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特許7311531無機粉体複合体およびその製造方法、油中水型乳化組成物、日焼け止め化粧料
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  • 特許-無機粉体複合体およびその製造方法、油中水型乳化組成物、日焼け止め化粧料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】無機粉体複合体およびその製造方法、油中水型乳化組成物、日焼け止め化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/27 20060101AFI20230711BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230711BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 8/58 20060101ALI20230711BHJP
   A61K 8/891 20060101ALI20230711BHJP
   C09C 1/04 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61K8/27
A61K8/25
A61K8/36
A61K8/06
A61Q17/04
A61K8/58
A61K8/891
C09C1/04
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020553346
(86)(22)【出願日】2019-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2019041138
(87)【国際公開番号】W WO2020085241
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018199682
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】三刀 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】茅原 健二
(72)【発明者】
【氏名】神田 直樹
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036254(JP,A)
【文献】特開2016-141671(JP,A)
【文献】特開2017-066137(JP,A)
【文献】特開2017-088421(JP,A)
【文献】特開2008-094917(JP,A)
【文献】特開2015-010095(JP,A)
【文献】特表2010-507446(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0242128(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
C09C1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉体と、
前記無機粉体の表面の少なくとも一部を被覆している、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とを含み、
前記第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、
前記第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、
前記親水化処理剤は含水シリカであり、
前記第1の疎水化処理剤は、シリコーンオイルまたはシラン化合物である、無機粉体複合体。
【請求項2】
前記無機粉体は、紫外線遮蔽効果を有する、請求項1に記載の無機粉体複合体。
【請求項3】
前記無機粉体は、酸化亜鉛である、請求項1または請求項2に記載の無機粉体複合体。
【請求項4】
前記第1の疎水化処理剤は、ハイドロゲンジメチコン、ジメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキルシラン、または、シランカップリング剤である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項5】
前記第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランである、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項6】
前記第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸である、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項7】
前記第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであり、前記第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項8】
前記無機粉体の平均一次粒子径が80nm未満である、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項9】
前記無機粉体を90~98重量%、前記第1の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、前記第2の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、前記親水化処理剤をSiO換算で0.5~6.0重量%含む、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項10】
デカメチルシクロペンタシロキサン50gに当該無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して油相分散体を得、前記油相分散体に水25gを加えて分散機で3000rpmにて2分間乳化して乳化物を得た場合、前記乳化物が50℃で1週間保管後に乳化状態を維持している、請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体。
【請求項11】
前記乳化物のSPFが、デカメチルシクロペンタシロキサン75gに当該無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して得られる油相分散体のSPFの1.5倍以上である、請求項10に記載の無機粉体複合体。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体を含む、油中水型乳化組成物。
【請求項13】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の無機粉体複合体を含み、かつ、界面活性剤を含有しない、油中水型乳化組成物。
【請求項14】
さらに表面処理酸化チタン、表面処理酸化亜鉛、および、紫外線吸収剤の少なくとも1つを含む、請求項12または請求項13に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項15】
前記表面処理酸化チタンまたは前記表面処理酸化亜鉛の表面処理剤は、含水シリカ、水酸化アルミニウム、アルギン酸、脂肪酸、シリコーンオイル、および、シランカップリング剤の少なくとも1つである、請求項14に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項16】
前記脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、および、ステアリン酸の少なくとも1つである、請求項15に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項17】
前記シリコーンオイルは、メチコン、ジメチコン、および、ハイドロゲンジメチコンの少なくとも1つである、請求項15または請求項16に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項18】
前記シランカップリング剤は、トリエトキシカプリリルシランである、請求項15から請求項17までのいずれか1項に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項19】
前記紫外線吸収剤は、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、シアノアクリレート系、安息香酸エステル系の少なくとも1つである、請求項14から請求項18までのいずれか1項に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項20】
日焼け止め化粧料である、請求項12から請求項19までのいずれか1項に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項21】
無機粉体を、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とによって表面処理する工程を含み、
前記第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、
前記第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、
前記親水化処理剤は含水シリカであり、
前記第1の疎水化処理剤は、シリコーンオイルまたはシラン化合物である、無機粉体複合体の製造方法。
【請求項22】
前記第1の疎水化処理剤は、ハイドロゲンジメチコン、ジメチコン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキルシラン、または、シランカップリング剤である、請求項21に記載の無機粉体複合体。
【請求項23】
前記第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであり、前記第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸である、請求項21に記載の無機粉体複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には無機粉体複合体に関し、より特定的には、油中水型の微細分散系に用いられる無機粉体複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化型の日焼け止め化粧料では、伝統的に、疎水性表面処理を施した酸化亜鉛や酸化チタンのような紫外線遮蔽剤や紫外線防御剤が油相に配合される。この場合、水相には紫外線遮蔽剤や紫外線防御剤が存在しないので、紫外線は化粧料中の水相を通過してしまう。そのため、より高い紫外線遮蔽効果や紫外線防御効果を達成するためには、紫外線遮蔽剤や紫外線防御剤をより多量に配合し、油相の量を増やす必要がある。また、水相と油相とが乳化した状態の安定性を保ち、紫外線を通過させてしまう水相が分離しないようにする必要がある。
【0003】
しかし、乳化剤には、乳化剤特有のべたつきがあり、化粧料の感触等に悪影響を与える場合がある。
【0004】
そこで、従来、乳化剤を含まない乳化組成物が提案されている。
【0005】
例えば、特表2001-518112号公報(特許文献1)には、乳化剤を含まない化粧品又は皮膚科学的調製物として、油相と、水相と、親水性及び親油性の両者の特性を有する微細無機顔料を含む、油中水型の微細分散系が記載されている。特許文献1には、微細無機顔料として、ステアリン酸アルミニウムで被覆された二酸化チタン顔料や、ジメチルポリシロキサンによって被覆された酸化亜鉛顔料が記載されている。
【0006】
また、特許第5910632号公報(特許文献2)には、無機粉体上に、シリコーンオイル等の撥水性有機化合物からなる第一の被覆層と、第一の被覆層上に形成された親水性のSi化合物/又はAl化合物の第二の被覆層を形成した複合粉体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2001-518112号公報
【文献】特許第5910632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の油中水型の微細分散系は、乳化が十分でなかったり、乳化安定性が十分ではなかった。乳化や乳化安定性が不十分であると、経時で水相と油相の分離が起こり、使用時の感触を損なったり、十分な紫外線防御効果を発揮できないなどの問題が生じたりする。
【0009】
また、特許文献2に記載の複合粉体は、水中に分散させることが想定されており、この複合粉体を用いて、乳化剤を使用せずに乳化組成物を作製したり、乳化組成物の乳化安定性を向上させたりすることは想定されていない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、乳化や乳化安定性のよい油中水型の微細分散系に用いられる無機粉体複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、無機粉体を、第1の疎水化処理剤と、第2の疎水化処理剤と、親水化処理剤、より具体的には、ケイ素化合物と脂肪酸と含水シリカによって表面処理して得られた無機粉体複合体を用いることで、乳化剤を使用しなくても、油中水型(W/O型)の乳化組成物を製造することができることを見出した。また、この乳化組成物は、経時的な乳化安定性も良好であることを見出した。
【0012】
さらに、例えば無機粉体として酸化亜鉛を用いて、ケイ素化合物と脂肪酸と含水シリカによって表面処理して得られた無機粉体複合体は、油単独の分散媒に分散した場合よりも、乳化組成物とした場合の方が、紫外線防御効果が高くなるという予想外の効果を見出した。従来の疎水性表面処理を施した酸化亜鉛では、油単独の分散媒に分散させる場合の方が、乳化組成物とする場合よりも、紫外線防御効果が高い。
【0013】
本発明者らのこのような知見に基づいて、本発明の無機粉体複合体は以下のように構成される。
【0014】
本発明に従った無機粉体複合体は、無機粉体と、無機粉体の表面の少なくとも一部を被覆している、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とを含み、第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、親水化処理剤は含水シリカである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従えば、乳化や乳化安定性のよい油中水型の微細分散系に用いられる無機粉体複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の乳化前の油相の290~450nmの吸光度と、乳化後の290~450nmの吸光度とを示す図である。
図2】比較例2の乳化前の油相の290~450nmの吸光度と、乳化後の290~450nmの吸光度とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0018】
本発明に従った無機粉体複合体は、無機粉体と、無機粉体の表面の少なくとも一部を被覆している、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とを含む。第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、親水化処理剤は含水シリカである。
【0019】
無機粉体は、紫外線遮蔽効果を有することが好ましい。紫外線遮蔽効果を有する無機粉体としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタンを用いることができる。
【0020】
無機粉体の平均一次粒子径は80nm未満であることが好ましい。なお、本発明における平均一次粒子径は、無機粉体を透過型電子顕微鏡で撮影し(撮影する粒子の個数は1,000個以上)、撮影された個々の粒子を画像解析式粒度分布測定装置で画像処理して得られる、円相当径から算出したものである。
【0021】
第1の疎水化処理剤(ケイ素化合物)は、ハイドロゲンジメチコン、ジメチコン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーンオイルや、アルキルシランやシランカップリング剤などのシラン化合物などが挙げられるが、この中でもハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであることが好ましい。
【0022】
第1の疎水化処理剤の量は、無機粉体に対して、0.5~5.0重量%であることが好ましく、1.0~4.0重量%であることがより好ましい。
【0023】
第2の疎水化処理剤(脂肪酸)は、イソステアリン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などが挙げられるが、この中でもイソステアリン酸であることが好ましい。
【0024】
第2の疎水化処理剤の量は、無機粉体に対して、0.5~5.0重量%であることが好ましく、1.0~4.0重量%であることがより好ましい。
【0025】
第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の組み合わせとしては、第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであり、前記第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸であることが好ましい。
【0026】
第1の疎水化処理剤としてケイ素化合物を使用することで、油相材料の中でもシリコーンオイルなどのケイ素系材料との親和性が特に向上する。一方、第2の疎水化処理剤として脂肪酸を使用することで、油相材料の中でも炭化水素油やエステル油などの非ケイ素系材料との親和性が特に向上する。第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤を併用することにより、多種多様な油相材料に馴染みやすくなることで、後述する油中水型乳化組成物を作製する際に、特定の油相材料に限定されることなく、幅広い製剤に対して十分な乳化効果を発揮することが可能となる。
【0027】
親水化処理剤(含水シリカ)の原料としては、表面処理後に無機粉体上で含水シリカを形成可能な材料、例えばオルトケイ酸テトラエチル、メチルシリケートオリゴマー、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられ、この中でもオルトケイ酸テトラエチルまたはメチルシリケートオリゴマーであることが好ましい。
【0028】
親水化処理剤の量は、無機粉体に対して、SiO換算で0.5~6.0重量%であることが好ましく、1.0~4.0重量%であることがより好ましい。
【0029】
各処理剤の処理量の比率については、疎水化処理剤(第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の合計)と親水化処理剤の重量比、すなわち、(第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の合計重量)/(親水化処理剤の重量)の値が0.2~6.0であることが好ましく、0.8~2.5であることがより好ましい。
【0030】
以上のようにすることにより、乳化や乳化安定性のよい油中水型の微細分散系に用いられる無機粉体複合体を提供することができる。
【0031】
次に、本発明に従った無機粉体複合体の製造方法を説明する。
【0032】
無機粉体複合体の製造方法は、無機粉体を、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とによって表面処理する工程を含む。
【0033】
無機粉体を表面処理する工程としては、具体的には、無機粉体と第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤の原料とを同時に混合して表面処理する工程や、無機粉体と各処理剤を任意の順番で混合することで表面処理する工程が挙げられる。無機粉体を表面処理する工程の際、分散媒を用いずに乾式にて表面処理を行ってもよいし、分散媒を使用して湿式にて表面処理を行ってもよい。分散媒を使用する場合、分散媒の種類は特に限定されないが、無機粉体および各処理剤との親和性の観点から、イソプロピルアルコール等のアルコールを用いることが好ましい。
【0034】
このようにして表面処理を行った後、任意で乾燥工程や粉砕工程を行うことにより、本発明の無機粉体複合体を得ることができる。
【0035】
次に、本発明の無機粉体複合体を用いた油中水型乳化組成物について説明する。
【0036】
本発明に従った油中水型乳化組成物は、本発明の無機粉体複合体を含み、好ましくは、界面活性剤(乳化剤)を含有しない。
【0037】
油中水型乳化組成物は、表面処理酸化チタン、表面処理酸化亜鉛、および、紫外線吸収剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0038】
油中水型乳化組成物において、表面処理酸化チタンまたは表面処理酸化亜鉛の表面処理剤は、含水シリカ、水酸化アルミニウム、アルギン酸、脂肪酸(より好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、および、ステアリン酸の少なくとも1つ)、シリコーンオイル(より好ましくは、メチコン、ジメチコン、および、ハイドロゲンジメチコンの少なくとも1つ)、および、シランカップリング剤(より好ましくは、トリエトキシカプリリルシラン)の少なくとも1つであることが好ましい。
【0039】
油中水型乳化組成物において、紫外線吸収剤は、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、シアノアクリレート系、安息香酸エステル系の少なくとも1つであることが好ましい。
【0040】
本発明に従った油中水型乳化組成物は、例えば、化粧料として用いられることが好ましい。このようにすることにより、化粧料に乳化剤を用いる必要がなく、経時的な乳化安定性が良好な化粧料を得ることができる。
【0041】
特に、無機粉体として酸化亜鉛を用いた場合、本発明の油中水型乳化組成物は、日焼け止め化粧料として用いられることが好ましい。本発明の油中水型乳化組成物を用いた日焼け止め化粧料は、塗布部分が水に濡れても高い紫外線防御効果を維持することができる。
【0042】
さらに、無機粉体として酸化亜鉛を用いて無機粉体複合体を製造し、上述の表面処理酸化チタンを併用して油中水型乳化組成物を製造することによって、従来の酸化亜鉛と酸化チタンとを組み合わせた油中水型乳化組成物よりも、紫外線防御効果がより高まる。この油中水型乳化組成物を用いることによって、より高い紫外線防御効果を発揮する日焼け止め化粧料を提供することができる。換言すれば、より少ない配合量でも、従来と同程度以上の紫外線防御効果を得ることが可能な日焼け止め化粧料を提供することができる。
【0043】
本発明を要約すると以下の通りである。
【0044】
(1)本発明に従った無機粉体複合体は、無機粉体と、無機粉体の表面の少なくとも一部を被覆している、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とを含み、第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、親水化処理剤は含水シリカである。
【0045】
(2)本発明に従った無機粉体複合体においては、無機粉体は、紫外線遮蔽効果を有することが好ましい。
【0046】
(3)本発明に従った無機粉体複合体においては、無機粉体は、酸化亜鉛であることが好ましい。
【0047】
(4)本発明に従った無機粉体複合体においては、第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであることが好ましい。
【0048】
(5)本発明に従った無機粉体複合体においては、第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸であることが好ましい。
【0049】
(6)本発明に従った無機粉体複合体においては、第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであり、第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸であることが好ましい。
【0050】
(7)本発明に従った無機粉体複合体においては、無機粉体の平均一次粒子径が80nm未満であることが好ましい。
【0051】
(8)本発明に従った無機粉体複合体は、無機粉体を90~98重量%、第1の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、第2の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、親水化処理剤をSiO換算で0.5~6.0重量%含むことが好ましい。
【0052】
(9)本発明に従った無機粉体複合体は、デカメチルシクロペンタシロキサン50gに当該無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して油相分散体を得、油相分散体に水25gを加えて分散機で3000rpmにて2分間乳化して乳化物を得た場合、乳化物が50℃で1週間保管後に乳化状態を維持していることが好ましい。
【0053】
(10)本発明に従った無機粉体複合体は、乳化物のSPFが、デカメチルシクロペンタシロキサン75gに当該無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して得られる油相分散体のSPFの1.5倍以上であることが好ましい。
【0054】
(11)本発明の1つの局面に従った油中水型乳化組成物は、上記のいずれかの無機粉体複合体を含む。
【0055】
(12)本発明の別の局面に従った油中水型乳化組成物は、上記のいずれかの無機粉体複合体を含み、且つ、界面活性剤を含有しない。
【0056】
(13)本発明に従った油中水型乳化組成物は、さらに表面処理酸化チタン、表面処理酸化亜鉛、および、紫外線吸収剤の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0057】
(14)本発明に従った油中水型乳化組成物においては、表面処理酸化チタンまたは表面処理酸化亜鉛の表面処理剤は、含水シリカ、水酸化アルミニウム、アルギン酸、脂肪酸、シリコーンオイル、および、シランカップリング剤の少なくとも1つであることが好ましい。
【0058】
(15)本発明に従った油中水型乳化組成物においては、脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、および、ステアリン酸の少なくとも1つであることが好ましい。
【0059】
(16)本発明に従った油中水型乳化組成物においては、シリコーンオイルは、メチコン、ジメチコン、および、ハイドロゲンジメチコンの少なくとも1つであることが好ましい。
【0060】
(17)本発明に従った油中水型乳化組成物においては、シランカップリング剤は、トリエトキシカプリリルシランであることが好ましい。
【0061】
(18)本発明に従った油中水型乳化組成物においては、紫外線吸収剤は、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、シアノアクリレート系、安息香酸エステル系の少なくとも1つであることが好ましい。
【0062】
(19)本発明に従った油中水型乳化組成物は、日焼け止め化粧料であることが好ましい。
【0063】
(20)本発明に従った無機粉体複合体の製造方法は、無機粉体を、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤と親水化処理剤とによって表面処理する工程を含み、第1の疎水化処理剤はケイ素化合物であり、第2の疎水化処理剤は脂肪酸であり、親水化処理剤は含水シリカである。
【0064】
(21)本発明に従った無機粉体複合体の製造方法においては、第1の疎水化処理剤はハイドロゲンジメチコンまたはトリエトキシカプリリルシランであり、第2の疎水化処理剤はイソステアリン酸であることが好ましい。
【実施例
【0065】
(実施例1)
無機粉体として平均一次粒子径が25nmである酸化亜鉛基材(テイカ株式会社製:MZ-500)100gと、第1の疎水化処理剤としてハイドロゲンジメチコン(信越化学工業株式会社製:KF-9901)2.6gと、第2の疎水化処理剤としてイソステアリン酸(高級アルコール株式会社製:イソステアリンEX)1.4gと、親水化処理剤としてオルトケイ酸テトラエチル(信越化学工業株式会社製:KBE-04)10.4gとを混合し、卓上ブレンダーで20分間撹拌して表面処理工程を行った。表面処理後、得られた粉体を乾燥機に入れ、105℃で2時間乾燥し、ジェットミルで粉砕して、実施例1の無機粉体複合体を得た。なお、無機粉体の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製)で撮影した個々の粒子を、画像解析式粒度分布ソフトウェアMac-VIEW(株式会社マウンテック製)で画像処理することによって測定した。
【0066】
(実施例2)
無機粉体として平均一次粒子径が25nmである酸化亜鉛基材(テイカ株式会社製:MZ-500)100gと、第1の疎水化処理剤としてハイドロゲンジメチコン(信越化学工業株式会社製:KF-9901)2.6gと、第2の疎水化処理剤としてイソステアリン酸(高級アルコール株式会社製:イソステアリンEX)1.4gと、親水化処理剤としてオルトケイ酸テトラエチル(信越化学工業株式会社製:KBE-04)10.4gと、イソプロピルアルコール300gとを混合し、サンドグラインダーミルを用いて解砕処理を行った後、減圧蒸留することでイソプロピルアルコールを留去した。得られた処理品を乾燥機に入れ、105℃で2時間乾燥し、ジェットミルで粉砕して、実施例2の無機粉体複合体を得た。
【0067】
(実施例3~5)
表1に示す酸化亜鉛基材(いずれもテイカ株式会社製)と各処理剤を用いた他は実施例1と同様の方法で実施例3~5の無機粉体複合体を得た。
【0068】
(実施例6)
表1に示す酸化亜鉛基材と各処理剤を用い、特に、親水化処理剤を、オルトケイ酸テトラエチルからメチルシリケートオリゴマー(三菱ケミカル株式会社製:MS-51)5.8gに変更した他は実施例1と同様の方法で実施例6の無機粉体複合体を得た。
【0069】
(実施例7)
表1に示す酸化亜鉛基材と各処理剤を用い、特に、酸化亜鉛基材として平均一次粒子径が80nmのものを用いた他は、実施例1と同様の方法で実施例7の無機粉体複合体を得た。
【0070】
(比較例1~3)
表1に示す酸化亜鉛基材(いずれもテイカ株式会社製)と各処理剤を用いた他は実施例1と同様の方法で比較例1~3の無機粉体複合体を得た。
【0071】
(比較例4)
無機粉体として平均一次粒子径が25nmである酸化亜鉛粉体(テイカ株式会社製:MZ-500)100gと、親水化処理剤としてメチルシリケートオリゴマー(三菱ケミカル株式会社製:MS-51)48gとイソプロピルアルコール310gを混合し、減圧蒸留することでイソプロピルアルコールを留去した。得られた処理品を乾燥機に入れ、130℃で2時間乾燥し、ジェットミルで粉砕して、比較例4の無機粉体複合体を得た。
【0072】
(比較例5)
特許第5910632号公報の実施例1に従って、比較例5の無機粉体複合体を得た。ただし、ハイドロゲンジメチコン4%で処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製:FINEX-50S-LP2)の代わりに、酸化亜鉛基材(テイカ株式会社製:MZ-500)にハイドロゲンジメチコンを4%処理したものを使用した。
【0073】
【表1】
【0074】
無機粉体複合体の物性(撥水性)は、水20gに粉体0.2gを添加し、10回振とう後の状態を観察して、粉体全量が水に浮いた場合は「○」、粉体が水に懸濁した場合は「×」を表に記載した。
【0075】
また、表2に示すように、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の種類および/または量を変えた他は、実施例1と同様にして、実施例8~10の無機粉体複合体を得た。
【0076】
【表2】
【0077】
また、表3に示すように、親水化処理剤と疎水化処理剤の量を変えた他は、実施例1と同様にして、実施例11~15と比較例6,7の無機粉体複合体を得た。
【0078】
【表3】
【0079】
また、表4に示すように、種類および/または量を変えた他は、実施例1と同様にして、実施例16~20の無機粉体複合体を得た。
【0080】
【表4】
【0081】
(乳化安定性試験)
得られた各実施例・比較例の無機粉体複合体の乳化安定性を以下のようにして確認した。結果を表5~8に示す。まず、D5オイル(デカメチルシクロペンタシロキサン)50gに各実施例・比較例の粉体25gを加え、ディスパーで3000rpm、3分間分散した。次に、水25gを加えてディスパーで3000rpm、2分間乳化した。なお、表5に示す比較例1Aと比較例2Aは、比較例1,2が乳化しなかったので、乳化剤(信越シリコーン株式会社製:KF-6028P)を比較例1,2に添加したものである。
【0082】
得られた乳化組成物を試験管に移し、水が分離しているかどうか真横から目視で確認した。また、50℃で保管し、水が分離するかどうか真横から目視で確認した。水が分離しなかった場合は「○」、水が分離した場合は「×」を表5~8に記載した。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
表5~8に示すように、実施例の無機粉体複合体を用いて作製した乳化組成物は、いずれも、少なくとも乳化作業の直後は、乳化剤を添加しなくても乳化した。特に、実施例1~10,12,13,16~20は、乳化直後も、1週間保管後も、乳化状態を維持していた。
【0088】
(耐水性試験)
次に、乳化組成物の耐水性を確認した。
【0089】
まず、上述のようにして得られた乳化物を、SPF測定法(ISO24443)に基づき、HELIOPLATE HD6に1.3mg/cm塗布した。30分間乾燥後、SPFとUVAPFの測定を行なった。測定した値を耐水試験前の耐水性として表5~8に記載した。
【0090】
次に、ビーカーにイオン交換水を入れ、乳化物を塗布したHELIOPLATEを30℃、80分、攪拌せずに浸漬した。30分乾燥後、SPFとUVAPFを測定した。測定された値を耐水試験後の耐水性として表5~8に記載した。
【0091】
表5~8に示されているように、実施例1~20の無機粉体複合体は、いずれも、耐水試験後にも良好な紫外線遮蔽性を維持していた。
【0092】
(乳化前後の紫外線吸光度およびSPFの比較)
実施例1と比較例2の無機粉体複合体の乳化前後の紫外線吸光度を比較した。デカメチルシクロペンタシロキサン75gに粉体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して油相分散体(乳化前試料)を得た。また、先述の乳化安定性試験で作製した乳化組成物を乳化後試料とし、これらの試料を、SPF測定法(ISO24443)に基づき、HELIOPLATE HD6に1.3mg/cm塗布した。30分間乾燥後、吸光度を測定した。結果を図1,2に示す。
【0093】
図1,2に示されているように、実施例1の無機粉体複合体と比較例2の無機粉体複合体は、乳化前(油相分散体)のSPFの値は同程度であったが、乳化後のSPFは、比較例2では低下し、実施例1では大きく向上した。
【0094】
また、各実施例と比較例について、同様に乳化前後の試料を作製し、SPFとUVAPFを測定した。油相分散体のSPFに対する乳化物のSPFの比と、油相分散体のUVAPFに対する乳化物のUVAPFの比を表9に示す。なお、乳化しなかった試料については、SPF比とUVAPF比の値を記載していない。
【0095】
【表9】
【0096】
表9から明らかであるように、実施例1~20は、いずれも、油相分散体のSPFに対する乳化物のSPFの比が1倍以上、すなわち、乳化物のSPFの方が油相分散体のSPFよりも大きかった。特に、実施例1~6,9,10,13~15では、乳化物のSPFの方が油相分散体のSPFの1.5倍以上であった。一方、比較例は、いずれも、乳化物のSPFの方が油相分散体のSPFよりも低かった。
【0097】
以上の結果より、本発明に従った無機粉体複合体は、無機粉体を90~98重量%含み、第1の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、より好ましくは1.0~4.0重量%含み、第2の疎水化処理剤を0.5~5.0重量%、より好ましくは1.0~4.0重量%含み、親水化処理剤をSiO換算で0.5~6.0重量%、より好ましくは1.0~4.0重量%含むことが好ましい。また、第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の合計重量と、親水化処理剤の重量の比、すなわち、(第1の疎水化処理剤と第2の疎水化処理剤の合計重量)/(親水化処理剤の重量)の値が、0.2~6.0であることが好ましく、0.8~2.5であることがより好ましい。
【0098】
また、本発明に従った無機粉体複合体は、デカメチルシクロペンタシロキサン50gに無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して油相分散体を得、油相分散体に水25gを加えて分散機で3000rpmにて2分間乳化して乳化物を得た場合、乳化物が50℃で1週間保管後に乳化状態を維持していることが好ましい。
【0099】
また、本発明に従った無機粉体複合体は、乳化物のSPFが、デカメチルシクロペンタシロキサン75gに当該無機粉体複合体25gを加えて分散機で3000rpmにて3分間分散して得られる油相分散体のSPFの1.5倍以上であることが好ましい。
【0100】
(日焼け止め化粧料)
実施例1の無機粉体複合体を用いて、表10の配合で油中水型日焼け止め化粧料(日焼け止め化粧料1)を作製した。
【0101】
【表10】
【0102】
実施例1の無機粉体複合体を用いて、表11の配合で油中水型日焼け止め化粧料(日焼け止め化粧料2)を作製した。
【0103】
【表11】
【0104】
(乳化機能)
日焼け止め化粧料1,2の乳化状態を目視で確認した。判定基準は次の通りであった。結果を表12に示す。
○:油中水型の乳化状態が形成されている。
×:乳化不能であり、目視で油相と水相の分離が確認される。
【0105】
日焼け止め化粧料1,2について、調製直後と50℃で1か月静置後に目視により乳化状態を確認した。判定基準は次の通りであった。結果を表12に示す。
(保存安定性)
○:油中水型の乳化状態を維持している。
×:目視で油相および水相の分離が確認される。
【0106】
【表12】
【0107】
表12に示すように、本発明の無機粉体複合体を用いることによって、乳化剤を使用せずに安定に乳化可能で、かつ、保存安定性が高い油中水型日焼け止め化粧料を提供することができる。
【0108】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。
図1
図2