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特許7311425CD40とEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】CD40とEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230711BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230711BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230711BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230711BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230711BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230711BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230711BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/30
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K49/00
G01N33/574 A
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2019552820
(86)(22)【出願日】2018-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2018041250
(87)【国際公開番号】W WO2019093342
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2017215834
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信明
(72)【発明者】
【氏名】前田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 倫平
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/131239(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/033386(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0238665(US,A1)
【文献】BRUNEKREEFT,Kim L et al.,Targeted delivery of CD40L promotes restricted activation of antigen-presenting cells and induction,Molecular Cancer,2014年,vol.13:85,p.1-13
【文献】YE, Shiming et al.,Enhancement of tumor specific immunity by activation of CD40 through a bispecific molecule targeting,Journal for ImmunoTherapy of Cancer,2017年11月07日,Vol. 5 (Suppl 2): 87,p. 182: P370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpitherial Cell Adhesion Molecule(EpCAM)に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体であって、
CD40に結合する抗原結合ドメインがCD40に特異的に結合する抗体(抗CD40抗体)の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、EpCAMに結合する抗原結合ドメインがEpCAMに特異的に結合する抗体(抗EpCAM抗体)のVHおよびVLを含み、
VLが、それぞれ配列番号23~25で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)1~3を含むVLであり、
抗CD40抗体が、以下の(1a)~(1d)からなる群から選ばれるいずれか1つの重鎖可変領域(VH)を含む抗CD40抗体であり、
抗EpCAM抗体が、以下の(2a)~(2d)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗EpCAM抗体である、バイスペシフィック抗体。
(1a)それぞれ配列番号28~30で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(1b)それぞれ配列番号33~35で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(1c)それぞれ配列番号38~40で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、および
(1d)それぞれ配列番号43~45で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(2a)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(2b)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(2c)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、および
(2d)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH。
【請求項2】
CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合する請求項1記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項3】
N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式
{式中、
VH1は第一の抗体のVHを表し、
VH2は第二の抗体のVHを表し、
XおよびYはそれぞれ抗体のCH1を含むポリペプチド(ここでXおよびYの少なくとも一方はさらに抗体のヒンジ領域を含む)を表す}
で表されるポリペプチドを含む同一の2本の重鎖、
および同一のVLを含む4本の軽鎖を有し、
該第一の抗体および該第二の抗体のいずれか一方が抗CD40抗体であり、もう一方が抗EpCAM抗体である請求項1または2記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項4】
軽鎖がκ鎖である請求項3記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項5】
前記式におけるXがヒトIgGのCH1からなるポリペプチドであり、YがヒトIgGのCH1、ヒンジ領域、CH2およびCH3からなるポリペプチドである請求項3または4記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項6】
前記式におけるXが配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yが配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項3または4記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項7】
前記式におけるXがヒトIgGのCH1、ヒンジ領域、CH2およびCH3を含むポリペプチドであり、YがヒトIgGのCH1を含むポリペプチドである請求項3または4記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項8】
前記式におけるXが配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yが配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項3または4記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項9】
VLが、配列番号22で表されるアミノ酸配列を含むVLである請求項1~8のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項10】
CD40アゴニスト活性を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項11】
EpCAMを発現する細胞の非存在下ではCD40アゴニスト活性を示さず、EpCAMを発現する細胞の存在下でのみCD40アゴニスト活性を示す、請求項1~10のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項12】
第一の抗体が抗CD40抗体であり、第二の抗体が抗EpCAM抗体である請求項3~11のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項13】
第一の抗体が抗EpCAM抗体であり、第二の抗体が抗CD40抗体である請求項3~11のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項14】
抗CD40抗体が、配列番号27、32、37および42のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗CD40抗体である請求項1~13のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項15】
抗EpCAM抗体が、配列番号51、56、61および66のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗EpCAM抗体である請求項1~14のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項16】
CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合し、
前記第一の抗体が抗CD40抗体であり、前記第二の抗体が抗EpCAM抗体であり、VLが配列番号22で表されるアミノ酸配列を含むVLであり、
前記抗CD40抗体のVHが配列番号32で表されるアミノ酸配列を含むVHであり、
前記抗EpCAM抗体のVHが配列番号56で表されるアミノ酸配列を含むVHであり、
前記式におけるXがヒトIgGのCH1、ヒンジ領域、CH2およびCH3を含むポリペプチドであり、
YがヒトIgGのCH1を含むポリペプチドである請求項3記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項17】
CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合し、
前記第一の抗体が抗CD40抗体であり、前記第二の抗体が抗EpCAM抗体であり、VLが配列番号22で表されるアミノ酸配列を含むVLであり、
前記抗CD40抗体のVHが配列番号32で表されるアミノ酸配列を含むVHであり、
前記抗EpCAM抗体のVHが配列番号56で表されるアミノ酸配列を含むVHであり、前記式におけるXが配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、
Yが配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである請求項3記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体のバイスペシフィック抗体断片。
【請求項19】
Fab型バイスペシフィック抗体断片またはF(ab’)2型バイスペシフィック抗体断片である請求項18に記載のバイスペシフィック抗体断片。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA。
【請求項21】
請求項20に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
【請求項22】
請求項21に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
【請求項23】
請求項22に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片を生産蓄積させ、該培養物から該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を採取することを特徴とする請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片の製造方法。
【請求項24】
請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤。
【請求項25】
ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項24に記載の剤。
【請求項26】
ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片。
【請求項27】
ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項26に記載のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片。
【請求項28】
ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤の製造のための、請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片の使用。
【請求項29】
ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである請求項28に記載の使用。
【請求項30】
請求項1~17のいずれか1項に記載のバイスペシフィック抗体または請求項18もしくは19に記載のバイスペシフィック抗体断片を含む、EpCAMおよびCD40の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpitherial Cell Adhesion Molecule(EpCAM)に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、あらゆる哺乳動物の血清や組織体液中に存在する糖タンパク質であり、生体内において外来抗原を認識する。抗体は、補体系の活性化や、細胞表面に存在するレセプター(FcR)への結合を介して、FcR発現細胞の貪食能、抗体依存性細胞傷害能、メディエーターの遊離能、及び抗原提示能といったエフェクター機能を活性化し、生体防御に関与する。
【0003】
1分子の抗体は、2本の相同な軽鎖(L鎖)と2本の相同な重鎖(H鎖)とから成り、2つの抗原結合部位を備える。抗体のクラス及びサブクラスはH鎖によって決定され、各クラス及びサブクラスは異なる固有の機能を有する。ヒトの抗体には、5つの異なるクラス、IgG、IgA、IgM、IgD及びIgEが存在する。IgGはさらにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに、IgAは、IgA1及びIgA2のサブクラスに各々分類される(Charles A. J. et. al., Immunobiology, 1997, Current Biology Ltd/Garland Publishing Inc.)。
【0004】
多価抗体は、1分子内に複数の抗原結合部位を備えた抗体である。多価抗体の例としては、まず、ハイブリッドハイブリドーマを用いて、二種類の異なる抗体由来のH鎖およびL鎖を1つの細胞で発現させることにより、異なる二種類の抗原にそれぞれ一価で結合する二価抗体を作製したことが報告された。(非特許文献1)。しかしながら、本法では、抗体のH鎖とL鎖との組み合わせが10通り程度生じる。そのため、所望のH鎖とL鎖との組み合わせを有する多価抗体の生成量は低く、またそのような多価抗体を選択的に単離精製することも難しいため、所望の抗体の収量は減少する。
【0005】
この問題点を克服するため、複数の抗原結合部位を連結して単一のポリペプチド鎖として発現することにより、サブユニット間の組み合わせのバリエーションを減らし、所望の組み合わせを有する抗体を生産する試みが報告されている。
【0006】
一例として、H鎖とL鎖の抗原結合部位を1つのポリペプチドで連結したsingle chain Fv(scFv)を含む抗体(非特許文献2)が知られている。さらに、IgG1のH鎖定常領域のCH1ドメインもしくは該ドメインの部分断片及びL鎖定常領域、又はフレキシブルリンカー(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)を用いて、二つの抗原結合部位を連結させた抗体などが報告されている(非特許文献4、特許文献1、特許文献2)。
【0007】
これらの従来の多価抗体は、凝集し易く、安定性や生産性が低いという欠点を有していた。しかし一方で、単一のH鎖ポリペプチド中に複数の抗原結合部位を有し、抗体重鎖可変領域がイムノグロブリンドメインまたはその断片のアミノ酸配列を有するリンカーを介して結合している多価抗体は、安定性が高く、生産性も良いことが見出されている(特許文献3)。
【0008】
CD40は、ヒトB細胞表面に発現する抗原として同定され(非特許文献4)、TNF受容体ファミリーのメンバーの1つとして知られる。TNF受容体ファミリー分子は、細胞外ドメインのシステインリッチリピートの存在により定義される。TNF受容体ファミリーのメンバーとしては、CD40の他に、例えば低親和性NGFレセプター、TNFレセプター、CD27、OX40およびCD30などが知られている。
【0009】
TNF受容体ファミリーを介したシグナルは、ホモ三量体のTNFファミリー分子が3つのTNF受容体ファミリーに結合することにより誘導されるが、TNF受容体ファミリー分子に特異的な抗体同士を架橋(クロスリンク)することによっても、細胞内にシグナルが伝達されることから、シグナル伝達にはTNF受容体ファミリー分子の会合が必要であると考えられている(非特許文献5、6)。
【0010】
CD40はタイプIの膜型糖タンパク質であり、Bリンパ球、樹状細胞、単球上皮細胞および線維芽細胞などの多様な細胞タイプや、腫瘍性のヒトB細胞などのある種の腫瘍細胞にも発現していることが知られている。CD40欠損マウスでは、胸腺依存の免疫グロブリンのクラススイッチや胚中心の形成が損なわれることが確認されており、細胞性と液性免疫反応でのCD40の重要な役割が実証されている(非特許文献7)。
【0011】
CD40のシグナルは免疫グロブリンのクラススイッチやCTLの誘導に関与することから、腫瘍免疫の活性化やがんワクチンのアジュバントとしての医薬品への応用も期待されている(非特許文献8)。
【0012】
既存のCD40を標的とした抗体としては、Chi-Lob 7/4、HCD-122、APX005M、SEA-CD40およびCP870,893(21.4.1)等を挙げることができる(非特許文献9)。その中で、CP870,893は強力なCD40シグナル誘導能をもっており、固形腫瘍に対して全身性の免疫活性化を薬効メカニズムとする臨床試験が実施された。しかし、有効性を示すことができておらず、サイトカインシンドローム、血栓マーカーの上昇、肝臓パラメータの上昇など全身的な免疫活性化に由来する毒性の発現が報告されている(非特許文献10)。
【0013】
CD40の生理学的リガンドはCD40 Ligand(CD154、gp39)である。活性化したTリンパ球にはCD40 Ligandが発現しておりBリンパ球の表面上のCD40との結合を介してBリンパ球の分化や増殖、胚中心のBリンパ球の自発的アポトーシスからの回避など重要な調節機構を担っている(非特許文献11)。
【0014】
CD40のシグナル誘導能をもつ分子として、CD40 Ligandに抗体のFc領域を融合させた分子が報告されている。さらに、腫瘍での効率的なCD40シグナルの誘導を目指してCD40 Ligandとがん抗原に対する一本鎖抗体scFvの融合抗体が作製され、CD40 Ligandよりも20倍程度低用量でCD40シグナルを誘導すると報告されている(非特許文献12)。
【0015】
CD40を認識するバイスペシフィック抗体として、ヘテロ二量化した重鎖を有するIgG型抗ヒトGPC3/抗マウスCD40バイスペシフィック抗体が知られている(特許文献4)。また、nectin-4、PSMAまたはEGFRなどのがん抗原およびCD40に結合し、CD40を活性化させるバイスペシフィックタンパク質が知られている(特許文献5)。さらに、CD40およびがん細胞表面抗原に特異性を有するdiabodyなどのバイスペシフィック分子により、がん細胞近傍でCD40発現細胞を活性化させる方法が知られている(特許文献6)。
【0016】
Epithelial cell adhesion molecule (EpCAM、CD326、GA733-2、HEA125、KS1/4、MK-1、MH99、MOC31、323/A3、17-1A、CO-17A、ESA、EGP-2、EGP34、EGP40、KSA、KS1/4、TROP-1、TACST-1)は、細胞接着や細胞増殖、腫瘍の進行に関与する40kDaの膜貫通型膜糖タンパク質で、ホモタイプの細胞接着因子として機能する。
【0017】
EpCAMは上皮由来の多くのがん細胞で高発現していることから、がん抗原として知られており、がん分子標的医薬品の標的分子や診断マーカー、がんワクチン標的として期待されている(非特許文献13、14)。
【0018】
EpCAMを標的とする医薬の例としては、EpCAMタンパク質や抗EpCAM抗体の抗原認識部位に結合する抗イディオタイプ抗体を用いたワクチン療法、Adecatumumab(MT201)、ING-1、3622W94等の抗EpCAM抗体が報告されている(非特許文献15)。
【0019】
さらに、抗EpCAM抗体による細胞傷害活性を高める目的で、抗EpCAM抗体と緑膿菌外毒素を融合させたProxiniums Vivendiums (VB4-845)や、IL-2と融合させたEMD 273 066(huKS-IL2)が開発されている。抗CD3抗体を有することでT細胞とEpCAM陽性腫瘍細胞を架橋して腫瘍細胞を傷害するバイスペシフィック抗体Catumaxomab(Removab)は、欧州で承認されている(非特許文献14、16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許出願公開第2007/0071675号明細書
【文献】国際公開第2001/077342号
【文献】国際公開第2009/131239号
【文献】国際公開第2015/156268号
【文献】国際公開第2017/205738号
【文献】国際公開第99/61057号
【非特許文献】
【0021】
【文献】Suresh et. al., Methods Enzymol. 121, 210-228, 1986
【文献】Kranz et. al., J. Hematother. 5, 403-408, 1995
【文献】Wu et. al., Nat. Biothech. 25, 1290-1297, 2007
【文献】Clark et. al., PNAS USA 1986; 83:4494-4498
【文献】Chuntharapai A et. al., J. Immunol. 166(8), 4891, 2001
【文献】Ashkenazi A et. al., Nat Rev Cancer 2, 420, 2002
【文献】Kawabe et. al., Immunity 1994; 1:167-168
【文献】Diehl L et. al.、Nat Med. 1999 Jul;5(7):774-9.
【文献】Beatty GL et. al., Expert Rev Anticancer Ther. 2017 Feb;17(2):175-186.
【文献】Vonderheide RH et. al., Oncoimmunology. 2013 Jan 1;2(1):e23033.
【文献】Bridges et. al., J Immumol 1987; 139:4242-4549
【文献】1541376565889_0 et. al., Mol Cancer. 2014 Apr 17;13:85
【文献】van der Gun BTet. al., Br J Cancer. 2011 Jul 12;105(2):312-9.
【文献】Chaudry MA et. al., Br J Cancer. 2007 Apr 10;96(7):1013-9.
【文献】Markus M et. al., Cancer Cell Int. 2010 Nov 2;10:44.
【文献】Linke R et. al., MAbs. 2010, Vol.2(2), pp.129-136.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
CD40およびEpCAMに対するバイスペシフィック抗体とその抗腫瘍効果は知られていない。したがって、本発明は、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpCAMに結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するための手段として、本発明はCD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpCAMに結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などを提供する。
【0024】
すなわち本発明は、以下の(1)~(35)に関する。
(1)CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpitherial cell adhesion Molecule(EpCAM)に結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体。
(2)CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合する(1)記載のバイスペシフィック抗体。
(3)CD40に結合する抗原結合ドメインがCD40に特異的に結合する抗体(抗CD40抗体)の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、EpCAMに結合する抗原結合ドメインがEpCAMに特異的に結合する抗体(抗EpCAM抗体)のVHおよびVLを含む(1)または(2)記載のバイスペシフィック抗体。
(4)N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式
{式中、
VH1は第一の抗体のVHを表し、
VH2は第二の抗体のVHを表し、
XおよびYはそれぞれ抗体のCH1を含むポリペプチド(ここでXおよびYの少なくとも一方はさらに抗体のヒンジ領域を含む)を表す}
で表されるポリペプチドを含む同一の2本の重鎖、
および同一のVLを含む4本の軽鎖を有し、
該第一の抗体および該第二の抗体のいずれか一方が抗CD40抗体であり、もう一方が抗EpCAM抗体である(1)~(3)のいずれか1記載のバイスペシフィック抗体。
(5)軽鎖がκ鎖である(4)記載のバイスペシフィック抗体。
(6)前記式におけるXがヒトIgGのCH1からなるポリペプチドであり、YがヒトIgGのCH1、ヒンジ領域、CH2およびCH3からなるポリペプチドである(4)または(5)記載のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片。
(7)前記式におけるXが配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yが配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである(4)または(5)記載のバイスペシフィック抗体。
(8)前記式におけるXがヒトIgGのCH1、ヒンジ領域、CH2およびCH3を含むポリペプチドであり、YがヒトIgGのCH1を含むポリペプチドである(4)または(5)記載のバイスペシフィック抗体。
(9)前記式におけるXが配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yが配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドである(4)または(5)記載のバイスペシフィック抗体。
(10)VLが、それぞれ配列番号23~25で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(CDR)1~3を含むVLである(3)~(9)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(11)VLが、配列番号22で表されるアミノ酸配列を含むVLである(3)~(10)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(12)CD40アゴニスト活性を有する、(1)~(11)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(13)EpCAMを発現する細胞の非存在下ではCD40アゴニスト活性を示さず、EpCAMを発現する細胞の存在下でのみCD40アゴニスト活性を示す、(1)~(12)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(14)抗CD40抗体がアゴニスト活性を有していない抗CD40抗体である(3)~(13)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(15)第一の抗体が抗CD40抗体であり、第二の抗体が抗EpCAM抗体である(4)~(14)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(16)第一の抗体が抗EpCAM抗体であり、第二の抗体が抗CD40抗体である(4)~(14)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(17)抗CD40抗体が、以下の(1a)~(1d)からなる群から選ばれるいずれか1つの重鎖可変領域(VH)を含む抗CD40抗体である、(3)~(16)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(1a)それぞれ配列番号28~30で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(1b)それぞれ配列番号33~35で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(1c)それぞれ配列番号38~40で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、および
(1d)それぞれ配列番号43~45で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH。
(18)抗CD40抗体が、配列番号27、32、37および42のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗CD40抗体である(3)~(17)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(19)抗EpCAM抗体が、以下の(2a)~(2d)からなる群から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗EpCAM抗体である、(3)~(18)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(2a)それぞれ配列番号52~54で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(2b)それぞれ配列番号57~59で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、
(2c)それぞれ配列番号62~64で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH、および
(2d)それぞれ配列番号67~69で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含むVH。
(20)抗EpCAM抗体が、配列番号51、56、61および66のいずれか1つで表されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗EpCAM抗体である(3)~(19)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体。
(21)(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体のバイスペシフィック抗体断片。
(22)Fab型バイスペシフィック抗体断片またはF(ab’)2型バイスペシフィック抗体断片である(21)に記載のバイスペシフィック抗体断片
(23)(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)または(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片をコードするDNA。
(24)(23)に記載のDNAを含有する組換え体ベクター。
(25)(24)に記載の組換え体ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(26)(25)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物中に(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片を生産蓄積させ、該培養物から該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を採取することを特徴とする(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片の製造方法。
(27)(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤。
(28)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである(27)に記載の剤。
(29)(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片を用いる、ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくともいずれか一方が関係する疾患の治療および/または診断方法。
(30)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである(29)に記載の方法。
(31)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断に使用するための、(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片。
(32)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである(31)に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片。
(33)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の治療および/または診断剤の製造のための、(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片の使用。
(34)ヒトCD40およびヒトEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患ががんである(33)に記載の使用。
(35)(1)~(20)のいずれか1に記載のバイスペシフィック抗体または(21)もしくは(22)に記載のバイスペシフィック抗体断片を含む、EpCAMおよびCD40の少なくとも一方を検出または測定するための試薬。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpCAMに結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体、該バイスペシフィック抗体断片、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片をコードするDNA、該DNAを含むベクター、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を生産するハイブリドーマおよび形質転換株、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の製造方法、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む治療および診断剤、該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いる治療および診断方法、ならびに該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を含む検出または測定試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明のバイスぺシフィック抗体の構造の一例を示す。図1(A)はN末端型バイスペシフィック抗体を表す。図1(B)はC末端型バイスペシフィック抗体を表す。
図2図2(A)はRamos細胞、図2(B)はColo205細胞、図2(C)はHEK293細胞、図2(D)はヒトEpCAM/HEK293細胞について、それぞれの細胞におけるCD40およびEpCAMの発現をフローサイトメーターで評価した結果を示す。縦軸は細胞数を、横軸は蛍光強度を表す。破線は抗CD40抗体21.4.1の結合性、点線は抗EpCAM抗体3622W94の結合性、白抜きで示された線はコントロール抗体の抗DNP抗体の結合性を表す。
図3図3(A)および図3(B)は、抗CD40抗体モノクローナル抗体のCD40シグナル誘導活性を、Ramos細胞上のCD95発現誘導を指標として評価した結果を示す。縦軸は、蛍光強度を示し、それぞれの抗体を10、1または0.1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体を、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。
図4図4はHEK293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。縦軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を10、1または0.1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1、抗EpCAM抗体として3622W94を用いた。
図5図5はヒトEpCAM/HEK293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。縦軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を10、1または0.1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1、抗EpCAM抗体として3622W94を用いた。
図6図6はColo205細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。縦軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を10、1または0.1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1、抗EpCAM抗体として3622W94を用いた。
図7図7(A)はEpCAM陽性細胞存在下での、CD40陽性細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の作用の模式図である。CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体はEpCAM陽性細胞とCD40陽性細胞の両方に結合すると、CD40陽性細胞にCD40シグナルを誘導する。その結果、CD40陽性細胞上にCD95の発現が誘導される。図7(B)はEpCAM陽性細胞非存在下での、CD40陽性細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の作用の模式図である。CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体はCD40陽性細胞にのみ結合したときにはCD40シグナルを誘導しない。
図8図8(A)はAlexa647により蛍光標識したHER2抗体によりRamos細胞およびColo205細胞を蛍光免疫染色した結果、図8(B)はAlexa488により蛍光標識したCtR1090S55A-Ep203によりRamos細胞およびColo205細胞を蛍光免疫染色した結果、図8(C)はこれらの重ね合わせを示す。矢印は強い蛍光が観察された箇所を示す。
図9図9(A)~(C)はマウスを用いた毒性試験の結果を表す。図9(A)の縦軸はマウスの体重(g)を表す。図9(B)の縦軸はマウスの末梢血中のAST(Unit/L)を表す。図9(C)の縦軸はマウスの末梢血中のALT(Unit/L)を表す。それぞれの図中で灰色の棒グラフは投与前、黒色の棒グラフは投与24時間後における測定値を示す。R1090(N)、R1090(C)およびEpc112(C)は、それぞれ、R1090S55A-Ep203、Ct R1090S55A-Ep203およびCt Epc112-R1066を意味する。ネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。21.4.1は1mg/kg、その他の抗体は10mg/kgを投与した。
図10図10(A)~(D)はマウスを用いた毒性試験の結果を示す。図10(A)は抗体投与24時間後のマウスの白血球数を表す。図10(B)は抗体投与24時間後のマウスのリンパ球数を表す。図10(C)は抗体投与24時間後のマウスの単球数を表す。図10(D)は抗体投与24時間後のマウスの血小板数を表す。それぞれの図中においてグラフの縦軸はそれぞれの細胞の個数(1×10個)を表す。R1090(N)、R1090(C)およびEpc112(C)は、それぞれ、R1090S55A-Ep203、Ct R1090S55A-Ep203およびCt Epc112-R1066を意味する。ネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。21.4.1は1mg/kg、その他の抗体は10mg/kgを投与した。
図11図11(A)はmEpCAM/B16F10を移植したマウスにおける、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の抗腫瘍効果を評価した結果を示す。図11(B)はB16F10を移植したマウスにおける、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の抗腫瘍効果を評価した結果を示す。それぞれの図において縦軸は腫瘍体積(mm)、横軸は投与日を0日とする日数を示す。ネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。21.4.1は1mg/kg、その他の抗体は10mg/kgを投与した。
図12図12(A)はヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の構造を表す。図12(B)はFab型バイスペシフィック抗体断片の構造を表す。図12(C)はF(ab’)型バイスペシフィック抗体を表す。
図13図13は、ヒトEpCAM/Expi293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。横軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。
図14図14は、Expi293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるCD40シグナル誘導活性を示す。横軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を1μg/mL添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。
図15図15(A)は、ヒトEpCAM/Expi293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片によるCD40シグナル誘導活性を示す。図15(B)は、Expi293細胞と共培養したRamos細胞に対する、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片によるCD40シグナル誘導活性を示す。それぞれの図において、横軸は抗体濃度を示す。また縦軸は蛍光強度を示し、それぞれの抗体を添加したときの、抗CD95抗体のRamos細胞に対する結合性を表す。比較対象にはネガティブコントロール抗体として抗DNP抗体、抗CD40アゴニスト抗体として21.4.1を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpCAMに結合する抗原結合ドメインを含むバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片(以下、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片と記載する)に関する。
【0028】
本発明におけるCD40は、TNF receptor superfamily member 5(TNFRSF5)、Bp50、CDW40、MGC9013およびp50と同義として使用される。CD40としては例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてGenBank accession No.NP_001241または配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むヒトCD40、およびGenBank accession No.XP_005569274または配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むサルCD40などが挙げられる。また、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_001241またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0029】
配列番号6、GenBank accession No.NP_001241 またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列と通常70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドも本発明のCD40に包含される。
【0030】
配列番号6、GenBank accession No.NP_001241またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487 (1982)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proceeding of the National Academy of Sciences in USA, 82, 488 (1985)]などを用いて、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_001241またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0031】
CD40をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示されるヒトCD40の塩基配列、および配列番号7またはGenBank accession No.XM_011766922に示されるサルCD40の塩基配列などが挙げられる。また、例えば配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有する塩基配列、より好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、並びに配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつCD40の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のCD40をコードする遺伝子に包含される。
【0032】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、例えば配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示される塩基配列を有するDNAをプローブに用いた、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法、またはDNAマイクロアレイ法などにより得られるハイブリダイズ可能なDNAを意味する。具体的には、ハイブリダイズしたコロニー若しくはプラーク由来のDNA、または該配列を有するPCR産物若しくはオリゴDNAを固定化したフィルターまたはスライドガラスを用いて、0.7~1.0mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃にてハイブリダイゼーション[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)、DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University (1995)]を行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルターまたはスライドグラスを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。ハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば、配列番号5またはGenBank accession No.NM_001250に示される塩基配列と好ましくは60%以上の相同性を有するDNA、より好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0033】
真核生物のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列には、しばしば遺伝子の多型が認められる。本発明において用いられる遺伝子内に、このような多型によって塩基配列に小規模な変異を生じた遺伝子も、本発明のCD40をコードする遺伝子に包含される。
【0034】
本発明における相同性の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、塩基配列については、BLAST[J. Mol. Biol., 215, 403 (1990)]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値など、アミノ酸配列については、BLAST2[Nucleic Acids Research,25, 3389 (1997)、Genome Research, 7, 649 (1997)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/information3.html]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値などが挙げられる。
【0035】
デフォルトのパラメータとしては、G(Cost to open gap)が塩基配列の場合は5、アミノ酸配列の場合は11、-E(Cost to extend gap)が塩基配列の場合は2、アミノ酸配列の場合は1、-q(Penalty for nucleotide mismatch)が-3、-r(reward for nucleotide match)が1、-e(expect value)が10、-W(wordsize)が塩基配列の場合は11残基、アミノ酸配列の場合は3残基、-y[Dropoff(X)for blast extensions in bits]がblastn の場合は20、blastn以外のプログラムでは7、-X(X dropoff value for gapped alignment in bits)が15および-Z(final X dropoff value for gapped alignment in bits)がblastnの場合は50、blastn以外のプログラムでは25である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/html/blastcgihelp.html)。
【0036】
CD40のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製することができ、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_001241またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列をコードするDNAの一部を欠失させ、これを含む発現ベクターを導入した形質転換体を培養することにより作製することができる。また、上記の方法で作製されるポリペプチドまたはDNAに基づいて、上記と同様の方法により、例えば、配列番号6、GenBank accession No.NP_001241またはGenBank accession No.XP_005569274に示されるアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることができる。さらに、CD40のアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド、またはCD40のアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法、t-ブチルオキシカルボニル(tBoc)法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0037】
本発明におけるCD40の細胞外領域としては、例えば、GenBank accession No.NP_001241に示されるヒトCD40のアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号6またはGenBank accession No.NP_001241の21番目~194番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0038】
CD40の機能としては、CD40リガンドやアゴニストが結合したときにCD40シグナルを誘導し、種々の作用を引き起こすことが挙げられる。例えばがん細胞にCD40シグナルが誘導されると、該がん細胞の細胞死や増殖阻害などを引き起こす。Bリンパ球にCD40シグナルが誘導されると、例えば該Bリンパ球の活性化、CD95の発現促進、クラススイッチ組換えおよびsomatic hypermutationなどを惹起し、抗原高親和性抗体産生などを誘導する。樹状細胞にCD40シグナルが誘導されると、例えば該樹状細胞の成熟化やIL-12産生を引き起こす。マクロファージにCD40シグナルが誘導されると、例えばM2マクロファージの表面マーカーの減少とM1マクロファージの表面マーカーの発現の誘導やpro-inflammatoryサイトカイン産生を引き起こす。
【0039】
本発明におけるEpCAMは、CD326、GA733-2、HEA125、KS1/4、MK-1、MH99、MOC31、323/A3、17-1A、CO-17A、ESA、EGP-2、EGP34、EGP40、KSA、KS1/4、TROP-1およびTACST-1と同義として用いられる。
【0040】
EpCAMとしては、例えば、Genbank Accession No.AAH14785若しくは配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むヒトEpCAM;Genbank Accession No.NP_001035118若しくは配列番号18に示されるアミノ酸配列を含むサルEpCAM;またはGenbank Accession No.NP_032558 若しくは配列番号20に示されるアミノ酸配列を含むマウスEpCAMなどが挙げられる。また、例えば、配列番号16、AAH14785、Genbank accession No.NP_001035118またはGenbank accession No.NP_032558に示されるアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつEpCAMの機能を有するポリペプチドが挙げられる。
【0041】
配列番号16、AAH14785、Genbank accession No.NP_001035118またはGenbank accession No.NP_032558に示されるアミノ酸配列と好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、最も好ましくは95%、96%、97%、98%および99%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつEpCAMの機能を有するポリペプチドも本発明のEpCAMに包含される。
【0042】
配列番号16、AAH14785、Genbank accession No.NP_001035118またはGenbank accession No.NP_032558に示されるアミノ酸配列に示されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸残基が欠失、置換、または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、前述の部位特異的変異導入法などを用いて、例えば配列番号16、AAH14785、Genbank accession No.NP_001035118またはGenbank accession No.NP_032558に示されるアミノ酸配列をコードするDNAに、部位特異的変異を導入することにより得ることができる。欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0043】
本発明におけるEpCAMをコードする遺伝子としては、例えば、Genbank accession No.NM_002354若しくは配列番号15に示される塩基配列を含むヒトEpCAMの遺伝子;Genbank accession No.XM_015433685若しくは配列番号17に示される塩基配列を含むサルEpCAMの遺伝子;またはGenbank accession No.NM_008532若しくは配列番号19に示される塩基配列を含むマウスEpCAMの遺伝子が挙げられる。
【0044】
また、例えば、配列番号15、Genbank accession No.NM_002354、Genbank accession No.XM_015433685またはGenbank accession No.NM_008532に示される塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなり、かつEpCAMの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、配列番号15、Genbank accession No.NM_002354、Genbank accession No.XM_015433685またはGenbank accession No.NM_008532に示される塩基配列に示される塩基配列と60%以上の相同性を有する塩基配列、好ましくは80%以上の相同性を有する塩基配列、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつEpCAMの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子、及び配列番号15、Genbank accession No.NM_002354、Genbank accession No.XM_015433685またはGen accession No.NM_008532に示される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつEpCAMの機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のEpCAMをコードする遺伝子に含まれる。
【0045】
本発明におけるEpCAMの細胞外領域としては、例えば、GenBank accession No.AAH14785に示されるヒトEpCAMのアミノ酸配列を公知の膜貫通領域予測プログラムSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0.html)、TMHMM ver.2(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)またはExPASy Proteomics Server(http://Ca.expasy.org/)などを用いて予測された領域などが挙げられる。具体的には、配列番号10またはGenBank accession No.AAH14785の22番目~265番目に示されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0046】
EpCAMの機能としては、例えばカルシウム非依存的な細胞と細胞の接着および、がん細胞におけるC-MycやCyclin A/Eなどのアップレギュレーションを介した増殖促進などが挙げられる。
【0047】
抗体とは、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域および重鎖の定常領域、並びに軽鎖の可変領域および軽鎖の定常領域の全部または一部をコードする遺伝子(「抗体遺伝子」と称する)に由来するタンパク質である。本発明の抗体は、いずれのイムノグロブリンクラスおよびサブクラスを有する抗体または抗体断片をも包含する。
【0048】
重鎖(H鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が大きい方のポリペプチドを指す。重鎖は抗体のクラスとサブクラスを決定する。IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMは、それぞれα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖を重鎖として有し、重鎖の定常領域は異なるアミノ酸配列で特徴付けられる。軽鎖(L鎖)とは、イムノグロブリン分子を構成する2種類のポリペプチドのうち、分子量が小さい方のポリペプチドを指す。ヒトの抗体の場合、軽鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類が存在する。
【0049】
可変領域(V領域)とは、通常は、イムノグロブリンのN末端側のアミノ酸配列内に存在する多様性に富んだ領域を指す。可変領域以外の部分は多様性の少ない構造をとることから、定常領域(C領域)と呼ばれる。重鎖と軽鎖の各可変領域は会合して抗原結合部位を形成し、抗原への抗体の結合特性を決定する。
【0050】
ヒトの抗体の重鎖では、可変領域はKabatらのEUインデックス(Kabat et. al., Sequences of proteins of immunological interest, 1991 Fifth edition)における1番目から117番目までのアミノ酸配列に該当し、定常領域は118番目以降のアミノ酸配列に該当する。ヒトの抗体の軽鎖ではKabatらによる番号付け(Kabat numbering)における1番目から107番目までのアミノ酸配列が可変領域に該当し、108番目以降のアミノ酸配列が定常領域に該当する。以下、重鎖可変領域または軽鎖可変領域を、VHまたはVLと略記する。
【0051】
抗原結合部位は、抗体において抗原を認識し結合する部位であり、抗原決定基(エピトープ)と相補的な立体構造を形成する部位を指す。抗原結合部位は、抗原決定基との間に強い分子間相互作用を生じる。抗原結合部位は、少なくとも3つの相補性決定領域(CDR)を含むVHおよびVLにより構成される。ヒトの抗体の場合、VHおよびVLはそれぞれ3つのCDRを有する。これらのCDRを、それぞれN末端側から順番にCDR1、CDR2およびCDR3と称する。
【0052】
定常領域のうち、重鎖定常領域または軽鎖定常領域は、それぞれCHまたはCLと表記される。CHは、重鎖のサブクラスであるα鎖、δ鎖、ε鎖、γ鎖およびμ鎖によって分類される。CHは、N末端側より順に整列したCH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメインから構成され、CH2ドメインとCH3ドメインとを併せてFc領域という。一方、CLは、Cλ鎖およびCκ鎖とよばれる2つのサブクラスに分類される。
【0053】
本発明において、抗CD40抗体とは、CD40の細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。また、本発明において、抗EpCAM抗体とは、EpCAMの細胞外領域を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体をいう。また、本発明において抗体とは、ポリクローナル抗体およびオリゴクローナル抗体をも包含する。
【0054】
本発明において、抗体または該抗体断片がCD40およびEpCAMの少なくとも一方に結合することは、例えば、公知の免疫学的検出法、好ましくは蛍光細胞染色法等を用いて、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現した細胞と抗体との結合性を確認する方法により確認することができる。また、公知の免疫学的検出法[Monoclonal Antibodies - Principles and Practice, Third Edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを組み合わせて用いることもできる。
【0055】
モノクローナル抗体は、単一性(monoclonality)を保持した抗体産生細胞が分泌する抗体であり、単一のエピトープ(抗原決定基ともいう)を認識する。モノクローナル抗体分子同士は同一のアミノ酸配列(1次構造)を有し、単一の構造をとる。ポリクローナル抗体とは、異なるクローンの抗体産生細胞が分泌する抗体分子の集団をいう。オリゴクローナル抗体とは、複数の異なるモノクローナル抗体を混合した抗体分子の集団をいう。
【0056】
エピトープは、抗体が認識し、結合する抗原の構造部位をいう。エピトープとしては、例えば、モノクローナル抗体が認識し、結合する単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列からなる立体構造、糖鎖が結合したアミノ酸配列および糖鎖が結合したアミノ酸配列からなる立体構造などが挙げられる。
【0057】
本発明におけるモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより産生される抗体、および抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により産生される遺伝子組換え抗体を挙げることができる。
【0058】
ハイブリドーマは、例えば、抗原を調製し、該抗原を免疫した動物より抗原特異性を有する抗体産生細胞を取得し、さらに、該抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させることによって、調製することができる。該ハイブリドーマを培養するか、または該ハイブリドーマを動物に投与して該ハイブリドーマを腹水癌化させ、該培養液または腹水を分離、精製することにより、所望のモノクローナル抗体を取得することができる。抗原を免疫する動物としては、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができるが、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなどが好適に用いられる。また、このような被免疫動物から抗体産生能を有する細胞を取得し、該細胞にin vitroで免疫を施した後に、骨髄腫細胞と融合して、ハイブリドーマを作製することもできる。
【0059】
本発明における遺伝子組換え抗体としては、例えば、組換えマウス抗体、組換えラット抗体、組換えハムスター抗体、組換えラビット抗体、ヒト型キメラ抗体(キメラ抗体ともいう)、ヒト化抗体(CDR移植抗体ともいう)およびヒト抗体などの、遺伝子組換え技術により製造される抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体においては、対象とする動物種や目的に応じて、どの動物種由来の重鎖および軽鎖の可変領域並びに定常領域を適用するかを決定することができる。例えば、対象とする動物種がヒトの場合には、可変領域をヒトまたはマウスなどの非ヒト動物由来とし、定常領域およびリンカーをヒト由来とすることができる。
【0060】
キメラ抗体とは、ヒト以外の動物(非ヒト動物)の抗体のVHおよびVLと、ヒト抗体のCHおよびCLとからなる抗体を指す。非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターおよびラビットなど、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができる。キメラ抗体は、モノクローナル抗体を生産する非ヒト動物由来のハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してキメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0061】
ヒト化抗体とは、非ヒト動物抗体のVHおよびVLのCDRをヒト抗体のVHおよびVLの対応するCDRに移植した抗体を指す。VHおよびVLのCDR以外の領域はフレームワーク領域(以下、FRと表記する)と称される。ヒト化抗体は、非ヒト動物抗体のVHのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVHのFRのアミノ酸配列からなるVHのアミノ酸配列をコードするcDNAと、非ヒト動物抗体のVLのCDRのアミノ酸配列と任意のヒト抗体のVLのFRのアミノ酸配列からなるVLのアミノ酸配列をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAを有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入して発現させることによって、製造することができる。
【0062】
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。
【0063】
ヒト体内に天然に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球にEBウイルスなどを感染させて不死化し、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養し、該培養上清より該抗体を精製することにより取得することができる。
【0064】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することにより、Fab、scFvなど抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として、所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖および2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へ変換することができる。
【0065】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組み込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、個体を発生させることにより、ヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物由来のヒト抗体は、通常の非ヒト動物で行われているハイブリドーマ作製法を用いてハイブリドーマを取得し、培養することで、培養上清中に抗体を産生、蓄積させることにより調製できる。
【0066】
遺伝子組換え抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいかなるものでもよいが、human immunoglobulin G(hIgG)クラスのものが好ましい。さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3およびhIgG4といったサブクラスのいずれも用いることができる。また、遺伝子組換え抗体のCLとしては、ヒトイムノグロブリンに属すればいずれのものでもよく、κクラスまたはλクラスのものを用いることができる。
【0067】
本発明において、バイスぺシフィック抗体とは、特異性が異なる2種類の抗原結合ドメインを有し、イムノグロブリンを構成する重鎖の可変領域および重鎖の定常領域、並びに軽鎖の可変領域および軽鎖の定常領域の全部または一部を含むタンパク質をいう。バイスぺシフィック抗体のそれぞれの抗原結合ドメインは、単一の抗原の異なるエピトープに結合してもよいし、異なる抗原に結合してもよい。
【0068】
本発明において、CD40またはEpCAMに結合する抗原結合ドメインは、CD40またはEpCAMを特異的に認識し、結合するものであればいかなるものでもよい。例えば、抗体、リガンド、受容体、および天然に存在する相互作用分子など遺伝子組換え技術によって作製可能なポリペプチド、タンパク質分子およびその断片、並びに該タンパク質分子の低分子または天然物とのコンジュゲート体などいずれの形態であってもよい。
【0069】
また、抗原結合ドメインとしては、抗体、リガンドおよび受容体など既知の結合分子の結合ドメインを利用して組換えた結合タンパク質でもよく、具体的には各抗原に結合する抗体のCDRを含む組換えタンパク質、CDRを含む抗体可変領域、抗体可変領領域および各抗原に結合するリガンドの結合ドメインを含む組換えタンパク質などが挙げられる。なかでも、本発明においては、抗原結合ドメインは抗体の可変領域であることが好ましい。
【0070】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、同一細胞上に発現しているCD40およびEpCAMに結合してもよいし、異なる細胞上に発現しているCD40およびEpCAMに結合してもよい。
【0071】
CD40を発現する細胞は例えば、B細胞、樹状細胞(DC)、マクロファージおよび単球などの抗原提示細胞や、Ramos細胞などのがん細胞などが挙げられる。
【0072】
EpCAMを発現する細胞は例えば、頭頸部癌、肺癌、消化器癌、乳癌、泌尿器癌などのがん細胞が挙げられる。
【0073】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、例えばCD40アゴニスト活性を有するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が挙げられる。本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片としては、EpCAM分子またはEpCAMを発現する細胞の非存在下ではCD40アゴニスト活性を示さず、EpCAM分子またはEpCAMを発現する細胞の存在下でのみCD40アゴニスト活性を示すバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が好ましい。このようなバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、EpCAMを発現する細胞が存在する、がんなどの病変部でのみCD40を活性化するため、全身的なCD40の活性化に伴う副作用を生じない点で好ましい。
【0074】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が有するCD40アゴニスト活性は、細胞上のCD40にバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片が結合することにより、該CD40を介したシグナルを惹起し、抗原提示細胞の活性化を誘導する活性、腫瘍細胞の細胞死を誘導する活性などをいう。
【0075】
CD40アゴニスト活性は、例えばRamos細胞などのCD40を発現する細胞上のCD95発現量増加を評価することにより確認することができる。
【0076】
すなわち、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片として、具体的には、EpCAMを発現する細胞の存在下で、EpCAMとCD40に結合したときに、CD40を発現する抗原提示細胞の活性化および/または腫瘍細胞の細胞死を誘導するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片などが挙げられる。
本発明において、CD40アンタゴニスト活性は、CD40リガンドまたはCD40アゴニストによるCD40の活性化を阻害する活性などをいう。例えばCD40リガンドまたはCD40アゴニストのCD40への結合によるシグナル誘導を阻害する活性などをいう。
抗体のCD40アンタゴニスト活性は、例えばCD40リガンドによる、Ramos細胞などのCD40を発現する細胞へのCD95発現誘導が、抗体の添加により阻害されることにより確認することができる。
【0077】
一分子のバイスペシフィック抗体が有する、ある抗原に対する結合ドメインの数を、結合の価数と呼ぶ。例えば、本発明において、一分子のバイスペシフィック抗体が、CD40に結合する抗原結合ドメインおよびEpCAMに結合する抗原結合ドメインを二つずつ有する場合、かかるバイスペシフィック抗体は、CD40およびEpCAMに、それぞれ二価で結合する。
【0078】
本発明において、一分子あたりのバイスペシフィック抗体が、CD40またはEpCAMに何価で結合してもよいが、CD40およびEpCAMに、少なくともそれぞれ二価で結合することが好ましい。
【0079】
また、イムノグロブリンドメインまたはその断片を含むリンカーなど、適切なリンカーを介して結合させた複数の抗原結合ドメインを含む抗体も本発明のバイスぺシフィック抗体に含まれる。
【0080】
本発明のバイスペシフィック抗体において、CD40に結合する抗原結合ドメインとEpCAMに結合する抗原結合ドメインの位置は適宜選択することができる。
【0081】
本発明のバイスぺシフィック抗体は、既存の作製技術([Nature Protocols, 9, 2450-2463 (2014)]、国際公開第1998/050431号、国際公開第2001/7734号、国際公開第2002/002773号および国際公開第2009/131239号)などにより作製することができる。
【0082】
本発明のバイスペシフィック抗体において、CD40に結合する抗原結合ドメインは、EpCAMに結合する抗原結合ドメインよりもN末端側に位置していてもよいし、C末端側に位置していてもよい。
【0083】
本発明のバイスペシフィック抗体としては、抗原結合ドメインとして抗体のV領域を用いることができ、例えば、一つの重鎖に複数のVHを含む重鎖を含む抗体、および一つのVHを含む重鎖を二つ含む抗体などが挙げられる。以下では一つの重鎖に複数のVHを含む重鎖を含む抗体のN末端から1番目のVHをVH1、2番目のVHをVH2、n番目のVHをVHnのように表すこともある。一つの重鎖に2つのVHを含む重鎖を含む抗体の場合、N末端側から1番目に位置するVHはVH1、2番目に位置するVHはVH2と表される。
【0084】
一つの重鎖に複数のVHを含む重鎖を含むバイスぺシフィック抗体として、より具体的には、イムノグロブリンドメインまたはその断片を含むリンカーを用いて結合させた2つ以上のVHを含む重鎖を含む抗体が挙げられる。
【0085】
3つ以上のVHを結合させる場合には、リンカーとして、異なるイムノグロブリンドメインまたはその断片を用いてもよいし、同じイムノグロブリンドメインまたはその断片を用いてもよい。また、2つ以上のVHを連結させる場合には、各VHが特異的に抗原に結合できるようにイムノグロブリンドメインまたはその断片の長さや種類を変えることができる。
【0086】
本発明のバイスぺシフィック抗体は、具体的には、下記(a)~(e)に示される少なくとも1の特徴を有する。
(a)1つの重鎖ポリペプチドに複数(例えば2~5個)の異なるVHを含み、VHは互いに近接していないこと、
(b)VHが10アミノ酸以上のポリペプチドリンカーを介してタンデム(縦列)に連結されていること、より具体的には、VHが、例えばイムノグロブリンドメインの全部または一部のアミノ酸配列を含むリンカーを用いて連結されていること、
(c)軽鎖と重鎖とが会合し、抗原結合部位を形成していること、
(d)図1(A)または図1(B)に示されるように2本の重鎖ポリペプチドと少なくとも4本の軽鎖ポリペプチドとからなる構造を有し、かつ2本の重鎖ポリペプチド間はヒンジ領域でジスルフィド結合により連結され、軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドとの間もジスルフィド結合で連結されていること、および
(e)重鎖の定常領域は、例えば天然型抗体重鎖の定常領域の全部または一部(例えば、CH1断片、CH1、CH2、CH3、CH1-ヒンジ、CH1-ヒンジ-CH2およびCH1-ヒンジ-CH2-CH3など)からなること。
【0087】
本発明において、バイスペシフィック抗体に含まれる、抗CD40抗体のVH(抗CD40抗体由来のVHを意味する)と抗EpCAM抗体のVH(抗EpCAM抗体由来のVHを意味する)の位置は、適宜選択することができる。例えば、図1(A)または図1(B)に示される構造のバイスペシフィック抗体については、抗CD40抗体のVHは、抗EpCAM抗体のVHよりもN末端側に位置していてもよいし、C末端側に位置していてもよいが、N末端側に位置していることが好ましい。
【0088】
本発明において、バイスぺシフィック抗体に含まれるVLは、同一のVLであっても、異なるVLであってもいずれでもよい。同一のVLを有するバイスペシフィック抗体であって、かつ二つの異なる抗原または同一抗原上の異なる二つのエピトープに結合することができるバイスぺシフィック抗体のVHは、各可変領域がそれぞれの特異的な抗原またはエピトープに結合できるように、最適化または改変されたVHであればよく、例えば、アミノ酸改変によるスクリーニング、またはファージディプレイなどの方法を用いて適切なVHを選択することができる。
【0089】
本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるVLは抗CD40抗体または抗EpCAM抗体のVLであればどのようなものでもよいが、それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLおよび配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLが好ましい。
【0090】
本発明において、リンカーとは、複数の抗原結合ドメインを結合させる化学構造を指し、好ましくはポリペプチドである。本発明のバイスぺシフィック抗体に用いられるリンカーとしては、例えば、イムノグロブリンドメインの全部または一部のアミノ酸配列を含むリンカー、および複数のイムノグロブリンドメインからなるポリペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含むリンカーなどが挙げられる。
【0091】
本発明において、C末端側ポリペプチドとは複数の抗原結合ドメインのうち最もC末端側の抗原結合ドメインのC末端に結合するポリペプチド鎖を指す。本発明のバイスぺシフィック抗体はC末端側ポリペプチドを有していても有していなくてもよいが、C末端側ポリペプチドを有しているバイスペシフィック抗体が好ましい。C末端側ポリペプチドとして、例えば、イムノグロブリンドメインの全部または一部のアミノ酸配列を含むポリペプチド、および複数のイムノグロブリンドメインからなるポリペプチドの全部または一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドなどが挙げられる。
【0092】
イムノグロブリンドメインの一部のアミノ酸配列を含むリンカーまたはC末端側ポリペプチドとして、イムノグロブリンから選ばれるアミノ酸配列は、断続的でも連続的でもよいが、連続するアミノ酸配列が好ましい。また、該アミノ酸配列は、ヒンジ領域を含んでいてもよい。
【0093】
本発明において、イムノグロブリンドメインとは、イムノグロブリンに類似したアミノ酸配列を持ち、少なくとも2個のシステイン残基が存在する約100個のアミノ酸残基からなるペプチドを最小単位とする。本発明において、イムノグロブリンドメインは、上記の最小単位のイムノグロブリンドメインを複数含むポリペプチドをも包含する。イムノグロブリンドメインとしては、例えば、イムノグロブリン重鎖のVH、CH1、CH2およびCH3、並びにイムノグロブリン軽鎖のVLおよびCLなどが挙げられる。
【0094】
イムノグロブリンの動物種は特に限定されないが、ヒトであることが好ましい。また、イムノグロブリン重鎖の定常領域のサブクラスは、IgD、IgM、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2およびIgEのいずれでもよく、好ましくは、IgG由来およびIgM由来が挙げられる。また、イムノグロブリン軽鎖の定常領域のサブクラスは、κおよびλのいずれでもよい。
【0095】
また、イムノグロブリンドメインはイムノグロブリン以外のタンパク質にも存在し、例えば主要組織適合抗原(MHC)、CD1、B7およびT細胞受容体(TCR)などのイムノグロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質が含むイムノグロブリンドメインが挙げられる。本発明のバイスぺシフィック抗体に用いるイムノグロブリンドメインとしては、いずれのイムノグロブリンドメインも適用することができる。
【0096】
ヒトの抗体の場合、CH1は、EUインデックスで示される118番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。同様に、CH2はKabatらのEUインデックスで示される231番目から340番目のアミノ酸配列を有する領域を、CH3はKabatらのEUインデックスで示される341番目から446番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。CH1とCH2の間には、ヒンジ(蝶番)領域(以下ヒンジと記載することもある)と呼ばれる柔軟性に富んだアミノ酸領域が存在する。ヒンジ領域は、KabatらのEUインデックスで示される216番目から230番目のアミノ酸配列を有する領域を指す。
【0097】
CLは、ヒトの抗体のκ鎖の場合には、Kabat numberingで示される108番目から214番目のアミノ酸配列を有する領域を、λ鎖の場合には、108番目から215番目のアミノ酸配列を有する領域を各々指す。
【0098】
本発明のバイスぺシフィック抗体に用いられるリンカーおよびC末端側ポリペプチドとしては、N末端からC末端への方向に順に整列したCH1-ヒンジ-CH2-CH3からなるイムノグロブリンドメイン、CH1-ヒンジ-CH2からなるイムノグロブリンドメイン、CH1-ヒンジからなるイムノグロブリンドメイン、CH1からなるイムノグロブリンドメイン、CH1のN末端側の断片、14番目のアミノ酸残基がCysである14アミノ酸残基からなるCH1断片およびCH1のN末端から1~14番目のアミノ酸残基からなるCH1断片、並びにこれらイムノグロブリンドメイン断片のアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が改変されたものを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0099】
また、本発明において、リンカーおよびC末端側ポリペプチドの一例として、抗体のCH1、ヒンジ、CH2およびCH3からなるアミノ酸配列の、全部または一部の断片を適宜組み合わせて用いることができる。また、それらのアミノ酸配列を部分的に欠損、または順番を入れ替えて使用することもできる。また、リンカーおよびC末端側ポリペプチドに使用する抗体のサブクラスは特に限定されないが、IgMまたはIgG4もしくはIgG4の重鎖定常領域の228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をAsnに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PE R409Kと記載する)であることが好ましく、IgG4およびIgG4PE R409Kがより好ましい。
【0100】
本発明において、リンカーおよびC末端側ポリペプチドの例としては、配列番号75で表わされるIgG4のCH1の、N末端の1~14番目の14アミノ酸残基からなるポリペプチド、配列番号75で表わされるIgG4のCH1からなるポリペプチドならびに配列番号77で表されるIgG4PE R409KのCH(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるポリペプチドなどが挙げられ、配列番号75で表わされるIgG4のCH1からなるポリペプチドおよび配列番号77で表されるIgG4PE R409KのCHからなるポリペプチドがより好ましい。
【0101】
本発明のバイスペシフィック抗体に含まれるリンカーとC末端側ペプチドの組み合わせとしてはどのようなものでもよい。本発明のバイスペシフィック抗体として配列番号75で表わされるアミノ酸配列を含むIgG4のCH1からなるリンカーを含みかつ配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むIgG4PE R409KのCH(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるC末端側ペプチドを含むバイスペシフィック抗体、および配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むIgG4PE R409KのCHからなるリンカーを含みかつ配列番号75で表わされるアミノ酸配列を含むIgG4のCH1からなるC末端側ペプチドを含むバイスペシフィック抗体が好ましい。
【0102】
本発明のバイスペシフィック抗体のうち、図1(A)に示すように、N末端側から順に、VH1、CH1、VH2、CH1、ヒンジ、CH2およびCH3のアミノ酸配列を含む2本の重鎖ならびに4本の軽鎖からなる抗体をN末端型バイスペシフィック抗体と称する。また、図1(B)に示すように、N末端側から順にVH1、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、VH2およびCH1のアミノ酸配列を含む2本の重鎖ならびに4本の軽鎖からなる抗体をC末端型バイスペシフィック抗体と称する。
【0103】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を構成するアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が欠失、付加、置換または挿入され、かつ上述のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片と同様な活性を有するバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片も、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に包含される。
【0104】
欠失、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、Molecular Cloning, The Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Willy & Sons(1987-1997)、Nucleic Acids Research, 10, 6487(1982)、Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 79, 6409(1982)、Gene, 34, 315 (1985)、Nucleic Acids Research, 13, 4431(1985)、Proc. Natl. Acad. Sci USA, 82, 488(1985)などに記載の部位特異的変異導入法等の周知の技術により、欠失、置換、挿入若しくは付加できる程度の数である。例えば、通常1~数十個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個である。
【0105】
上記の本発明のバイスペシフィック抗体のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入または付加されたとは、次のことを示す。同一配列中の任意、かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中において、1または複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入または付加があることを意味する。また、欠失、置換、挿入または付加が同時に生じる場合もあり、置換、挿入または付加されるアミノ酸残基は天然型と非天然型いずれの場合もある。
【0106】
天然型アミノ酸残基としては、例えば、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリンおよびL-システインなどが挙げられる。
【0107】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の好ましい例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
【0108】
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0109】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、翻訳後修飾されたいかなるアミノ酸残基を含む抗体をも包含する。翻訳後修飾としては、例えば、H鎖のC末端におけるリジン残基の欠失[リジン・クリッピング(lysine clipping)]およびポリペプチドのN末端におけるグルタミン残基のピログルタミン(pyroGlu)への置換などが挙げられる[Beck et al, Analytical Chemistry, 85, 715-736(2013)]。
【0110】
本発明のバイスぺシフィック抗体として具体的には、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる、いずれか一つのバイスペシフィック抗体などが挙げられる。
(1)抗CD40抗体のV領域(抗CD40抗体由来のV領域を意味する)および抗EpCAM抗体のV領域(抗EpCAM抗体由来のV領域を意味する)を含むバイスペシフィック抗体、
(2)抗CD40抗体のVHのCDR1~3およびVLのCDR1~3、並びに抗EpCAM抗体のVHのCDR1~3およびVLのCDR1~3を含むバイスペシフィック抗体、並びに
(3)抗CD40抗体のVHおよびVL、並びに抗EpCAM抗体のVHおよびVLを含むバイスペシフィック抗体。
【0111】
上記(2)に記載のバイスペシフィック抗体は、抗CD40抗体のVLのCDR1~3と抗EpCAM抗体のVLのCDR1~3とがそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0112】
また、上記(3)に記載のバイスペシフィック抗体は、抗CD40抗体のVLと抗EpCAM抗体のVLとが同一であってもよいし、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0113】
本発明の抗CD40抗体は、CD40アゴニスト活性を有していても有していなくてもよいが、CD40アゴニスト活性を有していない抗CD40抗体が好ましい。また、本発明のCD40抗体は、CD40アンタゴニスト活性を有していても有していなくてもよいが、CD40アンタゴニスト活性を有していない抗CD40抗体が好ましい。
【0114】
本発明の抗CD40抗体の一例として、それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに以下の(1a)~(1d)から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗CD40抗体が挙げられる。
(1a)それぞれ配列番号28、29および30で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(1b)それぞれ配列番号33、34および35で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(1c)それぞれ配列番号38、39および40で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、および
(1d)それぞれ配列番号43、44および45で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH。
【0115】
本発明の抗CD40抗体は、上記(1a)~(1d)のいずれか1つに示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号23~25で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含む抗CD40抗体をも包含する。
【0116】
本発明の抗CD40抗体は、下記(i)または(ii)に記載される抗体をも包含する。
(i)それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(1a)~(1d)のいずれか1つに示されるVHを含む抗CD40抗体と、競合してCD40に結合する抗体。
(ii)それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(1a)~(1d)のいずれか1つに示されるVHを含む抗CD40抗体と同じエピトープに結合する抗体。
【0117】
本発明の抗CD40抗体の他の一例として、配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号27、32、37または42で示されるアミノ酸配列を含むVHを含む抗CD40抗体が挙げられる。
【0118】
本発明の抗EpCAM抗体の一例として、それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに以下の(2a)~(2d)から選ばれるいずれか1つのVHを含む抗EpCAM抗体が挙げられる。
(2a)それぞれ配列番号52、53および54で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(2b)それぞれ配列番号57、58および59で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(2c)それぞれ配列番号62、63および64で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH、
(2d)それぞれ配列番号67、68および69で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVH。
【0119】
本発明の抗EpCAM抗体は、上記(2a)~(2d)のいずれか1つに示されるVHのCDR1~3のアミノ酸配列およびそれぞれ配列番号23~25で示されるVLのCDR1~3のアミノ酸配列と、それぞれ少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である、VHおよびVLのCDR1~3のアミノ酸配列を含む抗EpCAM抗体をも包含する。
【0120】
本発明の抗EpCAM抗体は、下記(i)または(ii)に記載される抗体をも包含する。
(i)それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(2a)~(2d)のいずれか1つに示されるVHを含む抗EpCAM抗体と、競合してEpCAMに結合する抗体。
(ii)それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに上記(2a)~(2d)のいずれか1つに示されるVHを含む抗EpCAM抗体と同じエピトープに結合する抗体。
【0121】
本発明の抗EpCAM抗体の他の例として、配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび配列番号51、56、61または66で示されるアミノ酸配列を含むVHを含むバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0122】
本発明のバイスペシフィック抗体としてより具体的には、それぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLならびに以下の(i)または(ii)で表されるVH1およびVH2を含むバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、CD40に結合するVH1、
ならびに配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、EpCAMに結合するVH2。
(ii)配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、EpCAMに結合するVH1、
ならびに配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、CD40に結合するVH2。
【0123】
本発明のバイスペシフィック抗体の別の具体的な例として、配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLおよび以下の(i)または(ii)で表されるVH1およびVH2を含むバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)配列番号27、32、37または42で示されるアミノ酸配列を含む、CD40に結合するVH1、
および配列番号51、56、61または66で示されるアミノ酸配列を含む、EpCAMに結合するVH2。
(ii)配列番号51、56、61または66で示されるアミノ酸配列を含む、EpCAMに結合するVH1、
および配列番号27、32、37または42で示されるアミノ酸配列を含む、CD40に結合するVH2。
【0124】
本発明の一態様として、N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式{式中、VH1は第一の抗体のVH(第一の抗体由来のVHを意味する)を表し、VH2は第二の抗体のVH(第2の抗体由来のVHを意味する)を表し、XおよびYはそれぞれポリペプチド(ここでXおよびYの少なくとも一方はさらに抗体のヒンジ領域を含む)を表す;以下式(I)と記載する}で表されるポリペプチドからなる重鎖を含み、該第一の抗体および第二の抗体のいずれか一方は抗CD40抗体であり、もう一方は抗EpCAM抗体であるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
【0125】
前記式(I)におけるXおよびYとして、例えば、それぞれ抗体のCH1、CH2、CH3およびヒンジのいずれか1を含むポリペプチド(ここでXおよびYの少なくとも一方はさらに抗体のヒンジ領域を含む)が挙げられる。
【0126】
本発明の一態様として、前記式(I)におけるXおよびYのいずれか一方がCH1であり、もう一方がCH1、CH2、CH3およびヒンジを含むポリペプチドが挙げられる。具体的には、例えば、XはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含むポリペプチドであり、かつYはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1を含むポリペプチド;XはヒトIgG4の定常領域において228番目がPro、235番目がGluおよび409番目がLysである定常領域を含むポリペプチドであり、かつYはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1を含むポリペプチド;XはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1を含むポリペプチドであり、かつYはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1、ヒンジ、CH2及びCH3を含むポリペプチド;XはヒトIgG4またはヒトIgG1のCH1を含むポリペプチドであり、かつYはヒトIgG4の定常領域において228番目がPro、235番目がGluおよび409番目がLysである定常領域を含むポリペプチド;Xは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチド;Xは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであり、Yは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0127】
本発明の一態様として、式(I)で表されるポリペプチドからなる2本の同一の重鎖を含むバイスペシフィック抗体がより好ましく、式(I)で表されるポリペプチドからなる2本の同一の重鎖および同一の4本の軽鎖または2種類の軽鎖を2本ずつ含むバイスペシフィック抗体がさらに好ましく、式(I)で表されるポリペプチドからなる2本の同一の重鎖および同一の4本の軽鎖を含むバイスペシフィック抗体が一層好ましい。
【0128】
前記の好ましい態様において同一の2本の重鎖はヒンジ領域のシステイン残基を介してジスルフィド結合し、重合体を形成することが好ましい。また、1本の重鎖はCH1のシステイン残基を介し、軽鎖の定常領域のシステイン残基とジスルフィド結合し、重合体を形成することが好ましい。したがって、本発明のバイスペシフィック抗体は2本の重鎖と4本の軽鎖が重合した、ヘテロヘキサマー構造を有することが好ましい。
【0129】
本発明の好ましい一態様として、式(I){N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式{式中、VH1は第一の抗体のVHを表し、VH2は第二の抗体のVHを表し、Xは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表し、Yは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表す}で表されるポリペプチドからなる2本の重鎖ならびにそれぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLを含む4本の軽鎖を含むバイスペシフィック抗体であって、該VH1およびVH2が下記の(i)または(ii)に示されるVHであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)VH1が、配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトCD40抗体のVHであり、
VH2が、配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトEpCAM抗体のVHである。
(ii)VH1が、配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、
VH2が、配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトCD40抗体のVHである。
【0130】
ここで、軽鎖はλ鎖であってもκ鎖であってもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0131】
またここで、VH1がそれぞれ配列番号33、34および35で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、VH2がそれぞれ配列番号57、58および59で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである、バイスペシフィック抗体の一例として、R1090S55A-Ep203が挙げられる。
【0132】
本発明のさらに好ましい一態様として、式(I){N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式{式中、VH1は第一の抗体のVHを表し、VH2は第二の抗体のVHを表し、Xは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表し、Yは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表す}で表されるポリペプチドからなる2本の重鎖および配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLを含む4本の軽鎖を含むバイスペシフィック抗体であって、該VH1およびVH2が下記の(i)または(ii)に示されるVHであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)VH1が配列番号27、32、37または42で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、
VH2が配列番号51、56、61または66で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである。
(ii)VH1が配列番号51、56、61または66で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、
VH2が配列番号27、32、37または42で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHである。
【0133】
ここで、軽鎖はλ鎖であってもκ鎖であってもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0134】
またここで、VH1が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、VH2が配列番号56で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである、バイスペシフィック抗体の一例として、R1090S55A-Ep203が挙げられる。
【0135】
本発明の好ましい一態様として、式(I){N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式{式中、VH1は第一の抗体のVHを表し、VH2は第二の抗体のVHを表し、Xは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表し、Yは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表す}で表されるポリペプチドからなる2本の重鎖ならびにそれぞれ配列番号23、24および25で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含むVLを含む4本の軽鎖を含むバイスペシフィック抗体であって、該VH1およびVH2が下記の(i)または(ii)に示されるVHであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)VH1が、配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトCD40抗体のVHであり、
VH2が、配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトEpCAM抗体のVHである。
(ii)VH1が、配列番号52、53および54;配列番号57、58および59;配列番号62、63および64;または配列番号67、68および69でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、
VH2が、配列番号28、29および30;配列番号33、34および35;配列番号38、39および40;または配列番号43、44および45でそれぞれ示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む、抗ヒトCD40抗体のVHである。
【0136】
ここで、軽鎖はλ鎖であってもκ鎖であってもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0137】
またここで、VH1がそれぞれ配列番号33、34および35で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、VH2がそれぞれ配列番号57、58および59で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである、バイスペシフィック抗体の一例として、Ct R1090S55A-Ep203が挙げられる。
【0138】
また、VH1がそれぞれ配列番号67、68および69で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、VH2がそれぞれ配列番号28、29および30で示されるアミノ酸配列を含むCDR1、2および3を含む抗ヒトCD40抗体のVHであるバイスペシフィック抗体の一例として、Ct Epc112-R1066が挙げられる。
【0139】
本発明のさらに好ましい一態様として、式(I){N末端から順にVH1-X-VH2-Yの式{式中、VH1は第一の抗体のVHを表し、VH2は第二の抗体のVHを表し、Xは配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表し、Yは配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを表す}で表されるポリペプチドからなる2本の重鎖および配列番号22で示されるアミノ酸配列を含むVLを含む4本の軽鎖を含むバイスペシフィック抗体であって、該VH1およびVH2が下記の(i)または(ii)に示されるVHであるバイスペシフィック抗体が挙げられる。
(i)VH1が配列番号27、32、37または42で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、
VH2が配列番号51、56、61または66で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである。
(ii)VH1が配列番号51、56、61または66で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、
VH2が配列番号27、32、37または42で表されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHである。
【0140】
ここで、軽鎖はλ鎖であってもκ鎖であってもよいが、κ鎖であることが好ましい。
【0141】
またここで、VH1が配列番号32で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHであり、VH2が配列番号56で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHである、バイスペシフィック抗体の一例として、Ct R1090S55A-Ep203が挙げられる。
【0142】
またVH1が配列番号66で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトEpCAM抗体のVHであり、VH2が配列番号27で示されるアミノ酸配列を含む抗ヒトCD40抗体のVHである、バイスペシフィック抗体の一例として、Ct Epc112-R1066が挙げられる。
【0143】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片には、エフェクター活性を有する抗体または該バイスペシフィック抗体断片も包含される。
【0144】
エフェクター活性とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる抗体依存性の細胞傷害活性を指し、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(Antibody-Dependent Cellular Cytotoxicity activity;ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(Complement-Dependent Cytotoxicity activity; CDC活性)、マクロファージや樹状細胞などの食細胞による抗体依存性貪食活性(Antibody-dependent cellular phagocytosis activity;ADCP活性)およびオプソニン効果などが挙げられる。
【0145】
本発明においてADCC活性およびCDC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]を用いて測定することができる。
【0146】
ADCC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が、抗体のFc領域を介して免疫細胞のFc受容体と結合することで免疫細胞(ナチュラルキラー細胞など)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。
【0147】
Fc受容体(FcR)は、抗体のFc領域に結合する受容体であり、抗体の結合によりさまざまなエフェクター活性を誘発する。各FcRは抗体のサブクラスに対応し、IgG、IgE、IgA、IgMはそれぞれFcγR、FcεR、FcαR、FcμRに特異的に結合する。さらにFcγRには、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII(CD16)のサブタイプが存在し、それぞれのサブタイプにはFcγRIA、FcγRIB、FcγRIC、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIAおよびFcγRIIIBのアイソフォームが存在する。これらの異なるFcγRは異なる細胞上に存在する[Annu. Rev. Immunol. 9:457-492(1991)]。ヒトにおいては、FcγRIIIBは好中球に特異的に発現しており、FcγRIIIAは単球、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージおよび一部のT細胞に発現する。FcγRIIIAへの抗体の結合を介して、NK細胞依存的なADCC活性が誘発される。
【0148】
CDC活性とは、標的細胞上の抗原に結合した抗体が血液中の補体関連タンパク質群からなる一連のカスケード(補体活性化経路)を活性化し、標的細胞を傷害する活性をいう。また、補体の活性化により生じるタンパク質断片により、免疫細胞の遊走および活性化が誘導される。CDC活性のカスケードは、まずC1qがFc領域に結合し、次に2つのセリンプロテアーゼであるC1rおよびC1sと結合することで、C1複合体を形成し開始される。
【0149】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は、公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により評価することができる。
【0150】
本発明のバイスぺシフィック抗体のエフェクター活性を制御する方法としては、抗体のFc領域(CH2およびCH3ドメインからなる定常領域)の297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN-結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα-1,6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号および国際公開第00/61739号)や、抗体のFc領域のアミノ酸残基の改変により制御する方法(国際公開第00/42072号)などが知られている。
【0151】
バイスぺシフィック抗体に付加するフコースの量を制御することで、抗体のADCC活性を増加または低下させることができる。例えば、抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損した宿主細胞を用いてバイスぺシフィック抗体を発現することで、高いADCCを有するバイスぺシフィック抗体を取得することができる。一方、バイスぺシフィック抗体のFcに結合しているN-結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法として、α1,6-フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、低いADCC活性を有するバイスぺシフィック抗体を取得することができる。
【0152】
また、バイスぺシフィック抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性やCDC活性を増加または低下させることができる。例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、バイスぺシフィック抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書または米国特許第7,317,091号明細書などに記載のアミノ酸改変を行うことで、ADCC活性またはCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
【0153】
さらに、上述の方法を組み合わせることにより、エフェクター活性が制御されたバイスぺシフィック抗体を取得してもよい。
【0154】
本発明のバイスぺシフィック抗体の安定性は、精製過程や一定条件下で保存されたサンプルにおいて形成される凝集体(オリゴマー)量を測定することによって評価することができる。すなわち、同一条件下で凝集体量が低減する場合を、抗体の安定性が向上したものと評価する。凝集体量は、ゲルろ過クロマトグラフィーを含む適当なクロマトグラフィーを用いて凝集した抗体と凝集していない抗体とを分離することによって測定することができる。
【0155】
本発明のバイスぺシフィック抗体の生産性は、抗体産生細胞から培養液中に産生される抗体量を測定することによって評価することができる。より具体的には、培養液から産生細胞を除いた培養上清に含まれる抗体の量をHPLC法やELISA法などの適当な方法で測定することによって評価することができる。
【0156】
本発明において、抗体断片とは、抗原結合ドメインを含み、該抗原に対する結合活性を有するタンパク質である。本発明において抗体断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、scFv、diabody、dsFvまたはCDRを含むペプチドなどが挙げられる。
【0157】
Fabは、IgG抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体とがジスルフィド結合(S-S結合)で結合した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0158】
F(ab’)は、IgGをタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のS-S結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0159】
Fab’は、上記F(ab’)のヒンジ領域のS-S結合を切断した、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0160】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを12残基以上の適当なペプチドリンカー(P)を用いて連結した、VH-P-VLまたはVL-P-VHポリペプチドであり、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0161】
Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片であり、同じ抗原に対する二価の抗原結合活性、または異なる抗原に対し各々特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0162】
dsFvは、VHおよびVL中の各1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、該システイン残基間のS-S結合を介して結合させたものをいう。
【0163】
CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、CDR同士を直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることで作製することができる。CDRを含むペプチドは、本発明のバイスペシフィック抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0164】
本発明のバイスペシフィック抗体断片は、本質的にバイスペシフィック抗体の構造の一部からなり、バイスペシフィック抗体の抗原結合部位特異性が異なる2種類の抗原結合ドメインを含み、該2種類の抗原のいずれに対しても結合活性を有するタンパク質である。
【0165】
本発明のバイスペシフィック抗体断片としては、例えば図12(B)に示されるFab型バイスペシフィック抗体断片、図12(C)に示されるF(ab’)2型バイスペシフィック抗体断片が挙げられる。
【0166】
抗体のエフェクター活性の増強または欠損、抗体の安定化、および血中半減期の制御を目的としたアミノ酸残基改変を含むFc領域も、本発明のバイスペシフィック抗体に用いることができる。
【0167】
本発明のバイスぺシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片としては、本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的または遺伝子工学的に結合させた抗体の誘導体を包含する。
【0168】
本発明における抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片のH鎖またはL鎖のN末端側或いはC末端側、該バイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片中の適当な置換基或いは側鎖、さらには該バイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片中の糖鎖などに、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、免疫賦活剤、タンパク質または抗体医薬などを化学的手法[抗体工学入門、地人書館(1994)]により結合させることで製造することができる。
【0169】
また、本発明における抗体の誘導体は、本発明のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするDNAと、所望のタンパク質または抗体医薬をコードするDNAとを連結させて、発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し発現させる、遺伝子工学的手法により製造することができる。
【0170】
放射性同位元素としては、例えば、111In、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Luまたは211Atなどが挙げられる。放射性同位元素は、クロラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。また、放射性同位元素をキレートする物質を抗体に結合させてもよい。キレート剤としては、例えば、1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)などが挙げられる。
【0171】
低分子の薬剤としては、例えば、アルキル化剤、ニトロソウレア剤、代謝拮抗剤、抗生物質、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、ホルモン拮抗剤、アロマターゼ阻害剤、P糖蛋白阻害剤、白金錯体誘導体、M期阻害剤若しくはキナーゼ阻害剤などの抗癌剤[臨床腫瘍学、癌と化学療法社(1996)]、ハイドロコーチゾン若しくはプレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン若しくはインドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート若しくはペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド若しくはアザチオプリンなどの免疫抑制剤またはマレイン酸クロルフェニラミン若しくはクレマシチンのような抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤[炎症と抗炎症療法、医歯薬出版株式会社(1982)]などが挙げられる。
【0172】
抗癌剤としては、例えば、アミフォスチン(エチオール)、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロフォスファミド、イホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、エピルビシン、ゲムシタビン(ゲムザール)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、5-フルオロウラシル、フルオロウラシル、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、ダウノマイシン、ペプロマイシン、エストラムスチン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテア)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、10-ヒドロキシ-7-エチル-カンプトテシン(SN38)、フロクスウリジン、フルダラビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、メスナ、イリノテカン(CPT-11)、ノギテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、ヒドロキシカルバミド、プリカマイシン、ミトタン、ペガスパラガーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、タモキシフェン、ゴセレリン、リュープロレニン、フルタミド、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブシル、ハイドロコーチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ビンデシン、ニムスチン、セムスチン、カペシタビン、トムデックス、アザシチジン、UFT、オキザロプラチン、ゲフィチニブ(イレッサ)、イマチニブ(STI571)、エルロチニブ、FMS-like tyrosine kinase 3(Flt3)阻害剤、vascular endothelial growth facotr receptor(VEGFR)阻害剤、fibroblast growth factor receptor(FGFR)阻害剤、タルセバなどのepidermal growth factor receptor(EGFR)阻害剤、ラディシコール、17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン、ラパマイシン、アムサクリン、オール-トランスレチノイン酸、サリドマイド、レナリドマイド、アナストロゾール、ファドロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ブシラミン、ミゾリビン、シクロスポリン、ヒドロコルチゾン、ベキサロテン(ターグレチン)、デキサメタゾン、プロゲスチン類、エストロゲン類、アナストロゾール(アリミデックス)、ロイプリン、アスピリン、インドメタシン、セレコキシブ、アザチオプリン、ペニシラミン、金チオマレート、マレイン酸クロルフェニラミン、クロロフェニラミン、クレマシチン、トレチノイン、ベキサロテン、砒素、ボルテゾミブ、アロプリノール、カリケアマイシン、イブリツモマブチウキセタン、タルグレチン、オゾガミン、クラリスロマシン、ロイコボリン、ケトコナゾール、アミノグルテチミド、スラミン、メトトレキセート若しくはメイタンシノイドまたはその誘導体などが挙げられる。
【0173】
低分子の薬剤と本発明のバイスペシフィック抗体とを結合させる方法としては、例えば、グルタールアルデヒドを介して薬剤と該抗体のアミノ基間を結合させる方法、または水溶性カルボジイミドを介して薬剤のアミノ基と該抗体のカルボキシル基とを結合させる方法などが挙げられる。
【0174】
高分子の薬剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、またはヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどが挙げられる。これらの高分子化合物を本発明のバイスペシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的若しくは生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、または(3)免疫原性の消失若しくは抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。
【0175】
例えば、PEGと本発明のバイスペシフィック抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などが挙げられる[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのε-アミノ基への修飾剤(日本国特開昭61-178926号公報)、アスパラギン酸およびグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(日本国特開昭56-23587号公報)、またはアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(日本国特開平2-117920号公報)などが挙げられる。
【0176】
免疫賦活剤としては、イムノアジュバントとして知られている天然物でもよく、具体例としては、免疫を亢進する薬剤が、β(1→3)グルカン(例えば、レンチナンまたはシゾフィラン)、またはαガラクトシルセラミド(KRN7000)などが挙げられる。
【0177】
タンパク質としては、例えば、NK細胞、マクロファージまたは好中球などの免疫担当細胞を活性化するサイトカイン若しくは増殖因子または毒素タンパク質などが挙げられる。
【0178】
サイトカインまたは増殖因子としては、例えば、インターフェロン(以下、IFNと記す)-α、IFN-β、IFN-γ、インターロイキン(以下、ILと記す)-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などが挙げられる。
【0179】
毒素タンパク質としては、例えば、リシン、ジフテリアトキシンまたはONTAKなどが挙げられ、毒性を調節するためにタンパク質に変異を導入したタンパク毒素も含まれる。
【0180】
タンパク質または抗体医薬との融合抗体は、本発明のバイスぺシフィック抗体またはバイスペシフィック抗体断片をコードするcDNAにタンパク質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物または真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0181】
上記抗体の誘導体を検出方法、定量方法、検出用試薬、定量用試薬または診断薬として使用する場合に、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片に結合する薬剤としては、通常の免疫学的検出または測定法で用いられる標識体が挙げられる。標識体としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ若しくはルシフェラーゼなどの酵素、アクリジニウムエステル若しくはロフィンなどの発光物質、またはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)、Alexa(登録商標) Fluor 488、R-phycoerythrin(R-PE)などの蛍光物質などが挙げられる。
【0182】
本発明には、CDC活性またはADCC活性などの細胞傷害活性を有するバイスぺシフィック抗体およびそのバイスペシフィック抗体断片が包含される。本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の抗原発現細胞に対するCDC活性またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373 (1993)]により評価することができる。
【0183】
また、本発明は、CD40およびEpCAMを特異的に認識し結合するバイスぺシフィック抗体若しくはそのバイスペシフィック抗体断片を含む組成物、または該バイスペシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片を有効成分として含有する、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患の治療薬に関する。
【0184】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患としては、例えば、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係している疾患であればいかなるものでもよく、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0185】
本発明において、悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部がん、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、中皮腫、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0186】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが好ましい。
【0187】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内または静脈内などの非経口投与が挙げられる。中でも、静脈内投与が好ましい。
【0188】
投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。
【0189】
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢および体重などにより異なるが、通常成人1日当たり10μg/kg~10mg/kgである。
【0190】
さらに、本発明は、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片を含有する、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の免疫学的検出用若しくは測定用試薬、またはCD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患の診断薬に関する。また、本発明は、本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片を用いた、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の免疫学的検出用若しくは測定用方法、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患の治療方法、またはCD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患の診断方法に関する。
【0191】
本発明においてCD40およびEpCAMの少なくとも一方の量を検出または測定する方法としては、任意の公知の方法が挙げられる。例えば、免疫学的検出または測定方法などが挙げられる。
【0192】
免疫学的検出または測定方法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。免疫学的検出または測定方法としては、例えば、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIAまたはELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0193】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いてCD40およびEpCAMの少なくとも一方が発現した細胞を検出または測定することにより、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0194】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が発現している細胞の検出には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、例えば、免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などが挙げられる。また、例えば、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などの蛍光抗体染色法なども挙げられる。
【0195】
本発明においてCD40およびEpCAMの少なくとも一方を検出または測定する対象となる生体試料としては、例えば、組織細胞、血液、血漿、血清、膵液、尿、糞便、組織液または培養液など、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が発現した細胞を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。
【0196】
本発明のバイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する診断薬は、目的とする診断法に応じて、抗原抗体反応を行なうための試薬、該反応の検出用試薬を含んでもよい。抗原抗体反応を行なうための試薬としては、例えば、緩衝剤、塩などが挙げられる。
【0197】
検出用試薬としては、例えば、前記バイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体に結合する標識された二次抗体、または標識に対応した基質などの通常の免疫学的検出または測定法に用いられる試薬が挙げられる。
【0198】
以下、本発明のバイスぺシフィック抗体の作製方法、該バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価方法、並びに該バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の治療方法および診断方法について具体的に記載する。
【0199】
1.モノクローナル抗体の作製方法
本発明におけるモノクローナル抗体の製造方法は、下記の作業工程を包含する。すなわち、(1)免疫原として使用する抗原の精製および細胞表面に抗原が過剰発現した細胞の作製の少なくとも一方、(2)抗原を動物に免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓などを摘出する時期を決定し、抗体産生細胞を調製する工程、(3)骨髄腫細胞(ミエローマ)の調製、(4)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、(5)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、(6)ハイブリドーマ群からの単クローン(monoclonal)細胞の分離(クローニング)、(7)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、またはハイブリドーマを移植した動物の飼育、(8)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性およびその抗原結合特異性の検討、または標識試薬としての特性の検定、などである。
【0200】
以下、本発明におけるCD40およびEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体を作製するために使用する、CD40に結合するモノクローナル抗体およびEpCAMに結合するモノクローナル抗体の作製方法を上記の工程に沿って詳述する。該抗体の作製方法はこれに制限されず、例えば脾臓細胞以外の抗体産生細胞およびミエローマを使用することもできる。
【0201】
(1)抗原の精製
CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現させた細胞は、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の全長またはその部分長をコードするcDNAを含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞または動物細胞などに導入することにより、得ることができる。また、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を多量に発現している各種ヒト腫瘍培養細胞またはヒト組織などからCD40およびEpCAMの少なくとも一方を精製し、抗原として使用することができる。また、該腫瘍培養細胞または該組織などをそのまま抗原として用いることもできる。さらに、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によりCD40およびEpCAMの少なくとも一方の部分配列を有する合成ペプチドを調製し、抗原に用いることもできる。
【0202】
本発明で用いられるCD40およびEpCAMの少なくとも一方は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)やCurrent Protocols In Molecular Biology, John Wiley & Sons(1987-1997)などに記載された方法などを用い、例えば以下の方法により、該CD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードするDNAを宿主細胞中で発現させることで製造することができる。
【0203】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードする部分を含む完全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。上記完全長cDNAの代わりに、完全長cDNAをもとにして調製された、ポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を用いてもよい。次に、得られた該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を生産する形質転換体を得ることができる。
【0204】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞における自律複製または染色体中への組込みが可能で、かつCD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードするDNAを転写できる位置に適当なプロモーターを含有しているものであれば、いずれも用いることができる。
【0205】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌などのエシェリヒア属などに属する微生物、酵母、昆虫細胞または動物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0206】
大腸菌などの原核生物を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターは、原核生物中で自律複製が可能であるとともに、プロモーター、リボソーム結合配列、CD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードする部分を含むDNA、並びに転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。また、該組換えベクターには、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。さらに、該組換えベクターは、プロモーターを制御する遺伝子を含んでもよい。
【0207】
該組換えベクターとしては、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば、6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0208】
また、該CD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードするDNAの塩基配列としては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより目的とするCD40およびEpCAMの少なくとも一方の生産率を向上させることができる。
【0209】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、pKK233-2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(日本国特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry, 48, 669(1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277(1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306(1985)]、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP-6798)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pTerm2(米国特許第4,686,191号明細書、米国特許第4,939,094号明細書、米国特許第5,160,735号明細書)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J. Bacteriol., 172, 2392 (1990)]、pGEX(ファルマシア社製)、pETシステム(ノバジェン社製)またはpME18SFL3(東洋紡社製)などが挙げられる。
【0210】
プロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能するものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターまたはT7プロモーターなどの、大腸菌またはファージなどに由来するプロモーターが挙げられる。また、例えば、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、またはlet Iプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターなども挙げられる。
【0211】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌XL1-Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49、または大腸菌DH5αなどが挙げられる。
【0212】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、使用する宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110(1972)、Gene, 17, 107(1982)、Molecular & General Genetics, 168, 111(1979)]が挙げられる。
【0213】
動物細胞を宿主として用いる場合、発現ベクターとしては、動物細胞中で機能するものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNAI(インビトロジェン社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107[日本国特開平3-22979号公報;Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、pAS3-3(日本国特開平2-227075号公報)、pCDM8[Nature, 329, 840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J. Biochemistry, 101, 1307 (1987)]、pAGE210、pME18SFL3またはpKANTEX93(国際公開第97/10354号)などが挙げられる。
【0214】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のimmediate early(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーターまたはモロニーマウス白血病ウイルスのプロモーター若しくはエンハンサーが挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0215】
宿主細胞としては、例えば、ヒトバーキットリンパ腫細胞Namalwa、アフリカミドリザル腎臓由来細胞COS、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞CHO、またはヒト白血病細胞HBT5637(日本国特開昭63-000299号公報)などが挙げられる。
【0216】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(日本国特開平2-227075号公報)、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などが挙げられる。
【0217】
以上のようにして得られるCD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを保有する微生物、または動物細胞などに由来する形質転換体を培地中で培養し、培養物中に該CD40およびEpCAMの少なくとも一方を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を製造することができる。該形質転換体を培地中で培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0218】
真核生物由来の細胞で発現させた場合には、糖または糖鎖が付加されたCD40およびEpCAMの少なくとも一方を得ることができる。
【0219】
誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する際には、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどを、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはインドールアクリル酸などを、各々培地に添加してもよい。
【0220】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association, 199, 519(1967)]、EagleのMEM培地[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology, 8, 396(1959)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)]、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、またはこれら培地に牛胎児血清(FBS)などを添加した培地などが挙げられる。培養は、通常pH6~8、30~40℃、5%CO存在下などの条件下で1~7日間行う。また、培養中に、必要に応じて、カナマイシン、ペニシリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0221】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方をコードする遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、分泌生産または融合タンパク質発現などの方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]を用いることができる。CD40およびEpCAMの少なくとも一方の生産方法としては、例えば、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、または宿主細胞外膜上に生産させる方法が挙げられ、使用する宿主細胞や、生産させるCD40およびEpCAMの少なくとも一方の構造を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0222】
例えば、細胞外領域のアミノ酸配列をコードするDNAに、抗体のFc領域をコードするDNA、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)をコードするDNA、またはFLAGタグをコードするDNAまたはHistidineタグをコードするDNAなどを連結したDNAを作製して、発現し精製することで抗原融合タンパク質を作製することができる。具体的には、例えば、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の細胞外領域をヒトIgGのFc領域に結合させたFc融合タンパク質、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の細胞外領域とグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質が挙げられる。
【0223】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が宿主細胞内または宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[J. Biol. Chem., 264, 17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 86, 8227 (1989)、Genes Develop., 4, 1288(1990)]、日本国特開平05-336963号公報、または国際公開第94/23021号などに記載の方法を用いることにより、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。また、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを用いた遺伝子増幅系(日本国特開平2-227075号公報)を利用してCD40およびEpCAMの少なくとも一方の生産量を上昇させることもできる。
【0224】
生産したCD40およびEpCAMの少なくとも一方は、例えば、以下のようにして単離、精製することができる。
【0225】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、またはダイノミルなどを用いて細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離して得られる上清から、通常のタンパク質の単離精製法、すなわち溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などのレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、または等電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を、単独でまたは組み合わせて用いることで、精製タンパク質を得ることができる。
【0226】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、上記と同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として該CD40およびEpCAMの少なくとも一方の不溶体を回収する。回収した該CD40およびEpCAMの少なくとも一方の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈または透析することにより、該CD40およびEpCAMの少なくとも一方を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法によりポリペプチドの精製タンパク質を得ることができる。
【0227】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方またはその糖修飾体などの誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清において該CD40およびEpCAMの少なくとも一方、またはその糖修飾体などの誘導体を回収することができる。該培養上清を上記と同様に遠心分離などの手法を用いて処理することにより、可溶性画分を取得し、該可溶性画分から上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製タンパク質を得ることができる。
【0228】
また、本発明において用いられるCD40およびEpCAMの少なくとも一方は、Fmoc法またはtBoc法などの化学合成法によっても製造することができる。具体的には、例えば、アドバンストケムテック社製、パーキン・エルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジインストルメント社製、シンセセル-ベガ社製、パーセプチブ社製、または島津製作所社製などのペプチド合成機を利用して化学合成することができる。
【0229】
(2)抗体産生細胞の調製工程
3~20週令のマウス、ラットまたはハムスターなどの動物に、(1)で得られる抗原を免疫して、その動物の脾臓、リンパ節または末梢血中の抗体産生細胞を採取する。また、動物としては、例えば、富塚らの文献[Tomizuka. et al., Proc Natl Acad Sci USA., 97、722,(2000)]に記載されているヒト由来抗体を産生するトランスジェニックマウス、免疫原性を高めるためにCD40またはEpCAMのコンディショナルノックアウトマウスなどが被免疫動物として挙げられる。
【0230】
免疫は、フロイントの完全アジュバント、または水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどの適当なアジュバントとともに抗原を投与することにより行う。マウス免疫の際の免疫原投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射または足蹠注射などいずれでもよいが、腹腔内注射、足蹠注射または静脈内注射が好ましい。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA(ウシ血清アルブミン)、またはKLH(Keyhole Limpet hemocyanin)などのキャリアタンパク質とのコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いる。
【0231】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1~2週間おきに5~10回行う。各投与後3~7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清の抗体価を酵素免疫測定法[Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]などを用いて測定する。免疫に用いた抗原に対し上記の血清が十分な抗体価を示した動物を、融合用抗体の産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効果を高めることができる。
【0232】
抗原の最終投与後3~7日目に、免疫した動物より脾臓などの抗体産生細胞を含む組織を摘出し、抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞は、形質細胞およびその前駆細胞であるリンパ球であり、これは個体のいずれの部位から得てもよく、一般には脾臓、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、またはこれらを適宜組み合わせたもの等から得ることができるが、脾臓細胞が最も一般的に用いられる。脾臓細胞を用いる場合には、脾臓を細断してほぐした後、遠心分離し、さらに赤血球を除去することにより、融合用抗体産生細胞を取得する。
【0233】
(3)ミエローマの調製工程
ミエローマとしては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物に由来する自己抗体産生能のない細胞を用いることが出来るが、一般的にはマウスから得られた株化細胞、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)ミエローマ細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology, 18, 1(1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)[European J. Immunology, 6, 511 (1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature, 276, 269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J. Immunology, 123, 1548 (1979)]、またはP3-X63-Ag8(X63)[Nature, 256, 495(1975)]などが用いられる。該細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、FCSおよび8-アザグアニンを加えたRPMI-1640培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、またはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)などの培地で継代培養する。細胞融合の3~4日前に上記の細胞株を正常培地(例えば、10% FCSを含むDMEM培地)で継代培養し、融合を行う当日に2×10個以上の細胞数を確保する。
【0234】
(4)細胞融合
(2)で得られる融合用抗体産生細胞と(3)で得られるミエローマ細胞を、Minimum Essential Medium(MEM)培地またはPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、融合用抗体産生細胞:ミエローマ細胞=5:1~10:1になるように混合し、遠心分離した後、上清を除く。沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、ポリエチレングリコール-1000(PEG-1000)、MEM培地およびジメチルスルホキシドの混合液を、37℃にて攪拌しながら加える。さらに1~2分間毎にMEM培地1~2mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mLになるようにする。遠心分離後、上清を除き、沈澱した細胞集塊を緩やかにほぐした後、HAT培地[ヒポキサンチン、チミジンおよびアミノプテリンを加えた正常培地]中に緩やかに細胞を懸濁する。この懸濁液を5%COインキュベーター中、37℃にて7~14日間培養する。
【0235】
また、以下の方法でも細胞融合を行うことができる。脾臓細胞とミエローマ細胞とを無血清培地(例えばDMEM)、またはリン酸緩衝生理食塩液(以下「リン酸緩衝液」という)でよく洗浄し、脾臓細胞とミエローマ細胞の細胞数の比が5:1~10:1程度になるように混合し、遠心分離する。上清を除去し、沈澱した細胞集塊をよくほぐした後、撹拌しながら1mLの50%(w/v)ポリエチレングリコール(分子量1000~4000)を含む無血清培地を滴下する。その後、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈澱した細胞を適量のヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)液およびヒトインターロイキン-2(IL-2)を含む正常培地(以下、HAT培地という)中に懸濁して培養用プレート(以下、プレートという)の各ウェルに分注し、5%炭酸ガス存在下、37℃にて2週間程度培養する。途中適宜HAT培地を補う。
【0236】
(5)ハイブリドーマ群の選択
融合に用いたミエローマ細胞が8-アザグアニン耐性株である場合、すなわちヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損株である場合は、融合しなかったミエローマ細胞およびミエローマ細胞同士の融合細胞は、HAT培地中では生存することができない。一方、抗体産生細胞同士の融合細胞および抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマは、HAT培地中で生存することができるが、抗体産生細胞同士の融合細胞はやがて寿命に達する。したがって、HAT培地中での培養を続けることによって、抗体産生細胞とミエローマ細胞とのハイブリドーマのみが生き残り、結果的にハイブリドーマを取得することができる。
【0237】
コロニー状に生育してきたハイブリドーマについて、HAT培地からアミノプテリンを除いた培地(以下、HT培地という)への培地交換を行う。その後、培養上清の一部を採取し、後述する抗体価測定法を用いて、抗体を産生するハイブリドーマを選択することができる。抗体価の測定方法としては、例えば、放射性同位元素免疫定量法(RIA法)、固相酵素免疫定量法(ELISA法)、蛍光抗体法および受身血球凝集反応法など種々の公知技術が挙げられるが、検出感度、迅速性、正確性および操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法またはELISA法が好ましい。
【0238】
抗体価を測定することにより、所望の抗体を産生することが判明したハイブリドーマを、別のプレートに移しクローニングを行う。このクローニング法としては、例えば、プレートの1ウェルに1個の細胞が含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個の細胞を単離する方法、セルソーターによって1個の細胞を単離する方法などが挙げられる。
【0239】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2~4回繰り返し、安定して抗体価の認められたものを、ヒトCD40またはEpCAMに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ株として選択する。
【0240】
(6)モノクローナル抗体の調製
プリスタン処理[2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mLを腹腔内投与し、2週間飼育する]した8~10週令のマウスまたはヌードマウスに、(5)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射する。10~21日でハイブリドーマは腹水癌化する。このマウスから腹水を採取し、遠心分離して固形分を除去後、40~50%硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインAカラムまたはゲル濾過カラムによる精製を行い、IgGまたはIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とする。また、同系統のマウス(例えば、BALB/c)若しくはNu/Nuマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等の腹腔内で該ハイブリドーマを増殖させることにより、CD40またはEpCAMに結合するモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
【0241】
(5)で得られたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、10%FBS添加を添加したRPMI1640培地などで培養した後、遠心分離により上清を除き、GIT培地、または5%ダイゴGF21を添加したHybridoma SFM培地等に懸濁し、フラスコ培養、スピナー培養またはバック培養などにより3~7日間培養する。得られた細胞懸濁液を遠心分離し、得られた上清よりプロテインAカラムまたはプロテインGカラムによる精製を行ない、IgG画分を集め、精製モノクローナル抗体を得ることもできる。精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;アマシャムファルマシアバイオテク社製)等を利用することもできる。
【0242】
抗体のサブクラスの決定は、サブクラスタイピングキットを用いて酵素免疫測定法により行う。蛋白量の定量は、ローリー法および280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/mL]より算出する方法により行うことができる。
【0243】
(7)CD40またはEpCAMに対するモノクローナル抗体の結合アッセイ
CD40またはEpCAMに対するモノクローナル抗体の結合活性は、オクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、RIA法、フローサイトメトリー法(FCM)または表面プラズモン共鳴法(SPR)などのバインディングアッセイ系により測定することができる。
【0244】
オクテルロニー法は簡便ではあるが、抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法またはRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定すると共に、抗体の結合活性を測定することが可能である。
【0245】
手順の具体例としては、精製または部分精製した組換えCD40およびEpCAMの少なくとも一方をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)によりブロッキングを行う。ELISAプレートをphosphate buffer saline(PBS)および0.05% Tween20を含むPBS(Tween-PBS)などで洗浄後、段階希釈した第1抗体(例えばマウス血清、培養上清など)を反応させ、プレートに固定化された抗原へ抗体を結合させる。次に、第2抗体としてビオチン、酵素(horse radish peroxidase;HRP、alkaline phosphatase;ALPなど)、化学発光物質または放射線化合物などで標識した抗イムノグロブリン抗体を分注して、プレートに結合した第1抗体に第2抗体を反応させる。Tween-PBSでよく洗浄した後、第2抗体の標識物質に応じた反応を行い、標的抗原に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0246】
FCM法では、抗体の抗原発現細胞に対する結合活性を測定することができる[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]。抗体が細胞膜上に発現している膜タンパク質抗原に結合することは、当該抗体が天然に存在する抗原の立体構造を認識し、結合することを意味する。
【0247】
SPR法としては、Biacoreによるkinetics解析が挙げられる。例えば、Biacore T100を用い、抗原と被験物との間の結合におけるkineticsを測定し、その結果を機器付属の解析ソフトウエアで解析をする。手順の具体例としては、抗マウスIgG抗体をセンサーチップCM5にアミンカップリング法により固定した後、ハイブリドーマ培養上清または精製モノクローナル抗体などの被験物質を流して適当量を結合させ、さらに濃度既知の複数濃度の抗原を流して、結合および解離を測定する。次に、得られたデータについて、機器付属のソフトウエアを用いて1:1バインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。または、CD40およびEpCAMの少なくとも一方をセンサーチップ上に、例えばアミンカップリング法により固定した後、濃度既知の複数濃度の精製モノクローナル抗体を流して、結合および解離を測定する。得られたデータについて、機器付属のソフトウエアを用いてバイバレントバインディングモデルによるkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。
【0248】
また、本発明において、CD40またはEpCAMに対する抗体と競合してCD40またはEpCAMに結合する抗体は、上述のバインティングアッセイ系に被検抗体を共存させて反応させることにより、選択することができる。すなわち、被検抗体を加えた時に抗原との結合が阻害される抗体をスクリーニングすることにより、CD40またはEpCAMへの結合について、前記で取得した抗体と競合する抗体を得ることができる。
【0249】
(8)CD40またはEpCAMに対するモノクローナル抗体のエピトープの同定
本発明において、抗体が認識し結合するエピトープの同定は以下のようにして行うことができる。
【0250】
例えば、抗原の部分欠損体、種間で異なるアミノ酸残基を改変した変異体、または特定のドメインを改変した変異体を作製し、該欠損体または変異体に対する抗体の反応性が低下すれば、欠損部位またはアミノ酸改変部位が該抗体のエピトープであることが明らかになる。このような抗原の部分欠損体および変異体は、適当な宿主細胞、例えば大腸菌、酵母、植物細胞または哺乳動物細胞などを用いて、分泌タンパク質として取得してもよいし、宿主細胞の細胞膜上に発現させて抗原発現細胞として調製してもよい。膜型抗原の場合は、抗原の立体構造を保持したまま発現させるために、宿主細胞の膜上に発現させることが好ましい。また、抗原の1次構造または立体構造を模倣した合成ペプチドを作製し、抗体の反応性を確認することもできる。合成ペプチドは、公知のペプチド合成技術を用いて、その分子の様々な部分ペプチドを作製する方法等が挙げられる。
【0251】
例えば、ヒトおよびマウスのCD40またはEpCAMの細胞外領域について、各領域を構成するドメインを適宜組み合わせたキメラタンパク質を作製し、該タンパク質に対する抗体の反応性を確認することで、抗体のエピトープを同定することができる。その後、さらに細かく、その対応部分のオリゴペプチド、または該ペプチドの変異体等を、当業者に周知のオリゴペプチド合成技術を用いて種々合成し、該ペプチドに対する抗体の反応性を確認することでエピトープを特定することができる。多種類のオリゴペプチドを得るための簡便な方法として、市販のキット[例えば、SPOTsキット(ジェノシス・バイオテクノロジーズ社製)、マルチピン合成法を用いた一連のマルチピン・ペプチド合成キット(カイロン社製)等]を利用することもできる。
【0252】
CD40またはEpCAMに結合する抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体は、上述のバインティングアッセイ系で得た抗体のエピトープを同定し、該エピトープの部分的な合成ペプチド、該エピトープの立体構造を模した合成ペプチド、または該エピトープの組換え体等を作製し、免疫することで取得することができる。
【0253】
例えば、エピトープが膜タンパク質であれば、全細胞外領域または一部の細胞外ドメインを、適当なタグ、例えば、FLAGタグ、Histidineタグ、GSTタンパク質または抗体Fc領域などに連結した組換え融合タンパク質を作製し、該組換えタンパク質を免疫することで、より効率的に該エピトープ特異的な抗体を作製することができる。
【0254】
2.遺伝子組換え抗体の作製
遺伝子組換え抗体の作製例として、P. J. Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILEY、P. Shepherd and C. Dean. Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESSおよびJ. W. Goding., Monoclonal Antibodies:principles and practice., 1993 ACADEMIC PRESSなどに概説されているが、以下にキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体の作製方法を示す。また、遺伝子組換えマウス、ラット、ハムスターおよびラビット抗体についても、同様の方法で作製することができる。
【0255】
(1)ハイブリドーマからのモノクローナル抗体のV領域をコードするcDNAの取得
モノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAの取得は、例えば以下のようにして行うことができる。
【0256】
まず、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマよりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。次に、合成したcDNAをファージまたはプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、抗体のC領域部分またはV領域部分をコードするDNAをプローブとして用いて、VHまたはVLをコードするcDNAを有する組換えファージまたは組換えプラスミドをそれぞれ単離する。単離した組換えファージまたは組換えプラスミド内のVHまたはVLの全塩基配列を決定し、当該塩基配列よりVHまたはVLの全アミノ酸配列を推定する。
【0257】
ハイブリドーマの作製に用いる非ヒト動物としては、マウス、ラット、ハムスターまたはウサギなどを用いるが、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0258】
ハイブリドーマからの全RNAの調製には、チオシアン酸グアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol., 154, 3 (1987)]、またはRNA easy kit(キアゲン社製)などのキットなどを用いる。
【0259】
全RNAからのmRNAの調製には、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]、またはOligo-dT30<Super>mRNA Purification Kit(タカラバイオ社製)などのキットなどを用いる。また、Fast Track mRNA Isolation Kit(インビトロジェン社製)またはQuickPrep mRNA Purification Kit(ファルマシア社製)などのキットを用いて、mRNAを調製することもできる。
【0260】
cDNAの合成およびcDNAライブラリーの作製には、公知の方法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]またはSuperScript Plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(インビトロジェン社製)若しくはZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)などのキットなどを用いる。
【0261】
cDNAライブラリーの作製の際に、ハイブリドーマから抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターとしては、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。
【0262】
例えば、ZAP Express[Strategies, 5, 58(1992)]、pBluescript IISK(+)[Nucleic Acids Research, 17, 9494(1989)]、λZAPII(Stratagene社製)、λgt10、λgt11[DNA Cloning: A Practical Approach, I, 49(1985)]、Lambda BlueMid(クローンテック社製)、λExCell、pT7T3-18U(ファルマシア社製)、pcD2[Mol. Cell. Biol., 3, 280(1983)]またはpUC18[Gene, 33, 103(1985)]などを用いる。
【0263】
ファージまたはプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌には、該cDNAライブラリーを導入、発現および維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL1-Blue MRF’[Strategies, 5, 81(1992)]、C600[Genetics, 39, 440(1954)]、Y1088、Y1090[Science, 222, 778(1983)]、NM522[J. Mol. Biol., 166, 1(1983)]、K802[J. Mol. Biol., 16, 118(1966)]、またはJM105[Gene, 38, 275(1985)]などを用いる。
【0264】
cDNAライブラリーからの非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAクローンの選択には、アイソトープ若しくは蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法、またはプラーク・ハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]などを用いる。
【0265】
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction法[以下、PCR法と表記する、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition , Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1, John Wiley & Sons(1987-1997)]を行うことにより、VHまたはVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0266】
選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断した後、pBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法などにより該cDNAの塩基配列を決定する。例えば、ジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74, 5463(1977)]などの反応を行った後、A.L.F.DNAシークエンサー(ファルマシア社製)などの塩基配列自動分析装置などを用いて解析する。
【0267】
決定した全塩基配列からVHおよびVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定し、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、取得したcDNAが、分泌シグナル配列を含めて抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列をコードしているか否かを確認する。
【0268】
分泌シグナル配列を含む抗体のVHおよびVL各々の完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVHおよびVLの全アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さおよびN末端アミノ酸配列を推定することができ、さらにそれらが属するサブグループを同定することができる。
【0269】
また、VHおよびVLの各CDRのアミノ酸配列は、既知の抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]と比較することによって推定することができる。
【0270】
また、得られたVHおよびVLの完全なアミノ酸配列について、例えば、SWISS-PROTまたはPIR-Proteinなどの任意のデータベースを用いてBLAST法[J. Mol. Biol., 215, 403(1990)]などによる相同性検索を行うことで、当該VHおよびVLの完全なアミノ酸配列が新規なものであるか否かを確認することができる。
【0271】
(2)遺伝子組換え抗体発現用ベクターの構築
遺伝子組換え抗体発現用ベクターは、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCHおよびCLの少なくとも一方をコードするDNAをクローニングすることにより構築することができる。
【0272】
ヒト抗体のC領域としては、任意のヒト抗体のCHおよびCLを用いることができ、例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCHおよびκクラスのCLなどを用いることができる。ヒト抗体のCHおよびCLをコードするDNAとしてはcDNAを用いるが、エキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることもできる。
【0273】
動物細胞用発現ベクターとしては、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組み込んで発現できるものであれば、いかなるものでも用いることができ、例えば、pAGE107[Cytotechnol., 3, 133 (1990)]、pAGE103[J. Biochem., 101, 1307(1987)]、pHSG274[Gene, 27, 223 (1984)]、pKCR[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78, 1527 (1981)]、pSG1bd2-4[Cytotechnol., 4, 173 (1990)]、またはpSE1UK1Sed1-3[Cytotechnol., 13, 79 (1993)]、INPEP4(Biogen-IDEC社製)、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いることができる。
【0274】
動物細胞用発現ベクターのプロモーターとエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーター[J. Biochem., 101, 1307 (1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスLTR[Biochem. Biophys. Res. Commun., 149, 960 (1987)]、CMVプロモーター(米国特許第5,168,062号明細書)または免疫グロブリンH鎖のプロモーター[Cell, 41, 479 (1985)]とエンハンサー[Cell, 33, 717(1983)]などを用いることができる。
【0275】
遺伝子組換え抗体の発現には、ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、細胞内における抗体H鎖およびL鎖の発現量の均衡性などの観点から、抗体H鎖およびL鎖の両遺伝子を搭載したベクター(タンデム型ベクター)[J. Immunol. Methods, 167, 271 (1994)]を用いるが、抗体H鎖とL鎖の各遺伝子を別々に搭載した複数のベクター(セパレート型ベクター)を組み合わせて用いることもできる。
【0276】
タンデム型の遺伝子組換え抗体発現用ベクターとしては、pKANTEX93(国際公開第97/10354号)、pEE18[Hybridoma, 17, 559(1998)]、N5KG1val(米国特許第6,001,358号明細書)、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)、Tol2トランスポゾンベクター(国際公開第2010/143698号)などを用いる。
【0277】
(3)キメラ抗体発現ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを各々クローニングすることで、キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0278】
まず、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAの3’末端側と、ヒト抗体のCHまたはCLの5’末端側とを連結するために、連結部分の塩基配列が適切なアミノ酸をコードし、かつ適当な制限酵素認識配列になるように設計したVHおよびVLのcDNAを作製する。次に、作製したVHおよびVLのcDNAを、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする遺伝子の各々の上流に、それらが適切な形で発現する様にそれぞれクローニングし、キメラ抗体発現ベクターを構築する。
【0279】
また、非ヒト抗体のVHまたはVLをコードするcDNAを、適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAを用いてPCR法によりそれぞれ増幅し、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターにクローニングすることで、キメラ抗体発現ベクターを構築することもできる。
【0280】
(4)ヒト化抗体のV領域をコードするcDNAの作製
ヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAは、以下のようにして作製することができる。まず、(1)で得られる非ヒト抗体のVHまたはVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVHまたはVLのフレームワーク領域(以下、FRと表記する)のアミノ酸配列をそれぞれ選択する。
【0281】
選択するFRのアミノ酸配列には、ヒト抗体由来のものであればいずれのものでも用いることができる。例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のFRのアミノ酸配列、またはヒト抗体のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]などを用いる。抗体の結合活性の低下を抑えるために、元の非ヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(60%以上)を有するヒトFRのアミノ酸配列を選択する。
【0282】
次に、選択したヒト抗体のVHまたはVLのFRのアミノ酸配列に、元の非ヒト抗体のCDRのアミノ酸配列をそれぞれ移植し、ヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をそれぞれ設計する。設計したアミノ酸配列を、抗体遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]を考慮してDNA配列に変換することで、ヒト化抗体のVHまたはVLのcDNA配列をそれぞれ設計する。
【0283】
設計したcDNA配列に基づき、100~150塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応における反応効率および合成可能なDNA長の観点から、好ましくはH鎖およびL鎖に対し各々4~6本の合成DNAを設計する。また、可変領域全長の合成DNAを合成して用いることもできる。
【0284】
さらに、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターに、容易にヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをクローニングすることができる。PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(1)に記載の方法と同様の方法により塩基配列を決定し、所望のヒト化抗体のVHまたはVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0285】
(5)ヒト化抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト化抗体は、非ヒト抗体のVHおよびVLのCDRのみをヒト抗体のVHおよびVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元の非ヒト抗体に比べて低下する[BIO/TECHNOLOGY, 9, 266(1991)]。そのため、ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸配列のうち、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基、CDRのアミノ酸残基と相互作用するアミノ酸残基、および抗体の立体構造を維持し間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらのアミノ酸残基を元の非ヒト抗体のアミノ酸残基に置換することにより、低下したヒト化抗体の抗原結合活性を上昇させることができる。
【0286】
抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を同定するために、X線結晶解析[J. Mol. Biol., 112, 535(1977)]またはコンピューターモデリング[Protein Engineering, 7, 1501(1994)]などを用いることにより、抗体の立体構造の構築および解析を行うことができる。また、それぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討することを繰り返し、試行錯誤することで、必要な抗原結合活性を有する改変ヒト化抗体を取得できる。
【0287】
ヒト抗体のVHおよびVLのFRのアミノ酸残基は、改変用合成DNAを用いて(4)に記載のPCR反応を行うことにより、改変することができる。PCR反応後の増幅産物について、(1)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的とする改変が施されたことを確認する。
【0288】
(6)ヒト化抗体発現ベクターの構築
(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、構築したヒト化抗体のVHまたはVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングし、ヒト化抗体発現ベクターを構築することができる。
【0289】
例えば、(4)および(5)で得られるヒト化抗体のVHまたはVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクター内のヒト抗体のCHまたはCLをコードする各遺伝子の上流に、それらが適切な形で発現するようにそれぞれクローニングする。
【0290】
(7)ヒト抗体発現ベクターの構築
ヒト抗体を産生する動物を被免疫動物として用いて、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した場合には、(1)において、ヒト抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列およびcDNA配列を得ることができる。そこで、(2)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCHまたはCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、(1)で得たヒト抗体のVHまたはVLをコードする遺伝子をそれぞれクローニングすることで、ヒト抗体発現ベクターを構築することができる。
【0291】
(8)遺伝子組換え抗体の一過性発現
(3)、(6)および(7)で得られる遺伝子組換え抗体発現ベクター、またはそれらを改変した発現ベクターを用いて遺伝子組換え抗体を一過性に発現させ、得られた多種類の遺伝子組換え抗体の抗原結合活性を効率的に評価することができる。
【0292】
発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、例えばCOS-7細胞[American Type Culture Collection(ATCC)番号:CRL1651]を用いる。COS-7細胞への発現ベクターの導入には、DEAE-デキストラン法[Methods in Nucleic Acids Res., CRC press(1991)]、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413(1987)]などを用いる。
【0293】
発現ベクターの導入後、培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性を、酵素免疫抗体法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを用いて測定する。
【0294】
(9)遺伝子組換え抗体の安定的発現株の取得と遺伝子組換え抗体の調製
(3)、(6)および(7)で得られた遺伝子組換え抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を得ることができる。
【0295】
宿主細胞への発現ベクターの導入としては、例えば、エレクトロポレーション法[日本国特開平2-257891号公報、Cytotechnology, 3, 133(1990)]、カルシウムイオン方法、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などが挙げられる。また、後述の動物に遺伝子を導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、ES細胞にエレクトロポレーションやリポフェクション法を用いて遺伝子を導入する方法、および核移植法などが挙げられる。
【0296】
遺伝子組換え抗体発現ベクターを導入する宿主細胞としては、遺伝子組換え抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。例えば、マウスSP2/0-Ag14細胞(ATCC CRL1581)、マウスP3X63-Ag8.653細胞(ATCC CRL1580)、チャイニーズハムスターCHO-K1細胞(ATCC CCL-61)、DUKXB11(ATCC CCL-9096)、Pro-5細胞(ATCC CCL-1781)、CHO-S細胞(Life Technologies、Cat No.11619)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)が欠損したCHO細胞(CHO/DG44細胞)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216(1980)]、レクチン耐性を獲得したLec13細胞[Somatic Cell and Molecular genetics, 12, 55(1986)]、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC番号:CRL1662)などを用いる。
【0297】
また、細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースの合成に関与する酵素などのタンパク質、N-グリコシド結合複合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンの6位にフコースの1位がα結合する糖鎖修飾に関与する酵素などのタンパク質、または細胞内糖ヌクレオチドGDP-フコースのゴルジ体への輸送に関与するタンパク質などの活性が低下または欠失した宿主細胞、例えばα1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)などを用いることもできる。
【0298】
発現ベクターの導入後、遺伝子組換え抗体を安定的に発現する形質転換株を、G418硫酸塩(以下、G418と表記する)などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択する(日本国特開平2-257891号公報)。
【0299】
動物細胞培養用培地には、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX-CELL301培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL302培地(ジェイアールエイチ社製)、EX-CELL325培地(ジェイアールエイチ社製)、IMDM培地(インビトロジェン社製)若しくはHybridoma-SFM培地(インビトロジェン社製)、またはこれらの培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いる。得られた形質転換株を培地中で培養することで、培養上清中に遺伝子組換え抗体を発現、蓄積させる。培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量および抗原結合活性はELISA法などにより測定することができる。また、DHFR増幅系(日本国特開平2-257891号公報)などを利用して、形質転換株の産生する遺伝子組換え抗体の発現量を上昇させることができる。
【0300】
遺伝子組換え抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインAカラムを用いて精製することができる[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]。また、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーおよび限外濾過など、タンパク質の精製で用いられる方法を組み合わせて精製することもできる。
【0301】
精製した遺伝子組換え抗体のH鎖、L鎖または抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法[Nature, 227, 680(1970)]、またはウェスタンブロッティング法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition, Academic Press(1996)、Antibodies - A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]など用いて測定することができる。
【0302】
3.バイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の作製
本発明のバイスぺシフィック抗体は、例えば、まず、異なるエピトープに結合する複数のモノクローナル抗体を上記1.に記載の方法を用いて取得し、次に、各抗体のVHおよびVLのcDNA配列を上記2.に記載の方法を用いて決定し、各抗体の抗原結合部位を連結したバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を設計することによって作製することができる。
【0303】
具体的には、各抗体の抗原結合部位とリンカーとを適宜組み合わせたDNAを合成し、上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を発現させることで、作製することができる。より具体的には、リンカーを介して各抗体のVHを連結したポリペプチドをコードするDNAを合成すると共に、各抗体のVLをコードするDNAを合成し、これらのDNAを上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに組み込み、当該バイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を発現させることで、作製することができる。また、2.(2)のCHまたはCLをコードする遺伝子の代わりに、任意のポリペプチド鎖をコードする遺伝子を導入した動物細胞用発現ベクターを用いることにより、最もC末端に近い抗原結合部位のC末端側に任意のポリペプチド鎖(C末端側ポリペプチド)を有するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を作製することができる。任意のポリペプチド鎖をコードする遺伝子はリンカーを介して各抗体のVHを連結したポリペプチドをコードするDNAと結合した上で動物細胞用発現ベクターに組み込んでも良いし、リンカーを介して各抗体のVHを連結したポリペプチドをコードするDNAとは別々に動物細胞用発現ベクターに組み込んでもよい。
【0304】
抗原結合部位は、上記1.に記載のハイブリドーマを用いた方法の他、Phage Display法、Yeast display法などの技術により単離し、取得することが出来る[Emmanuelle Laffy et. al., Human Antibodies 14, 33-55, (2005)]。
【0305】
上記のリンカーおよびC末端側ポリペプチドとして例えばポリペプチド鎖が挙げられる。具体的には例えば複数の抗原結合ドメインを結合させたポリペプチドを指す。例えばN末端からC末端への方向に順に整列したCH1-ヒンジ-CH2-CH3からなるイムノグロブリンドメイン、CH1-ヒンジ-CH2からなるイムノグロブリンドメイン、CH1-ヒンジからなるイムノグロブリンドメイン、CH1からなるイムノグロブリンドメイン、CH1のN末端側の断片、14番目のアミノ酸残基がCysである14アミノ酸残基からなるCH1断片およびCH1のN末端から1~14番目のアミノ酸残基からなるCH1断片、並びにこれらイムノグロブリンドメイン断片のアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸残基が改変されたものを挙げることができる。
【0306】
上記のリンカーおよびC末端側ポリペプチドとしてさらに具体的には、例えば、配列番号75で表わされるIgG4のCH1のN末端の1~14番目の14アミノ酸残基からなるポリペプチド、配列番号75で表わされるIgG4のCH1からなるポリペプチドならびに配列番号77で表されるIgG4PE R409KのCH(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるポリペプチドなどが挙げられる。
【0307】
また、複数のVHと単一のVLから成るバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を作製する場合には、バイスぺシフィック抗体に含まれる各抗原結合部位が各々の特異的抗原に反応するように、ファージディスプレイ法等を用いたスクリーニングを行い、単一のVLに最も適した各々のVHを選択する。
【0308】
具体的には、まず、上記1.に記載の方法を用いて、第1の抗原で動物を免疫してその脾臓からハイブリドーマを作製し、第1の抗原結合部位をコードするDNA配列をクローニングする。次に、第2の抗原で動物を免疫して、その脾臓からcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーからPCRによりVHのアミノ酸配列をコードするDNAを取得する。
【0309】
続いて、第2の抗原の免疫で得られたVHと第1の抗原結合部位のVLとを連結したscFvを発現するファージライブラリーを作製し、該ファージライブラリーを用いたパニングにより、第2の抗原に特異的に結合するscFvを提示したファージを選択する。選択したファージから、第2の抗原結合部位のVHのアミノ酸配列をコードするDNA配列をクローニングする。
【0310】
さらに、第1の抗原結合部位のVHと第2の抗原結合部位のVHとを上述のリンカーを介して連結したポリペプチドのアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計し、該DNA配列と単一のVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列とを、例えば上記2.(2)に記載の遺伝子組換え抗体発現ベクターに挿入することにより、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の発現ベクターを構築することができる。また2.(2)のCHをコードする遺伝子の代わりに、任意のポリペプチド鎖をコードする遺伝子を導入した動物細胞用発現ベクターを用いることにより、第二の抗原結合部位のVHのC末端側に任意のポリペプチド鎖(C末端側ポリペプチド)を有するバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を作製することができる。。
【0311】
4.本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価
精製したバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の活性評価は、以下のように行うことができる。
【0312】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現した細胞株に対する本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の結合活性は、前述の1.(7)記載のバインディングアッセイ系を用いて測定することができる。
【0313】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現した細胞に対するCDC活性、またはADCC活性は公知の測定方法[Cancer Immunol. Immunother., 36, 373(1993)]により測定することができる。
【0314】
本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片の細胞死誘導活性は次の方法で測定することができる。例えば、細胞を96穴プレートに播種し、抗体を添加して一定期間培養した後に、WST-8試薬(Dojindo社製)を反応させ、プレートリーダーにより450nmの吸光度を測定することにより、細胞の生存率を測定する。
【0315】
5.本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の治療方法
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片は、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患の治療に用いることができる。CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患としては、例えば、悪性腫瘍およびがんなどが挙げられる。
【0316】
悪性腫瘍およびがんとしては、例えば、大腸がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、グリオーマ、悪性黒色腫(メラノーマ)、甲状腺がん、腎細胞がん、白血病、リンパ腫、T細胞リンパ腫、胃がん、膵臓がん、子宮頚がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胆管がん、食道がん、肝臓がん、頭頚部扁平上皮がん、皮膚がん、尿路がん、膀胱がん、前立腺がん、絨毛がん、咽頭がん、喉頭がん、胸膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫およびウィルムス腫瘍などが挙げられる。
【0317】
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を含有する治療薬は、有効成分としての該抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の方法により製造した医薬製剤として提供される。
【0318】
投与経路としては、例えば、経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内若しくは静脈内などの非経口投与が挙げられる。投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏またはテープ剤などが挙げられる。各種製剤は、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、および安定化剤などを用いて常法により製造することができる。
【0319】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、ブドウ糖、コーンスターチ、ソルビット、結晶セルロース、滅菌水、エタノール、グリセロール、生理食塩水および緩衝液などが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、澱粉、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、炭酸マグネシウムおよび合成ケイ酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0320】
結合剤としては、例えば、メチルセルロースまたはその塩、エチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロースおよびポリビニルピロリドンなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコールおよび硬化植物油などが挙げられる。
【0321】
安定化剤としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニンなどのアミノ酸、ヒト血清アルブミン、ゼラチン、デキストラン40、メチルセルロース、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0322】
その他の添加剤としては、例えば、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硝酸ソーダおよびリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0323】
経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などが挙げられる。
【0324】
乳剤またはシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール若しくは果糖などの糖類、ポリエチレングリコール若しくはプロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油若しくは大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、またはストロベリーフレーバー若しくはペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造される。
【0325】
カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖若しくはマンニトールなどの賦形剤、デンプン若しくはアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム若しくはタルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース若しくはゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、またはグリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造される。
【0326】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤または噴霧剤などが挙げられる。注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、またはその両者の混合物からなる担体などを用いて製造される。
【0327】
座剤はカカオ脂、水素化脂肪またはカルボン酸などの担体を用いて製造される。噴霧剤は、受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体などを用いて製造される。担体としては、例えば、乳糖またはグリセリンなどが挙げられる。また、エアロゾルまたはドライパウダーとして製造することもできる。さらに、上記非経口剤においても、経口投与に適当な製剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0328】
本発明のバイスぺシフィック抗体の有効量と適切な希釈剤および薬理学的に使用し得るキャリアとの組合せとして投与される有効量は、1回につき体重1kgあたり0.0001mg~100mgであり、2日から8週間間隔で投与される。
【0329】
6.本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いた疾患の診断方法
本発明のバイスぺシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を用いて、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が発現した細胞を検出または測定することにより、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患、好ましくはCD40およびEpCAMの発現細胞が関与する疾患を診断することができる。
【0330】
CD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患である悪性腫瘍またはがんの診断は、例えば、以下のようにCD40およびEpCAMの少なくとも一方を検出または測定して行うことができる。
【0331】
まず、複数の健常者の生体から採取した生体試料について、本発明のバイスぺシフィック抗体若しくは該バイスペシフィック抗体断片、またはこれらの誘導体を用い、下記の免疫学的手法を用いて、CD40およびEpCAMの少なくとも一方の検出または測定を行い、健常者の生体試料中のCD40およびEpCAMの少なくとも一方の存在量を調べる。
【0332】
次に、被験者の生体試料中についても同様にCD40およびEpCAMの少なくとも一方の存在量を調べ、その存在量を健常者の存在量と比較する。被験者のCD40およびEpCAMの少なくとも一方の存在量が健常者と比較して増加している場合には、該被験者はがんであると診断される。その他のCD40およびEpCAMの少なくとも一方が関係する疾患の診断についても、同様の方法で診断できる。
【0333】
免疫学的手法とは、標識を施した抗原または抗体を用いて、抗体量または抗原量を検出または測定する方法である。例えば、放射性物質標識免疫抗体法、酵素免疫測定法、蛍光免疫測定法、発光免疫測定法、ウェスタンブロット法または物理化学的手法などが挙げられる。
【0334】
放射性物質標識免疫抗体法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を反応させ、さらに放射線標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、シンチレーションカウンターなどで測定する方法が挙げられる。
【0335】
酵素免疫測定法としては、例えば、抗原または抗原を発現した細胞などに、本発明のバイスペシフィック抗体または該バイスペシフィック抗体断片を反応させ、さらに標識を施した抗イムノグロブリン抗体または結合断片を反応させた後、発色色素を吸光光度計で測定する方法が挙げられる。例えば、サンドイッチELISA法などが挙げられる。
【0336】
酵素免疫測定法で用いる標識体としては、公知の酵素標識[酵素免疫測定法、医学書院(1987)]を用いることができる。例えば、アルカリフォスファターゼ標識、ペルオキシダーゼ標識、ルシフェラーゼ標識、またはビオチン標識などを用いる。
【0337】
サンドイッチELISA法は、固相に抗体を結合させた後、検出または測定対象である抗原をトラップさせ、トラップされた抗原に第2の抗体を反応させる方法である。該ELISA法では、検出または測定したい抗原に結合する抗体または抗体断片であって、抗原結合部位の異なる2種類の抗体を準備し、そのうち、第1の抗体または抗体断片をあらかじめプレート(例えば、96穴プレート)に吸着させ、次に第2の抗体または抗体断片をFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素、またはビオチンなどで標識しておく。上記の抗体が吸着したプレートに、生体内から分離された細胞若しくはその破砕液、組織若しくはその破砕液、細胞培養上清、血清、胸水、腹水、または眼液などを反応させた後、標識した抗体または抗体断片を反応させ、標識物質に応じた検出反応を行う。濃度既知の抗原を段階的に希釈して作製した検量線より、被験サンプル中の抗原濃度を算出する。
【0338】
サンドイッチELISA法に用いる抗体としては、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれを用いてもよく、Fab、Fab’、またはF(ab)などの抗体断片を用いてもよい。サンドイッチELISA法で用いる2種類の抗体の組み合わせとしては、異なるエピトープに結合するモノクローナル抗体または該抗体断片の組み合わせでもよいし、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体またはその抗体断片との組み合わせでもよい。
【0339】
蛍光免疫測定法としては、例えば、文献[Monoclonal Antibodies-Principles and practice, Third edition,Academic Press(1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などに記載された方法で測定する。蛍光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の蛍光標識[蛍光抗体法、ソフトサイエンス社(1983)]を用いることができる。例えば、FITCまたはRITCなどを用いる。
【0340】
発光免疫測定法としては、例えば、文献[生物発光と化学発光 臨床検査42、廣川書店(1998)]などに記載された方法で測定する。発光免疫測定法で用いる標識体としては、公知の発光体標識が挙げられ、例えば、アクリジニウムエステルまたはロフィンなどを用いる。
【0341】
ウェスタンブロット法としては、抗原または抗原を発現した細胞などをSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)-PAGE[Antibodies - A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]で分画した後、該ゲルをポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜またはニトロセルロース膜にブロッティングし、該膜に抗原に結合する抗体または抗体断片を反応させ、さらにFITCなどの蛍光物質、ペルオキシダーゼなどの酵素標識、またはビオチン標識などを施した抗IgG抗体またはその抗体断片を反応させた後、該標識を可視化することによって測定する。一例を以下に示す。
【0342】
まず、所望のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現している細胞や組織を溶解し、還元条件下でレーンあたりのタンパク量として0.1~30μgをSDS-PAGE法により泳動する。次に、泳動されたタンパク質をPVDF膜にトランスファーし1~10%BSAを含むPBS(以下、BSA-PBSと表記する)に室温で30分間反応させブロッキング操作を行う。ここで本発明のバイスペシフィック抗体を反応させ、0.05~0.1%のTween-20を含むPBS(Tween-PBS)で洗浄し、ペルオキシダーゼ標識したヤギ抗マウスIgGを室温で2時間反応させる。Tween-PBSで洗浄し、ECL Western Blotting Detection Reagents(アマシャム社製)などを用いて該抗体が結合したバンドを検出することにより、抗原を検出する。ウェスタンブロッティングでの検出に用いられる抗体としては、天然型の立体構造を保持していないポリペプチドに結合できる抗体が用いられる。
【0343】
物理化学的手法としては、例えば、抗原であるCD40およびEpCAMの少なくとも一方と本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片とを結合させることにより、凝集体を形成させて、該凝集体を検出する。この他に物理化学的手法として、毛細管法、一次元免疫拡散法、免疫比濁法またはラテックス免疫比濁法[臨床検査法提要、金原出版(1998)]などを用いることもできる。
【0344】
ラテックス免疫比濁法では、抗体または抗原を感作させた粒径0.1~1μm程度のポリスチレンラテックスなどの担体を用い、対応する抗原または抗体により抗原抗体反応を起こさせると、反応液中の散乱光は増加し、透過光は減少する。この変化を吸光度または積分球濁度として検出することにより、被験サンプル中の抗原濃度などを測定する。
【0345】
一方、CD40およびEpCAMの少なくとも一方が発現している細胞の検出または測定には、公知の免疫学的検出法を用いることができるが、好ましくは免疫沈降法、免疫細胞染色法、免疫組織染色法または蛍光抗体染色法などを用いる。
【0346】
免疫沈降法としては、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現した細胞などを本発明のバイスペシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片と反応させた後、プロテインGセファロースなどのイムノグロブリンに特異的な結合能を有する担体を加えて、抗原抗体複合体を沈降させる。
【0347】
または、以下のような方法によっても行なうことができる。まず、ELISA用96穴プレートに本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片を固相化した後、BSA-PBSによりブロッキングする。次に、BSA-PBSを捨てPBSでよく洗浄した後、CD40およびEpCAMの少なくとも一方を発現している細胞や組織の溶解液を反応させる。よく洗浄した後のプレートより、免疫沈降物をSDS-PAGE用サンプルバッファーで抽出し、上記のウェスタンブロッティングにより検出する。
【0348】
免疫細胞染色法または免疫組織染色法とは、抗原を発現した細胞または組織などを、場合によっては抗体の透過性を良くするために界面活性剤やメタノールなどで処理した後、本発明のバイスぺシフィック抗体と反応させ、さらにFITCなどの蛍光標識、ペルオキシダーゼなどの酵素標識またはビオチン標識などを施した抗イムノグロブリン抗体またはその結合断片と反応させた後、該標識を可視化し、顕微鏡にて顕鏡する方法である。また、蛍光標識の抗体と細胞を反応させ、フロ―サイトメーターにて解析する蛍光抗体染色法[Monoclonal Antibodies - Principles and practice, Third edition,Academic Press (1996)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]により検出を行うことができる。特に、本発明のバイスぺシフィック抗体またはそのバイスペシフィック抗体断片は、蛍光抗体染色法により、細胞膜上に発現しているCD40およびEpCAMの少なくとも一方を検出することができる。
【0349】
また、蛍光抗体染色法のうち、FMAT8100HTSシステム(アプライドバイオシステム社製)などを用いた場合には、形成された抗体-抗原複合体と、抗体-抗原複合体の形成に関与していない遊離の抗体または抗原とを分離することなく、抗原量または抗体量を測定することができる。
【実施例
【0350】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0351】
[実施例1]可溶性ヒトおよびサルCD40抗原ならびに可溶性ヒト、サルおよびマウスEpCAM抗原の調製
1.ヒトCD40およびサルCD40の可溶性抗原の調製
C末端端にFLAG-Fcが付加されたヒトおよびサルCD40の細胞外ドメインタンパク質をそれぞれ以下に記載する方法で作製した。ヒトCD40細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号1に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号2に、サルCD40細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号3に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0352】
(1)ヒトおよびサルCD40-FLAG-Fcベクターの作製
ヒトCD40遺伝子配列(Genbank Accession Number:NM_001250、配列番号5;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号6に示す)を基に配列番号1で示される塩基配列からなるヒトCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を作製した。
【0353】
FLAG-tagおよびヒトIgGのFc領域を含むINPEP4ベクター(Biogen-IDEC社製)を制限酵素KpnIおよびXbaIで消化し、配列番号1で示される塩基配列の1~60番目の塩基配列からなるヒトCD40シグナル配列コード領域を加えた該細胞外ドメインの遺伝子断片を適切な部位に挿入して、ヒトCD40-FLAG-Fc発現ベクターを作製した。
【0354】
同様の方法で、サル末梢血単核球(PBMC)からクローニングしたサルCD40遺伝子配列(配列番号7;該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号8に示す)を基に、配列番号3で示される塩基配列からなるサルCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を含むサルCD40-FLAG-Fc発現ベクターを作製した。
【0355】
(2)ヒトおよびサルCD40-FLAG-Fcタンパク質の作製
FreeStyle(商標) 293 Expression System (Thermo Fisher社製)を用いて、1-(1)で作製したヒトCD40-FLAG-Fc発現ベクターをHEK293細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。ベクター導入5日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した。
【0356】
この培養上清をProtein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いてアフィニティー精製を行った。プロテインAに吸着させた抗体を、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水[D-PBS(-) without Ca and Mg,liquid;以下D-PBS(-)と記載する。ナカライテスク社製]にて洗浄し、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.4)により溶出して、1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0357】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いた限外ろ過により、D-PBS(-)に置換した後、孔径0.22μmのメンブレンフィルターMillex-Gv(Millipore社製)でろ過滅菌し、ヒトCD40-FLAG-Fcタンパク質を作製した。同様の方法で、1-(1)で作製したサルCD40-FLAG-Fc発現ベクターを用い、サルCD40-FLAG-Fcタンパク質を作製した。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0358】
(3)ヒトおよびサルCD40-GSTベクターの作製
GST領域を含むN5ベクター(Biogen-IDEC社製)を制限酵素BglIIおよびKpnIで消化して、1-(1)記載の配列番号1で示される塩基配列からなるヒトCD40の細胞外ドメインの遺伝子断片を適切な部位に挿入し、ヒトCD40-GST発現ベクターを作製した。同様の方法で、配列番号3で示される塩基配列からなる細胞外ドメインの遺伝子断片を含むサルCD40-GST発現ベクターを作製した。
【0359】
(4)ヒトおよびサルCD40-GSTタンパク質の作製
1-(3)で作製したヒトCD40-GSTベクターを、1-(2)と同様の方法でHEK293細胞に導入し、該細胞を培養後、培養上清をメンブランフィルターでろ過した。この培養上清をGlutathione Sepharose 4B(GEヘルスケア社製)に反応させ、D-PBS(-)で洗浄して、溶出緩衝液として10mM Glutathione in 50mM Tris-HCI(pH8.0)を用いてアフィニティー精製した。
【0360】
溶出された融合タンパク溶液に対し1-(2)と同様の方法で限外ろ過およびメンブレンフィルターによるろ過滅菌を行い、ヒトCD40-GSTタンパク質を得た。また、サルCD40-GSTベクターを用い、同様の方法でサルCD40-GSTタンパク質を得た。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて算出した。
【0361】
2.ヒト、サルおよびマウスEpCAMの可溶性抗原の調製
C末端にFLAG-FcまたはGSTが付加されたヒト、サルまたはマウスEpCAMの細胞外ドメインタンパク質をそれぞれ以下に記載する方法で作製した。ヒトEpCAM細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号9に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号10に、サルEpCAM細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号11に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号12に、マウスEpCAM細胞外ドメインをコードする塩基配列を配列番号13に、当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号14に示す。
【0362】
配列番号15に示すヒトEpCAM遺伝子(Genbank Accession Number:NM_002354、該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号16に示す)、配列番号17に示すサルEpCAM遺伝子(Genbank Accession Number:XM_015433685、該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号18に示す)および配列番号19に示すマウスEpCAM遺伝子(Genbank Accession Number:NM_008532、該遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号20に示す)を基に、1-(1)および(2)に記載の方法と同様にして、ヒト、サルおよびマウスEpCAM-FLAG-Fcタンパク質をそれぞれ得た。
【0363】
なお、EpCAM-FLAG-Fc発現ベクターには、シグナル配列コード領域として、配列番号15に示す塩基配列の1~63番目からなる塩基配列を組み込んだ。また、1-(3)および(4)に記載の方法と同様にして、ヒト、サルおよびマウスEpCAM-GSTタンパク質をそれぞれ得た。取得したタンパク質の濃度は、波長280nmの吸光度を測定して、各タンパク質のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用い算出した。
【0364】
[実施例2]膜発現ヒトEpCAM発現HEK293細胞の作製
pEF6/V5-His TOPO TA Expression Kit(Invitrogen社製)を用いて配列番号15に示すヒトEpCAMの遺伝子をTOPOクローニングし、順方向にヒトEpCAM遺伝子が挿入されているクローンを選択することにより、膜発現用ヒトEpCAM発現ベクターpEF6-ヒトEpCAM fullを得た。
【0365】
取得した発現ベクターpEF6-ヒトEpCAM fullを、FreeStyle(商標) 293 Expression System(Thermo Fisher社製)を用いてHEK293細胞に導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。遺伝子導入後、24時間振とう培養し、遠心分離によりヒトEpCAM/HEK293細胞を得た。
【0366】
[実施例3]抗CD40抗体の取得
1.CD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
ヒト抗体産生マウス[Ishida & Lonberg, IBC’s 11th Antibody Engineering, Abstract 2000; Ishida, I. et al., Cloning & Stem Cells 4, 85-96 (2002)および石田 功(2002)実験医学20,6,846-851]に、免疫原として、実施例1で作製したヒトCD40-FLAG-Fcを計4回腹腔内投与した。初回免疫時のみ、アジュバントとしてAlumゲル(2mg/匹)および百日咳ワクチン(1×10個/匹)を添加した。
【0367】
初回免疫から2週間後に2回目免疫、その1週間後に3回目免疫、3回目免疫から10日後に最終免疫を行い、最終免疫から4日後に解剖して脾臓を外科的に摘出した。摘出した脾臓をセルストレイナー(ファルコン社製)上に乗せてシリコン棒で軽く潰しながら細胞をチューブへ移し、遠心分離して細胞を沈殿させた後、赤血球除去試薬(シグマアルドリッチ社製)と氷中で3分間反応させ、更に遠心分離を行った。
【0368】
得られた脾臓細胞からRNeasy Mini kit(QIAGEN社製)を用いてRNAを抽出し、SMARTer RACE cDNA増幅キット(Clontech社製)にてcDNAを増幅し、さらにPCRにてVH遺伝子断片を増幅させた。該VH遺伝子断片およびヒトの抗体germ-line配列であり、配列番号21で示される塩基配列からなるL6配列を含むVL遺伝子断片をファージミドpCANTAB 5E(Amersham Pharmacia社製)に挿入し、大腸菌TG1(Lucigen社製)を形質転換してプラスミドを得た。
【0369】
なお、L6配列は配列番号22で示されるアミノ酸配列からなる、ヒト抗体の軽鎖可変領域(VL)をコードしており、該VLのCDR1、2および3(それぞれLCDR1、2および3とも表す)のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号23、24および25で示される。
【0370】
得られたプラスミドをVCSM13 Interference Resistant Helper Phage(Agilent Technologies社製)に感染させることで、L6配列からなるVL遺伝子を有し、VH遺伝子がライブラリー化されたCD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0371】
2.抗CD40モノクローナル抗体の取得
このCD40免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用いて、下記のファージディスプレイ法により、L6にコードされるVLを有する抗CD40モノクローナル抗体を取得した。実施例1で取得したヒトCD40-GSTを固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒトCD40-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP STARTUBE(NUNC社製)と、ヒト抗体M13ファージライブラリーを室温下で1~2時間反応させ、D-PBS(-)および0.1% Tween20含有PBS(以下PBS-Tと記載する。和光純薬工業社製)でそれぞれ3回洗浄後に0.1MのGly-HCl(pH2.2)でファージを溶出した。
【0372】
溶出したファージは、TG1コンピテントセルに感染させ、ファージを増幅し、再度MAXISORP STARTUBEに固相化したヒトCD40-GSTと反応させて、D-PBS(-)およびPBS-Tでそれぞれ5回洗浄後に0.1MのGly-HCl(pH2.2)によるファージの溶出を行った。
【0373】
この操作を2回または3回繰り返し、ヒトCD40に特異的に結合するscFvを提示したファージを濃縮した。濃縮されたファージをTG1に感染させ、SOBAGプレート(2.0% トリプトン、0.5% Yeast extract、0.05% NaCl、2.0% グルコース、10mM MgCl、100μg/mL アンピシリン、1.5% アガー)に播種してコロニーを形成させた。
【0374】
コロニーを植菌して培養後、VCSM13 Interference Resistant Helper Phageを感染させて、再度培養することで単クローンのファージを得た。得られた単クローンのファージを用いて、ELISAにてヒトおよびサルCD40-GSTのいずれにも結合するクローンを選択した。
【0375】
ELISAには、実施例1のヒトまたはサルCD40-GSTを各ウェルに固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒトまたはサルCD40-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP(NUNC社製)を用いた。各ウェルに各々のファージクローンを加え、室温下で30分間反応させた後、各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。
【0376】
次いで、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識された抗M13抗体(GEヘルスケア社製)を10%ブロックエース(大日本製薬株式会社製)含有PBS-Tで5000倍に希釈し、各ウェルに50μLずつ加え、室温下30分間インキュベートした。マイクロプレートを、PBS-Tで4回洗浄後、TMB発色基質液(DAKO社製)を各ウェルに50μLずつ加え、室温下で10分間インキュベートした。各ウェルに2N HCl溶液(50μL/well)を加えて発色反応を止め、波長450nm(参照波長570nm)での吸光度をプレートリ-ダ-(Emax;Molecular Devices社)で測定した。
【0377】
ヒトおよびサルCD40のいずれにも結合したクローンについて、配列解析を行い、L6にコードされるVLを有する抗CD40抗体R1066、R1090S55A、R2089およびR2178を取得した。表1に、取得したそれぞれのCD40抗体のVHをコードする全塩基配列および当該塩基配列から推定されるアミノ酸配列、ならびにVHのCDR1~3(以下ではHCDR1~3と記載することもある)のアミノ酸配列を示す。
【0378】
【表1】
【0379】
取得した抗CD40抗体R1066、R1090S55A、R2089およびR2178の遺伝子が組み込まれた可溶性IgGの発現ベクターをそれぞれ作製した。まず、R1066、R1090S55A、R2089およびR2178の共通のVLをコードするL6遺伝子をN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)のBglII-BsiWIサイトにサブクローニングした。
【0380】
その後、R1066、R1090S55A、R2089およびR2178のそれぞれのVH遺伝子をN5KG4PE R409KのSalI-NheIサイトへサブクローニングして、ヒトIgG4PE R409Kの定常領域をもつ抗CD40モノクローナル抗体R1066、R1090S55A、R2089およびR2178の発現ベクターであるN5KG4PE R409K_R1066、N5KG4PE R409K_R1090S55A、N5KG4PE R409K_R2089およびN5KG4PE R409K_R2178をそれぞれ得た。
【0381】
また、国際公開第2003/040170号に記載された抗CD40モノクローナル抗体21.4.1を抗CD40抗体の陽性コントロール抗体として作製するため、発現ベクターを作製した。21.4.1のVHの塩基配列を配列番号46に、該配列から推定されたVHのアミノ酸配列を配列番号47に、それぞれ示す。また、21.4.1のVLの塩基配列を配列番号48、該配列から推定されたVLのアミノ酸配列を配列番号49にそれぞれ示す。
【0382】
21.4.1のVHおよびVLをコードする遺伝子を合成し、N5KG2ベクター(国際公開第2003/033538号に記載)のSalI-NheIおよびBglII-BsiWIサイトにそれぞれサブクローニングして、ヒトIgG2の定常領域をもつ抗CD40モノクローナル抗体21.4.1の発現ベクターN5KG2_21.4.1を得た。
【0383】
[実施例4]抗EpCAM抗体の取得
1.EpCAM免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーの作製
実施例1のヒトEpCAM-Fcを用い、実施例3の1と同様の方法により、L6配列からなるVL遺伝子を有しVH遺伝子がライブラリー化されたEpCAM免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを得た。
【0384】
2.抗EpCAM抗体の取得
実施例1で取得したマウスEpCAM-GSTを固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてマウスEpCAM-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP STARTUBE(NUNC社製)と、EpCAM免疫ヒト抗体M13ファージライブラリーを用い、実施例3の2と同様の方法によりマウスEpCAMに特異的に結合するscFvを提示したファージを単クローン化した。
【0385】
なお、一部実験ロットでは、2回目以降のマウスEpCAM-GSTを用いたバイオパニング操作の代わりに、溶出したファージを、実施例2のヒトEpCAM/HEK293をCFSE染色した細胞とEpCAM陰性のHEK293細胞に添加し、氷中で1時間反応後に洗浄し、CFSE陽性細胞をFACS Aria III(BD社製)にてsortingし、0.1MのGly-HCl(pH2.2)でファージを溶出する操作によりヒトEpCAMに特異的に結合するファージの濃縮を行った。単クローン化したファージから、ELISAにてヒト、サル、およびマウスEpCAM-GSTへの結合性を有するクローンを選択した。
【0386】
ELISAは、実施例1のヒト、サル、またはマウスEpCAM-GSTを固相化し、SuperBlock Blockig Buffer(Thermo Fisher社製)を用いてヒト、サル、またはマウスEpCAM-GSTが結合していない部位をブロックしたMAXISORP(NUNC社製)を用い、実施例3の2と同様の方法により行った。
【0387】
ヒト、サル、およびマウスEpCAMのいずれにも結合したクローンについて、配列解析を行い、L6にコードされるVLを有する抗EpCAM抗体Ep59、Ep203、Epc051およびEpc112を取得した。表1と同様の表示方法で、各EpCAM抗体のVHの配列情報を表2に示す。
【0388】

【表2】
【0389】
また、抗EpCAM抗体の陽性コントロール抗体として、国際公開第2003/040725号に記載された抗EpCAMモノクローナル抗体3622W94の可変領域をもつ抗体を作製した。3622W94のVHの塩基配列を配列番号70に、該配列から推定されたVHのアミノ酸配列を配列番号71に、それぞれ示す。また、3622W94のVLの塩基配列を配列番号72、該配列から推定されたVLのアミノ酸配列を配列番号73にそれぞれ示す。
【0390】
3622W94のVHおよびVLをコードする遺伝子を合成し、国際公開第2010/143698号に記載されているTol2トランスポゾン発現ベクターpKTABEX-TC26の制限酵素サイトBglII-BsiWIにVLを、制限酵素サイトSalI-NheIにVHをそれぞれサブクローニングし、ヒトIgG1の定常領域をもつ抗EpCAMモノクローナル抗体3622W94の発現ベクターpKTABEX-TC26_3622W94を得た。
【0391】
[実施例5]CD40およびEpCAMに結合するバイスぺシフィック抗体の発現ベクターの構築
図1(A)および図1(B)に記載する構造を有する、ヒトおよびサルCD40の少なくとも一方ならびにヒト、サルおよびマウスEpCAMの少なくともいずれか1つに結合するバイスペシフィック抗体を以下の方法で作製した。バイスペシフィック抗体の形状には国際公開第2009/131239号に記載の形状を採用した。
【0392】
当該バイスペシフィック抗体のうち、N末端側から順に、VH1、CH1、VH2、CH1、ヒンジ、CH2およびCH3のアミノ酸配列を含む2本の重鎖ならびに4本の軽鎖からなる抗体をN末端型バイスペシフィック抗体と称する。また、N末端側から順にVH1、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、VH2およびCH1のアミノ酸配列を含む2本の重鎖ならびに4本の軽鎖からなる抗体をC末端型バイスペシフィック抗体と称する。VH1およびVH2は抗CD40抗体のVHまたは抗EpCAM抗体のVHのいずれかであり、片方が抗CD40抗体のVH、もう一方が抗EpCAM抗体のVHである。
【0393】
以下の記載では、VH1とVH2の間をつなぐポリペプチドをリンカーと称し、リンカーのアミノ酸配列をコードする遺伝子をリンカー遺伝子と称する。また、VH2のC末端側に結合するポリペプチドをC末端側ポリペプチドと称し、C末端側ポリペプチドをコードする遺伝子をC末端側配列遺伝子と称する。
【0394】
以下の工程で作製されるN末端型バイスペシフィック抗体はリンカーとして、IgG4のCH1(塩基配列を配列番号74、アミノ酸配列を配列番号75で示す)を有する。またVH2のC末端側ポリペプチドとして国際公開第2006/033386号記載のIgG4PE R409KのCH(CH1、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるポリペプチド(塩基配列を配列番号76、アミノ酸配列を配列番号77で示す)を有する。
【0395】
C末端型バイスペシフィック抗体はリンカーとして、IgG4PE R409KのCHからなるポリペプチド(塩基配列を配列番号76、アミノ酸配列を配列番号77で示す)を有する。また、C末端側ポリペプチドとしてIgG4のCH1(塩基配列を配列番号74、アミノ酸配列を配列番号75で示す)を有する。また、以下の工程で作成されるバイスペシフィック抗体は、L6にコードされるVLを含む軽鎖を有する。
【0396】
当該バイスペシフィック抗体の名称、当該バイスペシフィック抗体の構造、当該バイスペシフィック抗体作製に使用した抗CD40抗体のクローンおよび抗EpCAM抗体のクローンを表3に示す。なお以下では、N末端型バイスペシフィック抗体の名称にNtと付記することもある。
【0397】

【表3】
【0398】
1.N末端型バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表3に記載されたバイスペシフィック抗体のうち、N末端型バイスペシフィック抗体について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0399】
実施例3で取得したR1066、R1090S55A、R2089およびR2178ならびに実施例4で取得したEp59、Ep203、Epc051およびEpc112の共通のVLをコードするL6遺伝子(配列番号21)をN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)のBglII-BsiWIサイトにサブクローニングした。
【0400】
その後、リンカーであるヒトIgG4のCH1と同じアミノ酸配列をコードし、使用コドンを変更したリンカー遺伝子(配列番号74)を合成した。このリンカー遺伝子および実施例3で取得した抗CD40抗体または実施例4で取得した抗EpCAM抗体のVH遺伝子を鋳型とし、KOD FX Neo DNA Polymerase(東洋紡社製)を用いて、PCRによりリンカー遺伝子およびVH2部分の遺伝子断片を増幅させた。増幅させた遺伝子断片を、NheIで開裂させたN5KG4PE R409Kに連結することにより、N末端型バイスペシフィック抗体発現プラスミドベクターを得た。
【0401】
2.C末端型バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表3に記載されたバイスペシフィック抗体のうち、C末端型バイスペシフィック抗体について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0402】
実施例3で取得した抗CD40抗体R1066、R1090S55A、R2089およびR2178ならびに実施例4で取得した抗EpCAM抗体Ep59、Ep203、Epc051およびEpc112の共通のVLをコードするL6遺伝子(配列番号21)をN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号に記載)のBglII-BsiWIサイトにサブクローニングした。
【0403】
その後、C末端側ポリペプチドであるヒトIgG4のCH1と同じアミノ酸配列をコードし、使用コドンを変更した、停止コドンを含むC末端側配列遺伝子(配列番号78)を合成した。実施例3で取得した抗CD40抗体、または実施例4で取得した抗EpCAM抗体のVH遺伝子および合成したC末端側配列遺伝子を鋳型とし、KOD FX Neo(東洋紡社製)を用いて、PCRによりVH2およびC末端側配列遺伝子断片を増幅させた。
【0404】
さらに、N5KG4PE R409Kを鋳型として、KOD FX Neo(東洋紡社製)を用いて、PCRによりリンカー遺伝子断片を増幅させた。増幅させた遺伝子断片を、NheIおよびBamHIで開裂させたN5KG4PE R409Kに連結することにより、表3に記載するC末端型バイスペシフィック抗体発現プラスミドベクターを得た。
【0405】
[実施例6]CD40に結合するモノクローナル抗体、EpCAMに結合するモノクローナル抗体およびCD40とEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体の調製
実施例3から実施例5で抗体発現プラスミドベクターN5KG4PE R409KおよびN5KG2のいずれかにサブクローニングした抗CD40モノクローナル抗体、抗EpCAMモノクローナル抗体、ならびにCD40およびEpCAMの各結合部位を有するバイスペシフィック抗体(CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体)をそれぞれ発現させ、精製した。
【0406】
1.抗CD40モノクローナル抗体およびCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の作製
抗CD40モノクローナル抗体の発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293細胞に共遺伝子導入し、16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体を発現させた。
【0407】
ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Aに吸着させた抗体を、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.0)により溶出し、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。
【0408】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いて濃縮し、Nap Column(GEヘルスケア社製)を用いてD-PBS(-)へ緩衝液を置換した。さらに、AKTA FPLC(GEヘルスケア社製)およびSuperdex High-performance Columns(GEヘルスケア社製)を用いて、該抗体溶液より単量体画分を分取した。AKTAシステム孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millex-GV、MILLIPORE社製)でろ過滅菌することにより精製抗体を得た。
【0409】
抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体の濃度を算出した。CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体も同様の方法で作製した。
【0410】
2.抗EpCAMモノクローナル抗体の作製
実施例4で作製した抗EpCAMモノクローナル抗体3622W94発現ベクターpKTABEX-TC26_3622W94をTol2トランスポゼース発現ベクターと共に、CHO-K1細胞にエレクロポレーション法によりtransfectionした。3μg/ml シクロヘキシミド(シグマアルドリッチ社製)を添加した培地で耐性株を選択した。14-21日後に可溶性IgG FcサンドウィッチELISAにより、抗体産生wellを選択した。
【0411】
抗体産生量の多いwellは、拡大培養を行い、さらに抗体量を再度測定して、発現量の多い株を3622W94発現株として樹立した。樹立した3622W94発現株は、EXCEL302培地(シグマアルドリッチ社製)で培養して、上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE社製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。
【0412】
Protein Aに吸着させた抗体を、20mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.0)により溶出し、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を含むチューブに回収した。次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いて濃縮し、Nap Column(GEヘルスケア社製)を用いてD-PBS(-)へ緩衝液を置換した。
【0413】
さらに、AKTA FPLC(GEヘルスケア社製)およびSuperdex High-performance Columns(GEヘルスケア社製)を用いて、該抗体溶液より単量体画分を分取した。孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millex-GV、MILLIPORE社製)でろ過滅菌を行うことにより精製抗体を得た。抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体の濃度を算出した。
【0414】
[実施例7]フローサイトメーターによる細胞株のCD40およびEpCAM発現評価
バーキットリンパ腫細胞Ramos細胞(ATCC No.CCL-1596)、ヒト大腸癌細胞Colo205細胞(ATCC No.CCL-222)、ヒト胚性腎細胞HEK293細胞(ATCCNo.CRL-1573)および実施例2で得たヒトEpCAM/HEK293細胞の細胞表面上のCD40およびEpCAMの発現を、以下の手順に従いfluoresence activated cell sorting(FACS)法により評価した。評価には実施例6で得た抗CD40抗体21.4.1および抗EpCAM抗体3622W94を用いた。
【0415】
Ramos細胞を、1×10cells/mLの濃度で0.1% NaN、1% FBS含有D-PBS(-)のStaining Buffer(SB)に懸濁し、100μL/wellで96穴丸底プレート(ファルコン社製)に分注した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへ実施例6で得た10μg/mLの抗CD40抗体21.4.1及び抗EpCAM抗体3622W94を50μL/well加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0416】
さらに遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)して上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した後に、1μg/mLのGoat F(ab’) Anti-Human IgG(γ chain specific) R-phycoerythrin(R-PE) Conjugate(Southern Biotech社製)を50μL/wellで加え、氷温下30分間インキュベートした。SBで2回洗浄した後、200μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II、(ベクトンディッキンソン社製)で各細胞の蛍光強度を測定した。
【0417】
同様にして、Colo205細胞、HEK293細胞およびヒトEpCAM/HEK293細胞をそれぞれ評価した。陰性コントロールにはMol Immunol. 1996 Jun;33(9):759-68.に記載の2,4-dinitrophenol(DNP)抗体のVLおよびVH(GenBankアクセッションNo.:VL U16688、VH U116687)をコードするベクターを用い、国際公開第2006/033386号の実施例5記載の方法に準じて作製したIgG4抗体S228P、L235E、R409K変異体(以下抗DNP抗体と記載する)を使用した。
【0418】
図2(A)にはRamos細胞、図2(B)にはColo205細胞、図2(C)にはHEK293細胞、図2(D)にはヒトEpCAM/HEK293細胞に対して測定した結果を示した。
【0419】
図2(A)に示すように、Ramos細胞に対しては、抗CD40抗体である21.4.1が結合活性を示し、抗EpCAM抗体である3622W94は結合活性を示さなかった。一方で、図2(B)および図2(D)に示すように、Colo205細胞およびヒトEpCAM/HEK293細胞に対しては、21.4.1は結合活性を示さず、3622W94は結合活性を示した。また、図2(C)に示すように、HEK293細胞に対しては、21.4.1および3622W94はいずれも結合活性を示さなかった。
【0420】
これにより、Ramos細胞はCD40陽性でEpCAM陰性、Colo205細胞およびヒトEpCAM/HEK293細胞はCD40陰性でEpCAM陽性、HEK293細胞はCD40およびEpCAMのいずれも陰性であることが確認できた。
【0421】
[実施例8]フローサイトメトリーによるCD95発現量解析によるCD40モノクローナル抗体のCD40シグナル誘導活性の評価
Ramos細胞上のCD95の発現量増加を指標として、実施例6で得られたCD40モノクローナル抗体のCD40シグナル誘導能を以下のようにFCM法で評価した。
【0422】
2×10cells/mLのRamos細胞を50μL/wellでU底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈した0.2、2または20μg/ml(終濃度0.1、1または10μg/ml)の被験抗体を50μg/mL添加し、37℃、5.0%炭酸ガス下で16時間培養した。
【0423】
遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへPE mouse anti-human CD95(ベクトンディッキンソン社製)抗体を加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0424】
さらに遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)して上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した後、100倍希釈した7-アミノアクチノマイシン(7AAD)(ベクトンディッキンソン社製)を200μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)でRamos細胞上のCD95の蛍光強度を測定した。陰性コントロールには抗DNP抗体を使用した。
【0425】
図3(A)には抗CD40抗体21.4.1、R1066、R2089およびR2178、図3(B)には抗CD40抗体21.4.1、R1066およびR1090S55Aならびに抗EpCAM抗体3622W94の評価結果を示す。
【0426】
これらの評価結果より、被験抗体21.4.1、R1066、R2089、R2178、R1090S55Aおよび3622W94の内、抗CD40アゴニスト抗体21.4.1を添加した時のみ、Ramos細胞上のCD95の発現が上昇することがわかった。
【0427】
すなわち、21.4.1のみがCD40のシグナルを誘導するアゴニスト抗体であり、実施例3において取得された抗CD40モノクローナル抗体R1066、R2089、R2178およびR1090S55Aは、CD40へのシグナルを誘導しない非アゴニスト抗体であることが示された。また、CD40リガンドの存在下で同様の試験を行ったところ、抗CD40モノクローナル抗体R1066、R2089、R2178およびR1090S55AはいずれもCD40リガンドによるRamos細胞上のCD95の発現を阻害しなかった(データ記載なし)。すなわち、抗CD40モノクローナル抗体R1066、R2089、R2178およびR1090S55Aはいずれも、CD40リガンドによるCD40へのシグナル誘導を阻害しない、非アンタゴニスト抗体であることが示された。
【0428】
[実施例9]ビアコアによるCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のEpCAMに対する結合性の評価
実施例6で得られたCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のヒト、サルおよびマウスEpCAMそれぞれに対する結合活性と種交差性を確認することを目的として、実施例1で作製したヒト、サルおよびマウスEpCAM-GSTを用いて、表面プラズモン共鳴法(SPR法)による結合性試験を実施した。測定機器として、BiacoreT100(GEヘルスケア社製)を使用した。
【0429】
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケア社製)を用いて、添付文書に従いCM5センサーチップ(GEヘルスケア社製)に固定化した。フローセルに、1~3μg/mLに調製した被験抗体を10μL/minの流速で10秒間添加した。
【0430】
次いで、アナライトとして10または100nMより5段階に2倍希釈したヒト、サルおよびマウスEpCAM-GSTタンパク質溶液(0.1%BSAを含むHBS-EP+(GEヘルスケア社製)で希釈)をそれぞれ30μL/minの流速で添加し、各抗体とアナライトとの結合反応を2分間、解離反応を10分間測定した。
【0431】
測定はシングルサイクルカイネティクス法で行った。得られたセンサーグラムを、Bia Evaluation Software(GEヘルスケア社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。
【0432】
算出された各バイスペシフィック抗体のヒト、サルおよびマウスEpCAMそれぞれに対する解離定数[kd/ka=K]ならびにヒトEpCAMに対する解離定数をサルEpCAMまたはマウスEpCMに対する解離定数で割った値を表4に示す。
【0433】

【表4】
【0434】
表4に示す通り、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のヒト、サルおよびマウスEpCAMに対するK値は、マウスEpCAMに対するR2178-Ep59およびR2178-Ep203の結合を除き、10-8Mオーダー以下の強い結合を示した。
【0435】
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は、R1066-Ep59、R1066-Epc051およびR1090S55A-Epc051以外はサルEpCAMに対するK値がヒトEpCAMに対するK値の1/5~5倍の間にあり、高いヒト-サルEpCAMの種交差性があることが示された。
【0436】
また、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は、R2178-Ep59およびR2178-Ep203以外はマウスEpCAMに対するK値がヒトEpCAMに対するK値の1/5~5倍の間にあり、高いヒト-マウスEpCAMの種交差性があることが示された。
【0437】
[実施例10]ビアコアによるCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のCD40に対する結合性の評価
実施例6で得られたCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のヒトおよびサルCD40それぞれに対する結合活性ならびに種交差性を確認することを目的として、実施例1で作製したヒトおよびサルCD40-GSTを用いて、表面プラズモン共鳴法(SPR法)による結合性試験を実施した。測定機器として、BiacoreT100(GEヘルスケア社製)を使用した。
【0438】
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケア社製)を用いて、添付文書に従いCM5センサーチップ(GEヘルスケア社製)に固定化した。フローセルに、1~3μg/mLに調製した被験抗体を10μL/minの流速で10秒間添加した。
【0439】
次いで、アナライトとして1.25nMより5段階に2倍希釈したヒトおよびサルCD40-GSTタンパク質溶液(0.1%BSAを含むHBS-EP+で希釈)をそれぞれ30μL/min分の流速で添加し、各抗体とアナライトとの結合反応を2分間、解離反応を10分間測定した。測定はシングルサイクルカイネティクス法で行った。
【0440】
得られたセンサーグラムを、Bia Evaluation Software(GEヘルスケア社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。算出された各バイスペシフィック抗体のヒトおよびサルCD40それぞれに対する解離定数[kd/ka=K]ならびにヒトCD40に対する解離定数をサルCD40に対する解離定数で割った値を表5に示す。
【0441】

【表5】
NC:Not Calculated
【0442】
表5に示す通り、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体R1066-Ep59、R1066-Ep203、R1066-Epc051、R1066-Epc112、R1090S55A-Ep59、R1090S55A-Ep203、R1090S55A-Epc051、R1090S55A-Epc112、R2089-Ep59、R2089-Ep203、R2089-Epc051、R2089-Epc112、R2178-Ep203、R2178-Epc051、R2178-Epc112、Ep59-R2089、Ep59-R2178、Ep203-R2089、Ct R1066-Ep59、Ct R1066-Ep203、Ct R1090S55A-Ep59およびCt R1090S55A-Ep203それぞれの、ヒトCD40およびサルCD40に対するK値はいずれも、10-9Mオーダー以下の強い結合を示した。
【0443】
また、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体R1066-Ep59、R1066-Ep203、R1066-Epc112、R1090S55A-Ep59、R1090S55A-Ep203、R1090S55A-Epc051、R1090S55A-Epc112、R2089-Ep59、R2089-Ep203、R2089-Epc051、R2089-Epc112、R2178-Epc051、R2178-Epc112、Ep59-R2089、Ep59-R2178、Ct R1066-Ep59、Ct R1066-Ep203、Ct R1090S55A-Ep59およびCt R1090S55A-Ep203それぞれのサルCD40に対するK値は、ヒトCD40に対するK値の1/5~5倍の間にあり、高いヒト-サルCD40の種交差性があることが示された。
【0444】
[実施例11]フローサイトメトリーによるCD95発現量解析によるCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性の評価
Ramos細胞上のCD95の発現量増加を指標として、実施例6で得られたCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のEpCAM陽性または陰性細胞共存下におけるRamos細胞へのCD40シグナル誘導活性を以下のようにFCM法で評価した。
【0445】
4×10cells/mLのRamos細胞を25μL/wellでU底96wellプレート(ファルコン社製)に播種し、10%FBSを含むRPMI1640培地(シグマアルドリッチ社製)で希釈した0.2、2または20μg/mL(終濃度0.1、1または10μg/mL)の被験抗体を50μg/mL添加し、さらにExpi293細胞、ヒトEpCAM発現HEK293細胞またはColo205細胞4×10cells/mLを25μL/wellで加え、37℃、5.0%炭酸ガス下で16時間培養した。
【0446】
遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した。遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)の後、上清を除去し、ペレットへPE mouse anti-human CD95抗体(ベクトンディッキンソン社製)およびFITC mouse anti-human CD20を加えて懸濁した後、氷温下で30分間静置した。
【0447】
さらに遠心分離(2000rpm、4℃、2分間)して上清を除去し、ペレットを200μL/wellのSBで3回洗浄した後、100倍希釈した7AAD(ベクトンディッキンソン社製)を200μL/wellのSBに懸濁し、フローサイトメーターFACSCANTO II(ベクトンディッキンソン社製)でCD20陽性画分に存在するRamos細胞上のCD95の蛍光強度を測定した。陰性コントロールには抗DNP抗体を使用した。
【0448】
HEK293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図4に、ヒトEpCAM/HEK293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図5に、Colo205細胞と共培養したRamos細胞の結果を図6に示す。
【0449】
図4に示すように、実施例3で作製した抗CD40抗体21.4.1存在下で、HEK293細胞、ヒトEpCAM/HEK293細胞およびColo205細胞のいずれかの1つの細胞とRamos細胞を共培養した場合、Ramos細胞上のCD95の発現量が増加し、CD40のシグナルが誘導されていることがわかった。
【0450】
また、図4~6に示すように、実施例4で作製した抗EpCAM抗体3622W94存在下で、ヒトEpCAM/HEK293細胞またはColo205細胞とRamos細胞を共培養した場合、Ramos細胞上のCD95の発現量はネガティブコントロールと同等であり、CD40シグナルが誘導されていないことが示された。
【0451】
一方で、図4に示すようにEpCAM陰性のHEK293細胞とRamos細胞を共培養下では、いずれのCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体クローンもCD40のシグナルを誘導しなかったが、図5および6に示すようにEpCAM陽性のヒトEpCAM/HEK293細胞またはColo205細胞とRamos細胞を共培養した場合には、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体がRamos細胞上のCD95の発現量を増加させ、CD40のシグナルを誘導していることが示された。
【0452】
これらの結果は、図7(B)に示すようにCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体がRamos細胞上のCD40に単独で結合したときにはCD40シグナルを誘導せず、図7(A)に示すようにEpCAM陽性細胞が共存する時にのみ、CD40シグナルを誘導することを示唆している。
【0453】
親抗体である抗CD40抗体および抗EpCAM抗体はいずれもEpCAM陽性細胞の共存下でRamos細胞にCD40シグナルを誘導しないことが確認されている[抗CD40抗体については図3(A)および(B)に記載。抗EpCAM抗体についてのデータは省略]が、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は、親抗体が有していないCD40シグナル誘導活性を有することが分かった。
【0454】
これにより、本発明のCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は、腫瘍など、EpCAMが発現する細胞が存在する病変部位特異的に、免疫細胞や腫瘍細胞などのCD40陽性細胞にシグナルを誘導することが示唆された。
【0455】
また、図5に示す通り、hEpCAM/HEK細胞とRamos細胞を共培養した際のCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性はVH1が抗CD40抗体のVHからなり、VH2が抗EpCAM抗体のVHからなるC末端型バイスペシフィック抗体、VH1が抗EpCAM抗体のVHからなり、VH2が抗CD40抗体のVHからなるC末端型バイスペシフィック抗体、VH1が抗CD40抗体のVHからなり、VH2が抗EpCAM抗体のVHからなるN末端型バイスペシフィック抗体の順に強かった。
【0456】
図6に示す通り、Colo205細胞とRamos細胞を共培養した場合もほぼ同様の傾向が確認できた。一方、VH1が抗EpCAM抗体のVHからなり、VH2が抗CD40抗体のVHからなるN末端型バイスペシフィック抗体は、CD40シグナル誘導活性を有しないことが示された。
【0457】
すなわち、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のもつ、EpCAM陽性細胞の存在に依存したCD40アゴニスト活性の強さは、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の形状および抗CD40抗体のVHおよび抗EpCAM抗体のVHの配置に依存しており、C末端型バイスペシフィック抗体の活性はN末端型バイスペシフィック抗体よりも強かった。すなわち、VH1が抗CD40抗体のVHからなり、VH2が抗EpCAM抗体のVHからなるバイスペシフィック抗体の活性はVH1が抗EpCAM抗体のVHからなり、VH2が抗CD40抗体のVHからなるバイスペシフィック抗体よりも強いことが示された。
【0458】
[実施例12]蛍光標識抗体の作製
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の細胞表面上での局在を蛍光免疫染色法により解析するために、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体および細胞表面マーカー抗体の蛍光標識を行った。
Alexa Fluor 488 Microscale Protein Labeling Kit(Molecular Probes社製)を用い、添付文書に記載の方法に従って、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-Ep203にAlexa488を標識した蛍光標識抗体を作製した。
【0459】
また、Ramos細胞に発現しておらずColo205細胞に発現している表面マーカーとしてHER2を選択し、Alexa Fluor 647 Microscale Protein Labeling Kit(Molecular Probes社製)を用い、添付文書に記載の方法に従って、公知の抗HER2抗体(国際公開第1992/022653号に記載)にAlexa647を標識した抗体を作製した。
【0460】
[実施例13]CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によるEpCAM陽性細胞及びCD40陽性細胞の架橋部位への集積の確認
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体がRamos細胞とEpCAM陽性細胞に結合する様子を確認するため、Ct R1090S55A-Ep203-Alexa 488を用い、蛍光免疫染色法による評価を行った。
【0461】
1×10cells/mLのRamos細胞を50μL/wellで平底96wellプレート(グライナー社製)に播種し、実施例13で調製したCt R1090S55A-Ep203-Alexa 488およびHER2 Ab-Alexa 647をフェノールレッド不含のRPMI-1640培地(Gibco社製)で希釈し、それぞれ2μg/ml(終濃度1μg/ml)および100μg/ml添加した。
【0462】
さらにColo205細胞1×10cells/mLを50μL/wellで加えて、37℃、5.0%炭酸ガス下で14時間培養し、InCellAnalyzer6000(GEヘルスケア社製)にて観察した。
【0463】
図8(A)にHER2抗体に標識したAlexa647によりColo205細胞を検出した結果を、図8(B)にCt R1090S55A-Ep203に標識したAlexa488を検出した結果を示し、それらの重ね合わせ図8(C)を示す。
【0464】
HER2はRamos細胞には発現しておらずColo205細胞には発現しているため、図8(A)ではColo205細胞のみから蛍光が観察されている。したがって、図8(A)で観察された細胞がColo205細胞であり、図8(B)で観察されて図8(A)で観察されていない細胞がRamos細胞である。
【0465】
図8(B)においてCt R1090S55A-Ep203-Alexa 488は、Ramos細胞およびColo205細胞の両細胞から蛍光が観察されている。これにより、Ct R1090S55A-Ep203が細胞表面上でもCD40およびEpCAMに結合することが確認できた。
【0466】
図8(B)および図8(C)に示す通り、Ct R1090S55A-Ep203-Alexa 488は、Colo205細胞とRamos細胞の接触面に集積し、強く蛍光を発している様子が観察された(矢印部分)。この結果から、CD40陽性細胞とEpCAM陽性細胞が架橋され、その接触面にCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体が集積していることが示された。
【0467】
CD40を含むTNFRSFは3量体以上の会合体を形成するとシグナルを誘導することが知られており、細胞の接触面においてCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体が集積することにより、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体が結合したCD40も集積したため、CD40のシグナルが誘導されたのだと考えられる。
【0468】
また、細胞接触面に集積したCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は細胞内へ内在化していることも観察されており、これはCD40シグナルが誘導されたことにより、CD40の内在化が促進されていることを示唆している。
【0469】
[実施例14]抗体のマウスにおける毒性試験
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-Ep203、Ct Epc112-R1066、R1090S55A-Ep203および抗CD40アゴニスト抗体21.4.1はいずれもマウスCD40に対する交差反応性を有しないため、マウスモデルを用いた検討では、C17BL/6J JclマウスにヒトCD40を含むBACベクターを導入した、ヒトCD40 BAC Tgマウス(以下、hCD40Tgマウスと称する)を用いた。
【0470】
hCD40TgマウスはBAC clone(CTD-2532I19)(Invitrogen社)を精製後に受精卵に導入して作製した。作製したhCD40TgマウスはC17BL/6J Jclマウスと交配し、ヒトCD40遺伝子を有する事をPCR法で確認した後に試験に供した。
【0471】
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-Ep203、Ct Epc112-R1066、R1090S55A-Ep203、抗CD40アゴニスト抗体21.4.1およびコントロール抗体である抗DNP抗体をhCD40Tgマウス各群5匹にそれぞれ尾静脈から投与し、投与前と投与24時間後の体重、投与24時間後の末梢血液細胞数、血漿中アスパラギンアミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度を測定した。抗体投与量は、21.4.1以外は10mg/kg、21.4.1については毒性により10mg/kgでの投与は困難なため、1mg/kgとした。
【0472】
その結果、図9(A)~(C)および図10(A)~(D)に示すように、21.4.1を投与した群では、投与後に体重の減少、肝逸脱酵素であるASTおよびALTの上昇ならびに末梢血中白血球、リンパ球、単球および血小板の減少が認められたが、Ct R1090S55A-Ep203、Ct Epc112-R1066およびR1090S55A-Ep203を投与した群は、陰性コントロールであるDNP抗体を投与した群と同様、変化は認められなかった。
【0473】
以上より、本発明のCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体が先行抗体に比べ、全身性の毒性を顕著に低減していることが示された。
【0474】
[実施例15]抗体のマウスシンジェニックモデルにおける抗腫瘍効果
CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-Ep203、Ct Epc112-R1066、R1090S55A-Ep203および抗CD40アゴニスト抗体21.4.1のマウスにおける抗腫瘍効果を検討するため、マウスシンジェニックモデルを用い、検討を行った。
【0475】
1.腫瘍細胞mEpCAM/B16F10の作製
移植する腫瘍細胞として、以下の方法によりマウスEpCAMを発現していないマウスメラノーマ細胞株B16-F10(ATCC CRL-6475)とB16-F10にマウスEpCAMを発現させたmEpCAM/B16F10を作製した。
【0476】
配列番号19に示すマウスEpCAM遺伝子を用いて、実施例2と同様の方法により作製した、膜発現用マウスEpCAM発現ベクターpEF6-マウスEpCAM FullからmEpCAM(945bp)をBamHI/NotIで切り出し、同じくBamHI/NotIで処理したpcDNA3.1(+)にligationしpcDNA3-マウスEpCAM fullを得た。
【0477】
取得した発現ベクターpcDNA3.1-マウスEpCAM fullを、lipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてB16F10細胞に導入して培養し、翌日より3mg/ml G418でセレクションを行った。セルソーターにより、高発現画分のソーティングを3回繰り返し、マウスEpCAMを高発現するB16F10細胞を得た。
【0478】
2.マウスシンジェニックモデルを用いた抗腫瘍試験
B16-F10またはmEpCAM/B16F10をhCD40Tgマウス皮下に1x10細胞移植(Day-8)した。Day0、3および7に各抗体を各群5匹に尾静脈から投与した。抗体投与量は、21.4.1以外は10mg/kg、21.4.1については毒性により10mg/kgでの投与は困難なため、1mg/kgとした。ノギスを用いて腫瘍の長径、短径を測定し、短径×短径×長径/2の式により腫瘍体積を算出した。結果を図11(A)および図11(B)に示す。
【0479】
図11(A)に示すように、CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体Ct R1090S55A-Ep203、Ct Epc112-R1066およびR1090S55A-Ep203はいずれも、mEpCAM/B16F10に対しては、顕著な薬効を示した。一方、図11(B)に示すように、EpCAMを発現しないB16-F10に対しては薬効を示さなかった。以上より、作製したCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体はEpCAM依存的な薬効を有する事が示された。
【0480】
[実施例16]CD40およびEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体または抗体断片の発現ベクターの構築
1.バイスペシフィック抗体または抗体断片の設計
(1)ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の設計
CD40およびEpCAMにそれぞれ1価で結合するバイスペシフィック抗体として、図12(A)に記載する構造を有するバイスペシフィック抗体(以下、ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体と記載する)を設計した。ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体のFc領域には国際公開第2016/071004号に記載のFc領域を採用した。
【0481】
ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体は、異なる2つの重鎖定常領域(CH)を有しており、それぞれを以下ではCHaおよびCHbと記載する。CHaの塩基配列およびアミノ酸配列を配列番号79および80で示す。またCHbの塩基配列およびアミノ酸配列を配列番号81および82で示す。CHaおよびCHbのN末端側にはそれぞれ抗体の重鎖可変領域が結合し、重鎖を形成する。以下ではCHaおよびCHbに結合する重鎖可変領域をそれぞれVHaおよびVHbと記載する。ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体はN末端側よりVHaおよびCHaが連結してなる1本の重鎖、N末端側よりVHbおよびCHbが連結してなる1本の重鎖ならびに同一の2本の軽鎖からなる。
【0482】
(2)Fab型バイスペシフィック抗体断片の設計
CD40およびEpCAMにそれぞれ1価で結合するバイスペシフィック抗体断片として、図12(B)に記載する構造を有する抗体断片(以下ではFab型バイスペシフィック抗体断片と記載する)を設計した。Fab型バイスペシフック抗体断片の構造には、国際公開第2009/131239号に記載の抗体のN末端からヒンジの途中までの構造を採用し、重鎖のC末端側にFLAG-Tagを連結させた。すなわち、Fab型バイスペシフィック抗体断片は、N末端側から順に、VH1、CH1、VH2、CH1、ヒンジの一部およびFLAG-Tagが連結してなる1本の重鎖ならびに2本の軽鎖からなる。Fab型バイスペシフィック抗体断片のVH2のC末端側に結合するCH1からFLAG-Tagまでの遺伝子配列を配列番号83に、アミノ酸配列を配列番号84に記載する。
【0483】
(3)F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片の設計
CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合するバイスペシフィック抗体断片として、図12(C)に記載する構造を有する抗体断片(以下ではF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片と記載する)を設計した。F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片の構造には、国際公開第2009/131239号に記載の抗体のN末端からヒンジまでの構造を採用し、重鎖のC末端側にFLAG-Tagを連結させた。すなわち、F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片は、N末端側から順に、VH1、CH1、VH2、CH1、ヒンジおよびFLAG-Tagが連結してなる2本の重鎖ならびに4本の軽鎖からなる。F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のVH2のC末端側に結合するCH1からFLAG-Tagまでの遺伝子配列を配列番号85に、アミノ酸配列を配列番号86に記載する。
【0484】
以下の工程で作製されるヘテロIgG型バイスペシフィック抗体のVHaは抗CD40抗体のVHであり、VHbは抗EpCAM抗体のVHである。またFab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のVH1は抗CD40抗体のVHであり、VH2は抗EpCAM抗体のVHである。
【0485】
以下の工程で作製されるFab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体はVH1とVH2の間のリンカーとして、IgG4のCH1(塩基配列を配列番号74、アミノ酸配列を配列番号75で示す)を有する。
【0486】
また、以下の工程で作製されるヘテロIgG型バイスペシフィック抗体、Fab型バイスペシフィック抗体断片およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片は、L6にコードされるVLを含む軽鎖を有する。
【0487】
当該バイスペシフィック抗体/抗体断片の名称、バイスペシフィック抗体/抗体断片の構造、当該抗体/抗体断片作製に使用した抗CD40抗体のクローンおよび抗EpCAM抗体のクローンを表4に示す。
【0488】
【表6】
【0489】
2.バイスペシフィック抗体または抗体断片の発現ベクターの作製
(1)ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の発現ベクターの作製
表4に記載されたヘテロIgG型バイスペシフィック抗体について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0490】
実施例3で取得したR1066、R1090S55AまたはR2089のVHをコードする塩基配列に、配列番号79で表される、CHaをコードする塩基配列を連結した遺伝子を合成し、pCI-Hygro2.01(Promega社製pCIベクターを基に合成)のBglII-BamHIサイトに連結した。
【0491】
また、実施例4で取得したEp59、Ep203およびEpc112のそれぞれのVH遺伝子を実施例3で取得したN5KG4PE R409K_R1066のSalI-NheIサイトへサブクローニングした。その後、VLをコードするL6遺伝子(配列番号21)からVHの領域までの遺伝子断片をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いたPCR反応により増幅し、配列番号81で表されるCHbをコードする合成塩基配列を、pCI-Hygro2.01のNheI-BamHIサイトにサブクローニングしたプラスミドのXbaI-NheIサイトに連結することにより、表4に記載するヘテロIgG型バイスペシフィック抗体発現プラスミドベクターを得た。
【0492】
(2)Fab型バイスペシフィック抗体断片の発現ベクターの作製
表4に記載された、Fab型バイスペシフィック抗体断片について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0493】
実施例5-1で作製したN末端型バイスペシフィック抗体R1066-Ep203およびR1090S55A-Ep203発現ベクターを鋳型とし、VLからヒンジ領域のN末端側の4残基までの配列にFLAG-Tagを付加した遺伝子断片をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いたPCR反応により増幅し、pCI-Hygro2.01のXbaI-BamHIサイトに連結することにより、表4に記載するFab型バイスペシフィック抗体断片発現プラスミドベクターを得た。Fab型バイスペシフィック抗体断片のVH2のC末端側に結合するCH1からFLAG-Tagまでの遺伝子配列を配列番号83に、アミノ酸配列を配列番号84に記載する。
【0494】
(3)F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片の発現ベクターの作製
表4に記載されたF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片について、発現ベクターを以下に記載する方法で作製した。
【0495】
実施例5-1で作製したN末端型バイスペシフィック抗体R1066-Ep203およびR1090S55A-Ep203発現ベクターを鋳型とし、VLからヒンジの配列にFLAG-Tagを付加した遺伝子断片をPrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いたPCR反応により増幅し、pCI-Hygro2.01のXbaI-BamHIサイトに連結することにより、表4に記載するF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片発現プラスミドベクターを得た。F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のVH2のN末端側に結合するCH1からFLAG-Tagまでの遺伝子配列を配列番号85に、アミノ酸配列を配列番号86に記載する。
【0496】
[実施例17]CD40とEpCAMに結合するバイスペシフィック抗体の調製
実施例16で作製した抗体発現プラスミドベクターpCI-Hygro2.01にサブクローニングしたCD40およびEpCAMの各結合部位を有するバイスペシフィック抗体または抗体断片を、以下の方法によりそれぞれ発現させ、精製した。
【0497】
1.ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の作製
実施例16-2(1)で作製したVHaおよびCHaからなる重鎖をコードする発現ベクターならびにVHbおよびCHbからなる重鎖をコードする発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293細胞に共遺伝子導入し、16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体を発現させた。
【0498】
ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE製)で濾過した後、Protein A樹脂(MabSelect、GEヘルスケア社製)を用いて抗体をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Aに吸着させた抗体を、100mMクエン酸ナトリウム、50mM NaCl緩衝液(pH3.5)により溶出し、1M Tris-HCl緩衝液(pH9.0)を含むチューブに回収した。
【0499】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いて濃縮し、Nap Column(GEヘルスケア社製)を用いてD-PBS(-)へ緩衝液を置換した。さらに、AKTA FPLC(GEヘルスケア社製)およびSuperdex High-performance Columns(GEヘルスケア社製)を用いて、該抗体溶液より単量体画分を分取した。AKTAシステム孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millex-GV、MILLIPORE社製)でろ過滅菌することにより精製抗体を得た。
【0500】
抗体溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体の濃度を算出した。また、調製したヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の糖鎖を酵素消化した上で、Synapt G2(Waters社製)による質量分析を行い、VHaおよびCHaからなる重鎖ならびにVHbおよびCHbからなる重鎖をそれぞれ1本ずつ有するヘテロIgG型バイスペシフィック抗体になっていることを確認した。
【0501】
2.Fab型バイスペシフィック抗体断片およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片の作製
実施例16-2(2)で作製したFab型バイスペシフィック抗体断片発現ベクターをExpi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293細胞に遺伝子導入し、16時間後にTransfection Enhancerを添加して、一過性発現系で抗体断片を発現させた。
【0502】
ベクター導入4日後に培養上清を回収し、孔径0.22μmのメンブランフィルター(MILLIPORE製)で濾過した後、Protein L樹脂(プロテイン・エクスプレス社製)を用いて抗体断片をアフィニティー精製した。洗浄液としてD-PBS(-)を用いた。Protein Lに吸着させた抗体断片を、100mMグリシン緩衝液(pH2.5)により溶出し、1M TrisHCl緩衝液(pH8.0)を含むチューブに回収した。
【0503】
次に、VIVASPIN(Sartrius stealin社製)を用いて濃縮し、Nap Column(GEヘルスケア社製)を用いて、緩衝液をD-PBS(-)に置換した。さらに、AKTA FPLC(GEヘルスケア社製)およびSuperdex High-performance Columns(GEヘルスケア社製)を用いて、該抗体断片溶液よりそれぞれFab型バイスペシフィック抗体断片の分子量に溶出する画分を分取した。AKTAシステム孔径0.22μmのメンブランフィルター(Millex-GV、MILLIPORE社製)でろ過滅菌することにより精製抗体断片を得た。
【0504】
また、実施例16-2(3)で作製したF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片発現ベクターを用い、上記と同様の方法でF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片を得た。精製されたF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片をSDS-PAGEにより評価し、重鎖の間のジスルフィド結合が還元されたFab’体の含量が低いことを確認した。
【0505】
抗体断片溶液の波長280nmの吸光度を測定し、各抗体断片のアミノ酸配列から推定される吸光係数を用いて、精製抗体断片の濃度を算出した。
【0506】
[実施例18]ヒトEpCAM発現Expi293細胞の作製
実施例2で得られた膜発現用ヒトEpCAM発現ベクターpEF6-ヒトEpCAM fullを、Expi293(商標) Expression System(Thermo Fisher社製)によりExpi293細胞に遺伝子導入して培養し、一過性発現系でタンパク質を発現させた。遺伝子導入後、24時間振とう培養し、遠心分離により、細胞膜上にヒトEpCAMが発現したExpi293細胞(以下ヒトEpCAM/Expi293細胞と記載する)を得た。
【0507】
[実施例19]フローサイトメトリーによるCD95発現量解析によるヘテロバイスペシフィック抗体のCD40シグナル誘導活性の評価
Ramos細胞上のCD95の発現量増加を指標として、実施例17-1で得られたヘテロIgG型バイスペシフィック抗体の、EpCAM陽性または陰性細胞共存下におけるRamos細胞へのCD40シグナル誘導活性を以下のようにFCM法で評価した。
【0508】
添加する被験抗体濃度を2μg/mL(終濃度1μg/mL)にし、さらにRamos細胞と共培養する細胞株をExpi293細胞または実施例18で得られたヒトEpCAM/Expi293細胞に変更した以外は実施例11と同様の方法で評価を行った。
【0509】
ヒトEpCAM/Expi293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図13に、Expi293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図14に示す。
【0510】
図13および図14に示すように、実施例3で作製した抗CD40抗体21.4.1存在下で、Expi293細胞およびヒトEpCAM/Expi293細胞のいずれか1つの細胞とRamos細胞を共培養した場合、Ramos細胞上のCD95の発現量が増加しており、CD40のシグナルが誘導されていることが確認された。
【0511】
図14に示すようにEpCAM陰性のExpi293細胞とRamos細胞を共培養した場合、ヘテロIgG型、N末端型およびC末端型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のいずれのクローンもCD40のシグナルを誘導しなかった。
【0512】
一方で、図13に示すようにEpCAM陽性のヒトEpCAM/Expi293細胞とRamos細胞を共培養した場合には、ほとんどのCD40-EpCAMバイスペシフィック抗体によりRamos細胞上のCD95の発現量が増加しており、CD40のシグナルを誘導していることが示された。そのシグナル誘導活性の強さは抗CD40抗体のVHおよび抗EpCAM抗体のVHの組み合わせにより異なるものの、同じ抗CD40抗体のVHおよび抗EpCAM抗体のVHの組み合わせのバイスペシフィック抗体の中ではC末端型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体、N末端型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体、ヘテロIgG型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の順であった。
【0513】
これにより、CD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合するC末端型およびN末端型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体は、CD40およびEpCAMにそれぞれ1価で結合するヘテロIgG型バイスペシフィック抗体よりも強いEpCAM依存的なCD40シグナル誘導活性を有することが示された。
【0514】
[実施例20]フローサイトメトリーによるCD95発現量解析によるFab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のCD40シグナル誘導活性の比較
Ramos細胞上のCD95の発現量増加を指標として、実施例17-2で得られたFab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のEpCAM陽性または陰性細胞共存下におけるRamos細胞へのCD40シグナル誘導活性を以下のようにFCM法で評価した。
【0515】
添加する被抗体を133.3nM(終濃度66.7nM)から3倍希釈系列で6点の濃度でデータを取得した以外は、実施例19と同様の方法で評価を実施した。ヒトEpCAM/Expi293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図15(A)に、Expi293細胞と共培養したRamos細胞の結果を図15(B)に示す。
【0516】
図15(A)および図15(B)に示すように、実施例3で作製した抗CD40抗体21.4.1存在下で、Expi293細胞およびヒトEpCAM/Expi293細胞のいずれかの1つの細胞とRamos細胞を共培養した場合、Ramos細胞上のCD95の発現量が増加し、CD40のシグナルが誘導されていることが確認された。
【0517】
図15(B)に示すようにFab型およびF(ab’)型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片の存在下、EpCAM陰性のExpi293細胞とRamos細胞を共培養した場合、いずれのクローンもCD40のシグナルを誘導しなかった。一方で、図15(A)に示すようにEpCAM陽性のヒトEpCAM/Expi293細胞とRamos細胞を共培養した場合には、いずれのFab型およびF(ab’)型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片もRamos細胞上のCD95の発現量を増加させ、CD40のシグナルを誘導していることが示された。そのシグナル誘導活性は、抗CD40抗体のVHおよび抗EpCAM抗体のVHの組み合わせにより異なるものの、F(ab’)型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片の方がFab型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体断片よりも強かった。
【0518】
F(ab’)型バイスペシフィック抗体断片は、ヒンジ領域に含まれるシステインによるジスルフィド結合によりFab型バイスペシフィック抗体断片が2量体化した構造に類似した形状をしている。VH1とVH2の組み合わせが同じ場合、Fab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体断片のアミノ酸配列は、ヒンジを除き、同一である。F(ab’)型バイスペシフィック抗体の方が長いヒンジを有しているが、ヒンジ領域は2量体化以外に直接的な抗原への結合などの機能は有していない。そのため、VH1とVH2の組み合わせが同じ場合、Fab型およびF(ab’)型バイスペシフィック抗体のEpCAM依存的CD40シグナル誘導活性の違いは、結合価数の違いによるものであると考えられる。
【0519】
Fab型およびF(ab’)型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体のEpCAM依存的CD40シグナル誘導活性を比較すると、F(ab’)型CD40-EpCAMバイスペシフィック抗体の方が強かったことから、EpCAM依存的CD40シグナル誘導活性はCD40およびEpCAMにそれぞれ1価で結合する抗体断片よりもCD40およびEpCAMにそれぞれ二価で結合する抗体断片の方が強力な活性をもつことが示唆される。
【0520】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2017年11月8日付けで出願された日本特許出願(特願2017-215834号)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0521】
配列番号23-人工配列の説明:L6 LCDR1のアミノ酸配列
配列番号24-人工配列の説明:L6 LCDR2のアミノ酸配列
配列番号25-人工配列の説明:L6 LCDR3のアミノ酸配列
配列番号28-人工配列の説明:R1066 HCDR1のアミノ酸配列
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配列番号34-人工配列の説明:R1090S55A HCDR2のアミノ酸配列
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配列番号52-人工配列の説明:Ep59 HCDR1のアミノ酸配列
配列番号53-人工配列の説明:Ep59 HCDR2のアミノ酸配列
配列番号54-人工配列の説明:Ep59 HCDR3のアミノ酸配列
配列番号70-人工配列の説明:3622W94 VHの塩基配列
配列番号71-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号72-人工配列の説明:3622W94 VLの塩基配列
配列番号73-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号74-人工配列の説明:IgG4 CH1の塩基配列
配列番号75-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号76-人工配列の説明:IgG4PE R409K CHの塩基配列
配列番号77-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号78-人工配列の説明:停止コドンを含むIgG4 CH1の塩基配列
配列番号79-人工配列の説明:ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体 CHaの塩基配列
配列番号80-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号81-人工配列の説明:ヘテロIgG型バイスペシフィック抗体 CHbの塩基配列
配列番号82-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号83-人工配列の説明:Fab型バイスペシフィック抗体のCH1-tagの塩基配列
配列番号84-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
配列番号85-人工配列の説明:F(ab’)型バイスペシフィック抗体のCH1-tagの塩基配列
配列番号86-人工配列の説明:合成コンストラクトのアミノ酸配列
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