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  • 特許-電解液及び電気化学装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】電解液及び電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230711BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230711BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230711BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230711BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230711BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230711BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230711BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230711BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/58
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021523465
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2020081788
(87)【国際公開番号】W WO2021189449
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉俊飛
(72)【発明者】
【氏名】鄭建明
(72)【発明者】
【氏名】唐超
(72)【発明者】
【氏名】張麗蘭
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160568(JP,A)
【文献】特開2012-174340(JP,A)
【文献】特開2007-294397(JP,A)
【文献】特開2014-135296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121935(WO,A1)
【文献】特開2020-031020(JP,A)
【文献】特開2015-191849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052、0567
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ及び電解液を含む電気化学装置であって、
前記正極は集電体及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記電解液には式Iで示される化合物を含み、
【化9】
ここで、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、置換又は無置換のC1-8アルキル基、置換又は無置換のC2-8アルケニル基、置換又は無置換のC2-8アルキニル基、又は置換又は無置換のC6-12アリール基、から選択される基であり、且つ
前記正極活物質1gあたり、前記式Iで示される化合物の量は0.001g~0.064gであり、
前記電解液は、さらにLiPO及び添加剤Bを含み、
前記添加剤Bは、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、又は、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパンの少なくとも一種を含み、
前記正極活物質1gあたり、前記LiPOの量は0.000026g~0.019gであり、
前記正極活物質1gあたり、前記添加剤Bの量は、0.0001g~0.2gである、電気化学装置。
【請求項2】
前記式Iで示される化合物は、
【化10】
の少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4~1であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第一粒子の横断面積は20平方マイクロメートル以上であり、前記第一粒子の横断面積の合計の割合は5%~50%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第二粒子の横断面積は前記第一粒子の横断面積より小さく、前記第二粒子の横断面積の合計の割合は5%~60%である、請求項3に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記添加剤Bは、さらにビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、硫酸ビニル、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリス(トリメチルシリル)ボレート、アジポニトリル、又は、スクシノニトリルの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記式Iで示される化合物と前記添加剤Bとの質量比は7:1~1:7である、請求項5に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極活物質層はリン含有化合物を含み、前記リン含有化合物はLiPO又はLiMPOの少なくとも一種を含み、ここで、MはCo、Mn又はFeから選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記正極活物質の表面又は粒界には、前記リン含有化合物が含まれる、請求項7に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記正極活物質はLiNiCoMnを含み、ここで、0.55<x<0.92、0.03<y<0.2、0.04<z<0.3である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記正極活物質層の圧縮密度は3.6g/cm以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項11】
前記電解液は、さらに式IIで示される化合物を含み、
【化11】
31及びR32はそれぞれ独立して、置換又は無置換のC1-10アルキル基、又は、置換又は無置換のC2-8アルケニル基から選択され、置換とは、一つ又は複数のハロゲンに置換されたことであり、
前記電解液の総重量に対して、前記式IIで示される化合物の含有量は0.5重量%~50重量%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
前記式IIで示される化合物は、
【化12】
の少なくとも一種を含む、請求項11に記載の電気化学装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギー貯蔵技術分野に関し、特に電解液及びその電解液を含む電気化学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、化学電源の一つとして、エネルギー密度が高く、動作電圧が高く、軽量で、自己放電率が低く、サイクル寿命が長く、メモリー効果がなく、環境にやさしい等の利点があり、スマート製品(携帯電話、ノートコンピューター、カメラ等の電子製品)、電気自動車、電動工具、ドローン、インテリジェントロボット、先進武器装備及び大規模エネルギー貯蔵等の分野及び産業に広く用いられている。しかし、情報通信技術の日進月歩及びマーケットニーズの多様性に伴い、例えば、より薄く、より軽く、外形のより多様化、より高い体積エネルギー密度及び質量エネルギー密度、より高い安全性、より高い出力等のさらなる要求及び挑戦が電子製品の電源に求められている。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、高温サイクル特性及び高温貯蔵特性を改善することができ、且つより高い安全性を有する電解液及び電気化学装置を提供する。
【0004】
本発明は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む電気化学装置であって、前記正極は集電体及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記電解液には式Iで示される化合物を含み、
【化1】
ここで、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、置換又は無置換のC1-8アルキル基、置換又は無置換のC2-8アルケニル基、置換又は無置換のC2-8アルキニル基、もしくは、置換又は無置換のC6-12アリール基、から選択される基であり、かつ、
前記正極活物質1gあたり、必要とされる前記式Iで示される化合物の量は約0.001~約0.064gである、電気化学装置を提供する。
【0005】
一部の実施例において、前記式Iで示される化合物は
【化2】
の少なくとも一種を含む。
【0006】
一部の実施例において、前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4~1であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第一粒子の横断面積は20平方マイクロメートル以上であり、前記第一粒子の横断面積の合計の割合は5%~50%である。
【0007】
一部の実施例において、前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第二粒子の横断面積は前記第一粒子の横断面積より小さい。
【0008】
一部の実施例において、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第二粒子の横断面積の合計の割合は5%~60%である。
【0009】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに添加剤Aを含み、前記添加剤Aは、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム4,5-ジシアノ-2-トリフルオロメチルイミダゾール、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム、又は、ビスオキサラトホウ酸リチウムの少なくとも一種を含む。
【0010】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、0.000026g~0.019gの前記添加剤Aが必要とされる。
【0011】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに添加剤Bを含み、前記添加剤Bは、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、硫酸ビニル(DTD)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート(TMSP)、トリス(トリメチルシリル)ボレート(TMSB)、アジポニトリル(ADN)、スクシノニトリル(SN)、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、又は、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン(TECP)の少なくとも一種を含む。
【0012】
一部の実施例において、前記式Iで示される化合物と前記添加剤Bとの質量比は約7:1~約1:7である。
【0013】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、0.0001g~0.2gの前記添加剤Bが必要とされる。
【0014】
一部の実施例において、前記正極活物質層はリン含有化合物を含み、前記リン含有化合物はLiPO又はLiMPOの少なくとも一種を含み、ここで、MはCo、Mn又はFeから選択される少なくとも一種である。
【0015】
一部の実施例において、前記正極活物質の表面又は粒界には、前記リン含有化合物が含まれる。
【0016】
一部の実施例において、前記正極活物質はLiNiCoMnを含み、ここで、0.55<x<0.92、0.03<y<0.2、0.04<z<0.3である。
【0017】
一部の実施例において、前記正極活物質は元素Qを含み、前記Qは、Zr、Ti、Yr、V、Al、Mg又はSnから選択される少なくとも一種である。
【0018】
一部の実施例において、前記正極の孔隙率は25%以下である。
【0019】
一部の実施例において、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記正極集電体の断面積の割合は5%~20%である。
【0020】
一部の実施例において、前記正極活物質層の圧縮密度は3.6g/cm3以下である。
【0021】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに式IIで示される化合物を含み、
【化3】
ここで、R31及びR32はそれぞれ独立して、置換又は無置換のC1-10アルキル基、又は、置換又は無置換のC2-8アルケニル基から選択され、置換とは、一つ又は複数のハロゲンに置換されたことであり、前記電解液の総重量に対して、前記式IIで示される化合物の含有量は0.5重量%~50重量%である。
【0022】
一部の実施例において、前記式IIで示される化合物は
【化4】
の少なくとも一種を含む。
【0023】
本発明のもう一つの態様において、上記のいずれか一種の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0024】
本発明実施例の追加の態様及び利点は、部分的に後続の説明で説明されるか、又は本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は本発明の一つの実施例の正極活物質の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例は以下で詳しく説明される。本発明の実施例は、本発明の保護範囲を制限するものと解釈されるべきではない。本発明にて用いられる以下の用語は、特に断らない限り、以下に示される意味を有する。
【0027】
本発明で使用されるように、用語「約」は小さな変化を叙述及び説明するためのものである。事例又は状況と合わせて用いる場合、前記用語は、その事例又は状況が正確に発生する例及びその事例又は状況に極めて近似的に発生する例を指しうる。例を挙げると、数値と合わせて用いる場合、用語は、前記数値の±10%以下の変化範囲、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下を指しうる。なお、本発明において、範囲の形式で量、比率及びその他の数値を表すことがある。当業者にとって理解できるように、このような範囲の形式は、便宜上及び簡潔のためのものであり、柔軟に理解する必要があり、明確的に指定される範囲に制限される数値を含むだけでなく、明確的に各数値及びサブ範囲を指定しているように、前記範囲内の全ての個別の数値又はサブ範囲を含む。
【0028】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、用語「の一つ」に繋げる項目のリストは、リストされる項目中のいずれかの一つを意味することができる。例えば、項目A及びBがリストされると、フレーズ「A及びBの一つ」は、Aのみ又はBのみを意味する。もう一つの実例において、項目A、B及びCがリストされると、フレーズ「A、B及びCの一つ」は、Aのみ、Bのみ又はCのみを意味する。項目Aは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。
【0029】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、用語「の少なくとも一つ」、「の少なくとも一種」又はその他の類似な用語に繋げる項目のリストは、リストされる項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目A及びBがリストされると、フレーズ「A及びBの少なくとも一つ」又は「A又はBの少なくとも一つ」は、Aのみ、Bのみ、又は、A及びBを意味する。もう一つの実例において、項目A、B及びCがリストされると、フレーズ「A、B及びCの少なくとも一つ」又は「A、B又はCの少なくとも一つ」は、Aのみ;又はBのみ;Cのみ;A及びB(Cを除く);A及びC(Bを除く);B及びC(Aを除く);又はA、B及びCの全て、を意味する。項目Aは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。
【0030】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、炭素数の説明、即ち、大文字「C」の後の数字について、例えば、「C-C10」、「C-C10」等において、「C」の後の数字、例えば「1」、「3」又は「10」は、具体的な官能基における炭素数を表す。即ち、官能基は、それぞれ1~10個の炭素原子及び3~10個の炭素原子を含んでもよい。例えば、「C-Cアルキル基」又は「Cアルキル基」は、1~4個の炭素原子を有するアルキル基を指し、例えば、CH-、CHCH-、CHCHCH-、(CHCH-、CHCHCHCH-、CHCHCH(CH)-又は(CHC-である。
【0031】
本発明で使用されるように、用語「アルキル基」は、1~10個の炭素原子を有する直鎖飽和炭化水素構造である。「アルキル基」は、3~10個の炭素原子を有する分岐鎖状又は環状炭化水素構造と予期される。例えば、アルキル基は、1~10個の炭素原子のアルキル基であってもよく、1~8個の炭素原子のアルキル基であってもよく、1~6個の炭素原子のアルキル基であってもよく、又は、1~4個の炭素原子のアルキル基であってもよい。具体的な炭素数を有するアルキル基が指定された場合、その炭素数を有する全ての幾何異性体を含むことが予期される。従って、例えば、「ブチル基」とは、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びシクロブチル基を含むことを意味する。「プロピル基」は、n-プロピル基、イソプロピル基及びシクロプロピル基を含む。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基等を含むが、それらに限定されるものではない。なお、アルキル基は、任意に置換されたものであってもよい。
【0032】
用語「アルケニル基」とは、直鎖又は分岐鎖であって、且つ少なくとも一つ、通常は1個、2個又は3個の炭素炭素二重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。前記アルケニル基は、特に定義されない限り、通常、2~10個の炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子、2~6個の炭素原子、又は2~4個の炭素原子を含む。代表的なアルケニル基は、(例えば)ビニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブト-2-エニル基、ブト-3-エニル基、n-ヘキサ-3-エニル基等を含む。なお、アルケニル基は、任意に置換されたものであってもよい。
【0033】
用語「アルキニル基」とは、直鎖又は分岐鎖であって、且つ少なくとも一つ、通常は1個、2個又は3個の炭素炭素三重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。前記アルキニル基は、特に定義されない限り、通常、2個~10個、2個~8個、2個~6個、又は2個~4個の炭素原子を有するアルキニル基である。代表的なアルキニル基は、(例えば)エチニル基、プロプ-2-イニル基(n-プロピニル基)、n-ブト-2-イニル基、n-ヘキサ-3-イニル基等を含む。なお、アルキニル基は、任意に置換されたものであってもよい。
【0034】
用語「アリール基」は、単環系及び多環系を含む。多環は、その中の二個の炭素が二個の隣接する環(前記環は「縮合している環」である)に共有されている二個又はより多くの環であってもよく、ここで、前記環の少なくとも一つは芳香族のものであり、他の環は、例えば、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロシクリル基及び/又はヘテロアリール基であっても良い。例えば、アリール基は6~12個炭素原子又は6~10個炭素原子を含有するアリール基であってもよい。代表的なアリール基は、(例えば)フェニル基、メチルフェニル基、プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ベンジル基、及び、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基等を含む。なお、アリール基は、任意に置換されたものであってもよい。
【0035】
前記置換基が置換された場合、特に断らない限り、それは一つ又は複数のハロゲンに置換されたことである。
【0036】
本発明で使用されるように、用語「ハロゲン」はF、Cl、Br及びIを含み、好ましくはF又はClである。
【0037】
用語「円形度」又は「球形度」は、粒子の横断面が真円に近づく程度を指す。円形度R=(4π×面積)/(周囲長×周囲長)。Rが1である場合、図形は円形である。Rが小さいほど、図形が不規則になり、円形との差が大きくなる。本発明では、円形度計で正極活物質粒子の円形度を測定し、具体的な測定方法は以下の具体的な実施例を参照することができる。
【0038】
用語「破砕粒子」とは、クラックを有する粒子を指す。前記クラックは、走査型電子顕微鏡下で、画像内の粒子の断面において、連続で長さが0.1マイクロメートル以上で、幅が0.01マイクロメートル以上のしわである。
【0039】
用語「正極活物質」は、可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料を指す。本発明の一部の実施例において、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含むが、それらに限定されるものではない。
【0040】
リチウムイオン電池のエネルギー密度を高める手段には、二つの方面を含む。第一方面は、リチウム吸蔵/放出電圧プラトーがグラファイト負極に近いが、グラムあたりの容量がグラファイト負極より明らかに高い負極材料、例えば、Si/C複合材料又はSiOx/C複合材料を採用することである。第二方面は、より高い比エネルギーを有する正極材料を開発することである。前記正極材料は、リチウムマンガンリッチ型正極(例えば、xLiMnO・(1-x)LiMO、0<x<1、MはNi、Co、Mn、Fe、Ru又はSnから選択される一種又は多種である)、高ニッケル正極(例えば、LiNiCoMn(NCM)、0.5≦x<1、0<y≦0.2、0<z≦0.3)等を含む。中には、球状の二次粒子ニッケルリッチ三元系正極材料(LiNiCoMn(NCM)、0.5≦x<1、0<y≦0.2、0<z≦0.3)は、粒子の流動性が高く、圧縮密度が高く、質量比エネルギーが高いため、高エネルギー密度のリチウムイオン電池に広く使用される。しかし、本発明の発明者らの研究によると、球状の二次粒子ニッケルリッチ三元系正極は、高電圧での充電プロセスにおいて、リチウム放出量は80%以上に達し、材料格子は異方的に収縮し、粒子の内部応力が急激に増加する。そのため、二次粒子は繰り返されるサイクルの間に粒子破砕が発生し、一次粒子の間の物理的接触がひどく損傷され、電池の電荷移動抵抗が激増し、サイクルの後期での容量が急速に減衰する。さらに、二次粒子が破砕した後、電解液はすぐに二次粒子の内部に浸透し、一次粒子と多くの副反応を発生し、特に高温サイクルプロセスでは、電池のサイクル中には、膨張等の安全上の問題が発生する。本発明は、ニッケルリッチ材料電池系のサイクル特性を改善し、サイクル中のガス発生を抑制するために、例えば、球状の二次粒子ニッケルリッチNCM正極粒界を変性して粒子破砕を抑制し、同時に適切な保護添加剤(例えば式Iで示される化合物及びLiPO等)を添加するという組み合わせを採用し、又は、例えば一次粒子と二次粒子とを混合して使用して粒子破砕を抑制し、同時に適切な保護添加剤(例えば式Iで示される化合物及びLiPO等)を添加するという組み合わせを採用する。それらの組み合わせは、電池の高温貯蔵特性、高温サイクル特性を大幅に改善させ、そして高温サイクルでのガス発生を抑制することができる。
【0041】
一.電気化学装置
本発明の電気化学装置は、電気化学反応を発生させるいずれかの装置を含み、その具体的な実例は、全ての種類の、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシタを含む。特に、その電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。一部の実施例において、本発明の電気化学装置は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0042】
正極
一部の実施例において、正極は、集電体及びその集電体上に位置する正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含む。
【0043】
前記正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出するリチウム化層間化合物の少なくとも一種を含む。本発明の一部の実施例において、正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物を含む。一部の実施例において、正極活物質は、複合酸化物を含む。一部の実施例において、前記複合酸化物は、リチウム、並びに、コバルト、マンガン及びニッケルから選択される少なくとも一種の元素を含む。
【0044】
一部の実施例において、前記正極活物質層はリン含有化合物を含み、前記リン含有化合物はLiPO又はLiMPOの少なくとも一種を含み、ここで、MはCo、Mn又はFeの少なくとも一種を含む。
【0045】
一部の実施例において、前記正極活物質の表面又は粒界には、前記リン含有化合物が含まれる。
【0046】
一部の実施例において、前記正極活物質はLiNiCoMnを含み、ここで、0.55<x<0.92、0.03<y<0.2、0.04<z<0.3である。
【0047】
一部の実施例において、前記正極活物質は元素Qを含み、前記Qは、Zr、Ti、Yr、V、Al、Mg又はSnから選択される少なくとも一種である。
【0048】
本発明者の研究によると、正極活物質であるニッケル含有三元系材料において、ニッケル元素の主な機能はエネルギー密度を向上することである。同じ充放電の電圧範囲において、ニッケル元素の含有量が高いほど、グラムあたりの容量が高い。しかし、高ニッケル材料を電気化学装置に用いる実際の使用において、高ニッケル材料は同じ電圧でのリチウム放出量が高く、単位胞の体積の膨張及び収縮が大きいため、粒子が破砕されやすく、電解質と副反応を発生しやすい。粒子が破砕された後、新しい界面が露出し、電解液がクラックを通って粒子の内部に浸透し、新しい界面での正極活物質と副反応を発生させ、ガス発生を激化し、且つ電気化学装置の容量を充放電サイクルの進行につれて急速に減衰させる。また、電気化学装置の充電プロセス中、リチウムイオンが正極活物質から連続的に放出されるにつれて、正極活物質中の活性金属(例えば、ニッケル元素)と酸素との結合力が弱まり、酸素の放出が発生し、放出された酸素は電解液を酸化し、ガス発生を激化する。上記した問題は、高ニッケル材料の、高エネルギー密度の電気化学装置における使用を厳しく制限している(特に正極活物質LiNiCoMnにおいて、x≧0.6の場合)。
【0049】
第一粒子は、多数の単結晶粒子の集合体であり、単結晶は、その中の粒子が三次元空間で規則的かつ周期的に配置されている結晶である。第一粒子の形態は球形又は楕円体形であり、その円形度が大きく、且つ断面積も大きい。第二粒子は、結晶粒のサイズの大きい単結晶の集合である。
【0050】
一部の実施例において、前記正極活物質層は第一粒子を含み、前記第一粒子の円形度は0.4~1であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第一粒子の横断面積は20平方マイクロメートル以上であり、前記第一粒子の横断面積の合計の割合は5%~50%である。
【0051】
一部の実施例において、前記第一粒子の比表面積(BET)は、約0.14m/g~約0.95m/gである。
【0052】
一部の実施例において、前記第一粒子のDv50は、約5.5マイクロメートル~約14.5マイクロメートルである。Dv90は18マイクロメートル以下である。
【0053】
一部の実施例において、前記正極活物質層は第二粒子を含み、前記第二粒子の円形度は0.4未満であり、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第二粒子の横断面積は前記第一粒子の横断面積より小さい。
【0054】
一部の実施例において、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記第二粒子の横断面積の合計の割合は5%~60%である。
【0055】
一部の実施例において、前記正極の孔隙率は25%以下である。
【0056】
一部の実施例において、前記集電体に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記正極集電体の断面積の割合は5%~20%である。
【0057】
一部の実施例において、前記正極活物質層の圧縮密度は約3.6g/cm以下である。
【0058】
一部の実施例において、前記正極活物質は、LiPOにより変性されたニッケルリッチ正極材料、又はLiPOにより変性されたニッケルリッチ正極材料を含み、その調製方法は以下の二つの方法で例示されてもよい。
【0059】
液相混合法:正極材料(LiNi0.84Co0.13Mn0.06)及びHPOをエタノール溶液に分散させ、そして磁力で60分間撹拌し、そして80℃のオイルバスに移し、エタノールが完全に揮発するまで撹拌し、LiPOにより変性された三元系正極活物質が得られ、破砕及びメッシュで篩い分け、粒子径の異なる正極活物質が得られ、LiPOの含有量が前記変性されたニッケルリッチ三元系正極材料の総重量の約1重量%を占めるようにする。
【0060】
ゾルゲル法:正極材料(LiNi0.84Co0.13Mn0.06)を、硝酸リチウム、クエン酸、リン酸を含むエタノール溶液に添加し、激しく撹拌し、正極材料とLiPOとの質量比を99:1にする。そして、80℃まで加熱し、溶媒が完全に揮発するまで撹拌し続け、最後に600℃の空気雰囲気で2時間仮焼し、LiPOにより変性された正極材料が得られる。
【0061】
一部の実施例において、前記正極活物質は、LiMPOにより変性されたニッケルリッチ正極材料、又はLiMOにより変性されたニッケルリッチ正極材料を含み、その調製方法はLiPOにより変性されたニッケルリッチ正極材料の調製方法に類似する。
【0062】
一部の実施例において、正極活物質は、その表面上にコート層を有してもよく、又はコート層を有する別の化合物と混合してもよい。当該コート層は、塗布された元素の酸化物、塗布された元素の水酸化物、塗布された元素のヒドロキシル酸化物、塗布された元素のオキシ炭酸塩(oxycarbonate)及び塗布された元素のヒドロキシ炭酸塩(hydroxycarbonate)から選択される少なくとも一種の塗布された元素化合物を含んでも良い。コート層に使用される化合物は、アモルファスであっても、又は結晶性であってもよい。
【0063】
一部の実施例において、コート層に含まれる塗布された元素は、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr又はそれらの任意の組み合わせを含んでもよい。正極活物質の性能に悪影響を及ぼさない限り、任意の方法でコート層を形成してもよい。例えば、当該方法は、例えば、スプレー、ディッピング等の当分野に公知の任意の塗工方法を含んでもよい。
【0064】
正極活物質層は、さらに粘着剤を含み、且つ、選択的に、導電材を含む。粘着剤は、正極活物質粒子同士の粘着を向上させ、また、正極活物質と集電体との粘着を向上させることができる。
【0065】
一部の実施例において、粘着剤は、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含む重合体、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル酸(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン等を含むが、それらに限定されるものではない。
【0066】
一部の実施例において、導電材は、炭素による材料、金属による材料、導電性重合体及びそれらの混合物を含むが、それらに限定されるものではない。一部の実施例において、炭素による材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。一部の実施例において、金属による材料は、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀から選択される。一部の実施例において、導電性重合体はポリフェニレン誘導体である。
【0067】
一部の実施例において、集電体はアルミニウムであってもよいが、それに限定されない。
【0068】
正極は、当分野に公知の調製方法によって調製されてもよい。例えば、正極は、溶媒に活物質、導電材及び粘着物を混合し、活物質組成物を調製し、その活物質組成物を集電体上に塗工する方法で、得ることができる。一部の実施例において、溶媒はN-メチルピロリドン等を含んでもよいが、それに限定されない。
【0069】
一部の実施例において、正極は、リチウム遷移金属系化合物粉体及びバインダーを含む正極活物質層を使用して集電体上に正極材料を形成することで製造される。
【0070】
一部の実施例において、正極活物質層は、通常、正極材料及びバインダー(必要に応じて使用される導電材及び増粘剤など)を乾式混合してシートを形成し、得られたシートを正極集電体に圧接するか、又はこれらの材料を液体媒体に溶解又は分散させることによってスラリー状にし、正極集電体にコーティングして乾燥させることで製造される。
【0071】
負極
本発明の電気化学装置に使用される負極の材料、構成及びその製造方法は、先行技術に開示された任意の技術を含んでもよい。一部の実施例において、負極は米国特許出願US9812739Bに記載の負極であり、その全内容は援用により本発明に組み込まれる。
【0072】
一部の実施例において、負極は、集電体及びその集電体上に位置する負極活物質層を含む。負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出する材料を含む。一部の実施例において、可逆的にリチウムイオンを吸蔵及び放出する材料は炭素材料を含む。一部の実施例において、炭素材料は、リチウムイオン二次電池で一般的に使用されるいずれかの炭素による負極活物質であってもよい。一部の実施例において、炭素材料は、結晶質炭素、非晶質炭素又はそれらの混合物を含むが、それらに限定されるものではない。結晶質炭素は、アモルファス、フレーク形、小フレーク形、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛であってもよい。非晶質炭素は、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソフェーズピッチ炭化物、仮焼コークス等であってもよい。
【0073】
一部の実施例において、負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質の具体的な種類は具体的に制限されず、需要に応じて選択すればよい。一部の実施例において、負極活物質は、リチウム金属、構造化リチウム金属、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素-炭素複合体、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のリチウム化TiO-LiTi12、Li-Al合金又はそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。中には、ケイ素-炭素複合体は、ケイ素-炭素負極活物質の重量に対して、少なくとも約5重量%のケイ素を含むものを指す。
【0074】
負極がケイ素炭素化合物を含む場合、負極活物質の総重量に対して、ケイ素:炭素=約1:10-10:1であり、ケイ素炭素化合物のメディアン径D50は約0.1マイクロメートル~20マイクロメートルである。負極が合金材料を含む場合、蒸着法、スパッタリング法、めっき法等の方法で負極活物質層を形成してもよい。負極がリチウム金属を含む場合、例えば、球状のより合わせた形状を有する導電性骨格及び導電性骨格中に分散された金属粒子を使用して、負極活物質層を形成する。一部の実施例において、球状のより合わせた形状を有する導電性骨格は、約5%~約85%の孔隙率を有してもよい。一部の実施例において、リチウム金属の負極活物質層上に保護層を設けてもよい。
【0075】
一部の実施例において、負極活物質材料層は、粘着剤を含んでもよく、また、選択的に、導電材を含んでもよい。粘着剤は、負極活物質粒子同士の粘着及び負極活物質と集電体との粘着を向上させる。一部の実施例において、粘着剤は、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、カルボキシル化されたポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、エチレンオキシドを含む重合体、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(1,1-ジフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル酸(エステル)化されたスチレンブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロン等を含むが、それらに限定されるものではない。
【0076】
一部の実施例において、導電材は、炭素による材料、金属による材料、導電性重合体又はそれらの混合物を含むが、それらに限定されるものではない。一部の実施例において、炭素による材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、又はそれらの任意の組み合わせから選択される。一部の実施例において、金属による材料は、金属粉末、金属繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀から選択される。一部の実施例において、導電性重合体はポリフェニレン誘導体である。
【0077】
一部の実施例において、集電体は、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、発泡ニッケル、発泡銅、導電性金属被覆重合体基板、及びそれらの任意の組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない。
【0078】
負極は、当分野に公知の調製方法によって調製されてもよい。例えば、負極は、溶媒に活物質、導電材及び粘着物を混合し、活物質組成物を調製し、その活物質組成物を集電体上に塗工する方法で、得ることができる。一部の実施例において、溶媒は水等を含んでもよいが、それに限定されない。
【0079】
セパレータ
一部の実施例において、本発明の電気化学装置は、正極と負極との間に短絡を防ぐためのセパレータを備えている。本発明の電気化学装置に使用されるセパレータの材料及び形状は特に制限されず、先行技術に開示された任意の技術であってもよい。一部の実施例において、セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料で形成された重合体又は無機物等を含む。
【0080】
例えば、セパレータは、基材層及び表面処理層を含んでもよい。基材層は、多孔質構造の不織布、膜又は複合膜であり、基材層の材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドから選択される少なくとも一種である。具体的に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリエチレン多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリエチレン不織布又はポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン多孔質複合膜から選択してもよい。基材層は単層又は複数層であってもよい。基材層が複数層である場合、異なる基材層の重合体組成は同一でも異なってもよく、異なる基材層の重合体の重量平均分子量は完全に同じではない。基材層が複数層である場合、異なる基材層の重合体の細孔閉鎖温度は異なる。
【0081】
一部の実施例において、基材層の少なくとも一つの表面上に表面処理層が設けられて、表面処理層は、重合体層又は無機物質層であってもよく、あるいは重合体と無機物とを混合してなる層であってもよい。
【0082】
一部の実施例において、前記セパレータは、多孔質基材及び塗工層を含み、塗工層は無機粒子及びバインダーを含む。
【0083】
一部の実施例において、前記塗工層の厚さは約0.5マイクロメートル~約10マイクロメートル、約1マイクロメートル~約8マイクロメートル又は約3マイクロメートル~約5マイクロメートルである。
【0084】
一部の実施例において、前記無機粒子は、SiO、Al、CaO、TiO、ZnO、MgO、ZrO、SnO、Al(OH)、又はAlOOHから選択される少なくとも一種である。一部の実施例において、前記無機粒子の粒子径は、約0.001マイクロメートル~約3マイクロメートルである。
【0085】
一部の実施例において、前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロエチレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、純粋なアクリルラテックス(アクリレートと特殊機能性単量体とが共重合してなるアニオン型アクリル酸ラテックス)、スチレン-アクリレートラテックス(スチレン-アクリレートエマルジョンは、スチレン単量体とアクリレート単量体との乳化共重合によって得られる)及びスチレン-ブタジエンラテックス(SBR、ブタジエンとスチレンとの乳化共重合によって得られる)から選択される少なくとも一種である。
【0086】
電解液
本発明の一部の実施例における電気化学装置は、正極、負極、セパレータ及び電解液を含み、中には、前記正極は集電体及び正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、
前記電解液は式Iで示される化合物を含み、
【化5】
ここで、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、置換又は無置換のC1-8アルキル基、置換又は無置換のC2-8アルケニル基、置換又は無置換のC2-8アルキニル基、又は置換又は無置換のC6-12アリール基、から選択され、且つ、
前記正極活物質1gあたり、必要とされる前記式Iで示される化合物の量は約0.001g~約0.064gである。
【0087】
一部の実施例において、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、H、ハロゲン、置換又は無置換のC1-6アルキル基もしくはC1-4アルキル基、置換又は無置換のC2-6アルケニル基もしくはC2-4アルケニル基、置換又は無置換のC2-6アルキニル基もしくはC2-4アルキニル基、又は置換又は無置換のC6-10アリール基、から選択される。
【0088】
一部の実施例において、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立して、H、F、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基又は-CF、から選択される。
【0089】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、必要とされる前記式Iで示される化合物の量は約0.01g~約0.06gである。一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、必要とされる前記式Iで示される化合物の量は約0.015g、約0.02g、約0.025g、約0.03g、約0.035g、約0.04g、約0.045g、約0.05g、又は約0.055gである。
【0090】
発明者の研究によると、正極材料は、サイクルの後期で粒子が破砕される現象があり、熱安定性に優れ、反応速度が適宜である式Iで示される化合物は、サイクル中に継続にゆっくりと消耗され、材料の粒子が破砕された後に材料の表面で効果的に保護層を形成し、副反応に起因するガス発生の問題を緩める。
【0091】
さらに、発明者の研究によると、式Iで示される化合物は、成膜抵抗が比較的に大きく、正極材料表面のP元素の変性と相まって、材料自体の安定性及びイオン伝導を高めるだけでなく、サイクルの前期で式Iに示される化合物の反応を減少させ、初期抵抗を低めると共に、サイクルの後期での成膜効果を確保し、サイクルを向上させ、ガス発生を減少させる効果がさらに実現される。
【0092】
一部の実施例において、前記式Iで示される化合物は
【化6】
の少なくとも一種を含む。
【0093】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに添加剤Aを含み、前記添加剤Aは、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウム4,5-ジシアノ-2-トリフルオロメチルイミダゾール、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム、ジフルオロオキサラトホウ酸リチウム、又は、ビスオキサラトホウ酸リチウムの少なくとも一種を含み;且つ前記正極活物質1gあたり、約0.000026g~約0.019gの前記添加剤Aが必要とされる。
【0094】
発明者の研究によると、添加剤Aは優先して正極材料の表面に成膜し、抵抗が比較的に低い界面膜を形成することができ、正極材料の表面での電解液の副反応を減少し、式Iで示される化合物のサイクルの前期での反応を減少し、サイクルの前期での安定性を確保するだけでなく、サイクル能力を向上させ、ガス発生の発生を減少ことができる。
【0095】
一部の実施例において、前記添加剤Aはジフルオロリン酸リチウム(LiPO)を含む。
【0096】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、約0.00003g~0.015gの前記添加剤Aが必要とされる。一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、約0.00006g、約0.00008g、約0.0001g、約0.0003g、約0.0005g、約0.0007g、約0.001g、約0.003g、約0.005g、約0.007g、約0.01g、約0.013g、約0.015g、又は約0.017gの前記添加剤Aが必要とされる。
【0097】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに添加剤Bを含み、前記添加剤Bは、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、硫酸ビニル(DTD)、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート(TMSP)、トリス(トリメチルシリル)ボレート(TMSB)、アジポニトリル(ADN)、スクシノニトリル(SN)、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル(HTCN)、1,2,6-ペンタントリカルボニトリル、又は、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン(TECP)を含む。
【0098】
一部の実施例において、前記式Iで示される化合物と前記添加剤Bとの質量比は7:1~1:7である。
【0099】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、0.0001g~0.2gの前記添加剤Bが必要とされる。
【0100】
一部の実施例において、前記式Iで示される化合物と前記添加剤Bとの質量比は約7:1、約6:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、又は約1:7である。
【0101】
一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、0.0005g~0.18gの前記添加剤Bが必要とされる。一部の実施例において、前記正極活物質1gあたり、約0.0005g、約0.001g、約0.005g、約0.01g、約0.03g、約0.05g、約0.07g、約0.1g、約0.12g、約0.15g、約0.18gの前記添加剤Bが必要とされる。
【0102】
発明者の研究によると、添加剤Bは、正極で成膜することができ、正極の膜の組成を調整し、有機層の含有量を相対的に増加させることで、正極での成膜安定性を向上させることができ、さらにサイクル安定性を向上させることができる。
【0103】
一部の実施例において、前記電解液は、さらに式IIで示される化合物を含み、
【化7】

ここで、R31及びR32はそれぞれ独立して、置換又は無置換のC1-10アルキル基、又は、置換又は無置換のC2-8アルケニル基から選択され、置換とは、一つ又は複数のハロゲンに置換されたことであり、前記電解液の総重量に対して、前記式IIで示される化合物の含有量は約0.5重量%~約50重量%である。
【0104】
一部の実施例において、R31及びR32はそれぞれ独立して、置換又は無置換のC1-8アルキル基、置換又は無置換のC1-6アルキル基、置換又は無置換のC1-4アルキル基、置換又は無置換のC2-6アルケニル基、又は置換又は無置換のC2-4アルケニル基から選択され、置換とは、一つ又は複数のハロゲンに置換されたことである。
【0105】
一部の実施例において、R31及びR32の少なくとも一つは、一つ又は複数のハロゲンに置換される。
【0106】
一部の実施例において、R31及びR32はそれぞれ独立して、無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたメチル基、無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたエチル基、無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたプロピル基、無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたイソプロピル基、無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたビニル基、又は無置換又は一つもしくは複数のFに置換されたプロペニル基から選択される。一部の実施例において、R31及びR32の少なくとも一つは、一つ又は複数のFに置換される。
【0107】
一部の実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式IIで示される化合物の含有量は約1重量%~45重量%である。一部の実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式IIで示される化合物の含有量は約5重量%、約10重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%、約35重量%、又は約40重量%である。
【0108】
一部の実施例において、前記式IIで示される化合物は
【化8】
の少なくとも一種を含む。
【0109】
発明者の研究によると、式Iで示される化合物と式IIで示される化合物とを組み合わせることで、イオン伝導の抵抗を低減することができ、正極で保護層を形成させることができ、サイクルの後期で粒子破砕が発生した後に、式Iで示される化合物と式IIで示される化合物は共に作用し、正極の表面にある保護層を効果的に修復することにより、サイクル寿命を高める。
【0110】
一部の実施例において、前記電解液は、さらにリチウム塩及び有機溶媒を含む。
【0111】
一部の実施例において、前記リチウム塩は、無機リチウム塩及び有機リチウム塩から選択される一種又は多種である。一部の実施例において、前記リチウム塩は、フッ素、ホウ素又はリンの少なくとも一種を含む。一部の実施例において、前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF、ビストリフルオロメタンスルホンイミドリチウムLiN(CFSO(LiTFSIと略される)、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムLi(N(SOF))(LiFSIと略される)、ヘキサフルオロヒ酸リチウムLiAsF、過塩素酸リチウムLiClO、又はトリフルオロメタンスルホン酸リチウムLiCFSOから選択される一種又は多種である。
【0112】
一部の実施例において、前記リチウム塩の濃度は0.3mol/L~1.5mol/Lである。一部の実施例において、前記リチウム塩の濃度は0.5mol/L~1.3mol/L、又は約0.8mol/L~1.2mol/Lである。一部の実施例において、前記リチウム塩の濃度は約1.10mol/Lである。
【0113】
前記有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、スルホラン(SF)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、プロピルエチルカーボネート、ギ酸メチル(MF)、ギ酸エチル(MA)、酢酸エチル(EA)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、酪酸エチル、フルオロメチルエチルカーボネート、フルオロジメチルカーボネート、又はフルオロジエチルカーボネート等の少なくとも一種を含む。
【0114】
一部の実施例において、前記溶媒は前記電解液の重量の70重量%~95重量%を占める。
【0115】
本発明の電気化学装置に使用される電解液は本発明の上述した任意の電解液である。さらに、本発明の電気化学装置に使用される電解液はさらに、本発明の要旨から逸脱しない範囲内の他の電解液を含んでもよい。
【0116】
二、使用
本発明の電気化学装置の使用は、特に限定されず、例えば、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子書籍プレーヤー、携帯電話、ポータブルファックス、ポータブルコピー機、ポータブルプリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュ、カメラ、家庭用大型蓄電池又はリチウムイオンキャパシター等の公知の様々な用途に使用されてもよい。
【0117】
三、実施例
以下において、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、その主旨から逸脱しない限り、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0118】
1.リチウムイオン電池の調製
対比例1-1、対比例1-2、及び実施例1-1~実施例1-21におけるリチウムイオン電池の調製プロセスは以下の通りである。
【0119】
(1)負極の調製
負極活物質である人造黒鉛、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)を重量比97:1:2で混合し、脱イオン水を添加し、真空ミキサーの作用下で負極スラリーが得られ、負極スラリーの固形分含有量は54重量%であった。負極スラリーを均一に負極集電体である銅箔の上に塗工し、塗工された銅箔を85℃で乾燥させ、そして、コールドプレスを経て、負極活物質層が得られた。さらに、カット、スリットをしてから、120℃、真空の条件下で12時間乾燥させ、負極が得られた。
【0120】
(2)正極の調製
液相混合方法でLiPOにより変性された正極活物質を調製した。LiNi0.84Co0.13Mn0.06 99グラム、HPO 1グラムを超音波で無水エタノールに10分間分散させ、そして、磁力で60分間撹拌し、そして80℃のオイルバスに移し、エタノールが完全に揮発するまで撹拌し、LiPOにより変性された三元系活物質が得られ、破砕及びメッシュで篩い分け、粒子径の異なる正極活物質が得られた。
【0121】
LiPOにより変性された正極活物質であるLiNi0.84Co0.13Mn0.06(比表面積は0.45m/gである)、導電剤Super P、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを重量比97:1.4:1.6で混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を添加し、真空ミキサーの作用下で均一まで撹拌し、正極スラリーが得られ、正極スラリーの固形分含有量は72重量%である。正極スラリーを均一に正極集電体であるアルミニウム箔の上に塗工し、塗工されたアルミニウム箔を85℃で乾燥させ、そしてコールドプレス、カット、スリットをしてから、85℃、真空の条件下で4時間乾燥させ、正極を得た。前記正極は正極活物質層を含み、前記正極活物質層は正極活物質を含み、前記アルミニウム箔に垂直な方向の前記正極の横断面積で計算すると、前記正極における第一粒子の断面積の合計が前記横断面積に占める比例は27.1%であり、前記正極における第二粒子の断面積の合計が前記横断面積に占める比例は37.8%であった。前記正極活物質層の圧縮密度は3.4g/cmであった。
【0122】
中には、圧縮密度を得る方法は以下の通りである。直径18mmの電極シートを切り、万分の一のマイクロメータ(Ten-thousandth micrometer)でウェーハの厚さを測定し、ウェーハの質量を測定した。圧縮密度=(ウェーハの質量-ウェーハにおける集電体の質量)/(ウェーハの面積×(ウェーハの厚さ-集電体の厚さ))。
【0123】
(3)電解液の調製
乾燥のアルゴン雰囲気のグローブボックスで、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)を質量比EC:PC:EMC:DEC=20:10:30:40で混合し、次に添加剤を入れ、溶解させて十分に撹拌した後にリチウム塩であるLiPFを添加し、均一に混合し、電解液が得られた。中には、LiPFの濃度は1.10mol/Lであった。電解液に使用された添加剤の具体的な種類及び含有量は表1に示された通りであった。表1において、添加剤の含有量は、変性された正極活物質1gあたり、必要とされるグラム重量で計算された。
【0124】
(4)セパレータの調製
厚さ9マイクロメートルのポリエチレン(PE)セパレータを選択し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)スラリー、Alスラリーで塗工して、乾燥させた後に、最終のセパレータが得られた。
【0125】
(5)リチウムイオン電池の調製
セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極、セパレータ、負極を順に積層する。そして、巻取り、タブを溶接し、外装箔であるアルミニウムプラスチックフィルムに置き、上記で調製された電解液を注入し、真空パッケージング、放置し、フォーメーション、成形、容量測定等の工程を経て、ソフトパックリチウムイオン電池が得られた(厚さ3.3mm、幅39mm、長さ96mm)。
【0126】
実施例1-22:リチウムイオン電池の電解液は下記の方法で調製され、リチウムイオン電池調製における他のプロセスは対比例1-1と完全に同様であった。
乾燥のアルゴン雰囲気のグローブボックスで、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及び化合物II-3を質量比EC:PC:EMC:DEC:化合物II-3=20:10:40:20:10で混合し、次に添加剤を入れ、溶解させて十分に撹拌した後にリチウム塩であるLiPFを添加し、均一に混合し、電解液が得られた。中には、LiPFの濃度は1.10mol/Lであった。電解液に使用された添加剤の具体的な種類及び含有量は表1に示された通りであった。表1において、添加剤の含有量は、変性された正極活物質1gあたり、必要とされるグラム重量であった。
【0127】
実施例1-23:リチウムイオン電池の電解液は下記の方法で調製され、リチウムイオン電池調製における他のプロセスは対比例1-1と完全に同様であった。
乾燥のアルゴン雰囲気のグローブボックスで、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及び化合物II-3を質量比EC:PC:EMC:DEC:化合物II-3=20:10:20:20:30で混合し、次に添加剤を入れ、溶解させて十分に撹拌した後にリチウム塩であるLiPFを添加し、均一に混合し、電解液を得た。中には、LiPFの濃度は1.10mol/Lであった。電解液に使用された添加剤の具体的な種類及び含有量は表1に示された通りであった。表1において、添加剤の含有量は、変性された正極活物質1gあたり、必要とされるグラム重量であった。
【0128】
実施例1-24:リチウムイオン電池の電解液は下記の方法で調製され、リチウムイオン電池調製における他のプロセスは対比例1-1と完全に同様であった。
乾燥のアルゴン雰囲気のグローブボックスで、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及び化合物II-2を質量比EC:PC:EMC:DEC:化合物II-2 =20:10:30:30:10で混合し、次に添加剤を入れ、溶解させて十分に撹拌した後にリチウム塩であるLiPF6を添加し、均一に混合し、電解液を得た。中には、LiPFの濃度は1.10mol/Lであった。電解液に使用された添加剤の具体的な種類及び含有量は表1に示された通りであった。表1において、添加剤の含有量は正極活物質1gあたり、必要とされるグラム重量であった。
【0129】
実施例1-25:リチウムイオン電池の正極は下記の方法で調製され、リチウムイオン電池調製における他のプロセスは対比例1-1と完全に同様であった。
ゾルゲル法でLiPOにより変性された正極活物質を調製した。正極材料(分子式LiNi0.84Co0.13Mn0.06)91.7グラムを、硝酸リチウム2グラム、クエン酸5.4グラム、リン酸0.9グラムを含むエタノール溶液に添加し、激しく撹拌し、正極材料とLiPOとの質量比を99:1に確保した。そして80℃まで加熱し、溶媒が完全に揮発するまで撹拌し続け、最後に600℃の空気雰囲気で2時間仮焼し、LiPOにより変性された正極活物質が得られた。
【0130】
実施例1-26:正極活物質層の圧縮密度が3.3g/cmであったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0131】
実施例1-27:正極活物質層の圧縮密度が3.6g/cmであったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0132】
実施例1-28:正極活物質における第一粒子の断面積の合計が前記横断面積に占める比例は10.4%であったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0133】
実施例1-29~1-31:用いられた正極活物質であるLiNi0.84Co0.13Mn0.06はLiPOにより変性されていなかったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0134】
実施例1-32:正極活物質がLiNi0.84Co0.13Mn0.058Zr0.002であったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0135】
実施例1-33:正極活物質がLiNi0.84Co0.13Mn0.057Al0.001Zr0.002であったこと以外に、リチウムイオン電池の調製プロセスは実施例1-2と完全に同様であった。
【0136】
対比例1-3:用いられた正極活物質であるLiNi0.84Co0.13Mn0.06はLiPOにより変性されていなかったこと以外に、調製方法は対比例1-1と完全に同様であった。
【0137】
対比例2-1~対比例2-4及び実施例2-1~2-18:正極材料の種類及び電解液が異なること以外に、電池調製プロセスは対比例1-1と同様であった。
【0138】
2.粒子円形度、断面積及び面積比例の測定方法
(1)粒子円形度
型番がDTP-550Aである円形度計で正極活物質粒子の円形度を測定した。
【0139】
(2)粒子断面積及び面積比例
イオン研磨機(型番は日本電子-IB-09010CP)を使用し、正極集電体に垂直な方向に沿って正極をカットし、断面を得た。走査型電子顕微鏡で上記の断面を適切な倍率で観察し、後方散乱モードを使用して写真を撮り、Image Jソフトウェアの画像形状認識機能を使用し、円形度、粒子の断面積を読み取り、そして粒子A、粒子Aにおける破砕粒子、集電体を判別した。そして対応する面積を読み取った。正極シート断面の総面積をSとし、粒子Aの総面積(破砕粒子を含む)をS1とし、粒子Aにおける破砕粒子の総面積をS2とし、正極集電体の面積をS3とし、孔隙率をPとし、導電剤及びバインダーの面積比例を無視した。本発明において、粒子Aの円形度は0.4以上であり、一つの粒子Aの断面積は20平方マイクロメートル以上であった。
【0140】
粒子Aの総面積の比例=S1/S×100%;
粒子Aにおける破砕粒子の総面積の比例=S2/S×100%;
破砕粒子の総面積が粒子Aの総面積に占める比例=S2/S1×100%;
粒子Bの総面積の比例=(S-S1-S3)/S×100%-P。
【0141】
3.正極の孔隙率測定
真密度テスターAccuPyc II 1340で測定し、各サンプルに対して少なくとも3回の測定を行い、少なくとも3つのデータを選択し、平均値を計算した。以下の式で正極の孔隙率Pを計算した。P=(V1-V2)/V1×100%、ここで、V1は見かけの体積であり、V1=サンプルの表面積×サンプルの厚さ×サンプルの数量;V2は真の体積である。
【0142】
4.リチウムイオン電池の正極の走査型電子顕微鏡(SEM)測定
リチウムイオン電池が満放電された状態(即ち、カットオフ電圧2.8Vまで放電した状態)にし、電池を分解して正極を得、正極をDMCで洗浄し、真空乾燥させ、そして正極シートの方向に沿って切断し、正極活物質の界面をSEMで測定した。
【0143】
5.リチウムイオン電池のサイクル特性測定
(1)リチウムイオン電池のサイクル特性測定
リチウムイオン電池を45℃の恒温ボックスに入れ、30分間放置してリチウムイオン電池を恒温にした。恒温になったリチウムイオン電池を1Cの定電流にて、電圧が4.2Vになるまで充電し、そして4.2Vの定電圧にて、電流が0.05Cになるまで充電し、次に4Cの定電流にて、電圧が2.8Vになるまで放電し、それを一つの充放電サイクルとした。初回放電容量を100%とし、充放電サイクルを600回繰り返し、試験を停止し、サイクル容量維持率を記録し、それをリチウムイオン電池のサイクル特性を評価するための指標とした。
【0144】
サイクル容量維持率とは、600回サイクルした時の容量を初回放電時の容量で割ったものを指す。
【0145】
サイクルでの厚さの変化とは、600回サイクルした時の電池の厚さから電池の初期の厚さを引いたものを、電池の初期を厚さで割ったものを指す。
【0146】
(2)リチウムイオン電池のサイクル後の高温貯蔵特性測定
電池を1Cの定電流にて、4.2Vまで充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電した。サイクル後の満充電された電池を60℃の恒温ボックスに入れ、30日間貯蔵した後、貯蔵前後の厚さの変化を記録した。
【0147】
厚さの変化=(30日間貯蔵した後の厚さ/初期の厚さ-1)×100%。
【0148】
A.上記した方法で対比例1-1~対比例1-3、及び実施例1-1~実施例1-33のリチウムイオン電池を調製し、リチウムイオン電池のサイクル特性及びサイクル後の高温貯蔵特性を測定した。電池における電解液の添加量の測定結果は表1を参照する。
【表1】
【0149】
実施例1-1~実施例1-5と対比例1-1~1-2との比較から分かるように、電解液に特定の含有量の式Iで示される化合物を添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性を著しく改善することできる。主な原因は、式Iで示される化合物が正極材料の表面に成膜し、副反応の発生を減少させることができると考えられる。
【0150】
実施例1-6~実施例1-14と実施例1-2との比較から分かるように、式Iで示される化合物(例えば化合物1-1、1-2、1-3又は1-4の少なくとも一種)を含有する電解液にさらに特定の量の添加剤A(例えばLiPF)を添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することできる。その改善の原因は、添加剤A(例えばLiPF)は、優先して負極の表面に成膜し、形成された膜の構造を改善し、形成された膜の安定性を高めることで、式Iで示される化合物のサイクルの後期でさらなる役割を果たすのに有利であると考えられる。
【0151】
実施例1-15~実施例1-20と実施例1-9との比較から分かるように、適量の式Iで示される化合物及び添加剤A(例えばLiPF)を含む電解液にさらに特定の量の添加剤Bを添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することできる。実施例1-21と実施例1-2との比較から分かるように、適量の式Iで示される化合物を含む電解液にさらに特定の量の添加剤Bを添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することでき、主な原因は、添加剤Bがフォーメーション段階で負極にて成膜し、負極の界面安定性を高めることができると考えられる。
【0152】
実施例1-22~実施例1-24と実施例1-16との比較から分かるように、適量の式Iで示される化合物、添加剤A及び添加剤Bを含有する電解液にさらに特定の量の式IIで示される化合物を添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することできる。主な原因について、一つは式IIで示される化合物が電解液の粘度を低減したこと、もう一つは、添加剤の組み合わせが正極の表面に形成された膜の構造を改変したこと、それらによって、形成された膜の安定性を向上させることができると考えられる。
【0153】
実施例1-25と実施例1-2との比較から分かるように、液相混合法及びゾルゲル法により変性された正極活物質は性能が近いため、二つの方法も正極活物質の変性用途に適している。
【0154】
実施例1-26、1-27と実施例1-2との比較から分かるように、正極活物質層の圧縮密度を下げることで、サイクル特性及び高温貯蔵特性を改善することできる。それは適宜な圧縮密度が材料の粒子破砕の程度を低減させることができるためである。圧縮密度を高める場合は、逆になる。実際の応用で質量エネルギー密度及び体積エネルギー密度に対する要求を考慮して、圧縮密度<3.6g/cmの方が実際の応用に適している。
【0155】
実施例1-28と実施例1-2との比較から分かるように、正極活物質における第一粒子の比例を制御することで、サイクルの後期で粒子破砕に起因する副反応を緩めることができ、サイクル特性及び高温貯蔵特性の改善に有利である。
【0156】
実施例1-29と実施例1-2との比較から分かるように、LiPOにより変性された正極材料の安定性が向上され、電解液と正極との副反応を効果的に低減させ、電池のサイクル特性を向上させる。
【0157】
実施例1-31及び実施例1-30と実施例1-29との比較から分かるように、正極活物質がLiPOにより変性されていなかった場合に、適量の式Iで示される化合物を含有する電解液にさらに添加剤A(例えばLiPF)及び添加剤Bを添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することできる。
【0158】
実施例1-33及び実施例1-32と実施例1-2との比較から分かるように、正極活物質にさらに元素Qを含むことで、電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することできる。
【0159】
B.上記した方法で対比例2-1~対比例2-4、及び実施例2-1~実施例2-18のリチウムイオン電池を調製し、リチウムイオン電池のサイクル特性及びサイクル後の高温貯蔵特性を測定した。正極活物質、電解液及び測定結果は表2を参照する。正極活物質における第一粒子と第二粒子との横断面積の比例は、第一粒子と第二粒子との質量比を制御することで実現される。
【表2】
【0160】
対比例2-1~対比例2-4と実施例2-1~実施例2-4との比較から分かるように、電池において、LiPOにより変性された様々なニッケルリッチ正極材料と電解液に添加された式Iで示される化合物とが共同に作用することにより、材料の構造を安定化させ、同時に電解液との界面を安定化させ、副反応を低減させることができ、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することができる。さらに、実施例2-5~実施例2-9、実施例2-11~実施例2-13から分かるように、LiPOにより変性された様々なニッケルリッチ正極材料を採用し、且つ電解液に式Iで示される化合物及び添加剤A(例えばLiPO)を添加することで、リチウムイオン電池のサイクル特性及び高温貯蔵特性をさらに改善することができ、その原因は、添加剤Aを入れることで、成膜抵抗を比較的に小さくにし、電池の直流内部抵抗を低減させ、電解液の正極の表面での副反応の発生を低減させることができるためと考えられる。
【0161】
実施例2-15~実施例2-18と実施例1-32との比較から分かるように、正極活物質におけるニッケル含有量が比較的に高い場合、特にニッケルのモル基準の含有量が60%以上である場合、正極材料における第一粒子の数量及び第二粒子の数量が適宜の範囲にあることで、サイクル特性及びガス発生の改善に有利である。
【0162】
いかなる理論にも束縛されたくないが、本発明は、電解液に正極成膜添加剤である式Iで示される化合物(例えば1,3-プロパンスルトン(PS))を添加することで、界面の安定性を改善し、副反応を低減させることができることを見出した。本発明は、また、球形の二次粒子の粒界変性を採用することで、ニッケルリッチ三元系正極材料のサイクル中の粒子破砕を著しく抑制し、材料の構造安定性を改善することができることを見出した。一方、電解液に添加剤A(例えばLiPO)を使用することで、正極に形成された固体電解質界面膜(SEI)に高速イオン伝導効果をもたらし、直流抵抗(DCR)の低減に有利であり、電極の界面に形成された膜における無機成分を増加させ、それにより、界面保護層の安定性を増強させるとともに、正極の界面を保護することもできる。正極材料における比較的に小さい一次粒子は、イオン伝導距離の短縮に有利であり、材料のレート特性を高め、比較的に小さい一次粒子は材料の比表面積を増加し、成膜添加剤の消耗量を増加する。電解液に式IIで示される化合物(例えば、フッ素系溶媒)を添加することで、電解液の安定性を向上させ、溶媒の材料の表面での反応を低減させることができる。正極材料の粒界変性と電解液正極保護添加剤とを組み合わせ、正極材料の粒子サイズと比表面積を制限することで、電池のレート特性を確保すると共に、球状の二次粒子ニッケルリッチ三元系電池系の高温貯蔵、高温サイクルを効果的に改善することができ、高温サイクルでのガス発生という技術的問題を解決することができる。
【0163】
C.正極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)測定
対比例1-1における正極活物質(LiPOにより変性されたLiNi0.84Co0.13Mn0.06)に対して、走査型電子顕微鏡測定を行い、結果を図1に示した。
【0164】
図1の左の画像は正極活物質のSEM画像であり、右の画像は前記SEM画像におけるリン元素の含有量分布図である。右の画像から分かるように、灰色の点状を呈するリン元素は、正極活物質の表面又は粒界のところに分布している。
【0165】
他の実施例では、変性された正極活物質のSEM測定結果は図1と類似している。
【0166】
上述したのは本発明のいくつかの実施例だけであり、本発明へのいかなる形態の制限ではなく、本発明の好ましい実施例が上記に開示されているが、それは本発明を制限するものではない。当業者は、本発明の技術案の範囲から逸脱しない範囲で、上記に開示された技術的内容を利用して行った些かの変更又は修正は、同等の実施案に等しく、いずれも技術案の範囲内にある。
【0167】
明細書全体では、「一部の実施例」、「いくつかの実施例」、「一つの実施例」、「他の例」、「例」、「具体例」、又は「部分例」の引用については、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載の特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の様々な場所に記載された、例えば「一部の実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「他の例において」、「例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明の同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本発明の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、あらゆる好適な形態で組み合わせることができる。例示的な実施例が開示及び説明されているが、当業者は、上述実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができなく、且つ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例を改変、置換及び変更することができること、を理解すべきである。
図1