(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】2層布帛、および、それを用いた熱防護衣料
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20230711BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230711BHJP
A41D 31/08 20190101ALI20230711BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20230711BHJP
D03D 15/513 20210101ALI20230711BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
D04B1/00 B
A41D31/00 502A
A41D31/08
D03D11/00 Z
D03D15/513
D04B1/14
(21)【出願番号】P 2019101275
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤男
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535415(JP,A)
【文献】特開昭48-006068(JP,A)
【文献】国際公開第01/044551(WO,A1)
【文献】特開2018-96007(JP,A)
【文献】特開昭62-53454(JP,A)
【文献】国際公開第2018/216572(WO,A1)
【文献】特開2016-183427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/00-13/12
20/00
31/00-31/32
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃繊維を含み、2層の面とその層を結ぶ結接糸とを有し、JIS L 1096のフラジール法に規定される通気度が140cm
3/cm
2・sec以上であ
り、少なくとも一方の面が複数の轍状の凹凸を有し、凸部と凹部は直径が異なる繊維を含むことを特徴とする2層布帛。
【請求項2】
少なくとも布帛の最大厚みが最小厚みの1.5倍以上となる
請求項1に記載の2層布帛。
【請求項3】
凹部の最大幅/凸部の最小幅が0.4~2倍となる
請求項1または2に記載の2層布帛。
【請求項4】
JIS L 1096に規定される目付が400g/m
2以下である
請求項1から3のいずれか1つに記載の2層布帛。
【請求項5】
難燃繊維がJIS L1091 E-2法に規定されるLOIが26以上の繊維である
請求項1から4のいずれか1つに記載の2層布帛。
【請求項6】
布帛の製造方向に対し直交方向に配置される緯糸に直径の異なる繊維が使用されることで轍状の凹凸が形成された
請求項1から5のいずれか1つに記載の2層布帛。
【請求項7】
他方の面が平坦である
請求項1から6のいずれか1つに記載の2層布帛。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の2層布帛を用いてなる熱防護衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、遮熱性および通気性に優れ、軽量な布帛および熱防護衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表地層と裏地層の2層の面を結接糸で結んだ2層布帛(ダンボールニットとも称する)が提案されている。例えば、特許文献1では全芳香族ポリアミド繊維を含む繊維によって難燃性および遮熱性に優れる2層布帛が提案され、特許文献2では表地層と裏地層とがことなる特性を持った繊維で構成される2層布帛が提案されている。これらの2層布帛は遮熱性が高く消防服などの用途としては優れるが、重量が大きいため、その他の熱防護衣料用の2層布帛としては改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-96007号公報
【文献】特表2018-500477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、難燃性、遮熱性および通気性に優れ軽量な布帛および熱防護衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、難燃繊維を用いることで、遮熱性に優れる2層布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより通気性の向上および軽量化を達成し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、難燃繊維を含み、2層の面とその層を結ぶ結接糸とを有し、JIS L 1096のフラジール法に規定される通気度が140cm3/cm2・sec以上である2層布帛が提供される。また、2層布帛は、少なくとも一方の面が複数の轍状の凹凸を有し、凸部と凹部は直径が異なる繊維を含むことが好ましい。また、2層布帛は、少なくとも布帛の最大厚みが最小厚みの1.5倍以上となることが好ましい。また、2層布帛は、凹部の最大幅/凸部の最小幅が0.4~2倍となることが好ましい。また、2層布帛は、JIS L 1096に規定される目付が400g/m2以下であることが好ましい。また、2層布帛は、難燃繊維がJIS L1091 E-2法に規定されるLOIが26以上の繊維であることが好ましい。また、2層布帛は、布帛の製造方向に対し直交方向に配置される緯糸に直径の異なる繊維が使用されることで轍状の凹凸が形成されることが好ましい。また、2層布帛は、他方の面が平坦であることが好ましい。
また、本発明によれば、上記の層布帛を用いてなる熱防護衣料が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の2層布帛およびそれを用いた熱防護衣料によって、遮熱性と通気性に優れ、かつ軽量化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の2重布帛に形成される轍状の凹凸の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
本発明の2層布帛は、織組織を有する表地層および裏地層の2層と、その2層を結接糸で結んで形成される。なお、表地層と裏地層との間の空間を結接層とする。また、当該2重布帛は、ダンボール布帛、ダンボールニット、表地層と裏地層とそれらの層を接続する結接層が一体的に形成された遮熱布帛などとも称される。2層布帛は表地層と裏地層との間に結接層を有するため、通常の布帛よりもはるかに遮熱性が高い。
【0011】
2重布帛の表地層は結接糸によって結接層の山部で結接され、他方、裏地層も結接糸によって結接層の谷部で結接される。その際、結接層は緯糸方向に蛇行していてもよいし、経糸方向に蛇行していてもよい。結接層が緯糸方向に蛇行する場合は、結接層の山部および谷部は経糸方向に連続し、結接層が経糸方向に蛇行する場合は、結接層の山部および谷部は緯糸方向に連続する。
【0012】
なお、結接層は緩やかなカーブで波状に屈曲していてもよいし、直線的にジグザグに屈曲していてもよい。その際、波状に屈曲した結接層において、隣り合う山部の中間に谷部が位置し、かつ隣り合う山部の間隔が2~10mm(より好ましくは3~7mm)の範囲であると、へたりにくく安定した厚みを維持でき、遮熱性を維持できる。
【0013】
2重布帛の通気度は、140cm3/cm2・sec以上(より好ましくは170cm3/cm2・sec以上)であると通気性に優れており好ましい。
【0014】
2重布帛の目付は、400g/m2以下(より好ましくは250~350g/m2)であると、布帛の軽量性が向上し好ましい。
【0015】
また、2層布帛は、難燃繊維を含み、織組織を有する表地および裏地の2層と、その2層を結接糸で結んで形成される。
【0016】
本発明に用いられる繊維は、難燃繊維を含むことが好ましく、より好ましくは、JIS L1091 E-2法に規定されるLOIが26以上の繊維であることが好ましい。
【0017】
難燃繊維は、例えば、全芳香族ポリアミド繊維(メタ型全芳香族ポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維)、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃レーヨン繊維、難燃ビニロン繊維、難燃ウール繊維などを単一または混合して使用することができる。
【0018】
さらに、難燃繊維は、融点が300℃以上であることが好ましい。そのような繊維として、全芳香族ポリアミド繊維(メタ型全芳香族ポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維)、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維などが例示される。
【0019】
また、これらの難燃繊維は、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、酸化チタン、着色剤、不活性微粒子などの添加剤を含有してもよい。
【0020】
特に、難燃繊維は、LOIが26以上、かつ、融点が400℃以上であることが好ましい。そのような繊維として、全芳香族ポリアミド繊維(メタ型全芳香族ポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維)を挙げることができる。
【0021】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その繰返し単位の85モル%以上がm-フェニレンイソフタルアミドであるポリマーからなる繊維である。なお、メタ型全芳香族ポリアミドは、15モル%未満の範囲内で第3成分を含んだ共重合体であってもよい。
【0022】
このようなメタ型全芳香族ポリアミドは、公知の界面重合法により製造することができ、そのポリマーの重合度は、0.5g/100mlの濃度のN-メチル-2-ピロリドン溶液で測定した固有粘度(I.V.)が1.3~1.9dl/gの範囲にあるものが好ましい。
【0023】
また、メタ型全芳香族ポリアミドにはアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩が含有されていてもよい。アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩は、例えば、ヘキシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ヘキシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルテトラデシルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩等の化合物が挙げられる。なかでもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、またはドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩は、入手しやすく、熱的安定性も良好なうえ、N-メチル-2-ピロリドンに対する溶解度も高いため好ましい。
【0024】
アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩の含有割合は、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドに対して2.5モル%以上、好ましくは3.0~7.0モル%の範囲にある事で十分な染色性の改良効果を得るため好ましい。
【0025】
また、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドとアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を混合する方法は、溶媒中にポリ-m-フェニレンイソフタルアミドを混合、溶解した後、アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩をその溶媒に溶解する方法などが用いられる。このようにして得られたドープは、公知の方法により繊維に形成される。
【0026】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維に用いるポリマーは、染着性や耐変褪色性を向上させるなどの目的で、下記の式(1)で示される反復構造単位を含む芳香族ポリアミド骨格中に、反復構造の主たる構成単位とは異なる芳香族ジアミン成分、または芳香族ジカルボン酸ハライド成分を、第3成分として芳香族ポリアミドの反復構造単位の全量に対し1~10モル%となるように共重合させてもよい。
-(NH-Ar1-NH-CO-Ar1-CO)- ・・・式(1)
Ar1はメタ配位または平行軸方向以外に結合基を有する2価の芳香族基である。
【0027】
なお、第3成分として下記の式(2)、(3)、(4)、(5)で示される芳香族ジアミンまたは芳香族ジカルボン酸ジクロライドを共重合させることが可能である。
式(2)、(3)に示した芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p-フェニレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、アセチルフェニレンジアミン、アミノアニシジン、ベンジジン、ビス(アミノフェニル)エーテル、ビス(アミノフェニル)スルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノアゾベンゼンなどが挙げられる。式(4)、(5)に示すような芳香族ジカルボン酸ジクロライドの具体例としては、例えば、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、5-クロルイソフタル酸クロライド、5-メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテルなどが挙げられる。
H2N-Ar2-NH2 ・・・式(2)
H2N-Ar2-Y-Ar2-NH2 ・・・式(3)
XOC-Ar3-COX ・・・式(4)
XOC-Ar3-Y-Ar3-COX ・・・式(5)
Ar2はAr1とは異なる2価の芳香族基、Ar3はAr1とは異なる2価の芳香族基、Yは酸素原子、硫黄原子、アルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子または官能基であり、Xはハロゲン原子を表す。
【0028】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の結晶化度は、染料の吸尽性がよく、少量の染料や染色条件が弱いなどの条件でも狙いの色に調整し易いという点で、5~35%であることが好ましい。さらには、染料の表面偏在が起こり難く耐変褪色性も高い点および実用上必要な寸法安定性も確保できる点で15~25%であることがより好ましい。
【0029】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の残存溶媒量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の優れた難燃性能を損なわない点で、0.1質量%以下(好ましくは0.001~0.1質量%)であることが好ましい。
【0030】
なお、メタ型全芳香族ポリアミド繊維として、優れた耐光堅牢度を得る上で、例えば、国際公開公報第2013/061901号パンフレットに記載されているような公知の原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
【0031】
すなわち、本発明に用いられる顔料は、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の有機顔料、あるいは、カーボンブラック、群青、ベンガラ、酸化チタン、酸化鉄などの無機顔料が例示される。
【0032】
また、メタ型全芳香族ポリアミドと顔料との混合方法は、アミド系溶媒中に顔料を均一分散したアミド系溶媒スラリーを作製し、当該アミド系溶媒スラリーをメタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液に添加する方法、あるいは顔料粉末を直接、メタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液に添加する方法などが例示される。
【0033】
顔料配合量としては、メタ型全芳香族ポリアミドに対して10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下である。10.0質量%より多く添加した場合には、得られる繊維の物性が低下するおそれがある。
【0034】
メタ型全芳香族ポリアミドポリマーの重合方法は、例えば、特公昭35-14399号公報、米国特許第3360595号公報、特公昭47-10863号公報などに記載された溶液重合法、界面重合法を用いてもよい。
【0035】
紡糸液は、上記溶液重合や界面重合などで得られた、芳香族コポリアミドポリマーを含むアミド系溶媒を用いてもよいし、上記重合溶液から該ポリマーを単離し、これをアミド系溶媒に溶解したものなどを用いてもよい。
【0036】
重合に用いられるアミド系溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを例示することができる。その中でも特にN,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0037】
得られた共重合芳香族ポリアミドポリマー溶液は、さらにアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含むことで安定化され、より高濃度、低温での使用が可能となり好ましい。アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩はポリマー溶液の全質量に対して1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。その際、前記のような難燃剤を含ませることが好ましい。
【0038】
紡糸・凝固工程は、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液または原着メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
紡糸装置は特に限定されるものではなく、公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状などは特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1000~30000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。なお、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を紡糸口金から紡出する際の温度は、20~90℃の範囲が適当である。
【0039】
繊維を得るために用いる凝固浴は、実質的に無機塩を含まないアミド系溶媒で行う。特に、NMPの濃度が45~60質量%の水溶液を、浴液の温度10~50℃の範囲で用いることが好ましい。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となり、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となるおそれがある。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができないため、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1~30秒の範囲が適当である。
【0040】
延伸は、アミド系溶媒で行う。特に、NMPの濃度が45~60質量%の水溶液であり、浴液の温度を10~50℃の範囲とした可塑延伸浴中にて、3~4倍の延伸倍率で行うことが好ましい。延伸後、10~30℃のNMPの濃度が20~40質量%の水溶液、続いて50~70℃の温水浴を通して十分に洗浄を行う。
【0041】
洗浄後の繊維は、温度270~290℃にて乾熱処理を施し、上記の結晶化度および残存溶媒量の範囲を満たすメタ型全芳香族アラミド繊維を得ることができる。
【0042】
上述した方法により、結晶化度や残存溶媒量を上述した好ましい範囲とすることができる。
【0043】
なお、メタ型全芳香族アラミド繊維、長繊維(マルチフィラメント)でもよいし短繊維でもよい。他の繊維と混紡する場合、繊維長が25~200mmの短繊維が好ましく、単繊維繊度が1~5dtexの範囲であるとより好ましい。
【0044】
また、メタ型全芳香族アラミド繊維がパラ型全芳香族ポリアミド繊維との混紡糸として布帛に含まれていると、布帛の強度が向上するため好ましい。その際、パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラフェニレンテレフタラミド繊維またはコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維がより好ましい。
【0045】
混紡糸には、導電性繊維など他の合成繊維が含まれていてもよい。導電性繊維は、導電部の導電体として、例えば、カーボンブラック、金属粒子(銀粒子、銅粒子、アルミ粒子等)や、金属酸化物(酸化チタン、酸化第2錫、酸化亜鉛、酸化インジウム等を主体とする粒子)や、導電性酸化物をコーティングした粒子等を含有した導電性粒子含有ポリマーなどの少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0046】
導電性繊維の形態は、繊維全体が導電部からなる構造でもよいし、非導電部と導電部が芯鞘、サンドイッチ、偏芯などの断面形状を有していてもよい。導電部、非導電部を形成する樹脂は、繊維形成性を有していれば、特段限定されるものではない。具体的には、ナイロン樹脂では、6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、66ナイロンなどが挙げられる。また、ポリエステル樹脂では、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレートおよびこれらの共重合体や酸成分(テレフタル酸)の一部をイソフタル酸で置き換えたものなどが挙げられる。
【0047】
市販されている導電性繊維としては、帝人社製「メタリアン」(商品名)、ユニチカファイバー製「メガーナ」(商品名)、東レ社製「ルアナ」(商品名)、クラレ社製「クラカーボ」(商品名)などが例示される。特に、導電性成分が鞘部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。かかる芯鞘型複合繊維としては、ソルシア社製「NO SHOCK(登録商標)」が好ましい。
【0048】
布帛に用いられる繊維は、マルチフィラメント(長繊維)や、前述した繊維が混紡された紡績糸を用いることが好ましい。特に、機能性の面から紡績糸であることが好ましい。その場合、一般に衣料用で用いられる番手、たとえば英式綿番手20番から60番の間であることが好ましい。なお、紡績糸は単糸で使用してもよいし撚糸後使用してもよい。換言すると、2重布帛に用いられる繊維は、単糸繊度1.5dtex以下(好ましくは、0.05~1.2dtex)かつフィラメント数30以上(好ましくは70~200)のマルチフィラメント(長繊維)または前述した繊維が混紡された紡績糸を用いることが好ましい。なお、紡績糸単糸で使用してもよいし撚糸後使用してもよい。単糸繊度が1.5dtexよりも大きいと、ソフトな風合いが得られず好ましくない。同様に、フィラメント数が30より小さい場合もソフトな風合いが得られず好ましくない。
【0049】
2重布帛は、公知の2重布帛(ダンボール布帛、ダンボールニット)の製造方法で製造されればよく、丸編による製造が好ましい。なお、2重布帛の表地層および裏地層は平織り、綾織りなどの公知の織組織でよい。製造の容易性の点では平組織が好ましい。
【0050】
2重布帛は、少なくとも一方の面が複数の轍状の凹凸を有することが好ましい。轍状の凹凸は両面に形成されていてもよし、一方の面が轍状の凹凸、他方の面が平坦であってもよい。特に、轍状の凹凸は裏地側、すなわち衣服にした際の肌側の面に形成されることが好ましい。なお、轍状の凹凸は階段状に複数の段を有していてもよいし、一定のパターンで凹部と凸部とが交互に配置されていてもよい。
【0051】
かかる轍状の凹凸により空気層が形成され、遮熱性が向上する。従来、熱防護衣料の熱防護性を高めるためには布帛の高密度化や高目付化を行うことが一般的であり、必然的に低通気度となり不快となる傾向にあった。一方、本発明は、空気層を肌側に配置することで通常時は肌との接触面積を低下させ、かつ、轍状の凹凸によって通気性を向上することができ、さらに熱防護性を阻害しないという優れた効果を奏する。なお、轍状の凹凸は平坦でなく、空気層を形成することができることを示す。なお、凹部と凸部とは相対的な位置関係を示す。
【0052】
2重布帛の轍状の凹凸が形成される層は、その凸部と凹部とに直径が異なる繊維が含まれることで表面に轍状の凹凸を形成している。特に、布帛の製造方向に対し直交方向に配置される緯糸に直径の異なる繊維が使用されることで轍状の凹凸が形成されることが好ましい。さらには丸編による製造の場合、轍状の凹凸を形成するために、直径の太い糸(太線度糸)と直径の細い糸(細繊度糸)を給糸装置(フィーダー)に凹部と凸部の幅に応じた繰り返し単位で装着し、給糸する方法が好ましい。
【0053】
2重布帛を熱防護衣料用の布帛として用いる場合、厚みの最大部分である、最大厚み(Tmax(mm))は1.5mm以上2.2mm以下であることが好ましい(より好ましくは1.8mm以上2.1mm以下)。この最大厚みを有することで、熱防護性と衣料としての動きやすさとを両立することができる。
【0054】
2重布帛を熱防護衣料用の布帛として用いる場合、2重布帛の厚みの最小部分である、最小厚み(Tmin(mm))は、布帛の最大厚みが最小厚みの1.5倍以上、すなわち、最小厚み(Tmin(mm))×1.5≦最大厚み(Tmax(mm))を満たすことが好ましい。この最小厚みとすることで空気層を確保し通気性を向上することができる。また、布帛としての強度保持の観点から、最小厚みは0.5mm以上であることが好ましい。
【0055】
2重布帛を熱防護衣料用の布帛として用いる場合、2重布帛の凹部の最大幅(Wmax)と凸部の最小幅(Wmin)の関係は、凹部の最大幅/凸部の最小幅が0.4~2倍の関係を満たすことが好ましい。さらに、2重布帛の凸部の幅は、1.5mm以上(より好ましくは2.0mm以上)であることが好ましく、凹部の幅は1.5mm(より好ましく1.7mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上)であることが好ましい。これら範囲とすることで布帛の強度(変形強度)と通気性とを両立することができる。
【0056】
なお、2重布帛は、染色加工を施すことが好ましい。その際、着色手段としては公知の手段が可能である。例えば、全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)を用いる場合、繊維は原着であってもよいし、キャリア剤を用いて染色してもよい。さらには、常法の吸水加工、撥水加工、起毛加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0057】
2重布帛の耐熱性は、ISO11612に基づき規定される熱伝達性評価のうちISO6942においてセンサー温度が24℃上昇するまでの時間RHTI24が15秒以上(より好ましくは18秒以上)であることが好ましく、ISO9151において、センサー温度が24℃上昇するまので時間HTI24が8秒以上(より好ましくは9秒以上)であることも好ましい。
【0058】
また、本発明の熱防護衣料は前述した2重布帛を用いてなる熱防護衣料である。具体的には、消防服、防火服、執務服、モータースポーツ用レーシングスーツ、作業服、手袋、帽子、ベストなどが例示される。かかる熱防護衣料は前記の布帛を用いているため、難燃性、遮熱性および通気性に優れる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
(1)最大厚み(Tmax)
JIS L 1096 A法により、普通編物用の条件である0.7kPaの荷重をかけ測定を行なった。
(2)最小厚み(Tmin)
布帛(裏地層)の断面をマイクロスコープ(KEYENCE(キーエンス)VHX-5000)で100倍に拡大観察し、1つの凹部の少なくとも5か所の厚さ(mm)を測定し、得られた値の最大値と最小値を除外した厚さの平均値を凹部の厚みとして轍状の凹凸の段差の底部の厚さを測定した。厚さの異なる段差の底部の厚さのうち、最も厚みが薄い部分を最小厚みとした。
なお、丸編等のように同種の繊維によって、一定の繰り返し単位の凹凸が得られる場合、繰り返し単位の任意の3か所を測定した平均から最小厚みをもとめた。
(3)轍状の凹凸部分の幅(Wmax,Wmin)
布帛(裏地層)の轍状の凹凸の段差面をマイクロスコープ(KEYENCE(キーエンス)VHX-5000)で100倍に拡大観察し、1つの凹部の少なくとも5か所の幅(mm)を測定し、得られた値の最大値と最小値を除外した幅の平均値を凹部の幅とした。幅の異なる凹部のうち、もっとも幅が長い部分を最大幅(Wmax)とした。
また、1つの凸部の少なくとも5か所の幅(mm)を測定し、得られた値の最大値と最小値を除外した幅の平均値を凸部の幅とした。幅の異なる凸部のうち、もっとも幅が短い部分を最小幅(Wmin)とした。
なお、丸編等のように、一定の繰り返し単位の凹凸が得られる場合、繰り返し単位の任意の3か所を測定した平均から最大幅(Wmax)、最小幅(Wmin)をもとめた。
(4)通気性
JIS L 1096-1990 通気性A法(フラジール法)で測定した。
(5)遮熱性(耐輻射熱)
ISO6942(2003)に基づき熱流束20kW/m2において、輻射熱曝露開始から銅製のセンサーが24℃上昇する時間、RHTI24を求めた。なお、平坦な面側に熱源を配置した。
(6)遮熱性(耐対流熱)
ISO9151(2003)に基づき熱流束80kW/m2において、対流熱曝露開始から銅製のセンサーが24℃上昇する時間、HTI24を求めた。なお、平坦な面側に熱源を配置した。
【0060】
[実施例1~6、比較例1~3]
以下の素材を用いて、公知の方法により表1に示すように英式綿番手20番、60番の単糸を製造した。
「メタ型全芳香族ポリアミド繊維原着単繊維」帝人株式会社製、「コーネックス」(登録商標)、平均単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm(以下メタアラミド)。
「パラ型全芳香族ポリアミド短繊維」帝人株式会社製、「テクノーラ」(登録商標)、平均単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm(以下パラアラミド)。
【0061】
【0062】
20ゲージ、釜径33インチのダブル丸編機を使用し、表2に示した糸使い丸編物を得た。実施例1~6で得られたものは、内側の面が編組織により轍状の凹凸を有し、外側の面が平坦であった。また、比較例1、2、3で得られたものは両方の面が平坦であった。これらの評価結果を表2に示す。
【0063】