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  • 特許-燃料噴射弁 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/06 20060101AFI20230711BHJP
   F02M 61/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F02M51/06 B
F02M51/06 H
F02M51/06 K
F02M61/04 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019105869
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020200767
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】前川 仁之
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224615(JP,A)
【文献】特開2013-253481(JP,A)
【文献】特開2012-167697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を噴射するための噴孔(511)が、長手方向における一端に形成されたハウジング(100)と、
前記ハウジングの内部において前記長手方向に沿って移動することにより、前記噴孔の開閉を切り換えるニードル(200)と、
少なくとも一部が磁性体によって形成された部材であって、前記ハウジングの内部に固定されている固定コア(400)と、
少なくとも一部が磁性体によって形成された部材であって、前記ハウジングの内部において、前記長手方向に沿って前記ニードルと共に移動可能な状態で配置されている可動コア(300)と、
前記固定コアと前記可動コアとの間に磁気吸引力を発生させるコイル(600)と、を備え、
前記可動コアは、
大径部(310,320)と、
前記大径部よりも外径の小さな部分であって、前記長手方向に沿って前記大径部と隣り合う位置に配置されている小径部(330)と、を有しており、
前記大径部及び前記小径部は互いに別体の部材であって、
前記大径部及び前記小径部のそれぞれが、前記ハウジングの内周面に沿って摺動するように構成されており、
前記大径部よりも前記小径部側であり、且つ前記小径部の周囲となる位置には、前記可動コアの動作速度を減衰させるためのダンパー室(340)が形成され
前記長手方向に沿って見た場合において、
前記小径部のうち、前記ハウジングの内周面と対向する側面よりも内側となる位置には、前記ダンパー室にある燃料から、前記長手方向に沿った成分の力を受ける受圧面(332)が形成されている燃料噴射弁。
【請求項2】
前記受圧面は、前記小径部の中心軸の周りを全周に亘るように形成されている、請求項に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
燃料として気体燃料が用いられる、請求項1又は2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
燃料として水素が用いられる、請求項に記載の燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に設けられる燃料噴射弁として、磁気吸引力によって内部の可動コアをニードルと共に動作させることにより、燃料の出口である噴孔の開閉を切り換える構成のものが知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1に記載の燃料噴射弁は、ハウジングの内部に固定された固定コアと、ハウジングの内部において移動可能な状態で配置された可動コアと、固定コアと可動コアとの間に磁気吸引力を発生させるコイルと、を備えている。燃料噴射弁から燃料が噴射される際には、コイルに電流が供給される。そのとき発生した磁気吸引力によって、可動コアがニードルと共に固定コア側に移動し、噴孔が開かれた状態となる。
【0004】
可動コアが動作する際において、その動作速度が大きいまま固定コア等の固定部材に衝突すると、衝突箇所において部材の損傷や摩耗が生じ、燃料噴射弁の動作特性が変化してしまうことがある。これを防止するために、燃料噴射弁の内部には、可動部材の動作速度を減衰させるためのダンパー室が形成される。下記特許文献1には、可動コアの動作速度を減衰させるためのダンパー室を、ハウジングの内部、具体的には可動コアと隣り合う位置に形成した燃料噴射弁の例も記載されている。
【0005】
当該例においては、可動コアが、大径部と、大経部よりも外径の小さい小径部と、を有している。可動コアは、大径部及び小径部のそれぞれにおいて、ハウジングの内周面に近接又は当接しており、当該内周面に沿って摺動する。ダンパー室は、大径部よりも小径部側となる位置であり、且つ小径部の周囲となる位置に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-189002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダンパー室の機能を適切に発揮させるためには、大径部とハウジングの内周面との間の隙間、及び小径部とハウジングの内周面との間の隙間、のそれぞれのクリアランスを均等に確保して、ダンパー室における燃料の出入りを制限する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載された上記例のように、大径部及び小径部を有する可動コアの全体が一体に形成されている構成においては、それぞれのクリアランスを均等に確保するために高精度の加工を行う必要があると考えられる。
【0008】
例えば、大径部の中心軸と、小径部の中心軸と、が互いに一致していない場合には、一部のクリアランスが大きくなり過ぎてダンパー室の機能が損なわれてしまったり、一部のクリアランスが小さくなり過ぎて可動コアが動作し得ない状態になってしまったりする可能性がある。また、大径部に対向するハウジングの内周面の中心軸と、小径部に対向するハウジングの内周面の中心軸と、が互いに一致していない場合にも、同様の問題が生じ得る。高精度の加工を不要とするために、クリアランスの全体を大きく確保することも考えられるが、この場合にはダンパー室の機能を十分に発揮させることができなくなる。
【0009】
本開示は、高精度の加工を行うことなく、ダンパー室を容易に形成することのできる燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る燃料噴射弁は、燃料を噴射するための噴孔(511)が、長手方向における一端に形成されたハウジング(100)と、ハウジングの内部において長手方向に沿って移動することにより、噴孔の開閉を切り換えるニードル(200)と、少なくとも一部が磁性体によって形成された部材であって、ハウジングの内部に固定されている固定コア(400)と、少なくとも一部が磁性体によって形成された部材であって、ハウジングの内部において、長手方向に沿ってニードルと共に移動可能な状態で配置されている可動コア(300)と、固定コアと可動コアとの間に磁気吸引力を発生させるコイル(600)と、を備える。可動コアは、大径部(310,320)と、大径部よりも外径の小さな部分であって、長手方向に沿って大径部と隣り合う位置に配置されている小径部(330)と、を有している。大径部及び小径部は互いに別体の部材である。大径部及び小径部のそれぞれが、ハウジングの内周面に沿って摺動するように構成されている。大径部よりも小径部側であり、且つ小径部の周囲となる位置には、可動コアの動作速度を減衰させるためのダンパー室(340)が形成されている。
【0011】
このような構成の燃料噴射弁では、可動コアの大径部及び小径部が、互いに別体の部材として構成されている。大径部及び小径部の全体が一体の部材とはなっていないので、大径部の中心軸と、小径部の中心軸と、を互いに一致させるための高精度の加工を行う必要が無い。また、ハウジングにおいて、大径部に対向する内周面の中心軸と、小径部に対向する内周面の中心軸と、が互いに一致していない場合には、それぞれの中心軸に合わせて、大径部及び小径部の相対的な位置が変化することとなる。これにより、大径部とハウジングの内周面との間の隙間、及び小径部とハウジングの内周面との間の隙間、のそれぞれのクリアランスを均等に確保して、ダンパー室の機能を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、高精度の加工を行うことなく、ダンパー室を容易に形成することのできる燃料噴射弁が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る燃料噴射弁の内部構造を示す断面図である。
図2図2は、図1のA部における構成を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
本実施形態に係る燃料噴射弁10の構成について、図1を参照しながら説明する。燃料噴射弁10は、不図示の内燃機関に設けられ、当該内燃機関に燃料を噴射し供給するための装置である。燃料としては、本実施形態では気体燃料、具体的には水素が用いられる。燃料噴射弁10は、ハウジング100と、ニードル200と、可動コア300と、固定コア400と、コイル600と、を備えている。
【0016】
ハウジング100は、その全体が概ね筒状の容器として形成された部材である。図1では、ハウジング100がその長手方向を上下方向に沿わせた状態が描かれている。以下の説明においては、図1における上方側を示すものとして、単に「上方側」等の語を用いることがある。また、図1における下方側を示すものとして、単に「下方側」等の語を用いることがある。後の説明に用いる図2においても同様である。
【0017】
後に説明するように、燃料噴射弁10から噴射される燃料は、ハウジング100の内部を上方側から下方側に向かって流れる。後述のニードル200、可動コア300、及び固定コア400は、いずれのハウジング100の内部に収容されている。
【0018】
ハウジング100は、第1筒状部材110と、第2筒状部材120と、第3筒状部材130と、第4筒状部材140と、第5筒状部材150と、を有している。これらはいずれも略円筒状の部材として形成されており、それぞれの中心軸を互いに一致させた状態で配置されている。
【0019】
第1筒状部材110は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も下流側となる位置に配置された部材である。第1筒状部材110はマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。第1筒状部材110の内部には空間111が形成されており、この空間111に後述のニードル200が収容されている。
【0020】
第1筒状部材110の下端部では、噴射ノズル500が内側に圧入され溶接されている。噴射ノズル500はハウジング100の一部をなすものであって、円筒部520と閉塞部510とを有している。円筒部520は円筒状に形成された部分である。円筒部520は、その中心軸を第1筒状部材110の中心軸と一致させた状態で、第1筒状部材110の内側に嵌め込まれている。円筒部520の内周面521は、ニードル200の摺接部222(後述)が当接した状態で摺動する面となっている。
【0021】
閉塞部510は、円筒部520のうち下方側の端部を塞ぐように形成された部分である。閉塞部510には噴孔511が形成されている。噴孔511は、閉塞部510の中心を図1の上下方向に貫くように形成された貫通穴である。噴孔511によって、第1筒状部材110の内部の空間111と外部空間とが連通されている。噴孔511は、燃料噴射弁10から噴射される燃料の出口として形成されている。このように、燃料噴射弁10では、燃料を噴射するための噴孔511が、ハウジング100の長手方向における一端に形成されている。
【0022】
閉塞部510の内面には、噴孔511の周囲を囲むように弁座512が形成されている。弁座512は、噴孔511を塞ぐために、ニードル200のシール部221(後述)が当接する部分である。
【0023】
噴射ノズル500は、その全体がマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。また、噴射ノズル500のうちニードル200が当接する部分、すなわち弁座512と内周面521とには、窒化処理が施されている。内周面521には、摩擦力を低下させるためのDLCコートが更に施されている。
【0024】
第1筒状部材110のうち噴射ノズル500とは反対側、つまり上方側の部分は拡径されており、当該部分から更に上方側に向かって伸びるように拡径円筒部112が形成されている。拡径円筒部112の内周面115は、後に説明するように可動コア300の一部が当接した状態で摺動する部分となっている。このため、拡径円筒部112には窒化処理が施されている。拡径円筒部112の上端、つまり第1筒状部材110の上端には、第2筒状部材120の下端が接続されている。
【0025】
第2筒状部材120は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第1筒状部材110の上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第2筒状部材120の内径及び外径は、拡径円筒部112の内径及び外径とそれぞれ等しい。第2筒状部材120は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第2筒状部材120の上端には、第3筒状部材130の下端が接続されている。
【0026】
第3筒状部材130は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第2筒状部材120の上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第3筒状部材130の内径及び外径は、第2筒状部材120の内径及び外径とそれぞれ等しい。第3筒状部材130は、非磁性体であるオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第3筒状部材130の上端には、第4筒状部材140の下端が接続されている。
【0027】
第4筒状部材140は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って第3筒状部材130の上流側となる位置に配置された円筒形状の部材である。第4筒状部材140の内径及び外径は、第3筒状部材130の内径及び外径とそれぞれ等しい。第4筒状部材140は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。第4筒状部材140の上方側部分では、第5筒状部材150の下端部分が内側に圧入され溶接されている。
【0028】
第5筒状部材150は、ハウジング100のうち、燃料の流れる方向に沿って最も上流側となる位置に配置された略円筒形状の部材である。第5筒状部材150はオーステナイト系ステンレスによって形成されている。第5筒状部材150の上端部には導入口153が形成されている。導入口153は、外部から導入される燃料の入口として形成された開口である。
【0029】
第5筒状部材150の内部に形成された空間151のうち、導入口153の近傍となる位置には、フィルタ152が設けられている。フィルタ152は、導入口153から導入された燃料に含まれる異物を捕集するためのものである。
【0030】
ニードル200は、ハウジング100の内部に配置された棒状の部材である。ニードル200は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の長手方向、すなわち図1の上下方向に沿って移動可能な状態で配置されている。ニードル200はマルテンサイト系ステンレスによって形成されており、硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。ニードル200のうち噴射ノズル500側の端部には、シール部221が形成されている。
【0031】
ニードル200が、その可動範囲のうち最も下方側まで移動すると、図1に示されるようにシール部221が弁座512に当接し、噴孔511が閉じられた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止される。ニードル200が上方側に移動し、シール部221が弁座512から離れると、噴孔511が開かれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が行われる。このように、ニードル200は、ハウジング100の内部において長手方向に沿って移動することにより、噴孔511の開閉を切り換えるための部材として設けられている。
【0032】
以下の説明においては、噴孔511が開かれるようにニードル200が移動する方向の側、すなわち図1における上側のことを、「開弁側」とも称することがある。また、噴孔511が閉じられるようにニードル200が移動する方向の側、すなわち図1における下側のことを、「閉弁側」とも称することがある。
【0033】
ニードル200の側面のうち、シール部221よりも僅かに開弁側となる位置には、外方に向けて突出する摺接部222が複数形成されている。摺接部222は、その先端を円筒部520の内周面521に当接させた状態で摺動する部分である。複数の摺接部222は、ニードル200の周方向に沿って並ぶように形成されている。互いに隣り合う摺接部222同士の間には、燃料が通るための経路として凹部223が形成されている。ニードル200のうちシール部221及び摺接部222には、窒化処理が施されている。摺接部222には更にDLCコートが施されている。これにより、摺接部222と内周面521との間における摩擦抵抗が低下している。
【0034】
ニードル200は、後に説明する可動コア300を上下方向に貫いた状態で配置されている。ニードル200の上端部は、可動コア300の上端よりも更に上方側に配置されている。ニードル200の上端部分における側面には、外方に向けて突出するように拡径部210が形成されている。拡径部210のうち可動コア300側の面、すなわち閉弁側の面は、可動コア300の端面に当接している。
【0035】
ニードル200の内部には空間201が形成されている。空間201は、ニードル200のうち拡径部210の開弁側端部から、可動コア300よりも閉弁側となる位置まで伸びるように形成されている。ニードル200のうち開弁側の端部では、空間201が外部に開放されている。空間201のうち可動コア300よりも閉弁側となる位置では、ニードル200に貫通穴202が複数形成されている。この貫通穴202により、空間201と空間111とが連通されている。
【0036】
可動コア300は、その全体が略円筒形状に形成された部材である。可動コア300は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ニードル200と共にハウジング100の長手方向、すなわち図1の上下方向に沿って移動可能な状態で配置されている。可動コア300は、可動側高硬度部310と、可動側低硬度部320と、共動部330と、を有している。
【0037】
可動側高硬度部310は、その一部が可動側低硬度部320よりも内側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。可動側高硬度部310は、非磁性体であり且つ比較的硬度の高い材料であるマルテンサイト系ステンレスによって形成されている。可動側高硬度部310には、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。可動側高硬度部310の中央には、これを上下方向、すなわちハウジング100の長手方向に貫くように可動側貫通穴313が形成されている。先に説明したニードル200は、この可動側貫通穴313に挿通されている。ニードル200の外側面は、可動側貫通穴313の内面に沿って摺動可能となっている。可動側貫通穴313の内面には窒化処理が施されている。また、ニードル200の外側面にも窒化処理が施されており、更にDLCコートが施されている。
【0038】
可動側高硬度部310のうち開弁側の端面には、ニードル200の拡径部210が上方側から当接している。尚、可動側高硬度部310の開弁側の端面の一部は、後に説明するように、開弁時において固定コア400に当たる部分となっている。可動側高硬度部310の開弁側の端面では、ニードル200の拡径部210が当接する部分と、固定コア400に当たる部分と、のそれぞれに対して窒化処理が施されている。また、拡径部210のうち閉弁側の端面にも窒化処理が施されている。
【0039】
可動側高硬度部310のうち閉弁側の部分は拡径されており、側方に向けて突出する拡径部311が形成されている。拡径部311の先端面312は、第1筒状部材110のうち拡径円筒部112の内周面115に当接している。可動コア300が移動する際には、拡径部311の先端面312が拡径円筒部112の内周面115に沿って摺動する。先端面312には窒化処理が施されており、更にDLCコートが施されている。
【0040】
可動側低硬度部320は、可動側高硬度部310よりも外側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。可動側低硬度部320は、その内面を可動側高硬度部310の外面に当接させた状態で、可動側高硬度部310に対し所謂「打ち込み」によって固定されている。可動側低硬度部320の閉弁側の端面は、可動側高硬度部310の拡径部311に当接している。
【0041】
可動側低硬度部320は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。その結果、可動側低硬度部320は、可動側高硬度部310よりも硬度が低い部分となっている。ハウジング100の内部において可動側低硬度部320が配置されている位置は、第2筒状部材120と概ね対向する位置となっている。
【0042】
可動側低硬度部320の開弁側の端面の位置は、可動側高硬度部310の開弁側の端面の位置よりも、僅かに閉弁側となっている。換言すれば、可動側高硬度部310の上端面は、可動側低硬度部320の上端面よりも僅かに上方側に向けて突出している。
【0043】
尚、本実施形態では上記のように、可動コア300の一部である可動側低硬度部320が磁性体によって形成されており、その他の部分である可動側高硬度部310及び共動部330が非磁性体によって形成されている。このような態様に替えて、可動コア300の全体が、磁性体からなる単一の材料によって形成されているような態様であってもよい。
【0044】
共動部330は、その全体が円筒形状となっている部材である。共動部330は、その中心軸を、ハウジング100の長手方向に沿わせた状態で配置されている。共動部330は、可動側高硬度部310と同じマルテンサイト系ステンレスによって形成されている。
【0045】
図1に示されるように、可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320は互いに一体となっており、その全体が円筒形状となっている。共動部330は、このように一体となった可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320の下方側となる位置に配置されている。つまり、共動部330は、ハウジング100の長手方向に沿って、可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320と隣り合う位置、具体的には可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320の直下となる位置に配置されている。
【0046】
共動部330は、可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320とは一体となっておらず、これらとは別体の部材となっている。つまり、共動部330は、可動側高硬度部310に対して接合されてはおらず、上下方向に沿って可動側高硬度部310から分離可能な状態となっている。ただし、共動部330は、後に述べるバネ810によって上方側に向けて付勢されており、これにより可動側高硬度部310に対して下方から押し付けられた状態となっている。その結果、共動部330の上端部は、全周に亘って可動側高硬度部310の下端面に当接している。
【0047】
共動部330の内径は、可動側高硬度部31の内径と概ね等しい。共動部330の外径は、一体となった可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320の全体の外径よりも小さい。
【0048】
一体となった可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320は、本実施形態における「大径部」に該当する。また、共動部330は、本実施形態における「小径部」に該当する。上記のように、小径部である共動部330は、大径部よりも外径の小さな部分であって、ハウジング100の長手方向に沿って大径部と隣り合う位置に配置されている。ニードル200は、上記の大径部及び小径部のそれぞれを上下方向に貫いている。尚、可動コア300の全体を、磁性体からなる単一の材料によって形成する場合であっても、本実施形態と同様に、可動コア300を大径部と小径部に分かれた構成とすることが好ましい。
【0049】
先に述べたように、一体となった可動側高硬度部310及び可動側低硬度部320、すなわち可動コア300の大径部は、第1筒状部材110のうち拡径円筒部112の内側となる位置に配置されている。大径部は、拡径円筒部112の内周面115に沿って上下方向に摺動する。大径部の外周面と内周面115との間、具体的には、拡径部311の先端面312と内周面115との間には、数μmから数十μm程度の隙間が形成されている。尚、一部において先端面312と内周面115とが互いに当接していてもよい。
【0050】
可動コア300の小径部である共動部330は、第1筒状部材110のうち拡径円筒部112よりも下方側となる位置に配置されている。小径部である共動部330は、第1筒状部材110の内周面116に沿って上下方向に摺動する。共動部330の外周面331と、第1筒状部材110の内周面116との間には、数μmから数十μm程度の隙間が形成されている。尚、一部において外周面331と内周面116とが互いに当接していてもよい。
【0051】
このように、本実施形態では、可動コア300の大径部及び小径部が、互いに別体の部材として構成されている。また、可動コア300のうち大径部及び小径部のそれぞれが、ハウジング100の内周面に沿って摺動するように構成されている。
【0052】
固定コア400は、可動コア300と同様に、その全体が略円筒形状に形成された部材である。固定コア400は、その中心軸をハウジング100の中心軸に移動させた状態で、ハウジング100の内部に固定されている。固定コア400が設けられている位置は、開弁側において可動コア300と隣り合う位置である。図1のようにニードル200のシール部221が弁座512に当接しているときにおいては、固定コア400と可動コア300との間には隙間が形成されている。固定コア400は、固定側低硬度部420と固定側高硬度部410とを有している。
【0053】
固定側低硬度部420は、可動コア300の上方側となる位置に配置された略円筒形状の部分である。ハウジング100の内部において固定側低硬度部420が配置されている位置は、第4筒状部材140と概ね対向する位置となっている。固定側低硬度部420の外側面は、第4筒状部材140の内面に対して溶接によって固定されている。
【0054】
固定側低硬度部420には、これを上下方向に沿って貫くように貫通穴421が形成されている。固定側低硬度部420は、磁性体であるフェライト系ステンレスによって形成されている。その結果、固定側低硬度部420は、次に述べる固定側高硬度部410よりも硬度が低い部分となっている。
【0055】
固定側高硬度部410は、固定側低硬度部420よりも内側となる位置、具体的には貫通穴421のうち下方側の部分に配置された略円筒形状の部分である。固定側高硬度部410は、非磁性体であり且つ比較的硬度の高い材料であるマルテンサイト系ステンレスによって形成されている。固定側高硬度部410には、その硬度を高めるために焼き入れ処理が施されている。固定側高硬度部410のうち可動コア300側の端面は、可動コア300の可動側高硬度部310が当たる部分となっている。このため、当該端面には窒化処理が施されている。固定側高硬度部410は、その外面を固定側低硬度部420の内面に当接させた状態で、固定側低硬度部420に対して溶接によって固定されている。
【0056】
固定側高硬度部410の中央には、これを上下方向に貫くように固定側貫通穴401が形成されている。先に説明したニードル200の空間201は、この固定側貫通穴401及び貫通穴421を介して第5筒状部材150の空間151に連通されている。
【0057】
固定側貫通穴401のうち可動コア300側の部分には、ニードル200の拡径部210が下方から挿通されている。当該部分における固定側貫通穴401の内径は、他の部分における固定側貫通穴401の内径よりも僅かに大きくなっている。このため、ニードル200の拡径部210と、固定側貫通穴401の内面との間には隙間が形成されている。
【0058】
固定側低硬度部420の閉弁側の端面の位置は、固定側高硬度部410の閉弁側の端面の位置よりも、僅かに開弁側となっている。換言すれば、固定側高硬度部410の下端面は、固定側低硬度部420の下端面よりも僅かに下方側、すなわち可動コア300側に向けて突出している。固定側高硬度部410の下端面は、その全体が、可動側高硬度部310の上端面に対向している。
【0059】
尚、本実施形態では上記のように、固定コア400の一部である固定側低硬度部420が磁性体によって形成されており、その他の部分である固定側高硬度部410が非磁性体によって形成されている。このような態様に替えて、固定コア400の全体が、磁性体からなる単一の材料によって形成されているような態様であってもよい。
【0060】
コイル600は、電流の供給を受けて磁力を生じさせるものである。コイル600はボビン610に巻かれた状態で、ハウジング100のうち第3筒状部材130の全体と、第4筒状部材140の一部とを外側から覆うように配置されている。コイル600に電流が供給されると、固定側低硬度部420、可動側低硬度部320、第2筒状部材120、及び第4筒状部材140等を磁束が通るように磁気回路が形成される。その結果として、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力によって、可動コア300は、ニードル200と共に開弁側に移動する。コイル600に対する電流の供給が停止すると、上記の磁気吸引力は0となる。その際、可動コア300は、後述のバネ820の付勢力によって、ニードル200と共に閉弁側に移動する。
【0061】
燃料噴射弁10のその他の構成について説明する。固定側低硬度部420に形成された貫通穴421のうち、固定側高硬度部410よりもの上方側の部分には、アジャスティングパイプ430が圧入され固定されている。アジャスティングパイプ430は円筒形状の部材であって、その内側には、アジャスティングパイプ430を上下方向に貫く貫通穴431が形成されている。
【0062】
アジャスティングパイプ430の下方側には、バネ820が配置されている。バネ820は、その略全体が固定側貫通穴401の内側に配置されている。バネ820は、その伸縮方向が上下方向に沿っている弾性部材である。バネ820の一端は、アジャスティングパイプ430の閉弁側端部に当接している。バネ820の他端は、ニードル200のうち拡径部210の開弁側端部に当接している。バネ820は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、ニードル200の拡径部210は、バネ820からの力によって可動側高硬度部310に対して押し付けられている。その結果、バネ820は、ニードル200と可動コア300との両方を閉弁側に付勢している。
【0063】
可動コア300の下方側、具体的には共動部330の下方側には、バネ810が配置されている。バネ810は、その伸縮方向が上下方向に沿っている弾性部材である。バネ810の一端は、共動部330の閉弁側端面に下方側から当接している。バネ810の他端は、第1筒状部材110の途中に形成された段差部に上方側から当接している。
【0064】
バネ810は、その長さを自由長よりも短くした状態となっている。このため、共動部330は、バネ810からの力によって可動側高硬度部310に対して押し付けられている。その結果、バネ810は、ニードル200と可動コア300との両方を開弁側に付勢している。バネ810とバネ820とが設けられていることにより、拡径部210と可動側高硬度部310とが互いに当接している状態が維持されている。また、バネ810とバネ820とが設けられていることにより、共動部330と可動側高硬度部310とが互いに当接している状態も維持されている。
【0065】
本実施形態では、バネ820の付勢力が、バネ810の付勢力よりも大きくなっている。このため、コイル600に対する電流の供給が停止しており、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生していないときには、ニードル200のシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態となる。
【0066】
コイル600、第4筒状部材140、及び第5筒状部材150の一部は、樹脂900によって外側からモールドされている。この樹脂900の一部は外側に向かって突出しており、この突出した部分がコネクタ910として形成されている。コネクタ910は、コイル600に対して電流を供給するための線が接続される部分である。コネクタ910の内側には給電端子920が配置されている。給電端子920は、コイル600に繋がる給電線の一端に設けられた端子である。コイル600への電流の供給はこの給電端子920から行われる。
【0067】
樹脂900のうち、第4筒状部材140をモールドしている部分の更に外側には、ホルダ700が配置されている。ホルダ700は磁性体からなる筒状の部材であって、拡径円筒部112の外側となる位置から、コイル600の開弁側端部よりも更に開弁側となる位置まで伸びるように形成されている。ホルダ700の内側であって、且つコイル600よりも開弁側となる位置にはカバー710が配置されている。カバー710は、磁性体からなる略円管状の部材であって、第4筒状部材140を外側から囲むように配置されている。カバー710のうちコネクタ910の近傍となる部分は、コネクタ910との干渉を避けるために切り欠かれている。このため、図1においては、第4筒状部材140の右側となる位置においてのみカバー710の断面が表れている。ホルダ700及びカバー710は、コイル600で発生した磁束が通る磁気回路の一部を成すものである。
【0068】
燃料噴射弁10の動作について説明する。第5筒状部材150には、導入口153から燃料が供給されている。コイル600への電流供給が行われていないときには、既に述べたように噴孔511は閉じられている。このため、燃料噴射弁10の内部は燃料によって加圧された状態となっている。
【0069】
コイル600への電流供給が開始されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が発生し、可動コア300は開弁側に移動する。その際、ニードル200の拡径部210は可動コア300の可動側高硬度部310に当接しているので、可動コア300と共にニードル200も開弁側に移動する。ニードル200のシール部221が弁座512から離れて、噴孔511が開かれた状態になるので、噴孔511からの燃料の噴射が開始される。
【0070】
燃料は、導入口153から空間151に流入した後、貫通穴431、固定側貫通穴401、空間201、貫通穴202、及び空間111を順に通り、噴孔511から噴射される。このように燃料が通る経路は、ハウジング100の内部に形成された経路であって、外部から供給された燃料を噴孔511に導くための「燃料通路」に該当する。
【0071】
開弁側に移動し始めた可動コア300はその後、固定コア400に当たって止まる。本実施形態では既に述べたように、可動側高硬度部310の上端面が固定コア400側に向けて突出しており、固定側高硬度部410の下端面が可動コア300側に向けて突出している。このため、可動コア300は、可動側高硬度部310が固定コア400に当たる一方で、可動側低硬度部320は固定コア400には当たらない。また、固定コア400のうち固定側高硬度部410には可動コア300が当たるのであるが、固定側低硬度部420には可動コア300が当たらない。
【0072】
このように、本実施形態に係る燃料噴射弁10は、コイル600に電流が供給されると、発生した磁気吸引力によって可動コア300がニードル200と共に固定コア400側に移動し、可動側高硬度部310が固定側高硬度部410に当たるように構成されている。
【0073】
本実施形態では、可動コア300のうち比較的硬度の高い部分である可動側高硬度部310と、固定コア400のうち比較的硬度の高い部分である固定側高硬度部410とが互いに衝突する。このため、固定コア及び可動コアのいずれにおいても、衝突による損傷の発生が抑制される。
【0074】
一方、磁気吸引力に寄与する部分である可動側低硬度部320及び固定側低硬度部420は、比較的硬度の低い磁性体によって形成されているのであるが、これらには他の部材が衝突しない構成となっている。燃料噴射弁10では、磁性体を用いて磁気吸引力を効率的に発生させ得る構成としながらも、磁性体が衝突によって損傷してしまうことが防止されている。
【0075】
噴孔511が開かれている状態で、コイル600への電流供給が停止されると、固定コア400と可動コア300との間に磁気吸引力が働かなくなる。可動コア300及びニードル200は、バネ820の付勢力によって閉弁側に移動し、最終的にはシール部221が弁座512に当接した状態、すなわち噴孔511が塞がれた状態となる。これにより、噴孔511からの燃料の噴射が停止する。
【0076】
上記のように、燃料の噴射が開始される際には、可動コア300が開弁側に移動して固定コアに衝突する。また、燃料の噴射が停止される際には、ニードル200が閉弁側に移動して弁座512に衝突する。燃料噴射弁10を構成する各部材の摩耗や変形を抑制するためには、衝突時のエネルギーは小さい方が好ましい。衝突時のエネルギーを低減するための工夫点について、図2を参照しながら説明する。図2は、図1のA部における構成を拡大して示す図である。
【0077】
図2に示されるように、可動側高硬度部310と第1筒状部材110との間には空間が形成されている。当該空間は、可動コア300の動作速度を減衰させるためのダンパー室340として機能する空間である。ダンパー室340の位置は、大径部よりも小径部側であり、且つ小径部の周囲となる位置、ということができる。
【0078】
ダンパー室340は、燃料通路である空間111等と繋がっているので、ダンパー室340には燃料が流入又は流出する。しかしながら、ダンパー室340よりも上方側に形成された隙間、すなわち先端面312と内周面115との間に形成された隙間は、先に述べたように数μmから数十μm程度の小さな隙間となっている。同様に、ダンパー室340よりも下方側に形成された隙間、すなわち外周面331と内周面116との間に形成された隙間も、先に述べたように数μmから数十μm程度の小さな隙間となっている。このため、ダンパー室340における燃料の出入りは、これらの小さな隙間によって制限されており、ダンパー室340は準密閉空間となっている。
【0079】
燃料の噴射が開始される際には、先に述べたように可動コア300が開弁側に向かって移動する。その際、可動コア300の移動に伴って、ダンパー室340の容積は拡大するので、ダンパー室340における燃料の圧力は低下する。ダンパー室340と燃料通路との圧力差に起因して、可動コア300の大径部には閉弁側に向かう方向の力が加えられる。その結果、開弁側に向かう方向に移動しているニードル200及び可動コア300の大径部には、同方向への動作速度を減衰させるような力が働くこととなる。これにより、可動部材であるニードル200や可動コア300が、固定部材である固定コア400等に対して衝突する際の衝突エネルギーが低減される。
【0080】
尚、可動コア300の小径部である共動部330は、先に述べたように、バネ810からの力によって可動側高硬度部310に押し付けられている。このため、可動コア300が開弁側に向かって移動しているときには、可動コア300の大径部と小径部とが互いに当接している状態が維持される。
【0081】
共動部330のうち可動側高硬度部310に当接している面、及び、可動側高硬度部310のうち共動部330に当接している面、のそれぞれは、加工によりその平面度が高められている。このため、可動コア300の大径部と小径部とが互いに当接している状態においては、当接面を通じた燃料の出入りはほとんど生じない。
【0082】
燃料の噴射が停止される際には、先に述べたように可動コア300が閉弁側に向かって移動する。その際、可動コア300の移動に伴って、ダンパー室340の容積は縮小するので、ダンパー室340における燃料の圧力は増加する。ダンパー室340と燃料通路との圧力差に起因して、可動コア300の大径部には開弁側に向かう方向の力が加えられる。その結果、閉弁側に向かう方向に移動しているニードル200及び可動コア300の大径部には、同方向への動作速度を減衰させるような力が働くこととなる。これにより、可動部材であるニードル200や可動コア300が、固定部材である弁座512等に対して衝突する際の衝突エネルギーが、閉弁時においても低減される。
【0083】
可動コア300が閉弁側に向かって移動しているときにも、先に述べた開弁時と同様に、可動コア300の大径部と小径部とが互いに当接している状態が維持される。ただし、ダンパー室340における燃料の圧力によっては、大径部と小径部とが互いに分離する場合も生じ得る。これについては後に説明する。
【0084】
ダンパー室340を形成するためには、可動コア300の全体、すなわち大径部及び小径部の全体を一体の部材とすることも可能である。しかしながら、そのような構成においては、大径部とハウジング100の内周面との間の隙間、及び小径部とハウジング100の内周面との間の隙間、のそれぞれのクリアランスを均等に確保することが難しくなってしまう。これらの隙間のクリアランスを均等に確保するためには、例えば、大径部の中心軸と小径部の中心軸とが互いに一致するように、高精度の加工を行う必要性が生じてしまう。
【0085】
大径部の中心軸と、小径部の中心軸と、が互いに一致していない場合には、一部のクリアランスが大きくなり過ぎてダンパー室340の機能が損なわれてしまったり、一部のクリアランスが小さくなり過ぎて可動コア300が動作し得ない状態になってしまったりする可能性がある。また、大径部に対向するハウジング100の内周面115の中心軸と、小径部に対向するハウジング100の内周面116の中心軸と、が互いに一致していない場合にも、同様の問題が生じ得る。高精度の加工を不要とするために、クリアランスの全体を大きく確保することも考えられるが、この場合にはダンパー室340の機能を十分に発揮させることができなくなる。
【0086】
これに対し、本実施形態では、可動コア300の大径部及び小径部が、互いに別体の部材として構成されている。大径部及び小径部の全体が一体の部材とはなっていないので、大径部の中心軸と、小径部の中心軸と、を互いに一致させるための高精度の加工を行う必要が無い。また、ハウジング100において、大径部に対向する内周面115の中心軸と、小径部に対向する内周面116の中心軸と、が互いに一致していない場合には、それぞれの中心軸に合わせて、大径部及び小径部の相対的な位置が変化することとなる。これにより、大径部と内周面115との間の隙間、及び小径部と内周面116との間の隙間、のそれぞれのクリアランスを均等に確保して、ダンパー室340の機能を発揮させることができる。このように、本実施形態では、可動コア300を形成するにあたり高精度の加工を行わなくても、燃料噴射弁10の内部に、ダンパー室340を容易に形成することができる。
【0087】
共動部330に施された更なる工夫点について、引き続き図2を参照しながら説明する。同図に示されるように、共動部330の上端面と、外周面331との境界部分には、傾斜面332が形成されている。傾斜面332は、その法線方向が、上方側であり且つ外周側に向かうように形成された面である。傾斜面332は、小径部である共動部330の中心軸の周りを、全周に亘るように形成されている。このため、共動部330の上端面のうち大径部に当接している部分の外径D1は、外周面331の直径D2よりも小さくなっている。
【0088】
燃料噴射弁10を、ハウジング100の長手方向に沿って見た場合においては、傾斜面332は、その全体が外周面331よりも内側となる位置に形成されている。すなわち、受圧面である傾斜面332は、小径部である共動部330のうち、ハウジング100の内周面116と対向する側面(つまり外周面331)よりも内側となる位置に形成されている。
【0089】
傾斜面332には、ダンパー室340にある燃料から、傾斜面332の法線に沿った方向の力が加えられる。このような力は、ハウジング100の長手方向に沿って、閉弁側に向かう方向の成分を有している。傾斜面332は、ダンパー室340にある燃料から、上記のように長手方向に沿った成分の力を受けるための「受圧面」として機能する。傾斜面332に加えられる燃料からの力は、ハウジング100の長手方向に沿って、可動コア300の大径部と小径部とを互いに分離させる方向に働くこととなる。ただし、通常時においては、バネ810によって大径部と小径部とを当接させる力の方が大きい。このため、大径部と小径部とが互いに当接している状態が維持される。
【0090】
可動コア300が閉弁側に向かって移動しているときには、先に述べたように、ダンパー室340における燃料の圧力は増加する。このとき、ダンパー室340における燃料の圧力が増加し過ぎると、閉弁側に向かう可動コア300の移動速度が過剰に抑制されてしまい、閉弁が完了するまでの時間が増加し過ぎてしまう可能性がある。
【0091】
しかしながら、本実施形態では、ダンパー室340における燃料の圧力が増加し過ぎると、受圧面である傾斜面332に働く燃料からの力が大きくなり、共動部330が可動側高硬度部310から離れた状態となる。つまり、可動コア300の大径部と小径部とが互いに離間した状態となる。
【0092】
本実施形態では、可動コア300の内周面とニードル200との間に形成された隙間の大きさが、先端面312と内周面115との間に形成された隙間や、外周面331と内周面116との間に形成された隙間よりも大きくなっている。このため、可動コア300の大径部と小径部とが互いに離間すると、ダンパー室340にある燃料の一部は、可動コア300の内周面とニードル200との間に形成された隙間へと流出する。その結果、ダンパー室340における燃料の圧力は低下し、閉弁側に向かう可動コア300の移動速度がそれ以上減少しなくなる。これにより、閉弁側に向かう可動コア300の移動速度が、過剰に抑制されてしまうような事態が防止される。
【0093】
受圧面である傾斜面332は、小径部である共動部330の中心軸の周りを、全周に亘るように形成されている。このような構成においては、傾斜面332に対する燃料からの力は、共動部330の上端部分において、ハウジング100の中心軸の周りを全周に亘って均等に働くこととなる。このため、共動部330に対する燃料からの力が、上下方向とは異なる方向に偏って働いてしまうことが防止される。
【0094】
以上に説明したような燃料噴射弁10の構成は、液体燃料を噴射するための燃料噴射弁にも採用することができる。しかしながら、気体燃料を噴射するための燃料噴射弁10においては、燃料の粘度が小さく、ニードル200等の動作速度が大きくなり過ぎる傾向が高いので、本実施形態の構成を採用することの効果が大きい。
【0095】
また、気体燃料として、本実施形態のように水素が用いられる場合には、燃料噴射弁10の各部を構成する材料が、所謂水素脆性によって脆くなる傾向がある。水素脆性が生じた際に、ニードル200等の可動部材が激しく衝突すると、燃料噴射弁10の各部が摩耗などによって変形し、燃料噴射弁10の動作特性が短期間で変化してしまう可能性がある。このため、気体燃料として水素が用いられる場合には、以上に説明したような燃料噴射弁10の構成を採用することの効果が特に大きくなる。
【0096】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0097】
10:燃料噴射弁
100:ハウジング
200:ニードル
300:可動コア
310:可動側高硬度部
320:可動側低硬度部320
330:共動部
340:ダンパー室
400:固定コア
600:コイル
511:噴孔
図1
図2