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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ダイシングシート用基材フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
H01L21/78 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019093370
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020188215
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】田崎 竜幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 則英
(72)【発明者】
【氏名】中道 夏樹
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070092(JP,A)
【文献】特開2016-082165(JP,A)
【文献】特開2014-201672(JP,A)
【文献】特開2015-211172(JP,A)
【文献】特開2006-335787(JP,A)
【文献】特開2008-091765(JP,A)
【文献】特開2012-015341(JP,A)
【文献】特開2008-159701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層、B層、C層を有する積層フィルムであって、A層は十点平均粗さRzが1.5~15.0μmであり、B層は低密度ポリエチレンを含み、該低密度ポリエチレンの含有量が50重量%~100重量%であり、C層はオレフィン系熱可塑性エラストマーを有し、A層、B層、C層がこの順に積層されていることを特徴とするダイシングシート用基材フィルム。
【請求項2】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項3】
前記α-オレフィン系熱可塑性エラストマーが、プロピレン系エラストマーである請求項2に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項4】
C層樹脂硬度がショアD硬度で20~60である請求項1~3のいずれかに記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項5】
前記A層が平均粒子径30μm以下の有機微粒子を含む請求項1~4のいずれかに記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項6】
前記有機微粒子がポリエチレン微粒子である請求項5に記載のダイシングシート用基材フィルム。
【請求項7】
前記C層が、フレーム処理、プラズマ処理、もしくはコロナ処理のいずれかが施された請求項1~6のいずれかに記載のダイシングシート用基材フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハをチップ状にダイシングする際に、半導体ウェハを固定するために使用される、ダイシングシート用基材フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する方法として、円柱状の単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスし、エッチング、研磨の後、製造された12インチ、8インチ径程度の半導体ウェハをチップ状にダイシング(切断分離)し、ダイシングされたチップがエキスパンド工程に移されピックアップされる方法は知られている。
【0003】
前記半導体ウェハのダイシング工程で半導体ウェハを固定するために用いられるのがダイシングシートである。
【0004】
ダイシングシートは当該半導体ウェハを固定するための粘着層とそれを支える支持体としての樹脂層からなるが、その樹脂層として用いられるのがダイシングシート用基材フィルムであり、一般的には前記ダイシングシート用基材フィルムを製造後、後工程で粘着層が加工され、ロール状に巻き取り後、ダイシングシートとして保管、運搬されダイシングメーカーにてロール状から繰り出され使用される。
【0005】
半導体チップ製造における、ダイシング工程では半導体ウェハとともに粘着剤層及び支持体であるダイシングシート用基材フィルムも一部切断される(一般的にはハーフカットと表現される)。その際にダイシングブレードによる衝撃や摩擦による熱でダイシングシート用基材フィルム由来の切削屑(ダイシング後にフィルムから発生する糸状又はヒゲ状の屑、バリ、ヒゲとも表現される)が発生する。この切削屑はウェハを汚染しチップの収率の低下を引き起こす可能性がある。
【0006】
また、この切削屑が半導体チップのピックアップ時、センサー等機器の誤動作を引き起こすことで生産性の低下を引き起こすことを考慮すると、この切削屑が極力少ないという特性が要求される。
【0007】
さらにダイシングシートは、通常ロール状に巻いて製造、保管、運搬等される。そのため、フィルム同士のブロッキングが生じると品質の低下等が生じてしまう。つまり、ダイシングシートとして優れた品質を有していても、かかるブロッキングによる課題が生じることがあった。
【0008】
そこでダイシング工程、ピックアップ工程およびロール状物の保管、運搬等における様々な不具合をなくすことを主な目的として、次のようなダイシングシートが報告されている。
【0009】
特許文献1には、ダイシング工程時の切削屑を減らす手法として、ポリプロピレン系樹脂とオレフィン系熱可塑性エラストマーからなるダイシング用基体フィルム及びダイシングフィルムが提案されている。
【0010】
特許文献2においては、ダイシング工程時の切削屑を減らす手法として、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン炭化水素との共重合体およびポリプロピレン系樹脂を含む層を設けたダイシング用基体フィルムが提案されている。
【0011】
特許文献3には、多層構成でのダイシング用基体フィルムにおいて、第1層としてスチレン・ブタジエン共重合体(SEBS)30~80重量%とポリプロピレン系樹脂(PP)20~70重量%とからなる樹脂組成物100重量部及びオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)10~100重量部を含み、第2層としてゴム弾性を有する熱可塑性樹脂を含み、上記第1層及び第2層を積層してなる2層ダイシング用基体フィルムが記載されている。
【0012】
特許文献4には、少なくとも2層からなる基材フィルムにおいて、粘着剤層側の層の樹脂としてポリプロピレンが、粘着剤層側の樹脂層以外の層としてスチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2011-23575号公報
【文献】特開2011-23632号公報
【文献】特許第5068070号公報
【文献】特開2005-174963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載のダイシングシート用基材フィルムは、主要成分であるポリプロピレン系樹脂ではダイシングシート自身の柔軟性が損なわれ引張弾性率が高くなり過ぎ、充分なエキスパンド性が得られず破断しやすい問題がある。
【0015】
また、特許文献2および特許文献3に記載のダイシングシート用基材フィルムは、基材の両面でブロッキングが発生し、その後の粘着剤加工等の加工性が悪化するという問題がある。
【0016】
また、特許文献4に記載のダイシングシート用基材フィルムにおいては、ポリプロピレンでは十分な切削屑改善効果が得られない問題がある。
【0017】
本発明は、半導体ウェハのダイシング工程における切削屑の発生が抑制され、さらに破断強度とブロッキング防止性に優れたダイシングシート用基材フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
【0019】
少なくともA層、B層、C層を有する積層フィルムであって、A層は十点平均粗さRzが1.5~15.0μmであり、B層は低密度ポリエチレンを含み、該低密度ポリエチレンの含有量が50重量%~100重量%であり、C層はオレフィン系熱可塑性エラストマーからなることを特徴とするダイシングシート用基材フィルムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダイシングシート用基材フィルムは、ダイシング工程における切削屑の発生が殆どないためダイシング工程後のシリコンチップの汚染の心配がなく、またA層の表面の十点平均粗さRzを特定範囲とすることで、ロール状で保管されても経時でのブロッキングが生じない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のダイシングシート用基材フィルムは、少なくともA層、B層、C層の複層積層形態からなる積層フィルムである。A層は十点平均粗さRzが1.5~15.0μmであり、B層は低密度ポリエチレンを含み、当該低密度ポリエチレンの含有割合が50重量%~100重量%であり、かつC層がオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる。本発明のダイシングシート用基材フィルムは、A層、B層、C層がこの順で構成されていることが好ましい。なお、各層間には他の機能を有する層が設けられていてもよい。また、A層は最表層であることが好ましい。このような層構成にすることにより、トータルバランスに極めて優れたダイシングシート用基材フィルムが得られる。すなわち、ダイシング工程における切削屑の発生を抑制でき、かつロール状で保管されても経時でのブロッキングの心配がなくなるとともに、ダイシング工程後のエキスパンド工程において積層フィルムが破断する不具合がなくなる。またダイシングステージとの摩擦が少ないため、良好なエキスパンド性を得ることができる。
【0022】
本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、共押出成形、Tダイ成形、予め共押出成形、Tダイ成形またはインフレーション成形にて得られた層上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により他の層を積層する方法、各々の層を独立してフィルムとした後、得られた各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法等が挙げられるが、生産性の点から、前記A層、B層、C層の各材料を多層の押出機に供給して成形する共押出成形法が好ましく、厚み精度の点から、Tダイ成形法がより好ましい。
【0023】
共押出成形により製造する場合、前記A層、B層、C層の構成成分を各々溶融押出機から押出を行う。この時、樹脂の押出温度の上限は、好ましくは240℃、より好ましくは230℃、さらに好ましくは220℃である。樹脂の押出温度が240℃を超える場合、樹脂の熱劣化が起こり、ゲルが発生しやすくなる場合がある。樹脂の押出温度の下限は特に設けないが、180℃未満の樹脂温度では溶融粘度が高くなりすぎるため、生産性が低下する場合がある。
【0024】
以下に本発明のダイシングシート用基材フィルムを構成する各層の詳細を説明する。
【0025】
[A層]
本発明におけるA層は、十点平均粗さRzが1.5~15.0μmである。半導体ウェハのダイシング後のエキスパンド工程においてダイシングされたチップをピックアップするためにダイシングステージ上で半導体チップがダイシングフィルムごとエキスパンドされる。その際にA層の十点平均粗さRzが1.5μm未満であるとダイシングステージとダイシングフィルムの滑りが悪く上手くエキスパンドできない。加えてA層の十点平均粗さRzが1.5μm未満であるとロール状で保管、運送の際にダイシングシート用基材フィルムのA層とC層間で固着(ブロッキング)し、後の粘着加工工程においてロールを繰り出す際に不具合が生じる。また十点平均粗さRzが15.0μmを超える場合、ダイシングステージとの滑り性やブロッキング性は改善されるものの、ダイシングシート用基材フィルムの平面性が低下する問題が生じやすくなる。
【0026】
本発明では、十点平均粗さRzを1.5~15.0μmとするために、既存のエチレンプロピレンゴム(EPR)やポリエチレン(PE)が配合されたブロックポリプロピレンやエチレンプロピレンコポリマー(EPC)や無機粒子を用いて表面を粗らしても良いが、小粒径の有機微粒子を用いることが好ましい。具体的な有機微粒子としては、ポリエチレンやポリスチレンやポリメチルメタクリレート等を挙げることができるが、有機微粒子はポリエチレン微粒子であることがより好ましい。また有機微粒子の平均粒子径は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、10μm程度であることが特に好ましい。有機微粒子の平均粒子径を30μm以下とすることで、A層表面が適度な凹凸を有するようになり、またエキスパンド工程での滑り性が良好となる。加えて得られたダイシングシート用基材フィルムを巻き取った状態で製造・保管しても接する面にダメージを与えにくく、また有機微粒子の脱落が生じにくくなる。有機微粒子の平均粒子径が30μmを超えると製膜後のフィルムは粗大粒子の影響で平面性が劣り、また異物の原因となりうる。
【0027】
本発明ではA層の材質については特に限定しないが、後述するB層との相溶性やエキスパンド性、耐破断性を考慮すると、好ましくはポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくはポリエチレン系樹脂であり、特に好ましくは低密度ポリエチレン系樹脂である。
【0028】
[B層]
本発明ではB層の材質についてはダイシングシート用基材フィルムとしての性能を満たすために、低密度ポリエチレンが好ましく用いられる。低密度ポリエチレンは高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に大別されるが、破断強度に優れる直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。さらに、前記直鎖状低密度ポリエチレンの中でもメタロセン触媒で重合された直鎖状低密度ポリエチレンが、より破断強度に優れるためより好ましい。
【0029】
本発明において、低密度ポリエチレンの含有割合は50重量%~100重量%である。これにより本発明におけるB層に適度な柔軟性を与え、引張弾性率を低下させることでダイシング工程後のエキスパンド工程で良好な拡張性を発現できる。当該低密度ポリエチレンの含有割合は柔軟性を考慮すると70重量%~100重量%がより好ましく、90重量%~100重量%がさらに好ましい。当該低密度ポリエチレンの含有割合が50重量%未満の場合、十分な靭性および柔軟性が得られなくなるため、エキスパンド時にダイシングシート用基材フィルムが破断する不具合が生じやすくなる。
【0030】
本B層に含まれる低密度ポリエチレンは上記A層に含まれる低密度ポリエチレンと同一であることが層間の密着性向上の観点から好ましいが、異なっていてもよい。上記B層に含まれる低密度ポリエチレンは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。該低密度ポリエチレン樹脂の密度は、0.890~0.920g/cmが好ましい。該低密度ポリエチレン樹脂の密度が0.890g/cm以上であれば所望する柔軟性やハンドリング性が得られるが、0.920g/cmよりも密度が高くなるとB層に十分な靭性および柔軟性が得られないことがあるため、エキスパンド時にダイシングシート用基材フィルムが破断する不具合が生じることがある。また半導体ウェハのダイシング工程で切り屑が発生しやすくなり工程汚染の要因となりうることがある。
【0031】
[C層]
本発明におけるC層は、オレフィン系熱可塑性エラストマーが用いられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることにより、ダイシング時の切削屑が抑制されるとともに十分なエキスパンド性が得られる。
【0032】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィンブロックコポリマー、オレフィンランダムコポリマー、エチレンコポリマー、プロピレンコポリマー、エチレンオレフィンブロックコポリマー、プロピレンオレフィンブロックコポリマー、エチレンオレフィンランダムコポリマー、プロピレンオレフィンランダムコポリマー、エチレンプロピレンランダムコポリマー、エチレン(1-ブテン)ランダムコポリマー、エチレン(1-ペンテン)オレフィンブロックコポリマー、エチレン(1-ヘキセン)ランダムコポリマー、エチレン(1-ヘプテン)オレフィンブロックコポリマー、エチレン(1-オクテン)オレフィンブロックコポリマー、エチレン(1-ノネン)オレフィンブロックコポリマー、エチレン(1-デセン)オレフィンブロックコポリマー、プロピレンエチレンオレフィンブロックコポリマー、エチレン(α-オレフィン)コポリマー、エチレン(α-オレフィン)ランダムコポリマー、エチレン(α-オレフィン)ブロックコポリマー、アモルファスポリプロピレン、これらとポリエチレン(LLDPE、LDPE、HDPE(高密度ポリエチレン、あるいはその製法から中低圧法ポリエチレン)など)の組合せ、これらとポリプロピレンの組合せ、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
オレフィン系熱可塑性エラストマーは好ましくは、α-オレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用することにより、他のエラストマー樹脂(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて熱安定性が向上し、例えば、本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する際の成膜時の熱劣化を抑制することが可能となる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用することにより、他のエラストマー樹脂(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて保存安定性が向上し、本発明のダイシングシート用基材フィルムを保存している間における物性値の変動を抑制することが可能となる。
【0034】
また、本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用すると、C層の製造における工程が簡素化でき、加工費の抑制が可能となる。これは、他のエラストマー樹脂、例えばスチレン系エラストマーを採用する場合には、物性値をコントロールするために数種類のスチレン系エラストマーをブレンドする必要があり、製造工程における作業が煩雑となる。
【0035】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用すると、C層の製造において用いる樹脂の種類を少なくして押出成形することが可能となり、多種類の原料を準備する必要がなくなり得る。
【0036】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーとしてα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用する場合、該α-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、1種のみであっても良いし、2種以上のブレンドであっても良い。
【0037】
α-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばプロピレン系エラストマー、エチレン系エラストマー、1-ブテン系エラストマー(プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、1-ブテン単独共重合体、1-ブテン・エチレン共重合体、1-ブテン・プロピレン共重合体、4-メチルペンテン-1単独共重合体、4-メチルペンテン-1・プロピレン共重合体、4-メチルペンテン-1・1-ブテン共重合体、4-メチルペンテン-1・プロピレン・1-ブテン共重合体、またはこれらの組み合わせ)が挙げられる。
【0038】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーとして採用し得るα-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、その密度が、好ましくは0.830g/cm~0.890g/cmであり、より好ましくは0.835g/cm~0.888g/cmであり、さらに好ましくは0.835g/cm~0.886g/cmであり、特に好ましくは0.840g/cm~0.885g/cmであり、最も好ましくは0.845g/cm~0.885g/cmである。密度が上記範囲に収まるα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用することにより、より優れたカット性を有するダイシングシート用基材フィルムを提供することが可能となるとともに、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて熱安定性がより向上し、例えば、本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する際の成膜時の熱劣化をより抑制することが可能となり、また、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて保存安定性がより向上し、本発明のダイシングシート用基材フィルムを保存している間における物性値の変動をより抑制することが可能となり、さらに、C層の製造における工程がより簡素化でき、加工費の一層の抑制が可能となる。
【0039】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーとして採用し得るα-オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、その230℃で21.17NにおけるMFRが、好ましくは5.0g/10分~25.0g/10分であり、より好ましくは5.0g/10分~23.0g/10分であり、さらに好ましくは5.0g/10分~21.0g/10分であり、特に好ましくは5.0g/10分~20.0g/10分であり、最も好ましくは5.0g/10分~19.0g/10分である。MFRが上記範囲に収まるα-オレフィン系熱可塑性エラストマーを採用することにより、より優れたカット性を有するダイシングシート用基材フィルムを提供することが可能となるとともに、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて熱安定性がより向上し、例えば、本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する際の成膜時の熱劣化をより抑制することが可能となり、また、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて保存安定性がより向上し、本発明のダイシングシート用基材フィルムを保存している間における物性値の変動をより抑制することが可能となり、さらに、C層の製造における工程がより簡素化でき、加工費の一層の抑制が可能となる。
【0040】
本発明においては、オレフィン系熱可塑性エラストマーとして採用し得るα-オレフィン系熱可塑性エラストマーの中でも、特に、プロピレン系エラストマーが好ましい。プロピレン系エラストマーをオレフィン系熱可塑性エラストマーとして採用することにより、非常に優れたカット性を有するダイシングシート用基材フィルムを提供することが可能となるとともに、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて熱安定性がより一層向上し、例えば、本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する際の成膜時の熱劣化をより一層抑制することが可能となり、また、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて保存安定性がより一層向上し、本発明のダイシングシート用基材フィルムを保存している間における物性値の変動をより一層抑制することが可能となり、さらに、C層の製造における工程がより一層簡素化でき、加工費のより一層の抑制が可能となる。
【0041】
また本発明においては、C層樹脂硬度がショアD硬度で20~60であることが好ましい。特にオレフィン系熱可塑性エラストマーとして、プロピレン系エラストマーのショアD硬度が20~60であることが好ましい。ショアD硬度が20未満の場合、製膜後のフィルムの粘着性が強くなりブロッキング性が悪化する要因となりうる。また物理特性の低下が懸念されエキスパンド工程でダイシングフィルムの破断の要因となりうる。またショアD硬度が60を超える場合、ダイシングフィルムとしての柔軟性が失われエキスパンド工程での拡張性や破断性が問題となりうる。
【0042】
上記のようなプロピレン系エラストマーは、市販品として入手することも可能である。このような市販品としては、例えば、三井化学株式会社製の「タフマー」(登録商標)XMシリーズ、同社製の「タフマー」(登録商標)PNシリーズ、エクソンモービル社製の「ビスタマックス(Vistamaxx)」(登録商標)シリーズ(例えば、ビスタマックス6202、ビスタマックス3980FL等)が挙げられる。
【0043】
本発明において、オレフィン系熱可塑性エラストマーとして採用し得るα-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、好ましくはメタロセン触媒を用いて製造されたものが好ましい。メタロセン触媒を用いて製造されたα-オレフィン系熱可塑性エラストマーは、非常に優れたカット性を有するダイシングシート用基材フィルムを提供することが可能となるとともに、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて熱安定性がより一層向上し、例えば、本発明のダイシングシート用基材フィルムを製造する際の成膜時の熱劣化をより一層抑制することが可能となり、また、他のエラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)に比べて保存安定性がより一層向上し、本発明のダイシングシート用基材フィルムを保存している間における物性値の変動をより一層抑制することが可能となり、さらに、C層の製造における工程がより一層簡素化でき、加工費のより一層の抑制が可能となる。
【0044】
C層は、本発明における効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の成分を含んでよい。このような他の成分としては、例えば、他のポリマー、粘着付与剤、可塑剤、劣化防止剤、顔料、染料、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、発泡剤、熱安定化剤、光安定化剤、無機フィラー、有機フィラーなどが挙げられる。これらは、1種のみであっても、2種以上であっても良い。C層中の他の成分の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは7重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下であり、最も好ましくは1重量%以下である。
【0045】
C層の厚さは、好ましくは10μm~100μmであり、より好ましくは10μm~80μmであり、さらに好ましくは10μm~60μmであり、特に好ましくは20μm~50μmである。C層の厚さがこのような範囲に収まることにより、より優れたダイシング性を有するダイシングシート用基材フィルムを提供することが可能となる。
【0046】
本発明のダイシングシート用基材フィルムは製膜された後、C層上に粘着剤が加工されダイシングシートとして半導体ウェハのダイシング工程、エキスパンド工程で使用される。粘着剤が加工されるC層は、粘着剤の密着性を向上するために表面処理されることが好ましい。その表面処理方法としてはエンボス加工、ヘアライン加工などの機械的処理、プラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理などの物理化学的処理、カップリング剤を用いたプライマー処理などの科学的処理が例示される。中でもその簡便さや処理時の環境負荷低減を考慮するとプラズマ処理、コロナ処理、フレーム処理などの物理化学的処理がより好ましい。
【実施例
【0047】
以下に本発明について実施例、比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例は以下に示した評価方法を用いて評価を行った。その結果を表1に示した。
【0048】
(1)十点平均粗さRz
十点平均粗さRzは、(株)小坂研究所製の高精度微細形状測定器(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601-2013に準拠し、フィルム横方向に2mm、フィルム縦方向に0.2mmの範囲について、走査方向を横方向とし、縦方向10μm間隔で11回の測定を実施し3次元解析を行い、評価した。なお、触針先端半径2.0μmのダイヤモンド針を使用、測定力100μN、カットオフ0.8mmで測定した。
【0049】
(2)ショアD硬度
ASTM D2240に準拠する形でC層に使用される原料の硬度を測定した。
【0050】
(3)バリ(ヒゲ)状切削屑発生評価
A.ダイシング
株式会社DISCO製セミオートマチックダイシングソー(DAD-3350)を用いた。
ブレード:ZH05-SD4000-N1-70 ED
ブレード回転数:25000rpm
カット速度:50mm/sec
カット深さ:30μm
切削水量:1.25リットル/min
切削水温度:23℃
上記条件を設定し、A4サイズのフィルムをダイシングソーにセットしてMD方向(Machine Direction:樹脂の流れ方向)に長さ100mm、5mm間隔で3本、90°反転し同じくTD方向(Transverse Direction:樹脂の幅方向)に長さ100mm、5mm間隔で3本表層をカットした。
【0051】
B.切削面観測
キーエンス製光学顕微鏡VHX-5000を用い、MD、TD交差した十字の9個所を観測した。
倍率:×1000
判定基準
〇:バリ(ヒゲ)0個
△:バリ(ヒゲ)1~4個
×:バリ(ヒゲ)5個以上。
【0052】
(4)ブロッキング性評価
幅30mmで長さ100mmのフィルムサンプルを準備し、A層(表面)とC層(裏面)を30mm×40mmの範囲を重ね合わせて、4.9N(0.5kgf)/12cmの荷重をかけ、23℃×24時間エージングした後、エー・アンド・ディ社製テンシロンを使用して300mm/分の引張速度で剪断剥離力を測定した。
判定基準
〇:0.5N/12cm未満
×:0.5N/12cm以上。
【0053】
(5)破断性評価
直径6インチの塩化ビニル樹脂管にダイシングシート用基材フィルムを固定し、上から直径5mmのニードルで14.7N(1.5kgf)の荷重で突き刺した際の、ダイシングシート用基材フィルムの引き裂きを、以下の基準で評価した。
○:引き裂かれない
△:一部に破れが生じる
×:引き裂かれる。
【0054】
<ポリエチレン微粒子マスターバッチ>
(A1):平均粒子径が10μmの三井化学社製の高分子量ポリエチレン微粒子「ミペロン」PM200とメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製「エボリュー」SP1540、MFR 3.8g/min(190℃、21.17Nで測定))の、重量比10:90からなるポリエチレン微粒子マスターバッチ(A1)を作製した。
(A2):平均粒子径が15μmの綜研化学社製の架橋アクリル単分散粒子MX-1500Hとメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(プライムポリマー社製「エボリュー」SP1540、MFR 3.8g/min(190℃、21.17Nで測定))の、重量比10:90からなるアクリル微粒子マスターバッチ(A2)を作製した。
【0055】
<樹脂>
(PE1)商品名「エボリュー」SP1540、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン、プライムポリマー社製、密度0.913g/cm、MFR3.8g/min(190℃、21.17Nで測定)
(PE2)商品名「ハーモレックス」NH745N、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン、日本ポリエチレン社製、密度0.913g/cm、MFR8.0g/min(190℃、21.17Nで測定)
(PE3)商品名「ノバテック」HF562、高密度ポリエチレン、日本ポリエチレン社製、密度0.963g/cm、MFR7.5g/min(190℃、21.17Nで測定)
(PE4)商品名「サンテック」L6810、低密度ポリエチレン、旭化成社製、密度0.918g/cm、MFR10.5g/min(190℃、21.17Nで測定)
(PP1)商品名「ビスタマックス」3980FL、プロピレン系エラストマー、エクソンモービル社製、密度0.879g/cm、MFR8.0g/min(230℃、21.17Nで測定)
(PP2)商品名「タフマー」XM7070、プロピレン系エラストマー、三井化学社製、密度0.870g/cm、MFR7.0g/min(230℃、21.17Nで測定)。
【0056】
(実施例1)
各層の構成樹脂を次のように準備した。
A層:(PE1)を90重量%と、(A1)を10重量%とを用いた。
B層:(PE1)を100重量%用いた。
C層:(PP1)を100重量%用いた。
【0057】
次に、各層の構成樹脂を、3台の押出機を有するTダイ複合製膜機のそれぞれの押出機に投入し、A層12.5μm、B層67.5μm、C層20.0μmになるように各押出機の吐出量を調整し、この順で積層して複合Tダイから押出温度210℃にて押出し、総厚さ100μmのフィルム状に成形した。
【0058】
その後、得られた積層フィルムについて、上記した方法により積層フィルムの評価を実施した。
【0059】
(実施例2)
A層:(PE1)を80重量%、(A1)を20重量%の比率に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0060】
(実施例3)
A層:(PE1)を70重量%、(A1)を30重量%の比率に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0061】
(実施例4)
実施例1のA層およびB層を、(PE1)から(PE2)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0062】
(実施例5)
実施例2のA層およびB層のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン)を、(PE1)から(PE2)に変更した以外は実施例2と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0063】
(実施例6)
実施例3のA層およびB層のポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン)を、(PE1)から(PE2)に変更した以外は実施例3と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0064】
(実施例7)
実施例1のC層を、(PP1)から(PP2)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0065】
(実施例8)
実施例1のB層を、(PE1)100重量%から、(PE1)が50重量%、(PP1)が50重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0066】
(実施例9)
実施例1のA層を、(A1)から(A2)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0067】
(比較例1)
実施例1のA層を、(PE1)が90重量%、(A1)が10重量%から、(PE1)100重量%に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0068】
(比較例2)
実施例1のB層を、(PE1)から、(PE3)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0069】
(比較例3)
実施例1のA層の(PP1)を、(PE1)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0070】
(比較例4)
実施例1のC層の(PP1)を、(PE4)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0071】
(比較例5)
実施例1のC層の(PP1)を、(PE3)に変更した以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを成形、評価を実施した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果から、実施例は、ダイシング時の切削屑の発生が抑制され、かつロール状に巻いた時のブロッキングが起こりにくく、また破断しにくいフィルムであることがわかる。
【0074】
一方、比較例1は、A層の表面粗さが小さいためにブロッキングが発生した。比較例2は、B層が低密度ポリエチレンを主成分としたものでないため破断強度が劣る。比較例3~5はC層にオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いておらず、ダイシング時の切削屑が発生しやすい。