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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】絶縁被覆カーボンナノチューブ線
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20230711BHJP
   D06M 15/59 20060101ALI20230711BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20230711BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
D02G3/36
D06M15/59
C01B32/168
D06M101:40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019172156
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021050422
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000110147
【氏名又は名称】トクセン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大上 寛之
(72)【発明者】
【氏名】太田 栄次
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079752(JP,A)
【文献】国際公開第2019/083031(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/083036(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101967699(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 3/36
D06M 15/59
C01B 32/168
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に圧縮して収束された複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記カーボンナノチューブ繊維束の径がφ5μm~150μmであり、
前記絶縁被覆の厚さが0.25μm~2.5μmであることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ繊維束が、前記複数のカーボンナノチューブ繊維の撚線であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項3】
前記絶縁被覆の厚さを8点測定した標準偏差が6%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項4】
前記絶縁被覆をポリイミドによって形成したことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項5】
引張強さが200Mpa以上であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項6】
前記絶縁被覆カーボンナノチューブ線の径と、所定の条件における該絶縁被覆カーボンナノチューブ線の曲率半径との比によって定義されるしなやかさFが0.0070~0.180であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項7】
径方向に圧縮して収束された複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記絶縁被覆の厚さの、前記カーボンナノチューブ繊維束の径に対する比率が、1.6~5%であり、
前記絶縁被覆の厚さを8点測定した標準偏差が6%以下であることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項8】
径方向に圧縮して収束された複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記絶縁被覆の厚さの、前記カーボンナノチューブ繊維束の径に対する比率が、1.6~5%であり、
引張強さが200Mpa以上であることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【請求項9】
径方向に圧縮して収束された複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記絶縁被覆の厚さの、前記カーボンナノチューブ繊維束の径に対する比率が、1.6~5%であり、
前記絶縁被覆カーボンナノチューブ線の径と、所定の条件における該絶縁被覆カーボンナノチューブ線の曲率半径との比によって定義されるしなやかさFが0.0070~0.180であることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁被覆を有するカーボンナノチューブ線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な導電線の材料としては銅が用いられている。200μmを超える径の導電線であれば、銅で十分であるが、銅では細径の導電線を作成することが困難であった。これに対して、繊維集合体であれば、5~200μmの細径で軽い導電線を作成することができる。
【0003】
このような繊維の集合体として、繊維状のカーボンナノチューブ(以下「CNT」ともいう。)の束であるCNT繊維束を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような細径で軽い導電線の用途の一つに、ウェアラブルデバイス用のフレキシブル電線がある。ウェアラブルデバイス用のフレキシブル電線には、配線の絶縁性と柔軟性が要求される。柔軟性を有する導電線として樹脂糸の表面に銀メッキが施されたものがある。しかし、銀メッキを施した樹脂糸は小さい曲率半径で曲げると、メッキが割れてしまうため導電性が低下する。
【0005】
CNT繊維束の場合には、剥き出しの配線では漏電するため表面を絶縁層により覆う必要があるが、絶縁被覆が厚いと柔軟性が損なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-7919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、細径かつ軽量で高い絶縁性と柔軟性を有する絶縁被覆カーボンナノチューブ線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明は、複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記カーボンナノチューブ繊維束の径がφ5μm~150μmであり、
前記絶縁被覆の厚さが0.25μm~2.5μmであることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線である。
【0009】
本発明においては、径がφ5μm~150μmであるカーボンナノチューブ繊維束と、このカーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する厚さが0.25μm~2.5μmである絶縁被覆とによって、絶縁被覆カーボンナノチューブ線を構成している。線径が太いと絶縁性を担保するためには絶縁被覆を厚くする必要があるが、その結果、柔軟性が損なわれることとなる。この点、カーボンナノチューブ繊維束の線径を150μm以下とすることにより絶縁性を担保しつつ柔軟性も確保することができる。線径が細い方が柔軟性には富むこととなるが、5μmより細くすると製造が困難となる。カーボンナノチューブ繊維束の線径が細くとも絶縁被覆が厚い場合には柔軟性が損なわれるため、絶縁被覆の厚さは
2.5μm以下に抑える必要がある。従って、上述のように構成すれば、細径かつ軽量で高い絶縁性と柔軟性を有する絶縁被覆カーボンナノチューブ線を作製することができる。
【0010】
また、本発明は、複数のカーボンナノチューブ繊維からなるカーボンナノチューブ繊維束と、該カーボンナノチューブ繊維束の表面を被覆する絶縁被覆とを備えた絶縁被覆カーボンナノチューブ線であって、
前記絶縁被覆の厚さの、前記カーボンナノチューブ繊維束の径に対する比率が、1.6~5%であることを特徴とする絶縁被覆カーボンナノチューブ線である。
【0011】
このように、絶縁被覆の厚さの、カーボンナノチューブの径に対する比率を1.6~5%とすることにより、細径かつ軽量の絶縁被覆カーボンナノチューブ線を作製することができる。
【0012】
また、本発明においては、前記カーボンナノチューブ繊維束が、前記複数のカーボンナノチューブ繊維の撚線であるようにしてもよい。
【0013】
このようにカーボンナノチューブ繊維束を、複数のカーボンナノチューブ繊維の撚線であるようにすれば、柔軟性に富んだカーボンナノチューブ線を作製することができ、強度も向上する。また、撚線としたカーボンナノチューブヤーンの表面を絶縁被覆によって被覆することにより、撚り戻しがないので、線径むらの発生を防止でき、安定した強度特性及び電気特性を得ることができる。
【0014】
また、本発明においては、前記絶縁被覆の厚さを8点測定した標準偏差が6%以下であるようにしてもよい。
【0015】
このように、絶縁被覆の厚さを均一にすることにより、絶縁ムラを防止することができるので、絶縁被覆カーボンナノチューブ線の局部破壊を防止することができる。
【0016】
また、本発明において、前記絶縁被覆をポリイミドによって形成するようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、200~220℃の高温の環境下でも絶縁破壊を防止することができる。
【0018】
また、本発明において、引張強さが200Mpa以上であるようにしてもよい。
【0019】
本発明に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線では、絶縁被覆の厚さを小さくすることにより、カーボンナノチューブに比べて強度が低い被覆の割合を低くすることができるので、引張強さが200Mpaという強度の高い絶縁被覆カーボンナノチューブ線を得ることができる。
【0020】
なお、本発明においては、課題を解決するための上記の手段を、可能な限り組み合わせて使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、細径かつ軽量で高い絶縁性と柔軟性を有する絶縁被覆カーボンナノチューブ線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態1に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線の構造を示す図である。
図2】本発明の実施形態1に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線の被覆前と被覆後の状態を示す電子顕微鏡写真である。
図3】本発明の実施形態1に係るしなやかさ度合い測定装置の概略構成を示す図である。
図4】本発明の実施形態1に係る製造装置の概略構成を示す図である。
図5】本発明の実施形態1に係るエアーノズルの概略構成を示す斜視図である。
図6】本発明の実施形態2に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線の構造を示す図である。
図7】本発明の実施形態2に係る製造装置の概略構成を示す図である。
図8】本発明の実施例を説明する表である。
図9】本発明の実施例における絶縁破壊電圧測定装置の主要部の概略構成を示す図である。
図10】本発明の実施例における絶縁破壊電圧測定装置(図10(A))の回路図及び測定時の電圧変化を示すグラフ(図10(B))である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。但し、以下で説明する実施形態は本発明を実施するための例示であり、本発明は以下に説明する態様に限定されない。
【0024】
<実施形態1>
図1に示すように、本実施形態1に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は、カーボンナノチューブ繊維束10の外周面に絶縁被覆12が被覆された構造である。絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は、複数の繊維状のカーボンナノチューブ(カーボンナノチューブ繊維)11の束であるカーボンナノチューブ繊維束10の外周面全体が絶縁被覆によって被覆されている。
【0025】
絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を構成するカーボンナノチューブ繊維束10の径は、例えばφ5μm~150μmである。
そして、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を構成する絶縁被覆12の厚さは好ましくは0.25μm~2.5μmである。絶縁被覆12の厚さを0.25μm~2.5μmと薄くすることにより、直径が細く、軽量な絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を得ることができる。このような絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を使用することでアセンブリを小型化、軽量化することができる。絶縁被覆12の厚さを0.25μmより小さくすると製造が難しく、また十分な絶縁効果を得ることが難しくなる。一方、絶縁被覆12の厚さを2.5μmよりも大きくすると柔軟性が損なわれるとともに絶縁被覆カーボンナノチューブ線が重くなり、同じ導電線径で比較すると導電性が低下してしまう。
【0026】
絶縁被覆カーボンナノチューブ線1のカーボンナノチューブ繊維束10の線径と絶縁被覆12の厚さは、以下の測定方法により測定した。
絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の任意の点を樹脂埋め込みして径方向断面が確認できるように研磨イオンミリング(日立ハイテクノロジーズ株式会社製IM4000使用)にて処理し、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製SU‐70使用)にてカーボンナノチューブ繊維束10の直径と絶縁被覆12の厚さを測定した。また、絶縁被覆12の厚さについては、絶縁被覆カーボンナノチューブ線の径方向断面を45度ずつに分割した8点の厚さの測定値の平均値である。
【0027】
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の絶縁被覆12の厚さは、カーボンナノチューブ繊維束10の径との比率で表すことができ、絶縁被覆12のカーボンナノ
チューブ繊維束10の径に対する比率は、1.6%~5%であることが好ましい。
【0028】
図2(A)はカーボンナノチューブ繊維束10の表面状態を示す電子顕微鏡写真であり、図2(B)は絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
図2(A)に示すように、カーボンナノチューブ繊維束10の表面にはカーボンナノチューブ繊維が毛羽立った状態で存在するが、図2(B)に示すように、カーボンナノチューブ繊維束10の表面に絶縁被覆12を施すことにより、カーボンナノチューブ繊維11の毛羽立ちを防止することができる。このため、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1としては強度が安定するとともに、絶縁被覆12により絶縁性を担保することができる。
【0029】
また、カーボンナノチューブ繊維束10の表面に絶縁被覆12が施されることによって、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を曲げた際にも断面形状を円形に保持できるので、断面形状の変形に起因する断線を防止することができる。
【0030】
さらに、本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は、絶縁被覆12の厚さを8点測定した標準偏差が6パーセント以下である。絶縁被覆12の厚さの測定方法は上述した通りである。このように、絶縁被覆12の厚さを均一とすることにより、絶縁ムラを防止することができるので、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の局部破壊を防止することができる。ここでは、標準偏差のパーセンテージは、標準偏差を平均値で除した値に100を乗じた、いわゆる変動係数として示している。
【0031】
絶縁被覆12の材料としては、金属を芯線として絶縁被覆を施す場合に一般的に用いられる材料である熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、ポリイミド、フェノール樹脂、エナメル等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリメチルクリレート、ポリウレタン等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の絶縁被覆12の材料としてはポリイミドを使用している。ポリイミドにより絶縁被覆12を形成することにより、200~220℃の高温環境下でも絶縁破壊が起こることを防止することができる。
【0033】
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の引張強さは200MPa以上である。このように、200Mpa以上の引張強さとすることにより、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1をアセンブリする際の破断を防止することができる。絶縁被覆に使用される樹脂等の材料はカーボンナノチューブに比べて強度が低いため、絶縁被覆が厚いと、低強度の絶縁被覆の割合が増えてしまい、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の引張強さが低下する。しかし、本実施形態では、絶縁被覆12を薄くすることにより、引張強さが高い絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を得ることできる。
【0034】
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の引張強さの測定は、JIS Z
2241(2011)の規定に準拠して行った。引張強さの測定条件は、温度:23℃、引張速度:3mm/min、評点距離:100mm、引張試験機:株式会社オリエンテック製STA‐1150である。
【0035】
(しなやかさ度合い)
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の特徴の一つである「しなやかさ度合い」について説明する。
このしなやかさ度合いは、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の線径と後述するしなや
かさ測定方法により測定したRの大きさとの比を表す。このようにして測定されるしなやかさをFと表す。F=0.0070~0.180とすることでしなやかさと強度を併せ持つ絶縁被覆カーボンナノチューブ線となる。なお、F=0.100~0.150であることが好ましい。
【0036】
次に、しなやかさ(F)の測定方法について説明する。図3にしなやかさの測定装置20の概略構成を示す。図3(A)は測定装置20の上面図を示す。紙面右側が測定装置20の正面側であり、紙面上方が測定装置20の右側面、紙面下方が左側面を示している。測定装置20では、長方形板状の測定台21上に、長方形板状の固定台22が配置されている。固定台22の上面の面積は測定台21の上面よりも小さく形成されており、固定台22は測定台21の背面側左寄りに配置されている。固定台22の右側面22bの正面側には、測定対象である絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を固定するための固定治具23が設けられている。
【0037】
そして、長さ250mmの絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を、固定治具23を用いて固定台22に固定する。固定治具23によって固定された絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は固定台22の右側面22bに沿って、測定台21の上面21dに平行に、背面側から正面側に引き回され、固定台22の右側面22bと前面22aとが交わる角部の周りに左側に曲げられる。端部に0.5gの錘24が取り付けられた絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は、さらに固定台22の前面22aに沿って、測定台21の上面21dに平行に、左方に測定台21の左側面21cに向けて引き回される。絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の端部は錘24の重量により、測定台21の左側面21cに沿って鉛直下方に曲げられる。
【0038】
固定台22の右側面22bと前面22aとの角部には、図3(A)の破線の円で示すR測定部201が形成される。図3(A)の右側の図のR測定部201の拡大図である。固定台22の右側面22bと前面22aとの角部に沿って曲げられた絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の曲率半径がRで示されている。
ここで、固定台22の右側面22bから測定台21の左側面21cまでの距離L1は150mmである。
【0039】
図3(B)は、測定装置20の右側面図である。ここで、固定治具23の前面から固定台22の前面22aまでの距離L2は30mm、測定台21の上面21dからの絶縁被覆カーボンナノチューブ線1までの高さL3は3mmである。
図3(C)は、測定装置の左側面図である。上述したように、固定治具23から引き出された絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は固定台22の前面22aに沿って引き回され、錘24の重量により、測定台21の左側面21cに沿って鉛直下方に垂下されている。
【0040】
上述の測定装置20の測定部201における絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の曲率半径Rを株式会社キーエンス製マイクロスコープVHX‐5000を使用して50倍の視野で計測する。そして、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の線径とRとの比がしなやかさFの値として計測される。
【0041】
(製造装置及び製造方法)
に、本実施形態における絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の製造装置100の概略構成を示す。図を参照して、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の製造装置100及び製造方法について説明する。
【0042】
製造装置100では、複数のカーボンナノチューブを備えるカーボンナノチューブアレイ30の端部から複数列の直線状に繋がった繊維状のカーボンナノチューブ(以下、「カ
ーボンナノチューブ繊維」という。)11,…,11が一定速度で引き出される。このように引き出された複数列のカーボンナノチューブ繊維11,…,11は、集合ダイス31に導かれ、収束されて、カーボンナノチューブ繊維束10となる。集合ダイス31は、例えば円形状の細孔を有し、複数列のカーボンナノチューブ繊維11,…,11を径方向に圧縮して収束させる。
【0043】
カーボンナノチューブ繊維束10は、集合ダイス31の下流側に順に配置されたガイドローラ32a,32b,32cの周面を交互に引き回され、被覆樹脂槽33に導入される。すなわち、集合ダイス31から引き出されたカーボンナノチューブ繊維束10は、ガイドローラ32aの回転軸の一方(図では上方)の周面から、ガイドローラ32bの回転軸の他方(図では下方)の周面へと引き回され、さらにガイドローラ32cの回転軸の一方(図では上方)の周面へと引き回された後に被覆樹脂槽33に導入される。ガイドローラ32a,32b,32cの回転軸の軸受には磁性流体軸受が用いられている。本実施形態のカーボンナノチューブ繊維束10は非常に細く、張力レベルが低いため、張力を安定させることが難しい。本実施形態に係る製造工程では、カーボンナノチューブ繊維束10の送り速度は樹脂34の付着量に影響するため、送り速度が変化すれば絶縁被覆12の厚さがばらつくことになる。この点、磁性流体軸受は適度なブレーキの役割を果たすため、張力と送り出し速度を一定にすることができる。従って、磁性流体軸受を用いたガイドローラ32a,32b,32cにより、低い張力で安定的にカーボンナノチューブ繊維束10を被覆樹脂槽33へ送り出すことができる。カーボンナノチューブ繊維束10は被覆樹脂槽33の上側から導入される。被覆樹脂槽33には、絶縁被覆を形成する樹脂34として、例えば、溶媒にて固形分濃度を5~25wt%に希釈した樹脂が満たされている。被覆樹脂槽33に導入されたカーボンナノチューブ繊維束10は、被覆樹脂槽に設けられたローラ35の周面を引き回されて、被覆樹脂槽33外に導かれる。カーボンナノチューブ繊維束10は、被覆樹脂槽33に満たされた樹脂34中を通過することによって、表面に樹脂34を付着させる。
【0044】
表面に樹脂34が付着したカーボンナノチューブ繊維束10は、被覆樹脂槽33外に導かれた後に、液切りダイス36を通過し、表面に付着した余分な樹脂が除去される。液切りダイス46は、例えば円形状の細孔を有し、細孔を通過するカーボンナノチューブ繊維束10の表面に付着した余分な樹脂34を除去する。
【0045】
液切りダイス36を通過したカーボンナノチューブ繊維束10は、円環状のエアーノズル37の中空部37aを通過する。エアーノズル37の形状は、図5に示すように、中空部37aに臨む環状の内側面37bに沿って複数のノズル38,…,38が設けられ、ノズル38,…,38からは中心方向に向けて空気が吐出される。エアーノズル37の中空部37aを軸方向に通過するカーボンナノチューブ繊維束10に対して、周方向に沿って配置されたノズル38,…,38から中心方向へ10~50m/minの空気が吐出されることにより、カーボンナノチューブ繊維束10の表面に付着する樹脂34の厚さを周方向で均一にすることができる。
【0046】
エアーノズル37を通過したカーボンナノチューブ繊維束10は、200~600℃に保持した被覆樹脂焼付炉39内を通過させることにより、表面に付着した樹脂34を焼き付ける。
【0047】
このように、被覆樹脂槽33における樹脂34の付着、液切りダイス36により余分な樹脂34の除去、エアーノズル37による被覆樹脂の厚さの均一化及び、被覆樹脂焼付炉39による樹脂34の焼き付けという工程を経て、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1が作製され、ローラ40の周面を引き回された後に、巻き取りリール41の回転によって、巻き取りリール41の周面に巻き取られる。
【0048】
エアーノズル37に設けるノズル38の数は特に限定されない。ノズル38,…,38から吐出される空気の流量が10~50m/minとなるように、ノズル38の数に合せて各ノズル38からの空気の流量を設定する。
【0049】
樹脂34が付着したカーボンナノチューブ繊維束10が、被覆樹脂焼付炉39内を通過する速度を調整することにより、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の絶縁被覆12の厚さを調整する。また、厚い絶縁被覆を得る場合には、被覆樹脂槽33における樹脂34の付着、液切りダイス36による余分な樹脂34の除去、エアーノズル37による被覆樹脂の厚さの均一化、及び被覆樹脂焼付炉39による樹脂34の焼き付けという工程を複数回繰り返してもよい。
【0050】
<実施形態2>
図6に、本発明の実施形態2に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線2の構造を示す。実施形態1と共通する構成については、同様の符号を用いて詳細な説明を省略する。なお、図6では、絶縁被覆カーボンナノチューブ線2を、絶縁被覆12の一部を除去した状態でしているが、実施形態1と同様に、カーボンナノチューブ繊維束13の外周面全体を絶縁被覆12が被覆している。
【0051】
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線2のカーボンナノチューブ繊維束13は、複数のカーボンナノチューブ繊維11の束が撚られて作製される。
カーボンナノチューブと同様に導電性があり軽量な材料として炭素繊維があるが、炭素繊維は、強度はあるものの靱性に乏しく、折り曲げると大きな曲率半径でも簡単に折損してしまう。これに対して、実施形態1の絶縁被覆カーボンナノチューブ線1のように、撚っていないカーボンナノチューブ繊維束10に絶縁被覆を施すことにより、炭素繊維よりも曲げによる断線は起こりにくくなるが、小さい曲率半径では断面形状が円ではなく潰れた形状となるため折損しやすくなる。本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線2のように、カーボンナノチューブ繊維11の束に撚りを加えて、カーボンナノチューブ繊維束13を撚線体とすることにより、柔軟性に富み、強度も向上する。
【0052】
また、カーボンナノチューブ繊維束13に撚りを加えただけでは、撚りが戻ってしまい線径むらが発生し、安定した強度及び電気特性を得ることが難しい。これに対して、絶縁被覆カーボンナノチューブでは、撚線であるカーボンナノチューブ繊維束13に絶縁被覆を施すことにより、撚り戻しがないので、線径むらの発生を防止でき、安定した強度及び電気特性を得ることができる。
【0053】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ繊維束13の3倍以下の曲率半径で長手方向に曲げた場合にも、カーボンナノチューブ繊維束13の断面形状が円形に保持されるため、曲げによる断線が生じにくい。
【0054】
(製造装置及び製造方法)
本実施形態に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線2は、複数のカーボンナノチューブ繊維11の束に対して撚りをかける点を除いては、実施形態1に係る製造装置100と同様の装置を用いることができるので、実施形態1と同様の構成については同様の符号を用いて詳細な説明は省略する。
【0055】
図7(A)は本実施形態2に係るカーボンナノチューブ繊維束10の撚線体を製造する製造装置200‐1である。図7(B)はカーボンナノチューブ繊維束10の撚線体から絶縁被覆カーボンナノチューブ線2を作製する製造装置200‐2である。
【0056】
製造装置200‐1では、集合ダイス31から引き出されたカーボンナノチューブ繊維束10は、集合ダイス31の下流側に配置された引き取りキャプスタン51a,51bの周面を周回するように引き回され、巻き取りリール53に巻き取られる。巻き取りリール53は、矢印Rd1で示す回転軸の回りに回転してカーボンナノチューブ繊維束10を巻き取る。このとき、引き取りキャプスタン51a,51bから引き出されたカーボンナノチューブ繊維束10は固定チャック52によって固定され、巻き取りリール52を、巻き取りリール53の回転軸に直交し、カーボンナノチューブ繊維束10の巻き取り方向を回転軸として、矢印Rd2で示す方向(巻き取りリール53から固定チャック52を見たときに右回りの方向)に回転することにより、カーボンナノチューブ繊維束10に撚りがかけられ、カーボンナノチューブ繊維束13が作製される。巻き取りリール53がRd2方向に回転している間は、引き取りキャプスタン51a,51bが互いに離間することにより、引き取りキャプスタン51a,51bの周面を周回するカーボンナノチューブ繊維束10の長さを増加させる。これにより、下流側での固定チャック52による固定にかかわらず、カーボンナノチューブ繊維束10は集合ダイス31から一定速度で引き出される。巻き取りリール53のRd2方向の回転による撚りが完了すると、固定チャック52による固定が解除され、カーボンナノチューブ繊維束10は巻き取りリール53のRd1方向の回転により、引き取りキャプスタン51a,51bから引き出されたカーボンナノチューブ繊維束10を巻き取りリール53に巻き取る。このとき、引き取りキャプスタン51a,51bは互いに接近することにより、巻き取りリール53に巻き取られるカーボンナノチューブ繊維束10を繰り出す。このように、巻き取りリール53のRd1及びRd2方向の回転と同期した引き取りキャプスタン51a,51bの接近及び離間が間欠的に繰り返される。
【0057】
カーボンナノチューブ繊維束13の撚り角度θは5~30°が好ましく、5~25°であることがさらに好ましい。撚り角度θが5°よりも小さいと撚りが入っていない場合とほぼ同じであるため、強度の上昇が見られず、絶縁被覆カーボンナノチューブ線2を曲げた際の断面積形状変化に向上がみられない。一方で、撚り角度θが30°よりも大きいと張力をかけたり曲げたりした際に、撚り目に沿って亀裂が発生して強度が大きく低下してしまう。撚り角度θが25°以下ではこのような強度の低下は生じない、25~30°では若干の強度低下に留まる。
【0058】
上述のように、撚線体とされたカーボンナノチューブ繊維束13が巻き取られたリール53は、製造装置200‐2において、被覆樹脂槽33に向けてカーボンナノチューブ繊維束13を繰り出す繰り出しリール53として取り付けられる。繰り出しリール53の回転軸には磁性流体軸受54が用いられている。本実施形態のカーボンナノチューブ繊維束13は非常に細く、張力レベルが低いため、張力を安定させることが難しい。本実施形態に係る製造工程では、カーボンナノチューブ繊維束13の送り速度は樹脂34の付着量に影響するため、送り速度が変化すれば絶縁被覆12の厚さがばらつくことになる。この点、磁性流体軸受は適度なブレーキの役割を果たすため、張力と送り出し速度を一定にすることができる。従って、磁性流体軸受を用いた繰り出しリール53により、低い張力で安定的にカーボンナノチューブ繊維束13を被覆樹脂槽33へ送り出すことができる。
繰り出しリール53から繰り出され、磁性流体軸受によって支持されたガイドローラ55の上側の周面を経て被覆樹脂槽33に上側から導入されたカーボンナノチューブ繊維束13の表面全周に樹脂34が塗布され、絶縁被覆カーボンナノチューブ線2を作製する工程は実施形態1と同様であるため説明は省略する。
【0059】
<実施例>
図以下に本発明の実施例について、比較例と対比して説明する。
図8は、本発明の実施例1~5と比較例1~5について、カーボンナノチューブ繊維束径(μm)、被覆厚み(μm)、被覆厚みの標準偏差、被覆材料、カーボンナノチューブ
線の種類(「繊維束」は無撚線を示す。)、引張強さ(MPa)、絶縁破壊電圧(V)及びしなやかさ度合いを示す。絶縁破壊電圧におけるRは最大値と最小値との差である変動範囲を表す。なお、ここでの被覆厚みの標準偏差は変動係数ではない。
【0060】
以下に、絶縁破壊電圧の測定方法について説明する。
図9は絶縁破壊電圧の測定装置60の主要部の構成を模式的に示す側面図(図9(A))及び平面図(図9(B))である。図10(A)は絶縁破壊電圧測定装置の回路図であり、図10(B)は試料に印加する電圧と時間との関係を示すグラフである。
絶縁基板61上の一方には銅箔製の電極62を配置する。電極62にはリード線621が接続される。電極62上には導電性テープ63を介して試料である絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の一端を絶縁被覆12に覆われた状態で固定する。絶縁基板61上の他方には、絶縁被覆12が剥離されてカーボンナノチューブ繊維束10が露出した絶縁被覆カーボンナノチューブ線1を絶縁基板61との間に挟んで固定するように電極64を配置する。電極64にはリード線641が接続される。ここで、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1は、電極62の端部から50mm離れた部分の絶縁被覆12を10mm分剥離している。絶縁被覆カーボンナノチューブ線2を試料として絶縁破壊電圧を測定する場合も同様である。
【0061】
図10(A)に示すように、リード線621はリード線621aとリード線621bに分岐させて、それぞれ印加電圧測定装置(アジレントテクノロジー株式会社製マルチメーター3457A)65と直流電源装置(株式会社アドバンテスト製R6145)66に接続する。リード線641はリード線641aとリード線641bに分岐させて、印加電圧測定装置65と電流測定装置(株式会社アドバンテスト製マルチメーターR6871E)67に接続する。そしてリード線641bは電流測定装置67を経て直流電源装置66に接続する。
【0062】
上述のように構成された測定装置60を用いて、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1(絶縁被覆カーボンナノチューブ線3も同様)の絶縁破壊電圧を以下のようにして測定する。
まず、直流電源装置66から絶縁被覆カーボンナノチューブ線1に対して、図10(B)に示すように0~60Vの範囲において0.1V/secの速度で電圧を掃引印加し、電流測定装置67によって通電電流を測定する。
次に、横軸に電圧、縦軸に電流をとり、電圧掃引時の通電電流の測定値をプロットし、絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の絶縁破壊によって通電電流の測定値が急上昇した時の電圧値を絶縁破壊電圧とした。
【0063】
実施例1~3は、実施形態1に係る工程に従い、カーボンナノチューブ繊維束10の無撚り線の表面全周に絶縁被覆を施した絶縁被覆カーボンナノチューブ線1の実施例である。実施例4~6は、実施形態2に係る工程に従い、撚りを入れたカーボンナノチューブ繊維束13の表面全周に絶縁被覆を施した絶縁被覆カーボンナノチューブ線2の実施例である。
【0064】
比較例1は、カーボンナノチューブ繊維束径が太いため、絶縁被覆の厚みも厚くなり、しなやかさ度合いも低い。比較例2は、絶縁被覆の厚みが薄く、絶縁破壊電圧が低い。比較例3は絶縁被覆の厚みが厚く、しなやかさ度合いが低い。比較例4は、絶縁被覆の厚みのばらつきが大きく、絶縁破壊電圧のばらつきが大きい。比較例5は、絶縁被覆の厚みが厚いため、引張強さが低く、しなやかさ度合いも低い。また、比較例5は、絶縁被覆の厚みのばらつきが大きいため、絶縁破壊電圧のばらつきが大きい。
【0065】
このように、実施例1~3に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線1及び実施例4~6
に係る絶縁被覆カーボンナノチューブ線2は、いずれも細径かつ軽量で高い絶縁性と柔軟性を有する。
【符号の説明】
【0066】
1,2・・・絶縁被覆カーボンナノチューブ線
10,13・・・カーボンナノチューブ繊維束
11・・・カーボンナノチューブ繊維
12・・・絶縁被覆
図1
図2
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