ばれる整数であることが好ましく、nは、10又は12であることがより好ましく、nは、12であることが最も好ましく;X’は、-O-(C=O)-YX2’であることが最も好ましく、nは、13であり;
’は、-H、-OH、-YX3’、-O-YX3’、-O-(C=O)-CH(OH)-YX3’、及び-O-(C=O)-YX3’からなる群から選択され、YX3’は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;X’は、-OH又は-O-(C=O)-YX3’であることが好ましく、X3’が、-O-(C=O)-YX3’である場合、nは、1、3、5、7、9、11、13又は15から選ばれる整数であることが好ましく、nは、13又は15であることがより好ましく、nは、15であることが最も好ましく;X’は、-OHであることが最も好ましく;
は、-H、-OH、-YR2、-O-YR2、-O-(C=O)-CH(OH)-YR2、及び-O-(C=O)-YR2からなる群から選択され、YR2は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;Rは、YR2であることが好ましく;nは、1、3、5、7、9、又は11から選ばれる整数であることが好ましく、nは、9又は11であることがより好ましく、nは、11であることが最も好ましく;Rは、YR2であることが最も好ましく、nは、11であり;
は、-H、-OH、-YR3、-O-YR3、-O-(C=O)-CH(OH)-YR3、及び-O-(C=O)-YR3からなる群から選択され、YR3は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;Rは、YR3であることが好ましく、nは、1、3、5、7、9、11、又は13から選ばれる整数であることが好ましく、nは、7、9、又は13から選ばれる整数であることがより好ましく、nは、7であることが最も好ましく;Rは、YR3であることが最も好ましく、nは、7であり;
’は、-H、-OH、-YR2’、-O-YR2’、-O-(C=O)-CH(OH)-YR2’、及び-O-(C=O)-YR2’からなる群から選択され、YR2’は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;R’は、YR2’であることが好ましく、nは、1、3、5、7、9、又は11から選ばれる整数であることが好ましく、nは、9又は11であることがより好ましく、nは、11であることが最も好ましく;R’はYR2’であることが最も好ましく、nは、11であり;
’は、-H、-OH、-YR3’、-O-YR3’、-O-(C=O)-CH(OH)-YR3’、及び-O-(C=O)-YR3’からなる群から選択され、YR3’は、一般式-(CH-Hのアルキル部分であり、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から選ばれる整数であり;R’は、YR3’であることが好ましく、nは、1、3、5、7、9、又は11から選ばれる整数であることが好ましく、nは、7又は11であることがより好ましく、nは、11であることが最も好ましく;R’は、YR3’であることが最も好ましく、nは、11であり;
一般式(I)の化合物が、-YX2、-YX3、-YX2’、又は-YX3’を含む場合、nは、奇数であることが好ましく、5、7、9、11、13、又は15であることがより好ましく、11又は13であることが最も好ましい。一般式(I)の化合物が、-YR2、-YR3、-YR2’、又は-YR3’を含む場合、nは、奇数であることが好ましく、3、5、7、9、11、又は13であることがより好ましく、7又は11であることが最も好ましい。
【0090】
一般式(I)の好ましい化合物では、Rは、YR2であり、nは、9又は11である。したがって、一般式(I)の好ましい化合物では、Rは、-(CH-Hである又はRは、-(CH11-Hである。一般式(I)のさらに好ましい化合物では、Xは、-OHである。一般式(I)のより好ましい化合物では、Rは、-(CH-H又は-(CH11-Hであり、Xは、-OHである。一般式(I)の最も好ましい化合物では、Rは、-(CH11-Hであり、Xは、-OHである。
【0091】
一般式(I)の好ましい化合物では、R’は、YR2’であり、nは、9又は11である。したがって、一般式(I)の好ましい化合物では、R’は、-(CH-Hである、又はR’は、-(CH11-Hである。一般式(I)のさらに好ましい化合物では、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。一般式(I)のより好ましい化合物では、R’は、-(CH-Hである又はR’は、-(CH11-Hであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。一般式(I)の最も好ましい化合物では、R’は、-(CH11-Hであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。
【0092】
一般式(I)のより好ましい化合物では、Rは、YR2であり、nは、9又は11であり、R’は、YR2’であり、nは、9又は11である。したがって、一般式(I)の好ましい化合物では、R及びR’は、-(CH-H又は-(CH11-Hである。一般式(I)のさらにより好ましい化合物では、Xは-OHであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。一般式(I)のより一層好ましい化合物では、R及びR’は、-(CH-H又は-(CH11-Hであり、Xは、-OHであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。R及びR’は、いずれも-(CH-Hである、又はいずれも-(CH11-Hであることがより好ましく、R及びR’は、-(CH11-Hであることがさらにより好ましい。一般式(I)の最も好ましい化合物では、R及びR’は、-(CH11-Hであり、Xは、-OHであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’である。
【0093】
一般式(I)の好ましい化合物では、Rは、YR3である。一般式(I)のさらに好ましい化合物では、R’は、YR3’である。一般式(I)のより好ましい化合物では、Rは、YR3であり、R’は、YR3’である。一般式(I)のより一層好ましい化合物では、Rは、YR3であり、R’は、YR3’であり、Xは、-H又は-OHである。
【0094】
1セットの一般式(I)の最も好ましい化合物では、R及びR’は、-(CH-Hであり、Xは、-OHであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’であり、Rは、YR3であり、R’は、YR3’であり、Xは、-H又は-OHである。かかる化合物は、一般式(II12)の化合物である。一般式(II12)は、以下に示される。
【0095】
別のセットの一般式(I)の最も好ましい化合物では、R及びR’は、-(CH11-Hであり、Xは、-OHであり、X’は、-O-(C=O)-YX2’であり、Rは、YR3であり、R’は、YR3’であり、Xは、-H又は-OHである。かかる化合物は、一般式(II14)の化合物である。一般式(II14)は、以下に示される。一般式(II12)又は(II14)の化合物は、一般式(II)の化合物と称することができる。このような場合では、一般式(II12)及び一般式(II14)の両方に独立した参照がなされる。
【0096】
【化3】

一般式(II)の好ましい化合物では、Xは、-OHである。一般式(II)の他の好ましい化合物では、X’は-OHである。一般式(II)のより好ましい化合物では、X及びX’は、-OHである。
【0097】
一般式(II)の好ましい化合物では、YR3は、-(CH-Hである。一般式(II)のより好ましい化合物では、YR3は、-(CH-Hであり、X及びX’は、-OHである。かかる化合物は、一般式(III12)又は一般式(III14)の化合物である。一般式(III12)及び(III14)は、下記に示される。一般式(III12)又は(III14)の化合物は、一般式(III)の化合物と称することができる。このような場合では、一般式(III12)及び一般式(III14)の両方に独立した参照がなされる。
【0098】
【化4】

一般式(II)の好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11であり;nは、YR3’の場合、5、7、又は9であることがより好ましく;nは、YR3’の場合、7又は9であることがさらにより好ましく;nは、YR3’の場合、7であることが最も好ましい。一般式(III)の好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11であり;nは、YR3’の場合、5、7、又は9であることがより好ましく;nは、YR3’の場合、7又は9であることがさらにより好ましく;nは、YR3’の場合、7であることが、最も好ましい。
【0099】
一般式(II)の好ましい化合物では、nは、YX2’の場合、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13であり;nは、YX2’の場合、7、9、11、又は13であることがより好ましく;nは、YX2’の場合、9、11、又は13であることがさらにより好ましく;nは、YX2’の場合、11又は13であることが最も好ましい。一般式(III)の好ましい化合物では、nは、YX2’の場合、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13であり;nは、YX2’の場合、7、9、11、又は13であることがより好ましく;nは、YX2’の場合、9、11、又は13であることがさらにより好ましく;nは、YX2’の場合、11又は13であること最も好ましい。
【0100】
一般式(II)のより好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、5、7、9、又は11であり、nは、YX2’の場合、7、9、11、又は13であり;nは、YR3’の場合、7又は9であり、nは、YX2’の場合、9、11、又は13であることがさらにより好ましく;nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、11又は13であることが最も好ましい。一般式(II)の非常に好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、11である。一般式(II)の別の非常に好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、13である。一般式(III)のより好ましい化合物では、nは、YR3’の場合、5、7、9、又は11であり、nは、YX2’の場合、7、9、11、又は13であり;nは、YR3’の場合、7又は9であり、nは、YX2’の場合、9、11、又は13であることがさらにより好ましく;nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、11又は13であることが最も好ましい。
【0101】
一般式(III)の非常に好ましい化合物では、化合物は、一般式(III14)の化合物であり、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、11である。一般式(III)の別の非常に好ましい化合物では、化合物は、一般式(III14)の化合物であり、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、13である。一般式(III)の非常に好ましい化合物では、化合物は、一般式(III12)の化合物であり、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、11である。一般式(III)の別の非常に好ましい化合物では、化合物は、一般式(III12)の化合物であり、nは、YR3’の場合、7であり、nは、YX2’の場合、13である。
【0102】
さらなる実施形態では、上記で定義したLPSは、下記で本明細書で定義される遺伝子改変細菌から得られる又は取得可能である。
【0103】
遺伝子改変細菌
第2の態様では、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌に関する。細菌は、好ましくは、上記で定義した改変された脂質A部分を有するLPSを含む。遺伝子改変細菌は、LPSを含むことができ、その総LPSのうちの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80又は90%は、本明細書で定義される改変された脂質A部分を有する。或いは、その総LPSのうち100%は、本明細書で定義される改変された脂質A部分を有する。
【0104】
好ましい実施形態において、細菌は、細菌が、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変される。異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変は、異種LpxA、LpxL、及びLpxDアシルトランスフェラーゼ活性のうちの少なくとも1つを、細胞に与えることが好ましい。
【0105】
異種アシルトランスフェラーゼ活性の導入は、当技術分野で公知の任意の方法を用いて達成することができる。例えば、異種アシルトランスフェラーゼ活性は、内因性野生型ボルデテラアシルトランスフェラーゼ遺伝子を改変することにより、好ましくは、内因性lpxA、lpxL、及びlpxDアシルトランスフェラーゼ遺伝子のうちの少なくとも1つを改変することにより、導入することができる。
【0106】
好ましい実施形態において、内因性アシルトランスフェラーゼの分子定規の構造は、改変される。この目的を達成するために、アシルトランスフェラーゼが、アシル鎖の長さの特異性を決定する厳密な分子(炭化水素)定規を有することは、当技術分野で公知である。したがって、かかる炭化水素定規の構造を改変することにより、アシル鎖の長さの特異性を変化させる。アシルトランスフェラーゼ炭化水素定規のアミノ酸配列は、当技術分野で公知である(例えば、Wyckoff TJら、J Biol Chem.1998年273巻(49号):32369-72及びWilliams AHら、Proc Natl Acad Sci USA.2007年;104巻(34号):13543-50を参照のこと)又は例えば、公知の炭化水素定規を有するアシルトランスフェラーゼを用いたコンピュータによる整列を用いて、直接検索することができる。
【0107】
内因性アシルトランスフェラーゼは、アシル鎖の長さの特異性を変化させるために、ある特定のヌクレオチド又はコドンの置換、付加又は欠失を含めた、当技術分野で一般に知られる任意の方法を用いて、改変することができる。
【0108】
アシルトランスフェラーゼ活性は、ボルデテラ属の細菌中の少なくとも1種の異種遺伝子の発現により、例えば、異種アシルトランスフェラーゼを発現することにより、導入されることが好ましい。この目的を達成するために、単一の又は様々な異種アシルトランスフェラーゼは、細菌に導入されて、本明細書に開示される改変されたLPSを得ることができる。本発明による使用のためのかかるアシルトランスフェラーゼは、ある(より短い)長さのアシル鎖を、ボルデテラLPSの脂質A部分に転移し、それによって、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を得ることが可能である。異種アシルトランスフェラーゼの発現は、当技術分野で公知の任意の方法により達成することができる。
【0109】
特に好ましい実施形態では、異種アシルトランスフェラーゼ活性の導入は、LpxA、LpxD、及びLpxLのうちの少なくとも1つである、異種アシルトランスフェラーゼを導入することにより、達成される。或いは又はさらに、導入された異種アシルトランスフェラーゼは、LpxMである。かかるアシルトランスフェラーゼは、当技術分野で公知であり、本明細書で定義される野生型ボルデテラ細菌でない任意のグラム陰性菌から得られる又は取得可能となり得る。さらに、異種アシルトランスフェラーゼは、野生型ボルデテラ細菌よりも異なる種から得られるボルデテラから得られる又は取得可能となり得るということがやはり考えられる。
【0110】
アシル鎖の長さの差異は、アシルトランスフェラーゼにおいて分子定規により決定され、これは、異なる細菌種のこれらの酵素間で変わり得る。したがって、本発明の好ましい実施形態において、異種LpxAアシルトランスフェラーゼは、長さがC、C、C、C、C10又はC12であるアシル鎖を転移することができる。同様に、異種LpxDアシルトランスフェラーゼは、長さがC、C、C、C、C10又はC12であるアシル鎖を転移することができ、異種LpxLアシルトランスフェラーゼは、長さがC、C、C、C、C10又はC12であるアシル鎖を転移することができる及び/又は異種LpxMアシルトランスフェラーゼは、長さが、C、C、C、C、C10又はC12であるアシル鎖を転移することができる。
【0111】
さらに好ましい実施形態では、アシルトランスフェラーゼは、ナイセリア(Neisseria)属、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属又はシュードモナス(Pseudomonas)属から得られる又は取得可能である。したがって、アシルトランスフェラーゼLpxAは、ナイセリア属、ポルフィロモナス属又はシュードモナス属から得られる又は取得可能となり得、アシルトランスフェラーゼLpxDは、ナイセリア属、ポルフィロモナス属又はシュードモナス属から得られる又は取得可能となり得る、及び/又はアシルトランスフェラーゼLpxLは、ナイセリア属、ポルフィロモナス属又はシュードモナス属から得られる又は取得可能となり得る。しかしながら、他のアシルトランスフェラーゼが、本発明における使用のために同様に適し得るということは、当業者には明らかである。
【0112】
ナイセリア属の好ましい種には、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)及びナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica)が含まれ、それによって、髄膜炎菌種は、最も好ましい。
【0113】
ポルフィロモナス属の好ましい種には、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、ポルフィロモナス・アサッカロリティカ(Porphyromonas asaccharolytica)、ポルフィロモナス・カンジンジバリス(Porphyromonas cangingivalis)、ポルフィロモナス・カノリス(Porphyromonas canoris)、ポルフィロモナス・カンスルシイ(Porphyromonas cansulci)、ポルフィロモナス・カトニア(Porphyromonas catoniae)、ポルフィロモナス・サーカムデンタリア(Porphyromonas circumdentaria)、ポルフィロモナス・クレビオリカニス(Porphyromonas crevioricanis)、ポルフィロモナス・エンドドンタリス(Porphyromonas endodontalis)、ポルフィロモナス・ジンジビカニス(Porphyromonas gingivicanis)、ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)、ポルフィロモナス・レビイ(Porphyromonas levii)、ポルフィロモナス・マカカエ(Porphyromonas macacae)及びポルフィロモナス・サリボサ(Porphyromonas salivosa)が含まれ、ポルフィロモナス・ジンジバリス種が、最も好ましい。
【0114】
シュードモナス属の好ましい種には、緑膿菌(Pesudomonas aeruginosa)、シュードモナス・プチダ(Pesudomonas putida)、シュードモナス・フルオレッセンス(Pesudomonas fluorescens)及びシュードモナス・シリンガエ(Pesudomonas syringae)が含まれ、それによって、緑膿菌種が、最も好ましい。
【0115】
特に好ましい実施形態では、ボルデテラ属の細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有し、遺伝子改変は、lpxA遺伝子の発現を導入し、i)lpxA遺伝子は、緑膿菌種から得られる又は取得可能である、ii)lpxD遺伝子は、緑膿菌種から得られる又は取得可能である及びiii)lpxL遺伝子は、髄膜炎菌種から得られる又は取得可能であるうちの少なくとも1つである。
【0116】
他の実施形態では、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxA遺伝子の発現を導入し、lpxA遺伝子は、配列番号1又は配列番号6の配列を有するLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、又はLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号6と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有し、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxA遺伝子の発現を導入することが好ましく、lpxA遺伝子は、配列番号1の配列を有するLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有する、又はLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、遺伝子改変細菌に関する。
【0117】
或いは又はさらに、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxL遺伝子の発現を導入し、lpxL遺伝子は、配列番号2、配列番号3又は配列番号32の配列を有するLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、又はLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2、配列番号3又は配列番号32と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有しており、lpxL遺伝子は、配列番号2の配列を有するLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有することが好ましい、又はLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号2と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有することが好ましい、遺伝子改変細菌に関する。
【0118】
或いは又はさらに、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxD遺伝子の発現を導入し、lpxD遺伝子は、配列番号4の配列を有するLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有する、又はLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、遺伝子改変細菌に関する。
【0119】
さらに好ましい実施形態では、上記の本明細書で定義される配列番号1、6、2、3、32又は4を有するある特定の程度の配列同一性を有する配列は、それぞれ、LxpA(Pa)、LpxA(Nm)、LpxL(Nm)、LpxL(Pg)、LpxL(Pa)又はLpxD(Pa)アシルトランスフェラーゼ活性を保持する。
【0120】
さらなる実施形態では、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxA遺伝子の発現を導入し、lpxA遺伝子は、ジェンバンク(GenBank)WP_003092373.1において定義される配列を有するLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、又はLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、ジェンバンクWP_003092373.1において定義される配列と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、遺伝子改変細菌に関する。
【0121】
或いは又はさらに、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxL遺伝子の発現を導入し、lpxL遺伝子は、ジェンバンクWP_002222305.1において定義される若しくはジェンバンクWP_043876343.1において定義される配列を有するLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、又はLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、ジェンバンクWP_002222305.1において定義される又はジェンバンクWP_043876343.1において定義される配列と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、遺伝子改変細菌に関する。
【0122】
或いは又はさらに、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変は、少なくとも1種の異種lpxD遺伝子の発現を導入し、lpxD遺伝子は、ジェンバンクWP_003098585.1において定義される配列を有するLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、又はLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は、ジェンバンクWP_003098585.1において定義される配列と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、遺伝子改変細菌に関する。
【0123】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌であって、改変された細菌は、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するLPSを含み、細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性及び異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性のうちの少なくとも1つを導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変される、遺伝子改変細菌に関する。遺伝子改変細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性及び異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性を導入する遺伝子改変を有することが好ましい。
【0124】
かかる遺伝子改変細菌は、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖よりも長さが大きいという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有することが好ましい。
【0125】
異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性の導入は、好ましくは、異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼを導入することにより達成する。かかるUDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼは、当技術分野で公知であり、本明細書で定義される野生型ボルデテラ細菌でない任意のグラム陰性菌から得られる又は取得可能となり得る。さらに、異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼが、野生型ボルデテラ細菌よりも異なる種から得られるボルデテラから得られる又は取得可能となり得るということもやはり考えられる。
【0126】
好ましいUDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼは、LpxHである。したがって、好ましい実施形態において、遺伝子改変は、異種lpxH遺伝子の発現を導入する。したがって、異種lpxH遺伝子の発現は、細胞中で異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性を誘導する。
【0127】
lpxH遺伝子は、好ましくは、上記の本明細書で定義されるナイセリア属、ポルフィロモナス属又はシュードモナス属から得られる又は取得可能である。より好ましい実施形態では、lpxH遺伝子は、ナイセリアから得られる又は取得可能であり、lpxH遺伝子は、髄膜炎菌種から得られる又は取得可能であることがより好ましい。lpxH遺伝子は、配列番号5と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有するLpxHをコードするヌクレオチド配列を有することが最も好ましい。
【0128】
さらに好ましい実施形態では、上記の本明細書で定義される配列番号5を有する、ある特定の程度の配列同一性を有する配列は、UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性を保持する。
【0129】
さらに好ましい実施形態では、lpxH遺伝子は、ジェンバンクWP_002222897.1において定義される配列と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する、LpxHをコードするヌクレオチド配列を有する。
【0130】
本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、内因性lpxH遺伝子、すなわち、内因性LpxH(UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ)を発現する遺伝子をさらに含むことができる、又は遺伝子改変細菌は、単に、異種LpxH活性を含み、例えば、内因性LpxH活性を有する。最も好ましい実施形態では、遺伝子改変細菌は、配列番号30と少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%のアミノ酸配列同一性を有する内因性LpxHを発現させない。
【0131】
LpxHに関する代替の実施形態では、遺伝子改変細菌は、内因性lpxH遺伝子のみを含み、すなわち、内因性LpxHのみを発現する。したがって、特に、遺伝子改変細菌は、異種LpxHを発現する遺伝子を含まない。本明細書で定義される遺伝子改変細菌は、異種ナイセリアLpxHを発現しないことがより好ましく、異種髄膜炎菌LpxHを発現しないことが最も好ましい。さらに好ましい実施形態では、遺伝子改変細菌のみが、異種lpxA、lpxL及びlpxD遺伝子のうちの少なくとも1種の発現を導入する遺伝子改変を含む。
【0132】
本発明の遺伝子改変細菌は、LPSの異なるタイプの混合物を含有することができる。特に、改変された細菌は、本明細書に記載した少なくとも1本のより短いアシル鎖を有する脂質A部分を有するLPSに加えて、野生型LPSを含有することができる。或いは、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、本明細書で定義されるより短いアシル鎖を有するLPSを優性に又は単独で含有する。したがって、改変された細菌は、痕跡量の野生型LPSを含有しなくてもよく、又はそれのみを含有する。痕跡量の野生型LPSを含まない又はそれのみを含むボルデテラ属の細菌を得るために、上記で定義した遺伝子改変細菌は、さらに改変することができる。この目的を達成するために、好ましい実施形態において、上記で定義したボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、それぞれ、内因性lpxA、lpxD又は内因性lpxL遺伝子によってコードされたLpxA、LpxD及びLpxLアシルトランスフェラーゼのうちの少なくとも1つの活性を減少させる又は除去する遺伝子突然変異をさらに含む。
【0133】
したがって、かかる遺伝子改変細菌は、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する突然変異並びに対応する内因性LpxA及び/又はLpxDアシルトランスフェラーゼ活性を低下させるさらなる突然変異を有し得る。したがって、遺伝子改変細菌の全体的なLpxA及び/又はLpxDアシルトランスフェラーゼ活性は、野生型ボルデテラ細菌と比較して、増加しても類似しても低下してもよい。
【0134】
本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、配列番号28の配列、又は配列番号28を有する配列同一性が60、70、75、80、85、90、95、98、99若しくは100%である配列を有する内因性遺伝子における遺伝子突然変異を含むことができる。
【0135】
或いは又はさらに、本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、配列番号29の配列、又は配列番号29を有する配列同一性が、60、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%である配列を有する内因性遺伝子における遺伝子突然変異を含むことができる。
【0136】
或いは又はさらに、本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、配列番号31の配列、又は配列番号31を有する配列同一性が、60、70、75、80、85、90、95、98、99又は100%である配列を有する内因性遺伝子における遺伝子突然変異を含むことができる。
【0137】
好ましい実施形態において、内因性lpxA遺伝子、内因性lpxD遺伝子の発現及び/又は内因性lpxL遺伝子の発現は、前記遺伝子の不活性化によって、例えば、それ自体当技術分野で公知の方法による、遺伝子の破損又は欠失により、除去される。
【0138】
本発明のさらなる実施形態では、本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、遺伝子改変百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌である。遺伝子改変細菌は、遺伝子改変百日咳菌であることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、遺伝子改変細菌は、百日咳菌Tohama I型株又はその誘導体である。Tohama I誘導体株は、Tohama I株のストレプトマイシン-耐性誘導体であることが好ましく、遺伝子改変細菌は、B213株又はその誘導体に由来することが最も好ましい。或いは、遺伝子改変細菌は、百日咳菌B1917又はB1920株又はその誘導体である。
【0139】
さらに、本発明の遺伝子改変細菌は、1種又は数種のさらなる改変、例えば、LPS内毒素性を低下させる突然変異を有し得る。例えば、本発明のボルデテラLPSは、自己免疫応答を誘発する、及び/又は樹状細胞及びアジュバント活性への結合を増加させることが疑われるあり得るエピトープを取り除くように、改変されたオリゴ糖構造を有し得る。さらに、本明細書で定義される本発明の遺伝子改変細菌は、脂質A3-O-デアシラーゼ活性を増加させる遺伝子改変をさらに含むことができる。
【0140】
上記で示したように、より短いアシル鎖が、アシル鎖の完全な非存在を含まないことが、本明細書において理解される。したがって、より短いアシル鎖は、アシル鎖の存在を示す。それにもかかわらず、改変された脂質A部分は、より短いアシル鎖に加えて、野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖の数と比較して、アシル鎖がやはり少ないこともある。例えば、少なくとも部分的に3-O-脱アシル化LPS及び/又は脂質Aの存在は、LPS毒性をさらに低下させることができ、対象において副作用の数及び重症度を減少させることができる。
【0141】
したがって、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、LPS分子の混合物を含むことができ、LPS分子は、i)野生型LPS及び/又はii)少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するLPS及び/又はiii)脱アシル化される、例えば、3-O-脱アシル化されるLPSの混合となり得る。或いは又はさらに、本発明の遺伝子改変細菌は、少なくとも1本のより短いアシル鎖を有し、また、3-O-脱アシル化される脂質A部分を有するLPS分子を含むことができる。本発明は、さらに、かかる遺伝子改変細菌から得られたLPSに関する。
【0142】
本明細書で定義されるボルデテラ属の遺伝子改変細菌は、配列番号25(気管支敗血症菌及び百日咳菌のPagLタンパク質、ジェンバンクWP_003813842.1)を有するポリペプチドをコードする核酸、又は配列番号25と少なくとも25、30、40、50、60、70、80、90、95、98又は99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドをコードする核酸をさらに含み、ポリペプチドは、脂質A3-O-デアシラーゼ活性を示すことが好ましい。
【0143】
本発明のLPSを含むOMV
第3の態様では、本発明は、本明細書で定義されるボルデテラLPSを含むOMVに関する。例えば、ワクチンにおける使用のための、OMV(「blebs」としても公知である)は、界面活性剤抽出(dOMV精製プロセス)により従来から調製されており、例えば、デオキシコラート等の界面活性剤が用いられて、LPSを除去し、ベシクル放出を増加させる。細胞の超音波処理によって調製されたOMV調製、及びミョウバンアジュバントと組み合わせたDOCによる処置は、マウスモデルにおける百日咳の誘発に対する保護を提供し[Roberts、R.、Vaccine 2008年、26巻、4639~4646]、これは、全-細胞ワクチンの効果に匹敵した。PagL-脱アシル化された改変されたLPSを含有するOMVの別のバージョンによって、保護及びより低い反応源性が示され、後者は、体重増加及びサイトカイン誘導によりin vivoで決定される[Asensio、C.J.、Vaccine 2011年、29巻、1649~1656]。パラ百日咳菌OMVによる別の興味深い知見は、百日咳及びパラ百日咳に対するこれらの交差防御であった[Bottero、D.Vaccine 2013年、31巻、5262~5268]。
【0144】
大部分のグラム陰性菌、例えば、ボルデテラ等のLPSは、毒性がある。しかしながら、本発明のボルデテラLPSは、毒性の野生型LPSよりはるかに大きい程度で、依然としてOMV中に存在し得る。したがって、界面活性剤抽出方法は、界面活性剤の存在を必要としない方法により置き換えることができる。したがって、本発明によるボルデテラLPSを含むOMVは、界面活性剤によって抽出されたOMVとならなくてよい。しかしながら、界面活性剤によって抽出されたOMVでないOMVを調製するための方法は、いかなる界面活性剤の使用をも除外しないことが理解される。低濃度の界面活性剤の使用及び/又はマイルドな界面活性剤の使用は、本発明による改変されたボルデテラLPSの大部分、すなわち、改変されたボルデテラLPSの少なくとも5、10、20、50、60、70、80、90、95又は99%が、例えば、自然に存在するボルデテラLPS又は等量の同じ培地から得られた上澄みOMVの量と比較して、維持される限り、除外されない。
【0145】
本発明のボルデテラLPSを含む好ましいOMVは、上澄み又は自然OMV、すなわち、上記で本明細書において定義されるsOMV、又は未変性OMV、すなわち、上記で本明細書において定義されるnOMVである。或いは、本発明のボルデテラLPSを含むOMVは、界面活性剤によって抽出されたOMVである。dOMV、sOMV及びnOMVを調製するための方法は、van de Waterbeemdら(2010年)及びvan de Waterbeemdら(2013年)(van de Waterbeemd Bら、Vaccine.2010年;28巻(30号):4810~6及びvan de Waterbeemd B ,.PLoS One.2013年31;8(5):e65157)及び国際公開第2013/006055号に記載され、それらのすべてを、参照により本明細書に組み込む。
【0146】
好ましい実施形態において、改変されたボルデテラLPSを含むOMVは、上記で定義した遺伝子改変細菌から取得可能である又は得られる。
【0147】
組成物
第4の態様では、本発明は、上記で本明細書において定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を含む組成物に関する。本組成物は、医薬組成物であることが好ましい。医薬組成物は、当技術分野で通常どおり公知である、薬学的に許容される添加剤、担体、培地又は送達ビヒクルをさらに含むことがより好ましい(例えば、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、Roweら編、第7版、2012年、www.pharmpress.comを参照のこと)。薬学的に許容される安定化剤、浸透物質、緩衝剤、分散化剤等はまた、医薬組成物に取り込むことができる。好ましい形態は、所期の投与のモード及び治療への適用に依存する。医薬用担体は、患者に送達するのに適した、任意の適合性の、非毒性物質となり得る。「本発明の有効成分」は、上記の本明細書で定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌又はOMVのうちの1種又は複数であることが、本明細書において理解される。
【0148】
非経口送達のための薬学的に許容される担体は、任意選択で20%アルブミンが補充された、無菌の緩衝0.9%NaCl又は5%グルコースによって例示される。或いは、本発明の有効成分は、リン酸緩衝食塩水(PBS)に懸濁することができる。非経口投与のための調製は、無菌でなくてはならない。本発明の有効成分の投与のための非経口経路は、公知の方法、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、及び動脈内又は病巣内経路による注射又は注入に一致する。或いは、本組成物は、吸入により投与することができる。本組成物は、注入により又はボーラス注入により連続して投与することができる。本組成物は、ボーラス注入により投与することが好ましい。筋肉内注射用の典型的な医薬組成物は、例えば、本発明の有効成分の有効な用量を含むリン酸緩衝食塩水1~10mlを含有するように作製されるはずである。非経口で投与可能な組成物を調製するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(Ed.Allen、L.V.第22版、2012年、www.pharmpress.com)を含めて、様々な情報源により詳細に記載されている。
【0149】
医学的使用
第5の態様では、本発明は、医薬品としての使用のための、上記で本明細書で定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を含む組成物に関する。したがって、別の表現でいうと、本発明は、本発明のボルデテラLPS、本発明の遺伝子改変細菌、本発明のOMV、及び本発明の医薬組成物のうちの少なくとも1種の医薬品としての使用に関する。本発明は、さらに、上記で本明細書で定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を用いた処置の方法に関する。
【0150】
第6の態様では、本発明は、対象における免疫応答を誘導するステップを含む処置における使用のための、上記で本明細書において定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を含む組成物に関する。或いは、本発明は、対象における免疫応答を刺激するステップを含む治療処置における使用のための、上記で本明細書において定義されるボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を含む組成物に関する。したがって、特に、本発明は、ワクチン接種のための方法に関する。
【0151】
好ましい実施形態において、免疫応答は、ボルデテラ感染症に対して誘導される又は刺激される。この目的を達成するために、3種のボルデテラ種は、公知のヒト病原体(百日咳菌、パラ百日咳菌及び気管支敗血症菌である。したがって、特に好ましい実施形態では、免疫応答は、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌感染症に対して誘導される又は刺激される。
【0152】
百日咳菌及び時折パラ百日咳菌は、ヒトにおいて百日咳(pertussis)又は百日ぜき(whooping cough)を引き起こし、いくつかのパラ百日咳菌株は、ヒツジにコロニー形成することができる。免疫無防備状態の患者における疾患が報告されているが、気管支敗血症菌は、まれに健康なヒトに感染する。気管支敗血症菌は、イヌ感染性気管気管支炎(kennel cough)及びそれぞれイヌ及びブタにおける萎縮性鼻炎を含めた、他の哺乳動物におけるいくつかの疾患を引き起こす。この属の他のメンバーは、他の哺乳動物、及びトリにおける類似の疾患(ボルデテラ・ヒンジイ、ボルデテラ・アビウム(B.avium))を引き起こす。
【0153】
免疫応答は、百日咳菌感染症に対して誘導される又は刺激されることが最も好ましい。さらに好ましい実施形態では、本発明は、対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置であって、百日ぜき(whooping cough)の処置である処置における使用のための、上記で本明細書で定義される組成物に関する。この目的を達成するために、対象は、ワクチン未接種である又はボルデテラに対して前もってワクチン接種されていることもある。さらに又は或いは、処置は、百日ぜき(whooping cough)の予防である。用語「百日ぜき(whooping cough)」、「百日咳(pertussis)」及び「100日咳」は、本明細書において置換え可能で用いることができるということがさらに留意される。
【0154】
好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物は、ワクチンである。ワクチンは、上記で本明細書で定義されるボルデテラLPS及びOMVのうちの少なくとも1種を好ましくは含む、無細胞ワクチンとなり得る。より好ましくは、ワクチンは、上記で本明細書において定義される少なくとも1種の細菌を含む全細胞ワクチンである。
【0155】
したがって、本発明は、医薬品としての使用のための、好ましくは、対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置における使用のための(医薬)組成物であって、上記で定義した遺伝子改変細菌を含む全細胞ワクチンである、組成物に関する。本発明の遺伝子改変細菌は、生若しくは弱毒生細菌でも生育不能の細菌でもよい。細菌は、それ自体当技術分野で公知の手段を用いて、不活性化又は死滅させることが好ましい。例えば、遺伝子改変細菌は、凍結、加熱処置、機械的な破損、化学処置又は薬学の分野で公知の他の方法及びワクチン接種により不活性化されていることもある(例えば、J.L.Pace、H.A.Rossi、V.M.Esposito、S.M.Frey、K.D.Tucker、R.I.Walker.Inactivated whole-cell bacterial vaccines:current status and novel strategies.Vaccine 16巻:1563~1574(1998年)を参照のこと)。細菌は、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌であることが好ましく、百日咳菌であることが最も好ましい。
【0156】
代替的に好ましい実施形態では、本発明による(医薬)組成物は、上記で本明細書で定義されるボルデテラLPS又は上記で本明細書で定義されるOMVを含む無細胞ワクチンである。
【0157】
本発明の(無細胞)ワクチンは、ボルデテラ属の細菌の1、2、3種又はそれ以上の免疫原性構成成分をさらに含むことができる。(無細胞)ワクチンは、単独又は他のボルデテラ構成成分、例えば、糸状赤血球凝集素(filamentous haemagglutinin)、線毛抗原及びパータクチン等と組み合わせて、不活性化されたボルデテラ毒素をさらに含むことが好ましい。
【0158】
本明細書で定義される、改変されたLPS又はOMVは、それを産生するボルデテラ細菌に対して、防御免疫応答を誘発するために用いることができるが、或いは、他の組成物を用いることもでき、他の組成物に混合することもできる。したがって、他の実施形態では、本発明は、医薬品としての使用のための、又は対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置における使用のための、上記で定義した組成物であって、少なくとも1種の非ボルデテラ抗原をさらに含む組成物に関する。抗原は、上記で定義した任意の抗原である。特に、ボルデテラワクチンは、当技術分野で公知の他のワクチンと合わせることができる。好ましい実施形態において、ボルデテラワクチン、最も好ましくは、全細胞ボルデテラワクチンは、ジフテリア及び破傷風ワクチンのうちの少なくとも1種と合わされる。最も好ましい実施形態では、(全細胞)ボルデテラワクチンは、ジフテリア並びに破傷風ワクチンと合わされる。
【0159】
第7の態様では、本発明のLPSは、適当なアジュバント物質として用いるためである。LPSは、Toll様受容体を活性化する及び自然免疫応答を刺激するワクチン接種の目的のための適当なアジュバントであることが、当技術分野で公知である。部分的に解毒された、本発明によるLPS及び/又は脂質Aは、この免疫刺激(アジュバント)活性を保持することができ、低い毒性に関連する有害な副作用、例えば、局所腫脹、発赤、疼痛及び発熱を引き起こす。
【0160】
本発明による薬学的に許容される組成物及びワクチンは、本発明による医薬組成物、全細胞若しくは無細胞ワクチンを投与するステップを含む、病原性、グラム陰性菌感染症、好ましくは、ボルデテラ感染症に罹患している又はこれを獲得するリスクがある対象の処置の方法において用いることができる。特定のアジュバントの使用、組成物中の物質の相対量及び絶対量及び投与のための用法(doses regimen)は、公知である又は当業者によって決定することができる及び状況、例えば、特定の病原性感染症又は処置しようとする特定の対象の状態のために適合することができる。用法は、単回投与を含むことができるが、多回投与、例えば、ブースター投与を含むこともでき、経口で、鼻腔内に又は非経口で投与することができる。ワクチン接種の目的のための様々な用法は、当技術分野で公知であり、当業者により適当に適合され得る。
【0161】
第8の態様では、本発明は、Toll-様受容体4(TLR4)アンタゴニストとしての使用のための、本発明の改変されたボルデテラLPSに関する。かかるアンタゴニストは、敗血症の処置若しくは減少において又は広範囲の免疫反応、例えば、サイトカインストームにおいて用いることができることが好ましい。本発明の改変されたLPSは、インフルエンザ感染症中に発生するサイトカインストームの処置のために用いられることがより好ましい。
【0162】
第9の態様では、本発明は、本発明のボルデテラ属の遺伝子改変細菌、ボルデテラLPS又はOMVを産生するための方法に関する。本方法は、好ましくは、a)上記で本明細書において定義される遺伝子改変細菌を培養するステップと;任意選択で、b)遺伝子改変細菌を精製するステップ及び不活性化するステップのうちの少なくとも1つを含む。さらに、又はステップb)の代わりに、LPS又はOMVは、抽出する及び/又は精製することができる。ボルデテラを精製する及び不活性化するための方法は、当技術分野で周知である。同様に、LPS又はOMVの精製/抽出は、当技術分野で公知の任意の適当な方法を用いて行うことができる。
【0163】
第10の態様では、本発明は、本明細書で定義される、不活性化された、改変されたボルデテラ細菌、OMV及びLPSのうちの少なくとも1種を含むワクチン配合物の生成に関する。本方法は、好ましくは、a))上記で本明細書において定義される遺伝子改変細菌を培養するステップと;b)遺伝子改変細菌を精製するステップ及び不活性化するステップのうちの少なくとも1つと、c)ワクチン配合物に、任意選択で、さらなるワクチン構成成分と共に、ボルデテラ細菌、OMV及びLPSのうちの少なくとも1種を配合するステップとを含む。ステップb)に加えて、又はステップb)の代わりに、LPS又はOMVは、抽出する及び/又は精製することができる。
【0164】
上記で指定した医学上の状態の処置における組成物の使用にはやはり、対応する医学的処置のための医薬品の製造のための組成物の使用、並びに、組成物の有効量を対象に投与することにより、かかる医学上の状態に罹患している対象を処置するための方法が含まれることがさらに理解される。
【0165】
本文献中及びその特許請求の範囲の中で、動詞「を含む(to comprise)」及びその活用は、その限定しない意味で用いられて、単語に続く項目が含まれるが、詳細に述べられていない項目は除外されないことを意味する。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への参照は、要素の1つ及び唯一であることが文脈で明らかに要求されない限り、要素の1つ以上が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0166】
本明細書中で引用されるすべての特許及び参考文献は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
更なる実施形態は以下のとおりである。
[実施形態1]
少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短いという点で、野生型ボルデテラLPSの脂質A部分と比較して、改変されている脂質A部分を有するボルデテラLPS。
[実施形態2]
改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖よりも大きい長さを有さず、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、C 10 より大きくないことが好ましく、改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、同じ3位における野生型ボルデテラ脂質A部分のアシル鎖と同じ長さであることがより好ましく、3位におけるアシル鎖の長さが、C 10 であることが好ましい、実施形態1に記載のボルデテラLPS。
[実施形態3]
改変された脂質A部分の3位におけるアシル鎖の長さが、3’位におけるアシル鎖の長さと同じである、実施形態1又は実施形態2に記載のボルデテラLPS。
[実施形態4]
より短いアシル鎖が、
i)脂質A部分の3’位におけるアシル鎖;
ii)脂質A部分の2’位における第1のアシル鎖;
iii)脂質A部分の2’位における第2のアシル鎖;及び
iv)脂質A部分の2位におけるアシル鎖からなる群から選択される、実施形態1~3のいずれか1つに記載のボルデテラLPS。
[実施形態5]
アシル鎖が、C原子が少なくとも2、4又は6個短く、
及び/又は、改変された脂質A部分を除き、LPSが、百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌の構造を有し、LPSが、改変された脂質A部分を除き、百日咳菌の構造を有することが好ましく、
及び/又は改変された脂質A部分が、式(I):
【化5】

[式中、X 、X 、X ’、X ’、R 、R 、R ’、及びR ’は、それぞれ独立に、-H、-OH、-Y、-O-(C=O)-CH(OH)-Y、及び-O-(C=O)-Yからなる群から選択され、Yは、一般式-(CH -Hのアルキル部分であり、nは、Yのそれぞれの場合、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15から独立に選ばれる整数である]の構造を有する、実施形態1~4のいずれか1つに記載のボルデテラLPS。
[実施形態6]
実施形態1~5のいずれか1つに記載のボルデテラLPSを含む、ボルデテラ属の遺伝子改変細菌。
[実施形態7]
細菌が、異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、
異種アシルトランスフェラーゼ活性を導入する遺伝子改変が、異種LpxA、LpxL及びLpxDアシルトランスフェラーゼ活性のうちの少なくとも1種を、細胞に与えることが好ましく、
遺伝子改変が、異種lpxA、lpxL、及びlpxD遺伝子のうちの少なくとも1種の発現を導入することがより好ましく、
i)lpxA遺伝子が、配列番号1と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxAアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し;
ii)lpxL遺伝子が、配列番号2と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxLアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し;及び/又は
iii)lpxD遺伝子が、配列番号4と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxDアシルトランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列を有し、
及び/又は改変された細菌が、内因性lpxA遺伝子及び/又は内因性lpxD遺伝子によりコードされたLpxA及び/又はLpxDアシルトランスフェラーゼの活性を減少させる又は除去する遺伝子突然変異をさらに含む、実施形態6に記載の遺伝子改変細菌。
[実施形態8]
細菌が、異種UDP-2,3-ジアシルグルコサミンピロホスファターゼ活性を導入する遺伝子改変を有するという点で、野生型ボルデテラ細菌と比較して、改変され、遺伝子改変が、異種lpxH遺伝子の発現を導入することが好ましく、lpxH遺伝子が、配列番号5と少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を有するLpxHをコードするヌクレオチド配列を有することがより好ましく、
及び/又は細菌が、遺伝子改変百日咳菌、パラ百日咳菌又は気管支敗血症菌であり、遺伝子改変細菌が、遺伝子改変百日咳菌であることが好ましく、百日咳菌B213株であることが最も好ましく、
及び/又は細菌が、脂質A3-O-デアシラーゼ活性を増加させる遺伝子改変を有する、実施形態6又は実施形態7に記載の遺伝子改変細菌。
[実施形態9]
実施形態6~8のいずれか1つに記載の遺伝子改変細菌から取得可能である、実施形態1~5のいずれか1つに記載のボルデテラLPS。
[実施形態10]
実施形態1~5及び9のいずれか1つに記載のボルデテラLPSを含むOMVであって、実施形態6~8のいずれか1つに記載の遺伝子改変細菌から取得可能であることが好ましい、OMV。
[実施形態11]
実施形態1~10のいずれか1つに記載の、ボルデテラLPS、遺伝子改変細菌及びOMVのうちの少なくとも1種を含む、組成物。
[実施形態12]
医薬品としての使用のための、実施形態11に記載の組成物。
[実施形態13]
免疫応答が、ボルデテラ感染症、好ましくは、百日咳菌感染症に対して誘導される又は刺激されることが好ましく、
及び/又は処置が、百日ぜき(whooping cough)の予防又は処置であることが好ましく、
及び/又は組成物が、薬学的に許容される添加剤をさらに含む医薬組成物である、対象における免疫応答を誘導すること又は刺激することを含む処置における使用のための、実施形態11に記載の組成物。
[実施形態14]
実施形態6~8のいずれか1つに記載の細菌を含む全細胞ワクチンであり、細菌が、不活性化されることが好ましい、実施形態12又は実施形態13に記載の組成物。
[実施形態15]
実施形態1~5及び9のいずれか1つに記載のボルデテラLPS、又は実施形態10に記載のOMVを含む無細胞ワクチンであり、及び/又は少なくとも1種の非ボルデテラ抗原をさらに含む、実施形態12又は実施形態13に記載の組成物。
【0167】
次の例は、例示的な目的にのみ提供され、いかなる方法においても本発明の範囲を限定することを目的としない。
【実施例
【0168】
実施例1
材料及び方法
プラスミド、菌株及び増殖条件
表1では、本試験に用いられるすべてのプラスミド及び菌株を示す。百日咳菌株を、15%ヒツジ脱線維血(Biotrading)が補充されたBordet-Gengou寒天(Difco)で35℃で48h培養した。液体培養中で細菌を増殖させるために、細菌を、固形培地から収集し、OD5900.05までVerweij培地[16]に希釈し、125ml角培地ボトル中で175rpmで絶え間なく振とうしながら、インキュベートした。いくつかのアッセイにおいて、細菌を、60℃で1hインキュベートすることにより、不活性化させ、PBSに再懸濁し、OD5900.5に調整した。大腸菌株を、37℃で溶原性ブロス(LB)又はLB寒天中で増殖させた。
【0169】
すべての株について、培地に、要求される場合、カナマイシン(100μg ml-1)、ゲンタマイシン(10μg ml-1)、アンピシリン(100μg ml-1)、ナリジクス酸(50μg ml-1)、又はストレプトマイシン(300μg ml-1)及び大腸菌又は百日咳菌用に、それぞれ0.1若しくは1mMイソプロピル-β-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を補充して、タンパク質発現を誘導した。
【0170】
【表1】

Amp、アンピシリン耐性;Gm、ゲンタマイシン耐性;Kan、カナマイシン耐性;Str、ストレプトマイシン耐性
【0171】
遺伝学的操作
PCRを、High Fidelity Polymerase(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いて行った。PCRミックスは、鋳型DNA1μl、200μM dNTPs(Fermentas)、異なるプライマーの組合せ(配列番号7~24、表2を参照のこと)0.25μM、0.5U DNAポリメラーゼ、及びPCR緩衝液からなる。これらの混合物を、DNA変性のために95℃で10分間インキュベートし、その後、95℃で1分、58℃で0.5分及び72℃で期待される増幅産物サイズkbp当たり1分での伸長の30サイクルでインキュベートした。反応を、72℃で10分間拡張された伸長ステップによって終了した。得られた産物を、電気泳動により1%アガロースゲルで分離し、臭化エチジウムを用いて可視化した。
【0172】
異なる細菌のLPS生合成酵素をコードする遺伝子を、PCRにより細菌原液から増幅し、広範な宿主域発現ベクターpMMB67EHにクローン化した。この目的を達成するために、PCR産物及びプラスミドpMMB67EH-PagL(Pa)を、Promegaによって提供された、Clean-Up System及びプラスミド抽出キットをそれぞれ用いて精製した。精製されたプラスミド及びPCR産物を、制限酵素(Fermentas、The Netherlands)で消化し、その部位は、プライマー(配列番号7~24、26及び27、表2を参照のこと)中に含まれ、続いて、一緒に結合させた。染色体lpxA及びlpxL遺伝子をノックアウトするために、プラスミドを用いた。
【0173】
大腸菌DH5αを、標準プロトコールに従って連結反応産物又はプラスミドで形質転換した。正確なクローンをPCRにより選出し、プラスミドを精製し、Macrogen sequencing service(Amsterdam)で配列決定した。次いで、プラスミドを、形質転換により大腸菌株SM10λpirに転移し、続いて、それぞれ、選択及び対抗選択のためにアンピシリン及びナリジクス酸を用いた連結により百日咳菌B213株に導入した。染色体突然変異をもたらすために、ストレプトマイシン感受性を与えているrpsL遺伝子(Skorupsky and Taylor、1996年)を含有したノックアウトプラスミドを、カナマイシン-又はゲンタマイシン-耐性接合完了体について選択することによる単一の乗換えによって染色体に統合し;得られた細菌は、ストレプトマイシン耐性を喪失した。続いて、第2の乗換えによるプラスミド喪失について選択するために、細菌を、液体培地中で培養し、突然変異を、ストレプトマイシン及びカナマイシン又はゲンタマイシンを用いてプレート上で選択した。百日咳菌接合完了体中のプラスミドの存在及びノックアウト突然変異の適切な発生を、PCRにより検証した。
【0174】
百日咳菌中で標的酵素LpxDPaを発現させるために、ベクターpMMB67EHを用い、lpxDを、(配列番号26を有する)プライマーLpxD-Fw Pa NdeI及び(配列番号27を有する)LpxD-rev-His Pa HindIIIと共に、プルーフリーディング酵素(High Fidelity Polymerase、Roche Diagnostics GmbH)を用いた緑膿菌株PAO1からPCRにより増幅した。プライマーは、いずれもクローン化を容易にする制限酵素のための配列を含有し、逆方向プライマーはまた、ウエスタンブロット法による組換えタンパク質の検出を容易にするために、His-タグをコードする配列を含有する。pMMB67EHにおいてtacプロモーターの後にPCR産物をクローン化した後、その挿入断片の正確な配列を確認した。
【0175】
RNA抽出及びRT-PCR
RNAを得るために、指数関数的に増殖する培養から得られた細胞を、OD5504に調整した、Eppendorf Centrifuge 5424において5000rpmで10分間遠心することにより収集し、トリゾール(Invitrogen、U.K.)に再懸濁させた。次いで、トリゾール1ml当たり、クロロホルム200μlを加え、その後、5000rpmで30分間遠心した。得られた上層を、氷冷75%エタノールの等量で混合した。次いで、RNAを、Nucleospin RNA II kit(Macherey-Nagel、U.S.A.)を用いて、製造業者の指示に従って、単離した。得られた溶液を、Turbo DNA free(Ambion、Germany)で37℃で1h処理して、ゲノムDNAを除去し、その後、製造業者の推奨に従ってDNase不活性化を行って、純粋なRNAを生成した。これを、直ちに用いて、Transcriptor High Fidelity cDNA Synthesis Kit(Roche、The Netherlands)を用いてcDNAを生成した。RNA、cDNA及び染色体DNAを、PCRにおいて、プライマー(表2を参照のこと、配列番号7~24、26及び27)により鋳型として用いて、特異的な転写物の発生を決定した。
【0176】
電気泳動技法
全細胞ライセートを、OD6005.0に調整して二重強度(double-strength)サンプル緩衝液に1:1で可溶化し、100℃で10分間加熱した。LPSを可視化するために、沸騰後、全細胞ライセートを、37℃で1hの間プロテイナーゼKで処理した。タンパク質及びLPSを、14%及び16%アクリルアミドゲルでそれぞれ分離し、その後、これらを、クマシーブリリアントブルーG250又は銀染色でそれぞれ染色した。
【0177】
LPS精製及び分析
LPSを、熱フェノール-水(Westphal、1965年)で細菌から抽出し、C8逆相カートリッジにおける固相抽出(SPE)によりさらに精製した。簡単にいうと、細菌を、遠心により培養懸濁液から収集し、水で70℃で懸濁し、同じ温度でフェノール0.8体積で混合した。遠心により水相及びフェノール相を分離した後、水相を、1体積の0.356M酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA)(pH7)(溶媒A)及び1/3体積の2-プロパノール:水:トリエチルアミン:酢酸(70:30:0.03:0.01、v/v)(pH8.9)(溶媒B)を加えることにより、SPEのために調製した。LPS抽出物を、20-ポジションバキュームマニホルド(Waters)を用いた逆相Sep-Pak C8カートリッジ(3mlシリンジバレルタイプVacカートリッジ、C8樹脂200mg、Waters)におけるSPEにより同時に精製した。カートリッジを、溶媒B3×1ml、2-プロパノール:水:トリエチルアミン:酢酸(10:90:0.03:0.01、v/v)(pH8.9)(溶媒C)、0.07mM TEAA(pH7)(溶媒D)及び溶媒Aを減圧下で連続的に適用することにより、SPEのために条件付けした。次いで、サンプルを、カートリッジに添加し、各カートリッジを、溶媒A、D及びC3×1mlのこの順序で洗浄した。LPSを、溶媒B2×0.3mlを適用することにより、カラムから溶出した。溶出液を、遠心真空濃縮器(centrifugal vacuum concentrator)において乾燥し、水に懸濁した。精製したサンプルの純度及び完全性を、LPS銀及びクマシー染色と合わせたトリシン-SDS-PAGEにより判断した。脂質A構造の分析について、精製されたLPSの負イオンナノ-エレクトロスプレーイオン化-フーリエ変換質量分析(ナノESI-FT-MS)を、LTQ Orbitrap XL機器(Thermo Scientific)において行った。LPSサンプルを、2-プロパノール、水及びトリエチルアミンの混合物(50:50:0.001、体積/体積/体積)(pH8.5)に溶解し、前述の通り(Pupoら、2014年)、金でコーティングされたプルドガラスキャピラリー(pulled glass capillary)を用いて、ナノ-ESIにより、質量分析計に注入した(Kondakov、A.、and Lindner、B.(2005年)Structural characterization of complex bacterial glycolipids by Fourier transform mass spectrometry.Eur J Mass Spectrom(Chichester、Eng)11巻、535~546頁)。スプレー電圧を、-1.2kV及び加熱したキャピラリーの温度を250℃に設定した。これらのイオン化条件下で、LPSの断片化はあまり生じなかった。脂質A質量スペクトルを記録するために、LPSのナノESI-FT-MSを、電位差100Vでインソースの衝突によって誘導された解離(CID)で行った。この設定下のインソースCIDは、未変化の脂質Aドメインに対応する強いフラグメントイオンを生成し、これは、野生型B213株の脂質Aの質量スペクトルに示す通り(図3a)、最小の脂質Aの断片化を有する、非還元脂質AグルコサミンとKdoとの間の不安定な連結の破損から生じる。
【0178】
真核細胞株培養及び刺激
MD-2及びCD14と組み合わせた、ヒト又はマウスTLR4のいずれかで形質移入されたヒトNF-κB/SEAPレポーターHEK293細胞を、InvivoGenから購入した。両方の細胞株は、NF-κB-誘導性分泌型胚性アルカリホスファターゼ(SEAP:secreted embryonic alkaline phosphatase)レポーター遺伝子を含有し、これは、TLRシグナル伝達後に発現する。これらの細胞を、先に記載した通り、HEK-Blue培養培地中で増殖した[19]。SEAPを、基質クワンティ-ブルー(Quanti-Blue)(InvivoGen)を加えた後、培養上清中で検出した。ヒト単核球細胞株MonoMac6(MM6;DSMZ)を、10%熱失活FCS、50U/mlペニシリン、及び50μg/mlストレプトマイシンが補充されたIscoveのダルベッコ改変培地(IMDM;Gibco)中で増殖させた。すべての細胞株を、5%飽和CO雰囲気中で37℃で培養した。
【0179】
TLR4シグナル伝達について、HEK-Blue細胞株(2.5×10)を、96ウェルプレート中で、精製されたLPS又は熱失活した全細胞調製の段階希釈によってインキュベートした。37℃でのインキュベーションの2、4又は6h後、上清を、収集し、クワンティ-ブルー基質で2hインキュベートし、OD630を、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)リーダーを用いて測定した。
【0180】
結果
百日咳菌における異種LpxL及びLpxAの発現
百日咳菌脂質Aにおける、3及び3’位における第1のアシル鎖及び第2のアシル鎖のみの長さを改変するために、本発明者らは、他の細菌から得られたLpxA及びLpxLアシルトランスフェラーゼを使用した。百日咳菌脂質Aは、それぞれ3及び3’位において、3OH-C10及び3OH-C14鎖を含有する(図1A)。本発明者らは、髄膜炎菌(LpxA(Nm))又は緑膿菌(LpxA(Pa))から得られた対応する酵素によるLpxAの置換が、アシル鎖の改変をもたらすか否かを調査した。同様に、本発明者らは、ポルフィロモナス・ジンジバリス(LpxL(Pg))又は髄膜炎菌(LpxL(Nm))から得られた、対応する酵素による百日咳菌のLpxLの置換が、アシル鎖の改変をもたらすか否かを調査した。
【0181】
異種酵素についての遺伝子を、tacプロモーターの制御下で広範な宿主域発現ベクターpMMB67EHにクローン化した。組換え型酵素LpxA及びLpxLの発現を、RT-PCRによりクローン化する宿主大腸菌BL21(DE3)において最初に評価した(データは図示せず)。これらのアッセイによって、細菌が、IPTGで増殖する場合、目的とする遺伝子の転写物の存在が確認され、細菌が、IPTGの非存在下で増殖する場合、これらの転写物は、それほど多くなかった又は検出不可能であった。タンパク質発現をやはり、SDS-PAGEにより検出し;LpxAタンパク質を、LpxLタンパク質よりも高い存在量で発現した(データは図示せず)。
【0182】
次いで、プラスミドを、百日咳菌B213株、Tohama I株の誘導体に転移した(表1)。驚くべきことに、pMMB67EH-LpxA(Nm)が、PCRによって証明される通り百日咳菌にうまく導入されたが、接合完了体は、プラスミド維持のためにアンピシリンを含有し、IPTGを含有しないプレート上に再播種した後増殖に失敗した。したがって、明らかに、髄膜炎菌から得られたLpxAの誘導されない発現量でさえ、百日咳菌において致死性であるが、これは大腸菌においては当てはまらない。Lpx(Nm)酵素の導入によって産生されることが予測されるLPSを、図1Bに示す。本発明者らは、LpxL(Nm)の発現によって、増殖が損なわれることにも注目した(図S1C)。すべての他の組換え型株は、野生型として増殖した(図2(S1C))。
【0183】
組換えタンパク質LpxD(Pa)の発現を、大腸菌株BL21(DE3)中で最初に試験し、それに、プラスミドを転移した。得られた菌株は、BL21-pLpxDPaと呼ばれる。IPTGを培養に加えても、増殖に影響を与えなかった(データは図示せず)。タンパク質の発現は、通常のクマシーブルー-染色ゲルにおいて検出されず、そこで、BL21(DE3)及びBL21-pLpxDPaの全細胞ライセートを分析した。しかしながら、ウエスタンブロットアッセイによって、BL21-pLpxDPaにおけるLpxDPaの期待されたサイズ(36.4kDa)のバンドとの抗-His-タグ抗体の反応が示され(データは図示せず)、これは、BL21(DE3)のサンプル中に存在しなかった。次に、プラスミドを、ドナーとして大腸菌株SM10λpirを用いた連結により百日咳菌B213に転移し、2つの接合完了体を保存した。1mM IPTGの存在下で、クローンはいずれも、親と比較して増殖異常が示され(図2B)、これは、クローン5についてより明白であった。ウエスタンブロットアッセイによって、両方のクローンにおける酵素の発現が確認され(データは図示せず)、発現量における差は、観察されなかった。
【0184】
組換え型脂質A構造の分析
次いで、脂質A構造を、1mM IPTGの存在下で12h増殖させた細胞全体から抽出した精製されたLPSを用いて、ナノ-ESI-MSにより分析した(対数増殖)。野生型株について、主なピークを、期待されたビス-リン酸化ペンタ-アセチル化脂質Aと対応する、m/z1557.97で観察した(図3a)。LpxA(Pa)を発現する株において、スペクトルによって、m/z1557.97におけるイオンの他、m/z1501.91及び1529.94における2個の追加のイオンが明らかになった(図3b)。m/z1501.91におけるイオンは、3OH-C10による3’位における第1の3OH-C14アシル鎖の置換と対応し(図1C)、m/z1529.94イオンによって、長さが中間のC12鎖である、ヒドロキシル化された脂肪酸の存在が示される。2つの新種の相対的な存在量は、m/z1557.97における野生型構造に対して、48及び75%に過ぎず、これは、染色体における内因性lpxAの発現によるものとなり得る。したがって、本発明者らは、染色体lpxAコピーをノックアウトすることを決定した。得られた菌株のMS分析によって、m/z1557.97イオンの完全な喪失及び置換に対応するm/z1501.91の主なピークを残すm/z1529.94イオンの存在量の大幅な減少が証明された(図1C及び図3c)。
【0185】
B213-LpxL(Nm)のMS分析によって、少数の種としての野生型m/z1557.97イオンが検出され、m/z1529.94の主なピークは、C12による第2のC14アシル鎖の置換と対応した(図1D及び図3d)。染色体lpxLを除去する試みは失敗した。百日咳菌は、染色体における2つの隣接するlpxL相同体を含有するが、lpxL2と呼ばれる1種のみ、実験室の増殖条件下で活性がある[20]。異なるコンストラクトを用いて、部分的に又は完全にlpxL2遺伝子を除去するが;相当な努力にもかかわらず、本発明者らは、所望のノックアウトを得ることができなかった。
【0186】
明らかに、酵素だけでなくlpxL2遺伝子配列は、野生型株においてLpxL(Nm)の発現によって、脂質A構造の約65%が既に変更されていることを考慮することが、百日咳菌について必須である。これは、下流遺伝子dapFの発現に対するlpxL2破損の正反対の効果によるものとなり得、下流遺伝子dapFは、メソ-DAP中でL,L-ジアミノピメリン酸(DAP)を触媒するL,L-DAPエピメラーゼについてコードする。メソ-DAPは、細胞壁合成及びリジン生合成にとって重要である。しかしながら、メソ-DAPの存在下でlpxL遺伝子を不活性化する試みはやはり、失敗した。B213-LpxL(Pg)のMS分析によって、m/z1557.98イオンの存在量の大幅な減少及びC16鎖によるC14の置換と対応するm/z1586.01の新しいピークの出現が証明された(図1E及び図2e)。要約すると、百日咳菌におけるLpxA(Pa)、LpxL(Nm)、及びLpxL(Pg)の異種発現によって、図1に示す通り、LPSの変更がもたらされた。
【0187】
B213-pLpxD(Pa)クローン4及び5の分析によって、両方の突然変異において、m/z1557.97におけるイオンが、野生型において見出された通り、標準ペンタ-アシル化脂質Aと対応することが見出されたことが明らかになった(図3f及び3g)。さらに、m/z1529.94及び1501.91における大量のイオンは、それぞれ3OH-C14から3OH-C12までの1本又は2本のアシル鎖の長さの短縮と対応することが判明した(図3f及び3g)。これらの追加の主なイオンの存在量は、両クローン間で変わり;m/z1529.94におけるピークの相対的な存在量は、クローン4よりもクローン5において低く、m/z1501.91のピークの場合、逆もまた同様であった。したがって、クローン5は、クローン4よりも、脂質Aにおける両アシル鎖の長さの改変全体で、脂質A分子の量がより大きかったが、不変の脂質Aのかなりの量は、両方の場合に残存した。これらの結果によって、LpxDPaの発現によって、図1に示される通り、脂質Aの構造が改変されたことが示される。
【0188】
LPS変異体によるTLR4の差次的な活性化
次に、本発明者らは、変更された構造が、LPSの毒性に影響を与えるか否か調査した。この目的を達成するために、精製されたLPS調製を、ヒト又はマウスTLR4複合体(それぞれ、hTLR4及びmTLR4)を発現するHEK293細胞の培養に加えた。曝露後、受容体の活性化を、レポーター遺伝子の発現により評価した(図4)。興味深いことに、B213-pLpxA(Pa)から得られたLPSは、野生型株から得られたLPSよりもhTLR4をそれほど刺激しなかった(図4A)。さらに検出した残りの活性化は、この遺伝子の不活性化後に完全に除去されたため、染色体lpxA遺伝子の発現によるものであった(図4A)。したがって、3’位における第1のアシル鎖の長さは、百日咳LPSによるhTLR4の活性化に関連する。B213-pLpxL(Nm)及びB213-pLpxL(Pg)から得られたLPSは、それぞれ、hTLR4活性化を減少させ、増加させた(図4A)。したがって、hTLR4の刺激は、C16>C14>C12の順序で第2のアシル鎖の長さと相関する。
【0189】
LpxD(Pa)を発現する菌株の変更されたLPSの毒性を評価するために、両方の突然変異及び野生型から得られた、精製されたLPSの調製を、ヒトTLR4受容体(hTLR4)(InvivoGen)を発現するHEK-Blue細胞の培養に加えた。陰性対照として、本発明者らは、B213ΔlpxA-pLpxA(Pa)株から得られた、精製されたLPSを用い、これは、3’位における3OH-C14の代わりに3OH-C10アシル鎖を含有し、hTLR4を活性化しなかった。受容体の活性化を、曝露の4h後、SEAPレポーター遺伝子の発現により評価し、結果を、図5に示す。B213-pLpxD(Pa)クローン4及びクローン5から得られたLPSは、野生型LPSよりもかなり低い活性を示した。クローン5から得られたLPSで刺激された細胞のSEAP活性は、刺激されていない細胞のSEAP活性と同様に低く、クローン4から得られたLPSで刺激された細胞は、恐らく、このクローンにおいて、アシル鎖のいくらか効率的でない改変に従って、残りの活性が低いことを示した(図3)。B213ΔlpxA-pLpxA(Pa)から得られたLPSで刺激された細胞は、刺激されていない細胞よりもSEAP活性がさらに低いことを示した。
【0190】
野生型株B213から得られたLPS調製によるmTLR4を発現するHEK293細胞の刺激によって、hTLR4を発現する細胞において観察されたものよりもより強く反応した(図4A及びBを比較する)。異種酵素を発現するB213細胞から得られたLPS調製は、これらの細胞を刺激することにおいて、わずかに有効でなかった(図4B)。しかしながら、染色体lpxA遺伝子が、LpxA(Pa)を発現するB213において不活性化された場合、得られたLPSは、mTLR4を全く活性化しなかった(図4B)。したがって、ヒト及びマウスTLR4は、改変された百日咳LPSによって別に活性化するが、3’位における第1のアシル鎖の長さは、どちらの場合においても重要である。3位における第1のアシル鎖を喪失した百日咳菌LPSの毒性の低下は、これらの膜からその放出を増加させることにより、全細胞調製において無効になったことが、以前に報告された[2]。このことを考慮して、本発明者らは、全細胞調製の生物活性を決定することを望んだ。B213株における異種LPS酵素の発現は、全細胞及び精製されたLPS調製において同様に、hTLR4を発現するHEK293細胞の刺激に影響を及ぼした(図4A及びCを比較する)。全細胞調製によるmTLR4を発現するHEK293細胞の刺激は、B213における異種酵素の発現にほとんど影響を受けなかった(図4D)。しかしながら、LpxA(Pa)を発現するB213のΔlpxA突然変異の全細胞調製は、これらの細胞を活性化するのに失敗した(図4D)。
【0191】
考察
これらの反応源性は、サブユニットワクチンによる全細胞百日咳ワクチンの置換をもたらしているが、十分な保護を実現していない。新たな、反応源性が少ない全細胞ワクチンの開発によって、解決策が提供され得る。LPSは、かなりの程度まで、細胞の百日咳ワクチンの毒性の原因である[2]。本試験において、本発明者らは、百日咳菌脂質Aにおけるアシル鎖の長さの改変によって、毒性を低下させ得るかどうかを調査した。本発明者らは、異種LpxA及びLpxLアシルトランスフェラーゼの発現により、3’位における第1のアシル鎖の長さ及び2’位における第2のアシル鎖の長さを改変した。本発明者らは、両方のアシル鎖の長さの短縮によって、LPS毒性が大幅に低下したことを見出した(図4)。
【0192】
さらに正確には、脂質Aの3’位で存在する3OH-C14鎖についての3OH-C10アシル鎖の置換によって、内毒素性が消失した。さらに、C12によって2’位における第1のアシル鎖に付着させた第2のC14鎖の置換によって、内毒素性が低下した。一貫して、この鎖がC16によって置換された場合、内毒素性は増加した。
【0193】
百日咳菌脂質Aの2及び2’位におけるアシル鎖の長さの短縮が、hTLR4の活性化にやはり大きな影響があることがさらに観察された。毒性に対する効果が、より短いアシル鎖の位置と無関係に得られることを考慮すると、脂質A分子の疎水性部分の総体積は、hTLR4複合体への適正な結合及びhTLR4複合体の活性化のために明らかに重要である。産生された新規なLPS種は、これらが、野生型LPSのかなりの量の存在下でさえ(図3)、任意のhTRL4応答を枯渇させ得る限り、hTLR4アンタゴニストとして機能すると思われる(図5)。LpxA(Pa)又はLpxD(Pa)を発現する菌株から得られた、精製されたLPS調製よりもより低量の野生型LPSを含有したとしても、B213-pLpxL(Nm)から得られたLPSによって、hTLR4を活性化することにおいて残りの活性が示されるため、これは、より短い第2のアシル鎖を有するLPSについての場合となり得ない。百日咳菌におけるLpxD(Pa)の発現によって、増殖異常が引き起こされることを留意されるべきである。同様に、本発明者らの先の結果によって、LpxL(Nm)を発現する百日咳菌の増殖異常が示された。
【0194】
要約すると、本発明者らの結果によって、免疫系の活性化及び百日咳菌LPSの内毒素性についてのアシル鎖の長さの重要性が実証された。
【0195】
本発明者らの結果はまた、マウス及びヒトTLR4の活性化に対するLPSの改変の異なる効果が明らかになり、ほとんどの場合では、mTLR4は、この改変に感受性がなかった。先の試験では、TLR4活性化に関する種に依存的な差(species-dependent differences)が報告された[24;25]。これらの差は、MD-2及びTLR4における種間の改変により説明可能である。これらの差は、ワクチン試験における実験動物からヒトへのデータの外挿を制限する[25]。しかしながら、重要なことに、LpxA(Pa)を発現するB213株のlpxAノックアウト突然変異のLPSは、in vitroでmTLR4及びhTLR4を活性化することに失敗して、マウスからヒトにおける計画された実験の結果の外挿が可能になった。
【0196】
百日咳菌脂質Aの3及び3’位におけるアシル鎖は、長さが異なることは注目に値する[4]。LpxAは、UDP-GlcNAc中のGlcNAcの3位においてある特定の長さのアシル鎖を転移することにより、脂質A生合成経路において第1の反応を触媒する。このアシル鎖の正確な長さは、LpxAにおいて炭化水素定規により定義される[26]。この経路の後、LpxHは、脂質Xを産生するUDP-ジアシルグルコサミン(UDP-DAG)前駆体の母集団の割合でUMPを除去し、その後、LpxBは、UDP-DAG及びモノ-リン酸化された、テトラ-アシル化グルコサミン二糖類を産生する脂質X分子を連結し、3及び3’位におけるこれらのアシル鎖は、いずれもLpxAによる最初のアシル化に由来し、したがって、通常、同一である。極めてまれに、3及び3’位における異なるアシル鎖の長さを有するLPS種は、天然で見出される。異なるアシル鎖の長さと一致して、大腸菌における発現試験によって、百日咳菌LpxAが、鎖長の特異性を低下させるが、様々な長さのアシル鎖は、3及び3’位で取り込まれたことが示される[27]。したがって、百日咳菌脂質Aにおける欠点のない非対称は、経路において酵素下流の鎖長の特異性により説明されなければならず、これは、本発明者らの仮定によると、LpxHである。本発明者らの研究では、LpxA(Pa)の発現によって、3及び3’位における2本の3OH-C10鎖が生じ、これは、耐容性を示した。しかしながら、これらの位における2本の1次3OH-C12鎖を生じるはずである(図1)LpxA(Nm)の発現は、致死性であると思われる。百日咳菌のLpxHが、3位における短い3OH-C10鎖を含有するUDP-DAG分子からのみUMPを除去し得る場合、これを説明することができる。実際、本発明者らが、百日咳菌においてLpxH(Nm)を発現させた場合、非対称は消滅し、本発明者らのLpxH仮説が確認される(データは図示せず)。同様に、LpxA(Nm)及びLpxH(Nm)の異種発現によって、生存可能な細胞が生じた(データは図示せず)。したがって、3OH-C10よりも長い3位におけるアシル鎖を有する改変されたボルデテラ脂質A部分を得るために、(改変されたアシルトランスフェラーゼの他に)改変されたLpxH、例えば、LpxH(Nm)等の存在を要し得る。
【0197】
結論として、本明細書に開示される脂質Aエンジニアリングにより全細胞百日咳菌ワクチンの毒性を低下させる本発明者らの手法は、有効であった。本発明者らの結果から、百日咳菌LPSの内毒素活性が、その脂肪アシル鎖の長さによって、大いに決定されることが示される。初めて、本発明者らは、in vitroアッセイにおいて内毒素活性に全体として欠けている株を設計することに成功した。重要なことに、このLPSは、in vitroでmTLR4をやはり活性化せず、計画された動物試験において得られたデータをヒトに外挿することを可能にした。したがって、本発明者らの知見によって、百日咳菌及び他の病原体用の新たな細胞ワクチンの生成が可能になる。
【0198】
【表2】
【0199】
【表3】

実施例2
lpxD(Pa)及びlpxA(Pa)LPS突然変異によって、ウサギにおける発熱性の低下が示される
百日咳菌突然変異は、緑膿菌から得られたlpxA及びlpxD遺伝子の異種発現によるこれらのLPSにおける変更された脂質A部分によって構成された。詳細には、百日咳菌B1917株は、構成され、染色体lpxA遺伝子又はlpxD遺伝子は、対応する緑膿菌バージョンで置換された。両方の場合では、これによって、質量分析により示される通り、期待された短縮されたアシル鎖を有するLPSが合成された。
【0200】
in vivoでのこれらの変更の効果を試験するために、ウサギによる発熱性試験を、野生型とすべて比較して、lpxA突然変異及びlpxD突然変異から精製されたLPS並びにLpxD突然変異から抽出したOMVで実施した。OMV(nOMV)を、van de Waterbeemdら(2010年、Vaccine、28巻(30号):4810-6)によって本質的に記載される通り、キレート化剤としてEDTAを用いて、細菌バイオマスの界面活性剤無しで行う抽出により抽出した。
【0201】
ニュージーランド白ウサギに、nOMV(タンパク質50μg)又は精製されたLPS(10μg)を含有する溶液0.5ml、並びに対照として、無細胞百日咳ワクチン及び食塩水を、筋肉内に注射した。次の群を用いた(1群当たり動物5匹):
1.ビヒクル対照(食塩水)
2.参照ワクチン(acP)
3.ワクチン1:B1917 nOMV ompA prn
4.ワクチン2:B1917 nOMV ompA prn lpxD
5.ワクチン3:B1917 LPS lpxD
6.ワクチン4:B1917 LPS lpxA
7.ワクチン5:B1917 LPS野生型
【0202】
体温を、注射の0.5、1、2、4、6、24及び48hr後に、皮下に移植されたトランスポンダから外付けスキャナーを用いて測定した。これらの結果を、表3(表4)及び図6に示す。
【0203】
結果
体温の統計的に有意な上昇が、ワクチン1(注射の1,2及び4h後)及びワクチン5(注射の4h後)により示される。精製されたLPSでは、野生型により誘導されるが、lpxD及びlpxA突然変異により誘導されない明白な発熱ピークがある。OMVでは、野生型及びlpxD突然変異についてのより長期間の発熱があるが、後者の方が、低い。OMVが、LPSの他に、他の発熱性構成成分を含有するため、これは、期待されるものである。
【0204】
結論
これらのデータによって、野生型ボルデテラの脂質A部分と比較して、少なくとも1本のアシル鎖の長さがより短い、脂質A部分を有する突然変異ボルデテラLPSは、ウサギにおいて発熱性を明らかに低下させることを示すということが実証される。したがって、TLR4を発現するHEK細胞による上記の観察されるin vitroデータは、これらのin vivoデータによって実証される。
【0205】
【表4】

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図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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