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特許7311412高導電性複合体の製造方法、高導電性複合体の水系分散液の製造方法、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法、導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】高導電性複合体の製造方法、高導電性複合体の水系分散液の製造方法、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法、導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230711BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230711BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20230711BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20230711BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230711BHJP
【FI】
C08L65/00
H01B13/00 Z
H01B1/12 F
B05D5/12 B
C09D5/24
C09D201/00
C09D133/00
C09D7/63
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019235572
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105072
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-076016(JP,A)
【文献】特開2019-081869(JP,A)
【文献】特開2012-144640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00-65/04
H01B 13/00
H01B 1/12
B05D 5/12
C09D 5/24
C09D 201/00
C09D 133/00
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、
前記混合液を40℃以上100℃以下で加熱し、前記混合液中に高導電性複合体を析出させ、析出した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法であり、
前記高導電性複合体は水に分散可能である、高導電性複合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合液に含まれる前記有機溶剤の含有量が、前記混合液の総質量に対して、50質量%以上である、請求項1に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤のうち、少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤がケトン系溶剤を含み、前記ケトン系溶剤がメチルエチルケトンを含む、請求項3に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項5】
前記有機溶剤がアルコール系溶剤を含み、前記アルコール系溶剤がメタノールを含む、請求項3に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤がメチルエチルケトン及びメタノールを含む、請求項1又は2に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶剤がイソプロパノール及び酢酸エチルを含む、請求項1又は2に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含む、請求項7に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項9】
前記混合液に析出した前記高導電性複合体を分取する際、前記混合液に含まれる前記遷移金属イオンと前記高導電性複合体とを分離する、請求項1~8の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項10】
前記混合液中に前記高導電性複合体を析出させる際、前記混合液中に、前記遷移金属イオンのカウンターアニオン及び酸化剤のうち少なくとも一方を含む、請求項1~9の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項11】
前記混合液中に析出した前記高導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、請求項1~10の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項12】
前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~11の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~12の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
【請求項14】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、
前記混合液中に高導電性複合体を析出させた後、
前記高導電性複合体を含む前記混合液にアミン化合物を添加し、前記アミン化合物が付加した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法。
【請求項15】
請求項1~13の何れか一項に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、水を含有する水系溶媒とを混合することを含む、高導電性複合体の水系分散液の製造方法。
【請求項16】
さらにバインダ成分を混合することを含む、請求項15に記載の高導電性複合体の水系分散液の製造方法。
【請求項17】
請求項1~13の何れか一項に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、有機溶剤と、アミン化合物とを混合することを含む、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、有機溶剤と、を混合することを含む、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
【請求項19】
さらにバインダ成分を混合することを含む、請求項17又は18に記載の高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
【請求項20】
前記バインダ成分が、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物である、請求項19に記載の高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
【請求項21】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項15又は16に記載の製造方法で得た高導電性複合体の水系分散液、或いは、請求項17~20の何れか一項に記載の製造方法で得た高導電性複合体の有機溶剤分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高導電性複合体の製造方法、高導電性複合体の水系分散液の製造方法、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法、導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルム上に導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性複合体を含む導電性高分子含有液を使用することがある。
特許文献1には、プラスチックフィルムに対する導電性高分子含有液の濡れ性を向上するために、導電性複合体が有するアニオン基にアミン化合物を付加させ、導電性複合体を疎水化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-53191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、導電性複合体のアミン付加物を塗布して形成された導電層の導電性は、必ずしも満足できるものではなく、導電性のさらなる向上が求められている。
本発明は、導電性に優れた導電層を形成することが可能な高導電性複合体の製造方法、高導電性複合体の水系分散液の製造方法、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法、導電性フィルム及びその製造方法導電性複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、前記混合液中に高導電性複合体を析出させ、析出した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法。
[2] 前記混合液に含まれる前記有機溶剤の含有量が、前記混合液の総質量に対して、50質量%以上である、[1]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[3] 前記有機溶剤が、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤のうち、少なくとも一方を含む、[1]又は[2]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[4] 前記有機溶剤がケトン系溶剤を含み、前記ケトン系溶剤がメチルエチルケトンを含む、[3]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[5] 前記有機溶剤がアルコール系溶剤を含み、前記アルコール系溶剤がメタノールを含む、[3]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[6] 前記有機溶剤がメチルエチルケトン及びメタノールを含む、[1]又は[2]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[7] 前記有機溶剤がイソプロパノール及び酢酸エチルを含む、[1]又は[2]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[8] さらに、前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含む、[7]に記載の高導電性複合体の製造方法。
[9] 前記混合液に析出した前記高導電性複合体を分取する際、前記混合液に含まれる前記遷移金属イオンと前記高導電性複合体とを分離する、[1]~[8]の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
[10] 前記混合液中に前記高導電性複合体を析出させる際、前記混合液中に、前記遷移金属イオンのカウンターアニオン及び酸化剤のうち少なくとも一方を含む、[1]~[9]の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
[11] 前記混合液中に析出した前記高導電性複合体を分取する方法が、濾過又はデカンテーションである、[1]~[10]の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
[12] 前記π共役系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[11]の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
[13] 前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[12]の何れか一項に記載の高導電性複合体の製造方法。
[14] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、前記混合液中に高導電性複合体を析出させた後、前記高導電性複合体を含む前記混合液にアミン化合物を添加し、前記アミン化合物が付加した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法。
[15] [1]~[13]の何れか一項に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、水を含有する水系溶媒とを混合することを含む、高導電性複合体の水系分散液の製造方法。
[16] さらにバインダ成分を混合することを含む、[15]に記載の高導電性複合体の水系分散液の製造方法。
[17] [1]~[13]の何れか一項に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、有機溶剤と、アミン化合物とを混合することを含む、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
[18] [14]に記載の製造方法により得た高導電性複合体と、有機溶剤と、を混合することを含む、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
[19] さらにバインダ成分を混合することを含む、[17]又は[18]に記載の高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
[20] 前記バインダ成分が、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物である、[19]に記載の高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法。
[21] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[15]又は[16]に記載の製造方法で得た高導電性複合体の水系分散液、或いは、[17]~[20]の何れか一項に記載の製造方法で得た高導電性複合体の有機溶剤分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法。
[22] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[15]又は[16]に記載の製造方法で得た高導電性複合体の水系分散液の硬化層からなる導電層、或いは、[17]~[20]の何れか一項に記載の製造方法で得た高導電性複合体の有機溶剤分散液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明の高導電性複合体の製造方法によれば、高導電性複合体が有するアニオン基を疎水化する反応を要さず、容易に高導電性複合体を分取することができる。分取した高導電性複合体は親水性であるので、水に対して容易に分散させることができる。また、必要に応じて、高導電性複合体にアミン化合物を付加させ、疎水化することも容易である。このため、疎水化した高導電性複合体を有機溶剤に対して容易に分散させることもできる。驚くべきことに、本発明によって得られた高導電性複合体を用いると、従来の導電性複合体を用いた場合と比べて、導電性に優れた導電層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
≪高導電性複合体の製造方法≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、前記混合液中に高導電性複合体を析出させ、析出した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法である。
【0008】
[調製液]
本態様で用いる調製液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含有する。この調製液は、液中の導電性複合体が分散状態にある範囲で、有機溶剤を含んでいても構わない。
【0009】
本態様で用いる調製液としては、π共役系導電性高分子のモノマーを酸化重合させるために調製した反応液をそのまま適用することができる。調製液にはモノマーを酸化重合させる際に使用した酸化剤が含まれていても構わない。調製液には酸化重合を促進させる触媒として遷移金属イオン及び遷移金属イオンのカウンターアニオンを含んでいても構わない。
本態様の高導電性複合体の製造方法にあっては、調製液に酸化剤および触媒が含まれていても、調製液に有機溶剤を混合した混合液を得て高導電性複合体を析出させ、高導電性複合体を分取することにより、酸化剤および触媒と高導電性複合体とを容易に分離することができる。
【0010】
(導電性複合体)
前記ポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープし、導電性を有する導電性複合体を形成している。前記ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有する。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水に対する分散性を有する。
【0011】
本態様で用いる調製液において、導電性複合体は分散状態にある。分散状態と析出状態の区別は、簡便には目視で行うことができる。分散状態の分散液の透明性は高く、調製液中に固体の浮遊物は見当たらない。一方、析出状態の調製液の透明性は低く、液中に固体の浮遊物が観察される。通常、分散状態の導電性複合体は容易には沈殿せず、例えば12時間静置したとしても、沈殿は生じ難い。一方、析出状態の液中の浮遊物は、沈降し易く、例えば12時間程度静置することにより、沈殿を生じ易い。
【0012】
本態様で用いる調製液を、保留粒子径7μmのフィルターに通すと、分散状態の導電性複合体は分散媒とともにフィルターを通過する。一方、析出状態の導電性複合体は上記フィルターに捕捉され得る。
ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。
【0013】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0014】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0015】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0016】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0017】
<調製液の製造方法>
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体は、例えば、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合させて得ることができる。この化学酸化重合の反応液を本態様の調製液としてそのまま使用することができる。
【0018】
前記化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0019】
本態様の調製液に含まれる導電性複合体の含有量としては、調製液の総質量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、有機溶剤の添加後の高導電性複合体の析出が容易になる。上記範囲の上限値以下であると、調製液における導電性複合体の分散性が高まるので、調製液の保存中に意図しない凝集を防ぎ、有機溶剤の添加後に析出する高導電性複合体の質を均一にすることができる。
【0020】
本態様で用いる調製液には、導電性複合体が分散状態にある範囲において、有機溶剤を含んでいてもよい。有機溶剤の含有量は少ない程好ましく、実質的に含まれないことがより好ましく、例えば、調製液の総質量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
本態様で用いる調製液が含有してもよい有機溶剤としては、水に対する混和性が高いものが好ましく、例えば、後述のアルコール系溶剤が挙げられる。
【0021】
[混合液]
前記調製液と、有機溶剤とを混合し、混合液を得る方法としては、例えば、調製液に有機溶剤を添加する方法、有機溶剤に調製液を添加する方法等が挙げられる。好適な実施形態としては、調製液を攪拌しながら有機溶剤を徐々に添加する方法が挙げられる。この添加方法であると、調製液における有機溶剤濃度が局所的に急上昇することを防止して、高導電性複合体を穏やかに析出させることができる。有機溶剤濃度が急激に高まると、高導電性複合体の不均質な凝集体が生じることがある。
【0022】
前記混合液に含まれる前記有機溶剤の含有量は、前記混合液の総質量に対して、50質量%以上100質量%未満が好ましく、55質量%以上90質量%以下がより好ましく、60質量%以上85質量%以下がさらに好ましく、65質量%以上80質量%以下が特に好ましい。ここで、前記有機溶剤の含有量は、混合する前の調製液に含まれていた有機溶剤を含む量である。
上記範囲の下限値以上であると、高導電性複合体の析出がより容易になり、高導電性複合体の収率が向上する。
上記範囲の上限値以下であると、混合液に含まれる調製液を相対的に増やすことができるので、分取する高導電性複合体の量を増やすことができる。
【0023】
調製液と、有機溶剤とを混合し、得られた混合液を静置した後の外観は、水と有機溶剤とが完全に相溶していてもよいし、互いに分離していても構わないが、高導電性複合体の析出を容易にする観点から、充分に相溶していることが好ましい。
【0024】
(有機溶剤)
本態様の混合液を構成する有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本態様の混合液を構成する有機溶剤は、ケトン系溶剤及びアルコール系溶剤のうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。
ケトン系溶剤として、メチルエチルケトンを含むことが好ましい。
アルコール系溶剤として、メタノール又はイソプロパノールが好ましい。
上記の好適な有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより容易に析出させ、収率をより向上させることができる。
【0026】
本態様の混合液において、メチルエチルケトンは、メタノール又はイソプロパノールと組み合わせて含まれることが好ましい。この場合、メチルエチルケトン100質量部に対するメタノール又はイソプロパノールの含有量は、1質量部以上100質量部以下が好ましく、3質量部以上50質量部以下がより好ましく、6質量部以上20質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な組み合わせの有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより容易に析出させ、収率をより向上させることができる。
上記の好適な範囲で有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより一層容易に析出させ、収率をより一層向上させることができる。
【0027】
本態様の混合液において、イソプロパノールは、酢酸メチル又は酢酸エチルと組み合わせて含まれることが好ましい。この場合、イソプロパノール100質量部に対する酢酸メチル又は酢酸エチルの含有量は、10質量部以上300質量部以下が好ましく、30質量部以上200質量部以下がより好ましく、60質量部以上100質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な組み合わせの有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより容易に析出させ、収率をより向上させることができる。
上記の好適な範囲で有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより一層容易に析出させ、収率をより一層向上させることができる。
【0028】
本態様の混合液において、メチルエチルケトンと、イソプロパノールと、酢酸メチル又は酢酸エチルとが組み合わせて含まれることが好ましい。この場合、イソプロパノール100質量部に対する酢酸メチル又は酢酸エチルの含有量は、10質量部以上300質量部以下が好ましく、30質量部以上200質量部以下がより好ましく、60質量部以上100質量部以下がさらに好ましい。且つ、イソプロパノール100質量部に対するメチルエチルケトンの含有量は、100質量部以上3000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、500質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
上記の好適な組み合わせの有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより容易に析出させ、収率をより向上させることができる。
上記の好適な範囲で有機溶剤が含まれると、前記混合液中に高導電性複合体をより一層容易に析出させ、収率をより一層向上させることができる。
【0029】
本態様の混合液には、前記ポリアニオン以外の酸、又は、塩基の含有量が、前記混合液の総質量に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、実質的に含まれないことが最も好ましい。
前記酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。
前記塩基としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基、トリオクチルアミン、オクチルアミン等の有機塩基が挙げられる。
上記の酸又は塩基は、本態様の混合液中に高導電性複合体が析出することを阻害する原因になり得る。
【0030】
本態様の混合液には、前記調製液に由来する遷移金属イオンの1種以上が含まれる。
遷移金属イオンとしては、鉄、銅等の第一遷移元素のカチオンが挙げられる。
遷移金属イオンのカウンターアニオンとしては、塩素、臭素、硫酸、硝酸等のアニオンが挙げられる。
前記遷移金属イオンがπ共役系導電性高分子のモノマーを酸化重合する際の触媒に由来する場合、前記調製液中の前記遷移金属イオンの量は、前記調製液の総質量に対して、例えば0.001質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.005質量%以上0.25質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下を目安として含まれる。
前記混合液は前記調製液を前記有機溶剤で希釈したものであるから、前記混合液に含まれる遷移金属イオンの量としては、前記混合液の総質量に対して、例えば0.0001質量%以上0.4質量%以下、好ましくは0.0005質量%以上0.1質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上0.05質量%以下が目安として挙げられる。
【0031】
本態様の混合液には、前記調製液に由来する酸化剤の1種以上が含まれていても構わない。酸化剤としては、π共役系導電性高分子のモノマーを酸化重合させるために使用されるものが挙げられる。
前記酸化剤がπ共役系導電性高分子のモノマーを酸化重合する際の酸化剤である場合、前記調製液中の前記酸化剤の量は、前記調製液の総質量に対して、例えば0.1質量%以上5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上3質量%以下、より好ましくは1質量%以上2質量%以下を目安として含まれる。
前記混合液は前記調製液を前記有機溶剤で希釈したものであるから、前記混合液に含まれる前記酸化剤の量としては、前記混合液の総質量に対して、例えば0.01質量%以上4質量%以下が挙げられ、好ましくは0.1質量%以上2質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上1質量%以下が目安として挙げられる。
【0032】
[高導電性複合体の析出]
調製した混合液中に高導電性複合体を析出させる方法は特に制限されず、前記混合液を静置するだけでも、析出させることができる。また、完全に静置させる必要はなく、穏やかに攪拌しながら析出させてもよい。
【0033】
前記混合液に高導電性複合体を析出させる際には、前記混合液を加熱することが好ましい。加熱温度としては、40℃以上が好ましく、50℃以上100℃以下がより好ましく、60℃以上80℃以下がさらに好ましい。上記の好適な加熱温度における加熱時間としては、例えば、1時間以上10時間以下とすることができる。
前記混合液を加熱すると、混合液中に高導電性複合体を容易に析出させることができ、導電性複合体の収率を向上させることができる。
【0034】
[高導電性複合体の分取]
混合液中に析出した高導電性複合体を分取する(回収する)方法は特に制限されず、例えば、濾過、デカンテーション、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
なかでも、混合液に含まれる高導電性複合体以外の成分と高導電性複合体とを分離することが容易であることから、濾過又はデカンテーションが好ましい。ここで、濾過とは、混合液を通過させたフィルターに、高導電性複合体を捕捉する操作である。また、デカンテーションとは、析出した高導電性複合体を沈殿させ、上澄み液を除去する操作である。
濾過で分取する場合にはフィルターの目詰まりに対処する必要があるので、デカンテーションの方がより容易に分取できる。また、フィルター上で高導電性複合体の固形物が濾過圧により圧縮されるので、濾過で分取した高導電性複合体は、デカンテーションで分取した場合よりも固い状態となり易い。デカンテーションで得た高導電性複合体は比較的柔らかいパウダー状態で得られるので、後で分散媒に容易に分散させることができる。従って、デカンテーションにより高導電性複合体を分取することがより好ましい。
【0035】
分取した高導電性複合体は、高導電性複合体を溶解し難い有機溶剤を用いて洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、高導電性複合体を捕捉したフィルターに有機溶剤をかけ流してもよいし、デカンテーション後に容器の底に残った高導電性複合体に有機溶剤を添加し、攪拌した後、再度デカンテーション等により分取してもよい。
分取した高導電性複合体に付着した有機溶剤等を乾燥して除去することにより、高導電性複合体の乾燥体を得ることができる。
【0036】
<作用効果>
本発明の高導電性複合体の製造方法によれば、混合液に含ませた導電性複合体100質量部に対して、90~100質量部の高導電性複合体を析出物として回収することができる。つまり、本態様の高導電性複合体の製造方法は、90~100質量%という高い収率を示し得る。
本発明の高導電性複合体の製造方法において、有機溶剤を含む混合液中に高導電性複合体が析出する要因は、有機溶剤に高導電性複合体が溶解し難いことであると推測される。
驚くべきことに、本発明の製造方法において析出した高導電性複合体を用いると、従来の導電性複合体(例えば、原料を凍結乾燥して得た導電性複合体)を用いた場合よりも、導電性に優れた導電層を形成することができる(後述の実施例、比較例参照)。析出後の高導電性複合体と、従来の導電性複合体との化学的組成の相違は、有るとしても、高導電性複合体に分子レベルで付着した極微量の有機溶剤の有無だと考えられる。化学的組成よりも、物理化学的な性状の相違が導電性の差異に影響していると考えられる。本発明の製造方法で得た高導電性複合体を用いると、従来の導電性複合体より小さい粒子径の高導電性複合体を塗料中に分散させることができる。この結果、当該塗料の塗膜から形成される導電層の導電性が高くなると推測される。
【0037】
本発明の高導電性複合体の製造方法にあっては、高導電性複合体を析出させる混合液に、酸化剤および触媒が含まれていても構わない。このため、混合液の原料である調製液から予め酸化剤および触媒を除去する必要がない。調製液として、π共役系導電性高分子を形成するための酸化重合を行った反応液を使用することができるので、高導電性複合体の製造効率は非常に高い。仮に、調製液から酸化剤および触媒を予め除去するとすれば、調製液をイオン交換、ゲル濾過、又は限外濾過等で処理する必要があるので製造コストが嵩む問題がある。一方、本発明の製造方法ではこれらの処理を行う必要がなく、析出を経て、導電性が向上した高導電性複合体を分取するとともに、以後の工程に不要な酸化剤や触媒を混合液中に残して容易に分離できるので、製造コストを低減することができる。
【0038】
≪高導電性複合体の水系分散液の製造方法≫
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法により得た高導電性複合体と、水を含有する水系分散媒とを混合することを含む、高導電性複合体の水系分散液の製造方法である。
第一態様で得た高導電性複合体は水に対する分散性が高いので、水を含有する水系分散媒に容易に分散させることができる。
本態様で用いる高導電性複合体は、第一態様の製造方法により分取した後、乾燥して保存されていてもよいし、保存を経ずに直ちに使用されてもよい。
【0039】
本態様の水系分散媒には有機溶剤が含まれてもよい。有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性有機溶剤とは、20℃の水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられ、アルコール系溶剤が好ましい。具体的な水溶性有機溶剤の例示は、第一態様の説明と同様であるので省略する。
【0040】
本態様の水系分散媒の総質量に対する水の含有割合は、例えば、5質量%以上100質量%以下とすることができ、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0041】
本態様において、高導電性複合体と水系分散媒とを混合する方法は特に制限されず、例えば、(1)高導電性複合体に水系分散媒を添加して撹拌する方法、(2)高導電性複合体に水を添加し、高導電性複合体の水分散液を得た後、必要に応じて有機溶剤をさらに添加し、攪拌する方法が挙げられる。
高導電性複合体の水に対する分散性は非常に高いので、高導電性複合体の凝集による粒子の大径化を防止する観点から、(2)の方法が好ましい。
【0042】
高導電性複合体と水系分散媒とを混合した後、混合液を攪拌して分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0043】
本態様の高導電性複合体の水系分散液において、分散された高導電性複合体の粒度分布は特に制限されないが、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。その下限値は、高導電性複合体がポリマーを含むことから、ポリマーの分子半径を考慮すると、1nm以上が目安として挙げられる。
上記粒度分布が小さくなるほど、本態様の高導電性複合体の水系分散液を塗布して形成される導電層の導電性を向上させることができる。
ここで粒度分布は、動的光散乱法によって、キュムラント平均粒径を測定した値である。
【0044】
本態様の高導電性複合体の水系分散液の総質量に対する、高導電性複合体の含有量としては、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、高導電性複合体をより安定に分散させることができる。
【0045】
(バインダ成分)
本態様の高導電性複合体の水系分散液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層(導電膜)形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の高導電性複合体の水系分散液が含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0047】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、本態様の高導電性複合体の水系分散液をフィルム基材に塗工した塗膜(導電膜)の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0048】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0049】
バインダ樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0050】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0051】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0052】
本態様の高導電性複合体の水系分散液におけるバインダ成分の含有割合は、高導電性複合体100質量部に対して、100質量部以上20000質量部以下であることが好ましく、500質量部以上5000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、本態様の高導電性複合体の水系分散液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、高導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0053】
≪高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法≫
本発明の第三態様は、第一態様の製造方法により得た高導電性複合体と、有機溶剤と、アミン化合物とを混合することを含む、高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法である。
第一態様で得た高導電性複合体は水に対する分散性が高く、有機溶剤に対する分散性は低い。そこで、高導電性複合体に対して有機溶剤とともにアミン化合物を添加し、高導電性複合体を構成するポリアニオンのアニオン基にアミン化合物を付加させ、高導電性複合体を疎水化することにより、高導電性複合体を有機溶剤に分散させることができる。
本態様で用いる高導電性複合体は、第一態様の製造方法により分取した後、乾燥して保存されていてもよいし、保存を経ずに直ちに使用されてもよい。
【0054】
(アミン化合物)
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、高導電性複合体を容易に疎水化できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0055】
低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがより好ましい。
【0056】
高導電性複合体の有機溶剤分散液は、前述した高導電性複合体と、これに付加したアミン化合物と、有機溶剤とを含む。有機溶剤は、高導電性複合体を分散又は溶解することができるので、分散媒又は溶媒ということができる。本明細書において、分散と溶解とを区別せずに単に分散ということがあり、分散媒と溶媒とを区別せずに単に分散媒ということがある。
【0057】
(有機溶剤)
本態様の製造方法で用いる有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
炭化水素系溶剤としては、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0058】
上記有機溶剤のなかでも、プラスチックフィルム基材に対する高導電性複合体の有機溶剤分散液の濡れ性が高くなり、また、比較的極性の高いバインダ成分を容易に可溶化できる点では、アルコール系溶剤が好ましい。また、アルコール系溶剤のなかでも、アミン化合物が付加した高導電性複合体の分散性が良好であることから、イソプロパノールが好ましい。
【0059】
有機溶剤の含有割合は、高導電性複合体の有機溶剤分散液の総質量に対し、50質量%以上99.5質量%以下が好ましく、70質量%以上99質量%以下がより好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲内であると、高導電性複合体の分散性を高めることができる。
【0060】
本態様において、高導電性複合体と有機溶剤とアミン化合物とを混合する方法は特に制限されず、例えば、(A)高導電性複合体に有機溶剤とアミン化合物を添加して撹拌する方法、(B)高導電性複合体にアミン化合物を添加し、疎水化した高導電性複合体を得た後、有機溶剤をさらに添加し、攪拌する方法が挙げられる。
高導電性複合体のポリアニオンに対するアミン化合物の付加反応の効率を高める観点から、(A)の方法が好ましい。
【0061】
本態様において、高導電性複合体と有機溶剤とアミン化合物とを混合する方法としては、これらを混合し、高圧ホモジナイザーで混合しつつ、分散させる方法が好ましい。
【0062】
高導電性複合体にアミン化合物及び有機溶剤を混合すると、高導電性複合体にアミン化合物が付加し、高導電性複合体は疎水化される。この混合液に、疎水化された高導電性複合体は分散しているが、続けて混合液を攪拌し、さらなる分散処理を施してもよい。攪拌の方法は特に制限されず、スターラー等の剪断力が弱い攪拌であってもよいし、高剪断力の分散機(ホモジナイザ等)を用いて攪拌してもよい。
【0063】
本態様の製造方法により得られた有機溶剤分散液において、アミン化合物が付加した高導電性複合体は、分散状態にある。
分散された高導電性複合体の粒度分布は特に制限されないが、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。その下限値は、高導電性複合体がポリマーを含むことから、ポリマーの分子半径を考慮すると、1nm以上が目安として挙げられる。
上記粒度分布が小さくなるほど、本態様の高導電性複合体の有機溶剤分散液を塗布して形成される導電層の導電性を向上させることができる。
ここで粒度分布は、動的光散乱法によって、キュムラント平均粒径を測定した値である。
【0064】
本態様の高導電性複合体の有機溶剤分散液の総質量に対する、高導電性複合体の含有量としては、例えば、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲であると、高導電性複合体をより安定に分散させることができる。
【0065】
(バインダ成分)
本態様の高導電性複合体の有機溶剤分散液は、バインダ成分を含んでいてもよい。バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層(導電膜)形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。
【0067】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0068】
バインダ成分由来のバインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シリコーン等が挙げられる。
本態様の高導電性複合体の有機溶剤分散液が含有するバインダ樹脂としては、有機溶剤に対する分散性が良好であることから、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、硬化後にアクリル樹脂を形成する化合物、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
【0069】
本態様の高導電性複合体の有機溶剤分散液におけるバインダ成分の含有割合は、高導電性複合体100質量部に対して、500質量部以上50000質量部以下であることが好ましく、1000質量部以上20000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、本態様の高導電性複合体の水系分散液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、高導電性複合体の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0070】
≪高導電性複合体の有機溶剤分散液の製造方法≫
本発明の第四態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、遷移金属イオンと、水系分散媒とを含む調製液に、有機溶剤を混合した混合液を得て、前記混合液中に高導電性複合体を析出させた後、前記高導電性複合体を含む前記混合液にアミン化合物を添加し、前記アミン化合物が付加した高導電性複合体を分取することを含む、高導電性複合体の製造方法である。
【0071】
本態様において、前記混合液中に高導電性複合体を析出させる方法までは、第一態様の方法と同じであるので、重複する説明は省略する。
以下のアミン化合物の付加の説明は、前述の第三態様におけるアミン化合物の付加と共通する説明が含まれる。
【0072】
[アミン化合物の付加]
前述の高導電性複合体が析出した前記混合液にアミン化合物を添加することにより、高導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基にアミン化合物を付加させ、高導電性複合体を疎水化することができる。疎水化前の高導電性複合体は水に対する分散性が高く、疎水化した高導電性複合体は有機溶剤に対する分散性が高い。
前記ポリアニオンのドープに関与しない余剰のアニオン基にアミン化合物が付加した置換基の構造は、下記化学式(X)で表される構造であると考えられる。
-HN212223 ・・・(X)
[式(X)中、R21~R23はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R21~R23のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0073】
式(X)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO 」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0074】
式(X)におけるR21~R23は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。式(X)におけるR21~R23はアミン化合物に由来する置換基である。
式(X)における炭化水素基は、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0075】
(アミン化合物)
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
具体的なアミン化合物の例示は、第三態様におけるアミン化合物の例示と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0076】
アミン化合物を付加させた高導電性複合体の低極性有機溶剤への分散性が高くなることから、前記混合液に添加するアミン化合物は、窒素原子上に炭素数が4以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することがより好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがさらに好ましい。
【0077】
前記混合液に前記アミン化合物を添加する方法は特に制限されない。前記混合液には高導電性複合体が析出する程度に有機溶剤が含まれているので、疎水性のアミン化合物を充分に溶解することができる。
【0078】
前記混合液に添加するアミン化合物の添加量としては、前記混合液に含まれるπ共役系導電性高分子及びポリアニオンの総質量100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。アミン化合物の添加割合が前記下限値以上であれば、高導電性複合体の有機溶剤に対する分散性がより高くなり、前記上限値以下であれば、高導電性複合体の導電性の低下を防ぐことができる。
【0079】
[高導電性複合体の分取]
前記混合液中において前記アミン化合物を付加させた高導電性複合体を分取する(回収する)方法は特に制限されず、例えば、濾過、デカンテーション、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
なかでも、混合液に含まれる高導電性複合体以外の成分と高導電性複合体とを分離することが容易であることから、濾過又はデカンテーションが好ましい。
【0080】
分取した高導電性複合体は、高導電性複合体を溶解し難い有機溶剤を用いて洗浄することが好ましい。具体的には、例えば、高導電性複合体を捕捉したフィルターに有機溶剤をかけ流してもよいし、デカンテーション後に容器の底に残った高導電性複合体に有機溶剤を添加し、攪拌した後、再度デカンテーション等により分取してもよい。
分取した高導電性複合体に付着した有機溶剤等を乾燥して除去することにより、高導電性複合体の乾燥体を得ることができる。
【0081】
本態様の製造方法で得た高導電性複合体は、アミン化合物の付加により疎水化されている。このように疎水化された高導電性複合体は、有機溶剤に対する分散性が高い。従い、第三態様で説明したように、疎水化された高導電性複合体と、有機溶剤とを混合することにより、高導電性複合体の有機溶剤分散液を製造することができる。
上記の高導電性複合体の有機溶剤分散液には、第三態様の場合と同様に、バインダ成分を添加することができる。
【0082】
≪その他の添加剤≫
上述の高導電性複合体の水系分散液及び有機溶剤分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。ただし、添加剤は、前記π共役系導電性高分子、ポリアニオン、有機溶剤、バインダ成分以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
上述の高導電性複合体の水系分散液及び有機溶剤分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性高分子複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0083】
<作用効果>
本発明の製造方法によって得られた高導電性複合体の水系分散液及び有機溶剤分散液は、高導電性複合体の分散性に優れるので、その水系分散液及び有機溶剤分散液から形成される導電層における高導電性複合体の分散性も優れる。そのため、導電層の導電性を充分に高めることができる。さらに、高導電性複合体の分散性が良好であることから、上述の水系分散液及び有機溶剤分散液の保存安定性も向上させることができる。
【0084】
≪導電性フィルムの製造方法≫
本発明の第五態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第二態様の製造方法で得た高導電性複合体の水系分散液、或いは、第三態様又は第四態様の製造方法で得た高導電性複合体の有機溶剤分散液を塗工し、形成された塗膜を乾燥することを含む、導電性フィルムの製造方法である。
【0085】
本態様において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルムが挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子含有液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0086】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0087】
(塗工工程)
高導電性複合体の上記分散液をフィルム基材に塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工することができる。
前記分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、良好な導電性を得る観点から、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0088】
(乾燥工程)
フィルム基材に形成された塗膜を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記温度で乾燥する場合の乾燥時間としては、例えば、30秒以上3分以下とすることができる。
前記塗膜が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、乾燥後の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は、導電層を充分に硬化させる観点から、100mW/cm以上が好ましい。また、導電層を充分に硬化させる観点から、積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0089】
≪導電性フィルム≫
本発明の第六態様は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、第二態様の製造方法で得た高導電性複合体の水系分散液の硬化層からなる導電層、或いは、第三態様又は第四態様の製造方法で得た高導電性複合体の有機溶剤分散液の硬化層からなる導電層を備えた、導電性フィルムである。本態様の導電性フィルムは、第五態様の製造方法によって製造することができる。
【0090】
本態様により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、高導電性複合体を含有する。高導電性複合体を構成するポリアニオンの余剰のアニオン基の一部又は全部にアミン化合物が付加していてもよい。
塗布した上記分散液がバインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分又はバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
【0091】
本態様の導電性フィルムが有する導電層の平均厚さとしては、例えば、10nm以上50μm以下であることが好ましく、20nm以上30μm以下であることがより好ましく、30nm以上20μm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0092】
本態様の導電性フィルムの導電層は、良好な導電性の目安として、例えば、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することが好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがより好ましく、1×10Ω/□以上1×10Ω/□以下の表面抵抗値を有することがさらに好ましい。
【0093】
<作用効果>
本発明の第六態様の導電性フィルムの導電層には、高導電性複合体が含まれているので、従来の導電性複合体が含まれる導電層よりも導電性が優れる。
【実施例
【0094】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で撹拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間撹拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法によりポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を6回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0095】
(製造例2)導電性高分子の調製液
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
これにより、1.2%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)と、鉄イオン約0.098質量%と、過硫酸アンモニウム約1.3質量%を含む調製液を得た。ここでPEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
【0096】
(製造例3)導電性高分子水分散液の合成
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合させた。
これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間撹拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
そして、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS水分散液)の水分散液を得た。PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
ここで得たPEDOT-PSS水分散液には、鉄イオンや過硫酸アンモニウムは実質的に含まれない。
【0097】
(製造例4)凍結乾燥体の製造
製造例3で得たPEDOT-PSS水分散液100gを凍結乾燥して、1.2gのPEDOT-PSS(導電性複合体)の凍結乾燥体を得た。
【0098】
(実施例1)
製造例2の調製液100gに、メタノール12.5gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄し、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
次に、得られた高導電性高分子複合体1.2gに水を60g添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、固形分(不揮発成分)2質量%の高導電性複合体の水分散液を得た。この水分散液にメタノール60gを加えた高導電性複合体の水系分散液(固形分:約1.0質量%)を、#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラー T60)上に塗布し、150℃で1分間乾燥することにより、導電性フィルムを得た。
【0099】
(実施例2)
製造例2の調製液100gに、メタノール25gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄し、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
ここで得た高導電性複合体を用いて、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製した。
【0100】
(実施例3)
製造例2の調製液100gに、イソプロパノール25gと、メチルエチルケトン200gと、酢酸エチル17.5gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄し、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。
ここで得た高導電性複合体を用いて、実施例1と同様にして導電性フィルムを作製した。
【0101】
(比較例1)
製造例2の調製液100gに、水212.5gを加え、60℃で3時間攪拌した。しかしながら、導電性複合体が析出しなかったため、以後の検討を中止した。
【0102】
(比較例2)
製造例2の調製液100gに、水225gを加え、60℃で3時間攪拌した。しかしながら、導電性複合体が析出しなかったため、以後の検討を中止した。
【0103】
(比較例3)
製造例2の調製液100gに、水242.5gを加え、60℃で3時間攪拌した。しかしながら、導電性複合体が析出しなかったため、以後の検討を中止した。
【0104】
(比較例4)
製造例3で得た導電性複合体の凍結乾燥体の鉄含有量を蛍光X線にて測定した結果を表1に示す。次に、この凍結乾燥体1.2gに、水60gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、固形分2質量%の導電性複合体の水分散液を得た。この水分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして導電性フィルムを得た。
【0105】
<評価>
各例の導電性フィルムの表面抵抗値を測定した結果を表1に示す。その測定の際、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとした。各測定結果を表1に示す。なお、表中の「Ω/□」はオームパースクエアの意味である。また、「2.0E+5」は、「2.0×10」を表す。
表面抵抗値(単位:Ω/□)が小さい程、導電性が高いことを示す。表1の結果において、実施例1~3の導電性フィルムの導電性は、比較例4よりも優れていた。
【0106】
【表1】
【0107】
(実施例4)
製造例2の調製液100gに、メタノール12.5gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄して、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体1.2gにイソプロパノール472.74gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。
【0108】
次に、アートレジンUN-904M(根上工業社製、ウレタンアクリレート、固形分80%、メチルエチルケトン溶液)100gと、ペンタエリスリトールトリアクリレート300gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド25gと、ジアセトンアルコール100gと、イルガキュア184(BASF社製、光重合開始剤)16.2gと、を加えて得た高導電性複合体の有機溶剤分散液を、#8のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラー T60)上に塗布し、100℃で1分間乾燥し、400mJの紫外線を照射することにより、導電性フィルムを得た。この表面抵抗値を上述の方法で測定した結果を表2に示す。
【0109】
(実施例5)
製造例2の調製液100gに、メタノール25gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄して、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体1.2gにイソプロパノール472.74gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0110】
(実施例6)
製造例2の調製液100gに、イソプロパノール25gと、メチルエチルケトン200gと、酢酸エチル17.5gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄して、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体1.2gにイソプロパノール472.74gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0111】
(実施例7)
製造例2の調製液100gに、メタノール12.5gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄して、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体1.2gにイソプロパノール472.74gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0112】
(実施例8)
製造例2の調製液100gに、メタノール12.5gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体をろ取し、イソプロパノール100gで洗浄して、高導電性複合体1.2gを得た。
得られた高導電性複合体1.2gにイソプロパノール473.24gと、トリブチルアミン0.56gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリブチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0113】
(実施例9)
製造例2の調製液100gに、メタノール15.0gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、混合液を静置し、混合液内に析出したPEDOT-PSSからなる高導電性複合体が容器の底へ自然に沈降するまで、1時間待った。その後、上澄み液をデカンテーションにより200g除去し、イソプロパノール300gを加えて撹拌した後、混合液を静置し、高導電性複合体を自然に沈降させた。その後、再び上澄み液をデカンテーションにより300g除去し、イソプロパノール300gを加えて撹拌した後、混合液を静置し、高導電性複合体を自然に沈降させた。その後、さらに上澄み液をデカンテーションにより300g除去し、高導電性複合体を含むイソプロパノール混合液115gを得た。
得られた高導電性複合体を含むイソプロパノール混合液115gにイソプロパノール358.94gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。
この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0114】
(実施例10)
製造例2の調製液100gに、メタノール12.5gと、メチルエチルケトン200gとを加えた混合液を、60℃で3時間攪拌した。次に、PEDOT-PSSからなる高導電性複合体が混合液内に析出していることを確認した後で、この混合液にトリオクチルアミン5.0gを加え、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体をろ取し、メチルエチルケトン100gで洗浄して、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体2.3gを得た。
得られた高導電性複合体2.3gにイソプロパノール472.74gを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した高導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。
この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0115】
(比較例5)
製造例4のPEDOT-PSSの凍結乾燥体1.2gに、イソプロパノール472.74gと、トリオクチルアミン1.06gとを添加し、高圧ホモジナイザーで分散し、トリオクチルアミンが付加した導電性複合体のイソプロパノール分散液を得た。
この分散液を用いこと以外は、実施例4と同様にして、導電性フィルムを作製し、その表面抵抗値を測定した。
【0116】
【表2】
【0117】
以上の結果から、本発明に係る高導電性複合体の製造方法により、不純物である鉄イオン、鉄イオンのカウンターアニオン及び酸化剤等から分離するとともに、導電性に優れた高導電性複合体を分取することができた。分取した高導電性複合体は親水性であるので、水に対して容易に分散させることができた。また、必要に応じて、高導電性複合体にアミン化合物を付加させ、疎水化し、有機溶剤に対して容易に分散させることもできた。さらに、混合液中に析出した高導電性複合体にアミン化合物を付加させ、分取することもできた。
本発明に係る高導電性複合体を用いると、従来の導電性複合体を用いた場合と比べて、導電性に優れた導電層を形成することができることが明らかである。