(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】コールドスプレープロセスのための粉末を調製する方法及びそのための粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20230711BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20230711BHJP
B22F 1/142 20220101ALI20230711BHJP
【FI】
B22F1/00 V
B22F1/148
B22F1/142 100
(21)【出願番号】P 2020502662
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 IB2018055439
(87)【国際公開番号】W WO2019016779
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-08
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595006223
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ポワリエ, ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】モンゲオン, ポール-エミリー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, ヤニッグ
(72)【発明者】
【氏名】イリス, エリック
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-095748(JP,A)
【文献】特開2010-111905(JP,A)
【文献】特開昭63-238201(JP,A)
【文献】特開2013-204075(JP,A)
【文献】国際公開第2015/110668(WO,A2)
【文献】特表2015-515542(JP,A)
【文献】特開2010-111906(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102859024(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第02218529(EP,A1)
【文献】特開昭56-077362(JP,A)
【文献】特開昭60-255901(JP,A)
【文献】特開平07-090301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
B22F 10/00-12/90
C23C 24/00-30/00
C23C 4/00-6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドスプレー堆積のために供給原料を調製する方法であって、
a.変態硬化可能な鋼又は変態硬化可能な鋼の金属マトリックス組成物からなる、第1の粒度分布を有する供給原料粉末を得るステップと、
b.前記変態硬化可能な鋼の軟化温度に前記粉末を熱処理し、粉末ケーキングを回避しつつ前記粉末を軟化し、及び部分的に焼結して粉末凝集体を形成するのに効果的な期間、前記粉末を撹拌しながら前記軟化温度に前記粉末を保持するステップと、
c.前記材料の再硬化を回避するのに十分にゆっくりした速度で前記粉末凝集体を冷却して、150μm未満で1μm超の公称寸法を有する、前記第1の分布より粗い第2の粒度分布の軟化した粉末凝集体を生成するステップと、
d.前記軟化した粉末凝集体の硬化を防止するステップと
を含む方法。
【請求項2】
コールドスプレープロセスで使用するために前記軟化した粉末凝集体を用意するステップ、又は前記軟化した粉末凝集体をコールドスプレーするステップをさらに含
む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記軟化した粉末凝集体を硬化から防止するステップが、コールドスプレー堆積に先立って冷間加工及び再変態硬化を防止するステップを含み、該ステップが、衝突が凝集粒子の降伏応力を超える局所的な応力を加える場合、前記凝集粒子の硬度より大きな硬度を有する本体との前記凝集粒子の前記衝突を防止することにより、防止するステップである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の粒度分布を生成するために前記軟化した粉末凝集体をふるい分けるステップ、又は前記軟化した粉末凝集体を穏やかに粉砕して部分的に脱凝集させ、前記供給原料の収率を上げるステップをさらに含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記軟化した粉末凝集体の凝集粒子が、前記凝集粒子より硬質のいかなる粉砕媒体本体にもぶつからず、衝突の平均エネルギーが前記凝集粒子の焼結ネックから前記凝集粒子を剥離するには十分ではないように、前記穏やかな粉砕が、容器中で前記軟化した粉末凝集体を混合するステップを含む、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
70μm未満の粒子の体積分率が90%であり、及び20μmより微細な粒子の体積分率が10%である、前記第1の粒度分布を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の粒度分布が前記第1の粒度分布中の8μm未満の粒子の体積分率の半分未満を有するように、前記熱処理が小さな粒子を凝集させる、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記変態硬化可能な鋼がH13工具鋼であり、その場合前記軟化温度がおよそ800℃~900℃の間にあり、又はP20工具鋼であり、その場合前記軟化温度がおよそ750℃~800℃の間にある、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工具鋼の等温変態ダイヤグラムによると前記冷却速度がマルテンサイトの形成を防止するのに十分に遅い、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理が不活性雰囲気中又は還元雰囲気中で実施される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
e.コールドスプレープロセスによって、前記軟化した粉末凝集体を基材に塗布して表層を形成するステップ、
f.物理試験及び/又は顕微鏡検査によって前記表層の一体性を評価するステップ、及び
g.前記表層の一体性が、不満足である場合、前記軟化温度、前記期間又は前記冷却速度の少なくとも1つを調整し、前記表層の一体性が満足となるまで少なくともステップa-fを繰り返すステップ
をさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
公称寸法が150μm未満で1μm超の粒度分布を有し、
変態硬化可能な等級の鋼又は変態硬化可能な鋼の金属マトリックス組成物から構成され、
それが完全に変態硬化した場合に、前記等級の鋼の硬度の70%未満の硬度を有する粒子
であって、
前記粒子は、互いに部分的に焼結し焼結ネックにより連結するサブ粒子の凝集であり、前記部分的に焼結した凝集が、0.3-10μmの直径を有するより微細なサブ粒子と、10-70μmの直径を有する1個又は複数のより大きなサブ粒子と、からなり、
より大きな前記サブ粒子は、より微細な前記サブ粒子より平均で少なくとも10%大きく、
粒子の体積分率の少なくとも10%がより微細な前記サブ粒子からなる、
粒子を含むコールドスプレー堆積のための熱処理された供給原料粉末。
【請求項13】
前記変態硬化可能な鋼が、工具鋼、低合金強度鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、又はH13、P20若しくはD2工具鋼である、請求項
12に記載の供給原料粉末。
【請求項14】
典型的な粒子が、球状化された炭化物網状構造を示す、請求項
12又は13に記載の供給原料粉末。
【請求項15】
完全に変態硬化した場合、前記等級の鋼の硬度の50%未満のビッカース微小硬度を有する、請求項
12~14のいずれか一項に記載の供給原料粉末。
【請求項16】
より微細な前記サブ粒子が1-8μmの直径を有し、より大きな前記サブ粒子が10-30μmの直径を有し、粒子の体積分率の10-60%がより小さな前記サブ粒子からなる、請求項12~15のいずれか一項に記載の供給原料粉末。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
[0001]本主題は、コールドスプレー粉末、より詳細にはコールドスプレー用の硬質材料からなる粉末、及びそれらを調製する方法に関する。
【0002】
[背景]
[0002]コールドスプレー(キネティックスプレー、超音波粒子堆積、動的金属化、動力学的金属化、又はコールドガスダイナミックスプレーとも呼ばれる)は、重要性を増しつつあるコーティング堆積プロセスであるが、それは、供給原料を溶かさずにコーティング形成が可能になる固体状態の堆積プロセスであり、それによって酸化及び他の反応を低減するからである。噴霧中に生じる圧縮残留応力により、非常に厚いコーティングや、自由な造形すら生成することができ、コールドスプレーは付加的な製造技術として適用可能である。コールドスプレー堆積中に、固体の粉末は基材へのキャリヤーガス中で加速される。基材との衝突に際して、粉末は、臨界速度を満たすならば、塑性変形を受け、基材の表面に付着する。
【0003】
[0003]コールドスプレーにおける優勢な結合メカニズムは、断熱剪断不安定性及び機械的絡み合いを含み、これは、粒子が臨界速度に達するか超える場合のみ、粒子-基材界面で出現することが理解される。粒子速度が低過ぎれば、コーティングは製造されない。臨界速度を超えると、さらに粉末速度を上げることによって、ある特定の点まで、より高い堆積効率、より高いコーティング密度、及びより良い機械的特性が得られる。完全に固体の粉末堆積の利益は、一般にこれらの粉末を加速するコストの価値があり、それは、コーティング材料の酸化及び他の望ましくない化学反応、並びに、材料特性に悪影響を与えかねないミクロ構造の変質をコールドスプレーが低減するからである。
【0004】
[0004]コールドスプレーのための粉末材料の適合性を決定する重要な因子は、その変形特性であり、これが直接臨界速度に影響する。低い機械的強度及び低い融点を有する材料、例えば、亜鉛及び銅合金は、コールドスプレープロセスのよい材料である。しかし、マルテンサイト相変態を受ける鋼などのより高い強度を有する材料は変形に抵抗し、多くのそのような材料は目下、既存のコールドスプレー設備を使用して堆積することができない。そのような硬質材料粉末の変形能を向上させてコールドスプレーのために適切にすると、幾つか例示すれば、射出成形製造、部材強化、航空機部材の構造修復、並びに工具及びダイの付加的な製造などの、コールドスプレーではまだ可能でない応用分野に門戸が開かれよう。さらに、有利には、材料を処理することによって、コールドスプレーし、より良い堆積効率を与え、又はより良い特性を有するコーティングを生成することができる噴霧条件の範囲を拡大する。
【0005】
[0005]より硬質(より低変形)の粉末をコールドスプレーするために、例えばプロセスガス温度及び圧力を上げることにより、空気及び窒素などの低コストでより容易に利用可能なガスの代わりにプロセスガスとしてヘリウムを使用することによって、及びノズル設計の最適化により、粒子の飛行中速度を最大限にするようにコールドスプレープロセスを調整することが知られている。
【0006】
[0006]より硬質の粉末の堆積を可能にする他の公知手法は、例えばレーザーを使用する外部供給源によって又はコールドスプレー条件を表面及び/若しくは粒子温度が最大限になるように調整することによって(例えばプロセスガス温度を上げる、又は移動速度を下げる)粉末及び/又は基材の温度を上げること、又は供給原料粉末のモルフォロジー及び空隙率を変えることを含む。
【0007】
[0007]しかし、ある種の材料には、これらの手法は粉末堆積を可能にするのには十分ではない。したがって、既存の技術を超える有意の利点を提供する幾つかのコールドスプレー用途は、目下可能ではない。コールドスプレー堆積に適切に又はより適切にするために、硬質の鉄鋼材粉末、例えば工具鋼を改質するプロセスが特に当技術分野で必要とされている。硬化した工具鋼部材をコールドスプレー付加的製造できれば、コールドスプレーの技術分野において刺激的な前進になり、新しい部材のコールドスプレーの付加的な製造の可能性及び前例がない応用空間が開かれる。
【0008】
[0008]緩く凝集した粉末及び多孔性粉末は、同じ材料の固体粉末より粒子硬度が低いことは公知である。例えば、高密度で厚いWC-Coコーティングは緩く凝集した多孔性の供給原料粉末をコールドスプレーすることによって生成することができる。(以下参照のことSonoda,T.,Kuwashima,T.,Saito,T.,Sato,K.,Furukawa,H.,Kitamura,J.,Ito,D.,Super hard WC cermet coating by low pressure cold spray based on optimization of powder properties,(2013)Proceedings of the International Thermal Spray Conference--ITSC 2013,Busan,Korea,pp.241-245;及びまたGao P.H.,Li,Y.-G.,Li,C.-J.,Yang,0.-J.,Li,C.-X.,Influence of powder porous structure on the deposition behavior of cold-sprayed WC-12Co coatings,(2008)Journal of Thermal Spray Technology,17(5-6),pp.741-749)。
【0009】
[0009]空隙は変形を可能にし、また粒子密度を低減し、これで有利には慣性が減少し、所与のキャリヤーガス流れ中でより速い加速度を可能にする。最適なコーティング堆積を得るために、凝集体空隙率及び/又は凝集レベルは、粒子断片化を防止しつつ粒子衝突の際に変形を可能にするように注意深く調整されなければならない。
【0010】
[0010]また、粉末冶金学において、一般に幾つかの金属合金から構成される粉末は熱処理可能であることが知られている。工具鋼などの加熱処理可能な合金は、後の成形において粉末変形を促進するためにアニーリング熱処理の使用によって軟化することができる。適切な合金粉末の熱処理は、金属粉末の軟化が、加熱処理可能な合金のより良い締固めを可能にする、粉末のプレス及び焼結加工などの従来の粉末冶金学において使用される。プレス及び焼結は、全く異なる組のメカニズムが部材を生成するために使用されるという点でコールドスプレーからかなりかけ離れた金属粉末成形技法であることが注目される。特に、より大きな寸法の非多孔性粒子が好まれる。
【0011】
[0011]欧州特許出願公開第2218529号は、スズ及び/又は亜鉛を含む金属粉末の拡散合金化を用いて、金属又は金属合金でできた粉末及び/又は顆粒を撹拌及び加熱しながら反応することによって、金属合金粉末、又は金属合金の層で封入された金属粉末を生成する方法を説明している。この方法において、撹拌は、出発粉末として同様のモルフォロジーを有する、微細分散粉末を得ることを意図として熱処理中にケーキング又は粉末焼結を回避又は少なくとも著しく低減するために行われる。拡散接合のための開示された手段は、気密性の回転レトルト炉、流動床、タンブラー、バイブレーター又はスタティックスターラーである。欧州特許出願公開第2218529号の目的は、粉末組成を調整することであり、ミクロ構造をテーラリングすることによって粉末の機械的特性を調整する(下げる)ことではない。拡散合金化によって合金を生成するという行為が、粉末を軟化するのではなく硬化すると予想され、粉末のコールドスプレー性を向上させるのに所望されることと反対である。
【0012】
[0012]したがって、コールドスプレー堆積の可能な供給原料粉末の範囲を拡張するために粉末を化学的に変質させることなく、硬質の粉末の臨界速度を低減するための技術が、当技術分野において必要とされている。
【0013】
[概要]
[0013]以下の概要は、読者に、以下に続くより詳細な説明の手ほどきをするように意図するが、特許請求の範囲に記載の主題を定義又は限定することは意図しない。
【0014】
[0014]本主題の第1の態様によれば、コールドスプレー堆積のための供給原料を調製する方法が提供される。本方法は、以下のステップ:変態硬化可能な鋼又は変態硬化可能な鋼の金属マトリックス組成物からなる、第1の粒度分布を有する供給原料粉末を得るステップと;変態硬化可能な鋼の軟化温度に供給原料粉末を熱処理し、粉末ケーキングを回避しつつ材料を軟化し、粉末を部分的に焼結して粉末凝集体を形成するのに効果的な期間粉末を撹拌しながら軟化温度に供給原料粉末を保持するステップと;材料の再変態硬化を回避するのに十分にゆっくりした速度で粉末凝集体を冷却して150μm未満で1μm超の公称寸法を有する、第1の分布より粗い第2の粒度分布の軟化した粉末凝集体を生成するステップと、コールドスプレーまで軟化した粉末凝集体を硬化から保護するステップとを含む。保護するステップには、軟化した粉末凝集体の冷間加工又は再変態硬化の防止を含んでもよい。冷間加工を回避するために、軟化した粉末凝集体の粒子を、軟化した凝集粒子の降伏応力を超える応力に曝露しないことが望ましい。
【0015】
[0015]この方法は、冷却された粉末凝集体をふるい分けして、コールドスプレーの設備必要条件に第2の粒度分布を調整した、軟化した粉末凝集体を生成するステップをさらに含んでもよい。この方法は、供給原料の収率を上げるために、より粗い冷却された粉末凝集体を穏やかに粉砕して、部分的に脱凝集するステップをさらに含んでもよい。冷却された粉末凝集体の凝集粒子が軟化した粉末より硬質のいかなる粉砕媒体本体にもぶつからず、衝突の平均エネルギーが、硬質の粉砕媒体のないVブレンダー中などの凝集粒子の焼結ネックから凝集粒子を剥離するには十分ではないように、穏やかな粉砕は、容器(場合により流動媒体中で)中で冷却された粉末凝集体を混合するステップを含んでもよい。
【0016】
[0016]供給原料粉末の第1の粒度分布は、70μm未満の粒子の体積分率が90%及び20μmより微細な粒子の体積分率が10%であってもよい。例えば、それは、70μm未満の粒子の体積分率が90%であり及び8μm未満の粒子の体積分率が少なくとも10%である、又は70μm未満の粒子の体積分率が90%であり及び8μm未満の粒子の体積分率が少なくとも20%であってもよい。
【0017】
[0017]本発明の幾つかの実施形態において第2の粒度分布が第1の粒度分布中の8μm未満の粒子の体積分率の半分未満を有するように、熱処理が小さな粒子を凝集させる。
【0018】
[0018]本発明の幾つかの実施形態において、粉末供給原料は、ガス霧化又は水霧化した粉末である。
【0019】
[0019]本発明の幾つかの実施形態において、供給原料粉末は工具鋼である。例えば、工具鋼、H13工具鋼であってもよい。その場合、軟化温度はおよそ845℃~900℃の間であってもよい。他の実施形態において、工具鋼はP20工具鋼である。そのような場合、軟化温度は、750℃~800℃の間、より好ましくは760℃~790℃であってもよい。
【0020】
[0020]いずれの場合も、冷却速度は、マルテンサイトの形成を防止するのに十分に遅くてよい。
【0021】
[0021]本発明の幾つかの実施形態において、熱処理ステップは不活性雰囲気中で実施される。
【0022】
[0022]本発明の幾つかの実施形態において、方法は、コールドスプレープロセスによって基材に軟化した粉末凝集物を塗布して表層を形成するステップをさらに含む。方法はまた、物理試験及び/又は顕微鏡検査によって表層の一体性を評価するステップ;及び、表層の一体性が不満足と考えられる場合、軟化温度、期間又は冷却速度の少なくとも1つを調整し、その後に表面の一体性が満足と考えられるまで方法ステップを繰り返すステップをさらに含んでもよい。
【0023】
[0023]本主題の別の態様によると、150μm未満で1μm超の公称寸法の粒度分布を有する粒子を含み、変態硬化可能な鋼、又は変態硬化可能な鋼の金属マトリックス組成物で構成され、完全に変態硬化した場合に、同じ等級の鋼の硬度の70%未満のビッカース微小硬度を有する、コールドスプレー堆積のための熱処理された供給原料粉末が提供される。
【0024】
[0024]本発明の幾つかの実施形態において、鋼は、工具鋼、低合金強度鋼、又はマルテンサイト系ステンレス鋼、例えば、H13、P20又はD2の工具鋼である。
【0025】
[0025]本発明の幾つかの実施形態において、供給原料粉末は、軟化した変態硬化可能な鋼に関係する球状化された炭化物ミクロ構造を有する。
【0026】
[0026]本発明の幾つかの実施形態において、供給原料粉末は、それが完全に変態硬化した場合、同じ等級の鋼の硬度の50%未満のビッカース微小硬度を有する変態硬化可能な等級の鋼の粒子を含む。
【0027】
[0027]本発明の幾つかの実施形態において、供給原料粉末は、焼結されたサブ粒子のモルフォロジーを有する。サブ粒子は、20μm又はより好ましくは8μmより微細なサブ粒子からなる粒子の少なくとも10%の体積分率を含む寸法の分布を有する。
【0028】
[0028]特許請求の範囲に記載の主題をより完全に理解することができるように、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の方法における原理ステップを説明するフローチャートである。
【
図3】本発明の例において、時間の関数としてH13粉末の熱処理の温度を示すグラフである。
【
図4】本発明の例において、H13粉末の圧縮性に対する熱処理の影響を示すグラフである。
【
図5】熱処理された(HT)、受け取ったままの、粗いロットA(+10-45μm)、及び、微細なロットB(16μm)のH13粉末の粒子粒度分布を示すグラフである。
【
図6A】受け取ったままの粗い(ロットA)H13粉末のミクロ構造を示すSEM顕微鏡写真である。
【
図6B】受け取ったままの粗い(ロットA)H13粉末のミクロ構造を示すSEM顕微鏡写真である。
【
図6C】受け取ったままの微細な(ロットB)H13粉末のミクロ構造を示すSEM顕微鏡写真である。
【
図6D】熱処理した微細な(ロットB)H13粉末のミクロ構造を示すSEM顕微鏡写真である。
【
図7A】受け取ったままの粗い(ロットA)粉末を示す倍率250のSEM顕微鏡写真である。
【
図7B】熱処理した粗い(ロットA)粉末を示す倍率250のSEM顕微鏡写真である。
【
図7C】受け取ったままの微細な(ロットB)粉末を示す倍率1000のSEM顕微鏡写真である。
【
図7D】熱処理された微細な(ロットB)粉末を示す倍率1000のSEM顕微鏡写真である。
【
図8A】受け取ったままの粗い(ロットA)粉末のコールドスプレーによって生成された、コールドスプレーH13コーティングの顕微鏡写真である。
【
図8B】熱処理された粗い(ロットA)粉末のコールドスプレーによって生成された、コールドスプレーH13コーティングの顕微鏡写真である。
【
図8C】熱処理された微細な(ロットB)粉末のコールドスプレーによって生成された、コールドスプレーH13コーティングの顕微鏡写真である。
【
図9】H13粉末の熱処理の後の2つの冷却速度を示すグラフである。
【
図10A】受け取ったままの微細な(ロットB)H13粉末の倍率10,000での顕微鏡写真である。
【
図10B】熱処理後に22℃/時間の速度で冷却された微細な(ロットB)H13粉末の倍率10,000での顕微鏡写真である。
【
図10C】熱処理後に350℃/時間の速度で冷却された微細な(ロットB)H13粉末の倍率10,000での顕微鏡写真である。
【
図11A】熱処理し22℃/時間の速度で冷却し堆積させた微細な(ロットB)H13粉末を示す顕微鏡写真である。
【
図11B】熱処理し22℃/時間の速度で冷却し堆積させた微細な(ロットB)H13粉末を示す、別の倍率の顕微鏡写真である。
【
図11C】熱処理し350℃/時間の速度で冷却し堆積させた微細な(ロットB)H13粉末を示す顕微鏡写真である。
【
図11D】熱処理し350℃/時間の速度で冷却し堆積させた微細な(ロットB)H13粉末を示す、別の倍率の顕微鏡写真である。
【
図12】受け取ったままの、及び熱処理し(HT)水霧化したH13粉末の寸法粒子分布を示すグラフである。
【
図13A】受け取ったままの水霧化したH13粉末の倍率1,000の顕微鏡写真である。
【
図13B】熱処理後の水霧化したH13粉末の倍率1,000の顕微鏡写真である。
【
図14A】受け取ったままの水霧化したH13粉末を用いて生成したコールドスプレーコーティングのSEM顕微鏡写真である。
【
図14B】熱処理し水霧化したH13粉末を用いて生成したコールドスプレーコーティングのSEM顕微鏡写真である。
【
図15】時間の関数としてP20粉末の熱処理の温度を示すグラフである。
【
図16】熱処理し(HT)受け取ったままのP20粉末の寸法粒子分布を示すグラフである。
【
図17A】熱処理に続くP20粉末の凝集を示す顕微鏡写真である。
【
図17B】熱処理に続くP20粉末の凝集を示す顕微鏡写真である。
【
図18】熱処理したP20粉末を用いて生成したコールドスプレーコーティングのSEM顕微鏡写真である。
【0030】
[実施形態の詳細な説明]
[0029]以下の説明において、特許請求の範囲に記載の主題の例を提供するように、具体的詳細を示す。しかしながら、下記の実施形態は、特許請求の範囲に記載の主題を定義する又は限定するようには意図されない。特定の実施形態の多くの変形が、特許請求の範囲に記載の主題の範囲内で可能であり得ることは当業者に明白であろう。
【0031】
[0030]驚いたことに、熱処理条件、粒子粒度分布及び撹拌が正しく選択されれば、市販の工具鋼粉末をコールドスプレーに適するようにできることがわかった。
【0032】
[0031]
図1は、本発明の方法における主要なステップを説明するフローチャートである。ステップ10では、変態硬化可能な鋼を担持している粉末が用意される。本発明者らは、以下の例において、幾つかの硬化した工具鋼をコールドスプレー可能な粉末へ変化させる能力を実証したが、工具鋼、低合金強度鋼、及びマルテンサイト系ステンレス鋼を含む、あらゆる種類の変態硬化可能な鋼、並びにこのような鋼の金属マトリックス複合材料、例えば、窒化ホウ素強化鋼が、適切に熱処理した場合、少なくとも十分な相対的な量の鋼を担持する粉末を用いてこの方法による軟化が可能であると考えられる。(フェライト、オーステナイト、二相ステンレス鋼、及びマルエージング鋼は、変態硬化可能でないことが知られているので、適さないと考えられる。)用意される粉末は、好ましくは、一部(すなわち30-90体積%)のより大きな(すなわち、10-80μm、より好ましくは10-50μm、より好ましくは10-30μm)粒子、及び一部(すなわち、80-5体積%、より好ましくは60-10体積%)のより微細な(すなわち、20-0.3μm、より好ましくは10-0.5μm、より好ましくは8-1μm)粒子を含む粒子粒度分布を有し、より大きな粉末は、より微細な粉末より少なくとも10%大きい。分布は二峰性であってもよい。
【0033】
[0032]焼結された球状のサブ粒子のモルフォロジーを有する粒子を含む粉末は、コールドスプレー性のために必要でないことがわかった。特に用意される粉末は、ガス及び水霧化され粉砕/細分された粉末の製造方法を含む、任意の粉末冶金プロセスによって生成されてもよい。
【0034】
[0033]ステップ12では、粉末は、粉末のアニーリング及び部分的な焼結が生じる温度計画で、粉末を動揺しながら熱処理される。熱処理中の撹拌が、ケーキングを回避する回転炉並びに任意の他の撹拌システム、例えば、流動床、タンブラー、バイブレーター又はスタティックスターラー中で実行されてもよいことが理解されるであろう。熱処理は、酸化を制限する雰囲気中で実施される。雰囲気は不活性であってもよいが(好ましくは貴ガス又は他の非反応性ガス中で)、原理としては真空を使用することができる。さらに少し還元性の雰囲気(例えば雰囲気中への水素のごく一部の包含)を、酸素を捕捉し、粉末の純度を向上させるために選ぶことができ、鉄の粉末の高温熱処理の技術分野ではよく知られている。
【0035】
[0034]熱処理条件が正しく選択される場合、熱処理中の撹拌は、焼結及び凝集の低減によって、粉末がケーキングするのを防ぐ。
【0036】
[0035]熱処理ステップの後、粉末は徐々に冷却される(ステップ14)。粉末を高速にクエンチすると、変態硬化し、熱処理の利点を失うと予想される。熱処理は、マルテンサイトの形成を防止し析出硬化効果を最小限にする、制御された冷却ステップを含むことが望ましい。粉末特性を保証するため、及び所望の費用効果を維持するための冷却速度の選択は、当業者が選択することができるトレードオフである。驚いたことに、350℃/時間の比較的高い冷却速度ですら、ある種の鋼にとって満足であることがわかった。
【0037】
[0036]このことによって、そのままでコールドスプレーに適切になり得る、凝集し軟化した粉末をもたらす。凝集に対する制御が満足でない場合、又は、鋼の十分な軟化のために必要な熱処理の継続時間が、結果としてコールドスプレー供給原料設備に適さない寸法に成長する粒子をもたらす場合、少なくとも凝集し軟化した粉末のふるい分けが必要とされるだろう(ステップ16)。さらに、収率を向上させるために、凝集し軟化した粉末の穏やかな粉砕を実施して、凝集し軟化した粉末を部分的に脱凝集させてもよい。脱凝集することにより、凝集し軟化した粉末の粒子のサブ粒子と連結する幾つかの焼結ネックが砕かれるが、凝集し軟化した粉末の塑性変形は最小限であり、冷間加工及び粉末硬化は回避される。穏やかな粉砕は、一般に粒子自体より軟質である(慣性及び硬度の観点で)他の粒子又は場合により粉砕媒体本体(ボール、ロッドなど)と粒子を衝突させることによって、そのような脱凝集を可能にする。この一例は、粉砕媒体を用いないVブレンダー(又は他の同様の低剪断ブレンド設備)の使用であり、凝集粒子を壊して凝集粒子の焼結ネックから剥離するには決して十分でない程度まで衝突エネルギーを下げるほどの十分に低い速度に設定されている。衝突のエネルギーが高いほど、粉末表面の硬化を引き起こし得る粒子の冷間加工が多く生じる。衝突のエネルギーが低いほど、生じる脱凝集が少ない可能性がある。
【0038】
[0037]コールドスプレーされる(ステップ18)まで、又は、そのような目的のために販売されるまで凝集し軟化した粉末が冷却される時間から、それらは硬化から保護される。激しい破砕又は激しい粉砕を回避することによって、粉末材料が冷間加工によって硬化することはない。ふるい分け及び穏やかな粉砕をすることは、得られた凝集体の最終寸法をコールドスプレー設備の必要条件に調整するために必要である。
【0039】
[0038]本出願人は、驚いたことにそのような処理がコールドスプレー堆積が可能な、軟化した粉末凝集体に結びつくことを見出した。鋼の軟化、焼結粉末のモルフォロジー、及び結果として生ずる空隙を組み合わせると、擬似変形が可能になり、コールドスプレー中に粒子加速度(及び衝突速度)が増し、信頼できる堆積を累積的に達成すると考えられる。結果として得られた凝集粉末は、それらの未処理の粉末と異なり、コールドスプレー堆積が可能であることが示された。
【0040】
[0039]
図2は、ステップ14又は16で本方法から生成された粉末の典型的な粒子20の略図である。粒子20のモルフォロジーは、1個又は複数(この場合1個)のより大きな直径(すなわち、10-80μm、より好ましくは10-70μm、より好ましくは10-30μm)のサブ粒子22の凝集であり、より微細な(すなわち、20-0.3μm、より好ましくは10-0.5μm、より好ましくは8-1μm)サブ粒子24と凝集している。典型的に、より大きな粒子は、より微細なサブ粒子より少数であるが、最大の体積分率を表わす。より大きなサブ粒子22は、より微細なサブ粒子24より角張っていることが示される。これは必須ではないが、サブ粒子の形は一般に重要ではない。キャリアー流内の加速度の観点からより大きな表面積対体積比を有する粒子に利点があるが、高度に球状のサブ粒子22/24さえ、十分にうまくいくことが示されている。より微細なサブ粒子24は典型的に、粒子の10体積%超であり、15体積%~30体積%であってもよい。
【0041】
[0040]用語「凝集」は、例えば語句「軟化した粉末凝集体」中で粒子の部分的な焼結に対応し、例えば、本明細書において下記の顕微鏡写真画像において幾つかの受け取ったままの粉末で見ることができる粒子間のファンデルワールス力による穏やかな凝集に対応しないことが、本明細書において注目されるべきである。そのような弱く連結された凝集粉末は、粉末取り扱い中、又はコールドスプレーにおいて脱凝集すると予想され、コールドスプレーに適していない。他の形態の凝集とは対照的に、部分焼結は、サブ粒子22,24を結合する焼結ネック25を形成する。
【0042】
[0041]より大きなサブ粒子22及びより微細なサブ粒子24の両方は、本明細書の上記に記述された変態硬化可能な鋼又は金属マトリックスとして鋼を有する金属複合材料から構成され、主として、これから構成されるのが好ましい。より大きなサブ粒子22及びより微細なサブ粒子24は、同じ鋼であってもよい。
【0043】
実施例1:H13工具鋼粉末
[0042]型及びダイメーカーは、主として、H13、P20及びD2などの工具鋼を、それらの高い表面硬度、高強度、熱的特性などから利益を得るために使用する。工具鋼のコールドスプレーの付加的な製造は、コスト、リスク及び所要時間を下げ、設計におけるコンフォーマルな冷却及び新しい材料による能力を向上させることによってこの産業での機会を開くであろう。本出願人による同時係属中の米国仮特許出願第62/699,063号は、特に、とりわけ本発明の熱処理された工具鋼から作られたコールドスプレーの付加的製造部材内の中空構造を形成することを教示している。
【0044】
[0043]工具のために使用される鋼は、相異なる組成を有することができるが、しかし、変形及び摩滅に抵抗するのに必要な高い硬度を共通に持つことができる。この高い硬度は強くコールドスプレー堆積を制限する。窒素キャリヤーガスを用いる予備的な試みで、市販のH13粉末を用いて、いかなるコーティングも生成できなかった。コールドスプレーされた工具鋼の文献に報告は見つかっていない。
【0045】
[0044]方法論:粗いロットA(+10-45μm)及び微細なロットB(-16μm)のH13ガス霧化工具鋼粉末をともに、熱処理にかけた。熱処理は、粉末の部分的な焼結を含む、アニーリング(軟化)及び凝集を引き起こした。粉末処理は、以下の条件の下:2.5rpm、窒素雰囲気、0.6-1kg/バッチで4インチの石英管(MTI Corporation Model OFT1200X)を含む、回転管状炉中で実行した。アニーリングステップの間、粉末は、875℃で2時間浸し、次いで、続いて、温度が約500℃に達するまで約22℃/時間の制御した速度で冷却し、次いで、室温に放冷した。(温度計画について
図3を参照)。熱処理(HT)粉末は、公称目開き45μmの篩でふるい分け、続いて、同じパラメーターを使用してコールドスプレーした。(Plasma Giken PCS1000,T
i(N2)=950℃,P
i(N2)=4.9MPa、スタンドオフ=45mm、ロボット速度=300mm/秒)。
【0046】
[0045]粉末の変形挙動及び硬度:
図4を参照すると、H13粉末の圧縮性に対する熱処理の影響を測定するために、KZK Powder Technologies Corp.によって製造されたPowder Testing Centre(モデルPTC-03DT)と呼ばれる計装プレスにこれらの粉末を締固めすることによって初期の試験を行なった。この装置は、単一運動モードでの計装円筒状のダイ動作からなる。成形体によって印加され伝達される圧力は、2つの独立した荷重測定装置によって測定する。可動性(下側)パンチの変位の計測値が変換されて直径9.525mmのダイの剛体の挙動を仮定することにより、その部品の平均密度を得る。熱処理した(HT)H13粉末(実線)は、締固め圧力と共に増加するインダイ密度を示すが、受け取ったままの粉末(点線)は、増加する締固め圧力と共にはるかにゆっくりした密度増加を示す。HT粉末はまた、より低い初期密度(おそらく凝集による)だが、高圧ではより高い密度を示し、より軟質の材料の予想と適合する。受け取ったままの粉末は、圧縮されても一緒にまとまらず、スプリングバック及び剥離を示したが、しかし、HT粉末は変形可能で正常な成形体が得られた。
【0047】
[0046]これらの粉末の硬度を、Nanoinstruments(MTS)からのナノインデンターG200を使用し3gfの荷重でBerkovitchチップを使用して測定した。下記の表1に示すように、HT粉末の硬度は、受け取ったままの粉末より実質的に低く、アニールしたH13バルクよりさらに少し低かった。これらの結果は、熱処理条件が十分なことを示し、結果として得られた粉末はこの鋼に予想することができるのと同じくらい軟質である。
【0048】
【0049】
[0047]粉末特性評価:熱処理及び受け取ったままのH13粉末の粒子粒度分布を
図5に示し、表2に特性評価した。HTの後の粉末は、-45のスクリーンを用いて、ふるい分けたが、しかし、穏やかな粉砕は適用しなかった。その収率は、バッチに依存して約55-80%であった。
【0050】
【0051】
本明細書において、Dx(μm)は、試料のx体積パーセントに対応する粒子寸法値を指し、試料はこの値以下の粒子寸法を有する。よって、粗いロットA粉末の10%は、約27μm以下であり、熱処理ロットAは粒度分布に影響がほとんどなかった。対照的に、ロットBは熱処理によって非常に粒度分布が影響を受ける。受け取ったままの粉末の最も微細な粒子の多くが凝集し、そのため、粉末の最小の10体積%は、約3μm以下~約9μm以下に変わった。百分率の体積基準がより小さな粒子に偏ると仮定すれば、粒子の数の大部分は凝集していたことになる。
【0052】
[0048]SEMによる粉末特性評価:熱処理及び受け取ったままのH13粉末(粗い及び微細なロット)の走査電子顕微鏡を用いる特性評価を
図6及び7に示す。
図6は、相異なるH13工具鋼粉末のミクロ構造並びに回転炉での熱処理の影響を示す。
図6A、Bは、典型的なコールドスプレー切片を2つの拡大率で示す、受け取ったままのH13粉末(ロットA)(+10-45μm)を示す。ミクロ構造は、炭化物の骨格網状構造に囲まれた暗色のグレインから構成される。
図6Cは、同様のミクロ構造を示すより微細なロット(ロットB)(-16μm)の受け取ったままのH13粉末を提示する。このより微細なロットは、熱処理し、一旦凝集させ、コールドスプレーに適切であった。
図6Dで示すように、熱処理した粉末のミクロ構造は、球状化された炭化物相を示し、より軟質の粉末をもたらす。さらに、輪郭の明確な焼結ネックとの粒子間結合が、明白に観察され、結果として強力な粉末凝集が得られる。
【0053】
[0049]
図7は、受け取ったままの粗い粉末(
図7A、倍率250)、及び熱処理した粗い粉末(
図7B、倍率250)、受け取ったままの微細な粉末(
図7C、倍率1000)、及び熱処理した微細な粉末(
図7D、倍率1000)を示す一連の顕微鏡写真である。
図7A、Bは実質上同一に見える。
図7C、Dは、粒子の緩い凝集のために幾つかの領域で類似したように見え得るが、
図7Dの粒子の部分的な焼結は、より大きな粒子をもたらした。サブ粒子の寸法及び構成は、穏やかな粉砕が広範囲な冷間加工に粒子を曝露せずに、どのようにより大きな粒子を細分することができるか示唆する。
【0054】
[0050]H13粉末のコールドスプレー性:
図8は、同じ噴霧パラメーターを使用する、様々な粉末のコールドスプレーの結果の顕微鏡写真画像である。
図8Aは、受け取ったままの粉末ロットA(粗い+10-45μm)粉末を噴霧する場合、部分的な単層のみを形成することを示す。表面の粗さは、粉末が表面をピーニングしたことを示し、基材への結合が不十分に見える。HTロットA粉末はコーティングを生成するが、コーティングはかなりの割れ目を呈した(
図8B)。HTロットB粉末は、
図8Cに示すように、厚く正常なコーティングを生成した。厚さ4mmものコーティングが生成され、所望の場合、より大きな厚さも達成し得る。微細な熱処理粉末についての堆積効率は、約30%であり、HTロットA粉末のそれのほとんど2倍であった(受け取ったままのロットAは非常に低い堆積効率であった。)。
【0055】
[0051]HTロットB粉末を用いて生成したコーティングについてRockwell C硬度(HRC、ASTM E18)は、46であるとわかった。
【0056】
[0052]ミクロ構造、硬度及び他の機械的特性を、運転において必要とされる特性に合ったものにするために、そのようなコーティングをさらに熱処理することは当技術分野で公知である。例えば、そのようなコーティングをアニール、クエンチ及び焼き入れすることが知られている。さらに、単純なコーティングとは対照的にこれらの粉末を使用する部品の付加的な製造が企図される。
【0057】
[0053]冷却速度:
図9は、粉末で試験した熱処理の2つの冷却速度を示す。幾つかの中間の計画を検討したが、計画のすべてで、ほとんど等しい品質のコールドスプレーコーティングが生成した。この特定の鋼粉末についてより短い加熱及び冷却過程を用いるさらなる検討は、8時間以内の熱処理が有利であると予想される。
図10は、粉末ミクロ構造に対するこれらの冷却速度の影響を倍率10,000で示す一連の顕微鏡写真である。
図10Aは、強く接続した炭化物の骨格網状構造を有する、受け取ったままのガス霧化した微細なH13粉末を示す。
図10Bは、22℃/時間(HTロットB-a)の速度で熱処理した後に冷却したHTロットB粉末を示し、
図10Cは、350℃/時間(HTロットB-b)の速度で熱処理した後に冷却したHTロットB粉末を示す。予想外にも、両方の粉末は、同様の球状炭化物の沈殿及び焼結を示す。
【0058】
[0054]HTロットB粉末をふるい分け、Vブレンダーを使用して穏やかに粉砕した。45μmより大きい粒子は、Vブレンダー又はTurbulaブレンダーを使用して、穏やかな粉砕にかける。その産出物は、3回までふるい分けステップに戻し再循環した。穏やかな粉砕及びふるい分けは、約55-80%から90%を超えて収率を向上させることが観察された。
【0059】
[0055]穏やかな粉砕のHTロットB-a、b粉末は、
図11に示すように、以下の条件の下でPlasma Giken(PCS-1000)スプレーガンを使用してP20ステンレス鋼基材に噴霧した:T
i=(N
2)950℃、P
i(N
2)=4.9MPa、スタンドオフ=45mm、ロボット速度:100mm、粉末供給量:3kg/時間、ステップサイズ:1mm。
図11は、コールドスプレー堆積物に対するこれらの冷却速度の影響を示す一連の画像である。
図11A、Bは、穏やかな粉砕のHTロットB-a粉末から生成されたコーティングの2つの倍率であり、
図11C、Dは、ロットB-b粉末からのコーティングに対応する倍率である。コーティング一体性はいずれの場合も優れている。
【0060】
実施例2:H13水霧化した工具鋼粉末
[0056]水霧化粉末は、実施例1及び2中で使用した球形を有するガス霧化粉末よりはるかに不規則的な形を有する。予備的なコールドスプレー試験は、受け取ったままの水霧化H13粉末を用いるコーティングの生成に失敗した(WA-H13)。
【0061】
[0057]方法論:AMC Advanced Powders & Systems,Chinaからの-45μmのアニールしないWA-H13粉末を熱処理にかけた。熱処理によって、粉末をアニールし、軟化し、凝集した(部分的な焼結と共に)。HTは、以下の条件の下で4インチの石英管を有する回転管状炉(MTI Corporation Model OFT1200X)中で実行した:2.5rpm、アルゴン雰囲気、1kg/バッチ。アニーリングステップの間、粉末を875℃で1時間、浸し、次いで、続いて、温度が約500℃に達するまで約350℃/時間の制御した速度で冷却し、次いで、室温に放冷した。HT WA-H13粉末は、公称目開き45μmの篩でふるい分け(90%より高い全収率)、続いて、以下のパラメーターを使用してコールドスプレーした:Plasma Giken PCS1000、Ti(N2)=950℃、Pi(N2)=4.9MPa、スタンドオフ=45mm、ロボット速度=300mm/秒。
【0062】
[0058]粉末特性評価:粒子粒度分布を
図12に示し、HT及び受け取ったままのWA-H13粉末のビッカース微小硬度(ASTM E384)、並びに粒子寸法値を表3に示す。
【0063】
【0064】
D10の差は、小さな粉末の大部分が凝集したこと、及びその結果として最も小さな粒子の下方10体積%が増加したことを示す。
【0065】
[0059]SEMによる粉末特性評価:受け取ったままの、及びHT WA-H13粉末を、走査電子顕微鏡を用いて画像化し、
図11A、Bにそれぞれ示す。
図11Bは、より粗い粒子への微粉の相当な凝集を示す。
【0066】
[0060]WA-H13改質粉末のコールドスプレー性:
図14は上に規定したパラメーターを使用するコールドスプレー堆積の後の結果を示す。高密度のコーティングは、HT粉末を用いて得られ、受け取ったままの粉末では何も生成されない。
図14Aにおいて、単層コーティングは受け取ったままの粉末を使用して得られることがわかる。受け取ったままの粒子は、基材への結合が不十分に見える。一方、
図14Bに示すように、HT粉末を使用して、厚い及び正常なコーティングが得られる。HT粉末についての堆積効率は、受け取ったままの粉末のほぼ0と比較して、約70%であった。
【0067】
実施例3:P20工具鋼粉末
[0061]方法論:H13工具鋼について上記したものと同じ装置で熱処理を、P20工具鋼を使用して実行した(温度計画については
図15を参照)。P20粉末を回転炉で精製アルゴン中で加熱し、775℃で1時間浸して微細な粒子をアニール及び凝集させた。粉末は250℃/時間の速度で冷却した。最後に、処理した粉末を、公称目開き45μmの篩でふるい分け、90%超の収率が得られた。
【0068】
[0062]粉末の特性評価:受け取ったままの、及び熱処理した粉末の粒子粒度分布及びビッカース微小硬度(修正ASTM E384)を表4及び
図14に示す。
【0069】
【0070】
D10値は、大きな数分率の最も微細な粉末が凝集して、より大きな体積の粉末を生成したことを示す。
【0071】
[0064]SEMによる粉末特性評価:受け取ったままの、及びHTガス霧化したP20粉末の走査電子顕微鏡を用いた特性評価を、
図17A、Bにそれぞれ示す。より粗い粒子への微粉の凝集が明白に観察され、焼結ネックは、
図17Bではっきり目に見える。
【0072】
[0065]熱処理したP20粉末の堆積:P20粉末は、以下の条件の下でPlasma Giken(PCS 1000)噴霧器を使用して堆積した:Plasma Giken PCS1000、T
i(N2)=950℃、P
i(N2)=4.9MPa、スタンドオフ=45mm、ロボット速度=100mm/秒。幾つかのロットを試験したが、ミクロ構造及び堆積速度の観点においてロット間の有意差は観察されなかった。粉末は良好な再現性を示す。堆積効率(DE)はおよそ70%であった。
図18に示すように、生成されたコーティングは、高密度で割れ目を含まなかった。
【0073】
[0066]特定の工具鋼粉末について熱処理の文脈で上記の主題を述べてきたが、他の硬質の鋼金属への熱処理も適用され得ることは理解されよう。
【0074】
[0067]適切な変態硬化鋼の他の例として、低合金強度鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、及び窒化ホウ素強化鋼などの金属複合材料が含まれる。
【0075】
実施例4:シミュレーション結果
[0068]Kinetik Spray Solutionソフトウェアを、一連の硬質の鋼について堆積効率に対して効果的な粉末粒度分布をシミュレートするために使用した。8~70μmの間の粒子粒度分布が、広範な粒度分布について最も許容される堆積効率を与えることがわかった。一般に、30~40μmの間の粒子寸法が、より広い分布の最も高い堆積効率を与える。堆積効率は、寸法が8μm未満で劇的に減少する。
【0076】
実施例5:還元雰囲気中での熱処理
[0069]本出願人は、2.9%H2、残りArからなる還元雰囲気中でH13粉末の熱処理を実施した。水素は公知の脱酸素剤であり、純度向上のために粉末の酸化を低減すると予想される。
【0077】
[0070]上記の代替実施形態がある程度詳細に記述されたが、多くの変形が、特許請求の範囲に記載の主題から外れずに実行されてもよいことが、当業者によって理解されるだろう。