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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】鉄道車両用のブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
   F16D 69/00 20060101AFI20230711BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20230711BHJP
   B61H 5/00 20060101ALI20230711BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
F16D69/00 G
F16D69/02 A
B61H5/00
F16D65/092 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019125304
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021011895
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】門谷 英司
(72)【発明者】
【氏名】進藤 隆行
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-44337(JP,A)
【文献】特表2009-517605(JP,A)
【文献】実開昭62-018439(JP,U)
【文献】特開平6-219275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
B61H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に懸架された鉄道車両用の輪軸に装着されたブレーキディスクを跨ぐように前記台車側に固定されたブレーキキャリパに対して、前記ブレーキキャリパが有する一対のアームに回転自在に支持されたキャリパホルダを介して装着され、前記ブレーキディスクに押圧される鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドのライニング内周側には、ライニング表面に向って前記ブレーキディスクの回転中心から離れる方向に傾斜する逃げ部が設けられて、
前記逃げ部は、傾斜角度が、15°~32°の範囲の斜面である
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
使用に従って中心から外径に向って断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面が偏摩耗する前記ブレーキディスクに押圧される
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記逃げ部の表面と前記ライニング表面との角部には、面取りが設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記逃げ部は、前記ブレーキパッドのライニング摩耗限度位置まで設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドが、複数に分割された分割パッドにより構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドのライニングが、合成樹脂系の摩擦材により構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドにおけるライニング表面のロータ回入側及びロータ回出側には、面取りが設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用のブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
車軸に装着されたブレーキディスク(ディスクロータ)や、車輪の厚さ方向両側面位置に配設された一対のブレーキディスクを介して、鉄道車両の輪軸の制動動作が行われる構成の鉄道車両用ディスクブレーキ装置が知られている(特許文献1等参照)。
この種の鉄道車両用ディスクブレーキ装置には、ブレーキパッドの押圧を駆動機構であるピストンが直接行うキャリパ式ブレーキ装置と、ブレーキパッドの押圧を駆動機構がリンク機構やウェッジカムを介して行う梃子式ブレーキ装置がある。
【0003】
このうちキャリパ式ブレーキ装置は、車両の台車に固定される支持枠と、支持枠に支持されるキャリパブレーキ本体とを有するブレーキキャリパを備える。このキャリパブレーキ本体は、車両の輪軸に取付けられたブレーキディスクを挟む一対のアームを備えている。アームのブレーキディスクに対向する面には、ライニングを有するブレーキパッドが取り付けられる。そして、ブレーキパッドは、ブレーキ作動時に液圧駆動されるピストンによってブレーキディスクに押圧される。
【0004】
更に、キャリパ式ブレーキ装置には、支持枠に対して摺動自在に支持されたキャリパブレーキ本体の一方のアームにピントンが配設されるフローティングタイプのものと、支持枠に固定されたキャリパブレーキ本体の一対のアームに対向してピストンが配設されるオポーズドタイプのものが提案されている。
【0005】
一方、梃子式ブレーキ装置は、車両の台車に支持されたブレーキ本体と、中間部がブレーキ本体に軸支された一対のアームとを有するブレーキキャリパを備える。ブレーキディスクに対向するアームの各開放端には、ライニングを有するブレーキパッドが取り付けられる。開放端と反対側のアームの基端部には、一対のアームの基端部を拡開方向へ駆動する駆動機構の出力部材が接続される。
【0006】
そして、上述の何れのタイプの鉄道車両用ディスクブレーキ装置においても、ブレーキが掛けられる際には、駆動機構が駆動され、ブレーキパッドがブレーキディスクを両側から挟圧するので、ブレーキパッドとブレーキディスクとが互いに圧接されて摩擦力を生じ、その摩擦力によりブレーキディスク、すなわち輪軸の回転が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-198226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の鉄道車両用ディスクブレーキ装置は、ブレーキディスクが輪軸(車軸又は車輪)に装着されると共にブレーキキャリパが車両の台車に支持されており、ブレーキディスクとブレーキキャリパとが同一軸上に搭載されていない。そのため、車両の重量変化や傾きによって、ブレーキキャリパに装着されたブレーキパッドはブレーキディスクに対して相対的に変位し、上下移動する。その結果、ブレーキパッドのライニング摩擦により摩耗したブレーキディスクは、中心から外径に向って断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面が偏摩耗する。
そして、偏摩耗したブレーキディスクの摩擦面に対して、交換された新品のブレーキパッドのライニングが圧接されると、ライニング内周側にバリが生じるという問題があった。
【0009】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、ブレーキディスクとの当たりを改善し、ライニングのバリ発生を抑制できる鉄道車両用のブレーキパッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 台車に懸架された鉄道車両用の輪軸に装着されたブレーキディスクを跨ぐように前記台車側に固定されたブレーキキャリパに対して、前記ブレーキキャリパが有する一対のアームに回転自在に支持されたキャリパホルダを介して装着され、前記ブレーキディスクに押圧される鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドのライニング内周側には、ライニング表面に向って前記ブレーキディスクの回転中心から離れる方向に傾斜する逃げ部が設けられて、
前記逃げ部は、傾斜角度が、15°~32°の範囲の斜面である
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0011】
上記(1)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、偏摩耗したブレーキディスクの摩擦面に対して圧接された際、逃げ部が設けられたライニング内周側は、ブレーキディスクの中心側の傾斜した摩擦面との当たりが弱められる。
即ち、中心から外径に向って断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面が偏摩耗したブレーキディスクに対して、新品のブレーキパッドのライニングが圧接されると、ライニング内周側がブレーキディスクの中心側の傾斜した摩擦面と最初に当たる。この際、ライニング内周側に逃げ部が設けられたライニング表面の内側端は、逃げ部が設けられていないライニング表面の内側端よりもディスク外径側でブレーキディスクの傾斜した摩擦面に当たることができ、摩擦面の傾斜が緩くなった分だけ当たりが弱められる。
従って、逃げ部が設けられてブレーキディスクの摩擦面との当たりが弱められたライニング内周側にはバリが生じ難くなり、ライニングのバリ発生を抑制できる。
更に、上記(1)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ライニング表面の面積減少を抑えて摩擦特性の悪化を最小限に抑えながらライニングのバリ発生を抑制できる。
即ち、ライニング内周側に設けられる逃げ部が、32°より大きい傾斜角度の斜面で形成された場合、逃げ部が設けられていない従来のブレーキパッドに比べて、ライニング表面の面積が減少し摩擦特性が悪化してしまう。そのため、駆動機構の駆動力を高める必要が生じ、鉄道車両用ディスクブレーキ装置のコストアップや大型化を招く虞がある。
また、ライニング内周側に設けられる逃げ部が、15°未満の傾斜角度の斜面で形成された場合、ブレーキディスクの中心側の傾斜した摩擦面との当たりを十分に弱めることができず、ライニングのバリ発生を確実に抑制することができない虞がある。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
使用に従って中心から外径に向って断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面が偏摩耗する前記ブレーキディスクに押圧される
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0013】
上記(2)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、上記(1)と同様にライニングのバリ発生を抑制できる。
【0014】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記逃げ部の表面と前記ライニング表面との角部には、面取りが設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0015】
上記(3)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、逃げ部の表面とライニング表面との角部に、45°面取りや丸み面等の面取りが設けられることで、特に、パッド交換初期におけるライニングのバリ発生を確実に抑制できる。
【0016】
(4) 上記(1)~(3)の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記逃げ部は、前記ブレーキパッドのライニング摩耗限度位置まで設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0017】
上記(4)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ブレーキパッドをライニング摩耗限度まで使用した場合でも、ライニング内周側には逃げ部が残ってブレーキディスクの中心側の傾斜した摩擦面との当たりを十分に弱めることができる。そこで、ブレーキパッドの使用限度まで、ライニングのバリ発生を確実に抑制できる。
【0018】
(5) 上記(1)~(4)の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドが、複数に分割された分割パッドにより構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0019】
上記(5)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、複数に分割された分割パッドにより構成されたブレーキパッドにおいても、ライニングのバリ発生を確実に抑制できる。
【0020】
(6) 上記(1)~(5)の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドのライニングが、合成樹脂系の摩擦材により構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0021】
上記(6)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ライニングが合成樹脂系の摩擦材により構成されたバリが生じ易いブレーキパッドにおいても、ライニングのバリ発生を確実に抑制できる。
【0022】
(7) 上記(1)~(6)の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッドであって、
前記ブレーキパッドにおけるライニング表面のロータ回入側及びロータ回出側には、面取りが設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド。
【0023】
上記(7)の構成の鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ブレーキキャリパが操舵台車に固定された場合でも、ライニングのバリ発生を抑制すると共に、カーブに追従するように輪軸が操舵された際にブレーキディスクがライニングのロータ回入側及びロータ回出側に強く当るのを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ブレーキディスクとの当たりを改善し、ライニングのバリ発生を抑制できる。
【0025】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッドの斜視図、(b)は(a)に示したブレーキパッドを裏板側から見た分解斜視図である。
図2図1の(a)に示したブレーキパッドの正面図である。
図3図1の(b)に示した裏板の斜視図である。
図4】(a)は図2におけるA-A断面矢視図、(b)は(a)の要部拡大断面図である。
図5】(a)はキャリパホルダに取り付け途中のディスクブレーキ用パッド組立体の斜視図、(b)は(a)に示したディスクブレーキ用パッド組立体をライニング側から見た斜視図である。
図6】(a)は本発明に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置とブレーキディスクとの位置関係等を示す説明図、(b)は本発明に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置の要部を示す一部断面構成図である。
図7】(a)は偏摩耗したブレーキディスクに対する本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッドを示す要部断面図であり、(b)は参考例に係る鉄道車両用のブレーキパッドを示す要部断面図である。
図8】(a)は本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッドの斜視図、(b)は本発明の第3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッドの正面図、(c)は(b)におけるB-B断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照して説明する。
図1の(a)は本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10の斜視図、図1の(b)は図1の(a)に示したブレーキパッド10を裏板側から見た分解斜視図である。図2図1の(a)に示したブレーキパッド10の正面図である。図3図1の(b)に示した裏板の斜視図である。図4の(a)は図2におけるA-A断面矢視図、図4の(b)は図4の(a)の要部拡大断面図である。
【0028】
本第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10は、例えばキャリパ式ブレーキ装置や梃子式ブレーキ装置等の種々の鉄道車両用ディスクブレーキ装置のブレーキキャリパに取り付けられて好適に用いることができる。
本第1実施形態のブレーキパッド10は、図1及び図2に示すように、2つに分割された分割パッド11,13により構成されている。2個の分割パッド11,13は、突合せ面43を境に、裏板19、アンカプレート25、固定部27、及びライニング17が、左右対称形状で形成されている。なお、2個の分割パッド11,13は、左右対称形状である以外は同一の構成を有するので、本明細書中では同一の構成部材には同符号を付して説明する。
【0029】
これら分割パッド11,13は、それぞれ裏板19にライニング17が成型されて構成されている。
裏板19は、プレス加工により一体に形成される。裏板19は、図3に示すように、アンカプレート25の一対の平行な長辺部の一方に、蟻ほぞ根元部37を介して凸状円弧片部51が張り出して形成される。裏板19は、アンカプレート25の一対の平行な長辺部の他方に、蟻ほぞ根元部37を介して凹状円弧片部53が張り出して形成される。また、アンカプレート25の突き合わせ側と反対側の一方の短辺部には、小片部55が張り出して形成される。これら凸状円弧片部51、凹状円弧片部53、及び小片部55は、アンカプレート側の面のみを表出させて、固着されるライニング17に埋入される。これにより、裏板19にライニング17が固着した分割パッド11,13が形成される。
【0030】
ライニング17は、例えば合成樹脂に摩擦材を混入して重合した合成樹脂系の摩擦材である。この他、ライニング17は、裏板19の表面に金属粉などの摩擦材が焼結されてもよい。裏板19は、アンカプレート25、凸状円弧片部51、凹状円弧片部53、及び小片部55に、複数の固着孔57が穿設されている。固着孔57は、四角形に形成され、各辺にライニング17に埋入する折返片59が形成されている。裏板19は、この固着孔57にライニング17が侵入して固化することにより、折返片59が埋入されて、固定強度が高められている。
【0031】
2個の分割パッド11,13からなるブレーキパッド10は、一対の平行な長辺部のライニング外周側12が外側に突出する凸状円弧14で形成され、ライニング内周側16が内側に凹む凹状円弧18で形成されている。
これら凸状円弧14及び凹状円弧18の中心は、鉄道車両用ディスクブレーキ装置1に用いられるブレーキディスク80(図6参照)の中心と一致する。なお、ブレーキパッド10の外形状は、これに限定されない。
【0032】
更に、ブレーキパッド10のライニング内周側16には、ライニング表面17aに向ってブレーキディスク80の回転中心から離れる方向(図4中、左方向)に傾斜する逃げ部20が設けられている。
逃げ部20は、図4の(a)に示すように、傾斜角度θが、15°~32°の範囲の斜面とされることが望ましい。更に、逃げ部20の表面20aとライニング表面17aとの角部21には、図4の(b)に示すように、丸み面からなる面取りが設けられている。なお、面取りは、45°面取りでもよいことは云うまでもない。
【0033】
また、逃げ部20は、ブレーキパッド10のライニング摩耗限度位置23まで設けられている。即ち、逃げ部20の傾斜面は、ブレーキパッド10におけるライニング17の残量が使用限界となるライニング摩耗限度位置23まで形成されており、ブレーキパッド10のライニング17をライニング摩耗限度位置23まで使用した場合でも、ライニング内周側16には逃げ部20が残った状態となる。なお、例えばライニング17のライニング表面17aに形成される溝17bの深さが、ライニング摩耗限度位置23までとされる。すると、ブレーキパッド10は、溝17bの深さを確認することでライニング17の残量を知ることができる。
【0034】
図5の(a)はキャリパホルダ47に取り付け途中のディスクブレーキ用パッド組立体15の斜視図、図5の(b)は図5の(a)に示したディスクブレーキ用パッド組立体15をライニング側から見た斜視図である。
【0035】
図5の(a)に示すように、1セットの分割パッド11,13により構成されたブレーキパッド10は、制動時の鳴きやライニングの偏摩耗防止、或いは断熱を目的としたシム30が裏板19側に取付けられ、ディスクブレーキ用パッド組立体15を構成する。シム30の材質としては、例えば一般的な薄板のSUS材が用いられる。
【0036】
ディスクブレーキ用パッド組立体15は、連続する2つの固定部27の一方から、蟻溝状に形成されたキャリパホルダ47の保持部49に挿入されて組み付けられる。1枚のシム30は、2個の分割パッド11,13の固定部27が保持部49に係合することで、2個の分割パッド11,13とキャリパホルダ47とに挟持されて取り付けられる。
【0037】
図6の(a)は本発明に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置1とブレーキディスク80との位置関係等を示す説明図、図6の(b)は本発明に係る鉄道車両用ディスクブレーキ装置1の要部を示す一部断面構成図である。
【0038】
キャリパホルダ47に取付けられたディスクブレーキ用パッド組立体15は、図6の(a),(b)に示すように、鉄道車両用ディスクブレーキ装置1のブレーキキャリパ75に取り付けられる。
鉄道車両用ディスクブレーキ装置1は、車両の台車71に支持されたブレーキ本体73と、中間部がブレーキ本体73に軸支された一対のアーム77,77とを有するブレーキキャリパ75を備える。ブレーキディスク80の摩擦面81に対向するアーム77の各開放端には、キャリパホルダ47を介してブレーキパッド10が取り付けられる。開放端と反対側のアーム77の基端部には、一対のアーム77の基端部を拡開方向へ駆動する駆動機構の出力部材(図示せず)が接続される。
【0039】
すなわち、ブレーキキャリパ75は、鉄道車両用の輪軸100に装着されたブレーキディスク80を跨ぐように台車71側に固定されている。そして、キャリパホルダ47を介してブレーキキャリパ75に装着されたブレーキパッド10は、駆動機構によりブレーキディスク80に押圧される。
【0040】
鉄道車両用ディスクブレーキ装置1は、図6の(a),(b)に示すように、ブレーキディスク80が輪軸100の車軸95に装着されると共にブレーキキャリパ75が車両の台車71に支持されており、ブレーキディスク80とブレーキキャリパ75とが同一軸上に搭載されていない。そのため、車両の重量変化や傾きによって、ブレーキキャリパ75に装着されたブレーキパッド10はブレーキディスク80に対して相対的に変位し、上下移動する。
【0041】
次に、上記した本第1実施形態に係るブレーキパッド10の作用を説明する。
図7の(a)は偏摩耗したブレーキディスク80に対する本発明の第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10を示す要部断面図であり、図7の(b)は参考例に係る鉄道車両用のブレーキパッド510を示す要部断面図である。
【0042】
図7の(a)に示すように、本第1実施形態に係るブレーキパッド10によれば、偏摩耗したブレーキディスク80の摩擦面81に対して圧接された際、逃げ部20が設けられたライニング内周側16は、ブレーキディスク80の中心側の傾斜した摩擦面81aとの当たりが弱められる。
【0043】
即ち、中心から外径に向って(図7中、左から右に向って)断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面81が偏摩耗したブレーキディスク80に対して、新品のブレーキパッド10のライニング17が圧接されると、ライニング内周側16がブレーキディスク80の中心側の傾斜した摩擦面81aと最初に当たる。この際、ライニング内周側16に逃げ部20が設けられたブレーキパッド10のライニング表面17aの内側端E1は、図7の(b)に示した逃げ部20が設けられていない参考例のブレーキパッド510のライニング表面17aの内側端E2よりもディスク外径側で、ブレーキディスク80の傾斜した摩擦面81aに当たることができ、摩擦面81aの傾斜が緩くなった分だけ当たりが弱められると考えられる。
【0044】
従って、本第1実施形態に係るブレーキパッド10は、摩擦面81が偏摩耗したブレーキディスク80に対して使用された場合でも、逃げ部20が設けられてブレーキディスク80の摩擦面81との当たりが弱められたライニング内周側16にはバリが生じ難くなり、ライニング17のバリ発生を抑制できる。
【0045】
また、本第1実施形態に係るブレーキパッド10の逃げ部20は、傾斜角度θが15°~32°の範囲の斜面とされることが望ましい。この場合、ライニング表面17aの面積減少を抑えて摩擦特性の悪化を最小限に抑えながらライニング17のバリ発生を抑制できる。
即ち、ライニング内周側16に設けられる逃げ部20が、32°より大きい傾斜角度θの斜面で形成された場合、逃げ部20が設けられていない従来のブレーキパッドに比べて、ライニング表面17aの面積が減少し摩擦特性が悪化してしまう。そのため、駆動機構の駆動力を高める必要が生じ、鉄道車両用ディスクブレーキ装置1のコストアップや大型化を招く虞がある。
また、ライニング内周側16に設けられる逃げ部20が、15°未満の傾斜角度θの斜面で形成された場合、ブレーキディスク80の中心側の傾斜した摩擦面81aとの当たりを十分に弱めることができず、ライニング17のバリ発生を確実に抑制することができない虞がある。
【0046】
また、本第1実施形態に係るブレーキパッド10は、逃げ部20の表面20aとライニング表面17aとの角部21に、丸み面からなる面取りが設けられている。そこで、特に、パッド交換初期におけるライニング17のバリ発生を確実に抑制できる。
【0047】
また、本第1実施形態に係るブレーキパッド10の逃げ部20は、ブレーキパッド10のライニング摩耗限度位置23まで設けられている。そこで、ブレーキパッド10をライニング摩耗限度位置23まで使用した場合でも、ライニング内周側16には逃げ部20が残ってブレーキディスク80の中心側の傾斜した摩擦面81aとの当たりを十分に弱めることができる。そこで、ブレーキパッド10の使用限度まで、ライニング17のバリ発生を確実に抑制できる。
【0048】
図8の(a)は本発明の第2実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Aの斜視図、図8の(b)は本発明の第3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Bの正面図、図8の(c)は図8の(b)におけるB-B断面矢視図である。
【0049】
図8の(a)に示すように、本第2実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Aは、上記第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10と同様に、2つに分割された分割パッド11A,13Aにより構成されている。
本第2実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Aは、ライニング内周側16に設けられた逃げ部20に加え、ライニング表面17aのロータ回入側41及びロータ回出側42には、面取り50が設けられている。
【0050】
本第2実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Aによれば、ブレーキキャリパ75が操舵台車に固定された場合でも、ライニング17のバリ発生を抑制すると共に、カーブに追従するように輪軸100が操舵された際にブレーキディスク80がライニング17のロータ回入側41及びロータ回出側42に強く当るのを防止できる。
【0051】
図8の(b),(c)に示すように、本第3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Bは、上記第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10のような2つに分割された分割パッド11,13により構成されたものではない。
本第3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Bは、1枚の裏板19Bの表面に3つのライニング17Bが固着されている。
【0052】
裏板19Bは、一対の平行な長辺部の一方に、凸状円弧片部51Bが形成され、一対の平行な長辺部の他方に、凹状円弧片部53Bが形成された金属製の板材である。
ライニング17Bは、例えば合成樹脂に摩擦材を混入して重合した合成樹脂系の摩擦材である。この他、ライニング17Bは、裏板19Bの表面に金属粉などの摩擦材が焼結されてもよい。
【0053】
3つのライニング17Bを有するブレーキパッド10Bは、各ライニング17Bにおけるライニング外周側12Bが外側に突出する凸状円弧14Bで形成され、ライニング内周側16Bが内側に凹む凹状円弧18Bで形成されている。
これら凸状円弧14B及び凹状円弧18Bの中心は、ブレーキディスク80の中心と一致する。なお、各ライニング17Bの外形状は、これに限定されない。
【0054】
そして、ブレーキパッド10Bにおける各ライニング17Bのライニング内周側16Bには、ライニング表面17aに向ってブレーキディスク80の回転中心から離れる方向(図8の(c)中、右方向)に傾斜する逃げ部20Bが設けられている。
逃げ部20Bは、上記第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10における逃げ部20と同様に、傾斜角度θが、15°~32°の範囲の斜面とされることが望ましい。更に、逃げ部20Bの表面20aとライニング表面17aとの角部21には、丸み面からなる面取りが設けられている。
【0055】
従って、本第3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10Bによれば、上記第1実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10と同様に、摩擦面81が偏摩耗したブレーキディスク80に対して使用された場合でも、逃げ部20Bが設けられてブレーキディスク80の摩擦面81との当たりが弱められたライニング内周側16Bにはバリが生じ難くなり、ライニング17Bのバリ発生を抑制できる。
【0056】
上述したように、上記第1~3実施形態に係る鉄道車両用のブレーキパッド10,10A,10Bによれば、ブレーキディスク80との当たりを改善し、ライニング17,17Bのバリ発生を抑制できる。
【0057】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
例えば、上記実施形態では、ブレーキディスク80が、輪軸100の車軸95に装着されたディスクロータとして構成された場合について説明したが、輪軸100に装着されるブレーキディスクは、車輪90の厚さ方向両側面位置に配設された一対のブレーキディスクで構成することもできる。
【0058】
ここで、上述した本発明に係る鉄道車両用のブレーキパッドの実施形態の特徴をそれぞれ以下に簡潔に纏めて列記する。
[1] 鉄道車両用の輪軸(100)に装着されたブレーキディスク(80)を跨ぐように台車(71)側に固定されたブレーキキャリパ(75)に装着され、前記ブレーキディスク(80)に押圧される鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)であって、
前記ブレーキパッド(10,10A,10B)のライニング内周側(16,16B)には、ライニング表面(17a)に向って前記ブレーキディスク(80)の回転中心から離れる方向に傾斜する逃げ部(20,20B)が設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)。
[2] 上記[1]に記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)であって、
前記逃げ部(20,20B)は、傾斜角度(θ)が、15°~32°の範囲の斜面である
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)。
[3] 上記[1]又は[2]に記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A)であって、
前記逃げ部(20)の表面(20a)と前記ライニング表面(17a)との角部(21)には、面取りが設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A)。
[4] 上記[1]~[3]の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)であって、
前記逃げ部(20,20B)は、前記ブレーキパッド(10,10A,10B)のライニング摩耗限度位置(23)まで設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)。
[5] 上記[1]~[4]の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A)であって、
前記ブレーキパッド(10,10A)が、複数に分割された分割パッド(11;11A,13;13A)により構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A)。
[6] 上記[1]~[5]の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)であって、
前記ブレーキパッド(10,10A,10B)のライニング(17,17B)が、合成樹脂系の摩擦材により構成されている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10,10A,10B)。
[7] 上記[1]~[6]の何れか1つに記載の鉄道車両用のブレーキパッド(10A)であって、
前記ブレーキパッド(10A)におけるライニング表面(17a)のロータ回入側(41)及びロータ回出側(42)には、面取り(50)が設けられている
ことを特徴とする鉄道車両用のブレーキパッド(10A)。
【実施例
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例のみ限定されるものではない。
本発明に係る鉄道車両用のブレーキパッドのバリ抑制効果を確認するため、ディスクブレーキ試験機(株式会社東京衡機製)を用いて偏摩耗したブレーキディスクに対するブレーキパッドのライニング摩耗試験を行った。その試験内容を以下に示す。
【0060】
[ブレーキパッド摩耗試験]
(試験方法)
1.中心から外径に向って断面厚さが半放物線状に薄くなるように摩擦面が偏摩耗したブレーキディスク(図7参照)と、逃げ部の傾斜角度θが異なる試料1~5のブレーキパッド(各サンプル5個)とを使用し、下記試験条件のブレーキパッド摩耗試験を行う。
2.回収した資料1~5毎の各サンプル5個のブレーキパッドのライニング内周側における「バリの有無」及び「フチカケの有無」を確認する。
3.上記ブレーキパッド摩耗試験による判定結果を下記表1に示す。
判定基準
○:各サンプル5個中に、「バリ」及び「フチカケ」が全く無し
△:各サンプル5個中に、「フチカケ」が有り
×:各サンプル5個中に、「バリ」及び「フチカケ」が全て有り
【0061】
(試験条件)
試験速度:40km/h(ブレーキディスク直径610mm換算)
パッド押付力:20kN × 2
フライホイール慣性モーメント:1226kg・m2
制動回数:200回
【0062】
(ライニング)
材質:合成ディスクライニング
外周R:296mm
内周R:212mm
逃げ部20の傾斜角度θ:0°、9°、15°、18°、23°
【0063】
【表1】
【0064】
上記表1から、本発明に係る鉄道車両用のブレーキパッドによれば、ライニングのバリ発生を抑制できることが確認できる。特に、逃げ部の傾斜角度θが15°以上とされることで、ライニングのバリ発生やフチカケを確実に抑制することができる。
また、逃げ部の傾斜角度θが32°より大きい場合、ライニング表面の面積が、逃げ部が設けられていないブレーキパッドに比べて10%以上減少してしまい、摩擦特性が許容範囲を超えてしまうので望ましくない。
【符号の説明】
【0065】
10…鉄道車両用のブレーキパッド
16…ライニング内周側
17…ライニング
17a…ライニング表面
20…逃げ部
71…台車
75…ブレーキキャリパ
80…ブレーキディスク
100…輪軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8