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特許7311604表面特性が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルム
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  • 特許-表面特性が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルム 図1
  • 特許-表面特性が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】表面特性が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230711BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
H01G4/32 511L
H01G4/32 521G
H01G4/32 551B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021533732
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2019086505
(87)【国際公開番号】W WO2020127862
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】18214699.3
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511114678
【氏名又は名称】ボレアリス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】グローガー ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】ギトサス アントニオス
(72)【発明者】
【氏名】トランチダ ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブス フランシスカス
(72)【発明者】
【氏名】シュタドルバウアー ヴォルフラム
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/064224(WO,A1)
【文献】特表2017-528565(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159044(WO,A1)
【文献】特表2010-501382(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146367(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2418237(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0313865(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/12 - 5/22
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
H01G 4/00 - 4/10
H01G 4/14 - 4/22
H01G 4/224
H01G 4/225 - 4/30
H01G 4/32 - 4/40
H01G 13/00 - 13/06
B29C 55/00 - 55/30
B29C 61/00 - 61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン組成物を含む、連続プロセスで製造するための二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、前記ポリプロピレン組成物は、下記成分(i)及び(ii)を含むか、又は下記成分(i)、(iii)及び(iv)を含み、
(i)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき90~99.9重量%の、93~98%のアイソタクチックペンタッド画分の含有率及び2.16kgの荷重下230℃でISO1133に従って測定される0.4~10g/10分のメルトフローレートMFRを有する、直鎖状プロピレンホモポリマー、
(ii)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤、
(iii)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマー、
(iv)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.00001重量%までのβ核形成剤;
前記フィルムは、連続プロセスにおいて同時に縦方向及び横方向に延伸され、
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムは、本明細書に従って走査型電子顕微鏡法により判断される機械的な不良部位を含まない二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ポリプロピレン組成物が、
(v)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.01~1重量%の従来の添加剤をさらに含み、前記従来の添加剤が、酸化防止剤、安定剤、酸捕捉剤、及びこれらの混合物から選択される請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記ポリプロピレン組成物が30ppm以下の灰分量を有し、かつ/又はTD又はMDのいずれかの延伸比が、少なくとも8.0である請求項1又は請求項2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記ポリマー状α核形成剤が、ポリビニルシクロヘキサン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記β核形成剤が、5,12-ジヒドロ-キノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン、キノ[2,3-b]アクリジン-6,7,13,14(5H,12H)-テトロン、5,6,12,13-テトラヒドロキノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン、及びこれらの混合物からなる群から選択される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
前記フィルムが、前記ポリプロピレン組成物からなる層を含み、かつ/又は前記フィルムが、2~5μmの厚さを有し、かつ/又は前記連続プロセスのスループットが、20kg/h~900kg/hである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
前記フィルムが金属層をも含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの層を含む絶縁フィルムを含むコンデンサ。
【請求項9】
連続プロセスでの二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、
(A)ポリプロピレン組成物を準備する工程であって、前記ポリプロピレン組成物は、下記成分(i)及び(ii)を含むか、又は下記成分(i)、(iii)及び(iv)を含む工程と、
(i)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき90~99.9重量%の、93~98%のアイソタクチックペンタッド画分の含有率及び2.16kgの荷重下230℃でISO1133に従って測定される0.4~10g/10分のメルトフローレートMFRを有する、直鎖状プロピレンホモポリマー、
(ii)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤、
(iii)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマー、
(iv)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.00001重量%までのβ核形成剤;
(B)前記ポリプロピレン組成物をフラットフィルムへと押し出す工程と、
(C)前記フラットフィルムを、連続プロセスで、同時に縦方向及び横方向に配向させて、前記二軸配向ポリプロピレンフィルムを得る工程と、
(D)前記二軸配向ポリプロピレンフィルムを回収する工程と
を含む方法。
【請求項10】
前記ポリプロピレン組成物が、
(v)前記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.01~1重量%の従来の添加剤をさらに含み、前記従来の添加剤が、酸化防止剤、安定剤、酸捕捉剤、及びこれらの混合物から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記連続プロセスのスループットが、20kg/h~900kg/hであり、かつ/又はTD又はMDのいずれかの延伸比が、少なくとも8.0である請求項9又は請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面特性が向上した二軸配向ポリプロピレン(BOPP)フィルム及び本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの層を含む絶縁フィルムを含むコンデンサに向けられる。本発明は、さらに、二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法に向けられる。最後に、本発明は、さらに、コンデンサの絶縁フィルムの層としての本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの使用に向けられる。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、多くの用途で使用され、例えば、フィルムコンデンサの分野で選択される材料である。というのも、その鎖には、電界ストレスのもとで配向する何らの種類の極性基も存在しないからである。種々の電気設備は、インバータを含み、従ってサイズがより小さくキャパシタンスが増強されたコンデンサに対する要求が大きくなっている。市場からのこれらの要求のため、より薄くて機械的特性及び電気特性の両方が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用途の分野で好ましく使用される。
【0003】
コンデンサフィルムは、高温等の過酷な条件に耐える必要があり、高い絶縁破壊電界強度を持つ必要がある。加えて、コンデンサフィルムは、高剛性等の良好な機械的特性及びそれに加えて高動作温度を持つことが認識される。多くのコンデンサフィルムのグレード、つまり溶接、電気自動車、列車、オーブン、風車、ソーラーパネル等の電力用途用のものは、高アイソタクチックポリプロピレン(HIPP)樹脂を使用している。バランスのとれた収縮及び最適化された表面粗さのほかに、高アイソタクチシティに伴う主な利点は、高結晶性、高い融解開始温度及び高いピーク融解温度に関連する最終のフィルムの高耐熱性である。基礎となるポリオレフィン組成物が加えて長鎖分岐ポリプロピレンを含有する、高アイソタクチックポリプロピレン樹脂に基づくコンデンサフィルムグレードもある。
【0004】
絶縁破壊は、絶縁体に印加された電界がその絶縁体の絶縁破壊電界強度を超えるとき、そして電流のスパークが材料を突き抜けて短絡を引き起こすときに起こる。
【0005】
一般に、物理的プロセスとしての絶縁破壊という現象は完全には理解されておらず、絶縁体の構造(モルフォロジー)と誘電体の強度との相関関係も十分には確立されていない。その主な理由は、破壊事象がナノ・ミクロスケールのいくつかの分解プロセスの最終結果であり、これが結果として確率的な挙動を示すという事実に関連していると考えられる。温度、湿度、電極金属、電極の幾何構造(形状、面積)、電圧上昇率、直流または交流の電圧、表面粗さ及び試料の厚さ等の数多くの要因が最終の絶縁破壊強さに影響を及ぼす。さらに、所定の試験について、又は破壊プロセスの所定の進行段階についての多くの要因の相対的な影響に応じて、破壊が、空隙での部分放電、ホットスポット形成による熱的破壊、電気機械的破壊等のいくつかの異なるメカニズムで起こる可能性があるが、これらのメカニズムのうちでただ1つ又はすべてが1つの測定セッションで発生する可能性がある。
【0006】
欧州特許出願公開第2 995 641A1号明細書は、加工性及び耐熱性が向上したポリプロピレン組成物を開示する。このポリプロピレン組成物は、コンデンサフィルム、特にそのポリプロピレン組成物で作製される二軸配向ポリプロピレンフィルムにおいて使用するためのものであり、このポリプロピレン組成物は、高アイソタクチックプロピレンホモポリマー、長鎖分岐ポリプロピレン、及びβ核形成剤を含む。
【0007】
国際公開第2017/064224A1号パンフレットは、コンデンサに好適な電気特性が向上した二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、その基礎となるポリプロピレン組成物がプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー及びポリマー状α核形成剤を含む二軸配向ポリプロピレンフィルムを開示する。
【0008】
二軸配向ポリプロピレン(BOPP)フィルムの表面特性及びコンデンサフィルムとしてのBOPPフィルムの応用に関する学術的研究が行われてきた。
・光学顕微鏡検査法によるBOPP表面構造について、Fujiyama M.ら、Journal of Applied Polymer Science、1988、36、995-1009。
・原子間力顕微鏡法によるBOPP表面構造について、Nie H.Y.、Walzak M.J.、McIntyre N.S、Journal of Material Engineering and Performance、2004、13、451-460。
・逐次モードにおけるBOPP表面ひび割れ過程について、Tamura S.ら、Journal of Applied Polymer Science、2012、124、2725-2735。
・薄膜コンデンサにおけるBOPPの使用について、Nash J.L.、Polymer Engineering and Science、1988、28、826-870。
・薄膜コンデンサにおけるBOPPの使用について、Ho J.、Low T.R.、Boggs S.、IEEE Electrical Insulation Magazine、2010、26、20-26。
【0009】
従って、コンデンサに好適な、表面特性が向上したフィルムを提供する必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許出願公開第2 995 641A1号明細書
【文献】国際公開第2017/064224A1号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Fujiyama M.ら、Journal of Applied Polymer Science、1988、36、995-1009
【文献】Nie H.Y.、Walzak M.J.、McIntyre N.S、Journal of Material Engineering and Performance、2004、13、451-460
【文献】Tamura S.ら、Journal of Applied Polymer Science、2012、124、2725-2735
【文献】Nash J.L.、Polymer Engineering and Science、1988、28、826-870
【文献】Ho J.、Low T.R.、Boggs S.、IEEE Electrical Insulation Magazine、2010、26、20-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえ、表面特性がさらに向上しかつ/又は高スループットを可能にする、コンデンサに好適な二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高アイソタクチックポリプロピレン樹脂と少なくとも1種のさらなる成分とを含むポリプロピレン組成物を含む新規な二軸配向ポリプロピレンフィルムの提供により上記目的が解決できるという知見に基づく。本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、向上した表面特性を有するという利点を有し、すなわち機械的な不良部位がない。
【0014】
従って、1つの態様では、本発明は、ポリプロピレン組成物を含む二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、このポリプロピレン組成物は、
(i)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき90~99.9重量%の、93~98%のアイソタクチックペンタッド画分の含有率及び0.4~10g/10分のメルトフローレートMFRを有するプロピレンのホモポリマーと、
(ii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤
又は
(iii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマー
とを含み、
当該フィルムは、連続プロセスにおいて同時に縦方向及び横方向に延伸され、
当該二軸配向ポリプロピレンフィルムは、好ましくは本明細書に従って走査型電子顕微鏡法により判断される機械的な不良部位を含まず、上記成分(i)と成分(ii)又は成分(iii)とは全体で100重量%になる二軸配向ポリプロピレンフィルムに向けられる。
【0015】
本発明に関する「上記成分(i)と成分(ii)又は成分(iii)とは全体で100重量%になる」は、成分(i)と成分(ii)又は成分(iii)との量が、それらの成分が全体で上記複数の成分又は上記組成物の100重量%になるように、与えられた範囲内で選択されるということを意味してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、縦方向のみに延伸した(延伸比:5.0)2種類のフィルム(上:iHPP/α、下:iHPP-HMS/β)のエアナイフ側表面を、3つの異なる倍率で走査電子顕微鏡法により得た画像を示す。
図2図2は、2つの異なる組成物に基づき、それぞれ逐次プロセスモード(SEQ)及び同時(SIM)で縦方向と横方向に延伸した4種類のフィルムを、エアナイフ側の表面を走査型電子顕微鏡法により得た画像を、それぞれ2つの異なる倍率で示す(各試料につき2つの画像)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
従来のBOPPフィルム製造(逐次的(sequential)という意味で「SEQ」)では、一次キャストシートは、最初に一組の加熱されたロールを使用して一次シートを縦方向(機械方向、流れの方向、MD)に一軸延伸し、次いで、このすでに配向したシートを、オーブンの中に設置されたテンターフレームによって横方向(TD)に2回目の延伸に供するという2工程の延伸プロセスで二軸延伸される。この上記のプロセスは、「テンターフレームプロセス」として一般に知られ、これは、暗黙のうちに上記の逐次的なプロセスモード(「SEQ」)を指す。不十分な熱的活性化と組み合わせてMD延伸時のかなり高い局所的なひずみ速度が与えられるため、MD延伸工程は、ひび割れによる形態的な損傷を生じる(本明細書中の図を参照)。先行技術では、これにより生じた表面特徴は、通常「クレーター」又は「突起」と呼ばれており、すなわち、クレーターの縁に似た円形又は楕円形でBOPPフィルムの表面から突出しているポリプロピレンの小帯である。しかしながら、走査型電子顕微鏡法(SEM)による分析によって、これらの縁の基部に機械的な不良部位、すなわちBOPPフィルムに数百ナノメートル、例えば1μm侵入したひび割れが明らかとなった(本明細書中の図を参照)。
【0018】
BOPPフィルムの表面特性は、コンデンサフィルム(の一部)として使用するためのフィルムの適合性に大きく影響し、すなわち、表面の凹凸が電気的破壊を促すと考えられている。従って、上述のクレーター又は突起の縁の基部にあるひび割れは、絶縁破壊の可能性がある部位であると思われる。
【0019】
上記プロピレンのホモポリマー(i)は、以下では、短くプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーとも呼ばれる。
【0020】
本明細書で使用する場合のプロピレンのホモポリマーという表現は、実質的に、すなわち少なくとも99.5重量%、より好ましくは少なくとも99.8重量%のプロピレン単位からなるポリプロピレンに関する。好ましい実施形態では、このプロピレンのホモポリマー中にプロピレン単位のみが検出可能である。コモノマー含有量は、後述するように、13C NMR分光法を用いて決定することができる。さらに、このプロピレンのホモポリマーは、直鎖状のポリプロピレンであることが理解される。
【0021】
本明細書で使用する場合のプロピレンのホモポリマーという表現は、実質的に、すなわち少なくとも99.5重量%、より好ましくは少なくとも99.8重量%のプロピレン単位からなるポリプロピレンに関する。好ましい実施形態では、このプロピレンのホモポリマー中にプロピレン単位のみが検出可能である。コモノマー含有量は、後述するように、13C NMR分光法を用いて決定することができる。さらに、このプロピレンのホモポリマーは、直鎖状のポリプロピレンであることが理解される。
【0022】
本発明に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、走査型電子顕微鏡法により判断される機械的な不良部位を含まないという特徴は、例えば、「定義/測定方法」で後述するSEMにより観察した本発明に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムの試料に検出可能な機械的な不良がないこと、好ましくは、SEMにより観察した、それぞれが10×9.2~60×55.2μmの面積に対応する、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの冷却ロール(チルロール)側及び/又はエアナイフ側からの少なくとも1つの試料の1つ、好ましくは2つ又は3つ及び/又は4つの画像で、検出可能な機械的な不良がないことを意味し、この際、さらにSEM試料は、「定義/測定方法」で後述するように調製される。本発明に関する機械的な不良部位は、とりわけ、例えば、フィルムの例えばクレーター及び/又は突起のような表面特徴の縁の基部又はエッジにおけるひび割れであってもよい。このようなひび割れは、それによって、例えば、とりわけ数百ナノメートル、例えば1μm、フィルムの中に侵入することがある。
【0023】
当該フィルムは、これにより、例えば2~5、好ましくは2μm超~5μm未満、好ましくは2μm超~4.5μm未満又は3μm~5μm、好ましくは3.5μm~4.5μmの厚さを有してもよい。
【0024】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、上記ポリプロピレン組成物の主要構成成分である。上記ポリプロピレン組成物は、90~99.9重量%、好ましくは95~99.9重量%、より好ましくは98~99.9重量%、特に99~99.9重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を含む。
【0025】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、0.4~10g/10分、好ましくは1~7g/10分のメルトフローレートMFRを有する。余りに低いMFRは、加工性の悪さという結果をもたらす。他方、余りに高いMFRは、二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造プロセスで使用される高温における垂れという結果をもたらす。
【0026】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、93~98%、好ましくは94~98%、例えば95~98%のアイソタクチックペンタッド画分(mmmm画分)の含有率を有する。アイソタクチックペンタッド画分の含有率は、すべてのペンタッドからのmmmmペンタッドの百分率として計算される。余りに低いアイソタクチックペンタッド画分の含有率は、フィルムの最終的な結晶性がかなり低くなり、フィルムの引張特性や弾性率が低下するという結果となる。他方、余りに高いアイソタクチックペンタッド画分の含有率は、縦方向及び/又は横方向にフィルムを配向させる際に、フィルムの破断が頻発する可能性があるという結果を伴う。
【0027】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、特に15ppm以下、例えば10ppm以下の灰分量を有する。余りに高い灰分量は、とりわけ灰分が金属残渣を含有する場合、フィルムの誘電特性に悪影響を及ぼす可能性がある。このようなフィルムは、コンデンサの製造には使用できない。プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)の灰分量は、通常少なくとも1ppmとなる。
【0028】
本発明のフィルムを製造するのに好適なプロピレンホモポリマー、例えばプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を製造するのに特に有効なプロセスが欧州特許出願公開第2543684号明細書に開示されており、その方法では、三塩化チタンを含む固体成分をベースにした触媒が、アルミニウムアルキル、有機エーテル及びアルキルメタクリレートと組み合わせて使用される。
【0029】
その重合は、好都合にはスラリー中で行われる。このようなプロセスでは、触媒、水素及びプロピレンモノマーが、4~15個の炭素原子、好ましくは10~14個の炭素原子を有する1種以上のアルカンを実質的に含む希釈剤中で接触される。「実質的に含む」とは、本明細書中では、希釈剤が、少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%の、このようなアルカンのうちの1種以上を含むことを意味する。
【0030】
重合は、典型的には、50~100℃、好ましくは60~80℃の温度、及び1~50bar、好ましくは3~15barの圧力で行われる。
【0031】
好ましくは、このプロセスは1つ以上の洗浄工程を含む。洗浄は通常、ポリマースラリーを1つ以上の工程で炭化水素希釈剤と接触させることによって行われる。接触工程の後、過剰の希釈剤は、典型的には、例えば、遠心分離によって除去される。好ましくは、ポリマースラリーは、少なくとも2つの工程で炭化水素系希釈剤と接触させられる。洗浄が複数の工程を含む場合、少なくとも1つの工程では、炭化水素希釈剤に加えてアルコール又はエーテルが存在することが好ましい。これにより、ポリマーからの触媒成分の除去が容易になり、それにより灰分量が非常に低いポリマーを得ることができる。
【0032】
ポリマー状α核形成剤
上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢として、ポリマー状α核形成剤(ii)を含む。ポリマー状α核形成剤(ii)は、式CH=CH-CHRのビニル化合物のポリマーであり、式中、R及びRは一緒になって5員若しくは6員の飽和環、不飽和環若しくは芳香環を形成するか、又は独立に1~4個の炭素原子を含むアルキル基を表す。好ましくは、ポリマー状α核形成剤(ii)は、式CH=CH-CHRのビニル化合物のホモポリマーである。
【0033】
上記ポリプロピレン組成物は、0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤(すなわち0.001ppm~10,000ppm)、好ましくは0.000001~0.01重量%(すなわち0.01ppm~100ppm)、とりわけ好ましくは0.000001~0.005重量%(すなわち0.01ppm~50ppm)のポリマー状α核形成剤(ii)を含む。特に、上記ポリプロピレン組成物は、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき、0.000001~0.001重量%(すなわち0.01ppm~10ppm)、さらにより好ましくは0.000001~0.0005重量%(すなわち0.01ppm~5ppm)のポリマー状α核形成剤(ii)を含む。
【0034】
ポリマー状α核形成剤(ii)を上記ポリプロピレン組成物に組み込むための1つの方法は、重合触媒を式CH=CH-CHRのビニル化合物と接触させることによってその触媒を予備重合(プレポリマー化)することを含み、式中、R及びRは一緒になって5員若しくは6員の飽和環、不飽和環若しくは芳香環を形成するか、又は独立に1~4個の炭素原子を含むアルキル基を表す。次いで、そのような予備重合触媒の存在下でプロピレンが重合される。
【0035】
予備重合では、触媒が固体触媒成分1グラムあたり最大5グラムのプレポリマー、好ましくは固体触媒成分1グラムあたり0.1~4グラムのプレポリマーを含むように、触媒が予備重合される。次に、この触媒は、重合条件で式CH=CH-CHRのビニル化合物と接触され、式中、R及びRは上で定義したとおりである。
【0036】
とりわけ好ましくは、R及びRは、ともにメチル基であり、従って上記ビニル化合物は3-メチル-1-ブテンである。
【0037】
とりわけ好ましくは、R及びRは、飽和の5員環又は6員環を形成する。とりわけ好ましくは、上記ビニル化合物はビニルシクロヘキサンである。
【0038】
とりわけ好ましくは、上記触媒は、固体触媒成分1グラムあたり0.5~2グラムの予備重合されたビニル化合物、例えばポリ(ビニルシクロヘキサン)を含有する。
【0039】
とりわけ好ましくは、上記ポリマー状α核形成剤は、ポリビニルシクロヘキサン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0040】
このアプローチは、欧州特許出願公開第607703号明細書、欧州特許出願公開第1028984号明細書、欧州特許出願公開第1028985号明細書及び欧州特許出願公開第1030878号明細書に開示される有核の(核から形成された)ポリプロピレンの調製を可能にする。
【0041】
本発明に係るポリマー状α核形成剤は、プロピレンのポリマーではない。
【0042】
好ましくは、上記予備重合は、不活性な希釈剤中のスラリーの中で20~80℃、好ましくは35~65℃の範囲内の温度で行われる。圧力は特に重要というわけではなく、大気圧~50barから選択されることが可能である。反応時間は、未反応のビニル化合物の量が反応混合物の所定の限界値未満、例えば2000ppm未満、又は1000ppm未満であるように選択される。
【0043】
上記のとおり、重合触媒を予備重合した後、プロピレンがそのような予備重合された触媒の存在下で重合され、このアプローチにより、有核のポリプロピレンを調製することができる。
【0044】
従って、1つの可能な方法によれば、上記ポリプロピレン組成物は、そのような予備重合(プレポリマー化)触媒の存在下でプロピレンを単独重合(ホモポリマー化)することによって製造される。プロピレンホモポリマーは、それによってポリマー状α核形成剤(ii)によって核形成される。その際、上記ポリプロピレン組成物は、そのポリプロピレン組成物の総重量に基づき、0.1~200ppmのポリマー状α核形成剤(ii)、好ましくはポリ(ビニルシクロヘキサン)を含むことが好ましい。その場合に、重合プロセス及び触媒は、好適には上述の通りである。それにより、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、ポリマー状α核形成剤(ii)を含有する触媒上に形成される。
【0045】
あるいは、そしてより好ましくは、上記ポリプロピレン組成物は、上に開示したようなビニル化合物と予備重合していない重合触媒の存在下でプロピレンを単独重合することによって製造され、それによってプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)が生成される。このような場合、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、押出工程の前又は押出工程の時に、さらなるポリマー、つまり、上述のようにビニル化合物と予備重合された触媒の存在下で、プロピレンを単独重合又はプロピレンとコモノマーを共重合することにより製造されたプロピレンホモポリマー又はコポリマー(iii)と組み合わされる。
【0046】
プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー
従って、本発明の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢として、プロピレンのホモポリマー(i)及びポリマー状α核形成剤(ii)に加えて、
(iii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき9.99重量%までの、プロピレンのホモポリマー(i)以外の、すなわちプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)以外のプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー
を含む。
【0047】
プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の量は、通常、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき少なくとも0.01重量%である。
【0048】
上で論じたように、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、典型的には、ポリマー状α核形成剤(ii)のための担体ポリマーとして存在する。プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の重量に基づき、好ましくは、0.5~200ppm、好ましくは0.5~100ppm、より好ましくは1~200ppm、例えば1~100ppmのポリマー状α核形成剤(ii)、好ましくはポリ(ビニルシクロヘキサン)を含む。
【0049】
プロピレンのホモポリマー又はコポリマー(iii)の量は、好ましくは上記ポリプロピレン組成物に基づき0.1~9.99重量%であり、上記ポリプロピレン組成物に基づき好ましくは0.1~5重量%、より好ましくは0.2~4.99重量%、さらにより好ましくは0.2~1.99重量%、特に0.2~0.99重量%である。
【0050】
プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、いずれのプロピレンのホモポリマー又はコポリマーであってもよい。好ましくは、ホモポリマー又はコポリマー(iii)は、相対的に、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)に類似している。従って、ホモポリマー又はコポリマー(iii)がプロピレンのホモポリマーであることが好ましい。さらには、ホモポリマー又はコポリマー(iii)の特性がプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)の特性とは実質的に異なる場合、ホモポリマー又はコポリマー(iii)の量は、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき2重量%を超えないことが好ましい。
【0051】
プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、好ましくは少なくとも0.9の分岐指数gを有する。これにより、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、好ましくは、実質的に長鎖分岐を有さない。とりわけ、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、検出可能な量の長鎖分岐を含まない。
【0052】
上記プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、当該技術分野で公知の方法に従って製造することができる。上記のとおり、1つの方法によれば、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、式CH=CH-CHRのビニル化合物と予備重合されたものである触媒の存在下でプロピレンを単独重合することにより製造され、式中、R及びRは上で定義されたとおりである。このビニル化合物がビニルシクロヘキサンであることが特に好ましい。プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、これにより、ポリマー状α核形成剤(ii)によって核形成される。プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、好ましくは、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の総重量に基づき、0.1~200ppmのポリマー状α核形成剤(ii)、好ましくはポリ(ビニルシクロヘキサン)を含む。
【0053】
本発明の1つの好適な実施形態によれば、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)を製造するための重合プロセス及び触媒は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)について上記したものと同様である。これにより、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、ポリマー状α核形成剤(ii)を含有する触媒上に形成される。
【0054】
本発明のとりわけ好ましい実施形態によれば、プロピレンのホモ又はコポリマー(iii)は、マグネシウム、チタン、塩素を含有する固体成分を含むZiegler-Natta触媒、及びフタル酸エステル、マレイン酸エステル、シトラコン酸エステル等の内部ドナー、及びトリエチルアルミニウム等のアルミニウムアルキル、及びジシクロペンチルジメトキシシラン等のケイ素エーテル等の外部ドナーの存在下で、プロピレンを単独重合するか、又はプロピレンと、エチレン及び4~8個の炭素原子を有するα-オレフィンからなる群から選択される1種以上のコモノマーとを共重合することによって製造される。上記の触媒は、少量の式CH=CH-CHRのビニル化合物、例えばビニルシクロヘキサンと予備重合されたものである。
【0055】
その後、プロピレンは、1つ又は複数の重合工程において、予備重合された触媒の存在下で単独重合又は共重合される。プロピレンの単独重合又は共重合は、当該技術分野で公知の任意の適切な重合プロセス、例えば、スラリー重合、気相重合、又はそれらの組み合わせで行うことができる。
【0056】
ポリマー状α核形成剤(ii)を含有するプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の好適な製造方法は、とりわけ、国際公開第99/24479号パンフレット、国際公開第00/68315号パンフレット、欧州特許出願公開第1801157号明細書、欧州特許出願公開第1801155号明細書及び欧州特許出願公開第1818365号明細書に開示されている。
【0057】
典型的には、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、0.1~200ppmのポリマー状α核形成剤(ii)、好ましくは1~100ppm、より好ましくは5~50ppmのポリマー状α核形成剤(ii)を含有する。この実施形態では、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)がプロピレンホモポリマーであることも好ましく、このプロピレンホモポリマーが、例えば高い百分率、例えば少なくとも96重量%、又は少なくとも97重量%、又は少なくとも98重量%の冷キシレン不溶性材料によって示されるように、比較的高い含有量の上記のアイソタクチック材料を有することがさらに好ましい。
【0058】
分岐プロピレンポリマー
上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢として、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマー(ii)を含む。
【0059】
上記分岐プロピレンポリマーの分岐指数は、通常、少なくとも0.1である。
【0060】
本発明で用いられる「分岐プロピレンポリマー」という用語は、非分岐ポリプロピレン、すなわち直鎖状ポリプロピレンが側鎖を持たないのに対し、ポリプロピレンの骨格が側鎖を持つという点で、直鎖状ポリプロピレンとは異なる分岐ポリプロピレンを指す。側鎖はポリプロピレンのレオロジーに大きな影響を与える。従って、直鎖状ポリプロピレンと分岐ポリプロピレンとは、応力下での流動挙動によって明確に区別することができる。
【0061】
分岐指数g’は、分岐度を規定し、ポリマーの枝の量と相間する。分岐指数g’は、以下のように定義される。
g’=[IV]br/[IV]lin
式中、g’は分岐プロピレンポリマーの分岐指数であり、[IV]brは分岐プロピレンポリマーの固有粘度であり、[IV]linは分岐プロピレンポリマーと同一の重量平均分子量(±10%の範囲内)を有する直鎖状ポリプロピレンの固有粘度である。これにより、g’値が低いことは、高度に分岐したポリマーの指標である。換言すれば、g’値が低下すれば、ポリプロピレンの分岐が増大する。これに関して、B.H.Zimm及びW.H.Stockmeyer、J.Chem.Phys. 17、1301(1949)を参照されたい。分岐指数g’を決定するために必要な固有粘度は、DIN ISO 1628/1、1999年10月(デカリン中135℃)に基づいて測定される。
【0062】
分岐は、特定の触媒、すなわち特定のシングルサイト触媒を使用することによって、又は化学変性によって達成することができる。特定の触媒を使用して得られる分岐プロピレンポリマーの調製に関しては、欧州特許出願公開第1 892 264号明細書を参照されたい。化学変性によって得られる分岐プロピレンポリマーに関しては、欧州特許出願公開第0 879 830A1号明細書が参照される。このような場合、分岐プロピレンポリマーは、高溶融強度ポリプロピレンとも呼ばれる。本発明に係る分岐プロピレンポリマーは、以下に詳述するように化学変性によって得られ、従って高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)である。従って、本発明において、「分岐プロピレンポリマー」及び「高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)」という用語は、同義語とみなすことができる。適宜調製された分岐プロピレンポリマーは、長鎖分岐プロピレンポリマーとしても知られている。
【0063】
それゆえ、得られるポリプロピレン組成物に良好な歪み硬化効果を与えるために、本発明の分岐プロピレンポリマー、すなわち高溶融強度ポリプロピレン(HMS-PP)は、15.0cN超のF30溶融強度及び200mm/s超のv30溶融伸展性を有し、好ましくは15.0~50.0cN、より好ましくは20.0~45.0cN、例えば25.0~40.0cNの範囲のF30溶融強度、及び200~300mm/s、好ましくは215~285mm/s、より好ましくは235~275mm/sの範囲のv30溶融伸展性を有する。F30溶融強度及びv30溶融伸展性は、ISO 16790:2005に従って測定される。
【0064】
分岐プロピレンポリマーは、任意の数のプロセスによって製造することができ、例えば、未変性プロピレンポリマーを熱分解性ラジカル形成剤で処理すること、及び/又は電離放射線で処理することによって製造することができ、この両方の処理には、任意に、二官能性又は多官能性エチレン性不飽和モノマー、例えばブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン、ジビニルベンゼン又はトリビニルベンゼンでの処理が伴ってもよく、又は後続してもよい。
【0065】
本明細書で使用する場合の「二官能性エチレン性不飽和」は、例えばジビニルベンゼン又はシクロペンタジエンのように、2つの非芳香族二重結合が存在することを意味する。フリーラジカルの助けを借りて重合することができるこのような二官能性エチレン性不飽和化合物だけが使用される。二官能性不飽和モノマーは、化学的に結合した状態では実際には「不飽和」ではないが、これは2つの二重結合がそれぞれ直鎖状ポリプロピレンのポリマー鎖への共有結合で使用されているためである。
【0066】
分岐プロピレンポリマーの例は、特に、
・溶融状態でのビスマレイミド化合物との反応により変性されたポリプロピレン(欧州特許出願公開第0 574 801号明細書及び欧州特許出願公開第0 574 804号明細書)
・電離放射線を用いた処理により変性されたポリプロピレン(欧州特許出願公開第0 190 889A2号明細書)
・固相での(欧州特許出願公開第0 384 431A2号明細書)又は溶融状態での(欧州特許出願公開第0 142 724A2号明細書)過酸化物を用いた処理により変性されたポリプロピレン、
・電離放射線の作用のもとでの二官能性エチレン性不飽和モノマーを用いた処理により変性されたポリプロピレン(欧州特許出願公開第0 678 527号明細書)、
・溶融状態での、過酸化物の存在下での二官能性エチレン性不飽和モノマーを用いた処理により変性されたポリプロピレン(欧州特許出願公開第0 688 817号明細書及び欧州特許出願公開第0 450 342号明細書)
である。
【0067】
上記のリストから、過酸化物を用いた処理により、とりわけその後に二官能性エチレン性不飽和モノマーを用いた処理が続くときに得られる、分岐プロピレンポリマーが好ましい。
【0068】
好ましい分岐プロピレンポリマーは、直鎖状ポリプロピレンを、0.01~3重量%のポリプロピレンの溶融条件下で熱分解可能な有機過酸化物と混合し、その混合物を加熱溶融することによって得られる。
【0069】
さらに好ましい分岐プロピレンポリマーは、直鎖状ポリプロピレンを、0.01~3重量%のポリプロピレンの溶融条件下で熱分解可能な有機過酸化物、及び0.2~3重量%の二官能性エチレン性不飽和モノマーと混合し、その混合物を加熱溶融することによって得られる。
【0070】
二官能性エチレン性不飽和モノマーは、直鎖状ポリプロピレン/過酸化物混合物を加熱溶融する前又は加熱溶融の途中の任意のタイミングで添加されてもよい。また、二官能性モノマーは、過酸化物と混合する前に、直鎖状ポリプロピレンに添加してもよい。
【0071】
好ましい実施形態によれば、二官能性モノマーは、ポリプロピレン(なお固体である)に吸収された気体又は液体の状態にある。
【0072】
好ましい方法によれば、分岐プロピレンポリマーは、粒子状の直鎖状プロピレンポリマーを、直鎖状プロピレンポリマーを基準にして0.05~3重量%のポリプロピレンの溶融条件下で熱分解可能な有機過酸化物(アシル過酸化物、アルキル過酸化物、過酸エステル及び/又はペルオキシカーボネート)と混合することによって調製される。過酸化物は、任意に不活性溶媒に溶媒和されていてもよい。混合は、30~100℃、好ましくは60~90℃の温度で行われる。
【0073】
過酸化物(複数可)との混合に続いて、ポリプロピレン/過酸化物の混合物は、二官能性エチレン性不飽和モノマー(複数可)と接触される。この二官能性モノマーは、気体又は液体の状態であってよく、純粋又は希釈された状態、例えば不活性ガスで希釈された状態、又は有機溶媒に溶媒和された状態で付与されてもよい。二官能性モノマーは、20~120℃、好ましくは60~100℃の温度で粒子状ポリプロピレンに吸収させる。実用的な吸着時間は10~1000秒であり、60~600秒が好ましい。これにより、典型的には、二官能性モノマーの吸収量は、直鎖状プロピレンポリマーに基づき0.01~10重量%、それぞれ0.05~2重量%となる。
【0074】
次に、ポリプロピレン/過酸化物/モノマーの混合物は、不活性ガス、例えばN、及び/又は二官能性モノマーを含む雰囲気中で、吸着温度から210℃まで加熱溶融される。これにより、過酸化物が分解してプロピレンポリマー鎖にフリーラジカルが発生し、これが二官能性モノマーと反応する。
【0075】
この溶融物は、未反応のモノマー及び分解生成物を除去するために280℃まで加熱され、最後にこの溶融物はペレット化される。
【0076】
上記直鎖状ポリプロピレンは、プロピレンホモポリマー、プロピレンとエチレン及び/又は4~18個の炭素原子を有するα-オレフィンとのコポリマー、並びにこのようなホモポリマー及びコポリマーの混合物を含む。本発明の好ましい実施形態によれば、分岐プロピレンポリマーは、低灰分量、好ましくは60ppm未満の灰分量を有するプロピレンホモポリマーに基づいて調製される。
【0077】
本発明のなおさらに好ましい実施形態によれば、分岐プロピレンポリマー(ii)は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)であって、直鎖状であるプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーのようなプロピレンの高アイソタクチックホモポリマーに基づいて調製される。
【0078】
粒子状の直鎖状プロピレンポリマーは、粉末、顆粒又は粗粒子の形状を有してもよい。
【0079】
上述のプロセスは、好ましくは、連続的な反応器、混合機、ニーダー及び押出機で行われる連続的な方法である。しかし、変性プロピレンポリマーの回分式(バッチ式)の製造も同様に実行可能である。
【0080】
好ましくは、二官能性モノマーは、気相から直鎖状プロピレンポリマーによって吸収される。
【0081】
二官能性エチレン性不飽和モノマーは、好ましくは、C~C10ジエン及び/又はC~C10ジビニル化合物である。とりわけ好ましいのは、ブタジエン、イソプレン、ジメチル-ブタジエン又はジビニルベンゼンである。
【0082】
以下の過酸化物は上記のプロセスに好適である。
・アシル過酸化物、例えばジベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、4-クロロベンゾイルペルオキシド、3-メトキシベンゾイルペルオキシド及びメチルベンゾイルペルオキシド、
・アルキル過酸化物、例えばアリルtert-ブチルペルオキシド、2,2-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、ジ-tert-アミルペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ジイソプロピルアミノメチル tert-アミルペルオキシド、ジメチルアミノメチル tert-アミルペルオキシド、ジエチルアミノメチル tert-ブチルペルオキシド、ジメチルアミノメチル tert-ブチルペルオキシド、1,1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、2,2-ジ(4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、tert-ブチルペルオキシド及び1-ヒドロキシブチル n-ブチルペルオキシド、
・過酸エステル及びペルオキシカーボネート、例えば、ペルオキシ酢酸tert-ブチル、ペルオキシジエチル酢酸tert-ブチル、過酢酸クミル、過プロピオン酸クミル、過酢酸シクロヘキシル、過アジピン酸ジ-tert-ブチル、過アゼライン酸ジ-tert-ブチル、過グルタル酸ジ-tert-ブチル、過フタル酸ジ-tert-ブチル、過セバシン酸ジ-tert-ブチル、過プロピオン酸4-ニトロクミル、過安息香酸1-フェニルエチル、ニトロ過安息香酸フェニルエチル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン過カルボン酸tert-ブチル、過4-カルボメトキシ酪酸tert-ブチル、tert-アミルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸tert-アミル、シクロブタン過カルボン酸tert-ブチル、1,4-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボ)シクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、シクロヘキシルペルオキシカルボン酸tert-ブチル、シクロペンチル過カルボン酸tert-ブチル、シクロプロパン過カルボン酸tert-ブチル、過ジメチルケイ皮酸tert-ブチル、2-(2,2-ジフェニルビニル)過安息香酸tert-ブチル、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸tert-ブチル、ペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサン酸tert-ブチル、4-メトキシ過安息香酸tert-ブチル、ペルオキシ安息香酸tert-ブチル、過ナフトエ酸tert-ブチル、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、過トルイル酸tert-ブチル、1-フェニルシクロプロピル過カルボン酸tert-ブチル、2-プロピルパーペンテン-2-酸tert-ブチル、1-メチルシクロプロピル過カルボン酸tert-ブチル、4-ニトロフェニル過酢酸tert-ブチル、tert-ブチルニトロフェニルペルオキシカルバメート、N-スクシンイミド過カルボン酸tert-ブチル、過クロトン酸tert-ブチル、過マレイン酸tert-ブチル、過メタクリル酸tert-ブチル、過オクタン酸tert-ブチル、ペルオキシイソ酪酸tert-ブチル、過アクリル酸tert-ブチル、過プロピオン酸tert-ブチル、並びに
これらの過酸化物の混合物。
【0083】
特に好ましいのは、ジベンゾイルペルオキシド、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸tert-ブチル、ペルオキシ-2-エチルヘキサン酸tert-アミル、ペルオキシジエチル酢酸tert-ブチル、1,4-ジ(tert-ブチルペルオキシカルボ)シクロヘキサン、ペルオキシイソ酪酸tert-ブチル、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチル-シクロヘキサン、メチルイソブチルケトンペルオキシド、2,2-ジ(4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサン酸tert-ブチル、tert-アミルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、2,2-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ブタン、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、過酢酸tert-ブチル、ペルオキシ安息香酸tert-ブチル、ジ-tert-アミルペルオキシド及びこれらの混合物である。
【0084】
これらの過酸化物は、その作用機序がポリマー鎖長低下性の分解(これは、この例では望ましくない)と、所望の長鎖分岐との間の妥協点であることが認められたため、好ましい。
【0085】
β核形成剤
本発明の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢として、プロピレンのホモポリマー(i)及び分岐プロピレンポリマー(ii)に加えて、
(iii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.00001重量%までのβ核形成剤
を含む。
【0086】
β核形成剤(iii)の量は、通常、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき少なくとも0.0000001重量%である。
【0087】
「β核形成剤」という用語は、プロピレンポリマーの六方晶変態又は擬六方晶変態の結晶化を誘導するのに適した任意の核形成剤を指す。このような核形成剤の混合物が採用されてもよい。
【0088】
好適な種類のβ核形成剤は、
~C-シクロアルキルモノアミン又はC~C12-芳香族モノアミンと、C~C-脂肪族ジカルボン酸、C~C-脂環式ジカルボン酸又はC~C12-芳香族ジカルボン酸とに由来するジカルボン酸誘導体型のジアミド化合物、例えば
N,N’-ジ-C~C-シクロアルキル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド化合物、例えば
N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、及び
N,N’-ジシクロオクチル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、
N,N’-ジ-C~C-シクロアルキル-4,4-ビフェニルジカルボキシアミド化合物、例えば
N,N’-ジシクロヘキシル-4,4-ビフェニルジカルボキシアミド、及び
N,N’-ジシクロペンチル-4,4-ビフェニルジカルボキシアミド、
N,N’-ジ-C~C-シクロアルキル-テレフタルアミド化合物、例えば
N,N’-ジシクロヘキシルテレフタルアミド及びN,N’-ジシクロペンチルテレフタルアミド、
N,N’-ジ-C~C-シクロアルキル-1,4-シクロヘキサンジカルボキシアミド化合物、例えば
N,N’-ジシクロ-ヘキシル-1,4-シクロヘキサンジカルボキシアミド、及び
N,N’-ジシクロヘキシル-1,4-シクロペンタンジカルボキシアミド、
~C-シクロアルキルモノカルボン酸又はC~C12-芳香族モノカルボン酸と、C~C-脂環式ジアミン又はC~C12-芳香族ジアミンとに由来するジアミン誘導体型のジアミド化合物、例えば
N,N’-C~C12-アリーレン-ビス-ベンズアミド化合物、例えば
N,N’-p-フェニレン-ビス-ベンズアミド及びN,N’-1,5-ナフタレン-ビス-ベンズアミド、
N,N’-C~C-シクロアルキル-ビス-ベンズアミド化合物、例えば
N,N’-1,4-シクロペンタン-ビス-ベンズアミド及びN,N’-1,4-シクロヘキサン-ビス-ベンズアミド、
N,N’-p-C~C12-アリーレン-ビス-C~C-シクロアルキルカルボキシアミド化合物、例えば
N,N’-1,5-ナフタレン-ビス-シクロヘキサンカルボキシアミド、及び
N,N’-1,4-フェニレン-ビス-シクロヘキサンカルボキシアミド、並びに
N,N’-C~C-シクロアルキル-ビス-シクロヘキサンカルボキシアミド化合物、例えば
N,N’-1,4-シクロペンタン-ビス-シクロヘキサンカルボキシアミド、及び
N,N’-1,4-シクロヘキサン-ビス-シクロヘキサンカルボキシアミド、
~C-アルキルアミノ酸、C~C-シクロアルキルアミノ酸又はC~C12-アリールアミノ酸、C~C-アルキルモノカルボン酸塩化物、C~C-シクロアルキルモノカルボン酸塩化物又はC~C12-芳香族モノカルボン酸塩化物と、C~C-アルキルモノアミン、C~C-シクロアルキルモノアミン又はC~C12-芳香族モノアミンとのアミド化反応に由来するアミノ酸誘導体型のジアミド化合物、例えば
N-フェニル-5-(N-ベンゾイルアミノ)ペンタンアミド、及び
N-シクロヘキシル-4-(N-シクロヘキシル-カルボニルアミノ)ベンズアミド
である。
【0089】
さらに好適なβ核形成剤は、
キナクリドン型化合物、例えば
5,12-ジヒドロ-キノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(すなわちキナクリドン)、ジメチルキナクリドン及びジメトキシキナクリドン、
キナクリドンキノン型化合物、例えば
キノ[2,3-b]アクリジン-6,7,13,14(5H,12H)-テトロン(すなわちキナクリドンキノン)、及びジメトキシキナクリドンキノン及びジヒドロキナクリドン型化合物、例えば5,6,12,13-テトラヒドロキノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(すなわちジヒドロキナクリドン)、ジメトキシジヒドロキナクリドン及びジベンゾジヒドロキナクリドン
である。
【0090】
なおさらに好適なβ核形成剤は、周期表の第IIa族の金属のジカルボン酸塩、例えばピメリン酸カルシウム塩及びスベリン酸カルシウム塩;並びにジカルボン酸及び周期表の第IIa族の金属の塩の混合物である。
【0091】
なおさらに好適なβ核形成剤は、周期表の第IIa族の金属と下式のイミド酸との塩であり、
【化1】
上記式中、xは0~4であり、RはH、-COOH、C~C12-アルキル、C~C-シクロアルキル又はC~C12-アリールであり、YはC~C12-アルキル、C~C-シクロアルキル又はC~C12-アリール-置換された二価のC~C12-芳香族残基であり、例えば
フタロイルグリシン、ヘキサヒドロフタロイルグリシン、N-フタロイルアラニン、フタルイミドアセテート及び/又はN-4-メチルフタロイルグリシンのカルシウム塩である。
【0092】
好ましいβ核形成剤は、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド、欧州特許出願公開第177961号明細書のβ核形成剤及び欧州特許出願公開第682066号明細書のβ核形成剤のいずれか1種又は混合物である。
【0093】
特に好ましいβ核形成剤は、
5,12-ジヒドロ-キノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(CAS 1047-16-1)(すなわちキナクリドン)、キノ[2,3-b]アクリジン-6,7,13,14(5H,12H)-テトロン(CAS 1503-48-6)(すなわちキナクリドンキノン)、5,6,12,13-テトラヒドロキノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(CAS 5862-38-4)(すなわちジヒドロキナクリドン)、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキシアミド(CAS 153250-52-3)及び少なくとも7個の炭素原子を有するジカルボン酸と周期表の第IIa族の金属との塩、好ましくはピメリン酸カルシウム塩(CAS 19455-79-9)
のいずれか1つ又は混合物である。
【0094】
さらにより好ましいβ核形成剤は、5,12-ジヒドロ-キノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(CAS 1047-16-1)、キノ[2,3-b]アクリジン-6,7,13,14(5H,12H)-テトロン(CAS 1503-48-6)及び5,6,12,13-テトラヒドロキノ[2,3-b]アクリジン-7,14-ジオン(CAS 5862-38-4)の混合物であり、これはBASF(ビーエーエスエフ)からCinquasia Gold YT-923-Dとして市販されている。
【0095】
このβ核形成剤は、非常に高い活性を特徴とする。Cinquasia Gold YT-923-Dは、非常に高い活性を有して非常に安価であるため、β核形成剤として好ましい。
【0096】
従来の添加剤
本発明の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、
(iv)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.01~1重量%、好ましくは0.05~0.8重量%の従来の添加剤
をさらに含む。
【0097】
従って、上記ポリプロピレン組成物は、好ましくは1種以上の従来の添加剤(iv)を含む。本発明に従って使用される従来の添加剤(iv)は、好ましくは酸化防止剤、安定剤、酸捕捉剤、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0098】
本発明に係るプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)は、93~98%のアイソタクチシティを有する。とりわけ95~98%のアイソタクチシティを有するプロピレンのホモポリマーがフィルムの製造において使用されるとき、そのポリマーは、90~94%のアイソタクチシティを有する従来のプロピレンのホモポリマーよりも分解を受けやすいということが見出された。それゆえ、より効果的な安定化は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)にとって好ましい。
【0099】
本発明で使用される酸化防止剤及び安定剤は、好ましくはヒンダードフェノールの群から、より好ましくはリン又は硫黄を含有しないヒンダードフェノールの群から選択される。
【0100】
本発明で使用される酸化防止剤及び安定剤は、とりわけ好ましくは、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(Irganox 1330、Anox 330、Ethanox 330及びKinox-30の商標名で販売されている)、ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート(Irganox 1010、Anox 20、Ethanox 310TF及びKinox-10の商標名で販売されている)、3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル(Irganox 1076、Anox PP 18及びKinox-16の商標名で販売されている)、ブチルヒドロキシトルエン(Ionol CP及びVulkanox BHTの商標名で販売されている)、1,3,5-トリス(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート(Irganox 3114、Anox IC-14、Ethanox 314及びKinox-34の商標名で販売されている)、並びに2,5,7,8-テトラメチル-2(4’,8’,12’-トリメチルトリデシル)クロマン-6-オール(Irganox E 210及びα-トコフェロールの商標名で販売されている)からなる群から選択される1種以上の化合物である。
【0101】
上記酸化防止剤及び安定剤は、好ましくは、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき500~8000ppmの全量で存在する。より好ましくは、酸化防止剤及び安定剤は、上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき800~7000ppm、さらにより好ましくは1000~6000ppm、特に1500~6000ppmの全量で存在する。
【0102】
特に、酸化防止剤及び安定剤は、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリンを含有する二次酸化防止剤を含まないことが好ましい。なぜなら、このような化合物は、最終的なコンデンサにおける散逸を増加させるからである。
【0103】
酸捕捉剤は、典型的には、ステアリン酸塩のような有機酸の塩である。これらの化合物は、ポリマー中の酸を中和する機能を有する。このような化合物の例は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛である。酸捕捉剤は、通常、50ppm~2000ppm、より好ましくは50ppm~1000ppmの量で使用される。
【0104】
ポリプロピレン組成物
上記ポリプロピレン組成物は、90~99.9重量%、好ましくは93~99.9重量%、より好ましくは95~99.9重量%、特に99~99.9重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を含む。
【0105】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)に加えて、上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢によれば、
0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤(ii)、及び好ましくは0.01~1.0重量%の従来の添加剤(iv)
を含む。
【0106】
任意に、そして好ましくは、この選択肢によれば、上記ポリプロピレン組成物は、9.99重量%までの、(i)以外のプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)を含む。存在する場合、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は、好ましくは、プロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の重量に基づき、0.1~200ppm、好ましくは0.5~100ppm、特に1~50ppmの量の上記ポリマー状α核形成剤を含む。その場合、ポリマー状α核形成剤(ii)を含有するプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の量は、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%、特に0.1~1重量%である。
【0107】
好ましくは、この選択肢によれば、上記ポリプロピレン組成物は、直鎖状ポリプロピレンのみを含む。これにより、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)及びプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)は長鎖分岐を含まない。さらには、これに関して、好ましくは、長鎖分岐を含むさらなるポリマーは、上記ポリプロピレン組成物に添加されない。
【0108】
好ましくは、この選択肢によれば、上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)及びポリマー状α核形成剤(ii)からなるか、又は上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、ポリマー状α核形成剤(ii)、及び従来の添加剤(iv)からなるか、又は上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、ポリマー状α核形成剤(ii)、プロピレンホモポリマー若しくはプロピレンコポリマー(iii)、及び従来の添加剤(iv)からなり、いずれの場合も上記された量で用いられる。
【0109】
この選択肢のとりわけ好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、95~99.9重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、0.1~5重量%のプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)であって、そのプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の重量の0.5~100ppmの量のポリマー状α核形成剤(ii)を含有するプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)、及び0.05~0.8重量%の従来の添加剤(iv)を含み、好ましくはこれらからなる。
【0110】
この選択肢のさらにより好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、98.2~99.8重量%のプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、0.1~1重量%のプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)であって、そのプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)の重量の0.5~100ppm、又はより好ましくは1~50ppmの量のポリマー状α核形成剤(ii)を含有するプロピレンホモポリマー又はプロピレンコポリマー(iii)、及び0.1~0.8重量%の従来の添加剤(iv)を含み、好ましくはそれらからなる。
【0111】
プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)に加えて、上記ポリプロピレン組成物は、1つの選択肢によれば、
0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマー(ii)、及び好ましくは0.01~1.0重量%の従来の添加剤(iv)
を含む。
【0112】
任意に、そして好ましくは、この選択肢によれば、上記ポリプロピレン組成物は、0.00001重量%までのβ核形成剤(iii)を含む。
【0113】
好ましくは、この選択肢によれば、上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)及び分岐プロピレンポリマー(ii)からなるか、又は上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、分岐プロピレンポリマー(ii)、及び従来の添加剤(iv)からなるか、又は上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、分岐プロピレンポリマー(ii)、β核形成剤(iii)、及び従来の添加剤(iv)からなり、いずれの場合も上記された量で用いられる。
【0114】
上記ポリプロピレン組成物は、0.5~10g/10分、好ましくは1~7g/10分のメルトフローレートMFRを有することが好ましい。
【0115】
二軸配向ポリプロピレン(BOPP)フィルム
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、走査型電子顕微鏡法により判断される機械的な不良部位を含まない。
【0116】
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、詳細に上記されたポリプロピレン組成物を含み、すなわち、本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、詳細に上記されたポリプロピレン組成物を含む少なくとも1つの層を含み、かつ/又は本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、同時に縦方向及び横方向に延伸される。加えて、当該フィルムは、当該フィルムが金属化(金属コーティング)される場合の金属層など、さらなる層も含んでよい。
【0117】
好ましくは、上記ポリプロピレン組成物を含む層は、フィルム層の総重量に基づき90~100重量%の上記ポリプロピレン組成物を含有する。より好ましくは、上記層は、95~100重量%、さらにより好ましくは98~100重量%、例えば99~100重量%の上記ポリプロピレン組成物を含有する。とりわけ好ましくは、このフィルム層は、上記ポリプロピレン組成物からなる。
【0118】
上記のとおり、上記フィルムは追加の層を含んでいてもよい。従って、上記フィルムが、例えば、プロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)を含む別の層を含むことも可能である。当該フィルムは、金属層も含んでよい。金属層は、とりわけフィルムがコンデンサの製造に使用される場合に存在する。
【0119】
最終的な追加のポリマー層は、当該技術分野で公知の任意の手段によって製造されてもよい。従って、それらは、本発明に係るフィルム層と共押出してもよく、好ましくは共押出しされる。あるいは、それらを積層してフィルム構造を形成してもよい。
【0120】
当該フィルムは、金属層も含んでもよく、好ましくは含む。この金属層は、電気製錬真空蒸着法、イオンビーム真空蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法等、当該技術分野で公知の任意の方法でフィルム表面に堆積させることができる。このような金属層の厚さは、典型的には100Å(0.01μm)から5000Å(0.5μm)である。
【0121】
BOPPフィルムの厚さは、典型的には、0.5~10μm又は1~10μm、好ましくは1~6μm、例えば1~3μmである。
【0122】
好ましくは、本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを同時に縦方向及び横方向に配向させることにより得られてもよく、より好ましくは、フィルムを縦方向及び横方向に同時に配向させて当該二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることは、連続プロセスで行われる。
【0123】
本発明に係るBOPPフィルムは、より詳細に後述されるプロセスにより調製することができる。
【0124】
コンデンサ
本発明は、さらなる態様によれば、詳細に上記された二軸配向ポリプロピレンフィルムの層を含む絶縁フィルムを含むコンデンサに向けられる。
【0125】
二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法
本発明は、さらなる態様によれば、連続プロセスでの二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法であって、
(A)ポリプロピレン組成物を準備する工程であって、このポリプロピレン組成物は、
(i)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき90~99.9重量%の、93~98%のアイソタクチックペンタッド画分の含有率及び0.4~10g/10分のメルトフローレートMFRを有するプロピレンのホモポリマーと、
(ii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤、
又は
(ii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマーと
を含む工程と、
(B)上記ポリプロピレン組成物をフラットフィルムへと押し出す工程と、
(C)上記フラットフィルムを、連続プロセスで、同時に縦方向及び横方向に配向させて、上記二軸配向ポリプロピレンフィルムを得る工程と、
(D)上記二軸配向ポリプロピレンフィルムを回収する工程と
を含む方法に向けられる。
【0126】
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、プロピレンのホモポリマー(i)に加えて
(ii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.0000001~1重量%のポリマー状α核形成剤と、
(iii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき9.99重量%までの、上記プロピレンのホモポリマー(i)以外のプロピレンホモポリマー若しくはプロピレンコポリマー
又は
(ii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.1~9.99重量%の、0.9以下の分岐指数g’を有する分岐プロピレンポリマーと、
(iii)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.00001重量%までのβ核形成剤と
を含む。
【0127】
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法の好ましい実施形態によれば、上記ポリプロピレン組成物は、
(iv)上記ポリプロピレン組成物の総重量に基づき0.01~1重量%の従来の添加剤
をさらに含む。
【0128】
上記ポリプロピレン組成物及びその(任意の)成分、すなわちプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、ポリマー状α核形成剤(ii)、プロピレンホモポリマー若しくはプロピレンコポリマー(iii)、及び従来の添加剤(iv)、又はプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー(i)、分岐プロピレンポリマー(ii)、β核形成剤(iii)、及び従来の添加剤(iv)のいずれかに関しては、上記ポリプロピレン組成物を含む二軸配向ポリプロピレンフィルムに向けられる本発明の態様に関連してこれまでに提供された詳細な説明が参照される。
【0129】
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法の好ましい実施形態によれば、当該二軸配向ポリプロピレンフィルムを得るためのフラットフィルムの縦方向及び横方向への同時配向は、連続プロセスで行われ、好ましくは20kg/h~900kg/h、さらに好ましくは25kg/h超~500kg/hのスループットで行われる。本発明に係る連続プロセスは、それによって、適切に稼働しているときに中断することなく製品を生産し、かつ/又は、バッチ式で製品を生産しない任意のプロセスであってもよい。本発明に関する連続プロセスは、従って、とりわけバッチプロセスに対抗するものと見なすことができる(バッチプロセスの例は、それによって、とりわけBrueckner Karo IVlaboratory stretcherを用いて実施されるプロセスであってもよい)。
【0130】
本発明に係る二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法の好ましい実施形態によれば、当該二軸配向ポリプロピレンフィルムは、走査型電子顕微鏡法により判断される機械的な不良部位を含まない。
【0131】
一つの好適な方法によれば、上記ポリプロピレン組成物をフラットダイを通して押し出すことによって無配向フィルムが得られ、この押出成形品が回収され、回転する冷却ロールで冷却されてフィルムが固化する。
【0132】
冷却ロールは、無延伸フィルムをオーブン内に設置されたテンターフレームに連続的に搬送する。テンターフレームは、リニアモーターシステムによって駆動される、クリップが縦方向に移動する2本のレールで実現されている。オーブンの入口から出口までの2本のレールは、平行、発散、わずかに収束するように相互に配置されており、予熱、延伸、緩和(弛緩)ゾーンを形成している。無配向キャストフィルムの二軸延伸は、無配向キャストフィルムをテンターの予熱ゾーンに送り込み、その予熱ゾーンでは、入口でクランプが無配向キャストフィルムの両側を掴むことで実現される。クランプの移動方向は押し出し方向、すなわち縦方向(MD)であり、MDにおけるクリップ間の距離は予熱ゾーンでは一定である。延伸ゾーンのレール間距離は、無配向キャストフィルムの横方向(TD)の延伸を達成するために、予熱ゾーンに比べて増加する。同時に、無配向キャストフィルムをTDに配向させながらMDの延伸を達成するために、クリップ間距離はMDで増加する。MD×TDの延伸比は、6.0×6.0、6.5×6.5等とすることができ、代表的なものは6.5×6.2~6.5×8.5である。好ましくは、TD又はMDのいずれかの延伸比は、例えば少なくとも8.0、好ましくは8.0超~20.0、さらに好ましくは9.0~15.0であってもよい。
【0133】
例えば、溶融物は、まずダイを通って冷却ロールに押し出される。冷却ロールの表面温度は10~100℃、好ましくは20~98℃に保持される。シートの厚さは50~1000μm、好ましくは100~500μmである
【0134】
その後、このフィルムは、テンターフレームに通され、上記のとおり延伸される。テンターオーブン温度は、160~175℃の温度に設定される。
【0135】
二軸配向フィルムがマンドレルに集められる前に、その二軸配向フィルムは両側でトリミングされて、クリップがフィルムを保持した場所である無配向のエッジが取り除かれる。
【0136】
コンデンサの絶縁フィルムの層としてのBOPPフィルムの使用
本発明は、さらなる態様によれば、コンデンサの絶縁フィルムの層としての詳細に上記された本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの使用に向けられる。
【0137】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの特に良好な表面特性は、特定のポリプロピレン組成物と、好ましくは連続プロセスで行われるフィルムの同時配向の結果であると考えられる。
【0138】
以下では、本発明が実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0139】
1. 定義/測定方法
以下の用語の定義及び測定方法は、特に定義されていない限り、本発明の上記の一般的な説明及び以下の実施例に適用される。
【0140】
メルトフローレート
メルトフローレートMFRは、ISO 1133に従って230℃で2.16kgの荷重下で測定した。
【0141】
NMR分光法による微細構造の定量化
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法を使用して、ポリプロピレンホモポリマーのアイソタクチシティ及び位置規則性を定量した。
【0142】
定量的13C{H}NMRスペクトルは、H及び13Cについてそれぞれ400.15MHz及び100.62MHzで動作するBruker Advance III 400 NMR分光計を使用して、溶液状態で記録した。すべてのスペクトルを、125℃の13Cに最適化した10mm拡張温度プローブヘッドを使用し、すべての空圧について窒素ガスを使用して記録した。
【0143】
およそ200mgの材料(ポリプロピレンホモポリマー)を1,2-テトラクロロエタン-d(TCE-d)に溶解した。均一溶液を確保するために、ヒートブロック中での最初の試料調製のあと、そのNMRチューブを回転式オーブンの中で少なくとも1時間さらに加熱した。磁石の中へ挿入したあと、チューブを10Hzで回転させた。タクチシティ分布の定量のために必要である高分解能を主な理由としてこの設定を選んだ(Busico,V.,Cipullo,R.,Prog.Polym.Sci. 26(2001)443;Busico,V.;Cipullo,R.,Monaco,G.,Vacatello,M.,Segre,A.L.,Macromolecules 30(1997)6251)。NOE及びバイレベルWALTZ16デカップリングスキーム(Zhou,Z.,Kuemmerle,R.,Qiu,X.,Redwine,D.,Cong,R.,Taha,A.,Baugh,D.,Winniford,15B.,J.Mag.Reson. 187(2007)225;Busico,V.,Carbonniere,P.,Cipullo,R.,Pellecchia,R.,Severn,J.,Talarico,G.,Macromol.Rapid Commun. 2007,28,11289)を利用して、標準的なシングルパルス励起を採用した。1スペクトルあたり全部で8192(8k)の過渡信号を取得した。
【0144】
定量的13C{H}NMRスペクトルを、独自のコンピュータープログラムを使用して処理し、積分し、関連の定量的特性を積分値から求めた。
【0145】
プロピレンホモポリマーについては、すべての化学シフトは、21.85ppmのメチルアイソタクチックペンタッド(mmmm)を内部基準としている。
【0146】
位置欠陥(Resconi,L.,Cavallo,L.,Fait,A.,Piemontesi,F.,Chem.Rev. 2000,100,1253;;Wang,W-J.,Zhu,S.,Macromolecules 33(2000),1157;Cheng,H.N.,Macromolecules 17(1984),1950)又はコモノマーに対応する特徴的なシグナルを観察した。
【0147】
タクチシティ分布は、23.6~19.7ppmのメチル領域の積分により、注目する立体配列に関連しない部位があればそれを補正して定量した(Busico,V.,Cipullo,R.,Prog.Polym.Sci. 26(2001)443;Busico,V.,Cipullo,R.,Monaco,G.,Vacatello,M.,Segre,A.L.,Macromoleucles 30(1997)6251)。
【0148】
ペンタッドアイソタクチシティは、アイソタクチックペンタッド(mmmm)の分率を意味する。
【0149】
溶融強度及び溶融伸展性
本明細書に記載する試験は、ISO 16790:2005に従う。
【0150】
ひずみ硬化挙動は、論文「Rheotens-Mastercurves and Drawability of Polymer Melts」、M.H.Wagner、Polymer Engineering and Sience、第36巻、第925~935ページに記載されている方法により決定する。ポリマーのひずみ硬化挙動は、Rheotens(レオテンス)装置(ジーメンス通り(Siemensstr.) 2、74711 ブーヒェン(Buchen)、ドイツのGoettfert(ゲットフェルト)の製品)により分析する。この装置では、規定の加速度で引き下げることにより、溶融物のストランドが伸長される。
【0151】
Rheotens実験は、工業用の紡糸及び押出成形プロセスをシミュレートする。原理的には、溶融物を丸いダイを通して圧迫するか又は押し出して、得られたストランドを引き出す。押出成形品にかかる応力を、溶融物の特性及び測定パラメータ(とりわけ、出力と引き出し速度の比、実用的には伸長率の尺度)の関数として記録する。材料は、実験用押出機HAAKE Polylabシステムと、円筒形ダイ(L/D=6.0/2.0mm)を備えたギアポンプを用いて押し出した。F30溶融強度及びv30溶融伸展性を測定するためには、押出機出口(=ギアポンプの入口)の圧力を、押出されたポリマーの一部をバイパスさせることによって30barに設定する。F200溶融強度及びv200の溶融伸展性を測定するためには、押出機出口(=ギアポンプ入口)の圧力を、押出されたポリマーの一部をバイパスさせることによって200barに設定する。
【0152】
ギアポンプは、ストランドの押し出し速度が5mm/sになるようにあらかじめ調整し、溶融温度は200℃に設定した。ダイとRheotensホイールの間のスピンライン長は80mmであった。実験開始時には、Rheotensホイールの巻き取り速度を、押し出されたポリマーストランドの速度に調整した(引張力ゼロ)。その後、ポリマーフィラメントが破断するまでRheotensホイールの巻き取り速度をゆっくりと上げて実験を開始した。ホイールの加速度は、引張力が準定常状態で測定されるように十分小さくした。引き下げられたメルトストランド(2)の加速度は120mm/秒2である。このRheotensは、PCプログラム「EXTENS」と組み合わせて操作した。これは、リアルタイムのデータ取得プログラムであり、引張力と引き下げ(ドローダウン)速度の測定データを表示及び保存する。ポリマーストランドが破断するRheotens曲線(力対プーリー回転速度)の終点を、それぞれF30溶融強度及びv30溶融伸展性の値、又はF200溶融強度及びv200溶融伸展性の値とした。
【0153】
固有粘度
分岐指数g’を決定するために必要な固有粘度は、DIN ISO 1628/1、1999年10月(デカリン中135℃)に従って測定する。
【0154】
多分散性指数、PI
動的レオロジー測定は、Rheometrics RDA-II QCを用いて、直径25mmのプレートとプレートとの構造を使用し、窒素雰囲気下で200℃の圧縮成形試料に対して実施した。振動せん断実験は、ISO 6721-10に準拠して、0.01~500rad/sの周波数で線形粘弾性のひずみ範囲内で行った。
【0155】
貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)、複素弾性率(G)及び複素粘度(η)の値を周波数(ω)の関数として得た。
【0156】
ゼロせん断粘度(η)は、複素粘度の逆数として定義される複素流動性を用いて算出した。従って、その実部及び虚部は、以下によって定義される。
f’(ω)=η’(ω)/[η’(ω)+η”(ω)]及び
f”(ω)=η”(ω)/[η’(ω)+η”(ω)
η’=G”/ω 及び η”=G’/ω
f’(ω)=G”(ω)×ω/[G’(ω)+G”(ω)
f”(ω)=G’(ω)×ω/[G’(ω)+G”(ω)
PI=10/Gは、G’(ω)=G’’(ω)=Gが成立するG’(ω)及びG”(ω)のクロスオーバー点から算出する。
【0157】
融解温度T、結晶化温度T
示差走査熱量測定(DSC)実験は、ISO 11357/1に従ってインジウム、亜鉛、スズで較正したTA Instruments(ティーエー・インスツルメンツ)のQ2000装置を用いて行った。測定は、窒素雰囲気下(50mL/分)で5±0.5mgの試料に対して、ISO 11357/3に従って-30℃~225℃でスキャンレート10℃/分の加熱/冷却/加熱サイクルで行った。融解温度(Tm)及び結晶化温度(Tc)は、それぞれ冷却サイクル及び2回目の加熱サイクルにおける吸熱及び発熱のピークとして解釈した。
【0158】
灰分量
ポリマーの灰分量は、秤量した白金るつぼでポリマーを燃焼させることにより測定した。約100グラムのポリマーをるつぼに秤量する。次に、るつぼをブンゼンバーナーの炎で加熱し、ポリマーをゆっくりと燃焼させる。ポリマーが完全に燃焼した後、るつぼを冷却して乾燥させ、重量を測定する。次に、残渣の重量をポリマー試料の重量で割ったものを灰分量とする。少なくとも2回の測定を行い、測定値の差が7ppmを超える場合は、3回目の測定を行う。
【0159】
走査型電子顕微鏡法(SEM)
走査型電子顕微鏡法(SEM)は、FEI Quanta 200F顕微鏡を用いて行った。2.2kVの電圧と5mA以下のプラズマ電流で60秒間動作させたPolaron(ポーラロン)スパッタコーターでAu/Pdを用いてフィルムをスパッタリングした。BOPPフィルムのエアナイフ側と冷却ロール側の両方から、およそ2×2cmのサイズの少なくとも1つの試料をフィルムのランダムな位置で切り出し、異なる領域、好ましくは1、2、3、4の異なる領域に分けて、通常、加速電圧2kV、スポットサイズ2.5を用い、ETD検出器を用いて欠陥を探して分析した。各試料について、1024×943ピクセル、5000×~30000×の範囲の倍率(これは、10×9.2~60×55.2μmの領域サイズに相当する)で、1枚、好ましくは2枚、3枚、又は4枚の画像を収集し分析した。
【0160】
2. 例
以下の材料及び化合物を例で使用する。
iHPP:国際公開第2017/064224号パンフレットの参考例1に従って製造したプロピレンの高アイソタクチックホモポリマー
nPP:国際公開第2017/064224号パンフレットの参考例3に従って製造した有核のプロピレンホモポリマー
HMS:国際公開第2017/064224号パンフレットの参考例4に従って製造した高溶融強度ポリプロピレン、分岐プロピレンポリマー
【0161】
例で使用したβ核形成剤は、BASF製の市販のβ核形成剤キナクリドンキノンCGNA-7588である。
【0162】
ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、BASFからIrganox 1010として市販されている。
【0163】
発明例の1つのポリプロピレン組成物は、以下でiHPP/αと呼ぶ、99.5重量%のiHPP及び0.5重量%のnPPの溶融物ブレンドである。
【0164】
発明例の別のポリプロピレン組成物は、以下でiHPP-HMS/βと呼ぶ、98.9重量%のiHPP、1.0重量%のHMS、及び0.0001重量%(1ppm)のβ核形成剤の溶融物ブレンドである。
【0165】
上記ポリプロピレン組成物を、Brueckner Maschinenbau GmbH(ブルックナー・メカニカル・エンジニアリング)が所有・運営するパイロットスケールの二軸配向ラインを用いて加工した。フィルムは、90℃に保持した冷却ロール上に35kg/hの速度で、冷却ロール/フィルム速度10m/分で厚さ240μmのシートに押し出した。フィルムは、Brueckner Maschinenbau GmbHの独自技術であるLISIM(登録商標)技術を適用したテンターフレームに10m/分で送り込んだ。その後、フィルムを、テンターフレームとオーブンを通して、すなわち160~170℃に保持した予熱ゾーンをMD速度10m/分で連続的に搬送した後、TD及びMDの延伸のために165~175℃に保持した延伸ゾーンに搬送した。TDの延伸はフレームをTD方向に広げることで、MDの延伸はMDのクリップを最終MD速度60m/分まで加速することで行った。テンターの緩和ゾーンは延伸ゾーンと同じ温度に保持した。MDとTDの工学的延伸比は6.5×9.0であった。
【0166】
比較のために、BOPPフィルムを得るための逐次配向も適用した。これは、キャストフィルムの押し出しとテンターフレームの間にMDO(machine direction orientation、縦方向配向)ユニットを備える、LISIM(登録商標)プロセスと同じBOPPラインで行った。フィルムは、90℃に保持した冷却ロール上に35kg/hの速度で、冷却ロール/フィルム速度10m/分で厚さ240μmのシートに押し出した。このキャストフィルムを、12本のロールからなるMDOユニットに連続的に供給した。この12本のロールのうち、最初の6本はフィルムを予熱するために95~130℃に加熱し、その後の2本は延伸のために140℃に保持し、最後の4本はアニーリングのために110~124℃に保持した。MDの延伸工程は、第8ロールと第9ロールの間で行い、第9ロールから第12ロールまでを50m/分で運転することで、MDO又はMD延伸フィルムを作成した。MDOフィルムは、予熱のために180~175℃、延伸のために175~165℃、及び緩和のために165~170℃を使用するテンターフレームに連続的に供給した。テンター運転では、MDのクリップ間距離は一定であり、MDOフィルムはテンターの発散する延伸ゾーンでTD方向にのみ延伸した。MDとTDの工学的延伸比は5.0×9.0であった。
【0167】
得られたBOPPフィルムを、以下では、同時配向の場合は「SIM」、逐次配向の場合は「SEQ」と呼び、例えば、縦方向の延伸比が6.5、横方向の延伸比が9.0の場合は「SIM6.5×9.0」とする。
【0168】
試験したすべてのBOPPフィルムの厚さは約3.8μmであった。この厚さは、異なる厚さの(無配向)フラットフィルムを用意し、それに応じて、所望の厚さ3.8μmのBOPPフィルムを得るために、縦方向(MD)と横方向(TD)にも変えて異なる延伸比を適用することで得た。
【0169】
表1は、本発明で使用するポリプロピレン組成物のいくつかの特性を示す。
【0170】
表2は、BOPPフィルムの調製のプロセス条件及び得られたフィルムの厚さを示す。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
図1は、縦方向のみに延伸した(延伸比:5.0)2種類のフィルム(上:iHPP/α、下:iHPP-HMS/β)のエアナイフ側表面を、3つの異なる倍率で走査電子顕微鏡法により得た画像を示す。
【0174】
図2は、2つの異なる組成物に基づき、それぞれ逐次プロセスモード(SEQ)及び同時(SIM)で縦方向と横方向に延伸した4種類のフィルムを、エアナイフ側の表面を走査型電子顕微鏡法により得た画像を、それぞれ2つの異なる倍率で示す(各試料につき2つの画像)。左の4つの画像のブロックのフィルムはiHPP/αに基づき、右の4つの画像のブロックのフィルムはiHPP-HMS/βに基づく。各ブロックの4つの画像:左2枚のフィルムSEQ5.0×9.0、右2枚のフィルムSIM6.5×9.0。
【0175】
これらの画像から明らかなことは、図1に示すように縦方向にのみ延伸することは、とりわけ、例えばクレーターの基部に最高倍率で見ることができる機械的な不良部位につながるということである。
【0176】
同じことが、2つの異なるポリプロピレン組成物に対する逐次プロセスモードの図2に示されている。実際に、クレーターや突起の縁の基部には、機械的な不良部位がここでも見られる。しかしながら、縦方向及び横方向の配向が同時に適用された場合、クレーター又は突起は依然として存在するが、その基部の機械的な不良部位は存在しない。
図1
図2