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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230711BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
H01L21/78 V
H01L21/78 U
B28D5/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021504653
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009752
(87)【国際公開番号】W WO2020183580
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500203868
【氏名又は名称】株式会社 オプト・システム
(74)【代理人】
【識別番号】100100376
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 誠一
(72)【発明者】
【氏名】池田 研一
(72)【発明者】
【氏名】中南 友佑
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243866(JP,A)
【文献】特開平02-129985(JP,A)
【文献】特開平08-213348(JP,A)
【文献】特開2006-108472(JP,A)
【文献】特開2016-104576(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026191(WO,A1)
【文献】特開2009-105466(JP,A)
【文献】特開2017-228660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B28D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作時に熱膨張する矩形状のパワー素子である半導体チップの四端面に、劈開面を形成する製造方法であって、
半導体ウェハ上の一又は複数の半導体チップを取り囲む四隅に近接して、半導体ウェハの表面側に、半導体チップの配置ピッチに対応して、劈開起点を断続的に設けて押圧ラインを特定する第一工程と、
半導体ウェハを表裏反転させ、前記押圧ラインの両側を支持した状態で、半導体ウェハ裏面に対して、先端ラインが所定の傾斜角を形成する押刃を、半導体ウェハ裏面から前記劈開起点に向けて降下させることで、劈開開口を先端ラインの方向に押し進める第二工程と、
押刃との位置関係を第二工程の状態から90°回転させ、前記押圧ラインの両側を支持した状態で、半導体ウェハ裏面に対して、先端ラインが所定の傾斜角を形成する押刃を、半導体ウェハ裏面から前記劈開起点に向けて降下させることで、劈開開口を先端ラインの方向に押し進める第三工程と、を有して、
半導体チップの端面中央部における、端面全面積の1/2以上の領域に、顕微鏡倍率100倍でも段差が認められない面一の劈開面を形成することを特徴とする半導体チップの製造方法。
【請求項2】
前記押刃は、半導体ウェハの最大径よりも長く形成されている請求項1に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項3】
前記押刃は、3mm/S~10mm/Sの速度で移動する請求項1に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項4】
前記劈開起点は、半導体単結晶基板に達する加工傷である請求項1~3のいずれかに記載の半導体チップの製造方法。
【請求項5】
前記加工傷は、平面視が切傷状であって、劈開方向の先端側は、船首に向けて緩やかに浅くなる竜骨形状を有している請求項4に記載の半導体チップの製造方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れかの製造方法で使用される装置であって、
三点曲げ式の応力負荷を掛ける機構を有し、三点中央の押刃を押し下げると被圧点が押圧ライン上を順次進行して行くよう構成されている半導体チップの製造装置。
【請求項7】
前記押刃は、前記押圧ラインに沿ってかつ垂直もしくは斜め下方向に押圧される請求項6に記載の半導体チップの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハの個片化に特徴のある半導体チップの製造方法に関する。特に、SiCやGaN系列の六方晶結晶方位を有する基板上からIGBTやFETなどのパワー素子を切り出す製造方法に好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハを個片化する発明として、半導体素子間をレーザ光やダイサーによって一気に分断する全カット法(特許文献1~2)、また、二段階に分断する二段階全カット法(特許文献3~4)、或いは、溝状に設けたスクライブラインを、その反対側から押圧して分断するスクライブ&ブレイク法(特許文献5)などが提案されている。なお、エッチング処理によってスクライズラインを設けることもできるが、処理時間(SiCのエッチングレートは、例えば、1μm/min程度)が長い上に、製造ラインが複雑化するので、以下の議論では除外される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-228660号公報
【文献】特開2016-100412号公報
【文献】特開2018-113288号公報
【文献】特開2013-161944号公報
【文献】特開昭62-108007号公報
【文献】特開2014-068031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今普及が広がっているパワー素子は、動作時に高温化して熱膨張を繰り返すため、特に抗折強度に優れたものが望まれる。ここで、抗折強度は、例えば、JISR1601に基づく三点曲げ試験で評価され、具体的には、500MPa超えること、好適には、1000MPa以上となることが望まれている。
【0005】
しかし、上記の各発明に関し、例えば、SiCなどの固い基板にダイサーを適用する場合には、(a) ダイサー砥石の摩耗が激しい、(b) 加工速度が遅い、(c) 水冷却が必要となるため素材よっては使用できないなどの問題がある。
【0006】
一方、上記の各発明に関して、レーザ光を使用したとしても、スクライブ時に、微小クラックが不可避的に生じるので、抗折強度に限界がある。例えば、スクライブ&ブレイク法を採った場合、スクライブラインを下方に配置した三点曲げ試験では、高い抗折強度を発揮することができない。また、全カット法や二段階全カット法を採った場合には、何れの面を下方に配置しても、抗折強度に限界がある。
【0007】
図5は、スクライブ&ブレイク法を採った場合の断面写真であり、一直線のレーザ加工ラインを背面側から一気に押し広げるべく、半導体ウェハの表面に直交して半導体ウェハを一気に加圧した場合の断面を示している。
【0008】
スクライブ&ブレイク法では、半導体ウェハを、その厚さ方向に加圧して一気に分断するので、レーザ加工ラインである第1領域Aと、第1領域Aから多方向にクラックが広がる第2領域Bと、面一とは言い難い多段面に形成された劈開領域Cとが形成されることになり、抗折強度に限界がある。
【0009】
ここで、ウェハの表裏面を傷つけることなく、基板内部に、レーザ光による改質部分を設ける発明も提案されている(特許文献6)。そして、六方晶系の結晶構造を有する基板において、C面を主面として、A面、或いはM面に沿った方向に切断起点領域(切断予定ライン)を形成することも記載されている(段落0040)。
【0010】
しかし、この発明において、レーザ集光点Pは、相当に近接したピッチで形成される必要があり(特許文献6の図5参照)、実際に形成される溶融処理領域13(切断予定ライン)は、ある太さをもって棒状に連続している必要がある(特許文献6の図12参照)。
【0011】
この切断予定ラインは、要するに、基板内部に設けたスクライブラインに他ならず、この切断予定ラインを起点として、スクライブ&ブレイク法と同様に、一気に分断しても、面一の劈開面を実現することはできない。実際、特許文献6の図12から確認される通り、切断面には、スクライブ&ブレイク法を採った場合と同様の微妙な凹凸が形成されている(本願の図4との対比参照)。
【0012】
また、この発明では、ウェハを応力によって分断する場合には、ウェハ表面に向けた加圧工程に続いて、ウェハ裏面に向けた逆向きの加圧工程が必要となり煩雑である。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、分断起点から傾斜方向に加圧してきれいな劈開面を形成することで、抗折強度に優れたパワー素子を、半導体ウェハから切り出すことができる半導体チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明に係る半導体チップの製造方法は、動作時に熱膨張する矩形状のパワー素子である半導体チップの四端面に、劈開面を形成する製造方法であって、半導体ウェハ上の一又は複数の半導体チップを取り囲む四隅に近接して、半導体ウェハの表面側に、半導体チップの配置ピッチに対応して、劈開起点を断続的に設けて押圧ラインを特定する第一工程と、半導体ウェハを表裏反転させ、前記押圧ラインの両側を支持した状態で、半導体ウェハ裏面に対して、先端ラインが所定の傾斜角を形成する押刃を、半導体ウェハ裏面から前記劈開起点に向けて降下させることで、劈開開口を先端ラインの方向に押し進める第二工程と、押刃との位置関係を第二工程の状態から90°回転させ、前記押圧ラインの両側を支持した状態で、半導体ウェハ裏面に対して、先端ラインが所定の傾斜角を形成する押刃を、半導体ウェハ裏面から前記劈開起点に向けて降下させることで、劈開開口を先端ラインの方向に押し進める第三工程と、を有して、半導体チップの端面中央部における、端面全面積の1/2以上の領域に、顕微鏡倍率100倍でも段差が認められない面一の劈開面を形成する。
【0015】
本発明において、「一又は複数の半導体チップを取り囲む四隅」とは、複数の半導体チップにおける各半導体チップの四隅である場合だけでなく、複数の半導体チップを纏めた全体の四隅である場合も含む概念である。通常、一の半導体ウェハにおいて、基板層の結晶面は、複数の半導体チップにわたって揃っているので、一の劈開起点から劈開開口を進めれば、複数の半導体チップにわたって、一直線の劈開面を形成することができる。
【0016】
第2工程は、好適には、実施例のように、(1)半導体ウェハの下側に、例えば2枚の板材を配置して、その両肩エッジで開口溝を形成するなど、半導体ウェハの変形を許容する開口溝を設けた載置台に半導体ウェハを配置すること、(2)半導体ウェハの上側に、刃物状の押さえ金具(押刃)を、ウェハ面に鉛直かつ刃先端が斜めに配置すること、(3)前記押刃を鉛直方向に移動させることによって、半導体ウェハに、板材の両肩エッジにより曲げ応力をかけ、曲げたわみが限界応力を超えることで、劈開起点から応力集中ラインに沿って劈開破断させていく。
【0018】
また、劈開起点は、十字状や切傷状の形状であるのが典型的である。但し、劈開方向の先端側の断面形状は、船首に向けて緩やかに浅くなる竜骨形状であるのが好ましい。
【0019】
本発明について、発明者の考えは以下の通りである。深いラインスクライブ加工をして、ウェハ上下面に対して垂直方向に開口する分割を行うと、多くの縦筋の段差ラインが見える。この個々の段差ラインは劈開面の層間段差である。層間段差は、ラインスクライブの底の開口起点が結晶層=劈開面層の幾層にずれて多数出来、それぞれが開口起点となって別の劈開面を露出させているためである。
【0020】
半導体チップにおいて、この層間段差が好ましくないのは、デバイスチップが機能すると電流の通断によって頻繁な発熱放熱が起き、それが熱膨張によって応力集中点にストレスを及ぼすことに基づく。すなわち、結晶層=劈開層の違う多数の応力集中があると、隣接する集中点への開口方向は別の結晶面(15度以上角度の違う方向)の確率が多くなり、上記ストレス負荷時に、端面平行でない内部への亀裂進展が発生して破断に至りやすくなると考えられるためである。
【0021】
応力集中の方向はチップのような厚の薄い四角ブロックの場合、表面の膨張収縮が最も大きいために端面及び端面で構成される稜線の開口起点が大きく影響する。また、ブロックの四隅より中央のほうに集中する。よって、チップ側面を形成するとき、劈開の開口基点を上下ではなく左右に配置すれば、劈開は横から単一層を形成するように開口させることができるのである。
【0023】
以上、半導体チップの製造方法について説明したが、本発明を、半導体ウェハの分断方法と位置付けることもできる。この場合は、単結晶基板に半導体層が形成された素子チップが、縦横に複数個配置された半導体ウェハから、前記素子チップを切り出す分断方法であって、前記半導体ウェハの表裏面の一方である分断起点面に、前記素子チップを囲むよう加工溝を形成することで、前記分断起点面の反対面に、第1押圧ラインと第2押圧ラインを予定的に確定する第1工程と、
前記半導体ウェハの縦横方向の最大距離より長い直線溝を有する載置台に、前記分断起点面を下方にして前記半導体ウェハを固定する第2工程と、
前記直線溝の幅中央部に第1押圧ラインを整合させた状態で、第1押圧ラインに沿うよう押刃を押し付け、前記押刃と前記直線溝の両肩で前記半導体ウェハに割断応力を加えることで、加工溝を起点とする劈開面を第1押圧ラインに沿って進行させる第3工程と、
前記直線溝の幅中央部に、第2押圧ラインを整合させた状態で、第2押圧ラインに沿うよう前記押刃を押し付け、前記押刃と前記直線溝の両肩で前記半導体ウェハに割断応力を加えることで、加工溝を起点とする劈開面を第2押圧ラインに沿って進行させる第4工程と、
を有して構成され、第1押圧ラインと第2押圧ラインの少なくとも一方を確定する加工溝は、前記素子チップの配置ピッチに対応して断続的に形成されており、前記押刃は、前記半導体ウェハに対して、傾斜状態で押し付けられることを特徴とする。
【0024】
この発明では、第1の特徴として、第1押圧ラインと第2押圧ラインの少なくとも一方を確定する加工溝は、切り出されるべき素子チップの配置ピッチに対応して離間して断続的に形成されている。そのため、切り出された素子チップは、加工溝を設けた分断起点面を下方にした三点曲げ試験において、全カット法や、スクライブ&ブレイク法で切り出された素子チップより、優れた抗折強度を発揮する。すなわち、断続的な加工溝を設けた加工面に曲げ応力を加える三点曲げ試験では、スクライブ&ブレイク法によって切出された素子チップより優れた抗折強度を発揮する。
【0026】
加工溝は、スポット状に形成しても良いが、破線状に形成するのが好適である。加工溝を破線状に形成する構成では、素子チップの四隅において切傷状の加工溝を形成するのが特に好適である。この加工溝は、劈開方向の先端側の断面形状が、竜骨形状(keel)であるのが好ましく、この加工溝の深さは、船首に向けて緩やかに浅くなっている。
【0027】
何れにしても破線状の加工溝は、200μm以上の長さに形成するのが好適であり、より好適には、一又は複数の素子チップの四隅に近接して一以上設ければ良い。
【0028】
本発明において、加工溝の深さは特に限定されないが、半導体層を超えて、単結晶基板に達する深さまで、加工溝を形成するのが好適である。この場合、半導体層は、十分に薄いので、単結晶基板の劈開面に付随して半導体層も切断される。
【0029】
本発明の第2の特徴は、加工溝を設けた分断起点面の反対面に、傾斜状態の押刃を押し付ける点にある。ここで、押刃の半導体ウェハに対する傾斜角は、特に限定されないが、好適には、10μm/110mm以上、100μm/110mm以下の傾斜姿勢、より好適には、50μm/110mm程度の傾斜角度を採るべきである。
【0030】
そして、第3工程や第4工程では、分断起点面の反対面に形成された第1押圧ラインや第2押圧ライン(以下、押圧ラインと総称する)に沿うよう、傾斜状態の押刃が押し付けられる。この押圧状態において、押圧ラインは、載置台の直線溝の幅中央部に整合状態とされているので、半導体ウェハは、直線溝の両肩で支持され、やや傾斜することになる。
【0031】
そのため、最も撓みが大きい最外部の加工溝を押し広げるよう、応力が集中することになり、この応力に基づき、最外部の加工溝を起点として、半導体ウェハが板厚方向に破断すると共に、一又は少数の微小クラックが傾斜方向に進行して劈開面に至る。
【0032】
第3工程や第4工程では、その後も、傾斜状態の押刃の押圧力に基づき、劈開面が、押刃の先端ラインに対応する斜め上方に向けて、徐々に進行するので、面一のきれいな劈開面による分断面が形成される。
【0033】
このような動作を実現するため、押刃を円滑に降下させた後、ウェハに接触するまでに減速して、3mm/S~10mm/S程度の速度で移動させるのが好適である。この場合、押刃の移動方向は、半導体ウェハ表面の直交方向(垂直降下)であるのが簡易的であるが、傾斜状態の押刃の突出方向(傾斜降下)とするのも好適である。
【0034】
半導体ウェハの厚みは、一般には350μm~100μm程度、最大でも500μmである。そして、この程度の板厚の半導体ウェハが、直線溝の両肩で支持され、且つ、その中央位置に、傾斜方向の割断応力が加わるので、半導体ウェハがやや傾斜した状態で湾曲して劈開面が円滑に進行することになる。
【0035】
一方、スクライブ&ブレイク法や先行文献6の構成を採った場合には、ウェハ面に直交する板厚方向に、多数のクラックが一気に進行するので、面一の劈開面を形成することができない。
【0036】
なお、本発明において、半導体ウェハの縦横方向の最大距離は限定されないが、一般には、直径換算で1インチ~6インチ程度であり、典型的には3インチ程度である。したがって、載置台の直線溝の長さは、上記の寸法に対応して、最低長が規定される。
【0037】
本発明において、単結晶基板は、結晶軸の方向がどの部分でも揃っている単結晶を使用する限り、特に限定されず、シリコン(Si)やサファイアでも良いが、好適には、炭化ケイ素(SiC)や、窒化ガリウム(GaN)系統であって、六方晶結晶方位を有するものが選択される。このうち、炭化ケイ素(SiC)は、2H,4H,6H,8H,10Hなどに分類されるが、好適には、4Hの六方晶SiCが使用される。
【0038】
また、本発明に係る素子チップも、特に限定されないが、激しい熱履歴が繰り返されるパワーデバイスに本発明を適用するのが好適である。ここで、パワーデバイスとしては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )や、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor )や、I層(Intrinsic Layer )をP層とN層で挟んだPiNダイオードなどを好適に例示することができる。
【0039】
本発明において、第1押圧ラインや、第2押圧ラインは、一般に複数個である。そして、複数N個の押圧ラインを、N個の押刃で押圧して、N個の押圧ラインを纏めて処理しても良いし、一の押圧ライン毎に個々的に処理しても良い。何れにしても、素子チップの配置間隔の狭さから、第3工程や第4工程は、半導体ウェハと直線溝との位置関係を変化させつつ複数回実行される。
【発明の効果】
【0040】
上記した本発明によれば、独特の切断手順を採るので、面一のきれいな劈開面を形成することができ、抗折強度に優れたパワー素子を切り出し、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施例の分断方法について処理手順を説明する図面である。
図2】加工溝を説明する図面である。
図3】押刃と半導体ウェハの位置関係を示す斜視図である。
図4】劈開面を示す写真である。
図5】スクライブ&ブレイク法を採った場合の素子チップの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、実施例について更に詳細に説明する。なお、以下の説明において、結晶格子面において、数字に前置されるマイナス記号「-」は、バーを意味する。
【0043】
大電流で駆動するパワー素子のサイズは、一般に、1mm×1mm~10mm×10mm程度が想定されている。これは許容される最大電流と発熱量及び使用製品サイズの兼ね合いから想定されたサイズである。
【0044】
そこで、本実施例では、幅4mmとし、抗折強度を調べる必要最小限の7mm長さを選択した。また、特に限定されないが、この実施例では、炭化珪素の単結晶基板に半導体層を設けた厚さ350μmの半導体ウェハWAFを使用した。
【0045】
この半導体ウェハWAFには、図1(b)に示すように、その1-100面に、第一オリフラ(オリエンテーションフラット)OFが設けられ、第一オリフラOFを基準面として、90°の位置の11-20面に第二オリフラIFが設けられている。
【0046】
ここで、炭化珪素の単結晶基板は、4Hの六方晶SiCで構成されており、図1(c)に示すように、1-100面に平行なM面と、11-20面に平行なA面を有する結晶構造となっている。そして、第1オリフラOFに垂直な第1方向と、第1オリフラOFに平行な第2方向に半導体ウェハWAFを切断して、7×7mm程度の角型の素子チップCHPを切り出した。
【0047】
以下、この分断手順を図1(a)に基づいて説明する。先ず、0001面(通称Si面)を上面にした状態で、粘着シートSHに、半導体ウェハWAFを貼り付ける。この粘着シートSHは、分断後の素子チップCHPを、エキスパンド工程において、分離できるよう適当な弾性と強度を有している。
【0048】
次に、この貼着状態で、波長355nm、パルス幅36nS、レーザパワー0.5Wのレーザ光を用いて、素子チップCHPの四隅に、図2(a)の形状の加工溝GRを、SiC結晶基板に達する程度の深さで断続的に設けた(ST1~ST2)。この加工溝GRは、図2(d)に示す切傷状であり、劈開方向の先端側の断面形状は、いわゆる竜骨形状(keel)であって、船首に向けて緩やかに浅くなっている。
【0049】
図2に示すように、切出すべき素子チップCHPのチップサイズは、7mm×7mm程度であり、素子チップCHPの配置ピッチ(Pih,Piv)の1/2以上離間して破断溝が形成されたことになる。
【0050】
なお、本実施例では、便宜上、半導体層を設ける0001面(通称Si面)の側に加工溝GRを設け、Si面を分断起点面としたが、反対側の000-1(通称C面)に破断溝を設けても良い。但し、レーザ光を使用する場合には、加工溝GRの形成箇所にレーザ光の反射層が存在しないことが条件であり、反射層を超えて加工溝GRを設ける場合には機械加工となる。
【0051】
加工溝GRの形成順次は、何ら限定されないが、この実施例では、最初、第1オリフラOFの直交方向である第1方向に、N列にわたって、加工溝GRを断続的に形成した(ST1)。この処理によって、C面には、その後の押圧工程において、押刃DV(図3)が押し当てられるN本の第1押圧ラインが規定されたことになる。
【0052】
なお、実施例では、素子チップCHPの四隅に、加工溝GRを形成するので、第2方向には、素子チップCHPが最大N-1個存在することになる。
【0053】
次に、第1オリフラOFの平行方向である第2方向に、M列にわたって、長さ2mm程度の加工溝GRを断続的に形成した(ST2)。この処理によって、C面の第2方向には、その後の押圧工程において、押刃DVが押し当てられるM本の第2押圧ラインが規定されたことになる。
【0054】
この場合も、素子チップCHPの四隅に、加工溝GRを形成するので、第1方向には、素子チップCHPが最大M-1個存在することになる。
【0055】
次に、半導体ウェハWAFのSi面に保護テープPRを押し付け、半導体ウェハWAFの外周側で粘着シートSHに接着させる。そして、保護テープPRと粘着シートSHに包まれた半導体ウェハWAFを、載置台PLに固定する(ST3)。固定姿勢は、図1(e)に示す通りであり、加工溝GRを設けたSi面を下側にする。
【0056】
ここで、載置台PLには、半導体ウェハWAFの最大径よりも長く、且つ、半導体ウェハWAFの湾曲変形を許容する程度の水平左右幅を有する直線溝SPが、例えば、一筋形成されている(図1(e)参照)。なお、この実施例では、1個の押刃DVを使用して押圧ライン1本ごとに処理するが、複数の押刃DVを同時使用して複数本の押圧ラインを纏めて処理しても良い。
【0057】
何れにしても、ステップST4の処理では、押圧対象となる押圧ラインが、直線溝SPの幅方向中央位置に位置決めされた状態で、押圧ラインに沿うよう、押刃DVがゆっくり降下させる。
【0058】
押刃DVは、図3に示す通りであり、半導体ウェハWAFの最大径よりも長く、水平方向に延びた押圧先端を、傾斜角θに傾けて押圧ラインに当接させた。実施例の場合、押刃DVの傾斜角θは、θ=Tan-1(50μm/110mm)である。
【0059】
そして、傾斜角θの押刃DVを、15mm/Sの速度で、鉛直方向に降下させた後、減速してゆっくり降下させた(ST4)。図1(d)と図1(e)は、押圧刃DVが、ゆっくり降下する切断工程を図示したものであり、側面状態(d)と正面状態(e)とが示されている。
【0060】
図示の通り、押刃DVが当接される押圧ラインの反対面には、加工溝GRが一直線上に断続的に位置している。そして、押刃DVが降下すると、最も撓みが大きい最外部の加工溝GRに、応力が集中することで、最外部の加工溝GRを起点として、半導体ウェハが板厚方向に破断すると共に、一又は少数の微小クラックが傾斜方向(図示のやや右上方向)に進行して劈開面に至る。
【0061】
その後も、傾斜状態の押刃DVの押圧力に基づき、劈開面が、押刃DVの先端ラインに対応する斜め上方(図1(d)参照)に向けて、徐々に進行するので、面一のきれいな劈開面による分断面が形成される。なお、押刃DVの降下量は、60μm程度であり、一筋の分断処理の処理時間は、当接開始から1.3秒以内である。
【0062】
このようにして、例えば、第1方向について、一筋の分断処理が終われば、半導体ウェハWAFの位置をずらせて、別の押圧ラインの処理に移行する(ST5)。
【0063】
そして、第1方向についての全ての分断処理が終われば、半導体ウェハWAFを90度回転させて、載置台PLに再配置する(ST6)。次に、第2方向について、ステップST4~ST5の処理と同様の処理を実行することで、第2方向についての分断処理を実行する(ST7,ST8)。
【0064】
そして、最後に、粘着シートを4方向に広げるエキスパンと工程を経て個片化された素子チップについて、その後の処理に移行させる(ST9)。
【0065】
図4は、切出された素子チップについて第2方向に劈開断面(M面)を示す写真であり、チップ中央部と、チップ端部とを示している。図示の通り、チップ端部では、加工溝と劈開面との間に過渡面が生じるが、チップ中央部は、面一の綺麗な劈開面が現れている。
【0066】
長辺(7mm)についての三点曲げ試験では、断続的な加工溝を設けた分断起点面を上面にした場合の抗折強度は、常に1815Mpa以上を維持し、一方、分断起点面を下面にした場合でも、1103~1814Mpaの優れた抗折強度が得られた。
【0067】
なお、支点間隔L=5.7mm、サンプル幅W=7mm、サンプル厚t=0.34mm、荷重Xに対して、抗折強度δdを、δd=3*X*L/(2*W*t2)と算出した。
【0068】
ちなみに、断続的な加工溝ではなく、連続溝(ライン溝)として場合でも、斜め方向に劈開させる限りには、ライン溝を設けた分断起点面を上面にした場合の抗折強度は、1172~1814Mpaであり、分断起点面を下面にした場合は、620~975Mpaの抗折強度となった。この結果より、特に、分断起点面を下面にした場合の抗折強度δdにおいて、断続的な加工溝を設ける本願発明の効果が確認される。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、具体的な記載内容は、特に本発明を限定するものではない。特に、加工溝GRは、図2(a)に示す十字形状に何ら限定されず、図2(b)に示す一直線の切傷状でも良い。この場合も、加工溝GRの断面形状は、いわゆる竜骨形状(keel)であり、加工溝GRの劈開方向の先端側は、船首に向けて緩やかに浅くなっている。
【0070】
また、実施例では、各半導体チップの四隅に近接して、一以上の加工溝を設けたが、何ら限定されない。例えば、一の半導体ウェハの設けられた複数N個の半導体チップに対して、N個未満の劈開起点を断続的に設けても良い。更に、一の半導体ウェハの一の押圧ラインの適所(例えば基端部)に、単一の劈開起点を設けたのでも良い。
【符号の説明】
【0071】
CHP 素子チップ
WAF 半導体ウェハ
SH 粘着シート
PL 載置台
図1
図2
図3
図4
図5