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特許7311330環境発電用耐熱エレクトレット素子及びそれを用いた振動発電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】環境発電用耐熱エレクトレット素子及びそれを用いた振動発電素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 7/02 20060101AFI20230711BHJP
   H02N 1/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
H01G7/02 A
H02N1/00
H01G7/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019125218
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021012911
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】東邦化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川戸 進
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121204(JP,A)
【文献】特許第3621700(JP,B1)
【文献】特開2018-191394(JP,A)
【文献】特開2018-050455(JP,A)
【文献】特開2019-097381(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 7/02
H02N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレット樹脂層と、
前記エレクトレット樹脂層の面方向一方側に配置された第1の固定電極と、
前記エレクトレット樹脂層の面方向他方側に配置された第2の固定電極と、
前記エレクトレット樹脂層と、前記第1の固定電極及び前記第2の固定電極の少なくとも一方の固定電極とを収納する金属容器と、を含み、
前記エレクトレット樹脂層が、コア層と、前記コア層の両面に設けられた表面層とからなる二種三層構造で構成され、
前記コア層は、多孔性フッ素樹脂からなり、
前記表面層は、ポリテトラフルオロエチレン及び変性ポリテトラフルオロエチレンのいずれかからなり、
前記二種三層構造において、前記表面層/前記コア層/前記表面層の厚み比率が、1/2/1~1/10/1である、環境発電用耐熱エレクトレット素子。
【請求項2】
前記多孔性フッ素樹脂の空孔率が、5~80%である、請求項に記載の環境発電用耐熱エレクトレット素子。
【請求項3】
前記多孔性フッ素樹脂が、多孔性変性ポリテトラフルオロエチレンである、請求項1又は2に記載の環境発電用耐熱エレクトレット素子。
【請求項4】
前記金属容器が、前記第1の固定電極及び前記第2の固定電極のいずれか一方を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の環境発電用耐熱エレクトレット素子。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の環境発電用耐熱エレクトレット素子と、可変容量素子とを、それぞれ別個に含む、振動発電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフロー実装プロセスにも耐えられる環境発電用耐熱エレクトレット素子及びそれを用いた振動発電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoTの進展に伴い、小型IoT端末向けの電源の開発が活発に行なわれている。従来、電力の供給が困難な場所に設置された小型IoT端末向けの電源としては、一次電池が用いられてきた。しかし、小型IoT端末の設置場所が、橋梁、トンネル、山間部である場合には、一次電池の交換が困難な場合もある。また、電池交換の不要な太陽電池を上記電源に用いることも考えられるが、小型化が困難であり、夜間の給電が困難である。一方、上記電源として、二次電池を用い、その二次電池にワイヤレス給電することも可能であるが、その場合には、定期的に給電して二次電池を充電する必要がある。
【0003】
このような状況の下で、環境発電素子の一つであるMEMS技術を利用した小型の振動発電素子は、電池フリー、夜間・暗所でも発電可能であるため、小型IoT端末向けの次世代電源として注目されている。特に、エレクトレット型MEMS振動発電素子は、他の方式より低周波かつ出力電力密度が大きいため、環境振動を利用した発電に有利である。
【0004】
ここで、従来のエレクトレット型MEMS振動発電素子は、MEMS可変容量素子とエレクトレット層とが同一素子内に組み込まれた構造を有していた(例えば、特許文献1)。しかし、従来のエレクトレット型MEMS振動発電素子に使用されるエレクトレット層は、振動発電の電力を効率よく取り出すために、エレクトレット層をスピンコート等の方法によりパターンエッチング形成する必要があった。このように、従来のエレクトレット型MEMS振動発電素子は、エレクトレット層の作製方法等に多くの制約があった。
【0005】
一方、最近では、MEMS可変容量素子とエレクトレット層とを分離する機構が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-312551号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】論文タイトル:A MEMS Vibratory Energy Harvester Charged by an Off-Chip Electret/著者:Daisuke Yamane, Hiroaki Honma, Hiroshi Toshiyoshi/国際会議:The 32nd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、スピンコート法等のパターンエッチング形成により作成されたエレクトレット材料は、半導体プロセスで使用されるスピンコートプロセスとは親和性があるが、実際に素子を基盤に実装する際のリフロープロセス等の高温加熱工程において、エレクトレットの帯電特性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、環境発電用素子においてMEMS可変容量素子のような可変容量素子と分離して用いられるリフロー実装可能な環境発電用耐熱エレクトレット素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の環境発電用耐熱エレクトレット素子は、エレクトレット樹脂層と、前記エレクトレット樹脂層の面方向一方側に配置された第1の固定電極と、前記エレクトレット樹脂層の面方向他方側に配置された第2の固定電極と、前記エレクトレット樹脂層と、前記第1の固定電極及び前記第2の固定電極の少なくとも一方の固定電極とを収納する金属容器と、を含み、前記エレクトレット樹脂層が、ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン及び多孔性フッ素樹脂からなる群から選ばれるいずれか1種からなる樹脂層を少なくとも含む。
【0011】
また、本発明の振動発電素子は、上記本発明の環境発電用耐熱エレクトレット素子と、可変容量素子とを、それぞれ別個に含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、エレクトレット層のパターンエッチングが不要で、プリント基板へのリフロー実装が可能となる環境発電用耐熱エレクトレット素子及びそれを用いた振動発電素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態の耐熱エレクトレット素子の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。
図3図3は、実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。
図4図4は、実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。
図5図5は、実施形態の振動発電素子の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(環境発電用耐熱エレクトレット素子)
本願で開示する環境発電用耐熱エレクトレット素子(以下、単に「耐熱エレクトレット素子」ともいう。)の実施形態を図面に基づき説明する。図1は、本実施形態の耐熱エレクトレット素子の一例を示す概略断面図である。図1において、耐熱エレクトレット素子10は、エレクトレット樹脂層11と、エレクトレット樹脂層11の面方向一方側(上方向)に配置された第1の固定電極12aと、エレクトレット樹脂層11の面方向他方側(下方向)に配置された第2の固定電極12b(以下、第1の固定電極12a及び第2の固定電極12bを総称して「固定電極12a、12b」ともいう。)と、エレクトレット樹脂層11と固定電極12a、12bとを収納する金属容器13と、絶縁リング14と、金属リング15と、プリント基板16と、端子17a、17bとを備えている。
【0015】
エレクトレット樹脂層11は、ポリテトラフルオロエチレン(ホモPTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)及び多孔性フッ素樹脂からなる群から選ばれるいずれか1種の樹脂から形成される樹脂層である。エレクトレット樹脂層11の厚さは特に限定されないが、通常、5~400μm、好ましくは、10~300μm、特に好ましくは15~100μmの範囲で使用される。同厚みが5μm未満ではエレクトレット樹脂層11の静電容量が少なくエレクトレットの用途に不向きであり、また均一な厚みで成形を制御することが困難となり、後述のエレクトレット化処理の際に絶縁破壊が起こりやすく、局所放電が発生しやすいために好ましくない。一方、400μmを超えると電荷注入の際に層内部まで電荷を到達させることが困難となり、本発明の所期の性能を発揮し得ずに好ましくない。
【0016】
上記変性PTFEとしては、テトラフルオロエチレン99.0~99.999モル%と、パーフルオロビニルエーテル1.0~0.001モル%とを共重合して得られる共重合体であることが好ましい。これにより、PTFEのベース結晶にパーフルオロビニルエーテルが部分的に歪み(結晶欠陥)を生じさせ、その歪の部分に電荷を保持させやすくなり、帯電特性が向上する。パーフルオロビニルエーテルが0.001モル%を下回ると帯電特性の向上が困難となり、1.0モル%を超えると融点が低下して帯電特性が低下する。
【0017】
上記多孔性フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル(MFA)からなる群から選ばれるいずれか1種の樹脂(或いは樹脂フィルム)、好ましくはPTFE及び変性PTFEからなる群から選ばれるいずれか1種の樹脂(或いは樹脂フィルム)、を公知の方法により発泡させることにより、これらの樹脂中に空孔(空隙)を備えるものが挙げられる。PTFE及び変性PTFEからなる群から選ばれるいずれか1種の樹脂であれば、いずれも融点が300℃以上であることから、リフロープロセス等の高温加熱工程においてもより安定したエレクトレットを提供することが可能となる。発泡の方法としては、具体的には例えば、多孔性PTFEは、PTFEフィルムを延伸することにより形成でき、また、多孔性FEP、多孔性PFA及び多孔性MFAは、原料樹脂を発泡させて形成することができる。
【0018】
上記多孔性フッ素樹脂の空孔率は、通常5~80%、好ましくは10~75%であり、特に好ましくは15~70%である。樹脂中に存在するこれら多数の空孔は、それぞれが、独立していても連通していてもよいが、微細な空孔としてフィルム内部に多数独立して有することが好ましい。空孔の存在により、エレクトレット樹脂層11内の界面数が増加し、空孔が存在しないものと比較して内部に電荷を蓄積できる性能が向上し、性能の高いエレクトレット樹脂層11を得ることができる。但し、過剰の空孔は逆に電荷を逃がす原因となり得る。なお、空孔率は次の式で算出される。
【0019】
[数1]
空孔率(%)=(ρ0-ρ)×100/ρ0 ・・・(1)
(上記式中、ρ0は多孔性フッ素樹脂層の真密度、ρは多孔性フッ素樹脂層の見かけ密度を示す。)
【0020】
上述した各フッ素系樹脂はいずれも融点が250℃以上、中でもPTFE及び変性PTFEはいずれも融点が300℃以上であることから、リフロー実装により高温に晒されても帯電特性を維持できる。
【0021】
固定電極12a、12bは、エレクトレット樹脂層11に接触している。固定電極12a、12bとしては、金属板を用いてもよく、また、金属蒸着層として形成してもよい。
【0022】
固定電極12a、12bに用いる金属としては、導電性を備えていれば特に限定されず、例えば、黄銅、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、チタン、洋白、リン青銅、銀、金、これらの金属を主体とする合金等を使用することができる。
【0023】
エレクトレット樹脂層11となる上述した各フッ素樹脂層と、固定電極12a、12bとの接合方法は特に限定されないが、フィルム状に形成されたフッ素樹脂層を用いた接合方法によることが好ましい。一般的に、エレクトレット層として用いられる厚みの範囲内においては、エレクトレット樹脂層11の厚みが厚いほど理論的に最大発電出力は増大することが知られている。従って、予めフィルム状に形成されたフッ素樹脂層を用いれば、得られるエレクトレット樹脂層11の厚みを所望の厚みに調整することができ、且つ、スピンコート法では設け難い膜厚のエレクトレット樹脂層11を簡便に耐熱エレクトレット素子に組み込むことが可能となる。
【0024】
上記接合方法としては、具体的には、例えば、固定電極12a、12bとして金属板を用いる場合には、フィルム状に形成されたフッ素樹脂層を、固定電極12a、12bに熱圧着することにより接合できる。また、固定電極12a、12bとして、金属蒸着層を用いる場合には、フィルム状に形成されたフッ素樹脂層の両面に金属を蒸着して固定電極12a、12bを形成すればよい。
【0025】
また、フッ素樹脂層を形成するためのコーティング液を用いて、上記コーティング液を上記金属板にコーティングした後に、焼成することもできる。
【0026】
上述したフッ素樹脂層をエレクトレット樹脂層11とするためには、直流高電圧放電によるエレクトレット化処理を施す。当該処理方法については特に限定されず、公知の方法が用いられる。具体的には、例えば、固定電極12a、12が接合されたフッ素樹脂層に対して、直流高電圧やパルス状高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)、γ線や電子線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法)等が挙げられる。
【0027】
金属容器13は、アルミニウム等の金属からなり、一方の端面が閉塞された有底筒状をしている。金属容器13の平面視形状は特に限定されず、円形状、楕円形状、正方形状、長方形状、ひし形状等とすることができる。
【0028】
絶縁リング14は、絶縁材料からなる。絶縁材料としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の絶縁材料が挙げられる。絶縁リング14の大きさや形状は、特に限定されない。金属容器13の平面視形状に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
金属リング15を構成する金属としては、真鍮やステンレス鋼等が挙げられる。金属リング15の大きさや形状は、特に限定されない。金属容器13の平面視形状に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
プリント基板16は、端子17a、17bを備えている。端子17aは金属容器13を介して固定電極12aと、端子17bは金属リング15を介して固定電極12bと、それぞれ電気的に接続している。
【0031】
耐熱エレクトレット素子10を製造するには、金属容器13内に、固定電極12a、12bが接合されたエレクトレット樹脂層11、絶縁リング14、金属リング15、端子17a、17bを備えるプリント基板16を、それぞれ収納した後に、金属容器13の端部をかしめて全体を固定することにより、図1に示す耐熱エレクトレット素子10が得られる。本実施形態の耐熱エレクトレット素子10は、エレクトレット樹脂層11にフッ素樹脂を用い、且つ金属容器13の端部をかしめてその内部を外部環境と隔離していることから、湿度耐性にも極めて優れている。
【0032】
図2は、本実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。図2において、耐熱エレクトレット素子20は、第1の固定電極12aとエレクトレット樹脂層11との間にスペース18を設けた以外は、図1に示す耐熱エレクトレット素子10の構成と同じであり、図1と同一部分には同一の符号を付した。図2では、第2の固定電極12bのみがエレクトレット樹脂層11と接触している。このような耐熱エレクトレット素子20においても、プリント基板へのリフロー実装が可能となる。また、スペース18を設けることにより、電極間に形成される絶縁層の比誘電率が低下することから、発電量をより増加させ得る。
【0033】
なお、上述した例は、スペース18が第1の固定電極12aとエレクトレット樹脂層11との間に設けられているが、エレクトレット素子として機能すればスペース18の設ける位置は特に限定されず、第2の固定電極12bとエレクトレット樹脂層11との間に設けてもよいし、エレクトレット樹脂層11が複層構成の場合はその層間に設けてもよい。
【0034】
図3は、本実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。図3において、耐熱エレクトレット素子30は、第1の固定電極12aと金属容器13が一体化しており、金属容器13が第1の固定電極12aを含む構成となっている以外は、図1に示す耐熱エレクトレット素子10の構成と同じであり、図1と同一部分には同一の符号を付した。このような耐熱エレクトレット素子30においても、プリント基板へのリフロー実装が可能となり、また、第1の固定電極12aと金属容器13とを一体化することにより、耐熱エレクトレット素子30の厚さを薄くでき、小型化を図ることができる。
【0035】
図4は、本実施形態の耐熱エレクトレット素子の他の例を示す概略断面図である。図4において、耐熱エレクトレット素子40は、エレクトレット樹脂層11が複層構成となっており、具体的には、エレクトレット樹脂層11bをコア層とし、その両面に表面層としてエレクトレット樹脂層11aを設けた二種三層構造とした以外は、図1に示す耐熱エレクトレット素子10の構成と同じであり、図1と同一部分には同一の符号を付した。
【0036】
コア層となるエレクトレット樹脂層11bには、上述した各フッ素系樹脂を用いることができるが、特に多孔性フッ素樹脂であることが好ましい。また、表面層となるエレクトレット樹脂層11aにも、上述した各フッ素系樹脂を用いることができるが、特にPTFE及び変性PTFEのいずれかであることが好ましい。多孔性フッ素樹脂は、空孔の存在により、エレクトレット樹脂層11内の界面数が増加し、空孔が存在しないものと比較して内部に電荷を蓄積できる性能が向上し、性能の高いエレクトレット樹脂層11を得ることができるが、その一方で、空孔があまりに多くなりすぎると、その表面に空孔が多数現れることにより表面の平滑性が損なわれることで、絶縁耐性が低下し、エレクトレット化処理の際に印加電圧を上げてゆくと局所的な放電集中が発生する虞がある。そこで、多孔性フッ素樹脂をコア層とし、PTFE及び変性PTFEのいずれかを表面層とすれば、空孔による帯電量の増加を図りつつ、表面の平滑性を向上させて絶縁耐性を向上させた、より好適なエレクトレット樹脂層11を得ることが可能となる。
【0037】
コア層となるエレクトレット樹脂層11bの厚みは、通常5~300μm、好ましくは、10~200μm、特に好ましくは15~100μmの範囲で使用される。また、表面層となるエレクトレット樹脂層11aの厚みは、通常1~100μm、好ましくは、1~90μm、特に好ましくは5~80μmの範囲で使用される。
【0038】
エレクトレット樹脂層11が二種三層で構成されるとき、エレクトレット樹脂層11a/エレクトレット樹脂層11b/エレクトレット樹脂層11aの厚み比率は、通常1/2/1~1/10/1であり、好ましくは1/3/1~1/8/1であり、特に好ましくは1/3/1~1/6/1である。特にコア層に多孔性フッ素樹脂を用いる場合は、コア層比率を上げることで空孔の総数が増加し、より帯電量を増加させることができる。
【0039】
なお、上述した例は、エレクトレット樹脂層11が三層のものであるが、エレクトレット樹脂層11は複層構成であれば特に限定されず、二層であってもよいし、四層以上に構成されていてもよい。また、コア層と表面層が異種のものを例示したが、同種であってもよく、さらに、二つの表面層は異種で構成されていてもよい。
【0040】
(振動発電素子)
本願で開示する振動発電素子の実施形態について説明する。本実施形態の振動発電素は、先に開示した実施形態の耐熱エレクトレット素子と、可変容量素子とを、それぞれ別個に備えている。本実施形態の振動発電素子は、耐熱エレクトレット素子と可変容量素子とを分離して別個に配置しているため、それぞれをプリント基板へ簡便に実装できる。また、前述のとおり、上記耐熱エレクトレット素子は、耐熱性が高いため、リフロー実装が可能となる。
【0041】
図5は、本実施形態の振動発電素子の一例を示す概略断面図である。図5において、振動発電素子100は、耐熱エレクトレット素子10と、可変容量素子80とを備え、耐熱エレクトレット素子10と可変容量素子80は、プリント基板90上に実装され、耐熱エレクトレット素子10は、可変容量素子80に外付けされている。
【0042】
可変容量素子80は、外部振動による慣性力で可動電極が動く構造となっており、その振動に応じて、可変容量素子80の静電容量と、耐熱エレクトレット素子10のエレクトレットの静電容量のバランスが変化する。これにより、各静電容量に蓄積される電荷量が変化することから誘導電荷が生じ、その誘導電荷を外部負荷で取り出すことで発電が可能となる。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は、下記の実施例により限定されない。
【0044】
(実施例1)
厚さ25μmのPTFEフィルム(ダイキン工業株式会社製、F108)の片面に、厚さ0.15mmの金属板を固定電極として熱圧着し、試験サンプル材料を得た。この試験サンプル材料にコロナ電圧6kV、グリッド電圧450Vを印加してPTFEフィルムのエレクトレット化処理を行い、エレクトレット素子の試験サンプルを製作した。
【0045】
(実施例2)
PTFEフィルムに変えて厚さ25μmの変性PTFEフィルム(ダイキン工業株式会社製、M112)を用い、厚さ0.1mmの金属板を固定電極として用いた以外は、実施例1と同様にしてエレクトレット素子の試験サンプルを製作した。
【0046】
(実施例3)
変性PTFEフィルムに変えて厚さ65μmの多孔性PTFEフィルム(日本バルカー株式会社製)を用いた以外は、実施例2と同様にしてエレクトレット素子の試験サンプルを製作した。なお、この多孔性PTFEフィルムの空孔率は22%である。
【0047】
(比較例1)
変性PTFEフィルムに変えて厚さ25μmのFEPフィルム(ダイキン工業株式会社製、NF-0025)を用いた以外は、実施例2と同様にしてエレクトレット素子の試験サンプルを製作した。
【0048】
(比較例2)
AGC社製のフッ素樹脂“CYTOP(登録商標)”(CTL-809M)を製膜してエレクトレット用材料として準備した。変性PTFEフィルムに変えて、厚さ30μmの当該CYTOPフィルムを用いた以外は、実施例2と同様にしてエレクトレット素子の試験サンプルを製作した。
【0049】
次に、実施例1~3及び比較例1~2の試験サンプルのエレクトレット樹脂層の表面電位を測定した。表面電位の測定は表面電位計(トレック・ジャパン社製、MODEL344)を用いて行った。その後、各試験サンプルを260℃で4分間加熱した。その後、加熱後の各試験サンプルのエレクトレット樹脂層の表面電位を上記と同様にして測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から、実施例1~3の表面電位は、比較例1~2の表面電位に比べて、加熱後でも50%以上残存しており、加熱しても帯電特性を維持できることが分かる。特に、変性PTFE及び多孔性PTFEは、90%以上残存しており、特に好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0052】
10、20、30、40 耐熱エレクトレット素子
11 エレクトレット樹脂層
12a、12b 固定電極
13 金属容器
14 絶縁リング
15 金属リング
16 プリント基板
17a、17b 端子
18 スペース
80 可変容量素子
90 プリント基板
100 振動発電素子
図1
図2
図3
図4
図5