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特許7311266上皮組織におけるバリア欠陥を伴う疾患の予防または治療において使用するための適合溶質または溶質混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】上皮組織におけるバリア欠陥を伴う疾患の予防または治療において使用するための適合溶質または溶質混合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/505 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K31/505
A61K8/49
A61P15/00
A61P17/02
A61P17/16
A61P27/16
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018528577
(86)(22)【出願日】2016-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2016079548
(87)【国際公開番号】W WO2017093463
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】102015121050.9
(32)【優先日】2015-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510054186
【氏名又は名称】ビトップ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】bitop AG
【住所又は居所原語表記】Stockumer Strasse 28, D-58453 Witten, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ビルシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】オーラフ シェアナー
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】吉田 佳代子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-536904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/48900(US,A1)
【文献】特表2004-508315(JP,A)
【文献】特開平7-330535(JP,A)
【文献】特表2002-522368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/505
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の生物系でペプチドを基礎とする害毒物を原因とする外側上皮組織の細胞間バリア欠陥であって、ヘルペス、口唇ヘルペス、外耳の疾患、外耳もしくは外耳道の炎症もしくは外耳炎から選択される疾患により生じる細胞間バリア欠陥の予防において使用するための適合溶質または溶質混合物であって、式Iの化合物、式IIの化合物、式Iおよび式IIの化合物の生理学的に認容性の塩、式I、式IIの化合物の立体異性形、ならびに前記立体異性形の生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる混合物から選択される少なくとも1種の化合物を含み、式I
【化1】
および式II
【化2】
において、
R1は、Hまたはアルキルを意味し、
R2は、H、COOH、COO-アルキルまたはCO-NH-R5を意味し、
R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、HまたはOHを意味し、
R5は、H、アルキル、アミノ酸残基、ジペプチド残基またはトリペプチド残基を意味し、
nは、1、2または3を意味し、かつ
アルキルは、C1~C4炭素原子を有するアルキル基を意味する、適合溶質または溶質混合物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの細胞間バリア欠陥を有する少なくとも1種の外側上皮組織は、損傷していない外側上皮組織と比べて、低下した[オーム]で測定される経上皮電気抵抗(TEER)を示す、請求項1に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの細胞間バリア欠陥を有する少なくとも1種の外側上皮組織は、損傷していない外側上皮組織と比べて、少なくとも1種の生物系害毒物についてより高い透過性を有する、請求項1または2に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項4】
前記少なくとも1つの細胞間バリア欠陥を有する少なくとも1種の外側上皮組織は、損傷していない外側上皮組織と比べて、より低いクローディンタンパク質ファミリーの少なくとも1種のタンパク質の発現を示す、請求項1から3までのいずれか1項に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの細胞間バリア欠陥が、上皮細胞の少なくとも1つの細胞層における密着結合の損傷を有し、かつ外側上皮組織の損傷および低下した選択的透過性バリアである、請求項1から4までのいずれか1項に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の溶質または溶質混合物は、前記少なくとも1種の外側上皮組織のバリア機能を保護し、該バリア機能の損傷を少なくとも阻止し、かつ/または少なくとも部分的に修復する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項7】
前記少なくとも1種の外側上皮組織の少なくとも1つの細胞間バリア欠陥は、痒み、高熱、発赤、環状皮膚変化、小水疱、水疱、膿疱(それぞれ、化膿を伴うまたは伴わない)、膿腫、瘻孔、発疹、蕁麻疹、斑、潰瘍および/または湿疹から選択される少なくとも1つの表現型を伴うものである請求項1から6までのいずれか1項に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項8】
前記少なくとも1種の化合物は、S-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトイン、S-エクトインの生理学的に認容性の塩、R-エクトインの生理学的に認容性の塩、(S,S)-ヒドロキシエクトインの生理学的に認容性の塩、(S,R)-ヒドロキシエクトインの生理学的に認容性の塩、(R,S)-ヒドロキシエクトインの生理学的に認容性の塩、(R,R)-ヒドロキシエクトインの生理学的に認容性の塩、およびS-ホモエクトインの生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物から選択される、請求項1からまでのいずれか1項に記載の適合溶質または溶質混合物。
【請求項9】
少なくとも1種の生物系でペプチドを基礎とする害毒物を原因とする外側上皮組織の細胞間バリア欠陥であって、ヘルペス、口唇ヘルペス、外耳の疾患、外耳もしくは外耳道の炎症もしくは外耳炎から選択される疾患により生じる細胞間バリア欠陥の予防において使用するための少なくとも1種の適合溶質または少なくとも2種の適合溶質を含む溶質混合物を含有する医薬組成物であって、前記適合溶質または溶質混合物は、式Iの化合物、式IIの化合物、式Iおよび式IIの化合物の生理学的に認容性の塩、式I、式IIの化合物の立体異性形、ならびに前記立体異性形の生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる混合物から選択される少なくとも1種の化合物を含み、式I
【化3】
および、式II
【化4】
において、
R1は、Hまたはアルキルを意味し、
R2は、H、COOH、COO-アルキルまたはCO-NH-R5を意味し、
R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、HまたはOHを意味し、
R5は、H、アルキル、アミノ酸残基、ジペプチド残基またはトリペプチド残基を意味し、
nは、1、2または3を意味し、かつ
アルキルは、C1~C4炭素原子を有するアルキル基を意味する、医薬組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物は、前記医薬組成物中に、その組成物の全含量に対して0.0001質量%以上で50質量%以下の割合で存在する、請求項9に記載の医薬組成物
【請求項11】
薬品、医療製品として、または上述の物品の1つへの添加剤として存在する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の溶質もしくは溶質混合物。
【請求項12】
医薬品、または医療製品への添加剤として存在する、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項13】

i)粉剤、凍結乾燥物、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、糖剤、カプセル剤、発泡錠剤、パウダー剤および石鹸を含む固体形、
ii)液剤、注射剤、注入剤、チンキ剤、点滴液、懸濁液剤、エマルジョン剤、ゲル剤、フォーム剤およびクリーム剤を含む液体形、ならびに/または
iii)スプレー剤、エアロゾル剤、軟膏剤、ペースト剤およびカプセル剤を含む混合物
から選択される、固体形もしくは液体形で、または混合物として存在する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の溶質もしくは溶質混合物。
【請求項14】
i)粉剤、凍結乾燥物、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、糖剤、カプセル剤、発泡錠剤、パウダー剤および石鹸を含む固体形、
ii)液剤、注射剤、注入剤、チンキ剤、点滴液、懸濁液剤、エマルジョン剤、ゲル剤、フォーム剤およびクリーム剤を含む液体形、ならびに/または
iii)スプレー剤、エアロゾル剤、軟膏剤、ペースト剤およびカプセル剤を含む混合物
から選択される、固体形もしくは液体形で、または混合物として存在する、請求項9または10に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療において使用するための適合溶質または溶質混合物、および少なくとも1種の溶質または溶質混合物を含む組成物であって、少なくとも1種の溶質が、式Iの化合物、式IIの化合物、式Iおよび式IIの生理学的に認容性の塩、式Iの化合物、式IIの化合物の立体異性形、ならびに該立体異性形の生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる混合物から選択される、適合溶質または溶質混合物および組成物に関する。前記少なくとも1種の適合溶質、溶質混合物、および/または組成物は、化粧品、医療製品、医薬品、上述の物品への添加剤の形で、またはインビトロ診断製品(IVD)の成分として提供される。
【0002】
適合溶質は、オスモライトとも呼ばれ、それらは低いモル質量を有する有機化合物である。適合溶質は、化粧品組成物ならびに医療製品および医薬品において保護物質として使用される。
【0003】
人間は、環境からの絶え間ない影響にさらされている。その環境からの影響は、人間に生命型因子および非生命型因子として作用する。生命型因子は、例えば、人体に作用することにより人間の健康障害を引き起こし得る昆虫、寄生虫および害虫、家畜および植物である。非生命型因子は、環境または自然からの成分または化合物である。しばしば、非生命型因子は、例えば生命型因子の分泌物、例えば排泄物、毒素または生命型因子の成分、例えば花粉、針、分泌物等である。これらは同様に、人体と接触した時に人間の健康障害を引き起こし得る。全部合わせて、上述の生命型因子および非生命型因子を、生物系害毒物としてまとめることができる。
【0004】
人体および動物体の生物系害毒物による負荷は、常に起こるものである。通勤経路、職場、余暇、および休暇において、環境、空間、空気、および水は、多くの種々の生物系害毒物に溢れている。外気を内側に導く換気システムの使用、または空調設備により、生物系害毒物の循環および分配が促される。季節の差によっても、生物系害毒物による負荷は、シーズン、温度、風、および/または湿度に依存して変動する。
【0005】
生物系害毒物により、典型的な症候を伴う種々の疾患が引き起こされることがある。しばしば、反応は、皮膚上、皮下、および/または皮膚中に現れる。皮膚の反応または一般的に皮膚の変化は、皮疹とも呼ばれる。皮疹は、皮膚および/または皮下の疾患の最初に視認および/または触知できる基本要素であり、それは原発発疹(または一次発疹)、すなわち健康な皮膚から中間段階なく生じた皮疹、および二次的発疹(または二次発疹)、つまり一次発疹から生じた皮疹を含む。
【0006】
生物系害毒物が、特に皮膚、粘膜を介して、および/または全身性に取り込まれた場合に、それにより生ずる疾患は、例えば、吐き気、下痢、高熱、水腫、発赤等のような症状を呈する。前記疾患は、浅在性感染、内部炎症、肺炎、喘息、気管支疾患、皮下疾患、胃腸粘膜疾患等を含む。
【0007】
生物系害毒物により引き起こされる疾患は、その都度の上皮組織が少なくとも部分的に損傷されているという点で共通している。最も良くある原因は、患部の上皮組織のバリア機能(選択的透過性バリア)の傷害、欠陥または破壊である。上皮は、身体の内表面および外表面を覆い、そして外来物質、例えば生物系害毒物のような物質に対するバリア機能を満たす組織である。したがって、上皮細胞または上皮組織は、機械的負傷、害毒物の侵入、液体の損失、および蒸発に対するバリアとして機能する。
【0008】
個々の上皮細胞および上皮組織に特徴的なのは、その極性である。上皮(上皮組織と同義)は、基底(側底と同義)側および頂端(内腔)側を有する極性細胞からなる。基底側で、前記極性細胞は基底膜と結合しており、側方では細胞接着を介して別の細胞と結合している。上皮組織は血管を有さないが、種々の上皮組織についてサイトケラチンの検出が特徴的である。
【0009】
上皮細胞により達成されるバリア、特に選択的透過性バリア、およびその連結は、細胞間結合によって強化される。上皮組織中のバリア、特に選択的透過性バリアの形成に関連している4つの群の細胞結合:密着結合(Zonula occludens)、接着結合または接着帯(Zonula adhaerens)、接着斑、およびギャップ結合に区別される。いわゆる上皮接合性複合体は、密着結合、接着帯および接着斑からなる単位(複合体)によって形成され、大部分の単層上皮に存在する。上皮接合性複合体により、体細胞間の空間(細胞間隙と同義)において、体細胞間の制御されない傍細胞性物質輸送を食い止める選択的透過性障壁が保証される。それにより、生物系害毒物の侵入が抑制または阻止される。
【0010】
上記バリア、特に選択的透過性バリアが隙間を有する場合、または侵入する害毒物が、それにもかかわらずバリアを通過し得るほど小さい場合に、本発明の範囲では健康障害が生ずる。
【0011】
そのような健康障害の治療のためには、罹患した人に種々の医薬品、医療製品、および化粧品を利用することができる。しばしば、これらの調製物は、ステロイド、抗生物質、抗真菌剤、鎮痛剤、ならびに/またはさらなる合成作用物質および補助物質を含有する。上記の調製物は、例えば寄生虫、細菌、ウイルスまたは菌類への攻撃により感染症を治療する。しかしながら、患部の上皮組織のバリアの修復は、これらの作用物質によっては促進されない。その代わりに、内因性機構、免疫系、および特異的発現因子が、そのバリアを修復するはずである。さらに、上述の物質クラスは、これらがしばしば、強力な副作用を有し、かつ/または人間にアレルギー反応を引き起こし得るという欠点を有する。
【0012】
したがって、上皮組織のバリア機能の修復のための上記の上皮の選択的透過性バリアの再生は、内因性の活力に依存している。しかしながら、この活力は、疾患の経過により、生ずる可能性のある副作用に基づきしばしば低下し、身体は非常にゆっくりとしか上皮組織のバリアを保持または修復することができないか、または全くできない。
【0013】
これまで、上皮バリア(特に、上皮組織における選択的透過性バリアまたはバリア機能)の質に対する生物系害毒物の影響による、健康障害において好ましい影響を及ぼす詳しい作用機構は、記載されていなかった。上述の物質クラスについても同様に記載されていなかった。
【0014】
したがって、本発明の課題は、上皮組織におけるバリア機能の欠陥を最小限にする、防止する、または治療するために適した化合物または混合物を提供することである。同様に、本発明の課題は、上皮組織を生物系害毒物による悪影響から保護する化合物または混合物を提供することである。その場合に、前記化合物または混合物は、バリアを安定化するはずなので、生物系害毒物の制御されない侵入は阻止または防止される。生物系害毒物により引き起こされる、または少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア機能障害の予防もしくは治療において使用するための化合物または混合物が提供されるべきである。本発明の課題は、表皮を含む外側上皮組織、口腔および鼻腔を含む移行上皮組織、ならびに/または下気道および内側内皮を含む内側上皮組織における上皮バリアの安定性、再生、および機能を保護および/または安定化することである。さらに、生物系害毒物により引き起こされる皮疹、神経皮膚炎、皮膚、目、口/鼻粘膜の炎症、気道疾患、脱水症、(粘膜)皮膚、結膜、角膜の乾燥、および/または上皮組織のアレルギー反応を防止または軽減する化合物または混合物が提供されるべきである。同様に本発明の課題は、少なくとも1種の上皮組織における少なくとも1つのバリア欠陥を含む上述の健康障害および疾患の予防または治療において使用するための化合物または混合物を提供することである。さらに、人間または動物の皮膚および粘膜の皮疹の予防または治療において使用するための前記化合物または混合物を含有する組成物が提供されるべきである。本発明のもう一つの課題は、経口投与、経鼻投与または局所投与のための、少なくとも1種の化合物を含む前記溶質および/または前記組成物を含有する化粧用製剤ならびに医療製品用および医薬品用の製剤を提供することである。本発明の課題は、少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療のための化粧品、医療製品、および医薬品を提供することである。
【0015】
ここで、驚くべきことに、適合溶質のエクトインおよびその誘導体が、そのような作用を有することが確認された。
【0016】
したがって、本発明の主題は、少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥、好ましくは選択的透過性バリアの損傷および低下の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療において使用するための適合溶質または溶質混合物であって、式Iの化合物、式IIの化合物、式Iおよび式IIの生理学的に認容性の塩、式Iの化合物、式IIの化合物の立体異性形、ならびに該立体異性形の生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる混合物から選択される少なくとも1種の化合物を含み、式I
【化1】
および、式II
【化2】
において、
R1は、Hまたはアルキルを意味し、
R2は、H、COOH、COO-アルキルまたはCO-NH-R5を意味し、
R3およびR4は、それぞれ互いに独立して、HまたはOHを意味し、
R5は、H、アルキル、アミノ酸残基、ジペプチド残基またはトリペプチド残基を意味し、
nは、1、2または3を意味し、かつ
アルキルは、C1~C4炭素原子を有するアルキル基を意味する、適合溶質または溶質混合物である。
【0017】
本発明の範囲におけるアルキルは、メチル(-CH3)、エチル(-C25)、プロピル(-CH2CH2CH3または-CH(CH32)およびブチル(-CH2CH2CH2CH3、H3C(CH)CH2CH3、-CH2CH(CH32およびC(CH33)を含む直鎖状、環状、および分枝鎖状のアルキル基を含む。有利には、直鎖状アルキル基であり、特に有利には、メチル基である。
【0018】
アミノ酸残基は、相応のアミノ酸およびその立体異性形、例えばL形およびD形から誘導され、かつアミノ酸のアラニン、β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、γ-アミノ酪酸、Nε-アセチルリシン、N5-アセチルオルニチン、Nγ-アセチルジアミノ酪酸およびNα-アセチルジアミノ酪酸を含む。L-アミノ酸、例えばL-システイン、L-バリン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-ヒスチジン、L-トリプトファン、L-フェニルアラニンおよびL-リシンが有利である。アミノ酸のアラニン、L-アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、セリン、トレオニン、バリン、γ-アミノ酪酸、N-アセチルリシン、N-アセチルオルニチン、Nγ-アセチルジアミノ酪酸およびNα-アセチル-ジアミノ酪酸のアミノ酸残基が、特に有利である。
【0019】
ジペプチド残基は、2つのアミノ酸から構成されており、直鎖状および環状のジペプチド残基を含み、その際、直鎖状のジペプチド残基は、1個のペプチド結合を有し、環状ジペプチド残基は、2個のペプチド結合を有する。トリペプチド残基は、3つのアミノ酸から構成されており、そして直鎖状構造の場合には3個のペプチド結合を有し、または環状構造の場合には4個のペプチド結合を有する直鎖状および環状のトリペプチド残基を含む。ペプチド結合は、1つ目のアミノ酸のアミノ基の窒素原子と、2つ目のアミノ酸のカルボキシ基の酸素原子との間のアミド結合(-CO-NH-)である。有利なジペプチド残基およびトリペプチド残基は、上述のアミノ酸からなり、特に有利には、上記の特に有利なアミノ酸からなる。
【0020】
式Iの化合物および式IIの化合物の生理学的な塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、例えばNa塩、K塩、Mg塩またはCa塩、ならびに有機塩基、例えば脂肪族または芳香族アミン、トリエチルアミンまたはトリス(2-ヒドロキシエチル)アミンから誘導される塩を含む。式Iの化合物および式IIの化合物の有利な生理学的に認容性の塩は、無機酸、例えば塩酸、硫酸およびリン酸との、または有機カルボン酸もしくはスルホン酸、例えば酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸およびp-トルエンスルホン酸との反応によって得られる。
【0021】
同様に、本発明の主題は、少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療、好ましくは、クローディン発現の減少を含む変化した選択的透過性バリアを伴う疾患の予防または治療ための、化粧品、医療製品、インビトロ診断製品(IVD)、医薬品および/または上記の物品の1つへの添加剤の製造のための、式Iおよび式IIの化合物、式Iおよび式IIの生理学的に認容性の塩、式I、式IIの化合物の立体異性形および該立体異性形の生理学的に認容性の塩または混合物、ならびに本明細書に記載される有利な実施形態の使用である。
【0022】
式Iおよび式IIの有利な化合物は、式中、R1が水素原子またはメチル基(CH3)であり、R2が水素原子またはCOOHであり、R3およびR4がそれぞれ互いに独立して水素原子またはOHであり、かつnが2である化合物である。上記定義による特に有利な化合物は、1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸(エクトイン)および1,4,5,6-テトラヒドロ-5-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸(ヒドロキシエクトイン)ならびに上述の化合物の生理学的に認容性の塩および立体異性形である。式Iおよび式IIの化合物は、有利には、(S)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸(S-エクトイン)および(S,S)-1,4,5,6-テトラヒドロ-5-ヒドロキシ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸((S,S)-ヒドロキシエクトイン)である。
【0023】
生物系害毒物により引き起こされる上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療において使用するためには、式Iおよび式IIの化合物であって、式中、R1が水素原子またはメチル基(CH3)であり、R2が水素原子またはCOOHであり、R3およびR4がそれぞれ互いに独立して水素原子またはOHであり、かつnが3または4である化合物がさらに有利である。上記定義による特に有利な化合物は、nが3である(S)-4,5,6,7-テトラヒドロ-2-メチル-1H-[1,3]-ジアゼピン-4-カルボン酸(ホモエクトイン)およびnが4である3,4,5,6,7,8-ヘキサヒドロ-2-メチル-1,3-ジアゾシン-4-カルボン酸(HHMDCA)、ならびに上述の化合物の生理学的に認容性の塩および立体異性形である。
【0024】
上記の化合物は、光学異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、両性イオン、カチオンとして、または上述の形の少なくとも2種からなる混合物として存在し得る。異性体は、上記化合物の(R,R)配置、(R,S)配置、(S,S)配置、および(S,R)配置を含む。異性体の他には、上述の化合物のジアステレオマー、ラセミ体、両性イオン、カチオンおよび混合物も同様に本発明の主題である。誘導体化は、ヒドロキシ基、スルホン酸基、カルボン酸誘導体、例えばアミド、エステル等、カルボニル、エーテル、アルコキシ基およびヒドロキシル基(Dydroxylgruppe)で行うことができる。可能な誘導体は、それに制限されるものではないが、(S,S)-α-アミノ-β-ヒドロキシエクトインである。
【0025】
用語「溶質」は別称で「適合溶質」を表すものとし、かつ「混合物」は別称で「溶質混合物」を表すものとする。「溶質混合物」は、常に式Iおよび/または式IIの少なくとも2種の溶質からなる混合物を指す。「エクトイン」、「ヒドロキシエクトイン」および「ホモエクトイン」は、常に、それぞれの化合物のすべての立体異性形を含む。特定の異性体はそれ自体を表す。
【0026】
適合溶質または溶質混合物の使用の本発明による一実施形態においては、前記少なくとも1種の生物系害毒物は、動物性害毒物、植物性害毒物、昆虫および害虫の害毒物、微生物性害毒物、環境害毒物、食品害毒物、上述の害毒物のそれぞれの成分および/もしくは化合物、ならびに/または該生物系害毒物の少なくとも2種からの組み合わせから選択される。
【0027】
本発明の範囲における生物系害毒物は、もっぱら天然起源のものであり、天然に由来するものであり、そして生物起源である。それは、同様に、風および気候により引き起こされる環境中の温度および空気湿分を含める。本発明の範囲においては、生物系害毒物は、好ましくは、人体または動物体と、少なくとも外側上皮組織を介して接触する生物系害毒物である。有利には、生物系害毒物は、ペプチドを基礎とするものである。生物系害毒物が、もっぱら外側上皮組織との外部接触を介して作用する場合に、これらは、接触害毒物である。その他の害毒物は、同様にまたは外側上皮組織を介しておよび/もしくは粘膜(口、鼻、目、胃腸)を介して取り込まれた後に初めて作用する。生物系害毒物(植物、昆虫、害虫、細菌、ウイルス、菌類、酵母、それぞれ生殖可能)は、生物系の非生命型害毒物とは区別することができる。最後に挙げた害毒物は、毒素、化合物、排泄物、分泌物、排出物、食品成分を含む動物性分泌物、微生物性分泌物および植物性分泌物、ならびに物理的害毒物、例えば風、温度、空気湿度および日光(光動力学的光作用)を含む。生物系害毒物は、同様に、タンパク質と組み合わせて初めて人体において害毒物として作用し得る生物系ハプテンを含む。該タンパク質は、さらなる本発明による生物系害毒物、または罹患した人の内因性タンパク質であってよい。有利には、生物系害毒物、特に生物系の接触害毒物は、ペプチドを基礎とするものである。
【0028】
有利には、前記少なくとも1種の害毒物または少なくとも2種の生物系害毒物の組み合わせは、
a)家畜、ネコ、イヌ、ブタ、齧歯類動物、有用動物、ブタ、ヤギ、上述の動物の分泌物、動物の上皮および/もしくは動物の毛を含む動物性害毒物、
b)花粉、果実器官、果汁、分泌物、毒、樹脂、匂い物質、芳香物質、毒素、刺毛、鉤、針、棘、植物性害毒物の成分および/もしくは化合物を含む植物性害毒物、
c)ダニ、チリダニ、昆虫、害虫および/もしくは寄生虫の分泌物、蜂にかわ、蜂毒、スズメバチ毒、クモ毒、害虫咬傷、蚊、アブ、およびアリの刺傷もしくはそれぞれの咬傷、昆虫もしくは害虫の成分、例えば針、毒毛、鉤針、および/または化合物を含む昆虫および害虫の害毒物、
d)微生物、菌類、酵母、マラセジア種、細菌、スタフィロコッカス・アウレウス、カビ胞子、糸状菌、細菌性毒素、デルタ毒素、抗生物質、ウイルス、マイコトキシン、微生物の成分および/もしくは化合物を含む微生物性害毒物、
f)環境害毒物、例えば光動力学的光作用、風、季節性温度変動、
e)ナッツ、落花生、ヘーゼルナッツ、ワイン、牛乳、コムギ、ダイズ、鶏卵、卵白、魚、貝類、甲殻類、軟体動物、生野菜、生の果物、食品の成分および/もしくは化合物を含む食品害毒物、ならびに/または
f)特に、内因性成分/化合物、汗、タンパク質および/もしくはアミノ酸を含むヒト害毒物
の群の少なくとも1つから選択される。
【0029】
それぞれの害毒物自体は、上皮組織(第2表)のバリア機能、特に選択的透過性バリアに悪影響を及ぼすことができ、または上述の害毒物の少なくとも2種を組み合わせて初めて、上皮組織に悪影響ないし有害な影響を及ぼすことができる。特に、バリア機能の第一の損傷(例えば、高温、強冷および/または風のような環境害毒物による機械的障害)に続いて、第二の部分的により激しいバリア欠陥(例えば、感染性害毒物、例えば微生物の感染性害毒物により引き起こされる感染、および非感染性害毒物により引き起こされるアレルギー)が起こることがある。
【0030】
第1表: 本発明の範囲における生物系害毒物
【表1】
【0031】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記少なくとも1種の生物系害毒物は、ペプチドを基礎とするものである。本発明の範囲における「ペプチドを基礎とする」とは、生物系害毒物が、少なくとも2つのアミノ酸の間に少なくとも1つのペプチド結合を有する化合物であるか、または少なくとも1種のそのような化合物を含むことを意味する。
【0032】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる実施形態においては、上皮組織、特に内側表面および外側表面の間の境界ならびに機能的単位間の境界としての表面上皮は、
- 皮膚、上皮、頭皮、表皮、爪床、爪甲(上爪皮)、目の角膜および結膜、特に粘膜、外耳、外耳道、および唇を含む外側上皮組織、
- 口腔、口粘膜、歯肉、舌、舌粘膜、上気道、鼻腔、副鼻腔、鼻粘膜、声帯、咽喉、および生殖器を含む移行上皮組織、ならびに/または
- 下気道、気管、気管支、気管支樹、肺、内側内皮組織、連続型内皮、特に肺および心臓の連続型内皮、心血管、血管-リンパ管の内皮、食道、胃粘膜および/もしくは小腸/大腸粘膜を含む内側上皮組織
を含む。
【0033】
上皮組織は、組織学的には、細胞層の数に応じて、単層上皮、多層上皮、および多列上皮に分類される。さらに、上皮は、細胞の形に応じて、扁平上皮、同円柱上皮または立方上皮ならびに高円柱上皮または柱状上皮に分類される。角質化の度合いは、角化または非角化として記載される。上皮の局所化および機能に依存して、上皮は、特徴的な組織学を示す。以下で、本発明の範囲に含まれる上皮組織の所在がまとめられているので、本発明の範囲において上皮組織が述べられる場合に、具体的な実施形態が明示的に指摘されない限りは、以下の一覧表が基準となる。
【0034】
第2表: 本発明の範囲における上皮組織
【表2】
【0035】
第2表の上皮組織は、細胞間結合として、密着結合、接着結合および/または接着斑を含む。その場合に、密着結合によって、上皮組織の固有の傍細胞性バリア機能、特に選択的透過性バリアが達成され、それによりトランスサイトーシスが可能となり、同時に体液の損失が食い止められる。さらに、分子、イオン、抗原、ペプチドを基礎とする害毒物および微生物の傍細胞性の侵入が食い止められる。1つの重要な機能は、栄養素、電解質および水の選択的な吸収および分泌である。接着結合および接着斑によって、細胞同士が結合され、それにより機械的に安定化される。密着結合は、選択的透過性バリアでのその機能の他に上皮組織の機械的安定化のためにも寄与する。したがって、本発明の焦点は、上皮組織の透過特性およびバリア機能の影響の調査に向けられる。
【0036】
したがって、本発明の主題は、少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つのバリア欠陥が、外側上皮組織、移行上皮組織、および/または内側上皮組織の上皮細胞の少なくとも1つの細胞層中における損傷した細胞間細胞構造を有する、前記の本発明による使用のための適合溶質または溶質混合物である。好ましくは、前記少なくとも1種の上皮組織は、細胞間結合として、密着結合、接着結合および/または接着斑を含む。上述の化合物の欠陥は構造的な弱化をもたらし、それにより損傷および低下した選択的透過性バリアをもたらす。
【0037】
密着結合は、その多面的な課題に基づき、上皮組織のバリア機能の保持において最も重要な要素である。密着結合は、上皮細胞を頂端で環状に膜内の連続的な構造として取り囲んでいる。上皮組織における細胞間結合の空間的配置を観察すると、密着結合は全ての上皮組織において最も広い頂端に配置されており、それに続いて、接着結合、接着斑、およびギャップ結合が、基底部に配置された細胞間結合として配置される。したがって、生物系害毒物は、先立って密着結合に作用する。密着結合が損傷されるかまたは欠陥を有し、生物系害毒物が透過性バリアの欠損のため侵入することができる場合に、その生物系害毒物は、接着結合等に作用する。上述の上皮組織または上皮細胞がバリア(選択的透過性バリアと同義)中に欠陥を有する場合に、まず最初に密着結合の損傷または損失から始まる(実施例1~3を参照)。
【0038】
したがって、本発明のさらなる主題は、少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つのバリア欠陥が、少なくとも1つの細胞層中における密着結合の損傷を有する、前記の本発明による使用のための適合溶質または溶質混合物である。特に、密着結合の損傷は、特に細胞間隙中の損傷および低下した透過性バリアをもたらす。
【0039】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の使用における本発明のさらなる一実施形態においては、少なくとも1種の上皮組織中の少なくとも1つのバリア欠陥は、外側上皮組織、移行上皮組織、および/または内側上皮組織の上皮細胞の少なくとも1つの細胞層中における損傷した細胞間細胞構造、特に高められた透過性を有する。好ましくは、前記少なくとも1つのバリア欠陥は、少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層中における密着結合の損傷を含む。密着結合の損傷は、より低いタンパク質安定性、タンパク質、特にオクルディンおよび/またはクローディンタンパク質ファミリーの変化、密着結合タンパク質の経細胞ループの部分的な分解または破壊であってよく、それにより細胞構造は損傷を受け、そしてより透過性となる。密着結合タンパク質の損傷は、上皮組織の選択的透過性バリアの障害および低下をもたらし、それによりまたしても、生物系害毒物の高められた傍細胞性の流れが生ずる(実施例2)。
【0040】
したがって、少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物を使用する場合の本発明のさらなる一実施形態においては、少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つのバリア欠陥は、損傷および低下した選択的透過性バリアである。選択的透過性バリアの障害および損傷は、実施例1に示されるように、経上皮電気抵抗(TEER)の低下に基づき、そして実施例2に示されるように、クローディンタンパク質ファミリーの少なくとも1種のタンパク質の発現の低下に基づき確認することができる。
【0041】
前記少なくとも1種の生物系害毒物(第1表)は、バリア機能の障害の原因であることがあり、かつ/または例えば表皮、角膜および/または結膜のような外側上皮組織の場合にバリア機能が弱まった既に罹患しやすくなっている上皮組織において、上皮組織においてより激しいバリア欠陥をもたらし、それにより発症する疾患、好ましくは、クローディン発現の低下を含む変化した選択的透過性バリアを有するクローディン関連疾患を引き起こすことがある。クローディン関連疾患は、炎症性腸疾患、腎疾患、細菌感染症およびウイルス感染症、ならびに皮膚疾患を含む。特に、乾癬、皮膚炎およびアトピー性皮膚炎、ならびにバリア障害を伴う類似の皮膚疾患の場合には、上皮組織は、特に初期段階において、とりわけ下方調節されたクローディン発現に基づいて選択的透過性バリアの低下を示す。
【0042】
冒頭で既に説明されたように、上皮組織のバリア機能の修復のための上記の上皮の選択的透過性バリアの再生は、内因性の活力に依存している。しかしながら、この活力は、疾患の経過により、生ずる可能性のある副作用に基づきしばしば低下し、身体は非常にゆっくりとしか上皮組織のバリアを修復または保持することができないか、または全くできない。本明細書に記載される試験は、エクトインが選択的透過性バリアの再生に際して身体を補助することを示しており、これは、クローディン発現の増加および高められたTEERにおいて検出された(実施例1~3)。
【0043】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、好ましくは少なくとも1つの細胞層における、少なくとも1つのバリア欠陥を有する少なくとも1種の上皮組織は、損傷していない上皮組織と比べて低下した経上皮電気抵抗(TEER)を示し、それは、実施例1で説明されるように[オーム]で測定される。特に本発明によれば、少なくとも1種の溶質の作用により、上述の上皮組織のTEERは高められ、かつ/または安定化される。インタクトな透過性バリアの場合には、細胞間隙(傍細胞性経路)を通じた自由拡散は、選択的な傍細胞性の透過性バリアにより制限され、そのバリアの密着性は組織特異的であり、かつ一般的に経上皮電気抵抗(TEER)によって説明される。選択的な傍細胞性の透過性バリアの密着性は、密着結合により引き起こされる。接着結合ならびに接着斑は、細胞同士を互いに機械的に結合する。
【0044】
実施例1においては、すべての本発明による上皮組織(第2表)についての代表として、口粘膜の上皮細胞(TR146細胞=移行上皮組織)、ブタ由来の腎臓上皮細胞(LLC-PK1=内側上皮組織)、ならびにヒトケラチノサイト(HaCat細胞=外側上皮組織)を調査した。すべての上皮組織種において、経上皮電気抵抗(TEER)の安定化に対するエクトインの好ましい影響を検出することができた(図3図4図5および図6)。
【0045】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、好ましくは少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を有する少なくとも1種の上皮組織は、実施例2においてアレルギー予防アッセイ(APA)に基づいて示されるように、損傷していない上皮組織と比べて、少なくとも1種の生物系害毒物についてより高い透過性を有する。特に、本発明によれば、少なくとも1種の溶質の作用により、上述の上皮組織の透過性は低減される。実施例2においては、すべての本発明による上皮組織(第2表)についての代表として、口粘膜および鼻粘膜のヒト上皮細胞(TR146細胞/RPMI-2650細胞=移行上皮組織)、ラット由来の気管支上皮細胞(RLE=内側上皮組織)、ならびにヒトケラチノサイトおよびウサギ由来の角膜上皮細胞(HaCat細胞/SIRC細胞=外側上皮組織)を調査した。すべての上皮組織種において、透過性(APA)の低下に対するエクトインの好ましい影響を検出することができた(第4表)。
【0046】
少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、好ましくは少なくとも1つの細胞層における、少なくとも1つのバリア欠陥を有する少なくとも1種の上皮組織は、実施例3に示されるように、損傷していない上皮組織と比べて、より低いクローディンタンパク質ファミリーの少なくとも1種のタンパク質の発現を示す。特に、本発明によれば、少なくとも1種の溶質の作用により、上述の上皮組織のクローディン発現は高められ、かつ/または安定化される。実施例3においては、外側上皮組織についての代表として、ヒトケラチノサイト(HaCat細胞)が使用された。熱的ストレス、それによる乾燥ストレス(本発明による環境害毒物)の後に、クローディン1の発現に対するエクトインの好ましい影響を検出することができた(第5表)。したがって、エクトインは、クローディンタンパク質ファミリーのタンパク質の発現の刺激により密着結合の形成を促進することができる。それにより、バリア機能、特に選択的透過性バリアは安定化され、または既に損傷した上皮細胞においては修復される。
【0047】
本発明の範囲における損傷していない上皮組織は、本実施例のコントロールに相当し、生物系害毒物の作用により損傷を受けていない上皮組織である。
【0048】
上皮組織におけるバリア欠陥の予防または治療において使用するためのエクトインの、特に選択的透過性バリアの安定化および/または修復(実施例1、2および3による)に対する上述の効果は、有利には10mM以上で1M以下の、好ましくは10mM以上で750mM以下の、10mM以上で500mM以下の、25mM以上で500mM以下の、50mM以上で500mM以下の、特に25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、150mM(それぞれ±5mMの誤差)の少なくとも1種の適合溶質、好ましくはエクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはその誘導体により達成される。
【0049】
したがって、エクトインおよびその誘導体は、バリア欠陥、特に、少なくとも1種の、好ましくはペプチドを基礎とする生物系害毒物(第1表)と関連している少なくとも1種の上皮組織における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防で使用するためにも、その治療において使用するためにも適している。
【0050】
本発明の有利な一実施形態においては、上皮組織は、もっぱら、皮膚、上皮、頭皮、表皮、爪床、爪甲(上爪皮)、目の角膜および結膜、特に粘膜、外耳、外耳道、および唇を含む外側上皮組織、ならびに口腔、口粘膜、歯肉、舌、舌粘膜、上気道、鼻腔、副鼻腔、鼻粘膜、声帯、咽喉、および生殖器を含む移行上皮組織を含む。少なくとも1種の、好ましくはペプチドを基礎とする生物系害毒物(第1表)と関連する有利な上皮組織のバリア欠陥、特に損傷した選択的透過性バリアの予防または治療のために、式Iの化合物および/または式IIの化合物、好ましくはエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインから選択される少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物が使用される。
【0051】
本発明の有利な一実施形態、特に上述の選択においては、それぞれ密着結合を有する外側上皮組織および移行上皮組織が有利である。特に、顆粒層および有棘層においては、それぞれ密着層および接着斑が多く存在しており、人間にとって最も重要な生物系の、特にペプチドを基礎とする害毒物のためのバリアを形成する。この場合のバリア欠陥は、それぞれインタクトなバリア機能を有する損傷していない上皮組織と比べて、低減された経上皮電気抵抗(TEER)、より高い透過性(APA)および/またはより低いクローディンタンパク質ファミリーの少なくとも1種のタンパク質の発現を示す。したがって、本発明の範囲では、上皮細胞の頂端側膜および側底側膜の間の境界にバリア欠陥が存在する。
【0052】
式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、該少なくとも1種の溶質および/または溶質混合物は、少なくとも1種の上皮組織のバリア機能を、特に選択的透過性バリアを保護および/もしくは安定化し、特に少なくとも1種の上皮組織におけるバリア機能の損傷を少なくとも阻止もしくは減少させ、ならびに/または少なくともこのバリア機能を部分的に修復する(上記参照、実施例1~3)。
【0053】
式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記少なくとも1種の溶質または溶質混合物は、1mM以上で1M以下の濃度で、外側上皮組織(好ましくは皮膚、表皮)、移行上皮組織(好ましくは口粘膜および鼻粘膜)および/もしくは内側上皮組織(好ましくは肺上皮、気管支上皮、および胃腸上皮)の上皮細胞のバリア機能に対して少なくとも1つの保護作用を示し、該バリア機能の損傷を阻止し、かつ/または上述の上皮細胞のこのバリア機能を少なくとも部分的に修復する。
【0054】
前記少なくとも1種の適合溶質、好ましくはエクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはそれらの誘導体の使用される濃度は、1mM以上で1M以下、5mM以上、10mM以上、15mM以上、20mM以上、25mM以上、30mM以上、35mM以上、40mM以上、45mM以上、50mM以上、55mM以上、60mM以上、65mM以上、70mM以上、75mM以上、80mM以上、85mM以上、90mM以上、95mM以上、100mM以上、110mM以上、120mM以上、130mM以上、140mM以上、150mM以上、200mM以上、250mM以上、300mM以上、350mM以上、400mM以上、450mM以上、500mM以上で、それぞれ1M以下、950mM以下、900mM以下、850mM以下、800mM以下、750mM以下、700mM以下、650mM以下、600mM以下、550mM以下である。
【0055】
特に有利な濃度範囲は、それぞれ10mM以上で1M以下、10mM以上で750mM以下、10mM以上で500mM以下、25mM以上で500mM以下、50mM以上で500mM以下、特に25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、110mM、120mM、130mM、140mM、150mM(それぞれ±5mMの誤差)の少なくとも1種の適合溶質、好ましくはエクトイン、ヒドロキシエクトインおよび/またはそれらの誘導体である。
【0056】
バリア欠陥は、疾患(皮膚症状、皮膚疾患)、感染および/またはアレルギーに基づく炎症反応、感染(表面的、内面的)および/またはアレルギーの原因であり得るが、またその結果でもあり得る。その場合に、それぞれの損傷を受けた上皮組織の損傷したバリア機能は、種々の症状(表現型または表現型的と同義)を示す。これらは、散在的に、局所的に限定されて、点状に分布して、または広範に生じ得る。
【0057】
したがって、式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つのバリア欠陥は、表現型として、痒み、皮膚変色、熱、発熱、高熱、発赤、乾燥肌(乾皮症)、環状皮膚変化、小水疱、水疱、膿疱、丘疹、吹き出物(それぞれ、化膿を伴うまたは伴わない)、膿腫、瘻孔、発疹、痂皮、膨らみ、腫れ、引っ掻き傷、刺創、かさぶた、落屑、膨疹、血管浮腫、クインケ浮腫、蕁麻疹、斑、潰瘍、せつ腫、癰、湿疹および/またはバグダッドボイルを含む。
【0058】
動物性害毒物との皮膚接触により身体反応は、患部の皮膚領域のヒリヒリした痛み、痒みおよび腫れにより現れる症状を引き起こす。それは、特に家畜に対するアレルギー、ならびに海生動物との接触に際して観察され得る。特に、刺胞動物との接触に際しては、刺された範囲に応じて、強い痛み、皮疹、および水疱形成が生ずるが、重症な中毒症状、例えば嘔吐、高熱、意識混濁、血行障害および心循環機能不全も生ずる。組織の腫れ、発赤、水疱形成、および壊死は、有毒の動物および刺胞動物と接触した場合にしばしば起こる症状である。
【0059】
食品害毒物との接触は、膨疹(蕁麻疹)、蕁麻疹、発赤、痒み、クインケ浮腫、皮膚症状、例えば神経皮膚炎を引き起こし、神経皮膚炎の場合には神経皮膚炎発作、蕁麻疹およびクインケ浮腫、蕁麻疹を引き起こし、耳鼻咽喉領域においては、くしゃみ発作および鼻水を引き起こし得る。
【0060】
式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、少なくとも1種の生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物と関連する前記種類の上皮組織のバリア欠陥は、特にそれぞれ外側上皮組織、移行上皮組織、および/または内側上皮組織の、少なくとも1つのバリア欠陥を有する疾患、寄生虫性、細菌性および/またはウイルス性の疾患、真菌症、病変、乾燥、刺激、炎症、過敏症、および/またはアレルギー反応を含む。好ましくは、前記バリア欠陥は、上皮組織の少なくとも1つの細胞層における密着結合(上記参照)の損傷を有する。アレルギー反応は、好ましくは、皮膚、上皮、頭皮、表皮、爪床、爪甲(上爪皮)、目の角膜および結膜、特に粘膜、外耳、外耳道、および唇を含む外側上皮組織、ならびに口腔、口粘膜、歯肉、舌、舌粘膜、上気道、鼻腔、副鼻腔、鼻粘膜、声帯、咽喉、および生殖器を含む移行上皮組織の、本発明に基づく害毒物(第1表)に対するアレルギー反応、交差アレルギー、および接触アレルギーを含む。
【0061】
少なくとも1種の、好ましくはペプチドを基礎とする生物系害毒物(第1表)と関連するバリア欠陥、特に疾患の予防または治療のために、式Iの化合物および/または式IIの化合物、好ましくはエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインから選択される少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物が使用される。前記少なくとも1種の溶質に関する前記の有利な濃度範囲が、ここでも相応して当てはまる。
【0062】
接触アレルギーは、アレルゲンと接触し、その際に、該アレルゲン、特に生物系害毒物および生物起源の作業物質(例えば、農業、林業および漁業におけるラテックス)が上皮組織、好ましくは表皮に侵入および/または透過することで48時間~72時間以内に始まる反応である。遺伝的素因または非遺伝的素因に基づき相応の性質がある人では、既に上記した症状をもとにする接触アレルギー反応が現れる。
【0063】
それぞれ密着結合を有する有利には外側上皮組織および移行上皮組織のバリア欠陥、特に、顆粒層および有棘層において、それぞれ密着層および接着斑をより多く有しており、人間にとって最も重要な生物系の、特にペプチドを基礎とする害毒物のためのバリアを形成する表皮のバリア欠陥において、式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用はさらに有利である。この場合のバリア欠陥は、それぞれインタクトなバリア機能を有する損傷していない上皮組織と比べて、低減された経上皮電気抵抗(TEER)、より高い透過性(APA)および/またはより低いクローディンタンパク質ファミリーの少なくとも1種のタンパク質の発現を示す。前記少なくとも1種の溶質に関する有利な濃度範囲が、ここでも相応して当てはまる。
【0064】
式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、少なくとも1つのバリア欠陥は、それぞれ
- 皮膚および皮下の疾患、皮膚および/または皮下の感染症、真菌症、乾燥肌、特に手足/四肢、例えば脚、足、腕、手、腕の湾曲部、膝窩、顔、頭部および頚部の乾燥上皮、接触アレルギー、皮膚炎、湿疹、神経皮膚炎、乾癬、蕁麻疹、ヘルペス、口唇ヘルペス、目の疾患、結膜および/または角膜の炎症、結膜炎、角膜炎、乾燥結膜、外耳の疾患、外耳および/または外耳道の炎症、外耳炎、負傷、刺し傷、切り傷、引っ掻き傷、擦り傷、火傷および/または化学火傷を含む皮膚構造の物理的障害および/または損傷(それぞれ、少なくとも1種の生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物との接触によって引き起こされる)を含む外側上皮組織(第2表)の疾患、
- 鼻粘膜のアレルギー反応、口腔の少なくとも1つの粘膜(口上皮、舌上皮、および/または歯肉上皮)のアレルギー反応、乾燥鼻粘膜、口腔の疾患、嚢胞、口粘膜の蜂窩織炎および/または膿腫、口粘膜および/または舌のアレルギー性病変、上気道の疾患、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性鼻症、扁桃炎、口、歯肉、舌、咽喉、鼻および/または生殖器の粘膜、特に陰茎、亀頭、陰嚢、包皮、陰嚢外被、陰核包皮、陰核亀頭、外陰唇および内陰唇の炎症および感染症、負傷、刺し傷、切り傷、引っ掻き傷、擦り傷、火傷および/または化学火傷を含む皮膚構造の物理的障害および/もしくは損傷(それぞれ、少なくとも1種の生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物との接触によって引き起こされる)を含む移行上皮組織(第2表)の疾患、ならびに/または
- 消化器系の疾患、胃粘膜および/もしくは小腸/大腸粘膜の炎症、クローン病、潰瘍性大腸炎、憩室症、クローディン関連疾患、下気道の疾患、肺および/もしくは気管支の炎症、ならびに/または喘息を含む内側上皮組織(第2表)の疾患
の場合に存在する。
【0065】
皮膚病変は、皮膚発赤(紅斑)、皮膚変色、環状皮膚変化、小水疱または水疱(それぞれ、化膿を伴うまたは伴わない)、膿疱、吹き出物、痂皮、膨らみ、かさぶた等、強い痒みを伴う膨疹(例えば蕁麻疹の形)、座瘡、斑(例えば、疥、乾癬)、潰瘍、せつ腫、癰、バグダッドボイル(皮膚リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア)、眼瞼腫脹を含む。結膜は、種々の生物系害毒物、例えばウイルス、細菌、植物性害毒物、花粉またはアレルゲン(第1表を参照)によって炎症性変化し得る。結膜へのアレルギー疾患の1つは、アレルギー性鼻結膜炎である。
【0066】
特に、乾癬、皮膚炎およびアトピー性皮膚炎、ならびにバリア障害を伴う類似の皮膚疾患の場合には、上皮組織は、特に初期段階において、とりわけ下方調節されたクローディン発現に基づいて選択的透過性バリアの減少を示す。
【0067】
上述の疾患は、同様に、業務上疾患として、職場での生物系害毒物(第1表)による高められた負荷および/または人間の高められた感受性により起こり得る。
【0068】
式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記少なくとも1種の生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物は、外側上皮組織、特に表皮、好ましくは皮膚の表面上皮、口粘膜の、舌粘膜、鼻粘膜、目の角膜または結膜の多層上皮に侵入する。前記生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物の作用によって、選択的透過性バリア、特に密着結合の変化、改変および/または障害により、該害毒物の、少なくとも角質層中への、そして少なくとも部分的に、顆粒層中へのおよび/またはより深い上皮層中への浸透が起こり得る。害毒物の同様の作用は、すべての上皮組織(第2表)に起こり得る。
【0069】
上記の適合溶質または溶質混合物、好ましくはエクトインおよび/またはヒドロキシエクトインは、
(1)寄生虫性、細菌性、ウイルス性、および/または菌類(第1表)により引き起こされる感染症を含む感染症。そのような感染症は、特に外側上皮組織の感染症、例えば、紅色陰癬、伝染性膿痂疹(疱疹)、口唇ヘルペス、蜂窩織炎、せつ腫、皮膚結核および足部白癬(足白癬)、移行上皮組織、例えば感染性副鼻腔炎、感染性歯肉感染症、細菌性歯周炎を含む上気道および口腔の感染症、感染性気管支炎、細気管支炎、および/または肺胞炎を含む上部上組織の感染症、例えば気道感染症を含む;
(2)非感染性害毒物(抗原またはアレルゲン)(第1表)に対する炎症の症候を伴う身体の免疫反応を引き起こす、外側上皮組織のアレルギー、例えば蕁麻疹、接触湿疹、神経皮膚炎およびアレルギー性結膜炎を含むアレルギー、移行上皮組織のアレルギー、例えばアレルギー性鼻炎、アレルギー性鼻症および副鼻腔炎、内側上皮組織のアレルギー、例えば気管支喘息;
(3)環境の害毒物(第1表)、例えば高温、極冷、低い空気湿分および/または風により引き起こされる、乾燥した、かさかさした、および/またはひび割れした外側上皮組織、例えば皮膚、目の角膜および/または結膜、裂けた口角、ひび割れした唇および日焼け、乾燥した移行上皮組織、例えば乾燥した鼻の粘膜を含む機械的病変。上皮組織のそのような機械的な一次的障害は、既に患部の上皮組織のバリア機能の損傷を引き起こすことがあり、そしてさらなる生物系の好ましくはペプチドを基礎とする害毒物(第1表、a)、b)、c)、d)および/またはe))による二次的損傷をもたらすことがある;
を含む、少なくとも1種の生物系害毒物(第1表)により引き起こされる上皮組織(第2表)の疾患の予防または治療において使用するために特に適している。
【0070】
本発明の範囲における上皮組織のバリア機能の一次的損傷および/または障害は、まず最初に起こり、表現型として必ずしも認められるものではなく、かつ病的ではないものである。そのようなバリア欠陥の予防または治療のためには、場合により化粧品または医療製品が適している。そのような一次的バリア欠陥から、上皮組織のバリア機能の二次的な損傷および/または障害が生じ得る。本発明の範囲における二次的なバリア欠陥は、一次的バリア欠陥に続いて起こり、表現型として明らかに認識でき、特徴付けることができるバリア欠陥のさらなる障害をもたらすものである。それには、しばしば、環境の害毒物により上記の群(3)による機械的病変を生じ、引き続き感染性害毒物(上記群(1)を参照)により感染症が引き起こされるか、または非感染性害毒物(上記群(2)を参照)によりアレルギーが引き起こされる場合が当てはまる。しばしば、二次的バリア欠陥は、病的であり、医療製品または医薬品で治療せねばならない。本発明の範囲においては、二次的バリア欠陥は、一次的バリア欠陥がなくても生ずることがある。それぞれで起こる症状および表現型の様相は既に先に記載した。上述の群については、相応して少なくとも1種の適合溶質、溶質混合物および/または組成物、ならびに濃度の以下に記載される有利な実施形態が当てはまる。
【0071】
本発明による一実施形態においては、前記少なくとも1種の適合溶質または溶質混合物は、S-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトイン、そしてS-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトインの生理学的に認容性の塩、上述の化合物のアミドおよびエステル、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物から選択される。
【0072】
適合溶質または上述の定義の前記化合物の少なくとも2種を含む溶質混合が有利であり、その際、その少なくとも1種の化合物は、S-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトイン、そしてS-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトインの生理学的に認容性の塩、上述の化合物のアミドおよびエステル、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物から選択される。CIP則によるS-エナンチオマーは、フィッシャー投影によるL-エナンチオマーに相当し、CIP則によるR-エナンチオマーは、フィッシャー投影によるD-エナンチオマーに相当する。少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療において使用するための式Iおよび式IIの特に有利な化合物は上述の溶質である。
【0073】
生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療において使用するための本発明による溶質または溶質混合物の好ましい一実施形態においては、該少なくとも1種の適合溶質は、90%以上、好ましくは95%以上、97%以上、99%以上、特に有利には100%の純度を有するエナンチオマー純粋形で存在する。溶質混合物に関しては、それは、2種の化合物の混合物であって、それぞれの化合物をエナンチオマー純粋形で有し、好ましくは選択された化合物のその異性体による混在を有さない混合物を意味する。本発明による溶質または溶質混合物のエナンチオマー純粋形は、特に有利にはS-異性体および/または(S,S)-異性体を有する。
【0074】
本発明による溶質の有利な形は、S(L)-エクトイン、R(D)-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトインおよび(R,R)-ヒドロキシエクトインならびに上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物である。
【0075】
有利なエナンチオマー純粋な溶質混合物においては、S-エクトインおよび(S,S)-ヒドロキシエクトインは、それぞれ90%以上、95%以上、好ましくは97%以上、99%以上、特に有利には100%の純度で存在する。したがって、この溶質混合物は、有利にはそれぞれ10%以下の、5%以下の、好ましくは3%以下の、1%以下の、特に有利には0%のR-エクトインまたは(R,S)-/(S,R)-もしくは(R,R)-ヒドロキシエクトインを有する。
【0076】
本発明の特定の一実施形態においては、以下のラセミ体が有利である:
- S-エクトインおよびR-エクトイン、
- (S,S)-および(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-および(R,R)-ヒドロキシエクトイン、または
- S-ホモエクトインおよびR-ホモエクトイン。
【0077】
本発明による溶質混合物は、式Iおよび/もしくは式IIの少なくとも2種の化合物、ならびに/またはそれらのそれぞれのエナンチオマーを含む。生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療において使用するための上記の本発明による溶質混合物は、100質量%の全含量での溶質混合物中のすべての化合物の合計に対して、
- 50質量%以上で100質量%以下の割合のS-エクトイン、および50質量%以上で100質量%以下の割合の(S,S)-ヒドロキシエクトインを含み、有利には
- 75質量%以上、好ましくは85質量%以上で95質量%以下の割合のS-エクトイン、および5質量%以上で25質量%以下、好ましくは15質量%以下の割合の(S,S)-ヒドロキシエクトインを含む。
【0078】
本発明による溶質混合物の特定の一実施形態においては、
- S-エクトインの割合は、70質量%以下、好ましくは65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下、特に有利には50質量%以下であり、かつ
- (S,S)-ヒドロキシエクトインの割合は、30質量%以上、好ましくは35質量%以上、40質量%以上、45質量%以上、特に有利には50質量%以上である。
【0079】
一実施形態においては、前記溶質混合物は、式Iおよび/または式IIの2種の化合物からなる混合物であって、それぞれ60質量%以上の1つ目の化合物と、40質量%以下の2つ目の化合物の含量を有する混合物を含む。有利には、前記溶質混合物は、60質量%以上、特に有利には70質量%以上のS-エクトインと、40質量%以下、特に有利には30質量%以下の(S,S)-ヒドロキシエクトインとを含有する。特定の一実施形態においては、前記溶質混合物は、式Iおよび/または式IIの2種の化合物からなる混合物であって、50質量%のS-エクトインと、50質量%の(S,S)-ヒドロキシエクトインの含量を有する混合物を含む。
【0080】
生物系害毒物(第1表)と関連する上皮組織(第2表)のバリア欠陥の予防または治療における本発明による使用の特定の一実施形態においては、前記式Iおよび/もしくは式IIの少なくとも1種の溶質、または前記式Iおよび/もしくは式IIの少なくとも2種の溶質を含有する溶質混合物は、生物系であり、それゆえ生物学的起源である。
【0081】
本発明の範囲における「生物系」または「生物学的起源」とは、式Iおよび/または式IIの化合物が、生物によりまたは生物中で産生されることを意味する。有利には、前記生物は微生物であり、特に有利には、前記微生物は、エクトチオロドスピラ・ハロクロリス(Ectothiorhodospira halochloris)、ハロモナス・エロンガータ(Halomonas elongata)、マリノコッカス・ハロフィルス(Marinococcus halophilus)、ブレビバクテリウム・リネンス(Brevibacterium linens)、ハロモナスSPC1、ボルカニエラ・ユーリハリナ(Volcaniella eurihalina)、デレヤ・サリナ(Deleya Salina)、バシラス・パントテンティクス(Bacillus pantothenticus)、バシラス・ハロフィルス(Bacillus halophilus)、ビブリオ・コスティコラ(Vibrio costicola)およびストレプトマイセス・パルブルスト(Streptomyces parvulust)を含む好塩基性細菌である。本発明の範囲においては、前記式Iおよび/もしくは式IIの生物系溶質、または既に記載した溶質混合物、好ましくはS-/R-エクトインおよび/または(S,S)-/(S、R)-/(R,S)-/(R,R)-ヒドロキシエクトインは、ハロモナス・エロンガータ、ブレビバクテリウム・リネンス(lines)またはマリノコッカス・ハロフィルスにおいて産生され、これらの細菌から得られる。
【0082】
生物工学的に改変された生物において、好ましくは制限されるものではないが、上述の菌株を含む組換え微生物中で産生される、式Iまたは式IIの化合物、ならびにS-エクトインおよび(S,S)-/(S,R)-/(R,S)-/(R,R)-ヒドロキシエクトインを含む溶質混合物は、同様に生物系であるか、または生物学的起源である。それというのも、上述の化合物は、生物学的細胞の装備により産生され、合成的なものではなく、化学研究室中の生物体は併用されないからである。上記の生物の1つの外部で合成により製造される同じ構造を有する式Iまたは式IIの化合物は、生物系溶質という定義に該当しない。
【0083】
本発明のさらなる主題は、少なくとも1種の生物系の、好ましくはペプチドを基礎とする害毒物(第1表)と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1種の上皮組織における、好ましくは少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療において使用するための、少なくとも1種の適合溶質、特に上記の種類の適合溶質、または少なくとも2種の適合溶質を含む溶質混合物を含む医薬組成物である。その場合に、前記適合溶質または溶質混合物は、式Iの化合物、式IIの化合物、式Iおよび式IIの生理学的に認容性の塩、式I、式IIの化合物の立体異性形、ならびに前記立体異性形の生理学的に認容性の塩、または上述の化合物の少なくとも2種からなる混合物から選択される少なくとも1種の化合物を含む。式Iおよび式IIならびにそれらの基R1、R2、R3、R4およびR5ならびにnおよびアルキルの定義は、既に先に定義されている。前記定義、ならびに有利な基、有利な化合物および組み合わせは、相応して前記組成物について当てはまる。特に有利には、S(L)-エクトイン、R(D)-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトインおよび/または(R,R)-ヒドロキシエクトインである。
【0084】
上述の組成物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、上記少なくとも1種の適合溶質、好ましくはエクトインおよび/もしくはヒドロキシエクトイン、または前記溶質混合物は、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して、0.0001質量%以上で50質量%以下の割合で存在する。
【0085】
有利な組成物は、前記少なくとも1種の適合溶質または前記溶質混合物、好ましくはS(L)-エクトイン、R(D)-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトインおよび/または(R,R)-ヒドロキシエクトインを、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して、0.0001質量%以上で50質量%以下の割合で含有する。特に有利には、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.1質量%以上、特に有利には1.0質量%以上で、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、特に有利には10質量%以下の範囲である。
【0086】
上述の組成物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記少なくとも1種の適合溶質または前記溶質混合物、好ましくはS(L)-エクトイン、R(D)-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトインおよび/または(R,R)-ヒドロキシエクトインは、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して0.0001質量%以上で10質量%以下の割合で存在する。
【0087】
特に有利な本発明による組成物においては、前記少なくとも1種の適合溶質または前記溶質混合物は、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して0.0001質量%以上で10質量%以下の、好ましくは0.001質量%以上で8質量%以下の、好ましくは6質量%以下の、特に有利には5質量%以下の割合で存在する。
【0088】
有利には、本発明による組成物は、S-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトイン、そしてS-エクトイン、R-エクトイン、(S,S)-ヒドロキシエクトイン、(S,R)-ヒドロキシエクトイン、(R,S)-ヒドロキシエクトイン、(R,R)-ヒドロキシエクトイン、およびS-ホモエクトインの生理学的に認容性の塩、上述の化合物のアミドおよびエステル、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物から選択される式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の化合物を含む。特に有利には、上述の適合溶質または溶質混合物の少なくとも1つは、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して0.0001質量%以上で10質量%以下の割合で存在する。
【0089】
特にそれぞれ、少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療において使用するための、上述の組成物および/または本発明による溶質もしくは溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記溶質、溶質混合物、および/または組成物は、医薬品、医療製品、化粧品として、上述の物品の1つへの添加剤として、および/または好ましくはインビトロ診断製品(IVD)の成分として存在する。前記溶質または溶質混合物は、存在する処方および/または存在する医薬品の配合物へと、上皮組織のバリア機能に対する該溶質の安定化作用、保護作用(予防)作用および/または促進(治療)作用を加えるために混加することができる。
【0090】
それぞれ少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療において使用するための、上述の組成物および/または本発明による溶質もしくは溶質混合物の本発明による使用のさらなる一実施形態においては、前記溶質、溶質混合物、および/または組成物は、
i)粉剤、凍結乾燥物、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、糖剤、カプセル剤、発泡錠剤、パウダー剤および石鹸を含む固体形、
ii)液剤、注射剤、注入剤、チンキ剤、点滴液、懸濁液剤、エマルジョン剤、ゲル剤、フォーム剤およびクリーム剤を含む液体形、ならびに/または
iii)スプレー剤、エアロゾル剤、軟膏剤、ペースト剤およびカプセル剤を含む混合物、特に半固体形
から選択される固体形もしくは液体形で、または混合物として存在する。
【0091】
有利には、これらの形態は、好ましくは式Iおよび/または式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを、特に有利には、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して0.0001質量%以上で10質量%以下の割合で含有する。
【0092】
本発明による組成物の服用による胃腸管を介した吸収のための、好ましくは少なくとも1つのバリア欠陥を含む胃粘膜および/または腸粘膜の内側上皮組織の疾患の予防または治療において使用するための経口投与のために、
i)粉剤、特に飲料または水との混合後の粉剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、糖剤および発泡錠剤を含む固体形、
ii)液剤、点滴液、チンキ剤、シロップ剤、ジュース剤およびオイル剤を含む液体形
が、特に有利である。
【0093】
液体製剤、好ましくは液剤、チンキ剤、リンス剤、うがい液および点滴液、ならびに/または混合物、例えばスプレー剤は、有利には、それぞれ少なくとも1つのバリア欠陥を含む口腔、鼻腔、咽喉および口蓋の移行上皮組織の疾患の予防または治療において用いるために使用される。
【0094】
それぞれ少なくとも1つのバリア欠陥を含む皮膚、上皮、唇および外耳の外側上皮組織の疾患の予防または治療において使用するために、有利には、固体形、例えば粉剤、パウダー剤、石鹸または混合物、例えば軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ハイドロゲル剤が使用される。
【0095】
本発明によるどの組成物も、選択される製剤において、先行技術から公知の助剤を含有してよい。助剤は、担体、保存剤、酸化防止剤、安定化剤、溶解助剤、ビタミン、着色剤、矯臭剤を含む。
【0096】
担体、特に化粧品製剤および/または医療製品のための担体は、動物性脂肪および植物性脂肪、蝋、パラフィン、デンプン、トラガント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛または上述の物質の少なくとも2種からなる混合物を含む。上述の担体は、式Iまたは式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤のために特に適している。
【0097】
式Iまたは式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有するパウダー剤またはスプレー剤のための担体は、乳糖、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末または上述の物質の少なくとも2種からなる混合物を含む。スプレー剤は、さらに、通常の噴射剤、例えばクロロフルオロ炭化水素、プロパン/ブタンまたはジメチルエーテルを含有してよい。
【0098】
式Iまたは式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する液剤およびエマルジョン剤は、通常の担体、例えば溶剤、溶解助剤および乳化剤、例えば水、エタノール、イソプロパノール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコール、油類、特に綿実油、落花生油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ひまし油およびゴマ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、または上述の物質の少なくとも2種からなる混合物を含んでよい。
【0099】
式Iまたは式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する懸濁液剤は、通常の担体、例えば液体希釈剤、例えば水、エタノールまたはプロピレングリコール、懸濁剤、例えばエトキシル化されたイソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールエステルおよびポリオキシエチレンソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、およびトラガント、または上述の物質の少なくとも2種からなる混合物を含む。
【0100】
担体、例えば脂肪酸のアルカリ金属塩、脂肪酸半エステルの塩、脂肪酸タンパク質加水分解物、イソチオン酸塩、ラノリン、脂肪アルコール、植物油、植物抽出物、グリセリン、糖または上述の物質の少なくとも2種からなる混合物を含有し得る、式Iまたは式IIの少なくとも1種の溶質、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する石鹸およびローション剤は、毎日の使用のために特に適している。それぞれの製剤のためのさらなる適切な助剤は、当業者に公知である。
【0101】
少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療、特に少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療のために、
a)リップスティック、リップクリーム、パウダー剤、日焼け止めローション、ボディーローションから選択される混合物を含む化粧品製剤、
b)好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する、固体形または液体形における医薬組成物(医薬品)、医療製品またはIVD
が使用され、その際、製剤は、
i)粉剤、錠剤、顆粒剤、被覆錠剤、糖剤、カプセル剤、発泡錠剤、パウダー剤および石鹸を含む固体形、
ii)液剤、注射剤、注入剤、チンキ剤、点滴液、懸濁液剤、シロップ剤、ジュース剤、エマルジョン剤、ゲル剤、フォーム剤、クリーム剤、ローション剤、界面活性剤含有の洗浄調剤、オイル剤を含む液体形、ならびに/または
iii)スプレー剤、エアロゾル剤、吸入剤、軟膏剤、ペースト剤、ゲル剤およびハイドロゲル剤を含む混合物
から選択される。
【0102】
少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防または治療のための、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する、有利な本発明による製剤、特に医療製品は、皮膚表面上、眼の表面、口粘膜および鼻粘膜上に局所投与するために適した製剤である。これらの製剤は、特に有利にはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを、前記組成物中に、その組成物の全含量に対して、0.0001質量%以上で10質量%以下の割合で含有する。
【0103】
本発明の範囲における医療製品は、医学療法の目的のための人間の予防または治療において使用するための、式Iもしくは式IIの少なくとも1種の溶質、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する、本明細書に記載される製剤である。有利には、本発明による医療製品は、ガイドライン93/42/EWG、および/またはアメリカ合衆国における相応の指令の定義および要求を満たす。
【0104】
本発明の範囲におけるインビトロ診断製品(IVD)は、式Iもしくは式IIの少なくとも1種の溶質、または上述の化合物の少なくとも2種からなる溶質混合物を添加剤(成分と同義)として含み、そして好ましくはガイドライン98/79/EGおよび/またはアメリカ合衆国における指令「U.S.gouvernement regulations Title 21:Food and Drugs PART 809 - IN VITRO DIAGNOSTIC PRODUCTS FOR HUMAN USE Subpart A - §809.3 Definitions」の定義および要求を満たす。
【0105】
上皮組織における少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療のための、固体形または液体形における医療製品および医薬製剤の組成物のための有利な助剤は、ラクトース、サッカロース、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン、ゼラチン、トラガント、ペクチン、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ドデシル硫酸ナトリウム、セチルステアリル硫酸ナトリウム、およびジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(K塩、Ca塩も)を含む。
【0106】
本発明による液剤および懸濁液剤のための有利な助剤は、デキストロース、マンニトール、トラガント、ペクチン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ドデシル硫酸ナトリウム、セチルステアリル硫酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(K塩、Ca塩も)を含み、特に懸濁液剤のためにはセルロースも含む。
【0107】
本発明の範囲における半固体形または混合物は、有利には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ドデシル硫酸ナトリウム、セチルステアリル硫酸ナトリウム、およびペクチンを含む。
【0108】
少なくとも1種の生物系害毒物と関連する上皮組織におけるバリア欠陥の予防または治療のための、式Iもしくは式IIの本発明による溶質、または上述の溶質の少なくとも2種からなる溶質混合物、好ましくはS-エクトインおよび/または(S,S)-ヒドロキシエクトインを含有する医療製品および/または医薬品の有利な組成物は、患部の上皮表面に塗擦するための、塗布するための、揉み込むための、吹き付けるための、および/または貼るための製剤を含む。そのような物品は、鼻用スプレー、点鼻薬、鼻用バルサム、点眼薬、人工涙液(ドライアイ)、コンタクトレンズ、眼帯(当てるもの)、点眼ゲル、マウスウォッシュ、口腔用スプレー、歯肉用ゲル、点耳薬、液剤、リンス剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ペースト剤、スプレー剤、ゲル剤、エアロゾル剤、エマルジョン剤(油中水、水中油)、ハイドロゲル剤、リポソーム剤、微粒状カプセル、蒸気浴用濃縮物を含む。特に有利なものは、外側上皮組織および/または移行上皮組織の少なくとも1つのバリア欠陥を含む疾患の予防または治療のための皮膚用物品である。上記の有利な特徴の組み合わせは、相応して上述の物品について当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1図1は、経上皮電気抵抗(TEER)の測定のための試験構成を示す。細胞培地(2)が入った試験容器(1)中に、透過性のThinCerts膜(孔径0.4μm)を有するインサート(3)が配置されている。その膜上には、細胞培養の単層細胞層(4)が存在し、その細胞を伴う膜は細胞培地で覆われている。その単層細胞層(4)は、2つの電極E1およびE2の間に配置されており、その際、規定された強さ(U)の直流(DC)が電極E1およびE2の間に印加されるので、掛けられた直流(DC)は細胞中を通って流れる。
図2図2は、50mMのエクトイン、0.01%のレシチンまたはPBSと一緒に12時間(h)にわたりインキュベートした後の、口粘膜細胞の上皮細胞(TR146)のTEER値[オーム]を示す。
図3図3は、50mMのエクトイン、0.01%のレシチンまたはPBSと一緒に一晩にわたりインキュベートし、引き続き0.005%のSDSで処理した後の、口粘膜細胞の上皮細胞(TR146)のTEER値[オーム]を示す。
図4図4は、50mMのエクトイン、0.01%のレシチンまたはPBSと一緒に一晩にわたりインキュベートし、引き続き0.001%のBAKで処理した後の、ブタ由来の腎臓上皮細胞(LLC-PK1)のTEER値[オーム]を示す。
図5図5は、50mMもしくは100mMのエクトインまたはPBSと一緒に一晩にわたりインキュベートし、引き続き室温(RT)で5分間にわたり乾燥させた後の、ヒトケラチノサイト(HaCat)のTEER値[オーム]を示す。
図6図6は、アレルギー予防アッセイ(APA)のための試験構成を示す。孔径0.4μmを有する透過性のThinCerts膜(3)を有するインサート(1)が、外側液溜(5)中に細胞培養培地が入った試験容器(6)中に配置されている。その膜(3)上に、集密な単層上皮細胞層(2)が存在する。上記インサートは、内側液溜(7)を細胞層(3)上で仕切っている。アレルゲン(5)は、例えばOVAである。
【0110】
以下の実施例は、種々の上皮組織に対するエクトインの影響、および上皮細胞または上皮組織のバリア機能に対するエクトインの影響を示している。エクトインは、生物系害毒物と関連する上皮組織のバリア欠陥の予防および治療において有効であることが示される。エクトインは、構造的に上皮組織に作用する。
【0111】
実施例
上皮組織のバリア機能についての理論的背景
拡散バリアまたは膜完全性は、細胞間結合を有する上皮細胞および内皮細胞によって特徴付けられている。これらの細胞間結合は、細胞の頂端(内腔)側と側底(基底)側とを分離し、その複雑な形状により頂端(内腔)側および側底(内腔と反対側)側の区画間の傍細胞性通過だけでなく、細胞内輸送路を介した通過のための多数の分子に関する拡散バリアを形成する。
【0112】
この拡散バリアは、隣接する細胞同士を互いに結合する、いわゆる密着結合(細胞間結合)により保証される(Abbott NJ,Ronnback L,Hansson E(2006)Astrocyte-endothelial interactions at the blood-brain barrier.Nat Rev Neurosci,7:41-53)。密着結合は、複雑な構造を有し、内在性膜タンパク質(クローディン、オクルディンおよび接合部接着分子「JAM」)および表在性膜タンパク質を含む多くの成分からなる。クローディンタンパク質ファミリーは、これまでに、異なる細胞型の24種類の記載された構成員を含む。そのうち21種類は、腎臓、肝臓、脳および腸組織の上皮膜における密着結合の成分として知られている。クローディンは、個々の密着結合においてホモタイプおよびヘテロタイプの配置で見られ、2種類の主要カテゴリーに分けることができる:バリア型(「細孔封鎖」)およびチャネル型(「細孔形成」)クローディン。クローディン1、クローディン3、クローディン4、クローディン5、クローディン7およびクローディン19は、バリア型(「細孔封鎖」)クローディンとして知られている。バリア型クローディンの高められた発現は、上皮組織の密度の上昇をもたらし、経上皮電気抵抗(TEER)の増大、そして上皮組織の透過性の減少をもたらす(Khan N,Asif,AR(2015)Transcriptional Regulators of Claudins in Epithelial Tight Junctions.Mediators Inflamm,Volume 2015,Article ID 219843,doi:10.1155/2015/219843)。この体系に基づき、上皮組織に対するエクトインの効果の実証のための試験を実施した。
【0113】
上皮細胞または内皮細胞のインタクトな拡散バリアまたは完全性の測定は、種々の様式で測定することができる。OECDガイダンスドキュメント28は、例えば、図1に示されるような経上皮電気抵抗(TEER)による測定を推奨している。
【0114】
幾つかの化合物、例えばヒドロコルチゾンまたはリン脂質のレシチンを、細胞培養または上皮細胞に添加することで、膜完全性は高められる。これは、高められた電気抵抗(TEER)に基づき[オーム]で測定することができる。それに対して、密着結合を弱めることにより、膜完全性を低下させる多くの化合物が存在する(Wegener J,Abrams D,Willenbrink W,Galla HJ,Janshoff A(2004)Automated multi-well device to measure transepithelial electrical resistance Under physiological conditions.Biotechniques,37:590)。
【0115】
材料
細胞培養培地:
- MEM培地(PAN-Biotech社)
- DMEM培地(高グルコース)(PAN-Biotech社)
- HAMS-F12(PAN-Biotech社)
- 培地199(PAN-Biotech社)。
【0116】
第3表: 使用される化学薬品および細胞培養
【表3】
【0117】
実施例1: 上皮組織の経上皮電気抵抗(TEER)に対する適合溶質の影響
1.1 方法
試験構成は、図1に示されている。TEERの測定のために、規定された強さ(U)の直流(DC)が、2つの電極E1およびE2の間に印加され、その際、それらの2つの電極の間に単層の細胞層(単層)が配置されているので(図1)、加えられた直流(DC)は細胞中を通って流れる。TEERの測定は、上皮電圧計(EVOM2)を用いて行われる。生ずる電流Iは、オーム抵抗Rに従って、R=U/Iにより測定される(Benson K,Cramer S,Galla HJ(2013)Impedance-based cell monitoring:Barrier properties and beyond.FluidsBarriers,10:5.)。
【0118】
経上皮電気抵抗[オーム]の減少は、上皮細胞の欠陥のあるバリア機能を示し、したがってより低い膜完全性を示唆している。このように、未処理の上皮細胞(PBS)および処理後の上皮細胞(SDS、BAK、空気乾燥、それぞれエクトイン有りと無しで)の間の比較において、ストレスの損傷的影響についての情報、および本発明の範囲における適合溶質の保護作用が示され得る。
【0119】
この目的のために、インビトロ試験において、上皮細胞を、膜(ThinCerts膜、孔径0.4μm)を有する特別な細胞培養担体上に撒き、その膜上で、集密な単層の細胞層(上皮単層と同義)になるまで培養した(図1)。
【0120】
インタクトな上皮単層を、それぞれTEER測定によるコントロールとした。2日にわたりTEERの上昇が測定されなかった場合に、その上皮細胞は、インタクトな上皮バリア(選択的透過性バリア)を有するインタクトな上皮単層を形成した。
【0121】
エクトインのバリア機能、特に膜完全性に対する効果を測定するために、インタクトな上皮単層のTR146細胞を、12時間(h)にわたり細胞培養培地中で、PBS(コントロール)、50mMのエクトイン、および0.1%のレシチン(ポジティブコントロール)と一緒にインキュベートした。インキュベート直後に、図2に示されるようにTEERが測定された。
【0122】
引き続き、化学薬品の影響下でのエクトインの膜安定性に対する効果を試験するために、口粘膜の上皮細胞のインタクトな上皮単層(TR146)を、一晩にわたり細胞培養培地中で、PBS(コントロール)、50mMのエクトイン、および0.1%のレシチン(ポジティブコントロール)と一緒にインキュベートした。引き続き、0.005%のSDSでのストレス処理を行い、経上皮電気抵抗[オーム]の変化を1時間毎に監視した(図3)。
【0123】
さらに、ブタ由来の腎臓上皮細胞のインタクトな上皮単層(LLC-PK1)を、同様に一晩にわたり細胞培養培地中で、PBS(コントロール)、50mMのエクトイン、および0.1%のレシチン(ポジティブコントロール)と一緒にインキュベートした。引き続き、0.001%のBAKでのストレス処理を行い、経上皮電気抵抗[オーム]の変化を1時間毎に監視した(図4)。
【0124】
さらなる試験において、ヒトケラチノサイトのインタクトな上皮単層(HaCat)を、同様に一晩にわたり細胞培養培地中で、PBS(コントロール)、50mMのエクトイン、および100mMのエクトインと一緒にインキュベートした。引き続き、滅菌ベンチ下での室温(RT)における5分間にわたる空気乾燥によるストレス処理を行った(図5)。滅菌条件下でのRTにおける空気乾燥後に、それらの細胞に、再びOVAアレルゲン(250μg/ml)を含む培地を重ね、37℃で24時間にわたりインキュベーター中でインキュベートし、引き続きTEER値を測定した。
【0125】
1.2 結果
TEERの測定は、上皮組織のバリアの機能性についての、特に膜完全性および安定性についての情報を得るための1つの直接的な方法である。TEERの低下は、損傷した膜、特に欠陥のあるバリアを直接的に示唆している。SDSおよびBAK等の化学薬品は、膜を破壊することができ、これによりTEER値の低下が示される。この化学薬品の濃度が高すぎる場合に、攻撃された上皮細胞は修復することができず、死滅する。上記のインビトロ試験は、上皮細胞の膜安定性またはバリア機能に対するエクトインの保護効果および安定化効果を、種々の上皮細胞系統のTEER値に基づき実証する。
【0126】
適合溶質、例えばエクトインと一緒にインキュベートした後に、TEER値[オーム]は、それぞれエクトインを有さないコントロール(PBS)のTEER値よりも高かった。さらに、該試験は、界面活性剤および保存剤に対するエクトインの保護効果を示している。
【0127】
図2から、PBSと比較したエクトインの好ましい効果は、損傷していない上皮細胞において既に明らかになっている。PBSにおける上皮の口粘膜細胞TR146が約205オームの小さいTEER値を有する一方で、50mMのエクトインと一緒にインキュベートした後の口粘膜細胞では、215オームの中程度のTEER値が測定される。ポジティブコントロールとしての0.1%のレシチンの場合に、最も高いTEER値は225オームで測定される。したがって、適合溶質、特にエクトインおよびその誘導体は、上皮膜をさらに安定化することが示された。
【0128】
SDS等の膜を破壊する化学薬品の添加は、膜安定性の大幅な低下をもたらし、これは、TEER値の大幅な低下として認識可能である。ここで、0.005%のSDSの添加は、上皮口粘膜細胞TR146の最も激しい損傷と、TEER値の185オームへの最も大きな低下をもたらした。
【0129】
それに対して、エクトインまたはレシチン(ポジティブコントロール)とのインキュベートは、SDSによる損傷を阻止した。上皮細胞は、レシチンの場合に225オームで、かつエクトインの場合に215オームで同等のTEERを示し、またSDSで損傷を受けた細胞(185オーム)と比較しても、インタクトなバリアを検証することができた。したがって、エクトインによって、口粘膜細胞TR146の上皮膜に対する安定化効果が達成された(図3)。特に、エクトインとの事前インキュベートによって、口粘膜の上皮細胞TR146の膜に対するエクトインの予防的な、そしてさらに保護的な効果が実証される。
【0130】
ブタ由来の上皮細胞(LLC-PK1)の0.001%のBAKによる損傷によるインビトロ試験における相応の結果を図4に示した。図3と同様に、上皮細胞LLC-PK1は、エクトインを有さないBAK(PBS)またはレシチン(ポジティブコントロール)により損傷を受ける場合に、TEER[オーム]の最も大きな低下を示し、それにより膜安定性の最も激しい損傷を示す(図5)。それに対して、エクトインの添加によって、上皮細胞LLC-PK1の膜の安定化が既に達成される。
【0131】
さらなるインビトロ試験において、最初に得られたケラチノサイト(HaCat)の上皮単層を、エクトイン無し(PBS)またはエクトイン有り(PBS+エクトイン 50/100mM)でインキュベートし、引き続き空気乾燥によりストレスを与えた。その後に、乾燥されたケラチノサイトの再水和を、PBS、PBS+エクトイン50mM、またはPBS+エクトイン100mMを用いて行った。図5から、乾燥ストレスはPBSでの再水和にもかかわらず、膜安定性の損傷(TEER=約160オーム)をもたらすことが明らかとなる。それと比較して、ケラチノサイトのエクトインと一緒の事前インキュベートによって(TEER=約180オーム)、より良好な膜安定性が得られ、または上皮細胞のバリア機能は修復される。これらの試験は、上皮膜のバリア機能に対する、さらに膜安定性に対するエクトインの予防効果および治療効果を実証する(図5)。
【0132】
すべての試験において、種々の上皮細胞系統、例えば口粘膜のヒト上皮細胞TR146、ブタ由来の上皮細胞LLC-PK1、およびヒトケラチノサイトHaCatについて、それぞれTEERに対するエクトインの安定化効果、したがって同様に上皮膜のバリア機能に対するエクトインの好ましい効果を確認することができた。化学薬品(SDS、BAK)による、そして物理的ストレス(空気)による損傷は、エクトインにより阻止することができた。したがって、それぞれの上皮細胞のエクトインと一緒での事前インキュベートは、エクトインの予防的効果を実証する。さらに、ストレスの影響後のエクトインの添加により、同様に、エクトインによる膜安定性およびバリア機能の修復効果(図5)が実証される。ストレスおよび生物系害毒物(第1表)により損傷を受ける場合に、相応の結果を期待することができる。
【0133】
それにより、本発明の範囲におけるエクトインは、乾燥および/またはアレルゲンによるバリア欠陥の予防のためにも治療のためにも適している(図2図5)。
【0134】
実施例2: 上皮組織のアレルゲンによる透過に対する適合溶質の影響 - アレルギー予防アッセイ(APA)
2.1 方法
試験構成は、図6に示されている。細胞培養容器(6)は、内側液溜(7)および外側液溜(5)を含み、その際、両方の区画は、孔径0.4μmを有する透過性のThinCerts膜(3)により仕切られている。この孔径は、外側液溜および内側液溜の間でのサイトカイン移動およびタンパク質移動を可能にする(図6)。真核細胞は、この膜を通り抜けることができず、したがって単層の集密な細胞層を形成し、その層は膜全体を覆っている。それにより、この試験構成においては、上皮細胞の頂端側(外側液溜)および側底側(インサート内部の内側液溜)を反映する配置が達成される。しかしながら、アレルゲン、例えばオバルブミン(OVA)は、その低い分子量のため膜を難なく通過することができる。
【0135】
集密な上皮細胞層が存在する場合には、OVAはこの膜バリアを、「ギャップ」、密着結合またはトランスサイトーシスを通じてのみ頂端側から側底側へと通過できるにすぎない(Ding L,Zhang Y,Jiang Y,Wang L,Liu B,Liu J(2014)Transport of egg white ACE-Inhibitory peptide, Gln-Ile-Gly-Leu-Phe,in human intestinal Caco-2 cell monolayers with cytoprotective effect.J Agric Food Chem(Epub ahead of print))。
【0136】
2.1.1 乾燥ストレスを伴わない方法
それぞれの細胞系統の細胞(第3表を参照)を、膜(3)(図6)上で、集密な単層の細胞層(2)(上皮単層と同義)が形成されるまで培養した。引き続き、該上皮単層を、エクトイン(10mM、50mM、100mM)で6時間にわたり細胞培養培地中で前処理した。エクトインでの前処理後に、上皮単層を、250μg/mlのアレルゲンOVA(図6)(4)と一緒に一晩にわたりインキュベートした。引き続き、内側液溜および外側液溜におけるOVA含量を、OVA特異的ELISAにより測定し、そして前処理された細胞および処理されていない細胞における、上皮単層のOVAによる相対的透過を測定した。
【0137】
2.1.2 乾燥ストレスを伴う方法
乾燥肌を模倣するために、膜上の上皮単層に5分間にわたり空気乾燥および液体損失によりストレスを与えた。そのために、細胞培養上清を除去し、上皮単層を、新たな12ウェルプレート中で液体が流出し得るように斜めに固定した。乾燥後に、上皮単層を再び細胞培養培地中に移し、エクトインおよびアレルゲンで2.1.1と同様に処理した。
【0138】
2.2 結果
2.2.1 膜のアレルゲンによる透過
上皮単層のインビトロでのアレルゲンOVAによる透過を、それぞれエクトイン前処理を伴って、またはそれを伴わずに、OVA特異的ELISAによって分析した。それぞれ内側液溜(側底側)におけるエクトインでの前処理後に、エクトインで前処理されていない内側液溜よりも明らかにより少量のOVAしか検出されなかったので、エクトイン前処理により、エクトイン前処理を伴わない上皮単層と比較して、それぞれより低いOVAによる上皮単層の透過がもたらされる。それにより、エクトインについて種々の細胞系統において、上皮組織の透過性バリアを安定化する効果が実証された。
【0139】
アレルゲンと接触する種々の身体の部分または器官を代表する5種の異なる細胞系統、例えば口粘膜の上皮細胞(TR146)、鼻粘膜の上皮細胞(RPMI-2650)、気管支上皮細胞(RLE)、目の角膜(SIRC)および表皮(HaCat)を調査した。すべての試験された細胞系統において、エクトインについての上皮組織のバリア機能に対する保護効果を実証することができた(第4表)。
【0140】
第4表では、エクトイン前処理を伴わないPBS中の口粘膜のそれぞれの上皮単層(TR146)のOVAによる透過と比較して、50mMおよび100mMのエクトインでの前処理後に、OVAについての上皮単層の透過性は、40%~60%だけ低いことを伺うことができる。10mMのエクトインの場合に、エクトインの透過性バリアを保護する効果は、口粘膜(TR146)および気管支(RLE)の上皮単層においてのみELISAにおいて有意に測定することができる。その他の上皮細胞系統においては、10mMのエクトインでの6時間にわたる前処理の場合に、未処理の細胞(PBS)と比較して、このELISAによる試験構成において、実証できる有意な安定化効果がより大幅に低いか、または一切無い。
【0141】
明らかな効果は、50mMのエクトインでの上皮単層の前処理の場合に認めることができる。ここで、RLE細胞を除いて、アレルゲンOVAの少なくとも20%から50%の、上皮膜の頂端側から側底側への透過および浸透は、エクトインの作用によって妨げられる(第4表)。それぞれ100mMのエクトインで前処理されたSIRC細胞、HaCat細胞およびRPMI細胞の場合に、同様にアレルゲンOVAの50%まではエクトインの作用によって膜に留められ、そして上皮単層の側底側には到達しない。
【0142】
したがって、エクトインは、膜構造および上皮組織のバリア機能を安定化させ、アレルゲンの透過を食い止めることができると示された。
【0143】
2.2.2 乾燥ストレス後の膜のアレルゲンによる透過
さらなるインビトロ試験において、乾燥された上皮細胞のOVA透過を、2.1.1に従ってELISAにより測定した。エクトインを添加せずに(PBS)HaCat上皮単層を乾燥および再水和した後に、OVAは、側底側(内腔)へと透過し得ることが示された。それに対して、50mMのエクトインでの前処理は、既に膜バリアの修復をもたらすので、50mMのエクトインによって、OVAの透過の阻止が12%だけ達成される。それと比較して、乾燥ストレス無く50mMを用いたHaCat上皮単層の場合に、OVA透過の阻止が55%だけ達成された(第4表)。
【0144】
したがって明らかに、5種の異なる上皮細胞系統において、エクトインが細胞膜を安定化させることが示され得た。皮膚においても口粘膜においても、害毒物による上皮細胞層の透過は、エクトインによって阻止することができた。膜の安定化によって、アレルゲンの透過に対する全細胞層のバリア機能は、強化される。したがって、エクトインは、保護効果を有する。
【0145】
第4表: アレルゲンOVAに対する相対的透過保護
【表4】
【0146】
該試験は明らかに、エクトインに関する予防効果を示している(第4表)。さらに、乾燥肌の場合でさえもバリアが部分的に修復され得たので、治療効果が示された。
【0147】
それにより、本発明の範囲における適合溶質としてのエクトインおよびその誘導体は、上皮組織におけるバリア欠陥、特に少なくとも1種の上皮組織の少なくとも1つの細胞層における少なくとも1つのバリア欠陥を有する疾患の予防において使用するためにも、治療において使用するためにも適している。この試験がここで実施されなかったとしても、人工皮膚モデル(例えば、Phenionモデル、Henkel社)を用いた実験または動物実験において、その結果が確認されることが期待されるべきである。
【0148】
実施例3: 密着結合に対する適合溶質の影響 - クローディン1発現
3.1 方法
HaCat細胞系統を、プラスチック製細胞培養容器中で、集密な単層細胞層(HaCat単層)が形成されるまで培養した。引き続き、該単層を、50mMまたは100mMのエクトインで6時間(h)にわたり細胞培養培地中で前処理した。前処理後に、細胞の温度処理を44℃で30分間にわたり行った。熱ストレス後に、上記単層を、37℃でインキュベーター中で24時間にわたりインキュベートした。引き続き、HaCat単層を採集し、凍結ショック(凍結、解凍、へらでの掻き取り)による溶解後に、その溶解物をクローディン1についてELISAによって分析した。
【0149】
3.2 結果
100mMのエクトインと一緒での24時間のインキュベート後に、ヒトケラチノサイト(HaCat)においてクローディン1の発現の有意な増加が検出された。それと比較して、HaCat細胞は、細胞培養培地(培地)中で、およびエクトインを有さないPBS(PBS)中で24時間にわたりインキュベートした後に、それぞれ3倍だけ低いクローディン1発現を示した。
【0150】
第5表: HaCat上皮単層におけるクローディン1発現
【表5】
【0151】
したがって、エクトインは、熱ストレス後に、増強されたクローディン1の発現を誘導する。クローディン1の高められた発現とTEERの増大とが相関することを予想することができ、これは、乾燥ストレス後のHaCat細胞のバリア機能の強化を実証する。
【0152】
ここでの結果は、適合溶質、例えばエクトインおよびその誘導体が細胞膜を安定化し、それによりそれぞれの上皮細胞、特に上皮組織のバリア機能を強化することを示している。したがって、ここでの結果は、エクトインが、生物系害毒物(第1表)、例えばトキシンおよびアレルゲンの侵入を阻止することを示している。
【符号の説明】
【0153】
図1の1 試験容器、 図1の2 細胞培地、 図1の3 インサート、 図1の4 単層細胞層、 図1のE1、E2 電極、 図6の1 インサート、 図6の2 単層上皮細胞層 、 図6の3 膜、 図6の4 アレルゲンOVA、 図6の5 外側液溜、 図6の6 試験容器、 図6の7 内側液溜
図1
図2
図3
図4
図5
図6