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特許7311267急性肝不全及び他の肝毒性状態を治療及び/又はこれらから保護するための方法及び製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】急性肝不全及び他の肝毒性状態を治療及び/又はこれらから保護するための方法及び製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/32 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K33/32
A61K31/167
A61K31/198
A61P1/16
A61P43/00 121
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018555315
(86)(22)【出願日】2017-01-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-17
(86)【国際出願番号】 IB2017050115
(87)【国際公開番号】W WO2017122120
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/277,232
(32)【優先日】2016-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/361,605
(32)【優先日】2016-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510164430
【氏名又は名称】エゲティス・セラピューティクス・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ネストレム,ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブソン,スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリクセン,デニス
(72)【発明者】
【氏名】ファン アルスチン,ジェームス
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】磯部 洋一郎
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-504066(JP,A)
【文献】特表2012-532189(JP,A)
【文献】特表2005-508840(JP,A)
【文献】特表2010-513229(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0070607(US,A1)
【文献】特表2008-538586(JP,A)
【文献】特表2010-507572(JP,A)
【文献】British Journal of Clinical Pharmacology, 2015年, Vol.80, No.3, pp.351-362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/REGISTRY/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体におけるアセトアミノフェン過剰摂取により誘発された急性肝不全を治療及び/又はこれから保護するための医薬であって、
(a)N-アセチルシステイン(NAC)を含む第一の活性剤の約10乃至300mg/kg体重の用量、及び
(b)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP)のカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩を含む第二の活性剤の約0.1乃至25mg/kg体重の用量を含み、
前記医薬は、アセトアミノフェンの過剰摂取から8時間以上経過した時点で、前記第一の活性剤および前記第二の活性剤を投与することにより、急性肝不全を治療及び/又はこれから保護するためのものである医薬。
【請求項2】
前記第二の活性剤に対する前記第一の活性剤の質量比は、300:1、250:1、200:1又は150:1から1:1まで、100:1から1:1まで、50:1から1:1まで、又は、20:1から1:1までの範囲内である請求項1記載の医薬。
【請求項3】
前記第一の活性剤及び前記第二の活性剤は、前記個体に対する実質的に同時の投与のために処方される請求項1又は2記載の医薬。
【請求項4】
前記第一の活性剤及び前記第二の活性剤は、単一製剤での投与のために処方される請求項3記載の医薬。
【請求項5】
前記製剤は、前記第一の活性剤及び前記第二の活性剤の溶液又は分散体である請求項4記載の医薬。
【請求項6】
前記製剤は、凍結乾燥製剤を含む請求項4記載の医薬。
【請求項7】
前記第一の活性剤及び前記第二の活性剤の実質的に同時の投与に続く、投与のために処
方された第二の活性剤の追加用量を更に含む請求項3記載の医薬。
【請求項8】
前記第一の活性剤及び前記第二の活性剤は、前記個体に対する逐次的な投与のために処方される請求項1又は2記載の医薬。
【請求項9】
前記第二の活性剤は、前記第一の活性剤の投与に続く前記個体に対する投与のために処方される請求項8記載の医薬。
【請求項10】
前記第二の活性剤は、前記第一の活性剤の投与の前の前記個体に対する投与のために処方される請求項8記載の医薬。
【請求項11】
肝細胞死に至る酸化ストレスの可能性を減少する治療の必要性が決定される個体を治療するための請求項1乃至10の何れか1項に記載の医薬。
【請求項12】
アセトアミノフェン過剰摂取により誘発された急性肝不全を発症するリスクを示す個体における少なくとも1種のバイオマーカーのレベルを決定することにより治療の必要性が決定される個体を治療するための請求項11記載の医薬。
【請求項13】
前記第二の活性剤が、カルマンガホジピル、又はその薬学的に許容される塩を含む請求項1乃至12の何れか1項に記載の医薬。
【請求項14】
前記第二の活性剤が、カルマンガホジピル、又はその薬学的に許容される塩を含み、前記第二の活性剤が約0.1乃至10mg/kg体重の用量である請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性肝不全及び他の肝毒性状態並びに関連する腎障害を治療及び/又はこれらから保護するための方法及び製剤を対象とする。該方法及び製剤は、個体中の機能性グルタチオン(GSH)の損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤であって、その一例はN-アセチルシステイン(NAC)である剤、及び、特定の群から選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤であって、その例は、カルシウム及びマンガンの混合金属錯体、カルマンガホジピル(calmangafodipir)、又はその塩である剤を使用する。
【背景技術】
【0002】
北アメリカではアセトアミノフェンとしても知られ、また、APAPと略記されるパラセタモールは、過剰摂取時に急性肝不全(ALF)を誘発することが知られている。それは、世界で最も一般的に使用される医薬品の一つであり、そして、しばしば医師の処方箋なしで入手可能である。アセトアミノフェン誘発ALFは、機能性の還元型グルタチオン(GSH)の枯渇に関連する大量の肝細胞死によって特徴づけられる。GSHは、インビボにおける重要な抗酸化剤であり、活性酸素種によって引き起こされる重要な細胞成分への損傷を防ぐために、酵素系と相互作用する。細胞内の酸化型グルタチオン(GS)に対する還元型グルタチオンの比は、細胞の酸化ストレスの程度を示すために使用され得る。具体的には、アセトアミノフェンは、機能性グルタチオンと結合し得る反応性物質、N-アセチル-p-ベンゾキノン(NAPQI)を生成する。機能性グルタチオンの枯渇は、増強された酸化ストレス、ミトコンドリアの機能停止及び機能障害、及び細胞死を誘導する、例えば、Hodgman及びGarrard,Crit.Care Clin.,28巻:499-516頁(2012年),Jaeschke等,Drug.Metab.Review,44巻:88-106頁(2012年)。
【0003】
アセトアミノフェン誘発肝細胞障害は、典型的には、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(欧州におけるASAT又は米国におけるAST)又はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAΤ/ΑLΤ)のような肝臓細胞内酵素の血清内への放出(即ち、血清活性)によって証明される。ALFの患者及びALFの発症が危惧される過剰摂取の患者は、しばしば、血清中のこれらの酵素の一方又は両方を測定することによって監視される。2009年、アセトアミノフェンの過剰摂取は、米国において年間、約80,000人の救急病院搬送、約33000人の病院治療及び約1000人の死亡の原因であると推定された。一般的に、過剰摂取が疑われる患者が治療を求めてきた場合、医師は、早急に患者を監視するか又は治療を開始するかの何れかを決定しなければならないが、該治療は、単純なチャコール摂取から、胃洗浄、NAC投与、肝移植手術までと、幅広い。移植手術は、専門の病院でのみ行うことができ、正規の施設への患者の移動は、進行したALFの場合、現段階においては容易ではないと判断される。
【0004】
アセトアミノフェン誘発ALFの治療の最も一般的な方法は、米国及び欧州の両方において、N-アセチルシステイン(NAC)の投与を伴う。NACは、しばしば、約300ミリグラム/kgの総用量で静脈内(IV)注射によって投与されるが、そのような大用量は、不利な副作用を有し得る。加えて、ALFのNAC治療は、しばしば、複雑な投与スケジュールを含む。1つのNAC静脈投与スケジュールは、1時間に亘って注入される200mLの5%デキストロース溶液中の150mg/kgでの負荷用量、続く、4時間に亘る500mLのデキストロース溶液中の50mg/kg、及び、その後の16時間に亘る1000mLのデキストロース溶液中の100mg/kgでの生理学的に負担の低い
維持用量を含む。種々の他の投与レジメン、例えば、より長い期間、例えば、数日間に亘る、より低濃度の用量投与を含む点が、Thanacoody等、BMC Pharmacology and Toxicology,14巻:20頁(2013年)に提案されている。種々の投与レジメンにわたって、しかしながら、NACは、枯渇した機能性グルタチオンレベルを補充するために、過剰摂取(OD)イベント後にそれが十分に早く与えられた場合に限り確実に効果的であるが、それは、しばしば、達成することが困難であり得る。NAC投与の有利な効果は、よって、開始時間依存的であり、そして、アセトアミノフェン過剰摂取に起因するALFは、治療が施されているケースにおいてさえ、遭遇する。
【0005】
実際には、アセトアミノフェン誘発ALFの中毒条件、及びそれらに対する応答は、大きく異なる。Woodhead等,The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,342巻:529-540頁(2012年)は、種々のNAC治療レジメンを記載し、また、そのようなレジメン、監視アプローチ及び関連する因子に関して議論及び多様な意見を指摘している。
【0006】
NAPQIとグルタチオンとの化学結合は、NAPQIの毒性を低下させる;しかしながら、かなりの量のNAPQIが生成されれば、これはグルタチオンの著しい枯渇をもたらし、それは次に、ミトコンドリアの機能不全及び細胞死を導き得る(Rushworth等、Pharmacology & Therapeutics、141巻:150-159頁(2014年))。NACは、容易に肝細胞に輸送され、欠損細胞内のグルタチオンレベルを補充するために機能し、細胞がNAPQIに結合してALFの進展に抵抗することを可能とする。しかし、中毒は、上記の経路に沿って、ミトコンドリア及び細胞システム及び構造が障害された状況へ進むため、NACは効果的にグルタチオンを補充することができず、細胞死を防ぐNACの能力は減少する。過剰摂取状況及び個体の応答における変動は、結果として、NACの効能が減少を始めたときに、OD後で患者内に大きな差異を生じる。
【0007】
Rushworth等には、その利点がGSH欠損細胞におけるGSHの標的補充にあるため、NACはそれ自体が強力な抗酸化剤であると考えるべきでないことが教示されている。上記より、NACが有利とならない場合がある。NACの生化学的役割に対するより深い洞察が、Okezie等.,Free Radical Biology and
Medicine,6巻:593-597頁(1989年)からもたらされているが、それは、NACがヒドロキシ(OH-)ラジカルと反応することができ、次亜塩素酸の強力な捕捉剤である一方、過酸化水素(H22)と緩徐でのみ反応し、スーパーオキシド(O2 -)とはさほど反応しないことを開示している。従って、NACは触媒的ではなく、酸化ストレスと関係する病状に関連する2つの活性酸素種と顕著に直接作用するようには思われない(しかし、それは、GSH発生を介して間接的にそれらに影響し得る)。
【0008】
医師は、典型的には、ALFリスクと治療の決定を、通常、経時における患者のALTレベルを監視することを含め、広範囲のデータ入力に基づいて行う。NAC治療は複雑であり、そのため、ある程度の手続上のリスクを有し得る。NAC治療は、広範囲に適用されているものの、投与量、投与レジメン、投与方法、治療監視方法に顕著な差があり、また、どれだけ長く治療を維持するかをめぐる論争により表されるように、理想的ではない。加えて、より高用量及び/又はより長いNACレジメンは、Prescott等,Eur.J.Clin.Pharmacol.,37巻:501-506頁(1989年)により議論されているように、肝臓の回復を妨げ、望ましくない副作用を発現する、リスクを有する。
【0009】
アセトアミノフェン誘発ALF、その他のALF及び肝毒性状態は、一般に、身体が疾患関連の又は損傷関連の活性酸素種に対処できないことを特徴とする。肝毒性状態の機能不全により、C型肝炎、細菌感染症、ウイルス感染症、及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を含む。それらはまた、モノクローナル抗体のようなバイオ医薬品をベースとする現代薬物治療と関連性を有する、幅広い種類の薬物誘発性肝障害も含む。2014年に、例えば、米国のFDAは、41個の新しい分子実体及び新しい治療生物学的製剤を承認しており、これらの15%以上において、肝障害のリスクに関する警告及び使用上の注意(Warnings and Precautions)を伴っている(Shi等,Biomarkers Med,9巻(11号):1215-1223頁(2015年))。ALFを引き起こし得る他の主要な医薬品は、スタチン類、ニコチン酸、アミオダロン(Cardarone)、ニトロフラントイン、及びオーグメンチンを含む。
【0010】
Shi等(2015年)及びDear等、The British Pharmacological Society、80巻(3号):351-362頁(2015年)は、薬剤誘発性肝障害のための循環ミトコンドリアバイオマーカーを言及する。多数の種々のタイプのバイオマーカー(免疫学、ミトコンドリアステータス、毒性遺伝学、アセトアミノフェン代謝及びニトロ化チロシン残基のような生化学)が、ALFのために既知である。バイオマーカーは、診断、モニタリング、治療の選択、患者の状態に関する予後、並びに、治療に対する応答に関してますます使用されている。急性ではあるものの、ALFの発現特性は様々であり、バイオマーカーは、ALF状態を軽減するための予防的治療に関して特別な役割を果たすことが期待される。Shi等及びDear等に加えて、Harrill等,Tox.Sciences,110巻:235-243頁(2009年)及びVliegenthart等,Clin.Pharmacol.Ther.(doi:10.1002/cpt.541,オンライン 2016年11月30日)についても参照。後者の記事は、NACを開始する前に肝障害のリスクによって患者を層別化するためのバイオマーカーの使用の可能性を論じている。
【0011】
急性肝不全(ALF)を有する全ての患者の約55%に急性腎障害(AKI)が起こる(Moore、Eur.J. Gastroenterol.Hepatol.,11巻(9号):967-975頁(1999年))。アセトアミノフェン(APAP)過剰摂取により誘導されるALFにおいて、腎障害は、肝臓と腎臓の両方に影響を与える合併症に関連し得るものの、Mooreによれば、肝機能を回復させることができる場合、腎障害のある患者は、ほぼ必ず回復する。アセトアミノフェン(APAP)過剰摂取により誘導されるALFの約3000例の最近の研究は、そのような患者のAKI発症の全体的なリスクが対照におけるよりも2倍以上高かったと結論付けた(Chen等,Medicine,94巻(46号):e2040頁(2015年))。非常に少数の患者が末期の腎疾患を発症したものの、Chenは、AKIは、患者が肝毒性を発現するか否かとは無関係に、APAP中毒患者の間で起こり得る副作用であり得ると結論付けた。
【0012】
活性酸素種(ROS)関連腎病変もまた既知であり、抗酸化剤が、ROSが合併症を誘発し得る腎臓特異治療において試験されている。そのような治療は、透析と共に、又は腹部の手術を受けた肝硬変患者のためにN-アセチルシステイン(NAC)を含むものである。Rushworth等はまた、NACが、造影剤誘起腎症及び他の疾患からの患者の保護に関して試験されていることに言及している。
【0013】
MnPLED誘導体として既知のマンガンピリドキシルエチレンジアミン誘導体(同様に、マンガンピリドキシルエチルジアミン誘導体とも言及されることもある。)は、有益なカタラーゼ、グルタチオン還元酵素及びSOD模倣活性を有するものとして開示されている(Laurent等、Cancer Res、65巻:948-956頁 2005年)。MnDPDP(CAS 146078-14-4)としても既知である、そのよう
なMnPLED誘導体の一つであるマンガホジピル、マンガン N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸は、マウスにおけるアセトアミノフェン誘発ALFから保護及びこれを治療するために開示されている、Bedda等、J Hepatol、39巻:765-772頁(2003年);Karlsson、J Hepatol、40巻:872-873頁(2004年)。MnDPDPは、ホジピルのマンガン錯体、ホジピル(Pubchem化合物60683、lUPAC名:2-[2-[カルボキシメチル-[[3-ヒドロキシ-2-メチル-5-(ホスホノオキシメチル)ピリジン-4-イル]メチル]アミノ]エチル-[[3-ヒドロキシ-2-メチル-5-(ホスホノオキシメチル)ピリジン-4-イル]メチル]アミノ]酢酸)である。MnDPDPは、脱リン酸化されて中間体、MnDPMP、(マンガン(II)N,N’-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N’-二酢酸-5-リン酸)となり、その後、MnPLED(マンガン(II)N,N’-ジピリドキシルエチレンジアミン-N,N’-二酢酸)となる。この脱リン酸化は、インビトロの代謝率及びインビボ活性に応じて、血清中の酸ホスファターゼではなく、アルカリホスファターゼによって主に起こると考えられている。
【0014】
PledPharma ABの国際公開第2011/004325号パンフレットは、マンガホジピルのようなマンガン錯体化合物と、DPDPとしても既知の、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸のような非-マンガンPLED-誘導体の混合物が、アセトアミノフェン誘発ALFを含む種々の活性酸素種(ROS)関連疾患状態の治療において、マンガホジピル単独よりも治療上の利点を提供し得ることを開示している。驚くべきことに、該混合物は、体内におけるマンガホジピルからのマンガン放出に関連する脳や他の合併症の可能性を低減する。PledPharma ABの国際公開第2013/102806号パンフレットは、カルシウム-マンガン複合金属PLED誘導体、具体的には、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP)のカルシウム-マンガン複合金属錯体の使用を開示している。DPDPの具体的なカルシウム-マンガン複合金属錯体は、ここで“CaM”として省略される、Ca4MnDPDP5としても既知の、カルマンガホジピル(CAS 1401243-67-1)である。CaMは、アセトアミノフェン誘発ALFを含む種々のROS関連疾患状態の治療において、マンガホジピル単独よりも治療上の利点を提供する。該複合金属錯体カルマンガホジピルは、体内におけるマンガホジピルからのマンガン放出に関連する脳や他の合併症の可能性を低減し、同様に、製造、製剤、及び治療的投与における重要な改善も提供する。Karlsson等,Drug Disc.Today 20巻:411-421頁(2015年)参照。
【0015】
GSHは、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ及びグルタチオン還元酵素のような酵素を含む複雑な生化学システム中に試薬として含まれるが、それは、OH-、H22及びO2 -のような活性酸素種(ROS)並びにペルオキシ亜硝酸(ONOO-)のような活性窒素種(RNS)の過剰産生によって引き起こされる酸化ストレス(OS)を防止するために作用する、Valko、Int.J.Biochemistry & Cell
Biology,39巻:44-84頁(2007年)。後者は、ニトロ化又はニトロシル化を介したタンパク質を含む生体分子を共有結合的に修飾し得る。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)酵素は、スーパーオキシドラジカルと容易に反応し、それらを、酵素カタラーゼが水と酸素に変換し得る過酸化水素に変換することが知られている。結果として生じるSOD酵素活性を損なうチロシン残基のニトロ化を伴って、SODの活性部位中のチロシン残基と反応し得るため、ペルオキシ亜硝酸は、一般的にOSにおいて、特に、アセトアミノフェン過剰摂取のようなALF状態において、非常にネガティブな役割を演じる。このことは、結果として、スーパーオキシドの増加、並びにペルオキシ亜硝酸の形成を生じる、Agarwal、J.Pharmacol.& Exp.Therapeutics,337巻:110-116頁(2011年)。SOD酵素触媒活性は、金
属(典型的にはNi又はMn)-キレート補助因子と関連し、ポルフィリンのような金属キレート基を有する幾つかの化合物は、時々、“ペルオキシ亜硝酸分解剤又は触媒”と呼ばれる(Pieper、J.Pharmacol.& Exp.Therapeutics,314巻:53-60頁(2005年)。
【0016】
NACは、酸化ストレスに関連する疾患の状況下で、細胞内グルタチオンレベルを補充するために使用又は調査されている唯一の還元化合物ではない。研究されている他の化合物は、メチオニン及び、DL-メチオニン、D-メチオニン、N-アセチル-メチオニンのようなメチオニン類似体(Garlick、The Journal of Nutrition,136巻:1722S-1725S頁(2006年))、N-アセチル-システイン-アミド(Wu等、Biomed.Chromatography,20巻:415-422頁(2006年))を含む。他に、システイン、ホモシステイン、グリチルリチン、及びGSH自体を含む。
【0017】
MnPLED化合物は、SOD触媒模倣特性を有することが知られており、幾つかのケースにおいて、カタラーゼ及びグルタチオン還元酵素の模倣活性を有することも見出されている(Karlsson、2015)。これらの酵素活性のいずれも、NAC又は関連する化学的な抗酸化化合物と関連付けされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2011/004325号パンフレット
【文献】国際公開第2013/102806号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【文献】Hodgman及びGarrard,Crit.Care Clin.,28巻:499-516頁(2012年)
【文献】Jaeschke等,Drug.Metab.Review,44巻:88-106頁(2012年)
【文献】Thanacoody等、BMC Pharmacology and Toxicology,14巻:20頁(2013年)
【文献】Woodhead等,The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,342巻:529-540頁(2012年)
【文献】Rushworth等、Pharmacology & Therapeutics、141巻:150-159頁(2014年)
【文献】Okezie等.,Free Radical Biology and Medicine,6巻:593-597頁(1989年)
【文献】Prescott等,Eur.J.Clin.Pharmacol.,37巻:501-506頁(1989年)
【文献】Shi等,Biomarkers Med,9巻(11号):1215-1223頁(2015年)
【文献】Dear等、The British Pharmacological Society、80巻(3号):351-362頁(2015年)
【文献】Harrill等,Tox.Sciences,110巻:235-243頁(2009年)
【文献】Vliegenthart等,Clin.Pharmacol.Ther.(doi:10.1002/cpt.541,オンライン 2016年11月30日)
【文献】Moore、Eur.J. Gastroenterol.Hepatol.,11巻(9号):967-975頁(1999年)
【文献】Chen等,Medicine,94巻(46号):e2040頁(2015年)
【文献】Laurent等、Cancer Res、65巻:948-956頁 2005年
【文献】Bedda等、J Hepatol、39巻:765-772頁(2003年)
【文献】Karlsson、J Hepatol、40巻:872-873頁(2004年)
【文献】Karlsson等,Drug Disc.Today 20巻:411-421頁(2015年)
【文献】Valko、Int.J.Biochemistry & Cell Biology,39巻:44-84頁(2007年)
【文献】Agarwal、J.Pharmacol.& Exp.Therapeutics,337巻:110-116頁(2011年)
【文献】Pieper、J.Pharmacol.& Exp.Therapeutics,314巻:53-60頁(2005年)
【文献】Garlick、The Journal of Nutrition,136巻:1722S-1725S頁(2006年)
【文献】Wu等、Biomed.Chromatography,20巻:415-422頁(2006年)
【発明の概要】
【0020】
ALF、C型肝炎、微生物感染、HIV感染を含むが、これに限定されないウイルス感染、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、及び、ウィルソン病のような特定の遺伝性障害、及びα-1アンチトリプシン欠損症を引き起こす治療剤の投与を伴うことを含むが、これらに限定されない、アセトアミノフェン誘発ALF、他のALF状態及び肝毒性状態の治療及びこれらからの保護における更なる改善が望ましい。本発明は、ALF及び他の肝毒性状態を治療及び/又はこれらから保護するための方法及び製剤を対象とする。
特定の態様において、本発明は、AKI並びにALF及び他の肝毒性状態を併発する関連する合併症を治療及び/又はこれらから保護するための方法及び製剤を対象とする。
【0021】
本開示の文脈の中で、用語“から保護する”は、一態様において、提示された状態の予防及び/又は提示された状態の発症程度の減少、特に、個体における、提示された状態の発症のリスクの減少を含む。
【0022】
特定の態様において、本発明は、個体におけるアセトアミノフェン過剰摂取により誘発された急性肝不全を治療及び/又はこれから保護する方法を対象とする。
該方法は、(a)前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与すること、及び
(b)前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP)のカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)マンガンDPDP(MnDPDP)又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)マンガンピリドキシルエチレンジアミン(MnPLED)又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有ピリドキシルエチレンジアミン(PLED)化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤の有効量を投与すること
を含む。
【0023】
更なる態様において、本発明は、個体における急性肝不全を治療及び/又はこれから保護する方法を対象とする。
該方法は、(a)前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与すること、及び
(b)前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤の有効量を投与すること
を含む。
【0024】
より更なる態様において、本発明は、個体における肝毒性を治療及び/又はこれから保護する方法を対象とする。
該方法は、(a)前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与すること、及び
(b)前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤の有効量を投与すること
を含む。
【0025】
更なる態様において、本発明は、個体における急性肝不全又は他の肝毒性に関連する急性腎障害を軽減する方法を対象とする。
該方法は、(a)前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤の有効量を投与すること、及び、任意に、(b)前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与すること、を含む。
【0026】
より更なる態様において、本発明は、個体にアセトアミノフェンの高容量を投与する治療方法を対象とする。
該方法は、前記個体にアセトアミノフェンの治療的な高容量を投与すること、及び、前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化
合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤の有効量を投与すること、
を含む。
任意に、該方法はまた、前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与することも含み得る。
【0027】
更なる態様において、本発明は、個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤、及び
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択されるマンガン錯体を含む第二の活性剤
を含む製剤を対象とする。
より更なる態様において、本発明は、そのような製剤の少なくとも1つを含むキットを対象とする。
【0028】
本方法、製剤及びキットは、ALF及び他の肝毒性状態の治療及び/又はこれらからの保護において、改善を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下の詳細な説明及び実施例は、図面を考慮してより完全に理解され、ここで、
図1図1は、実施例2に記載されるように、室温(RT、22℃)及び+4℃でのNAC:CaM試験混合物1の貯蔵時間に対するN-アセチルシステイン(NAC)濃度の相対減少を示す。
図2図2は、実施例2に記載されるように、室温(RT、22℃)及び+4℃でのNAC:CaM試験混合物3の貯蔵時間に対するN-アセチルシステイン(NAC)濃度の相対減少を示す。
図3図3は、実施例2に記載されるように、室温(RT、22℃)及び+4℃でのNAC:CaM試験混合物1の貯蔵時間に対するカルマンガホジピル(CaM)濃度の相対減少を示す。
図4図4は、実施例2に記載されるように、室温(RT、22℃)及び+4℃でのNAC:CaM試験混合物3の貯蔵時間に対するカルマンガホジピル(CaM)濃度の相対減少を示す。
図5図5は、実施例2に記載されるように、室温(RT、22℃)及び+4℃でのNAC:CaM試験混合物1及び3の貯蔵時間に対するN,N’-ジアセチルシスチン(diNAC)濃度の相対減少を示す。
図6図6は、実施例3に記載されるように、雄性B6C3F1マウス(バー当たりn=4-32)におけるアセトアミノフェン300mg/kgのi.p.注射後12時間での平均±SEM アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)レベルを示すが、これらはまたアセトアミノフェン投与後1-6時間にNAC300mg/kgも受ける。
図7図7は、実施例3に記載されるように、雄性B6C3F1マウスにおけるアセトアミノフェン300mg/kgのi.p.注射後12時間での平均±SEM ALATレベルを示すが、これらはまたアセトアミノフェン投与後1時間にNAC30-300mg/kgのNAC用量も投与された(バー当たりn=4-11)。
図8図8は、実施例3に記載されるように、雄性B6C3F1マウスにおけるアセトアミノフェンのi.p.注射後12時間での中央値±四分位偏差 ALATレベルを示すが、これらはまたアセトアミノフェン投与後6時間にCaM0.3-10mg/kgのカルマンガホジピル(CaM)用量も投与された(バー当たりn=4-16)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
特定の態様において、本発明の方法、製剤及びキットは、第一の活性剤及び第二の活性剤を使用する。第一の活性剤及び第二の活性剤は、以下でより詳細に議論されているように、一緒に又は別々に投与され得る。第一の活性剤は、個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる、即ち、健康な個体において経験されるような正常範囲に機能性グルタチオンを回復するか又は回復を補助する。機能性グルタチオンは、例えば、NAPQIと共有結合的に反応してそれを低毒性とすることで、インビボにおいて、細胞成分に対する損傷を予防するよう機能する(あらゆる形態の)グルタチオンである。第一の活性剤は、有効量、即ち、アセトアミノフェンの過剰摂取又は肝毒性誘発のイベント又は状態のせいで生じる個体中の機能性グルタチオンの損失を、少なくとも部分的に補充するか又は減少させるのに有効な量で、投与され得る。具体的な態様において、第一の活性剤は、N-アセチルシステイン(NAC)、システイン、ホモシステイン、グリチルリチン、GSH、メチオニン、メチオニン類似体(DL-メチオニン、D-メチオニン、及び/又はN-アセチルメチオニン)、N-アセチルシステインアミド、又はそれらの組み合わせを含む。より具体的な態様において、第一の活性剤は、NACを含む。
【0031】
特定の患者のための第一の活性剤の具体的な有効用量は、本開示を考慮して当業者により決定され得る。第一の活性剤が、NAC、システイン、ホモシステイン、グリチルリチン、GSH、メチオニン、又はそれらの組み合わせを含む、具体的な態様において、第一の活性剤、特に、NACは、現在の従来の治療療法に従って、100-500mg/kg体重の総投与量で投与され得、典型的には、150mg/kgの初期/負荷用量レジメン、続いて、50乃至100mg/kgの維持用量で投与される。しかしながら、NAC、システイン、ホモシステイン、グリチルリチン、GSH、メチオニン、又はそれらの組み合わせを含む、本発明の方法及び製剤の特定の態様において、第一の活性剤又は、特に、NACは、従来使用されているよりも少ない量で使用され得る。例えば、第一の活性剤又は、特に、NACは、約10乃至200mg/kg体重、より特には、約10乃至150mg/kg体重、約10~100mg/kg体重、又は、約10乃至50mg/kg体重の総用量で投与され得る。総用量は、単回投与で、又は、初期投与に続く1回以上の追加投与で投与され得る。従って、これらの態様は、種々の従来のNACの治療方法と比較して、第一の活性剤のより低いレベルを使用する点で有利である。
【0032】
第二の活性剤は、SOD模倣活性、及び、任意に、カタラーゼ、グルタチオン還元酵素及び/又は他の模倣活性を示すマンガン複合体を含む。マンガン錯体は、固体に対して、(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP)のカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)マンガンDPDP(MnDPDP)又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)マンガンピリドキシルエチレンジアミン(MnPLED)又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有ピリドキシルエチレンジアミン(PLED)化合物との混合物
からなる群より選択される。本開示の範囲内において、カルマンガホジピルは、ここで“CaM”として省略される、Ca4MnDPDP5としても既知の、およそ4:1のマンガンに対するカルシウムのモル比を含む、MnDPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体を言及する。カルマンガホジピルは、国際公開第2013/102806号パンフレッ
トに開示されているが、その全てはここに参照として組み込まれる。具体的な態様において、第二の活性剤は、カルマンガホジピルを含む。
【0033】
本開示の範囲内において、用語“マンガン非含有DPDP化合物”は、N,N’-ビス-(ピリドキサール-5-リン酸)-エチレンジアミン-N,N’-二酢酸(DPDP)、マンガンを含まないDPDPの金属錯体、即ち、カルシウム錯体又はDPDP若しくはそのような金属錯体の薬学的に許容される塩を言及する。具体的な態様において、MnDPDP又はその薬学的に許容される塩に対するマンガン非含有DPDP化合物のモル比は、1乃至10の範囲にある。具体的な態様において、MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物は、MnDPDP及びCaDPDP、又はそれらの塩を含む。
【0034】
更に、本開示の範囲内において、用語“マンガン非含有PLED化合物”は、ピリドキシルエチレンジアミン(PLED)、マンガンを含まないPLEDの金属錯体、即ち、カルシウム錯体又はPLED若しくはそのような金属錯体の薬学的に許容される塩を言及する。具体的な態様において、MnPLED又はその薬学的に許容される塩に対するマンガン非含有PLED化合物のモル比は、1乃至10の範囲にある。具体的な態様において、MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物は、MnPLED及びCaPLED、又はそれらの塩を含む。
【0035】
上記のDPDP及びPLED含有化合物(マンガンを含有するもの及びマンガンを含有しないものの両方)の好適な薬学的に許容される塩は、1個以上の水素イオンがナトリウムで置換されたナトリウム塩を含むが、これらに限定されない。理論に束縛されることを望むものではないが、CaM及びMnDPDPの両方及びそれらの塩は、それらがインビボにおいてMnPLEDのような関連するPLED誘導体に代謝されるという意味において、プロドラッグであると考えられている。
【0036】
第二の活性剤は、有効量、即ち、SOD模倣活性及び/又は他の活性、例えば、カタラーゼ、グルタチオン還元酵素及び/又は他の活性を介して、アセトアミノフェンの過剰摂取又は肝毒性誘発のイベント又は状態のせいで生じる個体における酸化ストレスを減少するのに有効な量で使用される。特定の態様において、第二の活性剤は、第一の活性剤の有効性を改善し得る。特定の患者のための第二の活性剤の具体的な有効用量は、本開示を考慮して当業者により決定され得る。具体的な態様において、第二の活性剤は、約0.01乃至50mg/kg体重、約0.1乃至25mg/kg体重又は約0.1乃至10mg/kg体重の用量で投与される。より具体的な態様において、カルマンガホジピルが、約0.01乃至50mg/kg体重、約0.1乃至25mg/kg体重又は約0.1乃至10mg/kg体重の用量で投与される。別の具体的な態様において、MnDPDP又はその塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物は、約0.01乃至50mg/kg体重、約0.1乃至25mg/kg体重又は約0.1乃至10mg/kg体重の用量で投与される。別の具体的な態様において、MnPLED又はその塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物は、約0.01乃至50mg/kg体重、約0.1乃至25mg/kg体重又は約0.1乃至10mg/kg体重の用量で投与される。
【0037】
ここで開示される上記及び他の態様の用量範囲は、一般に、本発明がうまくいく適用を見出し得る、患者、患者の状態、疾患、地域推奨療法、第一の活性剤、及び投与レジメンの広い範囲を反映する。
【0038】
言及されるように、アセトアミノフェン誘発肝細胞障害は、典型的には、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(欧州においてASAT又は米国においてAST)又はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT/ALT)のような肝臓細胞内酵素の血清中へ
の放出(即ち、血清活性)により証明される。ALFは、しばしば、血清中のこれらの酵素の一方又は両方を測定することによって監視される。従って、本発明の方法及び組成物において、有効量は、血清ALAT及び/又はASATを減少させる量を含む。
【0039】
本発明の1態様に従って、個体におけるアセトアミノフェン過剰摂取により誘発された急性肝不全を治療する方法は、
(a)前記個体中の機能性グルタチオンの損失を補充するか又は減少させる第一の活性剤の有効量を前記個体に投与すること、及び
(b)前記個体に、
(i)マンガンに対するカルシウムのモル比が1乃至10の範囲にある、DPDPのカルシウム-マンガン複合金属錯体、又はその薬学的に許容される塩、
(ii)MnDPDP又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有DPDP化合物との混合物、又は
(iii)MnPLED又はその薬学的に許容される塩と、マンガン非含有PLED化合物との混合物
からなる群より選択される第二の活性剤の有効量を投与すること
を含む。本発明の方法は、個体が、アセトアミノフェン過剰摂取のための緊急治療を現在受けていない及び/又は従来のNAC治療が未だ開始されていない状況、例えば、該個体が差し迫ったALFのために監視されているか又は過剰摂取誘発のALFが、従来のNAC治療単独では望むほど有効となり得ない点まで進行した場合での使用のために特に有利である。具体的な態様において、第一の活性剤又は第二の活性剤の投与の前に、個体は、肝細胞死に至る酸化ストレスの可能性を減少する治療の必要性が決定される。そのような決定は、従来の技術に従って、例えば、血清ALAT及び/又はASATレベルの監視により、又は、バイオマーカー、例えば、ミトコンドリアバイオマーカー(上述の、Shi等、2015年参照)の監視によるような、より最近の技術に従ってなされ得る。本方法は、従って、アセトアミノフェン過剰摂取により誘発された急性肝不全を示す少なくとも1種のバイオマーカーのレベルを決定することを含み得る。好適なバイオマーカーは、1種以上の、パラセタモール-蛋白質付加体(例えば、パラセタモール-システイン)、ミクロRNA-122(miR-122)、ケラチン-18(K-18)、高移動度群ボックス-1(HMGB1)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ及び、Dear等2015年により議論されたような腎障害分子-1(KIM-1)のようなミトコンドリアDNA断片を含むが、これらに限定されない。第一の活性剤及び第二の活性剤の両方の使用は、NACの治療的有用性が、NAC投与が中止された後に直ちに停止することが見込まれるため、従来のNAC治療と比較してより長い治療効果を提供し得る。これは、CaM又はMnDPDPのようなSOD酵素模倣体を含む第二の活性剤の場合ではないことが示されているが、これらは、投与後、インビボで酸化ストレスの拡張された治療療法を提供し得る。第一及び第二の活性剤の使用は、減少された不十分な投与の可能性、同様に、本質的に単なる付加ではない相乗効果の強化のような他の治療効果を提供し得る。後者は、以下でより詳細に議論される。
【0040】
第二の活性剤に対する第一の活性剤の質量比は、要望通りに変化し得る。具体的な態様において、第二の活性剤に対する第一の活性剤の質量比は、300:1、250:1、200:1又は150:1から1:1まで、100:1から1:1まで、50:1から1:1まで、20:1から1:1まで又は10:1から1:1までの範囲内である。1つの具体的な態様において、典型的な、カルマンガホジピル(CaM)に対するNACの比率(w/w)30が使用される(例えば、NAC150mg/kg及びCaM5mg/kg)。別の具体的な態様において、典型的には、CaMに対するNACの比率(w/w)6が使用される(例えば、NAC30mg/kg及びCaM5mg/kg)。
【0041】
理論に束縛されることを望むものではないが、第一の活性剤は、枯渇した機能性グルタ
チオンレベルを補充し、そして、NAPQIへの結合の際のようにインビボで機能するにつれて消費されるか、そうでなければ変化すると予想される“化学量論的”化合物である。一方、第二の活性剤は、そのスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)又は関連酵素模倣活性により触媒的に作用する。加えて、第一の活性剤と第二の活性剤は、活性酸素種(ROS)を低減するための異なる機構を示し、異なるROS標的に影響を及ぼすだけでなく、それらは異なる細胞部位で作用し得る。例えば、NACは非常に親水性であり、しかし、活発に細胞内に輸送されるため、それは、カルマンガホジピル、MnDPDP又はMnPLEDの投与から結果として生じるより脂溶性が高いMnPLED代謝生成物よりも脂質膜中へ及び該膜を介して受動的に分配することができなくなると考えられ得る。
【0042】
抗酸化剤のような異なるタイプの化合物は、異なる細胞部位で異なる機構を介して機能する。従って、種々の疾患を治療するための抗酸化剤の組み合わせの使用が提案されてきた。しかし、酸化防止剤の組み合わせは、幾つかの実用的な理由に起因して、要望通りにインビボで機能するとは考えられない。2種類の酸化防止剤の混合物は、例えば、不溶性の錯体を形成し得、化学的に反応して、第三の非機能性化合物を形成し得、それらの一方又は両方を非機能性にする方法で、互いに化学的に変化し得(即ち、還元又は酸化)及び/又は一方又は両方の抗酸化剤の有効性を減少する及び/又は毒性を増強する方法で、患者に影響を及ぼし得る。本発明者等は、第一の活性剤と第二の活性剤との混合物、特に、NACとMnPLED又はカルマンガホジピル又はMnDPDPのようなMnPLED誘導体化合物との混合物が、実施例1及び2で示されるように、安定した状態を保ち、そして、実施例4で示されるように効果的であることを発見した。
【0043】
本発明の方法において、第一の活性剤及び第二の活性剤は、1つの又は個別の製剤で、個体に対して実質的に同時に投与され得るか、又は、上記活性剤を、例えば1時間未満、又は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10時間以上の投与間隔をもって、順次投与され得る。第二の活性剤は、第一の活性剤の投与に続いて、又は、別法として、第一の活性剤の投与の前に、個体に対して投与し得る。活性剤は、任意の1種以上の従来の医薬賦形剤又は担体を含む、溶液形態又は凍結乾燥製剤における又は他の従来の薬学的に許容される形態における1種以上の製剤で投与され得る。カルマンガホジピル及びMnDPDPと他のDPDP化合物との混合物は、水溶性担体を伴って有利に送達可能である。MnPLED及び種々PLED化合物は、本質的に、相対的により疎水性であるため、これらの混合物の製剤は、混合物の活性成分をより低い脂溶性(より低い疎水性)の状態で存在させるために、界面活性剤、ミセル又はリポソームを含むがこれらに限定されない1種以上の賦形剤の添加剤を有利に含み得、よって、水溶性製剤における静脈内送達のためにより好適である。
【0044】
第一の活性剤及び第二の活性剤の投与が交互に行われるか、又は実質的に同時投与に続いて1回以上の個別投与が行われる種々の投与レジメンがまた使用され得る。例えば、第二の活性剤の追加用量が、第一の活性剤及び第二の活性剤の実質的に同時の投与に続いて投与され得る。具体的な態様において、第一の活性剤及び第二の活性剤の少なくとも一つは、アセトアミノフェン過剰摂取に続く8時間以上の時点で個体に投与される。より具体的な態様において、第二の活性剤はアセトアミノフェン過剰摂取に続く8時間以上の時点で個体に投与される。しかし、過剰摂取の発生の程度又は時間が、個体が治療のために存在する時間において、常に確立されているわけではないことが認識されているため、医師は、過剰摂取の程度又は時点を決定するための1種以上の臨床検査を実施する前又は最中に、治療を開始することを選択し得る。
【0045】
更なる態様において、第一の剤の数回が、第二の剤の投与と共に、及び/又は第二の剤の投与と交互に、個体に投与され得る。具体的な態様において、第一の剤の最初の投与に、第二の剤の投与が続き、それは、順番に、第一の剤の2回目の投与が続く。第二の剤の
投与は、第一の剤の最初の投与又は2回目の投与の何れかの時間に近接し得るか、又は、時間の間で実質的に等間隔に配置され得る。
【0046】
具体的な態様において、本発明に従う製剤は、第一の活性剤及び第二の活性剤の両方を含む。第一の活性剤及び第二の活性剤の質量比は、要望通りに、変えられ得る。具体的な態様において、第一の活性剤及び第二の活性剤の質量比は、300:1、250:1、200:1又は150:1から1:1まで、100:1から1:1まで、50:1から1:1まで又は20:1から1:1までの範囲内である。製剤中の第一の活性剤、又は、具体的にはNACの量は、約10乃至300mg/kg体重の用量を提供するのに十分であり得る。製剤中の第二の活性剤、又は、より具体的には、カルマンガホジピルの量は、約0.01乃至50mg/kg体重、約0.1乃至25mg/kg体重又は約0.1乃至10mg/kg体重の用量を提供するのに十分であり得る。製剤は、溶液形態、分散体若しくはエマルジョン形態、又は錠剤若しくは粉末を含む固体形態であり得、凍結乾燥製剤を含み得る。
【0047】
本発明のこの態様は、単回投与事象に関連するアセトアミノフェン過剰摂取の治療を促進するのに特に有利であり得る。更に、より具体的な態様において、製剤は、約10乃至200mg/kg体重、又は、より具体的には、約10乃至150mg/kg体重、約10乃至100mg/kg体重又は約10乃至50mg/kg体重の量において、第一の活性剤、又は、具体的にはNACを含む。従って、これらの態様は、種々の従来のNACの治療方法と比較して、第一の活性剤のより低いレベルを使用する点で有利であり、それにより、単純で且つより安全な(より少ない副作用)投与レジメンを用いる治療を提供する。このことは、過剰摂取及び関連する損傷の程度が未だ確立していない、あらゆる初期の監視期間の間において特に有利であり得るが、もし必要であれば、次いで第一の活性剤及び/又は第二の活性剤を用いるより積極的な治療を行い得る。更に、上記したように、NACの治療的有用性は、NACの投与が中止された後すぐに停止することが見込まれるため、第一の活性剤と第二の活性剤との単一製剤は、従来のNAC治療と比較して、より長い治療効果を提供し得る。これは、CaM及びMnDPDPのようなSOD酵素模倣体である第二の活性剤の場合ではないことが示されているが、これらは、投与後、インビボで酸化ストレスのより発展的な治療療法を提供する。従って、該組み合わせ製剤は、改善された治療を提供する。
【0048】
別の態様において、本発明は、急性肝不全を治療するためのキットを対象とする。キットは、記載したような、少なくとも1種の製剤、及び第二の活性剤を含む、少なくとも1種の個別の、即ち、別々に包装された製剤を含む。さもなくば、キットは、記載したような、少なくとも1種の製剤及び第一の活性剤の1種以上の追加製剤を含み得る。更なる態様は、記載したような、少なくとも1種の製剤及び、相対量において前記少なくとも1種の製剤とは異なる第一の活性剤及び第二の活性剤の両方の少なくとも1種の製剤を含み得る。キットはまた、該キット中の幾つかの製剤から患者への投与のために、製剤の投与のための指示書及び/又は1種以上の製剤の選択のための指示書も含み得る。
【0049】
別の態様において、本発明は、急性肝不全を治療する方法であって、第一の活性剤を個体に投与すること、及び、第二の活性剤を個体に投与することを含む方法を対象とする。別の態様において、本発明は、肝毒性を治療する方法であって、第一の活性剤を個体に投与すること、及び、第二の活性剤を個体に投与することを含む方法を対象とする。これらの追加の態様において、ALF又は肝毒性は、アセトアミノフェン過剰摂取又は、ALF、C型肝炎、微生物感染、HIV感染を含むが、これに限定されないウイルス感染及び/又はNASHを引き起こす他の治療剤の投与と関連するものを含むが、これらに限定されない他の肝毒性状態の結果であり得る。加えて、上述の、投与用量、レジメン変動及び製剤は、これらの方法において、等しく適用され得る。
【0050】
別の態様において、本発明は、治療的高用量のアセトアミノフェンを個体に投与する方法であって、治療的高用量のアセトアミノフェンを個体に投与すること、及び、第二の活性剤を、アセトアミノフェンによる肝臓の損傷を減少するか又はこれから保護するのに有効な量で、個体に投与することを含む。そのような方法は、アセトアミノフェンの高用量が望ましい、例えば、急性疼痛又は急性発熱のために有利であるが、さもなくば、付随する毒性効果のために回避されるだろう。上述の第二の活性剤の投与用量は、これらの方法において、等しく適用され得る。任意には、該方法はまた、ここに記載されたような第一の活性剤の投与も含み得、上述の投与用量、レジメンの変動及び製剤は、これらの方法において、等しく適用され得る。
【実施例
【0051】
以下の実施例は、本発明の種々の観点を実証する。
実施例1
この実施例は、カルマンガホジピルとNACとの混合物を含む短期及び長期の安定性研究を記載する。各混合物は、CaM(三ナトリウム塩粉末の形態で)及びNACを脱イオン水に添加し、ボルテックスシェーカーで混合することにより形成された。その後、溶液を琥珀色のバイアルに移した。これらの研究において、典型的には、添加剤又は安定剤は使用されなかった。短期間で実施される標準的な分解研究は、溶液を70℃で6時間保存することによる“強制”温度分解の既知の方法を使用した(一般的な長期貯蔵性能を示すために)。試料を特定の時点で採取し、N-アセチルシステイン(NAC)、カルマンガホジピル(CaM)及びカルマンガホジピル関連物質のための標準分光法により分析した。NACの濃度は試験の間、一定のままであり、この化合物がCaMを伴う溶液中で比較的安定であることを示唆している。CaMは濃度において僅かな低下を示した(約1%/時間)。
【0052】
実施例2
長期安定性試験は、2つの試験混合物を含んでいた。混合物1は、20mLの脱イオン水中に、NAC、10.4mg/mL及びCaM、7.5mg/mL(混合物1:1.39のNAC/CaM w/w比)を含み、混合物3は、NAC、10.4mg/mL及びCaM、74.5mg/mL(混合物3:0.14のNAC/CaM w/w比)を含んでいた。試験混合物を、室温(RT、22℃)又は4℃で3ヶ月(90日間)試験した。医薬品のためのより現実的な貯蔵条件が存在するものの、本研究においては、CaM及びNAC安定化を増強するために通常の医薬製剤の賦形剤を添加しておらず、捕捉された酸素のあらゆる効果を低下するために貯蔵バイアルは窒素下で密封されていない。このように、これらの研究は、最適な標準的医薬貯蔵条件よりも低い条件で期待された結果を生じるという見識を提供する。
【0053】
NAC及びCaMの濃度は、NAC(R-SH)の自己酸化(シスチン、チオールR-S-S-R)形態である、N,N’-ジアセチルシスチン(diNAC)の濃度として、分光的に追跡された。
【0054】
図1乃至4は、正確な初期濃度のわずかな変動のために、T=0でデータを100%に正規化することを伴う、貯蔵時間(T)に対するNACとCaMとの貯蔵溶液濃度を示す。図1乃至4において、上記の混合物1及び3は、それぞれ、Aladote試験混合物1及びAladote試験混合物3として示される。標準誤差バーもまた示されている。図5は、貯蔵時間に対するdiNAC形成を示す。該図は以下を示す:(a)NACは4℃と22℃の両方におけるNAC:CaM試験混合物中で安定であり(図1)、(b)4℃(90日間に亘って20%)と22℃(90日間に亘って30%)の両方において、試験混合物3中のNACにおいて有意に幾らかの減少が存在し(図2)、(c)CaMは、
試験混合物1(図3)と試験混合物3(図4)の両方のための22℃及び4℃貯蔵の両方において安定であり、(d)試験混合物3中のNACの減少の幾らかは、特に22℃貯蔵において、diNAC形成に起因すると思われる(図5)。
【0055】
実施例3
この実施例は、許容されたアセトアミノフェン濃度および方法論に基づく、アセトアミノフェン誘発ALFマウスモデル研究に対するALF応答を示す。各実験において、300mg/kgのアセトアミノフェンのi.p.注射を雄性のB6C3F1マウスに行って、アセトアミノフェン誘発ALFを引き起こした。最初の実験において、アセトアミノフェン投与の1乃至6時間後に、300mg/kg用量のNACを投与した。2番目の実験において、アセトアミノフェン投与の1時間後に、NACを30乃至300mg/kgの用量で投与した。3番目の実験において、アセトアミノフェン投与の6時間後に、0.3乃至10mg/kgの用量のカルマンガホジピル(CaM)を投与した。各実験において、300mg/kgアセトアミノフェンのi.p.注射の12時間後に、ALATを測定した。
【0056】
図6乃至8は、ALATの監視により検出されるような、NAC及びCaMの投与に対するALF応答を示す。具体的に、図6は、雄性のB6C3F1マウス(バー当り、n=4~32)における300mg/kgのアセトアミノフェンのi.p.注射後12時間での平均±SEM ALATレベルを示すが、これはまた、アセトアミノフェン投与後1乃至6時間に300mg/kgのNACも投与される。該図において、NSは、対照データからの統計的な有意差がないことを言及し、一方、***は、対照データからの統計的な有意差がp<0.001であるデータを言及し、*は、p<0.05であるデータを言及する。図7は、アセトアミノフェン投与後1時間における30乃至300mg/kg NACのNAC投与のNAC用量-応答を示す。雄性のB6C3F1マウス(バー当り、n=4~11)における300mg/kgのアセトアミノフェンのi.p.注射後12時間での平均±SEM ALATレベルを示す。明確な用量-応答は、検出できなかった。図8は、300mg/kgのアセトアミノフェンのアセトアミノフェン投与後6時間における0.3乃至10mg/kg カルマンガホジピル(CaM)の投与のCaM用量-応答を示す。雄性のB6C3F1マウス(バー当り、n=4~16)におけるアセトアミノフェンのi.p.注射後12時間での中央値±四分位偏差 ALATレベルを示す。そのようなモデル系の研究において予期しなかった、幾つかの外れ値と2つの実験のばらつきに起因して、データ点は中央値±四分位範囲と同様に個別にプロットされる。
【0057】
実施例4
この実施例は、動物死及び関連する雄性B6C3F1マウスにおける個々の及び併用療法の薬学的効果を研究した。血清酵素活性の研究は肝不全又は保護を強く示唆しているとしても、薬理学的治療の関数として被験動物死亡率(%)に関連するような他のデータを考慮することもまた重要である。この実施例の実験は、雄性B6C3F1マウスにおける動物死の個々の及び併用療法の薬学的効果を研究した。マウスを8乃至10時間絶食させ、以下の試験群で特定されているような処理を伴って、ALFを300mg/kgのアセトアミノフェン(APAP).i.p.で誘導した:
APAP対照(n=81,APAP 300mg/kg i.p.)、
NAC(n=53,30乃至300mg/kg i.v.,APAP後1乃至6時間)、
CaM(n=97,0.3乃至10mg/kg i.v.,APAP後1乃至6時間)、
CaDPDP(n=10,3乃至10mg/kg i.v.,APAP後6時間)、及び
NAC/CaM(n=28,0.3乃至10mg/kg CaMと組み合わせたNA
C 300mg/kg,i.v.,APAP後2.5乃至6時間)。
【0058】
表1は、薬理学的処置の関数としての12時間サンプリング期間内の相対死亡数(%)を示す。最も高い死亡数がマンガン成分を含まないキレート剤群(CaDPDP)で見られた。驚くべきことに、NAC若しくはCaMの単独又はAPAP対照と比較して、予想されたよりも少ない死亡数がNAC及びCaMの組み合わせにおいて見られた。
【表1】
【0059】
より具体的には、アセトアミノフェン過剰投与を受けたALF過敏マウスにおける自然死は、アセトアミノフェン過剰投与(未処理)対照(15%)と、NAC(8%)又はカルマンガホジピル(8%)処理群との間にほぼ等しく分布していた。しかし、NAC+カルマンガホジピル併用治療群では、より少ない死に至る明確な傾向が見られた(1/28;4%)。この結果は、NAC又はCaMを単独で投与した場合(表1)、及び、示された量でNACとCaMを組み合わせることにより生じる、用量当たり比較的に少ない量のSOD模倣物投与した場合に見られる結果に基づいて、同様に、図6中に提示された結果の観点において、予測可能ではない。この興味深い結果は、最も高い死亡数がマンガン成分を含まないCaDPDPキレーター化合物群において見られる(CaDPDP、3/10;30%)ことにより証明されるように、特にCaMに関係していると思われる。
【0060】
ここに記載された特定の態様及び実施例は、本質的に例示的なもののみであり、請求項によって定義された本発明を限定することを意図しない。
さらなる態様及び実施例、並びにその利点は、この明細書の観点において当業者に自明であり、請求された発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8