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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】摩擦材製造装置および摩擦材製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/00 20060101AFI20230711BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20230711BHJP
   F27B 9/04 20060101ALI20230711BHJP
   F27B 9/36 20060101ALI20230711BHJP
   F27D 7/02 20060101ALI20230711BHJP
   F27D 11/02 20060101ALI20230711BHJP
   H05B 3/10 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B22F5/00 G
B22F3/10 M
F27B9/04
F27B9/36
F27D7/02 Z
F27D11/02 Z
H05B3/10 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019132171
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2020026578
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018152363
(32)【優先日】2018-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】仁平 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦
(72)【発明者】
【氏名】高田 恵里
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-031689(JP,A)
【文献】特開昭52-065703(JP,A)
【文献】韓国登録特許第0645914(KR,B1)
【文献】特開2002-048781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 5/00
B22F 3/10
F27B 9/04
F27B 9/36
F27D 7/02
F27D 11/02
H05B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材を焼結する摩擦材製造装置であって、
前記摩擦材の予備成形品であるワークの積層体を、積層方向において挟持する治具と、
前記治具の搬送経路を形成する搬送機構と、
前記搬送経路の途中に設けられており、前記治具に挟持される前記積層体を、積層方向に対し側方から赤外線で前記治具の外側より加熱する加熱装置と、を備える、
摩擦材製造装置。
【請求項2】
前記治具は、
前記積層体を前記積層方向における一方側から支持する支持部と、
前記積層体を前記積層方向における他方側から前記支持部の方へ加圧する加圧部と、を有する、
請求項1に記載の摩擦材製造装置。
【請求項3】
前記加熱装置は、赤外線を発する素子を、前記治具が前記加熱装置の位置にある状態において前記積層体の側方となる位置に有する、
請求項1または2に記載の摩擦材製造装置。
【請求項4】
前記治具は、前記積層体を積層方向に対し側方から覆う透明な板製の窓を有しており、前記積層体を収納する収納部を有する、
請求項1から3の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項5】
前記治具は、前記収納部内に不活性ガスを導入するガス導入部を有する、
請求項4に記載の摩擦材製造装置。
【請求項6】
前記治具と前記搬送機構と前記加熱装置とを収納する収納部を更に備える、
請求項1から3の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項7】
前記加熱装置を収納し、前記治具を出し入れ可能な収納部を更に備える、
請求項1から3の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項8】
前記収納部は、前記治具を出し入れする開口部に扉を有する、
請求項7に記載の摩擦材製造装置。
【請求項9】
前記収納部は、不活性ガスを導入するガス導入部を有する、
請求項6から8の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項10】
前記治具は、前記積層体に接する部位に断熱材を有する、
請求項1から9の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項11】
前記加熱装置は、ピーク波長が1200~1700nmの範囲内にある近赤外線ヒータである、
請求項1から10の何れか一項に記載の摩擦材製造装置。
【請求項12】
摩擦材を焼結する摩擦材製造方法であって、
前記摩擦材の予備成形品であるワークの積層体を、積層方向において治具で挟持し、
前記治具を、搬送機構が形成する搬送経路に沿って搬送し、
前記搬送経路の途中に設けられた加熱装置で、前記治具に挟持される前記積層体を、積層方向に対し側方から赤外線で前記治具の外側より加熱する、
摩擦材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、摩擦材製造装置および摩擦材製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
車両やその他各種の機械で用いられるブレーキには、通常、摩擦材が備わっている。摩擦材は、運動エネルギーを熱エネルギーに変換する部材なので、高温になっても所定の制動力を発揮することが求められる。そこで、摩擦材が高温の状態で使用されても所定の制動力を発揮するように、摩擦材の製造ラインでは摩擦材を適切な温度で成形するための各種工夫がなされている(例えば、特許文献1-3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-522362号公報
【文献】特許第6113927号公報
【文献】中国実用新案第205437147号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、金属粉を焼結した摩擦材に代表されるように、成形時の温度が比較的高い摩擦材を効率よく製造するには、摩擦材を速やかに加熱することが望まれる。しかし、摩擦材を熱板で昇温する場合には、熱が熱源から熱板を介して摩擦材へ伝達されるので、熱板自体の昇温を伴い、摩擦材の温度上昇率が熱板の熱容量に大きく依存する。また摩擦材を対流炉で昇温する場合には、熱が熱源から気流を介して摩擦材へ伝達されるので、伝熱性に劣る気体を介することになり、摩擦材を速やかに昇温することが容易でない。
【0005】
そこで、本発明は、摩擦材を効率的に製造可能にすることを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、摩擦材の予備成形品であるワークの積層体を治具で挟持し、その状態で積層方向に対し側方から赤外線で加熱することにした。
【0007】
詳細には、本発明は、摩擦材を焼結する摩擦材製造装置であって、摩擦材の予備成形品であるワークの積層体を、積層方向において挟持する治具と、治具の搬送経路を形成する搬送機構と、搬送経路の途中に設けられており、治具に挟持される積層体を、積層方向に対し側方から赤外線で加熱する加熱装置と、を備える。
【0008】
上記の摩擦材製造装置では、治具に挟持される積層体の加熱に赤外線を用いているので、積層体の部分を選択的に集中して加熱することが可能である。よって、例えば、対流式のように特定の箇所を選択的に集中して加熱することが難しい加熱方式に比べて、加熱対象を効率的に加熱可能である。
【0009】
そして、上記の摩擦材製造装置では、このような加熱装置を搬送経路の途中に設け、加熱対象の積層体を挟持する治具を搬送機構で搬送する形態を採っているため、加熱装置で加熱を終えた積層体を治具と一体で加熱装置から離すことができる。このため、加熱装置で加熱を終えた積層体の温度が下がるのを待つ間に、他の治具に挟持されている積層体の加熱を当該加熱装置で連続して行うことができる。
【0010】
したがって、上記の摩擦材製造装置であれば、摩擦材を効率的に製造することが可能となる。
【0011】
なお、治具は、積層体を積層方向における一方側から支持する支持部と、積層体を積層方向における他方側から支持部の方へ加圧する加圧部と、を有するものであってもよい。このような治具を用いれば、加熱装置で加熱を終えた積層体を、加圧した状態を保ったまま治具と一体で加熱装置から離すことができる。このため、加熱装置において、加熱対象である積層体の入れ替えを速やかに行うことが可能である。
【0012】
また、加熱装置は、赤外線を発する素子を、治具が加熱装置の位置にある状態において積層体の側方となる位置に有するものであってもよい。赤外線を発する素子をこのような位置に有する加熱装置であれば、加熱対象の積層体を挟持する治具を搬送機構で加熱装置付近に搬送するだけで、治具に挟持されている積層体が素子の赤外線に照らされるようにすることができるため、加熱装置において、加熱対象である積層体の入れ替えを速やかに行うことが可能である。
【0013】
また、治具は、積層体を積層方向に対し側方から覆う透明な板製の窓を有しており、積層体を収納する収納部を有するものであってもよい。この場合、治具は、収納部内に不活性ガスを導入するガス導入部を有するものであってもよい。上記の摩擦材製造装置では、加熱に赤外線を用いているので、このように透明な板製の窓を通じた加熱も可能である。よって、このように治具に収納部を設け、透明な板製の窓を通じて赤外線で加熱する構成を採れば、例えば、収納部内を不活性ガスの雰囲気にすることも可能となる。
【0014】
また、上記の摩擦材製造装置は、治具と搬送機構と加熱装置とを収納する収納部を更に備えるものであってもよい。この収納部は、不活性ガスを導入するガス導入部を有していてもよい。この場合、例えば、収納部内を不活性ガスの雰囲気にしても治具の移動が容易である。
【0015】
また、上記の摩擦材製造装置は、加熱装置を収納し、治具を出し入れ可能な収納部を更に備えるものであってもよい。この収納部は、治具を出し入れする開口部に扉を有していてもよい。また、この場合、収納部は、不活性ガスを導入する導入部を有してもよい。このように加熱装置に収納部を設け、治具を搬送機構で加熱装置付近に搬送後、収納部を閉鎖することにより、収納部内を不活性ガスの雰囲気にすることが可能である。
【0016】
また、治具は、積層体に接する部位に断熱材を有するものであってもよい。この場合、積層体から治具への熱移動を抑制することができる。
【0017】
また、加熱装置は、ピーク波長が1200~1700nmの範囲内にある近赤外線ヒータであってもよい。このような波長の近赤外線は、例えば、ピーク波長が1700~2700nmの中赤外線に比べて物質内の透過性が高いため、摩擦材を積層した積層体であってもその表面付近に留まらず、積層体の内部を高エネルギーで加熱することが可能である。したがって、摩擦材を積み重ねた積層体のように中心部の加熱が容易でない加熱対象物の加熱に好適である。
【0018】
また、本発明は、方法の側面から捉えることもできる。例えば、本発明は、摩擦材を焼結する摩擦材製造方法であって、摩擦材の予備成形品であるワークの積層体を、積層方向において治具で挟持し、治具を、搬送機構が形成する搬送経路に沿って搬送し、搬送経路の途中に設けられた加熱装置で、治具に挟持される積層体を、積層方向に対し側方から赤外線で加熱するものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明であれば、摩擦材を効率的に製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態に係る摩擦材製造装置の概略構成図である。
図2図2は、摩擦材製造装置を搬送経路の側方から見た構造図である。
図3図3は、摩擦材製造装置を搬送経路の搬送方向から見た構造図である。
図4図4は、摩擦材製造装置の使用方法を示した第1の図である。
図5図5は、摩擦材製造装置の使用方法を示した第2の図である。
図6図6は、治具を連続的に並べた様子を示した図である。
図7図7は、摩擦材製造装置の変形例を示した図である。
図8図8は、上板と下板に設けられるガス用の開口の一例を示した図である。
図9図9は、摩擦材製造装置の第1変形例を示した図である。
図10図10は、第1変形例に係る摩擦材製造装置を搬送経路の側方から見た構造図である。
図11図11は、摩擦材製造装置の第2変形例を示した図である。
図12図12は、摩擦材製造装置の第3変形例を示した図である。
図13図13は、摩擦材製造装置の第4変形例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の技術的範囲を以下の形態に限定するものではない。
【0022】
図1は、実施形態に係る摩擦材製造装置の概略構成図である。摩擦材製造装置1は、ブレーキ用の摩擦材を焼結する装置であり、摩擦材の予備成形品であるワークを積み重ねた積層体2を、積層方向において加圧機構3で挟持する治具4と、治具4の搬送経路5を形成する搬送機構と、搬送経路5の途中に設けられており、治具4で加圧機構3に挟持されている積層体2を積層方向に対し側方から赤外線で加熱する加熱装置6とを備える。摩擦材製造装置1は、積層体2を加圧機構3で挟持した状態の治具4を搬送経路5に沿って移動し、搬送経路5の途中にある加熱装置6で積層体2を加熱することにより、積層体2にある摩擦材を加熱する。なお、摩擦材製造装置1は積層体2を上下で挟持する構造に限定されず、積層体2を横向きで挟持する構造であってもよい。この摩擦材は、例えば、各種産業機器、輸送機器、事務用機器等への使用が想定される。
【0023】
積層体2は、金属粉に研削材や潤滑材を混ぜて薄い板状にプレスした予備成形品をプレッシャプレートに重ね、更に、予備成形品の摩擦面側にアルミナのセッターを配置した組み合わせ品を複数組積み重ねたものである。積層体2は、予備成型品とプレッシャプレートとセッターを、例えば、積み重ね用の治具にセットして積み重ねることにより実現できる。
【0024】
治具4は、このような積層体2を、加圧機構3で挟持した状態で格納可能な収納部7を有する。収納部7には、後述するように、加熱装置6の近赤外線を通す窓が備わっている。収納部7は、加熱装置6の熱に対して耐熱性を有する素材で形成される。
【0025】
摩擦材製造装置1の各部の詳細について説明する。図2は、摩擦材製造装置1を搬送経路5の側方から見た構造図である。また、図3は、摩擦材製造装置1を搬送経路5の搬送方向から見た構造図である。
【0026】
摩擦材製造装置1は、搬送経路5を形成する搬送機構8や、加熱装置6を支持する支持部材9を備える。また、摩擦材製造装置1には不活性ガスボンベ10が併設されており、
不活性ガスボンベ10がホース11を介して治具4のガス導入口12に連結されている。そして、治具4の収納部7には、不活性ガスボンベ10から供給された不活性ガスが流通する。不活性ガスボンベ10に充填されている不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、その他各種の不活性ガスが挙げられる。不活性ガスボンベ10は、積層体2が収納されている収納部7内を不活性ガスの雰囲気にすることで、焼結中の酸化を防ぐ目的で設けられている。なお、不活性ガス雰囲気下のほかに、還元ガス雰囲気下や、不活性ガスと還元ガスの併用雰囲気下、減圧雰囲気下での焼結も可能である。よって、不活性ガスボンベ10と治具4のガス導入口12とを連結するホース11は、治具4が搬送経路5をスライドしても追従可能なように引き回されている。
【0027】
収納部7には、加熱装置6の近赤外線が透過する石英ガラス13が設けられている。収納部7は、加熱装置6の熱に対して耐熱性のステンレス等の金属製の素材で基本的に形成されているが、治具4が加熱装置6の付近に居る場合に加熱装置6の近赤外線が照射される部位に石英ガラス13が配置されており、加熱装置6の近赤外線が治具4の無用な箇所に照射されにくいように設計されている。石英ガラス13やその他の金属製の素材で形成される収納部7は、内部を流通する不活性ガスの漏出が所定の許容範囲に収まり、且つ、加熱装置6による温度上昇に伴う部材の膨張が部材同士の干渉を引き起こさないように、各部材同士が適切な寸法で設計されている。また、ガス導入口12から収納部7内に導入される不活性ガスボンベ10の不活性ガスは、収納部7内を通過し、収納部7に設けられたガス排気口17から排気される。ガス導入口12から収納部7内に導入された不活性ガスは、摩擦材の酸化を抑制する他、収納部7を構成する部材の冷却機能、石英ガラス13の防汚機能を発揮するため、ガス排気口17における排気量はこれらの機能維持を考慮して調整される。なお、積層体2を積層方向に対し側方から覆う透明な板製の窓は、赤外線を透過し耐熱性があれば材質は石英ガラス13に限定されない。
【0028】
また、収納部7に設けられている加圧機構3は、積層体2を上側から支持する支持部14と、積層体2を下側から支持部14の方へ加圧する加圧部15とを備える。加圧部15は、エアシリンダ16によって上下方向に昇降される部位である。エアシリンダ16は、高圧の空気を供給するコンプレッサーに耐圧ホースを介して接続されており、当該高圧の空気を供給する経路の途中に設けられる弁の開閉に応じて加圧部15を昇降させる。また、加圧機構3には、積層体2に加わる荷重を計測するロードセルが備わっており、積層体2に加える荷重の大きさを調整可能である。加圧機構3には、加熱装置6の熱によるロードセルの破損を防ぐため、水冷ジャケット等による冷却構造が備わっている。なお、加圧機構3は、積層体2を加圧可能であればよく、エアシリンダ16を用いたもの以外に、例えば、コイルバネ、錘を併用したテコ、手動ジャッキ、油圧シリンダ、その他各種の加圧手段を適用してもよい。
【0029】
このように構成される治具4は、搬送機構8によって搬送経路5をスライド可能になっている。治具4をスライドさせる搬送機構8は、治具4が載るローラ式のコンベアであってもよいし、或いは、搬送経路5に沿って延在するレールに嵌合するリニアガイドであってもよい。また、搬送機構8は、治具4をスライドさせるモータ等の動力源を有しない手動式の機構であってもよいし、或いは、動力源を有する自動式の機構であってもよい。
【0030】
治具4は、搬送経路5上を適当なタイミングで前進したり停止したりしながら搬送される。治具4が前進されたり停止されたりするタイミングは、加熱装置6の加熱力、摩擦材製造装置1が設置されている工場内の雰囲気温度、積層体2に積層されている摩擦材の組成、積層体2に積層されている摩擦材の枚数、加圧機構3の加圧力、その他各種の要素に応じて決定される。
【0031】
加熱装置6は、このような治具4にセットされている積層体2を近赤外線で加熱する。
加熱装置6は、搬送経路5の方向に沿って延在する棒状の近赤外線ヒータを搬送経路5の両側に複数本ずつ備えており、積層体2を約1000℃程度に加熱可能な加熱能力を有する。
【0032】
各近赤外線ヒータは、例えば、ピーク波長が1200~1700nmの範囲内にある近赤外線を放つ。このような波長の近赤外線は、波長の長い遠赤外線に比べて物質内の透過性が高いため、摩擦材を積層した積層体2であってもその表面付近に留まらず、積層体2の内部を加熱することが可能である。したがって、石英ガラス13を通じた赤外線による積層体2の加熱に好適である。
【0033】
各近赤外線ヒータは、一乃至複数本の組み合わせ毎に通電が制御されており、積層体2の上層部と中層部と下層部の各々に適切な熱量を加えることが可能となっている。加熱装置6の各近赤外線ヒータの通電パターンは、加熱装置6の加熱力、摩擦材製造装置1が設置されている工場内の雰囲気温度、積層体2に積層されている摩擦材の組成、積層体2に積層されている摩擦材の枚数、加圧機構3の加圧力、その他各種の要素に応じて調整される。加熱装置6の通電パターンは、予め設定された既定のシーケンスに従ってもよいし、或いは、積層体2の温度を非接触で測定するサーモグラフィ等の放射温度計の情報に従ってもよい。
【0034】
次に、摩擦材製造装置1の使用方法について説明する。図4は、摩擦材製造装置1の使用方法を示した第1の図である。また、図5は、摩擦材製造装置1の使用方法を示した第2の図である。摩擦材製造装置1を使って摩擦材の焼結を行う場合は、まず、図4(A)に示されるように、エアシリンダ16を収縮させて加圧部15を下限位置にし、その状態で積層体2を治具4にセットする。次に、図4(B)に示されるように、エアシリンダ16を伸ばして加圧部15を上昇させ、積層体2を支持部14と加圧部15で挟持する。そして、収納部7の開放部分を閉鎖し、不活性ガスボンベ10の不活性ガスを収納部7内へ供給する。
【0035】
このようにして加熱装置6による加熱の準備が整うと、図4(C)に示されるように、治具4を搬送機構8でスライドさせて、治具4を加熱装置6の付近に移動する。そして、加熱装置6で積層体2を加熱する。積層体2に積層されている摩擦材の焼結が進むと、適当なタイミングで治具4をスライドさせて、図5(A)に示されるように、治具4を加熱装置6から離す。そして、積層体2に積層されている摩擦材が適当な温度に下がるまで積層体2を自然冷却等により冷却させると、積層体2に積層されている摩擦材の焼結が完了する。積層体2に積層されている摩擦材の焼結が完了すると、図5(B)に示されるように、エアシリンダ16を収縮させて加圧部15を下限位置にし、その状態で積層体2を治具4から取り外す。積層体2が取り外された治具4は、ただちに他の摩擦材の焼結に用いることが可能である。
【0036】
近赤外線ヒータは、抵抗加熱ヒータに比べると、昇温速度が10~20倍である。また、近赤外線ヒータは、中波長カーボンヒータや中波長赤外線ヒータのピーク波長である1700nmから2700nmまでの範囲内よりもピーク波長が短いため、中波長カーボンヒータや中波長赤外線ヒータよりも高エネルギーを出力可能であり、金属粉に研削材や潤滑材を混ぜた無機物の摩擦材を比較的短時間で焼結可能である。
【0037】
そして、上記実施形態の摩擦材製造装置1であれば、積層体2がセットされた治具4を搬送機構8でスライドさせながら加熱装置6付近を通過させることができるため、例えば、次のようにして用いることにより、摩擦材を実質的にバッチ式ではなく連続式で大量に焼成可能である。
【0038】
図6は、治具4を連続的に並べた様子を示した図である。摩擦材製造装置1は、積層体2がセットされた治具4を搬送機構8でスライドさせながら加熱装置6付近を通過させることができるため、例えば、図6に示されるように、積層体2がセットされた治具4(4-1~5)を搬送経路5に複数並べることにより、加熱装置6において積層体2の加熱を終えた治具4を速やかにスライドさせて加熱装置6から離し、続けて加熱前の積層体2がセットされている後続の治具4をスライドさせて加熱装置6の位置に置くことで、摩擦材の加熱と冷却を同時に行うことができる。よって、加熱装置6の利用効率を可及的に高めることが可能である。摩擦材製造装置1は、このような使用が可能であるため、搬送経路5のうち加熱装置6がある領域を加熱ゾーン、加熱ゾーン以外の領域を冷却ゾーンとして捉えることができる。
【0039】
なお、上記実施形態の摩擦材製造装置1では、摩擦材の焼結が加熱装置6のみで行われているが、摩擦材の焼結は加熱装置6とその他の加熱装置が協働で行ってもよい。例えば、摩擦材製造装置1には、近赤外線ヒータを備えた加熱装置6の隣に温風を使った対流炉が併設されており、摩擦材の昇温を加熱装置6が担い、加熱装置6で昇温された摩擦材の温度の維持を対流炉が担うようにしてもよい。また、複数の加熱装置6の近赤外線ヒータの出力をそれぞれ変えることで摩擦材の温度の維持を行なってもよい。
【0040】
図7は、摩擦材製造装置1の変形例を示した図である。摩擦材製造装置1は、例えば、図7に示されるように、搬送経路5沿いに加熱装置6を複数設けたものであってもよい。摩擦材製造装置1が搬送経路5沿いに加熱装置6を複数設けたものであれば、複数の治具4に各々セットされている各積層体2を、複数の加熱装置6で同時に加熱することができる。よって、本変形例の摩擦材製造装置1であれば、多数の摩擦材を焼結させることが可能である。
【0041】
近赤外線ヒータを用いて焼結摩擦材を作製する場合と、抵抗加熱ヒータを用いて焼結摩擦材を作製する場合とを比較検証したので、その結果を以下に示す。本検証では、積層体2の積層方向が上記実施形態のように上下ではなく横向きとなるように積層体2を配置し、これを上側と下側から加熱する形態で検証を行った。
【0042】
本検証では、加熱装置を構成する棒状の近赤外線ヒータとして、ピーク波長が1200~1700nm、全長405mm、発熱する部位の長さ(有効長)が340mmのものを使用した。本検証では、この近赤外線ヒータを、積層方向が横向きとなる状態で配置された積層体2の上側に6本、下側に3本設置した。
【0043】
本検証では、上記実施形態の治具4に相当する治具として、コイルバネで加圧機構を構成し、耐熱性の金属製部品や透明な石英ガラスで形成されて密封された収納部内にアルゴンガスを通気させたものを用意した。近赤外線ヒータの有効長が340mmであるため、治具のフレームを540mm程度の長さとすることで、治具のフレームを構成する金属製部品が、近赤外線ヒータから照射される近赤外線に直接照射されにくい構造とした。
【0044】
本検証では、アルゴンガスが、2系統ある導入口から収納部内へ導入され、1系統の排気口から排出されるようにした。また、アルゴンガスは、2系統ある導入口から収納部内へ流入すると、加圧機構を構成するコイルバネに吹き付けられるようにすることで常時冷却される構造とし、コイルバネの熱変形を防止した。
【0045】
本検証では、金属粉に研削材や潤滑材を混ぜて薄い板状にプレスし、φ42mm、厚さ12mmの円柱状ブロックの予備成形品を6枚用意した。そして、ブレーキのプレッシャプレートに相当する熱間圧延鋼プレートに各円柱状ブロックを重ね、更にアルミナのセッターを挟んで積層体とした。この積層体にコイルバネで3.0MPaの荷重を加えた状態
で加熱を行った。加熱は、近赤外線ヒータの中心と円柱状ブロックの中心との間の距離が70mmとなるように上段と下段の近赤外線ヒータの高さを調整した。また、アルゴンガスは0.45MPaの圧力で収納部内に流し続けた。収納部内のガス置換(パージ)は5分間とした。
【0046】
近赤外線ヒータは、上段と下段の全出力が20kWとし、上下のヒータの出力比が16.8対4.9となるように制御した。そして、加熱対象の積層体に取り付けた熱電対の温度が950℃に到達後、950±15℃で30分間保持させ、その後、近赤外線ヒータの通電をオフにした。また、アルゴンガスの通気は、加熱対象の積層体が常温になるまで継続した。
【0047】
このように上記実施形態に相当する方法で作製した焼結摩擦材を、以下、実施例と呼ぶ。この実施例を、抵抗加熱ヒータを用いた焼結炉を使って作製した比較例と比べた評価結果を以下に説明する。なお、比較例は、アルゴンガスの雰囲気にて、面圧3.0MPa、焼結温度950℃、保持時間30分間、昇温速度10℃/分で作製した。
【0048】
本評価では、以下の5項目について評価を行った。
1.焼結温度が950℃に到達するまでの時間
2.収縮率
3.表面硬さ
4.母材せん断強度
5.プレッシャプレート(PP)接着せん断強度
【0049】
各項目の評価結果を以下の表に示す。
【表1】
【0050】
上記の表から判るように、実施例の場合は、比較例の場合に比べると、約10分の1という極めて短い時間で焼結温度が950℃に到達した。また、収縮率や表面硬さについては、実施例と比較例の何れも同等の結果となった。また、母材せん断強度とPP接着せん断強度については、実施例の方が比較例の1.4~1.6倍高くなる傾向が得られた。
【0051】
以上の結果より、実施例は、比較例と同等の性能の焼結摩擦材を、比較例よりも約90分短い昇温時間で製作できることが確認された。なお、本検証では、焼結温度を950±15℃とし、焼結保持時間を30分とし、焼結面圧を3.0MPaとしていたが、焼結工程における焼結温度は900~1300℃が好ましく、より好ましくは950~1250℃である。また、焼結保持時間は30~180分が好ましい。また、焼結面圧は1~18MPaが好ましい。焼結温度や焼結保持時間、焼結面圧がこれらの範囲内であれば、上記実施例と同等の効果が発揮される。
【0052】
なお、上記の説明では、焼結摩擦材の製造を前提としていたが、上記実施形態の摩擦材製造装置1は、焼結摩擦材の製造のみならず、例えば、有機系の材料を多く含むレジン系の摩擦材の製造に用いることも可能である。
【0053】
ところで、収納部7の底面を構成する下板及び天面を構成する上板は、次のように構成されていてもよい。図8は、上板と下板に設けられるガス用の開口の一例を示した図である。収納部7は、例えば、摩擦材製造装置1の手前側に横並びに配列される5つのガス導入口LF1~5及び奥側に横並びに配列される5つのガス導入口LB1~5を有する下板と、摩擦材製造装置1の手前側に横並びに配列される5つのガス排気口UF1~5及び奥側に横並びに配列される5つのガス排気口UB1~5を有する上板と、によって形成されるものであってもよい。この場合、下板には、各ガス導入口LF1~5にガスを供給する第1の内部流路と、各ガス導入口LB1~5にガスを供給する第2の内部流路と、が設けられる。
【0054】
収納部7がこのような上板および下板で構成されていれば、ガス導入口LF1~5,LB1~5から吹き出たガスが石英ガラス13の表面に沿って流れ、ガス排気口UF1~5,UB1~5から排出される。よって、石英ガラス13の表面がガスによって防汚される。なお、図8では、ガス用の開口が上板と下板にそれぞれ10個ずつ設けられている様子が図示されているが、ガス導入口LF1~5,LB1~5の口径や口数、ガス排気口UF1~5,UB1~5の口径や口数、及び、ガスの流量は、ワークの大きさや形状、加熱温度等に応じて適宜設定可能である。また、不要な開口については、例えば、ワークの大きさや形状、加熱温度等に応じて栓をして閉鎖することもできる。
【0055】
また、ワークを積み重ねた積層体2を上側から支持する支持部14や、積層体2を下側から支持部14の方へ加圧する加圧部15は、積層体2に接触する部位に断熱材を有していてもよい。積層体2に接触する部位に断熱材が設けられていれば、積層体2を構成するワークから治具4への熱移動を抑制することができるため、積層体2の下部や上部のワークが他のワークより低温になるのを抑制することができる。当該断熱材には、加圧部15の加圧力が加わる。よって、断熱材を構成する素材には、このような加圧力に耐えるものが好ましい。このような素材としては、例えば、カーボン製の板材や、ネオアーク(登録商標)等の電気絶縁断熱板、ルミボード(登録商標)等のケイ酸カルシウム製断熱板などが挙げられる。
【0056】
また、上記実施形態では、治具4が収納部7を有しており、治具4が収納部7と共に搬送経路5を移動して加熱装置6で収納部7の外から加熱される形態となっていたが、摩擦材製造装置1は、例えば、収納部7が治具4に設けられるのではなく、収納部7が治具4と搬送経路5と加熱装置6を全て収納する形態、或いは、収納部7が加熱装置6を収納しており、治具4については出し入れ可能な形態であってもよい。
【0057】
図9は、摩擦材製造装置1の第1変形例を示した図である。上記実施形態の摩擦材製造装置1は、例えば、図9に示されるように、収納部7が治具4と搬送経路5と加熱装置6を全て収納する形態であってもよい。本変形例では、加熱装置6が収納部7内に収納されているため、石英ガラス13が不要となる。このため、石英ガラス13の防汚を目的とするガスの供給は不要となり、収納部7内にはワークから加熱によって気化する揮散成分を排出するためのガスが供給されることになる。この場合、収納部7には治具4へのワークの取付や治具4の移動を可能にするための扉が設けられていることが好ましい。
【0058】
このような変形例の摩擦材製造装置1であれば、治具4をホース11でガスボンベ10に繋ぐ必要がない。よって、治具4の取扱いが容易となる。図10は、第1変形例に係る
摩擦材製造装置を搬送経路の側方から見た構造図である。図10に示されるように、ガスボンベ10は、治具4と搬送経路5と加熱装置6を全て収納する収納部7のガス導入部にホースで接続されている。そして、治具4は、収納部7内に収納されており、ガスボンベ10には繋がれていない。よって、本変形例の摩擦材製造装置1では、治具4を搬送経路5沿いに移動する際、ガスボンベ10に繋がるホースが治具4の移動の妨げとならない。このため、治具4を搬送経路5に沿って容易に動かすことができる。
【0059】
図11は、摩擦材製造装置1の第2変形例を示した図である。上記実施形態の摩擦材製造装置1は、例えば、図11に示されるように、加熱装置6に収納部7が設けられており、加熱前の治具4と加熱後の治具4は収納部7の外側に配置される形態であってもよい。この場合、治具4を出し入れ可能にするための開口部、及び、開口部を開閉する扉が収納部7の両側面に設けられることになる。そして、当該扉で開口部を閉じて収納部を閉鎖することにより、ガスボンベ10から供給されるガスで収納部内を満たすことが可能となる。本変形例も第1変形例と同様、加熱装置6が収納部7内に収納されているため、石英ガラス13が不要となる。
【0060】
図12は、摩擦材製造装置1の第3変形例を示した図である。上記実施形態の摩擦材製造装置1は、例えば、図12に示されるように、加熱前の治具4と加熱装置6を収納部7が収納し、加熱後の治具4は収納部7の外側に配置される形態であってもよい。この場合、治具4を出し入れ可能にするための開口部、及び、開口部を開閉する扉が収納部7の側面に設けられることになる。そして、当該扉で開口部を閉じて収納部を閉鎖することにより、ガスボンベ10から供給されるガスで収納部内を満たすことが可能となる。本変形例も第1変形例や第2変形例と同様、加熱装置6が収納部7内に収納されているため、石英ガラス13が不要となる。
【0061】
図13は、摩擦材製造装置1の第4変形例を示した図である。上記実施形態の摩擦材製造装置1は、例えば、図13に示されるように、加熱後の治具4と加熱装置6を収納部7が収納し、加熱前の治具4は収納部7の外側に配置される形態であってもよい。この場合、治具4を出し入れ可能にするための開口部、及び、開口部を開閉する扉が収納部7の側面に設けられることになる。そして、当該扉で開口部を閉じて収納部を閉鎖することにより、ガスボンベ10から供給されるガスで収納部内を満たすことが可能となる。本変形例も第1変形例や第2変形例、第3変形例と同様、加熱装置6が収納部7内に収納されているため、石英ガラス13が不要となる。
【符号の説明】
【0062】
1・・摩擦材製造装置
2・・積層体
3・・加圧機構
4・・治具
5・・搬送経路
6・・加熱装置
7・・収納部
8・・搬送機構
9・・支持部材
10・・不活性ガスボンベ
11・・ホース
12・・ガス導入口
13・・石英ガラス
14・・支持部
15・・加圧部
16・・エアシリンダ
17・・ガス排気口
図1
図2
図3
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図5
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図8
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図10
図11
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